特許第6593255号(P6593255)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6593255鋳型用粘結剤組成物、鋳型用骨材混合物、鋳型、及び鋳型の造型方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6593255
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】鋳型用粘結剤組成物、鋳型用骨材混合物、鋳型、及び鋳型の造型方法
(51)【国際特許分類】
   B22C 1/18 20060101AFI20191010BHJP
   B22C 1/00 20060101ALI20191010BHJP
   B22C 1/10 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   B22C1/18 B
   B22C1/00 B
   B22C1/00 G
   B22C1/10 C
【請求項の数】15
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-112861(P2016-112861)
(22)【出願日】2016年6月6日
(65)【公開番号】特開2017-217660(P2017-217660A)
(43)【公開日】2017年12月14日
【審査請求日】2018年4月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】青木 知裕
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕介
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 カナダ国特許出願公開第02910387(CA,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0136724(US,A1)
【文献】 米国特許第04347890(US,A)
【文献】 英国特許出願公告第01532847(GB,A)
【文献】 特開2013−111602(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/058254(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 1/00−3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性粘結剤と、
モル比(SiO/LiO)が3.0以上5.0以下である珪酸リチウムと
水溶性の発泡剤と、
を含有する鋳型用粘結剤組成物。
【請求項2】
前記水溶性粘結剤として、珪酸ナトリウム及び珪酸カリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含有する請求項に記載の鋳型用粘結剤組成物。
【請求項3】
前記発泡剤として界面活性剤を含有する請求項1又は請求項2に記載の鋳型用粘結剤組成物。
【請求項4】
前記界面活性剤として陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、及び両性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種を含有する請求項に記載の鋳型用粘結剤組成物。
【請求項5】
骨材と、
水溶性粘結剤と、
モル比(SiO/LiO)が3.0以上5.0以下である珪酸リチウムと
水溶性の発泡剤と、
を含有する鋳型用骨材混合物。
【請求項6】
前記水溶性粘結剤として、珪酸ナトリウム及び珪酸カリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含有する請求項に記載の鋳型用骨材混合物。
【請求項7】
前記発泡剤として界面活性剤を含有する請求項5又は請求項6に記載の鋳型用骨材混合物。
【請求項8】
前記界面活性剤として陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、及び両性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種を含有する請求項に記載の鋳型用骨材混合物。
【請求項9】
前記珪酸リチウムの含有量が、前記骨材に対し0.01質量%以上1質量%以下である請求項乃至請求項のいずれか一項に記載の鋳型用骨材混合物。
【請求項10】
前記水溶性粘結剤の含有量が、前記骨材に対し0.1質量%以上20質量%以下である請求項乃至請求項のいずれか一項に記載の鋳型用骨材混合物。
【請求項11】
前記発泡剤の含有量が、前記骨材に対し0.005質量%以上0.1質量%以下である請求項乃至請求項10のいずれか一項に記載の鋳型用骨材混合物。
【請求項12】
発泡による気泡を含有し、粘度が0.5Pa・s以上10Pa・s以下である請求項乃至請求項11のいずれか一項に記載の鋳型用骨材混合物。
【請求項13】
骨材と、水溶性粘結剤と、モル比(SiO/LiO)が3.0以上5.0以下である珪酸リチウムと水溶性の発泡剤と、を含有する鋳型。
【請求項14】
a)骨材、水溶性粘結剤、水、モル比(SiO/LiO)が3.0以上5.0以下である珪酸リチウム、及び水溶性の発泡剤を含む骨材混合物を攪拌することにより該骨材混合物中で発泡を生じさせ、気泡を含む発泡骨材混合物を調製する発泡骨材混合物調製工程と、
b)前記発泡骨材混合物を金型における鋳型造型用の空間に充填する充填工程と、
c)充填した発泡骨材混合物の水分を蒸発させて発泡骨材混合物を固化させ、骨材鋳型を造型する鋳型造型工程と、
d)造型された骨材鋳型を前記鋳型造型用の空間から取り出す取出工程と、
を有する鋳型の造型方法。
【請求項15】
前記b)充填工程において、前記鋳型造型用の空間への充填を射出により行う請求項14に記載の鋳型の造型方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型用粘結剤組成物、鋳型用骨材混合物、鋳型、及び鋳型の造型方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋳型に用いられる粘結剤として澱粉等の水溶性粘結剤を用い、骨材と水溶性粘結剤を撹拌し、骨材混合物を発泡させて鋳型を成形する方法が開示されている。これらの特徴として、澱粉等を用いるため、造型時や注湯時に不快な臭気やガスを殆ど発生させないことや、鋳造時の熱により粘結剤の結合力が弱まり、鋳物から骨材を容易に除去できることが挙げられる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、上記水溶性粘結剤に水ガラス(珪酸ナトリウム)を用いることで、臭気やガスの発生を更に低減できる鋳型成形方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2005/023457号
【特許文献2】特開2013−111602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
骨材及び水溶性粘結剤を撹拌し、発泡させた骨材混合物を用いた鋳型による鋳造法では、鋳型が吸湿することで強度が低下することがあり、鋳型の周囲の環境が高湿であるほど、より強度が低下する傾向にあった。強度の低下した鋳型を鋳造に用いた場合、搬送時や注湯した後金属が固化する前に一部または全部が崩壊することも考えられ、耐湿性の向上が求められていた。
【0006】
本発明は、耐湿性に優れた鋳型が得られる鋳型用粘結剤組成物、及び鋳型用骨材混合物を提供することを目的とする。
また、耐湿性に優れた鋳型、及び耐湿性に優れた鋳型の造型方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は、以下の手段により解決される。
【0008】
<1> 水溶性粘結剤と、珪酸リチウム、酸化リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、臭化リチウム、塩化リチウム、硝酸リチウム、及び亜硝酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種のリチウム塩と、を含有する鋳型用粘結剤組成物。
【0009】
<2> 前記リチウム塩として、珪酸リチウム及び水酸化リチウムからなる群より選択される少なくとも1種を含有する<1>に記載の鋳型用粘結剤組成物。
【0010】
<3> 前記リチウム塩として、モル比(SiO/LiO)が3.0以上8.0以下である珪酸リチウムを含有する<1>又は<2>に記載の鋳型用粘結剤組成物。
【0011】
<4> 前記リチウム塩として、モル比(SiO/LiO)が3.0以上5.0以下である珪酸リチウムを含有する<1>乃至<3>のいずれか一項に記載の鋳型用粘結剤組成物。
【0012】
<5> 前記水溶性粘結剤として、珪酸ナトリウム及び珪酸カリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含有する<1>乃至<4>のいずれか一項に記載の鋳型用粘結剤組成物。
【0013】
<6> さらに水溶性の発泡剤を含有する<1>乃至<5>のいずれか一項に記載の鋳型用粘結剤組成物。
【0014】
<7> 前記発泡剤として界面活性剤を含有する<6>に記載の鋳型用粘結剤組成物。
【0015】
<8> 前記界面活性剤として陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、及び両性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種を含有する<7>に記載の鋳型用粘結剤組成物。
【0016】
<9> 骨材と、水溶性粘結剤と、珪酸リチウム、酸化リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、臭化リチウム、塩化リチウム、硝酸リチウム、及び亜硝酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種のリチウム塩と、を含有する鋳型用骨材混合物。
【0017】
<10> 前記リチウム塩として、珪酸リチウム及び水酸化リチウムからなる群より選択される少なくとも1種を含有する<9>に記載の鋳型用骨材混合物。
【0018】
<11> 前記リチウム塩として、モル比(SiO/LiO)が3.0以上8.0以下である珪酸リチウムを含有する<9>又は<10>に記載の鋳型用骨材混合物。
【0019】
<12> 前記リチウム塩として、モル比(SiO/LiO)が3.0以上5.0以下である珪酸リチウムを含有する<9>乃至<11>のいずれか一項に記載の鋳型用骨材混合物。
【0020】
<13> 前記水溶性粘結剤として、珪酸ナトリウム及び珪酸カリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含有する<9>乃至<12>のいずれか一項に記載の鋳型用骨材混合物。
【0021】
<14> さらに水溶性の発泡剤を含有する<9>乃至<13>のいずれか一項に記載の鋳型用骨材混合物。
【0022】
<15> 前記発泡剤として界面活性剤を含有する<14>に記載の鋳型用骨材混合物。
【0023】
<16> 前記界面活性剤として陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、及び両性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種を含有する<15>に記載の鋳型用骨材混合物。
【0024】
<17> 前記リチウム塩の含有量が、前記骨材に対し0.01質量%以上1質量%以下である<9>乃至<16>のいずれか一項に記載の鋳型用骨材混合物。
【0025】
<18> 前記水溶性粘結剤の含有量が、前記骨材に対し0.1質量%以上20質量%以下である<9>乃至<17>のいずれか一項に記載の鋳型用骨材混合物。
【0026】
<19> 前記発泡剤の含有量が、前記骨材に対し0.005質量%以上0.1質量%以下である<14>乃至<18>のいずれか一項に記載の鋳型用骨材混合物。
【0027】
<20> 発泡による気泡を含有し、粘度が0.5Pa・s以上10Pa・s以下である<9>乃至<19>のいずれか一項に記載の鋳型用骨材混合物。
【0028】
<21> 骨材と、水溶性粘結剤と、珪酸リチウム、酸化リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、臭化リチウム、塩化リチウム、硝酸リチウム、及び亜硝酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種のリチウム塩と、を含有する鋳型。
【0029】
<22> a)骨材、水溶性粘結剤、水、並びに珪酸リチウム、酸化リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、臭化リチウム、塩化リチウム、硝酸リチウム、及び亜硝酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種のリチウム塩を含む骨材混合物を攪拌することにより該骨材混合物中で発泡を生じさせ、気泡を含む発泡骨材混合物を調製する発泡骨材混合物調製工程と、b)前記発泡骨材混合物を金型における鋳型造型用の空間に充填する充填工程と、c)充填した発泡骨材混合物の水分を蒸発させて発泡骨材混合物を固化させ、骨材鋳型を造型する鋳型造型工程と、d)造型された骨材鋳型を前記鋳型造型用の空間から取り出す取出工程と、を有する鋳型の造型方法。
【0030】
<23> 前記b)充填工程において、前記鋳型造型用の空間への充填を射出により行う<22>に記載の鋳型の造型方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、耐湿性に優れた鋳型が得られる鋳型用粘結剤組成物、及び鋳型用骨材混合物を提供することができる。
また、耐湿性に優れた鋳型、及び耐湿性に優れた鋳型の造型方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】実施例A1及び比較例A1の耐湿試験の結果を示すグラフである。
図2】実施例A1及び比較例A1の耐水試験の結果を示すグラフである。
図3】実施例B1及び比較例B1の耐湿試験の結果を示すグラフである。
図4】実施例B1及び比較例B1の耐水試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0034】
本発明に係る鋳型用粘結剤組成物は、水溶性粘結剤と、以下に示す群より選択される少なくとも1種のリチウム塩と、を含有する。
珪酸リチウム(LiSi)、酸化リチウム(LiO)、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(LiCO)、臭化リチウム(LiBr)、塩化リチウム(LiCl)、硝酸リチウム(LiNO)、亜硝酸リチウム(LiNO
【0035】
なお、本発明に係る鋳型用粘結剤組成物は、骨材と共に混合されることで鋳型(骨材鋳型)の材料である鋳型用骨材混合物として用いられる組成物である。なお、本明細書において鋳型とは、中子を含む意味で用いる。
【0036】
また、本発明に係る鋳型用骨材混合物は、骨材と、水溶性粘結剤と、前記に示す群より選択される少なくとも1種のリチウム塩と、を含有する。
【0037】
なお、本発明に係る鋳型用骨材混合物を作製するにあたり、水溶性粘結剤と前記に示す群より選択される少なくとも1種のリチウム塩(以下単に「特定のリチウム塩」とも称す)とを予め混合した後に骨材と混合してもよいし、骨材と水溶性粘結剤又は特定のリチウム塩のいずれか一方とを混合した後にもう一方を後から混合してもよいし、3者を一遍に混合してもよい。
【0038】
骨材及び水溶性粘結剤を含む鋳型を用いた鋳造法では、例えば鋳型を高湿環境下に放置したときに鋳型自体の強度が低下することがあった。また、鋳型の表面処理を行う等の目的で、鋳型に水性媒体を含む処理液(例えば水性塗型)をディッピング等の方法で塗布することがあり、この水性溶媒から吸水した鋳型の強度が低下することがあった。
強度の低下した鋳型は、その搬送時や注湯した後金属が固化する前に崩壊することも考えられる。そのため耐湿性の向上が求められており、さらに耐水性の向上も求められていた。
【0039】
これに対し本発明に係る鋳型用粘結剤組成物及び鋳型用骨材混合物は、前記の構成を備えることにより、鋳型としたときの耐湿性に優れ、かつ耐水性にも優れる。
この効果が奏される理由は、必ずしも明確ではないが以下のように推察される。
【0040】
鋳型に含まれる水溶性粘結剤がLiイオンによって置換される金属塩(例えば珪酸ナトリウム(NaO・nSiO)や珪酸カリウム(KO・nSiO)など)である場合、特定のリチウム塩によって生じたLiイオンに置換されてリチウム金属塩となり、反応が収束して優れた耐湿性及び耐水性を示すものと考えられる。
以上により、本発明では鋳型としたときの耐湿性及び耐水性に優れるものと考えられる。
【0041】
次いで、本発明に係る鋳型用粘結剤組成物、及び鋳型用骨材混合物を構成する組成物について詳細に説明する。
【0042】
〔特定のリチウム塩〕
本発明においては特定のリチウム塩として、以下に示す群より選択される少なくとも1種のリチウム塩を含有する。
珪酸リチウム(LiSi)、酸化リチウム(LiO)、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(LiCO)、臭化リチウム(LiBr)、塩化リチウム(LiCl)、硝酸リチウム(LiNO)、亜硝酸リチウム(LiNO
【0043】
これらの中でも、より耐湿性及び耐水性に優れた鋳型が得られるとの観点から、珪酸リチウム及び水酸化リチウムが好ましく、珪酸リチウムがより好ましい。
【0044】
珪酸リチウム(LiSi)としては、より耐湿性及び耐水性に優れた鋳型が得られるとの観点から、モル比(SiO/LiO)が3.0以上8.0以下のものが好ましく、3.0以上5.0以下のものがより好ましい。
【0045】
特定のリチウム塩の含有量は、前記骨材に対し0.01質量%以上1質量%以下の範囲が好ましく、0.05質量%以上0.5質量%以下の範囲がより好ましく、0.1質量%以上0.3質量%以下の範囲がさらに好ましい。
特定のリチウム塩の含有量が0.01質量%以上であることで、耐湿性及び耐水性に優れた鋳型が得られる。一方、1質量%以下であることで、発泡させた骨材混合物の粘度の悪化を抑制できる。
【0046】
〔骨材〕
本発明における骨材としては、特に限定されず従来公知のいかなるものも用いることができる。例えば、硅砂、アルミナ砂、オリビン砂、クロマイト砂、ジルコン砂、ムライト砂等の骨材が挙げられ、更には各種の人工骨材(いわゆる人工砂)を用いてもよい。
これらの中でも、骨材に対し粘結剤の添加量を低減しても十分な鋳型強度が得られ易く且つ高い骨材再生率が得られ易いとの観点で、特に人工骨材が好ましい。
【0047】
本発明における骨材の粒度指数としては、JIS;631(AFS;300)以下JIS;5(AFS;3)以上が好ましく、JIS;355(AFS;200)以下JIS;31(AFS;20)以上が更に好ましい。
粒度指数が上記下限値以上であることにより流動性に優れ鋳型を造型する際の充填性が向上する。一方、上記下限値以下であることにより鋳型として通気性が良好に保たれる。
【0048】
尚、本明細書においてはJIS Z 2601−1993付属書2(鋳物砂の粒度試験方法)にて測定された粒度指数を表す。
【0049】
本発明における骨材の形状としては、特に限定されるものではなく、丸型、角丸型、多角型、尖扁角型等、いかなる形状であってもよい。なお、流動性に優れ鋳型を造型する際の充填性が向上し、また鋳型として通気性が良好に保たれるとの観点から、特に丸型が好ましい。
【0050】
〔水溶性粘結剤〕
粘結剤は、常温及び注湯される溶湯の温度域において鋳型の形状を良好に保持させるとの観点で、骨材に粘結力を付与するために含有される。
なお、水溶性とは常温(20℃)で水に可溶性であることを指し、1気圧20℃で同容量の純水との混合液が均一な外観を示すことが好ましい。
【0051】
本発明における水溶性粘結剤としては、特に限定されず従来公知のいかなるものも用いることができ、例えば珪酸ナトリウム(水ガラス)、珪酸カリウム(珪酸カリ)、珪酸アンモニウム、オルソりん酸塩、ピロりん酸塩、トリメタりん酸塩、ポリメタりん酸塩、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、アルキルシリケート等が挙げられる。
これらの中でも、特定のリチウム塩による耐湿性及び耐水性の向上をより効果的に発揮し得るとの観点から珪酸ナトリウム(水ガラス)、珪酸カリウム(珪酸カリ)がより好ましい。
【0052】
なお、水溶性の粘結剤は、例えば上記に列挙されたものの中から1種のみを用いても、2種以上を併用してもよい。
【0053】
なお、珪酸ナトリウム(水ガラス)としてはモル比(SiO・NaOの分子比)が1.2以上3.8以下のものが好ましく、更にはモル比が2.0以上3.3以下のものがより好ましい。モル比が上記下限値以上であることにより低温での長期保管においても水ガラスの変質が抑制できるとの利点があり、一方、上記上限値以下であることにより粘結剤の粘度を調整し易いとの利点がある。
【0054】
本発明における水溶性粘結剤の骨材に対する含有量は、用いる粘結剤及び骨材の種類によってそれぞれ設定することが好ましいが、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、更に0.1質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0055】
〔水溶性の発泡剤〕
また、本発明に係る鋳型用骨材混合物を用いて鋳型を造型するに際しては、水溶性の発泡剤を用いて骨材や水溶性粘結剤、特定のリチウム塩等と共に混合し攪拌して発泡を生じさせ、発泡した骨材混合物を調製して流動性を向上した上で鋳型を造型することが好ましい。
なお、水溶性とは常温(20℃)で水に可溶性であることを指し、1気圧20℃で同容量の純水との混合液が均一な外観を示すことが好ましい。
【0056】
上記水溶性の発泡剤としては、さらに粘結剤としての機能を併せ持つことが好ましく、骨材混合物における上記の発泡をより効率的に生じさせる観点から、発泡性を有する粘結剤が好ましい。発泡性を有する水溶性の粘結剤としては、例えば界面活性剤(具体的には、陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤等)、ポリビニルアルコールもしくはその誘導体、サポニン、澱粉もしくはその誘導体、その他の糖類等が挙げられる。なお、その他の糖類としては、例えば、多糖類としてセルロース、フルクトース等が、四糖類としてアカルボース等が、三糖類としてラフィノース、マルトトリオース等が、二糖類としてマルトース、スクラトース、トレハロース等が、単糖類としてブドウ糖、果糖、その他オリゴ糖等が挙げられる。
【0057】
陰イオン界面活性剤としては、脂肪酸ナトリウム、モノアルキル硫酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、エーテル硫酸ナトリウムなどがある。非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ソルビタンエステル、アルキルポリグルコシドなどがある。両性界面活性剤としては、コカミドプロピルベタイン、コカミドプロピルヒドロキシスルタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインなどがある。
【0058】
なお、発泡剤は、例えば上記に列挙されたものの中から1種のみを用いても、2種以上を併用してもよい。
【0059】
本発明における水溶性の発泡剤の骨材に対する含有量は、用いる発泡剤及び骨材の種類によってそれぞれ設定することが好ましい。
陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、及び両性界面活性剤の総含有量は、骨材に対し0.005質量%以上0.1質量%以下が好ましく、更に0.01質量%以上0.05質量%以下がより好ましい。
ポリビニルアルコール及びその誘導体、サポニン、澱粉及びその誘導体、並びにその他の糖類(粘結剤群(A))の総含有量は、骨材に対し0.1質量%以上20.0質量%以下が好ましく、更に0.2質量%以上5質量%以下がより好ましい。
【0060】
〔その他の組成物〕
また、本発明に係る鋳型用骨材混合物には、上記のほかにも、触媒、酸化促進剤等、従来公知の組成物を添加することができる。
【0061】
〔混練方法〕
本発明に係る鋳型用骨材混合物の作製は、上述した各種組成物を添加混合することにより行われる。添加の順番や混練の方法は特に限定されるものではないが、例えば前記粘結剤と前記特定のリチウム塩とを予め混合して、まず鋳型用粘結剤組成物を調製し、その後、この鋳型用粘結剤組成物を前記骨材と混合する方法が好ましい。
骨材に対して上記鋳型用粘結剤組成物やその他の組成物等を添加し混練する際の混練装置としては、特に限定されることなく従来公知の混練装置が用いられ、例えば自転・公転ミキサー、アイリッヒ・インテンシブ・ミキサー、新東シンプソン・ミックスマラー等が用いられる。
【0062】
なお、本発明に係る鋳型用骨材混合物を作製する際には、必ずしも粘結剤と特定のリチウム塩とを予め混合して鋳型用粘結剤組成物を調製しておく必要はなく、例えば骨材に対して粘結剤を添加し混練したのち更にそこに特定のリチウム塩を添加して混練することで本発明に係る鋳型用骨材混合物を作製してもよい。また、骨材に対して特定のリチウム塩を添加して混練したのち更にそこに粘結剤を添加して混練することで本発明に係る鋳型用骨材混合物を作製してもよい。さらには、3者を一遍に混練することで本発明に係る鋳型用骨材混合物を作製してもよい。なお、その際の混練装置としても、上記の混練装置が好適に用いられる。
【0063】
〔骨材鋳型の造型方法〕
本発明に係る鋳型用骨材混合物を用いた骨材鋳型の造型は、造型機による造型であっても、また手込めによる造型であってもよい。
【0064】
ただし、水溶性粘結剤、骨材及び特定のリチウム塩等を混合し攪拌して発泡させて発泡骨材混合物を作り、鋳型造型用の金型における加熱した鋳型造型用空間へ圧入して充填し造型することが好ましく、圧入の際に射出により充填することがより好ましい。
【0065】
より具体的には、以下のa)〜d)の工程を含む造型方法によって鋳型を造型することが好ましい。
a)骨材、水溶性粘結剤、前述の特定のリチウム塩、及び水を含む骨材混合物を攪拌することにより該骨材混合物中で発泡を生じさせ、気泡を含む発泡骨材混合物を調製する発泡骨材混合物調製工程
b)前記発泡骨材混合物を金型における鋳型造型用の空間に充填する充填工程
c)充填した発泡骨材混合物の水分を蒸発させて発泡骨材混合物を固化させ、骨材鋳型を造型する鋳型造型工程
d)造型された骨材鋳型を前記鋳型造型用の空間から取り出す取出工程
【0066】
高温に加熱された金型の鋳型造型用空間に圧入され充填された発泡骨材混合物では、攪拌により発泡骨材混合物中に分散した気泡と、加熱された金型の熱により発泡骨材混合物中の水分から発生する水蒸気と、が鋳型の中心部に集まる現象が起きる。そのため、中心部においては骨材、水溶性粘結剤、及び特定のリチウム塩の充填密度(つまり固形分の密度)が低い鋳型となり、逆に表面は骨材、水溶性粘結剤、及び特定のリチウム塩の充填密度(固形分の密度)が高い鋳型となる。
鋳型への吸湿や吸水が生じる場合には通常表面から生じるため、骨材鋳型中の特定のリチウム塩は特に表面部に存在していることがより好ましい。加熱した鋳型造型用空間へ前述の発泡骨材混合物を圧入し造型して得られた鋳型の表面は、特定のリチウム塩の密度が高いため、特定のリチウム塩の添加量を低減することに非常に有効である。
【0067】
なお、鋳型において、中心部の固形分の密度が表面部の固形分の密度より小さいか否かを確認するには、鋳型の中心部の断面及び表面における固形分(骨材、粘結剤、及び特定のリチウム塩)の詰まり具合を目視で確認することで判別できる。
【0068】
骨材混合物は鋳型造型用空間への充填性を向上させるため、及び上記充填密度向上のために、ホイップクリーム状となるまで発泡しておくことが好ましい。より具体的には、前記発泡骨材混合物(つまり鋳型用骨材混合物)の粘度が0.5Pa・s以上10Pa・s以下であることが好ましく、該粘度は更に0.5Pa・s以上8Pa・s以下がより好ましい。
なお、発泡骨材混合物(つまり鋳型用骨材混合物)の粘度の測定は以下のようにして行われる。
−測定方法−
底部に直径6mmの細孔を有する内径42mmの円筒容器に発泡骨材混合物を投入し、重量1kg、直径40mmの円柱状おもりにて、おもりの自重で加圧することで細孔より発泡骨材混合物が排出される。この時、おもりが50mm移動するのに要した時間を計測し、下記数式にて粘度を求める。
式 μ=πDt/128L
μ:粘度[Pa・s]
D:底部細孔の直径[m]
:おもりの加圧力[Pa]
t:おもりが50mm移動するのに要した時間[s]
:おもりの移動距離(=50mm)
:底部細孔の板厚[m]
S:円柱状おもりの底部の面積と円筒の内部の中空領域(つまり内径部分)の断面積との平均値[m
【0069】
また、発泡骨材混合物の鋳型造型用空間への充填方法としては、シリンダ内におけるピストンによる直接加圧、シリンダ内に圧縮空気を供給することによる充填、スクリュー等による圧送、流し込みなどがあるが、充填スピードや発泡骨材混合物への均一加圧による充填安定性から、ピストンによる直接加圧及び圧縮空気による充填が好ましい。
【0070】
鋳型造型用空間に充填した発泡骨材混合物の水分の蒸発は、例えば加熱された金型からの熱、鋳型造型用空間への加熱された空気の流動や、この両者の併用によって行われる。
【0071】
〔鋳型を用いた鋳物の製造〕
本発明に係る鋳型用骨材混合物を用いた鋳型は各種金属又は合金の鋳造に用いられる。鋳造に用いられる溶湯の材料としては例えば以下のものが挙げられる。なお、下記注湯温度とは、下記の材料が注湯するのに適当な程度に溶解する温度を表す。
アルミニウム又はアルミニウム合金(注湯温度:670℃〜700℃)
鉄又は鉄合金(注湯温度:1300℃〜1400℃)
青銅(注湯温度:1100℃〜1250℃)
黄銅(注湯温度:950℃〜1100℃)
【0072】
鋳造は、上記に列挙するような材料による溶湯を鋳型(中子)及び金型中の空間に注湯し、その後冷却して鋳型を除去することにより行われる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下において「部」とは、特に断りのない限り「質量部」を表す。なお、以下に示す実施例A2、A6、B2、及びB6は、本発明に対する参考例として示すものである。
【0074】
[試験A]
<実施例A1>
・骨材:天然骨材 100部
(フラタリーサンド、ケープフラタリー・シリカ・マインズ社)
・水溶性粘結剤:珪酸ナトリウム 2.0部
(水ガラス、モル比2.0、富士化学株式会社製、1号)
・発泡性を有する水溶性の粘結剤:アニオン界面活性剤 0.05部
(エーテルサルフェートNa塩、株式会社アデカ社)
・リチウム塩:珪酸リチウム 0.5部
(珪酸リチウム45、モル比4.5、日本化学工業社)
前記組成の材料を混合機(愛工舎製作所製、卓上ミキサ)を用いて約200rpmで約5分間混合し発泡させて、発泡混合物を調製した。次いで、この発泡混合物を鋳型造型機(造型機、新東工業社製)にて250℃に加熱した金型に射出した。金型は曲げ強度試験片作製用の金型で、容量約80cmのキャビティを有しており、ゲート速度1m/sec、シリンダ面圧0.4MPaで射出した。この加熱された金型に充填された発泡混合物を2分間放置して、金型の熱により水分を蒸発させ、発泡混合物を固化させた。固化完了後、金型から鋳型(中子)を取り出した。
【0075】
−評価試験−
・耐湿試験
得られた鋳型により10mm×10mm×70mmの曲げ試験片を作製した。
耐湿試験として、温度35℃湿度75%の恒温恒湿槽内に72時間保管し、0時間から24時間おきに試験片について曲げ強度(MPa)を測定した。なお、曲げ強度の測定はJACT試験法SM−1、曲げ強さ試験法に準拠して行った。
【0076】
・吸湿量
また、72時間保管した後の曲げ試験片について、吸湿した量をJACT試験法S−9、鋳物骨材の水分試験法に準拠して測定した。
【0077】
・耐水試験
さらに耐水試験として、曲げ試験片を水性塗型(セラミックス微粒子及び水性媒体を含有する処理液、三河鉱産社、製品名:スリーコートWS−180)にディッピングし、100℃の乾燥炉で60分保持し、15分おきに試験片について曲げ強度(MPa)を、前記の方法にて測定した。
【0078】
<実施例A2〜A6>
実施例A1においてリチウム塩の種類、モル比、量を下記表1に記載の物に変更したこと以外は、実施例A1と同様にして鋳型(中子)を作製し、評価試験を行った。
【0079】
<比較例A1>
実施例A1においてリチウム塩(珪酸リチウム)を添加しなかったこと以外は、実施例A1と同様にして鋳型(中子)を作製し、評価試験を行った。
【0080】
【表1】
【0081】
−試験Aの結果−
曲げ試験片の耐湿試験の結果(実施例A1及び比較例A1)を図1に示す。珪酸リチウムを含まない比較例A1の場合、72時間保管後の曲げ強度が0時間保管後に比べ約5割まで低下したのに対し、珪酸リチウムを含む実施例A1の場合は、曲げ強度の低下が見られなかった。
また、耐水試験の結果(実施例A1及び比較例A1)を図2に示す。珪酸リチウムを含まない比較例A1の場合、塗型が未乾燥の状態の45分までは強度が無塗型の強度の1割程度まで大幅に低下し、乾燥状態の60分では強度は回復したものの無塗型に比べ7割の強度となった。一方、珪酸リチウムを含む実施例A1の場合、塗型が未乾燥の状態の45分までは強度が無塗型の強度の4割程度まで低下し、乾燥状態の60minでは強度が回復し無塗型に比べ9割の強度となった。
【0082】
[試験B]
<実施例B1>
・骨材:人工骨材 100部
(エスパール#60L、山川産業社)
・水溶性粘結剤:珪酸カリウム 1.0部
(1号珪酸カリ、モル比1.8〜2.2、富士化学株式会社製)
・発泡性を有する水溶性の粘結剤:アニオン界面活性剤 0.025部
(エーテルサルフェートNa塩、株式会社アデカ社)
・リチウム塩:珪酸リチウム 0.25部
(珪酸リチウム45、モル比4.5、日本化学工業社)
前記組成の材料を用いたこと以外は、実施例1と同様にして鋳型(中子)を作製し、評価試験を行った。
【0083】
<実施例B2〜B6>
実施例B1においてリチウム塩の種類、モル比、量を下記表2に記載の物に変更したこと以外は、実施例B1と同様にして鋳型(中子)を作製し、評価試験を行った。
【0084】
<比較例B1>
実施例B1においてリチウム塩(珪酸リチウム)を添加しなかったこと以外は、実施例B1と同様にして鋳型(中子)を作製し、評価試験を行った。
【0085】
【表2】
【0086】
−試験Bの結果−
曲げ試験片の耐湿試験の結果(実施例B1及び比較例B1)を図3に示す。珪酸リチウムを含まない比較例B1の場合、72時間保管後の曲げ強度が0時間保管後に比べ約5割まで低下したのに対し、珪酸リチウムを含む実施例B1の場合は、曲げ強度の低下が見られなかった。
また、耐水試験の結果(実施例B1及び比較例B1)を図4に示す。珪酸リチウムを含まない比較例B1の場合、塗型が未乾燥の状態の45分までは強度が無塗型の強度の2割程度まで大幅に低下し、乾燥状態の60分では強度は回復したものの無塗型に比べ7割の強度となった。一方、珪酸リチウムを含む実施例B1の場合、塗型が未乾燥の状態の45分までは強度が無塗型の強度の5割程度まで低下し、乾燥状態の60minでは強度が回復し無塗型に比べ9割の強度となった。
【0087】
表1及び表2に記載のリチウム塩の詳細を示す。
・珪酸リチウム(珪酸リチウム45、モル比4.5、日本化学工業社)
・珪酸リチウム(珪酸リチウム75、モル比7.5、日本化学工業社)
・珪酸リチウム(珪酸リチウム35、モル比3.5、日本化学工業社)
・水酸化リチウム(水酸化リチウム一水和物、キシダ化学社)
図1
図2
図3
図4