【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラムフィージビリティスタディステージ探索タイプ、「ハンガー反射を用いた痙性斜頚治療デバイスの開発と臨床評価」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
略楕円形状を維持する外層部と、前記外層部の内周に設けられ、頭部の所定箇所を緩衝する緩衝部とを備え、前記略楕円形状の短軸が前記頭部の幅に相当する状態からずらして装着すると、ずらす前より強い力で、前記頭部の前記所定箇所を圧迫する圧迫部が形成されて、頭部の回旋運動を誘発する装具であって、
前記外層部は、
前記略楕円形状の短軸方向に接近または離反可能な被調整部を備え、
前記略楕円形状の短軸の長さが前記頭部の幅に相当するように前記被調整部を調整する調整手段をさらに備え、
前記調整手段は、非伸縮性を有する接続部材で形成され、
前記外層部は、前記略楕円形状の長軸方向の前方または後方に開口を設けることで形成された略C型形状であり、
前記接続部材は、前記開口を接続するように配置され、
前記調整手段によって、前記略楕円形状の短軸の長さが前記頭部の幅に相当するように前記被調整部が調整された際、前記接続部材は、前記略楕円形状の長軸方向において前記頭部から離れた位置に配置される
ことを特徴とする装具。
【背景技術】
【0002】
一般的に、痙性斜頸という疾患が知られている。痙性斜頸は、首が左右上下の何れかの方向に、傾く、捻じれる、震えるといった不随意運動を引き起こす局所性ジストニアの一種である。痙性斜頸は、頸部ジストニアとも呼ばれる。日本で1〜3万人程の痙性斜頸の患者がいるとされるが、痙性斜頸の原因は解明されていない。
【0003】
痙性斜頸の治療法として、理学療法、薬物治療、外科的治療が行われている。理学療法は、自律訓練法によるリラックス・バイオフィードバックである。薬物治療は、ボツリヌス菌毒素の注射である。外科的治療は、脳深部刺激療法、選択的抹消神経遮断術・副神経減圧術である。
【0004】
上記の治療法のほか、痙性斜頸を解消するために、ハンガー反射を利用した装具が知られている(例えば、特許文献1。)。この特許文献1に記載の装具は略楕円形状で弾性を有する。装具の短軸の長さが頭部の幅に相当するので、装具を頭部の側頭部に適合して装着すると、装具が側頭部近辺で当接する。この場合、頭部の左右の側頭部から中心方向に、それぞれ一直線上に対向する圧力が作用し、装具は安定した状態で装着可能となる。このような装具を、ずらして装着することにより、頭部の回旋を誘発する。
【0005】
このような頭部の回旋が誘発されるメカニズムは明らかになっていないが、仮説の一つとして、装着者に、頭部を回旋させようとする外力の知覚(錯覚)を与えることが考えられる。
【0006】
具体的には、特許文献1に記載の装具について、ずらして装着する前、側頭部において内部に向かう方向の一直線上に、圧力が対向して作用する。一方、装具をずらすことにより、装具が頭部に当接する位置がずれる。さらに装具が略楕円形状であることにより、頭部への圧力が一直線上に対向しない状態となる。この状態の装具は、当接した頭部の皮膚を随伴して、元の安定した状態に戻ろうとする力を生じさせる。ここで頭部の皮膚の弛みにより、装具の当接部分の皮膚変形が生じる。
【0007】
このように、ずれた状態を戻そうとして生じた皮膚変形は、装着者に、頭部を回旋させようとする外力の知覚(錯覚)を与え、頭部の回旋を誘発するとの仮説がある。
【0008】
このような特許文献1に記載の装具は、痙性斜頸の患者の症状にあわせて、患者の症状である頭部の回旋運動の方向と反対方向の回旋運動を誘発することにより、痙性斜頸の症状の緩和に寄与する。具体的には、時計回り方向に回旋が生じる患者に、反時計回りの回旋運動を誘発するように装具を装着させることにより、患者の回旋を緩和することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号を付している。
【0027】
(実施の形態)
図1ないし
図7を参照して、本発明の実施の形態に係る装具1を説明する。
【0028】
装具1は、頭部に適合する形状を有する。装具1は、略楕円形状を有しており、装着者の頭部11の側頭部(こめかみ)近傍に密着するように装着される。本発明の実施の形態に係る装具1は、略楕円形状の短軸の長さが頭部11の幅に相当する状態からずらして装着する。この際、外層部2の弾性を利用して、ずらす前より強い力で、頭部11の所定箇所を圧迫する圧迫部が形成され、頭部の回旋運動を誘発する。本発明の実施の形態においては、
図7に示すように、外層部2の弾性を利用して、少なくとも2箇所をそれぞれ圧迫する圧迫部24aおよび24bが形成される。
【0029】
本発明の実施の形態に係る装具1は、痙性斜頸の治療器具に適用可能で、特に回旋系の痙性斜頸の症状を緩和させることが可能である。また、装具1は痙性斜頸に限らず、頭位の異常を示す斜頸症状全般、肩こりなどの症状の緩和に寄与することが可能である。
【0030】
本発明の実施の形態において装着者は、略楕円形状の短軸が、両側頭部を結ぶ線に対応するように装具1を着用する。従って、本発明の実施の形態において、「長軸方向」は、装具1を正面で装着した場合の装着者の前後方向に対応し、「短軸方向」は、装具1を正面で装着した場合の装着者の左右方向に対応する。
【0031】
図1に示すように装具1は、外層部2、緩衝部3および調整手段4を備える。なお、本発明の実施の形態において、調整手段4がベルト形状である場合を説明するが、後述の第1の変形例に示すように、調整手段4がベルト形状ではない場合にも、本発明の実施の形態に係る装具1を適用可能である。
【0032】
本発明の実施の形態に係る装具1は、
図1および
図2に示すように、調整手段4により、装着者の頭部11の幅にあわせて、装具1の略楕円形状の短軸方向の長さを調節可能である。
【0033】
(外層部)
外層部2は、頭部11に装着可能な程度の弾性を有する。外層部2の素材としては、素材表面をアルマイト加工したアルミニウムなどが考えられる。外層部2は、上述のアルミニウムで形成される場合、例えば、2センチ程度の幅および2ミリ程度の厚みを有する。誘発する回旋の度合いや素材等に応じて、外層部2の幅および厚みは適宜設定される。
【0034】
外層部2は、略楕円形状を維持する。ここで「略楕円形状」は、円の対向する部分が押しつぶされた形状のことを意味し、代数的に表現可能な楕円でなくとも良い。本発明の実施の形態において外層部2は、装着者の両側頭部を経由する形状である。外層部2は、略楕円形状の長軸方向の前方または後方に開口を設けることで形成された略C型形状である。本発明の実施の形態においては、装着者の後方に開口が設けられる場合を説明するが、前方に設けられても良い。外層部2の開口の両側は、
図1に示すように、調整手段4を形成する接続部材によって接続される。
【0035】
本発明の実施の形態において外層部2は、略楕円形状の短軸方向に接近または離反可能な被調整部23aおよび23bを有する。
【0036】
本発明の実施の形態において被調整部23aおよび23bは、それぞれ、
図1に示すように、装具1の短軸上近傍に設けられる。被調整部23aおよび23bは、装具1を装着者の正面で装着し、調整手段4が装着者の後頭部に位置するように装着した際、装着者の頭部11の側頭部近傍に最も接近する部分に設けられる。その後調整手段4は、被調整部23aおよび23bがそれぞれ装着者の側頭部近傍に当接するように、被調整部23aおよび23bの位置を調節する。
【0037】
被調整部23aおよび23bの位置は、サイズの異なる様々な装着者の頭部の形状に適合するように、調節される。被調整部23aおよび23bの可変幅は、装具1の販売地域における装着者の頭部の形状によって適宜設定される。具体的には、日本人の頭部の形状について考察したところ、90%以上の日本人の頭部の頭幅は、2.5センチの誤差の範囲内に収まることが知られている。従って、日本において販売される装具1の場合、多くの日本人の頭部の形状に適合するために、被調整部23aおよび23b間の距離は、2.5センチ程度の可変幅を有することが好ましい。この可変幅は、外層部2の素材や開口の大きさ等によって調節される。
【0038】
ここで調整手段4によって、略楕円形状の短軸の長さが頭部11の幅に相当するように被調整部23aおよび23bが調整された際、調整手段4を形成する接続部材は、頭部11を圧迫しない位置に配置される。換言すると、外層部2の開口の両側は、後頭部位置まで延伸して設けられる。これに対し外層部2の開口の両側が両側頭部に設けられる場合、頭部11の後頭部のカーブ形状に依っては、この両側を接続する接続部材が後頭部を強く圧迫し、外層部2において適切に圧迫部が形成されない場合がある。従って、外層部2の開口の両側を、後頭部位置まで延伸して設け、接続部材が頭部11を圧迫しない状況にすることにより、適切な圧迫部24aおよび24bの形成を実現する。
【0039】
なお、本発明の実施の形態においては、被調整部23aおよび23bは、
図1等に示すように、装具1の短軸上近傍であって、頭部11の側頭部近辺に設けられる場合を説明するが、装具1の短軸方向の長さを頭部11の幅に調整可能であれば、どのように設けられても良い。例えば、被調整部23aおよび23bが、装具1の側頭部より後方などの、側頭部から離れた位置に設けられ、調節手段4がこの被調整部23aおよび23bを調節することにより、装具1の短軸方向の長さを、頭部11の幅に調整しても良い。
【0040】
さらに、本発明の実施の形態においては、被調整部23aおよび23bが、左右対称位置に2つ設けられる場合を説明するが、これに限られない。装具1は、被調整部を3つ以上備え、調整手段4が、これらの被調整部をそれぞれ調整して、装具1の短軸方向の長さを、頭部11の幅に調整しても良い。あるいは装具1の左右のうちの一方が固定される場合、被調整部は、固定されていないもう一方に設けられても良い。この場合、調整手段4が、略楕円形状の短軸が頭部11の幅に相当するように、被調整部(固定されていない方)を調整してもよい。
【0041】
(緩衝部)
緩衝部3は、外層部2の内周に設けられ、頭部11の所定箇所を緩衝する。頭部11の所定箇所は、側頭部前方および対側の側頭部後方、前頭部上方および後頭部下方、前頭部下方および後頭部上方、側頭部上方および対側の側頭部下方、前頭部左方上方および後頭部右方下方、前頭部右方上側および後頭部左方下側、前頭部左方下側および後頭部右方上側、または前頭部右方下側および後頭部左方上側である。
【0042】
緩衝部3は、装具1を回転可能な程度の摩擦力があり、かつ圧迫点において強い接触が発生した時に極端に強い摩擦を発生し頭部11に固定可能である素材により形成される。緩衝部3は、例えば、ウレタン樹脂が好ましい。また、緩衝部3の素材の厚みは、素材により適宜決めればよいが、実施の形態のウレタン樹脂であれば、3ミリ程度である。
【0043】
本発明の実施の形態において緩衝部3は、外層部2の内周全体に設けられる場合を説明するが、これに限られない。例えば、装具1を正面で装着した際の側頭部近辺であって、ずらして装着した際に圧迫部24aおよび24bが形成される位置の内周に緩衝部3を設け、そのほかの内周部分には、緩衝部3を設けない構成としても良い。
【0044】
(調整手段)
調整手段4は、略楕円形状の短軸が頭部11の幅に相当するように被調整部23aおよび23bを調整する。調整手段4は、略楕円形状の短軸方向に接近または離反可能に調整して、装具1を正面で装着した際、被調整部23aおよび23bがそれぞれ装着者の側頭部近傍に当接するように、被調整部23aおよび23bの位置を調節する。
【0045】
本発明の実施の形態において調整手段4は、非伸縮性ないし難伸縮性を有する接続部材(ベルト)で形成される。接続部材は、外層部2の開口を接続するように配置される。調整手段4は、外層部2の開口の両側の開閉に追従して伸縮しなければどのような部材であっても良い。調整手段4(接続部材)は、頭部11の回旋の誘発を妨げないように形成される。
【0046】
調整手段4の接続部材は、例えば、面ファスナーである。
図3に示すように、接続部材の内側に面ファスナーのフック部およびループ部の一方が設けられ、外層部2の外側に、面ファスナーのフック部およびループ部の別の一方が設けられる。具体的には、
図1に示すように、調整手段4の両側の内側(頭部側)に、両面テープや接着剤等により、面ファスナーのフック部41が固定される。また、外層部2の両端近傍の外側(頭部と反対側)に、両面テープや接着剤等により、面ファスナーのループ部22が固定される。外層部2のループ部22が周方向に長く設けられることにより、調整手段4の両側を、所望の位置で固定することが可能となる。従って、調整手段4は、外層部2の開口を適切な位置でロックし、被調整部23aおよび23bの距離を調節することができる。
【0047】
ここで外層部2は弾性を有するので、開口の両側を近づけたり遠ざけたりすることにより、被調整部23aおよび23bの位置は、短軸方向に接近または離反可能に変化する。そこで調整手段4が、被調整部23aおよび23bを所望の位置でロックし、被調整部23aおよび23bの位置が所定の幅より離反しないようにする。装着者が装具1の短軸の長さが頭部11の幅に相当する状態で装着して調整手段4がロックすることにより、装具1は、装着者の頭部11の幅の距離よりも大きく広がらない。これにより、この位置からずらして装着した場合、ずらした位置において、外層部2を多少押し広げつつ、圧迫部24aおよび24bがそれぞれ形成され、所定箇所を適切に圧迫することができる。
【0048】
上述したように調整手段4は、被調整部23aおよび23bの位置が「所定の幅」より離反しないようにする。ここで「所定の幅」は、頭部11の幅に対応する値より大きい。また「所定の幅」は、装具1をずらして装着した際に外層部2が押し広げられた幅であって、圧迫部24aおよび24bにおいて、頭部11を適切に圧迫可能な幅である。
【0049】
図1は、被調整部23aおよび23bが短軸方向に離反して設けられる場合を示し、
図2は、被調整部23aおよび23bが接近して設けられる場合を示す。
図1における被調整部23aおよび23bの幅W1は、
図2における被調整部23aおよび23bの幅W2よりも広い。
【0050】
被調整部23aおよび23bは、調整手段4のフック部41を、ループ部22の外層部2の端に近い位置で接続することにより、調整手段4のベルトと外層部2が重複する部分は小さくなり、調整手段4のベルトと外層部2が重複しない部分が大きくなる。この場合、
図1に示すように、外層部2の両側が遠くなるのに伴って、被調整部23aおよび23bも離反して設けられ、被調整部23aおよび23bの幅W1を広く固定することができる。
【0051】
一方、被調整部23aおよび23bは、調整手段4のフック部41を、ループ部22の外層部2の端から遠い位置で接続することにより、調整手段4のベルトと外層部2が重複する部分は大きくなり、調整手段4のベルトと外層部2が重複しない部分が小さくなる。この場合、
図2に示すように、外層部2の両側が近くなるのに伴って、被調整部23aおよび23bも接近して設けられ、被調整部23aおよび23bの幅W2を狭く固定することができる。
【0052】
本発明の実施の形態において、調整手段4のベルトと外層部2との重複エリアを加減して面ファスナーで固定することにより、被調整部23aおよび23bの距離を適宜調整することを可能とする。これにより、頭部11に密接する装具1の幅Wを適切に調節することが可能となるので、この一つの製品で、広いサイズの多くの装着者に適用可能となる。
【0053】
本発明の実施の形態において調整手段4は、非伸縮性ないし難伸縮性を有する接続部材(ベルト)であるので、剛性が低く変形しやすい一方、外層部2の両側の開閉に追従して伸縮することはない。また、外層部2は弾性を有し、開口が設けられているので、非装着時には、ベルトで固定していても、装具1は開口を閉じる方向に変形する。しかしながら、装具1の装着時には、頭部11の側頭部の幅と、被調整部23aおよび23bの幅Wとが対応するように調整されロックされる。従って、装具1を周方向に回転してずらしたとしても、被調整部23aおよび23bの幅Wは、頭部11の側頭部の幅より短くなることはない。また被調整部23aおよび23bの幅Wは、外層部2の弾性により若干広がるものの、調整手段4により大きく広がらないようにロックされる。従って、圧迫部24aおよび24bにおいて装具1は、外層部2の弾性により適切な圧迫を与えることができる。
【0054】
本発明の実施の形態において外層部2は、
図1ないし
図4に示すように、外層部2の開口の両側に支持部21が設けられる。支持部21は、外層部2の開口の両端に設けられ、両端を覆うキャップの役割を有しても良い。支持部21は、
図4(a)および
図4(b)に示すように、ネジ止め部21aおよび穴21bを有する。ネジ止め部21aでネジを差し込むことにより、支持部21は、外層部2の各端を覆うように設けられる。穴21bは、接続部材を通す。本発明の実施の形態において接続部材は、穴21bを経由して、接続部材の内側の面ファスナーが、外層部2の外側の面ファスナーに接続する。これにより、接続部材の面ファスナーが外れにくい構成とすることができる。また支持部21の穴21bは、
図4(b)に示すように、頭部の外側方向が小さく形成されることにより、
図4(a)に示すように、調整手段4の接続部材を穴の外側のエッジで支えてもよい。これによりさらに、接続部材の面ファスナーが外れにくい構成とすることができる。
【0055】
また、接続部材の両端を、穴の大きさよりも大きくなるように厚く形成することにより、接続部材が穴21bから抜けにくく、接続部材の紛失を回避することが可能となる。
【0056】
(装具の作用)
図5ないし
図7を参照して、装着者が装具1を正面で装着した後、ずらすことにより圧迫部24aおよび24bが生じる作用を説明する。
【0057】
図5は、頭幅の広い装着者が、装具1を装着した状態を上から見た図である。
図5(a)に示すように、装着者が装具1を正面で装着し、調整手段4で調整すると、装具1の被調整部23aおよび23bは、装着者の側頭部に当接する。被調整部23aおよび23bの距離は、W1である。装具1の前方および後方は、装着者に当接しないか、あるいは、軽く触れる程度である。
【0058】
装具1は、頭部の形状に適合し、略楕円形状であるので、頭部11に装着したまま回転させることができる。そこで、装具1を側頭部方向に回転させると、外層部2の弾性の効果により、装具1は回転により頭部11の形状と装具1の形状とにずれが生じる。この結果、
図5(b)に示すように、例えば2箇所の圧迫部24aおよび24bが形成され、圧迫部24aおよび24bに力が加わる。このように回転された装具1は、頭部11の圧迫部24aおよび24bに接触した状態で変形の限界を迎え、頭部11を圧迫したまま静止する。
【0059】
このとき装具1は、外層部2が弾性を有するので、外層部2が圧迫部24aおよび24bにおいて外側に変形することにより、圧迫部24aおよび24bの距離は、W1a(>W1)となる。また、緩衝部3が力を吸収可能なウレタンで形成される場合、
図5(b)に示すように、圧迫部24aおよび24bにおいて緩衝部3(ウレタン)は圧縮され、形状に変化が生じる。ここで、調整手段4により、略楕円形状の短軸方向が大きく広がらないようにロックされている。従って、外層部2の変形の限界以上に圧迫部24aおよび24bの距離は大きく広がることがなく、圧迫部24aおよび24bで適切に圧迫することを可能とする。
【0060】
図6は、頭幅の狭い装着者が、装具1を装着した状態を上から見た図である。装具1は、外層部2が弾性を有するので、外層部2が圧迫部24aおよび24bにおいて外側に変形することにより、圧迫部24aおよび24bの距離は、W2a(>W2)となる。
図6においても
図5と同様に、調整手段4により、略楕円形状の短軸方向が大きく広がらないようにロックされている。従って、外層部2の変形の限界以上に圧迫部24aおよび24bの距離は大きく広がることがなく、圧迫部24aおよび24bで適切に圧迫することを可能としている。
【0061】
このように、装具1は、頭部11の所定箇所にのみを圧迫するとともに、患者は、頭部11からずり落ちることなく装具1を装着することができる。
【0062】
さらに
図7を参照して、装具1をずらして装着した際に形成される圧迫部24aおよび24bを説明する。本発明の実施の形態に係る装具1を角度αだけ周方向に回転させると、
図7(a)に示すように、ずらす前よりも強く圧迫される圧迫部24aおよび24bと、ずらす前よりも弱く圧迫される、また、ゆとりが大きくなるゆとり部5aおよび5bが、それぞれ生じる。
【0063】
ここで、装具1に弾性がないと仮定して、装具1の輪郭と、頭部11の輪郭とを重畳すると、
図7(b)に示すように、圧迫部24aにおいて、装具1の輪郭と、頭部11の輪郭との間に、距離dのひずみが生じる。しかしながら本発明の実施の形態において装具1の外層部2は弾性を有する。従って装具1の輪郭が頭部11にフィットし、外層部2は頭部11の当接部分の形状にあわせて押し広げられるとともに、圧迫部24aが形成される。
【0064】
(装具の圧迫箇所)
図8ないし
図11を参照して、本発明の実施の形態に係る装具1によって形成される圧迫部24aおよび24bの位置とその回旋パターンを説明する。
図8ないし
図11に示すように、装具1は、圧迫部24aおよび24bが形成される位置によって、左右回旋、側屈回旋、前後回旋及びこれらの混合の各回旋を誘発することを可能とする。本発明の実施の形態において「側屈」とは、頭部が左右に傾く状態を言う。「前後屈」とは、頭部が前後に傾く状態を言う。
図8ないし
図11において、それぞれ、(a)の図は、装着者の正面から観察した図であって、(b)の図は、装着者の右側から観察した図であって、(c)の図は、装着者の左側から観察した図である。なお、
図8ないし
図11に示す位置は一例であって、装着者の症状や状態などに応じて、変更可能である。
【0065】
まず
図8を参照して、側頭部前方および対側の側頭部後方を圧迫することに伴う、頭部11の左右回旋パターンについて説明する。装着者は、頭部11のこめかみ部分近辺の高さで装具1を水平に装着する。装着者は、被調整部23aおよび23bの距離が頭幅にあうように、調整手段4により調整する。装着者は、装具1を左右方向いずれかの向きに回転させ、被調整部23aおよび23bを、それぞれ側頭部前方および対側の側頭部後方に一致させることにより、側頭部前方および対側の側頭部後方に、圧迫部24aおよび24bが形成される。これにより、左右方向の回旋を誘発できるので、例えば左右方向の痙性斜頸の症状を緩和させることができる。
図8の例では、左回旋を誘発するので、右回旋の痙性斜頸を矯正することができる。
【0066】
次に
図9を参照して、側頭部上方および対側の側頭部下方を圧迫することに伴う、頭部11の側屈方向の回旋パターンを説明する。装着者は、頭部11のこめかみ部分付近の高さで装具1を水平に装着する。装着者は、被調整部23aおよび23bの距離が頭幅にあうように、調整手段4により調整する。装着者は、装具1の側頭部付近の一方を上方に、他方を下方にずらして、被調整部23aおよび23bを、それぞれ側頭部上方および対側の側頭部下方に一致させることにより、側頭部上方および対側の側頭部下方に、圧迫部24aおよび24bが形成される。これにより、側屈方向の回旋を誘発できるので、例えば側屈方向の痙性斜頸の症状を緩和させることができる。
図9の例では、右側屈方向の回旋する誘発するので、左に側屈する痙性斜頸を矯正することができる。
【0067】
次に
図10を参照して、前頭部上方および後頭部下方を圧迫することに伴う、頭部11の前後屈の回旋パターンについて説明する。装着者は、頭部11のこめかみ部分付近で装具1を水平に装着する。装着者は、被調整部23aおよび23bの距離が頭幅にあうように、調整手段4により調整する。装具1を前頭部上方および後頭部下方にずらして、被調整部23aおよび23bを、それぞれ前頭部上方および後頭部下方に一致させることにより、前頭部上方および後頭部下方に、圧迫部24aおよび24bが形成される。これにより、前後屈方向の回旋を誘発できるので、例えば前後屈方向の痙性斜頸の症状を緩和させることができる。
図10の例では、後屈方向の回旋を誘発するので、前屈する痙性斜頸を矯正することができる。
【0068】
次に
図11を参照して、前頭部左方上方および後頭部右方下方を圧迫することに伴う、頭部11の側屈および前後屈方向の複合回旋パターンについて説明する。装着者は、頭部11のこめかみ部分付近で装具1を水平に装着する。装着者は、被調整部23aおよび23bの距離が頭幅にあうように、調整手段4により調整する。装具1をずらして、被調整部23aおよび23bを、それぞれ前頭部左方上方および後頭部右方下方に一致させることにより、前頭部左方上方および後頭部右方下方に、圧迫部24aおよび24bが形成される。
図11の例では、左方上方方向の回旋を誘発するので、右方下方に回旋する痙性斜頸を矯正することができる。
【0069】
図11に示す例は、
図9および
図10を参照して説明した回旋パターンの複合である。このように、複数のパターンを複合することで、複雑な回旋パターンにも対応することができる。従って、本発明の実施の形態に係る装具1は、あらゆる方向への回旋を誘発することが可能である。
【0070】
(第1の変形例)
本発明の実施の形態においては、調整手段4がベルトで形成され、面ファスナーで外層部に固定することにより、外層部2の開口をロックする場合を説明したが、これに限られない。
【0071】
例えば
図12に示すように、装具1aの調整手段4aは、開口の両側にそれぞれ接続する第1の接続部材41aおよび第2の接続部材41bと、第1の接続部材41aおよび第2の接続部材41bが互いに接続する位置を調節して固定する固定部41cを備える。
【0072】
図12に示す例において、第1の接続部材41aおよび第2の接続部材41bは、非伸縮性ないし難伸縮性を有する紐状部材である。第1の接続部材41aは、外層部2の開口の右側に設けられた穴に接続し、第2の接続部材41bは、外層部2の開口の左側に設けられた穴に接続する。さらに、第1の接続部材41aおよび第2の接続部材41bが固定部41cにより固定されることにより、外層部2の開口を、所定位置でロックすることが可能となる。
【0073】
図13に示すように、装具1bの調整手段4bは、開口の両側にそれぞれ接続する第1の接続部材42aおよび第2の接続部材42bと、第1の接続部材42aおよび第2の接続部材42bが互いに接続する位置を調節して固定する固定部42cを備える。
【0074】
図13に示す例において、第1の接続部材42aおよび第2の接続部材42bは、非伸縮性ないし難伸縮性を有するベルト状部材である。第2の接続部材42bに、所定の間隔で複数の突起が設けられており、この突起が固定部42cを形成する。また第1の接続部材42aに、第2の接続部材42bの突起の間隔および大きさに対応して複数の穴が形成される。第2の接続部材42bの突起の固定部42cを、第1の接続部材42aの穴に通すことにより、外層部2の開口を、所定位置でロックすることが可能となる。
【0075】
図14に示すように、装具1cの調整手段4cは、開口の両側にそれぞれ接続する第1の接続部材43aおよび第2の接続部材43bと、第1の接続部材43aおよび第2の接続部材43bが互いに接続する位置を調節して固定する固定部43cを備える。
【0076】
図14に示す例において、第1の接続部材43aおよび第2の接続部材43bは、非伸縮性ないし難伸縮性を有するベルト状部材である。第2の接続部材43bに、ベルトのバックルと同様の構成を持ち、穴に係止する突起を有する固定部43cが接続する。第1の接続部材43aに、固定部43cの突起大きさに対応して複数の穴が形成される。固定部43cは、第1の接続部材43aを通し、固定部43cの突起で第1の接続部材43aの穴に係止することにより、外層部2の開口を、所定位置でロックすることが可能となる。
【0077】
さらに、
図15に示すように、外層部2に面ファスナーを設けない装具1dおよび調整手段4dも考えられる。
図15に示す装具1dにおいて、外層部2の両端に、本発明の実施の形態で説明した支持部21が、それぞれ形成される。外層部2の一方の先端に、本発明の実施の形態で説明したベルトの一端が接続される。ベルトは、支持部21の穴を経由して縫い合わせされるなどにより、支持部21に固定的に接続する。さらにベルトの別の一端は、ベルトが接続されていない外層部2の端の支持部21の穴に通され、折り返される。ここで、ベルトの表側(頭部の反対側)の中程44aと先端44bに、面ファスナーを設けることにより、外層部2の開口を、所定位置でロックすることが可能となる。
【0078】
このように、調整手段4の実施例は、様々なパターンが考えられ、外層部2の開口を、所定位置でロックし、圧迫部24aおよび24bの形成が可能であれば、どのように実装されても良い。
【0079】
(第2の変形例)
図16および
図17を参照して、第2の変形例に係る装具1eおよび1fを説明する。第2の変形例に係る装具1eおよび1fは、本発明の実施の形態に係る装具1と比べて、着脱部を備える点が異なる。着脱部は、緩衝部の内側に着脱可能に装着され、頭部11に触れる部分である。着脱部は、頭部11の圧迫を緩衝部に伝播する部材で形成されることにより、着脱部を装着しても、装着しない場合と同様の効果が得られる。
【0080】
図16に示す装具1eにおいて、着脱部6aは、筒状に形成されることにより、外層部2および緩衝部3の全体を覆う。これにより、外層部2がアルマイト等の金属で整形されても、着脱部6aで外層部2を覆い隠すことができるので、バンダナのような印象を与える。従って、装着者は、周囲の人の視線を気にすることなく、装具1eを装着することができる。さらに、緩衝部3の内側も着脱部6aにより覆われているので、装具1eが頭部11に触れることによる汚れが、緩衝部3に付着することを回避することができる。また、着脱部6aは着脱可能であるので、着脱部6aの洗濯や取り替えにより、装着者は、清潔に装着することができる。
【0081】
図17に示す装具1fにおいて、着脱部6bは、面ファスナーにより形成される。緩衝部3の内側に、面ファスナーのループ部3aを、両面テープや接着剤などにより固定し、着脱部6bを、フック部を付したベルトで形成する。このような着脱部6b着脱可能であるので、洗濯や取り替えにより、装着者は、清潔に装着することができる。
【0082】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明の実施の形態、第1の変形例および第2の変形例によって記載したが、この開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなる。
【0083】
例えば、本発明の各実施の形態においては、ハンガー反射の圧迫点が2箇所の場合について説明したが、1箇所であっても良いし、3箇所以上であっても良い。
また本発明の実施の形態においては、外層部2に、開口が設けられた略C型である場合を説明するが、開口が設けられていない場合にも適用可能である。
【0084】
本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。従って、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。