(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
大気圧下で吹酸脱炭する一次精錬を行った溶鋼を、少なくとも出鋼工程と合金添加を含む取鍋処理工程で順次処理して溶製した後、連続鋳造工程でタンディッシュに注湯して連続鋳造する高清浄鋼の製造方法において、
前記出鋼工程での溶鋼の出鋼の際に、溶鋼及びスラグのいずれか一方又は双方に生石灰を投入すると共に、金属アルミニウム及び金属アルミニウムを含むフラックスのいずれか一方又は双方を添加して、スラグを改質処理し、スラグのT.Fe濃度とMnO濃度の合計を5質量%以下、かつ、溶鋼の溶存酸素濃度を100ppm以上300ppm以下の範囲とした後、
前記取鍋処理工程で溶鋼に金属アルミニウムを更に添加し、該溶鋼を3分以上10分以下撹拌処理して脱酸処理し、該脱酸処理から前記連続鋳造工程で連続鋳造を開始するまでに10分以上静置して、
前記連続鋳造工程では、溶鋼を受け入れる受湯部と、該溶鋼を連続鋳造する鋳型に注入する排湯部とに仕切る堰が内部に設けられ、該堰の高さを溶鋼深さの0.3倍以上0.8倍以下とした前記タンディッシュに、前記脱酸処理後に静置した溶鋼を注湯することを特徴とする高清浄鋼の製造方法。
【背景技術】
【0002】
転炉等で大気圧下で吹酸脱炭して製造した一次精錬終了後の溶鋼は、鋼中の溶存酸素濃度が高いため、脱酸処理が施された後に鋳造され、製品としての特性を得ている。
脱酸には、酸素と結合して酸化物を生成する元素の添加が一般に行われており、Al(アルミニウム)の他、Si(珪素)、C(炭素)、Ti(チタン)、Ca(カルシウム)、Zr(ジルコニウム)、REM(希土類金属)等を、脱酸材として用いることが知られている。
このうち、脱酸材として用いるAlは、安価で、かつ、強い脱酸効果があり、これを用いて製造した鋼材は、飲料缶の用途を含めて使用実績があるため、汎用性が高い。
【0003】
しかし、Alによる脱酸反応後に生成するアルミナ(Al
2O
3)は、凝固後の鋼材(連続鋳造して得た鋳片)中に介在物として残存し、製品品質を損なう原因となる場合がある。例えば、飲料缶の素材として用いる際の製缶加工時の割れの原因となるため、品質の向上を図る上で、アルミナ介在物の悪影響を排除する必要がある。
更に、溶鋼中にアルミナが多量に存在すると、鋳造時において、浸漬ノズル内面へのアルミナの付着や凝集が促進され、鋳型(モールド)内での偏流発生やノズル閉塞が生じることに起因して、湯面の変動量が大きくなり、モールドパウダーの混入(パウダー系介在物)による品質劣化の原因となる。
なお、脱酸材としてAl以外の金属を用いた場合でも、生成した金属酸化物(介在物)は製品品質を損なう可能性があり、この点ではAlと同様である。
【0004】
そこで、以下の方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、スラグ改質後にガス吹込み用ランスにより、不活性ガスと共にCaO(生石灰)とAl
2O
3からなる粒状フラックスを吹付け、溶鋼中に浮遊しているスラグ系介在物と合体させ、更に取鍋底部よりArガス(アルゴンガス)を吹込み、スラグとの接触を避けながら不活性ガス下で脱酸を行うことにより、溶鋼中の介在物の浮上を促進して低減させる方法が開示されている。
詳細には、転炉内にCaOを投入し、スラグを固化させて取鍋へ出鋼し、取鍋上スラグに均一にAlを散布して、スラグ中の酸化鉄濃度を3質量%以下に改質する。更に、脱酸材として金属Alを添加し、生成する介在物の改質剤としてCaOを活用し、溶鋼の撹拌により介在物を浮上させる。
【0005】
また、特許文献2には、生成したアルミナ介在物のスラグへの吸着除去を促進するために、出鋼後から鋳造開始までの間の取鍋スラグの酸素ポテンシャルを低く抑えて、スラグによる溶鋼の再酸化を防止すると共に、スラグの成分組成をAl
2O
3吸収能に優れたものに調整する技術が開示されている。
詳細には、精錬炉からの出鋼時に、出鋼流に向けて所定量のCaOを投入し、次いで出鋼後の取鍋スラグにスラグ改質剤として、金属Alを単体又は金属Alを含むフラックスの形態で添加する。更に、RH脱ガス設備で脱ガス処理を実施し、脱ガス処理中及び/又は脱ガス処理後に、CaO又はAl
2O
3を取鍋内スラグに添加し、スラグの(wt%CaO)/(wt%Al
2O
3)の値を0.4〜0.7の範囲内、SiO
2濃度を2〜15wt%の範囲内に調整し、かつ、T.Fe濃度を3.0wt%以下に維持することにより、スラグ中の酸素による再酸化を防止する。
【0006】
そして、特許文献3には、真空脱ガス装置を使用した溶鋼の脱炭処理、及び、これに続く脱酸処理において、脱炭に必要な溶存酸素を適正に保持すると同時に、Al
2O
3の形成を抑制する方法が開示されている。
詳細には、出鋼時にスラグ改質剤を添加してスラグ中の低級酸化物の濃度を調整し、溶鋼環流式の脱ガス装置を用いて脱炭処理した後、Al脱酸処理の前及び/又は後で、スラグ改質剤を添加する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
まず、本発明の高清浄鋼の製造方法に想到した経緯について説明する。
【0015】
(1)アルミナ介在物の生成に関する知見
アルミナ介在物(以下、単に介在物ともいう)は、スラグ中のFeO、MnOや、溶鋼の溶存酸素などと、脱酸材であるAlとが反応することで生成する。
このため、転炉からの出鋼時(及び/又は出鋼後)のスラグ(及び/又は溶鋼)に、金属アルミニウム等を含むフラックス(スラグ改質剤)を添加するスラグ改質処理(一次脱酸処理又は一次脱酸ともいう)を行い、その後に行う脱酸処理(以下、最終脱酸ともいう)前にスラグのFeOやMnOの濃度を低下させる、即ちスラグの酸化度を下げることは、Al
2O
3の生成量を抑制するために有効である。
【0016】
従って、スラグ改質後の溶鋼の再酸化を回避するため、スラグ酸化度としては、「(質量%T.Fe)+(質量%MnO)」を5質量%以下とする。なお、(質量%T.Fe)と(質量%MnO)はそれぞれ、スラグ中のFe濃度とMnO濃度であり、この(質量%T.Fe)は、スラグ中の全ての酸化鉄(例えば、FeOやFe
2O
3)をFeに換算したFe濃度を示している。
しかしながら、上記したスラグ改質を実施しても、溶鋼中に溶存酸素(フリー酸素)が残存するため、Al
2O
3の生成を完全に抑制することは不可能である。なお、生成当初のアルミナ介在物は、その粒径が小さく(20μm以下)、時間の経過によらずそのまま溶鋼内に残留する場合と、生成した介在物が時間経過と共に緩やかに凝集する場合とがある。
【0017】
転炉吹錬等の一次精錬直後では、一般に溶鋼の溶存酸素濃度(以下、溶鋼中溶存酸素濃度ともいう)が600〜900ppm程度と高く、この状態で金属アルミニウムの添加による脱酸処理を行うと、極めて多量の微細なアルミナが生成することとなる。この生成した微細なアルミナの一部は、前記したように、時間経過と共に凝集合体して粗大化し、浮上除去されるものもあるが、鋳造までの限られた時間内に、全ての介在物、特に20μm以下クラスの介在物を、完全に浮上除去させることは事実上不可能である。
一方、前記した最終脱酸時のアルミナ生成量は、脱酸対象となる溶鋼中溶存酸素濃度と金属アルミニウムの添加量に支配される。即ち、最終脱酸前の溶鋼中溶存酸素濃度を低下させた上で、金属アルミニウムの添加量を低減し、溶鋼中溶存酸素以外(スラグ中のFeOやMnO)の酸素によるアルミニウム酸化(スラグなど)を抑制することが、極めて重要である。
【0018】
以上のことから、一次精錬終了直後のスラグ酸化度と溶鋼中溶存酸素濃度が高い状態(スラグ酸化度:15質量%以上、溶鋼中溶存酸素濃度:600〜900ppm)において、出鋼の際(出鋼時あるいは出鋼後)に、溶鋼及び/又はスラグに生石灰を投入すると共に、金属Al及び/又は金属Alを含むフラックスを添加するスラグ改質処理を行い、当該処理時に生成したアルミナ系介在物を低融点のカルシウムアルミネート(CaO−Al
2O
3)として浮上除去させる。更に、スラグ改質実施後の溶鋼中溶存酸素濃度を低下させた状態(100〜300ppm)で、金属アルミニウムによる最終脱酸を行うことで、溶鋼中に残存するアルミナの量を低減させることができる。
上記したように、スラグ改質実施後の溶鋼中溶存酸素濃度を300ppm以下とすることで、金属アルミニウムによる最終脱酸までの時間帯で、微小介在物が生成することを抑制でき、本発明の課題解決に有効である。
【0019】
上記したAl
2O
3系介在物の浮上除去は、最終的にはスラグに吸着(吸収)されることとなるが、スラグ改質剤として金属Alや金属Alを含むフラックスを添加すると、アルミニウムによるスラグ中低級酸化物(FeO、MnO)の還元反応が起こり、スラグ中のAl
2O
3成分の活量が高くなる。また、スラグ中のAl
2O
3活量が高いと、スラグへのAl
2O
3の吸収能が下がるため、浮上したAl
2O
3粒子がスラグ内に吸着されず、溶鋼中に再懸濁する可能性が高くなる。
これを防止するために、上記した改質処理時にスラグ改質剤としての生石灰を投入し、スラグ中のAl
2O
3成分の活量を下げることで、スラグへのAl
2O
3の吸収能を確保することができるため、生石灰の添加は有効である。なお、介在物が微小になるほど(例えば、20μm以下)、溶鋼への再度の混入が発生する可能性が高くなることから、生石灰の添加は、本発明のように微小な介在物の低減を課題とする発明にとって有効である。
【0020】
(2)溶鋼の撹拌処理に関する知見
取鍋を用いた溶鋼の撹拌処理は、一般に取鍋底部よりArガスを溶鋼中に吹込み、ガス気泡の浮上効果を用いることで行われ、取鍋内の溶鋼の成分や温度の均一化、また、介在物の浮上除去に用いられている。
本発明者らは、溶鋼の撹拌処理を行うに際し、アルミナの生成量(最終脱酸直後の介在物の存在状況)によって撹拌の寄与形態が異なることを、数々の実験等から知見した。その状況は、以下の通りである。
【0021】
溶鋼中のアルミナ介在物が比較的多い場合(スラグ改質を行うことなく脱酸処理を施した場合)、撹拌処理による介在物個数の絶対値改善効果は小さい。
この場合、取鍋でのガス撹拌によるエネルギーは、その大半が既生成の粗大介在物の浮上運動に費やされるため、微小介在物の顕著な個数減少効果が小さい。また、微細な(20μm以下の)アルミナ介在物の個数が多いため、撹拌を行わずとも粒子同士の衝突頻度が高くなり、生成したアルミナ介在物は時間の経過と共に凝集合体による浮上が進む。しかし、取鍋での金属アルミニウムの添加により生成するアルミナ介在物の個数が多過ぎるため、粒径が増加していない介在物は、依然として溶鋼中に残存する。
このように、アルミナ介在物が比較的多い場合、撹拌による介在物除去の効果が不明瞭であると共に、所定の撹拌処理を行っても凝集合体しきれない微細な介在物の除去が困難であるため、撹拌処理の有無による介在物の粒度分布の大幅な変化が認められない。
【0022】
一方、溶鋼中のアルミナ介在物が比較的少ない場合(スラグ改質を実施し、スラグ酸化度と溶鋼の溶存酸素濃度を所定量以下に低減した場合)、取鍋での金属アルミニウムの添加によりアルミナ介在物が生成しても、溶鋼中溶存酸素濃度を低減しているため、溶鋼中のアルミナ介在物量の増加には限界があり、撹拌処理による微細な介在物粒子の衝突頻度が増加するため、介在物の粒径分布はやや増加する(粒径が大きくなる)。
この場合、撹拌処理により、粒径が5〜20μmクラスの微小介在物の個数が減少し、30〜50μmクラスの介在物の個数が増加することを知見した。
これは、スラグ改質実施後の溶鋼に金属アルミニウムを添加し、この金属アルミニウムの添加直後にガス撹拌を施すことで、生成した、個数が少ない微細なアルミナ介在物のガス気泡による捕捉効果と、撹拌(流動)による介在物粒子の衝突に伴う凝集合体の効果が得られたことに起因するものと考えられる。
【0023】
従って、スラグ改質によりスラグ酸化度と溶鋼の溶存酸素濃度を低減させた状態で、更に金属アルミニウムを添加することと、その直後に撹拌処理を所定時間行うことが重要である。
【0024】
(3)溶鋼の静置に関する知見
上記した撹拌処理によって凝集合体による浮上効果を更に高めるためには、撹拌処理(最終脱酸)後の静置が有効である。
凝集合体による粗大化により、介在物自体の浮力は大きくなるが、撹拌処理時はバブリングによる上昇流の形成と共に、それに相当する下降流も生じているため、撹拌処理のみでは介在物の浮上除去に不十分な場合がある。このため、撹拌処理後から連続鋳造開始までの間に10分以上、好ましくは30分以上の静置時間をとることで、介在物の浮上除去を著しく促進できる。
この浮上除去の促進は、特に粒径が70μm以上の介在物に有効である。なお、粒径が5〜50μm程度の介在物では、顕著な浮上除去効果は認められにくいが、凝集合体の促進効果は認められ、5〜20μmの介在物の個数減少には効果がある。
ここで、静置とは、例えば、溶鋼へガス吹込みや合金材投入を行うことなく、取鍋内の溶鋼に何らかの処理を施さない状態を指す。なお、取鍋へ保温材を投入することは、溶鋼の処理ではないため、静置中に保温材を投入しても差し支えない。
【0025】
(4)タンディッシュに関する知見
連続鋳造においては、連続鋳造速度に対応する量で溶鋼がタンディッシュに注湯されるため(例えば、8トン/分以下程度の量)、タンディッシュ内での溶鋼の流動速度が、取鍋のガス撹拌における溶鋼の撹拌流速よりも小さく、介在物の凝集合体の効果が望みにくい。
しかし、タンディッシュの内部に堰(下堰)を立設し、タンディッシュ内の溶鋼に上昇流を発生させると、タンディッシュ内の湯面に存在するスラグの撹拌効果を抑制した状態で、30〜50μm程度の粒子径を有する溶鋼中の介在物を浮上させ、これをスラグに捕捉させる効果が期待できる。
【0026】
従って、タンディッシュの内部に、受湯部と排湯部を分割(独立して配置)する堰を立設する必要がある。
【0027】
以上の知見に基づき、本発明者らは、スラグ改質と最終脱酸の各処理を施した溶鋼を静置する精錬の効果を、タンディッシュの効果で補完する、高清浄鋼の製造方法に想到した。具体的には、精錬の効果、即ち、粒径5〜20μmクラスの微小介在物の個数減少に伴う、粒径30〜50μmクラスの介在物の個数増加と、粒径70μm以上の介在物の浮上除去の促進を、タンディッシュの効果、即ち、粒径が30〜50μm程度の介在物の浮上除去の促進で、補完することにより、従来よりもアルミナ介在物の個数を低減でき、特に粒径が20μm以下クラスのアルミナ介在物の個数が低減可能となる。
以下、
図1、
図2を参照しながら、詳しく説明する。
本発明の一実施の形態に係る高清浄鋼の製造方法は、大気圧下で吹酸脱炭する一次精錬を行った(転炉で処理した)溶鋼を、少なくとも出鋼工程と合金添加を含む取鍋処理工程で順次処理して溶製した後、連続鋳造工程でタンディッシュ10に注湯して連続鋳造する方法である。
【0028】
まず、一次精錬を行った溶鋼を、出鋼工程で、取鍋へ供給する。
転炉吹錬等の一次精錬終了直後の転炉内のスラグ酸化度と溶鋼の溶存酸素濃度は、高い状態(スラグ酸化度:15質量%以上、溶鋼中溶存酸素濃度:600〜900ppm)である。
そこで、出鋼工程において、スラグ改質処理を行う。
具体的には、転炉内の溶鋼を取鍋に出鋼する際(出鋼時あるいは出鋼後)に、溶鋼及びスラグのいずれか一方又は双方に生石灰を投入すると共に、金属アルミニウム(単体)及び金属アルミニウムを含むフラックスのいずれか一方又は双方を添加する。
【0029】
これにより、スラグのT.Fe濃度とMnO濃度の合計を5質量%以下、かつ、溶鋼中の溶存酸素濃度を100ppm以上300ppm以下の範囲とする。
なお、スラグのT.Fe濃度とMnO濃度の合計は、前記した知見から5質量%以下(好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下)であればよく、その下限値については特に規定していないが、現実的には、例えば、0.5質量%程度である。
【0030】
そして、取鍋処理工程において、溶鋼の溶存酸素濃度とスラグ酸化度を低下させた状態(溶鋼中溶存酸素濃度:100〜300ppm、スラグ酸化度:5質量%以下)で、取鍋内の溶鋼に、更に金属アルミニウムを添加する。
なお、溶鋼への金属アルミニウムの添加量は、アルミナ生成量の減少につなげるため少なくすることが好ましく、溶鋼中の溶存酸素量に応じて、例えば、溶鋼1トンあたり0.1〜2.4kg程度添加するのがよい。
この取鍋処理工程では、溶鋼の成分調整(最終成分)を考慮して、金属アルミニウムの添加と合金材の添加が行われる。
【0031】
上記した金属アルミニウムが添加された溶鋼を3分以上10分以下(好ましくは、下限を4分、上限を8分)の範囲で撹拌処理して最終脱酸を行う。
なお、溶鋼の撹拌処理には、取鍋の底部からAr(アルゴン)などの不活性ガスを吹込むガス撹拌(バブリング)を使用できる。
ここで、撹拌処理の時間(撹拌時間)が3分未満の場合、前記した撹拌の作用効果が顕著に得られない。一方、撹拌時間が10分超の場合、溶鋼の温度低下が大きくなり、新たなアルミナ介在物粒子が生成し易くなる。これは、溶鋼の温度低下に伴い、「2
Al+3
O→Al
2O
3」の反応の溶解度積が低下することに起因する。
これにより、溶鋼中に生成した小さなアルミナ介在物の凝集合体の効果を促進できる。
【0032】
以上のように、溶鋼中溶存酸素濃度とスラグ酸化度を低下させた状態の溶鋼に、更に金属アルミニウムを添加して最終脱酸を行うことで、溶鋼中に残存するアルミナの量を低減させることができる。
なお、上記した最終脱酸、即ち金属アルミニウムの添加や撹拌処理は、例えば、簡易取鍋精錬設備(CAS)を用いて大気圧下で行われ、真空脱ガス設備(RH)を用いた真空下で行うものではない。このため、製造コストの低減が図れる。
【0033】
次に、脱酸処理の終了から連続鋳造工程で連続鋳造を開始するまでに、溶鋼を取鍋に入れた状態で、10分以上(好ましくは30分以上)静置する。
なお、溶鋼の静置時間は、前記した知見から10分以上(好ましくは30分以上)であればよく、その上限値については特に規定していないが、静置時間が長くなるに伴い、溶鋼の温度低下が大きくなり、新たなアルミナ介在物粒子が生成し易くなることから、現実的には、例えば、60分程度である。
これにより、上記した撹拌処理の凝集合体による浮上効果を更に高めることができる。
【0034】
続いて、金属アルミニウムの添加後に撹拌処理し静置した溶鋼を、溶鋼鍋(上記した取鍋)11から、ロングノズル12を介してタンディッシュ10に注湯する(
図1参照)。
タンディッシュ10には、その内部を、溶鋼鍋11からロングノズル12を介して溶鋼を受け入れる受湯部13と、溶鋼を連続鋳造する鋳型14に注入する排湯部15とに仕切る堰(下堰)16が設けられている。なお、排湯部15の底部には浸漬ノズル17が設けられ、排湯部15内の溶鋼を浸漬ノズル17を介して鋳型14に注入している。
堰16は、タンディッシュ10の底面18から浴面(湯面)に向かうように立設されたものであり、その高さを、溶鋼深さ(浴深)H(m)の0.3倍(0.3×H)以上0.8倍(0.8×H)以下にしたものである。なお、溶鋼深さH(m)とは、堰16を配置した部分のタンディッシュ10の底面18から浴面までの距離を意味する。
【0035】
前記したように、タンディッシュ内で溶鋼の上昇流を有効に作用させるには、堰の高さを、溶鋼深さの0.3倍以上にする必要がある。一方、堰の高さが溶鋼深さの0.8倍を超える場合、上昇流がタンディッシュ内の湯面スラグを撹拌する可能性があり好ましくない。
従って、堰16の高さを、溶鋼深さH(m)の0.3倍(好ましくは、0.4倍)以上0.8倍(好ましくは、0.7倍)以下にした。
なお、堰は、タンディッシュ内の溶鋼の流れ方向に、間隔を有して複数設置することもできる。この場合、溶鋼の流れ方向に隣り合う堰の間に、溶鋼に下降流を形成するための上堰を設置して、溶鋼の流れを側面視して上下方向にジグザグ状にし、タンディッシュ内での溶鋼の滞留時間を長くすることもできる。
【0036】
また、堰16の底部近傍には、使用後のタンディッシュ10内の残湯の排出を容易にするため、一般に貫通孔19を設けている(
図2参照)。この貫通孔19の形状は、正面視して四角形であり、浴面の幅をWとすると、高さ方向の内幅W1が1/5×W、幅方向の内幅W2が1/5×Wである。なお、貫通孔の構成は、残湯の排出を容易にできる構成であれば、特に限定されるものではなく、例えば、高さ方向の内幅W1を1/5×W以下の範囲で、また、幅方向の内幅W2を1/5×W以下の範囲で、それぞれ調整できる。
この貫通孔19は、堰16に2個(1個又は複数個でもよい)形成されているが、この程度の貫通孔19であれば、前記した溶鋼に上昇流を発生させる作用効果は得られる。また、上記した貫通孔と開口面積が同等か、それ以下の貫通孔であれば、タンディッシュ内の溶鋼に上昇流を発生させることが可能であり、本発明の作用効果は得られるものと考えられる。
【0037】
これにより、タンディッシュ10内の溶鋼に上昇流を発生させ、凝集合体した30〜50μm程度の粒子径を有するアルミナ介在物を浮上させて、これを湯面上のスラグに捕捉させる効果が得られる。
従って、得られた溶鋼を連続鋳造することで、従来よりもアルミナ介在物の個数を低減でき、特に粒径が20μm以下クラスのアルミナ介在物の個数を低減した鋼材(鋳片)を製造できる。特に、この鋼材は、介在物の含有量規制に対して最も要求の厳しい飲料缶用鋼板などの製造時においても、介在物に起因する製品不合を著しく低減できることが可能となる。
【実施例】
【0038】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
ここでは、以下の方法を基本として各条件を変更し、鋳片の清浄性の評価を行った。
350トンの転炉にて一次精錬を行った後、取鍋内に出鋼した(出鋼後の)溶鋼(炭素濃度:0.037質量%、溶鋼中溶存酸素濃度:700ppm)に、溶鋼1トンあたり0.9kgの生石灰を投入し、同時に、金属アルミニウムを含むフラックス(アルミドロス)を、溶鋼1トンあたり1.4kg添加した。その後、簡易取鍋精錬設備(CAS)にて、取鍋内の溶鋼に金属アルミニウムを、溶鋼1トンあたり0.1〜2.4kg添加し、更に2〜14分間の取鍋バブリング処理(撹拌処理)を施した後、鋳造開始まで6〜49分間静置した。
そして、この取鍋内の溶鋼を、浴深H(m)に対して0.2×H〜0.9×Hの高さの下堰を有するタンディッシュに注湯し、連続鋳造を実施した。
試験条件とその結果及び評価を、表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1において、「スラグ改質の有無」の欄には、スラグ改質、即ち出鋼後の生石灰の投入とフラックスの添加の有無を記載しており、この両方を行った場合を「有」とし、この両方を行わなかった場合を「無」とした。
また、「最終脱酸前」の欄には、撹拌処理直前の金属アルミニウム添加前(スラグ改質を行った場合は改質後)のスラグ酸化度((%T.Fe)+(%MnO))と溶鋼の溶存酸素濃度([O](ppm))を記載している。
そして、「取鍋」の欄には、取鍋での撹拌処理の時間(撹拌時間)と静置時間を記載している。なお、「静置後T.[O]」の欄には、取鍋で撹拌処理して静置した後の溶鋼のトータル酸素濃度(T.[O](ppm))を記載している。
更に、「鋳片」の欄のうち、「T.[O](ppm)」の欄には、連続鋳造を行った後の鋳片のトータル酸素濃度を記載し、「介在物個数」の欄には、代表位置から切り出したサンプル(25mm角)を光学顕微鏡で調査した結果(アルミナ介在物の個数)を記載している。
なお、「評価」は、「介在物個数」の結果が1.00(個/cm
2)以下の場合を清浄性が良好(○)と判断し、1.00(個/cm
2)超の場合を清浄性が悪い(×)と判断した。
【0041】
表1中の実施例1〜8は、スラグ改質を行うことで、スラグ酸化度と溶鋼の溶存酸素濃度を適正範囲内(スラグ酸化度:5質量%以下、溶鋼中溶存酸素濃度:100〜300ppm)とした溶鋼に、更に金属アルミニウムを添加し、適正範囲内の時間(3〜10分の範囲)で撹拌処理して、適正範囲内の時間(10分以上)で静置した後、適正範囲内の高さ(0.3×H〜0.8×Hの範囲)の下堰を有するタンディッシュへ注湯して、連続鋳造した結果である。
この場合、スラグ改質によるアルミナ系介在物(カルシウムアルミネート)の浮上除去効果、スラグ改質後の最終脱酸によるアルミナ介在物の生成抑制効果、溶鋼の撹拌処理による小さなアルミナ介在物の凝集合体効果、溶鋼の静置による大きなアルミナ介在物の浮上除去効果、及び、タンディッシュの下堰による溶鋼への上昇流付与効果が得られた。
その結果、表1に示すように、鋳片のトータル酸素濃度を低減できると共に、鋳片中に存在するアルミナ介在物の個数を低減でき、鋳片の清浄性を良好にできた(評価:○)。
【0042】
一方、比較例9は、実施例1の条件において、一次精錬後に、スラグ改質を施すことなく脱酸処理を行った場合の結果である。
この場合、スラグ改質を施さなかったため、溶鋼に添加する金属アルミニウム量を多くしなければならず、アルミナ介在物が多く生成し、溶鋼の撹拌処理による小さなアルミナ介在物の凝集合体効果や、静置によるアルミナ介在物の浮上除去効果が十分に得られなかった。
その結果、表1に示すように、鋳片中に存在するアルミナ介在物の個数が多くなり、鋳片の清浄性が悪くなった(評価:×)。
【0043】
比較例10、11は、最終脱酸時の金属アルミニウムを添加した溶鋼の撹拌時間を、適正範囲外の時間(比較例10:2分、比較例11:14分)とした場合の結果である(実施例1、4、5との比較)。
この場合、比較例10においては、撹拌時間が不足して撹拌処理による小さなアルミナ介在物の凝集合体効果が十分に得られず、また、比較例11においては、撹拌時間の長期化に伴い溶鋼温度が低下して多くのアルミナ介在物が生成した。
その結果、表1に示すように、鋳片中に存在するアルミナ介在物の個数が多くなり、鋳片の清浄性が悪くなった(評価:×)。
【0044】
比較例12は、最終脱酸後の溶鋼の静置時間を、適正範囲外の時間(6分)とした場合の結果である。
この場合、静置時間が不足して、静置によるアルミナ介在物の浮上除去に要する時間を十分に確保できず、表1に示すように、鋳片中に存在するアルミナ介在物の個数が多くなって、鋳片の清浄性が悪くなった(評価:×)。
【0045】
比較例13は、最終脱酸時の金属アルミニウムを添加した溶鋼を撹拌処理しなかった場合の結果である。
この場合、撹拌処理による小さなアルミナ介在物の凝集合体効果が得られず、表1に示すように、鋳片中に存在するアルミナ介在物の個数が多くなり、鋳片の清浄性が悪くなった(評価:×)。
【0046】
比較例14、15は、タンディッシュに設けられた下堰を、適正範囲外の高さ(比較例14:0.2×H、比較例15:0.9×H)とした場合の結果である(実施例1、7、8との比較)。
この場合、比較例14においては、下堰の高さが低過ぎてタンディッシュ内で溶鋼の上昇流を有効に作用させることができず、また、比較例15においては、下堰の高さが高過ぎて上昇流がタンディッシュ内の湯面スラグを撹拌した。
その結果、表1に示すように、鋳片中に存在するアルミナ介在物の個数が多くなり、鋳片の清浄性が悪くなった(評価:×)。
【0047】
従来法は、一次精錬後に、スラグ改質を施すことなく金属アルミニウムが添加された溶鋼を、撹拌と静置を行うことなく、タンディッシュに注湯して連続鋳造した場合の結果である。
この場合、スラグ改質を施さなかったため、溶鋼に添加する金属アルミニウム量が多くなり、アルミナ介在物が多く生成し、また、溶鋼の撹拌処理や静置による効果も得られなかった。
その結果、表1に示すように、鋳片中に存在するアルミナ介在物の個数が多くなり、鋳片の清浄性が悪くなった(評価:×)。
【0048】
ここで、上記した従来法と実施例5について、取鍋での静置後における溶鋼中のアルミナ介在物の粒径頻度分布を調査した結果を
図3に、連続鋳造した鋳片中のアルミナ介在物の粒径個数分布を調査した結果を
図4に、それぞれ示す。なお、
図3の縦軸は、全てのアルミナ介在物(粒径範囲が5μm以上20μm以下、20μm超30μm以下、30μm超50μm以下、及び、50μm超)の合計個数を100%としたときの各粒径範囲のアルミナ介在物の個数割合を示している。
【0049】
図3に示すように、アルミナ介在物の粒径範囲が、5μm以上20μm以下と20μm超30μm以下の個数割合はともに、実施例5が従来法より低くなっているが、30μm超50μm以下の個数割合は、実施例5が従来法より高くなっている。
即ち、5μm以上20μm以下と20μm超30μm以下の個数割合の、実施例5の従来法に対する減少分が、30μm超50μm以下の個数割合の、実施例5の従来法に対する増加分に相当する。これは、実施例5が、最終脱酸前にスラグ改質を行っているため、溶鋼中のアルミナ介在物量を少なくでき、その結果、溶鋼の撹拌処理と静置による小さなアルミナ介在物の凝集合体効果が得られたことに起因するものと考えられる。
【0050】
そして、上記した溶鋼を、所定高さの堰を有するタンディッシュに注湯し、連続鋳造することで、実施例5については、タンディッシュの排湯部内の対流効果が得られ、
図4に示すように、アルミナ介在物の粒径範囲が30μm超50μm以下の検出個数も、従来法よりも低くできた。
なお、ここでは、出鋼後の溶鋼に、生石灰とフラックスを同時に添加した場合について説明したが、出鋼の際(出鋼時及び/又は出鋼後)に生石灰及び/又はフラックス(金属アルミニウム単体でもよい)を添加すれば、添加の形態に影響されることなく、略同様の傾向が得られた。
従って、本発明の高清浄鋼の製造方法を用いることで、従来よりもアルミナ介在物の個数を低減でき、特に粒径が20μm以下クラスのアルミナ介在物の個数を低減できることを確認できた。
【0051】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の高清浄鋼の製造方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
また、前記実施の形態においては、一次精錬を行った溶鋼を、出鋼工程と取鍋処理工程で順次処理して溶製した後、連続鋳造工程で連続鋳造した場合について説明したが、連続鋳造工程前に、必要に応じて、出鋼工程と取鍋処理工程以外の工程を行ってもよい。
更に、前記実施の形態においては、スラグ改質と最終脱酸の際に、金属アルミニウムの添加を行った場合について説明したが、スラグ改質と最終脱酸の間に、更に1回又は2回以上の複数回、金属アルミニウムの添加を行ってもよい。