(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
<本発明の実施形態の説明>
まず、本発明の実施形態を列記して説明する。
【0022】
[1]本発明の一態様に係る酸化物焼結体は、In
2O
3結晶相、Zn
4In
2O
7結晶相およびZnWO
4結晶相を含む。該酸化物焼結体によれば、スパッタ時の異常放電を低減させることができるとともに、酸化物焼結体中のポアの含有率を低減させることができる。本実施形態の酸化物焼結体は、半導体デバイスが有する酸化物半導体膜(たとえばチャネル層として機能する酸化物半導体膜)を形成するためのスパッタターゲットとして好適に用いることができる。
【0023】
[2]本実施形態の酸化物焼結体において、In
2O
3結晶相に由来するX線回折のピーク位置の2θは、50.70deg.より大きく51.04deg.より小さいことが好ましい。このことは、スパッタ時の異常放電を低減させるうえで有利である。
【0024】
[3]本実施形態の酸化物焼結体において、In
2O
3結晶相の含有率は25質量%以上98質量%未満であり、Zn
4In
2O
7結晶相の含有率は1質量%以上50質量%未満であることが好ましい。このことは、スパッタ時の異常放電を低減させるとともに、酸化物焼結体中のポアの含有率を低減させるうえで有利である。
【0025】
[4]本実施形態の酸化物焼結体において、Zn
4In
2O
7結晶相のC面の格子定数は、33.53Å以上34.00Å以下であることが好ましい。このことは、スパッタ時の異常放電を低減させるうえで有利である。
【0026】
[5]本実施形態の酸化物焼結体において、ZnWO
4結晶相の含有率は、0.1質量%以上10質量%未満であることが好ましい。このことは、スパッタ時の異常放電を低減させるとともに、酸化物焼結体中のポアの含有率を低減させるうえで有利である。
【0027】
[6]本実施形態の酸化物焼結体において、酸化物焼結体中のIn、WおよびZnの合計に対するWの含有率は0.1原子%より大きく20原子%より小さく、酸化物焼結体中のIn、WおよびZnの合計に対するZnの含有率は1.2原子%より大きく40原子%より小さいことが好ましい。このことは、スパッタ時の異常放電を低減させるとともに、酸化物焼結体中のポアの含有率を低減させるうえで有利である。
【0028】
[7]本実施形態の酸化物焼結体において、酸化物焼結体中のWの含有率に対するZnの含有率の比は、原子数比で、1より大きく80より小さいことが好ましい。このことは、酸化物焼結体中のポアの含有率を低減させるうえで有利である。
【0029】
[8]本実施形態の酸化物焼結体は、ジルコニウム(Zr)をさらに含むことができる。この場合、酸化物焼結体中におけるIn、W、ZnおよびZrの合計に対するZrの含有率は、原子数比で、0.1ppm以上200ppm以下であることが好ましい。このことは、本実施形態の酸化物焼結体をスパッタターゲットとして用いて製造された半導体デバイスにおいて、これを高い温度でアニールしても電界効果移動度を高く維持するうえで有利である。
【0030】
[9]本発明の別の実施形態であるスパッタターゲットは、上記実施形態の酸化物焼結体を含む。本実施形態のスパッタターゲットによれば、上記実施形態の酸化物焼結体を含むため、スパッタ時の異常放電を低減させることができる。また、本実施形態のスパッタターゲットによれば、ポアの含有率が低減されているため、特性に優れた、たとえば、高い温度でアニールしても電界効果移動度を高く維持できる半導体デバイスを提供することができる。
【0031】
[10]本発明のさらに別の実施形態である半導体デバイスの製造方法は、酸化物半導体膜を含む半導体デバイスの製造方法であって、上記実施形態のスパッタターゲットを用意する工程と、該スパッタターゲットを用いてスパッタ法により上記酸化物半導体膜を形成する工程とを含む。本実施形態の製造方法によれば、上記実施形態のスパッタターゲットを用いてスパッタ法により酸化物半導体膜を形成するため、優れた特性を示すことができ、たとえば、高い温度でアニールしても電界効果移動度を高く維持することができる。半導体デバイスとは、特に制限はないが、上記実施形態のスパッタターゲットを用いてスパッタ法により形成した酸化物半導体膜をチャネル層として含むTFT(薄膜トランジスタ)が好適な例である。
【0032】
[11]本発明のさらに別の実施形態である酸化物焼結体の製造方法は、上記実施形態の酸化物焼結体の製造方法であって、In、WおよびZnを含む成形体を焼結することにより酸化物焼結体を形成する工程を含み、酸化物焼結体を形成する工程は、500℃以上1000℃以下の範囲から選ばれる一定の第1温度下に成形体を30分間以上置くことを含む。このことは、上記実施形態の酸化物焼結体を効率的に製造するうえで有利である。
【0033】
[12]上記[11]に係る実施形態の酸化物焼結体の製造方法において、酸化物焼結体を形成する工程は、第1温度下に30分間以上成形体を置くことと、800℃以上1200℃未満であり、第1温度よりも高い第2温度下に、酸素含有雰囲気中、成形体を置くこととをこの順に含むことが好ましい。このことは、得られる酸化物焼結体中のポアの含有率を低減させるうえで有利である。
【0034】
[13]本発明のさらに別の実施形態である酸化物焼結体の製造方法は、上記実施形態の酸化物焼結体の製造方法であって、亜鉛酸化物粉末とインジウム酸化物粉末との1次混合物を調製する工程と、1次混合物を熱処理することにより仮焼粉末を形成する工程と、仮焼粉末を含む原料粉末の2次混合物を調製する工程と、2次混合物を成形することにより成形体を形成する工程と、成形体を焼結することにより酸化物焼結体を形成する工程とを含み、仮焼粉末を形成する工程は、酸素含有雰囲気下、550℃以上1300℃未満の温度で1次混合物を熱処理することにより、仮焼粉末としてZnとInとを含む複酸化物の粉末を形成することを含む。このことは、上記実施形態の酸化物焼結体を効率的に製造するうえで有利である。
【0035】
[14]上記[13]に係る実施形態の酸化物焼結体の製造方法において、酸化物焼結体を形成する工程は、500℃以上1000℃以下の範囲から選ばれる一定の第1温度下に成形体を30分間以上置くことを含む。このことは、上記実施形態の酸化物焼結体を効率的に製造するうえで有利である。
【0036】
[15]上記[14]に係る実施形態の酸化物焼結体の製造方法において、酸化物焼結体を形成する工程は、第1温度下に30分間以上成形体を置くことと、800℃以上1200℃未満であり、第1温度よりも高い第2温度下に、酸素含有雰囲気中、成形体を置くこととをこの順に含むことが好ましい。このことは、得られる酸化物焼結体中のポアの含有率を低減させるうえで有利である。
【0037】
<本発明の実施形態の詳細>
[実施形態1:酸化物焼結体]
本実施形態の酸化物焼結体は、金属元素としてIn、WおよびZnを含有し、In
2O
3結晶相、Zn
4In
2O
7結晶相およびZnWO
4結晶相を含む。該酸化物焼結体によれば、スパッタ時の異常放電を低減させることができるとともに、酸化物焼結体中のポアの含有率を低減させることができる。
【0038】
本明細書において「In
2O
3結晶相」とは、Inと酸素(O)を主に含むインジウム酸化物の結晶のことである。より具体的には、In
2O
3結晶相とは、ビックスバイト結晶相であり、JCPDSカードの6−0416に規定される結晶構造をいい、希土類酸化物C型相(またはC−希土構造相)とも呼ぶ。当該結晶系を示す限り、酸素が欠損していたり、In元素、および/またはW元素、および/またはZn元素が固溶していたり、または欠損していたり、その他の金属元素が固溶していたりしていて、格子定数が変化していても構わない。
【0039】
本明細書において「ZnWO
4結晶相」とは、ZnとWとOを主に含む複酸化物の結晶のことである。より具体的には、ZnWO
4結晶相とは、空間群P12/c1(13)にて表される結晶構造を有し、JCPDSカードの01−088−0251に規定される結晶構造を有するタングステン酸亜鉛化合物結晶相である。当該結晶系を示す限り、酸素が欠損していたり、In元素、および/またはW元素、および/またはZn元素が固溶していたり、または欠損していたり、その他の金属元素が固溶していたりしていて、格子定数が変化していても構わない。
【0040】
本明細書において「Zn
4In
2O
7結晶相」とは、ZnとInとOを主に含む複酸化物の結晶のことである。より具体的には、Zn
4In
2O
7結晶相とは、フォモロガス構造と呼ばれる積層構造を有する結晶相であり、空間群P63/mmc(194)にて表される結晶構造を有し、JCPDSカードの00−020−1438に規定される結晶構造を有している。当該結晶系を示す限り、酸素が欠損していたり、In元素、および/またはW元素、および/またはZn元素が固溶していたり、または欠損していたり、その他の金属元素が固溶していたりしていて、格子定数が変化していても構わない。
【0041】
上記の各結晶相は、X線回折により同定できる。すなわち、本実施形態の酸化物焼結体においては、X線回折により、In
2O
3結晶相、Zn
4In
2O
7結晶相、ZnWO
4結晶の全ての存在が確認される。X線回折測定により、Zn
4In
2O
7結晶相の格子定数やIn
2O
3結晶相の面間隔も測定することができる。
【0042】
X線回折は、以下の条件またはこれと同等条件にて測定される。
(X線回折の測定条件)
θ−2θ法、
X線源:Cu Kα線、
X線管球電圧:45kV、
X線管球電流:40mA、
ステップ幅:0.02deg.、
ステップ時間:1秒/ステップ、
測定範囲2θ:10deg.〜80deg.。
【0043】
In
2O
3結晶相に加えてZn
4In
2O
7結晶相を含有する本実施形態の酸化物焼結体によれば、スパッタ時の異常放電を低減させることができる。これは、In
2O
3結晶相に比べてZn
4In
2O
7結晶相の電気抵抗が低いことに起因していると考えられる。酸化物焼結体は、スパッタ時の異常放電を低減させる観点から、In
2O
3結晶相およびZn
4In
2O
7結晶相の合計含有率が80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましい。
【0044】
In
2O
3結晶相に加えてZnWO
4結晶相を含有する本実施形態の酸化物焼結体によれば、酸化物焼結体中のポアの含有率を低減させることができる。これは、ZnWO
4結晶相が焼結工程中に焼結を促進する役割を果たしているためであると考えられる。
【0045】
酸化物焼結体において、In
2O
3結晶相に由来するX線回折のピーク位置の2θは、50.70deg.より大きく51.04deg.より小さいことが好ましい。このことは、スパッタ時の異常放電を低減させるうえで有利である。このピークは、In
2O
3結晶相の(440)面に帰属されるピークである。
【0046】
In
2O
3結晶相の少なくとも一部に元素が固溶したり、元素欠陥があると、JCPDSカードの6−0416に規定される面間隔よりも広くなったり、狭くなったりする。JCPDSカードの6−0416ではIn
2O
3結晶相の(440)面に帰属されるピークは、2θが51.04deg.の位置である。(440)面の面間隔は1.788Åである。
【0047】
すなわち、本実施形態の酸化物焼結体の(440)面に帰属されるX線ピーク位置は、好ましくは、JCPDSカードの6−0416のIn
2O
3結晶相の(440)面に帰属されるX線回折のピーク位置よりも低角度側であり、2θ値としてはより小さく、面間隔としてはより大きい。
【0048】
In
2O
3結晶相の少なくとも一部に固溶し得る元素としては、Zn、W、OおよびZrから選ばれる少なくとも1種の元素が考えられる。元素欠陥を生成し得る元素としてはInおよびOから選ばれる少なくとも1種の元素がある。In
2O
3結晶中の固溶元素や元素欠陥の存在は、酸化物焼結体中のポアの含有率を低減させるうえで有利である。すなわち、固溶元素や元素欠陥が存在していると、焼結工程時の元素拡散を促進することができる。これにより、焼結工程時に元素が相互に移動し合うことができるため、その結果、酸化物焼結体中のポアが低減されやすくなる。また、酸化物焼結体を構成するIn
2O
3結晶相中の固溶元素や元素欠陥の存在は、In
2O
3結晶相の電気抵抗を減少させる効果があり、このことは、スパッタ時の異常放電を低減するうえで有利となる。
【0049】
酸化物焼結体中のポアの含有率を低減させる観点、およびスパッタ時の異常放電を低減する観点から、In
2O
3結晶相に由来するX線回折のピーク位置の2θは、より好ましくは50.80deg.より大きく、さらに好ましくは50.90deg.より大きい。
【0050】
酸化物焼結体において、In
2O
3結晶相の含有率は25質量%以上98質量%未満であり、Zn
4In
2O
7結晶相の含有率は1質量%以上50質量%未満であることが好ましい。このことは、スパッタ時の異常放電を低減させるとともに、酸化物焼結体中のポアの含有率を低減させるうえで有利である。In
2O
3結晶相の含有率とは、後述するX線回折測定で検出される全ての結晶相の合計含有率を100質量%としたときの、In
2O
3結晶相の含有率(質量%)である。他の結晶相についても同様である。
【0051】
In
2O
3結晶相の含有率が25質量%以上であることは、スパッタ時の異常放電を低減させるうえで有利であり、98質量%未満であることは、酸化物焼結体中のポアの含有率を低減させるうえで有利である。
【0052】
In
2O
3結晶相の含有率は、スパッタ時の異常放電を低減させるとともに、酸化物焼結体中のポアの含有率を低減させる観点から、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは75質量%以上であり、また、より好ましくは95質量%以下、さらに好ましくは90質量%以下である。
【0053】
Zn
4In
2O
7結晶相の含有率が1質量%以上であることは、スパッタ時の異常放電を低減させるうえで有利であり、50質量%未満であることは、酸化物焼結体中のポアの含有率を低減させるうえで有利である。
【0054】
Zn
4In
2O
7結晶相の含有率は、スパッタ時の異常放電を低減させるとともに、酸化物焼結体中のポアの含有率を低減させる観点から、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは9質量%以上であり、また、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。
【0055】
Zn
4In
2O
7結晶相は、焼結工程において紡錘形に成長し、その結果、酸化物焼結体中でも紡錘形の粒子として存在する。紡錘形の粒子の集合体は、円形粒子の集合体よりも、酸化物焼結体中にポアを多く生成させやすい。このためもあって、Zn
4In
2O
7結晶相の含有率は50質量%未満であることが好ましい。一方、Zn
4In
2O
7結晶相の含有率が小さくなりすぎると、酸化物焼結体の電気抵抗が高くなりスパッタ時のアーキング回数が増加してしまう。このためもあって、Zn
4In
2O
7結晶相の含有率は1質量%以上であることが好ましい。
【0056】
酸化物焼結体中の各結晶相の含有率は、X線回折を用いたRIR(Reference Intensity Ratio:参照強度比)法により算出することができる。RIR法とは、一般には、各含有結晶相の最強線の積分強度比とICDDカードに記載されているRIR値から含有率を定量する手法であるが、本実施形態の酸化物焼結体のように最強線のピーク分離が困難な複酸化物では、各化合物ごとに明確に分離されたX線回折ピークを選択し、その積分強度比とRIR値から(あるいは、これと同等の方法によって)各結晶相の含有率が算出される。各結晶相の含有率を求める際に実施されるX線回折の測定条件は、前述の測定条件と同じであるか、またはこれと同等の条件である。
【0057】
酸化物焼結体において、Zn
4In
2O
7結晶相のC面の格子定数は、33.53Å以上34.00Å以下であることが好ましい。このことは、スパッタ時の異常放電を低減させるうえで有利である。スパッタ時の異常放電を低減させる観点から、Zn
4In
2O
7結晶相のC面の格子定数は、より好ましくは33.53Å以上、さらに好ましくは33.54Å以上であり、また、より好ましくは34Å以下、さらに好ましくは33.59Å以下である。
【0058】
Zn
4In
2O
7結晶相のC面の格子定数は、X線回折を用いて算出する。X線回折の測定条件は、前述の測定条件と同じであるか、またはこれと同等の条件である。前述の条件で測定した場合、Zn
4In
2O
7結晶相のC面からの回折ピークは、2θ=31.5°以上32.8°未満の範囲に現れ得る。JCPDSカードの00−020−1438に規定される結晶構造を有している場合、Zn
4In
2O
7結晶相のC面の格子定数は33.52Åであるが、本実施形態の酸化物焼結体に含まれるZn
4In
2O
7結晶相のC面は、33.52Åの格子定数ではなく、これより大きい33.53Å以上34.00Å以下の格子定数を有することが好ましい。このような格子定数を有するZn
4In
2O
7結晶相は、スパッタ時の異常放電を低減させるうえで有利である。
【0059】
33.53Å以上34.00Å以下の格子定数は、たとえば、Zn
4In
2O
7結晶相にIn元素、および/またはW元素、および/またはZn元素、および/またはその他の金属元素を固溶させることによって実現できる。この場合、固溶元素によってZn
4In
2O
7結晶相の電気抵抗が低下し、結果として酸化物焼結体の電気抵抗が低下するために、スパッタ時の異常放電を低減できると考えられる。
【0060】
酸化物焼結体において、ZnWO
4結晶相の含有率は、0.1質量%以上10質量%未満であることが好ましい。このことは、スパッタ時の異常放電を低減させるとともに、酸化物焼結体中のポアの含有率を低減させるうえで有利である。酸化物焼結体中のポアの含有率を低減させる観点から、ZnWO
4結晶相の含有率は、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは0.9質量%以上であり、また、スパッタ時の異常放電を低減させる観点から、より好ましくは5.0質量%以下、さらに好ましくは2.0質量%以下である。
【0061】
ZnWO
4結晶相の含有率は、前述のX線回折を用いたRIR法によって算出できる。ZnWO
4結晶相は、In
2O
3結晶相およびZn
4In
2O
7結晶相と比べ、電気抵抗率が高いことを見出した。このため、酸化物焼結体におけるZnWO
4結晶相の含有率が高すぎると、スパッタ時にZnWO
4結晶相部分で異常放電が発生するおそれがある。一方、ZnWO
4結晶相の含有率が0.1質量%より小さい場合、焼結工程での焼結が促進されずに焼結体中のポアが多くなってしまう。
【0062】
酸化物焼結体において、酸化物焼結体中のIn、WおよびZnの合計に対するWの含有率(以下、「W含有率」ともいう。)は0.1原子%より大きく20原子%より小さく、酸化物焼結体中のIn、WおよびZnの合計に対するZnの含有率(以下、「Zn含有率」ともいう。)は1.2原子%より大きく40原子%より小さいことが好ましい。このことは、スパッタ時の異常放電を低減させるとともに、酸化物焼結体中のポアの含有率を低減させるうえで有利である。
【0063】
W含有率は、酸化物焼結体中のポアの含有率を低減させる観点から、より好ましくは0.3原子%以上、さらに好ましくは0.6原子%以上であり、また、スパッタ時の異常放電を低減させる観点から、より好ましくは15原子%以下、さらに好ましくは5原子%以下、なおさらに好ましくは2原子%以下である。
【0064】
W含有率を0.1原子%より大きくすることは、酸化物焼結体中のポアの含有率を低減させることができる。上述のように、ZnWO
4結晶相は、焼結工程において焼結を促進する助剤の役割を果たしていると考えられる。したがって、ZnWO
4結晶相は、焼結時に高分散で生成されることが、ポアの少ない酸化物焼結体を得るうえで望ましい。そして、焼結工程において、Zn元素とW元素が効率的に接触することで反応が促進され、ZnWO
4結晶相を形成することができる。したがって、焼結体中に含まれるW含有率を0.1原子%より大きくすることにより、Zn元素とW元素が効率的に接触することが可能となる。また、W含有率が0.1原子%以下の場合、酸化物焼結体をスパッタターゲットとして用いたスパッタ法によって形成された酸化物半導体膜を含む半導体デバイスにおいて、スイッチング駆動を確認できないことがある。これは、酸化物半導体膜の電気抵抗が低すぎるためと考えられる。W含有率が20原子%以上の場合、酸化物焼結体におけるZnWO
4結晶相の含有率が相対的に大きくなりすぎて、ZnWO
4結晶相を起点とする異常放電を抑制することができず、スパッタ時の異常放電が低減することが難しい傾向にある。
【0065】
Zn含有率は、酸化物焼結体中のポアの含有率を低減させる観点から、より好ましくは2.0原子%以上、さらに好ましくは5.0原子%より大きく、なおさらに好ましくは10.0原子%より大きく、また、より好ましくは30原子%より小さく、さらに好ましくは20原子%より小さく、なおさらに好ましくは18原子%より小さい。
【0066】
Zn含有率を1.2原子%より大きく40原子%より小さくすることは、酸化物焼結体中のポアの含有率を低減させるうえで好ましい。Zn含有率が1.2原子%以下の場合、酸化物焼結体中のポアを低減することが難しくなる傾向にある。Zn含有率が40原子%以上の場合、酸化物焼結体におけるZn
4In
2O
7結晶相の含有率が相対的に大きくなりすぎて、焼結体中のポアを低減することが難しくなる傾向にある。
【0067】
Zn含有率は、酸化物焼結体をスパッタターゲットとして用いたスパッタ法によって形成された酸化物半導体膜を含む半導体デバイスにおいて、高い温度でアニールしても電界効果移動度を高く維持することに影響を与える。この観点から、Zn含有率は、より好ましくは2.0原子%以上、さらに好ましくは5.0原子%より大きく、なおさらに好ましくは10.0原子%より大きい。
【0068】
酸化物焼結体中のIn、ZnおよびWの含有率は、ICP発光分析法により測定することができる。Zn含有率とは、Zn含有量/(Inの含有量+Znの含有量+Wの含有量)を意味し、W含有率とは、W含有量/(Inの含有量+Znの含有量+Wの含有量)を意味し、これらをそれぞれ百分率で表したものである。含有量としては原子数を用いる。
【0069】
酸化物焼結体中のW含有率に対するZn含有率の比(以下、「Zn/W比」ともいう。)は、原子数比で、1より大きく80より小さいことが好ましい。このことは、酸化物焼結体中のポアの含有率を低減させるうえで、または異常放電を低減するうえで有利である。ポアの含有率を低減させる観点から、Zn/W比は、より好ましくは10より大きく、さらに好ましくは15より大きく、また、より好ましくは60より小さく、さらに好ましくは40より小さい。
【0070】
上述のように、ZnWO
4結晶相は、焼結工程において焼結を促進する助剤の役割を果たしていると考えられる。したがって、ZnWO
4結晶相は、焼結時に高分散で生成されることが、ポアの少ない酸化物焼結体を得るうえで望ましい。そして、焼結工程において、Zn元素とW元素が効率的に接触することで反応が促進され、ZnWO
4結晶相を形成することができる。
【0071】
焼結工程時に高分散のZnWO
4結晶相を生成するためには、W元素に対して、Zn元素が比較的多く存在していることが望ましい。したがって、この点でZn/W比は、1より大きいことが好ましい。Zn/W比が1以下の場合、ZnWO
4結晶相が焼結工程時に高分散に生成することができず、ポアの低減が難しい傾向にある。また、Zn/W比が1以下の場合、焼結工程時にZnがWと優先的に反応し、ZnWO
4結晶相となるために、Zn
4In
2O
7結晶相を形成するためのZn量が欠乏し、結果として酸化物焼結体中にZn
4In
2O
7結晶相が生成しにくくなり、酸化物焼結体の電気抵抗が高くなりスパッタ時のアーキング回数が増加してしまう。Zn/W比が80以上の場合、酸化物焼結体におけるZn
4In
2O
7結晶相の含有率が相対的に大きくなりすぎて、酸化物焼結体中のポアを低減することが難しくなる傾向にある。
【0072】
酸化物焼結体は、ジルコニウム(Zr)をさらに含むことができる。この場合、酸化物焼結体中におけるIn、W、ZnおよびZrの合計に対するZrの含有率(以下、「Zr含有率」ともいう。)は、原子数比で、0.1ppm以上200ppm以下であることが好ましい。このことは、酸化物焼結体をスパッタターゲットとして用いて製造された半導体デバイスにおいて、これを高い温度でアニールしても電界効果移動度を高く維持するうえで有利である。
【0073】
高い温度でアニールしたときの電界効果移動度を高く維持する観点から、Zr含有率は、より好ましくは0.5ppm以上、さらに好ましくは2ppm以上である。高い電界効果移動度を得る観点から、Zr含有率は、より好ましくは100ppmより小さく、さらに好ましくは50ppmより小さい。
【0074】
酸化物焼結体中のZr含有率は、ICP発光分析法により測定することができる。Zr含有率とは、Zr含有量/(Inの含有量+Znの含有量+Wの含有量+Zrの含有量)を意味し、これを百万分率で表したものである。含有量としては原子数を用いる。
【0075】
[実施形態2:酸化物焼結体の製造方法]
実施形態1に係る酸化物焼結体を効率良く製造する観点から、酸化物焼結体の製造方法は、次の(1)〜(3)のいずれか1以上を充足することが好ましく、いずれか2以上を充足することがより好ましく、すべてを充足することがさらに好ましい。
(1)In、WおよびZnを含む成形体を焼結することにより酸化物焼結体を形成する工程を含み、酸化物焼結体を形成する工程は、500℃以上1000℃以下の範囲から選ばれる一定の第1温度下に成形体を30分間以上置くことを含む。
(2)In、WおよびZnを含む成形体を焼結することにより酸化物焼結体を形成する工程を含み、酸化物焼結体を形成する工程は、上記第1温度下に30分間以上成形体を置くことと、
好ましくは800℃以上1200℃未満であり、第1温度よりも高い第2温度下に、酸素含有雰囲気中、成形体を置くことと、をこの順に含む。
(3)亜鉛酸化物粉末とインジウム酸化物粉末との1次混合物を調製する工程と、1次混合物を熱処理することにより仮焼粉末を形成する工程と、仮焼粉末を含む原料粉末の2次混合物を調製する工程と、2次混合物を成形することにより成形体を形成する工程と、成形体を焼結することにより酸化物焼結体を形成する工程とを含む。
【0076】
上記(1)および(2)における「500℃以上1000℃以下の範囲から選ばれる一定の第1温度下に成形体を30分間以上置くこと」は、たとえば、焼結することにより酸化物焼結体を形成する工程(焼結工程)における昇温過程であることができる。上述のように、ポアの少ない酸化物焼結体を得るうえでは、焼結工程時に高分散のZnWO
4結晶相が生成されることが好ましいところ、第1温度下に成形体を30分間以上置くことにより、高分散のZnWO
4結晶相を生成させることができる。また、スパッタ時の異常放電を低減させることができる酸化物焼結体を得るうえでは、焼結工程時にZn
4In
2O
7結晶相を生成させることが好ましいところ、第1温度下に成形体を30分間以上置くことにより、高分散のZn
4In
2O
7結晶相を生成させることができる。第1温度下に成形体を置き、高分散のZnWO
4結晶相を生成させる過程を経た後に、焼結工程の最高温度まで温度を上昇させ焼結を促進することで、ポアの含有率が少なく、In
2O
3結晶相、Zn
4In
2O
7結晶相およびZnWO
4結晶相を含む酸化物焼結体を得ることができる。また、第1温度下に成形体を置くことで、In
2O
3中へのW,Znの固溶量が調整され、Zn
4In
2O
7結晶相およびZnWO
4結晶相の割合を所望の割合にすることができる。
【0077】
なお、「500℃以上1000℃以下の範囲から選ばれる一定の第1温度」における「一定」は、必ずしもある特定の一点の温度に限られるものではなく、ある程度の幅を有する温度範囲であってもよい。具体的には、第1温度は、500℃以上1000℃以下の範囲から選ばれるある特定の温度をT(℃)とするとき、500℃以上1000℃以下の範囲に含まれる限り、例えばT±50℃であってもよく、好ましくはT±20℃であり、より好ましくはT±10℃であり、さらに好ましくはT±5℃である。
【0078】
上記(1)および(2)におけるIn、WおよびZnを含む成形体は、酸化物焼結体の原料粉末であるインジウム酸化物粉末とタングステン酸化物粉末と亜鉛酸化物粉末とを含む成形体であることができる。本実施形態の酸化物焼結体の製造方法において、インジウム酸化物粉末としてはIn
2O
3粉末を用いることができる。タングステン酸化物粉末としてはWO
3結晶相、WO
2結晶相、およびWO
2.72結晶相からなる群より選ばれる少なくとも1種の結晶相を含む酸化物粉末を用いることができる。亜鉛酸化物粉末としてはZnO粉末を用いることができる。
【0079】
上記(2)における「好ましくは800℃以上1200℃未満であり、第1温度よりも高い第2温度下に、酸素含有雰囲気中、成形体を置くこと」は、焼結を促進または完結させる工程である。酸素含有雰囲気とは、大気、窒素−酸素混合雰囲気、酸素雰囲気などである。第2温度は、より好ましくは900℃以上、さらに好ましくは1100℃以上であり、また、より好ましくは1195℃以下であり、さらに好ましくは1190℃以下である。第2温度が800℃以上であることは、酸化物焼結体中のポアを低減させるうえで有利である。第2温度が1200℃未満であることは、酸化物焼結体の変形を抑制し、スパッタターゲットへの適性を維持するうえで有利である。
【0080】
上記(3)の方法は、亜鉛酸化物粉末およびインジウム酸化物粉末から、ZnとInとを含む複酸化物からなる仮焼粉末を形成し、この仮焼粉末を用いてインジウム酸化物粉末とタングステン酸化物粉末と亜鉛酸化物粉末とを含む成形体を形成した後、この成形体を焼結して酸化物焼結体を得る方法である。
【0081】
仮焼粉末は、Zn
4In
2O
7結晶相を含むことが好ましい。Zn
4In
2O
7結晶相を含む仮焼粉末を得るためには、インジウム酸化物粉末としてのIn
2O
3粉末と亜鉛酸化物粉末としてのZnO粉末とを、モル比でIn
2O
3:ZnO=1:4となるように混合して1次混合物を調製し、この1次混合物を酸素含有雰囲気下にて熱処理する。酸素含有雰囲気とは、大気、窒素−酸素混合雰囲気、酸素雰囲気などである。熱処理温度は、550℃以上1300℃未満であることが好ましく、1200℃以上であることがより好ましい。
【0082】
仮焼粉末を形成する工程においてZn
4In
2O
7結晶相を含む仮焼粉末を形成し、これを用いて2次混合物を調製する工程および2次混合物を成形することにより成形体を形成する工程を経る方法によれば、成形体を焼結することにより酸化物焼結体を形成する工程(焼結工程)において、Zn元素とW元素が効率的に接触することで反応が促進され、ZnWO
4結晶相を形成することができる。上述のように、ZnWO
4結晶相は焼結を促進する助剤の役割を果たしていると考えられる。したがって、ZnWO
4結晶相が焼結時に高分散で生成されると、ポアの少ない酸化物焼結体を得ることができる。すなわち、ZnWO
4結晶相が形成されると同時に焼結が進行することで、ポアの少ない酸化物焼結体を得ることができる。
【0083】
また、仮焼粉末を形成する工程においてZn
4In
2O
7結晶相を含む仮焼粉末を形成し、これを用いて2次混合物を調製する工程および2次混合物を成形することにより成形体を形成する工程を経る方法によれば、焼結工程を経ても酸化物焼結体中にZn
4In
2O
7結晶相が残りやすく、Zn
4In
2O
7結晶相が高分散された酸化物焼結体を得ることができる。酸化物焼結体中に高分散されたZn
4In
2O
7結晶相はスパッタ時の異常放電を低減させることができる。
【0084】
Zn
4In
2O
7結晶相を含む仮焼粉末を形成した後の2次混合物を調製する工程は、この仮焼粉末とインジウム酸化物粉末(たとえばIn
2O
3粉末)とタングステン酸化物粉末(たとえばWO
3粉末等のWO
3結晶相、WO
2結晶相、およびWO
2.72結晶相からなる群より選ばれる少なくとも1種の結晶相を含む酸化物粉末)とを混合する工程であることができる。2次混合物の調製にあたっては、最終的に得られる酸化物焼結体のW含有率、Zn含有率、Zn/W比等が上述の好ましい範囲内となるように原料粉末の混合比を調整することが望ましい。
【0085】
たとえば、次のような方法(i)〜(iii)で酸化物焼結体を製造する場合には、好適な酸化物焼結体が得られにくい傾向にある。
(i)仮焼粉末を形成する工程を経ずに、インジウム酸化物粉末、タングステン酸化物粉末および亜鉛酸化物粉末の3種類の粉末を混合し、成形後、焼結する方法。この場合、Zn元素とW元素が効率的に接触することができないため、反応が促進されず、ポアの少ない酸化物焼結体またはIn
2O
3結晶相、Zn
4In
2O
7結晶相およびZnWO
4結晶相を含む酸化物焼結体が得られにくい傾向にある。また、Zn
4In
2O
7結晶相を含む酸化物焼結体が得られにくい傾向にあるため、スパッタ時のアーキング発生を抑制することが難しい傾向にある。
(ii)仮焼粉末としてZnWO
4結晶相を含む粉末を形成後、インジウム酸化物粉末および亜鉛酸化物粉末と混合し、成形体を形成した後に焼結する方法。この場合、ZnWO
4結晶相を高分散させることできず、ポアの少ない酸化物焼結体が得られにくい傾向にある。
(iii)仮焼粉末としてInW
6O
12結晶相を含む粉末を形成後、インジウム酸化物粉末および亜鉛酸化物粉末と混合し、成形体を形成した後に焼結する方法。この場合も、ポアの少ない酸化物焼結体が得られにくい傾向にある。
【0086】
したがって、インジウム酸化物粉末、タングステン酸化物粉末および亜鉛酸化物粉末の3種類の粉末を混合する方法、仮焼粉末としてZnWO
4結晶相を含む粉末を経る方法、仮焼粉末としてInW
6O
12結晶相を含む粉末を経る方法、により調製した粉末を、成形後、焼結する方法においては、上記実施形態1に係る酸化物焼結体を得るために、上記(1)または(2)の方法を採用することが好ましい。
【0087】
以下、本実施形態に係る酸化物焼結体の製造方法について、より具体的に説明する。1つの好ましい態様において、酸化物焼結体の製造方法は、実施形態1に係る酸化物焼結体の製造方法であって、亜鉛酸化物粉末とインジウム酸化物粉末との1次混合物を調製する工程と、1次混合物を熱処理することにより仮焼粉末を形成する工程と、仮焼粉末を含む原料粉末の2次混合物を調製する工程と、2次混合物を成形することにより成形体を形成する工程と、成形体を焼結することにより酸化物焼結体を形成する工程とを含み、仮焼粉末を形成する工程は、酸素含有雰囲気下、好ましくは550℃以上1300℃未満の温度で1次混合物を熱処理することにより、仮焼粉末としてZnとInとを含む複酸化物の粉末を形成することを含む。
【0088】
上記の製造方法によれば、スパッタ時の異常放電を低減させることができ、ポアの含有率が低減され、スパッタターゲットとして好適に用いることのできる実施形態1に係る酸化物焼結体を効率的に製造することができる。また、上記の製造方法によれば、比較的低い焼結温度でも、スパッタ時の異常放電を低減させることができ、ポアの含有率が低減された酸化物焼結体を得ることができる。仮焼粉末を構成する複酸化物は、酸素が欠損していたり、金属が置換していたりしていても構わない。
【0089】
仮焼粉末を形成する工程における熱処理の温度が550℃未満の場合は、ZnとInとを含む複酸化物粉末が得られず、1300℃以上の場合、複酸化物粉末の粒径が大きくなりすぎて使用に適さなくなる傾向にある。熱処理の温度は、より好ましくは1200℃以上である。
【0090】
また、上記熱処理によって仮焼粉末としてのZnとInとを含む複酸化物粉末を形成することにより、得られる酸化物焼結体を含むスパッタターゲットを用いて形成された酸化物半導体膜をチャネル層として含む半導体デバイスにおいて、より高い温度でアニールしても電界効果移動度を高く維持することができる。
【0091】
ZnとInとを含む複酸化物は、Zn
4In
2O
7結晶相を含むことが好ましい。これにより、スパッタ時の異常放電が低減され、ポアの含有率が低減された酸化物焼結体を得ることができる。Zn
4In
2O
7結晶相は、空間群P63/mmc(194)にて表される結晶構造を有し、JCPDSカードの00−020−1438に規定される結晶構造を有するZnとInの複酸化物結晶相である。当該結晶系を示す限り、酸素が欠損していたり、金属が固溶していたりしていて、格子定数が変化していても構わない。Zn
4In
2O
7結晶相は、X線回折測定により同定される。
【0092】
In、WおよびZnを含む酸化物焼結体において、スパッタ時の異常放電を低減することができ、ポアの含有率が低減された酸化物焼結体を得るためには、融点の低いZnとWとを含む複酸化物を焼結時に存在させることが有効である。このためには、焼結時にタングステン元素と亜鉛元素の接触点を増やして、ZnとWとを含む複酸化物を成形体中に高分散の状態で形成することが好ましい。また、ZnとWとを含む複酸化物の生成は、焼結工程中に生成することが、低い焼結温度でもスパッタ時の異常放電を低減させることができ、ポアの含有率が低減された酸化物焼結体を得る観点から好ましい。したがって、予め合成したZnとInとを含む複酸化物の粉末を製造工程に用いる方法を用いることでWとの接触点を増やし、焼結工程中にZnとWとを含む複酸化物を生成することが低い焼結温度でもスパッタ時の異常放電を低減させることができ、ポアの含有率が低減された酸化物焼結体を得る観点から好ましい。
【0093】
また、仮焼粉末を形成する工程においてZn
4In
2O
7結晶相を含む仮焼粉末を形成し、これを用いて2次混合物を調製する工程および2次混合物を成形することにより成形体を形成する工程を経る方法によれば、焼結工程を経ても酸化物焼結体中にZn
4In
2O
7結晶相が残りやすく、Zn
4In
2O
7結晶相が高分散された酸化物焼結体を得ることができる。もしくは、第1温度下に成形体を30分間以上置くことにより、高分散のZn
4In
2O
7結晶相を生成させることができる。酸化物焼結体中に高分散されたZn
4In
2O
7結晶相はスパッタ時の異常放電を低減することができる観点から望ましい。
【0094】
酸化物焼結体の製造に用いられるタングステン酸化物粉末は、WO
3結晶相、WO
2結晶相、およびWO
2.72結晶相からなる群より選ばれる少なくとも1種の結晶相を含むことが好ましい。これにより、スパッタ時の異常放電を低減させることができ、ポアの含有率が低減された酸化物焼結体得られやすくなるともに、酸化物焼結体をスパッタターゲットとして用いたスパッタ法によって形成された酸化物半導体膜を含む半導体デバイスを高い温度でアニールしても、電界効果移動度を高く維持する観点から有利となる。この観点からより好ましくは、WO
2.72結晶相である。
【0095】
またタングステン酸化物粉末は、メジアン粒径d50が0.1μm以上4μm以下であることが好ましく、0.2μm以上2μm以下であることがより好ましく、0.3μm以上1.5μm以下であることがさらに好ましい。これにより、酸化物焼結体の見かけ密度および機械的強度を高めることができる。メジアン粒径d50は、BET比表面積測定により求められる。メジアン粒径d50が0.1μmより小さい場合、粉末のハンドリングが困難で、ZnとInとを含む複酸化物粉末とタングステン酸化物粉末とを均一に混合することが難しい傾向にある。メジアン粒径d50が4μmより大きい場合、得られる酸化物焼結体中のポアの含有率を低減させることが難しい傾向にある。
【0096】
本実施形態に係る酸化物焼結体の製造方法は、特に制限はないが、効率よく実施形態1の酸化物焼結体を形成する観点から、たとえば、以下の工程を含む。
【0097】
(1)原料粉末を準備する工程
酸化物焼結体の原料粉末として、インジウム酸化物粉末(たとえばIn
2O
3粉末)、タングステン酸化物粉末(たとえばWO
3粉末、WO
2.72粉末、WO
2粉末)、亜鉛酸化物粉末(たとえばZnO粉末)等、酸化物焼結体を構成する金属元素の酸化物粉末を準備する。酸化物焼結体にジルコニウムを含有させる場合は、原料としてジルコニウム酸化物粉末(例えばZrO
2粉末)を用意する。
【0098】
タングステン酸化物粉末としては、WO
2.72粉末、WO
2粉末のようなWO
3粉末に比べて酸素が欠損した化学組成を有する粉末を用いることが、スパッタ時の異常放電を低減させることができ、ポアの含有率が低減された酸化物焼結体を得ることができるとともに、酸化物焼結体をスパッタターゲットとして用いたスパッタ法によって形成された酸化物半導体膜を含む半導体デバイスを高い温度でアニールしても、電界効果移動度を高く維持する観点から、好ましい。かかる観点から、WO
2.72粉末をタングステン酸化物粉末の少なくとも一部として用いることがより好ましい。原料粉末の純度は、酸化物焼結体への意図しない金属元素およびSiの混入を防止し、酸化物焼結体をスパッタターゲットとして用いたスパッタ法によって形成された酸化物半導体膜を含む半導体デバイスの安定した物性を得る観点から、99.9質量%以上の高純度であることが好ましい。
【0099】
上述のように、タングステン酸化物粉末のメジアン粒径d50は、0.1μm以上4μm以下であることが、良好な見かけ密度および機械的強度を有し、ポアの含有率が低減された酸化物焼結体を得ることができる観点から、好ましい。
【0100】
(2)亜鉛酸化物粉末とインジウム酸化物粉末との1次混合物を調製する工程
上記原料粉末の内、亜鉛酸化物粉末とインジウム酸化物粉末とを混合(または粉砕混合)する。このとき、Zn
4In
2O
7結晶相を含む仮焼粉末を得るためには、インジウム酸化物粉末としてのIn
2O
3粉末と亜鉛酸化物粉末としてのZnO粉末とを、モル比でIn
2O
3:ZnO=1:4となるように混合する。スパッタ時の異常放電を低減させることができ、ポアの含有率が低減された酸化物焼結体を得ることができる観点、および酸化物焼結体をスパッタターゲットとして用いたスパッタ法によって形成された酸化物半導体膜を含む半導体デバイスを高い温度でアニールしても、電界効果移動度を高く維持する観点から、仮焼粉末は、Zn
4In
2O
7結晶相を含むことが好ましい。
【0101】
亜鉛酸化物粉末とインジウム酸化物粉末とを混合する方法に特に制限はなく、乾式および湿式のいずれの方式であってもよく、具体的には、ボールミル、遊星ボールミル、ビーズミル等を用いて粉砕混合される。このようにして、原料粉末の1次混合物が得られる。湿式の粉砕混合方式を用いて得られた混合物の乾燥には、自然乾燥やスプレードライヤのような乾燥方法を用いることができる。
【0102】
(3)ZnとInとを含む複酸化物からなる仮焼粉末を形成する工程
得られた1次混合物を熱処理(仮焼)して、仮焼粉末(ZnとInとを含む複酸化物粉末)を形成する。1次混合物の仮焼温度は、仮焼物の粒径が大きくなりすぎて焼結体中のポアが増加することがないように1300℃未満であることが好ましく、仮焼生成物としてZnとInとを含む複酸化物粉末を得るために、また、Zn
4In
2O
7結晶相を形成ためには550℃以上であることが好ましい。より好ましくは1200℃以上である。仮焼温度は結晶相が形成される温度である限り、仮焼粉の粒径をなるべく小さくできる点から低い方が好ましい。このようにして、Zn
4In
2O
7結晶相を含む仮焼粉末を得ることができる。仮焼雰囲気は、酸素を含む雰囲気であればよいが、大気圧もしくは大気よりも圧力の高い空気雰囲気、または大気圧もしくは大気よりも圧力の高い酸素を25体積%以上含む酸素−窒素混合雰囲気が好ましい。生産性が高いことから、大気圧またはその近傍下での空気雰囲気がより好ましい。
【0103】
(4)仮焼粉末を含む原料粉末の2次混合物を調製する工程
次に、得られた仮焼粉末と、インジウム酸化物粉末(たとえばIn
2O
3粉末)およびタングステン酸化物粉末(例えばWO
2.72粉末)を、1次混合物の調製と同様にして、混合(または粉砕混合)する。このようにして、原料粉末の2次混合物が得られる。亜鉛酸化物は、上記仮焼工程によりインジウムとの複酸化物として存在していることが好ましい。酸化物焼結体にジルコニウムを含有させる場合は、ジルコニウム酸化物粉末(例えばZrO
2粉末)も同時に混合(または粉砕混合)する。
【0104】
この工程において混合する方法に特に制限はなく、乾式および湿式のいずれの方式であってもよく、具体的には、ボールミル、遊星ボールミル、ビーズミル等を用いて粉砕混合される。湿式の粉砕混合方式を用いて得られた混合物の乾燥には、自然乾燥やスプレードライヤのような乾燥方法を用いることができる。
【0105】
(5)2次混合物を成形することにより成形体を形成する工程
次に、得られた2次混合物を成形する。2次混合物を成形する方法に特に制限はないが、酸化物焼結体の見かけ密度を高くする観点から、一軸プレス法、CIP(冷間静水圧処理)法、キャスティング法等が好ましい。
【0106】
(6)成形体を焼結することにより酸化物焼結体を形成する工程(焼結工程)
次に、得られた成形体を焼結して、酸化物焼結体を形成する。この際、ホットプレス焼結法ではスパッタ時の異常放電を低減させることができ、ポアの含有率が低減された酸化物焼結体が得られにくい傾向にある。成形体の焼結温度(上述の第2温度)は、スパッタ時の異常放電を低減させることができ、ポアの含有率が低減された酸化物焼結体を得る観点から、800℃以上1200℃未満であることが好ましい。第2温度は、より好ましくは900℃以上、さらに好ましくは1100℃以上であり、また、より好ましくは1195℃以下であり、さらに好ましくは1190℃以下である。第2温度が800℃以上であることは、酸化物焼結体中のポアを低減させるうえで有利である。第2温度が1200℃未満であることは、酸化物焼結体の変形を抑制し、スパッタターゲットへの適性を維持するうえで有利である。焼結雰囲気は、スパッタ時の異常放電を低減させることができ、ポアの含有率が低減された酸化物焼結体を得る観点から、大気圧またはその近傍下での空気含有雰囲気が好ましい。
【0107】
上述のように、スパッタ時の異常放電を低減させることができ、ポアの含有率が低減された酸化物焼結体を得る観点から、800℃以上1200℃未満の第2温度下に成形体を置くことに先立って、500℃以上1000℃以下の範囲から選ばれる一定の第1温度(第2温度より低い)下に成形体を30分間以上置くことが好ましい。この工程は、焼結工程における昇温過程であることができる。
【0108】
[実施形態3:スパッタターゲット]
本実施形態に係るスパッタターゲットは、実施形態1の酸化物焼結体を含む。したがって、本実施形態に係るスパッタターゲットによれば、スパッタ時の異常放電を低減させることができる。また、本実施形態に係るスパッタターゲットによれば、ポアの含有率が低減されているため、特性に優れた、たとえば、高い温度でアニールしても電界効果移動度を高く維持できる半導体デバイスを提供することができる。
【0109】
スパッタターゲットとは、スパッタ法の原料となるものである。スパッタ法とは、成膜室内にスパッタターゲットと基板とを対向させて配置し、スパッタターゲットに電圧を印加して、希ガスイオンでターゲットの表面をスパッタリングすることにより、ターゲットからターゲットを構成する原子を放出させて基板上に堆積させることによりターゲットを構成する原子で構成される膜を形成する方法をいう。
【0110】
スパッタ法では、スパッタターゲットに印加する電圧を直流電圧とすることがあるが、この場合、スパッタターゲットは導電性を有することが望まれている。スパッタターゲットの電気抵抗が高くなると、直流電圧を印加できずにスパッタ法による成膜(酸化物半導体膜の形成)を実施することができないためである。スパッタターゲットして用いる酸化物焼結体において、その一部に電気抵抗の高い領域が存在し、その領域が広い場合、電気抵抗の高い領域には直流電圧が印加されないため、その領域がスパッタリングされないなどの問題を生じるおそれがある。あるいは、電気抵抗の高い領域でアーキングと呼ばれる異常放電が発生し、成膜が正常に実施されないなどの問題を生じるおそれがある。
【0111】
また、酸化物焼結体中のポアは空孔であり、その空孔には窒素、酸素、二酸化炭素、水分等のガスが含まれている。このような酸化物焼結体をスパッタターゲットとして用いる場合、酸化物焼結体中のポアから上記ガスが放出されるため、スパッタリング装置の真空度を悪化させ、得られる酸化物半導体膜の特性を劣化させる。あるいは、ポアの端から異常放電が発生することもある。このため、ポアの少ない酸化物焼結体はスパッタターゲットして用いるのに好適である。
【0112】
本実施形態に係るスパッタターゲットは、高い温度でアニールしても電界効果移動度を高く維持できる半導体デバイスの酸化物半導体膜をスパッタ法で形成するために好適に用いられるものとするために、実施形態1の酸化物焼結体を含むことが好ましく、実施形態1の酸化物焼結体からなることがより好ましい。
【0113】
[実施形態4:半導体デバイスおよびその製造方法]
図1A及び
図1Bを参照して、本実施形態に係る半導体デバイス10は、実施形態3のスパッタターゲット用いてスパッタ法により形成した酸化物半導体膜14を含む。かかる酸化物半導体膜14を含むため、本実施形態に係る半導体デバイスは、高い温度でアニールしても電界効果移動度を高く維持できるという特性を有することができる。
【0114】
本実施形態に係る半導体デバイス10は、特に限定はされないが、たとえば、高い温度でアニールしても電界効果移動度を高く維持できることから、TFT(薄膜トランジスタ)であることが好ましい。TFTが有する酸化物半導体膜14は、高い温度でアニールしても電界効果移動度を高く維持できることから、チャネル層であることが好ましい。
【0115】
酸化物半導体14は、ジルコニウム(Zr)をさらに含有していてもよい。その含有率は、たとえば1×10
17atms/cm
3以上1×10
20atms/cm
3以下である。Zrは、酸化物焼結体に含まれ得る元素である。Zrを含有する酸化物焼結体を原料として成膜される酸化物半導体膜14はZrを含有する。Zrの存在は、高い温度でアニールしても電界効果移動度を高く維持できる観点から好ましい。Zrの存在およびその含有率は、二次イオン質量分析計にて確認することができる。
【0116】
本実施形態の半導体デバイスにおいて酸化物半導体膜14は、電気抵抗率が好ましくは10
−1Ωcm以上である。これまでインジウム酸化物を用いた透明導電膜が多く検討されているが、透明導電膜の用途では、電気抵抗率が10
−1Ωcmより小さいことが求められている。一方、本実施形態の半導体デバイスが有する酸化物半導体膜14は電気抵抗率が10
−1Ωcm以上であることが好ましく、これにより、半導体デバイスのチャネル層として好適に用いることができる。電気抵抗率が10
−1Ωcmより小さい場合、半導体デバイスのチャネル層として用いることが困難である。
【0117】
酸化物半導体膜14は、スパッタ法により成膜する工程を含む製造方法によって得ることができる。スパッタ法の意味については上述のとおりである。
【0118】
スパッタ法としては、マグネトロンスパッタリング法、対向ターゲット型マグネトロンスパッタリング法などを用いることができる。スパッタ時の雰囲気ガスとして、Arガス、Krガス、Xeガスを用いることができ、これらのガスとともに酸素ガスを混合して用いることもできる。
【0119】
また、酸化物半導体膜14は、スパッタ法による成膜後に加熱処理(アニール)されることが好ましい。この方法により得られる酸化物半導体膜14は、これをチャネル層として含む半導体デバイス(たとえばTFT)において、高い温度でアニールしても電界効果移動度を高く維持できる観点から有利である。
【0120】
スパッタリング法による成膜後に実施する加熱処理は、半導体デバイスを加熱することによって実施できる。半導体デバイスとして用いる場合に高い特性を得るためには、加熱処理を行うことが好ましい。この場合、酸化物半導体膜14を形成した直後に加熱処理を行ってもよいし、ソース電極、ドレイン電極、エッチストッパ層(ES層)、パシベーション膜などを形成した後に加熱処理を行ってもよい。半導体デバイスとして用いる場合に高い特性を得るためには、エッチストッパ層を形成した後に加熱処理を行うことがより好ましい。
【0121】
酸化物半導体膜14を形成した後に加熱処理を行う場合において、基板温度は、好ましくは100℃以上500℃以下である。加熱処理の雰囲気は、大気中、窒素ガス中、窒素ガス−酸素ガス中、Arガス中、Ar−酸素ガス中、水蒸気含有大気中、水蒸気含有窒素中など、各種雰囲気であってよい。雰囲気圧力は、大気圧のほか、減圧条件下(たとえば0.1Pa未満)、加圧条件下(たとえば0.1Pa〜9MPa)であることができるが、好ましくは大気圧である。加熱処理の時間は、たとえば3分〜2時間程度であることができ、好ましくは10分〜90分程度である。
【0122】
半導体デバイスとして用いる場合により高い特性(例えば、信頼性)を得るためには、加熱処理温度は高い方が望ましい。しかし、加熱処理温度を高めるとIn−Ga−Zn−O系の酸化物半導体膜では電界効果移動度が低下してしまう。実施形態1に係る酸化物焼結体をスパッタターゲットとして用いるスパッタ法にて得られた酸化物半導体膜14は、これをチャネル層として含む半導体デバイス(たとえばTFT)において、高い温度でアニールしても電界効果移動度を高く維持できる観点から有利である。
【0123】
図1A、
図1B、
図2および
図3は、本実施形態に係る半導体デバイス(TFT)のいくつかの例を示す概略図である。
図1A及び
図1Bに示される半導体デバイス10は、基板11と、基板11上に配置されたゲート電極12と、ゲート電極12上に絶縁層として配置されたゲート絶縁膜13と、ゲート絶縁膜13上にチャネル層として配置された酸化物半導体膜14と、酸化物半導体膜14上に互いに接触しないように配置されたソース電極15およびドレイン電極16と、を含む。
【0124】
図2に示される半導体デバイス20は、ゲート絶縁膜13および酸化物半導体膜14上に配置され、コンタクトホールを有するエッチストッパ層17と、エッチストッパ層17、ソース電極15およびドレイン電極16上に配置されるパシベーション膜18とをさらに含むこと以外は、
図1A及び
図1Bに示される半導体デバイス10と同様の構成を有する。
図2に示される半導体デバイス20において、
図1A及び
図1Bに示される半導体デバイス10のように、パシベーション膜18を省略することもできる。
図3に示される半導体デバイス30は、ゲート絶縁膜13、ソース電極15およびドレイン電極16上に配置されるパシベーション膜18をさらに含むこと以外は、
図1A及び
図1Bに示される半導体デバイス10と同様の構成を有する。
【0125】
次に、本実施形態に係る半導体デバイスの製造方法の一例説明する。半導体デバイスの製造方法は、上記実施形態のスパッタターゲットを用意する工程と、該スパッタターゲットを用いてスパッタ法により上記酸化物半導体膜を形成する工程とを含む。まず、
図1A及び
図1Bに示される半導体デバイス10の製造方法について説明すると、この製造方法は、特に制限されないが、効率よく高特性の半導体デバイス10を製造する観点から、
図4A〜
図4Dを参照して、基板11上にゲート電極12を形成する工程(
図4A)と、ゲート電極12および基板11上に絶縁層としてゲート絶縁膜13を形成する工程(
図4B)と、ゲート絶縁膜13上にチャネル層として酸化物半導体膜14を形成する工程(
図4C)と、酸化物半導体膜14上にソース電極15およびドレイン電極16を互いに接触しないように形成する工程(
図4D)と、を含むことが好ましい。
【0126】
(1)ゲート電極を形成する工程
図4Aを参照して、基板11上にゲート電極12を形成する。基板11は、特に制限されないが、透明性、価格安定性、および表面平滑性を高くする観点から、石英ガラス基板、無アルカリガラス基板、アルカリガラス基板等であることが好ましい。ゲート電極12は、特に制限されないが、耐酸化性が高くかつ電気抵抗が低い点から、Mo電極、Ti電極、W電極、Al電極、Cu電極等であることが好ましい。ゲート電極12の形成方法は、特に制限されないが、基板11の主面上に大面積で均一に形成できる点から、真空蒸着法、スパッタ法等であることが好ましい。
図4Aに示されるように、基板11の表面上に部分的にゲート電極12を形成する場合には、フォトレジストを使ったエッチング法を用いることができる。
【0127】
(2)ゲート絶縁膜を形成する工程
図4Bを参照して、ゲート電極12および基板11上に絶縁層としてゲート絶縁膜13を形成する。ゲート絶縁膜13の形成方法は、特に制限はないが、大面積で均一に形成できる点および絶縁性を確保する点から、プラズマCVD(化学気相堆積)法等であることが好ましい。
【0128】
ゲート絶縁膜13の材質は、特に制限されないが、絶縁性の観点からは、酸化シリコン(SiO
x)、窒化シリコン(SiN
y)等であることが好ましい。
【0129】
(3)酸化物半導体膜を形成する工程
図4Cを参照して、ゲート絶縁膜13上にチャネル層として酸化物半導体膜14を形成する。上述のように、酸化物半導体膜14は、スパッタ法により成膜する工程を含んで形成される。スパッタ法の原料ターゲット(スパッタターゲット)としては、上記実施形態1の酸化物焼結体を用いる。
【0130】
半導体デバイスとして用いる場合に高い特性(例えば、信頼性)を得るために、スパッタ法による成膜の後に加熱処理(アニール)を行うことが好ましい。この場合、酸化物半導体膜14を形成した直後に加熱処理を行ってもよいし、ソース電極15、ドレイン電極16、エッチストッパ層17、パシベーション膜18などを形成した後に加熱処理を行ってもよい。半導体デバイスとして用いる場合に高い特性(例えば、信頼性)を得るためには、エッチストッパ層17を形成した後に加熱処理を行うことがより好ましい。エッチストッパ層17を形成した後に加熱処理を行う場合、この加熱処理は、ソース電極15、ドレイン電極16形成前であっても後であってもよいが、パシベーション膜18を形成する前であることが好ましい。
【0131】
(4)ソース電極およびドレイン電極を形成する工程
図4Dを参照して、酸化物半導体膜14上にソース電極15およびドレイン電極16を互いに接触しないように形成する。ソース電極15およびドレイン電極16は、特に制限はないが、耐酸化性が高く、電気抵抗が低く、かつ酸化物半導体膜14との接触電気抵抗が低いことから、Mo電極、Ti電極、W電極、Al電極、Cu電極等であることが好ましい。ソース電極15およびドレイン電極16を形成する方法は、特に制限はないが、酸化物半導体膜14が形成された基板11の主面上に大面積で均一に形成できる点から、真空蒸着法、スパッタリング法等であることが好ましい。ソース電極15およびドレイン電極16を互いに接触しないように形成する方法は、特に制限はないが、大面積で均一なソース電極15とドレイン電極16のパターンを形成できる点から、フォトレジストを使ったエッチング法による形成であることが好ましい。
【0132】
次に、
図2に示される半導体デバイス20の製造方法について説明すると、この製造方法は、コンタクトホール17aを有するエッチストッパ層17を形成する工程およびパシベーション膜18を形成する工程をさらに含むこと以外は
図1Aおよび
図1Bに示される半導体デバイス10の製造方法と同様であることができ、具体的には、
図4A〜
図4Dおよび
図5A〜
図5Dを参照して、基板11上にゲート電極12を形成する工程(
図4A)と、ゲート電極12および基板11上に絶縁層としてゲート絶縁膜13を形成する工程(
図4B)と、ゲート絶縁膜13上にチャネル層として酸化物半導体膜14を形成する工程(
図4C)と、酸化物半導体膜14およびゲート絶縁膜13上にエッチストッパ層17を形成する工程(
図5A)と、エッチストッパ層17にコンタクトホール17aを形成する工程(
図5B)と、酸化物半導体膜14およびエッチストッパ層17上にソース電極15およびドレイン電極16を互いに接触しないように形成する工程(
図5C)と、エッチストッパ層17、ソース電極15およびドレイン電極16上にパシベーション膜18を形成する工程(
図5D)を含むことが好ましい。
【0133】
エッチストッパ層17の材質は、特に制限されないが、絶縁性の観点からは、酸化シリコン(SiO
x)、窒化シリコン(SiN
y)、酸化アルミニウム(Al
mO
n)等であることが好ましい。エッチストッパ層17は、異なる材質からなる膜の組み合わせであってもよい。エッチストッパ層17の形成方法は、特に制限はないが、大面積で均一に形成できる点および絶縁性を確保する点から、プラズマCVD(化学気相堆積)法、スパッタ法、真空蒸着法等であることが好ましい。
【0134】
ソース電極15、ドレイン電極16は、酸化物半導体膜14に接触させる必要があることから、エッチストッパ層17を酸化物半導体膜14上に形成した後、エッチストッパ層17にコンタクトホール17aを形成する(
図5B)。コンタクトホール17aの形成方法としては、ドライエッチングまたはウェットエッチングを挙げることができる。当該方法によりエッチストッパ層17をエッチングしてコンタクトホール17aを形成することで、エッチング部において酸化物半導体膜14の表面を露出させる。
【0135】
図2に示される半導体デバイス20の製造方法においては、
図1Aおよび
図1Bに示される半導体デバイス10の製造方法と同様にして、酸化物半導体膜14およびエッチストッパ層17上にソース電極15およびドレイン電極16を互いに接触しないように形成した後(
図5C)、エッチストッパ層17、ソース電極15およびドレイン電極16上にパシベーション膜18を形成する(
図5D)。
【0136】
パシベーション膜18の材質は、特に制限されないが、絶縁性の観点からは、酸化シリコン(SiO
x)、窒化シリコン(SiN
y)、酸化アルミニウム(Al
mO
n)等であることが好ましい。パシベーション膜18は、異なる材質からなる膜の組み合わせであってもよい。パシベーション膜18の形成方法は、特に制限はないが、大面積で均一に形成できる点および絶縁性を確保する点から、プラズマCVD(化学気相堆積)法、スパッタ法、真空蒸着法等であることが好ましい。
【0137】
また、
図3に示される半導体デバイス30のように、エッチストッパ層17を形成することなくバックチャネルエッチ(BCE)構造を採用し、ゲート絶縁膜13、酸化物半導体膜14、ソース電極15およびドレイン電極16の上に、パシベーション膜18を直接形成してもよい。この場合におけるパシベーション膜18については、
図2に示される半導体デバイス20が有するパシベーション膜18についての上の記述が引用される。
【0138】
(5)その他の工程
最後に、加熱処理(アニール)を施す。加熱処理は基板に形成された半導体デバイスを加熱することによって実施できる。
【0139】
加熱処理における半導体デバイスの温度は、好ましくは100℃以上500℃以下であり、より好ましくは400℃より大きい。加熱処理の雰囲気は、大気中、窒素ガス中、窒素ガス−酸素ガス中、Arガス中、Ar−酸素ガス中、水蒸気含有大気中、水蒸気含有窒素中など、各種雰囲気であってよい。好ましくは、窒素、Arガス中などの不活性雰囲気である。雰囲気圧力は、大気圧のほか、減圧条件下(たとえば0.1Pa未満)、加圧条件下(たとえば0.1Pa〜9MPa)であることができるが、好ましくは大気圧である。加熱処理の時間は、たとえば3分〜2時間程度であることができ、好ましくは10分〜90分程度である。
【0140】
半導体デバイスとして用いる場合により高い特性(例えば、信頼性)を得るためには、加熱処理温度は高い方が望ましい。しかし、加熱処理温度を高めるとIn−Ga−Zn−O系の酸化物半導体膜では電界効果移動度が低下してしまう。実施形態1に係る酸化物焼結体をスパッタターゲットとして用いるスパッタ法にて得られた酸化物半導体膜14は、これをチャネル層として含む半導体デバイス(たとえばTFT)において、高い温度でアニールしても電界効果移動度を高く維持できる観点から有利である。
【実施例】
【0141】
以下において、実施例1、5、9〜11、17〜25は、それぞれ参考例1〜14と読み替えるものとする。
<実施例1〜実施例22>
(1)酸化物焼結体の作製
(1−1)原料粉末の準備
表1に示す組成(表1の「W粉末」の欄に記載)とメジアン粒径d50(表1の「W粒径」の欄に記載)を有し、純度が99.99質量%のタングステン酸化物粉末(表1において「W」と表記した。)と、メジアン粒径d50が1.0μmで純度が99.99質量%のZnO粉末(表1において「Z」と表記した。)と、メジアン粒径d50が1.0μmで純度が99.99質量%のIn
2O
3粉末(表1において「I」と表記した。)と、メジアン粒径d50が1.0μmで純度が99.99質量%のZrO
2粉末(表1において「R」と表記した。)とを準備した。
【0142】
(1−2)原料粉末の混合物の調製
準備した原料粉末であるIn
2O
3粉末、ZnO粉末、タングステン酸化物粉末およびZrO
2粉末をポットへ投入し、さらに粉砕混合ボールミルに入れて12時間粉砕混合することにより原料粉末の混合物を調製した。原料粉末の混合比は、混合物中のIn、Zn、WおよびZrのモル比が表1に示されるとおりとなるようにした。粉砕混合の際、分散媒として純水を用いた。得られた混合粉末はスプレードライで乾燥させた。
【0143】
(1−3)混合物の成形による成形体の形成
次に、得られた混合物をプレスにより成形し、さらにCIPにより室温(5℃〜30℃)の静水中、190MPaの圧力で加圧成形して、直径100mmで厚み約9mmの円板状の成形体を得た。
【0144】
(1−4)成形体の焼結による酸化物焼結体の形成(焼結工程)
次に、得られた成形体を大気圧下、空気雰囲気中にて表1に示す焼結温度(第2温度)で8時間焼結して、In
2O
3結晶相、Zn
4In
2O
7結晶相およびZnWO
4結晶相を含む酸化物焼結体を得た。当該焼結工程における昇温過程での保持温度(第1温度)および保持時間を表1に示す。
【0145】
(2)酸化物焼結体の物性評価
(2−1)In
2O
3結晶相、Zn
4In
2O
7結晶相およびZnWO
4結晶相の同定
得られた酸化物焼結体の最表面から深さ2mm以上の部分からサンプルを採取して、X線回折法による結晶解析を行った。X線回折の測定条件は以下のとおりとした。
【0146】
(X線回折の測定条件)
θ−2θ法、
X線源:Cu Kα線、
X線管球電圧:45kV、
X線管球電流:40mA、
ステップ幅:0.02deg.、
ステップ時間:1秒/ステップ、
測定範囲2θ:10deg.〜80deg.。
【0147】
回折ピークの同定を行い、実施例1〜実施例22の酸化物焼結体が、In
2O
3結晶相、Zn
4In
2O
7結晶相およびZnWO
4結晶相の全ての結晶相を含むことを確認した。
【0148】
(2−2)In
2O
3結晶相に由来するX線回折のピーク位置
上記(2−1)のX線回折測定から、In
2O
3結晶相に由来するX線回折のピーク位置の2θの値を得た。結果を表2の「I角度」の欄に示す。実施例1〜実施例22の酸化物焼結体は、In
2O
3結晶相に由来するX線回折のピーク位置の2θが50.70deg.より大きく51.04deg.より小さかった。
【0149】
(2−3)Zn
4In
2O
7結晶相のC面の格子定数
上記(2−1)のX線回折測定から、Zn
4In
2O
7結晶相のC面の格子定数の値を得た。Zn
4In
2O
7結晶相のC面からの回折ピークは、2θ=31.5°以上32.8°未満の範囲に現れ得る。最大ピーク位置の2θから、2dsinθ=λ(Braggの式)を用いてC面の格子定数を算出した。λはX線の波長である。結果を表2の「C面」の欄に示す。実施例1〜実施例22の酸化物焼結体は、Zn
4In
2O
7結晶相のC面の格子定数が33.53Å以上34.00Å以下であった。
【0150】
(2−4)各結晶相の含有率
上記(2−1)のX線回折測定に基づくRIR法により、In
2O
3結晶相(I結晶相)、Zn
4In
2O
7結晶相(IZ結晶相)およびZnWO
4結晶相(ZW結晶相)の含有率(質量%)を定量した。結果をそれぞれ表2の「結晶相含有率」「I」、「IZ」、「ZW」の欄に示す。
【0151】
(2−5)酸化物焼結体中の元素含有率
酸化物焼結体中のIn、Zn、WおよびZrの含有率を、ICP発光分析法により測定した。また、得られたZn含有率およびW含有率から、Zn/W比(W含有率に対するZn含有率の比)を算出した。結果をそれぞれ表2の「元素含有率」「In」、「Zn」、「W」、「Zr」、「Zn/W比」の欄に示す。In含有率、Zn含有率、W含有率の単位は原子%であり、Zr含有率の単位は、原子数を基準としたppmであり、Zn/W比は原子数比である。
【0152】
(2−6)酸化物焼結体中のポアの含有率
焼結直後の酸化物焼結体の最表面から深さ2mm以上の部分からサンプルを採取した。採取したサンプルを平面研削盤で研削した後、ラップ盤で表面を研磨し、最後にクロスセクションポリッシャーで更に研磨を行い、SEM観察に供した。500倍の視野で反射電子像にて観察するとポアが黒く確認できる。画像を二値化し、像全体に対する黒い部分の面積割合を算出した。500倍の視野を、領域が重ならないよう3つ選択し、これらについて算出した上記面積割合の平均値を「ポアの含有率」(面積%)とした。結果を表2の「ポアの含有率」の欄に示す。
【0153】
(3)スパッタターゲットの作製
得られた酸化物焼結体を、直径3インチ(76.2mm)×厚さ6mmに加工した後、銅のバッキングプレートにインジウム金属を用いて貼り付けた。
【0154】
(4)酸化物半導体膜を備える半導体デバイス(TFT)の作製と評価
(4−1)スパッタ時のアーキング回数の計測
作製したスパッタターゲットをスパッタリング装置の成膜室内に設置した。スパッタターゲットは、銅のバッキングプレートを介して水冷されている。成膜室内を6×10
−5Pa程度の真空度として、ターゲットを次のようにしてスパッタリングした。
【0155】
成膜室内へAr(アルゴン)ガスのみを0.5Paの圧力まで導入した。ターゲットに450WのDC電力を印加してスパッタリング放電を起こし、60分間保持した。継続して30分間スパッタリング放電を起こした。DC電源に付帯しているアークカウンター(アーキング回数計測器)を用いて、アーキング回数を測定した。表2に実施例と比較例のアーク回数を示す。結果を表3の「アーキング回数」の欄に示す。
【0156】
(4−2)酸化物半導体膜を備える半導体デバイス(TFT)の作製
次の手順で
図3に示される半導体デバイス30と類似の構成を有するTFTを作製した。
図4Aを参照して、まず、基板11として50mm×50mm×厚み0.6mmの合成石英ガラス基板を準備し、その基板11上にスパッタ法によりゲート電極12として厚み100nmのMo電極を形成した。次いで、
図4Aに示されるように、フォトレジストを使ったエッチングによりゲート電極12を所定の形状とした。
【0157】
図4Bを参照して、次に、ゲート電極12および基板11上にプラズマCVD法によりゲート絶縁膜13として、厚み200nmのSiO
x膜を形成した。
【0158】
図4Cを参照して、次に、ゲート絶縁膜13上に、DC(直流)マグネトロンスパッタリング法により、厚み30nmの酸化物半導体膜14を形成した。ターゲットの直径3インチ(76.2mm)の平面がスパッタ面であった。用いたターゲットとして、上記(1)で得られた酸化物焼結体を使用した。
【0159】
酸化物半導体膜14の形成についてより具体的に説明すると、スパッタリング装置(図示せず)の成膜室内の水冷されている基板ホルダ上に、上記ゲート電極12およびゲート絶縁膜13が形成された基板11をゲート絶縁膜13が露出されるように配置した。上記ターゲットをゲート絶縁膜13に対向するように90mmの距離で配置した。成膜室内を6×10
−5Pa程度の真空度として、ターゲットを次のようにしてスパッタリングした。
【0160】
まず、ゲート絶縁膜13とターゲットとの間にシャッターを入れた状態で、成膜室内へAr(アルゴン)ガスとO
2(酸素)ガスとの混合ガスを0.5Paの圧力まで導入した。混合ガス中のO
2ガス含有率は20体積%であった。スパッタターゲットにDC電力450Wを印加してスパッタリング放電を起こし、これによってターゲット表面のクリーニング(プレスパッタ)を5分間行った。
【0161】
次いで、上記と同じターゲットに上記と同じ値のDC電力を印加して、成膜室内の雰囲気をそのまま維持した状態で、上記シャッターを外すことにより、ゲート絶縁膜13上に酸化物半導体膜14を成膜した。なお、基板ホルダに対しては、特にバイアス電圧は印加しなかった。また、基板ホルダを水冷した。
【0162】
以上のようにして、上記(1)で得られた酸化物焼結体から加工されたターゲットを用いたDC(直流)マグネトロンスパッタリング法により酸化物半導体膜14を形成した。酸化物半導体膜14は、TFTにおいてチャネル層として機能する。酸化物半導体膜14の膜厚は30nmとした(他の実施例、比較例についても同じ)。
【0163】
次に、形成された酸化物半導体膜14の一部をエッチングすることにより、ソース電極形成用部14s、ドレイン電極形成用部14d、およびチャネル部14cを形成した。ソース電極形成用部14sおよびドレイン電極形成用部14dの主面の大きさは50μm×50μm、チャネル長さC
L(
図1Aおよび
図1Bを参照して、チャネル長さC
Lとは、ソース電極15とドレイン電極16との間のチャネル部14cの距離をいう。)は30μm、チャネル幅C
W(
図1Aおよび
図1Bを参照して、チャネル幅C
Wとは、チャネル部14cの幅をいう。)は40μmとした。チャネル部14cは、TFTが75mm×75mmの基板主面内に3mm間隔で縦25個×横25個配置されるように、75mm×75mmの基板主面内に3mm間隔で縦25個×横25個配置した。
【0164】
酸化物半導体膜14の一部のエッチングは、体積比でシュウ酸:水=5:95であるエッチング水溶液を調製し、ゲート電極12、ゲート絶縁膜13および酸化物半導体膜14がこの順に形成された基板11を、そのエッチング水溶液に40℃で浸漬することにより行った。
【0165】
図4Dを参照して、次に、酸化物半導体膜14上にソース電極15およびドレイン電極16を互いに分離して形成した。
【0166】
具体的にはまず、酸化物半導体膜14のソース電極形成用部14sおよびドレイン電極形成用部14dの主面のみが露出するように、酸化物半導体膜14上にレジスト(図示せず)を塗布、露光および現像した。次いでスパッタ法により、酸化物半導体膜14のソース電極形成用部14sおよびドレイン電極形成用部14dの主面上に、それぞれソース電極15、ドレイン電極16である厚み100nmのMo電極を形成した。その後、酸化物半導体膜14上のレジストを剥離した。ソース電極15としてのMo電極およびドレイン電極16としてのMo電極はそれぞれ、TFTが75mm×75mmの基板主面内に3mm間隔で縦25個×横25個配置されるように、一つのチャネル部14cに対して1つずつ配置した。
【0167】
図3を参照して、次に、ゲート絶縁膜13、酸化物半導体膜14、ソース電極15およびドレイン電極16の上にパシベーション膜18を形成した。パシベーション膜18は、厚み200nmのSiO
x膜をプラズマCVD法により形成した後、その上に厚み200nmのSiN
y膜をプラズマCVD法により形成した。SiO
x膜の原子組成比は、Si:O=1:2により近い酸素含有量であることが信頼性向上の観点から望ましい。
【0168】
次に、ソース電極15、ドレイン電極16上のパシベーション膜18を反応性イオンエッチングによりエッチングしてコンタクトホールを形成することによってソース電極15、ドレイン電極16の表面の一部を露出させた。
【0169】
最後に、大気圧窒素雰囲気中で加熱処理(アニール)を実施した。この加熱処理は、すべての実施例および比較例について行い、具体的には、窒素雰囲気中350℃60分間、もしくは窒素雰囲気中450℃60分間の加熱処理(アニール)を実施した。以上により、酸化物半導体膜14をチャネル層として備えるTFTを得た。
【0170】
(4−3)半導体デバイスの特性評価
半導体デバイス10であるTFTの特性を次のようにして評価した。まず、ゲート電極12、ソース電極15およびドレイン電極16に測定針を接触させた。ソース電極15とドレイン電極16との間に0.2Vのソース−ドレイン間電圧V
dsを印加し、ソース電極15とゲート電極12との間に印加するソース−ゲート間電圧V
gsを−10Vから15Vに変化させて、そのときのソース−ドレイン間電流I
dsを測定した。そして、ソース−ゲート間電圧V
gsを横軸に、I
dsを縦軸にしてグラフを作成した。
【0171】
下記式〔a〕:
g
m=dI
ds/dV
gs 〔a〕
に従って、ソース−ドレイン間電流I
dsをソース−ゲート間電圧V
gsについて微分することによりg
mを導出した。そしてV
gs=10.0Vにおけるg
mの値を用いて、下記式〔b〕:
μ
fe=g
m・C
L/(C
W・C
i・V
ds) 〔b〕
に基づいて、電界効果移動度μ
feを算出した。上記式〔b〕におけるチャネル長さC
Lは30μmであり、チャネル幅C
Wは40μmである。また、ゲート絶縁膜13のキャパシタンスC
iは3.4×10
−8F/cm
2とし、ソース−ドレイン間電圧V
dsは0.2Vとした。
【0172】
大気圧窒素雰囲気中350℃60分間の加熱処理(アニール)を実施した後の電界効果移動度μ
feを、表3の「移動度(350℃)」の欄に示している。大気圧窒素雰囲気中450℃10分間の加熱処理(アニール)を実施した後の電界効果移動度μ
feを、表3の「移動度(450℃)」の欄に示している。また、350℃の加熱処理を行った後の電界効果移動度に対する450℃の加熱処理を行った後の電界効果移動度の比(移動度(450℃)/移動度(350℃))を表3の「移動度比」の欄に示している。
【0173】
<実施例23〜実施例25>
(1)酸化物焼結体の作製
(1−1)原料粉末の準備
表1に示す組成(表1の「W粉末」の欄に記載)とメジアン粒径d50(表1の「W粒径」の欄に記載)を有し、純度が99.99質量%のタングステン酸化物粉末(表1において「W」と表記した。)と、メジアン粒径d50が1.0μmで純度が99.99質量%のZnO粉末(表1において「Z」と表記した。)と、メジアン粒径d50が1.0μmで純度が99.99質量%のIn
2O
3粉末(表1において「I」と表記した。)と、メジアン粒径d50が1.0μmで純度が99.99質量%のZrO
2粉末(表1において「R」と表記した。)とを準備した。
【0174】
(1−2)原料粉末の1次混合物の調製
まず、ボールミルに、準備した原料粉末の内、In
2O
3粉末とZnO粉末とを入れて、18時間粉砕混合することにより原料粉末の1次混合物を調製した。In
2O
3粉末とZnO粉末とのモル混合比率は、およそIn
2O
3粉末:ZnO粉末=1:4とした。粉砕混合の際、分散媒としてエタノールを用いた。得られた原料粉末の1次混合物は大気中で乾燥させた。
【0175】
(1−3)1次混合物の熱処理による仮焼粉末の形成
次に、得られた原料粉末の1次混合物をアルミナ製坩堝に入れて、空気雰囲気中、表1に示す仮焼温度で8時間仮焼し、Zn
4In
2O
7結晶相で構成された仮焼粉末を得た。Zn
4In
2O
7結晶相の同定は、X線回折測定により行った。
【0176】
(1−4)仮焼粉末を含む原料粉末の2次混合物の調製
次に、得られた仮焼粉末を、準備した残りの原料粉末であるIn
2O
3粉末、タングステン酸化物粉末およびZrO
2粉末とともにポットへ投入し、さらに粉砕混合ボールミルに入れて12時間粉砕混合することにより原料粉末の2次混合物を調製した。原料粉末の混合比は、混合物中のIn、Zn、WおよびZrのモル比が表1に示されるとおりとなるようにした。粉砕混合の際、分散媒として純水を用いた。得られた混合粉末はスプレードライで乾燥させた。
【0177】
(1−5)酸化物焼結体の形成
上記(1−4)で得られた2次混合物を用いたこと以外は<実施例1〜22>(1〜3)〜(1〜4)と同様にして酸化物焼結体を得た。
【0178】
(2)酸化物焼結体の物性評価、スパッタターゲットの作製、酸化物半導体膜を備える半導体デバイス(TFT)の作製と評価
<実施例1〜22>と同様にして、酸化物焼結体の物性評価、スパッタターゲットの作製、酸化物半導体膜を備える半導体デバイス(TFT)の作製と評価を行った。結果を表2および表3に示す。
【0179】
<比較例1>
(1−1)原料粉末の準備
表1に示す組成(表1の「W粉末」の欄に記載)とメジアン粒径d50(表1の「W粒径」の欄に記載)を有し、純度が99.99質量%のタングステン酸化物粉末(表1において「W」と表記した。)と、メジアン粒径d50が1.0μmで純度が99.99質量%のZnO粉末(表1において「Z」と表記した。)と、メジアン粒径d50が1.0μmで純度が99.99質量%のIn
2O
3粉末(表1において「I」と表記した。)と、メジアン粒径d50が1.0μmで純度が99.99質量%のZrO
2粉末(表1において「R」と表記した。)とを準備した。
【0180】
(1−2)原料粉末の1次混合物の調製
まず、ボールミルに、準備した原料粉末の内、ZnO粉末とWO
3粉末とを入れて、18時間粉砕混合することにより原料粉末の1次混合物を調製した。ZnO粉末とWO
3粉末とのモル混合比率は、およそZnO粉末:WO
3粉末=1:1とした。粉砕混合の際、分散媒としてエタノールを用いた。得られた原料粉末の1次混合物は大気中で乾燥させた。
【0181】
(1−3)1次混合物の熱処理による仮焼粉末の形成
次に、得られた原料粉末の1次混合物をアルミナ製坩堝に入れて、空気雰囲気中、表1に示す仮焼温度で8時間仮焼し、ZnWO
4結晶相で構成された仮焼粉末を得た。ZnWO
4結晶相の同定は、X線回折測定により行った。
【0182】
(1−4)仮焼粉末を含む原料粉末の2次混合物の調製
次に、得られた仮焼粉末を、準備した残りの原料粉末であるIn
2O
3粉末、ZnO粉末およびZrO
2粉末とともにポットへ投入し、さらに粉砕混合ボールミルに入れて12時間粉砕混合することにより原料粉末の2次混合物を調製した。原料粉末の混合比は、混合物中のIn、Zn、WおよびZrのモル比が表1に示されるとおりとなるようにした。粉砕混合の際、分散媒として純水を用いた。得られた混合粉末はスプレードライで乾燥させた。
【0183】
(1−5)酸化物焼結体の形成
上記(1−4)で得られた2次混合物を用いたこと、および焼結工程において昇温過程を設けなかったこと以外は<実施例1〜22>(1〜3)〜(1〜4)と同様にして酸化物焼結体を得た。
【0184】
(2)酸化物焼結体の物性評価、スパッタターゲットの作製、酸化物半導体膜を備える半導体デバイス(TFT)の作製と評価
<実施例1〜22>と同様にして、酸化物焼結体の物性評価、スパッタターゲットの作製、酸化物半導体膜を備える半導体デバイス(TFT)の作製と評価を行った。結果を表2および表3に示す。比較例1の酸化物焼結体では、Zn
4In
2O
7結晶相の存在が認められなかった。
【0185】
<比較例2>
(1−1)原料粉末の準備
表1に示す組成(表1の「W粉末」の欄に記載)とメジアン粒径d50(表1の「W粒径」の欄に記載)を有し、純度が99.99質量%のタングステン酸化物粉末(表1において「W」と表記した。)と、メジアン粒径d50が1.0μmで純度が99.99質量%のZnO粉末(表1において「Z」と表記した。)と、メジアン粒径d50が1.0μmで純度が99.99質量%のIn
2O
3粉末(表1において「I」と表記した。)と、メジアン粒径d50が1.0μmで純度が99.99質量%のZrO
2粉末(表1において「R」と表記した。)とを準備した。
【0186】
(1−2)原料粉末の1次混合物の調製
まず、ボールミルに、準備した原料粉末の内、In
2O
3粉末とWO
3粉末とを入れて、18時間粉砕混合することにより原料粉末の1次混合物を調製した。In
2O
3粉末とWO
3粉末とのモル混合比率は、およそIn
2O
3粉末:WO
3粉末=1:12とした。粉砕混合の際、分散媒としてエタノールを用いた。得られた原料粉末の1次混合物は大気中で乾燥させた。
【0187】
(1−3)1次混合物の熱処理による仮焼粉末の形成
次に、得られた原料粉末の1次混合物をアルミナ製坩堝に入れて、空気雰囲気中、表1に示す仮焼温度で8時間仮焼し、InW
6O
12結晶相で構成された仮焼粉末を得た。InW
6O
12結晶相の同定は、X線回折測定により行った。
【0188】
(1−4)仮焼粉末を含む原料粉末の2次混合物の調製
次に、得られた仮焼粉末を、準備した残りの原料粉末であるIn
2O
3粉末、ZnO粉末およびZrO
2粉末とともにポットへ投入し、さらに粉砕混合ボールミルに入れて12時間粉砕混合することにより原料粉末の2次混合物を調製した。原料粉末の混合比は、混合物中のIn、Zn、WおよびZrのモル比が表1に示されるとおりとなるようにした。粉砕混合の際、分散媒として純水を用いた。得られた混合粉末はスプレードライで乾燥させた。
【0189】
(1−5)酸化物焼結体の形成
上記(1−4)で得られた2次混合物を用いたこと、および焼結工程において昇温過程を設けなかったこと以外は<実施例1〜22>(1〜3)〜(1〜4)と同様にして酸化物焼結体を得た。
【0190】
(2)酸化物焼結体の物性評価、スパッタターゲットの作製、酸化物半導体膜を備える半導体デバイス(TFT)の作製と評価
<実施例1〜22>と同様にして、酸化物焼結体の物性評価、スパッタターゲットの作製、酸化物半導体膜を備える半導体デバイス(TFT)の作製と評価を行った。結果を表2および表3に示す。比較例2の酸化物焼結体では、Zn
4In
2O
7結晶相の存在が認められなかった。
【0191】
<比較例3>
(1)酸化物焼結体の作製
(1−1)原料粉末の準備
表1に示す組成(表1の「W粉末」の欄に記載)とメジアン粒径d50(表1の「W粒径」の欄に記載)を有し、純度が99.99質量%のタングステン酸化物粉末(表1において「W」と表記した。)と、メジアン粒径d50が1.0μmで純度が99.99質量%のZnO粉末(表1において「Z」と表記した。)と、メジアン粒径d50が1.0μmで純度が99.99質量%のIn
2O
3粉末(表1において「I」と表記した。)と、メジアン粒径d50が1.0μmで純度が99.99質量%のZrO
2粉末(表1において「R」と表記した。)とを準備した。
【0192】
(1−2)原料粉末の混合物の調製
準備した原料粉末をポットへ投入し、さらに粉砕混合ボールミルに入れて12時間粉砕混合することにより原料粉末の混合物を調製した。原料粉末の混合比は、混合物中のIn、Zn、WおよびZrのモル比が表1に示されるとおりとなるようにした。粉砕混合の際、分散媒として純水を用いた。得られた混合粉末はスプレードライで乾燥させた。
【0193】
(1−3)酸化物焼結体の形成
上記(1−2)で得られた混合物を用いたこと、および焼結工程において昇温過程を設けなかったこと以外は<実施例1〜22>(1〜3)〜(1〜4)と同様にして酸化物焼結体を得た。
【0194】
(2)酸化物焼結体の物性評価、スパッタターゲットの作製、酸化物半導体膜を備える半導体デバイス(TFT)の作製と評価
<実施例1〜22>と同様にして、酸化物焼結体の物性評価、スパッタターゲットの作製、酸化物半導体膜を備える半導体デバイス(TFT)の作製と評価を行った。結果を表2および表3に示す。比較例3の酸化物焼結体では、Zn
4In
2O
7結晶相の存在が認められなかった。
【0195】
【表1】
【0196】
【表2】
【0197】
【表3】
【0198】
比較例1、2および3の酸化物焼結体はいずれも、実施例7の酸化物焼結体と同じ組成(元素含有率)を有しているが、Zn
4In
2O
7結晶相(IZ結晶相)を含有しない。その結果、比較例1、2および3の酸化物焼結体をスパッタターゲットとして用いて作製した半導体デバイス(TFT)は、実施例7の酸化物焼結体をスパッタターゲットとして用いて作製した半導体デバイス(TFT)に比べて、大気圧窒素雰囲気中450℃10分間の加熱処理(アニール)を実施した後の電界効果移動度である「移動度(450℃)」が大きく低下している。
【0199】
実施例9と10、実施例12と13、実施例15と16とを対比すると、これらの酸化物焼結体は、In、ZnおよびWの含有率は同じであるが、Zr含有量が異なっている。これらの実施例の対比から、高い温度でアニールしたときの電界効果移動度を高く維持する観点からは、Zr含有率を2ppm以上100ppm未満とすることが好ましい傾向にあることがわかる。
【0200】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。