【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために成された本発明に係る質量分析装置は、大気圧雰囲気であるイオン化室内に液体試料を噴霧するイオン化プローブを含むイオン源と、該イオン源で生成された、前記イオン化プローブから噴霧された試料液滴中に含まれる成分由来のイオンを前記イオン化室から真空室へと送るイオン導入部と、を具備し、前記イオン化プローブからの液体試料の噴霧方向と前記イオン導入部による前記イオン化室内からのイオンの導入方向とが直交又は斜交するように、前記イオン化プローブ及び前記イオン導入部の配置が定められてなる質量分析装置において、
a)前記イオン導入部とは非接触でその導入口の周囲を囲むように配置された集束電極と、
b)前記イオン化プローブからの試料液滴の噴霧流を挟んで前記イオン導入部の導入口及び前記集束電極と対向する位置に配置された反射電極と、
c)前記イオン化プローブと前記反射電極及び前記集束電極との間に配置され、該イオン化プローブから噴霧される液滴及びそれから発生するイオンが通過可能である開口部が設けられた電場遮蔽用の補助電極と、
d)前記反射電極と前記集束電極との間を通過する噴霧流中のイオンが該集束電極へと向かうとともに該集束電極から前記導入口に向かう電場を形成するように、前記反射電極、前記集束電極、及び前記イオン導入部の導入口にそれぞれ異なる電圧を印加する電圧印加部と、
を備えることを特徴としている。
【0013】
なお、本発明に係る質量分析装置において、電圧印加部は、反射電極、集束電極、及びイオン導入部の導入口に異なる電圧値の電圧を印加するが、そのうち、いずれか一つは0Vでもよい。一般に、或る部位を0Vにする場合、該部位は接地される。したがって、反射電極、集束電極、及びイオン導入部の導入口のいずれかの電位が0Vに定められる場合には、その部位に電圧印加部から0Vの電圧が印加されるわけでなく、その部位を単に接地するだけでよい。
【0014】
本発明に係る質量分析装置において、イオン源は例えばESIイオン源、APCIイオン源、APPIイオン源などである。イオン源がESIイオン源である場合には、イオン化プローブの先端部には液体試料を帯電させるための所定の直流高電圧が印加される。また、イオン源がAPCIイオン源である場合には、イオン化プローブと補助電極との間又はその近傍に、バッファイオンを生成するためのコロナ放電を生起させる放電電極が設けられる。さらにまた、イオン源がAPPIイオン源である場合には、イオン化プローブから噴出され補助電極に至るまでの空間を通過する噴霧流に対し紫外光などの光を照射する光源が設けられる。
【0015】
本発明に係る質量分析装置において、測定対象のイオンが正イオンである場合には、例えばイオン導入部を接地電位(0V)とし、電圧印加部は反射電極に0Vよりも高い所定の電圧V1を印加し、集束電極に電圧V1よりも低く0Vよりも高い所定の電圧V2を印加すればよい。即ち、V1>V2>0である電圧V1、V2をそれぞれ反射電極、集束電極に印加すればよい。なお、補助電極も接地電位とすればよい。
【0016】
反射電極の電位と集束電極及びイオン導入部の導入口との電位差(V1−V2、V1)によって、反射電極と集束電極及びイオン導入部との間の空間、つまりはイオン化プローブからの噴霧流が通過する空間には、イオンや帯電液滴等の荷電粒子を噴霧流の流れ方向に直交する又は斜交する方向に押す力を有する反射電場が形成される。噴霧流とほぼ同方向に進行する荷電粒子は該反射電場の作用で偏向され、ガス流と分離される。反射電極と集束電極及びイオン導入部とは対向して配置されているため、荷電粒子をガス流と直交する方向に押す力は強い。そのため、荷電粒子は特にガス流の勢いが強い噴霧流の中心軸付近を迅速に外れ、ガス流の影響を受けにくくなる。
【0017】
一方、集束電極とイオン導入部との間の空間には、荷電粒子をその周囲からイオン導入部に集める方向に押す力を有する集束電場が形成される。そのため、上述したように反射電場によって荷電粒子が集束電極に近づくに伴い集束電場の作用が強まり、ガス流から分離された荷電粒子はイオン導入部の導入口付近に効率良く集まる。このようにして、本発明に係る質量分析装置では、噴霧流の勢いが強い場合であっても、生成されたイオンや帯電液滴を効率良くイオン導入部の導入口へと導き、イオン導入部を通して真空室へと送り込むことができる。
【0018】
本発明に係る質量分析装置の好ましい一態様として、
前記イオン化プローブからの液体試料の噴霧方向と前記イオン導入部によるイオンの導入方向とは直交し、
前記集束電極は、前記イオン導入部が挿通される開口部を有し、該イオン導入部の導入口の中心軸に直交する面に平行に延展する平板状の電極であり、
前記反射電極は、前記集束電極に平行な平板状の電極、又は噴霧流の中心軸に平行な直線を中心軸とする部分円筒状の電極である構成とすることができる。
【0019】
また、略大気圧雰囲気であってガス流と電場とが存在するイオン化室内におけるイオンの運動速度はイオン移動度に依存する。また、イオン移動度は、イオンの質量、価数、中性粒子(例えば残留ガス分子)との衝突断面積などに依存する。そのため、イオン導入部の導入口に到達し得るイオンの効率という観点でみると、イオンの質量電荷比によって反射電場及び集束電場の最適な強さが相違する。即ち、各電極に印加する電圧を変化させることで反射電場及び集束電場の強さを変化させると、イオン導入部の導入口に効率良く到達するイオンの質量電荷比が変化することになる。
【0020】
そこで本発明に係る質量分析装置において、電圧印加部は、測定対象であるイオンの質量電荷比に応じて、前記反射電極、前記集束電極、及び前記イオン導入部の導入口の少なくとも一つに印加する電圧を変化させる構成としてもよい。
例えば、質量分離器として四重極マスフィルタを用い、所定の質量電荷比範囲に亘るスキャン測定を行う場合には、そのスキャン測定に際し四重極マスフィルタに印加する電圧を走査するのに同期して、反射電極、集束電極、及びイオン導入部の導入口のいずれか一つに印加する電圧も走査するとよい。
【0021】
この構成によれば、測定対象であるイオンの質量電荷比に関係なく、イオン化室から真空室へのイオン導入効率を高くすることができる。
【0022】
また上述したように、反射電極、集束電極、及びイオン導入部の導入口の少なくともいずれか一つに印加する電圧を変化させて反射電場及び集束電場の強さを変化させると、イオン導入部の導入口に効率良く到達するイオンの質量電荷比が変化する、ということは、電気移動度に応じて帯電粒子を分離する微分型電気移動度分級装置(DMA=Differential Mobility Analyzer)に相当する機能を実現し得ることを意味する。
【0023】
即ち、本発明に係るイオン検出装置は、
a)大気圧雰囲気中に液体試料を噴霧するイオン化プローブと、
b)前記イオン化プローブからの噴霧流の前方に配置され、その噴霧流から発生したイオンを検出するイオン検出電極と、
c)前記イオン検出電極とは非接触でその周囲を囲むように配置された集束電極と、
d)前記イオン化プローブからの噴霧流を挟んで前記イオン検出電極及び前記集束電極と対向する位置に配置された反射電極と、
e)前記イオン化プローブと前記反射電極及び前記集束電極との間に配置され、該イオン化プローブから噴霧される液滴及びそれから発生するイオンが通過可能である開口部が設けられた電場遮蔽用の補助電極と、
f)前記反射電極と前記集束電極との間を通過する噴霧流中のイオンが該集束電極へと向かうとともに該集束電極から前記イオン検出電極に向かう電場を形成するように、前記反射電極、前記集束電極、及び前記イオン検出電極にそれぞれ異なる電圧を印加する電圧印加部と、
を備えることを特徴としている。
【0024】
本発明に係るイオン検出装置では、例えば補助電極及びイオン導入部の導入口は接地され、電圧印加部は集束電極への印加電圧を一定に維持しつつ、反射電極に印加する電圧を所定のシーケンスに従って変化させる。すると、反射電極と集束電極との間の空間に形成される反射電場の強さが時間的に変化し、それに伴い、イオン検出電極に最も効率良く到達するイオンのイオン移動度が変化することになる。したがって、イオン検出電極に到達したイオン(荷電粒子)の量を反映した検出信号に基づいて、イオン移動度とイオン強度とのおおまかな関係を示すイオン移動度スペクトルを求めることができる。また、電圧印加部から反射電極及び集束電極に印加する電圧を所定の値に固定することで、特定のイオン移動度を有するイオンのみを選択的に検出することができ、例えば該イオンの強度の時間的な変化を示すクロマトグラムを得ることができる。