(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0017】
図1は、本実施の形態にかかる圧延設備1を含むH形鋼の製造ラインTについての説明図である。
図1に示すように、製造ラインTには上流側から順に、加熱炉2、サイジングミル3、粗圧延機4、中間ユニバーサル圧延機5、仕上ユニバーサル圧延機8が配置されている。また、中間ユニバーサル圧延機5に近接してエッジャー圧延機9が設けられている。なお、以下では、説明のために製造ラインTにおける鋼材を、総称して「被圧延材A」と記載し、各図において適宜その形状を破線・斜線等を用いて図示する場合がある。
【0018】
図1に示すように、製造ラインTでは、加熱炉2から抽出された例えばスラブ11等の被圧延材Aがサイジングミル3ならびに粗圧延機4において粗圧延される。次いで、中間ユニバーサル圧延機5において中間圧延される。この中間圧延時には、必要に応じてエッジャー圧延機9によって被圧延材の端部等(後述するフランジ部80)に対して圧下が施される。通常の場合、サイジングミル3及び粗圧延機4のロールには、合わせて4〜6個程度の孔型が刻設されており、これらを経由して10数パス程度のリバース圧延でH形粗形材13が造形され、該H形粗形材13を前記中間ユニバーサル圧延機5−エッジャー圧延機9の2つの圧延機からなる圧延機列を用いて、複数パスの圧下が加えられ、中間材14が造形される。そして中間材14は、仕上ユニバーサル圧延機8において製品形状に仕上圧延され、H形鋼製品16が製造される。
【0019】
次に、以下では
図1に示したサイジングミル3及び粗圧延機4に刻設される孔型構成や孔型形状について図面を参照して説明する。
図2〜
図6は粗圧延工程を行うサイジングミル3及び粗圧延機4に刻設される孔型についての概略説明図である。ここで、説明する第1孔型〜第4孔型は、例えばサイジングミル3に全て刻設されても良く、サイジングミル3及び粗圧延機4に第1孔型〜第5孔型の5つの孔型が分けて刻設されても良い。即ち、第1孔型〜第4孔型はサイジングミル3及び粗圧延機4の両方に亘って刻設されても良く、どちらか一方の圧延機に刻設されても良い。通常のH形鋼の製造における粗圧延工程では、これら各孔型において1又は複数パスでの造形が行われる。
【0020】
また、本実施の形態では刻設される孔型が5つの場合を例示して説明するが、その孔型数についても、必ずしも5孔型である必要はなく、5以上の複数の孔型数であっても良い。即ち、H形粗形材13を造形するために好適な孔型構成であれば良い。なお、
図2〜
図6では、各孔型における造形時の被圧延材Aの概略最終パス形状を破線にて図示している。
【0021】
図2は第1孔型K1の概略説明図である。第1孔型K1は、一対の水平ロールである上孔型ロール20と下孔型ロール21に刻設され、これら上孔型ロール20と下孔型ロール21のロール隙において被圧延材Aが圧下・造形される。また、上孔型ロール20の周面(即ち、第1孔型K1の上面)には、孔型内部に向かって突出する突起部25が形成されている。更に、下孔型ロール21の周面(即ち、第1孔型K1の底面)には、孔型内部に向かって突出する突起部26が形成されている。これら突起部25、26はテーパー形状を有しており、その突出長さ等の寸法は、突起部25と突起部26とでそれぞれ等しく構成されている。突起部25、26の高さ(突出長さ)をh1とし、先端部角度をθ1aとする。
【0022】
この第1孔型K1においては、突起部25、26が被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)に押し当てられ、割り込み28、29が形成される。ここで、突起部25、26の先端部角度(ウェッジ角度とも呼称される)θ1aは例えば25°以上40°以下であることが望ましい。
【0023】
ここで、第1孔型K1の孔型幅は、被圧延材Aの厚み(即ち、スラブ厚)とほぼ等しいことが好ましい。具体的には、第1孔型K1に形成された突起部25、26の先端部における孔型の幅と、スラブ厚を同一にすることで、被圧延材Aの左右センタリング性が好適に確保される。また、このような孔型寸法の構成とすることで、
図2に示すように、第1孔型K1での造形時において、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)においては、上記突起部25、26及び孔型側面(側壁)の一部が被圧延材Aと接していて、割り込み28、29により4つの要素(部位)に分割されたスラブ上下端部に対して、第1孔型K1の上面及び底面にて積極的な圧下が行われない方が好ましい。孔型の上面及び底面による圧下は、被圧延材Aの長手方向への伸びを生じさせてしまい、フランジ(後述するフランジ部80)の生成効率を低下させてしまうからである。即ち、第1孔型K1においては、突起部25、26が被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)に押し当てられ、割り込み28、29が形成される際の突起部25、26における圧下量(ウェッジ先端圧下量)は、スラブ上下端部における圧下量(スラブ端面圧下量)よりも十分に大きなものとされ、これにより割り込み28、29が形成される。
【0024】
図3は第2孔型K2の概略説明図である。第2孔型K2は、一対の水平ロールである上孔型ロール30と下孔型ロール31に刻設される。上孔型ロール30の周面(即ち、第2孔型K2の上面)には、孔型内部に向かって突出する突起部35が形成されている。更に、下孔型ロール31の周面(即ち、第2孔型K2の底面)には、孔型内部に向かって突出する突起部36が形成されている。これら突起部35、36はテーパー形状を有しており、その突出長さ等の寸法は、突起部35と突起部36とでそれぞれ等しく構成されている。これら突起部35、36の先端部角度は25°以上40°以下のウェッジ角度θ1bであることが望ましい。
【0025】
なお、上記第1孔型K1のウェッジ角度θ1aは、フランジ相当部の先端部厚みを確保し、誘導性を高め、圧延の安定性を担保するために、後段の第2孔型K2のウェッジ角度θ1bと同じ角度であることが好ましい。
【0026】
突起部35、36の高さ(突出長さ)h2は、上記第1孔型K1の突起部25、26の高さh1より高く構成されており、h2>h1となっている。また、突起部35、36の先端部角度は上記第1孔型K1の突起部25、26の先端部角度と同じであることが圧延寸法精度上、好ましい。これら上孔型ロール30と下孔型ロール31のロール隙において、上記第1孔型K1通材後の被圧延材Aが更に造形される。
【0027】
ここで、第1孔型K1に形成される突起部25、26の高さh1より、第2孔型K2に形成される突起部35、36の高さh2の方が高く、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)への侵入長さも同様に第2孔型K2の方が長くなる。第2孔型K2での突起部35、36の被圧延材Aへの侵入深さは、突起部35、36の高さh2と同じである。即ち、第1孔型K1での突起部25、26の被圧延材Aへの侵入深さh1’と、第2孔型K2での突起部35、36の被圧延材Aへの侵入深さh2はh1’<h2との関係になっている。
また、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)に対向する孔型上面30a、30b及び孔型底面31a、31bと、突起部35、36の傾斜面とのなす角度θfは、
図3に示す4箇所ともに約90°(略直角)に構成されている。
【0028】
図3に示すように、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)へ押し当てられた時の突起部の侵入長さが長いことから、第2孔型K2においては、第1孔型K1において形成された割り込み28、29が更に深くなるように造形が行われ、割り込み38、39が形成される。なお、ここで形成される割り込み38、39の寸法に基づき粗圧延工程でのフランジ造形工程終了時のフランジ片幅が決定される。
【0029】
また、第2孔型K2での造形は多パスにより行われるが、当該多パス造形においては、最終パスにて被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)と、それに対向する孔型上面30a、30b及び孔型底面31a、31bとが接触するような造形が行われる。これは、第2孔型K2での全てのパスにおいて被圧延材Aの上下端部と孔型内部とを非接触とすると、フランジ相当部(後述するフランジ部80に対応する部位)が左右非対称に造形されるといった形状不良が生じる恐れがあり、通材性の面で問題があるからである。
【0030】
図4は第3孔型K3の概略説明図である。第3孔型K3は、一対の水平ロールである上孔型ロール40と下孔型ロール41に刻設される。上孔型ロール40の周面(即ち、第3孔型K3の上面)には、孔型内部に向かって突出する突起部45が形成されている。更に、下孔型ロール41の周面(即ち、第3孔型K3の底面)には、孔型内部に向かって突出する突起部46が形成されている。これら突起部45、46はテーパー形状を有しており、その突出長さ等の寸法は、突起部45と突起部46とでそれぞれ等しく構成されている。
【0031】
上記突起部45、46の先端部角度θ2は、上記角度θ1bに比べ広角に構成され、突起部45、46の被圧延材Aへの侵入深さh3は、上記突起部35、36の侵入深さh2よりも短くなっている(即ち、h3<h2)。
また、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)に対向する孔型上面40a、40b及び孔型底面41a、41bと、突起部45、46の傾斜面とのなす角度θfは、
図4に示す4箇所ともに約90°(略直角)に構成されている。
【0032】
図4に示すように、第3孔型K3では、第2孔型K2通材後の被圧延材Aに対し、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)において第2孔型K2において形成された割り込み38、39が、突起部45、46が押し当てられることにより、割り込み48、49となる。即ち、第3孔型K3での造形における最終パスでは、割り込み48、49の最深部角度(以下、割り込み角度とも呼称する)がθ2となる。換言すると、第2孔型K2において割り込み38、39の形成と共に造形された分割部位(後述するフランジ部80に対応する部位)が外側に折り曲げられるような造形が行われる。
【0033】
また、
図4に示す第3孔型K3での造形は少なくとも1パス以上によって行われ、このうちの少なくとも1パス以上は、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)と孔型内部(第3孔型K3の上面及び底面)が接触した状態で行われる。この被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)と孔型内部が接触した状態においては、当該端部の軽圧下が行われることが好ましい。
【0034】
図5は第4孔型K4の概略説明図である。第4孔型K4は、一対の水平ロールである上孔型ロール50と下孔型ロール51に刻設される。上孔型ロール50の周面(即ち、第4孔型K4の上面)には、孔型内部に向かって突出する突起部55が形成されている。更に、下孔型ロール51の周面(即ち、第4孔型K4の底面)には、孔型内部に向かって突出する突起部56が形成されている。これら突起部55、56はテーパー形状を有しており、その突出長さ等の寸法は、突起部55と突起部56とでそれぞれ等しく構成されている。
【0035】
上記突起部55、56の先端部角度θ3は、上記角度θ2に比べ広角に構成され、突起部55、56の被圧延材Aへの侵入深さh4は、上記突起部45、46の侵入深さh3よりも短くなっている(即ち、h4<h3)。
また、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)に対向する孔型上面50a、50b及び孔型底面51a、51bと、突起部55、56の傾斜面とのなす角度θfは、上記第3孔型K3と同様に、
図5に示す4箇所ともに約90°(略直角)に構成されている。
【0036】
第4孔型K4では、第3孔型K3通材後の被圧延材Aに対し、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)において第3孔型K3において形成された割り込み48、49が、突起部55、56が押し当てられることにより押し広げられ、割り込み58、59となる。即ち、第4孔型K4での造形における最終パスでは、割り込み58、59の最深部角度(以下、割り込み角度とも呼称する)がθ3となる。換言すると、第3孔型K3において割り込み48、49の形成と共に造形された分割部位(後述するフランジ部80に対応する部位)が更に外側に折り曲げられるような造形が行われる。このようにして造形された被圧延材Aの上下端部の部位は、後のH形鋼製品のフランジに相当する部位であり、ここではフランジ部80と呼称する。
【0037】
図5に示す第4孔型K4での造形は少なくとも1パス以上によって行われ、このうちの少なくとも1パス以上は、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)と孔型内部(第4孔型K4の上面及び底面)が接触した状態で行われる。この被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)と孔型内部が接触した状態においては、当該端部の軽圧下が行われることが好ましい。
【0038】
図6は第5孔型K5の概略説明図である。第5孔型K5は、一対の水平ロールである上孔型ロール85と下孔型ロール86から構成される。
図6に示すように、第5孔型K5では、第4孔型K4までに造形された被圧延材Aが90°あるいは270°回転させられ、第4孔型K4までは被圧延材Aの上下端に位置していたフランジ部80が、圧延ピッチライン上に来るような配置となる。そして、第5孔型K5では、2か所のフランジ部80を繋ぐ接続部であるウェブ部82の圧下及びフランジ部80のフランジ先端部を圧下することでフランジ幅の寸法調整が行われる。このようにしていわゆるドッグボーン形状のH形粗形材(
図1に示すH形粗形材13)が造形される。なお、この第5孔型K5はウェブ部82を圧下して減厚させることから、ウェブ減厚孔型あるいは平造形孔型とも呼称される。
【0039】
このように造形されたH形粗形材13に対し、既知の圧延機である中間ユニバーサル圧延機5−エッジャー圧延機9の2つの圧延機からなる圧延機列を用いて、複数パスのリバース圧延が加えられ、中間材14が造形される。そして中間材14は、仕上ユニバーサル圧延機8において製品形状に仕上圧延され、H形鋼製品16が製造される(
図1参照)。
【0040】
上述したように、本実施の形態にかかる第1孔型K1〜第4孔型K4を用いて被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)に割り込みを入れ、それら割り込みによって左右に分かれた各部分を左右に折り曲げる加工を行い、フランジ部80を形成するといった造形をすることで、被圧延材A(スラブ)の上下端面をほぼ上下方向に圧下することなくH形粗形材13の造形を行うことができる。即ち、従来行われていたスラブ端面を常に圧下する粗圧延方法に比べ、フランジ幅を広幅化させてH形粗形材13を造形することが可能となり、その結果、フランジ幅の大きな最終製品(H形鋼)を製造することができる。
【0041】
ここで、本実施の形態に係るH形鋼の製造方法においては、上述した第1孔型K1〜第4孔型K4によって造形された被圧延材Aのフランジ部80の形状が、従来の製造方法における平孔型造形前のフランジ部の形状に比べ、製品フランジの形状に近い形状である。これは、素材として用いる矩形断面の素材(スラブ)の端部形状を変えることなく、割り込みを入れて造形した分割部位(フランジ部80)を折り曲げる加工を行うといった造形技術を採用していることに起因する。また、このような造形技術を採用するために、第2孔型K2〜第4孔型K4においては、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)に対向する2箇所の孔型上面及び2箇所の孔型底面と、孔型に形成された突起部の傾斜面とのなす角度θfは約90°(略直角)に構成されており、また、被圧延材Aの上下端部が割り込みを形成することで2つに分割して造形され、フランジ部80の先端部の厚みが従来法に比べて厚い。
【0042】
本発明者らの検証によれば、第5孔型K5として上記説明した平造形孔型でのウェブ部82の圧下及びフランジ部80の先端部圧下を、従来の製造方法と同様の条件にて実施した場合には、上記フランジ部の形状の相違に起因する問題点が存在することが分かった。
そこで、本発明者らは、従来の平造形孔型での圧延条件の問題点を検証すると共に、本実施の形態に係る製造方法において第1孔型K1〜第4孔型K4によって造形された被圧延材Aに対する好適な圧延条件について鋭意検討を行った。以下、本検討について図面を参照して説明する。
【0043】
先ず、本実施の形態に係る第1孔型K1〜第4孔型K4を用いた造形方法において、第4孔型K4での造形後、従来から既知の平造形孔型を従来の圧延条件にて用いた場合の問題点について説明する。
図7は、第4孔型K4での造形後の被圧延材Aに対し、従来より既知の構成・形状を有する平造形孔型90(上記第5孔型K5に相当)を用いてウェブ部82の厚み圧下を含む造形を実施した場合の説明図であり、(a)は造形前、(b)は造形後を示している。なお、
図7においては、フランジ部80の形状変化の様子を示すためにフランジ部80を拡大するように被圧延材Aの一部を拡大して図示している。
【0044】
図7(a)に示すように、本実施の形態に係る第1孔型K1〜第4孔型K4によって造形されたフランジ部80は、ウェブ部82が圧下されると、そのメタルフローが平造形孔型90外側(即ち、フランジ部80)に流れ、当該平造形孔型90の側壁に鋼材が押し付けられる。これにより、ウェブ部82を減厚する過程でフランジ部80のプルダウン(ウェブ減厚によるフランジ肉引け)が発生する。特に、大型H形鋼においては、ウェブ部82の幅が相対的にフランジ部80に対して大きくなるために、プルダウンが大きい。従って、ウェブ部82を減厚する過程でフランジ部の幅が短くなる現象が起きる。即ち、
図7(b)に示すように、フランジ部80が平造形孔型90外側に押し付けられると同時に、フランジ部80の先端部がプルダウンによってロールから離れてしまい、フランジ先端部が内側に張り出し(いわゆるオーバーハング)、図中破線部に示す箇所が疵などの原因となってしまう恐れがある。更には、ウェブ部82の厚み圧下量が大きくなると、フランジ部80へのメタルフローが大きくなり、フランジ部80の折れ曲がりといった形状不良も懸念される。
【0045】
また、
図7(b)に示すような形状不良がフランジ部80において生じた場合、上記フランジ部80におけるオーバーハングに加え、付根部の形状悪化が生じてしまう。そのため、後段の工程である中間ユニバーサル圧延機5でのユニバーサル圧延(中間圧延工程)において、ロール形状と被圧延材Aとの形状が一致しないといった問題も懸念される。即ち、
図7(b)のように、フランジ部80の先端部にオーバーハングによる形状不良が生じると、当該先端部を潰さないためにパススケジュール設計が制約を受け、疵の発生率が高まる。
【0046】
以上、
図7を参照して説明したように、既知の平造形孔型を従来の圧延条件にて用いた造形法の問題点に鑑み、本発明者らは、既知の平造形孔型を用いて粗圧延工程を実施する際に、当該平造形孔型での圧延条件を、第1孔型K1〜第4孔型K4によって造形された被圧延材Aに対し好適な条件に設定することで、形状不良等の上記問題点を解決し、効率的な圧延造形が実施可能であるとの知見を見出した。以下、本知見について説明する。
【0047】
図8は、第5孔型K5(即ち、平造形孔型90)において、第1孔型K1〜第4孔型K4によって造形された被圧延材Aを複数パスで圧延造形した際に、フランジ部80の先端部がロール(上孔型ロール85あるいは下孔型ロール86)から離れる条件に関するグラフである。即ち、第5孔型K5において圧延が進んだ時の、被圧延材Aのフランジ幅とウェブ厚との関係ならびに、ウェブ厚とプルダウン率との関係を示すグラフである。なお、
図8に示すグラフは、幅2300mm×厚み300mmのスラブ素材から寸法1500mm×600mmのH形鋼を製造する場合におけるシミュレーションに基づくグラフである。
【0048】
ここで、プルダウン率とは、フランジ幅減少量/ウェブ厚減少量を示しており、このプルダウン率が1.0を上回る場合、ウェブ厚減少量に対してフランジ幅の減少量が大きくなり、フランジ部80の先端部がロールから離れることを意味する。
プルダウンと孔型ロール形状との関係としては、被圧延材Aの全断面に占めるウェブ部82の割合が大きくなるにつれてプルダウンは大きくなり、ウェブ部82からフランジ部80へのメタルフローを誘発する程プルダウンは小さくなる。
【0049】
図8に示すように、圧延が進みウェブ厚が薄くなるにつれてフランジ幅も減少する関係にある。一方、プルダウン率は、ウェブ厚の厚い段階では0.8程度(即ち、1.0未満)であるが、ウェブ厚が薄くなるにつれてプルダウン率は大きくなり、ウェブ厚が約160mm〜180mmとなった段階で1.0となり、更にウェブ厚が薄くなるとプルダウン率も併せて大きく増加する傾向が分かる。これは、ウェブ厚が薄くなるほど圧下量が一定の条件において圧下率が高まり、被圧延材Aの長手方向への延伸作用が高まった結果、フランジ部80を長手方向に引き延ばすといった圧延の効果が高まるからである。
【0050】
本実施の形態に係る平造形孔型(第5孔型K5)でのフランジ部80の先端部がロールから離れる条件は、ウェブ厚の減少量に対してフランジ幅の減少量が大きくなる条件であり、
図8に示すプルダウン率が1.0超となった段階でフランジ部80の先端部がロールから離れる。即ち、プルダウン率が1.0以下となる条件での平造形孔型における圧延造形では、フランジ部80の先端部がロールに接触したままとなるため、
図7を参照して上述したフランジ部80の形状不良といった問題点を生じさせることなく圧延造形を実施することが可能となる。
【0051】
図8に示す結果から、具体的には、幅2300mm×厚み300mmのスラブ素材から寸法1500mm×600mmのH形鋼を本実施の形態に係る製造方法で圧延造形する場合に、平造形孔型(第5孔型K5)での圧延造形においてプルダウン率が1.0以下となるような条件に鑑み、ウェブ部82の厚みが160mm以上となるまでとの条件に留めるといった技術が創案される。これは、平造形孔型(第5孔型K5)での圧延造形でウェブ部82の厚みが160mm未満となるまで圧延造形してしまうと、
図8に示すようにプルダウン率が1.0超となり、フランジ部80の先端部がロールから離れ、当該フランジ部80の形状不良につながるからである。
【0052】
以上説明した本実施の形態に係るH形鋼の製造方法によれば、第1孔型K1〜第4孔型K4を用いて被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)に割り込みを入れ、それら割り込みによって左右に分かれた各部分を左右に折り曲げる加工を行い、フランジ部80を形成するといった造形をすることで、被圧延材A(スラブ)の上下端面を上下方向に圧下することなくH形粗形材13の造形を行うことができる。即ち、従来行われていたスラブ端面を常に圧下する粗圧延方法に比べ、フランジ幅を広幅化させてH形粗形材13を造形することが可能となり、その結果、例えばウェブ高さ600mm超、フランジ幅400mm超といったフランジ幅の大きな最終製品(H形鋼)を製造することができる。
【0053】
加えて、特に粗圧延工程での平造形孔型(第5孔型K5)での圧延条件を、プルダウン率が1.0以下となるような好適な条件とすることで、フランジ部80における形状不良を生じさせることなく圧延造形を実施することが可能となる。これにより、従来に比べフランジ幅の大きなH形鋼製品を効率的且つ安定的に製造することができる。
【0054】
以上、本発明の実施の形態の一例を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0055】
例えば、上記実施の形態においては、幅2300mm×厚み300mmのスラブ素材から寸法1500mm×600mmのH形鋼を製造する場合の圧延造形を例に挙げて説明し、その場合には平造形孔型(第5孔型K5)での圧延条件を、ウェブ部82の厚みが160mm以上となるまでに留めると説明したが、本発明技術はこれに限定されるものではない。当然、圧延条件は、スラブ素材の寸法や所望されるH形鋼製品の寸法等に応じて適宜変更すれば良い。
【0056】
また、上記実施の形態において、第1孔型K1〜第4孔型K4の4つの孔型を用いて被圧延材Aの造形を行う技術を説明したが、粗圧延工程を実施する孔型数はこれに限られるものではない。即ち、サイジングミル3や粗圧延機4に刻設される孔型の数は任意に変更可能であり、好適に粗圧延工程を実施することができる程度に適宜変更される。
【0057】
また、H形鋼を製造する際の素材(被圧延材A)としてはスラブを例示して説明したが、類似形状のその他素材についても本発明は当然適用可能である。即ち、例えばビームブランク素材を造形してH形鋼を製造する場合にも適用できる。