【実施例】
【0118】
実施例1.
分化誘導処理したhiPS細胞の、
FOXB2 mRNA及び公知の未分化マーカーの発現を、RT-PCR法により検出した。
(1)幹細胞の培養と分化誘導処理
hiPS細胞(201B7株、京都大学iPS 細胞研究所(iPSアカデミアジャパン株式会社))、及び比較として、分化した細胞であるHDF細胞(ヒト正常細胞由来繊維芽細胞、ロンザジャパン(株)製)を、bFGF添加(100ng/mL)又は無添加の培地(StemSure hPSC Medium、和光純薬工業(株)製)で3回継代培養し、培養5日目に細胞を回収した。
【0119】
(2)Total RNA の抽出
市販の核酸抽出試薬であるキットISOGEN(ニッポンジーン製)を用い、現品説明書に従って、上記(1)で回収した細胞から、Total RNAを抽出した。
【0120】
(3)DNase処理
上記(2)で抽出したTotal RNAの1μgに、全量17μLになるように蒸留水を加え、10X Reaction Buffer(プロメガ(株)製)を2μL、RQ1 RNase-Free DNase(プロメガ(株)製)を1μL(1U)を加え混合し、37℃、20分間インキュベートした。その後、Stop Buffer(20mM EGTA)(プロメガ(株)製)を1μL加え混合し、65℃、10分間インキュベートした。その後、反応物に結合Buffer(5.5Mグアニジン塩酸塩(和光純薬工業(株)製)、20mM Tris-HCl pH6.6)を100μL加え混合した後、エコノスピン(核酸精製用シリカメンブレンスピンカラム、(株)ジーンデザイン製)に移し、12000×g、室温、1分間遠心分離し、チューブの溶液を除去した。次いで、チューブに洗浄Buffer(2mM Tris-HCl pH7.5((株)ニッポンジーン)、80% エタノール(和光純薬工業(株)製))を500μL添加し、12000×g、室温、1分間遠心分離し、チューブの溶液を除去した。更に12000×g、室温、1分間遠心分離した後、エコノスピン(mRNAが結合している)を新しいチューブに交換し、溶出Buffer(10mMTris-HCl pH8.0)(ニッポンジーン(株)製)を50μL添加し、12000×g、室温、1分間遠心分離してTotal RNAを回収した。その後、エタノール沈殿を行い、得られた沈殿物を蒸留水9.5μLに溶解した。
【0121】
(4)逆転転写反応
上記(3)でDNase処理したTotal RNA 9.5μLに、下記の各mRNAを標的とする増幅プライマーを含む混合Primer(各5μM)1μLを加えた。下記プライマーは、すべてシグマアルドリッチ社製である。
【0122】
・
FOXB2 mRNAの増幅プライマー、CAGAAGCTACCCTTGCCAG (配列番号4、GenBank Accession No. NM_001013735 : 242-260(GenBank Accession No. NM_001013735の塩基配列の242-260番目の塩基配列の相補鎖の塩基配列に相当する。以下同じ。))、
・
OCT3/4 mRNAの増幅プライマー、GTTCTTGAAGCTAAGCTGCAG (配列番号5、GenBank Accession No. NM_002701 : 641-661)、
・
NANOG mRNAの増幅プライマー、GTTCTGGAACCAGGTCTTCAC (配列番号6、GenBank Accession No. NM_024865 : 631-651)、
・
SOX2 mRNAの増幅プライマー、GACCACACCATGAAGGCATTC (配列番号7、GenBank Accession No. NM_003106 : 572-592)、
・
GAPDH mRNAの増幅プライマー、GTCTACATGGCAACTGTGAGG (配列番号8、GenBank Accession No. NM_002046 : 1303-1323)
(GAPDH:グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)
【0123】
それぞれの混合物を、72℃、3分間インキュベートした後、直ちに氷冷した。次いで、5×Buffer(東洋紡(株)製)4μL、2.5mM dNTPs(ニッポンジーン(株)製)4μL、RNase Inhibitor, super(和光純薬工業(株)製)0.5μL(20U)、ReverTra Ace(東洋紡(株)製)1μL(100U)加え混合し、42℃、50分間インキュベートした。その後、結合Buffer(5.5Mグアニジン塩酸塩(和光純薬工業(株)製)、20mM Tris-HCl pH6.6(和光純薬工業(株)製))を100μL加え混合し、エコノスピン(核酸精製用シリカメンブレンスピンカラム、(株)ジーンデザイン製)に移し、12000×g、室温、1分間遠心分離し、チューブの溶液を除去した。その後、洗浄Buffer(2mM Tris-HCl pH7.5(ニッポンジーン(株)製)、80%エタノール(和光純薬工業(株)製))を500μL添加し、12000×g、室温、1分間遠心分離し、チューブの溶液を除去した。その後、更に12000×g、室温、1分間遠心分離した後、新しいチューブに交換し、溶出Buffer(10mMTris-HCl pH8.5)(ニッポンジーン(株)製)を25μL添加し、12000×g、室温、1分間遠心分離して、得られた沈殿物を蒸留水 1μLに溶解させてcDNAを回収した。
【0124】
なお、本実験系にゲノムDNAが混在していないことを確認するために、同じ試料を用い、RTase(ReverTra Ace(東洋紡(株)製)、逆転写酵素)を加えない以外は上記と同様の反応を行った。
【0125】
(5)PCR反応
上記(4)で得られたcDNA 1μLと、蒸留水5μL、2×PCR Buffer for KOD FX Neo (東洋紡)12.5μL、2 mM dNTPs(東洋紡)4μL、KOD FX Neo(東洋紡)0.5μL(0.5U)、各フォワードプライマー(10μM)1μL、各リバースプライマー(10μM)1μLを混合した。
【0126】
使用した各プライマーの塩基配列は、以下の通りである。下記プライマーは、すべてシグマアルドリッチ社製である。
【0127】
FOXB2 cDNA、GenBank Accession No. NM_001013735 : 45-67、201-223
フォワードプライマー: CTACTCTTACATCTCGCTGACCG(配列番号9)
リバースプライマー: GAATCTTGATGAAGCAGTCGTTG(配列番号10)
増幅鎖長 : 179bp
※配列番号9のフォワードプライマーと配列番号10のリバースプライマーは、それぞれ
FOXB2 cDNA、GenBank Accession No. NM_001013735の45-67番目の塩基配列及び、201-223番目の塩基配列をもとに設計された。以下同じ。
【0128】
よって、このプライマーペアを用いた核酸増幅反応により、
FOXB2遺伝子(配列番号1で表される塩基配列)の45〜223番目の、179bpの領域(配列番号3)(GenBank Accession No. NM_001013735.1のposition 45-223)が増幅される。
【0129】
OCT3/4 cDNA、GenBank Accession No. NM_002701 : 340-361、515-535
フォワードプライマー: CTTGGAGACCTCTCAGCCTGAG(配列番号11)
リバースプライマー: CTTCAGGAGCTTGGCAAATTG(配列番号12)
増幅鎖長 : 196bp
【0130】
NANOG cDNA、GenBank Accession No. NM_024865 : 284-305、528-550
フォワードプライマー: CACCTATGCCTGTGATTTGTGG(配列番号13)
リバースプライマー: CATTGAGTACACACAGCTGGGTG(配列番号14)
増幅鎖長 : 267bp
【0131】
SOX2 cDNA、GenBank Accession No. NM_003106 : 31-54、443-464
フォワードプライマー: GTATCAGGAGTTGTCAAGGCAGAG(配列番号15)
リバースプライマー: CAGCTCCGTCTCCATCATGTTG(配列番号16)
増幅鎖長 : 434bp
【0132】
GAPDH cDNA、GenBank Accession No. NM_002046 : 240-260、618-638
フォワードプライマー: GTCACCAGGGCTGCTTTTAAC(配列番号17)
リバースプライマー: GGCATTGCTGATGATCTTGAG(配列番号18)
増幅鎖長 : 399bp
【0133】
それぞれの混合物をサーマルサイクラーにセットし94℃ 2分間、98℃ 10秒間→56℃ 20秒間→68℃ 30秒間を
OCT3/4 cDNA、
NANOG cDNA、
SOX2 cDNA及び
FOXB2 cDNAを増幅させる場合は28サイクル、
GAPDH cDNAを増幅させる場合は20サイクル行った後、68℃ 2分間反応させた。
【0134】
(6)電気泳動
上記(5)で得られたPCR増幅産物5μLと、6×Loading Buffer Double Dye(ニッポンジーン(株)製)1μLとを混合し、これを1.5%アガロースゲルにて電気泳動した。染色はGelRed核酸ゲル染色液(和光純薬工業(株)製)にて行った。
【0135】
なお、上記(4)でRTaseを加えないで反応を行って得られた反応物についても、上記の(5)〜(6)の処理を行った。
【0136】
(7)結果
結果を
図1に併せて示す。
【0137】
図1の結果から明らかな通り、一般的によく確認されている未分化マーカーである
OCT3/4 mRNA(
図1(3))、
NANOG mRNA(
図1(4))及び
SOX2 mRNA(
図1(5))は、未分化・多能性を維持している状態のhiPS細胞(hiPS・bFGF(+)・RTase(+)の場合)では発現していた。また、分化誘導処理後5日目のhiPS細胞(hiPS・bFGF(-)・RTase(+)の場合)でも、まだ発現している(バンドが確認された)ことが確認された。しかし、
OCT3/4 mRNA、
NANOG mRNA及び
SOX2 mRNAは、分化した細胞であるHDF細胞では発現していなかった。
【0138】
一方、
FOXB2 mRNA(
図1(1))は、分化誘導処理後5日目のhiPS細胞(hiPS・bFGF(-)・RTase(+)の場合)では発現している(バンドが確認された)ことが確認された。しかし、
FOXB2 mRNAは、未分化・多能性を維持している状態のhiPS細胞(hiPS・bFGF(+)・RTase(+)の場合)と、分化した細胞(特に分化が完了した細胞)であるHDF細胞では発現していなかった。
【0139】
なお、すべてのmRNAの検出結果でRTase(-)の場合にバンドが確認されなかったことから、本実験系には、ゲノムDNAの混入が無いことが確認された。
【0140】
また、
GAPDH mRNAの検出結果(
図1(2))を見ると、“hiPS・bFGF(+)・RTase(+)”、“hiPS・bFGF(-)・RTase(+)”、“HDF・RTase(+)”の場合にバンドが確認され、“hiPS・bFGF(+)・RTase(-)”、“hiPS・bFGF(-)・RTase(-)”、“DF・RTase(-)”の場合にバンドが確認されなかった。このことから本実験系ではmRNAは分解されていないことが確認された。
【0141】
従って、
FOXB2 mRNAが分化マーカーとして有用であり、
FOXB2 mRNAを検出することで、細胞の分化状態を判定することができることが明らかになった。また、一般的に測定されている未分化マーカー(
OCT3/4,
NANOG,
SOX2)の発現の変化が検出されていない段階でも顕著に
FOXB2 mRNAの発現が検出されたことから、
FOXB2 mRNAは、従来の未分化マーカーよりも分化の初期段階で細胞の分化状態を判定できることがわかった。
【0142】
実施例2.
(1)幹細胞の培養と分化誘導処理
hiPS細胞(201B7株、京都大学iPS 細胞研究所(iPSアカデミアジャパン株式会社))をbFGF添加又は無添加の培地(StemSure hPSC Medium、和光純薬工業(株)製)で培養し、培養3日目、5日目、7日目に、細胞を回収した。
【0143】
また、比較として及び分化した細胞であるHDF細胞(ヒト正常細胞由来繊維芽細胞、ロンザジャパン(株)製)をMEM培地(+10%FBS)(和光純薬工業(株)製)で培養し、培養7日目に細胞を回収した。
【0144】
(2)Total RNA の抽出
実施例1(2)と同様の方法で、上記(1)で回収した培養3日目、5日目、7日目の細胞から、それぞれTotal RNAを抽出した。
【0145】
また、比較としてHMSC-bm細胞(ヒト骨髄由来間葉系幹細胞)のTOTAL RNA(ScienCell Research Laboratories社製)を用いた。
【0146】
(3)DNase処理
実施例1(3)と同様の方法で上記(2)で抽出したTotal RNA、及びHMSC-bm細胞のTOTAL RNAの1μgを、それぞれDNAase処理した。
【0147】
(4)逆転転写反応
上記(3)でDNase処理したTotal RNA 9.5μLに、下記のプライマーを含む混合Primer(各5μM)1μLを加えた。下記プライマーは、すべてシグマアルドリッチ社製である。
【0148】
・
FOXB2 mRNAの増幅プライマー、CAGAAGCTACCCTTGCCAG (配列番号4、GenBank Accession No. NM_001013735 : 242-260)、
・
OCT3/4 mRNAの増幅プライマー、GTTCTTGAAGCTAAGCTGCAG (配列番号5、GenBank Accession No. NM_002701 : 641-661)、
・
NANOG mRNAの増幅プライマー、GTTCTGGAACCAGGTCTTCAC (配列番号6、GenBank Accession No. NM_024865 : 631-651)、
・
SOX2 mRNAの増幅プライマー、GACCACACCATGAAGGCATTC (配列番号7、GenBank Accession No. NM_003106 : 572-592)、
・
GAPDH mRNAの増幅プライマー、GTCTACATGGCAACTGTGAGG (配列番号8、GenBank Accession No. NM_002046 : 1303-1323)
【0149】
それぞれの混合物について、実施例1(4)と同様の方法で、逆転写反応を行い、それぞれcDNAを回収した。
【0150】
(5)PCR反応
上記(4)で得られたcDNA 1μL、蒸留水5μL、2×PCR Buffer for KOD FX Neo(東洋紡(株)製)12.5μL、2 mM dNTPs(東洋紡(株)製)4μL、KOD FX Neo(東洋紡(株)製)0.5μL(0.5U)、各Forward primer(10μM)1μL、各Reverse primer(10μM)1μLを混合した。
【0151】
使用した各Primerの塩基配列は、以下の通りである。下記プライマーは、すべてシグマアルドリッチ社製である。
【0152】
FOXB2 cDNA、GenBank Accession No. NM_001013735 : 45-67、201-223
フォワードプライマー: CTACTCTTACATCTCGCTGACCG(配列番号9)
リバースプライマー: GAATCTTGATGAAGCAGTCGTTG(配列番号10)
増幅鎖長 : 179bp
【0153】
OCT3/4 cDNA、GenBank Accession No. NM_002701 : 340-361、515-535
フォワードプライマー: CTTGGAGACCTCTCAGCCTGAG(配列番号11)
リバースプライマー: CTTCAGGAGCTTGGCAAATTG(配列番号12)
増幅鎖長 : 196bp
【0154】
NANOG cDNA、GenBank Accession No. NM_024865 : 284-305、528-550
フォワードプライマー: CACCTATGCCTGTGATTTGTGG(配列番号13)
リバースプライマー: CATTGAGTACACACAGCTGGGTG(配列番号14)
増幅鎖長 : 267bp
【0155】
SOX2 cDNA、GenBank Accession No. NM_003106 : 31-54、443-464
フォワードプライマー: GTATCAGGAGTTGTCAAGGCAGAG(配列番号15)
リバースプライマー: CAGCTCCGTCTCCATCATGTTG(配列番号16)
増幅鎖長 : 434bp
【0156】
GAPDH cDNA、GenBank Accession No. NM_002046 : 240-260、618-638
フォワードプライマー: GTCACCAGGGCTGCTTTTAAC(配列番号17)
リバースプライマー: GGCATTGCTGATGATCTTGAG(配列番号18)
増幅鎖長 : 399bp
【0157】
それぞれの混合物をサーマルサイクラーにセットし94℃ 2分間、98℃ 10秒間→56℃ 20秒間→68℃ 30秒間を
OCT3/4 cDNA、
NANOG cDNA、
SOX2 cDNA及び
FOXB2 cDNAを増幅させる場合は28サイクル、
GAPDH cDNAを増幅させる場合は20サイクル行った後、68℃ 2分間反応させた。
【0158】
(6)電気泳動
PCR増幅産物5μLと、6×Loading Buffer Double Dye(ニッポンジーン(株)製)1μLとを混合し、これを1.5%アガロースゲルにて電気泳動した。染色はGelRed核酸ゲル染色液(和光純薬工業(株)製)にて行った。
【0159】
なお、上記(4)でRTaseを加えないで反応を行って得られた反応物についても、上記の(5)〜(6)の処理を行った。
【0160】
(7)結果
結果を
図2に併せて示す。
【0161】
図2の結果から明らかな通り、hiPS細胞をbFGF無添加培地で培養して分化誘導処理した場合、
FOXB2 mRNAは、培養期間が長くなるのに比例して、発現量が増加した。
【0162】
これに対し、
FOXB2 mRNA以外の公知の未分化マーカー(
OCT3/4 mRNA,
NANOG mRNA,
SOX2 mRNA,
GAPDH mRNA)は、bFGF無添加培地で培養して分化誘導処理しても、分化誘導処理後7日までは、まだ消失せずに発現していることが確認された。
【0163】
一方、HMSC-bm(ヒト骨髄由来間葉系幹細胞)をbFGF無添加培地で培養しても、
FOXB2 mRNAの発現も、公知の未分化マーカー(
OCT3/4 mRNA,
NANOG mRNA,
SOX2 mRNA,
GAPDH mRNA)の発現も確認されなかった。HMSC-bmは、幹細胞(RS細胞)から中胚葉を経て形成される体性幹細胞である。このことから、未分化幹細胞の分化がこの程度まで進んでしまうと、
FOXB2 mRNAは発現しなくなること、言い換えれば
FOXB2 mRNAは細胞の分化の初期に特異的に発現することが推察される。
【0164】
また、培養5日目のHDF細胞は、
FOXB2 mRNAの発現も、公知の未分化マーカー(
OCT3/4 mRNA,
NANOG mRNA,
SOX2 mRNA,
GAPDH mRNA)の発現も確認されなかった。
【0165】
なお、すべてのmRNAの検出結果でRTase(-)の場合にバンドが確認されなかったことから、本実験系には、ゲノムDNAの混入が無いことが確認された。また、
GAPDH mRNAは、RTase(+)の全ての場合で検出されているので、この本実験系ではmRNAは分解されず、mRNAの発現を正しく検出できていることが確認された。
【0166】
以上の結果から明らかな通り、
FOXB2 mRNAの発現が、一般的に測定されている未分化マーカー(
OCT3/4,
NANOG,
SOX2)の発現の変化が検出されるよりも早く検出された。このことから、
FOXB2 mRNAは細胞の分化の初期段階の分化マーカーとして、特に有用であること、言い換えれば、
FOXB2 mRNAの発現を検出することで、細胞の分化の状態を、分化の初期段階で判定することができることが明らかになった。
【0167】
実施例3.
(1)幹細胞の培養と分化誘導処理
hiPS細胞(201B7株、京都大学iPS 細胞研究所(iPSアカデミアジャパン株式会社))、及び比較として、分化した細胞であるHDF細胞(ヒト正常細胞由来繊維芽細胞、ロンザジャパン(株)製)を、bFGF添加(100ng/mL)又は無添加の培地(StemSure hPSC Medium、和光純薬工業(株)製)で3回継代培養し、培養6日目に細胞を回収した。
【0168】
(2)Total RNA の抽出
市販の核酸抽出試薬であるキットISOGEN((株)ニッポンジーン製)を用い、現品説明書に従って、上記(1)で回収した細胞から、Total RNAを抽出した。
【0169】
(3)DNase処理
実施例1(3)と同様の方法で、上記(2)で抽出したTotal RNAの1μgを、それぞれDNase処理した。
【0170】
(4)逆転転写反応
上記(3)でDNase処理したTotal RNA 9.5μLに、下記の各mRNAを標的とする増幅プライマーを含む混合Primer(各5μM)1μLを加えた。下記プライマーは、すべてシグマアルドリッチ社製である。
・
FOXB2 mRNAの増幅プライマー、CAGAAGCTACCCTTGCCAG(配列番号4、GenBank Accession No. NM_001013735 : 242-260)
・
OCT3/4 mRNAの増幅プライマー、GTTCTTGAAGCTAAGCTGCAG(配列番号5、GenBank Accession No. NM_002701 : 641-661)
・
NANOG mRNAの増幅プライマー、GTTCTGGAACCAGGTCTTCAC(配列番号6、GenBank Accession No. NM_024865 : 631-651)
・
SOX2 mRNAの増幅プライマー、GACCACACCATGAAGGCATTC(配列番号7、GenBank Accession No. NM_003106 : 572-592)
・
FGF5 mRNAの増幅プライマー、 CTCCCTGAACTTGCAGTCATC(配列番号19、GenBank Accession No. NM_004464 : 709-729)
・
CDX2 mRNAの増幅プライマー、CCTGAGGAGTCTAGCAGAGTC(配列番号20、GenBank Accession No. NM_001265 : 1359-1379)
・
GATA4 mRNAの増幅プライマー、GATTACGCAGTGATTATGTCCC(配列番号21、GenBank Accession No. NM_001308094 : 1110-1131)
・GATA6 mRNAの増幅プライマー、CATCTTGACCCGAATACTTGAG(配列番号22、GenBank Accession No. NM_005257 : 1961-1982)
・
SOX17 mRNAの増幅プライマー、CCCAGGAGTCTGAGGATTTCC(配列番号23、GenBank Accession No. NM_022454 : 1515-1535)
・
GAPDH mRNAの増幅プライマー、GTCTACATGGCAACTGTGAGG(配列番号8、GenBank Accession No. NM_002046 : 1303-1323)
【0171】
それぞれの混合物を、72℃、3分間インキュベートした後、直ちに氷冷した。次いで、5×Buffer(東洋紡(株)製)4μL、2.5mM dNTPs((株)ニッポンジーン製)4μL、RNase Inhibitor, super(和光純薬工業(株)製)0.5μL(20U)、ReverTra Ace(東洋紡(株)製)1μL(100U)加え混合し、42℃、50分間インキュベートした。その後、結合Buffer(5.5Mグアニジン塩酸塩(和光純薬工業(株)製)、20mM Tris-HCl pH6.6(和光純薬工業(株)製))を100μL加え混合し、エコノスピン((株)ジーンデザイン製)に移し、12000×g、室温、1分間遠心分離し、チューブの溶液を除去した。その後、洗浄Buffer(2mM Tris-HCl pH7.5((株)ニッポンジーン製)、80%エタノール(和光純薬工業(株)製)を500μL添加し、12000×g、室温、1分間遠心分離し、チューブの溶液を除去した。その後、更に12000×g、室温、1分間遠心分離した後、新しいチューブに交換し、溶出Buffer(10mMTris-HCl pH8.5)((株)ニッポンジーン製)を25μL添加し、12000×g、室温、1分間遠心分離して、得られた沈殿物を蒸留水 1μLに溶解させてcDNAを回収した。
【0172】
(5)PCR反応
上記(4)で得られたcDNA 1μL、蒸留水5μL、2× PCR Buffer for KOD FX Neo(東洋紡(株)製)12.5μL、2 mM dNTPs(東洋紡(株)製)4μL、KOD FX Neo(東洋紡(株)製)0.5μL(0.5U)、各Forward primer(10μM)1μL、各Reverse primer(10μM)1μLを混合した。
【0173】
使用した各Primerの塩基配列は、以下の通りである。下記プライマーは、すべてシグマアルドリッチ社製である。
【0174】
FOXB2 cDNA、GenBank Accession No. NM_001013735 : 45-67、201-223
Forward primer : CTACTCTTACATCTCGCTGACCG(配列番号9)
Reverse primer : GAATCTTGATGAAGCAGTCGTTG(配列番号10)
増幅鎖長 : 179bp
【0175】
OCT3/4 cDNA、GenBank Accession No. NM_002701 : 340-361、515-535
Forward primer : CTTGGAGACCTCTCAGCCTGAG(配列番号11)
Reverse primer : CTTCAGGAGCTTGGCAAATTG(配列番号12)
増幅鎖長 : 196bp
【0176】
NANOG cDNA、GenBank Accession No. NM_024865 : 284-305、528-550
Forward primer : CACCTATGCCTGTGATTTGTGG(配列番号13)
Reverse primer : CATTGAGTACACACAGCTGGGTG(配列番号14)
増幅鎖長 : 267bp
【0177】
SOX2 cDNA、GenBank Accession No. NM_003106 : 31-54、443-464
Forward primer : GTATCAGGAGTTGTCAAGGCAGAG(配列番号15)
Reverse primer : CAGCTCCGTCTCCATCATGTTG(配列番号16)
増幅鎖長 : 434bp
【0178】
FGF5 cDNA、GenBank Accession No. NM_004464 : 462-482、615-637
Forward primer : GCAGAGCAGTTTCCAGTGGAG(配列番号24)
Reverse primer : GTATTCCTACAATCCCCTGAGAC(配列番号25)
増幅鎖長 :176bp
【0179】
CDX2 cDNA、GenBank Accession No. NM_001265 : 923-944、1176-1196
Forward primer : CAAATATCGAGTGGTGTACACG(配列番号26)
Reverse primer : GACACTTCTCAGAGGACCTGG(配列番号27)
増幅鎖長 :274bp
【0180】
GATA4 cDNA、GenBank Accession No. NM_001308094 : 795-816、1020-1040
Forward primer : CAGCTCCTTCAGGCAGTGAGAG(配列番号28)
Reverse primer : CGGGAGACGCATAGCCTTGTG(配列番号29)
増幅鎖長 :246bp
【0181】
GATA6 cDNA、GenBank Accession No. NM_005257 : 1682-1703、1842-1864
Forward primer : GCTTGTGGACTCTACATGAAAC(配列番号30)
Reverse primer : GCTGCAATCATCTGAGTTAGAAG(配列番号31)
増幅鎖長 :183bp
【0182】
SOX17 cDNA GenBank Accession No. NM_022454 : 1286-1306、1490-1511
Forward primer : CGGAATTTGAACAGTATCTGC(配列番号32)
Reverse primer : GCTCCTCCAGGAAGTGTGTAAC(配列番号33)
増幅鎖長 :226bp
【0183】
GAPDH cDNA、GenBank Accession No. NM_002046 : 240-260、618-638
Forward primer : GTCACCAGGGCTGCTTTTAAC(配列番号17)
Reverse primer : GGCATTGCTGATGATCTTGAG(配列番号18)
増幅鎖長 : 399bp
【0184】
それぞれの混合物をサーマルサイクラーにセットし94℃ 2分間、98℃ 10秒間→56℃ 20秒間→68℃ 30秒間を
OCT3/4 cDNA、
NANOG cDNA及び
SOX2 cDNAを増幅させる場合は24サイクル、
FOXB2 cDNA、
FGF5 cDNA、
GATA4 cDNA、
GATA6 cDNA及び
SOX17 cDNAを増幅させる場合は28サイクル、
GAPDH cDNAを増幅させる場合は20サイクル、68℃ 2分間反応させた。
【0185】
(6)電気泳動
上記(5)で得られたPCR増幅産物5μLと、6×Loading Buffer Double Dye((株)ニッポンジーン製)1μLとを混合し、これを1.5%アガロースゲルにて電気泳動した。染色はGelRed核酸ゲル染色液(和光純薬工業(株)製)にて行った。
【0186】
なお、上記(4)でRTaseを加えないで反応を行って得られた反応物についても、上記の(5)〜(6)の処理を行った。
【0187】
(7)結果
結果を
図3に併せて示す。
【0188】
図3の結果から明らかな通り、hiPS細胞をbFGF無添加培地で培養して分化誘導した場合、分化誘導後(hiPS・bFGF(-)・RTase(+)の場合)6日目でも、未分化マーカーである
OCT3/4 mRNA、
NANOG mRNA及び
SOX2 mRNAは、まだ発現している(バンドが確認された)ことが確認された。
【0189】
また、公知の分化マーカーである
FGF5 mRNA(外胚葉分化マーカー)、
CDX2 mRNA(外胚葉分化マーカー)、
GATA4 mRNA(内胚葉分化マーカー)、
GATA6 mRNA(内胚葉分化マーカー)、
SOX7 mRNA(内胚葉分化マーカー)、
SSEA-1 mRNA(分化マーカー)は、分化誘導処理後6日目のhiPS細胞では、まだ発現していない(バンドが確認されなかった)ことが確認された。
【0190】
一方、
FOXB2 mRNAは、分化誘導処理後6日目のhiPS細胞(hiPS・bFGF(-)・RTase(+)の場合)では発現している(バンドが確認された)ことが確認された。
【0191】
なお、すべてのmRNAの検出結果でRTase(-)の場合にバンドが確認されなかったことから、本実験系には、ゲノムDNAの混入が無いことが確認された。
【0192】
また、
GAPDH mRNAの検出結果を見ると、“hiPS・bFGF(+)・RTase(+)”、“hiPS・bFGF(-)・RTase(+)”、“HDF・RTase(+)”の場合にバンドが確認され、“hiPS・bFGF(+)・RTase(-)”、“hiPS・bFGF(-)・RTase(-)”、“DF・RTase(-)”の場合にバンドが確認されなかった。このことから本実験系ではmRNAは分解されていないことが確認された。
【0193】
従って、
FOXB2 mRNAが分化マーカーとして有用であり、
FOXB2 mRNAを検出することで、細胞の分化状態を判定することができることが明らかになった。また、一般的な未分化マーカー(
OCT3/4,
NANOG,
SOX2)の発現の変化が検出されていない段階でも顕著に
FOXB2 mRNAの発現が検出された。
【0194】
更に、現在最も有望な分化マーカーとして知られているFGF5 mRNAがまだ発現していない段階で、
FOXB2 mRNAの発現が検出された。すなわち、
FOXB2 mRNAは、従来の分化マーカや未分化マーカーよりも分化の早い段階(初期段階)で、細胞の分化状態を判定できることがわかった。
【0195】
以上のことから、
FOXB2 mRNAは従来の分化・未分化マーカーよりも極めて有用な分化マーカーであることが明らかになった。また、培養初期で分化した細胞を判定できることから、細胞の早期スクリーニングや幹細胞の品質管理等に有用であり、培養期間の短縮、培地代の経費削減などが期待できる。
【0196】
実施例4.
マウスES細胞をLIF無添加培地で培養して分化誘導処理し、
FOXB2 mRNA及び公知の未分化マーカーの発現を、RT-PCR法により検出した。
【0197】
(1)幹細胞の培養と分化誘導処理
mES細胞(D3株、ATCC、b723512)を、LIF添加(1000Unit)又は無添加の培地(StemSure DMEM、StemSure Serum replacement、MEM非必須アミノ酸溶液、L-グルタミン溶液、StemSure 2-メルカプトエタノール溶液、和光純薬工業(株)製)で3回継代培養し、培養3日目、5日目、7日目、に細胞を回収した。
【0198】
(2)Total RNA の抽出
市販の核酸抽出試薬であるキットISOGEN((株)ニッポンジーン製)を用い、現品説明書に従って、上記(1)で回収した細胞から、Total RNAを抽出した。
【0199】
(3)DNase処理
上記(2)で抽出したTotal RNAの1μgに、全量17μLになるように蒸留水を加え、10X Reaction Buffer(プロメガ(株)製)を2μL、RQ1 RNase-Free DNase(プロメガ(株)製)を1μL(1U)を加え混合し、37℃、20分間インキュベートした。その後、Stop Buffer(20mM EGTA)(プロメガ(株)製)を1μL加え混合し、65℃、10分間インキュベートした。その後、反応物に結合Buffer(5.5Mグアニジン塩酸塩(和光純薬工業(株)製)、20mM Tris-HCl pH6.6)を100μL加え混合した後、エコノスピン(核酸精製用シリカメンブレンスピンカラム、(株)ジーンデザイン製)に移し、12000×g、室温、1分間遠心分離し、チューブの溶液を除去した。次いで、チューブに洗浄Buffer(2mM Tris-HCl pH7.5((株)ニッポンジーン製)、80% エタノール(和光純薬工業(株)製)を500μL添加し、12000×g、室温、1分間遠心分離し、チューブの溶液を除去した。更に12000×g、室温、1分間遠心分離した後、エコノスピン(mRNAが結合している)を新しいチューブに交換し、溶出Buffer(10mMTris-HCl pH8.0)((株)ニッポンジーン製)を50μL添加し、12000×g、室温、1分間遠心分離してTotal RNAを回収した。その後、エタノール沈殿を行い、得られた沈殿物を蒸留水9.5μLに溶解した。
【0200】
(4)逆転転写反応
上記(3)でDNase処理したTotal RNA 9.5μLに、下記の各mRNAを標的とする増幅プライマーを含む混合Primer(各5μM)1μLを加えた。下記プライマーは、すべてシグマアルドリッチ社製である。
・
Foxb2 mRNAの増幅プライマー、CATGATGAACTTGTAGATGTC(配列番号37、GenBank Accession No. NM_008023 : 302-322)
・
Oct3/4 mRNAの増幅プライマー、CATGTTCTTAAGGCTGAGCTGC(配列番号38、GenBank Accession No. NM_013633 : 617-638)
・
Nanog mRNAの増幅プライマー、CTGAATCAGACCATTGCTAGTC(配列番号39、GenBank Accession No. NM_028016 : 388-408)
・
Sox2 mRNAの増幅プライマー、CAACGATATCAACCTGCATGG(配列番号40、GenBank Accession No. NM_011443 : 2120-2140)
・
Klf2 mRNAの増幅プライマー、GAACTGGTGGCAGAGTCATTTTC(配列番号41、GenBank Accession No. NM_008452 : 1205-1227)
・
Esrrb mRNAの増幅プライマー、GATTCGAGACGATCTTAGTCAATG(配列番号42、GenBank Accession No. NM_011934 : 957-980)
・
Fgf5 mRNAの増幅プライマー、GACGCATAGGTATTATAGCTG(配列番号43、GenBank Accession No. NM_010203 : 729-749)
・
Gapdh mRNAの増幅プライマー、CTTGATGTCATCATACTTGGC(配列番号44、GenBank Accession No. NM_001289726 :843-863)
【0201】
それぞれの混合物を、72℃、3分間インキュベートした後、直ちに氷冷した。次いで、5×Buffer(東洋紡(株)製)4μL、2.5mM dNTPs((株)ニッポンジーン製)4μL、RNase Inhibitor, super(和光純薬工業(株)製)0.5μL(20U)、ReverTra Ace(東洋紡(株)製)1μL(100U)加え混合し、42℃、50分間インキュベートした。その後、結合Buffer(5.5Mグアニジン塩酸塩(和光純薬工業(株)製)、20mM Tris-HCl pH6.6(和光純薬工業(株)製)を100μL加え混合し、エコノスピン((株)ジーンデザイン製)に移し、12000×g、室温、1分間遠心分離し、チューブの溶液を除去した。その後、洗浄Buffer(2mM Tris-HCl pH7.5((株)ニッポンジーン製)、80%エタノール(和光純薬工業(株)製)を500μL添加し、12000×g、室温、1分間遠心分離し、チューブの溶液を除去した。その後、更に12000×g、室温、1分間遠心分離した後、新しいチューブに交換し、溶出Buffer(10mMTris-HCl pH8.5)((株)ニッポンジーン製)を25μL添加し、12000×g、室温、1分間遠心分離して、得られた沈殿物を蒸留水1μLに溶解させてcDNAを回収した。
【0202】
(5)PCR反応
上記(4)で得られたcDNA 1μL、蒸留水5μL、2× PCR Buffer for KOD FX Neo(東洋紡(株)製)12.5μL、2 mM dNTPs(東洋紡(株)製)4μL、KOD FX Neo(東洋紡(株)製)0.5μL(0.5U)、各Forward primer(10μM)1μL、各Reverse primer(10μM)1μLを混合した。
使用した各Primerの塩基配列は、以下の通りである。下記プライマーは、すべてシグマアルドリッチ社製である。
【0203】
Foxb2 cDNA、GenBank Accession No. NM_008023: 132-152、279-300
Forward primer : CTTTCCAAGAGGCGTTAAGGC(配列番号45)
Reverse primer : CTCAGAGGCAGCATCTTCTCAG(配列番号46)
増幅鎖長 : 169bp
【0204】
Oct3/4 cDNA、GenBank Accession No. NM_013633: 163-186、480-501
Forward primer : GAACCTGGCTAAGCTTCCAAG(配列番号47)
Reverse primer : GCTTGGCAAACTGTTCTAGCTC(配列番号48)
増幅鎖長 : 339bp
【0205】
Nanog cDNA、GenBank Accession No. NM_028016: 110-134、388-408
Forward primer : GCATTAGACATTTAACTCTTCTTTC(配列番号49)
Reverse primer : CTTGAAGAGGCAGGTCTTCAG(配列番号50)
増幅鎖長 : 299bp
【0206】
Sox2 cDNA、GenBank Accession No. NM_011443: 1652-1674、1836-1859
Forward primer : GAATCGGACCATGTATAGATCTG(配列番号51)
Reverse primer : CATTTGATTGCCATGTTTATCTCG(配列番号52)
増幅鎖長 : 208bp
【0207】
Klf2 cDNA、GenBank Accession No. NM_008452: 910-931、1159-1182
Forward primer : GAAGCCTTATCATTGCAACTGG(配列番号53)
Reverse primer : CTGTCCTAAGGTCCAATAAATAGC(配列番号54)
増幅鎖長 : 273bp
【0208】
Esrrb cDNA、GenBank Accession No. NM_011934: 552-573、760-782
Forward primer : GCAAGAGCTACGAGGACTGTAC(配列番号55)
Reverse primer : GTTTGGTGATCTCACATTCATTG(配列番号56)
増幅鎖長 : 231bp
【0209】
Fgf5 cDNA、GenBank Accession No. NM_010203: 445-465、617-639
Forward primer : GAACATAGCAGTTTCCAGTGG(配列番号57)
Reverse primer : GTTGCTGAAAACTCCTCGTATTC(配列番号58)
増幅鎖長 : 195bp
【0210】
Gapdh cDNA、GenBank Accession No. NM_001289726 : 224-246、512-534
Forward primer : GTTCCAGTATGACTCCACTCACG(配列番号59)
Reverse primer : CATTGCTGACAATCTTGAGTGAG(配列番号60)
増幅鎖長 : 311bp
【0211】
それぞれの混合物をサーマルサイクラーにセットし94℃ 2分間、98℃ 10秒間→57℃ 20秒間→68℃ 30秒間を
Oct3/4 cDNA、
Nanog cDNA、
Sox2 cDNA、
Klf2 cDNA、及び
Esrrb cDNAを増幅させる場合は25サイクル、
Fgf5 cDNA及び
FOXB2 cDNAを増幅させる場合は30サイクル、
Gapdh cDNAを増幅させる場合は20サイクル、68℃ 2分間反応させた。
【0212】
(6)電気泳動
上記(5)で得られたPCR増幅産物5μLと、6×Loading Buffer Double Dye((株)ニッポンジーン製)1μLとを混合し、これを1.5%アガロースゲルにて電気泳動した。染色はGelRed核酸ゲル染色液(和光純薬工業(株)製)にて行った。
【0213】
なお、上記(4)でRTaseを加えないで反応を行って得られた反応物についても、上記の(5)〜(6)の処理を行った。
【0214】
(7)結果
結果を
図4に併せて示す。
【0215】
図4の結果から明らかな通り、
FOXB2 mRNAは、分化誘導処理後7日目のES細胞(LIF(-)・RTase(+)の場合)では発現している(バンドが確認された)ことが確認された。しかし、
FOXB2 mRNAは、未分化・多能性を維持している状態のES細胞(LIF(+)・RTase(+)の場合)では発現していなかった。
【0216】
分化マーカーである
Fgf5 mRNAは、分化誘導処理後7日目のES細胞(LIF(-)・RTase(+)の場合)で発現している(バンドが確認された)ことが確認された。
【0217】
また、未分化マーカーである
OCT3/4 mRNA、
NANOG mRNA及び
SOX2 mRNAは、未分化・多能性を維持している状態のES細胞(LIF(+)・RTase(+)の場合)では発現していた。また、分化誘導処理後7日目のES細胞(LIF(-)・RTase(+)の場合)でも、まだ発現している(バンドが確認された)ことが確認された。
【0218】
なお、すべてのmRNAの検出結果でRTase(-)の場合にバンドが確認されなかったことから、本実験系には、ゲノムDNAの混入が無いことが確認された。
【0219】
また、
GAPDH mRNAの検出結果を見ると、“LIF(+)・RTase(+)”と“LIF(-)・RTase(+)”の場合にバンドが確認され、“LIF(+)・RTase(-)”と“LIF(-)・RTase(-)”の場合にバンドが確認されなかった。このことから本実験系ではmRNAは分解されていないことが確認された。
【0220】
以上の結果から明らかな通り、
FOXB2 mRNAの発現は、現在分化マーカーとして最も有望であるとされるFgf5 mRNAと同程度の早期に検出された。また、
FOXB2 mRNAの発現は、一般的な未分化マーカー(
OCT3/4,
NANOG,
SOX2)の発現の変化が検出されていない段階でも顕著に検出された。更に、ナイーブマーカーとして知られている
Klf2 mRNAや
Esrrb mRNAがまだ消失しない分化誘導後7日目の段階で、
FOXB2 mRNAの発現が確認された。
【0221】
以上のことから、
FOXB2 mRNAは、従来の未分化マーカーよりも分化の初期段階でES細胞の分化状態を判定できることがわかった。また、培養初期で分化した細胞を判定きることから、細胞の早期スクリーニングや幹細胞の品質管理等に有用であり、培養期間の短縮、培地代の経費削減などが期待できる。
【0222】
参考例1.細胞の分化状態の確認
(1)幹細胞の培養と分化誘導処理
hiPS細胞(201B7株、京都大学iPS 細胞研究所(iPSアカデミアジャパン株式会社))を以下の培地で培養した。
【0223】
hiPS細胞を+bFGF及び+ROCK inhibitorの添加又は無添加のhPSCΔ培地(和光純薬工業(株)製)20000 cells/wellになるように4枚のウェルに播種し、1日培養した。
【0224】
2日目からは4枚のウェルを2枚ずつ、培地を(1) hPSCΔ培地、+bFGF、(2) hPSCΔ培地、+bFGF(100mg/mL)とし、それぞれ毎日培地交換した。6日間培養後、細胞を観察した。
【0225】
(2)結果
結果を
図5に示す。
【0226】
図5において、(1)はbFGF無添加培地で培養した(分化誘導処理)hiPS細胞の写真である。(2)は、bFGF添加培地で培養したhiPS細胞の写真である。
【0227】
bFGF無添加培地で培養することによりhiPSを培養した場合、iPS細胞は神経細胞系の細胞へ分化誘導されることがわかっている。
【0228】
図5(1)から明らかな通り、bFGF無添加(-bFGF)培地で培養した場合、培養6日目で細胞の形態が突起状又は繊維状に変化している様子が確認された(コロニーの淵がとげとげしている。)。
【0229】
しかし、
図5(2)から明らかなように、bFGF添加(+bFGF)培地で培養した場合、bFGF無添加培地で培養した場合のような、細胞の形態の変化は観察されなかった。
【0230】
以上のことから、bFGF無添加培地で培養した場合、hiPS細胞の分化が誘導されることが確認された。
【0231】
実験例1.FOXB2蛋白質の検出1
1)抗ヒトFOXB2蛋白質抗体固定化ELISA用マイクロプレートの調製
抗ヒトFOXB2蛋白質抗体の溶液(50mM MOPS緩衝液(pH7.0))をELISA用マイクロプレート(Nunk社製)の各ウェルに分注後24時間静置して、抗ヒトFOXB2蛋白質抗体を固定化したマクロプロレートを得る。
2)ペルオキシダーゼ標識抗FOXB2蛋白質抗体の調製
抗ヒトFOXB2蛋白質抗体を常法によりペルオキシダーゼ標識する。
3)試料の調製
分化誘導後3日目のhiPS細胞を回収し、ソニケーションによりhiPS細胞を破壊して、細胞のライセートを得る。得られたライセートを緩衝液に溶解させて試料とする。
4)測定
上記3)で調製した試料を、上記1)で調製した抗FOXB2蛋白質抗体固定化ELISA用マイクロプレートの各ウェルに添加し、37℃で1時間程度反応させる。次いで各ウェルを緩衝液で回洗浄する。
上記2)で調製したペルオキシダーゼ標識抗FOXB2蛋白質抗体をそれぞれ各ウェルに分注し、37℃で1時間程度反応させる。各ウェルを緩衝液で、次いで蒸留水で洗浄し、TMB(3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン)溶液(和光純薬工業(株)製)を各ウェルに50μLずつ添加し、25℃、30分間反応させる。その後、反応停止液(1Mりん酸溶液)を各ウェルに50μL ずつ添加して反応を停止させる。450nmにおける吸光度を、Vmax (モレキュラーデバイス社製) を用いて測定する。
その結果、FOXB2蛋白質が検出された場合には、試料として用いたhiPS細胞は分化した状態であると判定される。又は、試料として用いたhiPS細胞の細胞群には、分化した状態の細胞が含まれると判定される。
【0232】
実験例2.FOXB2蛋白質の検出2
1)試料の調製
分化誘導後3日目のhiPS細胞を回収し、ソニケーションによりhiPS細胞を破壊して、細胞のライセートを得る。得られたライセートを緩衝液に溶解させて試料とする。
2)ペルオキシダーゼ標識抗FOXB2蛋白質抗体の調製
抗ヒトFOXB2蛋白質抗体を常法によりペルオキシダーゼ標識する。
3)ウエスタンブロッティング
上記1)で得られた試料をSuperSep
TM(電気泳動用ゲル、和光純薬工業(株),5-20%のグラジェントゲル)にアプライして、SDS-PAGE電気泳動(定電流25mA)を行う。次いで、泳動後の画分を、セミドライブロッティング法にてPVDFメンブレンに転写する。
PBS-T(Phosphate Buffered Saline with Tween
TM 20、pH 7.4)にブロックエース(DSファーマバイオメディカル(株)製)を溶解させてブロッキング液とする。このブロッキング液に上記転写後のPVDFメンブレンを浸漬させ、1時間室温にてブロッキング処理した後、PVDFメンブレンを洗浄し、ブロッキング液に浸漬させる。
次いで、上記2)で得られたペルオキシダーゼ標識抗ヒトFOXB2蛋白質抗体をブロッキング液に加えて室温で1時間程度浸漬させる。PVDFメンブレンを洗浄し、ECL
TM Prime Western Blotting Detection Reagent(ペルオキシダーゼの化学発光基質、GE Healthcare製)で発光させ、LAS4000(富士フイルム(株)製)を用い、露光時間10秒で検出する。
その結果、FOXB2蛋白質が検出された場合には、試料として用いたhiPS細胞は分化した状態であると判定される。又は、試料として用いたhiPS細胞の細胞群には、分化した状態の細胞を含むと判定される。
した状態の細胞が含まれる判定される。