(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記導体ピンの一方の端面が、前記第1の誘電体層の上面に配置された前記導体パターンの上面に接している請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアンテナ一体型通信モジュール。
前記第2の誘電体層の上面が、平坦な領域と、前記平坦な領域に連続する傾斜領域とを含み、前記平坦な領域の法線方向と、前記傾斜領域の法線方向とが、前記第2の誘電体層から遠ざかるに従って相互に離れる向きに前記傾斜領域が傾斜しており、前記平坦な領域と前記傾斜領域とに、それぞれパッチアンテナとして動作する複数の前記放射素子が配置されている請求項6に記載のアンテナ一体型通信モジュール。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
無線通信の伝送速度を向上させるために、より高い周波数の利用が進められている。今日では、家庭内でもミリ波帯を使用する無線LANが普及しつつある。ミリ波帯では、人体や家具などの遮蔽物による反射や吸収によって、伝送損失が大きくなる。伝送損失が大きくなると、高い通信速度を維持することが困難になる。
【0007】
多数の放射素子を有するアダプティブアレーアンテナを用いることにより、高い通信速度を確保することが可能である。アダプティブアレーアンテナを用いた通信方式では、多数の放射素子の入出力信号の位相及び振幅を制御することにより、天井や家具等からの反射を組み入れて送受信経路を最適化することが可能である。なお、アダプティブアレーアンテナのうち、多数の放射素子の入出力信号の位相のみを制御するものは、フェイズドアレーアンテナと呼ばれる。フェイズドアレーアンテナは、位相と振幅との両方を制御するアダプティブアレーアンテナよりも構成が簡単であることから、広く使われている。
【0008】
アダプティブアレーアンテナにおいては、特性を確保するために、放射素子の数、位相及び振幅を調整する回路系統の数を多くし、さらに放射素子の各々の指向性を広くすることが重要である。また、ミリ波帯では、配線パターンの曲がりやスルーホール等に起因する特性インピーダンスの不連続部における損失が大きくなる。損失の増大を抑制するために、送受信回路部品と放射素子の給電点とを、できるだけ短く、かつ滑らかに(配線パターンの曲がり部の曲率を大きくして)接続することが望まれる。
【0009】
特許文献1に開示されたアンテナモジュールの構成では、送受信回路部品と放射素子の給電点とを接続する導体が、積層された第1の誘電体層と第2の誘電体層とを貫通するスルーホール内に配置される。スルーホール内の導体と、送受信回路部品とは、第2の誘電体層の下面に配置された配線を介して接続される。
【0010】
この構造では、スルーホールを避けて配線を配置しなければならない。放射素子の数が増えるとスルーホールの数も増えるため、スルーホールを避けて配線を引き回すことによって配線が長くなる。さらに、送受信回路部品は、スルーホールの位置及びその周辺を避けて配置しなければならない。これにより、配線を短くすることや、配線パターンを滑らかにすることが困難になる。その結果、伝送損失が大きくなってしまう。さらに、配線が長く、かつ配線パターンの曲がり部の曲率が大きい構成では、回路シミュレーションの精度を高めることが困難である。このため、最適な特性を有するアンテナの構造設計を、シミュレーションを用いて行うことが難しく、所望の特性が得られない場合が生じやすい。所望の特性が得られない場合には、設計の手直しが必要になってしまう。
【0011】
本発明の目的は、放射素子が配置された面から、回路部品が実装される面まで達する給電線用のスルーホールを設けることなく、放射素子と回路部品とを接続することが可能なアンテナ一体型通信モジュー
ルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の観点によるアンテナ一体型通信モジュールは、
第1の誘電体層、及び前記第1の誘電体層の
上面及び下面に配置された導体パターンを含む多層基板と、
前記多層基板の上に配置され、前記第1の誘電体層とは異なる材料からなる第2の誘電体層と、
前記第2の誘電体層に形成された少なくとも1つの放射素子と、
前記放射素子と前記導体パターンとを接続する給電線と
、
前記多層基板の下面に実装された送受信回路部品と、
前記多層基板の、前記第2の誘電体層が配置された面とは反対側の面に配置され、前記送受信回路部品を覆う第3の誘電体層と、
前記第3の誘電体層に埋設され、一端が前記第1の誘電体層の下面に配置された前記導体パターンに接続され、他端が前記第3の誘電体層の表面まで達する導電性の棒状部材と
を有し、
前記給電線は、前記第2の誘電体層の厚さ方向に延びる導電性の導体ピンを含み、前記導体ピンは、前記放射素子と、前記第1の誘電体層の上面に配置された前記導体パターンとを電気的に接続する。
【0013】
給電線となる棒状導体が多層基板の上面に配置された導体パターンに接続されているため、多層基板内に給電線用のスルーホールを設ける必要が無い。このため、導体ピンの位置及び導体ピンが接続されている導体パターンの位置を避けることなく多層基板内に配線パターンを配置することができる。さらに、多層基板の底面に回路部品を実装する場合に、導体ピンの位置を避ける必要が無い。
【0014】
本発明の第2の観点によるアンテナ一体型通信モジュールは、第1の観点によるアンテナ一体型通信モジュールの構成に追加して、前記第2の誘電体層の誘電率が、前記第1の誘電体層の誘電率より小さいという特徴を有する。
【0015】
本発明の第3の観点によるアンテナ一体型通信モジュールは、第1または第2の観点によるアンテナ一体型通信モジュールの構成に追加して、前記第2の誘電体層の誘電正接が前記第1の誘電体層の誘電正接よりも小さいという特徴を有する。
【0016】
第2の誘電体層として第1の誘電体層の誘電正接よりも小さい誘電正接を持つ材料を用いることにより、第2の誘電体層内での電気エネルギの損失が小さくなるため、アンテナ特性の向上を図ることができる。
【0017】
本発明の第4の観点によるアンテナ一体型通信モジュールは、第1乃至第3の観点によるアンテナ一体型通信モジュールの構成に加えて、前記導体ピンの一方の端面が、前記第1の誘電体層の上面に配置された前記導体パターンの上面に接しているという特徴を有する。
【0018】
導体ピンが、第1の誘電体層の上面に配置された導体パターンよりも低い位置まで延びている構成では、下方に延びる部分が意図しない開放端(オープンスタブ)として動作してしまう。導体ピンの一方の端面が、第1の誘電体層の上面に配置された導体パターンに対向する構成とすることにより、下方に延びる部分が発生しない。その結果、意図しない開放端の発生が回避される。
【0019】
本発明の第5の観点によるアンテナ一体型通信モジュールは、第1乃至第4の観点によるアンテナ一体型通信モジュールの構成に加えて、前記導体ピンの、長さ方向に直交する断面の形状及び面積が、長さ方向に関して一定であるという特徴を有する。
【0020】
上述の特徴を有する構成を採用することにより、導体ピンを伝搬する高周波信号の伝送損失の増大を抑制することができる。
【0021】
本発明の第6の観点によるアンテナ一体型通信モジュールは、第1乃至第5の観点によるアンテナ一体型通信モジュールの構成に加えて、前記アンテナ一体型通信モジュールが、複数の前記放射素子を含み、複数の前記放射素子がアダプティブアレーアンテナを構成しているという特徴を有する。
【0022】
上述の特徴を有する構成を採用することにより、アンテナから放射された電波が伝搬する空間に存在する天井や家具等からの反射を組み入れて送受信経路を最適化することが可能である。
【0023】
本発明の第7の観点によるアンテナ一体型通信モジュールは、第6の観点によるアンテナ一体型通信モジュールの構成に加えて、前記第2の誘電体層の上面が、平坦な領域と、前記平坦な領域に連続する傾斜領域とを含み、前記平坦な領域の法線方向と、前記傾斜領域の法線方向とが、前記第2の誘電体層から遠ざかるに従って相互に離れる向きに前記傾斜領域が傾斜しており、前記平坦な領域と前記傾斜領域とに、それぞれパッチアンテナとして動作する複数の前記放射素子が配置されているという特徴を有する。
【0024】
傾斜領域に配置された放射素子は、側方への指向性を強く持つ。これにより、アダプティブアレーアンテナとして、指向性調整の自由度を高めることができる。
【発明の効果】
【0027】
給電線となる棒状導体が多層基板の上面に配置された導体パターンに接続されているため、多層基板内に給電線用のスルーホールを設ける必要が無い。このため、導体ピンの位置、及び導体ピンが接続された導体パターンの位置を避けることなく多層基板内に配線パターンを配置することができる。さらに、多層基板の底面に回路部品を実装する場合に、導体ピンの位置を避ける必要が無い。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[第1実施例]
図1に、第1実施例によるアンテナ一体型通信モジュール1のブロック図を示す。第1実施例によるアンテナ一体型通信モジュール1は、位相のみを制御する32素子のフェイズドアレーアンテナを含み、60GHz帯のミリ波を用いた通信に用いられる。
【0030】
32個の放射素子20が、それぞれ送受信回路部品10の入出力端子11に接続されている。入出力端子11の各々は、スイッチ(送受切替器)12を介して、受信用ローノイズアンプ13及び送信用パワーアンプ14の一方に、選択的に接続される。通常は、放射素子20は受信用ローノイズアンプ13に接続されており、送信時にのみ送信用パワーアンプ14に接続される。
【0031】
受信用ローノイズアンプ13の出力が受信用の移相器15に入力される。複数の移相器15の出力が、コンバイナ(信号合成器)16で集約され、周波数コンバータ17の受信部に入力されている。この構成により、複数の放射素子20で受信された受信信号は、位相調整して合成された後、周波数コンバータ17の受信部に入力される。
【0032】
周波数コンバータ17の送信部からの送信信号が、スプリッタ(信号分波器)18を介して、複数の送信用の移相器19に入力される。複数の移相器19の出力が、それぞれ送信用パワーアンプ14に接続されている。この構成により、送信信号は、スプリッタ18で複数の移相器19に分配されて位相調整された後、増幅されて、放射素子20から放射される。
【0033】
スイッチ12、受信用ローノイズアンプ13、送信用パワーアンプ14、移相器15、19、コンバイナ16、スプリッタ18、周波数コンバータ17は、例えば1チップの集積回路部品で構成される。
【0034】
アンテナ一体型通信モジュール1は、さらに電源部25及びダイプレクサ26を含む。このアンテナ一体型通信モジュール1は、コンピュータ、スマートフォン等の主機器30に組み込まれる。主機器30からダイプレクサ26に、電源及び局部発振信号LOが供給される。送信時には、さらに、主機器30からダイプレクサ26に中間周波信号IFが供給される。
【0035】
電源部25は、主機器30から供給された電源と信号とから、送受信回路部品10を動作させるための電源電圧を生成する。ダイプレクサ26は、主機器30から供給された信号から、周波数コンバータ17を動作させるための局部発振信号LOを分離し、周波数コンバータ17に供給する。さらに、ダイプレクサ26は、中間周波信号IFの分離または合成を行う。
【0036】
図2Aに、第1実施例によるアンテナ一体型通信モジュール1の平面図を示す。基板の上面に、一例として4行8列の行列状に、32個の放射素子20が配置されている。1行目及び4行目の放射素子20には、基板の側方(
図2Aにおいて上方向及び下方向)に指向性を持つプリンテッドダイポールアンテナ20Aが用いられ、エンドファイアアンテナとして機能する。2行目及び3行目の放射素子20には、基板の法線方向に指向性を持つパッチアンテナ20Bが用いられる。
【0037】
プリンテッドダイポールアンテナ20Aから後方(基板の内側)に向って、給電線24が延び、バラン(平衡不平衡変換器)を介して接続点21に至る。接続点21は、給電線を介して内層の配線パターンに接続される。プリンテッドダイポールアンテナ20Aの後方に、行方向に延びる線状の接地配線22が配置されている。2行目のパッチアンテナ20Bと3行目のパッチアンテナ20Bとの間に、行方向に延びる接地配線23が配置されている。接地配線22、23は、アンテナ特性を調整するとともに、アンテナ間のアイソレーションを確保する機能を有する。
【0038】
図2Bに、
図2Aの一点鎖線2B−2Bにおける断面図を示す。多層基板40が、第1の誘電体層41、及び導体パターンを含む。導体パターンは、第1の誘電体層41の上面、内部、及び下面に配置されている。第1の誘電体層41の上面に配置された導体パターンは、接地導体45、及び複数のランド44を含む。ランド44は、放射素子20(
図2A)に対応して配置される。多層基板40には、例えば、低温同時焼成セラミックス(LTCC)基板、プリント基板等を用いることができる。
【0039】
多層基板40上に、第2の誘電体層42が積層されている。接地導体45及びランド44は、第1の誘電体層41と第2の誘電体層42との界面に配置されており、第2の誘電体層42に密着している。第2の誘電体層42の上面に、放射素子20(
図2A)が配置されている。
図2Bに示した断面には、複数の放射素子20のうちパッチアンテナ20Bが現れている。
【0040】
第2の誘電体層42内に、厚さ方向に延びる導電性の棒状部材(導体ピン)50が埋設されている。棒状部材50は、一方の端部(上端)において放射素子20に接続されており、他方の端部(下端)においてランド44に接続されている。第1の誘電体層41の上面に配置された接地導体45は、パッチアンテナ20Bに対応する接地層(電気壁)として作用する。接地配線22、23(
図2A)は、放射素子20に接続されていない他の棒状部材50(
図2Bの断面には現れていない)を介して接地導体45に接続されている。
【0041】
多層基板40の下面に複数の回路部品が実装されている。回路部品には、送受信回路部品10、電源部25、ダイプレクサ26等が含まれる。送受信回路部品10、電源部25、ダイプレクサ26等の回路部品が、第3の誘電体層43で覆われている。送受信回路部品10は、多層基板40内の導体パターン、ランド44、及び棒状部材50を介して放射素子20に接続される。放射素子20が配置された面から、送受信回路部品10が実装された面まで貫通するスルーホールは形成されていない。
【0042】
第3の誘電体層43内に、厚さ方向に延びる導電性の棒状部材70が埋設されている。棒状部材70は、一方の端部(上端)において、多層基板40の下面に配置された導体パターンに接続されており、他方の端部(下端)は、第3の誘電体層43の表面に露出している。
【0043】
図2Cに、アンテナ一体型通信モジュール1の底面図を示す。第3の誘電体層43の底面に、複数の棒状部材70の下端が露出している。複数の棒状部材70は、第3の誘電体層43の外周線よりやや内側に、外周線に沿って配列している。棒状部材70の露出した下端が、主機器30(
図1)と接続するための外部接続端子として使用される。例えば、外部接続端子に載せられたはんだボール等により、アンテナ一体型通信モジュール1が主機器30のマザーボードに平面実装される。
【0044】
図3Aに、第2の誘電体層42の上面に配置された導体パターンの配置図を示し、
図3Bから
図3Gに、多層基板40(
図2B)の上面、内部、及び下面に配置された導体パターンの配置図を示す。
図3Aは、
図2Aに示したものと同一である。
【0045】
図3Bは上から1層目、
図3Cは上から2層目、
図3Dは上から3層目、
図3Eは上から4層目、
図3Fは上から5層目、及び
図3Gは上から6層目の導体層に配置された導体パターンをそれぞれ示す。5層目及び6層目の導体層には、電源、局部発振信号LO、中間周波信号IF、制御信号等の配線が配置されるが、
図3F及び
図3Gでは、これらの配線の図示が省略され、アンテナに係わる導体パターン、及び送受信回路部品10に接続されるランドパターンのみが示されている。
【0046】
複数のプリンテッドダイポールアンテナ20Aの接続点21(
図3A)、及び複数のパッチアンテナ20B(
図3A)の各々の給電点が、その直下に配置された1層目の導体層のランド(導体パターン)44(
図3B)、及び2層目の導体層の導体パターン53(
図3C)を介して、3層目の導体層の導体パターン54(
図3D)に接続される。
【0047】
多層基板40の6層目に、送受信回路部品10(
図2B)に接続される複数のランド60、61(
図3G)が配置されている。複数のランド60は、送受信回路部品10を放射素子20に接続するためのものであり、他の複数のランド61は、送受信回路部品10を、電源、局部発振信号LO、中間周波信号IF、制御信号等の配線パターン、及び接地導体に接続するためのものである。複数のランド60の各々は、その直上に配置された5層目の導体層の導体パターン59(
図3F)及び4層目の導体層の導体パターン57(
図3E)を介して、3層目の導体層に配置された導体パターン55に接続される。
【0048】
3層目の導体層において、複数の配線パターン56(
図3D)が、送受信回路部品10(
図3G)に接続されている導体パターン55と、放射素子20(
図3A)に接続されている導体パターン54とを接続する。
【0049】
1層目の導体層に、接地導体45(
図3B)が配置されている。接地導体45は、ランド44が配置されている箇所以外のほぼ全域に配置されている。第2の誘電体層42の上面に配置された接地配線22、23(
図3A)は、1層目の導体層に配置された接地導体45に接続される。
【0050】
4層目の導体層に、接地導体58が配置されている。接地導体58は、導体パターン57が配置されている箇所以外のほぼ全域に配置されている。接地導体58は、その上の接地導体45(
図3B)に接続されている。接地導体45と58とを接続するための導体パターンが、2層目及び3層目の導体層に配置されるが、
図3C及び
図3Dでは、この導体パターンの図示が省略されている。さらに、接地導体58は、5層目及び6層目の導体層に配置された導体パターンを介して、棒状部材70(
図2B)に接続されている。
【0051】
次に、
図4Aから
図4Fまでの図面を参照して、第1実施例によるアンテナ一体型通信モジュール1の製造方法について説明する。
【0052】
図4Aに示す多層基板40を準備する。多層基板40の上面には、複数のランド44、及び接地導体45が配置されている。多層基板40には、LTCC基板、プリント基板等を用いることができる。
【0053】
図4Bに示すように、複数のランド44にそれぞれ棒状部材50を接合する。さらに、接地配線22、23(
図2A)を接地導体45に接続するための棒状部材を、接地導体45の所定の位置に接合する。棒状部材50の位置決めには、例えば電子部品実装機(マウンタ)を用いることができる。接合方法として、はんだ付け、ろう付け、スポット溶接等を用いることができる。なお、棒状部材50の下端を多層基板40の表層部に差し込んでもよい。棒状部材50は、例えば円柱状の形状を有し、多層基板40の上面に対してほぼ垂直な姿勢で固定される。棒状部材50の下方の端面が、ランド44に対向する。
【0054】
図4Cに示すように、多層基板40の上面及び棒状部材50を第2の誘電体層42で覆う。第2の誘電体層42は、例えば多層基板40の上面に液状の誘電体材料を塗布した後、硬化させることにより形成される。誘電体材料が硬化した後、その上面及び棒状部材50を一括して研磨することにより、平坦化する。これにより、第2の誘電体層42が目標となる厚さに調整されるとともに、棒状部材50の上端が第2の誘電体層42の上面に露出する。第2の誘電体層42には、アンテナの動作周波数である60GHz帯において、誘電正接が小さく、かつ特性のばらつきが少ない誘電体材料を用いることが好ましい。
【0055】
図4Dに示すように、第2の誘電体層42の平坦化された上面に、放射素子20(
図2A)を形成する。
図4Dには、放射素子20のうちパッチアンテナ20Bが現れている。同時に、プリンテッドダイポールアンテナ20A、接地配線22、23も形成される。放射素子20等は、例えば第2の誘電体層42の上面に金属膜を配置した後、パターニングすることにより形成される。第2の誘電体層42の上面が平坦化されて、棒状部材50の上端が露出しているため、放射素子20が棒状部材50に電気的に接続される。
【0056】
図4Eに示すように、多層基板40の下面に、送受信回路部品10、電源部25、ダイプレクサ26等の回路部品を実装する。さらに、棒状部材70を下面(6層目)の回路パターンに接合する。
【0057】
図4Fに示すように、多層基板40の下面、下面に実装された回路部品、及び棒状部材70を第3の誘電体層43で覆う。第3の誘電体層43は、第2の誘電体層42と同様の方法で形成することができる。第3の誘電体層43の表面を研磨することにより、平坦化する。これにより、アンテナ一体型通信モジュール1の全体の厚さを調整することができる。
【0058】
図4Aから
図4Fまでの図面では、製造途中段階における1つのアンテナ一体型通信モジュール1の断面図を示している。実際には、集合基板に複数のアンテナ一体型通信モジュール1を形成した後、集合基板を個々のアンテナ一体型通信モジュール1に分割することにより、個々のアンテナ一体型通信モジュール1が作製される。多層基板40及び第3の誘電体層43(
図4F)の側面をシールド膜で覆ってもよい。
【0059】
次に、第1実施例によるアンテナ一体型通信モジュール1の優れた効果について、比較例と対比しながら説明する。
【0060】
図5Aから
図5Cに、第1比較例によるアンテナ一体型通信モジュールの断面図を示す。
【0061】
図5Aは、アンテナ基板80の断面図である。アンテナ基板80の上面に複数の放射素子20が配置されており、下面に、ランド82が配置されている。アンテナ基板80を貫通するスルーホール81を経由して、放射素子20とランド82とが接続されている。
【0062】
図5Bは、電子回路部品が実装された多層基板40、及び第3の誘電体層43の断面図である。多層基板40及び第3の誘電体層43の構成は、第1実施例によるアンテナ一体型通信モジュールの多層基板40及び第3の誘電体層43(
図2B)の構成と同一である。
【0063】
図5Cに示すように、アンテナ基板80と多層基板40とが、はんだ83を介して貼り合せられる。放射素子20は、スルーホール81内の導体を介して、多層基板40の導体パターンに接続される。
【0064】
第1比較例では、アンテナ基板80と多層基板40とが別々に作製された後、はんだを用いて貼り合わせられる。アンテナ基板80には、良好なアンテナ特性を得る観点から、好ましい誘電体材料が用いられる。このため、アンテナ基板80と、多層基板40とは、異なる誘電体材料で形成される。その結果、2枚の基板の貼り合せ箇所に発生し得る熱応力が、断面積の比較的小さな貼り合わせ箇所に集中してしまう。この熱応力の集中のために、接合の信頼性が低下してしまう。
【0065】
第1実施例では、
図4Cに示したように、多層基板40の上に液状の誘電体材料を塗布することにより、第2の誘電体層42が形成される。このため、第2の誘電体層42が多層基板40に密着する。第1実施例の構造は、
図5Cに示した第1比較例の構造に比べて、機械的強度の観点において、高い信頼性を確保することができる。
【0066】
さらに、第1比較例では、はんだ及びスルーホールを介して、放射素子20が多層基板40の導体パターンに接続される。これに対し、第1実施例では、棒状部材50(
図2B)を介して、放射素子20が多層基板40の導体パターンに接続される。このように、第1実施例の接続構造の幾何学的形状は、第1比較例の接続構造の幾何学的形状より単純である。このため、第1実施例の構造を採用することにより、伝送損失を小さくすることができる。さらに、幾何学的形状が単純であることにより、電磁界のシミュレーション精度を高めることが可能である。これにより、シミュレーションを用いた設計の最適化を行うことが容易になる。
【0067】
図6に、第2比較例によるアンテナ一体型通信モジュールの断面図を示す。第2比較例では、多層基板40の上に、ビルドアップ工法を用いてアンテナ支持誘電体層85が積層される。ビルドアップ工法では、積層される層ごとにフィルドビア86が形成される。放射素子20は、多段のフィルドビア86を介して多層基板40の導体パターンに接続される。
【0068】
第2比較例では、アンテナ支持誘電体層85に、ビルドアップ工法に適した誘電体材料を用いなければならない。このため、材料選択の自由度が低くなってしまう。さらに、多段のフィルドビア86は、断面積が厚さ方向に関して変動するため、伝送損失が大きくなってしまう。
【0069】
第1実施例では、第2の誘電体層42(
図2B)の形成にビルドアップ工法を適用しないため、材料選択の自由度が低くなることはない。このため、アンテナの動作周波数である60GHz帯において、誘電正接が小さく、かつ特性のばらつきが少ない誘電体材料が用いられる。第1実施例において、第2の誘電体層42の誘電体材料として、多層基板40の第1の誘電体層41よりも誘電率の小さな材料を用いることが好ましい。さらに、第2の誘電体層42の誘電体材料として、多層基板40の第1の誘電体層41よりも誘電正接の小さな材料を用いることが好ましい。
【0070】
また、第1実施例では、棒状部材50(
図2B)の各々が、その下端から上端まで単一体(シングルボディ)で構成されている。さらに、棒状部材50(
図2B)の、長さ方向に直交する断面の形状及び面積が、長さ方向に関して一定である。このため、伝送損失の増大を抑制することができる。
【0071】
図7に、第3比較例によるアンテナ一体型通信モジュールの断面図を示す。第3比較例では、多層基板40の上にアンテナ支持誘電体層87が積層されている。アンテナ支持誘電体層87の上面に放射素子20が配置されている。多層基板40とアンテナ支持誘電体層87とを貫通するスルーホール88が形成されている。スルーホール88内の導体が放射素子20に接続されており、給電線として機能する。
【0072】
送受信回路部品10が、多層基板40の内部に配置された導体パターン89を介して、スルーホール88内の導体に接続されている。スルーホール88内の導体は、接続箇所90から放射素子20に向って上方に延びるとともに、反対方向(下方)にも延びる。スルーホール88内の導体のうち、接続箇所90から下方に延びている部分は、伝送線路に接続されたオープンスタブとして動作する。さらに、送受信回路部品10を、スルーホール88と重ならない位置に配置しなければならない。このため、部品配置の自由度が低下してしまう。
【0073】
第1実施例においては、放射素子20と送受信回路部品10(
図2B)との接続に、スルーホールが用いられない。このため、伝送線路に不要なオープンスタブが形成されることはない。さらに、部品配置の自由度の低下を回避することができる。
【0074】
第1実施例では、複数の放射素子20(
図2A)に、プリンテッドダイポールアンテナ20A及びパッチアンテナ20Bを用いたが、その他の形状のアンテナを用いてもよい。また、放射素子20(
図2B)を保護用の絶縁層で覆ってもよい。パッチアンテナ20B(
図2B)の上に、無給電素子を配置してもよい。また、第1実施例によるアンテナ一体型通信モジュールにおいては、複数の放射素子20の入出力信号の位相のみを制御したが、位相と振幅の両方を制御してもよい。
【0075】
[第2実施例]
次に、
図8A及び
図8Bを参照して、第2実施例によるアンテナ一体型通信モジュール1について説明する。以下、第1実施例との相違点について説明し、共通の構成については説明を省略する。
【0076】
図8A及び
図8Bに、それぞれ第2実施例によるアンテナ一体型通信モジュール1の断面図及び底面図を示す。第2実施例では、第2の誘電体層42の上面が、多層基板40の上面に対して平行な平坦な領域46と、平坦な領域46に対して傾斜した傾斜領域47とを含む。傾斜領域47は、平坦な領域46の両端において、平坦な領域46に連続する。平坦な領域46の法線方向46nと、傾斜領域47の法線方向47nとが、第2の誘電体層42から遠ざかるに従って相互に離れる向きに傾斜領域47が傾斜している。傾斜領域47を形成するには、第2の誘電体層42の上面を平坦化するための研磨を行った後、面取りするように研磨すればよい。平坦な領域46と傾斜領域47とに、それぞれ複数のパッチアンテナ20Bが配置されている。
【0077】
第1実施例では、多層基板40(
図2B)の下面の全域が第3の誘電体層43で覆われていた。第2実施例では、多層基板40の下面の一部が露出している。この露出した領域に、同軸ケーブル用コネクタのレセプタクル48が実装されている。レセプタクル48は、多層基板40の内部に配置された導体パターンを介して、送受信回路部品10に接続されている。
【0078】
第1実施例によるアンテナ一体型通信モジュール1は、主機器のマザーボード等に表面実装される。これに対し、第2実施例によるアンテナ一体型通信モジュール1は、主機器の筐体に取り付けられ、同軸ケーブルを介して、主機器と電気的に接続される。同軸ケーブルによって、電源、局部発振信号LO、及び中間周波信号IFが重畳された信号が伝送される。
【0079】
第2実施例では、平坦な領域46に配置された複数のパッチアンテナ20Bと、傾斜領域47に配置された複数のパッチアンテナ20Bとにより、アダプティブアレーアンテナが構成される。傾斜領域47に配置されたパッチアンテナ20Bは、平坦な領域46に配置されたパッチアンテナ20Bに比べて、側方への指向性を強く持つ。このため、アダプティブアレーアンテナの指向性調整の自由度を高めることができる。
【0080】
第1実施例による表面実装型のアンテナ一体型通信モジュール1において、第2の誘電体層42(
図2B)の表面に、傾斜領域47(
図8A)を設けてもよい。また、第1実施例のように、第2の誘電体層42(
図2B)の全域が平坦なアンテナ一体型通信モジュール1に、同軸ケーブル用コネクタのレセプタクル48(
図8A、
図8B)を取り付けてもよい。
【0081】
上述の各実施例は例示であり、異なる実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。複数の実施例の同様の構成による同様の作用効果については実施例ごとには逐次言及しない。さらに、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。