特許第6593386号(P6593386)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6593386
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】車両用サウンドシステム
(51)【国際特許分類】
   B60R 11/02 20060101AFI20191010BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20191010BHJP
   H04R 1/34 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   B60R11/02 S
   H04R3/00 310
   H04R1/34 310
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-94625(P2017-94625)
(22)【出願日】2017年5月11日
(65)【公開番号】特開2018-191238(P2018-191238A)
(43)【公開日】2018年11月29日
【審査請求日】2018年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080768
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100106644
【弁理士】
【氏名又は名称】戸塚 清貴
(72)【発明者】
【氏名】任田 功
(72)【発明者】
【氏名】橋口 拓允
(72)【発明者】
【氏名】若松 功二
【審査官】 田々井 正吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−260628(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/032704(WO,A1)
【文献】 特開2008−113190(JP,A)
【文献】 特開2005−241271(JP,A)
【文献】 特開2007−308084(JP,A)
【文献】 特開平07−067196(JP,A)
【文献】 特開2007−243262(JP,A)
【文献】 特開2017−069806(JP,A)
【文献】 特開昭62−072300(JP,A)
【文献】 実開昭62−171296(JP,U)
【文献】 実開平06−027355(JP,U)
【文献】 特開2009−040368(JP,A)
【文献】 特開2005−112002(JP,A)
【文献】 特開2006−273106(JP,A)
【文献】 特開2003−095032(JP,A)
【文献】 特開2009−040130(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0213786(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0021433(US,A1)
【文献】 特許第2776092(JP,B2)
【文献】 特開平05−085288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 11/02
H04R 1/34
H04R 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを有する車両が車室内用のオーディオ装置を備えた車両用サウンドシステムであって、
車室内におけるオーディオ音可聴領域を設定するオーディオ音可聴領域設定手段を備え、
前記オーディオ音可聴領域は、運転席のヘッドレスト近傍を含むように設定されると共に、運転席乗員の頭部が前方に変位した場合に運転席乗員の耳が該オーディオ音可聴領域から外れるように設定され、
車室内におけるエンジン音可聴領域を設定するエンジン音可聴領域設定手段をさらに有し、
前記エンジン音可聴領域は、前記オーディオ音可聴領域よりも広くされて、運転席のヘッドレスト近傍を含むように設定されると共に、運転席乗員の頭部が前方に変位した場合でも運転席乗員の耳が該エンジン音可聴領域内に位置するように設定されている、
ことを特徴とする車両用サウンドシステム。
【請求項2】
請求項1において、
前記オーディオ音可聴領域は、助手席を含むように設定されると共に、該助手席での可聴領域が前記運転席での可聴領域よりも広くなるように設定されている、ことを特徴とする車両用サウンドシステム。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記オーディオ装置が、左右一対の指向性を有する運転席用スピーカを備え、
前記左右一対の運転席用スピーカは、運転席の前方に配設されると共に、運転席のヘッドレストに向けて指向され、
前記左右一対の運転席用スピーカの指向方向延長線が、後方に向かうにつれて徐々に狭まるようにされている、
ことを特徴とする車両用サウンドシステム。
【請求項4】
請求項3において、
前記オーディオ装置が、左右一対の指向性を有する助手席用スピーカを備え、
前記左右一対の助手席スピーカは、助手席の前方に配設されると共に後方に向けて指向され、
前記助手席用スピーカの指向性が、前記運転席用スピーカの指向性に比して弱くされている、
ことを特徴とする車両用サウンドシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用サウンドシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両においては、車室内にオーディオ音を流すオーディオ装置が装備されていることが一般的となっている。特許文献1、特許文献2には、オーディオ音が乗員にとって車室内の所定位置から聞こえるようにするために、オーディオ音の定位を行うものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2776092号公報
【特許文献2】特開平5・85288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えばスポーツカー等の走行を楽しむことが重視される車両においては、エンジン音を運転者(運転席乗員)に対して積極的に聞かせる(聴かせる)ことが望まれるものである。すなわち、エンジン音は、車両状態をよく示すことから、走行を楽しむ場合にエンジン音というものが非常に重要な要素なる。
【0005】
一方、オーディオ装置を作動されて、車室内にオーディオ音が流れている状態では、オーディオ音に邪魔されて、エンジン音が聞きずらくなることも応々にして生じることになる。エンジン音を聞きやすくするために、オーディオ装置の作動を停止することは、オーディオ音を全く楽しめない状況となり、好ましくない。
【0006】
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、オーディオ音を車室内に流している状態でも、運転者が運転に集中する姿勢をとることにより、運転者がエンジン音をより明確に認識できるようにした車両用サウンドシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明にあっては次のような解決手法を採択してある。すなわち、請求項1に記載のように、
エンジンを有する車両が車室内用のオーディオ装置を備えた車両用サウンドシステムであって、
車室内におけるオーディオ音可聴領域を設定するオーディオ音可聴領域設定手段を備え、
前記オーディオ音可聴領域は、運転席のヘッドレスト近傍を含むように設定されると共に、運転席乗員の頭部が前方に変位した場合に運転席乗員の耳が該オーディオ音可聴領域から外れるように設定され、
車室内におけるエンジン音可聴領域を設定するエンジン音可聴領域設定手段をさらに有し、
前記エンジン音可聴領域は、前記オーディオ音可聴領域よりも広くされて、運転席のヘッドレスト近傍を含むように設定されると共に、運転席乗員の頭部が前方に変位した場合でも運転席乗員の耳が該エンジン音可聴領域内に位置するように設定されている、
ようにしてある。
【0008】
上記解決手法によれば、運転席乗員がリラックスしてシートバックに深くもたれかかっている姿勢状態では、運転席乗員の耳の位置がオーディオ音の可聴領域に入って、オーディオ音を十分に楽しむことができる。この一方、運転に集中するときは前かがみの姿勢になるが、この場合は、運転席乗員の耳の位置がオーディオ音の可聴領域から外れて、オーディオ音が聞こえにくい状態となり、その分エンジン音を明確に認識しやすい状態となる。特に、運転に集中するときに、運転席乗員の耳が、オーディオ音の可聴領域から外れる一方、エンジン音可聴領域内に位置されるので、運転席乗員にエンジン音を積極的に聞かせる上で好ましいものとなる。
【0009】
上記解決手法を前提とした好ましい態様は、次のとおりである。
【0010】
前記オーディオ音可聴領域は、助手席を含むように設定されると共に、該助手席での可聴領域が前記運転席での可聴領域よりも広くなるように設定されている、ようにしてある(請求項2対応)。この場合、助手席乗員は、姿勢を崩した状態でもオーディオ音を聞くことができ、助手席乗員に対しては常時オーディオ音を楽しめる状況とする上で好ましいものとなる。
【0011】
前記オーディオ装置が、左右一対の指向性を有する運転席用スピーカを備え、
前記左右一対の運転席用スピーカは、運転席の前方に配設されると共に、運転席のヘッドレストに向けて指向され、
前記左右一対の運転席用スピーカの指向方向延長線が、後方に向かうにつれて徐々に狭まるようにされている、
ようにしてある(請求項3対応)。この場合、運転席乗員用に対してオーディオ音の可聴領域を設定する具体的なものが提供される。
【0012】
前記オーディオ装置が、左右一対の指向性を有する助手席用スピーカを備え、
前記左右一対の助手席スピーカは、助手席の前方に配設されると共に後方に向けて指向され、
前記助手席用スピーカの指向性が、前記運転席用スピーカの指向性に比して弱くされている、
ようにしてある(請求項4対応)。この場合、助手席乗員に対して常時オーディオ音を楽しめるような状況としつつ、助手席乗員向けに流されるオーディオ音を不必要に運転席乗員に聞かせてしまう事態を防止することができる。
【0013】
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、オーディオ音を車室内に流している状態でも、運転者が運転に集中する姿勢をとることにより、運転者はエンジン音をより明確に認識することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明が適用された車両の一例を示す平面図。
図2図1に示す車両の側面一部断面図。
図3】ダッシュパネルに形成されたエンジン音透過部分の構造を示す分解斜視図。
図4】インストルメントパネル付近の状態を車室後部から前方を見た正面図。
図5】エンジン音を運転席乗員に向けて指向させる部分を示す要部断面図。
図6】運転席乗員と助手席乗員とに対するスピーカの指向方向を示す簡略平面図。
図7】オーディオ音可聴領域とエンジン音可聴領域との設定例を示す要部平面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1図2において、車両Vは、実施形態では、2ドアのオープンカーとされている。図中、1はダッシュパネルで、エンジンルーム2と車室3とを仕切っている。4は、エンジンルーム2を上方から覆うボンネット、5R、5Lは、左右一対のサイドドア、6はトランクリッド、7はルーフである。また、8は運転席、9は助手席、10はステアリングハンドルである。さらに、11はインストルメントパネル、12はフロントウインドガラスである。
【0017】
図2に示すように、ルーフ7は、リアウインドガラス7aを有しており、図2では、ルーフ7が閉状態のとき、つまりルーフ7によって車室3が上方から覆われた状態が示される。また、図1では、ルーフ7が閉じられた状態を示すが、ルーフ7を透視した状態となっており、またフロントウインドガラス12の上端部を一部カットした状態が示される。
【0018】
車室3の床面を構成するフロアパネル20は、車幅方向中央部において前後方向に延びるトンネル部21を有し、トンネル部21の上面はトリム材22により覆われている。フロアパネル20の後端部は、キックアップ部23を経てリアパネル24へと連なっている。
【0019】
ダッシュパネル1の前方に構成されたエンジンルーム2には、エンジン30が配設されている。エンジン30は、実施形態では縦置きとされて、エンジン本体が符号30Aで示され、吸気系部材が符号30Bで示され、排気系部材が符号30Cで示される。エンジン30(エンジン本体30A)の後部には、変速機31が連結されている。
【0020】
なお、エンジン30には、エンジン本体30Aにより駆動されるオルタネータ、エアコン用コンプレッサ等々の補器類が装備されているが、これらは図示を略してある。エンジン音は、エンジン本体30Aが回転されたり燃焼されるときに発生される音の他、吸気音や排気音、さらには補器類が駆動された音がミックスされた音となる。
【0021】
車両Vの後部には、差動装置(デファレンシャルギア)40が配設されている。この差動装置40と、変速機31(つまりエンジン30)とが、プロペラシャフト41によって連結されている。つまり、車両Vは、実施形態では後輪駆動車とされている。そして、変速機31と差動装置40とが、プロペラシャフト41を取り巻くように配設された円環状のトルクチューブ44によって連結されている(図5をも参照)。
【0022】
エンジン30から延びる排気通路42が後方へ延びている。この排気通路42は、車両後部の下方に配設されたマフラー43に接続されている。マフラー43は、後方へ開口された左右一対の排気パイプ43Aが接続されている。排気ガスが、最終的に、排気パイプ43Aから外部(大気)へ排出される。
【0023】
本実施形態では、エンジン音を車室内の所定位置に定位させて、積極的に車室内に導入するようにしてあり、この定位位置が符号T1で示される。実施形態では、定位位置T1は、フロントウインドガラス12に設定されている。具体的には、定位位置T1は、フロントウインドガラス12のうち、運転者の眼の位置と略同じ高さ位置で、車幅方向略中央部に位置するように設定されている。なお、定位位置T1の領域は、図示したものに限らず、例えば、車幅方向や上下方向に拡大した領域でもよく、またT1の位置は、フロントウインドガラス12の領域内において、車両状態、例えばステアリング舵角等に応じて可変としてもよい。
【0024】
次に、エンジン音を定位位置T1に定位する具体構造例について説明する。まず、ダッシュパネル1のうち、エンジン30(エンジン本体30A)が位置する高さおよび車幅方向位置に、図3に示すように開口部50が形成される。この開口部50は、エンジンルーム2とインストルメントパネル11(の空間)内とを連通している。そして、開口部50は、空気を遮断する膜部材51によって施蓋されている。つまり、エンジンルーム2からのエンジン音が、膜部材51を震動させてインストルメントパネル11内へと効果的に伝達される。
【0025】
インストルメントパネル11には、その上面に開口部11aが形成されている(図2参照)。インストルメントパネル11内に伝達されたエンジン音は、開口部11aを通過してフロントウインドガラス12に向けて伝達されることにより、このフロントウインドガラス12で反射されて、運転席8に着座している運転者へと伝達されることになる。つまり、定位位置T1は、エンジン音がフロントウインドガラス12で反射される部位とされる。エンジンルーム2内の空気や液体は、膜部材51で遮断されて、車室3へと流れこむことが防止される。
【0026】
図3に示すように、膜部材51により施蓋された開口部50には、弁部材52が取付けられている。弁部材52は、開口部50に臨む短い筒部材52Aと、筒部材52Aを開閉する電磁式の弁体52Bとを有する。弁部材52を開位置とすることにより、開口部50からのエンジン音が、筒部材52Aを通ってインストルメントパネル11内に伝達される(定位位置T1での定位実現)。弁部材52を閉位置とすることにより、定位位置T1でのエンジン音の定位が行われない状態とされる。弁部材52の開度調整により、定位位置T1からのエンジン音の音量を変化させることができる。
【0027】
エンジン音については、さらに、運転席乗員に向けて指向させるようにしてある。このエンジン音の指向は、実施形態では、トンネル部21を覆うトリム材22の前端部上面に設定された開閉部材56を利用して行うようにしてある。以下この点について説明すると、まず、トンネル部55の前端部上面に形成された開口部に、弁部材55が配設される(図2参照)。弁部材55は、前述した図3に示す弁部材52と実質的に同様の構成とされている。すなわち、トンネル部21に形成された開口部が空気を遮断する膜部材により施蓋されて、ここに弁部材55が取付られる。
【0028】
また、トルクチューブ44の上面には、弁部材55付近の位置において、開口部44aが形成されている(図2図5参照)。これにより、エンジンルーム2からのエンジン音が、トルクチューブ44内、開口部44a、トンネル部21内を経て、弁部材55の位置に伝達される。このように、弁部材55の部分には、エンジン音が十分に伝達されるような設定とされている。
【0029】
トンネル部21を覆うトリム材22の前端部上面には、回動式の開閉部材56が設けられている。この開閉部材56は、図5に示すように、トリム材22の上面の一部を実質的に構成する円弧状の板材により形成されて、その一部に開口部56aが形成されている。開閉部材56は、図示を略すアクチュエータによって図5紙面直角方向に延びる軸線Z回りに回動可能とされている。図5では、開口部56aが、運転席側に向けて斜め上方に向かう状態、つまり運転席乗員に向けて指向された状態となっている。
【0030】
図2図5から明かなように、弁部材55が開位置とされている状態では、開口部56aを運転席乗員に向けて指向させることにより、トンネル部21内に伝達されたエンジン音が開口部56aを通して、運転席乗員に向けて指向されることになり、運転席乗員はより明確にエンジン音を認識することのできる状況となる。なお、開閉部材56は、その開口部56aが、運転席乗員側を向いた(指向された)状態と、上方を向いた状態との間で変更可能とされている。弁部材55の開度調整によって、開口部56aからのエンジン音の音量を調整することができる。また、開口部56cを開閉する部材を別途設けることもでき、この場合、開口部56aの開口面積を段階的あるいは連続可変式に変更することもできる。なお、開閉部材56の開口部56aが助手席側を向く状態を選択できるようにすることもできる。
【0031】
オーディオ音用のスピーカとして、運転席乗員用のスピーカ61L、61R、および助手席乗員用のスピーカ62L、62Rが設けられている(図1図4図6参照)。運転席乗員用の左右一対のスピーカ61L、61Rは、運転席8前方のインストルメントパネル11に対して、車幅方向に間隔をあけて配設されている。運転席乗員用のスピーカ61L、61Rは、指向性を有するものが用いられて、その指向方向および範囲が図1一点鎖線で示され、またその指向中心線が図6において一点鎖線で示される。
【0032】
助手席乗員用の左右一対のスピーカ62L、62Rは、助手席9前方のインストルメントパネル11に対して、車幅方向に小間隔をあけて配設されている。助手席乗員用のスピーカ62L、62Rは、運転席乗員用のスピーカ61L、61Rに比して指向性の弱いものが用いられて、その指向方向および範囲が図1一点鎖線で示され、またその指向中心線が図6において一点鎖線で示される。助手席乗員用のスピーカ62L、62Rの指向性が弱いことにより、助手席乗員は、助手席9に着座している姿勢を崩した状態でも、オーディオ音を楽しむことができる。
【0033】
実施形態では、スピーカ61L、61R、62L、62Rとして、指向性を有する平面スピーカを用いてある。なお、図4では、各スピーカ61L、61R、62LRの位置を示すもので、各スピーカは実際には後方を向いているものである。
【0034】
運転席用のスピーカ61L、61Rの指向方向は、運転席8のヘッドレスト8aとされている。すなわち、左方側のスピーカ61Lが、ヘッドレスト8aの左端部付近に指向され、右方側のスピーカ61Rが、ヘッドレスト8aの右端部付近に設定されている。また、左右一対のスピーカ61L、61Rの左右間隔は、ヘッドレスト8aや運転席8の左右幅よりも大きくされている。これにより、図6に示すように、スピーカ61L、61Rの指向中心線は、後方に向かうにつれて徐々に狭まるようにされている。
【0035】
上述のような運転席用のスピーカ61L、61Rの設定により、運転席8に着座している運転者つまり運転席乗員P1は、シートバックに深くもたれかかって、その頭部がヘッドレスト8a直近に位置させたリラックス状態では、運転席乗員P1の耳の位置が、スピーカ61L、61Rからのオーディオ音の可聴領域となる。そして、スポーツ走行等を行うときのように運転に集中するときは、運転席乗員P1は前かがみの姿勢となることから、運転席乗員P1の耳の位置が、スピーカ61L、61Rからのオーディオ音の可聴領域から外れることになる。
【0036】
一方、助手席用のスピーカ62L、62Rは、スピーカ62L、62Rからのオーディオ音の可聴領域が、平面視でほぼ助手席9の全範囲に渡るようにその指向性が設定されている。これにより、助手席乗員P2は、姿勢を崩した状態でも、スピーカ62L、62Rからのオーディオ音を聞くことが可能となっている。
【0037】
図7には、オーディオ音の可聴領域を、ハッチングを付した領域δ2で示してある。また、エンジン音の可聴領域を、一点鎖線で囲んだ領域δ1で示してある。エンジン音の可聴領域δ1は、オーディオ音の可聴領域での可聴領域δ2よりも広くされて(実施形態ではオーディオ音の可聴領域δ2を包含する)いる。そして、エンジン音の可聴領域δ1は、車室3のほぼ全体に行き渡るようにされているが、前述した開口部56aからのエンジン音が車室内へ導入されることによって、運転席8側では助手席9側よりもより明確にエンジン音を認識されやすいものとされている。
【0038】
図7から明かなように、運転席乗員用のオーディオ音の可聴領域の前後幅は、助手席乗員用のオーディオ音の可聴領域の前後幅よりも十分に小さくされている。すなわち、運転席乗員用の可聴領域は、ヘッドレスト8a付近に限定されて、それよりも前側には可聴領域が設定されないこととなる。なお、可聴領域とならない非可聴領域においては、オーディオ音を聞くことが可能ではあるが、可聴領域に比してオーディオ音が聞きずらいという明確な有意差を有するものである。
【0039】
ここで、実施形態では、さらに、排気音を定位するようにしてある。すなわち、運転者が排気音の聞こえる位置となる第4の位置T4を、車室後部のうち車幅方向略中央部に設定してある(図1図2参照)。この第4の位置T4は、車室内への開口部に弁部材を配設した構造となっており、実質的に図3に示すのと同様の構造とされているので、その重複した説明は省略する。
【0040】
この第4の位置T4(の開口部)は、車室内の換気用となる外部に開口されたエキストラチャンバ80に対して、ダクト81を介して接続されている(図1図2参照)。エキストラチャンバ80は、排気パイプ30Aの近くに形成されていることから、排気音が効果的に第4の位置T4へと伝達することができる。なお、所定位置T4における弁部材は、常時全開とすることもできるが、市街地走行や低速走行時等のスポーツ走行が想定されないときは閉弁しておくこともできる。また、この弁部材は、エンジン回転数が上昇するにつれて、その開度を徐々に増大させることもできる。
【0041】
以上実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載された範囲において適宜の変更が可能であり、例えば次のようにすることもできる。
(1)エンジン音の定位(定位位置T1での定位)を、所定の走行状態(例えば、エンジン回転数が所定値以上であったり、アクセル開度が所定値以上であったり、車体に作用するGが所定値以上でる等の運転負荷の大きいとき)である場合を条件として行うようにしてもよい。また、エンジン音の定位位置としては、フロントウインドガラス以外の適宜の場所に設定することが可能である。また、エンジン音を、例えば、ダッシュパネルのうち運転席の足下付近から車室3内に導入する等のこともできる。さらに、エンジン音の定位を行わないようにしてもよい。同様に、開口部56a等を通してのエンジン音の車室内への積極的な導入を行わないようにしてもよく、排気音の車室3内への積極的な導入を行わないようにしてもよい。
(2)運転席用のスピーカ61L、61Rについては、その向きを変更可能とすることもできる。すなわち、運転席乗員P1の体格の相違に応じて、運転席8(におけるヘッドレスト8a)の前後方向位置が変更された場合に、変更後のヘッドレスト8aに向けて指向されるように、スピーカ61L、61Rの向きを自動的に変更するようにしてもよい。
(3)運転席乗員用のスピーカ61l、61Rは、適宜の位置に配設することができ、例えば運転席8のヘッドレストに配設することもできる。同様に、助手席乗員用のスピーカ62L、62も、適宜の位置に配設することができ、例えば助手席9のヘッドレスト9aに配設することもできる。
(4)スピーカの指向性は車室内での音の反射があると低下するため、スピーカ61L、61R、62L、62Rの向いた方向の車室内の向川に吸音材を設けておくのが好ましい。なお、指向性を有するスピーカは、周波数が低いほど指向性が弱くなるため(高周波ほど指向性が強くなる)、オーディオ音に含まれる周波数成分を考慮して、スピーカ61L、61Rの向きを自動変更するようにすることもできる。
(5)本発明は、オープンカーに限らず、セダン型やSUV型、4輪駆動車等、種々の形式の車両に適用できる。また、変速機31が車両後部(差動装置40の位置)に配設されたものであってもよく、プロペラシャフト41を有しない前輪駆動車(いわゆるFF車)やエンジン30が車室後方に配設されたものであってもよい。勿論、本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましいあるいは利点として表現されたものを提供することをも暗黙的に含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、車室内にオーディオ音を流したままの状態で、運転者にエンジン音を認識させる上で好ましいものとなる。
【符号の説明】
【0043】
1:ダッシュパネル
2:エンジンルーム
3:車室
5L、5R:サイドドア
8:運転席
8a:ヘッドレスト
9:助手席
9a:ヘッドレスト
11:インストルメントパネル
11a:開口部(エンジン音通過用)
12:フロントウインドガラス
20:フロアパネル
21:トンネル部
22:トリム材
23:キックアップ部
24:リアパネル
30:エンジン
31:変速機
40:差動装置
41:プロペラシャフト
42:排気通路
43:マフラー
43A:排気パイプ
50:開口部(エンジン音透過用)
51:膜部材
52:弁部材
55:弁部材
56:開閉部材
56a:開口部
61L、61R:スピーカ(運転席乗員用)
62L、62R:スピーカ(助手席乗員用)
80:エキストラチャンバ
81:ダクト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7