(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0013】
以下の実施形態や変形例には、同様の構成要素が含まれている。よって、以下では、同様の構成要素には共通の符号が付与されるとともに、重複する説明が省略される場合がある。また、本明細書において、序数は、部品や部位等を区別するために便宜上付与されており、優先順位や順番を示すものではない。
【0014】
また、
図1〜4では、便宜上、車両前後方向の前方が矢印Xで示され、車幅方向(車軸方向)の外方が矢印Yで示され、車両上下方向の上方が矢印Zで示される。
【0015】
また、以下では、車両用ブレーキの一例であるブレーキ装置2が、左側の後輪(非駆動輪)に適用された場合が例示されるが、本発明は、他の車輪にも同様に適用可能である。
【0016】
<ブレーキ装置の構成>
図1は、ブレーキ装置2の車両後方からの背面図である。
図2は、ブレーキ装置2の車幅方向外方からの側面図である。
図3は、ブレーキ装置2の移動機構8によるブレーキシュー3(制動部材)の動作を示す側面図であって、非制動状態での図である。
図4は、ブレーキ装置2の移動機構8によるブレーキシュー3の動作を示す側面図であって、制動状態での図である。
【0017】
図1に示されるように、ブレーキ装置2は、円筒状のホイール1の周壁1aの内側に収容されている。ブレーキ装置2は、所謂ドラムブレーキである。
図2に示されるように、ブレーキ装置2は、前後に離間した二つのブレーキシュー3を備えている。二つのブレーキシュー3は、
図3,4に示されるように、円筒状のドラム4の内周面4aに沿って円弧状に伸びている。ドラム4は、車幅方向(Y方向)に沿う回転中心C回りに、ホイール1と一体に回転する。ブレーキ装置2は、二つのブレーキシュー3を、円筒状のドラム4の内周面4aに接触するよう移動させる。これにより、ブレーキシュー3とドラム4との摩擦によって、ドラム4ひいてはホイール1が制動される。ブレーキシュー3は、制動部材の一例である。
【0018】
ブレーキ装置2は、ブレーキシュー3を動かすアクチュエータとして、油圧によって動作するホイールシリンダ51(
図2参照)と、通電によって作動するモータ120(
図5参照)と、を備えている。ホイールシリンダ51およびモータ120は、それぞれ、二つのブレーキシュー3を動かすことができる。ホイールシリンダ51は、例えば、走行中の制動に用いられ、モータ120は、例えば、駐車時の制動に用いられる。すなわち、ブレーキ装置2は、電動パーキングブレーキの一例である。なお、モータ120は、走行中の制動に用いられてもよい。
【0019】
ブレーキ装置2は、
図1,2に示されるように、円盤状のバックプレート6を備えている。バックプレート6は、回転中心Cと交差した姿勢で設けられる。すなわち、バックプレート6は、回転中心Cと交差する方向に略沿って、具体的には回転中心Cと直交する方向に略沿って、広がっている。
図1に示されるように、ブレーキ装置2の構成部品は、バックプレート6の車幅方向の外側および内側の双方に設けられている。バックプレート6は、ブレーキ装置2の各構成部品を直接的または間接的に支持する。すなわち、バックプレート6は、支持部材の一例である。また、バックプレート6は、車体との不図示の接続部材と接続される。接続部材は、例えば、サスペンションの一部(例えば、アーム、リンク、取付部材等)である。
図2に示されるバックプレート6に設けられた開口部6bは、接続部材との結合に用いられる。なお、ブレーキ装置2は、駆動輪および非駆動輪のいずれにも用いることができる。なお、ブレーキ装置2が駆動輪に用いられる場合、
図2に示されるバックプレート6に設けられた開口部6cを不図示の車軸が貫通する。
【0020】
<ホイールシリンダによるブレーキシューの作動>
図2に示されるホイールシリンダ51や、ブレーキシュー3等は、バックプレート6の車幅方向外方に配置されている。ブレーキシュー3は、バックプレート6に移動可能に支持されている。具体的には、
図3に示されるように、ブレーキシュー3の下端部3aが、回転中心C11回りに回転可能に、バックプレート6(
図2参照)に支持されている。回転中心C11は、ホイール1の回転中心Cと略平行である。また、
図2に示されるように、ホイールシリンダ51は、バックプレート6の上端部に支持されている。ホイールシリンダ51は、車両前後方向(
図2の左右方向)に突出可能な二つの不図示の可動部(ピストン)を有する。ホイールシリンダ51は、加圧に応じて、二つの可動部を突出させる。突出した二つの可動部は、それぞれ、ブレーキシュー3の上端部3bを押す。二つの可動部の突出により、二つのブレーキシュー3は、それぞれ、回転中心C11(
図3,4参照)回りに回転し、上端部3b同士が車両前後方向に互いに離間するように移動する。これにより、二つのブレーキシュー3は、ホイール1の回転中心Cの径方向外方に移動する。各ブレーキシュー3の外周部には、円筒面に沿う帯状のライニング31が設けられている。よって、二つのブレーキシュー3の、回転中心Cの径方向外方への移動により、
図4に示されるように、ライニング31とドラム4の内周面4aとが接触する。ライニング31と内周面4aとの摩擦によって、ドラム4ひいてはホイール1(
図1参照)が制動される。また、
図2に示されるように、ブレーキ装置2は、復帰部材32を備えている。復帰部材32は、ホイールシリンダ51によるブレーキシュー3を押す動作が解除された場合に、二つのブレーキシュー3を、ドラム4の内周面4aと接触する位置(制動位置Pb、
図4参照)からドラム4の内周面4aと接触しない位置(非制動位置Pn、初期位置、
図3参照)へ動かす。復帰部材32は、例えば、コイルスプリング等の弾性部材であり、各ブレーキシュー3に、もう一方のブレーキシュー3に近付く方向の力、すなわち、ドラム4の内周面4aから離れる方向の力を与える。
【0021】
<移動機構の構成および移動機構によるブレーキシューの作動>
また、ブレーキ装置2は、
図3,4に示される移動機構8を備えている。移動機構8は、モータ120を含む駆動機構100(
図5参照)の作動に基づいて、二つのブレーキシュー3を非制動位置Pnから制動位置Pbに移動させる。移動機構8は、バックプレート6の車幅方向外方に設けられている。移動機構8は、レバー81と、ケーブル82と、ストラット83と、を有する。レバー81は、二つのブレーキシュー3のうち一方、例えば
図3,4では左側のブレーキシュー3Lと、バックプレート6との間で、当該ブレーキシュー3Lおよびバックプレート6にホイール1の回転中心Cの軸方向に重なるように、設けられている。また、レバー81は、ブレーキシュー3Lに、回転中心C12回りに回転可能に支持されている。回転中心C12は、ブレーキシュー3Lの、回転中心C11から離れた側(
図3,4では上側)の端部に位置され、回転中心C11と略平行である。ケーブル82は、レバー81の、回転中心C12から遠い側の下端部81aを、他方、例えば
図3,4では右側のブレーキシュー3Rに近付く方向に、動かす。ケーブル82は、バックプレート6に略沿って移動する。また、ストラット83は、レバー81と当該レバー81が支持されるブレーキシュー3Lとは別のブレーキシュー3Rとの間に介在し、レバー81と当該別のブレーキシュー3Rとの間で突っ張る。また、レバー81とストラット83との接続位置P1は、回転中心C12と、ケーブル82とレバー81との接続位置P2と、の間に設定されている。ケーブル82は、ブレーキシュー3を移動させる作動部材の一例である。
【0022】
このような移動機構8において、ケーブル82が引かれて
図4の右方へ動くことにより、レバー81が、ブレーキシュー3Rに近付く方向へ動くと(矢印a)、レバー81はストラット83を介してブレーキシュー3Rを押す(矢印b)。これにより、ブレーキシュー3Rは、非制動位置Pn(
図3)から回転中心C11回りに回転し(
図4の矢印c)、ドラム4の内周面4aと接触する制動位置Pb(
図4)へ動く。この状態では、ケーブル82とレバー81との接続位置P2は力点、回転中心C12は支点、レバー81とストラット83との接続位置P1は作用点に相当する。さらに、ブレーキシュー3Rが、内周面4aに接触した状態で、レバー81が
図4の右方、すなわち、ストラット83がブレーキシュー3Rを押す方向へ動くと(矢印b)、ストラット83が突っ張ることにより、レバー81はストラット83との接続位置P1を支点として、レバー81の動く方向とは逆方向、すなわち、
図3,4での反時計回りに回転する(矢印d)。これにより、ブレーキシュー3Lは、非制動位置Pn(
図3)から回転中心C11回りに回転し、ドラム4の内周面4aと接触する制動位置Pb(
図4)へ動く。このようにして、移動機構8の作動により、ブレーキシュー3L,3Rは、いずれも非制動位置Pn(
図3)から制動位置Pb(
図4)へ動く。なお、ブレーキシュー3Rがドラム4の内周面4aに接触した以降の状態では、レバー81とストラット83との接続位置P1が支点となる。なお、ブレーキシュー3L,3Rの移動量は微少であって、例えば、1mm以下である。
【0023】
<駆動機構>
図5は、駆動機構100の非制動状態での断面図である。
図6は、駆動機構100の制動状態での断面図である。
【0024】
図1,5,6に示される駆動機構100は、上述した移動機構8を介して、二つのブレーキシュー3を、非制動位置Pnから制動位置Pbへ動かす。駆動機構100は、バックプレート6の車幅方向内方に位置され、バックプレート6に固定されている。
図2〜4に示されるケーブル82は、バックプレート6に設けられた不図示の開口部を貫通している。
【0025】
図5に示されるように、駆動機構100は、ハウジング110、モータ120、減速機構130、および運動変換機構140を備えている。
【0026】
ハウジング110は、モータ120、減速機構130、および運動変換機構140を支持している。ハウジング110は、複数の部材を含んでいる。複数の部材は、例えばねじ等の不図示の結合具によって結合され、一体化されている。ハウジング110内には、壁部111によって囲まれた収容室Rが設けられている。モータ120、減速機構130、および運動変換機構140は、収容室R内に収容され、壁部111によって覆われている。ハウジング110は、ベースや、支持部材、ケーシング等と称されうる。なお、ハウジング110の構成は、ここで例示されたものには限定されない。
【0027】
モータ120は、アクチュエータの一例であって、ケース121と、ケース121内に収容された収容部品と、を有する。収容部品には、例えば、シャフト122の他、ステータや、ロータ、コイル、磁石(不図示)等が含まれる。シャフト122は、ケース121から、モータ120の第一の回転中心Ax1に沿ったD1方向(
図5の右方)に突出している。モータ120は、制御信号に基づく駆動電力によって駆動され、シャフト122を回転させる。シャフト122は、出力シャフトと称されうる。なお、以下では、説明の便宜上、
図5での右方はD1方向の前方と称され、
図5での左方はD1方向の後方と称される。
【0028】
減速機構130は、ハウジング110に回転可能に支持された複数のギヤを含む。複数のギヤは、例えば、第一ギヤ131、第二ギヤ132、および第三ギヤ133である。減速機構130は、回転伝達機構と称されうる。
【0029】
第一ギヤ131は、モータ120のシャフト122と一体に回転する。第一ギヤ131は、ドライブギヤと称されうる。
【0030】
第二ギヤ132は、第一の回転中心Ax1と平行な第二の回転中心Ax2周りに回転する。第二ギヤ132は、入力ギヤ132aと出力ギヤ132bとを含む。入力ギヤ132aは、第一ギヤ131と噛み合っている。入力ギヤ132aの歯数は、第一ギヤ131の歯数よりも多い。よって、第二ギヤ132は、第一ギヤ131よりも低い回転速度に減速される。出力ギヤ132bは、入力ギヤ132aに対してD1方向の後方(
図5では左方)に位置されている。第二ギヤ132は、アイドラギヤと称されうる。
【0031】
第三ギヤ133は、第一の回転中心Ax1と平行な第三の回転中心Ax3周りに回転する。第三ギヤ133は、第二ギヤ132の出力ギヤ132bと噛み合っている。第三ギヤ133の歯数は、出力ギヤ132bの歯数よりも多い。よって、第三ギヤ133は、第二ギヤ132よりも低い回転速度に減速される。第三ギヤ133は、ドリブンギヤと称されうる。なお、減速機構130の構成は、ここで例示されたものには限定されない。減速機構130は、例えば、ベルトやプーリ等を用いた回転伝達機構のような、ギヤ機構以外の回転伝達機構であってもよい。
【0032】
運動変換機構140は、回転部材141と、直動部材142とを有している。
【0033】
回転部材141は、第三の回転中心Ax3回りに回転する。回転部材141は、ハブ141aと、ハブ141aよりも外径の大きいフランジ141bと、を有する。ハブ141aは、D1方向に伸びた筒状に構成されており、当該D1方向にフランジ141bを貫通している。フランジ141bは、ハブ141aのD1方向の中央位置から、第三の回転中心Ax3の径方向に円板状に張り出している。
【0034】
フランジ141bの外周には、第三ギヤ133の歯が設けられている。すなわち、回転部材141は、第三ギヤ133でもある。第三ギヤ133の歯が設けられた部位は、被駆動部の一例である。
【0035】
フランジ141bのD1方向の前方の端面と、ハウジング110に設けられた筒状部112のD1方向の後方の端部112aとの間には、スラストベアリング143が位置されている。スラストベアリング143は、第三の回転中心Ax3の軸方向の荷重を受ける。スラストベアリング143は、
図5の例では、スラストころ軸受であるが、これには限定されない。フランジ141bひいては回転部材141は、ハウジング110に、スラストベアリング143を介して回転可能に支持されている。
【0036】
ハブ141aは、筒状部112の先端部に収容された円筒状のラジアルベアリング144に挿入されている。ハブ141aひいては回転部材141は、ハウジング110に、ラジアルベアリング144を介して回転可能に支持されている。ラジアルベアリング144は、
図5の例では、メタルブッシュであるが、これには限定されない。
【0037】
回転部材141には、ハブ141aおよびフランジ141bを貫通する円形断面の貫通孔141cが設けられている。貫通孔141cには、雌ねじ部145aが設けられている。
【0038】
直動部材142は、第三の回転中心Ax3に沿って延び、回転部材141を貫通している。直動部材142は、棒状部142aと、連結部142bと、突起142cと、を有する。
【0039】
棒状部142aは、ハウジング110の第一孔部113a、回転部材141の貫通孔141c、およびハウジング110の筒状部112に設けられた第二孔部113b内に挿入されている。第二孔部113bの断面は、略円形である。第二孔部113bは、第一孔部113aに対して方向D1の前方に位置され、第三の回転中心Ax3の軸方向に沿って延びている。棒状部142aの断面は略円形である。棒状部142aには、回転部材141の雌ねじ部145aと噛み合う雄ねじ部145bが設けられている。
【0040】
また、第二孔部113bの内面には、溝部113cが設けられている。溝部113cは、第二孔部113bの内面のうち、
図5における上下方向両側の部位において、第三の回転中心Ax3に沿って略一定の幅および深さで延びている。溝部113cは、第三の回転中心Ax3を挟んだ二箇所に設けられている。他方、直動部材142の例えば棒状部142aからは、第三の回転中心Ax3の径方向の外方に向けて突起142cが突出している。溝部113cには、突起142cが挿入されている。溝部113cの幅は、突起142cの先端部の幅よりも、僅かに大きく設定されている。よって、突起142cと溝部113cの周方向の面とが当接することにより、突起142cひいては直動部材142の第三の回転中心Ax3回りの回転が制限される。なお、直動部材142の回転を制限する構造は、本実施形態に開示されるものには限定されず、例えば、直動部材142の一部およびそれに対応する第二孔部113bの断面形状が非円形(例えば半円状)であるような構造であってもよい。
【0041】
連結部142bは、ケーブル82の端部82aと連結されている。
【0042】
このような構成において、モータ120のシャフト122の回転が、減速機構130を介して回転部材141に伝達され、回転部材141が回転すると、回転部材141の雌ねじ部145aと直動部材142の雄ねじ部145bとの噛み合い、およびハウジング110の溝部113cによる突起142cすなわち直動部材142の回転の制限により、直動部材142は、第三の回転中心Ax3の軸方向に沿って非制動位置Pn(
図5)と制動位置Pb(
図6)との間で移動する。ハウジング110の筒状部112のうち、溝部113cが設けられた部位は、突起142cひいては直動部材142の第三の回転中心Ax3回りの回転を制限する回転制限部の一例であり、突起142cひいては直動部材142を第三の回転中心Ax3の軸方向に沿って案内するガイド部の一例でもある。
【0043】
<モータ回転負荷増大機構>
図5に示されるように、直動部材142のD1方向の後方(
図5の左方)の端部には、ねじ等の結合具153によって、円板状の支持部材152が結合されている。第一孔部113aにおいて、支持部材152とフランジ141bとの間には、コイルスプリング151が設けられている。第一孔部113aの環状の内周面の径方向の内側に、コイルスプリング151が位置されている。換言すれば、コイルスプリング151の径方向外側には、第一孔部113aの環状の内周面が位置されている。コイルスプリング151は、ハブ141aおよび直動部材142を囲う状態で第三の回転中心Ax3に沿って延びる螺旋状に構成されている。コイルスプリング151は、弾性部材の一例である。また、支持部材152および結合具153は、直動部材142に含まれうる。
【0044】
モータ120の回転によって、直動部材142が方向D1の前方(
図5の右方)へ移動した場合にあっては、コイルスプリング151が、直動部材142の一部である支持部材152と回転部材141のフランジ141bとの間で、コイルスプリング151の軸方向、すなわち第三の回転中心Axの軸方向に、弾性的に圧縮される。コイルスプリング151の弾性的な圧縮反力の増大により、雌ねじ部145aおよび雄ねじ部145bにおけるねじ面の法線方向の力が増大するため、雌ねじ部145aと雄ねじ部145bとの摩擦抵抗トルクが増大し、これによりモータ120の負荷トルクが増大する。したがって、例えば、モータ120の制御装置(不図示)は、モータ120の駆動電流等によって負荷トルクを検出することにより、直動部材142の方向D1の前方への移動が制限された所定状態であることを検知することができる。すなわち、本実施形態では、主として回転部材141に軸方向に弾性的な反力を与える弾性部材としてのコイルスプリング151によって、モータ回転負荷増大機構が構成されている。
【0045】
<コイルスプリングまたは周辺部材の摩耗を抑制するための構成>
図7は、
図5の状態、すなわち非制動状態における運動変換機構140の拡大図であり、
図8は、
図6の状態、すなわち制動状態における運動変換機構140の拡大図である。
【0046】
仮に、コイルスプリング151がその伸縮によって周辺部材と摺動する構成であると、コイルスプリング151または周辺部材の摩耗が促進する虞がある。また、本実施形態では、
図7に示されるように、非制動状態では、コイルスプリング151が回転部材141と直動部材142との間に位置されている。このような構成において、コイルスプリング151が回転部材141と摺動すると、コイルスプリング151、回転部材141、またはその周辺部材の摩耗が促進する虞がある。
【0047】
そこで、本実施形態では、以下に示す構成によって、コイルスプリング151またはその周辺部材の摩耗が抑制されている。
(1)非制動状態における、直動部材142によるコイルスプリング151の支持
本実施形態では、
図7に示される非制動状態、すなわち、直動部材142が非制動位置Pnにある状態では、コイルスプリング151の内径部は、コイルスプリング151の径方向Rdには、直動部材142によって支持されている。具体的に、このような直動部材142によるコイルスプリング151の支持は、ハウジング110の第一孔部113aの内径Dihと、非制動状態、すなわち圧縮量が比較的大きい状態におけるコイルスプリング151の外径Docとの隙間C3(=Dih−Doc、直径差、不図示)を、当該状態におけるコイルスプリング151の内径Dicと、支持部材152のうちコイルスプリング151の内側(コイル内)に挿入されているハブ152aの外径Dofとの隙間C4(=Dic−Dof、直径差、不図示)よりも大きくすることにより、すなわち、C3>C4という設定により、達成できる。このような設定により、非制動状態において、コイルスプリング151がハウジング110内で径方向Rdに移動したような場合にあっても、コイルスプリング151の内周(内径部)と、ハブ152aの外面とが接触し、コイルスプリング151の外周と、ハウジング110の第一孔部113aの内面とは、互いに接触しない。したがって、本実施形態によれば、コイルスプリング151またはハウジング110の摩耗が抑制される。なお、コイルスプリング151の外径は、コイルスプリング151の軸方向の一端と他端との間における最大径であり、コイルスプリング151の内径は、コイルスプリング151の軸方向の一端と他端との間における最小径である。ハブ152aの外面は、第一の環状の外周面の一例である。第一孔部113aの内面は、環状の内周面の一例である。また、隙間C3が最小値である場合にも、コイルスプリング151の外周と、第一孔部113aの内周面とが互いに接触しないよう、第一孔部113aの内径Dihの最小値において、C3>C4が成り立つよう、各部のスペックが設定される。一例としては、第一孔部113aの直径が軸方向に変化するような場合にあっては、第一孔部113aの環状の内周面のうちコイルスプリング151と面した区間における内径Dihの最小値について、C3>C4が成り立つ。
【0048】
仮に、コイルスプリング151の伸縮に伴って、コイルスプリング151の外周と第一孔部113aの内面とが摺動する構成であると、コイルスプリング151が伸縮するたびに、当該外周と当該内面との間で摩耗が生じる虞がある。この点、本実施形態によれば、コイルスプリング151と支持部材152とは方向D1の前方または後方に連動するため、コイルスプリング151の伸縮に伴う支持部材152とコイルスプリング151との相対的な移動量は、コイルスプリング151の外周と第一孔部113aの内面との相対的な移動量よりも小さい。また、コイルスプリング151の伸縮に伴う支持部材152とコイルスプリング151との摺動面積は、コイルスプリング151の外周と第一孔部113aの内面との摺動面積よりも小さい。よって、本実施形態によれば、コイルスプリング151の伸縮に伴う当該コイルスプリング151またはその周辺部材の摩耗が、他の構成よりも抑制されうる。
【0049】
また、本実施形態のように、回転部材141のハブ141aが、コイルスプリング151の内側に位置されている構成にあっては、具体的には後述するが、コイルスプリング151の内周とハブ141aの外周面とが接触せず隙間が保持されるよう、構成されている。これにより、コイルスプリング151とハブ141aとが摺動することによりコイルスプリング151またはハブ141a(回転部材141)の摩耗が促進されるのが、抑制されている。さらに、コイルスプリング151と回転部材141のフランジ141bとの間には、ワッシャ154が介在している。ワッシャ154により、コイルスプリング151とフランジ141bとの摺動性が向上されている。なお、ワッシャ154あるいはフランジ141bには、摺動性を高める表面処理が施されたり、摺動性を高めるグリス等の潤滑剤が塗布されたりしてもよい。
【0050】
(2)制動状態における、ハウジング110の第一孔部113aの内面によるコイルスプリング151の支持
本実施形態では、
図8に示される制動状態、すなわち、直動部材142が制動位置Pbにある状態では、コイルスプリング151は、コイルスプリング151の径方向Rdには、第一孔部113aの内面によって支持されている。具体的に、このような第一孔部113aの内面によるコイルスプリング151の支持は、制動状態、すなわち非制動状態と比べて圧縮量が少ない状態におけるコイルスプリング151の内径Dinと回転部材141のハブ141aの外面の外径Dosとの隙間C1(=Din−Dos、直径差、不図示)を、ハウジング110の第一孔部113aの内径Dihと、制動状態におけるコイルスプリング151の外径Donとの隙間C2(=Dih−Don、直径差、不図示)よりも大きくすることにより、すなわち、C1>C2という設定により、達成できる。このような設定により、制動状態において、コイルスプリング151がハウジング110内で径方向Rdに移動したような場合にあっても、コイルスプリング151の外周と、第一孔部113aの内面とが接触し、コイルスプリング151の内周と、ハブ141aの外面とは、互いに接触しない。したがって、本実施形態によれば、コイルスプリング151または回転部材141の摩耗が抑制される。ハブ141aの外面は、第二の環状の外周面の一例である。なお、隙間C2が最大値である場合にも、コイルスプリング151の内周と、ハブ141aの外周面とが互いに接触しないよう、第一孔部113aの内径Dihの最大値において、C1>C2が成り立つよう、各部のスペックが設定される。一例としては、第一孔部113aの直径が軸方向に変化するような場合にあっては、第一孔部113aの環状の内周面のうちコイルスプリング151と面した区間における内径Dihの最大値について、C1>C2が成り立つ。
【0051】
ここで、
図7に示される非制動状態におけるコイルスプリング151の内径および外径は、
図8に示される制動状態に比べて、広い。よって、コイルスプリング151の内径Dinとハブ141aの外面の外径Dosとの隙間C1(=Din−Dos)が確保されている構成にあっては(C1>C2)、非制動状態においても、コイルスプリング151の内径Dic(
図7)とハブ141aの外面の外径Dos(
図8)との隙間が確保される。よって、非制動状態において、コイルスプリング151と回転部材141とが摺動することによりコイルスプリング151、回転部材141、またはその周辺部材の摩耗が促進されるのが、抑制されている。
【0052】
(3)支持部材152とコイルスプリング151とのより円滑な移動
本実施形態では、直動部材142が
図8の制動位置Pbから
図7の非制動位置Pnへ移動する際には、直動部材142の一部である支持部材152のハブ152aは、コイルスプリング151の外側(コイル外)から内側(コイル内)へ進入する(挿入される)。逆に、直動部材142が
図7の非制動位置Pnから
図8の制動位置Pbへ移動する際には、直動部材142の一部である支持部材152のハブ152aは、コイルスプリング151の内側から外側へ退出する。本実施形態では、支持部材152がコイルスプリング151の外側と内側との間でよりスムーズに移動するよう、支持部材152は、ハブ152aの回転部材141側に隣接して、回転部材141側に向かうにつれて細くなる円錐面状のテーパ面152bを有している。よって、支持部材152は、テーパ面152bが無い場合に比べて、よりスムーズに移動することができる。
【0053】
また、本実施形態では、制動状態におけるコイルスプリング151の内径Dinが、ハブ152aの外面の外径Dofよりも広くなるよう、設定されてもよい。これにより、支持部材152は、コイルスプリング151の外側から内側へ、より円滑に移動することができる。
【0054】
本実施形態では、
図8に示されるように、制動状態ではコイルスプリング151が自然長Lnとなる。本実施形態の構成は、制動状態でコイルスプリング151が自然長Lnとなる構成について、より有効に作用する。なお、運動変換機構140は、制動状態においてコイルスプリング151が圧縮された状態となる構成であってもよい。この場合、制動状態におけるコイルスプリング151の全長は、非制動状態におけるコイルスプリング151の最短長Lc(
図7)よりも長く、自然長Lnよりも短い。
【0055】
以上、説明したように、本実施形態では、例えば、直動部材142が非制動位置Pn(第二の位置)に位置された状態では、支持部材152(直動部材142)が、コイルスプリング151を当該コイルスプリング151の径方向Rdに支持する。よって、本実施形態によれば、例えば、回転部材141がコイルスプリング151を当該コイルスプリング151の径方向Rdに支持する構成に比べて、コイルスプリング151または当該コイルスプリング151が接触する部材の摩耗が抑制されうる。
【0056】
また、本実施形態では、例えば、直動部材142が非制動位置Pn(第二の位置)に位置された状態では、ハブ152aの外面(第一の環状の外周面)が、コイルスプリング151と第一孔部113aの内面(環状の内周面)との間に隙間C3が設けられた状態で、コイルスプリング151を当該コイルスプリング151の径方向Rdに支持する。よって、本実施形態によれば、例えば、コイルスプリング151と第一孔部113aの内面との摺動による摩耗が抑制されうる。
【0057】
また、本実施形態では、例えば、ハブ152aの外面(第一の環状の外周面)は、直動部材142が制動位置Pb(第一の位置)に位置された状態ではコイルスプリング151の外側に位置され、直動部材142が非制動位置Pn(第二の位置)に位置された状態ではコイルスプリング151の内側に位置され、直動部材142が制動位置Pbに位置された状態におけるコイルスプリング151の内径Dinは、ハブ152aの外面の外径Dofよりも大きい。よって、本実施形態によれば、例えば、直動部材142の直動によりハブ152aがコイルスプリング151の外側から内側に移動する場合に、当該ハブ152aがコイルスプリング151の内側によりスムーズに移動することができる。なお、直動部材142が制動位置Pbにある状態でコイルスプリング151が自然長Lnであることは、必須ではない。
【0058】
また、本実施形態では、例えば、支持部材152(直動部材)は、ハブ152aの外面(第一の環状の外周面)の回転部材141側に隣接して、当該回転部材141に近付くに連れて細くなるテーパ面152bを有する。よって、本実施形態によれば、例えば、直動部材142の直動によりハブ152aがコイルスプリング151の外側と内側との間で移動する場合に、当該ハブ152aがよりスムーズに移動することができる。
【0059】
また、本実施形態では、例えば、直動部材142が制動位置Pb(第一の位置)に位置され、かつコイルスプリング151が径方向Rdの最外方に位置された状態では、第一孔部113aの内面(環状の内周面)が、コイルスプリング151とハブ141aの外面(第二の環状の外周面)との間に隙間C2が設けられた状態で、コイルスプリング151を径方向Rdに支持する。よって、本実施形態によれば、例えば、コイルスプリング151とハブ141aの外面との摺動による摩耗が抑制されうる。
【0060】
また、本実施形態では、例えば、コイルスプリング151の自然長Lnにおける外径をDon、コイルスプリング151の自然長Lnにおける内径をDin、直動部材142が非制動位置Pn(第二の位置)に位置された状態でのコイルスプリング151の外径をDoc、直動部材142が非制動位置Pnに位置された状態でのコイルスプリング151の内径をDic、支持部材152のハブ152a(第一の環状の外周面)の外径をDof、回転部材141のハブ141aの外面(第二の環状の外周面)の外径をDos、ハウジング110の第一孔部113aの内面(環状の内周面)の内径をDih、C1=Din−Dos、C2=Dih−Don、C3=Dih−Doc、C4=Dic−Dof、としたとき、C1>C2>C3>C4が成り立つ。よって、本実施形態によれば、例えば、コイルスプリング151と他の部材との摺動による摩耗が抑制されうる。
【0061】
以上、本発明の実施形態が例示されたが、上記実施形態はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、等のスペック(構造や、種類、方向、形状、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数、配置、位置、材質等)は、適宜に変更して実施することができる。
【0062】
例えば、上記実施形態では、ブレーキ装置2は、リーディングトレーリング式のドラムブレーキとして構成されたが、本発明は他の形式のブレーキ装置としても構成することができる。また、一のアクチュエータによるディスクブレーキと他のアクチュエータによるドラムブレーキとを有するブレーキ装置の、当該他のアクチュエータに対応した構成として、本発明を実施することが可能である。
【0063】
また、上記実施形態では、制動部材を移動させる作動部材がケーブル82である構成が例示されたが、作動部材は、ロッドやレバーなど、ケーブル82以外のものであってもよい。また、作動部材は、引っ張るのではなく押すことにより、制動部材を移動させてもよい。