特許第6593335号(P6593335)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6593335幹細胞の分化状態の判定方法及びこれに用いられる新規な分化マーカー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6593335
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】幹細胞の分化状態の判定方法及びこれに用いられる新規な分化マーカー
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20191010BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALI20191010BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20191010BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20191010BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALN20191010BHJP
【FI】
   C12N15/09 ZZNA
   C12Q1/6876 Z
   G01N33/50 P
   G01N33/68
   !C12N5/0735
【請求項の数】6
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2016-544240(P2016-544240)
(86)(22)【出願日】2015年8月19日
(86)【国際出願番号】JP2015073281
(87)【国際公開番号】WO2016027842
(87)【国際公開日】20160225
【審査請求日】2018年7月26日
(31)【優先権主張番号】特願2014-167800(P2014-167800)
(32)【優先日】2014年8月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000252300
【氏名又は名称】富士フイルム和光純薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】林田 幸信
【審査官】 植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/091270(WO,A1)
【文献】 VAN ROON Eddy H et al.,BRAF mutation-specific promoter methylation of FOX genes in colorectal cancer,Clinical Epigenetics,2013年,vol.5,DOI:10.1186/1868-7083-5-2,全文
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12Q 1/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分化誘導処理を施したiPS細胞若しくはES細胞、又は未分化状態を維持する処理を施したiPS細胞若しくはES細胞のFOXB2 mRNAを検出し、下記(1)又は(2)の方法により判定を行う、iPS細胞又はES細胞の分化状態の判定方法:
(1)分化誘導処理後又は未分化状態を維持する処理後7日目までにFOXB2 mRNAが検出された場合に、その細胞が分化した状態であると判定する、判定方法、
(2)下記から選択される判定方法:
(i)未分化状態であることを確認した対照のiPS細胞のFOXB2 mRNAを検出し、分化誘導処理後又は未分化状態を維持する処理後7日目までの被検細胞のFOXB2 mRNAの検出量が、対照のiPS細胞のFOXB2 mRNAの検出量より多い場合に、該iPS細胞は分化した状態であると判定する、又は
(ii)未分化状態であることを確認した対照のES細胞のFOXB2 mRNAを検出し、分化誘導処理後又は未分化状態を維持する処理後7日目までの被検細胞のFOXB2 mRNAの検出量が、対照のES細胞のFOXB2 mRNAの検出量より多い場合に、該ES細胞は分化した状態であると判定する。
【請求項2】
FOXB2 mRNAが下記(1)〜(2)から選択される、請求項に記載の方法:
(1)配列番号1又は配列番号34で表される塩基配列を有するmRNA、
(2)配列番号1又は配列番号34で表される塩基配列と97%以上の相同性を有するmRNA。
【請求項3】
FOXB2 mRNAが下記(1)〜(3)から選択される、請求項に記載の方法:
(1)配列番号2若しくは配列番号35で表されるアミノ酸配列をコードするmRNA、
(2)配列番号2若しくは配列番号35で表されるアミノ酸配列の1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列をコードするmRNA、
(3)配列番号2若しくは配列番号35で表されるアミノ酸配列と97%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列をコードするmRNA。
【請求項4】
FOXB2 mRNAの検出をRT-PCR法により行う、請求項に記載の方法
【請求項5】
下記(1)〜(4)から選択されるいずれか一つのプライマーセットを構成要件として含む、iPS細胞又はES細胞の分化状態の判定用キット:
(1)配列番号9で表される塩基配列を有するプライマー、及び配列番号10で表される塩基配列を有するプライマー、
(2)配列番号45で表される塩基配列を有するプライマー、及び配列番号46で表される塩基配列を有するプライマー。
(3)配列番号4で表される塩基配列を有するプライマー、配列番号9で表される塩基配列を有するプライマー、及び配列番号10で表される塩基配列を有するプライマー、
(4)配列番号37で表される塩基配列を有するプライマー、配列番号45で表される塩基配列を有するプライマー、及び配列番号46で表される塩基配列を有するプライマー。
【請求項6】
配列番号9で表される塩基配列を有するプライマーと配列番号10で表される塩基配列を有するプライマーの少なくとも一方、又は配列番号45で表される塩基配列を有するプライマーと配列番号46で表される塩基配列を有するプライマーの少なくとも一方が標識物質で標識された、請求項5に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞の分化状態を分化の初期段階で判定することができる、新規な分化マーカに関する。
【背景技術】
【0002】
ES細胞(Embryonic Stem cell、胚性幹細胞)やiPS細胞(Induced Pluripoent Stem Cell、人工多能性幹細胞)等の多能性幹細胞は、その多能性を維持するために、例えばフィーダー細胞と共培養する、フィーダー由来の条件培地(CM)で培養する、培地へbasic FGF (bFGF/FGF2、basic Fibroblast Growth Factor、塩基性繊維芽細胞増殖因子)やLIF(leukemia inhibitory factor)を添加する、等の技術が必要である。さもないと、環境や細胞のコンディションが原因で多分化能を失い、容易に分化してしまうことがある。そのため、幹細胞の未分化状態(多能性を持つ状態)や分化状態を正確に知ることは重要である。
【0003】
また、再生医療の分野では、多能性幹細胞を目的の細胞に分化させてから移植を行うが、その移植させる細胞に未分化細胞が混入している場合には、それが腫瘍形成の原因になる危険性がある。そこで、分化誘導処理した多能性幹細胞中に未分化幹細胞が混入しているかどうかを判定する技術は、重要である。
【0004】
しかしながら、細胞の分化状態を、細胞の外見から判断することは難しい。
【0005】
そこで、多能性幹細胞の分化状態を判定する方法として、分化状態の指標となるマーカーを検出する方法が行われている。例えば、多能性幹細胞の多能性マーカーとして、Alkaline Phosphatase、Nanog、Oct4、TRA-1-60、Sox、LIF-R等が知られている。多能性幹細胞は、未分化状態でこれらのマーカーを発現しているので、これらのマーカーを検出することにより、幹細胞が未分化状態を維持しているか否かを判断することができる。しかしこれらのマーカーは、幹細胞がある程度分化した状態(例えば三胚葉のいずれかにまで)でないと分化状態を判定できない。そのため、未分化細胞がその未分化状態(多能性)を維持しているのか、将来分化する分化能を獲得した状態なのかを分化誘導後の、分化の初期段階で判断することは困難であった。
【0006】
一方、Fox (Forkhead box)と呼ばれる、フォークヘッド又はウイングド・ヘリックス DNA 結合ドメインを持った転写因子の一群が知られており(非特許文献1)、ヒトでは 約50 種類存在していることが知られている(FOXB1、FOXB2等)。Foxの発現蛋白質は、主に発生調節因子、組織特異的調節因子、細胞周期調節因子として機能していることがわかっているが、ほとんど作用が解明されていないものもある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Eddy H van Roon, et al. Clinical Epigenetics 2013, Jan 16; 5(1):2. doi: 10.1186/1868-7083-5-2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、未分化幹細胞の分化状態を、分化の初期段階で判定することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決する目的でなされたものであり、以下の構成よりなる。
(1)幹細胞のFOXB2遺伝子の発現を検出し、その結果に基づいて判定を行う、細胞の分化状態の判定方法。
(2)FOXB2遺伝子由来のmRNA又は蛋白質から選択される、分化マーカー。
【0010】
basic FGF (bFGF, FGF2、basic Fibroblast Growth Factor、塩基性繊維芽細胞増殖因子)を添加した培地でES細胞やiPS細胞等の未分化細胞を培養すると、当該未分化細胞は長期にわたって、その未分化状態を維持したまま増殖することが知られている。
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、bFGF無添加培地でiPS細胞を培養すると(分化誘導処理)、培養開始後3〜5日で、iPS細胞のFOXB2 mRNA発現が検出され、しかもその発現量が顕著に増加する現象を確認した。また、bFGFを添加した培地で培養し未分化状態を維持したiPS細胞では、FOXB2 mRNAの発現は確認されないことも確認した。以上のことから、FOXB2 mRNAが、ES細胞やiPS細胞の分化マーカーとして有用であること、そしてその発現を測定することにより、分化の初期段階の細胞を選別することができることを見出し、本発明を完成させるに到った。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法を実施することにより、幹細胞の分化状態を、分化の初期段階で判定することができる。また、本発明は、幹細胞の品質管理や分化細胞の調製・単離方法へ応用することができる。更に本発明は培養初期で分化した細胞を判定きることから、細胞の早期スクリーニングや幹細胞の品質管理に有用であり、培養期間の短縮、培地代の経費削減などが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1において得られた、hiPS細胞のFOXB2 mRNAの発現をRT-PCR法により検出した結果を示す電気泳動図である。図1において、(1)はFOXB2 mRNAの発現を検出した結果を、(2)はGAPDH mRNAの発現を検出した結果を、(3)はOCT3/4 mRNAの発現を検出した結果を、(4)はNANOG mRNAの発現を検出した結果を、(5)はSOX2 mRNAの発現を検出した結果をそれぞれ示す。
図2】実施例2において得られた、FOXB2 mRNAの発現をRT-PCR法により検討した結果を示す電気泳動図である。
図3】実施例3において得られた、FOXB2 mRNAの発現をRT-PCR法により検討した結果を示す電気泳動図である。
図4】実施例4において得られた、Foxb2 mRNAの発現をRT-PCR法により検討した結果を示す電気泳動図である。
図5】参考例1において得られたbFGF無添加培地で培養したhiPS細胞の写真(図5(1))、及びbFGF添加培地で培養したhiPS細胞の写真(図5(2))である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る幹細胞としては、いわゆる自己複製能力と様々な細胞に分化し得る分化能を有する細胞が挙げられる。例えば多分化能(多能性)を有する未分化細胞であるES細胞、iPS細胞の他、ntES細胞(nuclear transfer Embryonic Stem Cell)、EG細胞(Embryonic Cell、胚性生殖細胞)、EC細胞(Embryonic Cell、胚性癌幹細胞)等が挙げられる。
【0015】
また、幹細胞の由来動物としては、例えばヒト、ウシ、ウマ、イヌ、モルモット、マウス、ラット等の哺乳動物が挙げられる。
【0016】
本発明の細胞の分化状態の判定方法に供される被検細胞である幹細胞としては、公知の分化誘導処理を施した幹細胞や、未分化状態を維持する処理を施した幹細胞、公知の多能性誘導処理を施して脱分化させた体細胞、等が挙げられる。
【0017】
未分化幹細胞を分化誘導処理する方法としては、自体公知の方法であればよく、特に限定されない。例えば、公知の分化誘導物質で細胞を処理した後培養する方法、bFGFやLIFを含有しない培地で培養する等の、未分化幹細胞を分化誘導される環境で培養する方法等が挙げられる。
【0018】
未分化幹細胞の分化を誘導する化学物質(分化誘導物質)としては、例えば神経細胞への分化を誘導するレチノイン酸(Retinoic Acid)、心筋細胞への分化を誘導するスペルミン(Spermine)、酪酸ナトリウム(Sodium Butyrate)、トリコスタチンA(Trichostatin A)、マウスES細胞のインスリン産生細胞への分化を誘導するDNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(DNA Methyltransferase Inhibitor)等が知られている。
【0019】
「未分化状態」とは、例えば、細胞が、上記した自己複製能力と様々な細胞に分化し得る分化能を有する状態にあることを意味する。
【0020】
「未分化状態を維持する処理」とは、例えば公知の幹細胞の未分化状態を維持する処理であればよいが、例えばフィーダー細胞との共培養、培地中へのbFGFやLIFの添加処理等が挙げられる。
【0021】
本発明に係るFOXB2遺伝子とは、判定に供される細胞が由来する動物種に存在するFOXB2蛋白質をコードする遺伝子DNA、RNA等を意味する。また、FOXB2蛋白質の同族体、変異体、及び誘導体などをコードする遺伝子も包含される。更に、これら遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列及びこれを含む遺伝子や、FOXB2遺伝子と70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、更により好ましくは97%以上の配列相同性を有する塩基配列を有する遺伝子なども包含される。
【0022】
具体的には、例えばヒトFOXB2遺伝子としては、配列番号1で表される塩基配列(ヒトFOXB2 mRNAの塩基配列)に対応する遺伝子や、配列番号2で表される蛋白質をコードする塩基配列を有する遺伝子、又はこれらの塩基配列と70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、更により好ましくは97%以上の配列相同性を有する塩基配列を有する遺伝子が挙げられる。
【0023】
例えばマウスFoxb2遺伝子としては、配列番号34で表される塩基配列(マウスFoxb2 mRNAの塩基配列)に対応する遺伝子や、配列番号35で表される蛋白質をコードする塩基配列を有する遺伝子、又はこれらの塩基配列と70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、更により好ましくは97%以上の配列相同性を有する塩基配列を有する遺伝子が挙げられる。
【0024】
本発明に係るFOXB2 mRNAとしては、判定に供される細胞が由来する動物種に存在するFOXB2遺伝子から転写されたmRNA、例えば上記したFOXB2遺伝子由来のmRNAが挙げられる。
【0025】
FOXB2遺伝子由来のmRNAとしては、例えばヒトFOXB2 mRNAとしては、以下のもの等が挙げられる。
・配列番号1で表される塩基配列(GenBank Accession No. NM_001013735)を有するmRNA
・配列番号1で表される塩基配列と70%、好ましくは80%、より好ましくは95%更により好ましくは97%以上の配列相同性を有する塩基配列を有するmRNA
・配列番号2で表されるアミノ酸配列をコードするmRNA
・配列番号2で表されるアミノ酸配列の1〜数個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸が欠失、挿入、付加、あるいは置換されたアミノ酸配列をコードするmRNA
・配列番号2で表されるアミノ酸配列と70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、更により好ましくは97%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列をコードするmRNA。
【0026】
例えばマウスFoxb2 mRNAとしては、以下のもの等が挙げられる。
・配列番号34で表される塩基配列(GenBank Accession No. NM_008023)を有するmRNA
・配列番号34で表される塩基配列と70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、更により好ましくは97%以上の配列相同性を有する塩基配列を有するmRNA
・配列番号35で表されるアミノ酸配列をコードするmRNA
・配列番号35で表されるアミノ酸配列の1〜数個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸が欠失、挿入、付加、あるいは置換されたアミノ酸配列をコードするmRNA
・配列番号2で表されるアミノ酸配列と70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、更により好ましくは97%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列をコードするmRNA
【0027】
本発明に係るFOXB2蛋白質としては、判定に供される細胞が由来する動物種に存在するFOXB2遺伝子から翻訳された蛋白質が挙げられる。このようなFOXB2蛋白質の同族体、変異体、及び誘導体であってもよい。
【0028】
例えばヒトFOXB2蛋白質としては、以下のもの等が挙げられる。
・配列番号2で表されるアミノ酸配列又はその1個若しくは数個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列を有するもの
・配列番号2で表されるアミノ酸配列と70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、更により好ましくは97%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を有するもの
【0029】
マウスFOXB2蛋白質としては、以下のもの等が挙げられる。
・配列番号35で表されるアミノ酸配列又はその1個若しくは数個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列を有するもの
・配列番号35で表されるアミノ酸配列と70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、更により好ましくは97%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を有するもの
【0030】
<I.本発明の細胞の分化状態の判定方法>
本発明の細胞の分化状態の判定方法は、「幹細胞のFOXB2遺伝子の発現を検出し、その結果に基づいて判定を行う、細胞の分化状態の判定方法。」である。
【0031】
<I−1.FOXB2遺伝子の発現を検出する方法>
FOXB2遺伝子の発現を検出する方法としては、FOXB2 mRNAの発現を検出する方法、又はFOXB2蛋白質の発現を検出する方法が挙げられる。
【0032】
本発明において「発現を検出する」という場合、「FOXB2遺伝子が発現したか否か(例えばFOXB2 mRNA又はFOXB2蛋白質の存在の有無)を検出する」場合と、「FOXB2遺伝子が発現した量(例えばFOXB2 mRNAの量、又はFOXB2蛋白質の量)を測定する」場合を含む。
【0033】
FOXB2遺伝子の発現の検出は、分化誘導処理後の被検細胞が、FOXB2 mRNA又はFOXB2蛋白質を、検出できる程度にまで発現した後に行う。具体的には被検細胞を分化誘導処理した後、上限は7日以内、好ましくは6日以内、より好ましくは5日以内、下限は1日以上、好ましくは2日以上、更に好ましくは3日以上培養後に細胞を採取して、以下のFOXB2遺伝子の発現の検出を行えばよい。この間、毎日細胞を採取して、FOXB2遺伝子の発現の検出を行ってもよい。
【0034】
(1)FOXB2 mRNAの発現を検出する方法
FOXB2 mRNAの発現を検出する方法は、自体公知のmRNAを検出する方法であれば特に制限されず、公知の方法から適宜選択すればよい。
【0035】
例えば、RT-PCR法(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)、リアルタイムRT-PCR法、コンペティティブPCR法、in situ PCR法、in situ ハイブリダイゼーション法、DNAアレイ法、ノーザンハイブリダイゼーション(Northern hybridization)、FISH法、ドットブロット法、RNaseプロテクションアッセイ法、RT-LAMP法の他、金ナノ粒子に結合した標的RNAに対する相補鎖(捕捉鎖)と捕捉鎖の相補鎖であるレポーター鎖を用いるSmartFlareTM法、標的RNAに対応する配列を有する2種類の蛍光プローブ(Reduction-triggered Fluorescence activation probe、RETF probe)を用いた検出法、芳香族求核置換反応を利用した検出法(標的RNAに相補的なDNAを結合した2−シアノ−4−ニトロベンゼンスルホニル基で保護したアミノクマリンを修飾したCNs−AMCAプローブと、標的RNAに相補的なDNAを結合したチオフェノール基で修飾されたMBAプローブを用いた方法)等の方法が挙げられる。
【0036】
1)RT−PCR法
RT-PCR法とは、標的のFOXB2遺伝子(例えばFOXB2 mRNA)を鋳型とし、逆転写反応によりcDNAを合成後、PCRによるDNAの増幅を行う方法〔Kawasaki, E. S., et al., Amplification of RNA. In PCR Protocol, A Guide to methods and applications, Academic Press, Inc., SanDiego, 21-27 (1991)]である。逆転写反応及びDNAの増幅反応の条件は特に限定されるものではなく、適宜最適な条件を採用することができる。また、当該標的の遺伝子(例えばFOXB2 mRNA)の増幅領域は、必ずしも全長である必要はなく、増幅産物の確認に支障が無ければ、当該遺伝子の一部領域であってもよい。増幅されたcDNA量(mRNA量に相当する)は、例えば、上記DNA増幅反応液を電気泳動に供した後、目的増幅断片に特異的にハイブリダイズするプローブを用いることで検出すればよい。
【0037】
具体的には、例えばまず公知の方法で、被検細胞からmRNAを抽出・分離する。次いでFOXB2 mRNAの塩基配列に対応する塩基配列を有するヌクレオチド鎖を増幅用プライマーとして用い、上記で得られたmRNAを鋳型としてRT-PCR法を実施し、FOXB2 mRNA又はその一部領域に対して相補的な、一本鎖DNA(cDNA)を合成・増幅する。そしてその増幅産物(cDNA)の有無や多少(量)を検出することにより、細胞のFOXB2 mRNAの存在や量を検出することができる。
【0038】
上記で使用する増幅用プライマーとしては、例えばヒトのFOXB2 mRNAを検出する場合の増幅プライマーとしては、例えば配列番号4で表される塩基配列を有するプライマーが挙げられる。マウスのFoxb2 mRNAを検出する場合の増幅プライマーとしては、例えば配列番号37で表される塩基配列を有するプライマーが挙げられる。
【0039】
更に上記の方法で増幅されたcDNAを鋳型として、FOXB2 mRNAの塩基配列をもとに、FOXB2 mRNAの標的の領域が増幅できるように調製したプライマー対を用いて、常法に従って更にPCR法等の核酸増幅反応を実施して、増幅産物の有無や多小(量)を検出すれば、FOXB2 mRNAの存在や量をより正確に検出できる。この増幅産物の検出は、増幅産物を検出する電気泳動法等の常法で行えばよい。
【0040】
上記の方法で増幅されたcDNAを鋳型として核酸増幅反応を実施する場合、リアルタイム増幅検出法により行ってもよい。リアルタイム増幅検出法による検出法としては、例えばリアルタイムPCR検出法が挙げられる。
【0041】
リアルタイムPCR検出法の例としては、インターカレーター(例えばSYBRTM Green I)を利用してリアルタイムPCRを行う通常のインターカレーター法、TaqManTMリアルタイムPCR法、MGB Eclipse Probe System法、Molecular Beacons Probe Technology法、LUX Fluorogenic Primer法、Quenching probe-PCR(QP)法、サイクリニングプローブ法等が挙げられるが、これに限定されない。
【0042】
上記PCR(リアルタイムPCRを含む。)に用いられる「FOXB2 mRNAの標的の領域が増幅できるように調製したプライマー対」としては、FOXB2 mRNAの塩基配列又はその特定領域(部分配列)を増幅するプライマー対が挙げられる。
【0043】
そのようなプライマー対としては、例えばヒトのFOXB2 mRNA(配列番号1で表される塩基配列)又はその特定領域(部分配列)を増幅するプライマー対が挙げられる。具体的には、例えば配列番号1で表される塩基配列の45〜223番目の、179bpの領域(配列番号3)を標的とした場合、配列番号9で表される塩基配列を有するプライマーと配列番号10で表される塩基配列を有するプライマーのプライマー対が挙げられる。
【0044】
また、例えばマウスのFoxb2 mRNA(配列番号34で表される塩基配列)又はその特定領域(部分配列)を増幅するプライマー対も挙げられる。具体的には、例えば配列番号34で表される塩基配列の132〜300番目の、169bpの領域(配列番号36)を標的とした場合、配列番号45で表される塩基配列を有するプライマーと配列番号46で表される塩基配列を有するプライマーのプライマー対が挙げられる。
【0045】
FOXB2 mRNA増幅用のプライマーは各種市販されているので、それを用いてもよい。
【0046】
RT-PCR法によるヒトFOXB2 mRNAの検出法を例にとって具体的に示すと、以下の通りである。
【0047】
被検細胞から抽出し、DNase処理したTotal RNA 500ng〜10μgに、FOXB2 mRNAの増幅プライマー(例えば配列番号4の塩基配列を有するプライマー)1〜10μMを1μL加え、65〜80℃、2〜5分間 保温した後、氷冷下で、5×Buffer 4μL、2.5mM dNTPs 4μL、RNase Inhibitor 0.5μL (20U)、逆転写酵素(ReverTra Ace) 1μL(100U)を加え、蒸留水にて全量20μLにして混合し、37〜50℃、20〜60分間保温することにより逆転写反応を行う。その後常法により、得られたcDNAを回収する。
【0048】
次いで得られたcDNA 1μL、蒸留水5μL、2×PCR Buffer 12.5μL、2 mM dNTPs 4μL、DNAポリメラーゼ(KOD FX Neo) 0.5μL(0.5U)、フォワードプライマー(例えば配列番号9の塩基配列を有するプライマー) 5〜10μMを1μL、リバースプライマー(例えば配列番号10の塩基配列を有するプライマー) 5〜10μMを1μL混合する。次いで、例えば94℃ 2分間、98℃ 10秒間→56℃ 20秒間→68℃ 30秒間の反応を28〜30サイクル程度行う。
【0049】
PCR終了後、例えば電気泳動で増幅産物の検出・解析を行い、FOXB2 mRNAを検出する。
【0050】
又は、cDNAを回収した後、インターカレーター(例えばSYBRTM Green I)及び例えば上記と同様のフォワードプライマーとリバースプライマーを用い、上記で得られたcDNAを鋳型として用いて、Taq DNA ポリメラーゼ等のポリメラーゼを用いたリアルタイムPCRを行う。そして、増幅産物の増幅量と相関してインターカレーションするインターカレーターの蛍光強度を測定することにより増幅産物の検出・解析を行い、FOXB2 mRNAを検出する
【0051】
更に、上記の方法で増幅されたcDNAを鋳型として核酸増幅反応を実施した後の増幅産物の検出・解析を、キャピラリー電気泳動法(J.Chromatogr. 593 253−258 (1992)、Anal.Chem. 64 1926−1932 (1992)、WO2007/027495等)、キャピラリーチップ電気泳動法で行ってもよい。すなわち、cDNAを回収した後、例えば蛍光物質等の標識物質で標識したプライマーやインターカレーターを用いて、キャピラリーチップ電気泳動で分離された標識PCR増幅産物由来のシグナルを検出器で検出すればよい。検出器としては、示差屈折検出器、蛍光検出器、UV検出器等の機器によりなされればよく、中でも、UV検出器、蛍光検出器が好ましく、蛍光検出器がより好ましい。例えばLiBASys(島津製作所(株)製)等の自動免疫分析装置を用いれば、PCRから電気泳動までの操作をリアルタイムに行うことができる。
【0052】
2)ノーザンハイブリダイゼーション法
ノーザンハイブリダイゼーション法よりFOXB2 mRNAを検出する方法としては、例えば、被検細胞から抽出・分離したmRNAを適当な担体に固定し、これとFOXB2 mRNAに相補的な塩基配列を有する標識プローブ(cDNAでもよい)とハイブリダイゼーションを行い、その程度を検出することにより、被検細胞のFOXB2 mRNAを検出する方法が挙げられる。ここで使用するプローブは、FOXB2 mRNAの塩基配列の相補配列の全部からなるものであっても、その一部の塩基配列からなるものであってもよい。また、この検出法に、該プローブを固定化したマイクロアレイ、DNAチップを用いることもできる。
【0053】
なお、本発明に係るFOXB2 mRNAを検出する方法に用いられる試薬中には、通常この分野で用いられる試薬類、例えば緩衝剤、安定化剤、防腐剤等であって、共存する試薬等の安定性を阻害せず、PCR等の核酸増幅反応やハイブリダイゼーション反応を阻害しないものを用いることができる。また、その濃度も、通常この分野で通常用いられる濃度範囲から適宜選択すればよい。
【0054】
緩衝液の具体例を挙げると、例えばトリス緩衝液、リン酸緩衝液、ベロナール緩衝液、ホウ酸緩衝液、グッド緩衝液等、通常のPCR等の核酸増幅反応やハイブリダイゼーション反応を実施する場合に用いられている緩衝液は全て挙げられる。そのpHも特に限定されないが、例えば5〜9の範囲が挙げられる。
【0055】
また、必要に応じて核酸合成酵素(DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、逆転写酵素など)、酵素に応じた基質(dNTP、rNTPなど)、また二本鎖インターカレーター(エチジウムブロマイド、SYBRTM Greenなど)あるいはFAMやTAMRA等の標識検出物質などが用いられる。
【0056】
なお、in situ PCR法やin situ ハイブリダイゼーション法を実施した場合には、被検細胞を破壊せずにFOXB2 mRNAの検出を行うことができる。
【0057】
(2)FOXB2 蛋白質の発現を検出する方法
1)細胞を破壊しないで検出する方法
FOXB2 蛋白質は転写因子であるので、細胞の核内に存在する。
【0058】
細胞を破壊せずに核内物質を染色する技術が開発されているので、その技術を用いて、細胞を破壊せずに核内のFOXB2蛋白質を検出することが出来る。例えば、Triton TM、NP-40、Tween 20 TM、Saponin、Digitonin TM、Leucoperm TMなどの界面活性剤を含む緩衝液を用い、被検細胞の核膜を部分的に可溶化する。すると細胞膜の構造を壊さずに抗体が通れるぐらいの間隙が出来るので、続いて蛍光物質等で標識した抗FOXB2抗体で核タンパク質の染色を行えば、核内のFOXB2蛋白質を検出することができる。
【0059】
また、核内物質を染色する各種試薬も市販されている。そこで、これらの市販の試薬を用いて核内のFOXB2蛋白質を染色して、FOXB2蛋白質の発現を検出してもよい。
【0060】
2)細胞を破壊して検出する方法
また、細胞を破壊する以下の方法を行って、FOXB2蛋白質を検出することもできる。
【0061】
まず被検細胞培養物を濾過又は遠心分離などの常法に付して菌体或いは細胞を集め、適当な緩衝液に懸濁し、例えば界面活性剤処理、超音波処理、リゾチーム処理、凍結融解などの方法で細胞等の細胞壁及び/又は細胞膜を破壊した後、遠心分離や濾過などの方法でFOXB2蛋白質を含有する抽出液を得る。
【0062】
次いで、得られた抽出液中のFOXB2蛋白質を、蛋白質を検出する自体公知の方法で検出すればよい。
【0063】
抽出液中のFOXB2蛋白質を検出する方法としては、例えばFOXB2蛋白質に対して親和性を有する物質(例えば抗体等)を用いた、いわゆる酵素免疫測定法(EIA)、放射免疫測定法(RIA)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、蛍光免疫測定法(FIA)、ウエスタンブロット法、免疫組織化学法、抗体アレイ法、簡易イムノクロマトグラフィーによる測定法、等の自体公知の免疫学的測定法に準じた方法の他、これらと高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、電気泳動法、キャピラリー電気泳動法、キャピラリーチップ電気泳動法等の組み合わせによる方法等が挙げられる。その測定原理としては、例えばサンドイッチ法、競合法、二抗体法等が挙げられるが、これに限定されない。これらの測定法の具体的な条件は、当業者が適宜設定し得る。
【0064】
また、例えば、免疫比ろう法、免疫比濁法等の免疫凝集法に準じた測定法で、FOXB2蛋白質を検出してもよい。これらの検出法も、自体公知の方法に準じて行えばよい。
【0065】
上記1)及び2)の方法において、FOXB2蛋白質を検出するために用いられるFOXB2蛋白質に対する抗体(抗FOXB2抗体)は、FOXB2蛋白質やその部分ペプチド、又はそれらの塩を認識し得る抗体であればよく、特に限定されない。
【0066】
例えばポリクローナル抗体、モノクローナル抗体の何れであってもよく、これらを単独であるいはこれらを適宜組み合わせて用いる等は任意である。また、これら抗体は、要すればペプシン,パパイン等の酵素を用いて消化してF(ab')2、Fab'、或はFabとして使用してもよい。更に、FOXB2蛋白質に対する市販の抗体を用いることもできる。
【0067】
当該抗体は、標識物質で標識されていてもよい。標識するために用いられる標識物質としては、例えばEIA(ELISA)に於いて用いられるアルカリホスファターゼ,β-ガラクトシダーゼ,パーオキシダーゼ,マイクロペルオキシダーゼ,グルコースオキシダーゼ,グルコース-6-リン酸脱水素酵素,アセチルコリンエステラーゼ,リンゴ酸脱水素酵素,ルシフェラーゼ等の酵素類、例えばRIAで用いられる99mTc,131I,125I,14C,3H等の放射性同位元素、例えばFIAで用いられるフルオレセイン,ダンシル,フルオレスカミン,クマリン,ナフチルアミン或はこれらの誘導体等の蛍光性物質、例えばルシフェリン,イソルミノール,ルミノール,ビス(2,4,6-トリフロロフェニル)オキザレート等の発光性物質、例えばフェノール,ナフトール,アントラセン或はこれらの誘導体等の紫外部に吸収を有する物質、例えば4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル,3-アミノ-2,2,5,5-テトラメチルピロリジン-1-オキシル,2,6-ジ-t-ブチル-α-(3,5-ジ-t-ブチル-4-オキソ-2,5-シクロヘキサジエン-1-イリデン)-p-トリルオキシル等のオキシル基を有する化合物に代表されるスピンラベル化剤としての性質を有する物質等が挙げられる。
【0068】
FOXB2蛋白質に対する抗体の具体例としては、例えば「配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質に対する抗体」や「配列番号35で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質に対する抗体」等が挙げられる。
【0069】
また、上記したFOXB2蛋白質を検出するために用いられる、試薬及びその検出時の濃度、検出を実施するに際しての測定条件等(反応温度、反応時間、反応時のpH,測定波長、測定装置等)は、すべて自体公知の上記した如き免疫学的測定法の測定操作法に準じて設定すれば良く、使用する自動分析装置、分光光度系等も通常この分野で使用されているものは何れも例外なく使用し得る。
【0070】
<I−2.細胞の分化状態の判定方法>
上記の方法により幹細胞のFOXB2遺伝子の発現を検出して得られた結果に基づいて、被検細胞の分化状態を判定する。
【0071】
本発明において「分化した/された」又は「分化した状態」とは、細胞が「分化の初期段階」の状態、「将来分化する分化能を獲得した(分化誘導された)」状態、及び「分化した」状態のいずれかの状態にある場合を含む。
【0072】
好ましくは、本発明において「分化した/された」又は「分化した状態」とは、細胞が「分化の初期段階」の状態又は「将来分化する分化能を獲得した(分化誘導された)」状態のいずれかの状態にある場合である。
【0073】
本発明において「分化の初期段階」とは、分化誘導処理後の早期、具体的には分化誘導処理を行ってから7日目まで、好ましくは6日目まで、より好ましくは3〜5日目まで、の時期をいう。
【0074】
又は、本発明において「分化の初期段階」とは、未分化幹細胞が三胚葉のいずれかに分化する前の段階、及び分化誘導処理後未分化マーカー(例えばOCT3/4NANOGSOX2等)が消失する前の段階、を包含する。
【0075】
本発明の分化状態の判定方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。
(1)FOXB2 mRNAの発現を検出した結果に基づいて判定する方法
FOXB2 mRNAを検出した結果に基づいて判定する方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。
1)上記方法により被検細胞のFOXB2 mRNAの検出を行って、FOXB2 mRNAが検出された場合に、その被検細胞は分化した状態である、と判定される。
【0076】
2)被検細胞のFOXB2 mRNAの検出を行うと共に、比較として未分化状態であることが確認された未分化幹細胞を用いて同様にFOXB2 mRNAの検出を行う。そして、被検細胞のFOXB2 mRNAの検出量が、比較対象の未分化幹細胞のFOXB2 mRNAの検出量より多い場合に、その被検細胞は分化した状態である、と判定される。この時、被検細胞のFOXB2 mRNAの検出量が比較対象の未分化幹細胞のFOXB2 mRNAの検出量と比較して多いかどうかについては、両者を比較して相対的に判断すればよい。
【0077】
3)被検細胞のFOXB2 mRNAの検出量が比較対象の未分化幹細胞のFOXB2 mRNAの検出量と比較して多いかどうかについて、被検細胞のFOXB2 mRNAの検出量と、あらかじめ測定された未分化幹細胞のFOXB2 mRNAの検出量とを比較することによって実施してもよい。そして、被検細胞のFOXB2 mRNAの検出量が、あらかじめ測定された未分化幹細胞のFOXB2 mRNAの検出量より多い場合に、その被検細胞は分化した状態である、と判定される。
【0078】
4)被検細胞が分化した状態か否かを判断し得る境界値(カットオフ値)をあらかじめ設定しておき、被検細胞のFOXB2 mRNA検出量が当該境界値より高いかどうかで被検細胞の分化状態を判断してもよい。この場合、被検細胞のFOXB2 mRNAの検出量がカットオフ値よりも高い場合に、その被検細胞は分化した状態である、と判定される。
【0079】
(2)FOXB2蛋白質を検出した結果に基づいて判定する方法
FOXB2蛋白質を検出した結果に基づいて判定する方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。
1)上記方法により被検細胞のFOXB2蛋白質の検出を行って、FOXB2蛋白質が検出された場合に、その細胞が分化した状態である、と判定される。
【0080】
2)、被検細胞のFOXB2蛋白質の検出を行うと共に、比較として未分化状態であることが確認された未分化幹細胞を用いて同様にFOXB2蛋白質の検出を行う。そして、被検細胞のFOXB2蛋白質の検出量が、比較対象の未分化幹細胞のFOXB2蛋白質の検出量より多い場合に、その被検細胞は分化した状態である、と判定される。この時、被検細胞のFOXB2蛋白質の検出量が比較対象の未分化幹細胞のFOXB2蛋白質の検出量と比較して多いかどうかについては、両者を比較して相対的に判断すればよい。
【0081】
3)被検細胞のFOXB2蛋白質の検出量が比較対象の未分化幹細胞のFOXB2蛋白質の検出量と比較して多いかどうかについて、あらかじめ測定された未分化幹細胞のFOXB2蛋白質の検出量と、被検細胞のFOXB2蛋白質の検出量とを比較することによって実施してもよい。そして、被検細胞のFOXB2蛋白質の検出量が、あらかじめ測定された未分化幹細胞のFOXB2蛋白質の検出量より多い場合に、その被検細胞は分化した状態である、と判定される。
【0082】
4)更に、被検細胞が分化した状態か否かを判断し得る境界値(カットオフ値)をあらかじめ設定しておき、被検細胞のFOXB2蛋白質検出量が当該境界値より高いかどうかで被検細胞の分化状態を判断してもよい。この場合、被検細胞のFOXB2蛋白質の検出量がカットオフ値よりも高い場合に、その被検細胞は分化した状態である、と判定される。
【0083】
本発明の細胞の分化状態の判定方法を実施するには、具体的には例えば以下の方法で行えばよい。
【0084】
iPS細胞又はES細胞等の未分化幹細胞(被検細胞)を、公知の方法で分化誘導処理する。次いで分化誘導処理後上限は7日以内、好ましくは6日以内、より好ましくは5日以内、下限は1日以上、好ましくは2日以上、更に好ましくは3日以上培養した後に細胞を採取して、上記の方法でFOXB2遺伝子の発現(FOXB2 mRNAの発現、又はFOXB2蛋白質の発現)を検出する。そして、FOXB2遺伝子の発現が確認された場合に、その細胞は分化した状態である(「その細胞群の中に分化した状態の細胞が存在する」場合を含む。以下同じ。)と判定される。
【0085】
又は、被検細胞のFOXB2遺伝子の発現の検出(FOXB2 mRNA又はFOXB2蛋白質の検出)を行うと共に、比較として未分化状態であることが確認された未分化幹細胞を用いて同様にFOXB2遺伝子発現の検出を行う。そして、被検細胞のFOXB2遺伝子発現の検出量(FOXB2 mRNAの発現量、又はFOXB2蛋白質の発現量)が、比較対象の未分化幹細胞のFOXB2遺伝子発現の検出量より多い場合に、その被検細胞は分化した状態である、と判定される。
【0086】
また、あらかじめ測定された未分化幹細胞のFOXB2遺伝子発現の検出量(FOXB2 mRNA又はFOXB2蛋白質の検出量)と、被検細胞のFOXB2遺伝子発現の検出量とを比較して、被検細胞のFOXB2遺伝子発現の検出量が比較対象の未分化幹細胞のFOXB2遺伝子発現の検出量と比較して多い場合に、その被検細胞は分化した状態である、と判定される。
【0087】
さらに、被検細胞が分化した状態であるか否かを判断し得る境界値(カットオフ値)をあらかじめ設定しておき、被検細胞のFOXB2 mRNAの検出量又はFOXB2蛋白質の検出量が当該境界値より高い場合に、その被検細胞は分化した状態である、と判定される。
【0088】
更にまた、分化誘導処理を行っていない未分化幹細胞について、本発明の分化状態の判定方法を実施すれば、その未分化幹細胞が未分化状態を維持しているか否かを確認することもできる。
【0089】
(3)本発明の応用
本発明の細胞の分化状態の判定方法は、更に以下の方法に応用することができる。
【0090】
1)細胞のスクリーニング方法への応用
ある細胞群を含有する試料に対して、本発明の方法により細胞群を構成する細胞のFOXB2 mRNAを検出する。そして、FOXB2 mRNAが検出された場合にはその試料に分化した状態の細胞(「分化した状態」の意味は前記した通り。以下同じ。)が存在すると判定し、FOXB2 mRNAが検出されない場合にはその試料に分化した状態の細胞が存在しないと判定すればよい。又は、FOXB2蛋白質の発現を検出し、FOXB2蛋白質が検出された場合にはその試料に分化した状態の細胞が存在すると判定し、FOXB2蛋白質が検出されない場合にはその試料に分化した状態の細胞が存在しないと判定すればよい。
【0091】
2)幹細胞の品質管理への応用
公知の分化誘導処理を施した幹細胞に対して本発明の方法によりFOXB2遺伝子の発現を検出する(FOXB2 mRNA又はFOXB2蛋白質を検出する)ことにより、当該細胞が分化した状態にあるか、又は未分化幹細胞が混入している状態かを判定できる。そのため、本発明の方法は分化細胞の品質管理に応用することができる。
【0092】
また、未分化状態を維持する処理を施した幹細胞に対して、本発明の方法でFOXB2遺伝子の発現を検出する(FOXB2 mRNA又はFOXB2蛋白質を検出する)ことにより、当該細胞が未分化状態を維持しているかを確認できる。そのため、本発明の方法は未分化幹細胞の品質管理に応用することができる。
【0093】
3)培地の品質検査方法への応用
未分化幹細胞を、その未分化状態を維持したまま培養するためには、その培地が、例えば分化誘導因子を含まず、未分化細胞の未分化状態を維持したまま培養できる培地である必要がある。本発明の分化状態の判定方法を用いれば、そのような培地の品質検査を行うことができる。
【0094】
例えば、未分化幹細胞を判定対象の培地中で数日間、例えば3〜7日程度、通常は5〜6日程度培養した後、細胞のFOXB2 mRNAの発現を検出し、FOXB2 mRNAが検出されなかった場合に、当該培地が幹細胞の未分化状態を維持しながら培養できる培地であると判定することができる。又は培養後の当該細胞中のFOXB2蛋白質の発現を検出し、FOXB2蛋白質が検出されなかった場合に、当該培地が幹細胞の未分化状態を維持しながら培養できる培地であると判定することができる。
【0095】
4)分化細胞の調製・単離方法への応用
本発明の方法を応用して、分化細胞を調製・単離することができる。
【0096】
例えば、上記の「(2)FOXB2蛋白質の発現を検出する方法」に記載した「1)細胞を破壊しないで検出する方法」で、標識物質で標識した抗FOXB2蛋白質抗体を、分化した状態の細胞を含むか若しくは含むと予想される細胞と反応させた後、蛍光標識された細胞のみをフローサイトメトリーなどの方法により分離、精製すれば、分化した状態の細胞を調製・単離することができる。
更に、上記と同様の方法で、蛍光標識されていない細胞のみをフローサイトメトリーなどの方法により分離、製製すれば、未分化幹細胞を調製・単離することができる。
【0097】
5)分化誘導因子のスクリーニング方法への応用
本発明を、ある物質が未分化幹細胞の分化誘導能を有するか確認する方法に応用することができる。
【0098】
例えば、未分化幹細胞を、被検物質を含有する培地中で数日間、例えば3〜7日、通常は5〜6日程度培養した後、培養細胞のFOXB2 mRNAの発現を検出し、FOXB2 mRNAが検出された場合に、被検物質は未分化幹細胞の分化を誘導することが確認される。又は当該培養細胞中のFOXB2蛋白質の発現を検出し、FOXB2蛋白質が検出された場合に、被検物質は未分化幹細胞の分化を誘導することが確認される。
<II.本発明の分化マーカー>
【0099】
本発明の分化マーカーとしては、「FOXB2遺伝子由来のmRNAまたは蛋白質から選択される、分化マーカー。」が挙げられる。具体的には、本発明の分化マーカーは、幹細胞の分化マーカーである。幹細胞の具体例は上記した通りである。
【0100】
FOXB2遺伝子由来のmRNA又は蛋白質」としては、上記した本発明にかかるFOXB2 mRNA及びFOXB2 蛋白質が挙げられる。その具体例は、上記した通りである。
【0101】
より具体的には、例えば下記(i)〜(vii)から選択される分化マーカーが挙げられる。
(i)配列番号1若しくは配列番号34で表される塩基配列を有するmRNA
(ii)配列番号1若しくは配列番号34で表される塩基配列と70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、更により好ましくは97%以上の配列相同性を有する塩基配列を有するmRNA
(iii)配列番号2若しくは配列番号35で表されるアミノ酸配列をコードするmRNA
(iv)配列番号2若しくは配列番号35で表されるアミノ酸配列の1〜数個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸配列をコードするmRNA
(v)配列番号2若しくは配列番号35で表されるアミノ酸配列と70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、更により好ましくは97%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列をコードするmRNA
(vi)配列番号2若しくは配列番号35で表されるアミノ酸配列又はその1個若しくは数個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有する蛋白質
(vii)配列番号2若しくは配列番号35で表されるアミノ酸配列と70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、更により好ましくは97%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を有する蛋白質
が挙げられる。
【0102】
<III.本発明に係る分化状態判定用キット>
本発明に係る細胞の分化状態判定用キットとしては、FOXB2遺伝子の発現を検出する試薬を備えたキット、又はFOXB2遺伝子の発現量を測定する試薬を備えたキットが挙げられる。
【0103】
例えば、以下のものが挙げられる。
(a)FOXB2 mRNAの発現を検出するか又はその発現量を測定するために使用されるプライマー、又はそれらの標識物を備えたキット
(b)FOXB2蛋白質の発現を検出するか又はその発現量を測定するために使用されるFOXB2蛋白質に対する抗体(FOXB2蛋白質を認識する抗体、好ましくはFOXB2蛋白質に特異的に結合する抗体)又は該抗体の標識物等を備えたキット
【0104】
上記キットを構成する構成試薬の好ましい態様及び具体例は上記した通りである。
【0105】
上記(a)に係る「FOXB2 mRNAの発現を検出するか又はその発現量を測定するために使用されるプライマー」の例としては、例えば「配列番号1若しくは配列番号34で表される塩基配列又はその部分配列を検出するために用いられるプライマー」が挙げられる。
【0106】
より具体的には、例えば
(a−1)逆転写反応で得られたcDNAを鋳型としてPCRを行う際に用いられるプライマー対、又は
(a−2)逆転写反応に用いられる増幅プライマーと、逆転写反応で得られたcDNAを鋳型としてPCRを行う際に用いられるプライマー対の組合せ、が挙げられる。
【0107】
(a−1)のプライマー対を構成するプライマーは、必要に応じて少なくとも一方が標識物質で標識されていてもよい。
(a−1)のプライマー対の具体例としては、「配列番号9で表される塩基配列を有するプライマーと配列番号10で表される塩基配列を有するプライマーとのプライマー対」又は「配列番号45で表される塩基配列を有するプライマーと配列番号46で表される塩基配列を有するプライマーとのプライマー対」が挙げられる。
【0108】
(a−2)の具体例としては、「配列番号4で表されるプライマーと、配列番号9で表される塩基配列を有するプライマーと配列番号10で表される塩基配列を有するプライマーとのプライマー対、との組合せ」又は「配列番号37で表されるプライマーと、配列番号45で表される塩基配列を有するプライマーと配列番号46で表される塩基配列を有するプライマーとのプライマー対、との組合せ」が挙げられる。
【0109】
上記(b)に係る「FOXB2蛋白質の発現を検出するか又はその発現量を測定するために使用されるFOXB2蛋白質に対する抗体」の具体例は上記した通りである。
【0110】
例えば「配列番号2若しくは配列番号35で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質に対する抗体」が挙げられる。
【0111】
上記(a−1)又は(a−2)を構成要件として含むキットには、更にRT-PCR法に使用する逆転写酵素や、必要に応じて更に核酸合成酵素(DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ等)、酵素に応じた基質(dNTP、rNTPなど)、また二本鎖インターカレーター(SYBRTM Green、エチジウムブロマイドなど)あるいはFAMやTAMRA等の標識検出物質等を含んでいてもよい。
【0112】
また、上記(a−1)又は(a−2)を構成要件として含むキットには、例えば緩衝剤、安定化剤、防腐剤等であって、共存する試薬等の安定性を阻害せず、PCRやハイブリダイゼーション反応を阻害しないものが含まれていてもよい。また、その濃度も、通常この分野で通常用いられる濃度範囲から適宜選択すればよい。
【0113】
緩衝液の具体例を挙げると、例えばトリス緩衝液、リン酸緩衝液、ベロナール緩衝液、ホウ酸緩衝液、グッド緩衝液等、通常のPCRやハイブリダイゼーション反応を実施する場合に用いられている緩衝液は全て挙げられる。そのpHも特に限定されないが、例えば5〜9の範囲が挙げられる。
【0114】
上記(b)を構成要件として含むキットに含まれる試薬中には、通常この分野で用いられる試薬類、例えば緩衝剤、増感剤、界面活性剤、防腐剤(例えばアジ化ナトリウム、サリチル酸、安息香酸等)、安定化剤(例えばアルブミン、グロブリン、水溶性ゼラチン、界面活性剤、糖類等)、賦活剤、共存物質の影響回避剤その他この分野で用いられているものであって、共存する試薬との安定性を阻害したり、抗原抗体反応を阻害しないものを有していてもよい。またこれら試薬類等の濃度範囲等も、自体公知の該測定方法において通常用いられる濃度範囲等を適宜選択して用いればよい。緩衝剤等の具体例、そのpH及び濃度は上記した通りである。
【0115】
また、本発明に係る細胞の分化状態判定用キットに含まれる(a−1)、(a−2)(b−1)等は、適当な緩衝液中に懸濁させた懸濁液等の溶液状態のもの、若しくはこれを凍結した凍結品や凍結乾燥した凍結乾燥品であってもよい。この目的に用いられる緩衝剤等の具体例、そのpH及び濃度は上記した通りである。
【0116】
更にまた本発明のキットには、本発明に係る幹細胞のFOXB2遺伝子の発現(例えばFOXB2 mRNAの発現又はFOXB2蛋白質の発現)を検出する方法に使用するための説明書、又は本発明の細胞の分化状態を判定する方法を実施するための説明書等を含ませておいてもよい。当該「説明書」とは、当該方法における特徴・原理・操作手順、判定手順等が文章又は図表等により実質的に記載されている当該キットの取扱説明書、添付文書、あるいはパンフレット(リーフレット)等を意味する。
【0117】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0118】
実施例1.
分化誘導処理したhiPS細胞の、FOXB2 mRNA及び公知の未分化マーカーの発現を、RT-PCR法により検出した。
(1)幹細胞の培養と分化誘導処理
hiPS細胞(201B7株、京都大学iPS 細胞研究所(iPSアカデミアジャパン株式会社))、及び比較として、分化した細胞であるHDF細胞(ヒト正常細胞由来繊維芽細胞、ロンザジャパン(株)製)を、bFGF添加(100ng/mL)又は無添加の培地(StemSure hPSC Medium、和光純薬工業(株)製)で3回継代培養し、培養5日目に細胞を回収した。
【0119】
(2)Total RNA の抽出
市販の核酸抽出試薬であるキットISOGEN(ニッポンジーン製)を用い、現品説明書に従って、上記(1)で回収した細胞から、Total RNAを抽出した。
【0120】
(3)DNase処理
上記(2)で抽出したTotal RNAの1μgに、全量17μLになるように蒸留水を加え、10X Reaction Buffer(プロメガ(株)製)を2μL、RQ1 RNase-Free DNase(プロメガ(株)製)を1μL(1U)を加え混合し、37℃、20分間インキュベートした。その後、Stop Buffer(20mM EGTA)(プロメガ(株)製)を1μL加え混合し、65℃、10分間インキュベートした。その後、反応物に結合Buffer(5.5Mグアニジン塩酸塩(和光純薬工業(株)製)、20mM Tris-HCl pH6.6)を100μL加え混合した後、エコノスピン(核酸精製用シリカメンブレンスピンカラム、(株)ジーンデザイン製)に移し、12000×g、室温、1分間遠心分離し、チューブの溶液を除去した。次いで、チューブに洗浄Buffer(2mM Tris-HCl pH7.5((株)ニッポンジーン)、80% エタノール(和光純薬工業(株)製))を500μL添加し、12000×g、室温、1分間遠心分離し、チューブの溶液を除去した。更に12000×g、室温、1分間遠心分離した後、エコノスピン(mRNAが結合している)を新しいチューブに交換し、溶出Buffer(10mMTris-HCl pH8.0)(ニッポンジーン(株)製)を50μL添加し、12000×g、室温、1分間遠心分離してTotal RNAを回収した。その後、エタノール沈殿を行い、得られた沈殿物を蒸留水9.5μLに溶解した。
【0121】
(4)逆転転写反応
上記(3)でDNase処理したTotal RNA 9.5μLに、下記の各mRNAを標的とする増幅プライマーを含む混合Primer(各5μM)1μLを加えた。下記プライマーは、すべてシグマアルドリッチ社製である。
【0122】
FOXB2 mRNAの増幅プライマー、CAGAAGCTACCCTTGCCAG (配列番号4、GenBank Accession No. NM_001013735 : 242-260(GenBank Accession No. NM_001013735の塩基配列の242-260番目の塩基配列の相補鎖の塩基配列に相当する。以下同じ。))、
OCT3/4 mRNAの増幅プライマー、GTTCTTGAAGCTAAGCTGCAG (配列番号5、GenBank Accession No. NM_002701 : 641-661)、
NANOG mRNAの増幅プライマー、GTTCTGGAACCAGGTCTTCAC (配列番号6、GenBank Accession No. NM_024865 : 631-651)、
SOX2 mRNAの増幅プライマー、GACCACACCATGAAGGCATTC (配列番号7、GenBank Accession No. NM_003106 : 572-592)、
GAPDH mRNAの増幅プライマー、GTCTACATGGCAACTGTGAGG (配列番号8、GenBank Accession No. NM_002046 : 1303-1323)
(GAPDH:グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)
【0123】
それぞれの混合物を、72℃、3分間インキュベートした後、直ちに氷冷した。次いで、5×Buffer(東洋紡(株)製)4μL、2.5mM dNTPs(ニッポンジーン(株)製)4μL、RNase Inhibitor, super(和光純薬工業(株)製)0.5μL(20U)、ReverTra Ace(東洋紡(株)製)1μL(100U)加え混合し、42℃、50分間インキュベートした。その後、結合Buffer(5.5Mグアニジン塩酸塩(和光純薬工業(株)製)、20mM Tris-HCl pH6.6(和光純薬工業(株)製))を100μL加え混合し、エコノスピン(核酸精製用シリカメンブレンスピンカラム、(株)ジーンデザイン製)に移し、12000×g、室温、1分間遠心分離し、チューブの溶液を除去した。その後、洗浄Buffer(2mM Tris-HCl pH7.5(ニッポンジーン(株)製)、80%エタノール(和光純薬工業(株)製))を500μL添加し、12000×g、室温、1分間遠心分離し、チューブの溶液を除去した。その後、更に12000×g、室温、1分間遠心分離した後、新しいチューブに交換し、溶出Buffer(10mMTris-HCl pH8.5)(ニッポンジーン(株)製)を25μL添加し、12000×g、室温、1分間遠心分離して、得られた沈殿物を蒸留水 1μLに溶解させてcDNAを回収した。
【0124】
なお、本実験系にゲノムDNAが混在していないことを確認するために、同じ試料を用い、RTase(ReverTra Ace(東洋紡(株)製)、逆転写酵素)を加えない以外は上記と同様の反応を行った。
【0125】
(5)PCR反応
上記(4)で得られたcDNA 1μLと、蒸留水5μL、2×PCR Buffer for KOD FX Neo (東洋紡)12.5μL、2 mM dNTPs(東洋紡)4μL、KOD FX Neo(東洋紡)0.5μL(0.5U)、各フォワードプライマー(10μM)1μL、各リバースプライマー(10μM)1μLを混合した。
【0126】
使用した各プライマーの塩基配列は、以下の通りである。下記プライマーは、すべてシグマアルドリッチ社製である。
【0127】
FOXB2 cDNA、GenBank Accession No. NM_001013735 : 45-67、201-223
フォワードプライマー: CTACTCTTACATCTCGCTGACCG(配列番号9)
リバースプライマー: GAATCTTGATGAAGCAGTCGTTG(配列番号10)
増幅鎖長 : 179bp
※配列番号9のフォワードプライマーと配列番号10のリバースプライマーは、それぞれFOXB2 cDNA、GenBank Accession No. NM_001013735の45-67番目の塩基配列及び、201-223番目の塩基配列をもとに設計された。以下同じ。
【0128】
よって、このプライマーペアを用いた核酸増幅反応により、FOXB2遺伝子(配列番号1で表される塩基配列)の45〜223番目の、179bpの領域(配列番号3)(GenBank Accession No. NM_001013735.1のposition 45-223)が増幅される。
【0129】
OCT3/4 cDNA、GenBank Accession No. NM_002701 : 340-361、515-535
フォワードプライマー: CTTGGAGACCTCTCAGCCTGAG(配列番号11)
リバースプライマー: CTTCAGGAGCTTGGCAAATTG(配列番号12)
増幅鎖長 : 196bp
【0130】
NANOG cDNA、GenBank Accession No. NM_024865 : 284-305、528-550
フォワードプライマー: CACCTATGCCTGTGATTTGTGG(配列番号13)
リバースプライマー: CATTGAGTACACACAGCTGGGTG(配列番号14)
増幅鎖長 : 267bp
【0131】
SOX2 cDNA、GenBank Accession No. NM_003106 : 31-54、443-464
フォワードプライマー: GTATCAGGAGTTGTCAAGGCAGAG(配列番号15)
リバースプライマー: CAGCTCCGTCTCCATCATGTTG(配列番号16)
増幅鎖長 : 434bp
【0132】
GAPDH cDNA、GenBank Accession No. NM_002046 : 240-260、618-638
フォワードプライマー: GTCACCAGGGCTGCTTTTAAC(配列番号17)
リバースプライマー: GGCATTGCTGATGATCTTGAG(配列番号18)
増幅鎖長 : 399bp
【0133】
それぞれの混合物をサーマルサイクラーにセットし94℃ 2分間、98℃ 10秒間→56℃ 20秒間→68℃ 30秒間をOCT3/4 cDNA、NANOG cDNA、SOX2 cDNA及びFOXB2 cDNAを増幅させる場合は28サイクル、GAPDH cDNAを増幅させる場合は20サイクル行った後、68℃ 2分間反応させた。
【0134】
(6)電気泳動
上記(5)で得られたPCR増幅産物5μLと、6×Loading Buffer Double Dye(ニッポンジーン(株)製)1μLとを混合し、これを1.5%アガロースゲルにて電気泳動した。染色はGelRed核酸ゲル染色液(和光純薬工業(株)製)にて行った。
【0135】
なお、上記(4)でRTaseを加えないで反応を行って得られた反応物についても、上記の(5)〜(6)の処理を行った。
【0136】
(7)結果
結果を図1に併せて示す。
【0137】
図1の結果から明らかな通り、一般的によく確認されている未分化マーカーであるOCT3/4 mRNA(図1(3))、NANOG mRNA(図1(4))及びSOX2 mRNA(図1(5))は、未分化・多能性を維持している状態のhiPS細胞(hiPS・bFGF(+)・RTase(+)の場合)では発現していた。また、分化誘導処理後5日目のhiPS細胞(hiPS・bFGF(-)・RTase(+)の場合)でも、まだ発現している(バンドが確認された)ことが確認された。しかし、OCT3/4 mRNA、NANOG mRNA及びSOX2 mRNAは、分化した細胞であるHDF細胞では発現していなかった。
【0138】
一方、FOXB2 mRNA(図1(1))は、分化誘導処理後5日目のhiPS細胞(hiPS・bFGF(-)・RTase(+)の場合)では発現している(バンドが確認された)ことが確認された。しかし、FOXB2 mRNAは、未分化・多能性を維持している状態のhiPS細胞(hiPS・bFGF(+)・RTase(+)の場合)と、分化した細胞(特に分化が完了した細胞)であるHDF細胞では発現していなかった。
【0139】
なお、すべてのmRNAの検出結果でRTase(-)の場合にバンドが確認されなかったことから、本実験系には、ゲノムDNAの混入が無いことが確認された。
【0140】
また、GAPDH mRNAの検出結果(図1(2))を見ると、“hiPS・bFGF(+)・RTase(+)”、“hiPS・bFGF(-)・RTase(+)”、“HDF・RTase(+)”の場合にバンドが確認され、“hiPS・bFGF(+)・RTase(-)”、“hiPS・bFGF(-)・RTase(-)”、“DF・RTase(-)”の場合にバンドが確認されなかった。このことから本実験系ではmRNAは分解されていないことが確認された。
【0141】
従って、FOXB2 mRNAが分化マーカーとして有用であり、FOXB2 mRNAを検出することで、細胞の分化状態を判定することができることが明らかになった。また、一般的に測定されている未分化マーカー(OCT3/4, NANOG, SOX2)の発現の変化が検出されていない段階でも顕著にFOXB2 mRNAの発現が検出されたことから、FOXB2 mRNAは、従来の未分化マーカーよりも分化の初期段階で細胞の分化状態を判定できることがわかった。
【0142】
実施例2.
(1)幹細胞の培養と分化誘導処理
hiPS細胞(201B7株、京都大学iPS 細胞研究所(iPSアカデミアジャパン株式会社))をbFGF添加又は無添加の培地(StemSure hPSC Medium、和光純薬工業(株)製)で培養し、培養3日目、5日目、7日目に、細胞を回収した。
【0143】
また、比較として及び分化した細胞であるHDF細胞(ヒト正常細胞由来繊維芽細胞、ロンザジャパン(株)製)をMEM培地(+10%FBS)(和光純薬工業(株)製)で培養し、培養7日目に細胞を回収した。
【0144】
(2)Total RNA の抽出
実施例1(2)と同様の方法で、上記(1)で回収した培養3日目、5日目、7日目の細胞から、それぞれTotal RNAを抽出した。
【0145】
また、比較としてHMSC-bm細胞(ヒト骨髄由来間葉系幹細胞)のTOTAL RNA(ScienCell Research Laboratories社製)を用いた。
【0146】
(3)DNase処理
実施例1(3)と同様の方法で上記(2)で抽出したTotal RNA、及びHMSC-bm細胞のTOTAL RNAの1μgを、それぞれDNAase処理した。
【0147】
(4)逆転転写反応
上記(3)でDNase処理したTotal RNA 9.5μLに、下記のプライマーを含む混合Primer(各5μM)1μLを加えた。下記プライマーは、すべてシグマアルドリッチ社製である。
【0148】
FOXB2 mRNAの増幅プライマー、CAGAAGCTACCCTTGCCAG (配列番号4、GenBank Accession No. NM_001013735 : 242-260)、
OCT3/4 mRNAの増幅プライマー、GTTCTTGAAGCTAAGCTGCAG (配列番号5、GenBank Accession No. NM_002701 : 641-661)、
NANOG mRNAの増幅プライマー、GTTCTGGAACCAGGTCTTCAC (配列番号6、GenBank Accession No. NM_024865 : 631-651)、
SOX2 mRNAの増幅プライマー、GACCACACCATGAAGGCATTC (配列番号7、GenBank Accession No. NM_003106 : 572-592)、
GAPDH mRNAの増幅プライマー、GTCTACATGGCAACTGTGAGG (配列番号8、GenBank Accession No. NM_002046 : 1303-1323)
【0149】
それぞれの混合物について、実施例1(4)と同様の方法で、逆転写反応を行い、それぞれcDNAを回収した。
【0150】
(5)PCR反応
上記(4)で得られたcDNA 1μL、蒸留水5μL、2×PCR Buffer for KOD FX Neo(東洋紡(株)製)12.5μL、2 mM dNTPs(東洋紡(株)製)4μL、KOD FX Neo(東洋紡(株)製)0.5μL(0.5U)、各Forward primer(10μM)1μL、各Reverse primer(10μM)1μLを混合した。
【0151】
使用した各Primerの塩基配列は、以下の通りである。下記プライマーは、すべてシグマアルドリッチ社製である。
【0152】
FOXB2 cDNA、GenBank Accession No. NM_001013735 : 45-67、201-223
フォワードプライマー: CTACTCTTACATCTCGCTGACCG(配列番号9)
リバースプライマー: GAATCTTGATGAAGCAGTCGTTG(配列番号10)
増幅鎖長 : 179bp
【0153】
OCT3/4 cDNA、GenBank Accession No. NM_002701 : 340-361、515-535
フォワードプライマー: CTTGGAGACCTCTCAGCCTGAG(配列番号11)
リバースプライマー: CTTCAGGAGCTTGGCAAATTG(配列番号12)
増幅鎖長 : 196bp
【0154】
NANOG cDNA、GenBank Accession No. NM_024865 : 284-305、528-550
フォワードプライマー: CACCTATGCCTGTGATTTGTGG(配列番号13)
リバースプライマー: CATTGAGTACACACAGCTGGGTG(配列番号14)
増幅鎖長 : 267bp
【0155】
SOX2 cDNA、GenBank Accession No. NM_003106 : 31-54、443-464
フォワードプライマー: GTATCAGGAGTTGTCAAGGCAGAG(配列番号15)
リバースプライマー: CAGCTCCGTCTCCATCATGTTG(配列番号16)
増幅鎖長 : 434bp
【0156】
GAPDH cDNA、GenBank Accession No. NM_002046 : 240-260、618-638
フォワードプライマー: GTCACCAGGGCTGCTTTTAAC(配列番号17)
リバースプライマー: GGCATTGCTGATGATCTTGAG(配列番号18)
増幅鎖長 : 399bp
【0157】
それぞれの混合物をサーマルサイクラーにセットし94℃ 2分間、98℃ 10秒間→56℃ 20秒間→68℃ 30秒間をOCT3/4 cDNA、NANOG cDNA、SOX2 cDNA及びFOXB2 cDNAを増幅させる場合は28サイクル、GAPDH cDNAを増幅させる場合は20サイクル行った後、68℃ 2分間反応させた。
【0158】
(6)電気泳動
PCR増幅産物5μLと、6×Loading Buffer Double Dye(ニッポンジーン(株)製)1μLとを混合し、これを1.5%アガロースゲルにて電気泳動した。染色はGelRed核酸ゲル染色液(和光純薬工業(株)製)にて行った。
【0159】
なお、上記(4)でRTaseを加えないで反応を行って得られた反応物についても、上記の(5)〜(6)の処理を行った。
【0160】
(7)結果
結果を図2に併せて示す。
【0161】
図2の結果から明らかな通り、hiPS細胞をbFGF無添加培地で培養して分化誘導処理した場合、FOXB2 mRNAは、培養期間が長くなるのに比例して、発現量が増加した。
【0162】
これに対し、FOXB2 mRNA以外の公知の未分化マーカー(OCT3/4 mRNA, NANOG mRNA, SOX2 mRNA, GAPDH mRNA)は、bFGF無添加培地で培養して分化誘導処理しても、分化誘導処理後7日までは、まだ消失せずに発現していることが確認された。
【0163】
一方、HMSC-bm(ヒト骨髄由来間葉系幹細胞)をbFGF無添加培地で培養しても、FOXB2 mRNAの発現も、公知の未分化マーカー(OCT3/4 mRNA, NANOG mRNA, SOX2 mRNA, GAPDH mRNA)の発現も確認されなかった。HMSC-bmは、幹細胞(RS細胞)から中胚葉を経て形成される体性幹細胞である。このことから、未分化幹細胞の分化がこの程度まで進んでしまうと、FOXB2 mRNAは発現しなくなること、言い換えればFOXB2 mRNAは細胞の分化の初期に特異的に発現することが推察される。
【0164】
また、培養5日目のHDF細胞は、FOXB2 mRNAの発現も、公知の未分化マーカー(OCT3/4 mRNA, NANOG mRNA, SOX2 mRNA, GAPDH mRNA)の発現も確認されなかった。
【0165】
なお、すべてのmRNAの検出結果でRTase(-)の場合にバンドが確認されなかったことから、本実験系には、ゲノムDNAの混入が無いことが確認された。また、GAPDH mRNAは、RTase(+)の全ての場合で検出されているので、この本実験系ではmRNAは分解されず、mRNAの発現を正しく検出できていることが確認された。
【0166】
以上の結果から明らかな通り、FOXB2 mRNAの発現が、一般的に測定されている未分化マーカー(OCT3/4, NANOG, SOX2)の発現の変化が検出されるよりも早く検出された。このことから、FOXB2 mRNAは細胞の分化の初期段階の分化マーカーとして、特に有用であること、言い換えれば、FOXB2 mRNAの発現を検出することで、細胞の分化の状態を、分化の初期段階で判定することができることが明らかになった。
【0167】
実施例3.
(1)幹細胞の培養と分化誘導処理
hiPS細胞(201B7株、京都大学iPS 細胞研究所(iPSアカデミアジャパン株式会社))、及び比較として、分化した細胞であるHDF細胞(ヒト正常細胞由来繊維芽細胞、ロンザジャパン(株)製)を、bFGF添加(100ng/mL)又は無添加の培地(StemSure hPSC Medium、和光純薬工業(株)製)で3回継代培養し、培養6日目に細胞を回収した。
【0168】
(2)Total RNA の抽出
市販の核酸抽出試薬であるキットISOGEN((株)ニッポンジーン製)を用い、現品説明書に従って、上記(1)で回収した細胞から、Total RNAを抽出した。
【0169】
(3)DNase処理
実施例1(3)と同様の方法で、上記(2)で抽出したTotal RNAの1μgを、それぞれDNase処理した。
【0170】
(4)逆転転写反応
上記(3)でDNase処理したTotal RNA 9.5μLに、下記の各mRNAを標的とする増幅プライマーを含む混合Primer(各5μM)1μLを加えた。下記プライマーは、すべてシグマアルドリッチ社製である。
FOXB2 mRNAの増幅プライマー、CAGAAGCTACCCTTGCCAG(配列番号4、GenBank Accession No. NM_001013735 : 242-260)
OCT3/4 mRNAの増幅プライマー、GTTCTTGAAGCTAAGCTGCAG(配列番号5、GenBank Accession No. NM_002701 : 641-661)
NANOG mRNAの増幅プライマー、GTTCTGGAACCAGGTCTTCAC(配列番号6、GenBank Accession No. NM_024865 : 631-651)
SOX2 mRNAの増幅プライマー、GACCACACCATGAAGGCATTC(配列番号7、GenBank Accession No. NM_003106 : 572-592)
FGF5 mRNAの増幅プライマー、 CTCCCTGAACTTGCAGTCATC(配列番号19、GenBank Accession No. NM_004464 : 709-729)
CDX2 mRNAの増幅プライマー、CCTGAGGAGTCTAGCAGAGTC(配列番号20、GenBank Accession No. NM_001265 : 1359-1379)
GATA4 mRNAの増幅プライマー、GATTACGCAGTGATTATGTCCC(配列番号21、GenBank Accession No. NM_001308094 : 1110-1131)
・GATA6 mRNAの増幅プライマー、CATCTTGACCCGAATACTTGAG(配列番号22、GenBank Accession No. NM_005257 : 1961-1982)
SOX17 mRNAの増幅プライマー、CCCAGGAGTCTGAGGATTTCC(配列番号23、GenBank Accession No. NM_022454 : 1515-1535)
GAPDH mRNAの増幅プライマー、GTCTACATGGCAACTGTGAGG(配列番号8、GenBank Accession No. NM_002046 : 1303-1323)
【0171】
それぞれの混合物を、72℃、3分間インキュベートした後、直ちに氷冷した。次いで、5×Buffer(東洋紡(株)製)4μL、2.5mM dNTPs((株)ニッポンジーン製)4μL、RNase Inhibitor, super(和光純薬工業(株)製)0.5μL(20U)、ReverTra Ace(東洋紡(株)製)1μL(100U)加え混合し、42℃、50分間インキュベートした。その後、結合Buffer(5.5Mグアニジン塩酸塩(和光純薬工業(株)製)、20mM Tris-HCl pH6.6(和光純薬工業(株)製))を100μL加え混合し、エコノスピン((株)ジーンデザイン製)に移し、12000×g、室温、1分間遠心分離し、チューブの溶液を除去した。その後、洗浄Buffer(2mM Tris-HCl pH7.5((株)ニッポンジーン製)、80%エタノール(和光純薬工業(株)製)を500μL添加し、12000×g、室温、1分間遠心分離し、チューブの溶液を除去した。その後、更に12000×g、室温、1分間遠心分離した後、新しいチューブに交換し、溶出Buffer(10mMTris-HCl pH8.5)((株)ニッポンジーン製)を25μL添加し、12000×g、室温、1分間遠心分離して、得られた沈殿物を蒸留水 1μLに溶解させてcDNAを回収した。
【0172】
(5)PCR反応
上記(4)で得られたcDNA 1μL、蒸留水5μL、2× PCR Buffer for KOD FX Neo(東洋紡(株)製)12.5μL、2 mM dNTPs(東洋紡(株)製)4μL、KOD FX Neo(東洋紡(株)製)0.5μL(0.5U)、各Forward primer(10μM)1μL、各Reverse primer(10μM)1μLを混合した。
【0173】
使用した各Primerの塩基配列は、以下の通りである。下記プライマーは、すべてシグマアルドリッチ社製である。
【0174】
FOXB2 cDNA、GenBank Accession No. NM_001013735 : 45-67、201-223
Forward primer : CTACTCTTACATCTCGCTGACCG(配列番号9)
Reverse primer : GAATCTTGATGAAGCAGTCGTTG(配列番号10)
増幅鎖長 : 179bp
【0175】
OCT3/4 cDNA、GenBank Accession No. NM_002701 : 340-361、515-535
Forward primer : CTTGGAGACCTCTCAGCCTGAG(配列番号11)
Reverse primer : CTTCAGGAGCTTGGCAAATTG(配列番号12)
増幅鎖長 : 196bp
【0176】
NANOG cDNA、GenBank Accession No. NM_024865 : 284-305、528-550
Forward primer : CACCTATGCCTGTGATTTGTGG(配列番号13)
Reverse primer : CATTGAGTACACACAGCTGGGTG(配列番号14)
増幅鎖長 : 267bp
【0177】
SOX2 cDNA、GenBank Accession No. NM_003106 : 31-54、443-464
Forward primer : GTATCAGGAGTTGTCAAGGCAGAG(配列番号15)
Reverse primer : CAGCTCCGTCTCCATCATGTTG(配列番号16)
増幅鎖長 : 434bp
【0178】
FGF5 cDNA、GenBank Accession No. NM_004464 : 462-482、615-637
Forward primer : GCAGAGCAGTTTCCAGTGGAG(配列番号24)
Reverse primer : GTATTCCTACAATCCCCTGAGAC(配列番号25)
増幅鎖長 :176bp
【0179】
CDX2 cDNA、GenBank Accession No. NM_001265 : 923-944、1176-1196
Forward primer : CAAATATCGAGTGGTGTACACG(配列番号26)
Reverse primer : GACACTTCTCAGAGGACCTGG(配列番号27)
増幅鎖長 :274bp
【0180】
GATA4 cDNA、GenBank Accession No. NM_001308094 : 795-816、1020-1040
Forward primer : CAGCTCCTTCAGGCAGTGAGAG(配列番号28)
Reverse primer : CGGGAGACGCATAGCCTTGTG(配列番号29)
増幅鎖長 :246bp
【0181】
GATA6 cDNA、GenBank Accession No. NM_005257 : 1682-1703、1842-1864
Forward primer : GCTTGTGGACTCTACATGAAAC(配列番号30)
Reverse primer : GCTGCAATCATCTGAGTTAGAAG(配列番号31)
増幅鎖長 :183bp
【0182】
SOX17 cDNA GenBank Accession No. NM_022454 : 1286-1306、1490-1511
Forward primer : CGGAATTTGAACAGTATCTGC(配列番号32)
Reverse primer : GCTCCTCCAGGAAGTGTGTAAC(配列番号33)
増幅鎖長 :226bp
【0183】
GAPDH cDNA、GenBank Accession No. NM_002046 : 240-260、618-638
Forward primer : GTCACCAGGGCTGCTTTTAAC(配列番号17)
Reverse primer : GGCATTGCTGATGATCTTGAG(配列番号18)
増幅鎖長 : 399bp
【0184】
それぞれの混合物をサーマルサイクラーにセットし94℃ 2分間、98℃ 10秒間→56℃ 20秒間→68℃ 30秒間をOCT3/4 cDNA、NANOG cDNA及びSOX2 cDNAを増幅させる場合は24サイクル、FOXB2 cDNA、FGF5 cDNA、GATA4 cDNA、GATA6 cDNA及びSOX17 cDNAを増幅させる場合は28サイクル、GAPDH cDNAを増幅させる場合は20サイクル、68℃ 2分間反応させた。
【0185】
(6)電気泳動
上記(5)で得られたPCR増幅産物5μLと、6×Loading Buffer Double Dye((株)ニッポンジーン製)1μLとを混合し、これを1.5%アガロースゲルにて電気泳動した。染色はGelRed核酸ゲル染色液(和光純薬工業(株)製)にて行った。
【0186】
なお、上記(4)でRTaseを加えないで反応を行って得られた反応物についても、上記の(5)〜(6)の処理を行った。
【0187】
(7)結果
結果を図3に併せて示す。
【0188】
図3の結果から明らかな通り、hiPS細胞をbFGF無添加培地で培養して分化誘導した場合、分化誘導後(hiPS・bFGF(-)・RTase(+)の場合)6日目でも、未分化マーカーであるOCT3/4 mRNA、NANOG mRNA及びSOX2 mRNAは、まだ発現している(バンドが確認された)ことが確認された。
【0189】
また、公知の分化マーカーであるFGF5 mRNA(外胚葉分化マーカー)、CDX2 mRNA(外胚葉分化マーカー)、GATA4 mRNA(内胚葉分化マーカー)、GATA6 mRNA(内胚葉分化マーカー)、SOX7 mRNA(内胚葉分化マーカー)、SSEA-1 mRNA(分化マーカー)は、分化誘導処理後6日目のhiPS細胞では、まだ発現していない(バンドが確認されなかった)ことが確認された。
【0190】
一方、FOXB2 mRNAは、分化誘導処理後6日目のhiPS細胞(hiPS・bFGF(-)・RTase(+)の場合)では発現している(バンドが確認された)ことが確認された。
【0191】
なお、すべてのmRNAの検出結果でRTase(-)の場合にバンドが確認されなかったことから、本実験系には、ゲノムDNAの混入が無いことが確認された。
【0192】
また、GAPDH mRNAの検出結果を見ると、“hiPS・bFGF(+)・RTase(+)”、“hiPS・bFGF(-)・RTase(+)”、“HDF・RTase(+)”の場合にバンドが確認され、“hiPS・bFGF(+)・RTase(-)”、“hiPS・bFGF(-)・RTase(-)”、“DF・RTase(-)”の場合にバンドが確認されなかった。このことから本実験系ではmRNAは分解されていないことが確認された。
【0193】
従って、FOXB2 mRNAが分化マーカーとして有用であり、FOXB2 mRNAを検出することで、細胞の分化状態を判定することができることが明らかになった。また、一般的な未分化マーカー(OCT3/4, NANOG, SOX2)の発現の変化が検出されていない段階でも顕著にFOXB2 mRNAの発現が検出された。
【0194】
更に、現在最も有望な分化マーカーとして知られているFGF5 mRNAがまだ発現していない段階で、FOXB2 mRNAの発現が検出された。すなわち、FOXB2 mRNAは、従来の分化マーカや未分化マーカーよりも分化の早い段階(初期段階)で、細胞の分化状態を判定できることがわかった。
【0195】
以上のことから、FOXB2 mRNAは従来の分化・未分化マーカーよりも極めて有用な分化マーカーであることが明らかになった。また、培養初期で分化した細胞を判定できることから、細胞の早期スクリーニングや幹細胞の品質管理等に有用であり、培養期間の短縮、培地代の経費削減などが期待できる。
【0196】
実施例4.
マウスES細胞をLIF無添加培地で培養して分化誘導処理し、FOXB2 mRNA及び公知の未分化マーカーの発現を、RT-PCR法により検出した。
【0197】
(1)幹細胞の培養と分化誘導処理
mES細胞(D3株、ATCC、b723512)を、LIF添加(1000Unit)又は無添加の培地(StemSure DMEM、StemSure Serum replacement、MEM非必須アミノ酸溶液、L-グルタミン溶液、StemSure 2-メルカプトエタノール溶液、和光純薬工業(株)製)で3回継代培養し、培養3日目、5日目、7日目、に細胞を回収した。
【0198】
(2)Total RNA の抽出
市販の核酸抽出試薬であるキットISOGEN((株)ニッポンジーン製)を用い、現品説明書に従って、上記(1)で回収した細胞から、Total RNAを抽出した。
【0199】
(3)DNase処理
上記(2)で抽出したTotal RNAの1μgに、全量17μLになるように蒸留水を加え、10X Reaction Buffer(プロメガ(株)製)を2μL、RQ1 RNase-Free DNase(プロメガ(株)製)を1μL(1U)を加え混合し、37℃、20分間インキュベートした。その後、Stop Buffer(20mM EGTA)(プロメガ(株)製)を1μL加え混合し、65℃、10分間インキュベートした。その後、反応物に結合Buffer(5.5Mグアニジン塩酸塩(和光純薬工業(株)製)、20mM Tris-HCl pH6.6)を100μL加え混合した後、エコノスピン(核酸精製用シリカメンブレンスピンカラム、(株)ジーンデザイン製)に移し、12000×g、室温、1分間遠心分離し、チューブの溶液を除去した。次いで、チューブに洗浄Buffer(2mM Tris-HCl pH7.5((株)ニッポンジーン製)、80% エタノール(和光純薬工業(株)製)を500μL添加し、12000×g、室温、1分間遠心分離し、チューブの溶液を除去した。更に12000×g、室温、1分間遠心分離した後、エコノスピン(mRNAが結合している)を新しいチューブに交換し、溶出Buffer(10mMTris-HCl pH8.0)((株)ニッポンジーン製)を50μL添加し、12000×g、室温、1分間遠心分離してTotal RNAを回収した。その後、エタノール沈殿を行い、得られた沈殿物を蒸留水9.5μLに溶解した。
【0200】
(4)逆転転写反応
上記(3)でDNase処理したTotal RNA 9.5μLに、下記の各mRNAを標的とする増幅プライマーを含む混合Primer(各5μM)1μLを加えた。下記プライマーは、すべてシグマアルドリッチ社製である。
Foxb2 mRNAの増幅プライマー、CATGATGAACTTGTAGATGTC(配列番号37、GenBank Accession No. NM_008023 : 302-322)
Oct3/4 mRNAの増幅プライマー、CATGTTCTTAAGGCTGAGCTGC(配列番号38、GenBank Accession No. NM_013633 : 617-638)
Nanog mRNAの増幅プライマー、CTGAATCAGACCATTGCTAGTC(配列番号39、GenBank Accession No. NM_028016 : 388-408)
Sox2 mRNAの増幅プライマー、CAACGATATCAACCTGCATGG(配列番号40、GenBank Accession No. NM_011443 : 2120-2140)
Klf2 mRNAの増幅プライマー、GAACTGGTGGCAGAGTCATTTTC(配列番号41、GenBank Accession No. NM_008452 : 1205-1227)
Esrrb mRNAの増幅プライマー、GATTCGAGACGATCTTAGTCAATG(配列番号42、GenBank Accession No. NM_011934 : 957-980)
Fgf5 mRNAの増幅プライマー、GACGCATAGGTATTATAGCTG(配列番号43、GenBank Accession No. NM_010203 : 729-749)
Gapdh mRNAの増幅プライマー、CTTGATGTCATCATACTTGGC(配列番号44、GenBank Accession No. NM_001289726 :843-863)
【0201】
それぞれの混合物を、72℃、3分間インキュベートした後、直ちに氷冷した。次いで、5×Buffer(東洋紡(株)製)4μL、2.5mM dNTPs((株)ニッポンジーン製)4μL、RNase Inhibitor, super(和光純薬工業(株)製)0.5μL(20U)、ReverTra Ace(東洋紡(株)製)1μL(100U)加え混合し、42℃、50分間インキュベートした。その後、結合Buffer(5.5Mグアニジン塩酸塩(和光純薬工業(株)製)、20mM Tris-HCl pH6.6(和光純薬工業(株)製)を100μL加え混合し、エコノスピン((株)ジーンデザイン製)に移し、12000×g、室温、1分間遠心分離し、チューブの溶液を除去した。その後、洗浄Buffer(2mM Tris-HCl pH7.5((株)ニッポンジーン製)、80%エタノール(和光純薬工業(株)製)を500μL添加し、12000×g、室温、1分間遠心分離し、チューブの溶液を除去した。その後、更に12000×g、室温、1分間遠心分離した後、新しいチューブに交換し、溶出Buffer(10mMTris-HCl pH8.5)((株)ニッポンジーン製)を25μL添加し、12000×g、室温、1分間遠心分離して、得られた沈殿物を蒸留水1μLに溶解させてcDNAを回収した。
【0202】
(5)PCR反応
上記(4)で得られたcDNA 1μL、蒸留水5μL、2× PCR Buffer for KOD FX Neo(東洋紡(株)製)12.5μL、2 mM dNTPs(東洋紡(株)製)4μL、KOD FX Neo(東洋紡(株)製)0.5μL(0.5U)、各Forward primer(10μM)1μL、各Reverse primer(10μM)1μLを混合した。
使用した各Primerの塩基配列は、以下の通りである。下記プライマーは、すべてシグマアルドリッチ社製である。
【0203】
Foxb2 cDNA、GenBank Accession No. NM_008023: 132-152、279-300
Forward primer : CTTTCCAAGAGGCGTTAAGGC(配列番号45)
Reverse primer : CTCAGAGGCAGCATCTTCTCAG(配列番号46)
増幅鎖長 : 169bp
【0204】
Oct3/4 cDNA、GenBank Accession No. NM_013633: 163-186、480-501
Forward primer : GAACCTGGCTAAGCTTCCAAG(配列番号47)
Reverse primer : GCTTGGCAAACTGTTCTAGCTC(配列番号48)
増幅鎖長 : 339bp
【0205】
Nanog cDNA、GenBank Accession No. NM_028016: 110-134、388-408
Forward primer : GCATTAGACATTTAACTCTTCTTTC(配列番号49)
Reverse primer : CTTGAAGAGGCAGGTCTTCAG(配列番号50)
増幅鎖長 : 299bp
【0206】
Sox2 cDNA、GenBank Accession No. NM_011443: 1652-1674、1836-1859
Forward primer : GAATCGGACCATGTATAGATCTG(配列番号51)
Reverse primer : CATTTGATTGCCATGTTTATCTCG(配列番号52)
増幅鎖長 : 208bp
【0207】
Klf2 cDNA、GenBank Accession No. NM_008452: 910-931、1159-1182
Forward primer : GAAGCCTTATCATTGCAACTGG(配列番号53)
Reverse primer : CTGTCCTAAGGTCCAATAAATAGC(配列番号54)
増幅鎖長 : 273bp
【0208】
Esrrb cDNA、GenBank Accession No. NM_011934: 552-573、760-782
Forward primer : GCAAGAGCTACGAGGACTGTAC(配列番号55)
Reverse primer : GTTTGGTGATCTCACATTCATTG(配列番号56)
増幅鎖長 : 231bp
【0209】
Fgf5 cDNA、GenBank Accession No. NM_010203: 445-465、617-639
Forward primer : GAACATAGCAGTTTCCAGTGG(配列番号57)
Reverse primer : GTTGCTGAAAACTCCTCGTATTC(配列番号58)
増幅鎖長 : 195bp
【0210】
Gapdh cDNA、GenBank Accession No. NM_001289726 : 224-246、512-534
Forward primer : GTTCCAGTATGACTCCACTCACG(配列番号59)
Reverse primer : CATTGCTGACAATCTTGAGTGAG(配列番号60)
増幅鎖長 : 311bp
【0211】
それぞれの混合物をサーマルサイクラーにセットし94℃ 2分間、98℃ 10秒間→57℃ 20秒間→68℃ 30秒間をOct3/4 cDNA、Nanog cDNA、Sox2 cDNA、Klf2 cDNA、及びEsrrb cDNAを増幅させる場合は25サイクル、Fgf5 cDNA及びFOXB2 cDNAを増幅させる場合は30サイクル、Gapdh cDNAを増幅させる場合は20サイクル、68℃ 2分間反応させた。
【0212】
(6)電気泳動
上記(5)で得られたPCR増幅産物5μLと、6×Loading Buffer Double Dye((株)ニッポンジーン製)1μLとを混合し、これを1.5%アガロースゲルにて電気泳動した。染色はGelRed核酸ゲル染色液(和光純薬工業(株)製)にて行った。
【0213】
なお、上記(4)でRTaseを加えないで反応を行って得られた反応物についても、上記の(5)〜(6)の処理を行った。
【0214】
(7)結果
結果を図4に併せて示す。
【0215】
図4の結果から明らかな通り、FOXB2 mRNAは、分化誘導処理後7日目のES細胞(LIF(-)・RTase(+)の場合)では発現している(バンドが確認された)ことが確認された。しかし、FOXB2 mRNAは、未分化・多能性を維持している状態のES細胞(LIF(+)・RTase(+)の場合)では発現していなかった。
【0216】
分化マーカーであるFgf5 mRNAは、分化誘導処理後7日目のES細胞(LIF(-)・RTase(+)の場合)で発現している(バンドが確認された)ことが確認された。
【0217】
また、未分化マーカーであるOCT3/4 mRNA、NANOG mRNA及びSOX2 mRNAは、未分化・多能性を維持している状態のES細胞(LIF(+)・RTase(+)の場合)では発現していた。また、分化誘導処理後7日目のES細胞(LIF(-)・RTase(+)の場合)でも、まだ発現している(バンドが確認された)ことが確認された。
【0218】
なお、すべてのmRNAの検出結果でRTase(-)の場合にバンドが確認されなかったことから、本実験系には、ゲノムDNAの混入が無いことが確認された。
【0219】
また、GAPDH mRNAの検出結果を見ると、“LIF(+)・RTase(+)”と“LIF(-)・RTase(+)”の場合にバンドが確認され、“LIF(+)・RTase(-)”と“LIF(-)・RTase(-)”の場合にバンドが確認されなかった。このことから本実験系ではmRNAは分解されていないことが確認された。
【0220】
以上の結果から明らかな通り、FOXB2 mRNAの発現は、現在分化マーカーとして最も有望であるとされるFgf5 mRNAと同程度の早期に検出された。また、FOXB2 mRNAの発現は、一般的な未分化マーカー(OCT3/4, NANOG, SOX2)の発現の変化が検出されていない段階でも顕著に検出された。更に、ナイーブマーカーとして知られているKlf2 mRNAやEsrrb mRNAがまだ消失しない分化誘導後7日目の段階で、FOXB2 mRNAの発現が確認された。
【0221】
以上のことから、FOXB2 mRNAは、従来の未分化マーカーよりも分化の初期段階でES細胞の分化状態を判定できることがわかった。また、培養初期で分化した細胞を判定きることから、細胞の早期スクリーニングや幹細胞の品質管理等に有用であり、培養期間の短縮、培地代の経費削減などが期待できる。
【0222】
参考例1.細胞の分化状態の確認
(1)幹細胞の培養と分化誘導処理
hiPS細胞(201B7株、京都大学iPS 細胞研究所(iPSアカデミアジャパン株式会社))を以下の培地で培養した。
【0223】
hiPS細胞を+bFGF及び+ROCK inhibitorの添加又は無添加のhPSCΔ培地(和光純薬工業(株)製)20000 cells/wellになるように4枚のウェルに播種し、1日培養した。
【0224】
2日目からは4枚のウェルを2枚ずつ、培地を(1) hPSCΔ培地、+bFGF、(2) hPSCΔ培地、+bFGF(100mg/mL)とし、それぞれ毎日培地交換した。6日間培養後、細胞を観察した。
【0225】
(2)結果
結果を図5に示す。
【0226】
図5において、(1)はbFGF無添加培地で培養した(分化誘導処理)hiPS細胞の写真である。(2)は、bFGF添加培地で培養したhiPS細胞の写真である。
【0227】
bFGF無添加培地で培養することによりhiPSを培養した場合、iPS細胞は神経細胞系の細胞へ分化誘導されることがわかっている。
【0228】
図5(1)から明らかな通り、bFGF無添加(-bFGF)培地で培養した場合、培養6日目で細胞の形態が突起状又は繊維状に変化している様子が確認された(コロニーの淵がとげとげしている。)。
【0229】
しかし、図5(2)から明らかなように、bFGF添加(+bFGF)培地で培養した場合、bFGF無添加培地で培養した場合のような、細胞の形態の変化は観察されなかった。
【0230】
以上のことから、bFGF無添加培地で培養した場合、hiPS細胞の分化が誘導されることが確認された。
【0231】
実験例1.FOXB2蛋白質の検出1
1)抗ヒトFOXB2蛋白質抗体固定化ELISA用マイクロプレートの調製
抗ヒトFOXB2蛋白質抗体の溶液(50mM MOPS緩衝液(pH7.0))をELISA用マイクロプレート(Nunk社製)の各ウェルに分注後24時間静置して、抗ヒトFOXB2蛋白質抗体を固定化したマクロプロレートを得る。
2)ペルオキシダーゼ標識抗FOXB2蛋白質抗体の調製
抗ヒトFOXB2蛋白質抗体を常法によりペルオキシダーゼ標識する。
3)試料の調製
分化誘導後3日目のhiPS細胞を回収し、ソニケーションによりhiPS細胞を破壊して、細胞のライセートを得る。得られたライセートを緩衝液に溶解させて試料とする。
4)測定
上記3)で調製した試料を、上記1)で調製した抗FOXB2蛋白質抗体固定化ELISA用マイクロプレートの各ウェルに添加し、37℃で1時間程度反応させる。次いで各ウェルを緩衝液で回洗浄する。
上記2)で調製したペルオキシダーゼ標識抗FOXB2蛋白質抗体をそれぞれ各ウェルに分注し、37℃で1時間程度反応させる。各ウェルを緩衝液で、次いで蒸留水で洗浄し、TMB(3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン)溶液(和光純薬工業(株)製)を各ウェルに50μLずつ添加し、25℃、30分間反応させる。その後、反応停止液(1Mりん酸溶液)を各ウェルに50μL ずつ添加して反応を停止させる。450nmにおける吸光度を、Vmax (モレキュラーデバイス社製) を用いて測定する。
その結果、FOXB2蛋白質が検出された場合には、試料として用いたhiPS細胞は分化した状態であると判定される。又は、試料として用いたhiPS細胞の細胞群には、分化した状態の細胞が含まれると判定される。
【0232】
実験例2.FOXB2蛋白質の検出2
1)試料の調製
分化誘導後3日目のhiPS細胞を回収し、ソニケーションによりhiPS細胞を破壊して、細胞のライセートを得る。得られたライセートを緩衝液に溶解させて試料とする。
2)ペルオキシダーゼ標識抗FOXB2蛋白質抗体の調製
抗ヒトFOXB2蛋白質抗体を常法によりペルオキシダーゼ標識する。
3)ウエスタンブロッティング
上記1)で得られた試料をSuperSepTM(電気泳動用ゲル、和光純薬工業(株),5-20%のグラジェントゲル)にアプライして、SDS-PAGE電気泳動(定電流25mA)を行う。次いで、泳動後の画分を、セミドライブロッティング法にてPVDFメンブレンに転写する。
PBS-T(Phosphate Buffered Saline with TweenTM 20、pH 7.4)にブロックエース(DSファーマバイオメディカル(株)製)を溶解させてブロッキング液とする。このブロッキング液に上記転写後のPVDFメンブレンを浸漬させ、1時間室温にてブロッキング処理した後、PVDFメンブレンを洗浄し、ブロッキング液に浸漬させる。
次いで、上記2)で得られたペルオキシダーゼ標識抗ヒトFOXB2蛋白質抗体をブロッキング液に加えて室温で1時間程度浸漬させる。PVDFメンブレンを洗浄し、ECLTM Prime Western Blotting Detection Reagent(ペルオキシダーゼの化学発光基質、GE Healthcare製)で発光させ、LAS4000(富士フイルム(株)製)を用い、露光時間10秒で検出する。
その結果、FOXB2蛋白質が検出された場合には、試料として用いたhiPS細胞は分化した状態であると判定される。又は、試料として用いたhiPS細胞の細胞群には、分化した状態の細胞を含むと判定される。
した状態の細胞が含まれる判定される。
【産業上の利用可能性】
【0233】
本発明によれば、幹細胞の分化状態を、分化の初期段階で判定することができる。また、本発明は、幹細胞の品質管理や分化細胞の調製・単離方法へ応用することができる。更に本発明は培養初期で分化した細胞を判定きることから、細胞の早期スクリーニングや幹細胞の品質管理に有用であり、培養期間の短縮、培地代の経費削減などが期待できる。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]