(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6593551
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】2位がパルミチン酸に富む油脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20191010BHJP
A23D 9/02 20060101ALI20191010BHJP
C12P 7/64 20060101ALI20191010BHJP
C12N 9/20 20060101ALN20191010BHJP
【FI】
A23D9/00 518
A23D9/02
C12P7/64
!C12N9/20
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-554121(P2018-554121)
(86)(22)【出願日】2018年10月11日
(86)【国際出願番号】JP2018037928
【審査請求日】2019年4月26日
(31)【優先権主張番号】特願2018-37071(P2018-37071)
(32)【優先日】2018年3月2日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 慎平
【審査官】
北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−076283(JP,A)
【文献】
特開2009−045033(JP,A)
【文献】
特開2012−070703(JP,A)
【文献】
特開平06−070786(JP,A)
【文献】
Journal of Food Science & Technology,2016年,Vol.53, No.4,p.2017-2024
【文献】
油化学,1990年,Vol.39, No.7,p.491-498
【文献】
食用精製加工油脂の日本農林規格,2013年,最終改正:平成25年12月24日農林水産省告示
【文献】
Journal of Agricultural and Food Chemistry,2012年,Vol.60,p.9415-9423
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00−9/06
C12P 1/00−41/00
A23C 9/00−9/20
C11B 1/00−15/00
C11C 1/00−5/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料油脂と原料脂肪酸又はその低級アルコールエステルを混合した原料混合物を、充填反応器を用いて、1,3位特異酵素エステル交換した後に、脂肪酸又はその低級アルコールエステルを分離除去する油脂組成物の製造方法において、原料油脂,原料脂肪酸又はその低級アルコールエステル,及び原料混合物が下記の条件を満たし、原料混合物及び1,3位特異酵素エステル交換反応液の曇り点が39.5℃以下であり、1,3位特異酵素エステル交換反応が30℃〜55℃で行われることを特徴とするXPXトリグリセリドを含む油脂組成物の製造方法。
ただしX:オレイン酸
XPX:2位にパルミチン酸、1,3位にXが結合したトリグリセリド
原料油脂:トリグリセリドの2位に結合する全脂肪酸中のパルミチン酸含量が70〜90重量%であり、酸価が2以下である
原料脂肪酸又はその低級アルコールエステル:構成する脂肪酸が純度50重量%以上のオレイン酸である
原料混合物:混合比(原料油脂/原料脂肪酸又はその低級アルコールエステル)が、5/95〜40/60である
【請求項2】
前記原料油脂が少なくとも一種のパームステアリンを含む油脂をランダムエステル交換した、ヨウ素価6以上18未満の油脂である請求項1に記載の油脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記1,3位特異酵素エステル交換反応が、原料混合物の曇り点より5℃以上高い温度で行われる請求項1又は2に記載の油脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記原料脂肪酸又はその低級アルコールエステルの酸価が70以下である請求項1に記載の油脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2位にパルミチン酸、1,3位にXが結合したXPXトリグリセリドを含む油脂組成物の製造方法に関する。ここでXは不飽和脂肪酸又は炭素数10以下の飽和脂肪酸であり、XPXは2位にパルミチン酸、1,3位にXが結合したトリグリセリドである。また特に1,3−ジオレオイル−2−パルミトイルトリグリセリド(OPO)を含む油脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリアシルグリセロールは食品を構成する脂質の主要成分であり、生物の発育、さらに生物の活動に重要な栄養素である。特に、1,3−ジオレオイル−2−パルミトイルトリグリセリド(OPO)は人乳中に含まれる脂質の主要な油脂成分である。
【0003】
従来の新生児用に調製された食品、特に調製粉乳は、人乳中の油脂の脂肪酸組成を模倣するために、複数の植物油脂が配合されている。しかし、このようにして調製された調製粉乳用油脂のトリアシルグリセロール構造に注目した場合、グリセロール骨格に対する脂肪酸の結合配列が人乳中の油脂と大きく異なっており、この差異が消化・吸収器官が未発達な新生児に対する栄養学的な差異となっている可能性が指摘されている。
【0004】
人乳中に含まれる油脂のトリアシルグリセロール構造は非常に特徴的で、油脂を構成する脂肪酸中のパルミチン酸のほとんどが2位に結合した形で存在し、1,3位にはオレイン酸などの不飽和脂肪酸が結合していることが知られている。一方、植物油脂の混合により調製された調製粉乳の場合、油脂を構成する脂肪酸中のパルミチン酸のほとんどが1,3位に結合し、不飽和脂肪酸が2位に結合した構造であることが知られている。
また前述の構造上の差異は、栄養学的に重要な結果をもたらすことが広く研究されており(非特許文献1、2)、これらの結果から、調製粉乳用油脂を構成するパルミチン酸の多くを2位に結合した油脂へと改変することが古くより望まれ、検討が実施されてきた。
【0005】
特許文献1では、脂肪トリグリセリドに対して化学触媒を用いてランダムエステル交換することにより2位のパルミチン酸含量を高め、ついで1,3位に特異的に作用するリパーゼを用いて酵素的に所望の脂肪酸とエステル交換して当該脂肪酸を1,3位に導入することを特徴とする2位のパルミチン酸含量の高いトリグリセリドの製造法が開示されている。
【0006】
特許文献2には、トリパルミトイルグリセリドを含むヨウ素価が18〜40のパーム油ステアリンをランダムエステル交換を行った上で1,3位特異リパーゼを用いてエステル交換してオレイン酸を1,3位に導入することよりなるOPOトリグリセリドの製造法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−70786号公報
【特許文献2】国際公開2008/104381号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J .Nutr. 99, 293−298, (1969)
【非特許文献2】J .Nutr. 95, 583−590, (1968)
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明者らは、2位にパルミチン酸、1,3位にXが結合したXPXトリグリセリドを含む油脂組成物の1,3位特異酵素エステル交換による効率的な製造方法を研究する過程で、特許文献2記載のようなヨウ素価が18〜40のパーム油ステアリンのランダムエステル交換油を原料油脂とする場合には2位のパルミチン酸含量が十分でなく当該油脂組成物の効率的な製造が難しいことを見いだした。また特許文献1には、原料油脂となる化学的にエステル交換したトリグリセリドの2位パルミチン酸含量は特に限定されていないが、実施例中で最も2位パルミチン酸含量が高い原料油脂でも59.3重量%であり上記文献2と同様に2位のパルミチン酸含量が十分でなく当該油脂組成物の効率的な製造が難しいことを見いだした。このように当該油脂組成物の効率的な製造のためには2位パルミチン酸含量の高い油脂を原料に使用する必要があるが、比較的低い温度条件が求められることが多い酵素エステル交換反応では、このような油脂は結晶化し易く反応器閉塞などのトラブルを招く可能性がある。
また結晶析出を避けるためエステル交換反応の温度を比較的高く設定すると酵素触媒の反復使用における活性の低下が起こり、酵素触媒のコストが増加する問題が懸念された。
本発明の目的は、エステル交換反応の温度を低くしても原料混合物及び反応中の1,3位特異酵素エステル交換反応液が結晶析出せず、反応器閉塞等の問題が起こらない効率的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意研究を重ねた結果、トリグリセリドの2位パルミチン酸含量が特定範囲の原料油脂であれば特定の原料脂肪酸又はその低級アルコールエステル(以下「原料脂肪酸エステル等」という。)と混合することで原料混合物の曇り点を39.5℃以下とすることができ、エステル交換反応の温度がたとえ低くても油脂結晶析出が起こらず、XPXトリグリセリドを含む油脂組成物を効率的に製造できることを見いだし、本発明を完成させた。
【0012】
即ち、本発明は、
(1)原料油脂と原料脂肪酸又はその低級アルコールエステルを混合した原料混合物を1,3位特異酵素エステル交換する油脂組成物の製造方法において、原料油脂の2位パルミチン酸含量が60〜90重量%であり、原料脂肪酸又はその低級アルコールエステルを構成する脂肪酸がXであり、原料混合物及び1,3位特異酵素エステル交換反応液の曇り点が39.5℃以下であることを特徴とするXPXトリグリセリドを含む油脂組成物の製造方法。
ただしX:不飽和脂肪酸又は炭素数10以下の飽和脂肪酸
XPX:2位にパルミチン酸、1,3位にXが結合したトリグリセリド
(2)前記原料油脂が少なくとも一種のパームステアリンを含む油脂をランダムエステル交換した、ヨウ素価6以上18未満の油脂である(1)の油脂組成物の製造方法。
(3)前記原料脂肪酸又はその低級アルコールエステルを構成する脂肪酸が不飽和脂肪酸である(1)の油脂組成物の製造方法。
(4)前記不飽和脂肪酸がオレイン酸である(3)の油脂組成物の製造方法。
(5)前記原料混合物の混合比(原料油脂/原料脂肪酸又はその低級アルコールエステル)が、重量比で5/95〜40/60である(1)の油脂組成物の製造方法。
(6)前記原料脂肪酸又はその低級アルコールエステルの酸価が70以下である(1)の油脂組成物の製造方法。
(7)前記原料油脂の酸価が2以下である(1)の油脂の製造方法。
に関するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、原料混合物の曇り点を39.5℃以下にするために、原料脂肪酸エステル等の混合比率を比較的高くする必要があり、結果としてXPXトリグリセリド純度の高い油脂組成物が得られやすい効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(XPXトリグリセリド)
本発明は、2位にパルミチン酸、1,3位にXが結合したXPXトリグリセリドを含む油脂組成物の製造方法に関する。XPXの1,3位に結合する脂肪酸Xは同一であっても異なっていても良い。例えばXPXトリグリセリドは、2位にパルミチン酸、1,3位にオレイン酸が結合したトリグリセリド(OPO)を含むし、2位にパルミチン酸、1,3位の一方にオレイン酸、他方にDHAが結合したトリグリセリドをも含む。
【0016】
(原料油脂2位パルミチン酸含量)
本発明において使用する原料油脂は、トリグリセリドの2位パルミチン酸含量が60〜90重量%である必要があり、好ましくは70重量%以上、より好ましくは76重量%以上、更に好ましくは78重量%以上である。また好ましくは88重量%以下、より好ましくは85重量%以下、更に好ましくは83重量%以下である。
2位パルミチン酸含量がこの範囲にあればXPXトリグリセリドを含む油脂組成物を効率的に製造でき、しかも原料混合物の曇り点が高くなりすぎない。
【0017】
(原料油脂)
本発明において使用する原料油脂は、2位パルミチン酸含量が前記の範囲であれば特に限定されないが、パーム油、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、落花生油、ひまわり油、こめ油、ベニバナ油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、ヤシ油、パーム核油等の植物油脂及び牛脂、豚脂等の動物脂、並びにこれらをエステル交換、分別、水素添加等を施した加工油脂の単品又は、これらの組み合わせ油脂を挙げることができる。そして前記原料油脂としては、少なくとも一種のパームステアリンを含む油脂をランダムエステル交換した油脂が好適であり、そのヨウ素価は6以上18未満であると更に好適である。また好ましくは8以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは12以上、また好ましくは17以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは15以下である。また前記原料油脂としては、異なる品質の二種以上のパームステアリンやパーム油、パーム中融点等のパーム分別油、パーム関連油脂以外の油脂を配合した油脂のランダムエステル交換油であっても良い。
前記ランダムエステル交換はナトリウムメチラート等の化学触媒を用いる方法や位置特異性のないリパーゼを触媒として用いる方法が挙げられるが、油脂の曇り点が比較的高くなる場合は、化学触媒を用いる方法が好ましい。
また前記エステル交換の前又は後に、水素添加を実施しても構わない。この場合は、2位のパルミチン酸含量はもとよりステアリン酸含量にも富む油脂組成物を得ることができる。
【0018】
(原料油脂酸価)
本発明において使用する原料油脂は、酸価が2以下であることが好ましい。またより好ましくは1以下、更に好ましくは0.5以下、最も好ましくは0.3以下である。
酸価が2以下であると原料混合物の曇り点が低くなるため好ましい。
【0019】
(原料脂肪酸エステル等の脂肪酸種)
本発明において使用する原料脂肪酸エステル等を構成する脂肪酸は炭素数10以下の飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸である必要がある。また特に不飽和脂肪酸が好ましく、具体的にはオレイン酸,リノール酸,リノレン酸,DHA,EPA等が例示される。また特にオレイン酸であれば、人乳中に多く含まれることが知られているOPOトリグリセリドを含む油脂組成物が得られるので調製粉乳などの原料油脂として利用価値が高くより好ましい。
本発明の脂肪酸低級アルコールエステルは脂肪酸と炭素数1〜6のアルコールとのエステルであればなんら規定されず、好ましくは炭素数1〜3のアルコールが良い。更に好ましくはエタノールが良い。
【0020】
(原料脂肪酸エステル等特定脂肪酸の純度、酸価)
本発明において使用する原料脂肪酸エステル等を構成する脂肪酸は、複数の脂肪酸種の混合物でも良いが単一の脂肪酸を純度50重量%以上含むものでも良い。又その純度は好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、更に好ましくは80重量%以上である。
原料脂肪酸エステル等を構成する脂肪酸がオレイン酸の場合のオレイン酸含量は特に規定はしないが、70重量%以上であることが好ましく、より好ましくは75重量%以上、更に好ましくは80重量%以上である。またこの場合のパルミチン酸含量は、特に規定はしないが、10重量%以下であることが好ましく、より好ましくは8重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下である。またオレイン酸又はオレイン酸低級アルコールエステルの原料は、前記の組成に合致した植物油脂であればなんら規定されず、好ましくはハイオレイックヒマワリ油やハイオレイック大豆油等のオレイン酸含量が高いものであれば良い。
本発明において使用する原料脂肪酸エステル等は、遊離脂肪酸単品又は低級アルコールエステル体単品を使用することができるが、それらの混合物であっても良い。混合物の場合は、酸価が70以下であることが好ましく、好ましくは50以下、より好ましくは30以下、更に好ましくは20以下、最も好ましくは10以下である。
酸価が70以下すなわち低級アルコールエステルの割合が多いと原料混合物の曇り点が低くなる傾向があり好ましい。
【0021】
(曇り点)
本発明における原料混合物並びに反応中及び反応後の1,3位特異酵素エステル交換反応液の曇り点は39.5℃以下である必要がある。また好ましくは39℃以下、より好ましくは38℃以下、更に好ましくは35℃以下、最も好ましくは30℃以下である。
【0022】
(混合物の混合比)
本発明における原料混合物の混合比(原料油脂/原料脂肪酸エステル等)は、重量比で5/95〜40/60であることが好ましい。またより好ましくは10/90以上、更に好ましくは15/85以上である。またより好ましくは25/75以下、更に好ましくは30/70以下、最も好ましくは35/65以下である。
原料混合物の混合比が5/95未満であると原料混合物あたりの油脂組成物の製造量が少なく、生産効率が悪くなる傾向がある。また40/60を超えると曇り点が高くなりすぎる傾向がある。
【0023】
(1,3位特異酵素エステル交換リパーゼ)
1,3位特異酵素エステル交換反応にはリゾプス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属の微生物が生産するリパーゼを使用することができる。また、少なくともこれらと同様な性質をもつリパーゼであれば上記以外のものでもよく、何ら差支えない。このようなリパーゼは市販されており、例えばアマノA(天野製薬社製)、リポザイム(NOVOZYMES社製)などが用いられる。上記リパーゼの使用形態は、特に制限されないが、効率の観点から公知の方法で担体に固定化して用いることが好ましい。またこの反応は、撹拌タンクを用いた回分法や、充填反応器を用いた連続法で実施できるが、充填反応器を用いる連続法の場合には原料混合物の結晶析出による閉塞などの懸念が本発明により解消されるので特に好ましい。
【0024】
(1,3位特異酵素エステル交換反応温度、時間)
酵素反応の温度は、十分な酵素反応速度を確保しつつ酵素活性を長く維持する観点、反応中に油脂結晶の析出を避ける観点及び異性体トリグリセリドの生成をできるだけ抑制する観点から、30〜90℃であることが望ましく、35〜75℃であることがより好ましく、40〜55℃であることがさらに好ましい。また反応中に油脂結晶の析出を避ける観点からは、原料混合物の曇り点よりも少なくとも5℃以上高い温度であることが望ましい。
酵素反応の時間は十分なエステル交換反応率が達成できれば特に限定されないが2時間から4日間が好適である。
【0025】
(その他の工程)
1,3位特異酵素エステル交換反応液からの脂肪酸エステル等の分離除去の方法は特に限定されないが、蒸留を用いることができる。またトリグリセリド画分として得られたXPXトリグリセリドを含む油脂組成物は分別によりその純度を高めることができる。
【0026】
(曇り点測定方法)
本発明において曇り点は、油脂基準分析法2.2.7−1996に準じた以下の方法で測定される。
1. サンプル4.0gを小試験管に計量し、温浴(60℃以上で15分)で完全溶解させる。
2. 1の小試験管を大試験管にセットし、測定用温浴(60℃設定)に移動させる。
3. 油脂が60℃に達したら冷却開始する。冷却速度は0.25〜0.3℃/分
4. 目視にて結晶析出を確認し、その温度を曇り点とする。
本発明においては、曇り点が39.5℃以下を合格とし、それを超えると不合格とする。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を記載するが、この発明の技術思想がこれらの例示によって限定されるものではない。なお、例中、部、比率及び%は何れも重量基準を意味する。
【0028】
(実施例1)
パームステアリン(ヨウ素価14.2)に対油0.15重量%のナトリウムメチラートを添加し、80℃にて30分ランダムエステル交換反応を実施した後、常法に従い水洗し、パームステアリンランダムエステル交換油を得た。本油脂の2位パルミチン酸含量は80重量%、酸価は0.24であった。本油脂を原料油脂として20重量部と、オレイン酸エチル(構成脂肪酸中オレイン酸含量84重量%、酸価8.8)を原料脂肪酸エステル等として80重量部を混合して原料混合物を得た。原料混合物の曇り点は26.0℃であり合格であった。この原料混合物を45℃に維持しながら、1.3位特異性リパーゼを充填した固定床反応装置に通液することでエステル交換反応を実施した。反応後、得られた反応液をトリグリセリド画分と脂肪酸画分に蒸留により分離した。得られたトリグリセリド画分の脂肪酸組成は、全脂肪酸中のパルミチン酸含量が36重量%、2位結合脂肪酸中のパルミチン酸含量が76重量%であり、調製粉乳用油脂として相応しい組成を有するものであった。
【0029】
(実施例2)
原料脂肪酸エステル等として、オレイン酸エチル(純度80重量%、酸価8.8)とオレイン酸(純度80重量%、酸価198.0)を混合して特定酸価の混合物を調整し、酸価198.0の試料A(オレイン酸単品)、酸価50.0の試料B 、酸価30.0の試料C、酸価20.0の試料D、酸価8.8の試料Eを得た。
これら原料脂肪酸エステル等の試料A〜Eを実施例1で得られた原料油脂のパームステアリンランダムエステル交換油と原料油脂/原料脂肪酸エステル等が15/85,20/80,25/75,30/70,40/60、41.5/58.5となるように原料混合物を調整し、その曇り点を測定した。結果を表1に示す。
【0030】
【0031】
原料混合比が高くなるにつれて曇り点が上昇する傾向にあり、また原料脂肪酸エステル等の酸価が下がるほど、すなわちエチルエステルの純度が高まるほど曇り点が下降する傾向にあった。またパームステアリン(ヨウ素価14.2)のランダムエステル交換油と酸価198.0の試料A(オレイン酸単品)の41.5/58.5の混合物は曇り点40.0℃であり不合格であったが、それ以外の混合物の曇り点は全て39.5℃以下であり合格であった。
【0032】
(実施例3)
ヨウ素価17.5のパームステアリンを用いた以外は実施例1と同様にしてパームステアリンランダムエステル交換油を得、原料油脂として用いた。
また原料脂肪酸エステル等として、酸価198.0の試料A(オレイン酸単品)を用い、原料油脂/原料脂肪酸エステル等が40/60となるように原料混合物を調製し、その曇り点を測定したところ36.0℃であり、合格であった。
【0033】
(実施例4)
ヨウ素価6.0のパームステアリンを用いた以外は実施例1と同様にしてパームステアリンランダムエステル交換油を得、原料油脂として用いた。
また原料脂肪酸エステル等として、実施例2と同様にして酸価198.0の試料A(オレイン酸単品)、酸価50.0の試料B、酸価8.8の試料Eを得た。
これら原料油脂と原料脂肪酸エステル等の試料A、B,Eを原料油脂/原料脂肪酸エステル等が25/75,30/70,40/60となるように原料混合物を調整し、その曇り点を測定した。結果を表2に示す。
【0034】
【0035】
原料混合比が高くなるにつれて曇り点が上昇する傾向にあり、また原料脂肪酸エステル等の酸価が下がるほど、すなわちエチルエステルの純度が高まるほど曇り点が下降する傾向にあった。またパームステアリン(ヨウ素価6.0)のランダムエステル交換油と酸価198.0の試料A(オレイン酸単品)の混合物は、原料混合比が40/60の場合は曇り点40.9℃であり不合格であったが、酸価50.0の試料Bとの混合物の場合は39.0℃と合格であった。また原料混合比が25/70,30/70の場合は全て合格であった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明により、OPO脂生産における1,3位酵素エステル交換工程において、2位パルミチン酸含量が高く、曇り点の高い原料油脂を用いても結晶析出の無いスムーズな反応工程が可能となり、安価で高品質なOPO脂製造が可能となった。
【要約】
2位にパルミチン酸、1,3位にXが結合したXPXトリグリセリドを含む油脂組成物の原料となる2位パルミチン酸含量の高い油脂は、反応温度を低くすると結晶化し反応器閉塞などのトラブルを招く可能性がある。(X:不飽和脂肪酸又は炭素数10以下の飽和脂肪酸)しかしながら特定の原料脂肪酸又はその低級アルコールエステルと混合することで原料混合物の曇り点を39.5℃以下とすることができ、反応温度がたとえ低くても結晶析出が起こらない。