特許第6593425号(P6593425)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6593425
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】ガソリンエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02B 23/08 20060101AFI20191010BHJP
   F02D 19/12 20060101ALI20191010BHJP
   F02M 25/03 20060101ALI20191010BHJP
   F02P 13/00 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   F02B23/08 J
   F02D19/12 A
   F02M25/03
   F02P13/00 303Z
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-237620(P2017-237620)
(22)【出願日】2017年12月12日
(65)【公開番号】特開2019-105194(P2019-105194A)
(43)【公開日】2019年6月27日
【審査請求日】2018年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100127797
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】太田 統之
(72)【発明者】
【氏名】乃生 芳尚
【審査官】 村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−145817(JP,A)
【文献】 特開平03−115725(JP,A)
【文献】 特開2017−194065(JP,A)
【文献】 特開2001−164955(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 1/00−23/10
F02D 19/12
F02M 25/03
F02P 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒及びピストンで区画され、少なくともガソリンを含む燃料を燃焼させる燃焼室と、
前記燃焼室内に放電電極部が配置された点火プラグと、
前記燃焼室内において、前記放電電極部を指向して100℃以上の水温の水を噴射する水噴射装置と、
前記水噴射装置からの水噴射のタイミングを制御する水噴射制御部と、
前記燃焼室の天井面に取り付けられ、前記燃焼室内に燃料を噴射するインジェクタと、
を備え、
前記ピストンが下死点にあるときの前記燃焼室の容積と、前記ピストンが上死点にあるときの前記燃焼室の容積との比である幾何学的圧縮比が13以上であるガソリンエンジンにおいて、
前記ピストンの冠面には、前記燃焼室の径方向における中央領域に凹設されたキャビティが備えられ、
前記インジェクタは、複数の燃料噴射口を有するヘッド部が前記径方向の中心において前記燃焼室内に突出し、且つ、前記キャビティに向けて燃料を噴射するように、前記天井面に取り付けられ、
前記点火プラグは、気筒軸方向視において、前記放電電極部が前記ヘッド部と前記水噴射装置との間に位置するように配置され、
前記水噴射制御部は、前記インジェクタによる燃料噴射の後であって、前記放電電極部で放電が発生する放電期間、若しくは、前記放電期間の直前の期間に、前記水噴射を実行させる、ガソリンエンジン。
【請求項2】
請求項1に記載のガソリンエンジンにおいて、
前記水噴射制御部は、空燃比が理論空燃比よりもリーンとなる運転条件のときに、前記水噴射を実行させる、ガソリンエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガソリンを含む燃料を空気と混合しつつ燃焼させる燃焼室と、該燃焼室内の混合気に着火する点火プラグとを備えたガソリンエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にガソリンエンジンでは、点火プラグの放電電極部が燃焼室内に配置され、前記放電電極部において火花放電を発生させることで、燃焼室内の混合気が着火する。近年、ピストンが下死点にあるときの前記燃焼室の容積と、前記ピストンが上死点にあるときの前記燃焼室の容積との比である幾何学的圧縮比を、例えば13以上の高圧縮比に設定してなるガソリンエンジンであって、火花点火によらず、圧縮によって予混合された混合気を自着火させる予混合圧縮自着火燃焼方式のガソリンエンジンが知られている。このような高圧縮比エンジンにおいて、特許文献1には、点火プラグによる着火アシストにより先ずは燃焼室内に火炎伝播燃焼を発生させ、その燃焼による燃焼室内の高温化によって自着火燃焼を発生させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−241590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
点火プラグの放電電極部において火花放電を確実に発生させることが、燃焼室内における安定的な燃焼のために肝要である。筒内圧力が高くなる場合、例えば上記予混合圧縮自着火方式のガソリンエンジンのような高圧縮比エンジンでは、前記放電電極部において放電が良好に発生しないことがある。これは、混合気の高圧縮によって空気密度が高まり、放電電極間のギャップの絶縁抵抗が上昇することによる。
【0005】
この場合、安定的な放電を確保するため、点火プラグへ供給する電圧(要求電圧)を高くする必要がある。しかし、要求電圧を高くするとエネルギー消費量が多くなり、また、高電圧を印加された放電電極部が放電によって損耗するという問題が生じる。
【0006】
本発明の目的は、点火プラグで混合気に着火するガソリンエンジンにおいて、点火プラグの放電電極部において火花放電を確実に発生させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面に係るガソリンエンジンは、気筒及びピストンで区画され、少なくともガソリンを含む燃料を燃焼させる燃焼室と、前記燃焼室内に放電電極部が配置された点火プラグと、前記燃焼室内において、前記放電電極部を指向して100℃以上の水温の水を噴射する水噴射装置と、前記水噴射装置からの水噴射のタイミングを制御する水噴射制御部と、前記燃焼室の天井面に取り付けられ、前記燃焼室内に燃料を噴射するインジェクタと、を備え、前記ピストンが下死点にあるときの前記燃焼室の容積と、前記ピストンが上死点にあるときの前記燃焼室の容積との比である幾何学的圧縮比が13以上であるガソリンエンジンにおいて、前記ピストンの冠面には、前記燃焼室の径方向における中央領域に凹設されたキャビティが備えられ、前記インジェクタは、複数の燃料噴射口を有するヘッド部が前記径方向の中心において前記燃焼室内に突出し、且つ、前記キャビティに向けて燃料を噴射するように、前記天井面に取り付けられ、前記点火プラグは、気筒軸方向視において、前記放電電極部が前記ヘッド部と前記水噴射装置との間に位置するように配置され、前記水噴射制御部は、前記インジェクタによる燃料噴射の後であって、前記放電電極部で放電が発生する放電期間、若しくは、前記放電期間の直前の期間に、前記水噴射を実行させることを特徴とする。
【0008】
このガソリンエンジンによれば、放電電極部での放電期間又はその直前の期間に、水噴射装置から当該放電電極部に水が噴射される。このため、当該期間において、前記放電電極部の周辺は水分が多い状態(湿度が高い状態)となる。従って、例えば筒内圧力が高い等の要因で放電電極部において火花放電が発生し難い環境下にあっても、当該放電電極部の電極間に水分が介在することで、前記電極間に放電が発生し易い状態を形成することができる。すなわち、前記電極間における水の電気分解によって水素イオン、水酸イオンが生成され(水素、酸素が生成され)、これらが電極間の放電性能を高めるようになる。このため、放電電極部において火花放電を確実に発生させることができる。
【0009】
上記の構成は、ピストンが下死点にあるときの前記燃焼室の容積と、前記ピストンが上死点にあるときの前記燃焼室の容積との比である幾何学的圧縮比が13以上であるガソリンエンジンに好適に適用することができる。
【0010】
幾何学的圧縮比が13以上となる高圧縮比のエンジンにおいては、点火プラグが混合気に着火するタイミング(圧縮上死点付近)では、混合気が高度に圧縮された状態となる。このため、燃焼室における空気密度が高くなり、これに伴い電極間ギャップの絶縁抵抗も高くなり、放電性能が低下する。しかし、上記の放電電極部を指向した水噴射により、前記放電性能の低下を抑止することができる。
【0011】
上記のガソリンエンジンにおいて、前記水噴射制御部は、空燃比が理論空燃比よりもリーンとなる運転条件のときに、前記水噴射を実行させることが望ましい。
【0012】
例えば、リーン燃焼を行わせる場合や吸気を過給する場合等には、燃焼室内の空気量が相対的に多くなる。この場合、電極間ギャップの絶縁抵抗が増加することになる。このガソリンエンジンによれば、このような運転条件のときに前記水噴射が実行されるので、放電電極部における放電性能の低下を抑止することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、点火プラグで混合気に着火するガソリンエンジンにおいて、点火プラグの放電電極部において火花放電を確実に発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明に係るガソリンエンジンが適用されるエンジンシステムの構成の概略図である。
図2図2は、エンジン本体の気筒軸方向に沿った概略断面図である。
図3図3は、前記ガソリンエンジンの制御構成を示すブロック図である。
図4図4は、点火プラグの放電電極部への水噴射の様子を示す断面図である。
図5図5(A)は、前記放電電極部の構成を概略的に示す図、図5(B)は前記放電電極部が噴霧水で覆われている様子を示す図である。
図6図6(A)及び(B)は、前記放電電極部への水噴射の様子を示す平面図である。
図7図7は、水噴射と点火タイミングとの関係を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[エンジンの全体構成]
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態に係るガソリンエンジンを詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係るガソリンエンジンが適用されるエンジンシステムの概略構成図である。本実施形態のエンジンシステムは、4ストロークのエンジン本体1と、エンジン本体1に燃焼用の空気を導入するための吸気通路20と、エンジン本体1で生成された排気を排出するための排気通路30と、排気通路30を通過する排気の一部をEGRガスとして吸気通路20に還流するEGR装置40と、排気通路30を通過する排気から水を回収してエンジン本体1に水を供給する水供給装置WAとを備える。
【0016】
図2は、エンジン本体1の気筒軸方向Aに沿った概略断面図である。エンジン本体1は、4つの気筒2が図1の紙面と直交する方向に直列に配置された直列4気筒エンジンである。図2では、4つの気筒2のうちの1つのみを示している。前記エンジンシステムは車両に搭載され、エンジン本体1は車両の駆動源として利用される。本実施形態では、エンジン本体1は、ガソリンを含む燃料の供給を受けて駆動される予混合圧縮着火式エンジンである。なお、燃料は、バイオエタノール等を含むガソリンであってもよい。
【0017】
エンジン本体1は、シリンダブロック3、シリンダヘッド4及びピストン5を備える。シリンダブロック3は、上述の4つの気筒を形成するシリンダライナを有する。シリンダヘッド4は、シリンダブロック3の上面に取り付けられ、気筒2の上部開口を塞いでいる。ピストン5は、各気筒2に往復摺動可能に収容されており、コネクティングロッド8を介してクランク軸7と連結されている。ピストン5の往復運動に応じて、クランク軸7はその中心軸回りに回転する。
【0018】
ピストン5の上方には燃焼室6が形成されている。シリンダヘッド4には、燃焼室6と連通する吸気ポート9及び排気ポート10が形成されている。シリンダヘッド4の底面は燃焼室天井面6Uであり、この燃焼室天井面6Uは、上向きに僅かに凸の傾斜面を有するペントルーフ型の形状を有している。燃焼室天井面6Uには、吸気ポート9の下流端である吸気側開口と、排気ポート10の上流端である排気側開口とが形成されている。シリンダヘッド4には、前記吸気側開口を開閉する吸気バルブ11と、前記排気側開口を開閉する排気バルブ12とが組み付けられている。
【0019】
吸気バルブ11及び排気バルブ12は、いわゆるポペットバルブである。吸気バルブ11は、吸気ポート9の開口を開閉する傘状の弁体と、この弁体から垂直に延びるステムとを含む。同様に、排気バルブ12は、排気ポート10の開口を開閉する傘状の弁体と、この弁体から垂直に延びるステムとを含む。吸気バルブ11及び排気バルブ12の前記弁体の各々は、燃焼室6に臨むバルブ面を有する。なお、エンジン本体1は、ダブルオーバーヘッドカムシャフト式(DOHC)エンジンであり、前記吸気側開口及び排気側開口は、各気筒2につき2つずつ設けられるとともに、吸気バルブ11及び排気バルブ12も2つずつ設けられている。
【0020】
燃焼室6の底面は、ピストン5の冠面50によって区画されている。冠面50には、キャビティ5Cが凹設されている。キャビティ5Cは、上面視で略円形の形状を有し、燃焼室6の径方向Bにおいて冠面50の中央領域に、下方に凹没するように形成されている。キャビティ5Cの径方向Bの外側には、スキッシュ生成面51が備えられている。スキッシュ生成面51は、ペントルーフ型の燃焼室天井面6Uと平行な平面からなり、両者間の間隙は径方向Bにおいて略一定である。なお、冠面50の表面は、断熱層5Hによってコーティングされている。
【0021】
本実施形態において、燃焼室6を区画する燃焼室壁面は、気筒2の内壁面、ピストン5の冠面50、冠面50と対向する燃焼室天井面6U、及び、吸気バルブ11及び排気バルブ12の各バルブ面からなる。また、本実施形態のエンジン本体1の幾何学的圧縮比、つまり、ピストン5が下死点にあるときの燃焼室6の容積とピストン5が上死点にあるときの燃焼室6の容積との比は、13以上35以下(例えば20程度)の高圧縮比に設定されている。
【0022】
シリンダヘッド4には、燃焼室6内の混合気に強制点火するための点火プラグ13が、各気筒2につき1つずつ装着されている。点火プラグ13は、火花を放電して混合気に点火エネルギーを付与する電極を備えた放電電極部13Aを有する。この放電電極部13Aが燃焼室6内に突出して配置される態様で、点火プラグ13はシリンダヘッド4に取り付けられている。本実施形態において放電電極部13Aは、燃焼室6において吸気ポート9が配置される側を吸気側、排気ポート10が配置される側を排気側とするとき、前記吸気側に偏在して配置されている。
【0023】
シリンダヘッド4(燃焼室天井面6U)には、燃焼室6内に燃料を噴射するインジェクタ14が、各気筒2につき1つずつ取り付けられている。インジェクタ14には図略の燃料供給管が接続されている。インジェクタ14は、前記燃料供給管を通して供給された燃料を燃焼室6に噴射する。インジェクタ14の下端には、複数の燃料噴射口を有するヘッド部14Aが備えられている。本実施形態ではインジェクタ14は、気筒軸方向Aに沿い、ヘッド部14Aが径方向Bの中心において燃焼室6内に突出するように、シリンダヘッド4に組み付けられている。ヘッド部14Aは、燃焼室6の径方向Bの中心領域、つまりピストン5のキャビティ5Cに向けて燃料を噴射する。
【0024】
シリンダヘッド4には、吸気バルブ11、排気バルブ12を各々駆動する吸気側動弁機構15、排気側動弁機構16が配設されている(図1)。これら動弁機構15、16によりクランク軸7の回転に連動して、各吸気バルブ11及び排気バルブ12が駆動される。これら吸気バルブ11及び排気バルブ12の駆動により、吸気バルブ11の弁体が吸気ポート9の開口を開閉し、排気バルブ12の弁体が排気ポート10の開口を開閉する。
【0025】
さらに、シリンダヘッド4には、燃焼室6内に水を噴射する水噴射装置17が設けられている。水噴射装置17は、燃焼室6の側周壁から当該燃焼室6の径方向Bの中心を臨むように、シリンダヘッド4に取り付けられている。より詳しくは、水噴射装置17は、水の噴射口が形成された先端部17Aが燃焼室6の側周壁近傍に露出し、かつ、前記噴射口が点火プラグ13の放電電極部13Aを指向するように、シリンダヘッド4に取り付けられている。すなわち、水噴射装置17は、放電電極部13Aを指向して水を噴射する。水噴射装置17としては、例えば、汎用のインジェクタ14と同様の構造を有する装置、例えばソレノイド式、ピエゾ式のインジェクタと同等の機能を有する噴射装置を適用することができる。
【0026】
吸気通路20には、吸気流の上流側から順に、吸気を清浄化するエアクリーナ21と、吸気通路20を開閉するためのスロットルバルブ22とが設けられている。本実施形態では、エンジンの運転中、スロットルバルブ22は基本的に全開もしくはこれに近い開度に維持される。エンジンの停止時等の限られた運転条件のときにのみ、スロットルバルブ22が閉弁されて吸気通路20を遮断する。
【0027】
排気通路30には、排気を浄化するための浄化装置31が設けられている。浄化装置31は、例えば、三元触媒を内蔵している。
【0028】
水供給装置WAは、コンデンサ32、水供給配管33、水タンク34及び水ポンプ35を含む。コンデンサ32は、浄化装置31よりも下流側において排気通路30に取り付けられ、排気通路30を通過する排気中の水(水蒸気)を凝縮して水を回収する。水供給配管33は、コンデンサ32と水噴射装置17とを接続する配管である。コンデンサ32で回収された凝縮水は、水供給配管33を介して水噴射装置17に供給される。水タンク34及び水ポンプ35は、水供給配管33に配置されている。水タンク34は、コンデンサ32で生成された凝縮水を貯留する。水ポンプ35は、水タンク34内の水を水噴射装置17に向けて圧送する。
【0029】
EGR装置40は、吸気通路20のうちスロットルバルブ22よりも下流側の部分と、排気通路30のうち浄化装置31よりも上流側の部分とを連通するEGR通路41を有する。さらにEGR装置40は、EGR通路41を開閉するEGRバルブ42と、EGR通路41を通過するEGRガスを冷却するためのEGRクーラ43とを備える。EGR通路41を通して還流されるEGRガスは、EGRクーラ43にて冷却された後に吸気通路20に向かう。
【0030】
[制御構成]
図3は、前記エンジンシステムの制御構成を示すブロック図である。本実施形態のエンジンシステムは、PCM(パワートレイン・コントロール・モジュール)100によって統括的に制御される。PCM100は、CPU、ROM、RAM等から構成されるマイクロプロセッサである。
【0031】
前記エンジンシステムが搭載される車両には各種センサが設けられており、PCM100はこれらセンサと電気的に接続されている。例えば、シリンダブロック3には、エンジン回転数を検出するクランク角センサSN1が設けられている。また、吸気通路20を通って各気筒2に吸入される空気量を検出するエアフローセンサSN2が設けられている。さらに、車両には、運転者により操作される図外のアクセルペダルの開度(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサSN3が設けられている。
【0032】
PCM100は、これらセンサSN1〜SN3及び他のセンサからの入力信号に基づいて種々の演算を実行して、上述の点火プラグ13、インジェクタ14、水噴射装置17、スロットルバルブ22、EGRバルブ42及び水ポンプ35を含むエンジンの各部を制御する。
【0033】
PCM100は、機能的に着火制御部101及び水噴射制御部102を備えている。着火制御部101は、点火プラグ13の着火タイミング、すなわち放電電極部13Aが混合気に強制着火するタイミングを制御する。着火タイミングは、エンジン本体1において採用される燃焼方式に応じて適宜設定される。
【0034】
前記燃焼方式として、例えば、ガソリンを含む燃料を空気と混合しつつ自着火させる予混合圧縮着火燃焼を行うものであって、点火プラグ13で混合気の着火をアシストする燃焼方式を例示することができる。この燃焼方式は、燃焼室6内の混合気に強制着火を行い火炎伝播による燃焼(SI燃焼)を行わせ、このSI燃焼により発生する熱によって燃焼室6内の未燃混合気を自着火により燃焼(CI燃焼)させる複合燃焼方式(SI+CI燃焼)である。この場合、着火制御部101は、圧縮上死点(TDC)よりも前のタイミングで燃焼室6内の混合気に強制着火するよう、点火プラグ13による着火アシストのタイミングを制御する。
【0035】
水噴射制御部102は、水噴射装置17からの水噴射のタイミングを制御する。具体的には水噴射制御部102は、水供給配管33を通して水タンク34の水を、所定の水圧が保持された状態で水噴射装置17に供給できるよう、水ポンプ35を駆動させる。また、水噴射制御部102は、予め定められた噴射量及び噴射タイミングで水が噴射されるよう、水噴射装置17が備える弁機構を制御する。
【0036】
本実施形態では水噴射制御部102は、点火プラグ13の放電電極部13Aで火花放電が発生する放電期間、若しくは、前記放電期間の直前の期間に、水噴射装置17に水噴射を実行させる。以下、このような水噴射について詳述する。
【0037】
[水噴射の詳細]
図4は、点火プラグ13の放電電極部13Aへの水噴射の様子を示す断面図である。水噴射装置17の先端部17Aに形成されている水の噴射口は、放電電極部13Aを指向している。前記噴射口から噴射される噴霧水Wmは、当該噴射口と放電電極部13Aとを結ぶ直線軸を中心とするコーン状となる。このコーンのテーパ角(噴霧角)は、先端部17Aと放電電極部13Aとの間の距離に応じて、放電電極部13Aの近傍周囲を噴霧水Wmで覆うことができる角度に設定される。水噴射制御部102は、上記のような噴霧角を達成できるよう、水噴射装置17の噴射圧を設定する。
【0038】
図5(A)は、点火プラグ13の放電電極部13Aの構成を概略的に示す図である。放電電極部13Aは、中心電極131と、L字型に折曲された角棒からなる接地電極132とを含む。中心電極131は、図略の点火回路から高電圧(要求電圧)が印加されるプラス極であり、電気絶縁体である碍子133によって保持されている。接地電極172は、中心電極131及び碍子133を収容する金属製のハウジング134から延出している。接地電極172はマイナス極であって、碍子133によって中心電極131と絶縁されている。L字型に突出する接地電極172の先端部は、放電空間となる電極間ギャップGを隔てて中心電極171と対向している。要求電圧が中心電極131に与えられると、電極間ギャップGに火花放電が発生する。
【0039】
この放電電極部13Aの電極間ギャップGにおいて火花放電を確実に発生させることが、燃焼室6内における安定的な燃焼のために重要であるが、燃焼室6内の環境条件によっては前記火花放電が良好に発生しない場合がある。例えば、着火前に筒内圧力が高くなり、結果として燃焼室6内における空気密度が高まり、電極間ギャップGの絶縁抵抗が上昇することに起因にして、中心電極131と接地電極172との間に火花放電が発生しない場合が生じる。
【0040】
本実施形態のエンジン本体1は、既述の通り、幾何学的圧縮比が13以上となるような高圧縮比エンジンである。従って、燃焼室6内の混合気に着火される直前の圧縮行程後期には、混合気は高レベルに圧縮され、燃焼室6内の空気密度は非常に高くなる。このため、電極間ギャップGの絶縁抵抗がより高くなり、より火花放電が発生しにくい環境条件となる。安定的な放電を確保するには、中心電極131に与える要求電圧を高くすれば良い。しかし、要求電圧を高くすると前記点火回路の負担がかかり、エネルギー消費量も多くなる。また、高電圧を印加された中心電極131及び接地電極172の、火花放電による損耗が激しくなるという問題も生じる。
【0041】
この問題に鑑み、本実施形態では、放電電極部13Aで火花放電を発生させる放電期間又はその直前の期間に、水噴射装置17から放電電極部13Aへスポット的に水を噴射させる。図5(B)は、放電電極部13Aへの水噴射が実行された後の状態を示す図である。水噴射動作が実行されると、放電電極部13A及びその近傍の領域が噴霧水Wmで覆われ、当該領域が水分の多い状態となる。これにより、電極間ギャップGは水分リッチな状態となり、火花放電が発生し易い環境を形成することができる。すなわち、高電圧が印加された中心電極131−接地電極172間の空間(電極間ギャップG)に生じる水の電気分解によって水素イオン、水酸イオンが生成され(水素、酸素が生成され)、これらが電極間ギャップGの放電性能を高めるようになる。このため、混合気が高圧縮された環境下でも、要求電圧を高くすることなく、放電電極部13Aにおいて火花放電を確実に発生させることができる。
【0042】
図6(A)及び(B)は、放電電極部13Aへの水噴射の様子を示す上面視の平面図である。これらの図では、放電電極部13A及びインジェクタ14のヘッド部14Aの位置が、丸印で簡易的に示されている。図6(A)は、水噴射装置17の先端部17Aから噴霧水Wmが、放電電極部13Aを指向してコーン状に噴射されている状態を示している。前記放電期間又はその直前の期間は、ピストン5がTDC付近の位置にあり、筒内圧力が相当高い状態にある。このため、噴霧水Wmを的確に放電電極部13Aへ至らせるためには、前記筒内圧力に打ち勝つ噴射圧で水噴射を実行する必要がある。例えば、筒内圧力が13MPa程度であるならば、水噴射装置17の噴射圧は15MPa程度に設定することが望ましい。
【0043】
図6(B)は、水噴射装置17からの水噴射を終えた直後の状態を示している。先端部17Aから噴射された噴霧水Wmは、放電電極部13A及びその近傍の領域において雲状となり、放電電極部13Aを取り囲むようになる。この状態に対応する側面図が図5(B)である。このように、燃焼室6内において放電電極部13Aの周辺領域だけが、噴霧水Wmの存在によって局所的に水分が多い状態とされる。
【0044】
水噴射装置17から噴射させる水の水温は、高温であることが望ましい。水温が低い水を放電電極部13Aに噴き当てた場合、セラミック材料からなる碍子133が急冷されることによって当該碍子133にクラックが入る懸念がある。また、低温水であると、燃焼室6内において気化に時間を要し、電極間ギャップGに十分に霧化した水を介在させられない懸念もある。前記クラック及び気化の問題を解消する観点からは、水噴射装置17から噴射させる水の水温は100℃程度以上、特に120℃以上とすることが好ましい。
【0045】
上記の水噴射は、エンジン本体1の運転時に常時実行させても良いが、燃焼室6内の空気量が相対的に多くなる運転条件のときだけに、前記水噴射を実行させるようにしても良い。例えば、理論空燃比よりも燃料が薄いリーン燃焼を行わせる場合には、燃焼室6内の空気量が相対的に多い状態となる。また、吸気の過給動作が実行される場合、圧縮された空気が燃焼室6へ送り込まれるので、やはり燃焼室6内の空気量が相対的に多い状態となる。これらの場合、圧縮時における空気密度の上昇により、電極間ギャップGの絶縁抵抗がとりわけ増加することになるので、水噴射を実行させる利点が大きい。すなわち、放電電極部13Aにおける放電性能の低下を効果的に抑止することができる。
【0046】
図7は、エンジン本体1における燃料噴射、水噴射、強制着火のタイミング及び熱発生率dQとの関係の一例を示すタイムチャートである。図7では、インジェクタ14からの燃料噴射Fが、圧縮行程の中期に行われる例を示している。燃料噴射タイミングや噴射率(インジェクタ14のリフト量)は、エンジン回転数やエンジン負荷等に応じて変更しても良い。例えば、圧縮行程において複数回に分けて燃料噴射を行わせる、或いは吸気行程に一部の燃料噴射を行わせるようにしても良い。
【0047】
着火制御部101は、圧縮上死点(TDC)よりも前のタイミングで燃焼室6内の混合気に強制着火するよう、点火プラグ13を制御する。図7では、TDCよりも僅かに進角側のタイミングにおいて、強制着火(着火アシスト)が実行されている例を示している。水噴射制御部102は、点火プラグ13による点火タイミングの直前の期間に、水噴射装置17に水噴射Wを実行させている。これにより、電極間ギャップGにおいて火花放電が生じる直前に、放電電極部13A及びその周辺を既に湿度が高い状態としておくことができる。
【0048】
なお、図7に示す水噴射Wのタイミングは一例であり、種々の噴射態様を取ることができる。例えば、電極間ギャップGにおいて火花放電が起きることが予定されている放電期間に、水噴射Wを実行させても良い。或いは、点火タイミングを挟む前後期間、点火タイミングとその直前の所定タイミングに跨る期間を、水噴射Wの実行期間としても良い。
【0049】
[作用効果]
以上説明した本実施形態に係るガソリンエンジンによれば、放電電極部13Aでの放電期間又はその直前の期間に、水噴射装置17から当該放電電極部13Aに水が噴射される。このため、当該期間において、放電電極部13Aの周辺は水分が多い状態となる。従って、例えば燃焼室6の筒内圧力が高い等の要因で放電電極部13Aにおいて火花放電が発生し難い環境下にあっても、当該放電電極部13Aの電極間ギャップGに水分が介在することで、電極間ギャップGにおいて火花放電が発生し易い状態を形成することができる。従って、放電電極部13Aにおいて火花放電を安定的に発生させることができる。
【0050】
また、本実施形態は、幾何学的圧縮比が13以上であるガソリンエンジンに好適に適用することができる。幾何学的圧縮比が13以上となる高圧縮比のエンジンにおいては、点火プラグ13が混合気に着火するタイミング(TDC付近)では、混合気が高度に圧縮された状態となる。このため、燃焼室6における空気密度が高くなり、これに伴い電極間ギャップGの絶縁抵抗も高くなり、放電性能が低下する。しかし、放電電極部13Aを指向した水噴射により、前記放電性能の低下を効果的に抑止することができる。
【0051】
[変形例]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば次のような変形実施形態を採ることができる。
【0052】
(1)上記実施形態では、点火プラグ13として、中心電極131と接地電極132との間に火花放電を発生させるタイプの点火プラグを例示した。点火プラグ13は、各種の放電を行う放電電極を備えるものであれば良い。例えば、プラズマ放電を行う放電電極を備えたプラズマジェットプラグを、点火プラグ13として用いても良い。
【0053】
(2)上記実施形態では、水噴射装置17が、燃焼室6の側周壁から当該燃焼室6の径方向Bの中心を臨むように、シリンダヘッド4に取り付けられている例を示した。放電電極部13Aを指向して水噴射が行える限りにおいて、水噴射装置17の配置には制限はない。例えば、水噴射装置17(先端部17A)を燃焼室天井面6Uの適所に取り付けるようにしても良い。
【0054】
(3)上記実施形態では、水供給装置WAとして、コンデンサ32によって排気から回収した水を水噴射装置17に供給する例を示した。これに代えて、ユーザーが補填可能なタンクから水を水噴射装置17に供給する水供給装置としても良い。
【符号の説明】
【0055】
1 エンジン本体
2 気筒
5 ピストン
6 燃焼室
13 点火プラグ
13A 放電電極部
14 インジェクタ
17 水噴射装置
102 水噴射制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7