特許第6593249号(P6593249)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6593249
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】変速機の潤滑構造
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20191010BHJP
【FI】
   F16H57/04 J
   F16H57/04 Q
   F16H57/04 N
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-96033(P2016-96033)
(22)【出願日】2016年5月12日
(65)【公開番号】特開2017-203517(P2017-203517A)
(43)【公開日】2017年11月16日
【審査請求日】2018年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】特許業務法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東山 友幸
【審査官】 前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−86935(JP,A)
【文献】 特開平9−216524(JP,A)
【文献】 実開平6−28412(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部にオイルが貯留される変速機ケースと、
前記変速機ケースに収容され、少なくとも下部が前記オイルに浸かる第1のギヤと、
前記変速機ケースに収容され、前記第1のギヤとの間で動力が伝達可能な第2のギヤを有する軸部材と、
前記軸部材を前記変速機ケースに回転自在に支持する軸受部と、
前記第1のギヤの回転によって掻き上げられたオイルを捕捉するオイル捕捉部と、
前記軸受部に、前記軸受部の円周方向において前記第1のギヤ側に位置する第1の連通孔および前記第1の連通孔に対して前記第1のギヤから離れる方向に位置する第2の連通孔が形成され、
前記オイル捕捉部に捕捉されたオイルを前記第1の連通孔および前記第2の連通孔を通して前記軸受部に供給する変速機の潤滑構造であって、
前記オイル捕捉部は、前記第1のギヤの回転によって掻き上げられたオイルを捕捉して前記第1の連通孔に誘導する第1のオイル誘導部と、前記第1のギヤの回転によって掻き上げられたオイルを捕捉して前記第2の連通孔に誘導する第2のオイル誘導部とを含んで構成されることを特徴とする変速機の潤滑構造。
【請求項2】
前記変速機ケースは、
変速用のシフトフォークを軸線方向に移動自在に支持するシフトシャフトと、
前記変速機ケースの側壁に形成されて前記シフトシャフトが嵌合されるボス部とを有し、
前記軸受部の円周方向における前記第1の連通孔と前記第2の連通孔との間には、前記軸受部と前記ボス部とを接続するリブが前記変速機ケースの側壁に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の変速機の潤滑構造。
【請求項3】
前記第1のオイル誘導部および前記第2のオイル誘導部が、前記ボス部と一体に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の変速機の潤滑構造。
【請求項4】
前記軸部材を第1の軸部材とし、前記軸受部を第1の軸受部とした場合に、前記変速機ケースには前記第2のギヤから入力された動力を前記第1のギヤに伝達する第3のギヤを有する第2の軸部材と、前記第2の軸部材を回転自在に支持する第2の軸受部が設けられており、
前記第2の軸部材は、前記第1の軸部材に対して前記第1のギヤ側に設置されており、
前記リブを第1のリブとした場合に、前記第1のオイル誘導部は、前記第2の軸受部の上方において前記第2の軸受部の円周方向に沿って前記第1のギヤ側から前記第1の連通孔に向かって延びる第2のリブと、前記第1の軸受部および前記第2の軸受部の上方において前記第1のギヤ側から前記第2のギヤ側に向かって延びる第3のリブとを備え、
前記第1のリブの一方の側面、前記ボス部の一方の側面、前記第2のリブの上面および前記第3のリブの下面によって前記第1の連通孔に連通する第1のオイル溜まりが形成されており、
前記第2のオイル誘導部は、前記第1のリブと、前記ボス部と、前記第1のギヤから離れるように前記第1の軸受部から上方に延びる第のリブを備え、
前記第4のリブの上面、前記第1のリブの他方の側面および前記ボス部の他方の側面によって前記第2の連通孔に連通する第2のオイル溜まりが形成されており、
前記第2のオイル溜まりには、前記第3のリブの上面と前記第3のリブの上方に位置する前記変速機ケースの天井面との間の空間を通して前記第1のギヤに掻き上げられたオイルが誘導されることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の変速機の潤滑構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される変速機の潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両に搭載された変速機は、変速機ケースの底面に貯留されたオイルをギヤによって掻き上げてキャッチタンクに一時的に貯留することにより、オイルの油面を低下させてギヤの攪拌抵抗を低減している。
また、キャッチタンクに貯留されたオイルは、ギヤを有するシャフトを支持する軸受部等に供給されることで、軸受部の潤滑に利用されている。
【0003】
従来、この種のキャッチタンクを備えた動力伝達装置の潤滑構造として、例えば、特許文献1に記載されたものが知られている。この潤滑構造によれば、キャッチタンクが、第1歯車によって掻き上げられたオイルを捕捉するリブ状のオイル捕捉部と、オイル貯留部と、オイル貯留部に併設される他のオイル貯留部とを備えている。
【0004】
オイル捕捉部の内底部にはオイルをオイル貯留部内に自然流動させる供給通路が形成されており、オイル貯留部の内底部のオイルは、歯車用の軸受に向けて自然流動される。オイル捕捉部から溢出したオイルは、他のオイル貯留部に貯留され、他のオイル貯留部に形成された連通路を通して前記歯車用の軸受に向けて供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−292086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような従来の動力伝達装置の潤滑構造にあっては、オイルを捕捉するオイル捕捉部がリブ状に形成されており、第1歯車によって掻き上げられたオイルをオイル捕捉部に衝突させることで、オイル貯留部に貯留している。
【0007】
このため、オイル捕捉部は、第1歯車によって掻き上げられたオイルをオイル貯留部とオイル貯留部に併設される他のオイル貯留部とに適正に振り分けることが困難である。したがって、複数の連通路を通して歯車用の軸受に供給されるオイル量を適正に調整することが困難である。
【0008】
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたものであり、軸受部に供給されるオイル量を適正に調整することができる変速機の潤滑構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、底部にオイルが貯留される変速機ケースと、前記変速機ケースに収容され、少なくとも下部が前記オイルに浸かる第1のギヤと、前記変速機ケースに収容され、前記第1のギヤとの間で動力が伝達可能な第2のギヤを有する軸部材と、前記軸部材を前記変速機ケースに回転自在に支持する軸受部と、前記第1のギヤの回転によって掻き上げられたオイルを捕捉するオイル捕捉部と、前記軸受部に、前記軸受部の円周方向において前記第1のギヤ側に位置する第1の連通孔および前記第1の連通孔に対して前記第1のギヤから離れる方向に位置する第2の連通孔が形成され、前記オイル捕捉部に捕捉されたオイルを前記第1の連通孔および前記第2の連通孔を通して前記軸受部に供給する変速機の潤滑構造であって、前記オイル捕捉部は、前記第1のギヤの回転によって掻き上げられたオイルを捕捉して前記第1の連通孔に誘導する第1のオイル誘導部と、前記第1のギヤの回転によって掻き上げられたオイルを捕捉して前記第2の連通孔に誘導する第2のオイル誘導部とを含んで構成される変速機の潤滑構造。
【発明の効果】
【0010】
このように本発明によれば、軸受部に供給されるオイル量を適正に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施の形態に係る変速機の潤滑構造を示す図であり、変速機の正面図である。
図2図2は、本発明の一実施の形態に係る変速機の潤滑構造を示す図であり、レフトケースが取り外された変速機の斜視図である。
図3図3は、本発明の一実施の形態に係る変速機の潤滑構造を示す図であり、レフトケースが取り外された変速機の側面図である。
図4図4は、本発明の一実施の形態に係る変速機の潤滑構造を示す図であり、レフトケースおよび変速歯車機構が取り外された変速機の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る変速機の潤滑構造の実施の形態について、図面を用いて説明する。
図1図4は、本発明に一実施の形態に係る変速機の潤滑構造を示す図である。
【0013】
まず、構成を説明する。
図1において、車両に搭載される変速機1は、車両の走行状態に応じて図示しないエンジン10の回転速度および回転トルクを変換し、図示しない駆動輪に伝達する。図1図4において、上下左右方向は、車両に搭乗する運転者から見た方向を示している。
【0014】
変速機1は、変速機ケース2を備えており、変速機ケース2は、ライトケース3およびレフトケース4を有する。ライトケース3は、エンジン10に連結されている。ライトケース3には図示しないクラッチが収容されており、クラッチは、図示しないクラッチペダルの操作によってエンジン10の動力を変速機1に伝達、あるいは遮断する。
【0015】
レフトケース4の内部にはシフトアンドセレクトシャフト6が収容されており(図3において仮想線で示す)、シフトアンドセレクトシャフト6は、セレクト操作に応じてレフトケース4に対して軸線方向に移動自在、かつ、シフト操作に応じてレフトケース4に対して軸線周りに回転する。
【0016】
レフトケース4には変速歯車機構5が収容されている(図2参照)。図2において、変速歯車機構5は、クラッチを介してエンジン10の動力が伝達されるインプットシャフト30と、インプットシャフト30に取付けられた複数のインプットギヤ31とを備えている。インプットギヤ31は、インプットシャフト30に固定されてインプットシャフト30と一体回転する。
【0017】
変速歯車機構5は、インプットシャフト30と平行に設けられたカウンタシャフト32、33と、カウンタシャフト32、33に設けられた複数のカウンタギヤ34、35とを備えている。カウンタギヤ34、35は、それぞれカウンタシャフト32、33に対して相対回転自在に設けられている。
【0018】
レフトケース4には複数のシフトシャフト36A〜36Dが収容されている。シフトシャフト36A〜36Dは、カウンタシャフト32、33と平行に延びており、カウンタシャフト32、33の軸線方向に沿って移動するようにレフトケース4に支持されている。
【0019】
シフトシャフト36A〜36Dは、それぞれ変速用のシフトフォーク37A〜37Dの一端部を保持している。シフトフォーク37A〜37Dの他端部は、ハブスリーブ38A〜38Cと図示しないハブスリーブとに嵌合している。
【0020】
シフトシャフト36A〜36Dにはフォークヘッド39A〜39Dの一端部が取付けられており、フォークヘッド39A〜39Dの他端部は、シフトアンドセレクトシャフト6に対向している(図3参照)。
【0021】
シフトアンドセレクトシャフト6は、運転者のシフト操作に伴って上方または下方のセレクト位置において一方または他方に回転したときに、シフトフォーク37A〜37Dをシフトシャフト36A〜36Dの軸線方向の一方または他方に移動させる。
【0022】
これにより、ハブスリーブ38A〜38Cおよび図示しないハブスリーブが空転するカウンタギヤ34、35のいずれか1つをカウンタシャフト32、33に連結する。このとき、カウンタシャフト32、33に連結されたカウンタギヤ34、35に噛合するインプットギヤ31からカウンタシャフト32、33に連結されたカウンタギヤ34、35に動力が伝達される。
【0023】
カウンタシャフト32、33にはそれぞれ図示しないファイナルドライブギヤが設けられており、ファイナルドライブギヤは、ディファレンシャル装置40に動力を伝達する。
ディファレンシャル装置40は、デフケース41を備えており、ファイナルドライブギヤは、デフケース41の外周部に設けられたリングギヤ42に噛み合っている。
【0024】
ディファレンシャル装置40は、デフケース41に収容された図示しないピニオンシャフト、ピニオンシャフトに回転自在に支持された図示しない一対のピニオンギヤおよびピニオンギヤに噛み合う図示しない一対のサイドギヤを有する。
【0025】
一対のサイドギヤのそれぞれは、図示しない左右のドライブシャフトに連結されている。ディファレンシャル装置40は、左右のドライブシャフトの差動を許容しつつ、ファイナルドライブギヤの回転を左右のドライブシャフトを介して図示しない駆動輪に伝達する。
【0026】
図3において、リングギヤ42は、その下部42aがカウンタギヤ34よりも下方であって、レフトケース4の底面4Aに近づくようにレフトケース4に収容されている。レフトケース4の底面にはオイルOが貯留されており、リングギヤ42の下部42aは、オイルOに浸かっている。
【0027】
インプットシャフト30は、インプットギヤ31からカウンタギヤ34またはカウンタギヤ35を介してリングギヤ42に動力を伝達可能となっており、リングギヤ42は、インプットギヤ31との間で動力が伝達可能である。本実施の形態のリングギヤ42は、本発明の第1のギヤを構成し、インプットギヤ31は、本発明の第2のギヤを構成する。
【0028】
図4において、レフトケース4の側壁4Bには軸受用のボス部43が形成されており、ボス部43の内周面には軸受44が取付けられている。軸受44にはインプットシャフト30の軸線方向の一端部が取付けられており、インプットシャフト30は、軸受44を介してボス部43に回転自在に支持されている。
【0029】
レフトケース4の側壁4Bに対して左側に対向する側壁4C(図1参照)には、ボス部43に対向して図示しないボス部が形成されており、このボス部にも図示しない軸受が設けられている。この軸受にはインプットシャフト30の中心軸の軸線方向の他端部が回転自在に支持されており、インプットシャフト30は、軸受44および図示しない軸受を介して側壁4B、4Cに回転自在に支持されている。
【0030】
側壁4Bの上方にはオイル捕捉部45が形成されており、オイル捕捉部45は、側壁4Bから側壁4Cに向かって突出している。
オイル捕捉部45は、車両の前進時にリングギヤ42が反時計回転方向に回転することでリングギヤ42によって掻き上げられたオイルを補足する。
【0031】
ボス部43には第1の連通孔43Aおよび第2の連通孔43Bが形成されており、第1の連通孔43Aおよび第2の連通孔43Bは、ボス部43の半径方向内方と半径方向外方とを連通している。
【0032】
第1の連通孔43Aおよび第2の連通孔43Bは、ボス部43の円周方向に離隔しており、第1の連通孔43Aは、ボス部43の円周方向においてリングギヤ42側に位置し、第2の連通孔43Bは、リングギヤ42から離れる方向に位置している。
【0033】
オイル捕捉部45は、第1のオイル誘導部46および第2のオイル誘導部47から構成されている。第1のオイル誘導部46は、リングギヤ42の回転によって掻き上げられたオイルを捕捉して第1の連通孔43Aに誘導し、第2のオイル誘導部47は、リングギヤ42の回転によって掻き上げられたオイルを捕捉して第2の連通孔43Bに誘導する。
【0034】
側壁4Bには複数のボス部11〜14が形成されており、ボス部11〜14にはシフトシャフト36A〜36Dの中心軸の軸線方向の一端部が軸線方向に移動自在に支持されている。側壁4Cにはボス部11〜14に対向して図示しない複数のボス部が形成されており、このボス部にはシフトシャフト36A〜36Dの中心軸の軸線方向の他端部が軸線方向に移動自在に支持されている。
【0035】
ボス部43の円周方向における第1の連通孔43Aと第2の連通孔43Bとの間とボス部12とを接続するリブ49がボス部43から径方向外方に延びて形成されている。リブ49は、側壁4Bから側壁4Cに向かって突出している。本実施の形態のリブ49は、ボス部11、12と一体に形成されている。したがって、リブ49は、第1のオイル誘導部46および第2のオイル誘導部47と一体で形成されている。
【0036】
レフトケース4の側壁4Bには軸受用のボス部50が形成されており、ボス部50の内周面には軸受51が取付けられている。軸受51にはカウンタシャフト32の軸線方向の一端部が取付けられており、カウンタシャフト32は、軸受51を介してボス部50に回転自在に支持されている。
【0037】
側壁4Bに対して左側に対向する側壁4Cには、ボス部50に対向して図示しないボス部が形成されており、このボス部にも図示しない軸受が設けられている。この軸受にはカウンタシャフト32の中心軸の軸線方向の他端部が回転自在に支持されており、カウンタシャフト32は、軸受51および図示しない軸受を介して側壁4B、4Cに回転自在に支持されている。
【0038】
本実施の形態のインプットシャフト30は、本発明の軸部材および第1の軸部材を構成する。カウンタシャフト32は、本発明の第2の軸部材を構成し、カウンタギヤ34は、本発明の第3のギヤを構成する。本実施の形態のボス部43は、本発明の軸受部および第1の軸受部を構成し、ボス部50は、本発明の第2の軸受部を構成する。
【0039】
ボス部50は、ボス部43に対してリングギヤ42側に設置されており、ボス部43とリングギヤ42の間に位置している。ボス部50には連通孔50Aが形成されており、リングギヤ42の回転によって掻き上げられたオイルは、連通孔50Aを通して軸受51に供給される。これにより、軸受51がオイルによって潤滑される。
【0040】
第1のオイル誘導部46は、リブ49、52、53、ボス部11、12から構成されている。リブ52は、ボス部50の上方において、側壁4Bから側壁4Cに向かって突出している。リブ52は、ボス部50の円周方向に沿ってリングギヤ42から第1の連通孔43Aに向かって延びている。
【0041】
リブ53は、ボス部43、50の上方において側壁4Bから側壁4Cに向かって突出している。リブ53は、リングギヤ42側からインプットギヤ31側に向かって直線状に延びている。
リブ49の一方の側面49a、ボス部11、12の一方の側面15、リブ52の上面52aおよびリブ53の下面53aによって囲まれる空間には第1の連通孔43Aに連通する第1のオイル溜まり54が形成されている。
【0042】
第2のオイル誘導部47は、リブ49と、ボス部11、12およびリブ55とを備えている。 リブ55は、ボス部43の上方において、側壁4Bから側壁4Cに向かって突出しており、リングギヤ42から離れるようにボス部43から斜め上方に延びている。
【0043】
リブ55の上面55a、リブ49の他方の側面49bおよびボス部11、12の他方の側面16によって囲まれる空間には第2の連通孔43Bに連通する第2のオイル溜まり56が形成されている。
【0044】
本実施の形態のリブ49は、本発明のリブおよび第1のリブを構成し、リブ52は、本発明の第2のリブを構成する。リブ53は、本発明の第3のリブを構成し、リブ55は、本発明の第4のリブを構成する。
【0045】
第2のオイル溜まり56は、リブ53の上面53bとリブ53の上方に位置するレフトケース4の天井面4Dとの間の空間に連通しており、リングギヤ42に掻き上げられたオイルは、レフトケース4の天井面4Dとの間の空間を通して第2のオイル溜まり56誘導される。
【0046】
次に、作用を説明する。
エンジン10の低回転時にはリングギヤ42の回転数が低い。これにより、リングギヤ42によって掻き上げられる単位時間当たりのオイル量は、少ない。また、リングギヤ42の回転による慣性力も小さいので、オイルは、リングギヤ42によって遠くまで飛散しない。
【0047】
このため、オイルは、矢印F1で示すように、リブ52、53の間から第1のオイル溜まり54に優先して誘導されて第1のオイル溜まり54に貯留される。これにより、オイルOの油面が低下して、リングギヤ42の攪拌抵抗が低減される。また、第1のオイル溜まり54に貯留されるオイルは、第1の連通孔43Aを通して軸受44に供給され、軸受44がオイルによって潤滑される。
【0048】
エンジン10の低回転時には第1の連通孔43Aを通してレフトケース4の底面4Aにオイルが戻されるので、底面4Aに戻されるオイルの量は、少なく、第1のオイル溜まり46に貯留されるオイルの油面の油面が高い状態が維持される。これにより、オイルOの油面が高くなることがなく、リングギヤ42の攪拌抵抗が低減された状態を維持できる。
【0049】
一方、エンジン10の高回転時にはリングギヤ42の回転数が高くなる。これにより、リングギヤ42によって掻き上げられる単位時間当たりのオイル量は、多くなる。さらに、リングギヤ42の回転による慣性力も大きくなるので、オイルは、リングギヤ42によって遠くまで飛散する。
【0050】
このため、オイルは、矢印F2で示すように、リブ53の上面53aとレフトケース4の天井面4Dとの間の空間を通して第2のオイル溜まり56に誘導されて第2のオイル溜まり56に貯留される。
【0051】
リブ55は、リングギヤ42から離れるようにボス部43から斜め上方に延びているので、リングギヤ42の回転によってリングギヤ42から遠くに飛散したオイルをリブ55によって補足して第2のオイル溜まり56に誘導できる。リブ55によって補足されないオイルは、シフトアンドセレクトシャフト6に供給されてシフトアンドセレクトシャフト6が潤滑される。
【0052】
リブ53の上面53aとレフトケース4の天井面4Dとの間の空間は、狭く形成されている。これにより、リングギヤ42によって飛散されたオイルの一部は、矢印F1で示すように、リブ52、53の間から第1のオイル溜まり54に誘導されて第1のオイル溜まり54に貯留される。これにより、オイルOの油面が低下して、リングギヤ42の攪拌抵抗が低減される。
【0053】
第1のオイル溜まり54および第2のオイル溜まり56に貯留されたオイルは、それぞれ第1の連通孔43Aおよび第2の連通孔43Bを通して軸受44に供給され、軸受44がオイルによって潤滑される。
【0054】
エンジン10の高回転時には第1の連通孔43Aおよび第2の連通孔43Bを通してレフトケース4の底面4Aにオイルが戻されるので、底面4Aに戻されるオイルの量が多い。これにより、リングギヤ42の回転数が高くなってリングギヤ42によって掻き上げられる単位時間当たりのオイル量が増大しても、リングギヤ42に掻き上げられるオイル量を確保できる。
【0055】
このため、リングギヤ42からインプットギヤ31とカウンタギヤ34、35との噛み合い部等に十分な量のオイルを確実に供給して、インプットギヤ31とカウンタギヤ34、35との噛み合い部等を確実に潤滑できる。
【0056】
このように本実施の形態の変速機1の潤滑構造によれば、リングギヤ42の回転によって掻き上げられたオイルを捕捉するオイル捕捉部45と、オイル捕捉部45に捕捉されたオイルをボス部43に供給する第1の連通孔43Aおよび第2の連通孔43Bとを備え、ボス部43の円周方向において第1の連通孔43Aがリングギヤ42側に位置し、第2の連通孔43Bが第1の連通孔43Aに対してリングギヤ42から離れる方向に位置するように構成されている。
【0057】
さらに、オイル捕捉部45が、リングギヤ42の回転によって掻き上げられたオイルを捕捉して第1の連通孔43Aに誘導する第1のオイル誘導部46と、リングギヤ42の回転によって掻き上げられたオイルを捕捉して第2の連通孔43Bに誘導する第2のオイル誘導部47とを含んで構成される。
【0058】
これにより、エンジン10の低回転時に第1のオイル誘導部46から第1の連通孔43Aにオイルを誘導し、エンジン10の高回転時に第1のオイル誘導部46および第2のオイル誘導部47から第1の連通孔43Aおよび第2の連通孔43Bにオイルを誘導できる。
【0059】
このため、エンジン10の運転状態に応じて第1のオイル誘導部46および第2のオイル誘導部47に適切な量なオイルを振り分けて供給でき、ボス部43に供給されるオイル量を適正に調整することができる。
【0060】
また、エンジン10が長期に亙って停止された場合に、エンジン10を高回転まで上昇させたときには、第1のオイル誘導部46および第2のオイル誘導部47から第1の連通孔43Aおよび第2の連通孔43Bにオイルを速やかに供給できる。
【0061】
これにより、ボス部43から軸受44にオイルを速やかに供給でき、軸受44の焼き付けが発生することを防止できる。この結果、インプットシャフト30をボス部43に安定して支持することができ、変速機1の信頼性が悪化することを防止できる。
【0062】
また、本実施の形態の変速機1の潤滑構造によれば、変速機ケース2は、変速用のシフトフォーク37A、37Bを軸線方向に移動自在に支持するシフトシャフト36A、36Bと、レフトケース4の側壁4Bに形成されてシフトシャフト36A、36Bが嵌合されるボス部11、12とを有し、ボス部43の円周方向における第1の連通孔43Aと第2の連通孔43Bとの間には、ボス部43とボス部11、12とを接続するリブ49がレフトケース4の側壁4Bに形成されている。
【0063】
これにより、第1の連通孔43Aおよび第2の連通孔43Bの間のボス部43の部位を、リブ49を介して剛性の高いボス部11に接続することで、重量物であるインプットシャフト30を支持するボス部43の剛性を向上できる。
【0064】
このため、ボス部43に2つの第1の連通孔43Aおよび第2の連通孔43Bを形成した場合でも、ボス部43の剛性が低下することを防止できる。この結果、インプットシャフト30をボス部43に安定して支持することができ、変速機1の信頼性が悪化することを防止できる。
【0065】
また、本実施の形態の変速機1の潤滑構造によれば、第1のオイル誘導部46および第2のオイル誘導部47を構成するリブ49がボス部11、12と一体に形成されている。これにより、第1のオイル誘導部46および第2のオイル誘導部47によってオイルを第1の連通孔43Aおよび第2の連通孔43Bに誘導できる。
【0066】
これにより、ボス部11、12にオイルを供給して、ボス部11、12とシフトシャフト36A、36Bとを潤滑することができ、ボス部11、12とシフトシャフト36A、36Bとの接触面の焼き付けが発生することを防止できる。
【0067】
また、本実施の形態の変速機1の潤滑構造によれば、カウンタシャフト32がインプットシャフト30に対してリングギヤ42側に設置されている。第1のオイル誘導部46は、ボス部50においてボス部50の円周方向に沿ってリングギヤ42側から第1の連通孔43Aに向かって延びるリブ52と、ボス部43およびボス部50の上方においてリングギヤ42側からインプットギヤ31側に向かって延びるリブ53とを備えている。
【0068】
リブ49の一方の側面49a、ボス部11、12の一方の側面15、リブ52の上面52aおよびリブ53の下面53aによって第1の連通孔43Aに連通する第1のオイル溜まり54が形成されている。
【0069】
第2のオイル誘導部47は、リブ49と、ボス部11、12と、リングギヤ42から離れるようにボス部43から上方に延びるリブ55とを備え、リブ55の上面55a、リブ49の他方の側面49bおよびボス部11、12の他方の側面16によって第2の連通孔43Bに連通する第2のオイル溜まり56が形成されている。
【0070】
さらに、第2のオイル溜まり56には、リブ53の上面53bとリブ53の上方に位置するレフトケース4の天井面4Dとの間の空間を通してリングギヤ42に掻き上げられたオイルが誘導される。
【0071】
これにより、エンジン10の低回転時において、リブ55とボス部11、12の他方の側面16に対してリングギヤ42側に形成されるリブ52とリブ53との間から第1のオイル溜まり54にオイルを誘導することができ、第1の連通孔43Aにオイルを確実に供給することができる。
【0072】
さらに、エンジン10の高回転時において、リブ52、53に対してリングギヤ42から離れた第2のオイル溜まり46に、リブ53の上面53bとレフトケース4の天井面4Dを通してオイルを誘導することができ、第1の連通孔43Aに加えて、第2の連通孔43Bにオイルを確実に供給することができる。
【0073】
本発明の実施の形態を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0074】
1...変速機、2...変速機ケース、4A...底面(変速機ケースの底面)、4B...側壁(変速機ケースの側壁)、4D...天井面(変速機ケースの天井面)、11,12...ボス部、15...一方の側面(ボス部の一方の側面)、16...他方の側面(ボス部の他方の側面)、30...インプットシャフト(第1の軸部材)、31...インプットギヤ(第2のギヤ)、32...カウンタシャフト(第2の軸部材)、34...カウンタギヤ(第3のギヤ)、36A,36B...シフトシャフト、37A,37B...シフトフォーク、42...リングギヤ(第1のギヤ)、42a...下部(第1のギヤの下部)、43...ボス部(軸受部、第1の軸受部)、43A...第1の連通孔、43B...連通孔(第2の連通孔)、45...オイル捕捉部、46...第1のオイル誘導部、47...第2のオイル誘導部、49...リブ(リブ,第1のリブ)、49a...一方の側面(第1のリブの一方の側面)、49b...他方の側面(第1のリブの他方の側面)、50...ボス部(第2の軸受部)、52...リブ(第2のリブ)、52a...上面(第2のリブの上面)、53...リブ(第3のリブ)、53a...下面(第3のリブの下面)、53b...上面(第3のリブの上面)、55...リブ(第4のリブ)、55a...上面(第4のリブの上面)、O...オイル
図1
図2
図3
図4