(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6593630
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】半導体モジュールと、これを備えた駆動装置、電動パワーステアリング装置および車両
(51)【国際特許分類】
H01L 25/07 20060101AFI20191010BHJP
H01L 25/18 20060101ALI20191010BHJP
H01L 23/48 20060101ALI20191010BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20191010BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
H01L25/04 C
H01L23/48 G
H02M7/48 Z
B62D5/04
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-185837(P2015-185837)
(22)【出願日】2015年9月18日
(65)【公開番号】特開2017-59781(P2017-59781A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2018年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100080953
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 克郎
(72)【発明者】
【氏名】川井 康寛
【審査官】
豊島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−258166(JP,A)
【文献】
特開2013−179229(JP,A)
【文献】
特開平07−335815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/00 −5/32
H01L23/29
23/34 −23/36
23/373−23/427
23/44
23/467−23/48
25/00 −25/07
25/10 −25/11
25/16 −25/18
H02M 7/42 − 7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動させるためのインバータ回路を有する半導体モジュールにおいて、
内部配線材のリードフレームが2層の立体配線構造であり、
パワー半導体素子と前記2層のリードフレームが交互に積層され、
2層目リードフレームの一部が、1層目リードフレームの放熱面まで導出された、外部への放熱面を有する導出部であって、
前記2層目リードフレームの導出部が、当該2層目リードフレームの前記放熱面に向かって広がる形状であり、
前記2層目リードフレームは、T字状の断面形状であって、左右対称の形状である、半導体モジュール。
【請求項2】
前記1層目リードフレームと前記2層目リードフレームとの間に配置されている前記パワー半導体素子が、はんだ層を介して該1層目リードフレームおよび2層目リードフレームに電気的に接続されている、請求項1に記載の半導体モジュール。
【請求項3】
前記2層目リードフレームに、該2層目リードフレームの導出部の厚み方向とは異なる方向に突出した突出部が形成されている、請求項1または2に記載の半導体モジュール。
【請求項4】
前記2層目リードフレームの導出部は、該2層目リードフレームに接続されたパワー半導体素子が発する熱を貯熱可能な金属製である、請求項1から3のいずれか一項に記載の半導体モジュール。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体モジュールを備えた駆動装置。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体モジュールを備えた電動パワーステアリング装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の半導体モジュールを備えた車両。
【請求項8】
モータを駆動させるためのインバータ回路を有する半導体モジュールの製造方法において、
内部配線材のリードフレームを2層の立体配線構造とし、
パワー半導体素子と前記2層のリードフレームを交互に積層し、
2層目リードフレームの一部を、1層目リードフレームの放熱面まで導出された、外部への放熱面を有する導出部とし、
前記2層目リードフレームを、T字状の断面形状であって、左右対称の形状とする、半導体モジュールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体モジュールと、これを備えた駆動装置、電動パワーステアリング装置および車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の半導体モジュールの一つに、放熱板上に取り付けられた誘電体板を設けたセラミック基板に半導体チップ(以降、本明細書では「パワー半導体素子」ともいう)を搭載し、ケース内にシリコーンゲルで封止した構成となっているものがある(例えば特許文献1参照)。セラミック基板における導電体板の周囲端部にはエポキシ樹脂などの固体絶縁物が配置され、上記ケースは、セラミック基板の四方を囲うようにして放熱板上に設置される等している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−076197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述の構成は、半導体モジュールに求められる放熱性や絶縁性を満足させるための構成となっている反面、構成要素が多くなり、半導体モジュールのサイズ肥大化を招く。また、半導体モジュールにおいては、半導体チップ(パワー半導体素子)が発する熱を効率的に放出(放熱)することが要求される。
【0005】
本発明は、従来と比べてさらに小型化を図ることができ、また、半導体素子の熱を効率よく放熱することができる半導体モジュールと、これを備えた駆動装置、電動パワーステアリング装置および車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、かかる課題を解決するべく、回路基板やリードフレーム上に実装されたパワー半導体素子をエポキシ系材料の硬化性樹脂を用いてトランスファー成形封止した半導体モジュールの構造に着目した本発明者は、新たな構造を知見し、本発明を想到するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、モータを駆動させるためのインバータ回路を有する半導体モジュールにおいて、
内部配線材のリードフレームが2層の立体配線構造であり、
パワー半導体素子と前記2層のリードフレームが交互に積層され、
2層目リードフレームの一部が、1層目リードフレームの放熱面まで導出された、外部への放熱面を有する導出部である、というものである。
【0008】
本発明に係る半導体モジュールによれば、2層の立体配線構造であることから、各層のパワー半導体素子間の配線距離を短くでき、さらに、パワー半導体間の接続バスバ及びその搭載スペースを削減できる。したがって、パワーモジュールの小型化を図ることができる。
【0009】
また、2層目リードフレームの一部を1層目リードフレームの放熱面まで導出した構造であるため、パワー半導体素子からの熱を効率よく外部に放熱することができる。
【0010】
上述の半導体モジュールにおいては、前記2層目リードフレームの導出部が、当該2層目リードフレームの前記放熱面に向かって広がる形状であることが好ましい。この場合、放熱面積が増加することに伴って放熱性能が向上する。
【0011】
また、かかる半導体モジュールにおいては、前記1層目リードフレームと前記2層目リードフレームとの間に配置されている前記パワー半導体素子が、はんだ層を介して該1層目リードフレームおよび2層目リードフレームに電気的に接続されていてよい。従来のごとき通常の積層構造だと、2層目リードフレームに重心の偏りがある場合に、それを要因としたはんだ厚みのばらつきが生じやすいが、これに対し、本発明にかかる半導体モジュールにおいては、2層目リードフレームの導出部の放熱面を基準とし、当該導出部の高さを適宜変えることによって1層目のパワー半導体素子のはんだ厚みを制御することができる。これによれば、2層目リードフレームにおける重心の偏りを要因としたはんだ厚みのばらつきを抑制することができる。
【0012】
また、半導体モジュールにおける前記2層目リードフレームに、該2層目リードフレームの導出部の厚み方向とは異なる方向に突出した突出部が形成されていることも好ましい。2層化により内部構造が複雑となり、1層構造よりもエポキシ樹脂との密着性が重要となるところ、本発明によれば、エポキシ樹脂との密着性が向上し、信頼性(高湿度環境下でのモールド内への水分の侵入や繰り返しの熱ひずみによるモールドの割れに対する信頼性など)を向上することも出来る。突出部は、突起や、潰し形状などといった被加工部で形成することができる。
【0013】
さらに、半導体モジュールにおいて、前記2層目リードフレームの導出部は、該2層目リードフレームに接続されたパワー半導体素子が発する過渡熱を貯熱可能な金属製であることが好ましい。熱伝達性のよい金属製であれば、熱を一時的に貯熱しておき、かつ、素早く放熱することができる。
【0014】
本発明に係る駆動装置は、上述のごとき半導体モジュールを備えたものである。
【0015】
本発明に係る電動パワーステアリング装置は、上述のごとき半導体モジュールを備えたものである。
【0016】
本発明に係る車両は、上述のごとき半導体モジュールを備えたものである。
【0017】
また、本発明は、モータを駆動させるためのインバータ回路を有する半導体モジュールの製造方法において、
内部配線材のリードフレームを2層の立体配線構造とし、
パワー半導体素子と前記2層のリードフレームを交互に積層し、
2層目リードフレームの一部を、1層目リードフレームの放熱面まで導出された、外部への放熱面を有する導出部とする、というものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来と比べてさらに小型化を図ることができ、また、半導体素子の熱を効率よく放熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】2層のリードフレーム構造である半導体モジュールの構成例を示す断面図である。
【
図2】2層のリードフレーム構造である半導体モジュールであって、導出部の高放熱化を図った構成例を示す断面図である。
【
図3】2層のリードフレーム構造である半導体モジュールであって、導出部とエポキシ樹脂の密着性向上を図った構成例を示す断面図である。
【
図4】電動パワーステアリング装置の構成の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る半導体モジュールの好適な実施形態について詳細に説明する(
図1〜
図4参照)。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0021】
モータ50を駆動させるためのインバータ回路(図示省略)を有する半導体モジュール(パワーモジュール)1は、パワー半導体素子(半導体チップ)2、リードフレーム3、はんだ5、樹脂製のモールド6、バスバ7などで構成されている。
【0022】
パワー半導体素子2は例えばMOSFETであって、SiまたはSiCのベアチップ(ベアダイ)の状態のものを指す。このパワー半導体素子2は厚み方向に電流を流す構造のため、ベアチップ上面および下面に電極を有した構造であり、はんだ5や硬化性導電性ペースト、アルミや金ワイヤを使ったワイヤボンディングにより配線する。なお、本明細書でいう「上面」「下面」とは、リードフレーム3を基準にしたものであり、仮に半導体モジュール1が上下逆さまに配置されていても上下の位置関係に変更はない。
【0023】
リードフレーム3は、その上に固定されたパワー半導体素子2を支持し、外部配線との接続をする部品(内部配線材)であり、所望の回路動作をさせるためにプレス成形によって任意のパターン形状に形成される。本実施形態において、リードフレーム3は2層の立体配線構造となっている(
図1参照)。なお、
図1等において、1層目のリードフレームを符号31、2層目のリードフレームを符号32で表している。
【0024】
また、パワー半導体素子2は、2層のリードフレーム3(31,32)に対して交互に積層された状態で搭載される。なお、
図1等において、1層目のパワー半導体素子(2個)を符号21、2層目のパワー半導体素子を符号22で表している。最下層が1層目リードフレーム31であり、その上にはんだ5、1層目のパワー半導体素子21、はんだ5、2層目リードフレーム32、はんだ5、2層目のパワー半導体素子22の順に積層される。1層目のパワー半導体素子21は、1層目リードフレーム31と2層目リードフレーム32との間に介在している。
【0025】
2層目のパワー半導体素子22はバスバ7を使い、1層目リードフレーム31にはんだ付けで配線される。その後、エポキシの熱硬化性樹脂を用いたトランスファー成形により、パワー半導体素子2やリードフレーム3を封止してモールド6を形成し、半導体モジュール1が完成する。
【0026】
1層目のリードフレーム31の片方の面(パワー半導体素子2が搭載されていない側)は、外部に露出した放熱面31Sを持つようにモールドした構造となっている。これにより、半導体モジュール1の一部が放熱可能な面となって外部に放熱することが可能となる。
【0027】
ここで、2層のリードフレーム3についてNch−MOSFETを使用してインバータ1アーム分の回路を構成する場合について説明する。
【0028】
この回路においては、電源ラインを起点とし上アームのMOSFETのドレイン電極からソース電極、続いて下アームのドレイン電極からソース電極、最後にグランドに接続する必要がある。またモータ遮断用にMOSFETを配置する場合には、上アームのソース(同じく下アームのドレイン)と同電位の接点からモータ遮断MOSFETのソース電極に配線する。
【0029】
MOSFETは縦構造のパワー半導体素子2であり、ドレイン電極が下面電極、ソース電極は上面電極となっているため、前述の上アームから下アームのMOSFETへの配線は、上アームのMOSFETの上面にあるソース電極から、2層目リードフレーム32を通過し、下アームのFETの下面にあるドレイン電極に配線ができる。さらに2層目リードフレーム32からモータ遮断用MOSFETの上面のソース電極への配線も同時に可能となる。
【0030】
1層構造の場合、上アームから下アームの配線の場合バスバを使う必要があり、バスバ分の実装スペースが発生するのに対し、本実施形態のごとく2層目リードフレーム32を採用することでスペースを削減できる。さらに配線も短くすることができる。
【0031】
また、2層目リードフレーム32の一部は、1層目リードフレーム31の放熱面31Sまで導出され、外部への放熱面32Sを有する導出部32Hとなっている(
図1参照)。該導出部32Hにより、2層目に搭載したパワー半導体素子22の熱を放熱することが出来る。さらに
図2に示すようにリードフレーム3の積層方向に対して導出部32Hの形状を広げることで放熱面32Sの面積が増加し、放熱性が向上する。当該導出部32Hは熱伝導性のよい金属たとえば銅製であり、放熱経路として機能しながら、尚かつ、一定の熱量を一時的に貯熱しておく熱容量としても機能しうる。
【0032】
さらに導出部32Hの放熱面32Sは、1層目リードフレーム31の放熱面31Sと同一面となるように形成されている。また、導出部32Hにおいては、放熱面32Sを基準とした導出部高さAを調整することによって、1層目のパワー半導体素子21におけるはんだ5の厚みを制御することができる。
【0033】
すなわち、たとえば、導出部高さAよりも1層目リードフレーム31、1層目のパワー半導体素子21、はんだ5の総厚みを大きく設定しておけば、はんだ付けの際に2層目リードフレーム32はその自重により放熱面32Sの方向へと沈み、放熱面32Sを基準に2層目の導出部高さAにしたがって1層目のパワー半導体素子21のはんだ厚みが自然と決定されることになる。これにより2層構造のリードフレームにおける重心の偏りを要因としたはんだ厚みばらつきを抑制することができる。尚、2層目リードフレーム32を、図に示したようなT字状の断面形状であって、左右対称の形状にすることで重心を安定させることができ、さらに配線距離の等長化を図ることもできる。
【0034】
なお、半導体モジュール1の2層化により内部構造が複雑となり、1層構造の場合よりもエポキシ樹脂との密着性が重要となる。そこで前述の導出部32Hの一部に突起や潰し形状などからなる突出部32Tを施すことで、モールド材であるエポキシ樹脂とのアンカー効果を生じさせ、密着信頼性を向上することが出来る。突出部32Tは、2層目リードフレーム32の導出部32Hの厚み方向(高さAの方向)とは異なる方向例えばこれと直交する方向へ突出している。2層目リードフレーム32の導出部32H以外の部分に同様の突出部32Tを形成してもよい(
図3参照)。
【0035】
本実施形態の半導体モジュール1は、パワー半導体素子2(21,22)を積層し、立体配線することによりパワー半導体素子2(21,22)およびバスバの投影面積が抑制でき、同一の回路構成としながらも従来のパワーモジュールよりも小型化を図ることが出来る。
【0036】
このような半導体モジュール1は、電動パワーステアリング装置100(
図4参照)等の各種産業機械や各種駆動装置、さらには、これらが搭載された車両などにおいて利用することができる。なお、
図4に例示する電動パワーステアリング装置100は、例えばコラムタイプのものである。該
図4において、符号Hはステアリングホイール、符号10aはステアリング入力軸、符号10bはステアリング出力軸、符号11はラック・ピニオン運動変換機構、符号13はウォーム減速機構、符号20はハウジング、符号21はトルクセンサ、符号30はステアリングシャフト、符号40,41は自在継手、符号42は連結部材をそれぞれ示す。
【0037】
また、上述した半導体モジュール1は、以下のようにして製造することができる。すなわち、内部配線材たるリードフレーム3(31,32)を2層の立体配線構造とし、パワー半導体素子2(21,22)と2層のリードフレーム3(31,32)を交互に積層し、はんだ5で電気的に接続した状態とし、さらにバスバ7を接続し、エポキシの熱硬化性樹脂を用いたトランスファー成形によりパワー半導体素子2やリードフレーム3を封止してモールド6を形成する。2層目リードフレーム32には、その一部が、1層目リードフレーム31の放熱面31Sまで導出された形状であって外部への放熱面32Sを有する導出部32Hとなっているリードフレームを採用する。
【0038】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、電動パワーステアリング等の各種産業機械や各種駆動装置、さらには、これらが搭載された車両などにおける半導体モジュールに適用して好適である。
【符号の説明】
【0040】
1…半導体モジュール
2…パワー半導体素子
3…リードフレーム
5…はんだ
6…モールド
21…1層目のパワー半導体素子
22…2層目のパワー半導体素子
31…1層目リードフレーム
31S…放熱面
32…2層目リードフレーム
32H…導出部
32S…放熱面
32T…突出部
50…モータ
100…電動パワーステアリング装置
A…導出部32Hの高さ