特許第6593185号(P6593185)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6593185
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】過酸化水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 15/023 20060101AFI20191010BHJP
【FI】
   C01B15/023 G
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-7064(P2016-7064)
(22)【出願日】2016年1月18日
(65)【公開番号】特開2017-128459(P2017-128459A)
(43)【公開日】2017年7月27日
【審査請求日】2018年10月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 香里
(72)【発明者】
【氏名】早川 祥一
(72)【発明者】
【氏名】井浦 克弘
(72)【発明者】
【氏名】茂田 耕平
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−325003(JP,A)
【文献】 特開平04−130002(JP,A)
【文献】 特開2008−087992(JP,A)
【文献】 特表2004−505880(JP,A)
【文献】 特開平03−193609(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第105271131(CN,A)
【文献】 米国特許第05378436(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B15/00−23/00
B01D53/34−53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アントラキノン法を用いて過酸化水素を製造する方法であって、酸化塔より排出された酸化排ガスに、空気よりも高酸素濃度の気体を追加して、再び酸化塔に導入することを特徴とする過酸化水素の製造方法であって、
前記気体中の酸素量が、酸化反応で消費した分の酸素量である、過酸化水素の製造方法
【請求項2】
酸化反応で消費した分の酸素量が、酸化塔より排出された酸化排ガス中の酸素濃度から算出される、請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
酸化塔より排出された酸化排ガス中の酸素濃度が、酸素モニターによりオンサイトでモニタリングされることを特徴とする請求項に記載の過酸化水素の製造方法。
【請求項4】
酸化塔、酸化排ガスの循環ガスライン、酸化排ガス中の酸素濃度をモニタリングする酸素モニター、空気より高酸素濃度の気体を酸化排ガスに追加するためのラインと調節弁、および空気よりも高酸素濃度の気体が追加された酸化排ガスを酸化塔に導入するためのポンプを有する、酸化装置であって、
アントラキノン法により過酸化水素を製造するために用いられる、酸化装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アントラキノン法による過酸化水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在工業的に行われている過酸化水素の主な製造方法は、アントラキノン類を反応媒体とする方法でアントラキノン法と呼ばれる。一般にアントラキノン類は固体であり適当な有機溶媒に溶解して使用される。有機溶媒は単独または混合物として用いられるが、通常は2種類の有機溶媒の混合物が使用される。アントラキノン類を有機溶媒に溶かして調製した溶液は作動溶液と呼ばれる。
【0003】
アントラキノン法では、上記作動溶液中のアントラキノン類を触媒存在下で水素により還元し対応するアントラヒドロキノン類を生成させる。次いで空気もしくは酸素を含んだ気体によって酸化することにより、アントラヒドロキノン類が元のアントラキノン類に戻ると同時に過酸化水素が生成するプロセスである。作動溶液中に生成した過酸化水素は水を用いた抽出操作により回収され、元に戻ったアントラキノン類は再び還元工程に戻され、循環プロセスが形成される。総括するとアントラキノン類を水素媒介体として、水素と酸素とから過酸化水素が合成されることとなる。
【0004】
酸化工程では、作動溶液の酸化は酸化塔によって行われる。一般に、酸化に用いる気体は酸化塔の下部より供給され、塔内でアントラヒドロキノン類と反応し、気体中の酸素が消費されたのち、未使用の酸素と酸素以外の残りの気体は酸化塔の塔頂より大気中に放出される。この塔頂より排出されるガスを酸化排ガスと呼ぶ。このとき溶媒蒸気が酸化排ガスに同伴してしまうため、大気放出までにこの溶媒蒸気を回収する必要がある。
【0005】
酸化排ガスに含まれる溶媒蒸気回収は、酸化排ガスを冷却して溶媒蒸気を液化して回収する深冷分離法や、溶剤蒸気を活性炭に吸着させて捕集し、スチーミング処理を行うことで脱着させて回収する活性炭吸着法などが用いられる(特許文献1)。しかし、いずれの方法においても経済的な負担が大きい上に、環境への負荷を低減するためには、大気中に放出される有機溶媒を含む酸化排ガスをさらに削減する改善が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−87992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、過酸化水素を製造するために用いられるアントラキノン法の酸化工程において、深冷分離法や活性炭吸着法といった従来の操作を行うことなく、大気中に放出される有機溶媒を含む酸化排ガスの量を大幅に削減し、且つ経済効果のある過酸化水素の工業的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決する目的で鋭意検討した結果、酸化塔より排出された酸化排ガスに、空気よりも高酸素濃度のガスを追加して、再び酸化塔に導入することにより、酸化排ガスの量を削減させ、大気中に放出する有機溶媒を大幅に減少できることを見出し、本発明に達した。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0009】
<1> アントラキノン法を用いて過酸化水素を製造する方法であって、酸化塔より排出された酸化排ガスに、空気よりも高酸素濃度の気体を追加して、再び酸化塔に導入することを特徴とする過酸化水素の製造方法。
<2> 空気よりも高酸素濃度の気体中の酸素量が、酸化反応で消費した分の酸素量である、<1>に記載の製造方法。
<3> 酸化反応で消費した分の酸素量が、酸化塔より排出された酸化排ガス中の酸素濃度から算出される、<2>に記載の製造方法。
<4> 酸化塔より排出された酸化排ガス中の酸素濃度が、酸素モニターによりオンサイトでモニタリングされることを特徴とする<3>に記載の過酸化水素の製造方法。
<5> 酸化塔、酸化排ガスの循環ガスライン、酸化排ガス中の酸素濃度をモニタリングする酸素モニター、空気より高酸素濃度の気体を酸化排ガスに追加するためのラインと調節弁、および空気よりも高酸素濃度の気体が追加された酸化排ガスを酸化塔に導入するためのポンプを有する、酸化装置。
<6> アントラキノン法により過酸化水素を製造するために用いられる<5>に記載の酸化装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、過酸化水素を製造するために用いられるアントラキノン法の酸化工程で酸化排ガスの量を削減し、大気中に放出する酸化排ガス中の有機溶媒の量を大幅に減少することができ、環境への負荷を低減することができる。さらに、溶媒回収にかかる費用が削減できるため経済的な負担が小さくなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の製造装置の一例である。
図2】本発明の製造装置の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、発明を詳細に説明する。本発明の実施態様の一つは、有機溶媒中でアルキルアントラキノンまたはその誘導体の交互の水素化および酸化を伴うアントラキノン法による過酸化水素の製造に関する。先述のように、アントラキノン類は、一般に固体であるため、水不溶性の有機溶媒に溶解して使用され、この溶液は作動溶液と呼ばれる。本発明において作動溶液に使用される有機溶媒に要求される特性は、極性の低いアントラキノン類と水素添加後の極性の高いアントラヒドロキノン類の両方を良く溶解させること、水に対する過酸化水素の分配の良いこと、水添、酸化、加水分解に対して安定であること、高沸点で引火点の高いこと、水との相互溶解度が小さいことなどが挙げられる。これら要求を単独溶媒で満足させることは難しいため、2種類以上の混合溶媒を使用することが多い。
例えば、アントラキノン類を溶解させる溶媒として、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジフェニル、ジフェニルアルカンなど芳香族系の有機溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、一般的にアントラヒドロキノン類を溶解しないが、水との相互不溶性で過酸化水素の水へ分配が良い。
また、アントラヒドロキノン類を溶解させる溶媒としては、有機酸の脂肪族アルコールエステル、芳香族アルコール、脂肪族第2級アルコール、脂肪族ケトン、リン酸エステル、アルキル尿素などが挙げられる。これらアントラヒドロキノン類を溶解させる溶媒は、一般にアントラキノン類、アントラヒドロキノン類共に溶解するが、水との相互溶解度が大きく、過酸化水素の水への分配が悪い。
【0013】
酸化塔では、酸化に用いる気体が酸化塔へ供給され、塔内でアントラヒドロキノン類と反応し、気体中の酸素が消費される。酸化塔としては、機械式撹拌塔のほか、公知の気液反応装置である充填塔、多管式濡れ壁塔、スプレー塔、気泡塔、泡鐘塔などが挙げられる。本発明の酸化塔の作動溶液流と酸素を含む気体流の向きは、特に限定されないが、例えば並流方式や交流方式が挙げられる。
【0014】
未使用の酸素と酸素以外の残りの気体は酸化塔より酸化排ガスとして排出される。酸化排ガスに、空気よりも高酸素濃度の気体を追加して、再び酸化塔に導入する。追加する気体は、空気よりも高酸素濃度の気体、即ち酸素濃度が21vol%以上の気体であればよく、好ましくは30vol%以上、より好ましくは50vol%以上、特に好ましくは100%である。空気よりも高酸素濃度の気体の場合、酸化反応が進み易く、酸化排ガス量が減少する。
追加する気体中の酸素量は、酸化反応で消費した分の酸素量と同等以上の酸素量、好ましくは酸化反応で消費した分の酸素量と等しくする。酸化反応で消費した分の酸素量は、特に限定されないが、好ましくは酸化塔より排出された酸化排ガス中の酸素濃度から算出する。
【0015】
酸化塔より排出された酸化排ガス中の酸素濃度は、特に限定されないが、好ましくは酸素モニターによりオンサイトでモニタリングして測定する。酸素モニターとしては、公知の酸素濃度計が使用でき、具体的には、ジルコニア式(濃淡電池式)、ジルコニア式(限界電流式)、磁気流量比式、波長可変半導体レーザ分光式、ガルバニ電池式などが挙げられる。前述のように、酸化排ガス中には作動溶液中の溶媒が気化して同伴することから、これら酸素濃度計のうち、可燃性ガスによる測定誤差の少ない磁気流量比式、波長可変半導体レーザ分光式、ガルバニ電池式がより好適に使用できる。また酸化排ガスには気化した溶媒のほか、ミスト状の作動溶液を含む場合があることから、ミスト分離器を設置し、ミスト状の作動溶液を回収、系中に戻しても良い。
【0016】
空気よりも高酸度濃度の気体の酸素濃度によっては、酸化塔より排出された一部の酸化排ガスをパージラインより抜き出してもよい。ここで、パージラインとは、酸化塔内の圧力の上昇を防ぐ目的で、酸化排ガスの一部を抜き出す機能を有する設備である。パージラインより抜き出す酸化排ガスの量は、酸化塔内の圧力に応じて調整する。
例えば30〜40%の酸素を含む高酸素濃度の気体を用いることで、パージラインより抜き出す排ガス量は従来のプロセスで排出される排ガス量の半分より少なくすることが出来る。さらに、空気よりも高酸素濃度の気体として100%酸素ガスを追加すれば、酸化排ガスをパージラインから抜き出す必要がなく、酸化排ガスのガス循環ラインにおいて、完全な循環プロセスを形成することが出来る。
【0017】
また、空気よりも高酸素濃度の気体として液体酸素や圧縮酸素を用いることができ、オンサイトで製造しても良い。オンサイトで製造する方法としては、公知の酸素ガス発生装置が使用でき、例えば、深冷分離式、PSA(Pressure Swing Adsorption)式、PVSA(Pressure Vaccume Swing Adsorption)式、水電解式などが挙げられる。水電解式で副生成される水素は水添工程で使用することができる。
【0018】
追加する空気よりも高酸素濃度の気体の流量は調節弁で制御され、公知の調節弁を用いることが出来る。調節弁は制御弁、コントロール弁とも呼ばれ、流体を制御する内弁を持つ調節弁本体と、制御信号に応じて調節弁本体のない弁を動かすための駆動部(アクチュエータ)により構成される。弁の種類は中間開度の使用できる弁であれば採用可能で、例えばグローブ弁、バタフライ弁などが挙げられる。駆動部は動力源によって、例えば空気圧式、電気式(電動式)、油圧式、自力式などが挙げられる。
【0019】
酸化排ガスは、空気よりも高酸素濃度の気体を追加した後、ガス循環ポンプを用いて、再び酸化塔に導入される。ガス循環ポンプとしては、公知の圧縮機を採用することが可能で、例えば、遠心式圧縮機、軸流式圧縮機等のターボ圧縮機や、レシプロ圧縮機、斜板式圧縮機、ダイアフラム式圧縮機、スクリュー圧縮機、スクロール圧縮機、ロータリー圧縮機等の容積圧縮機等が挙げられる。
【0020】
本発明の装置は、少なくとも酸化塔、酸化排ガスの循環ガスライン、酸化排ガス中の酸素濃度をモニタリングする酸素モニター、空気より高酸素濃度の気体を酸化排ガスに追加するためのラインと調節弁、および空気よりも高酸素濃度の気体が追加された酸化排ガスを酸化塔に導入するためのポンプを有する酸化装置であり、該循環ラインにパージラインを具備してもよい。一般的な酸化反応の装置として用いることができ、好ましくはアントラキノン法により過酸化水素を製造するための酸化装置として用いる。
【0021】
本発明の過酸化水素製造方法の酸化工程は図1又は図2のフローによって例示される。図1及び図2のフローは酸化工程のみを示し、還元工程、抽出工程、作動溶液再生工程などそのほかの工程は記載していない。
【0022】
図1は、追加する空気よりも高酸素濃度の気体として100vol%酸素ガスを追加する場合であり、酸化排ガスをパージラインから抜き出す必要がない場合の製造装置を示す。酸化塔1の塔頂より排出された酸化排ガスは酸化排ガス中の酸素濃度を測定するオンラインの酸素モニター2を通った後、ガス循環ポンプ3によって再び酸化塔1へ導入される。これが酸化排ガスの循環ガスラインである。該循環ガスラインには、酸素モニター2が設置され、酸化塔の塔頂より排出された酸化排ガスの酸素濃度を、オンサイトでモニタリングする。モニタリングされた酸素濃度により制御される調節弁から、100vol%酸素が供給される。これが供給酸素ガスラインである。酸化排ガスは、100vol%酸素が供給された後、ガス循環ポンプ3により酸化塔1の下部より再び供給される。
【0023】
また、図2は、酸化排ガスの一部をパージラインから抜き出す必要がある場合の製造装置を示す。即ち、酸化塔4の塔頂より排出された酸化排ガスは酸化排ガス中の酸素濃度を測定するオンラインの酸素モニター5を通った後、ガス循環ポンプ6によって再び酸化塔4へ導入される。これが酸化排ガスの循環ガスラインである。該循環ガスラインはパージラインを具備し、酸化排ガスの一部を排出する。パージラインには圧力計7に連動した調節弁が設置され、酸化塔内の圧力に応じて酸化排ガスが廃棄される。さらに、該循環ガスラインには酸素モニター5が設置され、酸化塔の塔頂より排出された酸化排ガスの酸素濃度を、オンサイトでモニタリングする。モニタリングされた酸素濃度により制御される調節弁から、空気より高酸素濃度の気体が供給される。これが供給酸素ガスラインである。酸化排ガスは、空気より高酸素濃度の気体が供給された後、ガス循環ポンプ6により酸化塔4の下部より再び供給される。
【0024】
本発明の酸化装置は過水製造における酸化装置の他に、酸素を使用する様々な気液反応、酸化反応の反応装置としても用いることが出来る。酸化排ガスに空気より高酸素濃度の気体で酸素を追加して循環させることで、酸化排ガス中の溶剤を容易に回収可能でき、酸化排ガス中の溶剤回収のコストを低減することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 酸化塔
2 酸素モニター
3 ガス循環ポンプ
4 酸化塔
5 酸素モニター
6 ガス循環ポンプ
7 圧力計
8 パージライン
図1
図2