(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6593149
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】燃料電池装置
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04 20160101AFI20191010BHJP
H01M 8/24 20160101ALI20191010BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20191010BHJP
【FI】
H01M8/04 Z
H01M8/24
H01M8/12
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-247024(P2015-247024)
(22)【出願日】2015年12月18日
(65)【公開番号】特開2017-112022(P2017-112022A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2018年11月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祐司
(72)【発明者】
【氏名】大栗 延章
(72)【発明者】
【氏名】横山 尚伸
【審査官】
橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−061487(JP,A)
【文献】
特開2013−065416(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0066091(US,A1)
【文献】
特開2007−290719(JP,A)
【文献】
特開昭47−044816(JP,A)
【文献】
特公昭57−002864(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M8/00−8/2495
E04B1/00−1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2組の互いに平行となる側壁を備えて直方体状に容器を構成し、燃料電池セルスタックを前記容器の内部に収容するようにした燃料電池装置において、
前記容器は、複数の面材を並設することによってそれぞれの側壁を構成したものであり、個々の側壁において隣接する面材には、それぞれの縁部に同一方向に向けて屈曲する接合片部を形成し、
一方の面材に形成した接合片部の端縁部分のみを他方の面材に形成した接合片部に接合したことを特徴とする燃料電池装置。
【請求項2】
前記接合片部が外部に位置するように前記容器を構成したことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池装置。
【請求項3】
互いに当接する接合片部は、一方の屈曲寸法を他方の屈曲寸法に対して小さく設定したことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池装置。
【請求項4】
前記容器の四隅部となる位置にそれぞれ断面が矩形の柱状部材を設けるとともに、前記柱状部材の互いに隣接する2つの側面からそれぞれ接合板部を突出し、
前記面材において前記容器の隅部を構成する縁部には、前記接合片部と同一方向に向けて屈曲した柱用の接合片部を形成し、前記柱用の接合片部の端縁部分のみを前記柱状部材の接合板部に接合したことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池装置に関するもので、特に、比較的高温で反応を行う固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:以下、SOFCという)装置において燃料電池セルスタックを収容する気密容器の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
家屋や店舗の限られた屋外スペースに設置されることが多いSOFC装置では、設置スペースの削減を図るため、直方体状の容器に収容される場合が多い。容器は、金属の平板を溶接によって接合することにより構成され、内部に気密性及び断熱性が確保されている。
【0003】
ところで、SOFC装置では、比較的高温で反応が行われるため、発電中に燃料電池セルスタックが600℃以上の高温となる。また、容器内の圧力が上昇する場合もある。このため、金属板を単に溶接した容器にあっては、熱膨張や内部圧力の上昇によって溶接箇所に応力が集中し、亀裂や破断するおそれがある。
【0004】
このため従来では、容器の側壁を構成する金属板の縁部をL字状に屈曲して当接部を形成し、この当接部と、隣接する側壁とを重ね合わせた状態でそれぞれの縁のみを溶接することによってSOFC装置の容器を構成するようにしている。こうした容器を適用するSOFC装置によれば、発電中に燃料電池セルスタックが高温となったり、内部圧力が上昇した場合にも、当接部が適宜変形することによって溶接箇所に応力が集中する事態を防止することができ、亀裂や破断といった問題が生じるおそれがなくなる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−65416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、SOFC装置の大きさによっては、容器の側壁1面を1枚の金属板によって構成することが困難な場合がある。例えば、側壁の一辺が2400mm程度となる大型の容器を構成する場合には、定形サイズの金属平板を同一平面上に複数配置した状態で相互間を溶接し、所望の大きさの側壁を得る必要がある。上記のようにして容器を構成したSOFC装置では、温度や内部圧力が上昇した場合、側壁を構成する金属板相互の溶接箇所に応力が集中し、亀裂や破断といった問題を生じるおそれがある。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みて、SOFC装置の大きさに関わらず、容器に亀裂や破断といった問題が生じる事態を防止することのできる燃料電池装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る燃料電池装置は、2組の互いに平行となる側壁を備えて直方体状に容器を構成し、燃料電池セルスタックを前記容器の内部に収容するようにした燃料電池装置において、前記容器は、複数の面材を並設することによってそれぞれの側壁を構成したものであり、個々の側壁において隣接する面材には、それぞれの縁部に同一方向に向けて屈曲する接合片部を形成し、一方の面材に形成した接合片部の端縁部分のみを他方の面材に形成した接合片部に接合したことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、上述した燃料電池装置において、前記接合片部が外部に位置するように前記容器を構成したことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上述した燃料電池装置において、互いに当接する接合片部は、一方の屈曲寸法を他方の屈曲寸法に対して小さく設定したことを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上述した燃料電池装置において、前記容器の四隅部となる位置にそれぞれ断面が矩形の柱状部材を設けるとともに、前記柱状部材の互いに隣接する2つの側面からそれぞれ接合板部を突出し、前記面材において前記容器の隅部を構成する縁部には、前記接合片部と同一方向に向けて屈曲した柱用の接合片部を形成し、前記柱用の接合片部の端縁部分のみを前記柱状部材の接合板部に接合したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、容器の側壁において隣接する面材の縁部に、それぞれの同一方向に向けて屈曲する接合片部を形成し、一方の面材に形成した接合片部の端縁部分のみを他方の面材に形成した接合片部に接合しているため、温度や内部圧力が上昇した場合にも、接合片部が適宜変形することによって接合箇所に応力が集中する事態を防止し、容器に亀裂や破断といった問題が生じるおそれがなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態である燃料電池装置の外観を概念的に示した斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した燃料電池装置に適用する容器の一部を分解して示す斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1に示した燃料電池装置の容器に適用する面材を示したもので、(a)は成形前の平板の状態を示す斜視図、(b)は成形後の状態を示す斜視図、(c)は補強材を取り付ける状態を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、
図1に示した燃料電池装置の要部を概念的に示す拡大断面側面図である。
【
図5】
図5は、
図1に示した燃料電池装置の要部を概念的に示す拡大断面平面図である。
【
図6】
図6は、
図1に示した燃料電池装置の要部を概念的に示す拡大断面側面図である。
【
図7】
図7は、
図1に示した燃料電池装置の容器において内部の圧力が上昇した状態を概念的に示す要部拡大断面側面図である。
【
図8】
図8は、
図1に示す燃料電池装置の容器において隣接する面材の接合片部を互いに異なる屈曲寸法に設定した例を概念的に示す要部拡大断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本発明に係る燃料電池装置の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
図1及び
図2は、本発明の実施の形態である燃料電池装置の外観を概念的に示したものである。ここで例示する燃料電池装置は、図には明示していないが、気密容器10の内部にグラスウール等の断熱材とともに、燃料電池セルスタックや燃料予熱器、空気予熱器を収容することによって構成したものである。燃料電池セルスタックは、燃料供給ラインから導入される燃料ガスと、空気供給ラインから導入される空気とを反応させて発電する発電セルを複数組設けたものである。燃料電池セルスタックとしては、例えば円筒形の発電セルを複数本束ねた構成や矩形平板の発電セルを複数積層した構成等々、公知のものを適用することができる。本実施の形態では、特に、燃料極(アノード)と空気極(カソード)との間に電解質となるイオン伝導性セラミックスを介在させた固体酸化物形の燃料電池セルスタックを適用した燃料電池装置を前提としている。燃料予熱器は、燃料電池セルスタックに導入される燃料を燃料電池セルスタックから排出される燃料排ガス及び燃料電池セルスタックからの輻射熱を利用して予熱する熱交換器である。空気予熱器は、燃料電池セルスタックに導入される空気を燃料電池セルスタックから排出される空気排ガス及び燃料電池セルスタックからの輻射熱を利用して予熱する熱交換器である。
【0016】
気密容器10は、2組の互いに平行となる側壁11,12と、側壁11,12によって囲まれる空間の上端開口を閉塞する上壁13と、側壁11,12によって囲まれる空間の下端開口を閉塞する底壁14とを備えて構成した直方体状を成すものである。参考までに寸法を例示すれば、本実施の形態では、長辺aが約2500mm、短辺bが約1900mm、高さcが約2500mmとなる気密容器10を適用している。気密容器10を構成する側壁11,12、上壁13及び底壁14は、それぞれ鉄やステンレス等、溶接が可能な金属製の板材によって構成してある。気密容器10の4つの側壁11,12は、底壁14の四隅部から立設した柱状部材15の相互間に、それぞれ規格化された寸法の面材20A,20Bを上下に複数並設することによって構成してある。
【0017】
それぞれの面材20A,20Bは、
図3の(a)に示すように、1枚の平板の四隅を矩形状に切除することによって四辺にそれぞれ接合片部21,22を構成し、これらの接合片部21,22を互いに同一方向に屈曲させることにより、
図3の(b)に示すように、一端が開口した箱状に構成してある。隣接する接合片部21,22の互いに当接する部分(図中の囲み部分X)は、全長にわたって溶接を施すことにより、隙間無く接合してある。接合片部21,22の屈曲寸法は、すべての面材20A,20Bで共通となるように構成してある。図からも明らかなように、本実施の形態で適用する面材20A,20Bは、上下寸法に対して大きな左右寸法を有するように構成してある。以下においては便宜上、面材20A,20Bの長辺に設けた接合片部を水平接合片部21と称し、面材20A,20Bの短辺に設けた接合片部を柱用接合片部22と称して両者を区別する場合がある。なお、面材20A,20Bには、
図3の(c)に示すように、補強材としてアングル材23を溶接するようにしても構わない。
【0018】
底壁14の周囲には、それぞれ当接板部14aが設けてある。当接板部14aは、
図4に示すように、面材20A,20Bと同等の板厚を有した平板状部材であり、底壁14の全周からそれぞれ外方に向けて突出するように配設してある。なお、
図2に示すように、上壁13の周囲にも底壁14と同様の当接板部13aが設けてある。
【0019】
底壁14から立設した柱状部材15には、
図5に示すように、接合板部16が設けてある。接合板部16は、面材20A,20Bと同等の板厚を有したものであり、柱状部材15の互いに隣接する2つの側面から外方に向けて突出するように配設してある。本実施の形態では、接合板部16として、柱状部材15の2つの側面に沿って延在するように断面がL字状を成す形材を適用している。接合板部16の一辺の幅寸法d1は、面材20A,20Bにおける接合片部21,22の屈曲寸法d2よりも大きく構成してある。接合板部16としては、気密容器10の壁11,12,13,14と同様、鉄やステンレスによって成形してある。なお、接合板部16は、必ずしもL字状を成すものに限らない。例えば、柱状部材15のそれぞれの側面に平板状を成す接合板部16を設けるようにしても良い。
【0020】
上述した面材20A,20Bは、
図2に示すように、柱状部材15の接合板部16に対して柱用接合片部22を重ね合わせるとともに、上下に隣接する面材20A,20Bの水平接合片部21を相互に重ね合わせて配置する。その後、面材20A,20Bの相互間、上壁13及び底壁14と面材20A,20Bとの間、柱状部材15と面材20A,20Bとの間をそれぞれ隙間無く溶接することによって燃料電池装置の気密容器10を構成する。
【0021】
具体的には、
図4に示すように、上壁13及び底壁14に設けた当接板部13a,14aと面材20A,20Bの水平接合片部21との間の端縁部分相互間にのみ溶接を施すことにより、当接板部13a,14aと水平接合片部21との間の全長を隙間無く接合している。同様に、
図5に示すように、柱状部材15の接合板部16と柱用接合片部22との間の端縁部分相互間にのみ溶接を施すことにより、接合板部16と柱用接合片部22との間の全長を隙間無く接合している。
図6に示すように、面材20A,20Bの水平接合片部21の端縁部分相互間にのみ溶接を施すことにより、水平接合片部21の相互間の全長を隙間無く接合している。
【0022】
上壁13及び底壁14に設けた当接板部13a,14aと面材20A,20Bの水平接合片部21とは、互いに端面を揃えた状態で溶接を行っている。同様に、柱状部材15の接合板部16及び柱用接合片部22についても、また、面材20A,20Bの水平接合片部21同士についても、それぞれの端面を揃えた状態で溶接を行っている。これにより、側壁11,12、上壁13及び底壁14によって囲まれる空間が密閉されることになり、気密容器10が構成されることになる。なお、
図1及び
図2中の符号20A′,20B′は、側壁の最下部分に寸法合わせのために配置した面材である。それぞれの面材20A′及び面材20B′は、上下寸法が小さいだけであり、その他の構成については、面材20A,20Bと同様の構成を有したものである。
【0023】
上記のように構成した気密容器10を適用する燃料電池装置によれば、発電中に燃料電池セルスタックが高温となったり、気密容器10の内部圧力が上昇した場合にも、
図7に示すように、面材20A,20Bの相互間においては水平接合片部21が互いに開くように適宜変形することになる。同様に、上壁13及び底壁14と面材20A,20Bとの間においては、当接板部13a,14a及び水平接合片部21が互いに開くように適宜変形し、柱状部材15と面材20A,20Bとの間においては、接合板部16及び柱用接合片部22が互いに開くように適宜変形する。従って、上述の燃料電池装置では、面材20A,20Bの相互間、上壁13及び底壁14と面材20A,20Bとの間、柱状部材15と面材20A,20Bとの間のいずれにおいても、溶接箇所に応力が集中する事態を防止することができる。これにより、溶接箇所に亀裂や破断といった問題が生じるおそれがなく、気密容器10に常に所望の気密性を確保することが可能となる。しかも、複数の面材20A,20Bによって気密容器10の側壁11,12を構成するようにしている。従って、規格化された定形の板材を適用して大型の気密容器10を構成することが可能であり、大型の燃料電池装置を比較的安価に製造することができるようになる。
【0024】
上述した実施の形態では、上壁13及び底壁14と面材20A,20Bとの間、柱状部材15と柱用接合片部22との間、面材20A,20Bの相互間で、いずれも端面を揃えた状態で溶接を行っているが、本発明はこれに限定されず、端面の位置をずらすようにしても良い。例えば、面材20A,20Bの位置を前後させて並設すれば、一方の接合片部の端面が他方の接合片部の表面に位置することになる。また、
図8に示すように、予め、水平接合片部21の屈曲寸法が互いに異なるように面材20A,20Bを構成し、気密容器10の内表面が同一の平面上となるように面材20A,20Bを並設すれば、一方の接合片部21の端面が他方の接合片部21の表面に位置することになる。このように、一方の接合片部21の端面が他方の接合片部21の表面に位置された状態においては、互いの間を溶接する場合に溶接作業が容易となり、半半自動溶接機、またはそれに準ずる溶接機器の導入が可能となる。従って、気密容器10の生産性を向上させることができるようになる。
【0025】
なお、上述した実施の形態では、接合片部が容器の外側に向けて突出するように面材を並設しているが、接合片部が容器の内側に向けて突出するように面材を並設するようにしても構わない。また、上下方向にのみ面材を並設するようにしているが、水平方向にのみ面材を並設するようにしても良いし、上下及び水平方向に沿って面材を並設するようにしても構わない。
【符号の説明】
【0026】
10 気密容器
11,12 側壁
13 上壁
13a 当接板部
14 底壁
14a 当接板部
15 柱状部材
16 接合板部
20A,20B 面材
21 水平接合片部
22 柱用接合片部
23 アングル材