(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0009】
〔1〕本開示の炭化珪素単結晶の製造方法は、台座に固定された炭化珪素種基板上に、昇華法により炭化珪素単結晶を成長させる炭化珪素単結晶の製造方法である。本開示の製造方法は、第1主面と、該第1主面の反対側に位置する第2主面とを有する炭化珪素種基板を準備するステップと、塩素含有雰囲気下において、該第1主面を熱処理するステップと、該第1主面と台座との間に接着剤を介在させるステップと、該接着剤を介して、該炭化珪素種基板を該台座に固定するステップと、を備える。
【0010】
昇華法とは、固体原料を高温下で昇華させ、昇華した原料を種基板上で再結晶化させる結晶成長方法である。昇華法において、固体原料は坩堝の下部に配置され、種基板は坩堝の上部に位置する台座に固定される。従来、炭化珪素種基板の固定には、耐熱性を有するカーボン接着剤が利用されている。昇華法によって炭化珪素単結晶を成長させる場合、炭化珪素種基板および台座が2000℃以上の高温に曝されるためである。
【0011】
しかしながら、炭化珪素単結晶の大口径化に伴い、耐熱性を有するカーボン接着剤を用いても、結晶成長中に炭化珪素種基板が台座から剥離する場合が出てきた。剥離は、たとえ部分的であったとしても、単結晶の結晶品質を著しく劣化させる。ゆえに、大口径の炭化珪素単結晶を成長させる場合にも、炭化珪素種基板の剥離を抑制できる固定方法が必要である。
【0012】
炭化珪素種基板が台座から剥離する要因は種々考えられる。本発明者は、それらのうち、炭化珪素種基板に蓄積した残留応力の影響が大きいことを見出した。すなわち炭化珪素種基板は、その製造過程で、たとえば研削、研磨等の各種加工を経ている。これらの加工により、炭化珪素種基板には残留応力が蓄積していると考えられる。残留応力は、結晶成長時の高温により解放されることになる。残留応力の解放に伴い、炭化珪素種基板が変形するため、剥離が生じると考えられる。
【0013】
上記〔1〕に示す本開示の製造方法において、炭化珪素種基板の第1主面は、台座に固定されるべき接着面である。第2主面は、炭化珪素単結晶を成長させるべき成長面である。本開示の製造方法では、第1主面を台座に固定する前に、塩素含有雰囲気下で第1主面を熱処理する。塩素含有雰囲気下で、第1主面すなわち炭化珪素(SiC)を熱処理すると、第1主面がエッチングされることになる。これにより、炭化珪素種基板に蓄積した残留応力が解放される。このように、事前に残留応力を解放しておくことにより、結晶成長中の剥離を抑制できると考えられる。
【0014】
〔2〕本開示の製造方法では、熱処理するステップにおいて、第1主面の少なくとも表面の珪素を除去することができる。
【0015】
〔3〕本開示の製造方法は、熱処理するステップの前に、第1主面を機械加工するステップをさらに備えていてもよい。
【0016】
〔4〕上記の機械加工するステップでは、第1主面をラップ加工するか、または第1主面を研削加工してもよい。
【0017】
〔5〕本開示の製造方法において、炭化珪素種基板の直径は、75mm以上であってもよい。
【0018】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態を説明する。ただし、本開示の実施形態は、以下の説明に限定されるものではない。以下の説明では、同一または対応する要素に同一の符号を付し、同じ説明は繰り返さない。また結晶学上の指数が負であることは、通常、数字の上に”−”(バー)を付すことによって表現されるが、本明細書では、便宜上、数字の前に負の符号を付すことによって結晶学上の負の指数を表現する。
【0019】
〔炭化珪素単結晶の製造方法〕
本開示の製造方法では、昇華法によって炭化珪素のバルク単結晶を成長させる。先ず、
図1を用いて昇華法の概要を説明する。
【0020】
《結晶製造装置》
図1は、結晶製造装置の一例を示す概略断面図である。
図1に示すように、結晶製造装置200は、チャンバ201を備える。チャンバ201には、ガス導入口202およびガス排気口203が設けられている。ガス排気口203は、排気ポンプ204に接続されている。
【0021】
チャンバ201内には、坩堝210、抵抗ヒータ205および断熱材206が配置されている。坩堝210は、たとえば黒鉛製である。坩堝210は、収容部211と台座212とから構成されている。台座212は、坩堝210の蓋としても機能する。収容部211は、有底筒状である。収容部211の外形は、たとえば円筒状である。収容部211には、固体原料10が充填されている。固体原料10は、たとえば炭化珪素多結晶を粉砕した粉末である。
【0022】
台座212には、炭化珪素種基板100が固定されている。台座212と炭化珪素種基板100との間には、接着剤20が介在している。炭化珪素種基板100は、第1主面101と、第1主面101の反対側に位置する第2主面102とを有する。第1主面101は、いわゆる接着面である。第1主面101は、接着剤を介して台座212に固定されている。第2主面102は、いわゆる成長面である。第2主面102は、固体原料10と対向している。結晶成長時、坩堝210内には、固体原料10から炭化珪素種基板100に向かう方向に、所定の温度勾配が形成される。当該温度勾配において、固体原料10は高温側となり、炭化珪素種基板100は低温側となる。固体原料10の昇華により生じた原料ガスは、炭化珪素種基板100に向かって移動し、第2主面102上で再結晶化する。こうして第2主面102上に炭化珪素単結晶1を成長させることができる。
【0023】
次に、フローチャートに沿って本開示の製造方法を説明する。
図2は、本開示の製造方法の概略を示す第1フローチャートである。
図2に示すように、本開示の製造方法は、準備ステップ(S101)、機械加工ステップ(S102)、熱処理ステップ(S103)、接着ステップ(S104)、固定ステップ(S105)および結晶成長ステップ(S106)を備える。以下、各ステップを説明する。
【0024】
《準備ステップ(S101)》
準備ステップ(S101)では、第1主面101と、第1主面101と反対側に位置する第2主面102とを有する炭化珪素種基板100を準備する。
【0025】
炭化珪素種基板100のポリタイプは、典型的には4H−SiCである。炭化珪素種基板100のポリタイプは、たとえば3C−SiC、6H−SiC等でもよい。炭化珪素種基板100は、たとえば炭化珪素のバルク単結晶を所定の厚さにスライスすることにより準備される。スライスには、たとえばワイヤーソーを用いることができる。炭化珪素種基板の厚さは、たとえば0.5mm以上でもよい。炭化珪素種基板の厚さは、たとえば5.0mm以下でもよいし、2.0mm以下でもよい。
【0026】
炭化珪素種基板100の平面形状は、たとえば円形状である。本開示の製造方法は、直径が大きい炭化珪素種基板100への適用が期待される。炭化珪素種基板100の直径が大きい程、剥離が発生しやすくなるため、剥離の抑制手段がいっそう重要になる。炭化珪素種基板100の直径は、75mm以上であってもよい。炭化珪素種基板100の直径は、たとえば100mm以上であってもよいし、150mm以上であってもよい。炭化珪素種基板100の直径は、たとえば300mm以下であってもよい。
【0027】
炭化珪素(SiC)の結晶面のうち、(0001)面は「Si(シリコン)面」と称されることがある。また(000−1)面は「C(カーボン)面」と称されることがある。炭化珪素種基板100において、第1主面101はSi面であってもよいし、C面であってもよい。第2主面102はC面であってもよいし、Si面であってもよい。
【0028】
第1主面101および第2主面102は、Si面またはC面から所定の角度傾斜した面でもよい。第1主面101および第2主面102が、所定の結晶面から傾斜する方向は「オフ方向」とも称される。オフ方向は、典型的には<11−20>方向である。
【0029】
第1主面101および第2主面102をSi面またはC面から傾斜させる角度は、「オフ角」とも称される。オフ角は、たとえば1°以上でもよいし、2°以上でもよいし、3°以上でもよい。オフ角は、8°以下でもよいし、7°以下でもよいし、6°以下でもよいし、5°以下でもよい。
【0030】
《機械加工ステップ(S102)》
本開示の製造方法では、後述の熱処理ステップ(S103)の前に、第1主面101を機械加工してもよい。具体的には、たとえば、第1主面101をラップ加工してもよいし、第1主面101を研削加工してもよい。ラップ加工には、半導体基板用のラップ盤を用いることができる。ラップ加工は、遊離砥粒方式で行ってもよい。遊離砥粒には、たとえばダイヤモンド粒子を含有するスラリーを用いることができる。研削加工には、半導体基板用の研削盤を用いることができる。砥石車には、たとえばダイヤモンドホイールを用いることができる。
【0031】
機械加工における第1主面101の仕上がりは、梨地仕上げとするとよい。第1主面101を、適度な凹凸を有する面に仕上げることにより、第1主面101の表面積が拡大するため、接着強度の向上が期待できる。また凸部が接着剤に食い込むため、いわゆるアンカー効果による接着強度の向上も期待できる。機械加工後の第1主面101の表面粗さは、たとえば算術平均粗さRaで0.1〜1.0μm程度である。
【0032】
このステップでは、成長面である第2主面102に対して、たとえばCMP(Chemical Mechanical Polishing)等の加工を行ってもよい。CMP、ラップ加工、研削加工等により生じた残留応力は、後述の熱処理ステップ(S103)で解放されることになる。
【0033】
《熱処理ステップ(S103)》
熱処理ステップ(S103)では、塩素含有雰囲気下において第1主面101を熱処理する。熱処理には、たとえば管状電気炉等を用いることができる。炉壁の材質は、たとえば石英等でよい。
【0034】
炉内の雰囲気は、塩素含有雰囲気とする。塩素含有雰囲気は、たとえば塩素原子(Cl)を含有するガスを炉内に流通させることにより、形成できる。塩素原子を含有するガスには、たとえば塩素(Cl
2)ガス、三塩化ホウ素(BCl
3)ガス、四塩化炭素(CCl
4)ガス、三フッ化塩素(ClF
3)ガス等を用いることができる。キャリアガスを併用してもよい。キャリアガスには、たとえば、窒素(N
2)ガス、アルゴン(Ar)ガス等の希ガス、酸素(O
2)ガス等を用いることができる。塩素原子を含有するガスの流量は、たとえば0.1〜0.5L/min程度である。たとえば塩素ガスを用いる場合、塩素ガスの流量は0.2L/min程度とするとよい。
【0035】
熱処理温度は、たとえば800℃以上1200℃以下程度でよい。熱処理温度は、典型的には900℃程度である。炉内の圧力は、たとえば0.05kPa以上150kPa以下程度である。熱処理時間は、たとえば30分以上2時間以下程度である。熱処理時間は、典型的には45分程度である。
【0036】
以上の条件で、第1主面101を熱処理することにより、第1主面101がエッチングされることになる。これにより、炭化珪素種基板100に蓄積した残留応力が解放される。
【0037】
上記のエッチングでは、第1主面101の少なくとも表面の珪素(Si)が除去され得る。炭化珪素(SiC)から珪素(Si)が除去されることにより、第1主面101から一定の深さ範囲に亘って、炭化珪素よりも炭素(C)の組成比が高い炭素層が形成されることになる。すなわち熱処理するステップ(S103)は、第1主面101に、炭化珪素よりも炭素の組成比が高い炭素層を形成するステップを含むことができる。
【0038】
当該炭素層は、炭素の組成比が高いため、炭化珪素よりもカーボン接着剤との親和性が高い。したがって炭素層の形成により、カーボン接着剤による接着強度の向上が期待できる。さらに炭素層は、SiCからSiが除去された層であるため、SiCよりもポーラスな構造を有すると考えられる。そのためカーボン接着剤が第1主面101に浸透しやすくなり、接着強度が向上することも期待できる。
【0039】
熱処理ステップ(S103)において形成される炭素層の厚さは、たとえば1μm以上20μm以下程度である。炭素層の厚さは、典型的には5μm以上10μm以下程度である。炭素層は、実質的に炭素のみからなる層でもよい。あるいは炭素層は、塩素を含有していてもよい。炭素層の厚さおよび組成は、たとえばSEM−EDX(Scanning Electron Microscopy with Energy Dispersive X−ray spectroscopy)等を用いて、炭化珪素種基板100の厚さ方向断面等を分析することにより測定できる。
【0040】
炭素層には、エッチング前の第1主面101の表面形状が継承されている。すなわち機械加工ステップ(S102)において調整した第1主面101の算術平均粗さは、熱処理ステップ(S103)後も維持され得る。
【0041】
なお成長面となる第2主面102がエッチングされることは好ましくないため、熱処理ステップ(S103)は、第2主面102がエッチングされない態様で行うとよい。
【0042】
図3は、本開示の炭化珪素単結晶の製造方法の概略を示す第2フローチャートである。
図3に示すように、たとえば、第2主面102をエッチングから保護するために、第2主面102を被覆する保護膜を形成してもよい。すなわち本開示の製造方法は、準備ステップ(S101)と熱処理ステップ(S103)との間に、第2主面102を被覆する保護膜を形成する、保護膜形成ステップ(S111)を備えることもできる。なお
図3では、保護膜形成ステップ(S111)が機械加工ステップ(S102)の後に行われる態様を図示しているが、保護膜形成ステップ(S111)は、機械加工ステップ(S102)の前に行われてもよい。
【0043】
保護膜の厚さは、たとえば0.01μm以上10μm以下程度でよい。保護膜は、たとえば、二酸化珪素(SiO
2)、窒化珪素(Si
3N
4)等により構成される絶縁膜でもよいし、フォトレジスト等により構成される有機膜でもよい。保護膜は、熱処理ステップ(S103)の後に、たとえばアッシング、酸処理等により除去され得る。
【0044】
図4は、本開示の製造方法の概略を示す第3フローチャートである。
図4に示すように、保護膜の形成が困難な場合には、熱処理ステップ(S103)の後に、第2主面102を平坦化する処理を行うことが望ましい。すなわち本開示の製造方法は、
図4に示すように、熱処理ステップ(S103)の後に、第2主面102を平坦化する、平坦化ステップ(S112)を備えることもできる。たとえば、第2主面102に対して、機械研磨、CMP等の加工を行って第2主面102を平坦化してもよい。
【0045】
図5は、本開示の炭化珪素単結晶の製造方法の概略を示す第4フローチャートである。前述の保護膜形成ステップ(S111)において、保護膜を形成したにもかかわらず、第2主面102がエッチングされることもある。
図5に示すように、その場合も平坦化ステップ(S112)を行うことが望ましい。すなわち、本開示の製造方法は、保護膜形成ステップ(S111)および平坦化ステップ(S112)の両方を備えることもできる。
【0046】
《接着ステップ(S104)》
接着ステップ(S104)では、第1主面101と台座212との間に接着剤20を介在させる。接着剤20は、第1主面101に塗布してもよいし、台座212に塗布してもよいし、第1主面101および台座212の両方に塗布してもよい。
【0047】
接着剤20は、典型的にはカーボン接着剤である。カーボン接着剤は、有機溶剤と、該有機溶剤中に分散された黒鉛微粒子とを含む。カーボン接着剤は、たとえば日清紡ケミカル社製の「ST−201」等であってもよい。
【0048】
《固定ステップ(S105)》
固定ステップ(S105)では、接着剤20を介して炭化珪素種基板100を台座212に固定する。たとえば、炭化珪素種基板100と台座212との積層方向に荷重を加えることにより、接着剤20を介して炭化珪素種基板100を台座212に固定できる。このステップでは、さらに熱処理を行ってもよい。熱処理は、たとえば2段階で行うとよい。先ず、150〜300℃程度の温度で保持することにより、カーボン接着剤に含まれる有機溶剤を気化させる。次いで、500〜1000℃程度の温度で保持することにより、カーボン接着剤の残部を炭化させる。これによりカーボン接着剤は、炭化珪素種基板100および台座212の両方に、強固に結合した接着層となる。本開示の製造方法では、第1主面101に形成された炭素層、カーボン接着剤(接着層)および台座212が、いずれも炭素を主成分とするため、接着強度の向上が期待できる。
【0049】
《結晶成長ステップ(S106)》
結晶成長ステップ(S106)では、昇華法によって、炭化珪素種基板100の第2主面102上に炭化珪素のバルク単結晶を成長させる。
【0050】
図1に示すように、台座212に固定された炭化珪素種基板100は、坩堝210内において、収容部211に充填された固体原料10と向き合うように、配置される。
【0051】
ガス導入口202からは、たとえばアルゴンガスがチャンバ201に導入される。導入されたアルゴンガスは、ガス排気口203より排気される。チャンバ201内の圧力は、ガスの導入量と排気量とのバランスによって調整される。結晶成長時、チャンバ201内の圧力は、たとえば0.1kPa以上10kPa以下程度である。
【0052】
抵抗ヒータ205は、坩堝210の各部を加熱する。これにより、坩堝210内に温度勾配が形成される。固体原料10の周辺の温度は、たとえば2200〜2400℃程度に調整される。炭化珪素種基板100の周辺の温度は、たとえば2000〜2200℃程度に調整される。坩堝210の各部の温度は、たとえば放射温度計によって測定できる。
【0053】
上記の圧力条件および温度条件が整うことにより、固体原料10が昇華する。昇華により生じた原料ガスは、炭化珪素種基板100に向かって移動し、第2主面102上で再結晶化する。こうして第2主面102上に炭化珪素単結晶1を成長させることができる。本開示の製造方法では、炭化珪素種基板100が台座212に強固に固定されているため、たとえば直径が100mm以上である大口径の単結晶を成長させることもできる。また、たとえば長尺の単結晶を成長させることもできる。
【0054】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。