(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記動力伝達機構は、前記アンコイラレベラの前記上ワークロールおよび前記下ワークロールに対して前記動力を伝達または遮断するクラッチを有する、請求項1に記載の形状矯正装置。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0022】
<1.連続ラインの概要>
まず、鋼板の連続ラインの構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る鋼板の連続ラインの構成を示す概要図である。
図1を参照すると、本実施形態に係る連続ライン1は、ペイオフリール4、形状矯正装置10、溶接機20、およびルーパー30を備える。
【0023】
(形状矯正装置)
形状矯正装置10は、ペイオフリール4の下流側に設けられ、ペイオフリール4から巻き戻された鋼板2の形状を矯正する装置である。
図1に示したように、形状矯正装置10は、プレッシャーロール5、入側ピンチロール6、アンコイラレベラ7、および出側ピンチロール8を備える。ペイオフリール4によりコイル3から巻き戻された鋼板2は、
図1に示したように、通板方向を示す矢印の向きに沿って、形状矯正装置10、溶接機20、およびルーパー30を順に通過する。ルーパー30を通過した鋼板2は、酸洗槽やリンス槽等を備える酸洗設備、または冷間圧延機等を備える冷間圧延設備に送られる。以下、連続ライン1に含まれる各構成要素について説明する。
【0024】
(ペイオフリール)
ペイオフリール4は、回転軸を中心として正逆の両方向に回転可能な装置であり、外周部にコイル3が装着される。外周部にコイル3が装着された状態でペイオフリール4を回転させると、ペイオフリール4はコイル3を巻き戻す。巻き戻されたコイル3の外周部は、コイル3から解かれて鋼板2となる。なお、本実施形態において想定される鋼板2の板厚は、1mm〜7mmである。
【0025】
(プレッシャーロール)
プレッシャーロール5は、ペイオフリール4に対し接近又は離反可能に設けられ、コイル3から解かれる鋼板2の上面を押圧するロールである。なお、鋼板2は、プレッシャーロール5により押圧される位置の近傍において、コイル3から解かれる。プレッシャーロール5が鋼板2の上面を押圧することにより、コイル3をペイオフリール4から巻き戻す際に生じ得る腰折れと呼ばれる現象を防止することができる。また、詳細は後述するが、本実施形態に係るプレッシャーロール5は、後述する出側ピンチロール8により引張られる鋼板2を押さえることにより、鋼板2の長手方向に張力を与えることができる。プレッシャーロール5により押圧された鋼板2は、入側ピンチロール6へと送られる。
【0026】
(入側ピンチロール)
入側ピンチロール6は、入側上ピンチロール6aと入側下ピンチロール6bとにより構成される駆動ロールであり、アンコイラレベラ7の入側に設けられる。入側ピンチロール6は、ペイオフリール4から巻き戻された鋼板2を挟み込み、回転駆動することにより鋼板2をアンコイラレベラ7へ送る。なお、本実施形態に係る入側上ピンチロール6aは、開閉機構60により上下方向に移動可能であり、後述する制御装置17により入側ピンチロール6の開閉が制御される。例えば、制御装置17により入側上ピンチロール6aを上方へ移動させることにより、鋼板2を挟み込んでいる入側ピンチロール6を開放することが可能である。なお、入側下ピンチロール6bが上下動可能であってもよい。また、入側ピンチロール6は、後述する出側ピンチロール8により引張られる鋼板2を挟み込むことにより、鋼板2の長手方向に張力を与えることも可能である。
【0027】
(アンコイラレベラ)
アンコイラレベラ7は、通板方向に千鳥状に配置された複数の上ワークロールおよび複数の下ワークロールにより構成されるレベラである。アンコイラレベラ7に配置される上ワークロールおよび下ワークロールの詳細な構成については後述する。アンコイラレベラ7は、入側ピンチロール6から送られた鋼板2を、上記の各ワークロールを用いて押圧して鋼板2の上下方向に曲げを与えることにより、鋼板2のペイオフリール4への巻き取りによりつけられた巻き癖を矯正する。これにより、鋼板2の巻き癖による長手方向の反りを改善することができる。アンコイラレベラ7を通過した鋼板2は、出側ピンチロール8へと送られる。
【0028】
(出側ピンチロール)
出側ピンチロール8は、出側上ピンチロール8aと出側下ピンチロール8bとにより構成される駆動ロールであり、アンコイラレベラ7の出側に設けられる。出側ピンチロール8は、アンコイラレベラ7を通過した鋼板2を挟み込み、回転駆動することにより鋼板2を溶接機20へ送る。
【0029】
また、本実施形態においては、出側ピンチロール8により鋼板2の長手方向へ付与される張力を増加することが可能である。出側ピンチロール8を用いた鋼板2への張力の付与については、後述する。なお、出側ピンチロール8の入側または出側には、鋼板2の表面に付着した薬液や汚れ等を除去するためのリンガーロールがさらに設けられてもよい。出側ピンチロール8によってより高い張力を鋼板2に付与するためには、出側ピンチロール8と鋼板2との摩擦係数が高いことが望ましい。そのため、表面の薬液等を除去するリンガーロールは、薬液による摩擦係数の低下を防ぐため、出側ピンチロール8の入側に設けられることが好ましい。
【0030】
(溶接機)
溶接機20は、出側ピンチロール8の出側に設けられ、連続ラインの通板方向において、鋼板2の先端と、先行する鋼板の尾端とを溶接する装置である。溶接機20を用いて2つの鋼板を溶接することにより、連続した鋼板2を形成することができる。なお、以下の説明において、溶接機20により溶接された後の鋼板についても、特に区別する場合を除いて、鋼板2と呼称する。溶接機20を通過した鋼板2は、ルーパー30へ送られる。
【0031】
(ルーパー)
ルーパー30は、溶接機20の出側に設けられ、溶接機20を通過した鋼板2を一時的に貯留する装置である。これにより、溶接処理のために鋼板2の尾端を溶接機20に留めつつ、ルーパー30により貯留された鋼板2を下流側の設備(酸洗ラインにおいては酸洗設備であり、冷間圧延ラインにおいては冷間圧延設備)へ通板させることが可能である。なお、本実施形態に係るルーパー30は、酸洗設備や冷間圧延設備の入側に設けられる入側ルーパーに相当する。
【0032】
ここで、ルーパー30において従来生じていた蛇行について説明する。熱間圧延処理において鋼板2に生じる耳波等の形状不良は、ルーパー30に導入された段階では、鋼板2に残留したままであった。そのため、ルーパー30の内部を鋼板2が通過する際に、鋼板2に残留した耳波によって、鋼板2が幅方向に揺動する現象が発生する。これが、鋼板2により生じる蛇行である。鋼板2の蛇行が大きい場合、鋼板2が設備等に衝突し、通板障害が発生し得る。通板障害の発生を回避するために、鋼板2の通板速度は制限される。つまり、鋼板の生産性をさらに向上させるためには、ルーパー30における鋼板2の蛇行を抑制することが望まれる。鋼板2の蛇行を抑制するためには、ルーパー30の上流側において、鋼板2に生じている形状不良を改善することが望まれる。
【0033】
しかし、従来の連続ラインにおいて、ルーパー30の上流側において、鋼板2に生じている形状不良を改善するための装置は設けられていなかった。例えば、ルーパー30の上流側において、鋼板2の反りを矯正するためのアンコイラレベラ7が設けられている。アンコイラレベラ7は、上述したように、各ワークロールを鋼板2に互い違いに押し込むことにより、鋼板2に曲げを生じさせる。しかしながら、アンコイラレベラ7の各ワークロールは通板方向に千鳥状に配置されているため、各ワークロールの押し込みにより鋼板2が撓み、鋼板2に対して圧下力がかかりにくい。そのため、鋼板2に対して高い張力を与えることができないので、鋼板2の形状不良を改善することはできなかった。
【0034】
ルーパー30の上流側において鋼板2の形状不良を改善するために、例えば、特開2002−210515号公報に開示されているような矯正装置を、アンコイラレベラ7とは別に設けることが考えられる。しかし、上記公報に開示された矯正装置の一例であるテンションレベラは、複数のワークロール、およびワークロールにかかる負荷を支えるためのバックアップロール、鋼板に張力を与えるためのブライドルロールなど多数のロールを有するので、新規にロールを導入するためのコストは大きくなる。また、これらのロールが用いられるテンションレベラ等の矯正装置を既存の連続ラインに新たに組み込むことは容易ではなく、連続ラインの大規模な改修が必要となる。そのため、テンションレベラの導入にかかるコストおよび負担が大きくなる。それゆえ、既存の連続ラインを最大限生かしつつ鋼板の形状不良を現状から改善させることが望まれる。
【0035】
そこで、アンコイラレベラ7の下流側に出側ピンチロール8を設け、出側ピンチロール8を鋼板2に対して圧下させることにより、鋼板2の長手方向に高い張力を与えるができると本発明者らは想到した。出側ピンチロール8は、一対のワークロールにより鋼板2を挟み込むので、高い圧下力を鋼板2に対して容易に与えることができる。そのため、鋼板2に高い張力を与えることができる。
【0036】
このような高い圧下力を出側ピンチロール8を用いて鋼板2に対して与える場合、当該圧下力を鋼板2に対して与えるための動力を確保することが求められる。出側ピンチロール8に伝達される動力は、例えば、アンコイラレベラ7の各ワークロールを回転駆動させるための動力を流用することもできる。しかし、アンコイラレベラ7の各ワークロールを回転駆動させながら出側ピンチロール8により鋼板2に高い圧下力を与えるとすると、各ワークロールおよび出側ピンチロール8に動力を伝達する動力源の出力容量を超えてしまい、当該動力源がトリップする可能性が生じる。当該動力源がトリップすると、アンコイラレベラ7の各ワークロールおよび出側ピンチロール8の駆動の停止のみならず、連続ラインが休止してしまうおそれがある。しかし、動力源のトリップを回避するために、出側ピンチロール8の動力源をアンコイラレベラ7の各ワークロールとは別に設けるとすると、新規の動力源の導入コストが生じてしまう。
【0037】
そこで、本発明に係る形状矯正装置10は、既存のアンコイラレベラ7の各ワークロールの駆動に用いられる動力を、アンコイラレベラ7の下流側に新たに設けられる出側ピンチロール8の駆動のために分配する機構およびアンコイラレベラ7の各ワークロールの駆動状態について駆動および無駆動の両方を実現することが可能なクラッチを設け、出側ピンチロール8により鋼板2に対して圧下力を与える。鋼板2の先端が出側ピンチロール8に噛みこむまでは、通常のアンコイラレベラと同様に鋼板2の長手方向の反りを矯正しながら鋼板2を通板し、鋼板2の先端が出側ピンチロール8に噛みこんだ後、アンコイラレベラ7の駆動ロールを全て無駆動化し、アンコイラレベラ7の各ワークロールの駆動に用いられていた動力を出側ピンチロール8の駆動に集中させることで、出側ピンチロール8により鋼板2に与えられる圧下力が増加し、鋼板2の長手方向により大きな張力が付与され、鋼板2の長手方向に伸びが生じる。したがって、既存のアンコイラレベラ7によって鋼板2の反りを矯正しつつ、出側ピンチロール8により鋼板2に生じた耳波等の形状不良を改善することができる。よって、ルーパー30における鋼板2の蛇行を、低コストで抑制することができる。以下、本発明の一実施形態に係る形状矯正装置10について説明する。
【0038】
<2.実施形態>
[2.1.形状矯正装置の構成]
本発明の一実施形態に係る形状矯正装置10の構成について説明する。
図2は、本実施形態に係る形状矯正装置10の構成を示す概要図である。
図2を参照すると、形状矯正装置10は、プレッシャーロール5、入側ピンチロール6(6a、6b)、アンコイラレベラ7、および出側ピンチロール8(8a、8b)に加え、さらに、ギヤボックス12、制御装置17、および通板検出センサ18を備える。プレッシャーロール5、入側ピンチロール6、および出側ピンチロール8の構成および機能については既に説明したので省略する。
【0039】
(アンコイラレベラのワークロール)
アンコイラレベラ7は、第1の上ワークロール71、第2の上ワークロール72、第3の上ワークロール73、第1の下ワークロール74、第2の下ワークロール75、および第3の下ワークロール76を備える。これらのワークロールは、
図2に示すように、鋼板2の通板方向に沿って千鳥状に配列される。また、上ワークロール71〜73は、各上ワークロールに対応する移動機構77〜79により上下方向(
図2の矢印方向)に移動可能であり、後述する制御装置17により各上ワークロール71〜73の移動が制御される。なお、下ワークロール74〜76は、上下動可能に設けられてもよく、また、固定されて設けられてもよい。各ワークロール71〜76のロール径はいずれも同一である。また、上ワークロール71〜73における連続するロールの中心間の距離(ロールピッチ)と、下ワークロール74〜76におけるロールピッチは同一である。各ワークロール71〜76には、回転駆動のための動力が出力スピンドル16を介して伝達される。
【0040】
(ギヤボックス)
ギヤボックス12は、動力源であるモータ11から伝達される動力を、アンコイラレベラ7の各ワークロール71〜76、および出側ピンチロール8へ分配する動力伝達機構の一例である。ギヤボックス12は、
図2に示したように、入力ギヤ13、分配部14、クラッチ部15、および複数の出力スピンドル16を有する。なお、本実施形態に係るモータ11はギヤボックス12を介して各ワークロール71〜76、および出側ピンチロール8へ動力を伝達するが、モータ11は入側ピンチロール6に動力を伝達してもよい。この場合、入側ピンチロール6は、ギヤボックス12を介して、または他の動力伝達機構を介してモータ11から動力が分配されてもよい。また、モータ11の数および種類については特に限定されないが、本実施形態においては、単一のモータ11から各ワークロール71〜76および出側ピンチロール8へ動力が分配される。
【0041】
(入力ギヤ)
入力ギヤ13は、モータ11の出力ギヤ11aと噛合する位置に設けられる機械要素の一例であり、分配部14に含まれる一の分配ギヤ14aと同一の駆動軸に嵌着される。入力ギヤ13は、モータ11の出力ギヤ11aの回転を減速させて、各ワークロール71〜76および出側ピンチロール8を回転駆動させるために必要なトルクを得る。入力ギヤ13に伝達された動力は、入力ギヤ13と分配ギヤ14aと共通の駆動軸13aを介して分配部14に伝達される。
【0042】
(分配部)
分配部14は、複数の分配ギヤを備え、分配ギヤどうしが互いに噛合するように設けられる機械要素の一例である。分配部14に含まれる複数の分配ギヤは、上記の各ロールに動力を出力するための出力軸に嵌着される。分配部14は、入力ギヤ13から分配ギヤ14aに伝達された動力を、アンコイラレベラ7の各ワークロール71〜76、および出側ピンチロール8(8a、8b)に分配する。分配部14に含まれる複数の分配ギヤから伝達される動力は、それぞれの出力軸を介して、クラッチ部15に伝達される。
【0043】
なお、上述した入力ギヤ13および分配部14に含まれる分配ギヤは、必ずしも歯車等の機械要素に限定されない。例えば、入力ギヤ13および分配ギヤを実現する機械要素は、ローラ、チェーン、またはプーリ等の、回転運動を伝達することが可能な機械要素であってもよい。
【0044】
(クラッチ部)
クラッチ部15は、分配部14に含まれる各分配ギヤの出力軸と、出力スピンドル16との接続の有無を切り替える複数のクラッチを備える。クラッチ部15に含まれる各クラッチの一端は分配ギヤの出力軸の端部に固着され、上記各クラッチの他端は出力スピンドル16の端部に固着される。クラッチ部15により、各ワークロール71〜76、および出側ピンチロール8に対する動力の伝達または遮断を切り替えることができる。クラッチの切り替えは、制御装置17によって実行される。これにより、各ワークロール71〜76や出側ピンチロール8を駆動状態または無駆動状態のいずれかに切り替えることができる。なお、クラッチ部15に含まれるクラッチは、例えば摩擦クラッチや電磁クラッチなど、動力の伝達または遮断の制御を確実に実施できるクラッチであれば、特に種類は限定されない。また、本実施形態に係るクラッチ部15は、出側ピンチロール8に対応するクラッチを備えなくてもよい。さらに、クラッチ部15を実現する機構は、上述したクラッチに限られず、各ロールへの動力の伝達または遮断を機械的にまたは電磁的に切り替えることが可能な機構であれば特に限定されない。
【0045】
(出力スピンドル)
出力スピンドル16は、各ワークロール71〜76、並びに出側ピンチロール8aおよび8bにそれぞれ嵌着される回転軸である。出力スピンドル16は、クラッチ部15を経由して分配ギヤの出力軸から伝達される動力を、各ロールに伝達する。なお、出力スピンドル16は、自在継手を有する回転軸であることが好ましい。これは、上ワークロール71〜73や、出側上ピンチロール8aが上下方向に可動であり、各ロールの移動に伴って回転軸の位置が変化するためである。自在継手を有することにより、各ロールの回転軸の位置に関わらず各ロールに伝達される動力が一定となる。
【0046】
(制御装置)
制御装置17は、例えばコンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)がROM(Read Only Memory)等に記憶されたプログラムに従って命令を実行することによって、形状矯正装置10の各構成要素の動作や状態を制御する装置である。例えば、制御装置17は、開閉機構60、および移動機構77〜79を用いて、入側上ピンチロール6a、および各ワークロール71〜76の上下方向における位置を調整する。また、制御装置17は、出側ピンチロール8により鋼板2の長手方向に与えられる張力を制御する。当該張力の制御は、出側ピンチロール8が鋼板2に対して与える圧下力を調整することにより行われる。さらに、制御装置17は、各ワークロール71〜76の回転駆動状態を切り替える。具体的には、制御装置17は、クラッチ部15のクラッチの接続の有無を切り替えることにより、各ワークロール71〜76の駆動状態または無駆動状態を切り替える。制御装置17の具体的な動作については後述する。なお、本実施形態に係る制御装置17は、形状矯正装置10の各構成要素の動作や状態を制御するが、他の実施形態において制御装置は、各構成要素の内部にそれぞれ設けられてもよい。この場合、各構成要素の制御は、各構成要素に設けられる制御装置においてそれぞれ実施される。本実施形態では、各構成要素は、制御装置17の制御により制御対象を制御するものとする。
【0047】
(通板検出センサ)
通板検出センサ18は、鋼板2の通板を検出するセンサである。通板検出センサは、例えば、磁気センサ、超音波センサ、赤外線センサ、または画像センサなど、鋼板2の有無を検出することが可能であるセンサであってもよい。通板検出センサ18は、形状矯正装置10内において、鋼板2の先端が出側ピンチロール8を通過する時刻を推定するのに適した位置に配置され得る。例えば、本実施形態において、通板検出センサ18は、出側ピンチロール8の入側に設けられる。かかる構成により、通板検出センサ18の検出結果に基づいて鋼板2の先端の出側ピンチロール8の通過時刻を推定することが可能である。通板検出センサ18は、検出結果を制御装置17へ出力する。なお、鋼板2の先端が出側ピンチロール8を通過したことを検出できれば、通板検出センサ18以外の装置または機構等を用いて、鋼板2の先端の通過が検出されてもよい。
【0048】
[2.2.形状矯正装置による形状矯正方法]
以上、本実施形態に係る形状矯正装置10の構成について説明した。次に、形状矯正装置10による鋼板2の形状矯正方法について説明する。ここでは、鋼板2の先端が出側ピンチロール8を通過する前と後とに分けて説明する。なお、本実施形態において、鋼板2の先端の出側ピンチロールの通過は、通板検出センサ18による鋼板2の検出結果に基づいて判定される。
【0049】
(出側ピンチロール通過前)
図3は、鋼板2の先端が出側ピンチロール8の上流側に位置する場合の形状矯正装置10の状態の一例を示す図である。
図3を参照すると、ペイオフリール4から巻き戻された鋼板2の先端は、出側ピンチロール8の上流側に位置している。具体的には、
図3に示した状態は、ペイオフリール4から巻き戻された鋼板2が入側ピンチロール6に挟み込まれてアンコイラレベラ7に送られた後、鋼板2の先端がアンコイラレベラ7内を通過している状態である。このとき、鋼板2はまだ出側ピンチロール8に到達していない。
【0050】
その後、鋼板2は各ワークロール71〜76の回転駆動により出側ピンチロール8へ送られる。このとき、クラッチ部15の各クラッチは、各ワークロール71〜76を回転駆動させるため、各ワークロール71〜76に対応する出力スピンドル16と分配部14とを接続している。
【0051】
なお、鋼板2の先端が出側ピンチロール8の上流側に位置する場合において、鋼板2の通板経路に対する上ワークロール71〜73の上下方向における位置については特に限定されない。しかし、鋼板2の長手方向の反りを矯正するために、上ワークロール71〜73(特に、第1の上ワークロール71)の下端は、鋼板2の上面よりも低い位置に設定される。これにより、上ワークロール71〜73は鋼板2を押し込むので、鋼板2の反りが矯正され得る。ただし、上ワークロール71〜73の初期位置が鋼板2よりも低い位置にある場合、鋼板2が上ワークロール71〜73の少なくともいずれかに突っかかり、通板障害を引き起こす可能性がある。そのため、上ワークロール71〜73の初期位置は、通板障害を発生させないような適正な位置に調整され得る。
【0052】
(出側ピンチロール通過後)
図4は、鋼板2の先端が出側ピンチロール8の下流側に位置する場合の形状矯正装置10の状態の一例を示す図である。
図4を参照すると、鋼板2の先端は出側ピンチロール8を通過している。鋼板2が出側ピンチロール8へ送られると、制御装置17は、鋼板2に伸びを生じさせるために、以下の処理を実行する。
【0053】
(1)クラッチの制御と出側ピンチロールによる挟み込み
まず、本実施形態に係る制御装置17は、出側ピンチロール8が鋼板2に与える圧下力を増加させることにより、鋼板2の長手方向に与えられる張力を増加させる。これは、鋼板2に対して与える圧下力を増加させると、鋼板2と出側ピンチロール8との間に発生する摩擦力が増大し、上記増大した摩擦力によるせん断により、張力が増加するからである。この張力は、出側ピンチロール8と、プレッシャーロール5、または入側ピンチロール6との間において発生する。なお、出側ピンチロール8は、出側上ピンチロール8aおよび出側下ピンチロール8bにより鋼板2をより強く挟みこむことで、鋼板2に与える圧下力を増加させることができる。
【0054】
しかしその際、出側ピンチロール8に伝達される動力の動力源がアンコイラレベラ7の各ワークロール71〜76に伝達される動力の動力源と同一である場合、動力源の出力容量によっては、出側ピンチロール8に伝達される動力が不足し、鋼板2に張力を十分与えることができない。さらに、出側ピンチロール8により鋼板2に張力が付与されている間、各ワークロール71〜76が回転駆動状態にある場合、各ワークロール71〜76と鋼板2との接触点において鋼板2がスリップし、鋼板2の表面に傷が発生する可能性がある。
【0055】
そこで、本実施形態に係る制御装置17は、鋼板2の先端が出側ピンチロール8を通過する時刻において、各ワークロール71〜76に伝達される動力を遮断するようクラッチ部15を制御する。具体的には、制御装置17は、上記の時刻において、各ワークロール71〜76に対応する各々のクラッチを切るよう制御する。この場合、
図4に示したように、出側ピンチロール8に対応するクラッチ15aは接続されたままであるが、各ワークロール71〜76に対応するクラッチ15bは切断状態となる。そのため、モータ11より伝達される動力がアンコイラレベラ7の各ワークロール71〜76には分配されなくなり、各ワークロール71〜76が無駆動化される。これにより、モータ11の出力容量を全て出側ピンチロール8に分配することが可能である。よって、モータ11から出力される動力を出側ピンチロール8に集中的に伝達させることができる。また、各ワークロール71〜76を無駆動化することにより、鋼板2のスリップを回避し、鋼板2の表面に傷が発生することを防ぐことができる。
【0056】
本実施形態に係る制御装置17は、各ワークロール71〜76に対応するクラッチを切った後、出側ピンチロール8による鋼板2の長手方向への張力を増加するよう制御する。これにより、鋼板2の長手方向(通板方向)に伸びが付与され得る。
【0057】
かかる構成により、アンコイラレベラ7の各ワークロール71〜76と、出側ピンチロール8とが同一の動力源を用いて駆動される場合においても、クラッチの制御により、鋼板2を通板しつつ、形状不良を改善するための伸びを鋼板2に生じさせることができる。よって、従来の動力源(モータ11)を分配する機構、および張力を与えるための一対のピンチロール(出側ピンチロール8)を設けるだけで、動力源の出力容量を超えることなく鋼板2に伸びを生じさせることが可能である。つまり、従来から用いられている動力源をそのまま利用することができるので、新たな設備投資の必要がなくなる。したがって、テンションレベラ等の大規模な装置の導入や設備改修を行うことなく、ルーパー30における鋼板2の蛇行を低コストで抑制することができる。
【0058】
なお、アンコイラレベラ7の各ワークロール71〜76を用いて鋼板2に張力を付与しようとすると、各ワークロール71〜76は通板方向に千鳥状に配置されているため、鋼板2が撓み、鋼板2に与えられる圧下力は小さい。そのため、鋼板2に付与する張力は小さい。アンコイラレベラ7の出側に出側ピンチロール8を設け、出側ピンチロール8により鋼板2を挟み込んで圧下力を加えることで、アンコイラレベラ7を用いて鋼板2に張力を付与するよりも、効率的に鋼板2に張力を付与することができる。
【0059】
(2)上ワークロールの押込み
鋼板2に与えられる伸びは、単に鋼板2に張力を付与するだけではなく、アンコイラレベラ7の各ワークロール71〜76を鋼板2に押し込むことによっても生じる。例えば、「美坂佳助、益居健、“テンションレベラによる冷延鋼板の平坦度矯正”、塑性と加工、vol.17、no.191、1976」(以下、非特許文献と呼称する)によれば、鋼板に与えられる伸びは、鋼板に与えられる張力のみならず、レベラ(アンコイラレベラやテンションレベラ)による鋼板への押込みにより大きくなることが開示されている。そのため、出側ピンチロール8により張力が与えられた鋼板2をアンコイラレベラ7の各ワークロール71〜76によって圧下することにより、鋼板2に生じる伸びがさらに大きくなる。
【0060】
本実施形態に係る制御装置17は、
図4に示したように、鋼板2の先端が出側ピンチロール8を通過する時刻に基づいて、上ワークロール71〜73をさらに鋼板2へ押し込むよう、移動機構77〜79を制御してもよい。上ワークロール71〜73をさらに鋼板2へ押し込むことにより、上述したように、鋼板2に伸びがさらに生じる。よって、形状不良をより効果的に改善することができる。
【0061】
なお、上述したように、上ワークロール71〜73の初期位置は、通板障害を発生させないような適正な位置に設定される。制御装置17は、鋼板2の先端が出側ピンチロール8を通過する時刻に基づいて、上ワークロール71〜73を、鋼板2に圧下させるように初期位置から下方に移動させる。これにより、鋼板2と上ワークロール71〜73との通板障害を発生させることなく、鋼板2に伸びをさらに生じさせることができる。
【0062】
また、
図4に示した例においては、制御装置17が上ワークロール71〜73の全てを鋼板2に圧下させるように下方に移動させるが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、制御装置17は、上ワークロール71〜73のうちの少なくともいずれかを鋼板2に圧下させてもよい。これにより、鋼板2の形状の矯正具合を調整することができる。
【0063】
(3)入側ピンチロールの開放
さらに、本実施形態に係る制御装置17は、鋼板2の先端が出側ピンチロール8を通過する時刻に基づいて、入側ピンチロール6を開放するよう開閉機構60を制御してもよい。具体的には、制御装置17は、入側上ピンチロール6aを開閉機構60により上方に移動させることにより、鋼板2の入側ピンチロール6による挟み込みを解除してもよい。入側ピンチロール6の開放により、鋼板2は、
図4に示したように、出側ピンチロール8とプレッシャーロール5との間で張力Tが付与される。入側ピンチロール6を開放し、鋼板2を出側ピンチロール8とプレッシャーロール5を用いて引っ張ることにより、張力だけではなく、曲げを鋼板2に対して与えることが可能である。これにより、鋼板2の形状不良を改善するだけでなく、腰折れによる不良の発生を同時に防ぐこともできる。
【0064】
なお、入側ピンチロール6を開放せず、入側ピンチロール6と出側ピンチロール8とにより鋼板2に張力を与えることも可能である。しかし、この場合、鋼板2に均一に張力を与えるためには、入側ピンチロール6と出側ピンチロール8の双方の鋼板2に与える圧下力が同一となるように制御する必要がある。そのため、入側ピンチロール6を開放することにより、上述したような制御が不要となり、さらに、プレッシャーロール5の曲げによる腰折れ防止の効果も同時に付与することが可能である。以上の観点から、鋼板2に張力を与える処理において、入側ピンチロール6を開放するように開閉機構60を制御することが好ましい。
【0065】
以上、本実施形態に係る形状矯正装置10による形状矯正方法について説明した。本実施形態によれば、鋼板2が出側ピンチロール8を通過した後に、プレッシャーロール5または入側ピンチロール6と出側ピンチロール8とにより鋼板2に高い張力が与えられる。この鋼板2に高い張力を与えるために、アンコイラレベラ7の各ワークロールを回転駆動させるための動力が出側ピンチロール8に分配される。これにより、鋼板2に伸びが生じ、鋼板2に生じている耳波などの熱間圧延における形状不良を、従来から用いられている装置および動力源を用いて改善することができる。したがって、ルーパー30における鋼板2の蛇行を低コストで抑制することができるので、鋼板2の通板速度を増加させることが可能となり、製造効率を高めることができる。
【0066】
なお、上述した形状矯正装置10による形状矯正方法においては、上記の(1)〜(3)の処理の順序は特に限定されない。しかし、形状矯正装置10において、アンコイラレベラ7の各ワークロール71〜76と出側ピンチロール8とに同一の動力源より動力が分配されている場合、出側ピンチロール8に動力を集中させるために、出側ピンチロール8による張力増加処理を行う前に、先にクラッチの切り替え処理を実施することが好ましい。また、出側ピンチロールによる張力増加処理が実施された後に、各ワークロール71〜76による鋼板2への押込み処理や、入側ピンチロール6の開放処理を実施することが好ましい。これにより、出側ピンチロール8が鋼板2を確実に挟み込んだ上で、鋼板2に伸びを生じさせることができる。また、上述した形状矯正方法においては、鋼板2が出側ピンチロール8を通過した時に、上記の(1)〜(3)の処理が開始されるとしたが、鋼板2が出側ピンチロール8に挟まれている状態であれば、他の時点において上記(1)〜(3)の処理が開始されてもよい。
【0067】
また、上述した形状矯正装置10に含まれるギヤボックス12から各ロールに動力が分配されるが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、各ワークロール71〜76、または出側ピンチロール8に対応するモータがそれぞれ設けられ、各ロールに各モータから直接動力が伝達されてもよい。この場合、出側ピンチロール8を鋼板2の先端が通過した後に、各ワークロール71〜76に対応するモータから得られる動力を遮断する制御を行ってもよい。これにより、モータの設置コストが大きくなるものの、上述した実施形態と同様に、各ワークロール71〜76を無駆動化することができる。ただし、単にモータの出力を切るだけでは、各ワークロール71〜76の回転をモータが阻害してしまい、鋼板2が各ワークロール71〜76に対してスリップする現象が発生し得る。この場合、各ワークロール71〜76とのスリップにより鋼板2の表面に傷が生じる可能性がある。そのため、各ワークロール71〜76を機械的に、または電磁的に無駆動化するための装置を設けることが好ましい。例えば、各ロールと各モータの間にクラッチを設けることが好ましい。
【実施例】
【0068】
以下、本発明の実施例について説明する。本実施例では、形状矯正装置10を用いて同一の材質および寸法の鋼板の形状の矯正を実施し、その効果を確認した。具体的には、形状矯正が実施された鋼板を実施例として、また、形状矯正が実施されていない鋼板を比較例として、各鋼板のルーパー30内における蛇行量を比較した。
【0069】
なお、以下の実施例は本発明の効果を検証するために行ったものに過ぎず、本発明が以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
(試験条件)
本実施例および比較例に用いられる鋼板およびアンコイラレベラ7に係る共通パラメータを表1に示す。また、実施例および比較例における各鋼板に与えられる張力T[N/mm
2]、アンコイラレベラ7の各ワークロール71〜76の圧下量δ(インターメッシュ:[mm])、並びに鋼板に生じる伸率ε[%]を表2に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
なお、急峻度λとは、耳波等の形状不良の程度を示す指標である。
図5は、急峻度λの定義を説明するための概要図である。
図5に示したとおり、急峻度λは、板波の高さhと、板波のピッチlを用いて、λ=h/lと定義される。急峻度λの値から伸率εの伸率差Δεを算出可能であることが公知技術として知られており、急峻度λと伸率差Δεは、以下の式(1)に示される関係を満たす。
【0074】
【数1】
【0075】
また、鋼板に与えられる伸率εは、上記の非特許文献に開示されている下記式(2)を用いて算出することができる。
【0076】
【数2】
【0077】
ここで、ρ
miとは、レベラにより押し込まれる鋼板の加工曲率半径[mm]であり、板厚d、降伏応力σ
x0、ロール径R、ロールピッチL、張力T、圧下量δにより定義される。詳細は上記の非特許文献に開示されている。
【0078】
表2に示すように、実施例は比較例よりも付与する張力が大きいため、伸率εも大きい。本実施例の鋼板の伸率と比較例の鋼板の伸率との差は2.1%である。この場合、上記式(1)より、鋼板の急峻度λは0.92%減少することが推定される。すなわち、鋼板に張力を付与することにより、本実施例の鋼板の形状不良が改善される
【0079】
本発明の効果を確認するために、実施例および比較例に用いられる鋼板を、40〜800[m/min]の速度でルーパー30内を通過させ、ルーパー30内の一の通過点における鋼板の幅方向における蛇行振幅量[mm]を比較した。
【0080】
(試験結果)
図6は、実施例および比較例の各鋼板の通板速度に対する蛇行振幅量の大きさの変化を示したグラフである。○は実施例における鋼板の蛇行振幅量を示すプロットであり、△は比較例における鋼板の蛇行振幅量を示すプロットである。また、グラフ内の2本の直線は、実施例および比較例のプロットの各々に対応する近似直線である。
【0081】
図6に示したように、実施例に対応する近似直線の傾きは、比較例に対応する近似直線の傾きよりも小さい。つまり、実施例に用いられる鋼板は、速度の増加に対する蛇行振幅量の増加量が小さいことを示している。例えば、蛇行振幅量の許容量が60mmであるルーパーにおいては、最大通板速度を560mpm(比較例)から750mpm(実施例)に増加させることが可能である。
【0082】
以上示したように、本実施形態に係る形状矯正装置10によって、ルーパー内の鋼板の蛇行現象を抑制することが可能であることを明らかにした。したがって、本発明によれば、ルーパー内の鋼板の通板速度を上げることができ、その結果、鋼板の生産効率を向上することが可能となる。
【0083】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。