(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
  以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
 
【0021】
  まず、本発明の一実施形態に係る浸出槽は、浸出槽本体と、撹拌機と、静水筒と、蓋部とを備える。さらに、本発明の一実施形態に係る浸出槽に備わる静水筒の下端部には、導入口を有している。このため、下部旋回流を構成する浸出反応後のスラリーを捕捉し、ショートパスを防止して、浸出率の向上を図ることができる。
 
【0022】
  本発明の一実施形態に係る浸出槽は、一般的に、スラリーに含有される固体金属含有物の粉末を酸化性ガスによって浸出する浸出槽に適用でき、特に、ニッケルおよびコバルトを含有した硫化物を、塩素ガスの酸化作用を利用して浸出する、塩素浸出槽に好適に適用できる。
 
【0023】
  ここでは、本発明の一実施形態として、前述のニッケルおよびコバルトを含有した硫化物を、塩素ガスの酸化作用を利用して浸出する、塩素浸出槽への適用を例にとって、以下、説明する。
 
【0024】
1.塩素浸出プロセス
(1)概要
  ニッケルおよびコバルトの製錬においては、ニッケルおよびコバルトを含有する硫化物を、塩素ガスの酸化作用を利用して浸出し、浸出されたニッケルイオンおよびコバルトイオンを電解採取によって電気ニッケルおよび電気コバルトとして製品化する塩素浸出プロセスが実用化されている。
 
【0025】
  塩素浸出プロセスのうちの塩素浸出工程では、混合硫化物と呼ばれる、硫化ニッケルと硫化コバルトの混合物と後述するセメンテーション残渣を塩化物水溶液にレパルプした後、そのスラリーに塩素ガスを吹込むことによりニッケルおよびコバルトを塩化物水溶液中に浸出する。
 
【0026】
  置換浸出工程では、塩素浸出工程で得られた酸化剤として2価の銅クロロ錯イオンを含んだ塩素浸出液に、粉砕したNi
3S
2と金属ニッケルを主成分とするニッケルマットを接触させて銅とニッケルの置換反応を行うことにより、ニッケルマット中のニッケルが液に置換浸出され、銅イオンはCu
2SまたはCu
0(金属銅)の形態となって固体(セメンテーション残渣の一部)となる。
 
【0027】
  その置換浸出終液と、ニッケルマットの置換浸出残渣と前記Cu
2SまたはCu
0(金属銅)の形態となって沈澱した固体とからなるセメンテーション残渣は、固液分離された後、置換浸出終液は次の浄液工程へ、固体のセメンテーション残渣は前記塩素浸出工程へ送られる。
 
【0028】
  この浄液工程では、得られた置換浸出終液から鉄、鉛、銅、亜鉛等の不純物を除去すると共に、置換浸出終液中のコバルトを溶媒抽出等の方法を用いて分離する。
 
【0029】
  次いで、ニッケルを電解採取して電気ニッケルを製造する。
 
【0030】
  前述した、ニッケルおよびコバルトを含有する硫化物から電気ニッケルを製造する方法は、シンプルであり、電解採取で発生した塩素ガスを浸出に再利用する等、効率的かつ経済的な生産を実現しているといえる。
 
【0031】
(2)塩素浸出工程
  塩素浸出工程では、混合硫化物およびセメンテーション残渣を、塩化物水溶液にレパルプした後、そのスラリーに塩素ガスを吹込むことによって混合硫化物中のニッケルおよびコバルトと、セメンテーション残渣中のニッケルおよび銅を、塩化物水溶液中に塩素浸出して塩素浸出液を得る。
 
【0032】
  この塩素浸出工程では、2価の銅のクロロ錯イオンが混合硫化物やセメンテーション残渣中の金属を溶解するための直接的な浸出剤として作用し、塩素ガスは銅の1価イオンを2価イオンに酸化することにより間接的に浸出反応に関与する。
 
【0033】
  具体的には、この塩素浸出工程において、主に下記の(1)〜(4)式に示す塩素浸出反応が生じる。
NiS+2CuCl
42−→Ni
2++S
0+2Cl
−+2CuCl
32−  ・・・(1)
Cu
2S+2CuCl
42−+4Cl
−→4CuCl
32−+S
0  ・・・(2)
Cu
0+CuCl
42−→2CuCl
32−  ・・・(3)
2CuCl
32−+Cl
2→2CuCl
42−  ・・・(4)
 
【0034】
  この塩素浸出工程において、塩素浸出反応条件は、反応時の塩化ニッケル水溶液の酸化還元電位が480〜560mV、温度が105〜115℃である。
 
【0035】
2.浸出槽
(1)従来の塩素浸出槽
  
図1は、従来の静水筒が設置された浸出槽の模式図である。この浸出槽10は、
図1に示すように、浸出槽10内部に備わる静水筒20を有し、この静水筒20には静水筒20の上端部21にオーバーフロー管30を取り付けている。この浸出槽10では、前段槽(不図示)からスラリー供給管(不図示)を介して、スラリーが供給された後、このスラリーが静水筒20の下端部22から上昇しオーバーフロー管30により後段槽(不図示)へ供給される。
 
【0036】
  例えば、静水筒20内における圧力損失が著しく上昇した場合、前段槽から供給されたスラリーの流量に対して、静水筒20内を上昇するスラリーの流量が不足するときがある。
 
【0037】
  そうすると、浸出槽10では、
図1に示す黒矢印のように、浸出槽10内の液面レベルが上昇することにより、浸出槽10内に存在する未反応スラリーが、静水筒20の上端部21の開口部21aに流入して後段槽へと供給されることになる。すなわち、従来の静水筒20が設置された浸出槽10では、ショートパスが発生する。
 
【0038】
  また、浸出槽10では、浸出反応が発熱反応であるため、浸出槽10内の液温が局部的に沸点を超え、突沸と呼ばれる沸き上がり現象が発生することがある。そのときも、従来の静水筒20が設置された浸出槽10では、上記と同様に、ショートパスが発生する。
 
【0039】
  さらに、浸出槽10では、水平断面形状がコの字型の3側面で構成される静水筒20が浸出槽10の内壁に沿って設置されることがある。そのときは、従来の静水筒20が設置された浸出槽10では、静水筒20と浸出槽10の内壁との隙間から、ショートパスが発生する。
 
【0040】
  これらのように、従来の静水筒20が設置された浸出槽10では、ショートパスにより、塩素浸出させることが不十分であるため、目的とする金属であるニッケルおよびコバルトの浸出率が向上しない。
 
【0041】
  (2)第1の実施形態
  次に、第1の実施形態に係る浸出槽100を
図2、
図3、および
図4により説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る浸出槽を示す平面図である。
図3は、
図2における浸出槽を示すX−X’断面図である。
図4は、浸出槽に備わる静水筒を示す斜視図である。
 
【0042】
  第1の実施形態に係る浸出槽1は、
図2および
図3に示すように、スラリーに含有される固体金属含有物の粉末を塩素ガスによって浸出する浸出槽100であって、有底円筒形の浸出槽本体110と、浸出槽100本体の中心軸に対して略平行に設けられた回転軸121と、回転軸121に取付けられた撹拌羽根122とを有する撹拌機120と、浸出槽100本体の内部に設けられる静水筒130と、浸出槽本体110の気相部を密閉する蓋部140と、塩素ガスを供給する塩素吹込管150と、スラリーを供給する供給配管160とを備える。
 
【0043】
  そして、静水筒130は、
図3および
図4に示すように、四角筒状に形成され、浸出槽本体110の側壁111と対向する側面131に開口131aが形成される。この静水筒130の開口131aには、
図2および
図3に示すように、オーバーフロー管132が接続されている。さらに、静水筒130の下端部133には、
図3に示すように、撹拌機120により発生するスラリーの旋回流を捕捉して、静水筒130内で上昇流となるよう誘導する導入口133aを有する。
 
【0044】
  浸出槽本体110の形状は、特に限定されないが、例えば有底円筒形や有底角筒形が挙げられる。また、浸出槽本体110の材質は、槽内に存在するスラリーの性質に応じて、適宜選定すれば良い。例えば、この浸出槽本体100の材質は、前述のニッケルおよびコバルトを含有した硫化物を、塩素ガスの酸化作用を利用して浸出する場合、耐酸レンガライニングやチタンが好ましい。
 
【0045】
  撹拌機120は、モータ123と、そのモータ123の駆動により回転する回転軸121と、回転軸121に取り付けられた撹拌羽根122とから構成されている。モータ123は、蓋部140の略中心に設けられており、回転軸121は浸出槽本体110の中心軸上に設けられている。この撹拌機120により、浸出槽本体110内のスラリーを撹拌できるようになっている。
 
【0046】
  撹拌機120の材質は、特に限定されないが、チタンやステンレスを好適に使用することができる。
 
【0047】
  静水筒130の形状は、特に限定されないが、四角筒や円筒が挙げられる。また、静水筒130の材質は、特に限定されないが、チタンやステンレスを好適に使用することができる。
 
【0048】
  第1の実施形態に係る浸出槽100では、静水筒130が、浸出槽本体110の内部に設けられる。この静水筒130は、筒状に形成され、浸出槽本体110の側壁111と対向する側面131に開口131aが形成され、開口131aには、後段槽にスラリーを排出するオーバーフロー管132が接続され、静水筒130の下端部133には、撹拌機120により発生するスラリーの旋回流を捕捉して、静水筒130内で上昇流となるよう誘導する導入口133aを有することを特徴とする。以下、説明する。
 
【0049】
  塩素浸出工程において固体原料および酸性溶液を含有するスラリーと、酸化性ガスとが混合され、固体原料中の金属が浸出される。その際、塩素浸出工程では、酸性溶液中により多くの金属を効率良く浸出させるために、浸出反応時間、すなわち槽内の滞留時間を確保することが重要である。
 
【0050】
  しかしながら、スラリーと酸化性ガスとの反応では、吹込んだ酸化性ガスがスラリー中に滞留することができる時間には限界があるため、槽内の滞留時間の確保より反応の均一性が強く求められる。
 
【0051】
  その均一性の手段として、固体原料を小径化して酸化性ガスと接触面積を増加させることや、撹拌を強化して接触する機会を増加させることが行われ、さらに、滞留時間の均一化も重要な手段となる。
 
【0052】
  また、塩素浸出反応を担う浸出槽は、大きな単独の槽で反応を行おうとすると、槽内のスラリーと酸化性ガスの混合状態が不均一となるため、一般的に、スラリーと酸化性ガスとの接触効率を向上させることを目的に、直列につながった複数の浸出槽で構成される。
 
【0053】
  直列につながった複数の浸出槽において、スラリーの流れ方向に対して、最前段および最後段以外の中段の浸出槽には、前段槽からのオーバーフローによりスラリーが供給され、浸出後のスラリーをオーバーフローによって後段槽へ排出する構造を採ることが多い。
 
【0054】
  上述したように、直列につながった複数の浸出槽では、浸出槽内での滞留時間が局所的に大きくバラつき、前段槽から流入したスラリーが浸出槽内で十分に滞留することなく、後段槽へスラリーが流出する、ショートパスと呼ばれる現象が発生することがある。ショートパスが発生すると、十分に浸出されていない原料が後段槽へ排出されるために、浸出されずに固体中に残留した金属含有率が著しく増加する。この塩素浸出工程における浸出不足は、金属ロスの増加、すなわち浸出率の低下に直結する。
 
【0055】
  そこで、浸出槽100には、浸出反応前のスラリーがショートパスすることを防止するために、オーバーフローによって槽外にスラリーを排出する静水筒130が備わっている必要がある。
 
【0056】
  まず、金属硫化物を含有するスラリーは、
図2および
図3に示す供給配管160によって、浸出槽本体110内の液相部の上部であり、撹拌機120により発生する水平方向の旋回流部に投入される。次に、この投入されたスラリーは、回転軸121に沿った上下方向の軸流によって槽の下部まで移動した後、下部に備わった塩素吹込管150の先端から添加される塩素ガスと接触する。次に、このスラリーは、浸出槽110内における液相部の下部の旋回流に沿って槽内を一定時間滞留した後、浸出反応の進行に伴い、ニッケルおよびコバルトが浸出されることにより、スラリー内に含有される金属硫化物の粒径が小さくなり、静水筒130内を上昇しオーバーフロー管132を介して後段槽へと排水する。
 
【0057】
  一方、静水筒が備わっていても、例えば、
図1に示すように、従来より用いられる浸出槽10内の未反応スラリーが静水筒20の上部21の開口部21aに流入して後段槽へと排出される等、前記ショートパスが発生することがあった。この理由は、従来の静水筒20は、
図4(B)に示すように、静水筒20の下端部22に設けられる導入口22aがスラリーの旋回流を捕捉することができるような形状を形成していない。そのため、従来の静水筒20を備える浸出槽10では、前段槽より供給されるスラリー量と後段槽に供給するスラリー量とのバランスに不具合が生じるために、前述したようなショートパスが発生する。
 
【0058】
  以上より、第1の実施形態に係る浸出槽100では、静水筒130がショートパスの防止に重要である。
 
【0059】
  このように、
図3に示す静水筒130の導入口133aは、旋回流の流動方向に対して開かれた形状であることによって、旋回流の流速を利用して静水筒内の上昇流速の低下を防止することができる。さらに、第1の実施形態に係る浸出槽100に備わる静水筒130は、導入口133aの開口面が、
図4(A)に示すように、導入口133aの下端縁133bからスラリーの旋回流に対向する一側面側に切り欠いて形成されることによって、旋回流の流速を有効に利用することができる。このため、導入口133aの開口面の大きさを拡大することにより、スラリーの旋回流をより確実に捕捉し、この旋回流による流速を利用して静水筒130内で上昇させることができる。
 
【0060】
  また、第1の実施形態に係る浸出槽100に備わる静水筒130では、スラリーの上昇流速が0.1m/秒以上0.3m/秒以下になるよう制御されることが好ましい。
 
【0061】
  まず、圧力損失も考慮した静水筒130の断面積、断面形状を決める必要がある。静水筒130内部の上昇流速については静水筒130の断面積によって決定されるが、静水筒130内部の上昇流速が早過ぎると、浸出が十分に行われていない粒径の大きな原料が排出されてしまう。一方で、流速が遅いと、浸出された硫黄を主体とする浸出残渣が静水筒130を通過して後段槽に排出されないため、浸出槽100内に固体である浸出残渣が堆積してしまう。
 
【0062】
  この流速について、スラリーの限界沈降速度が関与する。このスラリーの限界沈降速度は、下記の(5)式に示すストークスの式から算出される。
    V=D
2×(ρ
s−ρ
f)×g÷α×(1÷18)  ・・・(5)
      V:限界沈降速度
      D:粒子径
      ρ
s:残渣の密度
      ρ
f:液体の密度
      g:重力加速度
      α:液体の粘度
 
【0063】
  また、スラリーの上昇流速を増大させるために静水筒130の断面積を小さくすると、圧力損失の増加により、浸出槽内の液面レベルが静水筒の上端部に設けられる開口以上まで上昇し、未浸出残渣を含むスラリーがオーバーフロー管132へと流入し、静水筒130を通過せずに後段槽へと流れ出てしまう。
 
【0064】
  上記の(5)式等を用いた計算、有限体積法による流体計算、さらには実験により、浸出槽内の液面レベルを上昇させないことはもとより、未反応の固体分(残渣)を排出させない、浸出反応終了後の残渣を浸出槽100内に増加させない、条件を満たさなければならない。以上より、発明者らは、研究の結果、スラリーの上昇流速が0.1m/秒以上0.3m/秒以下になるよう制御されることが最適であることを見出した。
 
【0065】
  上昇流速が0.1m/秒未満である場合には、浸出された硫黄を主体とする浸出残渣が静水筒130を通過して後段槽に排出されないため、浸出槽100内に固体である浸出残渣が堆積してしまう。一方、上昇流速が0.3m/秒を超える場合には、静水筒130内部におけるスラリーの上昇流速が早過ぎると、浸出が十分に行われていない粒径の大きな原料が後段槽に排出されてしまう。
 
【0066】
  したがって、第1の実施形態に係る浸出槽100に備わる静水筒130では、スラリーの上昇流速が0.1m/秒以上0.3m/秒以下になるよう制御されることが好ましい。
具体的には、上昇流速は、設置される静水筒の断面積によって調整することができる。すなわち、流すべき流量が決まっていれば、それを断面積で除すれば流速となる。その際、静水筒内壁による圧力損失、旋回流の流入速度も考慮される。また、静水筒130内の上昇流速は、断面方向で均一ではないので、さらに、流体解析、流体計算が必要になる。そこで、決定した静水筒130の断面積や形状について、実験で確認をして、最終的に最適な静水筒130を決めることができる。実験は、例えば縮小模型による実験でも良いが、期間を限って実機に取付けて、必要なデータを採取するという方法もある。
 
【0067】
  蓋部140は、浸出槽本体110の気相部を密閉する。蓋部140の形状は、特に限定されない。蓋部140の材質は、特に限定されないが、チタンやステンレスを好適に使用することができる。
 
【0068】
  また、第1の実施形態に係る浸出槽100は、
図3に示すように、静水筒130の上端部135が浸出槽本体110の蓋部140よりも高い位置に配置され、静水筒130が浸出槽本体110の蓋部140によって支持されていることが好ましい。
 
【0069】
  これは、浸出槽本体110では、浸出槽本体110内の気相部と静水筒130内の気相部が静水筒130の側壁136によって隔てられているため、浸出槽本体110内の液面レベルが上昇しても、ショートパスが発生することはない。
 
【0070】
  また、第1の実施形態に係る浸出槽100では、
図4(A)に示すように、静水筒130が、浸出槽本体の側壁111と対向しない静水筒の側面にエアー抜き口134を有し、エアー抜き口134は、浸出槽本体110内のスラリーの液面より高く、蓋部140より低い位置に配置されることが好ましい。これにより、万が一、浸出槽100内で突沸現象が発生しても、浸出槽本体110内の気相部と静水筒130内の気相部が均圧となるので、静水筒130が煙突の役割をして100℃を超えたスラリーが静水筒130の上部蓋から吹き上げることを防止することができる。
 
【0071】
  塩素吹込管150は、
図2および
図3に示すように、蓋部140を貫通し、蓋部140に対して垂直に取り付けられている。塩素吹込管150が取り付けられた蓋部140で点検口(不図示)を閉じることで、塩素吹込管150は浸出槽本体110の中心軸と平行に配置されるようになっている。また、塩素吹込管150の一端が浸出槽本体110内のスラリーに挿入され、他端が浸出槽本体110の外部に配置されるようになっている。
 
【0072】
  塩素吹込管150は、
図2および
図3に示すように、その一端が浸出槽本体110の底部近傍に達する長さを有しており、他端には塩素ガス供給源が接続されている。そのため、浸出槽本体110の底部近傍から塩素ガスをスラリーに吹きこむことができるようになっている。なお、塩素吹込管150は、撹拌機120に干渉しない位置に配置されている。また、塩素吹込管150は、オーバーフロー管132から離れた2箇所に設けられている。
 
【0073】
  浸出槽本体110の上端部は、蓋部140により覆われている。この蓋部140には、供給配管160が接続されており、浸出槽本体110の内部にスラリーを供給できるようになっている。このスラリーは、浸出槽本体110内部から前記静水筒130を通った後、オーバーフロー管132を介して排出されるようになっている。
 
【0074】
  供給配管160は、蓋部140に接続されており、浸出槽本体110の内部にスラリーを供給することができる。この供給配管160は、撹拌機120に干渉しない位置に配置されている。
 
【0075】
  まず、第1の実施形態に係る浸出槽100では、前段槽から供給配管160によりニッケルおよびコバルトからなる硫化物を含有するスラリーが浸出槽本体に投入される。次に、このスラリーは、浸出槽本体110内の液相部の上部であり、撹拌機120により発生する水平方向の旋回流部を撹拌される。次に、この投入されたスラリーは、回転軸121に沿った上下方向の軸流によって槽の下部まで移動した後、浸出槽本体110の下部に備わった塩素吹込管150の先端部から添加される塩素ガスと接触する。次に、浸出槽本体110内の液相部の下部の旋回流に沿って槽内を一定時間滞留した後、塩素浸出反応の進行に伴い、ニッケルおよびコバルトが浸出されることにより、スラリー内に含有される金属硫化物の粒径が小さくなる。これにより、このスラリーは、十分に浸出反応が進んだ浸出反応後のスラリーへと転換される。次に、この浸出反応後のスラリーは、下部の旋回流により、
図3に示す黒矢印のように、
図4(A)に示す静水筒130の下端部133に設けられる導入口133aに導入される。この浸出反応後のスラリーは、下部の旋回流の流速を利用して、静水筒130の133に設けられる導入口133aから上昇流に従って、静水筒130内を上昇する。そして、浸出反応後のスラリーは、静水筒130で接続されたオーバーフロー管132に到達し、次の浸出槽である後段槽へと排出される。
 
【0076】
  (3)第2の実施形態
  次に、第2の実施形態に係る浸出槽を
図5により説明する。
図5は、第2の実施形態に係る浸出槽に備わる静水筒230を示す斜視図である。第2の実施形態に係る浸出槽は、第1の実施形態に係る浸出槽100と同様に、浸出本体槽と撹拌機と静水筒と蓋部と塩素吹込管と供給配管とを備える。
 
【0077】
  この静水筒230は、
図5に示すように、四角筒に形成され、導入口231の開口面は、スラリーの旋回流に対向する一側面側を切り欠いてなることを特徴とする。
 
【0078】
  図5に示す静水筒230の導入口231は、旋回流の流動方向に対して開かれた形状であることによって、旋回流の流速を利用して静水筒230内の上昇流速の低下を防止することができる。さらに、スラリーの旋回流に対向する一側面側を切り欠いてなることによって、旋回流の流速を有効に利用することができる。このため、導入口231の開口面の大きさを拡大することにより、スラリーの旋回流をより確実に捕捉し、この旋回流による流速を利用して静水筒230内で上昇させることができる。
 
【0079】
  また、
図5に示す静水筒230には、第1の実施形態に係る浸出槽100と同様に、開口232が形成され、開口232には、オーバーフロー管(不図示)が接続されている。さらに、静水筒230の側面には、エアー抜き口233を有することができる。
 
【0080】
  また、第2の実施形態に係る浸出槽に備わる静水筒230では、第1の実施形態に係る浸出槽100に備わる静水筒130と同様に、スラリーの上昇流速が0.1m/秒以上0.3m/秒以下になるよう制御されることが好ましい。
 
【0081】
  第2の実施形態に係る浸出槽では、第1の実施形態に係る浸出槽100と同様に、前段槽から投入されたスラリーは十分に浸出反応が進むことにより浸出反応後のスラリーとなった後、この浸出反応後のスラリーがオーバーフロー管を介して後段槽へとオーバーフローされる。
 
【0082】
  (4)第3の実施形態
  次に、第3の実施形態に係る浸出槽を
図6により説明する。
図6は、第3の実施形態に係る浸出槽に備わる静水筒を示す斜視図である。第3の実施形態に係る浸出槽は、静水筒330が四角筒に形成され、導入口331の開口面は、スラリーの旋回流に対向する一側面側を切り欠き、さらに隣り合う一方の側面側を切り欠いてなることを特徴とするものである。
 
【0083】
  図6に示す静水筒330の導入口331は、旋回流の流動方向に対して開かれた形状であることによって、旋回流の流速を利用して静水筒330内の上昇流速の低下を防止することができる。さらに、導入口331の開口面は、スラリーの旋回流に対向する一側面側を切り欠き、さらに隣り合う一方の側面側を切り欠いて形成することによって、旋回流の流速を有効に利用することができる。なお、第3の実施形態に係る浸出槽に備わる静水筒330の導入口331は、第2の実施形態に係る浸出槽に備わる静水筒330の導入口331と異なり、
図1に示す浸出槽本体110の側壁111側に対向する静水筒330の導入口331の側面が切り欠いて形成されている。このため、導入口331の開口面の大きさを拡大することにより、スラリーの旋回流をより確実に捕捉し、この旋回流による流速を利用して静水筒330内で上昇させることができる。
 
【0084】
  また、第3の実施形態に係る浸出槽に備わる静水筒330では、第1の実施形態に係る浸出槽100に備わる静水筒130と同様に、スラリーの上昇流速が0.1m/秒以上0.3m/秒以下になるよう制御されることが好ましい。
 
【0085】
  第3の実施形態に係る浸出槽では、第1の実施形態に係る浸出槽100と同様に、前段槽から投入されたスラリーは十分に浸出反応が進むことにより反応浸出後のスラリーとなった後、この反応浸出後のスラリーがオーバーフロー管を介して後段槽へとオーバーフローされる。
 
【0086】
  (まとめ)
  以上より、本実施の形態に係る浸出槽100は、スラリーに含有される固体金属含有物の粉末を酸化性ガスによって浸出する浸出槽100であって、有底円筒形の浸出槽本体110と、浸出槽本体110の中心軸に対して略平行に設けられた回転軸121と、回転軸121に取付けられた撹拌羽根122とを有する撹拌機120と、浸出槽本体110の内部に設けられる静水筒230と、浸出槽本体110の気相部を密閉する蓋部140とを備える。そして、この本実施の形態に係る浸出槽100では、静水筒130は、浸出槽本体110の側壁111と対向する側面131に開口131aが形成され、開口131aには、オーバーフロー管132が接続され、静水筒130の下端部133には、撹拌機120により発生するスラリーの旋回流を捕捉して、静水筒130で上昇流となるよう誘導する導入口133aを有することを特徴とするものである。
 
【0087】
  これにより、本実施の形態に係る浸出槽100は、ショートパスが全く起きないので、目的とする金属の浸出率を向上させることができる。
 
【実施例】
【0088】
  以下、実施例および比較例を用いて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例および比較例に限定されるものではない。
【0089】
  (実施例1)
  実施例1では、
図4(A)に示した静水筒130を備えた、
図3に示した浸出槽100を用いて、塩素浸出操業を行った。なお、この塩素浸出操業における塩素浸出反応条件は、反応時の塩化ニッケル水溶液の酸化還元電位が480〜560mV、温度が105〜115℃に設定した。
【0090】
  実施例1では、本実施形態に係る浸出槽100として、浸出槽Aおよび浸出槽Bを用意した。この浸出槽Aは、直列につながった7段の浸出槽系列のうちの3段目に対応し、この浸出槽Bは、浸出槽Aの後段である4段目に対応するものであった。
【0091】
  実施例1では、塩素浸出反応に関与しないリチウムイオンをスラリーに添加し、浸出槽Aおよび浸出槽Bにおけるショートパスの発生を確認した。なお、このスラリー自体には、リチウムイオンが含有されていない。
【0092】
  具体的には、実施例1では、塩素浸出反応に関与しないリチウムイオンを浸出槽Aの前段槽の出口のオーバーフロー管に添加し、浸出槽Aの出口のオーバーフロー管からスラリー試料を採取して塩化物水溶液中のリチウム濃度を測定し、そのリチウム濃度の経時変化を確認した。
【0093】
  また、上記浸出槽Aの前段槽の出口のオーバーフロー管に添加したのとは別の時期に、リチウムイオンを浸出槽Aの出口のオーバーフロー管に添加し、浸出槽Bの出口のオーバーフロー管からスラリー試料を採取して塩化物水溶液中のリチウム濃度を測定し、そのリチウム濃度の経時変化を確認した。なお、リチウム濃度の測定は、原子吸光法により実施した。その結果を、
図7(A)に示した。
【0094】
  また、浸出槽Aの出口のオーバーフロー管から採取したスラリー、および浸出槽Bの出口のオーバーフロー管から採取したスラリーを、小型遠心分離機によって固液分離して得られた浸出残渣のニッケル含有率を分析した。なお、ニッケル含有率の測定は、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法により行った。その結果を、表1に示した。
【0095】
  実施例1における浸出残渣中のニッケル含有率は、浸出槽Aが6.0重量%であり、浸出槽Bが3.7重量%であることを確認した。
【0096】
  また、実施例1では、静水筒130内の上昇流速を計測した結果、0.12m/秒であった。
【0097】
  (比較例1)
  比較例1では、
図4(B)に示した従来の静水筒20を備えた、
図1に示した浸出槽10を用いて、塩素浸出操業を行った。なお、この塩素浸出操業における塩素浸出反応条件は、反応時の塩化ニッケル水溶液の酸化還元電位が480〜560mV、温度が105〜115℃に設定した。
【0098】
  比較例1における浸出槽10は、実施例1と同様に、浸出槽Aおよび浸出槽Bを用意した。この浸出槽Aは、直列につながった7段の浸出槽系列のうちの3段目に対応し、この浸出槽Bは、浸出槽Aの後段である4段目に対応するものであった。
【0099】
  比較例1では、実施例1と同様に、ショートパスの発生を確認するため、リチウムイオンを浸出槽Aの前段槽の出口のオーバーフロー管に添加し、浸出槽Aの出口のオーバーフロー管からスラリー試料を採取して塩化物水溶液中のリチウム濃度を測定し、そのリチウム濃度の経時変化を確認した。
【0100】
  また、上記浸出槽Aの前段槽の出口のオーバーフロー管に添加したのとは別の時期に、リチウムイオンを浸出槽Aの出口のオーバーフロー管に添加し、浸出槽Bの出口のオーバーフロー管からスラリー試料を採取して塩化物水溶液中のリチウム濃度を測定し、そのリチウム濃度の経時変化を確認した。なお、リチウム濃度の測定は、原子吸光法により実施した。その結果を、
図7(B)に示した。
【0101】
  比較例1では、添加初期にリチウム濃度のピークが発現しており、浸出槽Aでは、添加後0.003時間、すなわち11秒で浸出槽出口のリチウム濃度が上昇して、その後、低下していた。また、浸出槽Bでは、添加後0.01時間、すなわち36秒で浸出槽出口のリチウム濃度が上昇して、その後、低下していた。
【0102】
  また、比較例1では、実施例1と同様に、浸出槽Aの出口のオーバーフロー管から採取したスラリー、および浸出槽Bの出口のオーバーフロー管から採取したスラリーを、小型遠心分離機によって固液分離して得られた浸出残渣のニッケル含有率を分析した。なお、ニッケル含有率の測定は、ICP発光分光分析法により行った。その結果を、表1に示した。
【0103】
  比較例1における浸出残渣中のニッケル含有率は、浸出槽Aが10.2重量%であり、浸出槽Bが6.8重量%であることを確認した。
【0104】
【表1】
【0105】
  (考察)
  実施例1では、
図7(A)に示すように、リチウム濃度のピークは発現しておらず、ショートパスは発生していないと推定できる。一方、比較例1では、
図7(B)に示すように、添加初期にリチウム濃度のピークが発現しており、ショートパスが発生していると推定できる。
【0106】
  実施例1では、表1に示すように、ショートパスが防止できたことにより、浸出槽100内の滞留時間のバラツキが減少し、浸出残渣中のニッケル含有率は浸出槽Aで6.0重量%、浸出槽Bで3.7重量%にまで低下した。一方、比較例1では、表1に示すように、ショートパスが発生したことにより、浸出残渣中のニッケル含有率は浸出槽Aで10.2重量%、浸出槽Bで6.8重量%と、実施例1と比較して、浸出残渣中のニッケル含有率が約1.7〜1.8倍にまで増加した。
【0107】
  以上より、本発明の実施形態に係る浸出槽100では、静水筒130の下端部133には、撹拌機120により発生する浸出反応後のスラリーの旋回流を捕捉して、静水筒の上昇流となるよう誘導する導入口133aを有し、導入口133aの開口面が、導入口133aの下端縁133bから浸出反応後のスラリーの旋回流に対向する一側面側に切り欠いて形成されることが有用であることを確認した。これにより、ショートパスを防ぐことができるので、目的とする金属の浸出率を向上させることができる。