特許第6593332号(P6593332)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6593332内面に液膜が形成されている容器及び液膜形成用コーティング液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6593332
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】内面に液膜が形成されている容器及び液膜形成用コーティング液
(51)【国際特許分類】
   B32B 33/00 20060101AFI20191010BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20191010BHJP
   B32B 17/06 20060101ALI20191010BHJP
   B65D 65/42 20060101ALI20191010BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20191010BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20191010BHJP
【FI】
   B32B33/00
   B32B27/00 H
   B32B17/06
   B65D65/42 A
   C09D201/00
   C09D7/40
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-529136(P2016-529136)
(86)(22)【出願日】2015年4月20日
(86)【国際出願番号】JP2015062018
(87)【国際公開番号】WO2015194251
(87)【国際公開日】20151223
【審査請求日】2018年3月19日
(31)【優先権主張番号】特願2014-126877(P2014-126877)
(32)【優先日】2014年6月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】岡田 芳明
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 知之
(72)【発明者】
【氏名】丹生 啓佑
【審査官】 清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−254377(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/077380(WO,A1)
【文献】 特開2013−159344(JP,A)
【文献】 特開平08−113244(JP,A)
【文献】 特開2008−036492(JP,A)
【文献】 特開2002−087420(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/010534(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/175378(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/194625(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/194626(WO,A1)
【文献】 特開昭62−138130(JP,A)
【文献】 特開2006−144006(JP,A)
【文献】 特開平10−052213(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B05D 1/00−7/26
B65D 23/00−25/56
65/00−65/46
85/00−85/84
C08J 7/04−7/06
C09D 1/00−10/00
101/00−201/10
A21D 8/00−8/10
A21B 3/00−3/18
A47J 27/00−27/64
36/00−36/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動性物質が収容される容器であって、該流動性物質が接触する容器内面に、該流動性物質に対する滑性を向上させるための液体の液膜が形成されており、該液膜には、該液膜を形成している液体100質量部当り0.01〜10質量部の量で、粒子径が5μm〜300μmの固体粒子が転がり可能に分散されていることを特徴とする容器。
【請求項2】
前記液膜を形成する液体が、液膜を支持している表面に対する接触角(20℃)が45°以下であり且つ100mPa・s以下の粘度(25℃)を有している請求項1に記載の容器。
【請求項3】
前記固体粒子が、有機粒子である請求項1または2に記載の容器。
【請求項4】
前記液膜が、1.0〜6.2mg/cmの量で容器内面に形成されている請求項1〜3の何れかに記載の容器。
【請求項5】
前記容器内面が、合成樹脂製である請求項1〜4の何れかに記載の容器。
【請求項6】
前記容器内面が、ガラス製である請求項1〜5の何れかに記載の容器。
【請求項7】
前記流動性物質の粘度(25℃)が1260mPa・s以上である請求項1〜6の何れかに記載の容器。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の容器における前記液膜を形成するためのコーティング液であって、液膜を形成するための液体を分散媒として含み、粒子径が5μm〜300μmの固体粒子が分散媒である液体100質量部当り0.01〜10質量部の量で分散されていることを特徴とする液膜形成用コーティング液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内面に液膜を有する容器に関するものであり、より詳細には、該液膜によって容器内に収容されている流動性物質に対する滑性向上効果が高められた容器及び該液膜を形成するためのコーティング液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液状内容物が収容される容器では、容器の材質を問わず、内容物に対する排出性が要求される。水のように粘性の低い液体を収容する場合では、このような排出性はほとんど問題とならないが、例えば、マヨネーズやケチャップのように粘度の高い粘稠な物質では、プラスチック容器であろうがガラス製容器であろうが、この排出性はかなり深刻な問題である。即ち、このような内容物は、容器を傾けて速やかに排出されないし、また、容器壁に付着してしまうため、最後まで使い切ることができず、特に容器の底部にはかなりの量の内容物が排出されずに残ってしまう。
【0003】
最近になって、基材表面に液膜を形成することによって、粘稠な物質に対する滑性を高める技術が種々提案されている(例えば特許文献1,2)。
かかる技術によれば、基材表面を形成する合成樹脂に滑剤などの添加剤を加える場合と比して、滑性を飛躍的に高めることができるため、現在注目されている。
【0004】
しかしながら、上記のように基材表面に液膜を形成して表面特性を改質する手段においても、容器の底部での内容物の付着残存を効果的に防止することができず、さらに滑性を向上することが求められている。
【0005】
また、内面に疎水性酸化物の微粒子を付着させた容器も内容物に対する非付着性が優れているとして提案されている(特許文献3)。
しかしながら、かかる容器で発現する滑性は、液膜を設けた容器と比較すると、かなり低い。
さらに、上記のような流動性物質に対する滑性の向上は、容器ばかりでなく、蓋材にも求められているし、さらには、粘稠な流動性物質を流すためのパイプなどの部材にも滑性の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2012/100099
【特許文献2】WO2013/022467
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、表面に液膜を有しており、該液膜により流動性物質、特に粘稠な流動性物質に対する滑性がより向上した構造体を提供することにある。
本発明の他の目的は、内容物に対する滑性がより向上しており、容器や蓋等の包装材として好適に使用される構造体を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、底部での粘稠な内容物の付着残存が有効に抑制されるレベルまで内容物に対する滑性が向上した容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、流動性物質が収容される容器であって、該流動性物質が接触する容器内面に、該流動性物質に対する滑性を向上させるための液体の液膜が形成されており、該液膜には、該液膜を形成している液体100質量部当り0.01〜10質量部の量で、粒子径が5μm〜300μmの固体粒子が転がり可能に分散されていることを特徴とする容器が提供される。
【0009】
本発明の容器においては、
(1)前記液膜を形成する液体が、液膜を支持している表面に対する接触角(20℃)が45°以下であり且つ100mPa・s以下の粘度(25℃)を有していること、
(2)前記固体粒子が、有機粒子であること、
(3)前記液膜が、1.0〜6.2mg/cmの量で包装材表面に形成されていること、
(4)前記容器内面が合成樹脂製であること、
(5)前記容器内面がガラス製であること、
(6)前記流動性物質の粘度(25℃)が1260mPa・s以上であること、
が好ましい。
【0010】
本発明によれば、また、前記容器における前記液膜を形成するためのコーティング液であって、液膜を形成するための液体を分散媒として含み、粒子径が5μm〜300μmの固体粒子が分散媒である液体100質量部当り0.01〜10質量部の量で分散されていることを特徴とする液膜形成用コーティング液が提供される。
【発明の効果】
【0011】
図1を参照して、本発明の容器(以下、構造体或いは包装材と呼ぶことがある)は、包装される流動性物質と接触する表面1上に、液体2により形成される液膜3が形成され、この液膜3中に粒子径が300μm以下の微細な固体粒子5が分散されているという内面構造を有している。そのため、表面1上を流れる流動性物質は、微細な固体粒子5の表面に存在する液体2と接するため、流動性物質に対する滑性が大きく向上している。
容器の内面に液体による膜を形成することにより、内容物に対する滑性が向上することは、すでに公知である。そして、このような液体の膜が内面に形成されている容器から粘稠な内容物を排出する場合、この内容物は、液−液接触包装材から排出されることとなる。即ち、固−液接触ではなく、液−液接触で内容物は包装材内面を流れ落ちるため、液体として内容物と混和しない油性のものを使用すれば、水を含む水性物質に対する滑落性を向上させ、さらに、液体として内容物と混和しない水性のものを使用すれば、油性物質に対する滑性を向上させることができるというものである。
しかるに、本発明の容器においては、この液膜3中に微細な固体粒子5が分散されているため、液膜3による流動性物質に対する滑性がより一層高められている。
例えば、後述する実験例に示されているように、ポリプロピレンシートの表面に流動パラフィンの液膜(固体粒子は分散されていない)を有する場合のマヨネーズ様食品の落下速度よりも(詳細な条件は実施例参照)、流動パラフィンの液膜に微細固体粒子(ライスワックス)が分散されている場合のマヨネーズ様食品の落下速度の方が、さらに速くなっている。
【0012】
このように、液膜3中に微細な固体粒子5を分散させておくことにより、流動性物質に対する滑性がさらに向上する理由について、本発明者等は次のように推定している。
即ち、液膜3に接しながら流動性物質(例えば、容器等の包装材の内容物)が落下する際、この固体粒子5がコロの作用を示し、流動性物質と共に転がりながら落下していく。このため、単に液膜3を形成した場合よりもさらに滑性が向上するものと考えられる。実際、固体粒子5が液膜3中に分散されているのではなく、構造体の表面1に固形粒子5を付着させている場合には、後述する実験例にも示しているように、流動性物質に対する滑落性は、単に液膜3を形成した場合と変わらない。この場合には、固体粒子は、表面1に固定されており、コロとしての作用を示さないからである。
【0013】
また、本発明の構造体は、特にボトル等の容器として使用される場合、内容物に対する滑落性に加え、特に、内容物の底部での付着残存を著しく抑制することができる。
例えば、後述する実験例には、内容物としてマヨネーズ様食品(粘度:1260mPa・s@25℃)を充填したボトルについて、その底部への付着残存性が評価されているが、本発明に従って、内面に形成されている液膜中に微細固体粒子が分散されているボトルでは、マヨネーズ様食品の付着残存が著しく抑制されていることが、この試験結果から判る。
【0014】
このような内容物の底部での付着残存が有効に抑制される理由については、本発明者等は、固形粒子5は内容物を滑落させた後も、表面1に液膜3を保持し、表面1(容器内面)に保持されつづけることができるため、結果として、固体粒子5の表面に保持された液膜3が、容器の底部に有効に保持されているためと考えている。即ち、微細な固体粒子5が分散されていない液膜3が形成されているに過ぎない場合は、容器を倒立或いは傾斜した場合に液膜3(液体2)が自重などにより構造体表面1(容器内面)から離脱してしまい、この結果、底部での内容物に対する滑落性が大幅に低下してしまうが、本発明では、固体粒子5の分散により、液膜3(液体2)が構造体表面1(容器内面)にしっかりと保持され、この結果、底部でも安定に滑落性を発揮できるからである。
【0015】
また、本発明の構造体の最も好適な形態である容器では、容器を倒立或いは傾倒させて内容物を容器から排出した場合、一部の液膜3と固体粒子5は、内容物と共に流れ落ちて排出されるが、容器を正立状態に復帰させると、この液膜3を表面に保持した固体粒子5は、内容物よりも滑落しにくいため、容器底部側に留まり、次の内容物の排出に際して、再び優れた滑落性を発揮することとなる。
【0016】
このような本発明の構造体、例えば容器においては、液膜3を形成する液体の種類や液膜3中に分散させる微細な固体粒子5の種類を適宜なものに選択することにより、スムーズに排出することが困難であった粘稠な内容物が収容される容器として、好適に使用される。特に、本発明の構造体は、マヨネーズ、ケチャップ、各種ドレッシングなどのような粘度(25℃)が1260mPa・s以上の内容物が収容される容器として最も好適に使用される。
【0017】
上述した本発明の容器の内面に設けられる液膜3は、液膜を形成するための液体を分散媒として含み、粒子径が5μm〜300μmの固体粒子が分散媒である液体100質量部当り0.01〜10質量部の量で分散されている液膜形成用コーティング液を用いてのスプレー噴霧等のコーティングにより容易に容器内面に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の構造体の表面に形成される液膜の状態を示すモデル図。
図2】液膜中に分散されている固体粒子が多すぎる場合(図2(a))及び該固体粒子が少なすぎる場合(図2(b))における液膜の状態を示すモデル図。
図3】本発明の構造体の好適な形態であるダイレクトブローボトルの形態を示す図。
図4】滑性試験の試験条件を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<構造体の表面>
図1を参照して、本発明の構造体における表面1を形成する素材としては、後述する固体粒子5が分散されている液膜3を保持し得ると同時に、包装材の形態に応じた成形が可能である限り、特に制限されず、合成樹脂製であってもよいし、ガラス製でもよく、さらには金属製であってもよい。即ち、本発明の構造体は、包装材や粘稠な流動性物質を流すためのパイプなどとして好適に使用されるが、特に包装材は、合成樹脂製容器、ガラス製容器及び金属製容器の何れであってもよいし、また、容器の口部のシールに用いる合成樹脂製の蓋や、容器内容物の注出に使用される合成樹脂製の注出具であってもよい。
但し、特に容器として使用する場合において、粘稠な内容物に対する排出性を高めるという観点からは、粘稠な内容物の収容に従来から使用されている内面が合成樹脂製或いはガラス製の容器、特に内面が合成樹脂製の容器に本発明を適用することが好ましく、従って、包装材内面1を形成する素材は、合成樹脂製であることが最も好適である。
【0020】
構造体の表面1を形成する素材として好適な合成樹脂(以下、下地樹脂と呼ぶ)は、成形可能な任意の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂であってよいが、一般的には、成形が容易であり且つ油性の液体による液膜及び液膜を表面に保持した固形粒子を安定に保持できるという観点から、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
このような熱可塑性樹脂としては、例えば、以下のものを例示することができる。
オレフィン系樹脂、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテンあるいはエチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン同士のランダムあるいはブロック共重合体、環状オレフィン共重合体など;
エチレン・ビニル系共重合体、例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体等;
スチレン系樹脂、例えば、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、ABS、α−メチルスチレン・スチレン共重合体等;
ビニル系樹脂、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等;
ポリアミド樹脂、例えば、ナイロン6、ナイロン6−6、ナイロン6−10、ナイロン11、ナイロン12等;
ポリエステル樹脂、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、及びこれらの共重合ポリエステル等;
ポリカーボネート樹脂;
ポリフエニレンオキサイド樹脂;
生分解性樹脂、例えば、ポリ乳酸など;
勿論、成形性が損なわれない限り、これらの熱可塑性樹脂のブレンド物を、下地樹脂として使用することもできる。
【0021】
本発明においては、上記の熱可塑性樹脂の中でも、粘稠な内容物を収容する容器素材として使用されているオレフィン系樹脂やポリエステル樹脂が好適であり、オレフィン系樹脂が最適である。
即ち、オレフィン系樹脂は、PET等のポリエステル樹脂と比較してガラス転移点(Tg)が低く、室温下での分子の運動性が高いため、食用油などの油性液膜を表面に形成する場合には、液膜を形成する液体の一部が内部に浸透し、この結果、液膜及び液膜を表面に保持した固形粒子を安定に保持するという点で適している。
さらに、オレフィン系樹脂は、可撓性が高く、ダイレクトブロー成形による絞り出し容器(スクイズボトル)の用途にも使用されており、本発明をこのような容器に適用するという観点からもオレフィン系樹脂は適している。
【0022】
<液膜>
構造体表面1上に設けられる液膜3の形成に使用される液体2としては、この表面1に付与しようとする滑性の対象物(例えば、包装材の内容物)に応じて適宜のものが使用されるが、かかる液体は、当然、大気圧下での蒸気圧が小さい不揮発性の液体、例えば沸点が200℃以上の高沸点液体でなければならない。揮発性液体を用いた場合には、容易に揮散して経時と共に消失し、液膜3を形成することが困難となってしまうからである。
【0023】
また、上記のような高沸点液体であると共に、表面1を流れる流動性物質と混和しないものであることは当然であるが、さらに、表面1に対して高い濡れ性を示し、表面1上にムラなく液膜3を形成できるという観点から、表面1に対する接触角(20℃)が45度以下、且つ粘度(25℃)が100mPa・s以下であることが好適である。即ち、構造体の表面1の素材が、合成樹脂製、ガラス製或いは金属製の何れであっても、上記のような物性を満足する液体2を用いて液膜3を形成すればよい。
【0024】
また、上記のような物性を満足する液体2の中でも、特に表面張力が、滑性の対象となる物質(例えば、容器内容物)と大きく異なるものほど、潤滑効果が高く、本発明には好適である。
例えば、水や水を含む親水性物質に対する滑性を高めるには、表面張力が10乃至40mN/m、特に16乃至35mN/mの範囲にある油性液体を用いるのが良く、流動パラフィン、合成パラフィン、フッ素系液体、フッ素系界面活性剤、シリコーンオイル、脂肪酸トリグリセライド、各種の植物油などが代表的である。植物油としては、大豆油、菜種油、オリーブオイル、米油、コーン油、べに花油、ごま油、パーム油、ひまし油、アボガド油、ココナッツ油、アーモンド油、クルミ油、はしばみ油、サラダ油などが好適に使用できる。
【0025】
また、本発明において、固体粒子5が分散されている液膜3は、1.0〜6.2mg/cmの量で包装材内面1に形成されていることが望ましい。即ち、この量が少なすぎると、液膜3による滑落向上効果が不安定となり、多すぎると、液膜3の量が不安定となるばかりか、後述する微細な固体粒子5によるコロ特性を発揮しにくくなる傾向もある。
【0026】
<微細な固体粒子>
本発明において、液膜3中に分散させる固体粒子5は、液膜3を形成する液体2に溶解せず、固体で存在し得ると同時に、構造体1を流れる流動性物質(例えば、容器内容物)にも溶解しないものであるが、特に粒子径(粒子中央値)が300μm以下、好ましくは100μm以下にある微細粒子であることが必要である。この粒子径が大きすぎると、粒子の転がりによるコロ特性が十分に発揮されず、滑性向上効果が不十分となってしまう。また、粒子の凝集や構造体1に均一に分散させるなどの観点から、この粒子径は5μm以上であることが望ましい。
また、この固体粒子5は、液膜形成時に固体であるため、融点は40度以上であることが望ましい。
【0027】
さらに、この固体粒子5の素材は、特に制限されず、各種の有機材料、無機材料で形成されていてもよいが、構造体の表面1への保持性、及び液膜3を形成する液体2との馴染み性が良好であるという観点から、金属粒子や金属酸化物等の無機粒子よりも、有機粒子であることが好ましく、例えば、オレフィン系ワックスやライスワックス、カルナバワックス、各種セルロース、有機樹脂硬化物(例えば、多官能アクリルモノマーを硬化して得られる硬化物)などが好ましく、特に食品用内容物などに対する用途にも制限なく使用できるという観点から、ライスワックスなどが好適である。
【0028】
本発明において、上記のような固体粒子5は、転がりによるコロ特性を十分に発揮し、さらに、液膜3を表面の保持しながら、包装材内面1への保持効果が高いという観点から、固体粒子5は、液膜3を形成する液体100質量部当り、0.01〜10質量部、特に0.1〜5質量部の量の比率で液膜3中に分散されていることが望ましい。例えば、図2(a)のモデル図に示されているように、固体粒子5の量が多すぎると、固体粒子5が凝集して滑性向上効果が不十分となってしまい、また図2(b)のモデル図に示されているように、液量が多すぎると、固体粒子5のコロ特性による滑性向上効果が不十分となってしまうばかりか、包装材が容器である場合には、底部での固体粒子5の保持効果が不満足となり、表面に液膜3を保持した固体粒子5の消失が生じ易くなり、例えば、この構造体を容器として使用した場合、底部での内容物の付着残存抑止効果も不十分となってしまうおそれがある。
【0029】
また、本発明において、上述した固体粒子5が分散された液膜3は、液膜3を形成する液体2に所定の粒子径を有する固体粒子5の所定量を混ぜ合わせ、撹拌することで調製されたコーティング液を使用し、例えば、このコーティング液を、容器等の構造体の表面1に、スプレー噴霧やディッピング等により施すことにより、容易に構造体表面1に形成することができる。
【0030】
<構造体の形態>
上述した表面構造を有する本発明の構造体は、固体粒子5が分散された液膜3が流動性物質と接触する表面に形成されている限りにおいて、その形態は制限されず、パイプ形状、容器形状、蓋材形状等、用途に応じた種々の形態を採ることができる。
特に、本発明の構造体は、包装材の用途に好適に適用され、例えば、合成樹脂製容器、ガラス製容器或いは金属製容器の形態や、蓋材や注出具(スパウト)などの形態で好適に使用される。
【0031】
また、この構造体が、内面が合成樹脂製の容器である場合には、内面を形成する合成樹脂により容器全体が形成されている単層構造をあってもよいし、他の合成樹脂との積層構造を有していてもよい。
特に内面が、オレフィン系樹脂或いはポリエステル樹脂で形成されている場合には、中間層として、適宜接着剤樹脂の層を介して、酸素バリア層や酸素吸収層を積層し、さらに、内面を形成する下地樹脂(オレフィン系樹脂或いはポリエステル樹脂)と同種の樹脂が外面側に積層した構造を採用することができる。
【0032】
かかる多層構造での酸素バリア層は、例えばエチレン−ビニルアルコール共重合体やポリアミドなどの酸素バリア性樹脂により形成されるものであり、その酸素バリア性が損なわれない限りにおいて、酸素バリア性樹脂に他の熱可塑性樹脂がブレンドされていてもよい。
また、酸素吸収層は、特開2002−240813号等に記載されているように、酸化性重合体及び遷移金属系触媒を含む層であり、遷移金属系触媒の作用により酸化性重合体が酸素による酸化を受け、これにより、酸素を吸収して酸素の透過を遮断する。このような酸化性重合体及び遷移金属系触媒は、上記の特開2002−240813号等に詳細に説明されているので、その詳細は省略するが、酸化性重合体の代表的な例は、第3級炭素原子を有するオレフィン系樹脂(例えばポリプロピレンやポリブテン−1等、或いはこれらの共重合体)、熱可塑性ポリエステル若しくは脂肪族ポリアミド;キシリレン基含有ポリアミド樹脂;エチレン系不飽和基含有重合体(例えばブタジエン等のポリエンから誘導される重合体);などである。また、遷移金属系触媒としては、鉄、コバルト、ニッケル等の遷移金属の無機塩、有機酸塩或いは錯塩が代表的である。
【0033】
各層の接着のために使用される接着剤樹脂はそれ自体公知であり、例えば、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などのカルボン酸もしくはその無水物、アミド、エステルなどでグラフト変性されたオレフィン樹脂;エチレン−アクリル酸共重合体;イオン架橋オレフィン系共重合体;エチレン−酢酸ビニル共重合体;などが接着性樹脂として使用される。
上述した各層の厚みは、各層に要求される特性に応じて、適宜の厚みに設定されればよい。
【0034】
さらに、上記のような多層構造の構造体を成形する際に発生するバリ等のスクラップをオレフィン系樹脂等のバージンの樹脂とブレンドとしたリグライド層を内層として設けることも可能であるし、オレフィン系樹脂或いはポリエステル樹脂により容器内面(前述した構造体の表面1)が形成された容器において、その外面をポリエステル樹脂或いはオレフィン系樹脂により形成することも勿論可能である。
【0035】
容器の形状も特に制限されず、カップ乃至コップ状、ボトル状、袋状(パウチ)、シリンジ状、ツボ状、トレイ状等、容器材質に応じた形態を有していてよく、延伸成形されていてもよい。
【0036】
特に合成樹脂製容器では、前述した内面を有する前成形体をそれ自体公知の方法により成形し、これを、ヒートシールによるフィルムの貼り付け、プラグアシスト成形等の真空成形、ブロー成形などの後加工に付して容器の形態とし、さらに、先にも簡単に述べたように、液膜3を形成する液体中に固体粒子5が分散された塗布液を、スプレー噴霧することにより、目的とする固体粒子分散液膜3を形成することができるが、容器の形態によっては、ローラやナイフコーターなどを用いての塗布により、容器内面に施すことにより液膜3を形成することもできる。
【0037】
図3には、本発明の構造体の最も好適な形態であるダイレクトブローボトルが示されている。
即ち、図3において、全体として10で示されるこのボトルは、螺条を備えた首部11、肩部13を介して首部11に連なる胴部壁15及び胴部壁15の下端を閉じている底壁17を有しており、このようなボトル10の内面に前述した液膜が形成され、例えば粘稠な内容物が充填されることとなる。
【0038】
上述した本発明の構造体では、液膜3及び固体粒子5の種類に応じて極めて優れた滑性、底部への内容物付着残存防止効果を示すため、特に、粘度(25℃)が100mPa・s以上の粘稠な内容物を収容する容器として好適に使用され、特に前述した油性液体を用いて液膜3が形成されている場合には、例えば、マヨネーズ、ケチャップ、水性糊、蜂蜜、各種ソース類、マスタード、ドレッシング、ジャム、チョコレートシロップ、乳液等の化粧液、液体洗剤、シャンプー、リンス等の粘稠な内容物の充填ボトルとして最も好適である。
【実施例】
【0039】
本発明を次の実験例にて説明する。
各実施例、比較例にて使用した容器、滑液(液膜3を形成する液体)、内容物は次のとおりである。
【0040】
<容器>
(1)シート材
シート材として、後述する多層ボトルから切り出した幅75mm、長さ50mmの多層シートと、幅75mm、長さ50mmのガラス板を供した。
(2)ボトル
下記の層構成を有する多層構造を有し、且つ内容量400gの多層ダイレクトブローボトルを供した。
内層:低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)
中間層:エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)
外層:低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)
接着層(内外層と中間層との間):酸変性ポリオレフィン
【0041】
<液膜>
(1)液膜形成用液体(滑液)
食用油A:
中鎖脂肪酸添加サラダ油
(粘度33mPa・s(25℃)・接触角18度)
食用油B:
中鎖脂肪酸添加なしサラダ油
(粘度80mPa・s(25℃)・接触角18度)
(2)固体粒子
ライスワックス
セルロース
各実施例、比較例で表1に示した上記液体(滑液)に固体粒子を混ぜ合わせ、撹拌し、規定の粒子径の固体粒子が分散したコーティング液を調製し、容器のシート材、ボトルの内面に規定の塗布量を、容器内面に均一となるように塗布した。
【0042】
<各種測定>
固体粒子の粒子径;
粒子径は、食用油Aに固体粒子1%を混ぜた分散液を、レーザ光回折散乱法で粒度分布を粒度分布測定装置((株)堀場製作所製LA―300)にて測定し、粒子中央値を粒子径とした。
接触角;
滑液の接触角は、シート材の多層シートの容器内面を上面にして滑落液に使用した食用油を10mg落とし、20℃、50%RH、接触角計(協和界面科学(株)社DropMaster700)にて測定した。
粘度;
滑液の粘度は、ビーカーに入れた液体に、B型デジタル粘度計のスピンドルとガードを入れ、25℃、回転数10回/分でスピンドルを1分間回転させ、粘度測定を行った。
【0043】
<内容物>
卵1個(50g)と酢15ccと塩2.5ccを混ぜた後、さらに食用油150ccを混ぜ合わせて、実験用のマヨネーズ様食品を作成した。各実施例、比較例では、必要量の内容物を作成して使用した。
【0044】
また、各実施例、各比較例の内容物を用いて滑性(シート材の滑性)、底部滑性(ボトル)の評価方法は次の通りである。
<滑性の評価>
シート材に各塗布液を塗布した後、30度の角度に保持し(図4参照)、6mgのマヨネーズ様食品を落下させ、5cmを移動する時間を測定し、次の基準で評価した。
◎:14秒未満で移動
○:14秒以上18秒未満で移動
△:18秒以上で移動
×:60秒以上落下しない
<容器の底部滑性の評価>
ボトル内に、噴霧ノズルを底まで挿入し、塗布液を噴霧しながら引き上げることによりボトル底部から側壁全面に塗布液を塗布した。この容器内面に固体粒子を分散させた液膜が形成されているボトル内に、内容物であるマヨネーズ様食品を常法で400g充填し、ボトル口部をアルミ箔でヒートシールし、キャップで密封して充填ボトルを得た。
内容物が充填された充填ボトルを23℃で1週間保管した。1週間保管されたボトルについて、胴部を押し、ボトル口部を通して内容物を最後まで搾り出した後、このボトル内に空気を入れ形状を復元させた。
次いで、このボトルを倒立(口部を下側)にして1時間保管した後のボトル胴部壁の内容物滑落程度(胴部壁に内容物が付着していない程度)を測定し、次の式で内容物滑落率を計算した。
内容物滑落率(%)
=(内容物が滑落している表面積/ボトル胴部壁表面積)×100
上記で計算された内容物滑落率から、滑性を次の基準で評価した。
○:内容物滑落率が90%以上
△:内容物滑落率が50%以上で90%未満
×:内容物滑落率が50%未満。
【0045】
[実施例1〜6]
包装材の内面形成材として多層シートを用い、食用油A(滑液)にライスワックス(粒子径100μm)を分散させたコーティング液を、表1中の固体粒子分散の比率、塗布量で塗布し、滑性を評価した。
【0046】
[実施例7]
包装材の内面形成材として多層シートを用い、固体粒子をライスワックス(粒子径50μm)に変更した以外は実施例1と同様にして、表1中の固体粒子分散の比率、塗布量でコーティング液を塗布し、滑性を評価した。
【0047】
[実施例8]
包装材の内面形成材として多層シートを用い、固体粒子をライスワックス(粒子径250μm)に変更した以外は実施例1と同様にして、表1中の固体粒子分散の比率、塗布量でコーティング液を塗布し、滑性を評価した。
【0048】
[実施例9]
包装材の内面形成材として多層シートを用い、滑落液を食用油Bに変更した以外は実施例1と同様にして、表1中の固体粒子分散の比率、塗布量でコーティング液を塗布し、滑性を評価した。
【0049】
[実施例10]
包装材の内面形成材として多層シートを用い、固体粒子をセルロース(粒子径120μm)に変更した以外は実施例1と同様にして、表1中の固体粒子分散の比率、塗布量でコーティング液を塗布し、滑落性を評価した。
【0050】
[実施例11]
包装材の内面形成材としてガラス板を用い、それ以外は実施例1と同様にして、表1中の固体粒子分散の比率、塗布量でコーティング液を塗布し、滑性を評価した。
【0051】
[実施例12]
包装材として多層ボトルを用い、食用油Aにライスワックス(粒子径100μm)を分散させたコーティング液を、表1中の固体粒子分散の比率、塗布量で塗布し、底部滑性を評価した。
【0052】
[実施例13]
包装材として多層ボトルを用い、食用油Aにライスワックス(粒子径50μm)を分散させたコーティング液を、表1中の固体粒子分散の比率、塗布量で塗布し、底部滑性を評価した。
【0053】
[実施例14]
包装材として多層ボトルを用い、食用油Aにライスワックス(粒子径250μm)を分散させたコーティング液を、表1中の固体粒子分散の比率、塗布量で塗布し、底部滑性を評価した。
【0054】
[比較例1〜2]
包装材の内面形成材として多層シートを用い、食用油Aにライスワックス(粒子径100μm)を分散させたコーティング液を、表2中の固体粒子分散の比率、塗布量で塗布し、滑性を評価した。
【0055】
[比較例3]
包装材の内面形成材として多層シートを用い、食用油Aにライスワックス(粒子径350μm)を分散させたコーティング液を、表2中の固体粒子分散の比率、塗布量で塗布し、滑性を評価した。
【0056】
[比較例4]
包装材の内面形成材として多層シートを用い、食用油Aを表2中の塗布量で塗布し、滑性を評価した。
【0057】
[比較例5]
包装材の内面形成材として多層シートを用い、ライスワックスを2.5g塗布後、食用油Aを表2中の塗布量で塗布して滑性を評価した。
【0058】
[比較例6]
包装材の内面形成材として多層シートを用い、滑液を塗布せずに滑性を評価した。
【0059】
[比較例7]
包装材として多層ボトルを用い、食用油Aを塗布して底部滑性を評価した。
【0060】
[比較例8]
包装材として多層ボトルを用い、滑落液を塗布せずに底部滑性を評価した。
【0061】
以上の実施例及び比較例での評価結果を表1及び表2に示す。
尚、表1,2において、EX.は実施例、Com.は比較例の略である。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
この結果、シート材及びボトルの内面に、固体粒子を分散させた液膜を形成することで、内容物の滑性が向上しているので、液体中に固体粒子を分散させて調製されたコーティング液を内面に塗布して液膜を形成した包装材は、内容物の滑性に優れていることが判る。
【0065】
<実験例1〜4>
次いで、前記実施例を踏まえ、表3に示すコーティング液を0.6ccガラス材(プレパラート)に塗布し、全体に馴染ませた後、垂直に30秒維持して、水平に戻した時の塗布液の面積当たりの残存割合(%)を測定した。その結果を表3に示す。
【0066】
【表3】
【0067】
表3から明らかなように、液膜中の固体粒子の比率が高いと、液膜と固体粒子の残存率が高いことが判る。
尚、表中に示さないが、液膜中の固体粒子の比率を高くし過ぎると、前記固体粒子が凝集して内容物の滑落を阻害、または内容物に混入する恐れがあり、その比率は0.01〜10%が好ましく、特に0.1〜5%がより好ましい。
【符号の説明】
【0068】
1:構造体表面内面
2:液体
3:液膜
5:固体粒子
10:ボトル
11:首部
13:肩部
15:胴部壁
17:底壁
図1
図2
図3
図4