(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
成分組成が、質量%で、C:0.20〜0.60%、Si:0.15〜2.50%、Mn:0.20〜2.00%、P:0.010〜0.150%、S:0.040〜0.150%、V:0.10〜0.50%、Al:0.001〜0.010%、Zr:0.0005〜0.0050%、Ca:0.0004〜0.0050%、N:0.002〜0.020%を含み、O:0.0035%以下に制限し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、鋼材中に含まれる、圧延方向に垂直な幅が5μm以上の酸化物系介在物であって、(%Al2O3)+(%CaO)+(%ZrO2)=100%(%は質量%)と規格化したとき、(%Al2O3)が9%以上、(%CaO)が14%以上、かつ(%ZrO2)が5%以上であり、下記(1)式を満足する酸化物系介在物の個数が、個数比率で合計20%以上である
ことを特徴とするZr含有鍛造用鋼材。
4.5×(%CaO)+(%ZrO2)≧135 ・・・(1)
ここで、(%Al2O3):Al2O3の質量%
(%CaO) :CaOの質量%
(%ZrO2) :ZrO2の質量%
前記成分組成が、更に、質量%で、Cr:0.05〜2.00%、Nb:0.005〜0.050%、Ti:0.005〜0.050%の1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載のZr含有鍛造用鋼材。
【背景技術】
【0002】
最近の自動車エンジン用鍛造部品及び足廻り用鍛造部品には、調質処理(焼入れ−焼戻し処理)の省略が可能な熱間鍛造用非調質鋼材が適用されている。非調質鋼材は、熱間鍛造後、空冷又は風冷のままで優れた機械的性質が実現するように成分組成を設計した鋼材である。
【0003】
非調質鋼材が広く適用されている部品の一つとして、エンジン用コネクティングロッド(以下「コンロッド」ということがある。)がある。コンロッドは、エンジンのピストンの動きをクランクシャフトに伝える部品であり、キャップとロッドの2つの部品から構成されている。
【0004】
コンロッドは、クランクシャフトを挟んで、キャップとロッドを嵌め合わせて大端部とし、両者をボルトで締結することによって、クランクシャフトに取り付けられている。
【0005】
従来、コンロッドは、キャップとロッドを別々に鍛造して製造した後、又は、一体の形に鍛造したものを機械的に切断した後、キャップとロッドの合せ面を高精度に機械加工することによって作製されてきた。また、キャップとロッドの合せ面がずれないように、合せ面にピン加工を施すことが多く、コンロッドの作製において、加工工程がより煩雑となり、製造コストが高くなるという問題がある。
【0006】
このため、近年、キャップとロッドが一体の形に鍛造した後、大端部の内側に切欠き加工を施し、冷間で衝撃引張応力を与えて、キャップとロッドに破断分割し、その破断面を、そのまま、合せ面として利用して、クランクシャフトに取り付ける工法が採用されるようになっている。
【0007】
この工法においては、合せ面の機械加工を省略でき、また、破面の凹凸を利用することで、ずれ防止のためのピン加工も不要になるので、部品の加工コストの削減が可能となる。更に、ピンの廃止によって、合せ面の面積を削減できるので、コンロッド自体の小型化・軽量化も可能となる。
【0008】
破断分割型のコンロッドの作製に用いる鋼材においては、高度な破断分離性と被削性が必要である。近年では、省燃費の観点から、鋼材自体を高強度化し、軽量化を進める動きも盛んである。このため、高強度、破断分離性、及び、被削性を兼ね備える鋼材の開発が求められている。
【0009】
これに対し、特許文献1には、製造性や機械的性質を損なうことなく、かつ、Pb等を添加することなく製造した、破断分離性及び被削性に優れた熱間鍛造用非調質鋼材が提案されている。
【0010】
具体的には、C量とV量を適正化して破断分離性を高め、更に、Zr、Ca、及び、Alの量を同時に制御することにより、MnS系介在物を、多量にかつ微細に分散させて、機械的性質や製造性を損なうことなく、破断分離性を高め、被削性を改善している。特許文献1によれば、高強度、破断分離性、及び、被削性を兼ね備える鋼材を得ることが可能となる。
【0011】
しかし、特許文献1の鋼材では、Zrを添加しているので、溶鋼中に、高融点のZr系酸化物が生成する。高融点のZr系酸化物は、溶鋼中で、容易に凝集合体し、連続鋳造ノズルの内壁に、粗大なZr系酸化物として付着して堆積する。このため、Zr添加鋼は、連続鋳造ノズルの閉塞を招き易い鋼種である。
【0012】
連続鋳造時、連続鋳造ノズルの閉塞が進行し、連続鋳造ノズル内の溶鋼の流れが阻害された場合には、鋳型内の溶鋼の湯面が変動し、鋳片品質が悪化する。最悪の事態として、連続鋳造ノズルが完全に閉塞した場合には、連続鋳造の操業を停止せざるを得なくなり、生産効率が低下する。
【0013】
Zr含有鋼の連続鋳造時のノズル閉塞に対し、これまで、いくつかの対策が提案されている。
【0014】
例えば、特許文献2には、Al脱酸の後、取鍋内でCaを添加し、Ca添加直後にZrを添加して、浸漬ノズルの閉塞を防止する方法が提案されている。しかし、この方法においては、Ca添加で生成したCaOと、Zr添加で生成したZrO
2が、CaO・ZrO
2の高融点複合酸化物を形成して、却って、ノズル閉塞を悪化させる場合がある。
【0015】
特許文献3には、Zr含有鋼の連続鋳造において、スライディングノズルや浸漬ノズル等の一部に、ZrO
2含有の耐火物を配置して、ノズル閉塞を防止する方法が提案されている。しかし、ノズルの材質としてZrO
2を使用した場合、ノズルの製造が煩雑になり、コストが上昇するという問題が生じる。
【0016】
特許文献4には、Zrを0.1〜1.5質量%含み、かつ、Crを8質量%以上含む溶鋼を製造する際、精錬炉での酸化クロムの還元工程で、還元処理後の溶鋼組成を、[Al]≧0.15質量%、又は、[Si]≧0.8質量%以上とする方法が提案されている。
【0017】
この方法は、Zr量が非常に多いCr含有鋼に関するものであり、かつ、溶鋼組成として、[Al]、[Si]も非常に多いので、この方法を、一般的な炭素鋼の製造に適用することは困難である。
【0018】
特許文献5には、Al及びTiで脱酸して、溶鋼中酸化物をAl
2O
3−Ti
2O
3系酸化物に制御し、かつ、溶鋼中の全酸素濃度を0.008質量%以下とした溶鋼に、所定の関係式で規定した量のZrを添加する方法が提案されている。この方法は、Tiによる脱酸を活用するので、Ti含有量が高い鋼以外への適用は難しい。
【0019】
特許文献6には、Zr添加前の溶鋼中の溶存酸素量を0.0002〜0.015%に調整し、その後、溶存酸素量に応じた量のZrを添加する方法が提案されている。
【0020】
この方法では、溶存酸素量のみを用いてZr添加量を規定しているが、Zrは、強脱酸元素であるので、溶鋼中に存在する酸化物を還元して、ZrO
2が生成する。このため、溶存酸素量が同じでも、溶鋼中の酸化物量が異なれば生成するZrO
2の量も異なり、それに応じて、ノズル閉塞の態様も異なることになる。
【0021】
特許文献7には、Zrを0.001〜0.1質量%含有するZr含有鋼を連続鋳造する方法において、浸漬ノズルの内壁を、MgO含有率:60〜85質量%の耐火物で構成する方法が提案されている。しかし、ノズルの材質としてMgOを使用した場合、ノズルの製造が煩雑になり、コストが上昇するという問題が生じる。また、ノズルの材質としてMgOを使用した場合、耐熱衝撃性が落ちるという問題もある。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明のZr含有鍛造用鋼材(以下「本発明鋼材」ということがある。)は、
成分組成が、質量%で、C:0.20〜0.60%、Si:0.15〜2.50%、Mn:0.20〜2.00%、P:0.010〜0.150%、S:0.040〜0.150%、V:0.10〜0.50%、Al:0.001〜0.010%、Zr:0.0005〜0.0050%、Ca:0.0004〜0.0050%、N:0.002〜0.020%を含み、O:0.0035%以下に制限し、残部がFe及び不可避的不純物よりなり、鋼材中に含まれる、圧延方向に垂直な幅が5μm以上の酸化物系介在物であって、(%Al
2O
3)+(%CaO)+(%ZrO
2)=100%(%は質量%)と規格化したとき、下記(1)式を満足する酸化物系介在物の個数が、個数比率で合計20%以上である
ことを特徴とする。
4.5×(%CaO)+(%ZrO
2)≧135 ・・・(1)
ここで、(%Al
2O
3):Al
2O
3の質量%
(%CaO) :CaOの質量%
(%ZrO
2) :ZrO
2の質量%
【0033】
また、本発明鋼材は、成分組成が、更に、質量%で、Cr:0.05〜2.00%、Nb:0.005〜0.050%、Ti:0.005〜0.050%の1種又は2種以上、及び/又は、Mg:0.0005〜0.0050%を含むことを特徴とする。
【0034】
以下、本発明鋼材について説明するが、まず、着想から本発明鋼材に至るまでの経緯について説明する。
【0035】
特許文献1に記載の破断分離性及び被削性に優れた熱間鍛造用非調質鋼材の製造において、連続鋳造ノズルの閉塞を防止する方法を見出すべく、本発明者らは、ノズル閉塞の主たる原因である溶鋼中介在物の挙動に着目し、製造条件を様々に変化させ、連続鋳造試験を行い、連続鋳造ノズルの閉塞状況とノズル付着物、溶鋼中介在物、及び、それらの関連性を鋭意調査した。その結果、次のことが明らかになった。
【0036】
(a)連続鋳造ノズルが閉塞したときの付着物は、高融点のZrO
2−CaO系介在物が主体の付着物で、一部、低融点のZrO
2−CaO−Al
2O
3介在物を含む付着物である。
(b)溶鋼中介在物は、連続鋳造ノズルに付着した付着物とほぼ同じである。即ち、連続鋳造ノズルの閉塞の原因は、溶鋼中に存在する介在物である。
【0037】
次に、操業条件を変更し、連続鋳造ノズルの閉塞状況と溶鋼中介在物の関連性を鋭意調査した。その結果、次のことが明らかになった。
【0038】
(c)溶鋼中介在物が、ZrO
2−CaO系の高融点介在物のみの場合、連続鋳造ノズルの閉塞が激しく発生するが、溶鋼中介在物が、ZrO
2−CaO−Al
2O
3系の低融点介在物を多く含んでいる場合、連続鋳造ノズルの閉塞は発生しない。
【0039】
以上の知見に基づき、本発明者らは、連続鋳造ノズルの閉塞を確実に防止するためには、溶鋼中に存在する低融点介在物の量を所定量以上に増加することが必要であるとの発想に至った。
【0040】
図1に、1873KでのZrO
2−CaO−Al
2O
3三元状態図を示す(T.Murakami、H.Fukuyama、T.Kishida、M.Susa and K.Nagata、Metallurgical Materials Transactions B、31B、25.参照)。
図1中、着色部分が、1873Kで液相又は固液共存相の領域である。
図1はモル濃度(mol%)で表示の図であるが、上記領域は、質量%に換算すると、下記(1)式で表示できる。
4.5×(%CaO)+(%ZrO
2)≧135 ・・・(1)
(%CaO) :CaOの質量%
(%ZrO
2):ZrO
2の質量%
【0041】
上記(1)式を満足する介在物は、連続鋳造時、ノズル閉塞の原因とならない低融点のZrO
2−CaO−Al
2O
3介在物を形成する。そこで、本発明者らは、上記(1)式を満足する介在物の個数の個数比率とノズル閉塞の関連性を調査した。結果を
図2に示す。
【0042】
横軸の(1)式を満足する介在物の個数比率(%)は、鋼棒鋼中に含まれる、圧延方向に垂直な幅が5μm以上の酸化物系介在物であって、(%Al
2O
3)+(%CaO)+(%ZrO
2)=100%(%は質量%)と規格化したときに、上記(1)式を満足する酸化物系介在物の個数の個数比率である。
【0043】
例えば、ある酸化物系介在物の組成が、(%Al
2O
3)=40%、(%CaO)=50%,(%ZrO
2)=10%の場合、上記(1)式を満足する。一方、ある酸化物系介在物の組成が、(%Al
2O
3)=40%、(%CaO)=10%,(%ZrO
2)=50%の場合、上記(1)式を満足しない。
【0044】
酸化物系介在物が10個検出され、うち5個の組成が前述の判断基準により上記(1)式を満足する場合には、上記(1)式を満足する酸化物系介在物の個数の個数比率は50%となる。
【0045】
縦軸のノズル閉塞指標は、連続鋳造ノズルの実際の開度と、溶鋼のスループットと溶鋼ヘッドから算出される本来開度との比(実際の開度/本来開度)である。指標の値が大きいほど、ノズル閉塞が頻発することを意味する。
【0046】
ノズル閉塞指標の目標は1以下である。
図2から、上記(1)式を満足する介在物の個数比率(%)が20%以上であると、連続鋳造ノズルの閉塞を顕著に抑制できることが解る。
【0047】
本発明者らは、上記知見に基づいて、鋼棒鋼中に含まれる、圧延方向に垂直な幅が5μm以上の酸化物系介在物であって、(%Al
2O
3)+(%CaO)+(%ZrO
2)=100%(%は質量%)と規格化したときに、上記(1)式を満足する酸化物系介在物の個数が、個数比率で、合計20%以上であると規定した。
【0048】
個数計数の対象とする介在物は酸化物系介在物である。介在物には硫化物系介在物も存在するが、硫化物系介在物の多くは、溶鋼の凝固中又は凝固後に生成する介在物であり、連続鋳造時、ノズルの閉塞に及ぼす影響は殆どないので、硫化物系介在物は、個数計数の対象外とする。
【0049】
生成する酸化物系介在物は、Al
2O
3、CaO、及び、ZrO
2であるので、酸化物系介在物の個数比率の算出においては、(%Al
2O
3)+(%CaO)+(%ZrO
2)=100%(%は質量%)として規格化した。この規格化により、酸化物系介在物の個数比率とノズル閉塞指標の関連性を客観的に評価することができる。
【0050】
圧延方向に垂直な幅が5μm未満の小さい介在物は、ノズルの閉塞に及ぼす悪影響が小さく、また、多くの場合、鋼棒鋼中、硫化物系介在物等と複合化していて、正確な組成分析が困難であるので、個数計数の対象とする酸化物系介在物は、圧延方向に垂直な幅が5μm以上の酸化物系介在物とする。
【0051】
圧延方向に垂直な幅が5μm以上の酸化物系介在物であって、上記(1)式を満足する酸化物系介在物の個数比率は、(%Al
2O
3)+(%CaO)+(%ZrO
2)=100%(%は質量%)と規格化し、合計で20%以上とする。上記個数比率が20%未満であると、
図2に示すように、ノズル閉塞指標が急上昇する。上記個数比率は、好ましくは40%以上、より好ましくは60%以上である(
図2、参照)。
【0052】
本発明鋼材を特徴付ける介在物の態様は以上の通りであるが、本発明鋼材を得る具体的な方法は、次のとおりである。
【0053】
転炉や電気炉などで一次精錬した溶鋼の成分組成を調整し、所要量のAl、Zr、及び、Caを添加する。脱酸力が弱い順に添加すると、溶鋼中のOを低減し易いので、添加は、Al、Zr、Caの順で行うことが好ましい。特に、Alは、なるべく早い段階で添加することが好ましく、例えば、転炉や電気炉からの出鋼時に添加するのが好ましい。
【0054】
Alの添加後、溶鋼を、RH式脱ガス精錬装置、取鍋加熱式精錬装置、簡易式溶鋼処理設備等により撹拌し、Al
2O
3介在物を浮上分離する。その後、Zr、Caを、好ましくはこの順序で添加し、Al
2O
3−ZrO
2−CaO系複合酸化物(介在物)を形成する。
【0055】
溶鋼へ添加するZrとCaの形態は特に限定されない。Zrは、例えば、純Zr、Zr−Si合金、Fe−Zr合金等の形態で添加すればよい。Caは、Ca−Si合金等の形態で添加すればよい。Zr及びCaの添加後も溶鋼を十分に撹拌し、介在物を浮上させ分離する。
【0056】
なお、介在物を所定の組成の介在物に制御する方法は、製造プロセス等に応じて様々な手法が考えられる。例えば、スラグ組成を制御したうえで、十分な撹拌を実施して平衡状態を維持し、溶鋼中介在物の組成を、スラグ組成とほぼ同じに制御する方法、スラグの液相率を高め、溶鋼との反応を促進し、ZrO
2酸化物を吸収し易くして、所定の介在物組成に制御する方法等がある。
【0057】
このように溶製した溶鋼を、常法に従って連続鋳造して鋳片とする。連続鋳造は、できるだけ酸素源の混入がないように注意して行う。溶鋼に酸素源が混入すると、介在物組成が変化し、また、O濃度が上昇するので、これを防止するためである。連続鋳造した鋳片は、常法に従って熱間圧延に供し、鍛造用鋼材(本発明鋼材)を製造する。
【0058】
本発明鋼材は、熱処理を施さず非調質のままで、熱間鍛造又は冷間鍛造に供し得る鋼材であるが、特性改善の熱処理を施した後、熱間鍛造又は冷間鍛造に供してもよい。
【0059】
次に、本発明鋼材の成分組成の限定理由について説明する.成分組成の限定は、主に、介在物の組成制御に加え、優れた破断分離性及び被削性を確保するために必要である。以下、成分組成に係る%は、質量%を意味する。
【0060】
C:0.20%〜0.60%
Cは、部品の引張強度を確保し、かつ、延性と靭性の低いパーライト組織の分率を高めて、破断分離性の向上に寄与する元素である。0.20%未満では、添加効果が十分に得られないので、Cは0.20%以上とする。好ましくは0.25%以上である。
【0061】
一方、0.60%を超えると、組織が粗大化して、降伏比が低下するので、Cは0.60%以下とする。好ましくは0.55%以下である。
【0062】
Si:0.15〜2.50%
Siは、固溶強化によってフェライトを強化し、延性と靭性を低下させて、破断分離性の向上に寄与する元素である。0.15%未満では、添加効果が十分に得られないので、Siは0.15%以上とする。好ましくは0.30%以上である。
【0063】
一方、2.50%を超えると、フェライト組織の分率が過大となり、かえって、破断分離性が低下するので、Siは2.50%以下とする。好ましくは2.30%以下である。
【0064】
Mn:0.20〜2.00%
Mnは、固溶強化によってフェライトを強化し、延性と靭性を低下させて、破断分離性の向上に寄与する元素である。0.20%未満では、添加効果が十分に得られないので、Mnは0.20%以上とする。好ましくは0.30%以上である。
【0065】
一方、2.00%を超えると、パーライトのラメラー間隔が小さくなり、パーライトの延性と靭性が増加して、破断分離性が低下する他、ベイナイト組織が生成し易くなり、破断分離性が大幅に低下するので、Mnは2.00%以下とする。好ましくは1.75%以下である。
【0066】
P:0.010〜0.150%
Pは、フェライト及びパーライトの延性と靭性を低下させて、破断分離性の向上に寄与する元素である。0.010%未満では、添加効果が十分に得られないので、Pは0.010%以上とする。好ましくは0.015%以上である。
【0067】
一方、0.150%を超えると、熱間延性が低下し、熱間加工時に割れや瑕が発生し易くなるので、Pは0.150%以下とする。好ましくは0.100%以下である。
【0068】
S:0.040〜0.150%
Sは、Mnと結合してMnS(MnS系介在物)を形成し、被削性の向上に寄与する元素である。また、Sは、微量のZr及びCaを添加し、Al添加量を制限した場合、破断分割時に亀裂の伝播経路となるアスペクト比が小さいMnS系介在物を、鋼中に、多量に微細分散させて、破断分離性の向上に寄与する元素である。
【0069】
0.040%未満では、添加効果が十分に得られないので、Sは0.040%以上とする。好ましくは0.080%以上である。一方、0.150%を超えると、熱間延性が低下し、熱間加工時に割れや疵が発生し易くなるので、Sは0.150%以下とする。好ましくは0.100%以下である。
【0070】
V:0.10〜0.50%
Vは、熱間鍛造後の冷却時に、主に、炭化物や炭窒化物を形成して、析出強化によりフェライトを強化し、延性と靭性を低下させて、破断分離性の向上と、降伏比の向上に寄与する元素である。0.10%未満では、添加効果が十分に得られないので、Vは0.10%以上とする。好ましくは0.30%以上である。
【0071】
一方、0.50%を超えると、添加効果が飽和するので、Vは0.50%以下とする。好ましくは0.35%以下である。
【0072】
Al:0.001〜0.010%
Zr:0.0005〜0.0050%
Ca:0.0004〜0.0050%
Al、Zr、及び、Caの添加量を同時に制御して、介在物組成を所定の範囲に制御する。加えて、アスペクト比が小さいMnS系介在物を、鋼中に、多量に微細分散させることができる。MnS系介在物は、破断分割時に、亀裂の伝播経路となるので、破断分離性を高める作用をなす。
【0073】
Alは、脱酸元素であり、介在物組成を所定の範囲に調整する作用をなす元素である。0.001%未満では、脱酸効果と介在物組成の調整作用が十分に得られないので、Alは0.001%以上とする。好ましくは0.003%以上、より好ましくは0.005%以上である。
【0074】
一方、0.010%を超えると、Al
2O
3が優先的に生成し、介在物組成が所定の範囲を外れるのみならず、MnS系介在物を均一に微細分散させる作用をなすZr系及び/又はCa系の酸化物の生成を阻害し、破断分離性や疲労等の機械的性質を損なう粗大なMnS系介在物の生成を助長するので、Alは0.010%以下とする。好ましくは0.008%以下、より好ましくは、0.007%以下である。
【0075】
Zrは、脱酸元素であり、ZrO
2を形成して、介在物組成を所定の範囲に制御する作用をなす元素である。ZrO
2は、MnS系介在物の晶出、析出核となるので、Zrは、MnS系介在物の晶出、析出サイトを増やし、MnS系介在物の均一・微細分散に寄与する元素でもある。
【0076】
0.0005%未満では、添加効果が十分に得られないので、Zrは0.0005%以上とする。好ましくは0.0010%以上、より好ましくは0.0015である。一方、0.0050%を超えると、添加効果が飽和するので、0.0050%以下とする。好ましくは0.0035%以下、より好ましくは0.0030%である。
【0077】
Caは、脱酸元素であり、CaOを形成して、介在物組成を所定の範囲に制御する作用をなす元素であり、また、Caは、MnS系介在物に固溶して複合硫化物を形成し、その変形能を低下させて、圧延時や熱間鍛造時のMnS系介在物の延伸を抑制する作用をなす元素でもある。
【0078】
0.0004%未満では、添加効果が十分に得られないので、Caは0.0004%以上とする。好ましくは0.0008%以上、より好ましくは0.00120%以上である。一方、0.0050%を超えると、添加効果が飽和するので、Caは0.0050%以下とする。好ましくは0.0040%以下、より好ましくは0.0030%以下である。
【0079】
N:0.002〜0.020%
Nは、熱間鍛造後の冷却時に、フェライトの変態核として機能するV窒化物や、V炭窒化物を形成してフェライト変態を促進し、破断分離性を大幅に損なうベイナイト組織の生成を抑制する作用をなす元素である。好ましくは0.005%以上である。より好ましくは0.008%以上である。
【0080】
一方、0.020%を超えると、熱間延性が低下し、熱間加工時に、割れや疵が発生し易くなるので、Nは0.020%以下とする。好ましくは0.017%以下、より好ましくは0.015%以下である。
【0081】
O:0.0035%以下
Oは、本発明鋼材中に過剰に存在すると、介在物の組成制御を困難にする元素である。0.0035%を超えると、介在物の組成制御が著しく困難となるので、Oは0.0035%以下に制限する。好ましくは0.0030%以下、より好ましくは0.0025%以下である。
【0082】
本発明鋼材の成分組成は、更に、フェライトを強化し、延性と靭性を低下させて、良好な破断分離性を得るため、Cr:0.05〜2.00%、Nb:0.005〜0.050%、及び、Ti:0.005〜0.050%の1種又は2種以上を含んでもよい。
【0083】
Cr:0.05〜2.00%
Crは、Mnと同様に、固溶強化によってフェライトを強化し、延性と靭性を低下させて、破断分離性の向上に寄与する元素である。0.05%未満では、添加効果が十分に得られないので、Crは0.05%以上とする。好ましくは0.10%以上である。
【0084】
一方、2.00%を超えると、パーライトのラメラー間隔が小さくなり、パーライトの延性と靭性が増加して、破断分離性が低下するし、また、ベイナイト組織が生成し易くなって、破断分離性が大幅に低下するので、Crは2.00%以下とする。好ましくは1.50%以下である。
【0085】
Nb:0.005〜0.050%
Nbは、熱間鍛造後の冷却時に、主に、炭化物や炭窒化物を形成し、析出強化によりフェライトを強化して、延性と靭性を低下させて、破断分離性の向上に寄与する元素である。0.005%未満では、添加効果が十分に得られないので、Nbは0.005%以上とする。好ましくは0.010%以上である。
【0086】
一方、0.050%を超えると、添加効果が飽和するので、Nbは0.050%以下とする。好ましくは0.035%以下である。
【0087】
Ti:0.005〜0.050%
Tiは、熱間鍛造後の冷却時に、主に、炭化物や炭窒化物を形成し、析出強化によりフェライトを強化して、延性と靭性を低下させて、破断分離性の向上に寄与する元素である。0.005%未満では、添加効果が十分に得られないので、Tiは0.005%以上とする。好ましくは0.010%以上である。
【0088】
一方、0.050%を超えると、添加効果が飽和し、また、被削性が低下する場合があるので、Tiは0.050%以下とする。好ましくは0.035%以下である。
【0089】
また、本発明鋼材の成分組成は、介在物の分散態様を制御し、破断分離性をより向上させるため、Mgを0.0005〜0.0050%含んでもよい。
【0090】
Mg:0.0005〜0.0050%
Mgは、脱酸元素であり、MnS系介在物の晶出、析出核となり、MnS系介在物を均一に微細分散させ、異方性を改善する作用をなすMg酸化物を形成する元素である。また、Mgは、MnS系介在物に固溶して複合硫化物を形成し、その変形能を低下させて、圧延時や熱間鍛造時のMnS系介在物の延伸を抑制する作用をなす元素である。
【0091】
0.0005%未満では、添加効果が十分に得られないので、Mgは0.0005%以上とする。好ましくは0.0010%以上である。一方、0.0050%を超えると、大型の介在物及びそのクラスターが多量に生成し、疲労特性等の機械的性質が低下するので、Mgは0.0050%以下とする。好ましくは0.0040%以下である。
【0092】
本発明鋼材の成分組成は、上記元素の他、本発明鋼材の特性を損なわない範囲で、Te、Zn、Sn等を含んでもよい。
【0093】
なお、微量のCu、Ni、及び、Moは、本発明鋼材の特性に対し特段の影響を及ぼさないが、ベイナイト組織の発生を防止するため、不可避的不純物としてのCu及びNiは、ともに0.15%以下に制限し、同じく、Moは0.01%以下に制限することが好ましい。
【実施例】
【0094】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0095】
(実施例1)
容量300トンの転炉で一次精錬した溶鋼を取鍋に出鋼する際、金属Alを添加してAl脱酸を実施した。次に、取鍋加熱式精錬装置とRH式脱ガス精錬装置を用いて、脱ガス処理と成分調整を実施した。その後、溶鋼に、Fe−Zr合金を用いてZrを添加した。Zr添加後、均一混合時間以上の時間をかけて撹拌を行い、介在物の除去を進めた。
【0096】
均一混合時間とは、添加した合金元素が、最終値近傍の所定の範囲内に漸近するのに要する時間で、撹拌力と相関する時間である。均一混合時間は、トレーサー実験で求めることができ、また、既知の撹拌動力密度との関係式(例えば、浅井滋生、岡本徹夫、赫冀成、鞭巌、鉄と鋼68、426)を用いて推算できる。
【0097】
さらに、溶鋼に、Ca−Si合金ワイヤーを用いてCaを添加した。介在物の組成制御は、スラグの塩基度(CaO濃度とSiO
2濃度の比)を制御してスラグの液相率を高めて、溶鋼との反応を促進し、ZrO
2酸化物を吸収し易くする方法で実施した。
【0098】
なお、スラグの液相率を高める方法は、スラグの塩基度(CaO濃度とSiO
2濃度の比)を制御する方法、スラグにCaF
2やNa
2Oなどを添加する方法があり、いずれを採用してもよい。
【0099】
このようにして溶製した熱間鍛造用非調質鋼材の溶鋼を連続鋳造した。連続鋳造は、鋳型断面サイズが560mm×350mmのブルーム4ストランドの連鋳機で実施した。連続鋳造時のタンディッシュ内の溶鋼の過熱度(溶鋼の温度から、溶鋼の組成の鋼の液相線温度を減じた値)は10〜60℃であった。溶鋼のスループット(単位時間あたりの鋳造溶鋼量)は0.5〜1.5t/分であった。
【0100】
表1に、発明例及び比較例の溶鋼の成分組成(質量%)を示す。
【0101】
【表1】
【0102】
表2に、発明例及び比較例における、取鍋スラグの1500℃でのスラグ液相率(%)、上記(1)式を満足する介在物の個数比率(%)、Al
2O
3+CaO+ZrO
2=100%に規格化したときの介在物の平均組成、及び、ノズル閉塞指標を示す。
【0103】
【表2】
【0104】
取鍋スラグの液相率は、スラグ組成から熱力学平衡計算により推算した(山田亘、松宮徹、新日鐵技報、342(1991)、38、参考)。ノズル閉塞指標は、連続鋳造ノズルの実際の開度と、溶鋼のスループットと溶鋼ヘッドから算出する本来開度との比である。ノズル閉塞指標が大きいほど、ノズルの閉塞が頻繁に起きることを意味し、目標は1以下である(
図2、参照)。
【0105】
発明例1〜35では、取鍋スラグの液相率は85%以上と高くなっており、その結果、いずれも、(1)式を満足する介在物の個数比率は20%以上であり、ノズル閉塞指標は1以下で、ノズル閉塞は防止され、問題なく連続鋳造することができた。
【0106】
一方、比較例36〜48では、取鍋スラグの液相率は85%未満と低くなっており、(1)式を満足する介在物個数比率は20%未満であり、ノズル閉塞が頻発して、一部の比較例においては、鋳造を中断した。