(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
相対変位可能に設けられた二部材同士の間の振動を減衰するダンパーであって、
液体が封入されたシリンダと、前記シリンダ内に所定方向に摺動自在に配置されて、前記シリンダ内を前記所定方向に関して第1室と第2室とに区画するピストンと、前記ピストンに接続されたロッドと、を有し、
前記ピストンは、前記所定方向の中央側に位置する中央側摺動範囲と、前記中央側摺動範囲の両側に位置する各外側摺動範囲と、を移動可能であり、
前記液体が流路を流れることによって所定の減衰係数で前記振動を減衰する低減衰回路と、前記液体が流路を流れることによって前記所定の減衰係数よりも高い減衰係数で前記振動を減衰する高減衰回路と、を有し、
前記高減衰回路の前記流路は、前記ピストンが前記中央側摺動範囲に位置する場合及び前記外側摺動範囲に位置する場合のどちらの場合も、前記第1室と前記第2室とを連通する流路を有し、
前記低減衰回路の前記流路は、前記ピストンが前記中央側摺動範囲に位置する場合には、前記第1室と前記第2室とを連通する一方、前記ピストンが前記外側摺動範囲に位置する場合には、前記第1室及び前記第2室のうちの一方の室とだけ前記流路は連通し、
前記中央側摺動範囲に位置する前記ピストンの前記所定方向の速度が所定値よりも大きくなると前記低減衰回路の前記流路を遮断する遮断回路を有することを特徴とするダンパーである。
【0012】
このようなダンパーによれば、二部材同士の間の振動の速度が大きくなると、減衰係数を大きくして振動を減衰可能であるとともに、二部材同士の間の相対変位が大きくなっても、減衰係数を大きくして振動を減衰可能である。詳しくは次の通りである。
先ず、二部材の相対変位が小さい場合にはピストンは中央側摺動範囲に位置する。そして、その場合、高減衰回路の流路は、第1室と第2室とを連通するが、低減衰回路の流路も、第1室と第2室とを連通している。よって、ピストンの移動に伴って、液体は、専ら、流路抵抗の小さい低減衰回路の流路を流れて、これにより、低減衰回路の小さな減衰係数で振動を減衰する。一方、振動の速度が大きくなると、低減衰回路の流路を遮断回路が遮断する。よって、液体は、流路抵抗の大きい高減衰回路の流路を流れて、これにより、高減衰回路の大きな減衰係数で振動を減衰することができる。
他方、相対変位が大きい場合にはピストンは外側摺動範囲に位置する。そして、その場合、高減衰回路の流路は、第1室と第2室とを連通するが、低減衰回路の流路は、第1室及び第2室のうちの一方の室とだけ連通している。そのため、ピストンの移動に伴って、液体は、専ら高減衰回路の流路を流れて、これにより、高減衰回路の大きな減衰係数で振動を減衰する。よって、相対変位が大きくなると、高減衰回路の大きな減衰係数で振動を減衰することができる。
【0013】
かかるダンパーであって、
前記中央側摺動範囲と前記外側摺動範囲とは前記所定方向に隣接しており、
前記低減衰回路の前記流路は、前記ピストンが前記中央側摺動範囲に収まっている場合には、前記第1室と前記第2室とを連通する一方、少なくとも前記ピストンにおける前記所定方向の端部が前記外側摺動範囲に位置している場合には、前記1室及び前記第2室のうちの一方の室とだけ前記流路が連通するのが望ましい。
【0014】
このようなダンパーによれば、二部材同士の間の相対変位が大きくなった場合に、確実に減衰係数を大きくして振動を減衰可能である。
【0015】
かかるダンパーであって、
前記速度が所定値より小さくなると、前記遮断回路が前記流路の遮断を解除するのが望ましい。
【0016】
このようなダンパーによれば、振動の速度が小さくなると、低減衰回路の流路の遮断が解除される。そして、これにより、液体は専ら低減衰回路の流路を流れて、小さな減衰係数で振動を減衰する。すなわち、速度が小さい場合に、減衰係数を小さくして振動を減衰可能となる。
【0017】
かかるダンパーであって、
前記高減衰回路が有する前記流路は、前記ピストンに形成されているのが望ましい。
【0018】
このようなダンパーによれば、高減衰回路をシリンダの外に設けずに済んで、全体として装置構成の簡素化を図れる。
【0019】
かかるダンパーであって、
前記所定方向の一方側に前記第1室が区画され、前記所定方向の他方側に前記第2室が区画され、
前記各外側摺動範囲のうちの前記所定方向の一方側に位置する外側摺動範囲を第1外側摺動範囲とし、前記所定方向の他方側に位置する外側摺動範囲を第2外側摺動範囲とした場合に、
前記高減衰回路の前記流路は、前記第1外側摺動範囲における前記所定方向の一方側の端部で前記第1室と連通しているとともに、前記第2外側摺動範囲における前記所定方向の他方側の端部で前記第2室と連通しているのが望ましい。
【0020】
このようなダンパーによれば、高減衰回路が有する上記流路は、一方側に位置する第1外側摺動範囲に対しては、同第1外側摺動範囲における一方側の端部で第1室と連通しているとともに、同流路は、他方側に位置する第2外側摺動範囲に対しては、同第2外側摺動範囲における他方側の端部で第2室と連通している。よって、ピストンが第1及び第2外側摺動範囲の概ね任意の位置に位置している場合であっても、高減衰回路は、第1室と第2室とを連通することができる。そして、これにより、相対変位が大きい場合に、確実に高減衰係数で振動を減衰することができる。
【0021】
かかるダンパーであって、
前記所定方向の一方側に前記第1室が区画され、前記所定方向の他方側に前記第2室が区画され、
前記各外側摺動範囲のうちの前記所定方向の一方側に位置する外側摺動範囲を第1外側摺動範囲とし、前記所定方向の他方側に位置する外側摺動範囲を第2外側摺動範囲とした場合に、
前記遮断回路は、前記流路を前記所定方向の一方側の位置で開閉する第1開閉弁と、前記第1外側摺動範囲における前記所定方向の一方側の端部で前記第1室と連通する第1パイロット通路と、前記流路を前記所定方向の他方側の位置で開閉する第2開閉弁と、前記第2外側摺動範囲における前記所定方向の他方側の端部で前記第2室と連通する第2パイロット通路と、を有し、
前記第1パイロット通路での前記液体の圧力値に基づいて前記第1開閉弁を開閉するとともに前記第2パイロット通路での前記液体の圧力値に基づいて前記第2開閉弁を開閉するのが望ましい。
【0022】
このようなダンパーによれば、中央側摺動範囲に位置するピストンが上記所定方向の一方側及び他方側のどちらの方向に移動する場合でも、ピストンの速度が所定値よりも大きくなると、速やかに低減衰回路の流路を遮断回路が遮断可能となる。
すなわち、先ず、前者の場合には、第1室が縮小し第2室が拡大する方向にピストンは移動するが、その際に、ピストンの速度が大きくなると、上記の第1パイロット通路の圧力値も大きくなる。よって、速度が前述の所定値よりも大きくなると、第1パイロット通路の圧力値に基づいて低減衰回路の流路を遮断回路の第1開閉弁で遮断することができる。
一方、後者の場合には、第1室が拡大し第2室が縮小する方向にピストンは移動するが、その際に、ピストンの速度が大きくなると、上記の第2パイロット通路の圧力値も大きくなる。よって、速度が前述の所定値よりも大きくなると、第2パイロット通路の圧力値に基づいて低減衰回路の流路を遮断回路の第2開閉弁で遮断することができる。
【0023】
===本実施形態===
図1は、本実施形態のダンパー10の適用例の概略図である。また、
図2A乃至
図2Dは、同ダンパー10の概略断面図である。更に、
図3Aは、相対変位が小さい場合の同ダンパー10のF−V線図であり、
図3Bは、相対変位が大きい場合の同ダンパー10のF−V線図である。
【0024】
図1に示すように、このダンパー10は、例えば構造物の一例としての建物1の水平振動を減衰する。すなわち、建物1(二部材のうちの一方の部材に相当)は、積層ゴム等の免震装置5を介して水平方向に相対変位可能に建物1の基礎3(二部材のうちのもう一方の部材に相当)に支持されていて、当該ダンパー10は、この建物1と基礎3との間の水平振動を減衰する。
【0025】
図2Aに示す本実施形態のダンパー10は、速度依存型の減衰特性と、変位依存型の減衰特性とを兼ね備えている。すなわち、基礎3に対する建物1の振動の速度(m/sec)が大きくなると、減衰係数(N/(m/sec))を大きくして振動を減衰可能であり、また、基礎3に対する建物1の相対変位(m)が大きくなっても、減衰係数を大きくして振動を減衰可能である。
【0026】
なお、ここで言う減衰係数C(N/(m/sec))とは、
図3A及び
図3BのF−V線図における傾きのことである。すなわち、ダンパー10が発生する減衰力をF(N)、振動の速度をV(m/sec)とした場合に、速度Vの変化量ΔVに対する減衰力Fの変化量ΔFの比率C(=ΔF/ΔV)のことである。
【0027】
図2Aに示すように、ダンパー10は、液体の一例としてのオイルが封入されたシリンダ20と、シリンダ20内に所定方向の一例として水平方向に摺動自在に配置されて、シリンダ20内を水平方向に関して第1室21Lと第2室21Rとに区画するピストン30と、ピストン30に接続されたロッド32と、オイルを貯留するオイルタンク40と、振動を所定の減衰係数で減衰する低減衰回路50と、振動を上記所定の減衰係数よりも大きな減衰係数で減衰する高減衰回路70と、を有している。
そして、
図1に示すように、シリンダ20が建物1に固定されているとともに、シリンダ20から外方に突出するロッド32が、建物1の基礎3に固定されていて、これにより、建物1と基礎3との間の水平振動が、ダンパー10に入力されるようになっている。
【0028】
なお、以下では、
図2Aに示すように、水平方向の一方側のことを「左側」とも言い、他方側のことを「右側」とも言う。また、第1室20Lは左側に位置していることから当該第1室のことを「左室21L」とも言い、第2室21Rは右側に位置していることから当該第2室21Rのことを「右室21R」とも言う。また、低減衰回路50に係る上記所定の減衰係数のことを「低減衰係数」とも言い、高減衰回路70に係る大きな減衰係数のことを「高減衰係数」とも言う。なお、本発明の所定の減衰係数とは、予め定めた一定の値に限らない。例えば、低減衰回路50、高減衰回路70のそれぞれの逆止弁53a,53b、33a,33bを電気的に駆動する弁とした場合には、振動の条件、振動の状態、温度に応じて所定の減衰係数から所定の幅を持って変化させるようにしてもよい。つまり、所定の減衰係数とは一定値以外も含むものである。
【0029】
図2Aに示すように、シリンダ20は、ピストン30の移動可能範囲として、水平方向の中央側に位置する中央側摺動範囲RCと、中央側摺動範囲RCの両側に位置する各外側摺動範囲RS(RSL),RS(RSR)と、を有する。すなわち、ピストン30は、シリンダ20内を左室21Lと右室21Rとに仕切りながら、中央側摺動範囲RCと各外側摺動範囲RS(RSL),RS(RSR)とを円滑に水平移動可能である。
【0030】
同
図2Aに示すように、高減衰回路70は、主にピストン30に設けられていて、また、バイフロー方式で設けられている。すなわち、ピストン30には、逆止弁33aによってオイルを左室21Lから右室21Rへと一方向に流す流路34aと、逆止弁33bによってオイルを右室21Rから左室21Lへと一方向に流す流路34bとが設けられている。また、各流路34a,34bは、それぞれ、ピストン30が中央側摺動範囲RCに位置する場合(例えば
図2A)及び各外側摺動範囲RS(RSL,RSR)に位置する場合(例えば
図2B、
図2C等)のどちらの場合も、左室21Lと右室21Rとを連通している。更に、各流路34a,34bは、それぞれ、逆止弁33a,33bと直列に配されたオリフィス35a,35bを有している。
よって、ピストン30の右から左への移動に伴ってオイルが前者の流路34aを流れると、そのオリフィス35aをオイルが流れることに基づいて高減衰係数で振動が減衰される。また、ピストン30の左から右への移動に伴ってオイルが後者の流路34bを流れると、そのオリフィス35bをオイルが流れることに基づいて高減衰係数で振動が減衰される。なお、後者の場合には、右室21Rとオイルタンク40とを連通する後述の排出路44bも高減衰回路70の一部として機能して、つまり高減衰係数での振動の減衰に寄与することがあるが、これについては後述する。
【0031】
低減衰回路50は、この例では、シリンダ20の外に設けられている。すなわち、シリンダ20の外には、配管或いはマニホールド等の形態で、オイルを左右方向に流す流路54が設けられている。また、この流路54の両端54eL,54eRは、それぞれ、中央側摺動範囲RCの外側の各位置でシリンダ20内に連通している。
よって、
図2Aのように、ピストン30が中央側摺動範囲RCに位置する場合(例えばピストン30が中央側摺動範囲RCに収まっている場合)には、流路54は、左室21Lと右室21Rとを連通する一方、
図2B乃至
図2Dのように、ピストン30が外側摺動範囲RS(RSL,RSR)に位置する場合(例えば、少なくともピストン30における左右方向の端部30eL(30eR)が外側摺動範囲RS(RSL,RSR)に入っている場合)には、左室21L及び右室21Rのうちの一方の室21L(21R)とだけ流路54は連通する。例えば、
図2Bの場合には、流路54の両端54eL,54eRが右室21Rに位置しているので、流路54は右室21Rとだけ連通しており、また、
図2C及び
図2Dの場合には、流路54の左端54eLがピストン30の外周面で塞がれているので、流路54は、右端54eRによって右室21Rとだけ連通している。なお、本発明のピストン30が外側摺動範囲に位置する場合には、左室21L及び右室21Rのうちの一方の室21L(21R)とだけ流路54は連通するとは、全く一方の室21L(21R)に流れない状態だけでなく、逆止弁33a,33bやピストン30に小さなオリフィスを形成し、微小流量を常時連通するものも含むものである。
【0032】
また、
図2Aに示すように、この流路54は、左右方向の略中央位置で更に二つの流路54a,54bに分かれている。そして、一方の流路54aは、逆止弁53aによってオイルを左から右へと一方向に流し、他方の流路54bは、逆止弁53bによってオイルを右から左へと一方向に流すようになっているとともに、これら各流路54a,54bは、それぞれ、逆止弁53a,53bと直列に配されたオリフィス55a,55bを有している。
よって、ピストン30の右から左への移動に伴ってオイルが前者の流路54aを流れると、そのオリフィス55aをオイルが流れることにより低減衰係数で振動が減衰される。また、ピストン30の左から右への移動に伴ってオイルが後者の流路54bを流れると、そのオリフィス55bをオイルが流れることにより低減衰係数で振動が減衰される。そして、これにより、低減衰回路50についても、バイフロー方式とされている。
【0033】
更に、
図2Aに示すように、流路54の両端部54L,54Rには、それぞれ、流路54を遮断する遮断回路60L,60Rが設けられている。例えば、流路54を左端部54Lで遮断する第1遮断回路60Lは、流路54を開閉する第1開閉弁61Lと、左室21Lに同左室21Lの左端部21LeLで連通する第1パイロット通路63Lと、を有している。そして、第1パイロット通路63L内のオイルの圧力値が所定値を超えると、第1開閉弁61Lが閉じて流路54を遮断する一方、同圧力値が所定値以下になると、同第1開閉弁61Lが開いて流路54の遮断が解除されるようになっている。同様に、流路54を右端部54Rで遮断する第2遮断回路60Rは、流路54を開閉する第2開閉弁61Rと、右室21Rに同右室21Rの右端部21ReRで連通する第2パイロット通路63Rと、を有している。そして、第2パイロット通路63R内のオイルの圧力値が所定値を超えると、第2開閉弁61Rが閉じて流路54を遮断する一方、同圧力値が所定値以下になると、同第2開閉弁61Rが開いて流路54の遮断が解除されるようになっている。なお、本発明の遮断回路60L,60Rとは、完全に遮断する状態だけでなく、例えばスプール61sに小さなオリフィス流路を形成し、微小流量を常時連通させるものも含むものである。
【0034】
このような機能の第1及び第2遮断回路60L,60Rは、それぞれ、例えばスプール61sを、第1開閉弁61L及び第2開閉弁61Rの各弁体として用いることによって実現されている。
図4A及び
図4Bは、第1遮断回路61Lを具体的に説明するための概略断面図である。
【0035】
流路54は、左端部54Lにベンド部(屈折部)を有し、ベンド部の流路断面積は、周囲の部分よりも拡大されている。そして、この拡大された空間部分SP54Lには、スプール61sが、左右方向に沿って往復移動可能に収容されている。ここで、
図4Bのようにスプール61sが往復移動方向の右側の移動限に移動すると、スプール61sの右端部の弁座61svが流路54の縁部54fに当接して流路54を閉じた閉弁状態になるとともに、
図4Aのようにスプール61sが左側の移動限に移動すると、弁座61svが流路54の縁部54fから離れて流路54を開いた開弁状態となる。
また、
図4Aに示すように、スプール61sは、右側部分及び左側部分にそれぞれ流路断面に対応した形状のつば部61sR,61sLを有する。そして、各つば部61sR,61sLは、それぞれ、スプール61sの左右方向の両側の位置に配された圧縮ばね67L,67Rに当接していて、これにより、スプール61sには、総じて左側を向いた弾発力が付与されている。また、前述の第1パイロット通路63Lが、上記のベンド部の拡大された空間部分SP54Lに左方から連通している。そして、これにより、第1パイロット通路63L内のオイルの圧力が、スプール61sの左側のつば部61sLを含め左端面に作用していて、つまり、当該圧力が、スプール61sを右側に押すように作用している。更に、右側のつば部61sRと左側のつば部61sLとの間の空間SPBは、流路54の左端54eLを介して左室21Lと連通しているとともに、右側のつば部61sRには、左右方向に沿った貫通孔61sHが形成されている。
【0036】
よって、第1パイロット通路63Lのオイルの圧力に基づく力が、スプール61sに付与される圧縮ばね67R,67Lの弾発力よりも小さい場合には、
図4Aに示すようにスプール61sにおける右端部の弁座61svが流路54の縁部54fから離れて、これにより、流路54が開いた開弁状態となる。そして、左室21Lからオイルが右側のつば部61sRの貫通孔61sHを通って低減衰回路50の流路54を流れる。一方、同第1パイロット通路63Lのオイルの圧力に基づく力が、スプール61sに付与される圧縮ばね67R,67Lの弾発力よりも大きくなると、
図4Bに示すようにスプール61sが右側の移動限に移動して、スプール61sにおける右端部の弁座61svが流路54の縁部54fに当接して、これにより、当該流路54が閉じた閉弁状態となる。そして、左室21Lから低減衰回路50の流路54へのオイルの流れが遮断される。
【0037】
なお、第2開閉弁61Rは、上述の第1開閉弁61Lと左右勝って反対の関係にあるだけであって、その構成は概ね同じであるので、その説明については省略する。
図2Aに示すように、オイルタンク40は、オイルを貯留している。そして、配管等で形成された供給路44a及び排出路44bを介してシリンダ20の右室21Rにおける右端部に連通されていて、これにより、右室21Rとの間でオイルを給排可能である。例えば、供給路44aは、逆止弁43aによってオイルタンクから右室21Rへと一方向にオイルが流れるようになっている。よって、ピストン30が左に移動する際には、ロッド32のシリンダ20内への挿入量が減ることに伴って生じ得る同シリンダ20内の容積増加分に相当する量のオイルを、供給路44aを介してオイルタンクから右室21Rへ供給する。一方、排出路44bは、逆止弁43bによって右室21Rからオイルタンク40へと一方向にオイルが流れるようになっている。よって、ピストン30が右に移動する際には、ロッド32のシリンダ20内への挿入量が増えることに伴って生じ得る同シリンダ20内の容積減少分に相当する量のオイルを、排出路44bを介して右室21Rからオイルタンク40へと排出する。
【0038】
なお、かかる排出路44bには、逆止弁43bと直列にオリフィス45bも設けられている。そして、これにより、当該排出路44bは、ピストン30が右に移動する場合に高減衰回路70の一部としても機能する。なお、前にも述べたが、これについては、後で説明する。
【0039】
このような構成のダンパー10は、次のように動作して、建物1と基礎3との間の振動を減衰する。
先ず、建物1と基礎3との間の相対変位が小さい場合には、
図2Aに示すように、ピストン30は、中央側摺動範囲RCに位置する。そして、その場合、ピストン30に設けられた高減衰回路70の流路34a,34bは、左室21Lと右室21Rとを連通するが、低減衰回路50の流路54も、左室21Lと右室21Rとを連通している。よって、ピストン30の移動に伴って、オイルは、専ら、流路抵抗の小さい低減衰回路50の流路54を流れて、これにより、低減衰回路50の小さな減衰係数で振動を減衰する。すなわち、
図3AのF−V線図において線分ABで示す低減衰係数に基づいて振動を減衰する。
【0040】
一方、振動の速度が大きくなると、低減衰回路50の流路54を遮断回路60L(或いは60R)が遮断する。例えば、
図2Aのピストン30が右から左へと移動しつつ、その移動の速度(m/sec)が大きくなって所定値V1を超えると、左室21L内のオイルの圧力値が高くなることから、遮断回路60Lの第1パイロット通路63L内のオイルの圧力値も高くなって、圧力に係る前述の所定値を超える。すると、第1開閉弁61Lが右に移動して閉じて、これにより、低減衰回路50の流路54が遮断されるが、そうすると、オイルは、専ら、流路抵抗の大きい高減衰回路70の流路34aを流れて、その結果、高減衰回路70の大きな減衰係数で振動を減衰する。すなわち、
図3AのF−V線図のV1の速度において線分ABで示す低減衰係数から線分CDで示す高減衰係数の方へと移行して、これにより、高減衰係数に基づいて振動を減衰する。なお、本発明の所定方向の速度が所定値を超えるときとは、予め定めた一定の所定値に限らない。例えば、遮断回路60L(或いは60R)を電気的に駆動する弁とした場合には、振動の条件、振動の状態、温度に応じて所定の値から幅を持って変化させるようにしてもよい。つまり、速度の所定値とは一定値以外も含むものである。
【0041】
また、このように高減衰係数に切り替わった後に速度が下がっていく過程では、このV1よりも小さい速度V3で高減衰係数から低減衰係数へと切り替わる。この理由は、次の通りである。
【0042】
先ず、同
図3AのF−V線図において速度がV1を超えるように上がっていく過程では、基本的に、速度がV1を超えることで、例えば
図4Aの第1パイロット通路63Lのオイルの圧力に基づく力が、遮断回路60Lのスプール61sに付与される圧縮ばね67R,67Lの弾発力よりも大きくなる。そして、スプール61sが右に移動して、これにより、開弁状態から
図4Bの閉弁状態となって、その結果、低減衰係数から高減衰係数に切り替わる。一方、
図3AのF−V線図において、速度が、V1よりも大きい速度から下がっていく過程であっても、基本的には、第1パイロット通路63Lのオイルの圧力に基づく力と、圧縮ばね67R,67Lの弾発力との大小関係でスプール61sの開閉状態が決まる。すなわち、高減衰係数に切り替わった後に、V1から速度が下がっていく場合にも、第1パイロット通路63Lのオイルの圧力に基づく力が、圧縮ばね67R,67Lの弾発力より小さくなるまでは、スプール61sは閉じた状態に維持されて、これにより、高減衰係数での減衰状態が維持される。そして、前者の力が後者の弾発力よりも小さくなると、閉弁状態から開弁状態になって、これにより、高減衰係数から低減衰係数へと切り替わるが、ここで、この第1パイロット通路63Lのオイルの圧力に基づく力と、
図3AのF−V線図の縦軸の減衰力Fとは、互いにほぼ同値である。
【0043】
よって、高減衰係数に切り替わった後にV1から速度が下がる場合に減衰係数が再び低減衰係数へと戻る速度というのは、
図3Aの高減衰係数の線分AD上において、V1に対応する減衰力F1と同値の減衰力となる点Eでの速度である。つまり、同
図3A中、V3で示す速度である。そして、当該速度V3は、V1よりも小さい。よって、速度が下がる過程では、V1よりも小さなV3の速度で高減衰係数から低減衰係数に切り替わることになる。
【0044】
他方で、相対変位が大きい場合には、
図2B乃至
図2Dに示すように、ピストン30は外側摺動範囲RSに位置する。そして、その場合、ピストン30に設けられた高減衰回路70の流路34a,34bは、左室21Lと右室21Rとを連通するが、低減衰回路50の流路54は、左室21L及び右室21Rのうちの一方の室21R(又は21L)とだけ連通している。そのため、同流路54にはオイルは流れない。例えば、
図2Bの場合には、低減衰回路50の流路54の両端54eL,54eRは、それぞれ、右室21Rに連通していることから、低減衰回路50の流路54にはオイルが流れない。また、
図2C及び
図2Dの場合には、低減衰回路50の流路54の右端54eRは右室21Rに連通しているが、左端54eLはピストン30の外周面で塞がれていて、これにより、左室21Lに連通はしていない。よって、この場合も、低減衰回路50の流路54にはオイルは流れない。そのため、これら
図2B乃至
図2Dの何れの場合も、オイルは、専ら高減衰回路70の流路34a,34bを流れて、これにより、大きな減衰係数たる高減衰係数で振動を減衰する。すなわち、相対変位が大きくなると、速度によらず、
図3BのF−V線図において線分ADで示す高減衰係数に基づいて振動を減衰する。なお、
図3Aにおける点A及び点Dと、
図3Bにおける点A及び点Dは、それぞれ同じ点である。
【0045】
ところで、
図2Aを参照して前述したように、右室21Rとオイルタンク40とを連通する排出路44bには、逆止弁43bと直列にオリフィス45bも設けられているが、当該排出路44bは、ピストン30が右に移動する場合に高減衰回路70の一部としても機能する。すなわち、
図2Bのようにピストン30が外側摺動範囲RSに位置しつつ同ピストン30が右に移動する際には、基本的にピストン30のオリフィス35bにオイルが流れて、これにより、振動を減衰するが、この場合には、排出路44bのオリフィス45bにもオイルが流れて、これによっても、振動を減衰する。そのため、この場合、排出路44bは、高減衰回路70の一部として機能する。
【0046】
また、ダンパー10の破損防止の観点からは、
図2Aの高減衰回路70の各オリフィス35a,35b,45bに対応させてリリーフ弁(不図示)を設けても良い。そして、その場合には、当該リリーフ弁は、各オリフィス35a,35b,45bと並列に設けられ、そして、オイルの圧力値が所定値よりも高くなると、流路を開く。そのため、かかるリリーフ弁を設けた場合には、
図3A及び
図3BのF−V線図における高速域に、低減衰係数の速度域(
図3A及び
図3B中、2点鎖線で示す線分DHを参照)が形成されることになる。
【0047】
さらに、ピストン30が
図2Aの左に移動しているとき、振動の速度が大きく、低減衰回路50の流路54を遮断回路60Lが遮断している状態で、ピストン30が
図2Aの右に移動方向を反転したとき、右室21Rの圧力が高まることにより、スプール61sにはその圧力が開弁状態に作用することになる。よって、ピストン30の移動方向が反転した直後から、遮断回路61Rのスプール61sを開弁状態とすることができ、所望の減衰係数とすることができる。
【0048】
図5は、第1変形例のダンパー10aの概略断面図である。
図2Aの前述の実施形態では、高減衰回路70を主にピストン30に設けていたが、この
図5の第1変形例のダンパー10aでは、低減衰回路50と同様にシリンダ20の外に高減衰回路70aを設けている。そして、主にこの点で前述の実施形態と相違し、これ以外の点は概ね前述の実施形態と同じである。そのため、以下では、主にこの相違点について説明し、前述の実施形態と同じ構成については同じ符号を付して、その説明については省略する。
【0049】
同
図5に示すように、高減衰回路70aは、シリンダ20の外に設けられている。すなわち、シリンダ20の外には、配管或いはマニホールド等の形態で、オイルを左右方向に流す二つの流路74a,74bが設けられている。また、各流路74a,74bの左端74aeL,74beLは、それぞれ、左側に位置する外側摺動範囲RSLにおける左端部で左室21Lと連通しているとともに、各流路74a,74bの右端74aeR,74beRは、それぞれ、右側に位置する外側摺動範囲RSRにおける右端部で右室21Rと連通している。更に、一方の流路74aは、逆止弁73aによってオイルを左室21Lから右室21Rへと一方向に流し、他方の流路74bは、逆止弁73bによってオイルを右室21Rから左室21Lへと一方向に流すようになっているとともに、これら各流路74a,74bは、それぞれ、逆止弁73a,74aと直列に配されたオリフィス75a,75bを有している。
よって、ピストン30の右から左への移動に伴ってオイルが前者の流路74aを流れると、そのオリフィス75aをオイルが流れることに基づいて高減衰係数で振動が減衰される。また、ピストン30の左から右への移動に伴ってオイルが後者の流路74bを流れると、そのオリフィス75bをオイルが流れることに基づいて高減衰係数で振動が減衰される。そして、これにより、この第1変形例の高減衰回路70aも、バイフロー方式とされている。
【0050】
また、流路74a,74bの左端74aeL,74beLは、左側に位置する外側摺動範囲RSLにおける左端部で左室21Lと連通しているとともに、各流路74a,74bの右端74aeR,74beRは、右側に位置する外側摺動範囲RSRにおける右端部で右室21Rと連通している。よって、ピストン30が各外側摺動範囲RSL,RSRの任意の位置に位置しても、高減衰回路70aは、左室21Lと右室21Rとを連通することができる。そして、これにより、相対変位が大きい場合に、確実に高減衰係数で振動を減衰することができる。
【0051】
更に、この第1変形例のようにすれば、高減衰回路70aをピストン30に設けずに済むことから、ピストン30の構成の単純化を図れる。
【0052】
図6は、第2変形例のダンパー10bの概略断面図である。
図2Aに示すように、前述の実施形態のダンパー10は、ピストン30の左側のみにロッド32が設けられた片ロッド方式のダンパー10であったが、この第2変形例のダンパー10bは、ピストン30の左側及び右側にそれぞれロッド32,32bが設けられた両ロッド方式のダンパー10bとなっている。また、ロッド32,32bが両側に設けられていることから、ピストン30が左右方向に移動しても、シリンダ20内に占めるロッド32,32bの体積は一定で変化しない。そのため、前述の実施形態で必要であったオイルタンク40が、この第2変形例では省略されている。なお、これ以外の点は、概ね前述の実施形態と同じである。そのため、同
図6中では、前述の実施形態と同じ構成については同じ符号を付して、その説明については省略する。
【0053】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更や改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれるのはいうまでもない。例えば、以下に示すような変形が可能である。
【0054】
上述の実施形態等では、ダンパー10を建物1などの構造物に適用したが、何等これに限らない。例えば、鉄道車両や自動車などの移動物に適用しても良い。
【0055】
上述の実施形態等では、シリンダ20内に封入される液体の一例としてオイルを例示したが、何等これに限らない。例えば、水でも良い。
【0056】
上述の実施形態等では、ピストンが摺動する所定方向の一例として水平方向を例示したが、何等これに限らない。例えば、所定方向が、鉛直方向であっても良い。
【0057】
上述の実施形態等では、中央側摺動範囲RCと各外側摺動範囲RS,RSとが左右方向に隣接している場合を例示した。そして、その場合に、「ピストン30が中央側摺動範囲RCに位置する場合」の一例として、ピストン30が中央側摺動範囲RCに収まっている場合を例示し、また、「ピストン30が外側摺動範囲RSに位置する場合」の一例として、少なくともピストン30における左右方向の端部30eL(30eR)が外側摺動範囲RSに入っている場合を例示したが、何等これに限らない。すなわち、中央側摺動範囲RCと各外側摺動範囲RS,RSとが、不図示の移行範囲を介して左右方向に並んでいても良い。ちなみに、この場合には、左側に位置する移行範囲(以下、左側移行範囲と言う)には、低減衰回路50の流路54の左端54eLが存在し、右側に位置する移行範囲(以下、右側移行範囲と言う)には、同流路54の右端54eRが存在する。そして、これら左端54eL及び右端54eRがそれぞれ大きな開口の場合には、ピストン30が左側移行範囲を右から左に移動する過程、或いは、右側移行範囲を左から右に移動する過程で、それぞれ、低減衰係数から高減衰係数へと減衰係数が徐々に増加することになる。
【0058】
上述の実施形態等では、
図2Aに示すように、シリンダ20の左室21Lの左端部21LeLに第1パイロット通路63Lが連通し、同シリンダ20の右室21Rの右端部21ReRに第2パイロット通路63Rが連通している旨を述べたが、これら左端部21LeL及び右端部21ReRの意味は、最左端及び最右端よりも広い意味である。すなわち、最左端よりも少し右側に離れた位置も上記の左端部21LeLは含み、また最右端よりも少し左側に離れた位置も上記の右端部21ReRは含む。