(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、網膜は規則正しい構造をしており、異常所見があればOCT等によって把握が容易である一方、脈絡膜は多数の血管が絡み合う複雑で不規則な構造をしており、個人差が大きいため、異常所見の把握が困難である。現状では、眼底の断層画像から得られる脈絡膜に関する情報は、その厚みなどに限られている。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、眼底の断層画像から脈絡膜の状態を容易に解析することができる画像処理装置、画像処理方法、診断システム及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る画像処理装置は、
眼底の断層画像から脈絡膜の部分を抽出する画像処理装置であって、
前記断層画像における網膜と前記脈絡膜との境界を示す第1の境界線を検出する境界線検出部と、
前記断層画像における前記脈絡膜と強膜との境界を示す第2の境界線を指定する境界線指定部と、
前記第1の境界線上の点と前記第2の境界線上の点とを繋ぐ複数の平行線分各々について、各平行線分に沿った輝度の変化を示す輝度曲線を生成する輝度曲線生成部と、
前記輝度曲線の微分の平均を示す微分平均曲線を生成する微分平均曲線生成部と、
前記微分平均曲線生成部で生成された微分平均曲線に基づいて、前記脈絡膜における複数の層間の境界線を生成する境界線生成部と、
を備える。
【0008】
前記微分平均曲線生成部は、
前記複数の平行線分における前記第1の境界線上の点から同一距離の位置における輝度値の平均を示す第1の輝度分布曲線を生成し、前記第1の輝度分布曲線の微分曲線を第1の微分平均曲線として生成し、
前記境界線生成部は、
前記微分平均曲線生成部で生成された前記第1の微分平均曲線について、前記第1の境界線上の点から前記第2の境界線上の点に向かったときに最初に負から正に切り替わる点に対応する前記断層画像上の位置を通り、かつ、前記第1の境界線と平行な線を
、脈絡膜毛細血管板
と脈絡膜中血管層との境界を示す第3の境界線として生成する、
こととしてもよい。
【0009】
前記微分平均曲線生成部は、
前記第1の境界線を基準として、前記複数の平行線分のうちの最長の平行線分と同じ長さに、残りの平行線分の長さを伸ばしたときに、前記複数の平行線分における前記第1の境界線上の点から同一距離の位置における輝度値の平均を示す第2の輝度分布曲線を生成し、前記第2の輝度分布曲線の微分曲線を第2の微分平均曲線として生成し、
前記境界線生成部は、
前記微分平均曲線生成部で生成された前記第2の微分平均曲線について、前記第1の境界線上の点から前記第2の境界線上の点に向かったときに2番目に現れるピークに基づいて
、脈絡膜中血管層
と脈絡膜大血管層との境界を示す第4の境界線を生成する、
こととしてもよい。
【0010】
前記微分平均曲線生成部は、
同一平行線分上の各画素の輝度値を用いた線形補間により、残りの平行線分の長さを伸ばしたときに不足する輝度値のデータを補充して、前記第2の輝度分布曲線を求める、
こととしてもよい。
【0011】
前記微分平均曲線生成部は、
前記複数の輝度曲線の平均を示す輝度分布曲線を求めた後、正弦加重移動平均法を用いて前記輝度分布曲線を平滑化する、
こととしてもよい。
【0012】
前記各境界線で区切られた領域について、その領域内の画素の輝度値が2階調化された画像を生成する2階調画像化処理部をさらに備える、
こととしてもよい。
【0013】
前記輝度曲線生成部は、少なくとも20本以上の平行線分各々について輝度曲線を生成する、
こととしてもよい。
【0014】
本発明の第2の観点に係る診断システムは、
眼底の断層画像を撮像する光干渉断層計と、
前記光干渉断層計で撮像された眼底の断層画像に対する画像処理を行う本発明の第1の観点に係る画像処理装置と、
を備える。
【0015】
本発明の第3の観点に係る画像処理方法は、
眼底の断層画像から脈絡膜の部分を抽出する画像処理方法であって、
前記断層画像における網膜と前記脈絡膜との境界を示す第1の境界線を検出する境界線検出ステップと、
前記断層画像における前記脈絡膜と強膜との境界を示す第2の境界線を指定する境界線指定ステップと、
前記第1の境界線上の点と前記第2の境界線上の点とを繋ぐ複数の平行線分各々について、各平行線分に沿った輝度の変化を示す輝度曲線を生成する輝度曲線生成ステップと、
前記輝度曲線の微分の平均を示す微分平均曲線を生成する微分平均曲線生成ステップと、
前記微分平均曲線生成
ステップで生成された微分平均曲線に基づいて、前記脈絡膜における複数の層間の境界線を生成する境界線生成ステップと、
を含む。
【0016】
本発明の第4の観点に係るプログラムは、
コンピュータを、
眼底の断層画像における網膜と脈絡膜との境界を示す第1の境界線を検出する境界線検出部、
前記断層画像における前記脈絡膜と強膜との境界を示す第2の境界線を指定する境界線指定部、
前記第1の境界線上の点と前記第2の境界線上の点とを繋ぐ複数の平行線分各々について、各平行線分に沿った輝度の変化を示す輝度曲線を生成する輝度曲線生成部、
前記輝度曲線の微分の平均を示す微分平均曲線を生成する微分平均曲線生成部、
前記微分平均曲線生成部で生成された微分平均曲線に基づいて、前記脈絡膜における複数の層間の境界線を生成する境界線生成部、
として機能させる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、網膜と脈絡膜との第1の境界線上の点から脈絡膜と強膜の第2の境界線上の点まで延びる複数の平行線分それぞれに沿った輝度曲線の微分の平均を示す微分平均曲線に基づいて、脈絡膜の各層の境界線を検出する。このようにすれば、眼底の断層画像から脈絡膜の各層の部分を正確に抽出することができるので、眼底の断層画像から脈絡膜の状態を容易に解析することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
図1に示すように、診断システム100は、眼底の断層画像の画像処理を行って診断を行うシステムである。診断システム100は、光干渉断層計(OCT、Optical Coherence Tomography)1と、画像処理装置2とを備える。
【0021】
OCT1は、眼底に弱い赤外線を当て、反射して戻ってきた波を解析して、眼底の断層画像を撮像するEDI−OCTという撮影手法を用いて画像を撮像する。
図2に示すように、眼底の断層画像TIは、各画素の輝度値が例えば256階調に分けられた画像である。階調とは、色の濃淡の変化のこと、あるいは濃淡変化の滑らかさのことであり、コンピュータでの画像表現の細かさを表す尺度である。階調はある色について濃淡の段階の数によって数値化される。階調が多いほど色彩が滑らかに表現可能となる。眼底の断層画像TIはグレースケール画像であるため、白及び黒の濃淡が256階調で表現される。
【0022】
眼底の断層画像TIでは、暗い部分は輝度が低くなっており、明るい部分は輝度が高くなっている。結果的に、眼底の断層画像TIでは、血管腔の部分は輝度が低くなり、その他の間質の部分は輝度が高くなる。
【0023】
また、眼底は、硝子体40から見て網膜41、脈絡膜42、強膜43の順に階層化されているので、眼底の断層画像TIは、上から順に硝子体40、網膜41、脈絡膜42及び強膜43の像を含んでいる。
【0024】
網膜41の最下層では、輝度の高い3本の線が存在する。3本の線のうち、最下層の線が、網膜色素上皮細胞50である。脈絡膜42は、大別して3つの層に分けられている。3つの層は、上から順に、脈絡膜毛細血管板(コリオキャピラリス)51と、脈絡膜中血管層52と、脈絡膜大血管層53となっている。脈絡膜毛細血管板51では、毛細血管が張り巡らされている。脈絡膜中血管層52には、毛細血管より大きい中程度の血管が通っている。脈絡膜大血管層53には、中血管よりさらに大きな血管が通っている。
【0025】
OCT1で撮像された眼底の断層画像TIは、断層画像データ20として、通信線(有線、無線を問わない)を介して画像処理装置2に送られる。
【0026】
画像処理装置2は、眼底の断層画像TIから脈絡膜42の部分を抽出するコンピュータ(情報処理装置)である。
【0027】
図1の画像処理装置2のハードウエア構成を示す
図3に示すように、画像処理装置2は、制御部31、主記憶部32、外部記憶部33、操作部34、表示部35及び通信部36を備える。主記憶部32、外部記憶部33、操作部34、表示部35及び通信部36はいずれも内部バス30を介して制御部31に接続されている。
【0028】
制御部31は、CPU(Central Processing Unit)等から構成されている。このCPUが、外部記憶部33に記憶されているプログラム39を実行することにより、
図1に示す画像処理装置2の各構成要素が実現される。
【0029】
主記憶部32は、RAM(Random-Access Memory)等から構成されている。主記憶部32には、外部記憶部33に記憶されているプログラム39がロードされる。この他、主記憶部32は、制御部31の作業領域(データの一時記憶領域)として用いられる。
【0030】
外部記憶部33は、フラッシュメモリ、ハードディスク、DVD−RAM(Digital Versatile Disc Random-Access Memory)、DVD−RW(Digital Versatile Disc ReWritable)等の不揮発性メモリから構成される。外部記憶部33には、制御部31に実行させるためのプログラム39があらかじめ記憶されている。また、外部記憶部33は、制御部31の指示に従って、このプログラム39の実行の際に用いられるデータを制御部31に供給し、制御部31から供給されたデータを記憶する。
【0031】
操作部34は、キーボード及びマウスなどのポインティングデバイス等と、キーボードおよびポインティングデバイス等を内部バス30に接続するインターフェイス装置から構成されている。操作部34を介して、操作者が操作した内容に関する情報が制御部31に入力される。
【0032】
表示部35は、CRT(Cathode Ray Tube)またはLCD(Liquid Crystal Display)などから構成される。表示部35には、眼底の断層画像TIなどが表示される。表示部35は、眼底の断層画像TIに加え、操作部34の操作入力による操作情報及び画像処理装置2における画像処理の結果などを表示する。
【0033】
通信部36は、通信線のシリアルインターフェイスまたはパラレルインターフェイスから構成されている。通信部36が、通信線を介して、OCT1と接続され、OCT1から送られた眼底の断層画像データ20を受信する。
【0034】
図1に示す画像処理装置2の各種構成要素は、
図2に示すプログラム39が、制御部31、主記憶部32、外部記憶部33、操作部34、表示部35及び通信部36などをハードウエア資源として用いて実行されることによってその機能を発揮する。
【0035】
図1に示すように、画像処理装置2は、記憶部10と、データ取得部11と、画像調整部12と、境界線検出部13と、境界線指定部14と、平行線分設定部15と、輝度曲線生成部16と、微分平均曲線生成部17と、境界線生成部18と、2階調化処理部19と、を備える。
【0036】
記憶部10は、眼底の断層画像データ20等の各種データを記憶する。記憶部10は、
図3の外部記憶部33に対応する。
【0037】
データ取得部11は、OCT1から眼底の断層画像TIのデータ(
図4参照)を、通信線を介して取得して、記憶部10に眼底の断層画像データ20として記憶する。データ取得部11は、
図2の制御部31及び通信部36に対応する。
【0038】
画像調整部12は、記憶部10から読み出した断層画像データ20の切り出し、傾き調整、オフセット調整などの各種調整を行う。
図5に示すように、切り出しでは、断層画像TIの必要な領域Fだけが切り出される。また、傾き調整では、網膜41、脈絡膜42、強膜43の左右の傾きが少なく水平となるようにそれらの層の傾斜が補正される。オフセット調整とは、オフセットとして輝度値に加算されるブラックノイズ成分をいう。画像調整部12は、断層画像TIの各画素の輝度値からブラックノイズ成分を差し引く。これらの調整は、表示部35に表示された断層画像TIに対する操作部34の操作入力により、行われる。さらに、画像調整部12は、各種補正を行った後、後の解析の平行線分Hn作成の基準ともなる、網膜41に直交し、かつ、黄斑44に垂直な基準線BL(
図6等参照)を作成する。画像調整部12は、
図2の制御部31、主記憶部32、操作部34及び表示部35によって実現される。
【0039】
境界線検出部13は、眼底の断層画像データ20における網膜41と脈絡膜42との境界を示す第1の境界線B1を検出する。より具体的には、境界線検出部13は、調整された断層画像データ20を所定の閾値を用いて2階調化する。断層画像データ20は256階調であるが、これを白と黒の画像に置き換えるのが2階調化である。
【0040】
図6に示すように、2階調化された画像TI2では、網膜色素上皮細胞50と周辺領域とのコントラストが大きくなる。境界線検出部13は、この画像に基づいて、網膜41と脈絡膜42との境界を示す第1の境界線B1を検出する。検出された第1の境界線B1の情報は境界線データ21として記憶部10に記憶される。境界線検出部13は、
図2の制御部31、主記憶部32及び表示部35によって実現される。
【0041】
境界線指定部14は、断層画像TIにおける脈絡膜42と強膜43との境界を示す第2の境界線B2を指定する。具体的には、境界線指定部14は、操作部34の操作入力を待つ。操作者は、表示部35に表示された眼底の断層画像TIを見ながら、操作部34を操作して、断層画像TI上の第2の境界線B2の場所を指定する。なお、断層画像TIにおいて、脈絡膜42と強膜43との境界がはっきりしない場合には、操作部34の操作入力にしたがって、断層画像TIの脈絡膜42と強膜43との境界の輝度変化に合わせて画面のコントラストを調整し、境界をはっきりと表示させた状態で、断層画像TI上の第2の境界線B2の場所を指定するようにしてもよい。
【0042】
この指定に従って、境界線指定部14は、断層画像TI上に第2の境界線B2を形成し、これを描画する。
図7には、このようにして形成された第2の境界線B2の一例が示されている。描画された第2の境界線B2の情報は、境界線データ21として記憶部10に格納される。境界線指定部14は、
図2の制御部31、主記憶部32、操作部34及び表示部35によって実現される。
【0043】
平行線分設定部15は、第1の境界線B1上の点と第2の境界線B2上の点とを繋ぐ複数の平行線分Hn(nは自然数)を生成する。平行線分Hnは、画像調整部12で作成された基準線BLと平行に生成される。平行線分Hnは、表示された断層画像TI上に描画される。平行線分設定部15は、表示部35に表示された眼底の断層画像TI上に、複数の平行線分Hnを表示する。平行線分設定部15は、この状態で、操作部34の操作入力を待つ。操作者は、表示部35に表示された眼底の断層画像TIを見ながら、操作部34を操作して、断層画像TI上の平行線分Hnの間隔を指定する。平行線分設定部15は操作入力に従って、断層画像TI上に複数の平行線分Hnを生成し、描画する。
図8には、このようにして形成された複数の平行線分Hnの一例が示されている。描画された複数の平行線分Hnの情報は、平行線分データ22として記憶部10に格納される。平行線分設定部15は、
図2の制御部31、主記憶部32、操作部34及び表示部35によって実現される。
【0044】
輝度曲線生成部16は、第1の境界線B1上の点と第2の境界線B2上の点とを繋ぐ複数の平行線分Hn各々について、各平行線分Hnに沿ったY軸方向の輝度の変化を示す輝度曲線Hn(Y)を生成する。Y軸は、第1の境界線B1を原点とし、下方を正方向とする断層画像上の垂線である。前述のように、断層画像TIでは、血管腔の部分は暗くなり、間質の部分は明るくなる。したがって、生成される輝度曲線Hn(Y)は、平行線分Hnが血管腔を通過する場合には輝度が低くなり、間質を通過する場合に輝度が高くなるように変化する。
【0045】
図9には、輝度曲線Hn(Y)の一例が示されている。脈絡膜42は、上から脈絡膜毛細血管板51と、脈絡膜中血管層52と、脈絡膜大血管層53の順でならんでおり、下方に行くにしたがって、血管腔の占める割合が大きくなっている。また、下方に行くに従ってOCT1の観察光の深達度に比例して輝度が低下する。したがって、その輝度曲線Hn(Y)は全体として右肩下がりとなっている。また、平行線分Hn上では、血管腔の部分と間質の部分とが不規則にならんでいるため、輝度曲線Hn(Y)のばらつきが大きくなっている。輝度曲線生成部16は、
図2の制御部31、主記憶部32及び表示部35によって実現される。
【0046】
微分平均曲線生成部17は、輝度曲線Hn(Y)の微分の平均を示す微分平均曲線D1(Y)、D2(Y)を生成する。具体的には、まず、微分平均曲線生成部17は、複数の平行線分Hnの輝度曲線Hn(Y)の平均である輝度分布曲線を2通り生成する。第1の輝度分布曲線HD1(Y)と第1の輝度分布曲線HD2(Y)とである。
【0047】
(A)第1の輝度分布曲線HD1(Y)の生成方法
まず、脈絡膜毛細血管板51と脈絡膜中血管層52との境界を求めるための第1の輝度分布曲線HD1(Y)の生成方法について説明する。微分平均曲線生成部17は、以下のようにして、第1の輝度分布曲線HD1(Y)を生成する。
(A−1)
図10に示すように、第1の境界線B1(網膜色素上皮細胞50)より平行線分Hn上の画素を50ピクセル分取得して、複数の平行線分Hnにおける第1の境界線B1上の点から同一距離の位置(点線の交点位置)における輝度値の平均を示す第1の輝度分布曲線HD1(Y)を生成する。
(A−2)第1の輝度分布曲線HD1(Y)を微分して、その微分曲線を第1の微分平均曲線D1(Y)として生成する。
なお、計算範囲を50ピクセルに制限するのは、計算誤差を低く抑えるためである。なお、制限する画素数は50ピクセルに限らず、適切な数でよい。
【0048】
(B)第2の輝度分布曲線HD2(Y)の生成方法
次に、脈絡膜中血管層52と脈絡膜大血管層53との境界を求めるための第2の輝度分布曲線HD2(Y)の生成方法について説明する。
(B−1)
図11(A)に示すように、第1の境界線B1(網膜色素上皮細胞50)から第2の境界線B2(強膜43)までの平行線分Hn上の画素を取得する。
(B−2)第1の境界線B1を基準として、複数の平行線分Hnのうちの最長の平行線分Hnと同じ長さに、残りの短い平行線分Hnの長さを伸ばす。平行線分Hnの始点の位置を揃えると、平行線分Hnは、
図11(B)に示すように並ぶようになる。
【0049】
ここで、伸ばした平行線分Hnに不足データが発生する場合には、同一平行線分Hn上の各画素の輝度値を用いた線形補間により、残りの平行線分Hnの長さを伸ばしたときに不足する輝度値を求める。線形補間には、様々な補間法を採用することができるが、基本的には直線補間でよい。例えば、
図11(C)に示すように、左側の平行線分Hnから右側の平行線分Hnのように平行線分Hnを伸ばした場合には、例えば、輝度曲線Hn(Y1)、Hn(Y2)を用いて直線補間により輝度値Hn(Y’)が求められ、補充される。
【0050】
(B−3)長さを揃えた平行線分Hnにおける第1の境界線B1上の点から同一距離の位置における輝度値の平均を示す第2の輝度分布曲線HD2(Y)を生成する。
(B−4)第2の輝度分布曲線HD2(Y)の微分曲線を第2の微分平均曲線D2(Y)として生成する。
【0051】
図12には、第1の輝度分布曲線HD1(Y)、第2の輝度分布曲線HD2(Y)の一例が示され、
図13には、微分平均曲線D1(Y)、D2(Y)の一例が示されている。ここでは、便宜上、HD1(Y)、HD2(Y)が同じ曲線、D1(Y)、D2(Y)が同じ曲線となっているが、厳密に言えば両者は異なった曲線となる。
図13に示すように、微分平均曲線D1(Y)、D2(Y)には、幾つかのピークが現れている。このピークの近辺に、脈絡膜毛細血管板51と、脈絡膜中血管層52と、脈絡膜大血管層53との境界線が存在する。境界線では、間質の領域が大きくなるためである。生成された微分平均曲線D1(Y)、D2(Y)のデータは、微分平均曲線データ24として記憶部10に記憶される。微分平均曲線生成部17は、
図2の制御部31、主記憶部32及び表示部35によって実現される。
【0052】
なお、微分平均曲線生成部17は、複数の輝度曲線Hn(Y)の平均を示す輝度分布曲線HD1(Y)、HD2(Y)を求めた後、正弦加重移動平均法を用いて輝度分布曲線HD1(Y)、HD2(Y)を平滑化する。正弦加重移動平均法は、移動平均法の一種であり、隣合う数値に掛ける重みを正弦波状にするものである。例えば、あるピクセルの平均化を行う場合には、あるピクセルを基準としてその重みを1とし、その前後のピクセルの重みを、基準ピクセルから離れるにつれて正弦波状に0に近づくような重みとして、移動平均を求めて輝度分布曲線の平滑化を図る。
【0053】
境界線生成部18は、微分平均曲線生成部17で生成された第1の微分平均曲線D1(Y)について、第1の境界線B1上の点から第2の境界線B2上の点に向かったときに最初に負から正に切り替わる点に対応する断層画像TI上の位置Y3を通り、かつ、第1の境界線B1と平行な線(
図10で点線で示す曲線)を、脈絡膜毛細血管板51と脈絡膜中血管層52との境界を示す第3の境界線B3として生成する。
図14に示すように、脈絡膜毛細血管板51は薄いため、最初に負から正に切り替わる位置Y3に生成される第3の境界線B3は、第1の境界線B1にごく近い位置となる。前述のとおり、第3の境界線B3は、第1の境界線B1と平行となる。
【0054】
境界線生成部18は、微分平均曲線生成部17で生成された第2の微分平均曲線D1(Y)について、第1の境界線B1上の点から第2の境界線B2上の点に向かったときに2番目に現れるピークに対応する位置Y4に基づいて、脈絡膜中血管層52と脈絡膜大血管層53との境界を示す第4の境界線B4を生成する。境界線生成部18は、第4の境界線B4の生成に、
図11(D)及び
図15に示すように、第1の境界線B1と第2の境界線B2との間で同じ割合tで平均線分Hnを分ける点を結んで形成される中間線M(
図11(D)の点線で示す直線)を用いる。境界線生成部18は、上記ピークの位置Y4に対応する割合tの中間線Mを第4の境界線B4として生成する。境界線生成部18は、
図2の制御部31、主記憶部32及び表示部35によって実現される。
【0055】
2階調化処理部19は、断層画像の2階調化を行う。2階調化は、NiBlack法を用いて行われる。この2階調化により、断層画像TI中における血管腔の領域と、間質の領域とをはっきりと区別することができる。本実施の形態では、
図16に示すように、断層画像中において2階層化する領域Wを操作部34の操作入力で指定することが可能となっている。
図17では、操作部34の操作入力により設定された幅の脈絡膜中血管層52と、脈絡膜大血管層53とが抽出され、それらの一部が2階調化された様子が示されている。このように2階調化された画像から、各層の血管腔の領域の比率等を求め、診断に役立てることができる。2階調化処理部19は、
図2の制御部31、主記憶部32、操作部34及び表示部35によって実現される。
【0056】
次に、画像処理装置2における画像処理について説明する。
【0057】
図18に示すように、まず、データ取得部11は、OCT1から、通信線を介して、解析対象となる眼底の断層画像データ20を取得し、取得した断層画像データ20を記憶部10に記憶する(ステップS1)。
【0058】
続いて、画像調整部12は、表示された画像の調整を行う(ステップS2)。具体的には、画像調整部12は、断層画像データ20に対応する断層画像TIを、表示部35に表示させる。画像調整部12は、操作部34の操作入力に基づいて、
図5に示すように、解析対象の部分を切り取り、断層画像TIの位置や傾斜角度を調整して断層画像TIが水平になる様に調整し、断層画像に含まれる輝度のオフセット成分(ノイズ成分)を除去する。オフセット成分は、実際に輝度値が0に相当する黒部分であっても、断層画像TIの各輝度の輝度値に含まれる成分であり、実際には0〜20又は30程度の値がオフセット成分として現れる。このオフセット部分をカットオフしておかなければ、後の工程でNiblack法を用いて適切な2階調化を行うことができなくなる。さらに、画像調整部12は、基準線BLを生成して、断層画像TI上に表示する。
【0059】
続いて、境界線検出部13は、操作部34の操作入力に従って、表示された眼底の断層画像TI上に網膜色素上皮細胞50と脈絡膜42との境界線である第1の境界線B1を検出する(ステップS3)。ここでは、上述のように、所定の閾値で断層画像TIを2階調化して2階調化された画像TI2を生成し(
図6参照)、網膜色素上皮細胞50の外縁を明確とし、その外縁であって脈絡膜42との境界を第1の境界線B1として抽出する。
【0060】
続いて、境界線指定部14は、断層画像TIにおける脈絡膜42と強膜43との境界を示す第2の境界線B2を指定する(ステップS4)。この指定は、
図7に示すように、表示部に表示された断層画像TIに対する操作部34の操作入力(ポインティングデバイス等による操作入力)に従って行われる。
【0061】
続いて、平行線分設定部15は、第1の境界線B1上の点と第2の境界線B2上の点との間をつなぐ複数の平行線分Hnを設定する(ステップS5)。この平行線分Hnの間隔は、
図8に示すように、操作部34の操作入力により、調整可能である。
【0062】
輝度曲線生成部16は、複数の平行線分Hn各々について、各平行線分Hnに沿った輝度の変化を示す輝度曲線Hn(Y)(
図9参照)を生成する(ステップS6)。
【0063】
続いて、微分平均曲線生成部17は、複数の平行線分Hnの輝度曲線Hn(Y)の平均である輝度分布曲線HD1(Y)、HD2(Y)(
図12参照)を生成する(ステップS7)。ここで、第1の輝度分布曲線HD1(Y)は、上述の(A)の方法によって求められ、第2の輝度分布曲線HD2(Y)は、上述の(B)の方法によって求められる。
【0064】
続いて、微分平均曲線生成部17は、輝度分布曲線HD1(Y)、HD2(Y)の微分平均曲線D1(Y)、D2(Y)(
図11参照)を生成する(ステップS8)。ここで、第1の微分平均曲線HD1(Y)は、上述の(A)の方法によって求められ、第2の微分平均曲線HD2(Y)は、上述の(B)の方法によって求められる。
【0065】
境界線生成部18は、微分平均曲線生成部17で生成された第1の微分平均曲線D1(Y)について、第1の境界線B1上の点から第2の境界線B2上の点に向かったときに最初に負から正に切り替わる点に対応する断層画像TI上の位置Y3を通り、かつ、第1の境界線B1と平行な線(
図10で点線で示す曲線)を、脈絡膜毛細血管板51と脈絡膜中血管層52との境界を示す第3の境界線B3(
図14参照)として生成する(ステップS9)。この結果、第1の境界線B1と第3の境界線B3とにより、脈絡膜毛細血管板51のセグメンテーションが可能になる。
【0066】
続いて、境界線生成部18は、微分平均曲線生成部17で生成された微分平均曲線D2(Y)について、第1の境界線B1上の点から第2の境界線B2上の点に向かったときに2番目に現れるピークに基づいて、脈絡膜中血管層52と脈絡膜大血管層53との境界を示す第4の境界線B4(
図15参照)を生成する(ステップS10)。この結果、第2の境界線B2、第3の境界線B3及び第4の境界線B4により、脈絡膜中血管層52及び脈絡膜大血管層53のセグメンテーションが可能になる。
【0067】
このようにして、眼底の断層画像データ20から脈絡膜42の脈絡膜毛細血管板51、と脈絡膜中血管層52との間の第3の境界線B3と、脈絡膜中血管層52と脈絡膜大血管層53との間の第4の境界線B4が生成され、脈絡膜毛細血管板51、脈絡膜中血管層52及び脈絡膜大血管層53を抽出可能となる。
【0068】
続いて、2階調化処理部19は、指定された領域W(
図16参照)に対して断層画像データ20の2階調化処理を行う(ステップS11)。これにより、
図17に示すような2階層化された画像TI2が生成される。まず、操作部34の操作入力により、領域Wが指定されると、その領域Wに対してNiBlack法を用いた画像処理が行われ、その領域Wが2階調画像に変更される。この2階調画像を用いて、計測部位の全体の面積、管腔および間質を分けた解析、分割をして領域の全体・血管腔・間質の面積、全体の厚み及び各層の厚みの計測等が行われる。
【0069】
2階調化を行うことにより、脈絡膜42の血管腔・間質領域を客観的に定量化することができ、再現性が高い解析が可能となる。2階調化画像の級内相関係数は0.95以上であり、脈絡膜42の構造を正確に表したものとなる。正常な被検者180人について調べた結果、血管腔の割合は65.7%であり、間質34.3%であった。加齢とともに血管腔、間質はともに減少し、光線力学療法後の脈絡膜厚減少は血管腔減少が大きく関与していることが明らかになった。
【0070】
脈絡膜42の各層の厚みをそれぞれ計測できるようになれば、その症状の原因を切り分けることが可能となる。例えば、脈絡膜大血管層53が厚くなれば、中心性網膜炎を疑うことができる。また、脈絡膜42の各層それぞれが一様に変化していれば、原田病を疑うことができる。この他、加齢黄斑変性の病型診断の補助や、脈絡膜の疾患への関与について様々な研究が可能となる。
【0071】
なお、眼底の断層画像データ20を数ヶ月間又は数年間に渡って取得し、脈絡膜42の各層の厚み、血管腔、間質の比率等の時間変化を検出して、脈絡膜42の経年変化を観察するようにしてもよい。
【0072】
これらの解析データは、印刷データとしてプリント印刷することができるようにしてもよいし、表計算ソフト等のデータに変換するなどして管理を行うことができるようにしてもよい。
【0073】
以上詳細に説明したように、本実施の形態によれば、網膜41と脈絡膜42との第1の境界線上B1の点から脈絡膜42と強膜43の第2の境界線B2上の点まで延びる複数の平行線分Hnそれぞれに沿った輝度曲線Hn(Y)の微分の平均を示す微分平均曲線D1(Y)、D2(Y)に基づいて、脈絡膜42の各層の境界線B3、B4を検出する。このようにすれば、眼底の断層画像TIから脈絡膜42の各層の部分を正確に抽出することができるので、眼底の断層画像TIから脈絡膜42の状態を容易に解析することができる。
【0074】
なお、本実施の形態では、脈絡膜42から、脈絡膜毛細血管板51、脈絡中血管層52及び脈絡大血管層53の3層を抽出したが、本発明はこれには限られない。脈絡膜42から脈絡膜毛細血管板51と脈絡膜大血管層53の2層を抽出するようにしてもよい。
【0075】
また、断層画像の2階調化を、Niblack法を用いて行ったが、本発明はこれには限られない。固定の閾値により2階調化を行ってもよいし、他の統計的な手法を用いた画像処理を行って2階調化を行ってもよい。
【0076】
さらに、上記実施の形態では、輝度曲線Hn(Y)の平均である輝度分布曲線HD1(Y)、HD2(Y)を求め、輝度分布曲線HD1(Y)、HD2(Y)の微分曲線を微分平均曲線D1(Y)、D2(Y)として求めたが、輝度曲線Hn(Y)の微分曲線を求め、それらの微分曲線の平均を、微分平均曲線として求めてもよい。
【0077】
その他、画像処理装置2のハードウエア構成やソフトウエア構成は一例であり、任意に変更および修正が可能である。
【0078】
画像処理装置2の処理を行う中心となる部分は、専用のシステムによらず、通常のコンピュータシステムを用いて実現可能である。例えば、前記の動作を実行するためのコンピュータプログラムを、コンピュータが読み取り可能な記録媒体(フレキシブルディスク、CD−ROM、DVD−ROM等)に格納して配布し、当該コンピュータプログラムをコンピュータにインストールすることにより、前記の処理を実行する画像処理装置2を構成してもよい。また、インターネット等の通信ネットワーク上のサーバ装置が有する記憶装置に当該コンピュータプログラムを格納しておき、通常のコンピュータシステムがダウンロード等することで画像処理装置2を構成してもよい。
【0079】
画像処理装置2の機能を、OS(オペレーティングシステム)とアプリケーションプログラムの分担、またはOSとアプリケーションプログラムとの協働により実現する場合などには、アプリケーションプログラム部分のみを記録媒体や記憶装置に格納してもよい。
【0080】
搬送波にコンピュータプログラムを重畳し、通信ネットワークを介して配信することも可能である。たとえば、通信ネットワーク上の掲示板(BBS, Bulletin Board System)にコンピュータプログラムを掲示し、ネットワークを介してコンピュータプログラムを配信してもよい。そして、このコンピュータプログラムを起動し、OSの制御下で、他のアプリケーションプログラムと同様に実行することにより、前記の処理を実行できるように構成してもよい。
【0081】
この発明は、この発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、この発明の範囲を限定するものではない。すなわち、この発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。