特許第6593257号(P6593257)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6593257
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】半導体デバイスおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/786 20060101AFI20191010BHJP
【FI】
   H01L29/78 618B
   H01L29/78 618E
   H01L29/78 618F
   H01L29/78 617T
【請求項の数】13
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2016-117125(P2016-117125)
(22)【出願日】2016年6月13日
(65)【公開番号】特開2017-224650(P2017-224650A)
(43)【公開日】2017年12月21日
【審査請求日】2018年4月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮永 美紀
(72)【発明者】
【氏名】綿谷 研一
(72)【発明者】
【氏名】粟田 英章
【審査官】 岩本 勉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−111125(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/024442(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/146745(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/058019(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/121152(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/002384(WO,A1)
【文献】 特開2016−082198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/786
H01L 21/336
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲート絶縁層と、該ゲート絶縁層に接して配置されるチャネル層と、を含み、
前記チャネル層は、インジウム、タングステンおよび亜鉛を含有する酸化物半導体を含み、
前記チャネル層におけるインジウム、タングステンおよび亜鉛の合計に対するタングステンの含有率が0.01原子%より大きく8.0原子%以下であり、
前記チャネル層におけるインジウム、タングステンおよび亜鉛の合計に対する亜鉛の含有率が1.2原子%以上40原子%未満であり、
前記チャネル層における亜鉛とタングステンとの原子数比(亜鉛/タングステン)が1.0より大きく60より小さく、
前記チャネル層は、前記ゲート絶縁層に接する第1表面を含む第1領域と、第2領域と、前記第1表面に対向する第2表面を含む第3領域と、をこの順に含み、
前記第3領域におけるインジウム、タングステンおよび亜鉛の合計に対するタングステンの含有率W3(原子%)は、前記第2領域におけるインジウム、タングステンおよび亜鉛の合計に対するタングステンの含有率W2(原子%)より大きい、半導体デバイス。
【請求項2】
前記W3と前記W2との比(W3/W2)が1.0より大きく4.0以下である、請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項3】
前記第1領域におけるインジウム、タングステンおよび亜鉛の合計に対するタングステンの含有率W1(原子%)は、前記W2(原子%)より大きい、請求項1または請求項2に記載の半導体デバイス。
【請求項4】
前記第1領域におけるインジウム、タングステンおよび亜鉛の合計に対するタングステンの含有率W1(原子%)は、前記W2(原子%)と同じか、またはこれより小さい、請求項1または請求項2に記載の半導体デバイス。
【請求項5】
前記チャネル層は、電気抵抗率が10−1Ωcm以上である、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の半導体デバイス。
【請求項6】
前記チャネル層は、電子キャリア濃度が1×1013/cm以上9×1018/cm以下である、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の半導体デバイス。
【請求項7】
前記チャネル層は、ジルコニウムをさらに含有し、
前記ジルコニウムの含有量が1×1017atms/cm以上1×1020atms/cm以下である、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の半導体デバイス。
【請求項8】
前記チャネル層は、ナノ結晶酸化物またはアモルファス酸化物で構成される、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の半導体デバイス。
【請求項9】
前記第3領域は、酸素原子含有率が10原子%以上80原子%以下である層と接している、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の半導体デバイス。
【請求項10】
前記ゲート絶縁層は、酸素原子含有率が10原子%以上80原子%以下である、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の半導体デバイス。
【請求項11】
前記ゲート絶縁層は、酸素原子含有率が0原子%以上10原子%未満である、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の半導体デバイス。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の半導体デバイスの製造方法であって、
前記ゲート絶縁層に接するように、前記酸化物半導体を含む層を形成する工程と、
前記酸化物半導体を含む層を300℃以上の温度で熱処理する工程と、
を含む、半導体デバイスの製造方法。
【請求項13】
前記熱処理の温度が500℃以下である、請求項12に記載の半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示装置、薄膜EL(エレクトロルミネッセンス)表示装置、有機EL表示装置等において、半導体デバイスであるTFT(薄膜トランジスタ)のチャネル層として機能する半導体膜として、アモルファスシリコン(a−Si)膜が主に使用されてきた。
【0003】
近年では、a−Siに代わる材料として、インジウム(In)、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)を含有する複合酸化物、すなわちIn−Ga−Zn系複合酸化物(「IGZO」とも呼ばれる。)が注目されている〔たとえば、特開2008−199005号公報(特許文献1)〕。
【0004】
国際公開第2009/081885号(特許文献2)には、In元素およびZn元素と、Zr、Hf、Ge、Si、Ti、Mn、W、Mo、V、Cu、Ni、Co、Fe、Cr、Nb、Al、B、Sc、Yおよびランタノイド類からなる群より選択される1以上の元素Xを、下記(1)〜(3):
In/(In+Zn)=0.2〜0.8 (1)
In/(In+X)=0.29〜0.99 (2)
Zn/(X+Zn)=0.29〜0.99 (3)
の原子比で含む複合酸化物からなる半導体層を有する電界効果型トランジスタが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−199005号公報
【特許文献2】国際公開第2009/081885号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
酸化物半導体からなるチャネル層を含む従来のTFTは、電界効果移動度などの点でなお改善の余地がある。そこで、酸化物半導体層を含む半導体デバイスであって、高い電界効果移動度と高い信頼性とが両立された半導体デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る半導体デバイスは、ゲート絶縁層と、該ゲート絶縁層に接して配置されるチャネル層と、を含み、チャネル層は、インジウム、タングステンおよび亜鉛を含有する酸化物半導体を含む半導体デバイスに関する。当該半導体デバイスにおいて、チャネル層におけるインジウム、タングステンおよび亜鉛の合計に対するタングステンの含有率は、0.01原子%より大きく8.0原子%以下であり、チャネル層は、ゲート絶縁層に接する第1表面を含む第1領域と、第2領域と、第1表面に対向する第2表面を含む第3領域と、をこの順に含み、第3領域におけるインジウム、タングステンおよび亜鉛の合計に対するタングステンの含有率W3(原子%)は、第2領域におけるインジウム、タングステンおよび亜鉛の合計に対するタングステンの含有率W2(原子%)より大きい。
【0008】
本発明の別の態様に係る半導体デバイスの製造方法は、上記態様に係る半導体デバイスの製造方法であって、ゲート絶縁層に接するように、上記酸化物半導体を含む層を形成する工程と、酸化物半導体を含む層を300℃以上の温度で熱処理する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0009】
上記によれば、高い電界効果移動度と高い信頼性とが両立された半導体デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一態様に係る半導体デバイスにおけるチャネル層、ソース電極およびドレイン電極の配置例を示す概略平面図である。
図2】本発明の一態様に係る半導体デバイスの一例を示す概略断面図である。
図3】本発明の一態様に係る半導体デバイスの他の一例を示す概略断面図である。
図4】本発明の一態様に係る半導体デバイスが有するチャネル層の一例を示す概略断面図である。
図5図2に示される半導体デバイスの製造方法の一例を示す概略断面図である。
図6図2に示される半導体デバイスの製造方法の一例を示す概略断面図である。
図7図2に示される半導体デバイスの製造方法の一例を示す概略断面図である。
図8図2に示される半導体デバイスの製造方法の一例を示す概略断面図である。
図9図2に示される半導体デバイスの製造方法の一例を示す概略断面図である。
図10図2に示される半導体デバイスの製造方法の一例を示す概略断面図である。
図11図2に示される半導体デバイスの製造方法の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<本発明の実施形態の説明>
まず、本発明の実施形態を列記して説明する。
【0012】
[1] 本発明の一形態に係る半導体デバイスは、ゲート絶縁層と、該ゲート絶縁層に接して配置されるチャネル層と、を含み、チャネル層は、インジウム(In)、タングステン(W)および亜鉛(Zn)を含有する酸化物半導体を含む。本発明の一形態に係る半導体デバイスにおいて、チャネル層におけるIn、WおよびZnの合計に対するWの含有率(原子%、以下、「チャネル層のW含有率」ともいう。)は、0.01原子%より大きく8.0原子%以下であり、チャネル層は、ゲート絶縁層に接する第1表面を含む第1領域と、第2領域と、前記第1表面に対向する第2表面を含む第3領域と、をこの順に含み、第3領域におけるIn、WおよびZnの合計に対するWの含有率W3(原子%)は、第2領域におけるIn、WおよびZnの合計に対するWの含有率W2(原子%)より大きい。
【0013】
本実施形態の半導体デバイスによれば、高い電界効果移動度と高い信頼性とを両立させることができる。半導体デバイスは、具体的にはTFT(薄膜トランジスタ)である。
【0014】
[2] 本実施形態の半導体デバイスにおいて、Wの含有率W3とW2との比(W3/W2)は、好ましくは1.0より大きく4.0以下である。このことは、高い電界効果移動度と高い信頼性とを両立させるうえで有利である。
【0015】
[3] 本実施形態の半導体デバイスにおいて、第1領域におけるIn、WおよびZnの合計に対するWの含有率W1(原子%)は、W2(原子%)より大きくてもよい。このことは、半導体デバイスの信頼性をさらに向上させるうえで有利である。
【0016】
[4] 本実施形態の半導体デバイスにおいて、本実施形態の半導体デバイスにおいて、第1領域におけるIn、WおよびZnの合計に対するWの含有率W1(原子%)は、W2(原子%)と同じか、またはこれより小さくてもよい。このことは、半導体デバイスの電界効果移動度をさらに向上させるうえで有利である。
【0017】
[5] 本実施形態の半導体デバイスにおいて、チャネル層におけるIn、WおよびZnの合計に対するZnの含有率(原子%、以下、「チャネル層のZn含有率」ともいう。)は、好ましくは1.2原子%以上40原子%未満であり、チャネル層におけるZnとWとの原子数比(以下、「チャネル層のZn/W比」ともいう。)は、好ましくは1.0より大きく60より小さい。このことは、半導体デバイスの電界効果移動度および信頼性をさらに向上させるうえで有利である。
【0018】
[6] 本実施形態の半導体デバイスにおいて、チャネル層は、電気抵抗率が好ましくは10-1Ωcm以上である。このことは、OFF電流が小さく、かつON電圧が−3V以上3V以下である半導体デバイスを実現するうえで有利である。
【0019】
[7] 本実施形態の半導体デバイスにおいて、チャネル層は、電子キャリア濃度が好ましくは1×1013/cm以上9×1018/cm以下である。このことは、OFF電流が小さく、かつON電圧が−3V以上3V以下である半導体デバイスを実現するうえで有利である。
【0020】
[8] 本実施形態の半導体デバイスにおいて、チャネル層は、ジルコニウム(Zr)をさらに含有することができる。Zrの含有量は、好ましくは1×1017atms/cm以上1×1020atms/cm以下である。当該含有量でジルコニウムを含有させることにより、半導体デバイスの信頼性をさらに高めることができる。
【0021】
[9] 本実施形態の半導体デバイスにおいて、チャネル層は、ナノ結晶酸化物またはアモルファス酸化物で構成することができる。このことは、半導体デバイスの電界効果移動度および信頼性をさらに高めるうえで有利である。
【0022】
[10] 本実施形態の半導体デバイスにおいて、第3領域は、好ましくは、酸素原子含有率が10原子%以上80原子%以下である層と接している。このことは、W3がW2より大きく、高い電界効果移動度と高い信頼性とが両立された半導体デバイスを実現するうえで有利である。
【0023】
[11] 本実施形態の半導体デバイスにおいて、ゲート絶縁層は、好ましくは、酸素原子含有率が10原子%以上80原子%以下である。このことは、W1がW2より大きく、高い電界効果移動度と高い信頼性とが両立された半導体デバイスを実現するうえで有利であり、とりわけ、半導体デバイスの信頼性向上に有利である。
【0024】
[12] 本実施形態の半導体デバイスにおいて、ゲート絶縁層は、酸素原子含有率が0原子%以上10原子%未満であってもよい。このことは、W1がW2より小さく、高い電界効果移動度と高い信頼性とが両立された半導体デバイスを実現するうえで有利であり、とりわけ、半導体デバイスの移動度向上に有利である。
【0025】
[13] 本発明の別の実施形態である半導体デバイスの製造方法は、上記実施形態に係る半導体デバイスの製造方法であって、ゲート絶縁層に接するように、上記酸化物半導体を含む層を形成する工程と、酸化物半導体を含む層を300℃以上の温度で熱処理する工程と、を含む。本実施形態の半導体デバイスの製造方法によれば、高い電界効果移動度と高い信頼性とが両立された半導体デバイスを製造することができる。
【0026】
[14] 本実施形態の半導体デバイスの製造方法において、上記熱処理の温度は、好ましくは500℃以下である。このことは、ナノ結晶酸化物またはアモルファス酸化物で構成されたチャネル層を形成し、半導体デバイスの電界効果移動度および信頼性をさらに高めるうえで有利である。
【0027】
<本発明の実施形態の詳細>
[実施形態1:半導体デバイス]
本実施形態に係る半導体デバイスは、ゲート絶縁層と、該ゲート絶縁層に接して配置されるチャネル層と、を含み、チャネル層は、In、WおよびZnを含有する酸化物半導体を含む。本実施形態の半導体デバイスにおいて、チャネル層のW含有率(チャネル層におけるIn、WおよびZnの合計に対するWの含有率)は、0.01原子%より大きく8.0原子%以下である。チャネル層は、ゲート絶縁層に接する第1表面を含む第1領域と、第2領域と、前記第1表面に対向する第2表面を含む第3領域と、をこの順に含み、第3領域におけるWの含有率(第3領域におけるIn、WおよびZnの合計に対するWの含有率)W3は、第2領域におけるWの含有率(第2領域におけるIn、WおよびZnの合計に対するWの含有率)W2より大きい。
【0028】
本実施形態の半導体デバイスによれば、高い電界効果移動度と高い信頼性とを両立させることができる。半導体デバイスは、具体的にはTFT(薄膜トランジスタ)である。
【0029】
ここで半導体デバイスの信頼性について説明する。半導体デバイスの信頼性が高いとは、半導体デバイスの特性が使用とともに劣化しにくいことを意味する。一般的に、酸化物半導体層を含む半導体デバイスの信頼性は、半導体デバイスの製造時における加熱処理の温度によって変化する。加熱処理の温度を高くすることで信頼性を向上させることができる。しかし、加熱処理温度を高くすると電界効果移動度が低下する傾向にある。このため、高い加熱処理温度でも電界効果移動度が低下しにくいことが望まれていた。本明細書において、高い電界効果移動度と高い信頼性とが両立されているとは、高い加熱処理温度でも電界効果移動度が低下しにくく、かつ高い加熱処理の温度により高い信頼性が得られることを意味している。
【0030】
図1は、本発明の一態様に係る半導体デバイス(TFT)におけるチャネル層、ソース電極およびドレイン電極の配置例を示す概略平面図である。なお、本発明の一態様に係る半導体デバイスは、好ましくは、チャネル層の第3領域に接して配置される、後述する「隣接層」をさらに備えるが、図1においては隣接層を割愛して半導体デバイスを示している。図1に示される半導体デバイス10は、基板11;基板11上に配置されるゲート電極12(図1において図示せず);ゲート電極12上に配置されるゲート絶縁層13;ゲート絶縁層13に接して配置されるチャネル層14;チャネル層14上に互いに接触しないように配置されるソース電極15およびドレイン電極16を含む。なお、チャネル層14は、直上にソース電極15およびドレイン電極16がそれぞれ積層されるソース電極形成用部およびドレイン電極形成部、ならびに、ソース電極形成用部とドレイン電極形成部との間に配置されるチャネル部で構成される。
【0031】
図2は、本発明の一態様に係る半導体デバイス(TFT)の一例を示す概略断面図である。図2に示される半導体デバイス20は、基板11;基板11上に配置されるゲート電極12;ゲート電極12上に配置されるゲート絶縁層13;ゲート絶縁層13に接して配置されるチャネル層14;チャネル層14上に互いに接触しないように配置されるソース電極15およびドレイン電極16;ゲート絶縁層13およびチャネル層14上に配置され、コンタクトホールを有するエッチストッパ層17;エッチストッパ層17、ソース電極15およびドレイン電極16上に配置されるパシベーション層18を含む。図2に示される半導体デバイス20において、パシベーション層18を省略することもできる。
【0032】
図3は、本発明の一態様に係る半導体デバイス(TFT)の他の一例を示す概略断面図である。図3に示される半導体デバイス30は、ゲート絶縁層13、ソース電極15およびドレイン電極16上に配置されるパシベーション層18をさらに含む。図2に示される半導体デバイス20との相違点は、エッチストッパ層17を有しないことである。
【0033】
以下、図面を参照しながら、本発明の一態様に係る半導体デバイスについて詳細に説明する。
【0034】
(1)チャネル層
チャネル層14は、In、WおよびZnを含有する酸化物半導体を含み、ゲート絶縁層13に接して配置される層である。チャネル層14は、たとえば、In、WおよびZnを含有する酸化物焼結体をスパッタターゲットとして用いたスパッタリング法によりゲート絶縁層13上に形成することができる。スパッタリング法によるチャネル層14(酸化物半導体層)の形成方法は、得られる半導体デバイスにおいて、高い電界効果移動度と高い信頼性とを両立させるうえで有利である。チャネル層14の膜厚は、たとえば2nm以上100nm以下であり、10nm以上が好ましく、より好ましくは20nm以上である。またチャネル層14の膜厚は、80nm以下であることが好ましく、より好ましくは40nm以下である。
【0035】
(1−1)チャネル層の第1〜第3領域
図4に示されるように、チャネル層14は、ゲート絶縁層13に接する第1表面を含む第1領域1と、第2領域2と、第1表面に対向する第2表面を含む第3領域3とをこの順に含む。第2領域2は、第1領域1と第3領域3との間に存在する領域である。
【0036】
本発明の一態様に係る半導体デバイスにおいて、第3領域3におけるWの含有率W3(原子%)は、第2領域2におけるWの含有率W2(原子%)より大きい。これにより、OFF電流が小さく、かつON電圧が正である(すなわちノーマリーオフ)の半導体デバイスを実現できることに加えて、当該半導体デバイスにおいて、高い電界効果移動度と高い信頼性とを両立させることができる。
【0037】
第3領域3は、一般的にバックチャネルといわれる領域であり、エッチストッパ層、パシベーション層、保護層等と接している場合が多い。第3領域3の厚さは、例えば0nmより大きく10nm以下であり、好ましくは0.5nm以上、また好ましくは5nm以下である。
【0038】
第2領域2は、第1領域1と第3領域3との間に存在する領域であり、そのWの含有率W2(原子%)は、第3領域3におけるWの含有率W3(原子%)より小さい。高い電界効果移動度と高い信頼性とを両立させる観点から、W3とW2との比(W3/W2)は、1.0より大きく4.0以下であることが好ましく、1.2以上4.0以下であることがより好ましい。
【0039】
第1領域1は、一般的にフロントチャネルといわれる領域である。第1領域1の厚さは、例えば0nmより大きく10nm以下であり、好ましくは0.5nm以上、また好ましくは5nm以下である。
【0040】
第1領域1におけるWの含有率(第1領域1におけるIn、WおよびZnの合計に対するWの含有率)W1(原子%)は、W2(原子%)より大きくてもよい。このことは、半導体デバイスの信頼性をさらに向上させるうえで有利である。半導体デバイスの信頼性の観点から、W1とW2との比(W1/W2)は、1.2以上4.0以下であることが好ましい。
【0041】
あるいは、W1は、W2と同じか、またはこれより小さくてもよい。このことは、半導体デバイスの電界効果移動度をさらに向上させるうえで有利である。半導体デバイスの電界効果移動度の観点から、W1とW2との比(W1/W2)は、0.25以上1.0以下であることが好ましい。
【0042】
チャネル層14が第2領域2および第3領域3を含むことの確認、ならびにW3/W2値の測定は、二次イオン質量分析計(SIMS)を用いて行うことができる。すなわち、SIMSを用いて、チャネル層14のW濃度を深さ方向に分析する。上記W濃度は、1cmあたりのW由来の二次イオンのカウント数として得られる。チャネル層14の外側表面(第2表面)を含む領域においてより大きいカウント数が得られ、かつ当該領域よりも深い領域のカウント数がこれより小さいことをもって、第2領域2および第3領域3の存在を確認することができる。カウント数のより大きい領域が第3領域3に相当し、カウント数のより小さい領域が第2領域2に相当する。W3/W2値は、(より大きいカウント数を示す領域のカウント数)/(より小さいカウント数を示す領域のカウント数)として求められる。なお、SIMSを用いた測定において、ある特定の深さにおけるW由来の二次イオンのカウント数としては、その深さでの面内における任意の3点で測定されたカウント数の平均値を採用する。
【0043】
W1/W2値も、SIMSを用いて上記と同様にして、W由来の二次イオンの深さ方向のカウント数から求めることができる。上述のように、W1は、W2より大きくてもよいし、小さくてもよいし、同じであってもよい。W1/W2値は、W3/W2値と同様、カウント数の比として求められる。第2領域2からチャネル層14の第1表面(ゲート絶縁層13側表面)にわたって、深さ方向にW由来の二次イオンのカウント数を測定し、第1表面を含む領域において、そのカウント数が第2領域2のカウント数よりも高いか、または低い場合には、その領域を第1領域1とみなすことができる。一方、第2領域2からチャネル層14の第1表面にわたって、深さ方向にW由来の二次イオンのカウント数を測定したとき、カウント数が実質的に変化しない場合には、W2と同じ値のW1を有する第1領域1が存在するとみなすことができる。
【0044】
また、チャネル層14が第2領域2および第3領域3を含むことの確認、ならびにW3/W2値の測定は、エネルギー分散型X線分光器(EDS)付帯の走査透過電子顕微鏡を用いて行うこともできる。すなわち、当該顕微鏡を用いて半導体デバイスの断面を観察し、チャネル層14の外側表面(第2表面)を含む領域においてより大きいW含有率が得られ、かつ当該領域よりも深い領域のW含有率がこれより小さいことをもって、第2領域2および第3領域3の存在を確認することができる。W含有率のより大きい領域が第3領域3に相当し、W含有率のより小さい領域が第2領域2に相当する。W3/W2値は、(より大きいW含有率を示す領域のW含有率)/(より小さいW含有率を示す領域のW含有率)として求められる。なお、エネルギー分散型X線分光器(EDS)付帯の走査透過電子顕微鏡を用いた測定において、ある特定の深さにおけるW含有率としては、その深さでの面内における任意の3点で測定されたW含有率の平均値を採用する。
【0045】
W1/W2値も、エネルギー分散型X線分光器(EDS)付帯の走査透過電子顕微鏡を用いて上記と同様にして求めることができる。上述のように、W1は、W2より大きくてもよいし、小さくてもよいし、同じであってもよい。W1/W2値は、W3/W2値と同様、上記顕微鏡を用いて得られるW含有率の比として求められる。第2領域2からチャネル層14の第1表面(ゲート絶縁層13側表面)にわたって、深さ方向にW含有率を測定し、第1表面を含む領域において、そのW含有率が第2領域2のW含有率よりも高いか、または低い場合には、その領域を第1領域1とみなすことができる。一方、第2領域2からチャネル層14の第1表面にわたって深さ方向にW含有率を測定したとき、W含有率が実質的に変化しない場合には、W2と同じ値のW1を有する第1領域1が存在するとみなすことができる。
【0046】
走査透過電子顕微鏡測定用のサンプルは、イオンミリング法による薄片化により作製する。EDS分析の条件は、加速電圧200kV、ビーム径φ0.1nm、エネルギー分解能約140eV、X線取り出し角21.9°、取り込み時間30秒とする。
【0047】
チャネル層14が第2領域2および第3領域3を含むことの確認、W3/W2値の測定、ならびにW1/W2値の測定は、通常、SIMSを用いて行う。ただし、SIMSによる分析が何らかの事情で不可能な場合には、EDS付帯の走査透過電子顕微鏡を用いて行う。
【0048】
(1−2)チャネル層のタングステン含有率
チャネル層14は、高い電界効果移動度と高い信頼性とを両立させる観点から、In、WおよびZnの合計に対するWの含有率(チャネル層14のW含有率)が、0.01原子%より大きく8.0原子%以下であり、好ましくは0.6原子%以上であり、好ましくは5原子%以下であり、より好ましくは3原子%以下である。チャネル層14のW含有率が0.01原子%以下の場合、半導体デバイスの信頼性が低下する。チャネル層14のW含有率が8原子%を超える場合、半導体デバイスの電界効果移動度が低下する。
【0049】
ここでいうチャネル層14のW含有率は、第1領域1、第2領域2および第3領域3を含むチャネル層14全体のW含有率の平均値である。チャネル層14のW含有率は、RBS(ラザフォード後方散乱分析)により測定される。第1領域1のW含有率W1、第2領域2のW含有率W2、第3領域3のW含有率W3を用いて、チャネル層14のW含有率は、下記式:
チャネル層14のW含有率=(W1×第1領域1の膜厚+W2×第2領域2の膜厚+W3×第3領域3の膜厚)/(第1領域1の膜厚+第2領域2の膜厚+第3領域3の膜厚)
で表される。上記式の右辺に記載の各物性値(各領域のW含有率および膜厚)は、RBSにより測定される。各領域の膜厚によっては、各領域の分離が困難で同一の層とした測定結果が得られることもあるが、この場合、本測定結果をチャネル層14のW含有率とする。
【0050】
(1−3)チャネル層のZn含有率およびZn/W比
チャネル層14におけるIn、WおよびZnの合計に対するZnの含有率(チャネル層14のZn含有率)は、好ましくは1.2原子%以上40原子%未満であり、チャネル層14におけるZnとWとの原子数比(チャネル層14のZn/W比)は、好ましくは1.0より大きく60より小さい。このことは、半導体デバイスの電界効果移動度および信頼性をさらに向上させるうえで有利である。
【0051】
チャネル層14のZn含有率が1.2原子%より小さい場合、半導体デバイスの信頼性が低下し得る。チャネル層14のZn含有率が40原子%以上である場合、半導体デバイスの電界効果移動度が低下し得る。
【0052】
半導体デバイスの電界効果移動度および信頼性をさらに向上させる観点から、チャネル層14のZn含有率は、より好ましくは3原子%以上、さらに好ましくは11原子%以上であり、また、より好ましくは30原子%以下、さらに好ましくは20原子%より小さい。
【0053】
チャネル層14のZn/W比が1.0以下の場合または60以上の場合、半導体デバイスの信頼性が低下し得る。チャネル層14のZn/W比は、より好ましくは3.0以上、さらに好ましくは5.0以上であり、また、より好ましくは35以下である。
【0054】
また半導体デバイスの信頼性向上の観点から、チャネル層14におけるInおよびZnの合計に対するInの原子数比(In/(In+Zn)原子数比)は、0.8より大きいことが好ましい。
【0055】
(1−4)チャネル層の電気抵抗率
チャネル層14は、電気抵抗率が好ましくは10−1Ωcm以上である。このことは、OFF電流が小さく、かつON電圧が−3V以上3V以下である半導体デバイスを実現するうえで有利である。インジウムを含む酸化物は、透明導電膜として知られているが、たとえば特開2002−256424号公報に記載されるように、透明導電膜に使用される膜としては電気抵抗率が10−1Ωcmより低いものが一般的である。一方、本実施形態の半導体デバイスのチャネル層14においては、その電気抵抗率は10-1Ωcm以上であることが望ましい。当該電気抵抗率を実現するために、チャネル層14のW含有率、Zn含有率、Zn/W比を総合的に検討することが好ましい。
【0056】
(1−5)チャネル層の電子キャリア濃度
チャネル層14は、電子キャリア濃度が好ましくは1×1013/cm以上9×1018/cm以下である。このことは、OFF電流が小さく、かつON電圧が−3V以上3V以下である半導体デバイスを実現するうえで有利である。電子キャリア濃度が1×1013/cmより小さい場合、電界効果移動度が小さくなり過ぎてチャネル層として機能することが困難となりやすい。電子キャリア濃度が9×1018/cmを超える場合、OFF電流が高くなり過ぎてチャネル層として機能することが困難となりやすい。
【0057】
(1−6)チャネル層に含まれ得るその他の元素
チャネル層14は、ジルコニウム(Zr)をさらに含有することができる。この場合、Zrの含有量は、1×1017atms/cm以上1×1020atms/cm以下であることが好ましい。これにより、半導体デバイスの信頼性をさらに高めることができる。一般的にZrは、熱安定性、耐熱性、耐薬品性を向上させる目的、またはS値やOFF電流を低減させる目的で酸化物半導体層に適用されている例が多いが、本発明においては、WおよびZnと併用することで、信頼性向上を図ることができることを新たに見出したものである。チャネル層14中のZr含有量は、二次イオン質量分析計(SIMS)を用いてチャネル層14を深さ方向に分析し、1cm3あたりの原子数を求めることによって測定される。チャネル層14中のZr含有量は、チャネル層14全体における平均値であり、すなわち、膜厚方向に任意に3点測定したときのこれらの平均値である。
【0058】
Zrの含有量が1×1017atms/cmより小さい場合には信頼性向上はみられず、1×1020atms/cmより大きい場合には信頼性が低下する傾向にある。信頼性向上の観点から、Zrの含有量は1×1018atms/cm以上であることがより好ましく、1×1019atms/cm以下であることがより好ましい。
【0059】
なお、チャネル層14におけるIn、WおよびZnの合計に対する、In、W、Zn、Zr以外の不可避の金属の含有率は、1原子%以下であることが好ましい。
【0060】
(1−7)チャネル層の結晶構造
半導体デバイスの電界効果移動度および信頼性を高める観点から、チャネル層14を構成する酸化物半導体は、ナノ結晶酸化物またはアモルファス酸化物で構成されることが好ましい。
【0061】
本明細書において「ナノ結晶酸化物」とは、以下の条件に従うX線回折測定によっても、結晶に起因するピークが観測されずにハローと呼ばれる低角度側に現れるブロードなピークのみが観測され、かつ、透過電子顕微鏡を用い、以下の条件に従って微細領域の透過電子線回折測定を実施した場合、リング状のパターンが観察される酸化物をいう。リング状のパターンとは、スポットが集合してリング状のパターンを形成している場合を含む。
【0062】
また、本明細書において「アモルファス酸化物」とは、以下の条件に従うX線回折測定によっても、結晶に起因するピークが観測されずにハローと呼ばれる低角度側に現れるブロードなピークのみが観測され、かつ、透過電子顕微鏡を用い、以下の条件に従って微細領域の透過電子線回折測定を実施しても、やはりハローと呼ばれる不明瞭なパターンが観察される酸化物をいう。
【0063】
(X線回折測定条件)
測定方法:In−plane法(スリットコリメーション法)、
X線発生部:対陰極Cu、出力50kV 300mA、
検出部:シンチレーションカウンタ、
入射部:スリットコリメーション、
ソーラースリット:入射側 縦発散角0.48°
受光側 縦発散角0.41°、
スリット:入射側 S1=1mm*10mm
受光側 S2=0.2mm*10mm、
走査条件:走査軸 2θχ/φ、
走査モード:ステップ測定、走査範囲 10〜80°、ステップ幅0.1°、
ステップ時間 8sec.。
【0064】
(透過電子線回折測定条件)
測定方法:極微電子線回折法、
加速電圧:200kV、
ビーム径:測定対象であるチャネル層の膜厚と同じか、または同等。
【0065】
チャネル層14がナノ結晶酸化物で構成される場合、上記の条件に従って微細領域の透過電子線回折測定を行うと、上述のようにリング状のパターンが観察され、スポット状のパターンは観察されない。これに対して、たとえば特許第5172918号に開示されるような酸化物半導体膜は、当該膜の表面に対して垂直な方向に沿うようにc軸配向した結晶を含んでおり、このように微細領域中のナノ結晶がある方向に配向している場合には、スポット状のパターンが観察される。チャネル層14がナノ結晶酸化物で構成される場合、当該ナノ結晶は、少なくとも膜面内に垂直な面(膜断面)の観察を行った際に、当該膜の表面に対して結晶が配向していない無配向であってランダムな配向性を有している。つまり、膜厚方向に対して結晶軸が配向していない。
【0066】
電界効果移動度を高める観点からは、チャネル層14は、より好ましくはアモルファス酸化物で構成される。たとえば、前述のチャネル層14のZn含有率が10原子%より大きい場合、W含有率が0.4原子%以上の場合、Zrの含有量が1×1017atms/cm以上の場合、チャネル層14はアモルファス酸化物となりやすく、より高い加熱処理の温度までアモルファス酸化物が安定である。
【0067】
(2)隣接層
半導体デバイスは、チャネル層14の第3領域3に接して配置される層をさらに含むことができる。本明細書において、当該層を「隣接層」ともいう。隣接層は、好ましくは、チャネル層14の第2表面(ゲート絶縁層13側とは反対側の表面)の少なくとも一部に接している。半導体デバイスは、隣接層を2以上有していてもよい。
【0068】
隣接層は、好ましくは、酸素原子含有率が10原子%以上80原子%以下である酸素原子含有層である。これにより、後で詳述するように、第3領域3および第2領域2を含み、W3がW2より大きいチャネル層14の形成が容易となり、ひいては、高い電界効果移動度と高い信頼性とが両立された半導体デバイスの実現が容易となる。隣接層としては、エッチストッパ層、パシベーション層、保護層等の絶縁層を挙げることができる。エッチストッパ層、パシベーション層、保護層等の絶縁層は、高い電界効果移動度と高い信頼性とを両立させる観点から、化学的蒸着法、物理的蒸着法等によって形成されるSiOx層、SiOxNy層、AlxOy層であることが好ましい。これらの絶縁層は、水素原子を含んでいてもよい。
【0069】
酸素原子の含有率は、RBS、X線光電子分光法、WDS型ケイ光X線分析により定量することができる。隣接層中に含まれる、ケイ素、金属原子、酸素原子および窒素原子の合計原子数に対する酸素原子の原子数(=酸素原子数/(ケイ素原子数+金属原子数+酸素原子数+窒素原子数))により酸素原子の含有率を算出する。酸素原子の含有率の測定において、水素原子については考慮しない。
【0070】
隣接層の具体例の1つは、図2に示される半導体デバイス20が有するエッチストッパ層17である。隣接層の他の例は、図3に示される半導体デバイス30が有するパシベーション層18である。
【0071】
酸素原子含有率が10原子%以上80原子%以下であるエッチストッパ層17としては、酸化シリコン(SiOx)、酸窒化シリコン(SiOxNy)、酸化アルミニウム(AlxOy)等からなる層を挙げることができ、好ましくは酸化シリコン(SiOx)、酸窒化シリコン(SiOxNy)である。エッチストッパ層17は、異なる材質からなる層の組み合わせであってもよい。
【0072】
酸素原子含有率が10原子%以上80原子%以下であるパシベーション層18としては、酸化シリコン(SiOx)、酸窒化シリコン(SiOxNy)、酸化アルミニウム(AlxOy)等からなる層を挙げることができ、好ましくは酸化シリコン(SiOx)、酸窒化シリコン(SiOxNy)である。たとえば、図2に示される半導体デバイス20が有するパシベーション層18のように、隣接層ではないパシベーション層18は、上記のほか、窒化シリコン(SiNx)等であってもよい。パシベーション層18は、異なる材質からなる層の組み合わせであってもよい。
【0073】
隣接層は、シリコンおよびアルミニウムの少なくともいずれか1つを含む酸化物層または酸窒化物層であることが好ましい。中でも、エッチストッパ層、パシベーション層、保護層などと呼ばれる層がシリコンを含む酸化物層または酸窒化物層であることは、チャネル層14の第3領域3のW含有率W3を第2領域2のW含有率W2より大きくするうえで有利であり、ひいては、半導体デバイスの電界効果移動度および信頼性を高くするうえで有利である。
【0074】
チャネル層14の第3領域3に含有されるWの少なくとも一部は、第3領域3に接する隣接層に含まれるシリコンおよび/またはアルミニウムの少なくとも1つと結合していることが好ましい。これにより、半導体デバイスの電界効果移動度および信頼性をさらに高め得る。第3領域3に含有されるWのすべてがシリコンおよび/またはアルミニウムと結合している必要はなく、Wの一部が、シリコンおよび/またはアルミニウムと結合していてもよい。
【0075】
隣接層は、ナノ結晶層およびアモルファス層の少なくともいずれか1つであることが好ましい。これにより、それと接して形成されるチャネル層14が、隣接層の結晶性の影響を受けて、ナノ結晶酸化物またはアモルファス酸化物で構成される層となりやすくなり、これに伴って、半導体デバイスの電界効果移動度および信頼性をさらに高め得る。
【0076】
隣接層は、その全体がナノ結晶およびアモルファスの少なくともいずれか1つであってもよいし、チャネル層14と接する部分がナノ結晶およびアモルファスの少なくともいずれか1つであってもよい。後者の場合において、ナノ結晶およびアモルファスの少なくともいずれか1つである部分は、隣接層における膜面方向にわたって全体であってもよいし、チャネル層14と接する表面の一部でもよい。
【0077】
(3)ゲート絶縁層
ゲート絶縁層13の材質は、特に制限されないが、絶縁性の観点からは、酸化シリコン(SiOx)、窒化シリコン(SiNx)、酸窒化シリコン(SiOxNy)等であることが好ましい。ゲート絶縁層13は、酸素原子含有率が10原子%以上80原子%以下である酸素原子含有層であってもよい。これにより、後で詳述するように、W1がW2より大きいチャネル層14の形成が容易となる。W1/W2>1.0であることは、半導体デバイスの信頼性をさらに向上させるうえで有利である。酸素原子の含有率は、RBS、X線光電子分光法、WDS型ケイ光X線分析により定量することができる。
【0078】
あるいは、ゲート絶縁層13は、酸素原子含有率が10原子%未満である層であってもよい。これにより、後で詳述するように、W1がW2と同じか、またはこれより小さいチャネル層14の形成が容易となる。W1/W2≦1.0であることは、半導体デバイスの電界効果移動度をさらに向上させるうえで有利である。
【0079】
(4)ソース電極およびドレイン電極
ソース電極15およびドレイン電極16は、特に制限はないが、耐酸化性が高く、電気抵抗が低く、かつチャネル層14との接触電気抵抗が低いことから、Mo電極、Ti電極、W電極、Al電極、Cu電極等であることが好ましい。ソース電極15およびドレイン電極16は、たとえば、Mo/Al/Moの積層構造のように、複数の金属を含んでいてもよく、積層構造であってもよい。
【0080】
(5)基板およびゲート電極
基板11は、特に制限されないが、透明性、価格安定性の観点、および表面平滑性を高くする観点から、石英ガラス基板、無アルカリガラス基板、アルカリガラス基板等であることが好ましい。ゲート電極12は、特に制限されないが、耐酸化性が高くかつ電気抵抗が低いことから、Mo電極、Ti電極、W電極、Al電極、Cu電極等であることが好ましい。ゲート電極12は、例えば、Mo/Al/Mo積層構造等の積層構造であってもよい。
【0081】
[実施形態2:半導体デバイスの製造方法]
本実施形態に係る半導体デバイスの製造方法は、上記実施形態1に係る半導体デバイスを製造するための方法である。本実施形態に係る半導体デバイスの製造方法は、高い電界効果移動度と高い信頼性とが両立された半導体デバイスを効率良く製造する観点から、下記の工程:
ゲート絶縁層に接するように、上記酸化物半導体を含む層を形成する工程、および
酸化物半導体を含む層を300℃以上の温度で熱処理する工程
を含むことが好ましい。上記熱処理の温度は、より好ましくは400℃以上であり、さらに好ましくは450℃以上であり、また、好ましくは500℃以下である。
【0082】
酸化物半導体を含む層を300℃以上の温度で熱処理することにより、In、WおよびZnを含有する酸化物半導体を含む層において、W元素の拡散を生じさせることができ、これによって、チャネル層14に、第2領域2よりもW含有率の高い第3領域3が形成される。なお、このW元素の拡散の前後で酸化物半導体を含む層全体としてのW含有率は変化せず、W元素が第2領域2となる領域から第3領域3へ移動することによって、W3>W2を充足するW含有率の分布が発生する。後で詳述するように、上記の熱処理は、第2領域2よりもW含有率の高い第3領域3を形成するために、隣接層を形成した後に実施することが好ましい。
【0083】
第3領域3の形成は、得られる半導体デバイス(たとえばTFT)に、高い電界効果移動度と高い信頼性とを与える。熱処理の温度が300℃よりも低いと、W元素が拡散されにくく、W3>W2を充足する第3領域3を形成することが困難となる。
【0084】
熱処理によってW元素の拡散を生じさせるために、熱処理は、ゲート絶縁層13の上に形成された酸化物半導体を含む層の外側表面(第2表面=ゲート絶縁層13側とは反対側の表面)に接するように上述の隣接層を形成した後に実施することが好ましく、当該隣接層は、酸素原子含有率が10原子%以上80原子%以下である酸素原子含有層であることがより好ましい。これにより、第3領域3および第2領域2を含み、W3がW2より大きいチャネル層14の形成が容易となり、ひいては、高い電界効果移動度と高い信頼性とが両立された半導体デバイスの実現が容易となる。隣接層の具体例は、上述のとおり、たとえば、エッチストッパ層、パシベーション層、保護層等の絶縁層である。
【0085】
隣接層を利用してW元素の拡散を生じさせるために、隣接層は、酸素原子含有率が10原子%以上80原子%以下であることが特に好ましい。これにより、酸化物半導体を含む層内のW元素を、隣接層の方向(酸化物半導体を含む層の第2表面)に向かって拡散させることができ、W3>W2を充足するW含有率の分布を生じさせることができる。隣接層の酸素原子含有率が10原子%未満であると、W元素の拡散が生じにくい。
【0086】
一方、上記熱処理によって、酸化物半導体を含む層内のW元素のゲート絶縁層13方向への拡散も生じ得る。ゲート絶縁層13方向へのW元素の拡散を生じさせるためには、ゲート絶縁層13は、酸素原子含有率が10原子%以上80原子%以下である酸素原子含有層であることが好ましい。これにより、W1>W2を充足する第1領域1の形成が容易となる。W1/W2>1.0であることは、半導体デバイスの信頼性をさらに向上させるうえで有利である。
【0087】
これに対して、ゲート絶縁層13の酸素原子含有率が10原子%未満である場合には、ゲート絶縁層13方向へのW元素の拡散が生じにくくなり、W1はW2と同じか、またはこれより低くなる傾向にある。W1/W2≦1.0であることは、半導体デバイスの電界効果移動度をさらに向上させるうえで有利である。
【0088】
隣接層、ゲート絶縁層13を利用してW元素の拡散を生じさせるための熱処理の温度は、上述のように、好ましくは300℃以上であり、また好ましくは500℃以下である。熱処理温度を500℃以下とすることにより、ナノ結晶酸化物またはアモルファス酸化物で構成されるチャネル層14が得られやすくなる。このことは、半導体デバイスの電界効果移動度および信頼性を高めるうえで有利である。熱処理温度が500℃を超える場合、電極の電気抵抗が高くなり過ぎて半導体デバイスが駆動しなくなることがある。
【0089】
隣接層、ゲート絶縁層13を利用してW元素の拡散を生じさせるための熱処理の雰囲気は特に制限されず、大気中、窒素ガス中、窒素ガス−酸素ガス中、アルゴンガス中、アルゴン−酸素ガス中、水蒸気含有大気中、水蒸気含有窒素中など、各種雰囲気であってよい。好ましくは、窒素ガス中である。W元素の拡散を効果的に生じさせるために、上記熱処理は、好ましくは、大気圧大気雰囲気中で実施する第1熱処理工程と、引き続いて実施される大気圧窒素ガス中での第2熱処理工程とを含む。
【0090】
熱処理における雰囲気圧力は、大気圧のほか、減圧条件下(たとえば0.1Pa未満)、加圧条件下(たとえば0.1Pa〜9MPa)であることができるが、好ましくは大気圧である。加熱処理の時間(第1および第2熱処理工程を含む場合はこれらの合計)は、たとえば3分〜2時間程度であることができ、好ましくは10分〜90分程度である。
【0091】
酸素原子含有率が10原子%以上80原子%以下である隣接層やゲート絶縁層13を形成した後に加熱処理することは、チャネル層14の電気抵抗率および電子キャリア濃度等を、上述の好ましい範囲内に制御するうえでも有効である。
【0092】
次に、本実施形態に係る半導体デバイスの製造方法についてより具体的に説明する。まず、図2に示される半導体デバイス20の製造方法について説明すると、この製造方法は、図5図11を参照して、下記の工程:
基板11上にゲート電極12を形成する工程(図5)、
ゲート電極12上にゲート絶縁層13を形成する工程(図6)、
ゲート絶縁層13上に、ゲート絶縁層13に接するように、酸化物半導体を含む層20を形成する工程(図7)、
酸化物半導体を含む層20上にエッチストッパ層17を形成する工程(図8)、
エッチストッパ層17にコンタクトホール17aを形成する工程(図9)、
酸化物半導体を含む層20およびエッチストッパ層17上にソース電極15およびドレイン電極16を互いに接触しないように形成する工程(図10)、
エッチストッパ層17、ソース電極15およびドレイン電極16上にパシベーション層18を形成する工程(図11)、および
酸化物半導体を含む層20を300℃以上の温度で熱処理して、チャネル層14を備える半導体デバイス20を得る工程(図2
を含むことが好ましい。
【0093】
(1−1)ゲート電極を形成する工程
図5を参照して、本工程は、基板11上にゲート電極12を形成する工程である。基板11およびゲート電極12の具体例は上述のとおりである。ゲート電極12の形成方法は、特に制限されないが、基板11の主面上に大面積で均一に形成できる点から、真空蒸着法、スパッタリング法等であることが好ましい。
【0094】
(1−2)ゲート絶縁層を形成する工程
図6を参照して、本工程は、ゲート電極12上にゲート絶縁層13を形成する工程である。ゲート絶縁層13の構成材料などは上述のとおりである。ゲート絶縁層13の形成方法は、特に制限はないが、大面積で均一に形成できる点および絶縁性を確保する点から、プラズマCVD(化学気相堆積)法等であることが好ましい。
【0095】
(1−3)酸化物半導体を含む層を形成する工程
図7を参照して、本工程は、ゲート絶縁層13上に、ゲート絶縁層13に接するように、酸化物半導体を含む層20を形成する工程である。酸化物半導体を含む層20は、In、WおよびZnを含有する酸化物焼結体をターゲットとするスパッタリング法により成膜する工程を含んで形成されることが好ましい。このことは、高い電界効果移動度と高い信頼性とが両立された半導体デバイスを得るうえで有利である。
【0096】
スパッタリング法とは、成膜室内に、ターゲットと基板とを対向させて配置し、ターゲットに電圧を印加して、希ガスイオンでターゲットの表面をスパッタリングすることにより、ターゲットからターゲットを構成する原子を放出させて基板上に堆積させることによりターゲットを構成する原子で構成される膜を形成する方法をいう。
【0097】
酸化物半導体層を形成する方法としては、スパッタリング法のほか、パルスレーザー蒸着(PLD)法、加熱蒸着法などが従来提案されているが、スパッタリング法を用いることが上記の理由から好ましい。
【0098】
スパッタリング法としては、マグネトロンスパッタリング法、対向ターゲット型スパッタリング法などを用いることができる。スパッタリング時の雰囲気ガスとして、Arガス、Krガス、Xeガスを用いることができ、これらのガスとともに酸素ガスを混合して用いることもできる。
【0099】
スパッタリング法により成膜を行いながら熱処理してもよい。これにより、ナノ結晶酸化物またはアモルファス酸化物で構成される酸化物半導体層が得られやすくなる。また上記熱処理は、電界効果移動度および信頼性の高い半導体デバイスを実現するうえでも有利である。
【0100】
スパッタリング法による成膜を行いながら実施する熱処理は、当該成膜中に基板を加熱することによって実施できる。基板温度は、好ましくは100℃以上250℃以下である。熱処理の時間は成膜時間に相当し、成膜時間は形成するチャネル層14の膜厚に依存するが、たとえば10秒〜10分程度であることができる。
【0101】
スパッタリング法の原料ターゲットとしては、In、WおよびZnを含有する酸化物焼結体を好ましく用いることができる。酸化物焼結体は、Zrをさらに含有することが好ましい。酸化物焼結体は、インジウム酸化物粉末、タングステン酸化物粉末および亜鉛酸化物粉末、さらに必要に応じて添加されるジルコニウム酸化物粉末の混合物を焼結することによって得ることができる。一部の原料粉末の1次混合物を仮焼して仮焼粉末を得た後、これに残りの原料粉末を加えて2次混合物とし、これを焼結する方法など、多段階の焼結処理(熱処理)を行って酸化物焼結体を得てもよい。
【0102】
酸化物焼結体は、ビックスバイト型結晶相であるIn結晶相を含むことが好ましい。このことは、電界効果移動度および信頼性の高い半導体デバイスを実現するうえで有利である。「ビックスバイト型結晶相」とは、ビックスバイト結晶相、ならびにビックスバイト結晶相の少なくとも一部にIn以外の金属元素の少なくとも1つが含まれる相であって、ビックスバイト結晶相と同じ結晶構造を有するものの総称をいう。ビックスバイト結晶相は、インジウム酸化物(In)の結晶相の1つであり、JCPDSカードの6−0416に規定される結晶構造をいい、希土類酸化物C型相(またはC−希土構造相)とも呼ぶ。当該結晶系を示す限り、酸素が欠損していたり、金属が固溶していたりしていて、格子定数が変化していても構わない。
【0103】
酸化物焼結体は、ZnWO型結晶相を含むことが好ましい。このこともまた、電界効果移動度および信頼性の高い半導体デバイスを実現するうえで有利である。「ZnWO4型結晶相」とは、ZnWO結晶相、ならびにZnWO結晶相の少なくとも一部にZnおよびW以外の元素の少なくとも一つが含まれる相であって、ZnWO結晶相と同じ結晶構造を有するものの総称をいう。ZnWO結晶相は、空間群P12/c1(13)にて表される結晶構造を有し、JCPDSカードの01−088−0251に規定される結晶構造を有するタングステン酸亜鉛化合物結晶相である。当該結晶系を示す限り、酸素が欠損していたり、金属が固溶していたりしていて、格子定数が変化していても構わない。
【0104】
(1−4)エッチストッパ層17を形成する工程
図8を参照して、本工程は、酸化物半導体を含む層20上にエッチストッパ層17を形成する工程である。エッチストッパ層17の構成材料については上述のとおりである。エッチストッパ層17は、酸化物半導体を含む層20における第2表面(ゲート絶縁層13側とは反対側の表面)の少なくとも一部と接するように形成される。したがって、酸素原子含有率が10原子%以上80原子%以下であるエッチストッパ層17を形成することにより、後工程の熱処理によって、酸化物半導体を含む層20内のW元素を、エッチストッパ層17の方向(酸化物半導体を含む層20の第2表面)に向かって拡散させることができ、W3>W2を充足する第3領域3および第2領域2を形成することができる。
【0105】
エッチストッパ層17の形成方法は、特に制限はないが、大面積で均一に形成できる点および絶縁性を確保する点から、プラズマCVD(化学気相堆積)法、スパッタリング法、真空蒸着法等であることが好ましい。
【0106】
(1−5)コンタクトホール17aを形成する工程
ソース電極15、ドレイン電極16は、チャネル層14に接触させる必要があることから、エッチストッパ層17を酸化物半導体を含む層20上に形成した後、エッチストッパ層17にコンタクトホール17aを形成する(図9)。コンタクトホール17aの形成方法としては、ドライエッチングまたはウェットエッチングを挙げることができる。当該方法によりエッチストッパ層17をエッチングしてコンタクトホール17aを形成することで、エッチング部において酸化物半導体を含む層20の表面を露出させる。
【0107】
(1−6)ソース電極およびドレイン電極を形成する工程
図10を参照して、本工程は、酸化物半導体を含む層20およびエッチストッパ層17上にソース電極15およびドレイン電極16を互いに接触しないように形成する工程である。ソース電極15およびドレイン電極16の具体例は上述のとおりである。ソース電極15およびドレイン電極16を形成する方法は、特に制限はないが、酸化物半導体を含む層20が形成された基板11の主面上に大面積で均一に形成できる点から、真空蒸着法、スパッタリング法等であることが好ましい。ソース電極15およびドレイン電極16を互いに接触しないように形成する方法は、特に制限はないが、大面積で均一なソース電極15とドレイン電極16のパターンを形成できる点から、フォトレジストを使ったエッチング法による形成であることが好ましい。
【0108】
(1−7)パシベーション層18を形成する工程
図2に示される半導体デバイス20の製造方法においては、酸化物半導体を含む層20およびエッチストッパ層17上にソース電極15およびドレイン電極16を互いに接触しないように形成した後(図10)、エッチストッパ層17、ソース電極15およびドレイン電極16上にパシベーション層18を形成する(図11)。パシベーション層18の構成材料については上述のとおりである。
【0109】
パシベーション層18の形成方法は、特に制限はないが、大面積で均一に形成できる点および絶縁性を確保する点から、プラズマCVD(化学気相堆積)法、スパッタリング法、真空蒸着法等であることが好ましい。
【0110】
(1−8)熱処理する工程
本工程は、酸化物半導体を含む層20を300℃以上、好ましくは500℃以下の温度で熱処理して、図2に示されるチャネル層14を備える半導体デバイス20を得る工程である。この熱処理は、酸化物半導体を含む層20を形成し、さらにエッチストッパ層17を形成した後に実施されることが好ましく、ソース電極15およびドレイン電極16を形成する工程の前であってもよいし、ソース電極15およびドレイン電極16を形成する工程の後であってもよいし、パシベーション層18を形成する工程の後であってもよい。熱処理は、基板を加熱することによって実施することができる。その他の熱処理条件は上述のとおりである。
【0111】
また上述のように、ゲート絶縁層13が酸素原子含有率が10原子%以上80原子%以下である酸素原子含有層である場合には、この熱処理により、W1/W2>1.0を充足する第1領域1の形成が容易となる。ゲート絶縁層13の酸素原子含有率が10原子%未満である場合には、W1/W2≦1.0を充足する第1領域1の形成が容易となる。
【0112】
上述のように、酸化物半導体を含む層20またはチャネル層14の第3領域3に含有されるWの少なくとも一部は、第3領域3に接する隣接層に含まれるシリコンおよび/またはアルミニウムの少なくとも1つと結合していることが好ましい。これにより、半導体デバイスの電界効果移動度および信頼性をさらに高め得る。第3領域3に含有されるWのすべてがシリコンおよび/またはアルミニウムと結合している必要はなく、Wの一部が、シリコンおよび/またはアルミニウムと結合していてもよい。
【0113】
次に、図3に示される半導体デバイス30の製造方法について説明する。半導体デバイス30のように、エッチストッパ層17を形成することなくバックチャネルエッチ(BCE)構造を採用し、酸化物半導体を含む層20、ソース電極15およびドレイン電極16の上に、パシベーション膜18を直接形成してもよい。この場合におけるパシベーション層18については、図2に示される半導体デバイス20が有するパシベーション層18についての上の記述が引用される。
【0114】
図3に示される半導体デバイス30を製造する場合においては、パシベーション層18を形成した後に、酸化物半導体を含む層20を300℃以上、好ましくは500℃以下の温度で熱処理を行うことが好ましい。熱処理は、基板を加熱することによって実施することができる。酸素原子含有率が10原子%以上80原子%以下であるパシベーション層18を形成することにより、当該熱処理によって、酸化物半導体を含む層20内のW元素を、エッチストッパ層17の方向(酸化物半導体を含む層20の第2表面)に向かって拡散させることができ、W3>W2を充足する第3領域3および第2領域2を形成することができる。
【0115】
また上述のように、ゲート絶縁層13が酸素原子含有率が10原子%以上80原子%以下である酸素原子含有層である場合には、この熱処理により、W1/W2>1.0を充足する第1領域1の形成が容易となる。ゲート絶縁層13の酸素原子含有率が10原子%未満である場合には、W1/W2≦1.0を充足する第1領域1の形成が容易となる。
【実施例】
【0116】
<実施例1〜実施例25、比較例1〜3、参考例1>
(1)半導体デバイス(TFT)の作製
次の手順で図3に示される半導体デバイス30と類似の構成を有するTFTを作製した。図5を参照して、まず、基板11として75mm×75mm×厚み0.6mmの合成石英ガラス基板を準備し、その基板11上にスパッタリング法によりゲート電極12として厚み100nmのMo電極を形成した。
【0117】
次に、図6を参照して、ゲート電極12上にプラズマCVD法によりゲート絶縁層13として、アモルファス酸化物層である厚み200nmのSiOx層またはSiNy層を形成した。下記の表1における「GI層」「種類」の欄に、各例で用いたゲート絶縁層13の材質を記載している。また、同表における「GI層」「酸素原子含有率」の欄に、RBSにて測定したゲート絶縁層13の酸素原子含有率を記載した。
【0118】
ゲート絶縁層13がSiOx層である場合、酸素原子含有率は55原子%〜75原子%である。この場合、後の工程の熱処理によって、酸化物半導体を含む層20において、ゲート絶縁層13側に向かるW元素の拡散が起こるため、半導体デバイスが有するチャネル層14において、第1領域1のW含有率W1が、第2領域2のW含有率W2よりも大きくなった。一方、ゲート絶縁層13がSiNy層である場合、酸素原子含有率は0原子%である。この場合、上記のようなW元素の拡散が生じず、W1はW2よりも小さくなった(W1/W2<1.0)。
【0119】
次に、図7を参照して、ゲート絶縁層13上に、DC(直流)マグネトロンスパッタリング法により、厚み30nmの酸化物半導体を含む層20を形成した。ターゲットの直径4インチ(101.6mm)の平面がスパッタ面であった。ターゲットとして、In、WおよびZnを含有する酸化物焼結体を使用した。この酸化物焼結体は、インジウム酸化物粉末、タングステン酸化物粉末、亜鉛酸化物粉末、およびジルコニウム酸化物粉末(実施例19以外)を原料として調製した焼結体である。酸化物焼結体は、ビックスバイト結晶相(In結晶相)およびZnWO結晶相を含むものであった。
【0120】
酸化物半導体を含む層20の形成についてより具体的に説明すると、スパッタリング装置(図示せず)の成膜室内の水冷されている基板ホルダ上に、上記ゲート電極12およびゲート絶縁層13が形成された基板11をゲート絶縁層13が露出されるように配置した。上記ターゲットをゲート絶縁層13に対向するように60mmの距離で配置した。成膜室内を6×10-5Pa程度の真空度として、ターゲットを次のようにしてスパッタリングした。
【0121】
まず、ゲート絶縁層13とターゲットとの間にシャッターを入れた状態で、成膜室内へAr(アルゴン)ガスとO2(酸素)ガスとの混合ガスを0.5Paの圧力まで導入した。混合ガス中のO2ガス含有率は10体積%であった。ターゲットに200WのDC電力を印加してスパッタリング放電を起こし、これによってターゲット表面のクリーニング(プレスパッタ)を5分間行った。
【0122】
次いで、同じターゲットに200WのDC電力を印加して、成膜室内の雰囲気をそのまま維持した状態で、上記シャッターを外すことにより、ゲート絶縁層13上に酸化物半導体を含む層20を成膜した。なお、基板ホルダに対しては、特にバイアス電圧は印加しなかった。また、基板ホルダを水冷または加熱し、成膜時の基板11の温度を調整した。下記の表1における「成膜時熱処理」の欄に温度が記載されている例では、記載の温度で基板ホルダを加熱して成膜と同時に熱処理を実施した。この場合において熱処理の時間は、成膜時間に相当する。いずれの例においても、成膜時間は、酸化物半導体を含む層20の膜厚が30nmになるように調整した。また、下記の表1における「成膜時熱処理」の欄に「なし」と記載されている場合は、成膜時においては熱処理を実施しなかった。この場合において、成膜時における基板温度は20℃程度とした。
【0123】
以上のようにして、酸化物焼結体ターゲットを用いたDC(直流)マグネトロンスパッタリング法により酸化物半導体を含む層20を形成した。酸化物半導体を含む層20は、TFTにおいてチャネル層14として機能する。
【0124】
次に、形成された酸化物半導体を含む層20の一部をエッチングすることにより、ソース電極形成部、ドレイン電極形成部、およびチャネル部に相当する領域が形成されるようにパターニングを行った。半導体デバイスにおいて、ソース電極形成部およびドレイン電極形成部の主面の大きさは60μm×60μm、チャネル長さC図1を参照して、チャネル長さCとは、ソース電極15とドレイン電極16との間のチャネル部の距離をいう。)は35μm、チャネル幅C図1を参照して、チャネル幅Cとは、チャネル部の幅をいう。)は50μmとした。チャネル部は、TFTが75mm×75mmの基板主面内に300μm間隔で縦250個×横250個配置されるように、75mm×75mmの基板主面内に300μm間隔で縦250個×横250個配置した。
【0125】
酸化物半導体を含む層20の一部のエッチングは、体積比でシュウ酸:水=5:95であるエッチング水溶液を調製し、ゲート電極12、ゲート絶縁層13および酸化物半導体を含む層20がこの順に形成された基板11を、そのエッチング水溶液に40℃で浸漬することにより行った。
【0126】
次に、酸化物半導体を含む層20上にソース電極15およびドレイン電極16を互いに分離して形成した。
【0127】
具体的にはまず、酸化物半導体を含む層20のソース電極形成部およびドレイン電極形成部に相当する領域の主面のみが露出するように、酸化物半導体を含む層20上にレジスト(図示せず)を塗布、露光および現像した。次いでスパッタリング法により、酸化物半導体を含む層20のソース電極形成部およびドレイン電極形成部に相当する領域の主面上に、それぞれソース電極15、ドレイン電極16である厚み100nmのMo電極を形成した。その後、酸化物半導体を含む層20上のレジストを剥離した。ソース電極15としてのMo電極およびドレイン電極16としてのMo電極はそれぞれ、TFTが75mm×75mmの基板主面内に3mm間隔で縦25個×横25個配置されるように、一つのチャネル部に対して1つずつ配置した。
【0128】
次に、図3を参照して、酸化物半導体を含む層20(チャネル層14)、ソース電極15およびドレイン電極16の上にパシベーション層18を形成した。パシベーション層18は、アモルファス酸化物層である厚み100nmのSiOx層をプラズマCVD法により形成した後、その上に厚み200nmのSiNy層をプラズマCVD法により形成した構成、アモルファス酸化物層である厚み100nmのAlxOy層をスパッタリング法により形成した後、その上に厚み200nmのSiNx層をプラズマCVD法により形成した構成、またはアモルファス酸化物層である厚み100nmのSixOyNz層をスパッタリング法により形成した後、その上に厚み200nmのSiNx層をプラズマCVD法により形成した構成とした。アモルファス酸化物層がSiOx層である場合、下記の表1における「PV層」「種類」の欄に「SiOx」と記載し、アモルファス酸化物層がAlxOy層である場合、「PV層」「種類」の欄に「AlxOy」と記載し、アモルファス酸化物層がSixOyNz層である場合、「PV層」「種類」の欄に「SixOyNz」と記載した。また、同表における「PV層」「酸素原子含有率」の欄に、RBSにて測定したパシベーション層18(アモルファス酸化物層)の酸素原子含有率を記載した。
【0129】
次に、ソース電極15、ドレイン電極16上のパシベーション層18を反応性イオンエッチングによりエッチングしてコンタクトホールを形成することによって、ソース電極15およびドレイン電極16の表面の一部を露出させた。
【0130】
最後に、すべての例において熱処理を行った。熱処理は、
1)窒素雰囲気中、350℃、30分〜120分の熱処理、または
2)大気圧、大気雰囲気中、300℃、60分〜120分の熱処理(1段階目)を行った後、窒素雰囲気中、350℃、30分〜120分の熱処理(2段階目)
とした。ただし、比較例3では2段階目の熱処理の温度を150℃とし、参考例1では2段階目の熱処理の温度を520℃とした。
【0131】
2)の熱処理を行った場合には、下記の表1における「成膜後熱処理」「1段階目 処理時間」の欄に、1段階目の熱処理の処理時間を記載した。2段階目の処理時間は、下記の表1における「成膜後熱処理」「2段階目 処理時間」の欄に記載した。1)の熱処理を行った場合には、「成膜後熱処理」「2段階目 処理時間」の欄に処理時間を記載し、「1段階目」の欄に「なし」と記載した。以上により、In、WおよびZnを含有する酸化物半導体を含むチャネル層14を備えるTFTを得た。
【0132】
(2)チャネル層のIn含有率、W含有率、Zn含有率、Zn/W比、W3/W2、W1/W2、Zr含有量、および結晶構造の測定
チャネル層のIn含有率(In、WおよびZnの合計に対するInの含有率、原子%)、W含有率、Zn含有率、Zn/W比、W3/W2、W1/W2、Zr含有量、および結晶構造を上述した測定方法および定義に従って測定した結果を表2に示す。
【0133】
In含有率、W含有率、Zn含有率、Zn/W比は、RBS(ラザフォード後方散乱分析)により測定した。W3/W2、W1/W2およびZr含有量は、二次イオン質量分析計(SIMS)を用い、W元素に由来する二次イオンのカウント数を経計測して算出した。表2における「結晶構造」の欄において、「N」は、チャネル層14がナノ結晶酸化物で構成されていることを、「A」は、アモルファス酸化物で構成されていることを意味する。
【0134】
(3)チャネル層の電気抵抗率の測定
ソース電極15とドレイン電極13に測定針を接触させた。次に、ソース−ドレイン電極間に電圧を1Vから20Vに変化させて印加しながら、ソース−ドレイン間電流Idsを測定した。Ids−Vgsのグラフを描いたときの傾きが抵抗Rである。この抵抗Rと、チャネル長さC(35μm)、チャネル幅C(50μm)、膜厚tから、チャネル層14の電気抵抗率は、R×C×t/Cとして求めることができる。本実施例のチャネル層14は全て10−1Ωcm以上であることを確認した。
【0135】
(4)チャネル層の電子キャリア濃度の測定
電子キャリア濃度の測定のためにホール効果測定を実施した。次の手順で測定試料を作製した。まず、1cm×1cm×厚さ0.5mmの正方形ガラス基板上に前述のゲート絶縁層(各例と同じ材質のもの)を形成し、続いて酸化物半導体を含む層(各例と同じ材質のもの)を形成した。酸化物半導体を含む層の膜厚は100nmとした。続いて、パシベーション層(各例と同じ材質のもの)を形成し、基板の四隅にコンタクトホールを形成した後、コンタクトホール上に1mm×1mmの正方形サイズのMo電極を膜厚100nmにて形成した。最後に前述の熱処理(各例と同じ熱処理)を行って、測定試料を得た。この測定試料を用いてホール効果測定を実施し、電子キャリア濃度を測定した。
【0136】
(5)半導体デバイスの特性評価
まず、ゲート電極12、ソース電極15およびドレイン電極16に測定針を接触させた。ソース電極15とドレイン電極16との間に0.2Vのソース−ドレイン間電圧Vdsを印加し、ソース電極15とゲート電極12との間に印加するソース−ゲート間電圧Vgsを−30Vから20Vに変化させて、そのときのソース−ドレイン間電流Idsを測定した。そして、ソース−ゲート間電圧Vgsとソース−ドレイン間電流Idsの平方根〔(Ids1/2〕との関係をグラフ化した(以下、このグラフを「Vgs−(Ids1/2曲線」ともいう。)。Vgs−(Ids1/2曲線に接線を引き、その接線の傾きが最大となる点を接点とする接線がx軸(Vgs)と交わる点(x切片)を閾値電圧Vthとした。閾値電圧Vthの測定結果を表3に示す。
【0137】
また下記式〔a〕:
=dIds/dVgs 〔a〕
に従って、ソース−ドレイン間電流Idsをソース−ゲート間電圧Vgsについて微分することによりgを導出した。そしてVgs=10.0Vにおけるgの値を用いて、下記式〔b〕:
μfe=g・C/(C・C・Vds) 〔b〕
に基づいて、電界効果移動度μfeを算出した。上記式〔b〕におけるチャネル長さCLは35μmであり、チャネル幅CWは50μmである。また、ゲート絶縁層13のキャパシタンスCは3.4×10−8F/cmとし、ソース−ドレイン間電圧Vdsは0.2Vとした。電界効果移動度μfeの測定結果を表3に示す。
【0138】
また、ソース−ドレイン間電圧Vdsを5.1Vとし、ソース−ゲート間電圧Vgsを−2.0Vから0Vの間で0.1Vステップで変化させたときに得られる21点のIdsの平均値として、OFF電流を得た。結果を表3に示す。
【0139】
さらに、次の信頼性評価試験を行った。ソース電極15とゲート電極12との間に印加するソース−ゲート間電圧Vgsを−32Vに固定して、これを1時間印加し続けた。印加開始から1s、10s、100s、300s、5000s後に前述の方法により閾値電圧Vthを求め、その最大閾値電圧Vthと最小閾値電圧Vthとの差ΔVthを求めた。結果を表3に示す。ΔVthが小さい程、信頼性が高いと判断される。
【0140】
【表1】
【0141】
【表2】
【0142】
【表3】
【0143】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0144】
1 チャネル層の第1領域
2 チャネル層の第2領域
3 チャネル層の第3領域
10,20,30 半導体デバイス(TFT)
11 基板
12 ゲート電極
13 ゲート絶縁層
14 チャネル層
15 ソース電極
16 ドレイン電極
17 エッチストッパ層
17a コンタクトホール
18 パシベーション層
20 酸化物半導体を含む層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11