(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(a)アスコルビン酸類、(b)遷移金属触媒、(c)活性炭、(d)アルカリ金属炭酸塩又はアルカリ土類金属水酸化物、及び(e)水を含むガス濃度調整剤であって、前記アスコルビン酸類及び前記水が前記活性炭に含浸しており、前記活性炭の平均細孔径が2.0nm以上5.5nm以下であり、前記活性炭の全細孔容積が0.60cm3/g以上である、細菌培養用ガス濃度調整剤。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について説明する。本発明の内容は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
なお、本明細書において、数値の記載に関する「A〜B」という用語は、「A以上B以下」(A<Bの場合)又は「A以下B以上」(A>Bの場合)を意味する。また、本発明において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0010】
[ガス濃度調整剤]
本発明の細菌培養用ガス濃度調整剤は、(a)アスコルビン酸類、(b)遷移金属触媒、(c)活性炭、(d)アルカリ金属炭酸塩又はアルカリ土類金属水酸化物、及び(e)水を含むガス濃度調整剤であって、前記アスコルビン酸類及び前記水が前記活性炭に含浸しており、前記活性炭の平均細孔径が2.0nm以上であることを特徴とする。ガス濃度調整剤は、(a)アスコルビン酸類、(b)遷移金属触媒、(c)活性炭、(d)アルカリ金属炭酸塩又はアルカリ土類金属水酸化物、及び(e)水を含む組成物を通気性包装材で包装した包装体として用いられることが好ましい。
【0011】
(a)アスコルビン酸類
本発明のガス濃度調整剤は、酸素吸収反応の主剤として酸素吸収能及び炭酸ガス発生能を併せ持つアスコルビン酸類を含む。
アスコルビン酸類とは、L−アスコルビン酸とその立体異性体並びにその塩及び水和物を意味する。L−アスコルビン酸塩としては、L−アスコルビン酸ナトリウム、L−アスコルビン酸カリウム、L−アスコルビン酸カルシウム等が挙げられる。L−アスコルビン酸の立体異性体としては、エリソルビン酸(D−イソアスコルビン酸)等が挙げられる。エリソルビン酸塩としては、エリソルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸カリウム、エリソルビン酸カルシウム等が挙げられる。アスコルビン酸類は、1種単独であってもよく、2種以上を併用してもよい。
【0012】
本発明のガス濃度調整剤において、アスコルビン酸類は、酸素吸収性能の観点から、水と共に活性炭に含浸している。具体的には、アスコルビン酸類を水に溶解させたアスコルビン酸類の水溶液を、多孔性担体である活性炭に含浸させる。その際、アスコルビン酸類の水溶液の濃度が高い方が、多孔性担体の使用量を少なくすることができるため、アスコルビン酸類の濃度は、できるだけ飽和溶解度に近い濃度にすることが好ましい。このためアスコルビン酸類としては水に対する溶解度が高い化合物を選択することが好ましく、具体的にはL−アスコルビン酸ナトリウムが好ましい。L−アスコルビン酸ナトリウムを使用した場合、該水溶液の濃度を40〜55質量%とすることが好適である。
【0013】
ガス濃度調整剤においては、アスコルビン酸類の酸化反応を利用して雰囲気中の酸素を吸収してその濃度を調整すると共に、発生する二酸化炭素を利用して雰囲気中の二酸化炭素濃度を調整する。なお、当該酸化反応においては、理論上、消費された酸素分子と等モルの二酸化炭素が生成する。上記の原理のため、酸素濃度を低減させるとそれに伴って二酸化炭素濃度も増加することとなるが、ガス濃度調整剤中に二酸化炭素吸収能を有する化合物、例えばアルカリ土類金属水酸化物を配合すると、二酸化炭素の増加を抑制することも可能である。また逆に、二酸化炭素発生能を有する化合物をガス濃度調整剤中に配合すれば、酸素の減少分以上の二酸化炭素を発生させることも可能である。このように本発明のガス濃度調整剤においては、ガス濃度調整剤を構成する組成物の配合成分及び/又は配合量を適宜選択し、酸化反応の進行度合いや生じる二酸化炭素量を調整することによって、特定雰囲気下を所望の酸素濃度及び二酸化炭素濃度に調整することができる。所望の酸素濃度及び二酸化炭素濃度に調整することにより、嫌気性細菌、微好気性細菌又は好気性細菌のそれぞれに好適な培養環境を調整することができる。
【0014】
(b)遷移金属触媒
本発明のガス濃度調整剤は、アスコルビン酸類の酸化反応の進行を促進する遷移金属触媒を含む。
遷移金属触媒は、遷移金属の塩や酸化物等の金属化合物を有する触媒である。遷移金属としては、鉄、マンガン、亜鉛、銅、コバルトが好適である。遷移金属の塩としては、遷移金属のハロゲン化物及び鉱酸塩が含まれ、例えば、遷移金属の塩化物や硫酸塩である。代表例として塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、塩化マンガン、硫酸亜鉛、硫酸銅、塩化銅、硫酸コバルトの無水塩又は含水塩等が挙げられ、中でも水への溶解性がよく、配合性が良好な硫酸第一鉄七水和物が好ましい。
【0015】
ガス濃度調整剤中における遷移金属触媒の含有量は、アスコルビン酸類の酸化反応の進行を促進する観点から、アスコルビン酸類100質量部に対して、5〜25質量部が好ましく、10〜20質量部がより好ましい。
【0016】
(c)活性炭
本発明のガス濃度調整剤は活性炭を含む。活性炭は、アスコルビン酸類の水溶液を含浸させる担体としての機能を有するとともに、その比表面積の大きさから空気との接触面積が大きく、酸化反応の進行を促進する機能を有する。
【0017】
活性炭としては、例えば、おが粉、石炭、椰子殻等を原料として水蒸気賦活、塩化亜鉛等を用いた薬剤賦活等の各種製法で製造されたものを用いることができる。また、活性炭は、アスコルビン酸類の水溶液等を活性炭に担持させ顆粒状で小袋に充填して用いられるために、粒状活性炭が好ましい。粒状活性炭の粒子径は、酸素吸収性能の観点及び包装体への充填性(流動性)の観点から、好ましくは0.1〜2mm、より好ましくは0.5〜1mmである。
【0018】
本発明において、活性炭の平均細孔径は2.0nm以上である。活性炭の平均細孔径が2.0nm以上であることで、本発明の細菌培養用ガス濃度調整剤は、アスコルビン酸類の酸化反応の反応初期(反応開始から1時間後)の二酸化炭素発生量が多く、短時間で高濃度二酸化炭素雰囲気及び低濃度酸素雰囲気のガス環境を作り出すことができる。アスコルビン酸類の酸化反応の反応初期(反応開始から1時間後)の二酸化炭素発生量の観点から、活性炭の平均細孔径は、好ましくは2.2nm以上、より好ましくは2.5nm以上である。活性炭の平均細孔径の上限は、5.5nm以下であってもよく、5.0nm以下であってもよく、4.5nm以下であってもよく、4.0nm以下であってもよい。なお、本発明における活性炭の平均細孔径は、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0019】
また、本発明において、活性炭の全細孔容積は、アスコルビン酸類の酸化反応の反応初期(反応開始から1時間後)の二酸化炭素発生量の観点から、好ましくは0.60cm
3/g以上、より好ましくは0.65cm
3/g以上、更に好ましくは0.68cm
3/g以上である。活性炭の全細孔容積の上限は、2.0cm
3/g以下であってもよく、1.8cm
3/g以下であってもよく、1.5cm
3/g以下であってもよく、1.0cm
3/g以下であってもよい。なお、本発明における活性炭の全細孔容積は、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0020】
ガス濃度調整剤中における活性炭の含有量は、酸素吸収性能の観点及び包装体への充填性の観点から、アスコルビン酸類100質量部に対して50〜400質量部が好ましく、75〜300質量部がより好ましい。
【0021】
(d)アルカリ金属炭酸塩又はアルカリ土類金属水酸化物
本発明のガス濃度調整剤は、二酸化炭素濃度を調整するために、アルカリ金属炭酸塩又はアルカリ土類金属水酸化物を含む。アルカリ金属炭酸塩は、アスコルビン酸類の酸化反応を迅速に進行させ、反応場をアルカリ領域に制御する目的で使用される。一方、アルカリ土類金属水酸化物は、炭酸ガス吸収剤として使用される。なお、アルカリ金属炭酸塩とアルカリ土類金属水酸化物とを併用すると二酸化炭素濃度の調整が困難となるため、両者を併用することは好ましくない。
【0022】
アルカリ金属炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム水和物等の、水溶性のアルカリ金属炭酸塩が好適に用いられ、中でも炭酸ナトリウムが特に好ましい。
【0023】
アルカリ土類金属水酸化物としては、特に水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム又はこれらの混合物が好適に用いられる。多量の二酸化炭素を短時間で吸収したい場合には、水酸化カルシウム等の、水への溶解性が高く二酸化炭素吸収速度が速いアルカリ土類金属水酸化物が好適に用いられる。さらに、二酸化炭素の発生量は常に一定ではなく、時々刻々と変化する。例えば、酸素濃度0%、二酸化炭素濃度5%のガス雰囲気をより迅速に形成する際、雰囲気中の酸素すべてを一度に吸収させるため、アスコルビン酸類の酸化反応の反応開始直後には多量の二酸化炭素が一度に発生し、その後急速に二酸化炭素の発生量が減少する。このような場合には、二酸化炭素吸収速度が速い水酸化カルシウムと二酸化炭素吸収速度が遅い水酸化マグネシウムとを混合することが好ましい。
また、アルカリ土類金属水酸化物は粉体であることが好ましく、その平均粒径は、好ましくは1〜100μm、より好ましくは2〜50μmである。
【0024】
ガス濃度調整剤中におけるアルカリ金属炭酸塩又はアルカリ土類金属水酸化物の含有量は、二酸化炭素濃度を調整する観点から、アスコルビン酸類100質量部に対して10〜200質量部が好ましく、15〜150質量部がより好ましく、20〜100質量部が更に好ましい。
【0025】
(e)水
本発明のガス濃度調整剤は、アスコルビン酸類の酸化反応の進行に必要な水を含む。
水は、活性炭に含浸させる態様を採ることが、ガス濃度調整剤を流動性のある固形物として得られるという観点から好ましい。本発明のガス濃度調整剤において、水は、酸素吸収性能の観点から、アスコルビン酸類と共に活性炭に含浸している。具体的には、アスコルビン酸類を水に溶解させたアスコルビン酸類の水溶液を、多孔性担体である活性炭に含浸させる。また、水には、アスコルビン酸類以外の可溶性成分を溶解させてもよく、不溶性成分を分散させてもよい。
【0026】
ガス濃度調整剤中における水の含有量は、アスコルビン酸類の酸化反応を進行させる観点から、アスコルビン酸類100質量部に対して、100〜200質量部が好ましく、110〜180質量部がより好ましく、120〜180質量部が更に好ましい。
【0027】
(f)その他の成分
本発明のガス濃度調整剤は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、上述した(a)〜(e)成分以外の成分を必要に応じて含んでもよい。
【0028】
(f1)熱可塑性樹脂
本発明のガス濃度調整剤は、酸素吸収反応(アスコルビン酸類の酸化反応)の進行に伴う過度の発熱を抑制するために、熱可塑性樹脂を含んでもよい。熱可塑性樹脂の種類に特に制限はないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エラストマー又はこれらの混合物が使用でき、特に分子量10000以下の低分子量ポリエチレン、ポリプロピレン又はこれらの混合物が軟化点の調整が容易であり、臭気の影響が少ないという観点から好適に用いられる。
【0029】
熱可塑性樹脂は、他の成分との混合性の観点から、粒子径が1〜500μmの粒状体が好ましく、10〜300μmの粒状体がより好ましい。また、熱可塑性樹脂の軟化点は、より効果的に発熱を抑制する観点から、90〜125℃が好ましい。
【0030】
ガス濃度調整剤中における熱可塑性樹脂の含有量は、アスコルビン酸類の酸化反応を進行させる観点から、アスコルビン酸類100質量部に対して、35〜300質量部が好ましく、60〜200質量部がより好ましい。
【0031】
(f2)アルデヒド除去剤
本発明のガス濃度調整剤は、主にアスコルビン酸類の酸化反応の進行に伴って副生するアルデヒドを除去するために、アルデヒド除去剤を含んでもよい。アルデヒド除去能を有する化合物としてはアミン類等、種々のものが公知であるが、アルデヒド除去能が充分であり、刺激臭の発生も見られず、少量で高い効果を発揮するエチレン尿素、尿素、アルギニン、リジン塩酸塩またはポリアリルアミンを配合することが好ましく、より少量で効果の高いエチレン尿素がより好ましい。
【0032】
本明細書で言うアルデヒドとは、その分子内に1つ以上のホルミル基を有する化合物、すなわち、アルデヒド類を意味する。本発明においては、典型的には、酸素吸収又は細菌培養の過程で副生成分として発生するアルデヒドを意味し、該アルデヒドとしては、細菌培養に悪影響を及ぼす限り化学分野においてアルデヒド類に分類されるものであればいずれのものを包含される。具体的には、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等が包含される。
【0033】
ガス濃度調整剤中におけるアルデヒド除去剤の含有量は、アルデヒドを効率的かつ経済的に除去する観点から、アスコルビン酸類100質量部に対して、0.5〜25質量部が好ましく、1.0〜10質量部がより好ましく、1.0〜5.0質量部が更に好ましい。
【0034】
本発明のガス濃度調整剤の製造方法は、特に制限はないが、例えば、アスコルビン酸類の水溶液に遷移金属触媒、アルカリ金属炭酸塩又はアルカリ土類金属水酸化物等を溶解し、この溶液を活性炭に混合して含浸させる方法が挙げられる。
【0035】
[ガス濃度調整剤包装体]
ガス濃度調整剤は、上述した各成分を含む組成物を、通気性包装材を全部又は一部に用いた包装材で包装することによって、ガス濃度調整剤包装体とすることもできる。
【0036】
(包装材)
包装材としては、2枚の通気性包装材を貼り合わせて袋状としたものや、1枚の通気性包装材と1枚の非通気性包装材とを貼り合わせて袋状としたもの、1枚の通気性包装材を折り曲げ、折り曲げ部を除く縁部同士をシールして袋状としたものが挙げられる。
【0037】
ここで、通気性包装材及び非通気性包装材が四角形状である場合には、包装材は、2枚の通気性包装材を重ね合わせ、4辺をヒートシールして袋状としたものや、1枚の通気性包装材と1枚の非通気性包装材とを重ね合わせ、4辺をヒートシールして袋状としたもの、1枚の通気性包装材を折り曲げ、折り曲げ部を除く3辺をヒートシールして袋状としたものが挙げられる。また包装材は、通気性包装材を筒状にしてその筒状体の両端部および胴部をヒートシールして袋状としたものであってもよい。
【0038】
(通気性包装材)
通気性包装材としては、酸素と二酸化炭素を透過する包装材が選択される。なかでも、ガーレ式試験機法による透気抵抗度が600秒以下、より好ましくは90秒以下のものが好適に用いられる。ここで、透気抵抗度とは、JIS P8117(1998)の方法により測定された値を言うものとする。より具体的には、株式会社東洋精機製作所製のガーレ式デンソメーターを使用して100mLの空気が通気性包装材を透過するのに要した時間を言う。
【0039】
上記通気性包装材としては、紙や不織布の他、プラスチックフィルムに通気性を付与したものが用いられる。プラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリカーボネート等のフィルムと、シール層としてポリエチレン、アイオノマー、ポリブタジエン、エチレンアクリル酸コポリマー、エチレンメタクリル酸コポリマーまたはエチレン酢酸ビニルコポリマー等のフィルムとを積層接着した積層フィルム等が使用できる。また、これらの積層物も通気性包装材として使用することができる。
【0040】
通気性を付与する方法としては、冷針、熱針による穿孔加工の他、種々の方法が採用可能である。穿孔加工により通気性を付与する場合、通気性は、穿孔する孔の径、数、材質等により自由に調整することができる。
【0041】
また、積層フィルムの厚さは、50〜300μmであることが好ましく、60〜250μmであることが特に好ましい。この場合、厚さが上記範囲を外れる場合に比べて、強度を保持しヒートシール性や包装適性に優れた包装材とすることができる。
【0042】
上記のガス濃度調整剤包装体はその機能を長期間維持するため、使用前はガスバリア性の容器や袋に収納し、使用するにあたりガスバリア性の容器や袋から取り出して用いることが好ましい。また、菌培養の用途にガス濃度調整剤包装体を使用する際は、該包装体に対して予めγ線等を用いた殺菌を施すことが好ましい。
【0043】
[細菌の培養方法]
本発明の細菌の培養方法は、ガス濃度調整剤の存在下で細菌を培養する方法である。具体的には、細菌及び培地を収容した培養容器と共にガス濃度調整剤(好ましくはガス濃度調整剤包装体)を、ガスバリア性密閉容器内に設置後、密封し、該密閉容器を細菌培養に好適な温度下に静置することで実施できる。この際、ガスバリア性密閉容器内で発生したアルデヒドの発生量を測定することや該容器内の湿度の調整等を目的として、該密閉容器内に蒸留水を収容した開放型の容器を設置してもよい。開放型の容器としては培養容器の他、ビーカー、フラスコ等が例示でき、細菌及び培地を収容した培養容器と同種の容器であることが好ましい。
【0044】
密閉容器内の酸素濃度は、微好気性細菌を培養する場合は6〜14容量%が好ましく、嫌気性細菌を培養する場合は1容量%以下が好ましい。
密閉容器内の二酸化炭素濃度は、微好気性細菌を培養する場合は1〜10容量%が好ましく、2〜10容量%がより好ましく、2〜9容量%が更に好ましい。嫌気性細菌を培養する場合は10容量%以上が好ましく、12容量%以上がより好ましく、14容量%以上が更に好ましい。
【0045】
細菌によって適切な酸素と二酸化炭素濃度が異なってくるが、短時間で所望の濃度にすることが重要となる。微好気性細菌を培養する場合、アスコルビン酸類の酸化反応の反応初期(反応開始から1時間後)の酸素濃度は、2〜18容量%が好ましく、3〜17容量%がより好ましく、4〜16容量%が更に好ましい。アスコルビン酸類の酸化反応の反応初期(反応開始から1時間後)の二酸化炭素濃度は、1〜10容量%が好ましく、2〜10容量%がより好ましく、2〜9容量%が更に好ましい。また、嫌気性細菌を培養する場合、アスコルビン酸類の酸化反応の反応初期(反応開始から1時間後)の酸素濃度は、2容量%以下が好ましく、1容量%以下がより好ましい。アスコルビン酸類の酸化反応の反応初期(反応開始から1時間後)の二酸化炭素濃度は、10容量%以上が好ましく、12容量%以上がより好ましく、14容量%以上が更に好ましい。
【0046】
また、培養温度は20〜45℃であることが好ましく、25〜40℃であることが特に好ましい。
【0047】
本発明の細菌の培養方法においては、培養実施前のガスバリア性容器内の雰囲気は特に制御する必要はなく、例えば空気でもよい。ガスバリア性容器内に空気を充填し、吸収した酸素と等容量の二酸化炭素を発生するガス濃度調整剤を用いて本発明の培養方法を実施した際は、二酸化炭素濃度を2〜10容量%とすれば、酸素濃度は11〜19容量%程度となり、二酸化炭素濃度を3〜8容量%とすれば、酸素濃度は13〜18容量%程度となる。ただし、本発明のガス濃度調整剤を用いた培養方法において、酸素濃度を特に限定するものではない。また、培地中に溶け込むアルデヒド濃度は、好ましくは2mg/L以下、より好ましくは1.5mg/L以下、更に好ましくは1.0mg/L以下とするのが、菌培養条件として好適である。
【0048】
本発明の培養方法に用いられる細菌は特に制限されない。本発明の細菌の培養方法は、嫌気性細菌、微好気性細菌及び好気性細菌のいずれの培養にも適用することができる。本発明の培養方法に用いられる培地についても特に制限はなく、一般的に使用されているものがそのまま適用できるため、培養する菌に適した培地を自由に選択できる。また、培養容器は、容器外との通気性が確保されていれば特に制限はなく、容積、形状、材質等いずれも培養に適した任意のものを採用することができる。蓋部を有する培養容器が好ましく用いられるが、この際も、容器外との通気性を確保する必要がある。
【0049】
細菌培養方法で用いられるガスバリア性密閉容器は、その内外の気体の流通を妨げ、投入したガス濃度調整剤により形成された酸素、二酸化炭素濃度を長期間維持するものである。ガラス、金属、ポリカーボネート等のプラスチック等で構成された容器がよく用いられるが、ガスバリア性フィルム及びその積層物を使用することも可能である。
【0050】
本発明の培養方法によれば、ガスボンベ及びガスコントローラーを使用することなく、好適なガス雰囲気下での細菌の顕微鏡観察や輸送を可能にする。
【実施例】
【0051】
以下、実施例及び比較例を用いて本実施形態を詳しく説明するが、本実施形態は本発明の作用効果を奏する限りにおいて適宜変更することができる。なお、実施例及び比較例中の「部」は、特に明記しない場合は質量部を意味する。
【0052】
実施例及び比較例で用いた活性炭を表1に示す。活性炭の平均細孔径及び全細孔容積は下記方法で測定した。
【0053】
(活性炭の平均細孔径及び全細孔容積)
活性炭の平均細孔径及び全細孔容積の測定には、マイクロトラック・ベル株式会社製の「BELSORP−max」を用い、試料約0.1gを前処理条件に130℃、真空脱気とし、液体窒素(77K)における窒素吸着等温線を測定した。付属のソフトウェアを用い、BET多点法により、全細孔容積及び平均細孔径を求めた。
【0054】
【表1】
【0055】
実施例1
L−アスコルビン酸ナトリウム水溶液(濃度45質量%)100gに硫酸第一鉄・七水和物6gを溶解させ、水溶液を活性炭(C1)60gに含浸させた後、低分子量ポリエチレン70g及び炭酸ナトリウム・十水和物20gを添加混合してガス濃度調整剤(1)を得た。
また、有孔ポリエチレンフィルムでラミネートした和紙の縦90mm×横55mm通気性小袋に、ガス濃度調整剤(1)5gを充填してガス濃度調整剤包装体(1)を得た。
【0056】
実施例2〜4
実施例1において、活性炭(C1)を活性炭(C2)〜(C4)にそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、ガス濃度調整剤(2)〜(4)及びガス濃度調整剤包装体(2)〜(4)を得た。
【0057】
比較例1
実施例1において、活性炭(C1)を活性炭(C5)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、ガス濃度調整剤(5)及びガス濃度調整剤包装体(5)を得た。
【0058】
[評価]
実施例及び比較例で得られたガス濃度調整剤包装体(1)〜(5)について、下記方法で酸素ガス濃度及び炭酸ガス濃度を測定した。結果を表2に示す。
【0059】
(酸素ガス濃度及び炭酸ガス濃度)
ポリ塩化ビニリデンでコートされたナイロンフィルムの袋(400×220mm)に、ガス濃度調整剤包装体、アルデヒド測定用ディッシュ2枚(60mm径、蒸留水5mL入り)、空気2.5Lを密封し、これを35℃の恒温槽で保温し、袋内ガス成分の経時変化を測定した。酸素ガス及び炭酸ガス濃度の経時変化を、酸素/炭酸ガス分析計「CheckMate 3」(MOCON Europe社製)を用い、同時に測定した。
【0060】
【表2】
【0061】
表2から明らかなように、平均細孔径が2.0nm未満である活性炭(C5)を用いた比較例1では、アスコルビン酸類の酸化反応の反応開始から1〜2時間後の二酸化炭素濃度が低く、反応初期の二酸化炭素発生量が少なかった。これに対して、平均細孔径が2.0nm以上である活性炭を用いた実施例では、いずれもアスコルビン酸類の酸化反応の反応開始から1時間後の二酸化炭素発生濃度が高く、短時間で高濃度二酸化炭素雰囲気及び低濃度酸素雰囲気のガス環境を作り出すことができた。
【解決手段】(a)アスコルビン酸類、(b)遷移金属触媒、(c)活性炭、(d)アルカリ金属炭酸塩又はアルカリ土類金属水酸化物、及び(e)水を含むガス濃度調整剤であって、前記アスコルビン酸類及び前記水が前記活性炭に含浸しており、前記活性炭の平均細孔径が2.0nm以上である、細菌培養用ガス濃度調整剤。