特許第6593217号(P6593217)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6593217鉄道車両用台車、及びその台車を備えた鉄道車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6593217
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】鉄道車両用台車、及びその台車を備えた鉄道車両
(51)【国際特許分類】
   B61F 5/30 20060101AFI20191010BHJP
【FI】
   B61F5/30 C
   B61F5/30 E
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-28493(P2016-28493)
(22)【出願日】2016年2月18日
(65)【公開番号】特開2017-144901(P2017-144901A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2018年10月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】水野 将明
【審査官】 志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−020621(JP,A)
【文献】 実開昭60−003163(JP,U)
【文献】 特開昭62−088660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61F 5/26
B61F 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右に側はりを有する台車枠と、
前記台車枠の前後に配置された輪軸と、
前記各輪軸の左右に配置され、前記各輪軸を回転可能に支持する軸箱と、
前記各軸箱と前記台車枠との間を弾性的に支持する軸箱支持装置と、を備えた鉄道車両用台車であって、
前記軸箱支持装置は、
前記各軸箱から前後方向に沿って突出する取付け部と、
内部に空間を有し、前記取付け部と前記側はりとを結合するゴムと、
前後左右の前記ゴムのうちで互いに斜向いに配置された前記ゴムの組の前記空間同士を連結する配管と、
互いに連結された前記空間及び前記配管に充填された液体と、を含む、鉄道車両用台車。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両用台車であって、
前記液体が水又は油である、鉄道車両用台車。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の鉄道車両用台車であって、
前記配管に圧力損失要素を備える、鉄道車両用台車。
【請求項4】
請求項3に記載の鉄道車両用台車であって、
前記圧力損失要素がオリフィス板である、鉄道車両用台車。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の鉄道車両用台車であって、
前記ゴムは、上下方向又は左右方向に沿って内穴を有する円筒状であり、外周を外筒によって覆われ、前記内穴に軸が挿入されており、
前記外筒及び前記軸のうちの一方が前記取付け部に取り付けられ、他方が前記側はりに取り付けられている、鉄道車両用台車。
【請求項6】
請求項5に記載の鉄道車両用台車であって、
前記配管によって連結された前記空間は、それぞれの前記ゴムに挿入された前記軸に対して互いに前後方向で反対側となる位置に形成されている、鉄道車両用台車。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の台車と車体とを備えた、鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用台車(以下、単に「台車」ともいう)、及びその台車を備えた鉄道車両(以下、単に「車両」ともいう)に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両は、車体と台車とを備え、レール上を走行する。台車は、台車枠と、台車枠の前後に配置された輪軸と、を備える。各輪軸の左右に軸箱が配置され、各輪軸はその軸箱によって回転可能に支持される。各軸箱と台車枠との間は、軸箱支持装置によって弾性的に支持される。軸箱支持装置は、各種の弾性要素(例:バネ、ゴム等)を備え、軸箱(輪軸)と台車枠との間に作用する上下方向(鉛直方向)、左右方向(車両の幅方向)及び前後方向(車両の進行方向)の各荷重を負担する。台車に作用する衝撃荷重、振動等は、軸箱支持装置の弾性要素によって緩和される。
【0003】
鉄道車両には、車両が直線路を高速で走行するときの安定性(以下、「走行安定性」ともいう)と、車両が曲線路を走行するときの安定性(以下、「曲線通過性」ともいう)が求められる。また、高速鉄道車両が、専用路線を走行するだけでなく、曲線路の多い在来線路線に乗り入れて走行する場合がある。この場合の車両には、走行安定性と曲線通過性が高度に求められる。
【0004】
一般に、走行安定性と曲線通過性には、軸箱支持装置による前後方向の支持剛性が影響する。具体的には、支持剛性が高い(固い)ほど、走行安定性が向上する。一方、支持剛性が低い(柔らかい)ほど、曲線通過性が向上する。このように走行安定性と曲線通過性は支持剛性に依存し、相反する関係にある。支持剛性は、主に、軸箱支持装置が備える弾性要素に固有の物理的特性に依存する。そのため、走行安定性と曲線通過性を両立することは難しい。
【0005】
走行安定性と曲線通過性の両立を図る従来技術は、例えば、特開2015−150946号公報(特許文献1)及び特開2015−20616号公報(特許文献2)に開示される。特許文献1及び2は、各軸箱と台車枠とを結合する軸箱支持装置の弾性要素として軸ゴムを備えた台車を開示する。この台車は、各軸ゴムによる支持剛性を能動的に切替え可能に構成される。支持剛性の切替えは、各軸ゴムに対して配置されたシリンダ等のアクチュエータによって行われる。アクチュエータは、制御装置からの信号によって作動する。制御装置は、直線路走行時と曲線路走行時を判定し、各アクチュエータに信号を発する。
【0006】
特許文献1及び2の台車によれば、直線路走行時と曲線路走行時において、軸箱支持装置による支持剛性を各走行時に適正な固さに切り替えることができる。そのため、走行安定性と曲線通過性を両立できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015−150946号公報
【特許文献2】特開2015−20616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1及び2の台車では、軸箱支持装置による支持剛性を能動的に切り替えるために、アクチュエータ及び制御装置といった特殊な機械部品が必要となり、構成が複雑になる。また、制御にフェールが発生した場合は、かえって性能を悪化させる危険性がある。このため、フェールセーフ機構を考慮する必要があり、更にシステムの構成が複雑となる。
【0009】
本発明は上記の実情に鑑みてなされたものである。本発明の目的の一つは、簡素な構成で、直線路を高速で走行するときの安定性と、曲線路を走行するときの安定性と、を両立できる鉄道車両用台車及び鉄道車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態による鉄道車両用台車は、台車枠と、輪軸と、軸箱と、軸箱支持装置と、を備える。台車枠は、左右に側はりを有する。輪軸は、台車枠の前後に配置される。軸箱は、各輪軸の左右に配置され、各輪軸を回転可能に支持する。軸箱支持装置は、各軸箱と台車枠との間を弾性的に支持する。そして、軸箱支持装置は、取付け部と、ゴムと、配管と、液体と、を含む。取付け部は、各軸箱から前後方向に沿って突出する。ゴムは、内部に空間を有し、取付け部と側はりとを結合する。配管は、前後左右のゴムのうちで互いに斜向いに配置されたゴムの組の空間同士を連結する。液体は、互いに連結された空間及び配管に充填されている。
【0011】
本発明の実施形態による鉄道車両は、上記の台車と車体とを備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明の鉄道車両用台車及び鉄道車両によれば、簡素な構成で、車両が直線路を高速で走行するときの安定性と、車両が曲線路を走行するときの安定性と、を両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の第1実施形態による鉄道車両用台車を模式的に示す上面図である。
図2図2は、図1に示す鉄道車両用台車における軸箱支持装置の一例を模式的に示す側面図である。
図3図3は、第1実施形態の鉄道車両が直線路を走行する際の状況を模式的に示す上面図である。
図4図4は、第1実施形態の鉄道車両が曲線路を走行する際の状況を模式的に示す上面図である。
図5図5は、本発明の第2実施形態による鉄道車両用台車を模式的に示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態による鉄道車両用台車は、台車枠と、輪軸と、軸箱と、軸箱支持装置と、を備える。台車枠は、左右に側はりを有する。輪軸は、台車枠の前後に配置される。軸箱は、各輪軸の左右に配置され、各輪軸を回転可能に支持する。軸箱支持装置は、各軸箱と台車枠との間を弾性的に支持する。そして、軸箱支持装置は、取付け部と、ゴムと、配管と、液体と、を含む。取付け部は、各軸箱から前後方向に沿って突出する。ゴムは、内部に空間を有し、取付け部と側はりとを結合する。配管は、前後左右のゴムのうちで互いに斜向いに配置されたゴムの組の空間同士を連結する。液体は、互いに連結された空間及び配管に充填されている。
【0015】
上記の台車において、液体が水又は油であることが好ましい。
【0016】
上記の台車において、配管に圧力損失要素を備えることが好ましい。圧力損失要素は、例えばオリフィス板である。
【0017】
上記の台車において、下記の構成とすることが好ましい。ゴムは、上下方向又は左右方向に沿って内穴を有する円筒状であり、外周を外筒によって覆われ、内穴に軸が挿入されている。外筒及び軸のうちの一方が取付け部に取り付けられ、他方が側はりに取り付けられている。
【0018】
この台車の場合、配管によって連結された空間は、それぞれのゴムに挿入された軸に対して互いに前後方向で反対側となる位置に形成されていることが好ましい。
【0019】
本発明の実施形態による鉄道車両は、上記の台車と車体とを備える。
【0020】
以下に、本発明の鉄道車両用台車及び鉄道車両について、その実施形態を詳述する。
【0021】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態による鉄道車両用台車を模式的に示す上面図である。図2は、図1に示す鉄道車両用台車における軸箱支持装置の一例を模式的に示す側面図である。図2には、左後の軸箱支持装置6Dを代表的に例示する。なお、図1において、上向きが車両の進行方向である。つまり、図1の上下方向が車両の前後方向である。図2では、構成の理解を容易にするため、一部を断面で示す。
【0022】
図1及び図2に示すように、第1実施形態の台車1は、台車枠2と、輪軸3A及び3Bと、軸箱5A、5B、5C及び5Dと、軸箱支持装置6A、6B、6C及び6Dと、を備える。台車枠2は、左右にそれぞれ側はり2A及び2Bを備える。側はり2A及び2Bは、前後方向の中央部を横はり2Cによって連結されている。
【0023】
輪軸3A及び3Bは、台車枠2の前後にそれぞれ配置されている。各輪軸3A及び3Bは、それぞれ車軸を備える。各車軸には、左右にそれぞれ車輪4A、4B、4C及び4Dが嵌め込まれている。軸箱5A、5B、5C及び5Dは、各輪軸3A及び3Bの左右の端部にそれぞれ配置され、各輪軸3A及び3Bを回転可能に支持する。
【0024】
各軸箱支持装置6A、6B、6C及び6Dは、各軸箱5A、5B、5C及び5Dと台車枠2(側はり2A及び2B)との間をそれぞれ弾性的に支持する。第1実施形態の軸箱支持装置6A、6B、6C及び6Dは、いわゆるモノリンク式の軸箱支持装置に相当する。
【0025】
図2に示すように、左後の軸箱支持装置6Dは、軸箱5Dの前方(図2では左側)に配置された1本のリンク7Dによって、左後の軸箱5Dと左側の側はり2Bを前後方向で連結する。具体的には、リンク7Dの前後の端には、第1の弾性要素として第1のゴム10D及び第2の弾性要素として第2のゴム20Dが配置される。左後の軸箱5Dの前面から前後方向に沿って取付け部5Daが突出する。第1のゴム10Dは、軸箱5Dの取付け部5Daとリンク7Dを結合する。第2のゴム20Dは、例えばゴムブッシュであり、左側の側はり2Bとリンク7Dを結合する。これらの第1のゴム10D及び第2のゴム20Dによって、左後の軸箱5Dと左側の側はり2Bが弾性的に支持される。
【0026】
更に、その軸箱支持装置6Dは、軸箱5Dの上面上に配置された第3の弾性要素30Dによって、左側の側はり2Bの後端部を弾性的に支持する。第3の弾性要素30Dは、例えば、コイルばね及び円筒状の積層ゴムである。
【0027】
右後の軸箱支持装置6Cの構成は、上記した左後の軸箱支持装置6Dの構成を左右で対称にしたものである。左前の軸箱支持装置6Bの構成は、上記した左後の軸箱支持装置6Dの構成を前後で対称にしたものである。右前の軸箱支持装置6Aの構成は、左前の軸箱支持装置6Bの構成を左右で対称にしたものである。
【0028】
このような軸箱支持装置6A、6B、6C及び6Dでは、第1のゴム10A、10B、10C及び10D(第1の弾性要素)が、主として前後方向の荷重を負担する。第2のゴム20A、20B、20C及び20D(第2の弾性要素)も前後方向の荷重を負担する。第3の弾性要素30A、30B、30C及び30Dは、主として上下方向及び左右方向の荷重を負担する。
【0029】
ここで、第1実施形態の軸箱支持装置6A、6B、6C及び6Dは、第1の弾性要素(第1のゴム10A、10B、10C及び10D)に関し、以下の構成を備える。図2に示すように、左後の第1のゴム10Dは円筒状である。第1のゴム10Dは、その中心に上下方向に沿って内穴10Daを有する。第1のゴム10Dは外筒8Dに収容され、第1のゴム10Dの外周をその外筒8Dによって覆われている。また、第1のゴム10Dの内穴10Daには、軸9Dが挿入されている。外筒8D及び軸9Dの材質は、いずれも変形し難い材質(例:鋼等の金属)である。外筒8Dは、リンク7Dの端に固定されている。一方、軸9Dは、軸箱5Dの取付け部5Daに固定されている。これにより、軸箱5D(輪軸)と側はり2B(台車枠)との間に前後方向の荷重が作用し、外筒8Dと軸9Dが相対的に前後方向に移動したとき、第1のゴム10Dの弾性変形は外筒8D内で制限される。
【0030】
更に、その第1のゴム10Dは、密封された空間10Dbを内部に有する。空間10Dbは、軸9Dに対して前後方向で軸箱5D側とは反対側に形成されている。つまり、空間10Dbは、側はり2Bの前後方向の中央寄りに形成されている。
【0031】
第1実施形態では、図1に示すように、右後の第1のゴム10Cに関する構成は、上記した左後の第1のゴム10Dに関する構成を左右で対称にしたものである。つまり、右後の第1のゴム10Cの空間10Cbは、軸9Cに対して前後方向で軸箱5C側とは反対側に形成されている。左前の第1のゴム10Bに関する構成は、上記した左後の第1のゴム10Dに関する構成を前後で対称にしたものである。つまり、左前の第1のゴム10Bの空間10Bbは、軸9Bに対して前後方向で軸箱5B側とは反対側に形成されている。右前の第1のゴム10Aに関する構成は、左前の第1のゴム10Bに関する構成を左右で対称にしたものである。つまり、右前の第1のゴム10Aの空間10Abは、軸9Aに対して前後方向で軸箱5A側とは反対側に形成されている。要するに、いずれの空間10Ab、10Bb、10Cb及び10Dbも、台車枠2(側はり2A及び2B)の前後方向の中央寄りに形成されている。
【0032】
更に、前後左右の第1のゴム10A、10B、10C及び10Dのうち、互いに斜向いに配置された右前及び左後の第1のゴム10A及び10Dの組において、その空間10Ab及び10Db同士は、第1の配管40Aで連結されている。その空間10Ab及び10Db、並びに第1の配管40Aの内部には、液体が充填されている。同様に、互いに斜向いに配置された左前及び右後の第1のゴム10B及び10Cの組において、その空間10Bb及び10Cb同士は、第2の配管40Bで連結されている。その空間10Bb及び10Cb、並びに第2の配管40Bの内部には、液体が充填されている。配管40A及び40Bの材質は、変形し難い材質(例:鋼等の金属)である。液体は、非圧縮性流体であれば特に限定はなく、実用的には水又は油(例:エチレングリコール)であるのが好ましい。なお、寒冷地仕様の台車の場合、好ましくは、液体は不凍液のエチレングリコールである。
【0033】
上記のとおり、いずれの空間10Ab、10Bb、10Cb及び10Dbも、台車枠2(側はり2A及び2B)の前後方向の中央寄りに形成されている。つまり、第1の配管40Aによって連結された右前及び左後の第1のゴム10A及び10Dの空間10Ab及び10Dbは、それぞれの軸9A及び9Dに対して互いに前後方向で反対側となる位置に形成されている。同様に、第2の配管40Bによって連結された左前及び右後の第1のゴム10B及び10Cの空間10Bb及び10Cbは、それぞれの軸9B及び9Cに対して互いに前後方向で反対側となる位置に形成されている。
【0034】
このような構成の台車1に空気バネ等を介して車体が結合され、鉄道車両となる。以下に、このような構成の鉄道車両による直線路走行時と曲線路走行時の状況を説明する。
【0035】
図3は、第1実施形態の鉄道車両が直線路を走行する際の状況を模式的に示す上面図である。図3には、台車1が左方向に移動した場合(図3中の白抜き矢印参照)の状況を例示し、レールを点線で示す。なお、図3には、車体の図示は省略する。
【0036】
直線路走行時、台車1が左右方向に移動した場合、前後左右の各車輪4A、4B、4C及び4Dには、レールから前後方向のクリープ力が必然的に作用する。例えば、図3に示すように、台車1が左方向に移動すると、前側の輪軸3Aは次のような挙動をとる。右前の車輪4Aがレールに対して左方向に移動する。これにより、車輪4Aとレールとの接触点が車輪4Aの反フランジ側に移動する。そのため、レールとの接触点における右前の車輪4Aの半径が減少する。これに対し、左前の車輪4Bとレールとの接触点が車輪4Bのフランジ側に移動する。そのため、レールとの接触点における左前の車輪4Bの半径が増加する。
【0037】
そうすると、右前の車輪4Aには後向きにクリープ力が作用し、左前の車輪4Bには前向きのクリープ力が作用する(図3中の実線矢印参照)。後側の輪軸3Bに関しては、前側の輪軸3Aと同様に、右後の車輪4Cには後向きのクリープ力が作用し、左後の車輪4Dには前向きのクリープ力が作用する(図3中の実線矢印参照)。
【0038】
これにより、右前の軸箱5Aには、右前の車輪4Aから後向きの荷重が作用する。左前の軸箱5Bには、左前の車輪4Bから前向きの荷重が作用する。右後の軸箱5Cには、右後の車輪4Cから後向きの荷重が作用する。左後の軸箱5Dには、左後の車輪4Dから前向きの荷重が作用する。
【0039】
右前の軸箱5Aに後向きの荷重が作用すると、その軸箱5Aの取付け部5Aaに固定された軸9Aにも後向きの荷重が作用する。左前の軸箱5Bに前向きの荷重が作用すると、その軸箱5Bの取付け部5Baに固定された軸9Bにも前向きの荷重が作用する。右後の軸箱5Cに後向きの荷重が作用すると、その軸箱5Cの取付け部5Caに固定された軸9Cにも後向きの荷重が作用する。左後の軸箱5Dに前向きの荷重が作用すると、その軸箱5Dの取付け部5Daに固定された軸9Dにも前向きの荷重が作用する。
【0040】
すると、右前の第1のゴム10Aが有する空間10Abには、軸9Aに作用する後向きの荷重により、圧縮力が作用する。同様に、第1の配管40Aによって空間10Abと連結された左後の第1のゴム10Dが有する空間10Dbには、軸9Dに作用する前向きの荷重により、圧縮力が作用する。このように、両者の空間10Ab及び10Dbには同じ圧縮力が作用するため、空間10Ab及び10Db、並びに第1の配管40Aに充填された液体は流動しない。
【0041】
一方、左前の第1のゴム10Bが有する空間10Bbには、軸9Bに作用する前向きの荷重により、引張力が作用する。同様に、第2の配管40Bによって空間10Bbと連結された右後の第1のゴム10Cが有する空間10Cbには、軸9Cに作用する後向きの荷重により、引張力が作用する。このように、両者の空間10Bb及び10Cbには同じ引張力が作用するため、空間10Bb及び10Cb、並びに第2の配管40Bに充填された液体は流動しない。
【0042】
台車1が右方向に移動した場合の状況は、上記した台車1が左方向に移動した場合とは左右で逆になるだけである。つまり、右前の第1のゴム10Aが有する空間10Ab、及び第1の配管40Aによって空間10Abと連結された左後の第1のゴム10Dが有する空間10Dbには、同じ引張力が作用する。一方、左前の第1のゴム10Bが有する空間10Bb、及び第2の配管40Bによって空間10Bbと連結された右後の第1のゴム10Cが有する空間10Cbには、同じ圧縮力が作用する。そのため、空間10Ab及び10Dbの液体は流動しないし、空間10Bb及び10Cbの液体も流動しない。
【0043】
したがって、直線路走行時、台車1が左右方向に移動した場合、液体の流動が生じないため、前後左右の第1のゴム10A、10B、10C及び10Dの剛性は、変化せずに高いままである。つまり、第1のゴム10A、10B、10C及び10Dによる前後方向の支持剛性が高く(固く)なる。これにより、走行安定性を確保することができる。
【0044】
図4は、第1実施形態の鉄道車両が曲線路を走行する際の状況を模式的に示す上面図である。図4には、車両が右旋回の曲線路を走行する場合(図4中の白抜き矢印参照)の状況を例示し、レールを点線で示す。なお、図4には、車体の図示は省略する。
【0045】
曲線路走行時、台車1にはヨーイング変位が発生し、前後左右の各車輪4A、4B、4C及び4Dには、レールから前後方向のクリープ力が必然的に作用する。このクリープ力の発生状況は、直線路走行時の場合と若干異なる。
【0046】
一般的に、曲線路の軌道においては、内軌側のレールの長さよりも、外軌側のレールの長さが長い。外軌側のレールの曲線半径が内軌側のレールの曲線半径よりも軌間分だけ大きいからである。一方、1本の車軸に取り付けられた1対の車輪は、車輪と車軸が剛に結合されているため、左右の車輪の回転数は同一である。したがって、外軌側の長いレールを走行する外軌側の車輪と、内軌側の短いレールを走行する内軌側の車輪が、すべり無く走行するためには、外軌側のレールとの接触点における外軌側の車輪の半径は、内軌側のレールとの接触点における内軌側の車輪の半径より大きくなる必要がある。以下、すべり無しで走行する場合を想定し、左右の車輪の接触点位置での半径の差を、純転がり径差と称する。
【0047】
例えば、図4に示すように、車両が右旋回の曲線路を走行する場合、前側の輪軸3Aは次のような挙動をとる。一般に、曲線路通過時には、外軌側に向くアタック角が発生する。これにより、横クリープ力が発生するため、前側の輪軸3Aは外軌側に移動する。この場合、内軌側(右前)の車輪4Aと内軌側(右側)のレールとの接触点は車輪4Aの反フランジ側に移動する。そのため、レールとの接触点における右前の車輪4Aの半径は減少する。これに対し、外軌側(左前)の車輪4Bと外軌側(左側)のレールとの接触点は車輪4Bのフランジ側に移動する。そのため、レールとの接触点における左前の車輪4Bの半径は増加する。
【0048】
一般に、外軌側(左前)の車輪4Bはフランジ近傍でレールに接触するため、接触点における車輪4Bの半径が課題となる。つまり、左右の車輪4A及び4Bのレールとの接触部における半径の差は、実際には、純転がり径差よりも大きくなる。そうすると、右前の車輪4Aには後向きにクリープ力が作用し、左前の車輪4Bには前向きのクリープ力が作用する。
【0049】
一方、後側の輪軸3Bに関しては、一般に、アタック角がほぼ発生しない。これにより、輪軸3Bは軌道の中立位置近傍を走行する。そのため、レールとの接触点における左右の車輪4C及び4Dの半径はほぼ同一となる。そうすると、純転がり径差が確保できないため、前側の輪軸3Aとは異なり、右後の車輪4Cには前向きのクリープ力が作用し、左後の車輪4Dには後向きのクリープ力が作用する。
【0050】
これにより、右前の軸箱5Aには、右前の車輪4Aから後向きの荷重が作用する。左前の軸箱5Bには、左前の車輪4Bから前向きの荷重が作用する。右後の軸箱5Cには、右後の車輪4Cから前向きの荷重が作用する。左後の軸箱5Dには、左後の車輪4Dから後向きの荷重が作用する。
【0051】
右前の軸箱5Aに後向きの荷重が作用すると、その軸箱5Aの取付け部5Aaに固定された軸9Aにも後向きの荷重が作用する。左前の軸箱5Bに前向きの荷重が作用すると、その軸箱5Bの取付け部5Baに固定された軸9Bにも前向きの荷重が作用する。右後の軸箱5Cに前向きの荷重が作用すると、その軸箱5Cの取付け部5Caに固定された軸9Cにも前向きの荷重が作用する。左後の軸箱5Dに後向きの荷重が作用すると、その軸箱5Dの取付け部5Daに固定された軸9Dにも後向きの荷重が作用する。
【0052】
すると、右前の第1のゴム10Aが有する空間10Abには、軸9Aに作用する後向きの荷重により、圧縮力が作用する。これに対し、第1の配管40Aによって空間10Abと連結された左後の第1のゴム10Dが有する空間10Dbには、軸9Dに作用する後向きの荷重により、引張力が作用する。このように、両者の空間10Ab及び10Dbには相反する力が作用する。このため、圧縮力が作用する空間10Abから、引張力が作用する空間10Dbに、第1の配管40Aを通じて、液体が流動する(図4中の破線矢印参照)。
【0053】
一方、左前の第1のゴム10Bが有する空間10Bbには、軸9Bに作用する前向きの荷重により、引張力が作用する。これに対し、第2の配管40Bによって空間10Bbと連結された右後の第1のゴム10Cが有する空間10Cbには、軸9Cに作用する前向きの荷重により、圧縮力が作用する。このように、両者の空間10Bb及び10Cbには相反する力が作用する。このため、圧縮力が作用する空間10Cbから、引張力が作用する空間10Bbに、第2の配管40Bを通じて、液体が流動する(図4中の破線矢印参照)。
【0054】
車両が左旋回の曲線路を走行する場合の状況は、上記した車両が右旋回の曲線路を走行する場合と左右で逆になるだけである。つまり、右前の第1のゴム10Aが有する空間10Abには引張力が作用し、第1の配管40Aによって空間10Abと連結された左後の第1のゴム10Dが有する空間10Dbには圧縮力が作用する。一方、左前の第1のゴム10Bが有する空間10Bbには圧縮力が作用し、第2の配管40Bによって空間10Bbと連結された右後の第1のゴム10Cが有する空間10Cbには引張力が作用する。そのため、空間10Ab及び10Dbの液体は流動し、空間10Bb及び10Cbの液体も流動する。
【0055】
したがって、曲線路走行時、液体の流動により、前後左右の第1のゴム10A、10B、10C及び10Dの剛性が低下する。つまり、第1のゴム10A、10B、10C及び10Dによる前後方向の支持剛性が低く(柔らかく)なる。これにより、曲線通過性を確保することができる。
【0056】
以上のとおり、第1実施形態によれば、軸箱支持装置6A、6B、6C及び6Dの第1の弾性要素(第1のゴム10A、10B、10C及び10D)による支持剛性を、直線路走行時には高くし、曲線路走行時には低くすることができる。つまり、軸箱支持装置6A、6B、6C及び6Dによる支持剛性を各走行時に適正な固さに切り替えることができる。そのため、走行安定性と曲線通過性を両立できる。しかも、そのような支持剛性の切替えは、アクチュエータ及び制御装置といった特殊な機械部品を用いることなく、車両の動きに応じて受動的に行える。したがって、台車の構成は簡素である。
【0057】
[第2実施形態]
図5は、本発明の第2実施形態による鉄道車両用台車を模式的に示す上面図である。第2実施形態は、上記の第1実施形態の構成を基本としたものであり、第1実施形態と重複する説明は適宜省略する。
【0058】
曲線路走行時、レールの軌道不整や局所的な継ぎ目等により、輪軸に変動的な前後方向の荷重が付与される場合がある。この場合、車両(台車)に変動的な高い横圧が発生する。また、レールの継目等では、車両(台車)に衝撃的に高い荷重が与えられる。これらの衝撃荷重の付与により、台車の部品の寿命低下が懸念される。このような事態は、前後方向の衝撃荷重を減衰する減衰要素を軸箱支持装置に付加することによって改善できる。しかし、軸箱支持装置の周囲のスペースは限られているため、オイルダンパ等の減衰要素の設置は困難である。
【0059】
このような事態に対処するため、第2実施形態では、図5に示すように、第1の配管40A及び第2の配管40Bに、それぞれオリフィス板41A及び41Bが設けられている。オリフィス板41A及び41Bは、液体の流動に対する圧力損失要素である。つまり、曲線路走行時、液体が第1の配管40Aを通じて空間10Abと空間10Dbとの間を流動する際、オリフィス板41Aが液体の流動抵抗となる。同様に、液体が第2の配管40Bを通じて空間10Bbと空間10Cbとの間を流動する際、オリフィス板41Bが液体の流動抵抗となる。したがって、オリフィス板41A及び41Bにより、曲線路走行時の衝撃荷重を減衰できる。
【0060】
その他、本発明は上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。例えば、第1のゴム10A〜10D(第1の弾性要素)の内穴10Aa〜10Daは、左右方向に沿って形成された構成であっても構わない。つまり、軸9A〜9Dが左右方向に沿って延びる構成であっても構わない。
【0061】
第1のゴム10A〜10Dの空間10Ab〜10Dbは、軸9A〜9Dに対して前後方向で軸箱5A〜5D側に形成された構成であっても構わない。要するに、第1の配管40Aによって連結された空間10Abと空間10Dbが、軸9A及び9Dに対して互いに前後方向で反対側となる位置に形成され、第2の配管40Bによって連結された空間10Bbと空間10Cbが、軸9B及び9Cに対して互いに前後方向で反対側となる位置に形成された構成であればよい。
【0062】
第1のゴム10A〜10Dが軸箱5A〜5Dの取付け部5Aa〜5Daとリンク7A〜7Dを結合する限り、外筒8A〜8Dが取付け部5Aa〜5Daに固定され、軸9A〜9Dがリンク7A〜7Dの端に固定された構成であっても構わない。
【0063】
オリフィス板41A及び41Bは、第1の配管40A及び第2の配管40Bのうちの一方に設けられても構わない。また、オリフィス板41A及び41Bは、他の圧力損失要素(例:フィルタ、曲がり管路等)に置き換えることもできる。
【0064】
上記した第1のゴム10A〜10Dに関する構成は、第2のゴム20A〜20Dに適用することも可能である。第2のゴム20A〜20Dも前後方向の荷重を負担するからである。ただし、第2のゴム20A〜20Dを無くし、台車枠2とリンク7A〜7Dを直接結合しても構わない。
【0065】
また、上記の実施形態では、軸箱支持装置としてモノリンク式の軸箱支持装置を採用しているが、いわゆる軸はり式の軸箱支持装置、又は支持板(片板ばね)式の軸箱支持装置を採用することもできる。軸はり式とは、軸箱から前後方向に延びる腕の先端部にゴムブッシュを挿入し、このゴムブッシュと台車枠とを結合する形式である。軸はり式を採用する場合、軸箱から延びる腕が上記の実施形態でいう取付け部に相当する。片板ばね式とは、台車枠から前後方向に延びる平行な2枚の板ばねの先端部にゴムブッシュを挿入し、このゴムブッシュと軸箱から突出する取付け部とを結合する形式である。軸はり式の軸箱支持装置、及び片板ばね式の軸箱支持装置のいずれも、ゴムブッシュが上記の実施形態でいう第1のゴムに相当する。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、あらゆる鉄道車両に有効に利用できる。
【符号の説明】
【0067】
1:台車
2:台車枠
2A、2B:側はり
2C:横はり
3A、3B:輪軸
4A、4B、4C、4D:車輪
5A、5B、5C、5D:軸箱
5Aa、5Ba、5Ca、5Da:取付け部
6A、6B、6C、6D:軸箱支持装置
7A、7B、7C、7D:リンク
8A、8B、8C、8D:外筒
9A、9B、9C、9D:軸
10A、10B、10C、10D:第1のゴム
10Aa、10Ba、10Ca、10Da:内穴
10Ab、10Bb、10Cb、10Db:空間
20A、20B、20C、20D:第2のゴム
30A、30B、30C、30D:第3の弾性要素
40A、40B:配管
41A、41B:オリフィス板
図1
図2
図3
図4
図5