(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、図面を参照しながら、本発明の好適な実施の一形態について詳細に説明する。本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0015】
(無方向性電磁鋼板について)
無方向性電磁鋼板においては、先だって説明したように、鉄損を低減するために、一般的には、鋼中に合金元素を含有させて鋼板の電気抵抗を上げて、渦電流損を低減させる。ここで、同一の含有量(質量%)の合金元素を含有させることを考えた場合に、Siが、電気抵抗を上昇させやすいので、鉄損の低減に有効な元素である。しかしながら、本発明者らによる検討の結果、Si含有量が4.0質量%を超える場合には、無方向性電磁鋼板の冷間圧延性が著しく低下することが明らかとなった。
【0016】
また、Alも、Siと同様に電気抵抗の上昇効果を示す合金元素である。しかしながら、本発明者らによる検討の結果、AlもSiと同様に冷間圧延性の低下を招くことが明らかとなった。また、Al含有量が多くなると、ヒステリシス損が劣化して磁気特性が低下する傾向がある。そのため、無方向性電磁鋼板に、合金元素としてAlを大量に含有させることは、困難である。無方向性電磁鋼板において、ヒステリシス損の劣化による磁気特性の低下を抑制するためには、Al含有量は、少なくすることが好ましい。
【0017】
本発明者らは、磁気特性の低下を抑制しつつ冷間圧延性を向上させる方法を求めて、鋭意検討を行った。その結果、Al含有量を所定の値以下とし、かつ、冷間圧延性への悪影響が少ないMnをSiとともに含有させることで、冷間圧延性及び磁気特性を向上させることが可能であるとの知見を得た。
また、更なる冷間圧延性の向上のためには、冷間圧延性の低下を招く可能性のあるP、Sn、Sbの含有量を低減することが求められる。しかしながら、本発明者らは、Sn及びSbの含有量の低減は、仕上焼鈍時の窒化を促進して、磁気特性を低下させる可能性があるとの知見も得た。本発明者らが更なる検討を行った結果、仕上焼鈍時に鋼板の表層部分を適度に酸化させて窒化を抑制することにより、冷間圧延性をより一層向上させるためにSn及びSbの含有量を低減した場合であっても、磁気特性の低下を抑制できるとの知見を得た。
【0018】
以下では、
図1及び
図2を参照しながら、本発明の一実施形態に係る無方向性電磁鋼板(本実施形態に係る無方向性電磁鋼板)及びその製造方法について、詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る無方向性電磁鋼板の構造を模式的に示した図であり、
図2は、本発明の実施形態に係る無方向性電磁鋼板の地鉄の構造を模式的に示した図である。
【0019】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10は、
図1に模式的に示したように、所定の化学組成の地鉄11を有している。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、地鉄11のみからなってもよいが、地鉄11の表面に、絶縁被膜13を更に有していることが好ましい。
【0020】
以下では、まず、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10の地鉄11について、詳細に説明する。
【0021】
<地鉄の化学組成について>
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10の地鉄11は、化学組成が、質量%で、C:0%超、0.0050%以下、Si:3.0%〜4.0%、Mn:1.0%〜3.3%、P:0%超、0.030%未満、S:0%超、0.0050%以下、sol.Al:0%超、0.0040%以下、N:0%超、0.0040%以下、O:0.0110%〜0.0350%、Sn:0%〜0.050%、Sb:0%〜0.050%、Ti:0%超、0.0050%以下、を含有し、残部がFe及び不純物からなり、Sn+Sb:0.050%以下、Si−0.5×Mn≧2.0%を満足する。
【0022】
以下では、本実施形態に係る地鉄11の化学組成が上記のように規定される理由について、詳細に説明する。以下では、特に断りの無い限り、化学組成に関する「%」は「質量%」を表すものとする。
【0023】
[C:0%超、0.0050%以下]
C(炭素)は、不可避的に含有される元素であるとともに、鉄損劣化(鉄損の増加)を引き起こす元素である。C含有量が0.0050%を超える場合には、無方向性電磁鋼板において鉄損劣化が生じ、良好な磁気特性を得ることができない。従って、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、C含有量を、0.0050%以下とする。C含有量は、好ましくは0.0040%以下であり、より好ましくは0.0030%以下である。C含有量は、少なければ少ないほど好ましいが、Cは不可避的に含有される元素であり、下限を0%超とする。また、C含有量を0.0005%よりも低減させようとすると、大幅なコストアップとなる。従って、C含有量は、0.0005%以上としてもよい。
【0024】
[Si:3.0%〜4.0%]
Si(ケイ素)は、鋼の電気抵抗を上昇させることによって、渦電流損を低減させ、高周波鉄損を改善する元素である。また、Siは、固溶強化能が大きいため、無方向性電磁鋼板の高強度化にも有効な元素である。無方向性電磁鋼板において、高強度化は、モータの高速回転時の変形抑制や疲労破壊抑制といった観点から必要である。このような効果を十分に発揮させるためには、Si含有量を3.0%以上とすることが必要である。Si含有量は、好ましくは3.1%以上、より好ましくは3.2%以上である。
一方、Si含有量が4.0%を超える場合には、加工性が著しく劣化し、冷間圧延を実施することが困難となったり、冷間圧延の途中で鋼板が破断したりする(すなわち、冷間圧延性が低下する)。従って、Si含有量は、4.0%以下とする。Si含有量は、好ましくは3.9%以下であり、より好ましくは、3.8%以下である。
【0025】
[Mn:1.0%〜3.3%]
Mn(マンガン)は、電気抵抗を上昇させることによって、渦電流損を低減し、高周波鉄損を改善する元素である。また、Mnは、Siより固溶強化能は小さいものの、加工性を劣化させることなく、無方向性電磁鋼板の高強度化に寄与できる元素である。このような効果を十分に発揮させるためには、Mn含有量を1.0%以上とすることが必要である。Mn含有量は、好ましくは1.2%以上、より好ましくは1.4%以上である。
一方、Mn含有量が3.3%を超える場合には、磁束密度の低下が顕著となる。従って、Mn含有量は、3.3%以下とする。Mn含有量は、好ましくは3.0%以下であり、より好ましくは、2.8%以下である。
【0026】
[P:0%超、0.030%未満]
P(リン)は、Si及びMnの含有量が多い高合金鋼において、著しく加工性を劣化させて冷間圧延を困難にする元素である。従って、P含有量は、0.030%未満とする。P含有量は、好ましくは0.020%以下であり、より好ましくは、0.010%以下である。
P含有量は、少なければ少ないほど良いが、Pは不可避的に含有される元素であり、下限を0%超とする。P含有量を0.001%未満にしようとすると、大幅なコストアップを招く。従って、下限を0.001%以上とすることが好ましい。より好ましくは0.002%以上である。
【0027】
[S:0%超、0.0050%以下]
S(硫黄)は、MnSの微細析出物を形成することで鉄損を増加させ、無方向性電磁鋼板の磁気特性を劣化させる元素である。そのため、S含有量は、0.0050%以下とする必要がある。S含有量は、好ましくは0.0040%以下であり、より好ましくは0.0035%以下である。
S含有量は、少なければ少ないほど好ましいが、Sは不可避的に含有される元素であり、下限を0%超とする。また、S含有量を0.0001%よりも低減させようとすると、大幅なコストアップを招く。従って、S含有量は、好ましくは0.0001%以上である。
【0028】
[sol.Al:0%超、0.0040%以下]
Al(アルミニウム)は、鋼中に固溶されると、無方向性電磁鋼板の電気抵抗を上昇させることによって渦電流損を低減し、高周波鉄損を改善する元素である。しかしながら、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、Alよりも加工性を劣化させずに電気抵抗を上昇させる元素であるMnを積極的に含有させる。そのため、Alを積極的に含有させる必要はない。また、sol.Al(酸可溶性Al)含有量が0.0040%を超えると、鋼中に微細な窒化物が析出して熱延板焼鈍や仕上焼鈍での結晶粒成長が阻害され、磁気特性が劣化する。従って、sol.Al含有量は、0.0040%以下とする。sol.Al含有量は、好ましくは0.0030%以下、より好ましくは0.0020%以下である。
一方、Alは不可避的に含有される元素であり、下限を0%超とする。また、sol.Al含有量を0.0001%よりも低減させようとすると、大幅なコストアップを招く。従って、sol.Al含有量は、好ましくは0.0001%以上である。
【0029】
[N:0%超、0.0040%以下]
N(窒素)は、鋼中で微細な窒化物を形成して鉄損を増加させ、無方向性電磁鋼板の磁気特性を劣化させる元素である。そのため、N含有量は、0.0040%以下とする必要がある。N含有量は、好ましくは0.0030%以下であり、より好ましくは0.0020%以下である。
一方、Nは不可避的に含有される元素であり、下限を0%超とする。また、N含有量は、少なければ少ないほど良いが、N含有量を0.0001%よりも低減させようとすると、大幅なコストアップを招く。従って、N含有量は、好ましくは0.0001%以上である。より好ましくは、0.0003%以上である。
【0030】
[O:0.0110%〜0.0350%]
後述する範囲にSn含有量及びSb含有量を低減すると、仕上焼鈍時の鋼板表面の窒化が促進される。O(酸素)は、仕上焼鈍時の窒化を防止するために、仕上焼鈍時に鋼中に導入される元素である。仕上焼鈍時の窒化を防止するためには、O含有量が0.0110%以上となるように酸素を鋼中に導入する必要がある。O含有量は、好ましくは0.0115%以上であり、より好ましくは0.0120%以上である。
一方、O含有量が0.0350%を超える場合には、酸素の導入により形成される鋼板表層部分の酸化層が厚くなり、磁気特性が劣化するので好ましくない。従って、O含有量は、0.0350%以下とする。O含有量は、好ましくは0.0330%以下であり、より好ましくは0.0300%以下である。
【0031】
一般に、仕上焼鈍時に鋼板が窒化すると、鉄損が増加する。一方、鋼板表面を酸化させると、窒化は抑制できるが、逆に生成した酸化物によって磁気特性が低下する。そのため、従来、鋼板表面を酸化させることは行われていなかった。これに対し、特定の成分系において、かつ全体の酸素量が0.0110〜0.0350%となるように制御することで、窒化を抑制しつつ、酸化物による磁気特性の低下も最低限に抑えられることは、本発明者らが新たに見出した知見である。
【0032】
上記のような0.0110%以上0.0350%以下のO含有量は、以下で詳述するように、地鉄11の板厚方向全体での平均の含有量を意味する。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板において、地鉄11中のO(酸素)は、主に仕上焼鈍時に鋼中へと導入される。そのため、導入された酸素の多くは、以下で詳述するように地鉄11の表層部分に存在し、板厚方向に沿った酸素の分布は一様ではない。地鉄11の表層部分以外の酸素含有量(O含有量)については、以下で改めて説明する。
【0033】
[Sn:0%〜0.050%]
[Sb:0%〜0.050%]
Sn、Sbは必ずしも含有する必要はないので、下限は0%である。
Sn(スズ)及びSb(アンチモン)は、鋼板の表面に偏析して焼鈍中の窒化を抑制することで、低い鉄損を確保するのに有用な元素である。従って、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、このような効果を得るために、Sn及びSbの少なくとも何れか一方を地鉄11中に含有させることが好ましい。
具体的には、Sn含有量は、好ましくは0.005%以上であり、より好ましくは0.010%以上である。また、Sb含有量は、好ましくは0.005%以上であり、より好ましくは、0.010%以上である。
一方、Sn及びSbの含有量がそれぞれ0.050%を超える場合には、地鉄の延性が低下して冷間圧延が困難となる。従って、含有させる場合でも、Sn及びSbの含有量は、それぞれ0.050%以下とすることが好ましい。Sn含有量は、より好ましくは0.040%以下であり、更に好ましくは0.030%以下である。また、Sb含有量は、より好ましくは0.040%以下であり、更に好ましくは0.030%以下である。
【0034】
[Sn+Sb:0.050%以下]
Sn及びSbは、前述のように、地鉄11中に多く含有させすぎると冷間圧延性の低下の原因となる元素である。特に、Sn及びSbの合計含有量が0.050%を超えると、冷間圧延性の低下が顕著となる。従って、Sn及びSbの合計含有量は、0.050%以下とする。Sn及びSbの合計含有量は、好ましくは0.040%以下であり、より好ましくは0.030%以下である。
【0035】
[Ti:0%超、0.0050%以下]
Ti(チタン)は、SiやMnの原材料中に不可避的に含有される。Tiは、地鉄中のC、N、Oなどと結合してTiN、TiC、Ti酸化物などの微小析出物を形成し、焼鈍中の結晶粒の成長を阻害して磁気特性を劣化させる元素である。従って、Ti含有量は0.0050%以下とする。好ましくは0.0040%以下、より好ましくは0.0030%以下である。
一方、Tiは不可避的に含有される元素であり、下限は0%超とする。Ti含有量を0.0003%未満にしようとすると大幅なコストアップになるので、Ti含有量を0.0003%以上とすることが好ましい。より好ましくは。0.0005%以上である。
【0036】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、上記の元素を含み、残部がFe及び不純物からなることを基本とする。しかしながら、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板において、上述した元素以外のNi(ニッケル)、Cr(クロム)、Cu(銅)、及び、Mo(モリブデン)等の元素を含有してもよい。これらの元素それぞれ0.50%以下含有しても、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の効果は損なわれない。また、無方向性電磁鋼板の仕上焼鈍時の結晶粒成長を促進するために、Ca(カルシウム)、Mg(マグネシウム)、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)及びNd(ネオジム)を、それぞれ100ppm(0.0100%)以下の範囲で含有してもよい。
【0037】
また、上記の元素の他に、Pb(鉛)、Bi(ビスマス)、V(バナジウム)、As(ヒ素)、B(ホウ素)などの元素を含有してもよい。これらの元素がそれぞれ0.0001%〜0.0050%の範囲で含まれていても、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の効果は損なわれない。
【0038】
[Si−0.5×Mn:2.0%以上]
本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、上記のように各元素の含有量を制御した上で、Si含有量とMn含有量とが所定の関係性を満足するように制御する。
Siは、フェライト相形成促進元素(いわゆる、フェライトフォーマー元素)である一方で、合金元素であるMnは、オーステナイト相形成促進元素(いわゆる、オーステナイトフォーマー元素)である。従って、Si及びMnそれぞれの含有量に応じて、無方向性電磁鋼板の金属組織は変化し、無方向性電磁鋼板は、変態点を有する成分系となったり、変態点を有しない成分系となったりする。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、地鉄11における平均結晶粒径を適度に大きくすることが求められており、変態点を有しない成分系とすることは、結晶粒径を大きくするための有効な手段となる。そのため、変態点を有しない成分系となるように、Si及びMnのそれぞれの含有量は、所定の関係性を満たす必要がある。
【0039】
本発明者らの検討によれば、Mnによるオーステナイト相形成促進能(換言すれば、フェライト相形成促進能を打ち消す効果)は、Siによるフェライト相形成促進能の0.5倍程度と考えられる。そのため、本実施形態におけるフェライト相形成促進能の等量は、Siの含有量を基準として、「Si−0.5×Mn」として表すことができる。
【0040】
Si−0.5×Mnの値が2.0%未満である場合には、無方向性電磁鋼板は、変態点を有する成分系となってしまう。その結果、製造途中の高温処理時において鋼板の金属組織がフェライト単相ではなくなり、無方向性電磁鋼板の磁気特性が低下する懸念がある。従って、Si−0.5×Mnの値は、2.0%以上とする必要がある。好ましくは、2.1%以上である。
一方、Si−0.5×Mnの上限値は、特に規定するものではないが、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板のSi含有量及びMn含有量の範囲から、Si−0.5×Mnの値は、3.5%を超えることはあり得ない。従って、Si−0.5×Mnの上限値は、実質的には、3.5%となる。
【0041】
以上、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板における地鉄の化学組成成分について、詳細に説明した。
【0042】
無方向性電磁鋼板における地鉄の化学組成を、事後的に測定する場合には、公知の各種測定法を利用することが可能である。例えば、スパーク放電発光分析法、ICP発光分析法、更に、C、Sを精度良く測定する場合には燃焼−赤外吸収法、O、Nを精度良く測定する場合には不活性ガス融解−赤外吸収法/熱伝導率法等を適宜利用すればよい。
【0043】
<地鉄における酸素の分布状況について>
続いて、
図2を参照しながら、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10の地鉄11における酸素の分布状況について、詳細に説明する。
先だって簡単に言及したように、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10が製造される際には、仕上焼鈍時に、鋼板の表層部分を適度に酸化させる処理が行われる。仕上焼鈍時の酸化処理は、焼鈍雰囲気の露点を制御することで行われるので、酸素原子は、地鉄11の表面から地鉄11の内部に向かって浸透していく。その結果、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10の地鉄11の表層部分には、
図2に模式的に示したように、酸素が濃化した状態にある表層酸化部11aが形成され、表層酸化部11a以外の部位である母材部11bと、表層酸化部11aとは、酸素の含有量(O含有量)が異なることとなる。
【0044】
ここで、
図2に示した表層酸化部11aの厚みt
oは、本発明者らが各種の仕上焼鈍条件で検討を行ったところ、大きくても数μm程度であった。また、
図2では、図示の都合上、表層酸化部11aの母材部11b側の端部が平坦であるように示しているが、実際の表層酸化部11aと母材部11bとの境界面は、平坦になっていないことが多い。従って、地鉄11における、表層酸化部11a以外の部分のO含有量を考慮するにあたって、本実施形態では、表層酸化部11aと母材部11bとの境界面の非平坦性を考慮して、地鉄11の表面及び裏面から深さ方向に向かって10μmの位置までを除き、残存した板厚中央部分(
図2において、板厚t
bで示した部分)におけるO含有量に着目する。
【0045】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10の地鉄11では、鋼板(地鉄11)の表面及び裏面から深さ方向に向かって10μm位置までの範囲である表層部分を除いた、板厚中央部分のO含有量が、0.0100%未満である。板厚中央部分のO含有量が0.0100%以上である場合には、鋼中の酸化物が増加して磁気特性が劣化するので好ましくない。板厚中央部分のO含有量は、好ましくは0.0080%以下であり、0%であってもよい。
【0046】
先だって言及した、0.0110%〜0.0350%という地鉄11中のO含有量は、地鉄11の板厚方向全体での平均のO含有量を意味しており、板厚中央部分のO含有量とは異なる。
上記のような、鋼板(地鉄11)の表面及び裏面から深さ方向に向かって10μm位置までを除いた板厚中央部分のO含有量は、地鉄11のもととなる鋼塊中でのO含有量であるともいえる。
【0047】
板厚中央部分のO含有量は、化学研磨等の公知の方法により鋼板(地鉄11)の表面及び裏面から深さ方向に向かって10μm位置までを除いた後に、例えば、不活性ガス融解−赤外吸収法/熱伝導率法等の公知の各種測定法を利用することで、測定可能である。
【0048】
また、板厚中央部分のO含有量と、板厚方向全体での平均のO含有量(平均酸素含有量)とが特定されることで、鋼板(地鉄11)の表面及び裏面から深さ方向に向かって10μm位置までのO含有量(換言すれば、表層酸化部11aのO含有量)を算出することが可能である。より詳細には、表層酸化部11aのO含有量は、
図2を参考にして、以下の式(1)で算出可能である。
【0049】
O
t=(20/t)×O
10μm+[(t−20)/t]×O
b ・・・(1)
【0050】
ここで、上記式(1)中における各記号の意味は、以下の通りである。
・O
t(質量%):鋼板の板厚方向全体での平均O含有量
・O
10μm(質量%):鋼板(地鉄)の表面及び裏面から深さ方向に向かって10μm位置までのO含有量
・O
b(質量%):鋼板(地鉄)の表面及び裏面から深さ方向に向かって10μm位置までを除去した部分のO含有量
・t(μm):地鉄の厚み
【0051】
以上、
図2を参照しながら、本実施形態に係る地鉄11における酸素の分布状況について、詳細に説明した。
【0052】
<地鉄の板厚について>
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10における地鉄11の板厚(
図1及び
図2における厚みt)は、渦電流損を低減させて高周波鉄損を低減するために、0.40mm以下とすることが好ましい。一方、地鉄11の板厚tが0.10mm未満である場合には、板厚が薄いために焼鈍ラインの通板が困難となる可能性がある。従って、無方向性電磁鋼板10における地鉄11の板厚tは、0.10mm以上、0.40mm以下とすることが好ましい。無方向性電磁鋼板10における地鉄11の板厚tは、より好ましくは、0.15mm以上、0.35mm以下である。
【0053】
以上、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10の地鉄11について、詳細に説明した。
【0054】
<絶縁被膜について>
続いて、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10が有していることが好ましい絶縁被膜13について、簡単に説明する。
【0055】
無方向性電磁鋼板の磁気特性を向上させるためには、鉄損を低減することが重要であるが、鉄損は、渦電流損とヒステリシス損とから構成されている。地鉄11の表面に絶縁被膜13を設けることで、鉄心として積層された電磁鋼板間の導通を抑制して鉄心の渦電流損を低減することが可能となり、無方向性電磁鋼板10の実用的な磁気特性を更に向上させることが可能となる。
【0056】
ここで、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10が備える絶縁被膜13は、無方向性電磁鋼板の絶縁被膜として用いられるものであれば、特に限定されるものではなく、公知の絶縁被膜を用いることが可能である。このような絶縁被膜として、例えば、無機物を主体とし、更に有機物を含んだ複合絶縁被膜を挙げることができる。ここで、複合絶縁被膜とは、例えば、クロム酸金属塩、リン酸金属塩又はコロイダルシリカ、Zr化合物、Ti化合物等の無機物の少なくとも何れかを主体とし、微細な有機樹脂の粒子が分散している絶縁被膜である。特に、近年ニーズの高まっている製造時の環境負荷低減の観点からは、リン酸金属塩やZrあるいはTiのカップリング剤、又は、これらの炭酸塩やアンモニウム塩を出発物質として用いた絶縁被膜が好ましく用いられる。
【0057】
上記のような絶縁被膜13の付着量は、特に限定するものではないが、例えば、片面あたり0.1g/m
2以上2.0g/m
2以下程度とすることが好ましく、片面あたり0.3g/m
2以上1.5g/m
2以下とすることがより好ましい。上述した付着量となるように絶縁被膜13を形成することで、優れた均一性を保持することが可能となる。絶縁被膜13の付着量を、事後的に測定する場合には、公知の各種測定法を利用することが可能である。絶縁被膜13の付着量は、例えば、絶縁被膜13を形成した無方向性電磁鋼板10を熱アルカリ溶液に浸漬することで絶縁被膜13のみを除去し、絶縁被膜13の除去前後の質量差から算出することが可能である。
【0058】
<無方向性電磁鋼板の磁気特性の測定方法について>
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10は、上記のような構造を有することで、優れた磁気特性を示す。ここで、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10の示す各種の磁気特性は、JIS C2550に規定されたエプスタイン法や、JIS C2556に規定された単板磁気特性測定法(Single Sheet Tester:SST)に則して、測定することが可能である。
【0059】
以上、
図1及び
図2を参照しながら、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10について、詳細に説明した。
【0060】
(無方向性電磁鋼板の製造方法について)
続いて、
図3を参照しながら、以上説明したような本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10の製造方法について、簡単に説明する。
図3は、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法の流れの一例を示した流れ図である。
【0061】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10の製造方法では、所定の化学組成を有する鋼塊に対して、熱間圧延、熱延板焼鈍、酸洗、冷間圧延、仕上焼鈍を順に実施する。また、絶縁被膜13を地鉄11の表面に形成する場合には、上記仕上焼鈍の後に絶縁被膜の形成が行われる。以下、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10の製造方法で実施される各工程について、詳細に説明する。
【0062】
<熱間圧延工程>
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法では、まず、質量%で、C:0%超、0.0050%以下、Si:3.0%〜4.0%、Mn:1.0%〜3.3%、P:0%超、0.030%未満、S:0%超、0.0050%以下、sol.Al:0%超、0.0040%以下、N:0%超、0.0040%以下、O:0.0100%未満、Sn:0%〜0.050%、Sb:0%〜0.050%、Ti:0%超、0.0050%以下を含有し、残部がFe及び不純物からなり、Sn+Sb:0.050%以下、Si−0.5×Mn:2.0%以上である鋼塊(スラブ)を加熱し、加熱された鋼塊について熱間圧延を行って、熱延鋼板を得る(ステップS101)。熱間圧延に供する際の鋼塊の加熱温度については、特に規定するものではないが、例えば、1050℃〜1300℃とすることが好ましい。鋼塊の加熱温度は、より好ましくは、1050℃〜1250℃である。
【0063】
また、熱間圧延後の熱延鋼板の板厚についても、特に規定するものではないが、地鉄の最終板厚を考慮して、例えば、1.6mm〜3.5mm程度とすることが好ましい。熱間圧延工程は、鋼板の温度が700℃〜1000℃の範囲にあるうちに終了することが好ましい。熱間圧延の終了温度は、より好ましくは、750℃〜950℃である。
【0064】
<熱延板焼鈍工程>
上記熱間圧延の後には、熱延板焼鈍(熱延鋼板に対する焼鈍)が実施される(ステップS103)。連続焼鈍の場合には、熱延鋼板に対して、例えば、750℃〜1200℃で、10秒〜10分の均熱を含む焼鈍を実施する。また、箱焼鈍の場合、熱延鋼板に対して、例えば、650℃〜950℃で、30分〜24時間の均熱を含む焼鈍を実施する。
【0065】
<酸洗工程>
上記熱延板焼鈍工程の後には、酸洗が実施される(ステップS105)。これにより、熱延板焼鈍の際に鋼板の表面に形成された、酸化物を主体とするスケール層が除去される。熱延板焼鈍が箱焼鈍である場合、脱スケール性の観点から、酸洗工程は、熱延板焼鈍前に実施することが好ましい。
【0066】
<冷間圧延工程>
上記酸洗工程の後(熱延板焼鈍が箱焼鈍で実施される場合は、熱延板焼鈍工程の後となる場合もある。)には、熱延鋼板に対し、冷間圧延が実施される(ステップS107)。冷間圧延では、地鉄の最終板厚が0.10mm以上0.40mm以下となるような圧下率で、スケールの除去された酸洗板が圧延される。
【0067】
<仕上焼鈍工程>
上記冷間圧延工程の後には、冷間圧延工程によって得られた冷延鋼板に対し、仕上焼鈍が実施される(ステップS109)。この仕上焼鈍工程では、仕上焼鈍後に冷延鋼板の板厚方向全体における平均O含有量が0.0110質量%以上0.0350質量%以下となるように、仕上焼鈍条件が制御される。そのため、仕上焼鈍工程は、昇温過程、均熱過程、冷却過程を含むが、本実施係形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法の仕上焼鈍工程では、それぞれの過程について、制御する必要がある。
【0068】
具体的には、昇温過程では、平均昇温速度を1℃/秒〜2000℃/秒とする。また、昇温時の炉内の雰囲気を、H
2の割合が10体積%〜100体積%であるH
2及びN
2の混合雰囲気(H
2+N
2=100体積%)とし、雰囲気の露点を−10℃以上40℃以下とすることが好ましい。平均昇温速度は、より好ましくは、5℃/秒〜1500℃/秒であり、雰囲気中のH
2の割合は、より好ましくは、15体積%〜90体積%である。雰囲気の露点は、より好ましくは、−5℃以上35℃以下であり、更に好ましくは、0℃以上30℃以下である。
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法では、仕上焼鈍の昇温過程を、急速加熱とする。昇温過程の加熱を急速に行うことにより、地鉄11において、磁気特性に有利な再結晶集合組織が形成される。仕上焼鈍の昇温過程を急速加熱とする場合、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法では、仕上焼鈍は、連続焼鈍で実施することが好ましい。上記の平均加熱速度は、例えば、ガス燃焼による加熱の場合には直接加熱やラジアントチューブを用いた間接加熱を用いたり、その他に通電加熱又は誘導加熱等といった公知の加熱方法を用いたりすることで、実現することが可能である。
【0069】
昇温過程の後の均熱過程では、均熱温度を、700℃〜1100℃とし、均熱時間を、1秒〜300秒とし、雰囲気を、H
2の割合が10体積%〜100体積%であるH
2及びN
2の混合雰囲気(H
2+N
2=100体積%)とし、雰囲気の露点を−10℃以上40℃以下とすることが好ましい。均熱温度は、より好ましくは、750℃〜1050℃であり、雰囲気中のH
2の割合は、より好ましくは、15体積%〜90体積%である。雰囲気の露点は、より好ましくは、−10℃以上30℃以下であり、更に好ましくは、−5℃以上20℃以下である。
【0070】
均熱過程の後の冷却過程では、平均冷却速度を1℃/秒〜50℃/秒で200℃以下まで冷却することが好ましい。平均冷却速度は、より好ましくは、5℃/秒〜30℃/秒である。
【0071】
上記のような各工程を含む製造方法によれば、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10を製造することができる。
【0072】
<絶縁被膜形成工程>
上記仕上焼鈍の後には、必要に応じて、絶縁被膜の形成工程が実施される(ステップS111)。ここで、絶縁被膜の形成工程については、特に限定されるものではなく、上記のような公知の絶縁被膜処理液を用いて、公知の方法により処理液の塗布及び乾燥を行えばよい。
【0073】
絶縁被膜が形成される地鉄11の表面は、処理液を塗布する前に、アルカリなどによる脱脂処理や、塩酸、硫酸、リン酸などによる酸洗処理など、任意の前処理を施してもよいし、これら前処理を施さずに仕上焼鈍後のままの表面であってもよい。
【0074】
以上、
図3を参照しながら、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法について、詳細に説明した。
【実施例】
【0075】
以下では、実施例を示しながら、本発明に係る無方向性電磁鋼板及び無方向性電磁鋼板の製造方法について、具体的に説明する。以下に示す実施例は、本発明に係る無方向性電磁鋼板及び無方向性電磁鋼板の製造方法の一例にすぎず、本発明に係る無方向性電磁鋼板及び無方向性電磁鋼板の製造方法が下記の例に限定されるものではない。
【0076】
(実験例1)
表1に示す組成を含有し、残部がFe及び不純物からなる鋼スラブを、1150℃に加熱した後、熱間圧延にて2.0mm厚に圧延した。続いて、熱延鋼板を連続焼鈍式の焼鈍炉で、均熱温度が1000℃で均熱時間が40秒の熱延板焼鈍を行った後、冷間圧延を行って0.25mm厚の冷延鋼板とした。この冷延鋼板に対し、均熱温度が1000℃で均熱時間が15秒の仕上焼鈍を行った。その後、更にリン酸金属塩を主体とし、アクリル樹脂のエマルジョンを含む溶液を鋼板の両面に塗布及び焼き付けし、複合絶縁被膜を形成することで無方向性電磁鋼板を製造した。
【0077】
上記の仕上焼鈍時は、全ての試験番号において、昇温過程、均熱過程の雰囲気が20体積%H
2+80体積%N
2雰囲気となるように制御した。また、露点は、試験番号1が−30℃、試験番号2が+5℃、試験番号3が+15℃、試験番号4が+45℃、試験番号5が+15℃、試験番号6が−15℃、試験番号7が+45℃であった。また、仕上焼鈍時の昇温過程における平均昇温速度を20℃/秒、冷却過程における平均冷却速度を20℃/秒とした。仕上焼鈍後は200℃以下まで冷却した。
【0078】
表1において、「Tr.」とは、該当する元素を意図して含有させていないことを表す。また、下線は、本発明範囲から外れていることを表す。
【0079】
その後、製造したそれぞれの無方向性電磁鋼板について、JIS C2550に規定されたエプスタイン法により、磁束密度B
50及び鉄損W
10/400を評価した。得られた結果を、表1にあわせて示した。
【0080】
【表1】
【0081】
表1から明らかなように、仕上焼鈍後のO含有量が本発明の範囲より低めに外れた試験番号1、仕上焼鈍後のO含有量が本発明の範囲より高めに外れた試験番号4と試験番号7、及び、板厚中央部でのO含有量が本発明範囲より高めに外れた試験番号5、は、鉄損及び/又は磁束密度が劣っていた。一方、仕上焼鈍後の鋼板のO含有量が本発明の範囲内である試験番号2、試験番号3、及び試験番号6は、鉄損と磁束密度とが共に優れていた。
【0082】
(実験例2)
表2に示す組成を含有し、残部がFe及び不純物からなる鋼スラブを、1160℃に加熱した後、熱間圧延にて2.0mm厚に圧延した。続いて、熱延鋼板を均熱温度が1000℃、均熱時間が40秒となる条件で連続焼鈍式の焼鈍炉で熱延板焼鈍した後、冷間圧延を行って0.25mm厚の冷延鋼板を得た。その後、この冷延鋼板に対し、均熱温度が1000℃、均熱時間が15秒となる条件で仕上焼鈍を行った。その後、更にリン酸金属塩を主体とし、アクリル樹脂のエマルジョンを含む溶液を鋼板の両面に塗布及び焼き付けし、複合絶縁被膜を形成することで無方向性電磁鋼板を製造した。
【0083】
上記の仕上焼鈍時は、全ての試験番号において、昇温過程、均熱過程の雰囲気が20体積%H
2+80体積%N
2雰囲気となるように制御した。露点は+10℃であった。また、仕上焼鈍時の昇温過程における平均昇温速度を30℃/秒、冷却過程における平均冷却速度を20℃/秒とした。仕上焼鈍後は200℃以下まで冷却した。
【0084】
表2において、「Tr.」とは、該当する元素を意図して含有させていないことを表す。また、下線は、本発明の範囲から外れていることを表す。
【0085】
その後、製造したそれぞれの無方向性電磁鋼板について、JIS C2550に規定されたエプスタイン法により、磁束密度B
50及び鉄損W
10/400を評価した。得られた結果も表2にあわせて示した。
【0086】
【表2】
【0087】
Si含有量が本発明の範囲より高めに外れた試験番号8、Sn含有量が本発明の範囲より高めに外れた試験番号11、Sn+Sbの含有量が本発明の範囲より高めに外れた試験番号12、及び、P含有量が本発明の範囲より高めに外れた試験番号14は、それぞれ冷間圧延時に破断したため、磁気測定が出来なかった。sol.Al含有量が本発明の範囲より高めに外れた試験番号15、Tiが本発明範囲より高めに外れた試験番号19は、鉄損と磁束密度とが劣っていた。Mn含有量が本発明範囲より低めに外れた試験番号18は、鉄損が劣っていた。一方、鋼板の化学組成が本発明の範囲内である試験番号9、10、13、16及び17は、冷間圧延が可能であり、鉄損及び磁束密度が優れていた。
【0088】
(実験例3)
表3に示す組成を含有し、残部がFe及び不純物からなる鋼スラブを、1150℃に加熱した後、熱間圧延にて2.0mm厚に圧延した。続いて、熱延鋼板を均熱温度が1000℃、均熱時間が40秒となる条件で連続焼鈍式の焼鈍炉で熱延板焼鈍した後、冷間圧延を行って0.25mm厚の冷延鋼板を得た。その後、この冷延鋼板に、均熱温度が800℃、均熱時間が15秒となる条件で仕上焼鈍を行った。その後、更にリン酸金属塩を主体とし、アクリル樹脂のエマルジョンを含む溶液を鋼板の両面に塗布及び焼き付けし、複合絶縁被膜を形成することで無方向性電磁鋼板を製造した。続いて、得られた鋼板に対し、750℃×2hrの歪取焼鈍を施した。
【0089】
ここで、上記の仕上焼鈍時は、全ての試験番号において、昇温過程、均熱過程の雰囲気が15体積%H
2+85体積%N
2雰囲気となるように制御した。露点は+10℃であった。また、仕上焼鈍時の昇温過程における平均昇温速度を20℃/秒、冷却過程における平均冷却速度を15℃/秒とした。仕上焼鈍後は200℃以下まで冷却した。
【0090】
表3において、「Tr.」とは、該当する元素を意図して含有させていないことを表す。また、下線は、本発明の範囲から外れていることを表す。
【0091】
その後、製造したそれぞれの無方向性電磁鋼板について、JIS C2550に規定されたエプスタイン法により、磁束密度B
50及び鉄損W
10/400を評価した。得られた結果を、表3にあわせて示した。
【0092】
【表3】
【0093】
まず、歪取焼鈍を実施した実験例3の各試験番号の磁気特性は、歪取焼鈍を実施していない実験例1と実験例2の各試験番号の磁気特性と比較すれば全般的に優れているものの、特に鋼板の化学組成が本発明の範囲である試験番号20、22及び24は、鉄損及び磁束密度が優れていた。一方、Si−0.5×Mnが本発明範囲より低めに外れた試験番号21は、鉄損と磁束密度とが劣っていた。また、S含有量が本発明の範囲から高めに外れた試験番号23は、Sを除きほぼ同一の組成である本発明の範囲内の試験番号20や22と比較して、鉄損と磁束密度とが劣っていた。以上のように、歪取焼鈍を行う場合にも、本発明に係る無方向性鋼板は、優れた磁気特性を示すことが明らかとなった。
【0094】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。