(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6593608
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】医療用吸引管
(51)【国際特許分類】
A61M 1/00 20060101AFI20191010BHJP
A61M 27/00 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
A61M1/00 161
A61M27/00
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-186769(P2017-186769)
(22)【出願日】2017年9月27日
(65)【公開番号】特開2019-58497(P2019-58497A)
(43)【公開日】2019年4月18日
【審査請求日】2018年9月14日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517340286
【氏名又は名称】株式会社織田鐵工所
(73)【特許権者】
【識別番号】318006228
【氏名又は名称】大平研究所株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】大平 猛
【審査官】
小原 一郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−215747(JP,A)
【文献】
特開2016−165426(JP,A)
【文献】
特開2015−139614(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3008546(JP,U)
【文献】
特表2006−513803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00
A61M 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状の吸引管本体を備え、
前記吸引管本体の端面には、前記吸引管本体の基端側から先端側に向かって突出する凸部が設けられ、
前記端面は、複数の前記凸部を有する凹凸領域と、
前記凸部の幅よりも幅広な平坦面を有する平坦領域と、を有し、
前記凹凸領域と前記平坦領域は、互いに相対するよう配置されていることを特徴とする、医療用吸引管。
【請求項2】
前記凸部は、前記端面の周方向に間隔をおいて複数設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の医療用吸引管。
【請求項3】
前記凸部の高さは、0.5〜10.0mmの範囲に設定されていることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の医療用吸引管。
【請求項4】
前記凸部の幅は、0.5〜2.0mmの範囲に設定されていることを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載の医療用吸引管。
【請求項5】
前記凸部の各辺は、面取り加工されていることを特徴とする、請求項1〜4の何れかに記載の医療用吸引管。
【請求項6】
前記凹凸領域は、前記端面の35〜65%の範囲に形成されていることを特徴とする、請求項1〜5の何れかに記載の医療用吸引管。
【請求項7】
前記凹凸領域の高さは、前記平坦領域の高さよりも低く設定されていることを特徴とする、請求項1〜6の何れかに記載の医療用吸引管。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の医療用吸引管に設けられる吸引管本体であって、
前記医療用吸引管に着脱可能に構成されていることを特徴とする、吸引管本体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施術箇所から体液や洗浄液等の吸引対象を吸引して除去するために用いる医療用吸引管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療用吸引管の分野においては、体液等の吸引対象を吸引する機能に加えて、生体組織を剥離する機能を付加した医療用吸引管の技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、鋸歯状の外面形状を有するチップを吸引管の先端に設けることで、生体組織と適度な引っかかりを生じさせ、剥離性能を向上させた医療用剥離吸引嘴管の技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3265452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、悪性腫瘍のリンパ行性転移に対する処置としてリンパ節を切除する、「リンパ節郭清」という外科的治療法が知られている。
【0006】
しかしながら、従来の医療用剥離吸引嘴管では、リンパ節は動脈周囲の脂肪組織に埋もれるようにして網状に分布しており、脂肪組織や体液が視界を遮る中、動脈や動脈周辺に走る自律神経を損傷させずにリンパ節を除去することは容易ではない。
【0007】
本発明は、以上のような点を考慮してなされたものであり、リンパ節の除去に適した医療用吸引管を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係る医療用吸引管は、管状の吸引管本体を備え、前記吸引管本体の端面には、凸部が設けられていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る医療用吸引管によれば、凸部を脂肪組織内に侵入させて、凸部とリンパ節(及びリンパ管)との間で適度な引っかかりを生じさせ、リンパ節の除去を容易に行うことができる。特に、凸部が吸引管本体の端面に設けられていることにより、凸部により除去したリンパ節や脂肪組織、手術中に滲出する体液等を、すぐさま吸引管により吸引することができるので、施術箇所の視認性を向上させながらリンパ節の除去を容易に行うことができる。
【0010】
本発明の好ましい形態では、前記凸部は、前記端面の周方向に間隔をおいて複数設けられていることを特徴とする。
このように、凸部を端面の周方向に間隔をおいて複数設けることにより、リンパ管やリンパ節を引っかける領域を広く設けて、リンパ節の除去を効率良く行うことができる。
【0011】
本発明の好ましい形態では、前記凸部の高さは、0.5〜10.0mmの範囲に設定されていることを特徴とする。
このような凸部の高さに設定することにより、肉眼で直接視認することができない脂肪組織に埋もれたリンパ管を効率良く捕捉することができる。
【0012】
本発明の好ましい形態では、前記凸部の幅は、0.5〜2.0mmの範囲に設定されていることを特徴とする。
このような凸部の幅に設定することにより、肉眼で直接視認することができないリンパ管を効率良く捕捉することができる。
【0013】
本発明の好ましい形態では、前記凸部の各辺は、面取り加工されていることを特徴とする。
このように、凸部の各辺を面取り加工することにより、凸部が動脈や動脈周辺に走る自律神経と接触してしまった際に、傷つけてしまうことを抑制することができる。
【0014】
本発明の好ましい形態では、前記端面は、複数の前記凸部を有する凹凸領域と、前記凸部の幅よりも幅広な平坦面を有する平坦領域と、を有していることを特徴とする。
このように、吸引管本体の端面に平坦領域を形成することにより、体液等の牽引・吸引を行う際に、組織(特に実質臓器)の損傷リスクを低減することができる。
また、本発明の好ましい形態では、前記凹凸領域の高さは、前記平坦領域の高さよりも低く設定されていることを特徴とする。
このように、凹凸領域の高さを平坦領域の高さよりも低くすることにより、吸引管本体を傾けなければ凸部が患部に侵入しないよう構成することができ、損傷リスクを低減することができる。
【0015】
本発明の好ましい形態では、前記凹凸領域は、前記端面の35〜65%の範囲に形成されていることを特徴とする。
このように、凹凸領域を端面の35〜65%の範囲に形成することで、凹凸領域の機能を十分に発揮させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、リンパ節の除去に適した医療用吸引管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る医療用吸引管の正面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る医療用吸引管の端面周辺の平面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る医療用吸引管の端面周辺の正面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る医療用吸引管の端面周辺の斜視図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る医療用吸引管から吸引管本体を分離した状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を図面に示した好ましい一実施形態について
図1〜
図5を用いて詳細に説明する。本発明の技術的範囲は、添付図面に示した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、適宜変更が可能である。
【0019】
図1は、本実施形態に係る医療用吸引管100の正面図である。本発明に係る医療用吸引管100は、施術箇所に近接される吸引管本体1と、この吸引管本体1が接続され施術者が把持する把手2と、吸引手段に接続されるコネクタ3と、把手2に設けられ吸引圧を操作可能なコック4と、を備えている。このコック4は、施術者が状況に応じて最適な吸引圧に調整可能なよう構成されており、例えば、把手2内に設けられた調圧孔(図示なし)の開閉幅を指先で調節可能な構成等が採用される。
【0020】
吸引管本体1は、管状に形成されており、吸引管本体1の端面Aには主吸引孔Mが、側面Bには複数の副吸引孔Sが、内部Cにはこれらの吸引孔から吸引された体液等が吸引手段まで流通する流通路が形成されている。
【0021】
この吸引管本体1の材料としては、曲げ剛性があり軽量かつ肉薄に形成可能な材料を採用することが好ましく、例えば、ステンレス鋼、チタニウム合金、ジュラルミン、抗力アルミ鋼、真鍮等の金属や、ナイロン樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、PET等の樹脂を例示することができる。
【0022】
また、吸引管本体1の外径Dとしては、4.0〜8.0mm程度に設定されることが望ましく、肉厚Tは、0.1〜2.0mm程度であることが望ましい。
なお、本実施形態においては、円管状の吸引管本体1を示したが、任意の形状を採用することが可能であり、例えば、楕円管状や角管状等を採用してもよい。
【0023】
吸引管本体1の端面Aには、複数の凸部11を有する凹凸領域Uと、この凸部11の上面11aよりも幅広な平坦面12aを有する平坦領域Fと、が設けられている。
図2ないし
図4は、吸引管本体1の端面A周辺の拡大図であり、
図2は端面A周辺の平面図を、
図3は端面A周辺の正面図を、
図4は端面A周辺の斜視図をそれぞれ示している。
【0024】
凹凸領域Uは、凸部11が端面Aの周方向に間隔をおいて複数設けられており、この凸部11が複数配列したことで、側面視において矩形状(或いは櫛状)となる凹凸表面が形成されている。
なお、本実施形態における凹凸領域Uでは、凸部11が3つ間隔をおいて配列された構成を示したが、施術者の要望等によって、任意の数(例えば、1つ〜5つ)に変更することも可能である。
【0025】
凸部11は、吸引管本体1の基端側から先端側に向かって突出した柱状に形成されている。なお、
図2においては、平面視で略長方形状の凸部11を示したが、これに限られず円状や楕円状のものを採用してもよい。
なお、本実施形態のように凸部11を長方形状に形成した場合には、凸部11をリンパ節郭清範囲に圧排し擦り付けた時に(リンパ節やリンパ管などの剥離作業時に)、剥離している範囲をある程度認識することが可能である。
【0026】
凸部11の高さHは、リンパ管の漿膜からの脂肪組織内深度に対応した高さに設定されており、好ましくは「リンパ節郭清に必要な擦過性能」と「郭清に伴い発生する浸出液吸引力」をバランスよく発揮する高さH範囲に設定されている。
通常、リンパ管の漿膜からの脂肪組織内深度は0.5〜10.0mmであるため、凸部11の高さHは0.5〜10.0mmの範囲に設定されていることが望ましい。なお、吸引管で郭清箇所を圧排する場合には、圧排する分だけリンパ管までの距離が近づくため、凸部11の高さHは0.5〜5.0mmの範囲に設定されていれば良い。さらに、この凸部11の好ましい高さHは、患者の体脂肪率によっても変動する。例えば、一般的な成人の体脂肪率であれば、この高さHは2.0mm±0.5mmの範囲に設定されていることが望ましい。
このような高さHに設定することにより、凸部11が脂肪組織内に埋もれたリンパ管やリンパ節の適切な深さに到達し、効率良く除去作業を行うことができる。また、凸部11が深く侵入してしまうことを抑制し、動脈や動脈周辺に走る自律神経を傷つけてしまうことを抑制することができる。
すなわち、凸部11の高さHが、リンパ節郭清におけるリンパ管の漿膜からの脂肪組織内深度に対応しているため、リンパ管を効率良く捕捉することができる。
【0027】
凸部11の幅Wは、好ましくは0.5〜2.0mmの範囲に設定されており、より好ましくは0.7〜1.0mmの範囲に設定されており、さらに好ましくは0.9mmに設定されている。また、径方向の内側の幅W1より、径方向の外側の幅W2が大きくなるよう設定してもよい。このような幅Wに設定することにより、リンパ管やリンパ節を効率よく引掛けることができる。すなわち、凸部11の幅Wがリンパ管の直径に対応しているため、リンパ管を効率良く捕捉することができる。
なお、凸部11の奥行の長さLは、吸引管本体1の肉厚Tよりも小さく設定されており、凸部11の径方向の内側には段部13が形成されている。
【0028】
凸部11の各辺には、面取り加工が施されており、特にR加工が施されていることが望ましい。このR加工の曲率半径は、好ましくは0.1〜0.3mmの範囲に設定されており、より好ましくは0.1〜0.2mmの範囲に設定されている。このように、凸部11の各辺に面取り加工を施すことにより、凸部11が動脈や動脈周辺に走る自律神経と接触してしまった際に、傷つけてしまうことを抑制することができる。
【0029】
平坦領域Fは、凹凸領域Uの凹凸表面とは対照的にスムースな表面である平坦面12aを有している。この平坦面12aは、平面視において弧状に形成されており、この平坦面12aの外縁部は、凸部11と同様に面取り加工されていることが望ましい。
なお、本実施形態においては、平坦面12aの高さH2は、凸部11の高さHよりも高く設定されていることが望ましく(
図3参照)、例えば高さHよりも0.2mm低く設定されている。すなわち、凸部11の高さH(凹凸領域Uの高さ)を平坦面12aの高さH2(平坦領域Fの高さ)よりも低く設定されている。
このように、凹凸領域Uの高さを平坦領域Fの高さよりも低く段差を設けることにより、凸部11を用いる(患部に侵入させる)際には、吸引管本体1を少し傾けて操作する必要がある。このように、吸引管本体1を傾けなければ、凸部11が患部に侵入することが無いため、安全性を向上させることができる。
なお、平坦面12aの高さH2を凸部11の上面11aと同じ高さHに設定することや、立ち上げ部12を設けずに凸部11の下面11bと同じ高さに設定することも当然に可能である。
【0030】
すなわち、本実施形態においては、端面Aに切り欠きを施すことにより凸部11を形成しているが、端面Aから軸方向の先端側に向けて延長するように凸部11を形成してもよい。
なお、立ち上げ部12の両端部12bは、面取り加工された半円柱状に形成されている。
【0031】
凹凸領域Uは、好ましくは端面Aの35〜65%の範囲に形成されており、より好ましくは50%の範囲に設定されている。そして、平坦領域Fは、凹凸領域Uが形成された以外の領域に形成されている。
このように、凹凸領域Uと平坦領域Fとが、互いに相対する位置・範囲に形成されていることにより、施術者は吸引管本体1を軸中心に反転させたり、保持する角度を変えたりすることで、手術中の必要とされる動作に応じて、凹凸領域Uと平坦領域Fのうち組織に接触させる部分を容易に切り替えることができる。
なお、凹凸領域Uの範囲を35%以下に設定した場合には、リンパ節郭清の範囲の精度が向上するものの、郭清に伴い発生する浸出液の吸引力が犠牲となってしまう。一方、凹凸領域Uの範囲を65%以上に設定した場合には、浸出液の吸引力は向上するものの、郭清の範囲の精度が犠牲となってしまう。よって、凹凸領域Uは端面Aの35〜65%の範囲に形成されることが望ましい。
【0032】
本発明によれば、吸引管本体1の端面Aに凸部11が形成されていることにより、脂肪組織内に網状に分布するリンパ管及びリンパ節を引っかけるようにして引き出すことができ、リンパ節の除去を容易に行うことができる。
【0033】
さらに、この凸部11が主吸引孔Mの傍に形成されていることにより、凸部11により除去されたリンパ節や脂肪組織、手術中に生ずる体液をすぐさま吸引管により吸引することができるため、施術箇所の視認性を向上させることができる。さらに、吸引管と別にリンパ管及びリンパ節を引き出す器具を別途用意する必要がないため、施術の作業性を向上させることができる。
【0034】
また、凸部11の高さHが、0.5〜10mmの範囲に設定され、幅Wが0.5〜2.0mmの範囲に設定されている。これらの寸法は、高さHがリンパ節郭清におけるリンパ管の漿膜からの脂肪組織内深度に、幅Wがリンパ管の直径に合致しており、肉眼上直接確認する事が不可能なリンパ管を構造的特徴にて容易に脂肪組織内でトレースしリンパ節を捕捉し、確実なリンパ節郭清を可能としている。
また、大きな動脈周囲のリンパ節を郭清する際に、効率的に動脈周囲に巻き付いている動脈自体の栄養血管である細動脈や自律神経を残存させながら、周囲の小さなリンパ節を確実に擦過・郭清する事にも寄与し得る。
【0035】
また、本発明によれば、吸引管本体1の端面Aに平坦領域Fが形成されている。主に吸引操作が求められる場面では、凹凸が形成されていない平坦領域Fを施術箇所に接触させることで、組織(特に実質臓器)を傷つけることなく、除去組織、体液等の吸引対象を牽引・吸引することが可能である。さらにこの平坦領域Fでは、施術箇所を押さえつけて止血を行う等の作業を行うことができる。
【0036】
以上のように、リンパ節の除去に適した形状の凹凸領域Uと、吸引・牽引時における組織への接触に適した平坦領域Fと、を吸引管本体1の端面Aに形成することにより、生体組織の損傷リスクを低減しつつ、リンパ節の除去(リンパ節郭清)を容易に行うことができる。
【0037】
図5は、医療用吸引管100から吸引管本体1を分離した状態を示す正面図である。このように、吸引管本体1が把手2に着脱可能に構成されていることにより、既存の把手2に本発明に係る吸引管本体1を取付けるだけで、リンパ節郭清に適した医療用吸引管100を提供することができる。
【符号の説明】
【0038】
100 医療用吸引管
1 吸引管本体
11 凸部
12 立ち上げ部
12a 平坦面
13 段部
2 把手
3 コネクタ
4 コック
U 凹凸領域
F 平坦領域