(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
急冷凝固法により、金属材料に様々な性質が付与できることが知られている。急冷凝固法とは、一定以上の冷却速度で溶融金属を凝固させる方法をいう。急冷凝固法によりたとえば、金属材料の結晶組織の微細化、溶質分布の均質化、固溶限の拡大及び非晶質層(アモルファス)の生成が可能となる。急冷凝固法による鋳片の製造方法は具体的には、ストリップキャスティング法、メルトスピニング法、アトマイズ法及び溶融紡糸法等が知られている。
【0003】
たとえば、国際公開第2012/099056号(特許文献1)には、アトマイズ法によってSi合金を製造することについて記載がある。他には、特開2013−161785号公報(特許文献2)には、メルトスピニング法によってSi合金を製造することについて記載がある。
【0004】
急冷凝固法では、溶融金属の冷却速度が速い程、結晶粒が微細化する。急冷凝固法の中でも、冷却速度が特に速い製造方法はたとえば、メルトスピニング法である。メルトスピニング法は、溶融金属を、高速回転するロール上に噴射して急冷し、リボン状の金属薄帯を飛ばしながら製造する方法である。メルトスピニング法では、少量の溶融金属を噴射してロール上に供給する。そのため、冷却速度が速い。
【0005】
メルトスピニング法により、微細な結晶粒を含有する金属薄帯が製造できる。しかしながら、メルトスピニング法は、ロール上への溶融金属の供給量が少ない。そのため、生産能力に限界があり、金属薄帯の大量生産が難しい。
【0006】
一方で、急冷凝固法において、金属薄帯の大量生産が可能な方法はたとえば、単ロールのストリップキャスティング法である。単ロールのストリップキャスティング法は、溶融金属を回転するロール上に連続的に供給して急冷し、金属薄帯を製造する方法である。ストリップキャスティング法を用いた鋳片の製造方法はたとえば、特開2011−206835号公報(特許文献3)及び特開2001−291514号公報(特許文献4)に記載されている。
【0007】
特開2011−206835号公報(特許文献3)に記載されている製造装置は、アルミニウムクラッド板の製造装置である。この製造装置は、冷却能を有する第1ロールと、第1金属溶湯を貯めるための第1プールとを備える。第1プールは、第1ロールの表面と、第1前プレートと、後部材と、両サイド部材とで囲まれている。第1前プレートは、第1ロールの回転方向前方に位置する。後部材は、第1ロールの回転方向後方に位置する。第1前プレートは、先端部を有し、先端部と第1ロールの表面との間の距離が変わり得るように、可動に設けられている。第1ロールは、第1プール内の第1金属溶湯を冷却して第1ロールの表面に半凝固状態乃至凝固状態の第1金属層を形成しながら第1金属層を伴って回転する。第1前プレートは、第1ロールの回転に伴って移動する第1金属層の半凝固状態表面に、第1前プレートの先端部が一定の力で面的に常時当接するように付勢されている。
【0008】
特開2001−291514号公報(特許文献4)に記載されている製造方法は、非水電解質二次電池用負極材料の製造方法である。この製造方法は、凝固すると、Si相、及びSiと他の金属元素との金属間化合物の相とが晶出するように選定した組成を持つ合金原料を溶融した後、ストリップキャスティング法または遠心鋳造法を用いて凝固させて柱状晶組織を形成させることを特徴とする。
【0009】
ストリップキャスティング法では、ロール上に供給される溶融金属の量が、メルトスピニング法と比較して多い。そのため、ストリップキャスティング法により、金属薄帯の大量生産が可能である。しかしながら、ストリップキャスティング法は、メルトスピニング法と比較して、溶融金属の冷却速度が遅い。そのため、結晶粒が微細化しにくい。したがって、ストリップキャスティング法では結晶粒のさらなる微細化が求められている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態による製造装置は、単ロールのストリップキャスティング法による金属薄帯の製造装置である。製造装置は、冷却ロールと、タンディッシュと、溶融金属リムーバーとを備える。冷却ロールは、外周面を有し、回転しながら外周面上の溶融金属を冷却して凝固させる。タンディッシュは、溶融金属を収納可能であり、冷却ロールの外周面上に溶融金属を供給する。溶融金属リムーバーは、タンディッシュよりも冷却ロールの回転方向下流に、冷却ロールの外周面との間に隙間を設けて配置される。溶融金属リムーバーは、溶融金属の上述の隙間の幅を超える厚さに相当する部分(以下、表面部分ともいう)を除去する。これにより、冷却ロールの外周面上の溶融金属の厚さを、冷却ロールの外周面と溶融金属リムーバーとの間の隙間の幅に規制する。
【0018】
本実施形態による製造装置は、溶融金属リムーバーを備える。溶融金属リムーバーは、溶融金属の自由表面(溶融金属が冷却ロールと接触していない側の表面)が液状又は半凝固状態の時に溶融金属と接触する。溶融金属リムーバーは、外周面上の溶融金属の表面部分を除去する。これにより、冷却ロールの外周面上の溶融金属の厚さを、冷却ロールの外周面と溶融金属リムーバーとの間の隙間の幅に規制する。そのため、冷却ロール外周面上の溶融金属が薄くなる。溶融金属が薄くなれば、溶融金属の冷却速度が高まる。その結果、金属薄帯の結晶粒が小さくなる。つまり、ストリップキャスティングを用いて、微細な結晶粒を含有する金属薄帯を効率的に製造できる。
【0019】
好ましくは、冷却ロールの外周面と溶融金属リムーバーとの間の隙間の幅は、溶融金属リムーバーよりも冷却ロールの回転方向上流側での冷却ロールの外周面上の溶融金属の厚さよりも狭い。
【0020】
この場合、冷却ロールの外周面上の溶融金属がより薄くなる。そのため、溶融金属の冷却速度がより高まる。その結果、金属薄帯の結晶粒がより微細化する。
【0021】
好ましくは、タンディッシュは、冷却ロールの外周面近傍に配置され、冷却ロールの外周面上に溶融金属を導く供給端を含む。溶融金属リムーバーはさらに、タンディッシュの供給端よりも上方に配置される。
【0022】
この場合、溶融金属が冷却ロールに巻き上げられながら冷却される。そのため、溶融金属が冷却ロールの外周面に接触している時間が長く、溶融金属の冷却時間が長い。その結果、金属薄帯の結晶粒がより微細化する。
【0023】
好ましくは、溶融金属リムーバーは、冷却ロールの外周面と対向して配置され、冷却ロールの外周面と溶融金属リムーバーとの隙間を通過する溶融金属と接触する抜熱面を有する。
【0024】
この場合、溶融金属は冷却ロールと接触している面(以下、凝固部ともいう)に加え、溶融金属リムーバーと接触している面からも抜熱される。そのため、溶融金属の冷却速度が高まる。その結果、金属薄帯の結晶粒がより微細化する。
【0025】
本実施形態による金属薄帯の製造方法は、上述の製造装置を用いた単ロールのストリップキャスティング法による金属薄帯の製造方法である。製造方法は、供給工程と、急冷工程と、厚さ調整工程とを備える。供給工程では、タンディッシュ内の溶融金属を冷却ロールの外周面上に供給する。急冷工程では、外周面上の溶融金属を冷却ロールにより急冷して金属薄帯を形成する。厚さ調整工程では、溶融金属リムーバーにより、外周面上の溶融金属の表面部分を除去する。これにより、外周面上の溶融金属の厚さを、冷却ロールの外周面と溶融金属リムーバーとの間の隙間の幅に規制する。
【0026】
本実施形態による製造方法は、厚さ調整工程を備える。これにより、冷却ロール外周面上の溶融金属が薄くなる。そのため、溶融金属の冷却速度が高まる。その結果、金属薄帯の結晶粒が微細化する。つまり、ストリップキャスティング法を用いて、微細な結晶粒を含有する金属薄帯を効率的に製造できる。
【0027】
以下、図面を参照し、本実施形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0028】
[製造装置]
図1は、本実施形態による金属薄帯の製造装置の一例の断面図である。製造装置1は、冷却ロール2と、タンディッシュ4と、溶融金属リムーバー5とを備える。
【0029】
[冷却ロール]
冷却ロール2は、外周面を有し、回転しながら外周面上の溶融金属3を冷却して凝固させる。冷却ロール2は円柱状の胴部と、図示しない軸部とを備える。胴部は上記外周面を有する。軸部は胴部の中心軸位置に配置され、図示しない駆動源に取り付けられている。冷却ロール2は、駆動源により冷却ロール2の中心軸9周りに回転する。
【0030】
冷却ロール2の素材は、硬度及び熱伝導率が高い材料であることが好ましい。冷却ロール2の素材はたとえば、銅及び銅合金からなる群から選択される1種である。好ましくは、冷却ロール2の素材は銅である。冷却ロール2は、表面にさらに被膜を有してもよい。これにより、冷却ロール2の硬度が高まる。被膜はたとえば、めっき被膜及びサーメット被膜からなる群から選択される1種又は2種である。めっき皮膜はたとえば、クロムめっき及びニッケルめっきからなる群から選択される1種又は2種である。サーメット被膜はたとえば、タングステン(W)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、シリコン(Si)、アルミニウム(Al)、ボロン(B)、及び、これらの元素の炭化物、窒化物及び炭窒化物からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する。好ましくは、冷却ロール2の表層は銅であり、冷却ロール2は表面にさらにクロムめっき被膜を有する。
【0031】
図1に示すXは、冷却ロール2の回転方向である。金属薄帯6を製造する際、冷却ロール2は一定方向Xに回転する。これにより、
図1では、冷却ロール2と接触した溶融金属3が冷却ロール2の外周面上で一部凝固し、冷却ロール2の回転に伴い移動する。
【0032】
冷却ロール2は、後述のタンディッシュ4よりも冷却ロール2の回転方向下流であって、後述の溶融金属リムーバー5到達前までに、冷却ゾーンを有する。冷却ゾーンでは、冷却ロール2の外周面上に供給された溶融金属3は、自由表面を有する。そのため、急速冷却が可能である。溶融金属3が自由表面を有さない場合、つまり、溶融金属3の凝固部の上にさらに溶融金属3が存在する場合、凝固部を十分に抜熱することができない。これは、凝固部に対して、凝固部上に存在する溶融金属3から熱が加え続けられるからである。冷却ゾーンにおいて、溶融金属3は、冷却ロール2の外周面上に供給されることで自由表面を有する。そのため、凝固部を十分に抜熱することができ、急速冷却が可能となる。その結果、より微細化した結晶粒を有する金属薄帯6を得ることができる。
【0033】
冷却ロール2のロール周速は、溶融金属3の冷却速度及び製造効率を考慮して適宜設定される。ロール周速が早ければ、冷却ロール2外周面から、金属薄帯6が剥離しやすい。したがって、ロール周速の下限は、好ましくは50m/分、より好ましくは80m/分、さらに好ましくは120m/分である。ロール周速の上限は特に限定されないが、設備能力を考慮してたとえば500m/分である。ロール周速は、ロールの直径と回転数とから求めることができる。
【0034】
冷却ロール2の内部には、抜熱用の溶媒が充填されてもよい。これにより、効率的に溶融金属3を抜熱できる。溶媒はたとえば、水、有機溶媒及び油からなる群から選択される1種又は2種以上である。溶媒は、冷却ロール2内部に滞留してもよいし、外部と循環されてもよい。
【0035】
[タンディッシュ]
タンディッシュ4は、溶融金属3を収納可能であり、冷却ロール2の外周面上に溶融金属3を供給する。
【0036】
本実施形態において、タンディッシュ4は常に加熱されていてもよい。この場合、高融点の溶融金属3の溶融状態を維持することができる。そのため、溶融金属3を、溶融状態のまま、後述の溶融金属リムーバー5を用いて除去できる。加熱温度は、原料の液相線温度以上であれば特に限定されない。Si合金を製造する場合、加熱温度はたとえば1200℃以上であり、さらに好ましい加熱温度は、1500℃以上である。磁石用合金材料を製造する場合、加熱温度はたとえば1000℃以上である。
【0037】
[溶融金属リムーバー]
溶融金属リムーバー5は、冷却ロール2の軸方向に沿って延びる部材である。溶融金属リムーバー5の一例は、
図1に示すような、冷却ロール2の軸方向と平行に配置される板状の部材である。溶融金属リムーバー5は、タンディッシュ4よりも冷却ロール2の回転方向下流に、冷却ロール2の外周面との間に隙間を設けて配置される。溶融金属リムーバー5は、本体部51と、冷却ロール2の外周面と対向して配置される先端部50とからなる。先端部50の形状は特に限定されない。
【0038】
図2は、製造装置1の溶融金属リムーバー5の先端部50近傍(
図1中、破線で囲った範囲)を拡大した断面図である。
図2を参照して、溶融金属リムーバー5は、冷却ロール2の外周面との間に隙間Aを設けて配置される。溶融金属リムーバー5は、冷却ロール2の外周面上の溶融金属3の厚さを、冷却ロール2の外周面と溶融金属リムーバー5との間の隙間Aの幅に規制する。具体的には、溶融金属リムーバー5よりも冷却ロール2の回転方向上流での溶融金属3が、隙間Aの幅と比較して厚い場合がある。この場合、隙間Aの幅を超える厚さに相当する分の溶融金属3が、溶融金属リムーバー5によって除去される。これにより、溶融金属3の厚さは隙間Aの幅まで薄くなる。溶融金属3の厚さが薄くなることによって、溶湯金属3の冷却速度が高まる。このため、金属薄帯6の結晶粒が微細化する。
【0039】
隙間Aの幅は、溶融金属リムーバー5よりも冷却ロール2の回転方向上流側での外周面上の溶融金属3の厚さBよりも狭いことが好ましい。この場合、冷却ロール2の外周面上の溶融金属3がより薄くなる。そのため、溶融金属3の冷却速度がより高まる。その結果、金属薄帯6の結晶粒がより微細化する。
【0040】
冷却ロール2の外周面と溶融金属リムーバー5との間の隙間Aの幅は、溶融金属リムーバー5と冷却ロール2の外周面との最短の距離である。隙間Aの幅は、目的とする冷却速度及び製造効率に応じて適宜設定される。隙間Aの幅が狭い程、厚さ調整後の溶融金属3が薄くなる。このため、溶融金属3の冷却速度がより高まる。その結果、金属薄帯6の結晶粒をより微細化しやすい。したがって、隙間Aの上限は好ましくは400μm、より好ましくは250μm、さらに好ましくは100μm、さらに好ましくは50μm、さらに好ましくは30μmである。冷却ロール2が表面にクロムめっき及びニッケルめっきを有する場合、冷却ロール2の表面が銅である場合と比較して、冷却速度が遅い。したがって、この場合、隙間Aを狭くすることが好ましい。隙間Aの下限は特に限定されないが、たとえば10μmである。
【0041】
冷却ロール2の外周面のうち、溶融金属3がタンディッシュ4から供給される地点と、溶融金属リムーバー5が配置される地点との間の距離は適宜設定される。溶融金属リムーバー5は、溶融金属3の自由表面(溶融金属3が冷却ロール2と接触していない側の表面)が液状又は半凝固状態で溶融金属リムーバー5と接触する範囲内で配置されればよい。
【0042】
図3は溶融金属リムーバー5の取付角度を示す図である。
図3を参照して、たとえば、溶融金属リムーバー5は、冷却ロール2の中心軸9と供給端7とを含む面PL1と、冷却ロール2の中心軸9と溶融金属リムーバー5の先端部50とを含む面PL2とがなす角度θが一定となるように配置される。(以下、この角度θを取付角度θと称する。)取付角度θは適宜設定できる。取付角度θの上限はたとえば45°である。取付角度θの上限は好ましくは30°である。取付角度θの下限は特に限定されないが、溶融金属リムーバー5がタンディッシュ4上の溶融金属3と直接接触しない範囲であることが好ましい。
【0043】
図1〜
図3を参照して、好ましくは、溶融金属リムーバー5は抜熱面8を有する。抜熱面8は、冷却ロール2の外周面と対向して配置される。抜熱面8は、冷却ロール2の外周面と溶融金属リムーバー5との間の隙間を通過する溶融金属3と接触する。
【0044】
溶融金属リムーバー5の素材は耐火物であることが好ましい。溶融金属リムーバー5はたとえば、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、一酸化ケイ素(SiO)、二酸化ケイ素(SiO
2)、酸化クロム(Cr
2O
3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化チタン(TiO
2)、チタン酸アルミニウム(Al
2TiO
5)及び酸化ジルコニウム(ZrO
2)からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する。好ましくは、溶融金属リムーバー5は、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、二酸化ケイ素(SiO
2)、チタン酸アルミニウム(Al
2TiO
5)及び酸化マグネシウム(MgO)からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する。
【0045】
以上に説明した製造装置1は、溶融金属リムーバー5によって、冷却ロール2の外周面上の溶融金属3の表面部分を除去する。溶融金属3の表面部分とは、冷却ロール2の外周面上の溶融金属3において、冷却ロール2の外周面と溶融金属リムーバー5との間の隙間Aの幅を超える厚さに相当する部分を意味する。これにより、冷却ロール2の外周面上の溶融金属3の厚さを規制する。そのため、冷却ロール2の外周面上の溶融金属3が薄くなる。溶融金属3が薄くなることによって、溶融金属3の冷却速度が高まる。そのため、製造装置1を用いて金属薄帯を製造すれば、より微細化した結晶粒を有する金属薄帯6が得られる。
【0046】
本実施形態の金属薄帯の製造装置は、上述の製造装置1に限定されない。
【0047】
図1に示す製造装置1では、溶融金属3を冷却ロール2の側方から供給する。一方、溶融金属3は、冷却ロール2の上から供給することもできる。
【0048】
図4は、
図1〜
図3とは異なる、他の実施形態による製造装置10の断面図である。
図4を参照して、タンディッシュ4及び供給端7は、冷却ロール2よりも上に配置される。溶融金属リムーバー5は、供給端7よりも下に配置される。製造装置10のその他の構成は、製造装置1と同じである。製造装置10では、溶融金属3を冷却ロール2の上から冷却ロール2の外周面上に供給する。冷却ロール2の外周面上に供給された溶融金属3は、製造装置1と同様に、溶融金属リムーバー5によって厚さが規制される。その結果、冷却ロール2の外周面上の溶融金属3の厚さは、冷却ロール2の外周面と溶融金属リムーバー5との間の隙間Aの幅まで薄くなる。
【0049】
製造装置10では、溶融金属3は、冷却ロール2の頂点から冷却ロール2の外周面上を下って冷却される。一方、
図1に示す製造装置1では、溶融金属3は、冷却ロール2の側方から冷却ロール2の回転方向と同じ向きに供給される。さらに、溶融金属3は冷却ロール2によって巻き上げられながら冷却ロール2の頂点に到達し、その後冷却ロール2の外周面上を下って冷却される。したがって、製造装置10と比較して、製造装置1を用いた場合、溶融金属3が冷却ロール2の外周面に接触している時間が長い。そのため、溶融金属3の冷却時間が長い。この場合、金属薄帯6の結晶粒がより微細化する。したがって、
図1に示す製造装置1、つまり、溶融金属リムーバー5がタンディッシュ4の供給端7よりも上方に配置されることが好ましい。
【0050】
溶融金属リムーバー5は、
図1〜
図4に示す様に1枚配置されてもよいし、冷却ロール2の回転方向に対して連続的に複数枚配置されてもよい。溶融金属リムーバー5を複数枚配置する場合は、冷却ロール2の回転方向上流側に配置する溶融金属リムーバー5よりも、冷却ロール2の回転方向下流側に配置する溶融金属リムーバー5を冷却ロール2に近づけて配置する。そして、冷却ロール2の回転方向において、最も下流に位置する溶融金属リムーバー5と冷却ロール2の外周面との間の隙間Aが、最も小さくなるように配置する。溶融金属リムーバー5を複数枚配置することにより、溶融金属3を段階的に除去することができる。この場合、1枚の溶融金属リムーバー5にかかる負担が小さくなる。この場合さらに、溶融金属3の厚さの精密な制御がより容易になる。
【0051】
溶融金属リムーバー5は、
図1〜
図4に示す様に、冷却ロール2の法線に沿った向きで配置されてもよいし、
図5に示す様に、冷却ロール2の法線とは異なる向きに配置されてもよい。
図5では、溶融金属リムーバー5は、冷却ロール2の法線方向よりも、冷却ロール2の回転方向に向けて傾けて配置されている。この場合、冷却ロール2の外周面上の溶融金属3のうち、隙間Aの幅よりも上方の部分を除去しやすい。つまり、冷却ロール2の外周面上の溶融金属3の厚さを規制しやすい。
図5ではさらに、溶融金属リムーバー5の断面形状を、後述するとおり
図1〜
図4とは異なる形にしている。この場合、溶融金属3をさらに効率的に除去することができる。溶融金属リムーバー5の向きは、溶融金属3の厚さを規制し易いように適宜設定される。
【0052】
溶融金属リムーバー5の先端部50(溶融金属3と接触する端)のロールの軸に垂直な断面の断面形状は、
図1〜
図4に示す様な矩形であってもよいし、他の形状でもよい。他の形状はたとえば、
図6に示す様な三角形であってもよい。若しくは、
図5及び
図7に示す様に、溶融金属リムーバー5の溶融金属3の入り口側の先端部50と冷却ロール2の外周面との間の隙間の幅と、溶融金属リムーバー5の溶融金属3の出口側の先端部50と冷却ロール2の外周面との間の隙間の幅とが異なる様な形状でもよい。溶融金属リムーバー5の先端部50の断面形状は、溶融金属3の厚さを規制しやすいように適宜設定される。
【0053】
[製造方法]
本実施形態による金属薄帯6の製造方法は、上述の製造装置1又は10を用いた製造方法である。製造方法は、供給工程と、急冷工程と、厚さ調整工程とを備える。
【0054】
はじめに、溶融金属3を準備する。溶融金属3の組成は、目的とする金属薄帯6の組成に応じて適宜設定される。たとえば、Si合金を製造する場合、溶融金属3はたとえば、シリコン(Si)と、チタン(Ti)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)及び錫(Sn)からなる群から選択される1種又は2種以上とを含有し、残部は不純物からなる。若しくは、ネオジム磁石用合金材料を製造する場合、溶融金属3はたとえば、ネオジム(Nd)、ボロン(B)及び鉄(Fe)を含有し、残部は不純物からなる。溶融金属3は、上述の化学組成を有する原料を、融点以上に加熱することで製造される。
【0055】
上述の化学組成を有する原料を、坩堝に入れ加熱することで溶融金属3を製造する。加熱方法はたとえば、高周波誘導加熱、アーク加熱、プラズマアーク加熱、抵抗加熱及び電子ビーム衝撃加熱である。加熱温度は、原料の液相線温度以上であれば特に限定されない。Si合金を製造する場合、加熱温度はたとえば1200℃以上であり、さらに好ましくは、1500℃以上である。磁石用合金材料を製造する場合、加熱温度はたとえば1000℃以上である。
【0056】
[供給工程]
供給工程では、タンディッシュ4内の溶融金属3を冷却ロール2の外周面上に供給する。はじめに、坩堝からタンディッシュ4へ溶融金属3を供給する。坩堝からタンディッシュ4への溶融金属3の供給は、坩堝を傾けて溶融金属3を直接注いでもよい。若しくは、ノズル等を使用して坩堝からタンディッシュ4へ溶融金属3を供給してもよい。続いて、タンディッシュ4の供給端7から溶融金属3を冷却ロール2外周面上に供給する。冷却ロール2は、上述のとおり一定の速度で冷却ロール2の中心軸9周りに回転している。タンディッシュ4から供給された溶融金属3と冷却ロール2の外周面とが接触すれば、溶融金属3が一部凝固して冷却ロール2に移着する。溶融金属3は、冷却ロール2の回転に伴い移動する。このとき、溶融金属3の冷却ロール2の外周面と接触していない側の表面(自由表面)は液状又は半凝固状態である。
【0057】
供給工程において、タンディッシュ4は常に加熱されていてもよい。この場合、高融点の溶融金属3の溶融状態を維持することができる。そのため、溶融金属3を、溶融状態のまま、溶融金属リムーバー5を用いて除去できる。加熱温度は、原料の液相線温度以上であれば特に限定されない。Si合金を製造する場合、加熱温度はたとえば1200℃以上であり、さらに好ましい加熱温度は、1500℃以上である。磁石用合金材料を製造する場合、加熱温度はたとえば1000℃以上である。
【0058】
[急冷工程]
急冷工程では、外周面上の溶融金属3を冷却ロール2により急冷して金属薄帯6を形成する。上述の供給工程で溶融金属3が冷却ロール2の外周面上に供給された時から、急冷工程は開始する。急冷工程では、溶融金属3を凝固部から冷却する。
【0059】
急冷工程では、冷却ロール2は、タンディッシュ4よりも冷却ロール2の回転方向下流であって、溶融金属リムーバー5到達前までに、冷却ゾーンを有する。冷却ゾーンでは、冷却ロール2の外周面上に供給された溶融金属3は、自由表面を有する。そのため、急速冷却が可能である。溶融金属3が自由表面を有さない場合、つまり、凝固部の上にさらに溶融金属3が存在する場合、凝固部を十分に抜熱することができない。これは、凝固部に対して、凝固部上に存在する溶融金属3から熱が加え続けられるからである。冷却ゾーンにおいて、溶融金属3は、冷却ロール2の外周面上に供給されることで自由表面を有する。そのため、凝固部を十分に抜熱することができ、急速冷却が可能となる。その結果、より微細化した結晶粒を有する金属薄帯6を製造できる。
【0060】
[厚さ調整工程]
厚さ調整工程では、急冷工程の途中で、冷却ロール2の外周面上の溶融金属3の厚さを、溶融金属リムーバー5により、冷却ロール2の外周面と溶融金属リムーバー5との間の隙間Aの幅に規制する。溶融金属3は、冷却ロール2の外周面上に供給された後すぐには全体が凝固せず、凝固部から徐々に凝固する。溶融金属3の自由表面は、液状又は半凝固状で溶融金属リムーバー5と接触する。液状又は半凝固状の溶融金属3の硬度は低い。そのため、溶融金属3の厚さが、隙間Aの幅より厚ければ、液状又は半凝固状態である溶融金属3の自由表面が塞き止められる、若しくは、除去される。これにより、溶融金属3が薄くなる。溶融金属3が薄ければ、溶融金属3の冷却速度が速くなる。その結果、より微細化した結晶粒を有する金属薄帯6を製造できる。
【0061】
抜熱面8を配置することによって、溶融金属3は、凝固部に加え、抜熱面8からも抜熱される。この場合、溶融金属3の冷却速度が高まる。抜熱面8の面積及び形状は、適宜設定される。たとえば、
図8に示す様に、溶融金属リムーバー5の先端部50をL字にすることで、抜熱面8の面積を大きくすることができる。この場合、溶融金属3の冷却速度をさらに高めることができる。
【0062】
厚さ調整工程で薄くなった溶融金属3は、引き続き冷却ロール2上で冷却される。この時の溶融金属3は薄い。そのため、冷却速度は著しく速い。その結果、金属薄帯6の結晶粒が微細になる。溶融金属3全体が凝固すると、金属薄帯6となる。金属薄帯6は冷却ロール2外周面から離隔して回収される。以上の工程により、本実施形態の金属薄帯6を製造できる。
【実施例】
【0063】
下記の実施例1〜実施例3に記載の製造装置を用いて、Si合金の金属薄帯を製造した。原料は、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)及びシリコン(Si)を含有した。原料の組成は、質量比でNi:Ti:Si=25:17:58であった。混合した原料1kgを1450℃に加熱し、溶融金属を製造した。溶融金属を、タンディッシュから冷却ロール上に供給した。冷却ロールは、外周面を銅で被覆し、内部を水で冷却した冷却ロールであった。冷却ロールの直径は20cm、幅は18cmであった。ロールの周速は、120m/分であった。実施例1〜実施例3で得られたSi合金の金属薄帯を切断し、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。
【0064】
[実施例1]
実施例1では、本実施形態の製造装置を用いて、Si合金の金属薄帯を製造した。つまり、溶融金属リムーバーを使用してSi合金の金属薄帯を製造した。溶融金属リムーバーは、厚さ3mmの平板のアルミナ板であった。溶融金属リムーバーと冷却ロールの外周面との隙間の幅は80μmであった。
【0065】
[実施例2]
実施例2では、本実施形態の製造装置から、溶融金属リムーバーを外してSi合金の金属薄帯を製造した。つまり、溶融金属リムーバーを使用しないでSi合金の金属薄帯を製造した。
【0066】
[実施例3]
実施例3では、冷却ロール上において、タンディッシュから溶融金属リムーバーまでの間に冷却ゾーンを有さない製造装置を用いて、その他は実施例1と同じ条件で、Si合金の金属薄帯を製造した。つまり、溶融金属は自由表面を有さない状態で、溶融金属リムーバーに供給された。
【0067】
[評価結果]
[実施例1]
図9は、本実施形態による製造方法(溶融金属リムーバーあり)で製造した金属薄帯の断面の電子顕微鏡(SEM)写真である。本実施形態による方法で製造した金属薄帯の平均膜厚は80μmであった。さらに、本実施形態による方法で製造した金属薄帯のSi相の結晶粒の大きさ(
図9の灰色の部分の幅に相当)は、2μm以下であった。
【0068】
[実施例2]
図10は、従来方法(溶融金属リムーバーなし)で製造した金属薄帯の断面の電子顕微鏡(SEM)写真である。従来方法で製造した金属薄帯の平均膜厚は440μmであった。さらに、従来方法で製造した金属薄帯のSi相の結晶粒の大きさ(
図10の灰色の部分の幅に相当)は、20〜30μmであった。
【0069】
[実施例3]
自由表面を有さない溶融金属を、溶融金属リムーバーで除去して製造した実施例3では、金属薄帯のSi相の結晶粒の大きさは、10〜15μmであった。
【0070】
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。