【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)公開の事実−1(搭載したCX−5の販売) 販売日;平成29年2月2日等 販売場所;日本全国に所在するマツダ系販売会社及び世界各国の販売会社 (2)公開の事実−2(リコールにて実施した事実) リコールを実施した日;平成29年2月24日 リコールを実施した場所;日本全国に所在するマツダ系販売会社
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下では、本発明の実施形態について、図面を参酌しながら説明する。なお、以下で説明の形態は、本発明の一態様であって、本発明は、その本質的な構成を除き何ら以下の形態に限定を受けるものではない。
【0023】
[実施形態]
1.エンジン1の全体構成
本実施形態に係るエンジン1の全体構成について、
図1を用い説明する。
【0024】
図1に示すように、エンジン1は、エンジン本体10を備える。本実施形態において、エンジン本体10として多気筒(例えば、4気筒)のディーゼルエンジン(圧縮着火式エンジン)を採用している。エンジン本体10は、複数の気筒11aを有するシリンダブロック11と、当該シリンダブロック11上に配設されたシリンダヘッド12と、シリンダブロック11下に配設されたオイルパン13と、を有している。なお、
図1では、エンジン本体10における複数の気筒11aの内、1つの気筒11aのみを図示している。
【0025】
エンジン本体11の各気筒11aには、ピストン14が上下方向に往復動可能なように設けられている。そして、各ピストン14の冠面には、下方に向けて凹入したキャビティが形成されている。
【0026】
各ピストン14は、下部において、コンロッド14bを介してクランクシャフト15に連結されている。クランクシャフト15は、各ピストン14の上下方向への往復動により、
図1の紙面に垂直な方向に延伸する中心軸回りに回転する。
【0027】
クランクシャフト15には、当該クランクシャフト15と一体に回転するクランクプレート19が取り付けられている。そして、エンジン本体10には、クランクプレート19の回転角を検出するためのクランク角センサ(エンジン回転数センサ)SNS1が設けられている。これらについては、後述する。
【0028】
シリンダヘッド12には、各気筒11aの燃焼室14aに開口する吸気ポート16及び排気ポート17が形成されている。また、シリンダヘッド12には、吸気ポート16の開閉を行う吸気バルブ21と、排気ポート17の開閉を行う排気バルブ22と、が設けられている。
【0029】
また、シリンダヘッド12には、燃焼室14aに対して燃料を噴射するインジェクタ18が各気筒11aごとに設けられている。本実施形態では、エンジン本体10としてディーゼルエンジンを採用しているので、インジェクタ18からは、燃焼室14aに対して軽油を主成分とする燃料が噴射される。
【0030】
インジェクタ18は、その先端に備わる噴口(燃料の噴射口)がピストン14の冠面のキャビティに臨むように配置されており、圧縮上死点(圧縮行程の終了点)の前後にわたる所定の期間中のタイミングに、燃焼室14aに対して燃料を噴射する。
【0031】
図1に示すように、エンジン本体10の吸気ポート16には、吸気通路30が接続されている。また、エンジン本体10の排気ポート17には、排気通路40が接続されている。吸気通路30及び排気通路40は、それぞれエンジン本体10の側壁部分に接合されている。
【0032】
エンジン本体10の燃焼室14aに対しては、外部から取り込まれた吸入空気が吸気通路30及び吸気ポート16を通して導入される。また、燃焼室14aからは、当該燃焼室14aで生成された燃焼ガス(排気ガス)が排気ポート17及び排気通路40を通して排出される。
【0033】
吸気通路30中及び排気通路40中には、第1ターボ過給機61及び第2ターボ過給機62が介設されている。
【0034】
第1ターボ過給機61は、吸気通路30中に配設されたコンプレッサ61aと、当該コンプレッサ61aと同軸で連結され、排気通路40中に配設されたタービン61bと、を有している。同様に、第2ターボ過給機62は、吸気通路30中に配設されたコンプレッサ62aと、当該コンプレッサ62aと同軸で連結され、排気通路40中に配設されたタービン62bと、を有している。
【0035】
第1ターボ過給機61は、そのコンプレッサ61a及びタービン61bが、第2ターボ過給機62のコンプレッサ62a及びタービン62bよりも大きなサイズとなっている。即ち、吸気上流側に配置されている第1ターボ過給機61は、吸気下流側に配置されている第2ターボ過給機62よりも大型の過給機が採用されている。
【0036】
第1ターボ過給機61及び第2ターボ過給機62は、排気エネルギーにより駆動され、吸入空気を圧縮する。即ち、エンジン1の運転中において、排気通路40を高温・高速の排気ガスが通過した場合には、その排気ガスのエネルギーにより各ターボ過給機61,62のタービン61b,62bが回転し、これにより同軸で連結されたコンプレッサ61a,62aが回転する。吸気通路30を通り導入される空気は、タービン61a,62aの回転に伴って圧縮されて高圧化される。そして、高圧化された空気がエンジン本体10の燃焼室14aへと送り込まれる。
【0037】
吸気通路30は、吸気バイパス通路63を有している。吸気バイパス通路63は、第2ターボ過給機62のコンプレッサ62aをバイパスするための経路である。吸気バイパス通路63には、開閉可能な吸気バイパスバルブ63aが設けられている。
【0038】
吸気通路30の上流端部には、エアクリーナー31が設けられている。エアクリーナー31は、吸気通路30に取り込む空気を濾過するものである。
【0039】
吸気通路30には、第2ターボ過給機62よりも吸気下流側に、インタークーラー35及び吸気シャッターバルブ36が順に設けられている。インタークーラー35は、第1ターボ過給機61及び第2ターボ過給機62により圧縮された空気を冷却するためのものである。吸気シャッターバルブ36は、開閉自在となっており、開度に応じてエンジン本体10の燃焼室14aに供給する吸気圧の調節を行う。
【0040】
吸気通路30は、吸気下流端部にサージタンク33を有する。なお、詳細な図示をしていないが、吸気通路30において、サージタンク33よりも吸気下流側は、気筒11aごとに分岐した独立通路となっており、各独立通路の下流端が各気筒11aの吸気ポート16にそれぞれ接続されている。
【0041】
排気通路40は、第1排気バイパス通路65と、第2排気バイパス通路66と、を有する。第1排気バイパス通路65は、第2ターボ過給機62のタービン62bをバイパスするための通路である。第2排気バイパス通路66は、第1ターボ過給機61のタービン61bをバイパスするための通路である。
【0042】
第1排気バイパス通路65には、開閉可能なレギュレートバルブ65aが設けられている。第2排気バイパス通路66には、同じく開閉可能なウェストゲートバルブ66aが設けられている。
【0043】
排気通路40には、第1ターボ過給機61のタービン61bよりも排気下流側に排気浄化装置41が設けられている。排気浄化装置41よりも排気下流側には、図示を省略している排気サイレンサが設けられている。
【0044】
排気浄化装置41は、DOC(Diesel Oxidation Catalyst)41aと、DPF(Diesel Particulate Filter)41bとの組み合わせにより構成されている。DOC41aとDPF41bとは、排気の流れ方向に直列に配置されており、DOC41aがDPF41bに対して排気上流側に配置されている。DOC41aは、通過する排気ガス中の一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)を酸化するものであり、DPF41bは、通過する排気ガス中に含まれる煤等の粒子状物質を捕集するものである。
【0045】
詳細な図示をしていないが、排気通路40において、第1排気バイパス通路65の排気上流側の分岐点よりも上流側は、排気マニホールドとなっている。排気マニホールドは、各気筒11aの排気ポート17に接続される独立通路部と、各独立通路部が集合する集合部とを含み構成されている。
【0046】
吸気通路30におけるサージタンク30の吸気上流側の箇所と、排気通路40における第2ターボ過給機62のタービン62bの排気上流側の箇所と、の間には、EGR通路51が設けられている。EGR通路51には、当該EGR通路51内を流通するEGRガスを冷却するためのEGRクーラ52と、EGR通路51内のEGRガスの流通量(排気ガスの還流量)を調整するためのEGRバルブ51aが設けられている。
【0047】
また、EGR通路51に対しては、EGRバイパス通路53が並列に設けられている。EGRバイパス通路53は、EGRクーラ52をバイパスするための通路であって、EGRバイパスバルブ53aが設けられている。
【0048】
図1に示すように、エンジン1には、当該エンジン1から各種センサ情報を取得し、各バルブ等を制御するPCM(Powertrain Control Module)2が付設されている。PCM2は、CPU、メモリ、カウンタタイマ類、及びI/F等を有するマイクロプロセッサにより構成されている。
【0049】
2.制御システム
本実施形態に係るエンジン1を制御するための制御システムについて、
図2を用い説明する。
【0050】
図2に示すように、エンジン1の制御部であるPCM2には、クランク角センサ(エンジン回転数センサ)SNS1からのクランク角速度情報、吸気圧センサSNS2からの吸気圧情報、車速センサSNS3からの車速情報、ブレーキ圧センサSNS4からのブレーキ圧情報、ギヤポジションセンサSNS5からのギヤポジション情報、水温センサSNS6からの水温情報、油圧センサSNS7からの油圧情報、吸気シャッターバルブポジションセンサSNS8からのシャッターバルブポジション情報、EGRバルブポジションセンサSNS9からのEGRバルブポジション情報を取得する。
【0051】
なお、
図2では、図示を省略しているが、PCM2は、アクセル開度に関する情報についても取得するようになっている。
【0052】
PCM2は、取得した上記各センサ情報に基づいて、燃料噴射弁37の弁開度、吸気シャッターバルブ36の弁開度、トルクコンバータを含む変速機3、及びEGRバルブ51aを含むエンジン1の各種制御を実行する。
【0053】
3.エンジン本体10における吸気バルブ21周りの構成
エンジン本体10における吸気バルブ21周りの構成について、
図3を用い説明する。
【0054】
図3に示すように、エンジン本体10の燃焼室14aに対しては、吸気ポート16と排気ポート17とが連通されている。吸気ポート16と燃焼室14aとの間には、その間の開閉を行う吸気バルブ21が設けられている。また、排気ポート17と燃焼室14aとの間には、その間の開閉を行う排気バルブ22が設けられている。
【0055】
図3の拡大部分に示すように、吸気バルブ21は、弁体であるバルブ傘部21aと、軸体であるバルブ軸部21bとが一体形成されている。そして、吸気バルブ21が閉じた状態では、バルブ傘部21aの外周部がシリンダヘッド12のバルブシート12aに気密に当接することとなる。
【0056】
ところで、吸気通路30の内壁面に付着したデポジットが、何らかの拍子に剥がれ、燃焼室14a方向に流れることがある。流れてきたデポジットは、その一部が吸気バルブ21のバルブ傘部21aとバルブシート12aとの間に噛み込むことが生じ得る。また、同様に、排気バルブ22とバルブシート12aとの間にデポジットが噛み込むことも生じ得る。
【0057】
上記のように、吸気バルブ21や排気バルブ22とバルブシート12aとの間にデポジットが噛み込んだ場合には、圧縮漏れが生じ、着火不良の原因となる。そして、圧縮漏れが生じた状態でエンジンを停止した場合には、再始動が困難となる場合も生じ得る。
【0058】
4.クランクプレート19の構成とクランク角速度情報の検出
クランクプレート19の構成とクランク角速度情報の検出について、
図4及び
図5を用い説明する。
図4は、クランクプレート19の構成を示す模式斜視図である。
図5は、クランク角センサSNS1から入力されるパルス信号をクランク角の変化軸上で示す図である。
【0059】
先ず、
図4に示すように、クランクプレート19は、円環状のプレートであって、クランクシャフト15と一体に軸芯Ax
15回りに回転する。クランクプレート19の外周部分には、径方向外向きに複数の歯部19aが突出形成されている。ただし、周方向の一部には、歯部19aが形成されていない歯欠け部19bが設けられている(矢印Aで指し示す部分)。
【0060】
なお、本実施形態に係るクランクプレート19においては、歯部19aが6°間隔で設けられている。即ち、クランク角センサSNS1が5つの歯部19aを検出することにより、クランクシャフト15が30°CAを検出することになる。
【0061】
次に、
図5に示すように、クランク角センサSNS1から入力されるパルス信号は、30°CAごとに、区間(クランク角範囲)Int1〜Int7,・・に区切られる。そして、各期間Int1〜Int7,・・の通過に要する時間T1〜T7,・・がPCM2で演算される。
【0062】
なお、
図5に示すように、本実施形態では、区間Int5中に圧縮上死点(TDC;Top Dead Center)が含まれている。また、
図5では図示していないが、圧縮下死点(BDC;Bottom Dead Center)は、圧縮上死点TDCに対して180°CAずれた位置に設定されている。
【0063】
ここで、PCM2において、燃料噴射量の算出は、区間Int1の終了タイミング(区間Int2の開始タイミング)で行われるようになっている。
【0064】
また、吸気バルブ21や排気バルブ22とバルブシート12aとの間へのデポジットの噛み込みがなく、圧縮漏れがない状態では、圧縮上死点TDCを含む区間Int5の通過に要する時間T5は、その後の区間、例えば、区間Int7の通過に要する時間T7よりも長くなる。即ち、[数1]の関係を満たす。
【0065】
[数1]T5>T7
これは、区間Int5においては、圧縮漏れがなく気筒11aの筒内圧が高くなるためにピストン14の上昇速度が遅くなることによるものである。
【0066】
一方、吸気バルブ21や排気バルブ22とバルブシート12aとの間へのデポジットの噛み込みが発生し、圧縮漏れが生じている状態では、時間T5と時間T7との比が“1”に近付くこととなる。
【0067】
本実施形態において、PCM2は、クランク角センサSNS1からのクランク角速度情報に基づき、時間T5と時間T7との比率が、予め設定された閾値(通常時よりも“1”に近い値)に近付いた場合に、吸気バルブ21や排気バルブ22とバルブシート12aとの間へのデポジットの噛み込みが発生していると判定する。
【0068】
5.PCM2によるデポジット付着判定とデポジット除去制御
PCM2によるデポジット付着判定及びデポジット除去の具体的な方法について、
図6を用い説明する。
図6は、PCM2が実行するデポジット付着判定及びデポジット除去の各制御方法を示すフローチャートである。
【0069】
図6に示すように、PCM2は、先ず、上記のように各センサSNS1〜SNS9からのセンサ情報を含む複数のセンサ情報を逐次取得する(ステップS1)。次に、PCM2は、車両の走行中において、アクセルオフに伴うフューエルカット(燃料噴射を停止)中か否かを判断する(ステップS2)。
【0070】
なお、平坦路においては、車両の走行中にフューエルカットが実行されると、車両は減速することになる。ただし、下り坂などでは、必ずしも減速しない場合もあるが、ステップS2では、車両が必ずしも減速していない場合も含めてフューエルカットが実行されているか否かを判断する。
【0071】
次に、PCM2は、ステップS2の判断において、フューエルカット中であると判断した場合には(ステップS2;Yes)、気筒11aにおける筒内圧縮状態を検出する(ステップS3)。この検出は、上記のように、クランク角速度情報に基づき、区間Int5の通過に要する時間T5と区間Int7の通過に要する時間T7との比を用い実行される。さらに具体的には、値(T5/T7)を算出することで筒内圧縮状態を検出する。
【0072】
PCM2は、上記ステップS3で求めた値(T5/T7)を、予め設定された閾値と比較する(ステップS4)。そして、PCM2は、ステップS4での比較により吸気バルブ21及び排気バルブ22とバルブシート12aとの間へのデポジットの噛み込みがあると判定した場合には(ステップS5;Yes)、“デポジットの付着あり“とのカウント(m←m+1)を行う(ステップS6)。
【0073】
PCM2は、ステップS6の後に、カウント値mが予め設定された所定の回数M以上であるか否かを判定する(ステップS7)。なお、所定の回数Mは、誤判定を防止(高い精度で判定)するために設定されたものであり、エンジン1の構成などを考慮の上、実験的あるいは経験的に設定された値である。
【0074】
PCM2は、ステップS7において、“m≧M”であると判定した場合には(ステップS7;Yes)、デポジット除去実行フラグをセットし(ステップS8)、デポジット除去制御を実行する(ステップS8〜ステップS13)。
【0075】
PCM2は、デポジット除去制御の1つとして、ロックアップ解除回転数をR
L0からR
L1に変更する(ステップS9)。通常のロックアップ解除回転数R
L0よりも低い回転数R
L1までロックアップ状態を維持し、これにより車輪の回転を利用してエンジン本体10の運転(クランクシャフト15の回転)を維持することで、噛み込んだデポジットを押し潰す(除去する)機会を増大させることができる。ロックアップ解除回転数の変更によるデポジット除去制御については、後述する。
【0076】
なお、R
L0は、変速機3が高ギヤ段(例えば、4速)から低ギヤ段(例えば、3速)にギヤダウンされた場合に発生するパワートレインユニット(エンジン及び変速機)から発せられる騒音を抑制すべく設定される回転数であり、例えば、1200rpm程度である。R
L1は、エンジン本体10のストール(失火)を防止するのに設定されたアイドル回転数であり、例えば、900rpm〜1000rpm程度(例えば、900rpm)である。
【0077】
また、PCM2は、デポジット除去制御の他の方法として、フューエルカット復帰回転数をR
F0からR
F1に変更する(ステップS10)。このように、通常のフューエルカット復帰回転数R
F0よりも高いR
F1とすることにより、フューエルカットの実行可能な時間を短くすることができ、これによって燃焼室14aにおける燃焼圧を利用してデポジットを押し潰す(除去する)機会を増大させることができる。
【0078】
なお、R
F0は、例えば900rpm程度であり、R
F1は、例えば、1200rpm程度である。
【0079】
また、PCM2は、デポジット除去制御の他の方法として、アイドルストップを禁止する(ステップS11)。このようにアイドルストップを禁止することにより、圧縮漏れに起因するエンジン1の再始動失敗を抑制できるとともに、燃焼室14aにおける燃焼圧を利用してデポジットの除去を行うことができる。
【0080】
また、PCM2は、デポジット除去制御の他の方法として、通常であればフューエルカット中の筒内温度低下抑制のために小さくされる吸気シャッターバルブ36の開度を、通常(デポジットの噛み込みがない場合)の開度O
V0よりも大きいO
V1に変更する(ステップS12)。このように、吸気シャッターバルブ36の開度を通常よりも大きいO
V1に変更することで、気筒11aにおける筒内圧を高めることができ、デポジットを押し潰す(除去する)ことができる可能性を高めることができる。
【0081】
また、PCM2は、デポジット除去制御の他の方法として、EGRバルブ51aの弁開度を、通常の開度O
E0よりも小さいO
E1に変更する(ステップS13)。このように、EGRバルブ51aの弁開度を通常よりも小さいO
E1に変更することで、タービン62bに供給されるガス流量が高くなり、それによって吸気圧を高め吸気流速を利用して付着したデポジットを剥すことができる。また、EGRバルブ51aの弁開度をO
E1とすることにより、気筒11aにおける筒内圧を高めることもでき、吸気バルブ21の閉弁中においてもデポジットを押し潰す(除去する)ことが可能となる。
【0082】
なお、
図1を用い説明したように、本実施形態に係るエンジン1では、EGRバイパス通路53も設けられているため、当該EGRバイパス通路53に設けられたEGRバイパスバルブ53aについても、その開度を小さくすることが望ましい。これにより、より一層効果的にデポジットを押し潰すことができる。
【0083】
図6のフローチャートにおいては、ステップS9〜ステップS13を順序付けて図示しているが、実際には、PCM2がステップS7で“Yes”と判定すれば、ステップS9〜ステップS13の各デポジット除去制御を同時並行的に実施する。
【0084】
次に、PCM2は、ステップS7で“No”と判定した場合には、リターンする。
【0085】
また、PCM2は、ステップS5で“No”と判定した場合、即ち、吸気バルブ21及び排気バルブ22とバルブシート12aとの間へのデポジットの噛み込みが無いと判定した場合には、“デポジットの付着なし“とのカウント(n←n+1)を行う(ステップS14)。
【0086】
PCM2は、ステップS14の後に、カウント値nが予め設定された所定の回数N以上であるか否かを判定する(ステップS15)。なお、所定の回数Nについても、誤判定を防止(高い精度で判定)するために設定されたものであり、エンジン1の構成などを考慮の上、実験的あるいは経験的に設定された値である。
【0087】
PCM2は、ステップS15において、“n≧N”であると判定した場合には(ステップS15;Yes)、デポジット除去実行フラグをリセットし(ステップS16)、デポジット除去制御を停止し、各種変更条件を元の条件へと復帰させる(ステップS17〜ステップS21)。
【0088】
具体的には、ロックアップ解除回転数をR
L1からR
L0へと戻し(ステップS17)、フューエルカット復帰回転数をR
F1からR
F0へと戻し(ステップS18)、アイドルストップ禁止を解除し(ステップS19)、吸気シャッターバルブ開度をO
V1からO
V0へと戻し(ステップS20)、EGRバルブ開度をO
E1からO
E0へと戻す(ステップS21)。
【0089】
なお、デポジット除去制御の実行により、EGRバイパスバルブ53aの弁開度を小さくしていた場合には、当該EGRバイパスバルブ53aの弁開度も元の開度へと復帰させる。
【0090】
PCM2は、ステップS15で“No”と判定した場合には、リターンする。
【0091】
また、PCM2は、ステップS2で“No”と判定した場合、即ち、エンジン1がフューエルカット中ではないと判定した場合には、デポジット除去制御が実行中であるか否かを判定する(ステップS22)。デポジット除去制御の実行中であると判定した場合には(ステップS22;Yes)、車両の車速vが予め設定された閾値以上であるか否かを判定する(ステップS23)。
【0092】
PCM2は、ステップS23において、“v≧V”であると判定した場合には、ステップS16からステップS21を実行する。即ち、ステップS23で“Yes”と判定した場合には、既にデポジットの除去がなされたものとみなし、デポジット除去実行フラグをリセットし(ステップS16)、デポジット除去制御を停止し、各種変更条件を元の条件へと復帰させる(ステップS17〜ステップS21)。
【0093】
これは、エンジン1がフューエルカット中ではなく、且つ、車速vが予め設定された所定の速度V以上である場合には、燃焼走行によりデポジットは除去されたものとみなせるためである。なお、所定の速度Vは、実験的又は経験的に設定された値であり、例えば、40km/h程度とすることができる。ただし、エンジン1の種類などにより、適宜の変更が可能である。
【0094】
PCM2は、ステップS22及びステップS23で“No”と判定した場合には、リターンする。
【0095】
6.デポジット除去制御の具体例
本実施形態に係るPCM2によるデポジット除去制御の具体例について、
図7及び
図8を用い説明する。
図7は、実施例1に係るエンジンの制御において、デポジットの噛み込みが無い場合のロックアップ解除回転数に係る制御方法を示すタイミングチャートである。
図8は、実施例2に係るエンジン1の制御において、デポジットの噛み込みが有る場合のロックアップ解除回転数に係る制御方法を示すタイミングチャートである。
【0096】
《実施例1》
先ず、実施例1について、
図7を用い説明する。実施例1は、吸気バルブ21及び排気バルブ22とバルブシート12aとの間にデポジットが噛み込んでいない場合を想定している。
【0097】
図7に示すように、タイミングt
1において、ドライバがアクセルオフし、アクセル開度が略ゼロまで低下する。それとともに燃料噴射量がタイミングt
2に向かって漸減してゆく。
【0098】
燃料噴射は、タイミングt
2においてカット(停止)される。即ち、タイミングt
2において、燃料噴射量がゼロとなる。燃料噴射量がゼロになると、クランク角速度比(T5/T7)が安定するようになる。そして、燃料噴射量がゼロとなったタイミングt
2から、PCM2は、デポジット付着判定を開始する。即ち、本実施形態に係るPCM2は、燃料噴射量がゼロの状態が継続している期間中に取得されたクランク角速度比(T5/T7)に基づいて、デポジットの噛み込みの有無の判定(デポジット付着判定)を実行する。
【0099】
タイミングt
3において、PCM2は、デポジットが噛み込んでいないと判定する。ここで、タイミングt
2からタイミングt
3の間におけるPCM2によるデポジット付着の有無の判定は、上述のように、クランク角速度比(T5/T7)が、予め設定された閾値R
Ath以下であるか否かにより行われる。即ち、クランク角速度比(T5/T7)が、予め設定された閾値R
Ath以下である場合には、デポジットが付着していると判定し、閾値R
Athよりも大きい場合には、デポジットが付着していないと判定する。
図7に示すように、デポジットが付着していない実施例1では、クランク角速度比(T5/T7)は、閾値R
Athよりも大きい。
【0100】
なお、上述のように、閾値R
Athは、“1”よりも少し大きい値とすることができる。詳細な値については、エンジンの特性等を考慮して規定することが可能である。
【0101】
図7に示す実施例1では、デポジットの噛み込みの有無を判定し、その結果、噛み込みがないと判定しているので、デポジット付着判定に係るフラグは“0”のままである。そして、PCM2は、デポジットの噛み込みがないと判定しているので、ロックアップ解除回転数をR
L0のまま維持する。
【0102】
なお、ロックアップ解除回転数R
L0は、上述のように、変速機3が高速ギヤ段(例えば、4速)から低速ギヤ段(例えば、3速)に変更された場合に設定される回転数であり、例えば、1200rpmである。
【0103】
タイミングt
4において、エンジン回転数がR
L0となると、エンジン本体10と変速機3とのロックアップが解除される。これにより、エンジン本体10と変速機3との連結が解除され、矢印Bで指し示す部分のように、エンジン回転数の低下度合いが大きくなる。
【0104】
そして、タイミングt
5において、エンジン回転数がゼロとなる前に、燃料噴射が再開される。これは、エンジンストールを防ぐためである。
【0105】
タイミングt
6において、アクセルが開状態とされた場合に、PCM2は、アクセル開度に応じて目標トルクを算出し、これに応じた量で燃料噴射を実行する。
【0106】
ここで、デポジットの噛み込みがないと判定した場合のロックアップ解除回転数をR
L0(例えば、1200rpm)とした理由は、次の通りである。
【0107】
エンジン回転数の低下時においては、本来的に、エンジン回転数がアイドル回転数となるまでロックアップ状態を維持することが望まれる。
【0108】
しかしながら、所定の操作条件が成立の場合においては、ロックアップ状態のままエンジン回転数がアイドル回転数まで低下する場合、エンジンのトルク変動に起因して変速機3を含むパワートレインユニットから騒音が発生することがある。このため、本実施例では、エンジン回転数の低下時において、エンジン回転数がR
L0に達した時点でロックアップを解除し、パワートレインユニットから騒音の発生を抑制することとしている。
【0109】
《実施例2》
次に、実施例2について、
図8を用い説明する。実施例2では、吸気バルブ21及び排気バルブ22の少なくとも一方と、バルブシート12aとの間にデポジットが噛み込んでいる場合を想定している。
【0110】
図8に示すように、実施例2では、タイミングt
10において、既にデポジットの噛み込みが発生している。
【0111】
次に、タイミングt
11において、ドライバがアクセルオフすると、アクセル開度が略ゼロまで低下し、上記実施例1と同様に、燃料噴射量がタイミングt
12に向かって漸減してゆく。なお、この時点では、PCM2は未だデポジットの噛み込みの有無の判定を行っていないので、デポジット付着判定フラグは“0”のままであり、ロックアップ解除回転数はR
L0に設定されている。
【0112】
次に、タイミングt
12において燃料噴射はカットされ、燃料噴射量がゼロとなる(燃料噴射が停止される)。上記同様に、PCM2は、タイミングt
12からの期間に取得したクランク角速度比(T5/T7)に基づきデポジット付着判定を開始し、タイミングt
13でデポジットの噛み込み有りと判定する。なお、上記同様に、本実施例でも、燃料噴射量がゼロ(フューエルカット)の状態でデポジットの噛み込みの有無を判定するので、トルク変動の影響を受けず、高い精度での判定が可能である。
【0113】
タイミングt
12からタイミングt
13に期間においてPCM2が実行するデポジット付着判定は、上記実施例1と同様に、クランク角速度比(T5/T7)が、予め設定された閾値R
Ath以下であるか否かにより行われる。
図8に示すように、デポジットが付着している本例では、クランク角速度比(T5/T7)は、閾値R
Ath以下となっている。
【0114】
図8に示すように、PCM2は、タイミングt
13において、デポジットの噛み込み有りと判定した場合に、デポジット付着判定に係るフラグを“1”にセットし、ロックアップ解除回転数をR
L0よりも低いR
L1(例えば、900rpm〜1000rpm)に変更する。
【0115】
タイミングt
14において、エンジン回転数がR
L1に達すると、ロックアップは解除される。即ち、エンジン本体10と変速機3との連結が解除される。
【0116】
ここで、矢印Cで指し示すように、本実施例では、上記実施例1におけるタイミングt
4よりも遅い(エンジン回転数が低い)タイミングt
14までロックアップ状態を維持している。このため、タイヤからドライブシャフトを介して入力された回転駆動力により、より遅いタイミングまでエンジン本体10の回転を維持することができ
、その結果、噛み込んだデポジットの押し潰しの機会を増やすことができる。
【0117】
図8に示すように、タイミングt
14においてロックアップが解除されると、エンジン回転数の低下度合いが大きくなる。
【0118】
そして、タイミングt
15において、PCM2は、デポジットの噛み込みが無くなった(除去された)と判定し、フラグを“1”から“0”にリセットするとともに、ロックアップ解除回転数をR
L0に戻す。
【0119】
タイミングt
16において、エンジン回転数がゼロとなる前に、エンジンストール防止のために燃料噴射が再開される。タイミングt
17において、アクセルが開状態とされた場合に、PCM2は、アクセル開度に応じて目標トルクを算出し、これに応じた量で燃料噴射を実行する。
【0120】
ここで、本実施例では、エンジン回転数の低下時において、エンジン回転数がアイドル回転数であるR
L1となるまでロックアップ状態を維持することとしている。このため、本実施例の制御においては、所定の操作条件が成立の場合に、エンジンのトルク変動に起因して変速機3を含むパワートレインユニットから騒音が発生することがある。
【0121】
しかしながら、本実施例は、PCM2がデポジットの噛み込みが有ると判定した例であるため、エンジン停止までにデポジットを除去し、エンジンの再始動性を確保することを第1の目的としている。このため、パワートレインユニットからの騒音発生という問題よりも、デポジットの噛み込みによるエンジンの再始動失敗という問題の解消を優先している。
【0122】
7.効果
本実施形態では、制御部であるPCM2は、吸気バルブ21及び排気バルブ22の少なくとも一方と、バルブシート12aとの間へのデポジットの噛み込みがないと判定した場合(実施例1の場合)に、エンジン回転数が相対的に高いR
L0に達した時点でロックアップ状態を解除するので、変速機3を含むパワートレインユニットからの騒音の発生を抑制することができる。
【0123】
また、本実施形態では、PCM2は、デポジットの噛み込みが有ると判定した場合(実施例2の場合)に、ロックアップ解除回転数を、相対的に低いR
L1とするので、エンジン回転数が相対的に低いR
L1となるまでロックアップ状態が維持され、タイヤからドライブシャフトを介してエンジンに入力される回転駆動力により、エンジン本体10の回転を維持することができ、噛み込んだデポジットを筒内圧により押し潰す機会を増大させることができる。
【0124】
従って、本実施形態では、デポジットの噛み込みがない場合にはパワートレインユニットからの騒音の発生を抑制することができ、デポジットの噛み込みが有る場合にはエンジン1の停止前にデポジットを除去することができ、良好な再始動性が確保可能である。
【0125】
また、本実施形態では、デポジットの噛み込みがない場合に適用されるロックアップ解除回転数R
L0を、変速機3が高ギヤ段(例えば、4速)から低ギヤ段(例えば、3速)に変速された場合に設定される回転数としている。これにより、本実施形態では、エンジン本体10のトルク変動に起因するパワートレインユニットからの騒音の発生をより確実に抑制することができる。
【0126】
また、本実施形態では、デポジットの噛み込みが有る場合に適用されるロックアップ解除回転数R
L1をアイドル回転数(900rpm〜1000rpm)としているので、エンジン回転数がアイドル回転数となるまでロックアップ状態を維持することができ、
図8を用い説明したように、タイヤからドライブシャフトを介してエンジンに入力される回転駆動力により、エンジン本体10の回転を維持することができ、押し潰しの機会の増大によりエンジンの停止前にデポジットを除去することができる。
【0127】
[変形例]
上記実施形態では、2つのターボ過給機61,62を備えるエンジン1を一例としたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、1つのターボ過給機を備える構成を採用することもできるし、ターボ過給機の代わりにスーパーチャージャーや電動ターボ過給機を採用することもできる。
【0128】
また、エンジンにおいて、過給機を備えることは必ずしも必須ではなく、所謂、自然吸気エンジンを採用することもできる。
【0129】
また、上記実施形態では、EGR通路51やEGRバイパス通路53を備えるエンジン1を一例としたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。即ち、EGR通路やEGRバイパス通路は、必須の構成ではない。
【0130】
また、上記実施形態では、エンジン本体10としてディーゼルエンジンを一例としたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。即ち、ガソリンエンジンを採用することもできる。
【0131】
また、上記実施形態では、PCM2によるデポジット付着判定において、クランク角速度情報に基づく区間Int1〜Int7,・・の内、区間Int5を通過する時間T5と区間Int7を通過する時間T7とを用いてクランク角速度比(T5/T7)を算出することとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、区間Int3や区間Int4などを通過する時間T3,T4と、区間Int6や区間Int7などを通過する時間T6,T7と、の比を採用することとしてもよい。
【0132】
また、上記実施形態では、
図6に示すフローチャートにおいて、ステップS2で「減速フューエルカット中」か否かを判定することとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。アクセルオフに伴うフューエルカット中であれば、「減速中」か否かは必須の要件ではない。例えば、下り坂を走行中などにもデポジット付着判定を実行することとする場合には、ステップ2として、「アクセルオフに伴うフューエルカット中」か否かを判定要件とすることができる。
【0133】
また、上記実施形態では、
図6に示すフローチャートにおいて、ステップS13で「EGRバルブ開度」を小さくする(又はゼロとする)こととしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。即ち、上記実施形態のようにEGRバイパス通路53を備える場合には、EGRバルブ51aに加え、EGRバイパスバルブ53aについても開度を小さくする(又はゼロとする)ことが望ましい。これにより、排気ガスの略全量がターボ過給機61,62のタービン61b,62bが設けられた箇所を経由して排出されることとなり、より高圧の空気が吸気ポート16に供給されることとなる。よって、デポジット除去を行う上でより望ましい。
【0134】
また、上記実施形態では、
図6に示すフローチャートにおいて、ステップS9〜ステッ
プS13のデポジット除去制御を実行することとしたが、本発明は、これら全てを実行することは必須ではなく、あるいは、他のデポジット除去を促進できる制御を付加して実行することも可能である。
【0135】
さらに、上記実施形態では、PCM2がデポジットの噛み込み有りと判定した場合に、アイドルストップを禁止することとしたが(
図6のステップS11)、アイドルストップを抑制するだけでも、上記同様の効果をある程度得ることができる。
【0136】
また、上記実施形態では、燃料噴射量がゼロである期間中にデポジットの噛み込みの有無の判定を実行することとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、燃料噴射量がゼロである期間中に取得されたクランク角速度情報(クランク角速度比)に基づき、当該期間の後にデポジットの噛み込みの有無を判定することとしてもよい。この場合にも、上記同様に正確な判定が可能である。
【0137】
また、上記実施形態では、パワートレインユニットから騒音が発生について、変速機3が高ギヤ段(例えば、4速)から低ギヤ段(例えば、3速)にシフトダウンされることが引き金となるとしたが、この操作条件に加え、ドライバがブレーキペダルを強く踏むことによりブレーキ圧が1.5MPaとなった場合に、特に騒音の発生が危惧される。上記実施形態では、デポジットの噛み込みがない場合に、ロックアップをR
L0で解除することで、当該騒音の発生を抑制している。
【0138】
また、上記実施形態では、PCM2がデポジットの噛み込みの有無を判定し、その結果に基づいて、ロックアップ状態から前記ロックアップ解除状態へと切り替えるエンジン回転数を変更することとしたが、本発明は、デポジットの噛み込みの有無を必ずしも判定することを要しない。即ち、PCM2は、クランク角速度比が所定の閾値以下になったタイミングで、デポジットの噛み込みの有無を判定することなく、ロックアップ状態から前記ロックアップ解除状態へと切り替えるエンジン回転数を相対的に低い回転数に変更することとしてもよい。