(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の多芯ケーブルにおいては、特許文献1のように外被を構成する材料としてPVCやポリウレタン(PUR)、シリコーンが一般的である。医療機器用の多芯ケーブルにおいては、耐薬品性に優れるとともに高柔軟な極細多芯ケーブルのニーズがあるが、PVCやポリウレタン、シリコーン等からなる既存の外被材を用いた多芯ケーブルでは薬品による経時変化で変色・変質してしまうことがあるため、高柔軟性を維持しつつさらなる耐薬品性の向上が要求されている。
【0005】
本発明は、所望の耐薬品性および高柔軟性を満たす細径の多芯ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の多芯ケーブルは、
中心導体の断面積が0.0006mm
2以上0.25mm
2以下である複数本の同軸電線と、
前記複数本の同軸電線のすべてを一括して覆う抑え巻と、
前記抑え巻の周囲を覆う外被と、を備え、
前記外被は、樹脂材料の周囲にポリパラキシリレンまたはフッ素樹脂が厚さ0.5μm以上3.0μm以下でコーティングされたものから構成されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐薬品性が改善され外被が変質しにくく寿命が長く、高柔軟性やコーティング層の耐剥離性が良好な多芯ケーブルを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態の内容を列記して説明する。
本願発明の実施形態に係る多芯ケーブルは、
(1)中心導体の断面積が0.0006mm
2以上0.25mm
2以下である複数本の同軸電線と、
前記複数本の同軸電線のすべてを一括して覆う抑え巻と、
前記抑え巻の周囲を覆う外被と、を備え、
前記外被は、樹脂材料の周囲にポリパラキシリレンまたはフッ素樹脂が厚さ0.5μm以上3.0μm以下でコーティングされたものから構成されている。
この構成によれば、耐薬品性が改善されるとともに高柔軟性やコーティング層の耐剥離性が良好な多芯ケーブルを提供することができる。
【0010】
(2)前記複数本の同軸電線の本数は、2芯以上300芯以下であることが好ましい。
(3)ケーブル全体の外径が0.5mm以上10.0mm以下であることが好ましい。
これらの構成によれば、良好な耐薬品性や高柔軟性を維持しながら、多芯ケーブルの小径化を図ることができる。
(4)前記抑え巻の内部に導体の断面積が0.0006mm
2以上0.25mm
2以下である複数本の絶縁電線がさらに含まれることが好ましい。
【0011】
[本願発明の実施形態の詳細]
以下、本発明に係る多芯ケーブルの実施の形態の例を、図面を参照して説明する。
図1は本実施形態の多芯ケーブルの断面図である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係る多芯ケーブル1は、複数本(ここでは10芯)の同軸電線10と、複数本の同軸電線10により形成される円の内部に配置される複数本(ここでは11芯)の絶縁電線20とを備えている。また、多芯ケーブル1は、複数本の同軸電線10および複数本の絶縁電線20の周囲を一括して覆う抑え巻30と、抑え巻30の周囲を覆う一括遮蔽層40と、一括遮蔽層40の周囲を覆う外被50とを備えている。
【0013】
各同軸電線10は、中央に配置された中心導体11と、中心導体11の外側の内部絶縁体12と、内部絶縁体12の外側の外部導体13と、さらに外部導体13の外側の外部絶縁体14とを有している。なお、本例の同軸電線10は、中心導体11の断面積が、0.0006mm
2以上0.25mm
2以下(AWG(American Wire Gauge)24〜49)であるものを用いている。
【0014】
各絶縁電線20は、中央に配置された導体21と、導体21の外側の絶縁体22とを有している。なお、本例の絶縁電線20は、導体21の断面積が、0.0006mm
2以上0.25mm
2以下(AWG(American Wire Gauge)24〜49)であるものを用いている。
【0015】
多芯ケーブル1の中央部には、複数本の絶縁電線20が配置され、その周囲に複数本の同軸電線10が円を形成するように配列されている。このように円状に配置された複数本の同軸電線10の周囲には、抑え巻30が巻回される。すなわち、抑え巻30は、多芯ケーブル1が備える複数本の同軸電線10および複数本の絶縁電線20のすべてを一括して覆う。なお、抑え巻30としては、例えば、樹脂テープに銅箔やアルミニウム箔等が貼り合わされたものや、樹脂テープに金属材料が蒸着されたものを用いることができる。
【0016】
抑え巻30の周囲には金属細線が横巻きにより巻回されることにより、一括遮蔽層40が形成される。一括遮蔽層40は、金属細線の編組を抑え巻30の周囲に被せることで形成されても良い。なお、一括遮蔽層がなく、抑え巻30の周囲に後述の外被50が被覆されてもよい。
【0017】
一括遮蔽層40の周囲には、多芯ケーブル1の最外層被覆となる外被50が被覆されている。
外被50の材料としては、PVCやPUR、シリコーン等の既存の外被材料の周囲に、耐水性や耐薬品性に優れたポリパラキシリレン(Polyparaxylylene)が厚さ0.5μm以上3.0μm以下でコーティングされたものが用いられる。PVCやPUR、シリコーン等の表面にポリパラキシリレンをコーティングすることで、耐薬品性を大幅に改善することができる。なお、ポリパラキシリレンからなるコーティング層の厚さが0.5μmよりも薄いとケーブルの屈曲により当該コーティング層が剥離してしまうおそれがある。また、コーティング層の厚さが3.0μmよりも厚いとケーブルの高柔軟性が保たれない。
【0018】
したがって、外被50の表面に厚さ0.5μm以上3.0μm以下のポリパラキシリレンからなるコーティング層を備えることで、耐薬品性が改善されるとともに高柔軟性やコーティング層の耐剥離性が良好な多芯ケーブル1を提供することができる。なお、ポリパラキシリレンの代わりにフッ素樹脂(PFA、ETFE、FEP、THVなど)を既存の外被材料の周囲にコーティングしても良い。コーティングは数回に分けて塗り重ねてもよい。
【0019】
図1に示す多芯ケーブル1は、例えば10芯の同軸電線10と11芯の絶縁電線20を含む21芯の多芯ケーブルであるが、同軸電線10および絶縁電線20の本数や配置はこの例に限定されない。ただし、多芯ケーブル1に含まれる電線10,20の合計の芯数が2芯以上300芯以下であることが好ましい。電線10,20の合計の数が2芯よりも少ないと、所望の用途に用いることができない。また、電線10,20の合計の数が300芯よりも多いと、多芯ケーブル1の小径化を図ることができない。
図1に示される例よりも多数本の電線が含まれる多芯ケーブルにおいては、数芯〜数十芯の電線を一つのユニットとし、ユニットごとに抑え巻でその周囲が覆われても良い。この場合、ユニット同士が撚り合わされてから、撚り合わされた複数のユニットの周囲に一括抑え巻が巻き付けられ、さらにその周囲が一括遮蔽層および外被で覆われる。すなわち、数芯〜数十芯の電線からなるユニットが多芯ケーブル内に複数個含まれることで数芯〜300芯の多芯ケーブルとなるように構成しても良い。
【0020】
多芯ケーブル1の外径は、多芯ケーブル1に含まれる電線の芯数によって異なるが、例えば、その外径が0.5mm以上10.0mm以下となるように構成されることが好ましい。なお、多芯ケーブル1の外径と多芯ケーブル1に含まれる電線の芯数との関係は以下の通りである。例えば、
図1に示す21芯の多芯ケーブル1ではその外径が2.0mmとなり、300芯の多芯ケーブルではその外径が10.0mmとなる。
【実施例】
【0021】
上記実施形態において説明した多芯ケーブルの実施例について以下に説明する。
多芯ケーブルについて柔軟性、屈曲性および耐薬品性に関する評価を行った。評価対象の試験用多芯ケーブルとしては、例えば、外径10.0mmの多芯ケーブルであって、一括遮蔽層は素線径が0.08mmの銀めっき銅合金線の編組から構成された多芯ケーブルを用いた。例1は、一括遮蔽層の周囲を覆う外被を厚さ1.0mmのシリコーンのみから構成したもの(ポリパラキシリレンをコーティングしない)ものであり、例2〜例7は外被として厚さ1.0mmのシリコーンの周囲に0.1μm〜3.5μmまでのそれぞれの厚さのポリパラキシリレンがコーティングされたものである。
【0022】
(柔軟性)
柔軟性に関する評価では、スティフネス・テスタ(Stiffness Tester)を用いて、例1〜例7の多芯ケーブルを15度曲げる際の曲げモーメント(gf・cm)を測定した。その結果を表1に示す。なお、曲げモーメントが300gf・cm以下であれば高い柔軟性を有しているものとする。
【0023】
(屈曲性)
直径12mmのマンドレルで例1〜例7の多芯ケーブルを挟んで当該ケーブルに1kgの重量の重りを下げ、左右に各90度(合計180度)屈曲させた。10万回の屈曲試験でポリパラキシリレンからなるコーティング層のシリコーンからの剥離が見られなければ合格(OK)、剥離が見られたら不合格(NG)とした。その結果を表1に示す。
【0024】
(耐薬品性)
シリコーンの周囲にポリパラキシリレンをコーティングしたものから構成される外被材料(例2〜7)を2%グルタルアルデヒド液に7日間浸漬させた。一方、対比例(例1)として、シリコーンにポリパラキシリレンをコーティングしないものも同様に薬液に浸漬させた。その結果を表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
表1に示されるように、柔軟性評価においては、ポリパラキシリレンのコーティング層の厚さが0.0μm(コーティング無し)〜2.5μmである例1〜例5は曲げモーメントが300gf・cm以下であり高い柔軟性を有している。また、コーティング層の厚さが3.0μmである例6は曲げモーメントが330gf・cmであり、これが柔軟性を有するといえる曲げモーメントの上限値である。すなわち、コーティング層の厚さが3.0μmを超えると柔軟性に乏しく硬くなってしまうことがわかる。
【0027】
また、屈曲性評価においては、例3〜例7(コーティング層の厚さ0.5μm〜3.5μm)では10万回の試験でもコーティング層の剥離は見られなかったが、コーティング層が薄い(厚さ0.1μm)例2ではコーティング層の剥離が見られた。一般に、ケーブルの外径が太い方が、屈曲性が悪くなり易いが、本例では外径10mmのケーブルで評価しているため、それよりも外径の細いケーブルについてもコーティング層の厚さが0.5μm以上あれば屈曲性の要求は満たしていると判断し得る。
【0028】
また、耐薬品性評価においては、表1に示されるように、ポリパラキシリレンからなるコーティング層を備えた外被材料(例2〜7)では当該コーティング層に変色や変質はなかったが、ポリパラキシリレンがコーティングされていない外被材料(例1)では変色や変質が見られた。
【0029】
以上より、既存の外被材料を構成するPVCやPUR、シリコーンの表面にポリパラキシリレンをコーティングすることで耐薬品性を大幅に改善できることが確認できた。特に、表1の結果から、ポリパラキシリレンからなるコーティング層の厚さを0.5μm以上3.0μm以下とすることで、ケーブルの柔軟性やコーティング層の耐剥離性(ケーブルの屈曲性)を損なうことなく耐薬品性を改善できることが確認できた。
【0030】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができる。
【0031】
上記実施形態においては、多芯ケーブル1は複数本の同軸電線10および複数本の絶縁電線20を含む複合型のケーブル構成としているが、絶縁電線20は含まれていなくても良い。同軸電線のみが含まれる多芯ケーブルにおいても、上記実施形態と同様の構成を備えることで、所望の耐薬品性および高柔軟性を満たす細径の多芯ケーブルを得ることができる。