特許第6593098号(P6593098)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6593098
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20191010BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20191010BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20191010BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20191010BHJP
【FI】
   B62D6/00
   B62D101:00
   B62D113:00
   B62D119:00
【請求項の数】11
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2015-210975(P2015-210975)
(22)【出願日】2015年10月27日
(65)【公開番号】特開2017-81379(P2017-81379A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小寺 隆志
(72)【発明者】
【氏名】山野 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】板本 英則
(72)【発明者】
【氏名】山下 佳裕
(72)【発明者】
【氏名】安樂 厚二
【審査官】 飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−225175(JP,A)
【文献】 特開2010−163091(JP,A)
【文献】 特開2007−313928(JP,A)
【文献】 特開2010−149540(JP,A)
【文献】 特開2004−224159(JP,A)
【文献】 特開2007−302177(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/128818(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0065292(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 101/00 −137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵装置に操作信号を出力する操舵制御装置において、
ステアリングの操作に応じて、前記操舵装置に操作信号を出力して車両の転舵輪を転舵させる転舵処理部と、
前記ステアリングの回転角度である操舵角を変化させるようにステアリングが操作されている場合、前記操舵角の変化速度に応じて、前記転舵処理部による前記転舵輪の転舵量を増減させる増減処理を実行する微分ステア処理部と、を備え、
前記増減処理は、前記操舵角の変化方向と同一方向への転舵量の増量処理であり、
前記微分ステア処理部は、前記転舵輪の転舵角および前記操舵角の少なくとも一方が閾値に達する場合、前記増減処理を制限するステア制限処理部を備える操舵制御装置。
【請求項2】
前記ステア制限処理部は、少なくとも前記転舵角が転舵角閾値に達する場合に、前記増減処理を制限するものであり、
前記操舵装置は、前記転舵輪を転舵させる転舵アクチュエータを備え、
前記転舵処理部は、前記ステアリングの操作に応じて前記転舵角の目標値である目標転舵角を設定する目標転舵角設定処理部を備え、前記転舵角を前記目標転舵角に制御するために前記転舵アクチュエータに操作信号を出力するものであり、
前記微分ステア処理部は、前記目標転舵角の大きさを、前記操舵角の変化速度に応じて増減補正する請求項1記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記転舵角が前記転舵角閾値以上となる場合、前記操舵装置に操作信号を出力することによって前記ステアリングの操作に抗する力である反力を増加制御する反力増加処理部を備え、
前記微分ステア処理部によって補正された前記目標転舵角、前記微分ステア処理部によって補正される前の前記目標転舵角、および前記転舵角の検出値のいずれか1つに基づき、前記反力増加処理部が前記反力の増加制御を実行して且つ前記ステア制限処理部が前記転舵量の増減処理を制限する処理を実行する請求項2記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記操舵装置は、前記ステアリングの操作に抗する力である反力を前記ステアリングに付与する反力アクチュエータを備え、
前記転舵アクチュエータは、少なくとも前記転舵輪と前記ステアリングとの動力遮断状態において前記転舵輪を転舵させる力を付与するものであり、
前記反力増加処理部は、
前記転舵角が前記転舵角閾値以上となる場合、制限用反力をゼロよりも大きい値に設定する制限用反力設定処理部と、
前記設定された制限用反力に基づき、前記操舵角の目標値である目標操舵角を設定する目標操舵角算出処理部と、
前記操舵角の検出値を前記目標操舵角にフィードバック制御するために前記反力アクチュエータを操作する操舵角制御処理部と、を備える請求項3記載の操舵制御装置。
【請求項5】
前記微分ステア処理部は、前記操舵角の変化速度に応じて前記目標転舵角を補正するための補正量を算出する補正量算出処理部を備え、
前記ステア制限処理部は、前記転舵角が前記転舵角閾値に達する場合、前記転舵量の増減処理を制限する処理として前記補正量の大きさを減少補正する処理を実行するものであって且つ、前記転舵角の中立位置からの乖離量が規定量以下である場合にも、前記補正量の大きさを減少補正する請求項2〜4のいずれか1項に記載の操舵制御装置。
【請求項6】
前記ステア制限処理部は、少なくとも前記操舵角が操舵角閾値に達する場合に、前記増減処理を制限するものであり、
前記操舵装置は、前記転舵輪を転舵させる転舵アクチュエータを備え、
前記転舵処理部は、前記ステアリングの操作に応じて前記転舵角の目標値である目標転舵角を設定する目標転舵角設定処理部を備え、前記転舵角を前記目標転舵角に制御するために前記転舵アクチュエータに操作信号を出力するものであり、
前記微分ステア処理部は、前記目標転舵角の大きさを、前記操舵角の変化速度に応じて増減補正する請求項1記載の操舵制御装置。
【請求項7】
前記操舵角が操舵角閾値以上となる場合、前記操舵装置に操作信号を出力することによって前記ステアリングの操作に抗する力である反力を増加制御する反力増加処理部を備え、
前記ステア制限処理部は、前記操舵角が前記操舵角閾値に達する場合に、前記微分ステア処理部による前記転舵量の増減処理を制限する処理を実行し、
前記操舵角の検出値に基づき、前記反力増加処理部が前記反力の増加制御を実行して且つ前記ステア制限処理部が前記転舵量の増減処理を制限する処理を実行する請求項6記載の操舵制御装置。
【請求項8】
前記操舵角が操舵角閾値以上となる場合、前記操舵装置に操作信号を出力することによって前記ステアリングの操作に抗する力である反力を増加制御する反力増加処理部を備え、
前記操舵装置は、前記ステアリングの操作に抗する力である反力を前記ステアリングに付与する反力アクチュエータを備え、
前記転舵アクチュエータは、少なくとも前記転舵輪と前記ステアリングとの動力遮断状態において前記転舵輪を転舵させる力を付与するものであり、
前記反力増加処理部は、
前記操舵角が前記操舵角閾値以上となる場合、制限用反力をゼロよりも大きい値に設定する制限用反力設定処理部と、
前記設定された制限用反力に基づき、前記操舵角の目標値である目標操舵角を設定する目標操舵角算出処理部と、
前記操舵角の検出値を前記目標操舵角に制御するために前記反力アクチュエータを操作する操舵角制御処理部と、を備え、
前記操舵角としての前記目標操舵角に基づき、前記反力増加処理部が前記反力の増加制御を実行して且つ前記ステア制限処理部が前記転舵量の増減処理を制限する処理を実行する請求項6記載の操舵制御装置。
【請求項9】
前記微分ステア処理部は、前記操舵角の変化速度に応じて前記目標転舵角を補正するための補正量を算出する補正量算出処理部を備え、
前記ステア制限処理部は、前記操舵角が前記操舵角閾値に達する場合、前記転舵量の増減処理を制限する処理として、前記補正量の大きさを減少補正する処理を実行するものであって且つ、前記操舵角の中立位置からの乖離量が規定量以下である場合にも、前記補正量の大きさを減少補正する請求項6〜8のいずれか1項に記載の操舵制御装置。
【請求項10】
前記ステア制限処理部は、前記転舵量の増減量の大きさを減少補正するものであって、前記転舵角および前記操舵角の少なくとも一方が前記閾値よりも所定量だけ小さい値から前記閾値に到達する値へと増加するのに伴って前記減少補正する量である減少補正量を漸増させるものであり、前記転舵角および前記操舵角の少なくとも一方が前記閾値に達する場合、前記転舵量の増減量をゼロとする請求項1〜9のいずれか1項に記載の操舵制御装置。
【請求項11】
前記ステアリングに加わるトルクを前記転舵輪側に伝達させつつ前記操舵角と前記転舵角との比である舵角比を変更する可変舵角比アクチュエータを備え、
前記転舵処理部は、前記操舵角と前記転舵角との比である舵角比を変更するための操作信号を前記可変舵角比アクチュエータに出力するものであり、
前記微分ステア処理部による前記増減処理は、前記舵角比を増減することによって前記転舵量を増減させる処理である請求項1記載の操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵装置に操作信号を出力する操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば特許文献1には、ステアリングに加わるトルクを転舵輪側に伝達させつつ操舵角と転舵角との比である舵角比を変更する可変舵角比アクチュエータを備える操舵装置に操作信号を出力する操舵制御装置が記載されている。この制御装置では、可変舵角比アクチュエータの入力側の回転角度である操舵角に対して出力側の回転角度を変更するための作動角を、操舵角の変化速度が大きい場合に小さい場合よりも大きい値に設定するいわゆる微分ステア処理を実行している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4269451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、操舵装置には、その構造によって操舵角や転舵角の上限値が定まっている。また、操舵角や転舵角が構造上の上限値となるのに先立って、操舵角や転舵角が大きくなることを制限する角度制限制御を実行する操舵制御装置がある。そして、この操舵制御装置の場合、角度制限制御が実行される領域において微分ステア処理が実行される場合には、操舵装置に振動が生じるおそれがあることが発明者によって見出された。また、操舵制御装置が角度制限制御を実行する制御器を搭載しない場合であっても、上記微分ステア処理を、上記構造上の上限値付近で実行する場合、操舵装置に振動が生じるおそれがある。なお、微分ステア処理としては、操舵角の変化速度に基づくものに限らず、転舵輪の転舵角速度に基づくもの等であっても、構造上の上限値付近や角度制限制御の実行領域で実行されることにより、操舵装置に振動が生じるおそれがあることには相違ない。
【0005】
本発明は、そうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、操舵角や転舵角が大きい値となった際に微分ステア処理に起因して操舵装置に振動が生じることを抑制できるようにした操舵制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
1.操舵装置に操作信号を出力する操舵制御装置において、操舵装置に操作信号を出力する操舵制御装置において、ステアリングの操作に応じて、前記操舵装置に操作信号を出力して車両の転舵輪を転舵させる転舵処理部と、前記ステアリングの回転角度である操舵角を変化させるようにステアリングが操作されている場合、前記操舵角の変化速度に応じて、前記転舵処理部による前記転舵輪の転舵量を増減させる増減処理を実行する微分ステア処理部と、を備え、前記増減処理は、前記操舵角の変化方向と同一方向への転舵量の増量処理であり、前記微分ステア処理部は、前記転舵輪の転舵角および前記操舵角の少なくとも一方が閾値に達する場合、前記増減処理を制限するステア制限処理部を備える。
【0007】
上記構成では、転舵角および操舵角の少なくとも一方が該当する閾値に達する場合、微分ステア処理部による転舵量の増減処理をステア制限処理部が制限する。したがって、構造上の操舵角の上限値以下に閾値(操舵角閾値)を設定したり、構造上の転舵角の上限値以下に閾値(転舵角閾値)を設定したりすることにより、実際の操舵角や転舵角の大きさが上限値に達する以前に、微分ステア処理部による転舵角の増減処理を制限することができる。また、操舵装置の構造から定まる上限値とは別に、操舵制御装置が操舵角や転舵角の大きさを制限する角度制限制御を実行している場合であっても、角度制限制御の実行領域に応じて操舵角閾値や転舵角閾値を設定することにより、実際の操舵角や転舵角の大きさが角度制限制御によって大きく制限される以前に、微分ステア処理部による転舵角の増減処理を制限することができる。したがって、操舵角や転舵角が大きい値となった際に微分ステア処理に起因して操舵装置に振動が生じることを抑制できる。
【0008】
2.上記1記載の操舵制御装置において、前記ステア制限処理部は、少なくとも前記転舵角が転舵角閾値に達する場合に、前記増減処理を制限するものであり、前記操舵装置は、前記転舵輪を転舵させる転舵アクチュエータを備え、前記転舵処理部は、前記ステアリングの操作に応じて前記転舵角の目標値である目標転舵角を設定する目標転舵角設定処理部を備え、前記転舵角を前記目標転舵角に制御するために前記転舵アクチュエータに操作信号を出力するものであり、前記微分ステア処理部は、前記目標転舵角の大きさを、前記操舵角の変化速度に応じて増減補正する。
【0009】
上記構成では、少なくとも転舵角が転舵角閾値に達する場合に転舵量の増減処理を制限するため、少なくとも転舵角が転舵角閾値に達する際に操舵装置に振動が生じることを抑制できる。
【0010】
3.上記2記載の操舵制御装置において、前記転舵角が前記転舵角閾値以上となる場合、前記操舵装置に操作信号を出力することによって前記ステアリングの操作に抗する力である反力を増加制御する反力増加処理部を備え、前記微分ステア処理部によって補正された前記目標転舵角、前記微分ステア処理部によって補正される前の前記目標転舵角、および前記転舵角の検出値のいずれか1つに基づき、前記反力増加処理部が前記反力の増加制御を実行して且つ前記ステア制限処理部が前記転舵量の増減処理を制限する処理を実行する。
【0011】
上記構成では、反力増加処理部を備えるために、操舵角や転舵角の大きさが反力増加処理部による反力の増加処理によって制限される。そして、上記構成では、反力増加処理部が反力を増加制御するために利用するパラメータと、ステア制限処理部が転舵量の増減処理を制限する処理を実行するために利用するパラメータとを同一とした。このため、転舵量の増減処理を実行することにより反力の増加制御に起因して操舵装置に振動が生じるのに先立って、転舵量の増減処理を的確に制限することができる。
【0012】
4.上記3記載の操舵制御装置において、前記操舵装置は、前記ステアリングの操作に抗する力である反力を前記ステアリングに付与する反力アクチュエータを備え、前記転舵アクチュエータは、少なくとも前記転舵輪と前記ステアリングとの動力遮断状態において前記転舵輪を転舵させる力を付与するものであり、前記反力増加処理部は、前記転舵角が前記転舵角閾値以上となる場合、制限用反力をゼロよりも大きい値に設定する制限用反力設定処理部と、前記設定された制限用反力に基づき、前記操舵角の目標値である目標操舵角を設定する目標操舵角算出処理部と、前記操舵角の検出値を前記目標操舵角にフィードバック制御するために前記反力アクチュエータを操作する操舵角制御処理部と、を備える。
【0013】
上記構成では、転舵角が転舵角閾値以上となる場合、制限用反力設定処理部により制限用反力がゼロよりも大きい値に設定され、これに基づき目標操舵角算出処理部により目標操舵角が設定される。そして、操舵角制御処理部により操舵角の検出値が目標操舵角にフィードバック制御される。ここで、目標操舵角は、制御用反力に応じて設定されたものであるため、フィードバック制御によって、操舵角の絶対値をそれ以上大きくしようとする力に抗する反力を増加させることができる。
【0014】
5.上記2〜4のいずれか1つに記載の操舵制御装置において、前記微分ステア処理部は、前記操舵角の変化速度に応じて前記目標転舵角を補正するための補正量を算出する補正量算出処理部を備え、前記ステア制限処理部は、前記転舵角が前記転舵角閾値に達する場合、前記転舵量の増減処理を制限する処理として前記補正量の大きさを減少補正する処理を実行するものであって且つ、前記転舵角の中立位置からの乖離量が規定量以下である場合にも、前記補正量の大きさを減少補正する。
【0015】
転舵角の中立位置付近において微分ステア処理を実行する場合、操舵装置に振動が生じることが見出されている。そこで、上記構成では、ステア制限処理部が、転舵角の中立位置付近においても、目標転舵角を増減させる補正量の大きさを減少補正する。
【0016】
6.上記1記載の操舵制御装置において、前記ステア制限処理部は、少なくとも前記操舵角が操舵角閾値に達する場合に、前記増減処理を制限するものであり、前記操舵装置は、前記転舵輪を転舵させる転舵アクチュエータを備え、前記転舵処理部は、前記ステアリングの操作に応じて前記転舵角の目標値である目標転舵角を設定する目標転舵角設定処理部を備え、前記転舵角を前記目標転舵角に制御するために前記転舵アクチュエータに操作信号を出力するものであり、前記微分ステア処理部は、前記目標転舵角の大きさを、前記操舵角の変化速度に応じて増減補正する。
【0017】
上記構成では、少なくとも操舵角が操舵角閾値に達する場合に転舵量の増減処理を制限するため、少なくとも操舵角が操舵角閾値に達する際に、操舵装置が振動することを抑制できる。
【0018】
7.上記6記載の操舵制御装置において、前記操舵角が操舵角閾値以上となる場合、前記操舵装置に操作信号を出力することによって前記ステアリングの操作に抗する力である反力を増加制御する反力増加処理部を備え、前記ステア制限処理部は、前記操舵角が前記操舵角閾値に達する場合に、前記微分ステア処理部による前記転舵量の増減処理を制限する処理を実行し、前記操舵角の検出値に基づき、前記反力増加処理部が前記反力の増加制御を実行して且つ前記ステア制限処理部が前記転舵量の増減処理を制限する処理を実行する。
【0019】
上記構成では、反力増加処理部を備えるために、操舵角や転舵角の大きさが反力増加処理部による反力の増加処理によって制限される。そして、上記構成では、反力増加処理部が反力を増加制御するために利用するパラメータと、ステア制限処理部が転舵量の増減処理を制限する処理を実行するために利用するパラメータとを同一とした。このため、転舵量の増減処理を実行することにより反力の増加制御に起因して操舵装置に振動が生じるのに先立って、転舵量の増減処理を的確に制限することができる。
【0020】
8.上記6記載の操舵制御装置において、前記操舵角が操舵角閾値以上となる場合、前記操舵装置に操作信号を出力することによって前記ステアリングの操作に抗する力である反力を増加制御する反力増加処理部を備え、前記操舵装置は、前記ステアリングの操作に抗する力である反力を前記ステアリングに付与する反力アクチュエータを備え、前記転舵アクチュエータは、少なくとも前記転舵輪と前記ステアリングとの動力遮断状態において前記転舵輪を転舵させる力を付与するものであり、前記反力増加処理部は、前記操舵角が前記操舵角閾値以上となる場合、制限用反力をゼロよりも大きい値に設定する制限用反力設定処理部と、前記設定された制限用反力に基づき、前記操舵角の目標値である目標操舵角を設定する目標操舵角算出処理部と、前記操舵角の検出値を前記目標操舵角に制御するために前記反力アクチュエータを操作する操舵角制御処理部と、を備え、前記目標操舵角に基づき、前記反力増加処理部が前記反力の増加制御を実行して且つ前記ステア制限処理部が前記転舵量の増減処理を制限する処理を実行する。
【0021】
上記構成では、操舵角が操舵角閾値以上となる場合、制限用反力設定処理部により制限用反力がゼロよりも大きい値に設定され、これに基づき目標操舵角算出処理部により目標操舵角が設定される。そして、操舵角制御処理部により操舵角の検出値が目標操舵角にフィードバック制御される。ここで、目標操舵角は、制御用反力に応じて設定されたものであるため、フィードバック制御によって、ステアリングに操舵角の絶対値をそれ以上大きくしようとする力に抗する反力を増加させることができる。
【0022】
しかも上記構成では、反力増加処理部が反力を増加制御するために利用するパラメータと、ステア制限処理部が転舵量の増減処理を制限する処理を実行するために利用するパラメータとを同一とした。このため、転舵量の増減処理を実行することにより反力の増加制御に起因して操舵装置に振動が生じるのに先立って、転舵量の増減処理を的確に制限することができる。
【0023】
9.上記6〜8のいずれか1つに記載の操舵制御装置において、前記微分ステア処理部は、前記操舵角の変化速度に応じて前記目標転舵角を補正するための補正量を算出する補正量算出処理部を備え、前記ステア制限処理部は、前記操舵角が前記操舵角閾値に達する場合、前記転舵量の増減処理を制限する処理として、前記補正量の大きさを減少補正する処理を実行するものであって且つ、前記操舵角の中立位置からの乖離量が規定量以下である場合にも、前記補正量の大きさを減少補正する。
【0024】
操舵角の中立位置付近において微分ステア処理を実行する場合、操舵装置に振動が生じることが見出されている。そこで、上記構成では、ステア制限処理部が、操舵角の中立位置付近においても、目標転舵角を増加させる補正量の大きさを減少補正する。
【0025】
10.上記1〜9のいずれか1つに記載の操舵制御装置において、前記ステア制限処理部は、前記転舵量の増減量の大きさを減少補正するものであって、前記転舵角および前記操舵角の少なくとも一方が前記閾値よりも所定量だけ小さい値から前記閾値に到達する値へと増加するのに伴って前記減少補正する量である減少補正量を漸増させるものであり、前記転舵角および前記操舵角の少なくとも一方が前記閾値に達する場合、前記転舵量の増減量をゼロとする。
【0026】
上記構成では、増減量の大きさの減少補正量を漸増させるため、微分ステア処理部による転舵量の増減補正量の大きさが、上記少なくとも一方が閾値に近づくにつれて小さくなる。このため、微分ステア処理部による転舵量の増減量をステップ的にゼロにする場合と比較して、制御が急変することを抑制することができる。
【0027】
11.上記1記載の操舵制御装置は、前記ステアリングに加わるトルクを前記転舵輪側に伝達させつつ前記操舵角と前記転舵角との比である舵角比を変更する可変舵角比アクチュエータを備え、前記転舵処理部は、前記操舵角と前記転舵角との比である舵角比を変更するための操作信号を前記可変舵角比アクチュエータに出力するものであり、前記微分ステア処理部による前記増減処理は、前記舵角比を増減することによって前記転舵量を増減させる処理である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】第1の実施形態にかかる操舵制御装置およびその操作対象を示す図。
図2】同実施形態にかかるブロック図。
図3】同実施形態にかかる操舵角および転舵角の閾値を示す図。
図4】第2の実施形態にかかるブロック図。
図5】第3の実施形態にかかるブロック図。
図6】第4の実施形態にかかるブロック図。
図7】第5の実施形態にかかるブロック図。
図8】第6の実施形態にかかるブロック図。
図9】第7の実施形態にかかるブロック図。
図10】第8の実施形態にかかるブロック図。
図11】第9の実施形態にかかる操舵制御装置およびその操作対象を示す図。
図12】同実施形態にかかるブロック図。
図13】第10の実施形態にかかるブロック図。
図14】第11の実施形態にかかるブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<第1の実施形態>
以下、操舵制御装置にかかる第1の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1に示すように、本実施形態にかかる操舵装置においては、ステアリングホイール(ステアリング10)が、ステアリング10の操作に抗する力である反力を付与する反力アクチュエータ20に接続されている。反力アクチュエータ20は、ステアリング10に固定されたステアリングシャフト22、反力側減速機24、反力側減速機24に回転軸26aが連結された反力モータ26、および反力モータ26を駆動するインバータ28を備えている。ここで、反力モータ26は、表面磁石同期電動機(SPMSM)である。
【0030】
ステアリングシャフト22は、クラッチ12を介して転舵アクチュエータ40のピニオン軸42に連結可能とされている。
転舵アクチュエータ40は、第1ラックアンドピニオン機構48、第2ラックアンドピニオン機構52、SPMSM(転舵側モータ56)およびインバータ58を備えている。
【0031】
第1ラックアンドピニオン機構48は、所定の交叉角をもって配置されたラック軸46とピニオン軸42とを備え、ラック軸46に形成された第1ラック歯46aとピニオン軸42に形成されたピニオン歯42aとが噛合されている。なお、ラック軸46の両端には、タイロッドを介して転舵輪30が連結されている。
【0032】
第2ラックアンドピニオン機構52は、所定の交叉角をもって配置されたラック軸46およびピニオン軸50を備えており、ラック軸46に形成された第2ラック歯46bとピニオン軸50に形成されたピニオン歯50aとが噛合されている。
【0033】
ピニオン軸50は、転舵側減速機54を介して、転舵側モータ56の回転軸56aに接続されている。転舵側モータ56には、インバータ58が接続されている。なお、ラック軸46は、ラックハウジング44に収容されている。
【0034】
ステアリング10には、スパイラルケーブル装置60が連結されている。スパイラルケーブル装置60は、ステアリング10に固定された第1ハウジング62と、車体に固定された第2ハウジング64と、第1ハウジング62および第2ハウジング64によって区画された空間に収容されて且つ第2ハウジング64に固定された筒状部材66と、筒状部材66に巻きつけられるスパイラルケーブル68とを備えている。筒状部材66には、ステアリングシャフト22が挿入されている。スパイラルケーブル68は、ステアリング10に固定されたホーン70と、車体に固定されたバッテリ72等とを接続する電気配線である。
【0035】
操舵制御装置(制御装置80)は、反力アクチュエータ20および転舵アクチュエータ40を備えた操舵装置を操作することにより、ステアリング10の操作に応じて転舵輪30を転舵させる制御を実行する。すなわち、本実施形態では、反力アクチュエータ20および転舵アクチュエータ40によってステアバイワイヤシステムを実現しており、制御装置80は、通常、クラッチ12を遮断状態に維持しつつ、ステアリング10の操作に応じて転舵輪30を転舵させる制御を実行する。この際、制御装置80は、操舵側センサ92によって検出される反力モータ26の回転軸26aの回転角度θs0や、トルクセンサ94によって検出されるステアリングシャフト22に加わる操舵トルクTrqsを取り込む。また、制御装置80は、転舵側センサ90によって検出される転舵側モータ56の回転軸56aの回転角度θt0や、車速センサ96によって検出される車速Vを取り込む。
【0036】
詳しくは、制御装置80は、中央処理装置(CPU82)およびメモリ84を備えており、メモリ84に記憶されたプログラムをCPU82が実行することにより、転舵アクチュエータ40や反力アクチュエータ20が操作される。
【0037】
図2に、制御装置80が実行する処理の一部を示す。図2に示す処理は、メモリ84に記憶されたプログラムをCPU82が実行することで実現される処理の一部を、実現される処理の種類毎に記載したものである。
【0038】
積算処理部M2は、操舵側センサ92によって検出された回転角度θs0と転舵側センサ90によって検出された回転角度θt0とを、0〜360°よりも広い角度領域の数値に変換して回転角度θs,θtとする。すなわち、たとえば、ステアリング10が車両を直進させる中立位置から右側または左側に最大限回転操作される場合、回転軸26aは、複数回転する。したがって、積算処理部M2では、たとえばステアリング10が中立位置にある状態から回転軸26aが所定方向に2回転する場合、出力値を720°とする。なお、積算処理部M2は、中立位置における出力値をゼロとする。
【0039】
計量単位設定処理部M4は、積算処理部M2による処理が施された操舵側センサ92の出力値に換算係数Ksを乗算して操舵角θhを算出し、積算処理部M2による処理が施された転舵側センサ90の出力値に換算係数Ktを乗算して、転舵角θpを算出する。ここで、換算係数Ksは、反力側減速機24と反力モータ26の回転軸26aとの回転速度比に応じて定められており、これにより、回転軸26aの回転角度θsの変化量をステアリング10の回転量に変換する。このため、操舵角θhは、中立位置を基準とするステアリング10の回転角度となる。また、換算係数Ktは、転舵側減速機54と転舵側モータ56の回転軸56aとの回転速度比、およびピニオン軸50とピニオン軸42との回転速度比の積となっている。これにより、回転軸56aの回転量を、クラッチ12が連結されていると仮定した場合におけるステアリング10の回転量に変換する。
【0040】
なお、図2における処理は、回転角度θs,θt、操舵角θhおよび転舵角θpが所定方向の回転角度の場合に正、逆方向の回転角度の場合に負とする。すなわち、たとえば、積算処理部M2は、ステアリング10が中立位置にある状態から回転軸26aが所定方向とは逆回転する場合に、出力値を負の値とする。ただし、これは、制御系のロジックの一例に過ぎない。特に、本明細書では、回転角度θs,θt、操舵角θhおよび転舵角θpが大きいとは、中立位置からの変化量が大きいこととする。換言すれば、上記のように正負の値を取りうるパラメータの絶対値が大きいこととする。
【0041】
アシストトルク設定処理部M6は、操舵トルクTrqsに基づき、アシストトルクTrqa*を設定する。アシストトルクTrqa*は、操舵トルクTrqsが大きいほど大きい値に設定される。加算処理部M8は、アシストトルクTrqa*に操舵トルクTrqsを加算して出力する。
【0042】
反力設定処理部M10は、ステアリング10の回転に抗する力である反力Firを設定する。詳しくは、反力設定処理部M10は、ベース反力設定処理部M10aによって、ステアリング10の操作に応じたベース反力Fibを設定する一方、制限用反力設定処理部M10bによって、ステアリング10の回転量が許容最大値に近づく場合に、ステアリング10が更に上限値側に操作されるのに抗する反力である制限用反力Fieを設定する。そして、反力設定処理部M10は、加算処理部M10cによってベース反力Fibと制限用反力Fieとを加算し、これを反力Firとして出力する。
【0043】
偏差算出処理部M12は、加算処理部M8の出力から反力Firを減算した値を出力する。
目標操舵角算出処理部M20は、偏差算出処理部M12の出力値に基づき、目標操舵角θh*を設定する。ここでは、偏差算出処理部M12の出力値Δと、目標操舵角θh*とを関係づける以下の式(c1)にて表現されるモデル式を利用する。
【0044】
Δ=C・θh*’+J・θh*’’ …(c1)
上記の式(c1)にて表現されるモデルは、ステアリング10と転舵輪30とが機械的に連結されたものにおいて、ステアリング10の回転に伴って回転する回転軸のトルクと回転角度との関係を定めるモデルである。上記の式(c1)において、粘性係数Cは、操舵装置の摩擦等をモデル化したものであり、慣性係数Jは、操舵装置の慣性をモデル化したものである。ここで、粘性係数Cおよび慣性係数Jは、車速Vに応じて可変設定される。
【0045】
操舵角フィードバック処理部M22は、操舵角θhを目標操舵角θh*にフィードバック制御するための操作量として、反力モータ26が生成する目標反力トルクTrqr*を設定する。具体的には、目標操舵角θh*から操舵角θhを減算した値を入力とする比例要素、積分要素および微分要素のそれぞれの出力値の和を、目標反力トルクTrqr*とする。
【0046】
操作信号生成処理部M24は、目標反力トルクTrqr*に基づき、インバータ28の操作信号MSsを生成してインバータ28に出力する。これは、たとえば、目標反力トルクTrqr*に基づきq軸電流の指令値を設定し、dq軸の電流を指令値にフィードバック制御するための操作量としてdq軸の電圧指令値を設定する周知の電流フィードバック制御にて実現することができる。なお、d軸電流はゼロに制御してもよいが、反力モータ26の回転速度が大きい場合には、d軸電流の絶対値をゼロより大きい値に設定し弱め界磁制御を実行してもよい。もっとも、低回転速度領域においてd軸電流の絶対値をゼロよりも大きい値に設定することも可能である。
【0047】
舵角比可変処理部M26は、目標操舵角θh*に基づき、操舵角θhと転舵角θpとの比である舵角比を可変設定するための目標動作角θa*を設定する。加算処理部M28は、目標操舵角θh*に目標動作角θa*を加算することにより、目標転舵角θp1*を算出する。
【0048】
転舵角フィードバック処理部M32は、転舵角θpを目標転舵角θp1*に応じて定まる目標転舵角θp*にフィードバック制御するための操作量として、転舵側モータ56が生成する目標転舵トルクTrqt*を設定する。具体的には、目標転舵角θp*から転舵角θpを減算した値を入力とする比例要素、積分要素および微分要素のそれぞれの出力値の和を、目標転舵トルクTrqt*とする。
【0049】
操作信号生成処理部M34は、目標転舵トルクTrqt*に基づき、インバータ58の操作信号MStを生成してインバータ28に出力する。これは、操作信号生成処理部M24による操作信号の生成処理と同様に行うことができる。
【0050】
最大値選択処理部M36は、目標操舵角θh*と目標転舵角θp*とのうちの大きい方の値(最大値θe)を選択して出力する。
上記ベース反力設定処理部M10aは、目標操舵角θh*を入力とする。一方、上記制限用反力設定処理部M10bは、最大値θeを入力として制限用反力Fieを設定する。これは、ラック軸46が軸方向に変位してラック軸46の端部がラックハウジング44に接触する直前と、ステアリング10がスパイラルケーブル68から定まる上限値まで回転する直前との双方において、ステアリング10に、操舵角の大きさをそれ以上大きくするのに抗する力を増加制御するための設定である。以下、これについて説明する。
【0051】
図3に、操舵角θhおよび転舵角θpのそれぞれの上限値θhH,θpHの関係を示す。図示されるように、本実施形態では、操舵角θhの上限値θhHと転舵角θpの上限値θpHとがほぼ等しい値となっている。これは、計量単位設定処理部M4による操舵角θhおよび転舵角θpの計量単位の設定によって実現したものである。すなわち、本実施形態では、クラッチ12が締結状態とされる場合に、ラック軸46がラックハウジング44に接触するまで軸方向に変位したときに、ステアリング10を更にわずかに回転可能なように、スパイラルケーブル68の長さにわずかにマージンを持たせてある。このため、計量単位設定処理部M4によって、操舵角θhをステアリング10の回転角度とし、転舵角θpを目標動作角θa*をゼロと仮定したときのステアリング10の回転角度とすることにより、操舵角θhの上限値θhHと転舵角θpの上限値θpHとがほぼ等しい値となる。
【0052】
そのため、本実施形態では、操舵角θhおよび転舵角θpに共通閾値θenを設けて、操舵角θhが上限値θhHに達する前であって且つ転舵角θpが上限値θpHに達する前にステアリング10の反力を増加制御する。図2に示した制限用反力設定処理部M10bは、最大値θeと制限用反力Fieとの関係を定めたマップを備えている。このマップは、最大値θeの大きさが共通閾値θen以上となることでゼロよりも大きくなるものであり、特に、共通閾値θenを超えてある程度大きくなると、人の力ではそれ以上の操作ができないほど大きい値が設定されている。なお、図2には、最大値θeがゼロから所定の回転方向に大きくなるにつれて制限用反力Fieが大きくなることのみを示したが、所定の回転方向とは逆方向に大きくなる場合であっても、制限用反力Fieの絶対値は大きくなる。ただし、図2の処理における制限用反力Fieは、所定の回転方向とは逆方向の場合には負となる。
【0053】
図2に示すように、本実施形態では、ステアリング10の操作に対する転舵輪30の転舵の応答遅れを補償するための処理を実行する微分ステア処理部M38を備えている。微分ステア処理部M38は、差分演算処理部M38aにより、操舵角の変化速度を算出するためのパラメータとしての目標操舵角θh*を差分演算することによって、目標操舵角θh*の変化速度を算出して出力する。一方、基本ゲイン設定処理部M38bにより、車速Vに応じて基本ゲインGvを設定する。そして、微分ステア処理部M38は、乗算処理部M38dにより、差分演算処理部M38aの出力値に基本ゲインGvを乗算する。また、微分ステア処理部M38は、角度感応ゲイン設定処理部M38cにより、最大値θeに基づき、角度感応ゲインGθを算出し、乗算処理部M38eにおいて、乗算処理部M38dの出力値に角度感応ゲインGθを乗算した値を、微分ステア補正量θdとして出力する。そして、微分ステア処理部M38は、加算処理部M38fにおいて、目標転舵角θp1*に微分ステア補正量θdを加算して目標転舵角θp*を算出して出力する。
【0054】
ここで、微分ステア補正量θdは、目標操舵角θh*の変化速度と同一の方向の量である。したがって、たとえば目標操舵角θh*が右旋回側の値であり、その変化速度も右旋回側の値である場合、目標転舵角θp*および目標転舵角θp1*は右旋回側の値であって且つ、目標転舵角θp*の絶対値は目標転舵角θp1*の絶対値よりも大きい値となっている。また、たとえば目標操舵角θh*が左旋回側の値であり、その変化速度も左旋回側の値である場合、目標転舵角θp*および目標転舵角θp1*は左旋回側の値であって且つ、目標転舵角θp*の絶対値は目標転舵角θp1*の絶対値よりも大きい値となっている。これに対し、たとえば目標操舵角θh*が右旋回側の値であり、その変化速度が左旋回側の値である場合、目標転舵角θp*の絶対値は目標転舵角θp1*の絶対値よりも小さい値となっている。ただし、この場合、変化速度の方向である左旋回側を正の転舵量とする場合、目標転舵角θp1*は目標転舵角θp*よりも増量された量となる。
【0055】
基本ゲイン設定処理部M38bは、車速Vが低速度閾値VL以下の場合には、車速Vが低いほど基本ゲインGvを小さい値に設定する。これは、微分ステア処理部M38による処理がステアリング10の操作に対する転舵輪30の転舵の応答遅れを補償することを狙ったものであるのに対し、車速Vが低い場合には応答遅れが問題となりにくいことに鑑みたものである。また、基本ゲイン設定処理部M38bは、車速Vが高速度閾値VH以上である場合、車速Vが高いほど基本ゲインGvを小さい値に設定する。これは、高速走行時の転舵輪30の変動を抑制することを狙ったものである。なお、基本ゲインGvは、ゼロ以上の値である。
【0056】
角度感応ゲイン設定処理部M38cは、最大値θeの中立位置に対する乖離量が規定量以下となる第1角度θ1以下の領域では、最大値θeの大きさが小さいほど角度感応ゲインGθを小さい値に設定する。これは、中立位置付近において微分ステア処理によるステアリング10の振動を抑制するために不感帯を設けるための設定である。また、角度感応ゲイン設定処理部M38cは、最大値θeの大きさが共通閾値θenよりも所定量小さい値である第2角度θ2以上の場合、角度感応ゲインGθを、最大値θeが大きいほど小さい値に設定する。特に、最大値θeの大きさが共通閾値θen以上となる場合、角度感応ゲインGθをゼロとする。これは、制限用反力Fieによる転舵角θpや操舵角θhの大きさを制限する角度制限制御がなされる領域において、微分ステア処理が実行されることにより操舵装置に振動が生じることを抑制するための設定である。なお、角度感応ゲインGθは、最大値θeが右旋回側の値であるか左旋回側の値であるかにかかわらず、ゼロ以上であって「1」以下の値に設定される。
【0057】
ここで、本実施形態の作用を説明する。
たとえば車速Vが低速度閾値VLおよび高速度閾値VHの間にある場合、ステアリング10が右旋回側または左旋回側に切られて操舵角θhの絶対値が増大すると、目標操舵角θh*の絶対値が増大し、これに応じて乗算処理部M38dの出力値が大きくなる。このため、角度感応ゲインGθが小さい値となる領域にないなら、微分ステア補正量θdによって、目標転舵角θp*の絶対値が目標転舵角θp1*の絶対値よりも大きい値に補正される。
【0058】
一方、操舵角フィードバック処理部M22では、操舵角θhを目標操舵角θh*とするための目標反力トルクTrqr*を設定する。ここで、目標操舵角θh*は、目標操舵角算出処理部M20によって、操舵トルクTrqsとアシストトルクTrqa*との和と反力Firとを一致させるための操作量として算出される。ここで、最大値θeが共通閾値θenを超えてさらに大きくなろうとする場合、ベース反力Fibと比較して制限用反力Fieが急激に大きくなる。この場合、反力Firが急激に大きくなり、目標操舵角θh*は、操舵トルクTrqsとアシストトルクTrqa*との和が、上記急激に大きくなった反力Firに等しくなるように制御される。これにより、反力モータ26がステアリング10を中立位置側に戻そうとするトルク(目標反力トルクTrqr*)が大きくなり、ユーザがステアリング10をそれ以上切り続けることが困難となる。そして、目標操舵角θh*は、最大値θeが共通閾値θenに到達する前と比較してその変化速度が低下する。
【0059】
ここで、最大値θeが共通閾値θenに達するときには、角度感応ゲインGθがゼロとなっているため、微分ステア補正量θdもゼロとなる。したがって、目標転舵角θp*は、目標転舵角θp1*と等しくなっている。
【0060】
以上説明した本実施形態によれば、以下に記載する効果が得られるようになる。
(1)最大値θeの大きさが共通閾値θenに近づく場合、微分ステア補正量θdを減少補正した。これにより、最大値θeが大きい値となった際に微分ステア処理に起因して操舵装置に振動が生じることを抑制できる。ここで、最大値θeの大きさが共通閾値θen以上であるときに微分ステア処理部M38がなされる場合に操舵装置が振動するのは、目標転舵角θp*や目標操舵角θh*が急激に変化することによって、微分ステア補正量θdが大きく変動するためであると推定される。すなわち、最大値θeの大きさが共通閾値θen以上となると、制限用反力Fieが急激に大きくなるために、目標操舵角θh*の変化速度が大きくなり、ひいては目標転舵角θp*の変化速度も大きくなる。これに対し、本実施形態では、最大値θeが共通閾値θenに達して制限用反力Fieが急激に大きくなることにより、目標操舵角θh*の変化速度が急減したとしても微分ステア補正量θd自体はゼロである。
【0061】
なお、本実施形態において操舵装置の振動とは、ステアリング10の振動と、転舵アクチュエータ40側の振動とを意味する。特に、ステアリング10の振動には、操舵角フィードバック処理部M22によって制御される反力の振動が含まれる。
【0062】
(2)制限用反力Fieの設定に用いるパラメータと、角度感応ゲインGθの設定に用いるパラメータとを、最大値θeで統一した。これにより、微分ステア補正量θdによる目標転舵角θp*の補正により操舵装置に振動が生じるのに先立って、微分ステア補正量θdによる補正処理を的確に制限することができる。
【0063】
(3)最大値θeが共通閾値θenよりも所定量小さい値である第2角度θ2以上の場合、最大値θeが大きいほど角度感応ゲインGθを小さい値に設定した。このため、微分ステア処理部M38による転舵量の増減量が、最大値θeが共通閾値θenに近づくにつれて小さくなる。このため、微分ステア処理部M38による転舵量の増減量をステップ的にゼロにする場合と比較して、制御が急変することを抑制することができる。
【0064】
(4)転舵角θpの中立位置付近において微分ステア処理を実行する場合、操舵装置に振動が生じることが見出されている。この点、本実施形態では、目標転舵角θp*の中立位置付近においても、目標転舵角θp*を増減させる微分ステア補正量θdの大きさを減少補正することにより、この振動を抑制することができる。しかも、角度感応ゲインGθという1つのパラメータによって、中立位置付近における振動と、共通閾値θen付近における振動との双方に対処することができる。
【0065】
<第2の実施形態>
以下、第2の実施形態について、第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0066】
図4に、制御装置80が実行する処理の一部を示す。図4に示す処理は、図2に示した処理の一部を変更したものであり、図4において、図2に示した処理に対応する処理については、便宜上同一の符号を付している。
【0067】
図4に示すように、本実施形態では、操舵角の変化速度を算出するためのパラメータとして、目標転舵角θp1*を用いる。目標転舵角θp1*は、目標操舵角θh*に目標動作角θa*を加算した値である。そして、目標動作角θa*は舵角比を調整するためのパラメータに過ぎないため、目標転舵角θp1*の変化は、目標操舵角θh*の変化に応じたものとなっていると考えられる。このため、目標転舵角θp1*を、操舵角の変化速度を算出するためのパラメータとした。
【0068】
<第3の実施形態>
以下、第3の実施形態について、第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0069】
図5に、制御装置80が実行する処理の一部を示す。図5に示す処理は、図2に示した処理の一部を変更したものであり、図5において、図2に示した処理に対応する処理については、便宜上同一の符号を付している。
【0070】
図5に示すように、本実施形態では、ベース反力設定処理部M10aの入力を、目標転舵角θp1*とする。また、最大値選択処理部M36では、目標操舵角θh*と目標転舵角θp1*との最大値θeを選択する。したがって、最大値θeには、微分ステア補正量θdが反映されていない。このため、本実施形態では、反力Firに、微分ステア処理部M38による微分ステア補正量θdが反映されない。したがって、反力アクチュエータ20に出力される操作信号MSsにも微分ステア補正量θdが反映されず、微分ステア補正量θdが反映されるのは、転舵アクチュエータ40に出力される操作信号MStのみとなる。
【0071】
上記構成の場合、仮に角度感応ゲインGθを利用しないと仮定した場合であっても、最大値θeが共通閾値θenを超えたとき、上記第1の実施形態のような反力の振動は抑制される。ただし、仮に角度感応ゲインGθを利用しない場合、最大値θeが共通閾値θenを超えると、転舵アクチュエータ40に振動が生じ、この際、ステアリング10にも振動が生じる。これは、転舵アクチュエータ40側の振動がステアリング10に伝達されるためであると考えられる。
【0072】
<第4の実施形態>
以下、第4の実施形態について、第3の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0073】
図6に、制御装置80が実行する処理の一部を示す。図6に示す処理は、図2に示した処理の一部を変更したものであり、図6において、図2に示した処理に対応する処理については、便宜上同一の符号を付している。
【0074】
本実施形態では、操舵角の変化速度を算出するためのパラメータとして、目標転舵角θp1*を用いる。本実施形態も、反力Firに、微分ステア処理部M38による微分ステア補正量θdが反映されない実施形態となっている。
【0075】
<第5の実施形態>
以下、第5の実施形態について、第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0076】
図7に、制御装置80が実行する処理の一部を示す。図7に示す処理は、図2に示した処理の一部を変更したものであり、図7において、図2に示した処理に対応する処理については、便宜上同一の符号を付している。
【0077】
図7に示すように、本実施形態では、最大値選択処理部M36において、検出値である操舵角θhと検出値である転舵角θpとの最大値θeを選択する。
<第6の実施形態>
以下、第6の実施形態について、第5の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0078】
図8に、制御装置80が実行する処理の一部を示す。図8に示す処理は、図2に示した処理の一部を変更したものであり、図8において、図2に示した処理に対応する処理については、便宜上同一の符号を付している。
【0079】
図8に示すように、本実施形態では、操舵角の変化速度を算出するためのパラメータとして、目標転舵角θp1*を用いる。
<第7の実施形態>
以下、第7の実施形態について、第5の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0080】
図9に、制御装置80が実行する処理の一部を示す。図9に示す処理は、図2に示した処理の一部を変更したものであり、図9において、図2に示した処理に対応する処理については、便宜上同一の符号を付している。
【0081】
図9に示すように、本実施形態では、操舵角の変化速度を算出するためのパラメータとして、検出値である操舵角θhを用いる。
<第8の実施形態>
以下、第8の実施形態について、第5の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0082】
図10に、制御装置80が実行する処理の一部を示す。図10に示す処理は、図2に示した処理の一部を変更したものであり、図10において、図2に示した処理に対応する処理については、便宜上同一の符号を付している。
【0083】
図10に示すように、本実施形態では、舵角比可変処理部M26が、目標操舵角θh*に代えて、操舵角θhに基づき目標動作角θa*を出力する。また、加算処理部M28は、検出値である操舵角θhに目標動作角θa*を加算して目標転舵角θp1*とする。そして、この目標転舵角θp1*を、操舵角の変化速度を算出するためのパラメータとして用いる。
【0084】
<第9の実施形態>
以下、第9の実施形態について、第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0085】
図11に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図5において、図1に示した部材に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
本実施形態にかかる操舵装置は、反力アクチュエータ20に代えて、可変舵角比アクチュエータ100を備える。可変舵角比アクチュエータ100は、ステアリングシャフト22に一体回転可能に連結されたハウジング102、ハウジング102の内部に収容されるSPMSM(VGRモータ104)、インバータ110、および減速機構106を備えている。減速機構106は、差動回転可能な3つの回転要素からなる機構、例えば遊星歯車機構や波動歯車装置(ストレイン・ウェーブ・ギヤリング)等により構成される。減速機構106を構成する3つの回転要素は、ハウジング102、VGRモータ104の回転軸に連結された回転軸104a、およびピニオン軸42に連結された出力軸108にそれぞれ連結されている。すなわち、減速機構106では、ハウジング102の回転速度とVGRモータ104の回転速度とにより出力軸108の回転速度が一義的に定まる。可変舵角比アクチュエータ100では、減速機構106を通じて、ステアリング10の操作に伴うステアリングシャフト22の回転にVGRモータ104の回転軸104aの回転を上乗せして出力軸108に伝達することにより、ステアリングシャフト22に対する出力軸108の相対的な回転角を変化させる。これにより、操舵角θhに対する転舵角θpの比である舵角比を可変設定する。なお、ここでの「上乗せ」は、加算および減算の双方を含む。また、以下では、ステアリングシャフト22に対する出力軸108の相対的な回転角を「出力軸108の動作角θa」と称する。
【0086】
なお、舵角比側センサ112は、VGRモータ104の回転軸104aの回転角度θmを検出する。また、トルクセンサ94は、出力軸108のトルク(操舵Trqs)を検出する。
【0087】
図12に、制御装置80が実行する処理の一部を示す。図12に示す処理は、メモリ84に記憶されたプログラムをCPU82が実行することで実現される処理の一部を、実現される処理の種類毎に記載したものである。なお、図12において、図2に示した処理に対応する処理については、便宜上同一の符号を付している。
【0088】
動作角算出処理部M40は、減速機構106を構成する各回転要素間のギア比に応じて定まる減速比に基づき、回転角度θmから出力軸108の実際の動作角θaを算出する。減算処理部M42は、転舵角θpから動作角θaを減算することによって、操舵角θhを算出する。舵角比可変処理部M26は、操舵角θhに基づき、目標動作角θa1*を設定する。目標動作角θa1*の設定は、第1の実施形態の目標動作角θa*の設定と同様である。微分ステア処理部M38は、加算処理部M38fにおいて、微分ステア補正量θdを目標動作角θa1*に加算することによって、目標動作角θa*を算出する。
【0089】
一方、舵角比フィードバック処理部M50は、動作角θaを目標動作角θa*にフィードバック制御するための操作量として目標舵角比トルクTrqv*を算出する。詳しくは、目標動作角θa*から動作角θaを減算した値を入力とする比例要素、積分要素、および微分要素のそれぞれの出力値の和を、目標舵角比トルクTrqv*とする。
【0090】
操作信号生成処理部M52は、VGRモータ104のトルクを目標舵角比トルクTrqv*に制御するためのインバータ110の操作信号MSvを生成してインバータ110に出力する。これは、操作信号生成処理部M24による操作信号の生成処理と同様に行うことができる。
【0091】
アシストトルク設定処理部M6は、操舵トルクTrqsに基づき、アシストトルクTrqa1*を設定する。この設定処理は、第1の実施形態におけるアシストトルクTrqa*の設定と同様である。
【0092】
減算処理部M54は、アシストトルクTrqa1*から制限用反力Fieを減算した値を、アシストトルクTrqa*として出力する。
操作信号生成処理部M34は、転舵側モータ56のトルクをアシストトルクTrqa*に制御するための操作信号MStを生成してインバータ58に出力する。これは、操作信号生成処理部M24による操作信号の生成処理と同様に行うことができる。
【0093】
加算処理部M46は、操舵角θhに目標動作角θa*を加算して出力する。最大値選択処理部M36は、操舵角θhと、「θh+θa*」との最大値θeを選択して出力する。
ここで、本実施形態の作用を説明する。
【0094】
たとえば車速Vが低速度閾値VLおよび高速度閾値VHの間にある場合、ステアリング10が右旋回側または左旋回側に切られて操舵角θhの変化速度の絶対値が増大すると、これに応じて乗算処理部M38dの出力値が大きくなる。このため、角度感応ゲインGθが小さい値となる領域にないなら、微分ステア補正量θdによって、目標動作角θa*が目標動作角θa1*よりも転舵角θpの絶対値を拡大する側に補正される。
【0095】
一方、ユーザがステアリング10を操作すると、ステアリング10に加えられたトルクは、出力軸108を介してラック軸46に伝達される。また、転舵側モータ56は、アシストトルクTrqa*に応じたトルクを生成し、このトルクもラック軸46に伝達される。
【0096】
ここで、最大値θeが共通閾値θen以上となる場合、アシストトルクTrqa*は、アシストトルク設定処理部M6が設定したアシストトルクTrqa*に対して制限用反力Fieだけ小さくなる。制限用反力Fieは、最大値θeが共通閾値θenを超えると急激に大きくなるため、最大値θeが共通閾値θenを超える場合、アシストトルクTrqa*は急激に小さくなる。このため、操舵角θhが更に大きくなるようにステアリング10が操作されるのには大きなトルクが必要となる。このため、操舵角θhの変化が急減する。
【0097】
ここで、最大値θeが共通閾値θenに達するときには、角度感応ゲインGθがゼロとなっているため、微分ステア補正量θdもゼロとなる。したがって、目標動作角θa*は、目標動作角θa1*と等しくなっている。このため、最大値θeが共通閾値θen以上となることにより操舵装置に振動が生じることが、十分に抑制される。
【0098】
<第10の実施形態>
以下、第10の実施形態について、第9の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0099】
図13に、制御装置80が実行する処理の一部を示す。図13に示す処理は、図12に示した処理の一部を変更したものであり、図13において、図2に示した処理に対応する処理については、便宜上同一の符号を付している。
【0100】
図13に示すように、本実施形態では、最大値選択処理部M36が、操舵角θhと転舵角θpとのうちの最大値θeを選択する。
<第11の実施形態>
以下、第11の実施形態について、第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0101】
図14に、制御装置80が実行する処理の一部を示す。図14に示す処理は、図2に示した処理の一部を変更したものであり、図14において、図2に示した処理に対応する処理については、便宜上同一の符号を付している。
【0102】
本実施形態では、計量単位設定処理部M4を備えない。代わりに、計量変換処理部M60を備え、目標操舵角θh*を、目標動作角θa*がゼロの場合に、目標転舵角θp*に等しくなるようにする。
【0103】
これに併せて、反力設定処理部M10では、制限用反力設定処理部M10bにより、目標転舵角θp*に基づき、制限用反力Fie1を設定する。制限用反力設定処理部M10bは、制限用反力Fie1を、目標転舵角θp*の大きさが転舵角閾値θpth以上となることにより急激に大きくする。転舵角閾値θpthは、ラック軸46がラックハウジング44に接触するまで軸方向に変位したときの転舵角θpである上限値θpHよりも所定量(微少量)小さい値に設定されている。また、反力設定処理部M10は、制限用反力設定処理部M10dにより、目標操舵角θh*に基づき制限用反力Fie2を設定する。制限用反力設定処理部M10dは、制限用反力Fie2を、目標操舵角θh*の大きさが操舵角閾値θhth以上となることにより急激に大きくする。操舵角閾値θhthは、スパイラルケーブル68の長さに起因した操舵角θhの上限値θpHよりも所定量(微少量)小さい値に設定されている。そして、加算処理部M10eでは、制限用反力Fie1と制限用反力Fie2とを加算して、制限用反力Fieを算出する。
【0104】
一方、微分ステア処理部M38では、角度感応ゲイン設定処理部M38cにより、目標操舵角θh*に基づき角度感応ゲインGθ1を設定する。角度感応ゲイン設定処理部M38cは、中立位置からの乖離量が規定量以下となる操舵角θhである第1角度θ1以下の場合、操舵角θhが小さいほど角度感応ゲインGθ1を小さい値に設定する。また、角度感応ゲイン設定処理部M38cは、操舵角閾値θhthよりも所定量だけ小さい第2角度θ2以上の場合、操舵角θhが大きいほど角度感応ゲインGθ1を小さい値に設定し、特に、操舵角閾値θhth以上でゼロに設定する。また、微分ステア処理部M38では、角度感応ゲイン設定処理部M38gにより、目標転舵角θp*に基づき角度感応ゲインGθ2を設定する。角度感応ゲイン設定処理部M38gは、中立位置からの乖離量が規定量以下となる操舵角θhである第1角度θ1以下の場合、転舵角θpが小さいほど角度感応ゲインGθ2を小さい値に設定する。また、角度感応ゲイン設定処理部M38gは、転舵角閾値θpthよりも所定量だけ小さい第2角度θ2以上の場合、転舵角θpが大きいほど角度感応ゲインGθ2を小さい値に設定し、特に、転舵角閾値θpth以上でゼロに設定する。なお、角度感応ゲイン設定処理部M38cと角度感応ゲイン設定処理部M38gとのそれぞれが利用する第1角度θ1と第2角度θ2とは互いに相違する値となっている。そして、微分ステア処理部M38は、乗算部M38hにおいて、角度感応ゲインGθ1と角度感応ゲインGθ2とを乗算して、角度感応ゲインGθを算出する。
【0105】
<対応関係>
「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項と、上記実施の形態の事項との対応関係は以下である。
【0106】
手段の欄の1:第1〜第11の実施形態に対応する。手段の欄の2〜6:第1〜第8、第11の実施形態に対応する。手段の欄の7:第5〜第8の実施形態に対応する。手段の欄の8:第1〜第4、第11の実施形態に対応する。手段の欄の9,10:第1〜第8、第11の実施形態に対応する。手段の欄の11:第8〜第9の実施形態に対応する。なお、補正量算出処理部は、差分演算処理部M38a、基本ゲイン設定処理部M38bおよび乗算処理部M38dに対応する。
【0107】
<その他の実施形態>
なお、上記実施形態の各事項の少なくとも1つを、以下のように変更してもよい。以下において、「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項を項目立てするとともに上記実施形態における事項との対応関係を符号等によって例示した部分があるが、これには、項目立てした事項を対応関係を例示した実施形態中の事項に限定する意図はない。
【0108】
・「目標転舵角設定処理部について」
上記第1〜第8および第11の実施形態においては、アシストトルク設定処理部M6、反力設定処理部M10、加算処理部M8、偏差算出処理部M12、目標操舵角算出処理部M20、舵角比可変処理部M26、および加算処理部M28によって、目標転舵角設定処理部を構成したが、これに限らない。たとえば、反力設定処理部M10から、制限用反力設定処理部M10bを削除してもよい。また、目標操舵角算出処理部M20において、上記の式(c1)にて表現されるモデル式を用いて目標操舵角θh*を設定する代わりに、以下の式(c2)にて表現されるモデル式を用いてもよい。
【0109】
Δ=K・θh*+C・θh*’+J・θh*’’ …(c2)
ここで、バネ係数Kは、車両の影響をモデル化したものであり、サスペンションやホールアラインメント等の仕様によって決定される。
【0110】
また、たとえば、上記第1〜第8の実施形態において、偏差算出処理部M12の出力値に基づき目標転舵角θp1*を算出する目標転舵角算出処理部を設け、これと、アシストトルク設定処理部M6、反力設定処理部M10、加算処理部M8、および偏差算出処理部M12とによって、目標転舵角設定処理部を構成してもよい。なお、この場合、目標転舵角θp1*から目標動作角θa*を減算したものを目標操舵角θh*とすればよい。
【0111】
さらに、たとえば上記第1〜第8の実施形態において、舵角比可変処理部M26および加算処理部M28を削除し、目標操舵角θh*を、微分ステア補正量θdで補正される前の目標転舵角θp*と同一としてもよい。
【0112】
・「微分ステア処理部について」
上記実施形態では、基本ゲイン設定処理部M38bにおいて、車速Vが低い場合には、基本ゲインGvを低下させたが、これに限らない。たとえば、車速Vが高い場合以外は、一定値としてもよい。また、車速Vが高い場合に基本ゲインGvを低下させることも必須ではない。たとえば、車速が低い場合以外は、基本ゲインGvを一定値としてもよい。もっとも、基本ゲインGvを車速Vに応じて可変設定すること自体必須ではない。
【0113】
・「転舵処理部について」
上記第9、第10の実施形態においては、アシストトルク設定処理部M6、制限用反力設定処理部M10b、減算処理部M54、操作信号生成処理部M34によって、可変舵角比アクチュエータ100に操作信号MSvを出力する転舵処理部を構成した。しかし、第9、第10の実施形態においても、たとえば、上記第1〜第8の実施形態における転舵アクチュエータ40に操作信号MStを出力する転舵処理部を構成することも可能である。すなわち、たとえば図2の処理におけるアシストトルク設定処理部M6、反力設定処理部M10、加算処理部M8、偏差算出処理部M12、目標操舵角算出処理部M20、舵角比可変処理部M26、および加算処理部M28、転舵角フィードバック処理部M32、および操作信号生成処理部M34によって操作信号MStを生成してもよい。
【0114】
・「ステア制限処理部について」
上記実施形態では、角度感応ゲイン設定処理部M38c(38g)および乗算処理部M38e(M38h)によって、ステア制限処理部を構成したがこれに限らない。具体的には、角度感応ゲイン設定処理部M38c(38g)としては、上記実施形態において例示したものに限らない。たとえば、中立位置付近において角度感応ゲインGθ(Gθ1,Gθ2)を低下させなくてもよい。ただし、この場合には、差分演算処理部M38aと乗算処理部M38dとの間に、不感帯処理部を備え、中立位置付近における差分演算処理部M38aの出力値の絶対値を減少補正することが望ましい。
【0115】
上記第1〜第10の実施形態では、最大値θeが共通閾値θenよりも所定量だけ小さい第2角度θ2から共通閾値θenに到達する値へと増加するのに伴って、角度感応ゲインGθを漸減させたが、これに限らない。たとえば、共通閾値θenまたはそれよりも所定量(微少量)小さい値でステップ的に1からゼロに変更してもよい。またたとえば、共通閾値θenでゼロとなることも必須ではなく、ゼロよりもわずかに大きい値であってもよい。
【0116】
また、上記第11の実施形態では、目標操舵角θh*が第2角度θ2以上の場合、目標操舵角θh*が大きいほど角度感応ゲインGθ1を小さい値としたが、これに限らない。たとえば、操舵角閾値θhthまたはこれよりも所定量(微少量)小さい値となることで、角度感応ゲインGθ1を1からゼロにステップ的に変更してもよい。また操舵角閾値θhth以上で角度感応ゲインGθ1がゼロとなることも必須ではなく、たとえば、ゼロよりも所定量(微少量)大きい値としてもよい。同様、第11の実施形態では、目標転舵角θp*が第2角度θ2以上の場合、目標転舵角θp*が大きいほど角度感応ゲインGθ2を小さい値としたが、これに限らない。たとえば、転舵角閾値θpthまたはこれよりも所定量(微少量)小さい値となることで、角度感応ゲインGθ2を1からゼロにステップ的に変更してもよい。また転舵角閾値θpth以上で角度感応ゲインGθ2がゼロとなることも必須ではなく、たとえば、ゼロよりも所定量(微少量)大きい値としてもよい。
【0117】
さらにたとえば、図2に示した処理に代えて、角度感応ゲインGθを第1角度θ1以下および第2角度θ2以上で大きい値として差分演算処理部M38aの出力値に乗算する処理部と、同処理部の出力値を、差分演算処理部M38aの出力値に基本ゲインGvが乗算された値から減算する処理部とを備えて構成してもよい。
【0118】
・「閾値(θen)について」
(a)閾値との比較対象について
上記実施形態では、操舵角および転舵角の一対のパラメータを閾値との比較対象としたが、これに限らない。たとえば、4輪操舵車において、前輪側の転舵角と後輪側の転舵角と、操舵角との3つのパラメータであってもよい。この場合、上記第1〜第10の実施形態における最大値選択処理部M36に代えて、3つのパラメータの最大値θeを選択すればよい。また第11の実施形態においては、3つのパラメータのそれぞれから角度感応ゲインGθ1,Gθ2,Gθ3のそれぞれを算出し、角度感応ゲインGθを「Gθ1・Gθ2・Gθ3」とすればよい。さらに、4輪操舵車において、4つの転舵輪のそれぞれの転舵角がそれぞれ異なるものとなる場合、4つの転舵角と、1つの操舵角との5つのパラメータであってもよい。
【0119】
また、1つのパラメータのみであってもよい。すなわち、たとえばスパイラルケーブル68に余裕を持たせ、いかなる舵角比であっても転舵角を転舵角閾値以下に制御すれば、スパイラルケーブル68が延びきることがないなら、転舵角のみをパラメータとしてもよい。またたとえば、スパイラルケーブル68に余裕がなく、いかなる舵角比であっても操舵角を操舵角閾値以下に制御すれば、ラック軸46がラックハウジング44に接触することがないなら、操舵角のみをパラメータとしてもよい。
【0120】
(b)複数の閾値を共通化しない場合について
複数の閾値を共通閾値としない場合としては、上記第11の実施形態に限らない。たとえば、第3、第4の実施形態のように、目標操舵角θh*および目標転舵角θp1*を用いる場合や、第5〜第8、第10の実施形態のように、操舵角θhおよび転舵角θpを用いる場合、第9の実施形態のように、操舵角θhおよび「θh+θa*」を用いる場合であってもよい。それらの場合であっても、制限用反力Fieの算出パラメータと角度感応ゲインGθの算出パラメータとを、共通とすることが望ましい。
【0121】
・「反力増加処理部について」
上記第1〜第8、第11の実施形態では、反力設定処理部M10、偏差算出処理部M12、目標操舵角算出処理部M20、操舵角フィードバック処理部M22、および操作信号生成処理部M24によって、反力増加処理部を構成したがこれに限らない。たとえば、上記第11の実施形態において、制限用反力Fie1と制限用反力Fie2との和を制限用反力Fieとする代わりに、制限用反力Fie1と制限用反力Fie2との最大値を制限用反力Fieとしてもよい。
【0122】
反力増加処理部を備えること自体必須ではない。これを備えなくても、たとえば上記各実施形態の場合、ラック軸46が軸方向に変位してラックハウジング44に接触することにより、転舵角θpの上限値θpHが定まり、スパイラルケーブル68によって操舵角θhの上限値θhHが定まる。このため、それらの付近では、微分ステア処理部M38による転舵角θpの増減補正量の大きさを制限することが望ましい。
【0123】
・「操舵角制御処理部について」
上記実施形態では、操舵角フィードバック処理部M22および操作信号生成処理部M24によって、操舵角制御処理部を構成したが、これに限らない。たとえば、操舵角フィードバック処理部M22において、目標操舵角θh*から操舵角θhを減算した値を入力とする比例要素および微分要素の各出力値の和によって、反力アクチュエータ20の操作量(目標反力トルクTrqr*)を算出するものであってもよい。
【0124】
・「転舵角フィードバック処理部について」
目標転舵角θp*から転舵角θpを減算した値を入力とする比例要素、積分要素および微分要素のそれぞれの出力値の和によって、転舵アクチュエータ40の操作量(目標転舵トルクTrqt*)を算出するものに限らない。たとえば、目標転舵角θp*から転舵角θpを減算した値を入力とする比例要素および微分要素のそれぞれの出力値の和によって、転舵アクチュエータ40の操作量を算出するものであってもよい。
【0125】
・「舵角比フィードバック処理部について」
目標動作角θa*から動作角θaを減算した値を入力とする比例要素、積分要素および微分要素のそれぞれの出力値の和によって、可変舵角比アクチュエータ100の操作量(目標舵角比トルクTrqv*)を算出するものに限らない。たとえば、目標動作角θa*から動作角θaを減算した値を入力とする比例要素および微分要素のそれぞれの出力値の和によって、可変舵角比アクチュエータ100の操作量を算出するものであってもよい。
【0126】
・「転舵アクチュエータ(40)について」
転舵側モータ56としては、SPMSMに限らず、たとえばIPMSMを用いてもよい。また、ラックアンドピニオン型のものに限らない。たとえば、ラッククロス型のものや、ラックパラレル型、ラック同軸型のものなどを採用してもよい。
【0127】
・「可変舵角比アクチュエータを備える場合について」
上記第9、第10の実施形態において、操舵角を検出するセンサを備えてもよい。この場合、センサの検出値に基づき操舵角θhを取得すればよい。
【0128】
また、上記第9、第10の実施形態において、転舵アクチュエータ40を備えることは必須ではない。また、転舵側モータ56を備える転舵アクチュエータ40に代えて、油圧式のアクチュエータを備えてもよい。
【0129】
・「操舵装置について」
転舵輪30の転舵角とステアリング10の操舵角との比である舵角比を変更可能なものに限らない。たとえば、図1においてステアリングシャフト22とピニオン軸42とを一体的なものとし、図2において、舵角比可変処理部M26および加算処理部M28を削除したとしても、微分ステア処理部M38が角度感応ゲイン設定処理部M38cを備えることは有効である。
【0130】
・「操舵制御装置について」
CPU82とメモリ84とを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部を、専用のハードウェア(ASIC)にて処理してもよい。すなわち、たとえば、上記第1の実施形態において、アシストトルク設定処理部M6、反力設定処理部M10、加算処理部M8、偏差算出処理部M12、および目標操舵角算出処理部M20の処理については、ハードウェア処理とし、目標操舵角θh*を、ハードウェアからCPU82が取得するようにしてもよい。
【0131】
・「そのほか」
反力モータ26やVGRモータ104としては、SPMSMに限らず、たとえばIPMSMを用いてもよい。
【符号の説明】
【0132】
10…ステアリング、12…クラッチ、20…反力アクチュエータ、22…ステアリングシャフト、24…反力側減速機、26…反力モータ、26a…回転軸、28…インバータ、30…転舵輪、40…転舵アクチュエータ、42…ピニオン軸、42a…ピニオン歯、44…ラックハウジング、46…ラック軸、46a…第1ラック歯、46b…第2ラック歯、48…第1ラックアンドピニオン機構、50…ピニオン軸、50a…ピニオン歯、52…第2ラックアンドピニオン機構、54…転舵側減速機、56…転舵側モータ、56a…回転軸、58…インバータ、60…スパイラルケーブル装置、62…第1ハウジング、64…第2ハウジング、66…筒状部材、68…スパイラルケーブル、70…ホーン、72…バッテリ、80…制御装置、82…CPU、84…メモリ、90…転舵側センサ、92…操舵側センサ、94…トルクセンサ、96…車速センサ、100…可変舵角比アクチュエータ、102…ハウジング、104…VGRモータ、104a…回転軸、106…減速機構、108…出力軸、110…インバータ、112…舵角比側センサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14