特許第6593390号(P6593390)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6593390-移動距離計測装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6593390
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】移動距離計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/00 20060101AFI20191010BHJP
【FI】
   G01B11/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-109534(P2017-109534)
(22)【出願日】2017年6月1日
(65)【公開番号】特開2018-205073(P2018-205073A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2018年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勝野 高志
(72)【発明者】
【氏名】樹神 雅人
【審査官】 小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−038287(JP,A)
【文献】 特開2016−166853(JP,A)
【文献】 特開2014−164363(JP,A)
【文献】 特開2002−310920(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0103274(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00 − G01B 11/30
G01C 22/00 − G01C 22/02
G08G 1/133
G06T 1/00 − G06T 1/40
G06T 3/00 − G06T 9/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両下方の路面へレンズを向けており、撮影範囲が隣り合うように車両に配置されている複数のカメラと、
対応する前記カメラの撮影範囲に光を照射するように前記車両に配置されている複数の光源と、
同時に撮影された複数の前記カメラの画像を一つの広範囲画像に合成するとともに、異なる時間に撮影された複数の前記広範囲画像における路面の特徴点のずれから車両の移動距離を算出するコンピュータと、
を備えており、
撮影範囲が隣接している前記カメラは、反応する光の特性が異なっており、
夫々の前記光源が照射する光は、対応する前記カメラが反応する特性を含み、隣接しているカメラが反応する特性を含まない、移動距離計測装置。
【請求項2】
前記光の特性は、カメラが反応する光の波長帯域あるいは、偏光方向である、請求項1に記載の移動距離計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、自動車の移動距離計測装置に関する。特に、車載のカメラが異なる時間に撮影した複数の画像から車両の移動距離を求める移動距離計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
GPS電波が届かないトンネル内などでは、他のセンサで自車の移動距離が計測できることが望ましい。特許文献1、2に、車載カメラが異なる時間に撮影した複数の画像から車両の移動距離と移動方向を得る技術が例示されている。その技術は、複数の画像を照合し、被写体の位置のずれから車両の移動距離と移動方向を求める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−114020号公報
【特許文献2】特開2007−127525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車載カメラで撮影する場合、適当な対象物がない場合もあり得るため、車両下の道路など、比較的に近距離の被写体を撮影することが望ましい。一方、走行する車両から撮影した複数の画像に同じ被写体が含まれるためには、比較的広い範囲が撮影できることが望ましい。夜間や雨天でも良好な画像を得るにはカメラとともに光源も備える必要がある。近距離で広範囲を良好に撮影する一つの方法として、複数のカメラと複数の光源を格子状に配置し、複数のカメラの画像を合成して一つの広範囲画像を得ることが考えられる。この場合、夫々のカメラの撮影範囲に、対応する光源が光を照射することになる。このとき、特定のカメラが対応する光源の照射光だけでなく隣の光源の照射光の影響を受けると、画像が不鮮明となるおそれがある。例えば雨天など、隣の光源の照射光の入射角の影響により、路面ではなく水膜表面で光が反射する場合があり、特定のカメラは正確な路面テクスチャ画像を送ることができないためである。本明細書は、複数のカメラと複数の光源を用いて広範囲画像を取得し、異なる時間の広範囲画像から車両の移動距離を得る移動距離計測装置において、良好な画像を得て精度良く移動距離を求めることができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する移動距離計測装置は、車載された複数のカメラと複数の光源とコンピュータを備えている。複数のカメラは、車両下方の路面へレンズを向けており、撮影範囲が隣り合うように車両に配置されている。複数の光源は、対応するカメラの撮影範囲に光を照射するように車両に配置されている。コンピュータは、同時に撮影された複数のカメラの画像を一つの広範囲画像に合成する。さらに、コンピュータは、異なる時間に撮影された画像から得られる複数の広範囲画像における路面の特徴点のずれから車両の移動距離を算出する。ここで、撮影範囲が隣接しているカメラは、反応する(感応する)光の特性が異なっており、夫々の光源が照射する光は、対応するカメラが反応する特性を含み、隣接しているカメラが反応する特性を含まない。光の特性は、例えば、カメラが反応する光の波長帯域あるいは、偏光方向である。波長の場合、夫々の光源が照射する光は、対応するカメラが反応する波長帯域の光を含み、隣接するカメラが反応する波長帯域の光を含んでいない。カメラと光源の上記の関係により、夫々のカメラは、夫々対応する光源の光に頼って路面を撮影することができ、隣接する光源の光の影響を受けない。それゆえ、各カメラは良好な画像を得ることができ、精度よく移動距離を求めることができる。
【0006】
なお、異なる時間に撮影された画像から車両の移動方向を求めるアルゴリズムは、例えば、特許文献1、2に開示された技術を用いればよい。本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例の移動距離計測装置の模式図である。
図2】複数のカメラの撮影範囲と夫々のカメラに対応する照明の照射範囲を示す図である。
図3】移動距離算出アルゴリズムを説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図面を参照して実施例の移動距離計測装置2を説明する。図1に、移動距離計測装置2の模式図を示す。移動距離計測装置2は、自動車100に搭載されている。移動距離計測装置2は、4台のカメラ3a−3d、4台の光源4a−4d、コンピュータ5を備えている。4台のカメラ3a−3dは、車両下方の路面へレンズを向けて配置されている。また、4台のカメラ3a−3dは、夫々の撮影範囲(路面の撮影範囲)が隣り合うように車両に配置されている。なお、図1では、第1カメラ3aの撮影範囲Raと第2カメラ3bの撮影範囲Rbが隣り合うように、2台のカメラ3a、3bが配置されている様子が描かれている。第3カメラ3cは第1カメラ3aの紙面奥側に配置されており、第4カメラ3dは第2カメラ3bの紙面奥側に配置されている。
【0009】
なお、図1は、カメラ3a、3b、光源4a、4bの配置を模式的に示す図であり、カメラや光源は必ずしも車体の右側面に取り付けられているものではないことに留意されたい。カメラ3a−3d、光源4a−4dは、好ましくは前輪よりも前方で車体の下部に備えられる。前輪よりも前方に配置することで、水はねなどからカメラと光源を保護することができる。
【0010】
図2に、4台のカメラ3a−3dの撮影範囲を示す。図2では、理解を助けるために、第1カメラ3aの撮影範囲Raを実線で描き、第2カメラ3bの撮影範囲Rbを破線で描き、第3カメラ3cの撮影範囲Rcを点線で描き、第4カメラ3dの撮影範囲Rdを一点鎖線で描いてある。第3カメラ3cは、その撮影範囲Rcが第1カメラ3aの撮影範囲Raと隣り合うように配置されている。第4カメラ3dは、その撮影範囲Rdが第2カメラ3bの撮影範囲Rbと第3カメラ3cの撮影範囲Rcの夫々に隣り合うように配置されている。
【0011】
4台の光源4a−4dは、夫々、対応するカメラ3a−3dの夫々に隣接して配置されている。図2には、光源4a−4dの照射範囲Sa−Sdも描かれている。第1光源4aの照射範囲Saは実線で描いてあり、第2光源4bの照射範囲Sbは破線で描いてあり、第3光源4cの照射範囲Scは点線で描いてあり、第4光源4dの照射範囲Sdは一点鎖線で描いてある。図2によく示されているように、第1光源4aの照射範囲Saには、第1カメラ3aの撮影範囲Raのほか、第2カメラ3bの撮影範囲Rbの一部と第3カメラ3cの撮影範囲Rcの一部が含まれる。同様に、特定の光源の照射範囲には、その光源に対応するカメラの撮影範囲のほか、他のカメラの撮影範囲の一部が含まれる。特定の光源から照射された光は、路面で反射し、対応するカメラのレンズに向かうほか、別のカメラのレンズにも向かう。しかし、以下で説明するように、4台のカメラ3a−3dは、反応する光の特性(波長域)が異なっており、また、4台の光源4a−4dも照射する光の特性(波長域)が異なっている。それゆえ、複数のカメラ3a−3dの夫々は、対応する光源からの光だけに反応し、他の光源の影響を受けない。
【0012】
第1カメラ3aは、波長域400−500[nm]の光に反応する特性を有している。そして、第1光源4aは、波長域400−500[nm]の光を照射する。第2カメラ3bは、波長域500−600[nm]の光に反応する特性を有している。そして、第2光源4bは、波長域500−600[nm]の光を照射する。第3カメラ3cは、波長域600−700[nm]の光に反応する特性を有している。そして、第3光源4cは、波長域600−700[nm]の光を照射する。第4カメラ3dは、波長域700−800[nm]の光に反応する特性を有している。そして、第4光源4dは、波長域700−800[nm]の光を照射する。すなわち、撮影範囲が隣接しているカメラは、反応する光の特性(波長域)が異なっており、夫々の光源が照射する光は、対応するカメラが反応する特性(波長域)を含み、隣接しているカメラが反応する特性を含まない。上記の特徴により、複数のカメラ3a−3dの夫々は、対応する光源からの光だけに反応し、他の光源の影響を受けない。それぞれのカメラは、他の光源の光の影響を受けず、対応する光源の光の路面からの反射だけに反応するので、路面が濡れていても、水膜表面からの乱反射光による光ムラのない良好な画像が得られる。
【0013】
コンピュータ5について説明する。なお、以下では、カメラ3a−3dのいずれかを区別なく示すときにはカメラ3と表記する。同様に、光源4a−4dのいずれかを区別なく示すときには光源4と表記する。
【0014】
コンピュータ5は、同時に撮影された複数のカメラ3の画像を一つの画像に合成する。図2のグレーの線が示す範囲が、合成された画像(広範囲画像Rs)を示す。コンピュータ5は、定期的にカメラ3で路面を撮影し、広範囲画像Rsを生成する。コンピュータ5は、異なる時間に撮影された複数の広範囲画像における路面の特徴点のずれから車両の移動距離を算出する。移動距離算出アルゴリズムを説明する模式図を図3に示す。図3は、時刻t1に撮影された広範囲画像Rs1と、時刻t2に撮影された広範囲画像Rs2を示している。コンピュータ5は、それぞれの画像から、特徴点を抽出する。特徴点は、路面の凹凸で作られる陰影を成すひとつひとつの塊、または凹凸そのものの輪郭でよい。図3に示す広範囲画像Rs1、Rs2には、特徴ある路面の特徴Mkが写っている。図3は、2枚の広範囲画像Rs1、Rs2を、特徴Mkが重なるように配置したときの図である。時刻t1における広範囲画像Rs1の右上点P1(t1)から、時刻t2における広範囲画像Rs2の右上点P1(t2)に向かうベクトルV1が移動距離と移動方向を示している。コンピュータ5は、図3のベクトルV1を算出し、時刻t1からt2の間の車両の移動距離と方向を計測する。
【0015】
コンピュータ5は、光源4も制御する。コンピュータ5は、数マイクロ秒から数ミリ秒の間という短いパルス状に光源4を光らせ、照射光に照らされた路面をカメラ3で撮影する。短い時間だけ光源で路面を照らすことで、相対的に移動する路面の鮮明な画像を得ることができる。コンピュータ5は、車両の速度に依存して路面を撮影する間隔を設定する。高速で移動中は、短い間隔で路面を撮影し、路面の特徴点が複数の広範囲画像に写るようにする。
【0016】
移動距離計測装置2の利点を説明する。移動距離計測装置2は、レンズを路面に向けており、撮影範囲が隣り合うように配置された複数のカメラ3を備えている。コンピュータ5は、複数のカメラ3で撮影された画像を合成して一枚の広範囲画像を得る。一つのカメラ3で広範囲画像を得ると、撮影範囲の端で画像が歪んだり、暗くなったりする。実施例の移動距離計測装置2では、複数のカメラ3の画像から広範囲画像を得るので、鮮明な広範囲の画像を得ることができる。また、移動距離計測装置2は、複数のカメラ3の夫々に対して光源4を備えている。夫々の光源4は夫々のカメラ3の撮影範囲を照らす。それゆえ、夫々のカメラ3から鮮明な画像が得られる。さらに、撮影範囲が隣接しているカメラ3は、反応する光の特性が異なっており、夫々の光源4が照射する光は、対応するカメラ3が反応する特性を含み、隣接しているカメラ3が反応する特性を含まない。この特徴により、夫々のカメラ3は夫々に対応しないカメラの光源4によって、発生する水膜表面からの乱反射光の影響を受けない。このことも、鮮明な画像を得ることに貢献する。
【0017】
実施例では、複数のカメラ3の夫々は、反応する光の帯域が異なっており、夫々のカメラ3に対応する光源4が照射する光は、対応するカメラ3が反応する帯域の光のみを照射する。複数のカメラ3と複数の光源4の夫々で光の帯域を特定するには、カメラ3のレンズ前、及び、光源4の前に特定波長域の光のみを通すフィルタを備えればよい。
【0018】
複数のカメラ3は、ある特定の波長帯域の赤外カメラ(800−1700[nm])を用いてもよい。また複数の光源4は、夫々の複数のカメラ3に対応する波長帯域の赤外光源(800−1700[nm])を用いてもよい。
【0019】
複数のカメラ3と複数の光源4は、光の波長を異ならすことに代えて、偏光方向を変えてもよい。
【0020】
図3では、時刻t1の画像と時刻t2の画像は向きが同じであった。異なる時刻の広範囲画像中の特徴点のマッチングの際に画像の回転も許容すれば、車両の旋回角度も検出することができる。
【0021】
コンピュータ5は、車両の前後方向の路面傾斜を計測する傾斜角センサを備えている。路面が傾斜している場合、コンピュータ5は、路面に沿った移動距離に対して路面傾斜の余弦を乗ずることで水平方向の移動距離を得ることができ、正弦を乗ずることで垂直方向の移動距離を得ることができる。
【0022】
実施例の移動距離計測装置2は、4台のカメラ3a−3dが、撮影範囲が隣り合うように配置されている。本明細書が開示する技術では、カメラの台数は4台に限らない。例えば、9台のカメラを撮影範囲が3×3の格子状に隣り合うように配置してもよい。
【0023】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0024】
2:移動距離計測装置
3、3a−3d:カメラ
4、4a−4d:光源
5:コンピュータ
100:自動車
図1
図2
図3