特許第6593619号(P6593619)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6593619
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】血管攣縮抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/352 20060101AFI20191010BHJP
   A61K 36/48 20060101ALI20191010BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20191010BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   A61K31/352
   A61K36/48
   A61P9/10
   A61P9/10 103
   A61P43/00 111
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-210258(P2014-210258)
(22)【出願日】2014年10月14日
(65)【公開番号】特開2016-79117(P2016-79117A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(73)【特許権者】
【識別番号】502310416
【氏名又は名称】株式会社ラフィーネインターナショナル
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100177714
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昌平
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(72)【発明者】
【氏名】小林 誠
(72)【発明者】
【氏名】高▲柿▼ 了大
(72)【発明者】
【氏名】岸 博子
(72)【発明者】
【氏名】張 影
(72)【発明者】
【氏名】加治屋 勝子
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 和晃
【審査官】 金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−112784(JP,A)
【文献】 特表2006−509758(JP,A)
【文献】 フレグランスジャーナル,2004年,32(8),75-81
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/352
A61K 36/48
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アカセチン、又はその塩を有効成分とする血管攣縮抑制剤(但し、エイコサペンタエン酸を含有する血管攣縮抑制剤を除く)
【請求項2】
アカセチンを含有するマメ科植物抽出物を配合したことを特徴とする請求項1記載の血管攣縮抑制剤(但し、エイコサペンタエン酸を含有する血管攣縮抑制剤を除く)。
【請求項3】
マメ科植物が大豆であることを特徴とする請求項2記載の血管攣縮抑制剤。
【請求項4】
スフィンゴシルフォスフォリルコリンによって誘導される血管攣縮を抑制することを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の血管攣縮予防剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管異常収縮(血管攣縮)の抑制効果が高く、正常収縮の抑制効果が低い血管攣縮抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
狭心症、心筋梗塞、脳梗塞といった疾患による死亡者数は、合計するとがんによる死亡者数とほぼ並び、我が国の死因の第2位となっており、しかも、突然死の原因の大部分を占めている。これらの疾患の本態は、心臓や脳といった臓器自身の異常ではなく、血管の異常による血行障害、即ち血管病である。血管病の病因としては二通りあるとされている。第一の病因は、動脈硬化であり、高血圧や喫煙などの危険因子によって長い年月を掛けて進行する。第二の病因は、Ca2+濃度に依存せずに突発的に血管平滑筋が収縮する「血管異常収縮(血管攣縮)」である。特に後者は、突然致死的な血管病を発症することから、我が国の突然死の主因として恐れられている。
【0003】
上記血管異常収縮(血管攣縮)は、Ca2+濃度に依存し血圧の維持に必要な「血管の正常収縮」とは制御機構が全く異なる。従って、原理的には、血圧維持を担う正常収縮に影響を与えずに、異常収縮のみを特異的に抑制することは可能であるが、残念ながら、このような特徴を有する血管攣縮抑制剤は未開発である。したがって、血管異常収縮(血管攣縮)のみを特異的に抑制する血管攣縮抑制剤を開発することが国民健康衛生上の最重要課題である。
【0004】
近年、血管攣縮抑制効果を有する組成物として、抗HMGB1モノクローナル抗体を有効成分とする脳血管攣縮抑制剤(特許文献1参照)が提案されているが、抗体作製コストが非常に高いという問題があった。また、本発明者らは、シベレスタットを有効成分とする血管異常収縮の抑制剤(特許文献2参照)を提案した。かかる抑制剤はトロンボキサンのアナログであるU46619によって引き起こされた血管異常収縮を抑制しているが、有効最適濃度は0.2〜0.3mMと非常に高濃度であるため、人体への安全性において問題があった。さらに、本発明者らは、エイコサペンタエン酸(EPA)及びこれらの薬理学上許容可能な塩から選ばれる少なくとも1つの化合物を有効成分とする血管攣縮の予防用組成物(特許文献3参照)を提案したが、EPAは海洋生物から抽出、精製されるものであり、魚臭、海洋汚染などによる漁獲量の不安定による供給量の不安などの問題点があった。
【0005】
また、大豆中に含まれるイソフラボンを有効成分として含有し、拡張期血圧を上昇抑制乃至低下させる用途を有する、血圧上昇抑制又は低下組成物(特許文献4参照)や、イソフラボン類またはキサントン類を含有し、Na+/H+交換輸送系の亢進によって引き起こされる高血圧症、不整脈、狭心症などによる臓器障害、又は脳虚血障害の治療剤若しくは予防剤(特許文献5参照)が提案されているが、血管攣縮を抑制できるものではなかった。
【0006】
一方、本発明者らは、スフィンゴ脂質の一種であるスフィンゴシルフォスフォリルコリン(sphingosylphosphorylcholine:SPC)が血管攣縮の原因分子であることを突き止めた。さらにSPCはRho−kinaseの活性化を介してCa2+濃度非依存的に血管平滑筋を収縮させるが、SPCはFynという別のタンパク質を活性化し、活性化されたFynが血管平滑筋細胞膜壁上のメンブレンラフトと呼ばれる構造に結合することによりRho−kinaseを活性化することが、血管攣縮における重要なメカニズムであることを明らかにしている(非特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−308436号公報
【特許文献2】特開2008−214309号公報
【特許文献3】特開2007−112784号公報
【特許文献4】特開2006−096717号公報
【特許文献5】特開平10−203976号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】月刊バイオインダストリー2003年11月号 「エイコサペンタエン酸(EPA)による血管攣縮の予防効果」
【非特許文献2】Nakao F, Kobayashi S.et al. (2002) Circ.Res. 91:953-960
【非特許文献3】Shirao S, Kobayashi S.et al. (2002) Circ.Res. 91:112-119
【非特許文献4】Somlyo A.V. (2002) Circ.Res. 91:83-84
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
突然、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞などの疾患を引き起こす血管異常収縮(血管攣縮)の現時点における治療法は、疾患への関連性が少ない血管の正常収縮を抑制することにより血管の収縮を抑制するという、いわば見かけ上の治療法である。かかる治療を行えば、異常収縮を抑制できない上に、低血圧を引き起こすこととなる。そこで、本発明の課題は、上記疾患の本質的な治療に用いられる、血管異常収縮(血管攣縮)の抑制効果が高く、正常収縮の抑制効果が低い血管攣縮抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、これまでに血管攣縮抑制効果を有する物質として、魚油成分であるエイコサペンタエン酸(EPA)を同定した。しかしながら、魚油は、魚臭があり、海洋汚染などの環境の影響を受けやすく供給が不安定であるなどの欠点を有する。そこで、植物において血管攣縮抑制効果を有する物質を探索したところ、オカラに含まれる成分が高い血管攣縮抑制効果を有し、かつ低い正常収縮抑制効果を有することを見いだし、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は以下に示すとおりのものである。
(1)下記の式(I)で表される化合物、その塩又はそれらの配糖体を有効成分とする血管攣縮抑制剤。
【0012】
【化1】
【0013】
(式中、R1は水素原子でありR2は4−ヒドロキシフェニル基、又は、R1は4−メトキシフェニル基でありR2は水素原子である)
【0014】
(2)式(I)で示される化合物、その塩又はそれらの配糖体が、式(I)で示される化合物であることを特徴とする上記(1)記載の血管攣縮抑制剤。
【0015】
(3)式(I)で表される化合物を含有するマメ科植物抽出物を配合したことを特徴とする上記(2)記載の血管攣縮予防剤。
【0016】
(4)マメ科植物が大豆であることを特徴とする上記(3)記載の血管攣縮抑制剤。
【0017】
(5)スフィンゴシルフォスフォリルコリンによって誘導される血管攣縮を抑制することを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか記載の血管攣縮予防剤
【発明の効果】
【0018】
本発明の血管攣縮抑制剤は、血管異常収縮(血管攣縮)の抑制効果が高く、正常収縮の抑制効果が低いという優れた血管攣縮抑制剤である。また、本発明の血管攣縮抑制剤の有効成分は大豆に含まれる成分であるため、安全性の高い血管攣縮抑制剤である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】血管の収縮を測定し、さらに血管収縮を抑制する作用を測定するための装置の概略図である。
図2】おからの粗抽出物による、血管の異常収縮(攣縮)と正常収縮の抑制効果を調べた結果を示すグラフである。
図3】おからの粗抽出物のHPLC分析結果を示す図である。
図4】固相抽出用カラムで分離した分画における異常収縮の抑制効果を調べた結果を示すグラフである。
図5】固相抽出用カラムで分離した分画における正常収縮の抑制効果を調べた結果を示すグラフである。
図6】固相抽出用カラムで分離したTrap分画のHPLC分析結果を示す図である。
図7】Trap分画の質量分析の結果を示す図である。
図8】ダイゼインによる異常収縮及び正常収縮の抑制効果を調べた結果を示すグラフである。
図9】ゲニステインによる異常収縮及び正常収縮の抑制効果を調べた結果を示すグラフである。
図10】ビオカニンAによる異常収縮及び正常収縮の抑制効果を調べた結果を示すグラフである。
図11】アカセチンによる異常収縮及び正常収縮の抑制効果を調べた結果を示すグラフである。
図12】実施例1で調製したオカラの粗抽出液、実施例3で調製した固相抽出用カラムで分離した分画、実施例5によって同定した4つの化合物における異常収縮の抑制効果、正常収縮の抑制効果を調べた結果をまとめたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の血管攣縮抑制剤は、上記式(I)で表される化合物、その塩又はそれらの配糖体(以下、単に「本件化合物」ともいう)を有効成分とする血管攣縮抑制剤であれば特に制限されないが、式(I)で表される化合物であることが好ましい。なお、式(I)において、R1は水素原子でありR2は4−ヒドロキシフェニル基の場合は以下の式(II)で表されるゲニステイン(Genistein:CAS登録番号446-72-0)であり、R1は4−メトキシフェニル基でありR2は水素原子である場合は以下の式(III)で表わされるアカセチン(Acacetin:CAS登録番号480-44-4)である。
【0021】
【化2】
【0022】
【化3】
【0023】
本発明の他の態様としては、本件化合物を対象に投与することを特徴とする血管攣縮の抑制方法や、血管攣縮抑制剤として使用するための本件化合物や、本件化合物の、血管攣縮抑制剤の調製における使用を挙げることができる。
【0024】
本件化合物における塩の種類は特に限定されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;メチルアミン塩、エチルアミン塩、トリエチルアミン塩などの有機アミン塩;グリシン塩などのアミノ酸塩などが挙げることができる。また、本件化合物における配糖体を構成する糖としては、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、フコース、ラムノース、アラビノース、キシロースなどを挙げることができる。
【0025】
本発明において、血管攣縮とは、Ca2+濃度に依存せずに血管平滑筋が収縮する血管の異常収縮を意味し、SPCによって誘導される血管攣縮、好ましくはSPCによって活性化されたFynタンパク質が、血管壁上メンブレンラフトに移動することによって生じる血管攣縮を挙げることができる。
【0026】
本件化合物は公知の方法で化学的に合成して得ることができるほか、市販品を購入して得ることもできる。ゲニステインの合成方法としては、次の文献(Shingo sato et al. (2006) Carbohydrate Research 341:1091-1095)、アカセチンの合成方法としては、次の文献(Jerome Quintin and Guy Lewin (2004) J. Nat. Prod., 67:1624-1627)に記載の方法を用いることができる。市販品として、たとえばゲニステイン、アカセチンはシグマ・アルドリッチ社から入手することができる。
【0027】
本発明の血管攣縮抑制剤は、式(I)で表される化合物を含有するマメ科植物抽出物を配合させてもよい。マメ科植物としては、式(I)で表される化合物を含有するマメ科植物であれば特に制限されないが、大豆、ニセアカシアを挙げることができる。
【0028】
マメ科植物抽出物としては、上記マメ科植物や、マメ科植物の細断物や、大豆から豆乳を搾った残りかすであるオカラなどのマメ科植物を原料とした加工品を熱水に浸漬させて得られる抽出物を挙げることができる。熱水の温度としては、20〜100℃、好ましくは30〜70℃、より好ましくは40〜60℃を挙げることができ、必要に応じ、撹拌してもよい。なお、熱水にアルコールを含有してもよい。
【0029】
熱水に浸漬させる時間としては特に制限されないが、5分〜48時間、好ましくは10分〜24時間、より好ましくは30分〜12時間、さらに好ましくは50分〜3時間を挙げることができる。
【0030】
熱水抽出後、上記抽出用熱水から、熱水抽出不溶物を濾過又は遠心分離によって除去することにより、マメ科植物抽出物を取得することができる。必要に応じて、マメ科植物抽出物をカラムクロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー法、逆相クロマトグラフィー法、高速液体クロマトグラフィー法、遠心液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィーを行い、式(I)で表される化合物の含有量が高い分画を用いてもよい。さらに、上記マメ科植物抽出物は、噴霧乾燥などの方法で水分を除去することにより濃縮又は乾固して用いてもよい。
【0031】
本発明において、血管異常収縮(血管攣縮)の抑制率は、正常収縮の抑制率と同様の方法で測定することができ、例えば、図1に示す装置を用いてマグヌス管中に平滑筋条片を固定した後、マグヌス管にSPCを加えて人為的に血管異常収縮(血管攣縮)を起こさせ、並行して実験している別のマグヌス管に高カリウム溶液を加えて脱分極による正常収縮(Ca2+濃度依存性収縮)を起こさせ、それぞれの正常収縮と異常収縮の張力がプラトーになり安定したところで各被検試料を添加することにより、血管異常収縮(血管攣縮)や正常収縮の抑制率を測定する方法を挙げることができる。
【0032】
本発明の血管攣縮抑制剤の血管攣縮抑制能としては、上記血管異常収縮(血管攣縮)の抑制率が50%以上であることを挙げることができ、60%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましく、かつ、血管の正常収縮の抑制率が40%以下であることを挙げることができ、30%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましく、3%以下が特に好ましい。
【0033】
本発明の血管攣縮抑制剤を医薬品やサプリメントとして用いる場合は、薬学的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤などの各種調剤用配合成分を添加することもでき、血管攣縮が関与する病態の他の治療薬と併用することもできる。
【0034】
本発明の血管攣縮抑制剤は、脳梗塞防止作用、心筋梗塞防止作用、くも膜下出血後などにおける脳血管攣縮抑制効果、狭心症予防作用などを有することから、脳梗塞関連疾患治療剤、心筋梗塞関連疾患治療剤、脳血管攣縮抑制剤などの医薬品として、また、血管攣縮が関与する病態の予防剤や症状改善剤として、さらに血管攣縮が関与する病態の予防・改善作用を有するサプリメントを生産するための薬理組成物素材として、有利に用いることができる。
【0035】
本発明の血管攣縮抑制剤の投与形態としては、溶液、乳剤、懸濁液、顆粒などの剤型を経口により投与する形態や、溶液などの剤型を皮下注、静注、筋注、腹腔内注などにより非経口的に投与する形態を挙げることができる。
【0036】
本発明の血管攣縮抑制剤の投与量としては、必要とする対象において血管攣縮が関与する病態を改善することができる量であれば特に制限されず、例えば、本件化合物に換算して、好ましくは1日あたり、0.01〜200mg/kg体重、好ましくは0.1〜100mg/kg体重の範囲で投与することができるが、症状、性別、年齢などに応じて、摂取量は適宜調整することができる。
【実施例1】
【0037】
[オカラの粗抽出液による異常収縮及び正常収縮の抑制効果]
オカラを熱水で撹拌して粗抽出液を作製し、血管の異常収縮及び正常収縮の抑制効果を確認した。
【0038】
(オカラの粗抽出液作製)
電子天秤を用いてオカラ200gを量り取り、オカラの3.5倍量にあたる700mlの純水を加えた。60℃の熱水中で十分に加温した後、40℃インキュベーター内で1時間スターラーにより撹拌した。溶液を珪藻土濾過で濾過し減圧濃縮装置で液量が約40mlになるように濃縮し、粗抽出液を作製した。
【0039】
(平滑筋条片の作製)
北九州市保健福祉局医療部食肉センターより入手した、新鮮なブタ左冠状動脈前下行枝を主幹分岐部の約1cm下から約3cm採取し、あらかじめ混合ガス(95%O2、5%CO2)でバブリングし、氷冷したKrebs液(123mM NaCl、4.7mM KCl、15.5mM NaHCO3、 1.2mM KH2PO4、1.2mM MgCl2、1.25mM CaCl2、11.5mM D−glucose)で動脈内の血液を洗浄した。採取当日に血管周辺の脂肪及び線維を取り除いた後、外膜を剥離し、Krebs液中にて4℃で保存した。実験当日、あらかじめ混合ガスでバブリングしたKrebs液中にて、血管を長軸方向に切り開き、綿棒を用い血管内腔を軽く一方向に擦って血管内皮細胞(内膜)を除去し、剃刀を用いて長軸方向に対してほぼ垂直に、平滑筋細胞の走行方向に合わせて切断し平滑筋条片1mm×4mmを作製した。
【0040】
(測定装置)
血管の収縮を測定し、さらに血管収縮を抑制する作用を測定するための装置を図1に示す。ワイヤーの片側に平滑筋条片を吊るし、反対側をトランスデューサ(FDピックアップ:Panlab社製)に繋ぎ、増幅器(歪圧力用アンプ:Panlab社製)を通して記録計(卓上型ペンレコーダーU−603:パントス社製)で張力を検出した。平滑筋条片は、マグヌス管中の7mlのKrebs液に浸し、Krebs液は常に混合ガス(95%O2、5%CO2)でバブリングした。マグヌス管外は、恒温槽にて37℃に保った水を循環させた。また、交換用のKrebs液についても、37℃で保温し混合ガスをバブリングしたものを用いた。
【0041】
(異常収縮及び正常収縮の抑制効果試験)
上記測定装置を用い、Krebs液に10分間平滑筋条片を浸し、Krebs液を排出し、118mMの高カリウム溶液を加えて高カリウム脱分極による収縮を5分間引き起こし、その後高カリウム溶液を排出し、Krebs液に浸して10分間弛緩させる操作を繰り返し、高カリウム脱分極による収縮の安定性と大きさを指標に静止張力を最適化した。次に、高カリウム脱分極による収縮のトレースが安定したところで、40mMのカリウム溶液を加え、その収縮が定常状態に達した後、ブラジキニン(ペプチド研究所社製)を1μMとなるように加えて弛緩が生じなかったことで、血管内皮細胞が除去されていることを確認した。なお、血管内皮細胞が残っている場合、ブラジキニンを加えることで弛緩が生じる。
【0042】
次に、ブラジキニンを含むカリウム溶液を排出し、Krebs液を加え10分間浸した後排出し、一方のマグヌス管にはSPCを終濃度30μMとなるように加えて異常収縮を起こさせ、他方のマグヌス管には40mMのカリウム溶液を加えて正常収縮を起こさせ、それぞれの正常収縮及び異常収縮の張力がプラトーになり安定したところで、それぞれのマグヌス管に調製したオカラの粗抽出液を加えることで収縮抑制効果を確認した。
【0043】
(結果)
結果を図2に示す。図2から明らかなとおり、オカラの粗抽出液において、異常収縮の著明な抑制効果が確認された。正常収縮も抑制していたが、30%にすぎなかった。
【実施例2】
【0044】
(オカラの粗抽出液のHPLC分析)
オカラの粗抽出液のHPLC分析を以下の方法によって行った。HPLC用カラムオーブンは、CO-2060 Plus(日本分光社製)を使用し、検出にはUV-2075 Plus(日本分光社製)を、記録及びデータ解析にはLC-NetII/ADC(日本分光社製)をそれぞれ用いた。カラムはDevelosil ODS-HG-5(NOMURA CHEMICAL社製)を使用した。事前にカラムをカラムオーブンで40℃に加温した状態で測定を行った。開始点から30分間、流速0.3ml/分で超純水を流した。30分地点から60分間、流速0.8ml/分でメタノールが70%になるようにグラジエント溶出した。開始地点から90分間が経過した後同条件のまま30分間溶出させた。開始地点から120分が経過した後流速を0.3ml/分に落として45分間でメタノールが95%になるようにグラジエント溶出した。165分が経過した時点で同条件のまま15分間溶出させた。
【0045】
(結果)
結果を図3に示す。図3に示すように、先鋭な高いピークがいくつかみられる以外は比較的小さなピークがみられた。
【実施例3】
【0046】
[固相抽出用カラムで分離した分画における異常収縮及び正常収縮の抑制効果]
固相抽出用カラムを用いて粗抽出液を三分画に分離し、それぞれの分画における異常収縮の抑制効果、正常収縮の抑制効果を確認した。
【0047】
(前処理)
実施例1で作製した粗抽出液中に珪藻土濾過では濾過しきれない微細浮遊物が認められたため、Liposome Auto Extruder(橋本電子工業製)を用い濾過を行った。1.2μm及び0.4μmのメンブレンフィルター(Merck Millipore社製)を一度ずつ通過させた。
【0048】
(固相抽出)
上記前処理によって浮遊物を十分に取り除いた粗抽出液を固相抽出にかけた。カラムはBond Elut Certify IIカラム(Agilent Technology社製)用いた。コンディショニングとして100%メタノールを6ml通した後、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)6mlに通過させた。乾燥しないうちに、オカラ粗抽出液を5ml通過させ十分に吸着させた。10mlの50%メタノールを流した後2mlの酢酸エチルを流し30秒カラムを乾燥させた。さらに、3mlの1%酢酸含有25%酢酸エチル/75%ジエチルエーテルで溶出させた。カラムを通過したオカラ粗抽出液(カラム非吸着)を「Through分画」、その後、カラムを通過した50%メタノールと酢酸エチルを「Wash分画」、さらにその後、カラムを通過した1%酢酸含有25%酢酸エチル/75%ジエチルエーテルを「Trap分画」とした。
【0049】
(異常収縮及び正常収縮の抑制効果試験)
オカラの粗抽出液の代わりに上記3つの分画を用いた以外は、実施例1に記載と同様の方法で異常収縮の抑制効果、正常収縮の抑制効果試験を行った。
【0050】
(結果)
異常収縮の抑制効果を調べた結果を図4に、正常収縮の抑制効果を調べた結果を図5に示す。図4、5において、(a)はThrough分画、(b)はWash分画、(c)はTrap分画を用いた場合である。図4、5から明らかなとおり、Trap分画は異常収縮を100%抑制し、正常収縮は10%しか抑制しないことが明らかとなった。
【実施例4】
【0051】
[Trap分画のHPLC分析]
Trap分画のHPLC分析を実施例2と同様の方法で行った。結果を図6に示す。図6に示すように、Trap分画の場合はオカラの粗抽出液の場合と比べて高い先鋭なピークが減り、いくつかのピークが増高していることが明らかとなった。
【実施例5】
【0052】
[Trap分画の成分分析]
実施例3において異常収縮抑制効果が強く、正常収縮抑制効果が弱かったTrap分画の成分をタンデム型質量分析計によって同定した。
【0053】
(質量分析計)
API2000(AB SCIEX社製)を用いて質量分析を行った。実施例3で得られたTrap溶液を0.1%ギ酸含有50%アセトニトリルで1000倍希釈したものを使用した。インフュージョンによる直接分析を行いMS/MSはpositiveモードでCollision Energy30で行った。
【0054】
(結果)
質量分析の結果を図7に示す。図7の矢印に示す、バックグラウンドノイズと異なる3つのピークから、Trap分画に含有する成分として、以下の式(IV)で表わされるダイゼイン(Daidzein)、式(II)で表わされるゲニステイン(Genistein)、以下の式(V)で表わされるビオカニンA(BiochaninA)、式(III)で表わされるアカセチン(Acacetin)を同定した。なお、ビオカニンAとアカセチンは構造異性体にあたり、分子量は全く同じである。
【0055】
【化4】
【0056】
【化5】
【実施例6】
【0057】
[同定した化合物による異常収縮及び正常収縮の抑制効果]
(異常収縮及び正常収縮の抑制効果試験)
実施例5によって同定した4つの化合物における異常収縮の抑制効果、正常収縮の抑制効果試験を行った。オカラの粗抽出液の代わりに上記同定した4つの化合物を用いた以外は、実施例1に記載と同様の方法で行った。なお、ダイゼインはDMSOに溶解し、終濃度390μMとなるように調製したもの、ゲニステインはエタノールに溶解し、終濃度37μMとなるように調製したもの、ビオカニンAはエタノールに溶解し、終濃度35μMとなるように調製したもの、アカセチンはDMSOに溶解し、終濃度35μMとなるように調製したものを用いた。
【0058】
(結果)
ダイゼイン、ゲニステイン、ビオカニンA、アカセチンを用いた結果をそれぞれ図8〜11に示す。図9、11に示すように、ゲニステインやアカセチンは異常収縮の抑制効果が高く、正常収縮の抑制効果がきわめて低いことが明らかとなった。
【0059】
また、実施例1で調製したオカラの粗抽出液、実施例3で製した固相抽出用カラムで分離した分画、実施例5によって同定した4つの化合物における異常収縮の抑制効果、正常収縮の抑制効果試験をまとめたグラフを図12に示す。図12中、縦軸は抑制率を示す。抑制率は、SPC未投与状態を0%とし、SPC異常収縮の安定期を100%とした張力に対し、被験物質投与後の張力をX%とした時、〔(100−X)/100〕×100(%)で求めた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の血管攣縮抑制剤は、血管攣縮を強く抑制するだけでなく、血圧や血流維持を担う正常収縮をほとんど抑制しないことから、低血圧などの副作用を招来することなく、血行障害による狭心症、心筋梗塞、くも膜下出血後の脳血管攣縮などの治療に用いることができるものであり、医療分野において産業上の有用性は高い。
図1
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図12