(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の本発明における実施形態では、必要な場合に複数のセクションなどに分けて説明するが、原則、それらはお互いに無関係ではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細などの関係にある。このため、全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、構成要素の数(個数、数値、量、範囲などを含む)については、特に明示した場合や原理的に明らかに特定の数に限定される場合などを除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも良い。また、構成要素などの形状に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうではないと考えられる場合などを除き、実質的にその形状などに近似または類似するものなどを含むものとする。
【0019】
(実施形態1)
本発明の実施形態に係る歩行評価技術について図面を参照して説明する。
図1は直交座標系における被検者10の説明図である。本実施形態では、被検者10の左右方向がX軸方向、上下方向がY軸方向、前後方向がZ軸方向としている。また、
図2は歩行評価方法の概略流れ図である。また、
図3〜5はそれぞれ異なる被検者10の体幹軌跡80の説明図である。
図3〜
図5に示す体幹軌跡80は、例えば、1周期目から3周期目まで(6歩分)の軌跡を平均化したものである。平均化することで各周期の軌跡のばらつきを均している。また、
図6は本実施形態に係る歩行評価システム30の概略構成図である。
【0020】
本実施形態に係る歩行評価方法について概略して説明する。まず、歩行中の被検者10の体幹12の動揺を計測して計測値を取得する(工程S10)。具体的には、被検者10の体幹12に器具20を装着して、器具20の運動から体幹動揺を計測して計測値を取得する。本実施形態では、より精度の高い評価を行うために、被検者10の体幹上部12U(例えば、胸背部)および体幹下部12B(例えば、腰部)のそれぞれに器具20、20を装着している。
【0021】
器具20については、
図1に示すように、体幹上部12Uに装着されたものを器具20U、体幹下部12Bに装着されたものを器具20Bとして示している。体幹上部12Uとしての胸背部の具体的位置は、胸椎の後弯の頂点付近である。胸椎は、脊椎を構成する部位の1つであり肩甲骨付近に位置する。また、体幹下部12Bとしての腰部の具体的位置は、下位腰椎から仙骨付近である。仙骨は、脊椎の下部に位置しており骨盤を構成する部位である。
【0022】
次いで、被検者10の体幹12の動揺を計測した計測値から被検者10の体幹軌跡80を取得する(工程S20)。体幹軌跡80は立体的に描かれるものであるが、
図3〜
図5では、体幹軌跡80を平面的に示している(リサジュー曲線)。リサジュー曲線は、互いに垂直の方向に単振動を合成して描かれる曲線である。具体的には、体幹軌跡80について、矢状面(Y−Z平面)に投影されたもの、前額面(X−Y平面)に投影されたもの、水平面(X−Z平面)に投影されたものを示している。
図3〜
図5では、体幹軌跡80について、器具20Uの上部計測値から取得されたもの(すなわち、体幹上部12Uの動揺)を体幹軌跡80Uとし、器具20Bの下部計測値から取得されたもの(すなわち、体幹下部12Bの動揺)を体幹軌跡80Bとして、重ね合わせて示している。なお、矢状面(Y−Z平面)、前額面(X−Y平面)、水平面(X−Z平面)の各軸の単位は[mm]である。
【0023】
立体的に描かれる体幹軌跡80は、
図3〜
図5から明らかなように、立体的に交差するループ軌跡であり、体幹左側のループ軌跡80Lおよび体幹右側のループ軌跡80Rに分かれて構成されている。例えば、
図3〜
図5に示す前額面での体幹軌跡80は、横8の字状を一筆書きで描くようなループ軌跡(
図3の前額面に示す矢印方向のループ軌跡)であり、体幹左側のループ軌跡80Lと体幹右側のループ軌跡80Rとが交点Iで交差している(接している)。このように、被検者10の体幹12の動揺を計測した計測値から被検者10の体幹軌跡80として体幹左側のループ軌跡80Lおよび体幹右側のループ軌跡80Rを取得している。
【0024】
ここで、
図3に示す体幹軌跡80は、専門家によって、バランスが良くなめらかな歩行であると評価された被検者10のものである。また、
図4に示す体幹軌跡80は、専門家によって、腰部への負担が大きい歩行であると評価された被検者10のものである。
図5に示す体幹軌跡80は、専門家によって、左右バランスが悪い歩行であると評価された被検者10のものである。ここから、例えば、理想的な歩行であると評価された被検者10の体幹軌跡80を基準にして、
図3〜
図5に示す体幹軌跡80を単に見比べて評価することもできる。しかしながら、この評価は主観的となってしまう。
【0025】
そこで、更に、体幹軌跡80から歩行状態を評価する指標を取得し(工程S30)、取得した指標を評価(比較)する(工程S40)。指標については、後述するが、体幹軌跡80からの情報(例えば、軌跡内の面積や軌跡の大きさなど)から算出(抽出)して取得されるものである。
【0026】
図3〜
図5に示す体幹軌跡80が異なるように、これら体幹軌跡80から取得される指標も異なるため、各被検者10の歩行状態を比較して評価することができる。特に、体幹左側のループ軌跡80Lおよび体幹右側のループ軌跡80Rのそれぞれから歩行状態を評価する指標となる左側指標および右側指標を取得し、これらを比較する。これにより、同じ被検者10であっても、体幹左側のループ軌跡80Lおよび体幹右側のループ軌跡80Rから取得される指標を比較して評価することもできる。また、同じ被検者10であっても、体幹上部12Uおよび体幹下部12Bのそれぞれの体幹軌跡80Uおよび体幹軌跡80Bから取得した指標を比較することで、例えば、体幹下部12Bの動揺は良いが、体幹上部12Uの動揺が良くないといったことも評価することができる。
【0027】
このような歩行評価技術によれば、従来では経験が必要とされた目視に対して、体幹動揺(器具20の運動)による体幹軌跡80から歩行状態を評価する定量的な指標(数値)を取得することで、歩行状態を容易に評価することができる。また、歩行中の変動(変位)の激しい肢体(例えば、脚)の動きに対して、体幹12の動揺を計測することで、歩行状態を正確に評価することができる。
【0028】
次に、本実施形態に係る歩行評価システム30について概略して説明する。
図6に示すように、歩行評価システム30は、被検者10の体幹12に装着される器具20と、歩行中における被検者10の体幹の動揺(器具20の運動)を計測した計測値から被検者10の歩行状態を評価する指標を取得する指標取得部40とを備えている。本実施形態では、器具20と指標取得部40との間は、無線通信機能によって計測値の送受信が可能に構成されている。無線通信機能としては、Bluetooth(登録商標)などを採用することができる。なお、器具20と指標取得部40との間を有線によって接続して計測値の送受信を行うこともできる。
【0029】
本実施形態に係る器具20は、加速度および角速度を計測可能なモーションセンサを有している。モーションセンサは、例えば、3軸加速度センサと3軸角速度センサとが一体に構成され、XYZ軸の各加速度および各角速度を計測可能な6軸モーションセンサである。また、器具20は、指標取得部40に無線で計測値(加速度および角速度)を送信可能な送信部を有している。これにより、器具20は、歩行中における被検者10の体幹12の動揺を計測して計測値を取得し、その計測値を指標取得部40に送信することができる。
【0030】
本実施形態では、被検者10の体幹上部12U(例えば、胸背部)および体幹下部12B(例えば、腰部)のそれぞれに器具20、20を装着している。これにより、例えば、被検者10の身体的特徴(体幹12のずれ、傾斜、捻れなど)を取得することもでき、
図3〜
図5に示したような体幹軌跡80Uと体幹軌跡80Bを重ね合わせたものを取得する際に、身体的特徴を考慮して補正させておくことができる。
【0031】
指標取得部40は、例えば、コンピュータであって、本体42と、モニタ44と、キーボード46と、マウス48とを有して構成されている。本体42は、制御部50と、記憶部52と、内部バス54と、受信部56とを有している。そして、制御部50は、内部バス54を介して、モニタ44、キーボード46、マウス48および記憶部52(例えば、ハードディスクドライブなど)と接続されている。制御部50は、図示しないCPU、ROMおよびRAMなどを有し、制御プログラムに基づいて種々の手段(工程)が実行されるよう構成されている。すなわち、この制御プログラムは、制御部50に予め記憶されており、制御部50に種々の手段を実行させる。なお、制御部50は、器具20の計測値や、体幹軌跡80などを記憶部52に記憶させておくことができる。
【0032】
また、制御部50は、器具20からの計測値を受信可能な受信部56と接続されている。すなわち、制御部50は、器具20からの計測値を、受信部56を介して取得する。器具20を装着した被検者10が歩行することで、歩行中における被検者10の体幹の動揺を器具20で計測して、指標取得部40の制御部50では、計測値を収集することができる。具体的には、6軸モーションセンサ(器具20)から所定間隔で、X軸方向の加速度の計測値、Y軸方向の加速度の計測値、Z軸方向の加速度の計測値、X軸方向の角速度の計測値、Y軸方向の角速度の計測値、Z軸方向の角速度の計測値が出力され、制御部50に入力される。なお、制御部50は、入力された各計測値を記憶部52に記憶させておくことができる。
【0033】
このような、制御部50は、算出機能部58と、画面作成機能部64と、を有している。算出機能部58は、例えば、器具20からの計測値に基づいて指標を算出する手段である。画面作成機能部64は、例えば、算出機能部58で算出された体幹軌跡80、指標などをモニタ44に表示させる手段である。
【0034】
算出機能部58は、フィルタ部60を有している。フィルタ部60は、例えば、ハイパスフィルタであって、計測値のうちの低周波成分を除去し、高周波成分のみを残すフィルタリング処理する手段である。特に、計測値が加速度の場合、歩行中の移動変位が含まれているので、歩行中の移動変位を除いて処理することが有用である。
【0035】
また、算出機能部58は、積分処理部62を有している。積分処理部62は、例えば、フィルタリング処理によって抽出された振動成分を積分処理する手段である。算出機能部58は、加速度の計測値の振動成分(積分処理しないもの)を動揺加速度、加速度の計測値の振動成分を1回積分処理したものを動揺速度、加速度の計測値の振動成分を2回積分処理したものを動揺量(変位)として算出する。また、算出機能部58は、角速度の計測値の振動成分(積分処理しないもの)を動揺角速度、角速度の計測値の振動成分を1回積分処理したものを動揺角度として算出する。
【0036】
次いで、算出機能部58は、
図3〜
図5に示したような体幹軌跡80を取得するために、歩行の回転運動(腰の捻れなど)を考慮し、角速度の計測値によって姿勢演算して動揺量を算出する。すなわち、算出機能部58は、器具20の計測値から被検者10の体幹軌跡80として体幹左側のループ軌跡80Lおよび体幹右側のループ軌跡80Rを算出(取得)する。
【0037】
そして、算出機能部58は、体幹左側のループ軌跡80Lおよび体幹右側のループ軌跡Rのそれぞれから歩行状態を評価する指標(定量的な数値)となる左側指標および右側指標を算出(取得)し、その左側指標および右側指標を比較する。比較にあたっては、例えば、数値範囲を設定し、どの範囲に指標が該当するか判別し、
図3に示したようなバランスが良くなめらかな歩行であるとの評価、
図4に示したような腰部への負担が大きい歩行であるとの評価、
図5に示したような左右バランスが悪い歩行であるとの評価とすることができる。もちろん、左側指標および右側指標をモニタ44に表示させて専門家などの使用者に比較を行わせることもできる。以下では、算出機能部58によって算出される指標に含まれる種々の指数について具体的に説明する。
【0038】
(動揺なめらか指数)
被検者10が歩行時に体幹12を滑らかに動かせているかを評価する指標を、なめらか指数と呼んで説明する。指標取得部40によるなめらか指数の算出方法について図面を参照して説明する。
図7は体幹軌跡80から取得するなめらか指数の取得方法の概略流れ図である。
図8は
図7に対応するなめらか指数の説明図であり、前額面(X−Y平面)に投影された平均周期の体幹軌跡80を示している。
【0039】
指標取得部40は、器具20から随時送信されてくる計測値を基に1周期ごとの体幹軌跡80を算出機能部58で算出していき、例えば、1周期目から3周期目までの体幹軌跡80を平均化した平均軌跡を算出する(工程S110)。これにより、
図8に示すような前額面に投影した体幹軌跡80を取得することができる。次いで、指標取得部40は、XYZ座標軸の再設定を行う(工程S120)。例えば、体幹下部12Bにおいて立体的に描かれる体幹軌跡80の体幹左側のループ軌跡80Lと体幹右側のループ軌跡80Rとの交点IがXYZ座標の原点となるよう再設定を行う。
【0040】
次いで、指標取得部40は、被検者10の前額面に投影された体幹下部12Bの体幹軌跡80B(
図8)から、体幹左側のループ軌跡80Lが囲む領域の左側面積SLを算出する(工程S130)。また、指標取得部40は、体幹左側のループ軌跡80Lの被検者10の上下方向における最上点P1と最下点P2との間の左側縦幅HLを算出する(工程S140)。そして、指標取得部40は、左側面積SLを左側縦幅HLで除算した左側除算値を算出することで、左側なめらか指数を取得することができる。また、指標取得部40は、この左側なめらか指数を、モニタ44に表示させたり、記憶部52に記憶させたりすることができる。
【0041】
右側なめらか指数も同様に、指標取得部40は、体幹右側のループ軌跡80Rが囲む領域の右側面積SRを算出する(工程S130)。また、指標取得部40は、体幹右側のループ軌跡80Rの被検者10の上下方向における最上点と最下点との間の右側縦幅HRを算出する(工程S140)。そして、指標取得部40は、右側面積SRを右側縦幅HRで除算した右側除算値を算出することで、右側なめらか指数を取得することができる。また、指標取得部40は、この右側なめらか指数を、モニタ44に表示させたり、記憶部52に記憶させたりすることができる。
【0042】
指標取得部40によって取得された左側なめらか指数および右側なめらか指数を比較して被検者10の歩行状態を評価するにあたり、なめらか指数の特徴が考慮される。すなわち、全体として曲率変化が少なく体幹軌跡80が丸みを帯びている方が軌跡に囲まれる領域の面積が大きくなる傾向がある。また、面積(左側面積SLや右側面積SRで示されるもの)の大きさが同じであれば、上下方向の縦幅(左側縦幅HLや右側縦幅HRで示されるもの)と比較し、左右方向の横幅が大きい方が評価は高くなる。また、同様にして、体幹上部12Uの体幹軌跡80から被検者10の前額面に投影された体幹軌跡80U(
図8)に対応するなめらか指数を取得することもできる。そして、体幹下部12Bと体幹上部12Uのなめらか指数を比較することもできる。
【0043】
なお、平均化された体幹軌跡80からなめらか指数を算出した場合について説明したが、各周期の体幹軌跡80からなめらか指数を算出してから平均化されたなめらか指数を算出してもよい。このように1周期毎になめらか指数を算出することは、その分散や標準偏差を算出することにより歩行の安定性を評価する上で効果的である。例えば、各周期のなめらか指数が同じであれば、体幹動揺が安定している(再現性が高い)と判定することができる。
【0044】
(動揺左右差指数)
被検者10の歩行中における動揺の左右差を評価する指標を、左右差指数と呼んで説明する。指標取得部40による左右差指数の算出方法について図面を参照して説明する。
図9は体幹軌跡80から取得する左右差指数の取得方法の概略流れ図である。
【0045】
指標取得部40は、例えば、記憶部52に記憶されている、前述した左側なめらか指数および右側なめらか指数を呼び出す(工程S210、S220)。そして、指標取得部40は、左側なめらか指数(
図8に示す左側面積SLを左側縦幅HLで除算した左側除算値)と右側なめらか指数(
図8に示す右側面積SRを右側縦幅HRで除算した右側除算値)の差分をとることで、左右差指数を取得することができる。例えば、左側なめらか指数から右側なめらか指数を減算したり、その絶対値をとったりして、左右差指数を取得することができる。
【0046】
指標取得部40によって取得された左側なめらか指数および右側なめらか指数を比較して被検者10の歩行状態を評価するにあたり、左右差指数の特徴が考慮される。すなわち、左右バランスがよい(体幹軌跡80が左右対称である)ほど、左右差指数の値は小さくなる。
【0047】
(歩幅左右差指数)
被検者10の歩行中における歩幅(動揺)の左右差を評価する指標を、歩幅の左右差指数と呼んで説明する。指標取得部40による歩幅の左右差指数の算出方法について図面を参照して説明する。
図10は体幹軌跡80から取得する歩幅の左右差指数の取得方法の概略流れ図である。
図11は
図10に対応する歩幅の左右差指数の説明図であり、前額面(X−Y平面)に投影された平均周期の体幹軌跡80を示している。
【0048】
指標取得部40は、
図7を参照して説明した工程と同様に、例えば、1周期目から3周期目までの体幹軌跡80を平均化した平均軌跡を算出して(工程S110)、
図11に示すような前額面に投影した体幹軌跡80を取得することができる。次いで、指標取得部40は、例えば、体幹下部12Bにおいて立体的に描かれる体幹軌跡80の体幹左側のループ軌跡80Lと体幹右側のループ軌跡80Rとの交点IがXYZ座標の原点となるよう再設定を行う(工程S120)。
【0049】
次いで、指標取得部40は、被検者10の前額面に投影された体幹下部12Bの体幹軌跡80B(
図11)から、体幹左側のループ軌跡80Lの被検者10の上下方向における最下点の左側高さPLBを算出する(工程S310)。また、指標取得部40は、体幹右側のループ軌跡80Rの被検者10の上下方向における最下点の右側高さPRBを算出する(工程S320)。そして、指標取得部40は、左側高さPLBから右側高さPRBを減算することで、歩幅の左右差指数を取得することができる。また、指標取得部40は、この歩幅の左右差指数を、モニタ44に表示させたり、記憶部52に記憶させたりすることができる。
【0050】
被検者10の歩行状態を評価するにあたり、歩幅の左右差指数の特徴が考慮される。すなわち、歩幅を大きくすると被検者10の身体の上下動が大きくなり、着地時の体幹下部12B(仙骨付近)の高さは低くなる傾向があるため、体幹下部12Bの最下点の高さ(左側高さPLBおよび右側高さPRB)に左右差がある場合、左右の歩幅に差があることが考えられる。また、同様にして、体幹上部12Uの体幹軌跡80から被検者10の前額面に投影された体幹軌跡80U(
図11)に対応する歩幅の左右差指数を取得することもできる。そして、体幹下部12Bと体幹上部12Uの歩幅の左右差指数を比較することもできる。
【0051】
(モンロー指数)
被検者10の下肢および体幹12の筋力と柔軟性を評価する指標を、モンロー指数と呼んで説明する。指標取得部40によるモンロー指数の算出方法について図面を参照して説明する。
図12は体幹軌跡80から取得する左側モンロー指数の取得方法の概略流れ図である。
図13は
図12に対応する左側モンロー指数の説明図であり、前額面(X−Y平面)に投影された平均周期の体幹軌跡80を示している。
図14は体幹軌跡80から取得する右側モンロー指数の取得方法の概略流れ図である。
図15は
図14に対応する右側モンロー指数の説明図であり、前額面(X−Y平面)に投影された平均周期の体幹軌跡80を示している。
【0052】
指標取得部40は、
図7を参照して説明した工程と同様に、例えば、1周期目から3周期目までの体幹軌跡80を平均化した平均軌跡を算出して(工程S110)、
図13および
図15に示すような前額面に投影した体幹軌跡80を取得することができる。次いで、指標取得部40は、例えば、体幹下部12Bにおいて立体的に描かれる体幹軌跡80の体幹左側のループ軌跡80Lと体幹右側のループ軌跡80Rとの交点IがXYZ座標の原点となるよう再設定を行う(工程S120)。
【0053】
次いで、指標取得部40は、被検者10の前額面に投影された体幹下部12Bの体幹軌跡80Bから、下部左側のループ軌跡80Lの被検者10の上下方向の最下点PLBおよびこのときの左側時刻tLを算出する(工程S410)。次いで、指標取得部40は、体幹上部12Uの体幹軌跡80Uの左側時刻tLの点PLU(位置)を算出する(工程S420)。そして、指標取得部40は、体幹上部12Uの体幹軌跡80Uの左側時刻tLの点PLUと体幹下部12Bの体幹軌跡80Bの左側時刻tLの点PLBとの間の被検者左右方向における左側横幅(PLU−PLB)を算出して、左側モンロー指数を取得することができる。具体的には、指標取得部40は、体幹上部12Uの体幹軌跡80Uの左側時刻tLの点PLU(位置)から、体幹下部12Bの体幹軌跡80Bのループ軌跡80Lの左側時刻tLの点PLB(位置)を減算することで、左側モンロー指数を取得することができる。また、指標取得部40は、この左側モンロー指数を、モニタ44に表示させたり、記憶部52に記憶させたりすることができる。
【0054】
また、指標取得部40は、被検者10の前額面に投影された体幹下部12Bの体幹軌跡80Bから、下部右側のループ軌跡80Rの被検者10の上下方向の最下点PRBおよびこのときの右側時刻tRを算出する(工程S430)。次いで、指標取得部40は、体幹上部12Uの体幹軌跡80Uの右側時刻tRの点PRU(位置)を算出する(工程S440)。そして、指標取得部40は、体幹下部12Bの体幹軌跡80Bの右側時刻tRの点PRBと体幹上部12Uの体幹軌跡80Uの右側時刻tRの点PRUとの間の被検者左右方向における右側横幅(PRB−PRU)を算出して、右側モンロー指数を取得することができる。具体的には、指標取得部40は、体幹下部12Bの体幹軌跡80Bの右側時刻tRの点PRB(位置)から、体幹上部12Uの体幹軌跡80Uの右側時刻tRの点PRU(位置)を減算することで、右側モンロー指数を取得することができる。また、指標取得部40は、この右側モンロー指数を、モニタ44に表示させたり、記憶部52に記憶させたりすることができる。
【0055】
指標取得部40によって取得された左側横幅(PLU−PLB)および右側横幅(PRB−PRU)を比較して被検者10の歩行状態を評価するにあたり、モンロー指数の特徴が考慮される。すなわち、下肢および体幹12の筋力と柔軟性に富む場合、体幹下部12Bが主導で体重を左右の足に移し替えることができるので、モンロー指数は正の数になる。他方、下肢や体幹12の筋力が弱い場合、代償運動として体幹上部12Uを大きく左右に振ることで体重を左右の足に移し替えるので、モンロー指数は負の数になる。
【0056】
(接地躍度)
被検者10の接地時の動きのなめらかさを評価する指標を、接地躍度と呼んで説明する。指標取得部40による接地躍度の算出方法について図面を参照して説明する。
図16は体幹軌跡80から取得する接地躍度の取得方法の概略流れ図である。
図17および
図18はそれぞれ異なる被検者10の
図16に対応する接地躍度の説明図であり、前額面(X−Y平面)に投影された単一周期の体幹軌跡80を示している。
【0057】
指標取得部40は、加速度の計測値の振動成分を微分処理したものを躍度として算出する。躍度は、前述したなめらか指数などの指標のように、前額面(X−Y平面)に投影された平均周期の体幹軌跡80から取得されるものではなく、器具20の計測値から算出された3次元のベクトルとして取得されるものである。このため、躍度J(Jx,Jy、Jz)の大きさは、|J|=sqrt(Jx^2+Jy^2+Jz^2)として表される。また、接地躍度は、接地前後の数点について躍度の大きさ|J|から算出された、二乗平均平方根(RMS)値である。
【0058】
指標取得部40は、器具20から随時送信されてくる計測値を基に躍度を算出する(工程S510)。また、指標取得部40は、器具20から随時送信されてくる計測値を基に1周期の体幹軌跡80を算出機能部58で算出する(工程S520)。これにより、
図17および
図18に示すような前額面に投影した体幹下部12Bの体幹軌跡80を取得することができる。
【0059】
次いで、指標取得部40は、接地フェーズを同定する(工程S530)。例えば、被検者10の体幹下部12Bの体幹軌跡80B(
図17、
図18)の左側最下点PLBおよび右側最下点PRBをそれぞれ左側接地点および右側接地点と同定する。ここで、加速度の計測値を考慮して、接地が更に確からしいタイミングになるよう微調整して接地フェーズを同定することもできる。
図17および
図18には、体幹軌跡80の躍度として軌跡の各点(位置)におけるひげ状のものを示しており、体幹左側の接地付近のものを接地躍度JL、体幹右側の接地付近のものを接地躍度JRとして示している。なお、
図17および
図18に示す前額面(X−Y平面)の各軸の単位は体幹軌跡80の[mm]の他に、躍度の[m/sec^3]である。
【0060】
次いで、指標取得部40は、左側接地点(左側最下点PLB)およびその前後の躍度から算出した接地フェーズの躍度の左側RMS値(左側接地躍度)を算出する(工程540)。また、指標取得部40は、右側接地点(右側最下点PRB)およびその前後の躍度から算出した接地フェーズの躍度の右側RMS値(右側接地躍度)を算出する(工程540)。指標取得部40は、この左側接地躍度および右側接地躍度を、モニタ44に表示させたり、記憶部52に記憶させたりすることができる。なお、指標取得部40は、体幹軌跡80のすべての躍度を算出せずに、接地フェーズを同定してから、その接地前後の躍度を算出してRMS値を算出することもできる。
【0061】
指標取得部40によって取得された左側接地躍度および右側接地躍度を比較して被検者10の歩行状態を評価するにあたり、接地躍度の特徴が考慮される。すなわち、接地時に加わる力の向きが急激に変化する場合(接地時のねじれがある)などに値が大きくなる(
図17参照)。また、値が小さい方が動きはなめらかで(接地時のねじれがない)、体への負担が小さい(
図18参照)。
【0062】
なお、前述したなめらか指数などの指標のように、前額面(X−Y平面)に投影された平均周期の体幹軌跡80から躍度を算出すると、歩行時の体幹動揺の特徴が失われてしまうことが高い。そこで、平均接地躍度を算出する際には、1周期ごとの接地躍度を算出して、それを平均化することが好ましい。
【0063】
(実施形態2)
前記実施形態1では、器具20にモーションセンサを用いて計測値を取得した場合について説明した。本実施形態では、器具20にマーカを用いて高速度カメラで撮影された画像から計測値を取得する場合について図面を参照して説明する。
図19は本実施形態に係る歩行評価システム30の概略構成図である。
【0064】
本実施形態に係る歩行評価システム30について概略して説明する。
図19に示すように、歩行評価システム30は、被検者10の体幹12に装着される器具20と、歩行中における被検者10の体幹の動揺(器具20の運動)を計測した計測値から被検者10の歩行状態を評価する指標を取得する指標取得部40とを備えている。本実施形態では、器具20がマーカを有している。そして、被検者10の体幹上部12U(例えば、胸背部)および体幹下部12B(例えば、腰部)のそれぞれに器具20、20を装着している。また、本実施形態では、指標取得部40が高速度カメラ90を有している。高速度カメラ90は、例えば、一秒間に数十フレームを連続撮影できるカメラであり、公知のものを採用することができる。高速度カメラ90は、複数台設けられる。これにより、器具20のマーカを異なる位置で撮影することが可能となり、測定の精度を上げることができる。
【0065】
撮影された画像データは器具20の計測値として、指標取得部40に入力される。すなわち、歩行中における被検者10の体幹12の動揺を計測して計測値を取得することができる。これから、指標取得部40は、前記実施形態1と同様にして、計測値から被検者10の体幹軌跡80を取得し、これから各指標を算出して被検者の歩行状態を評価することができる。また、指標取得部40では、制御部50が実現する画面作成機能部64が入力された画像データにおける器具20U、20Bの各マーカの動作状況をモニタ44に表示させる。このとき、複数の高速度カメラ90によって、異なる位置からの画像データが指標取得部40に入力されるが、各マーカの位置が3次元的に動作する状況、すなわち各マーカの移動軌跡を表示させるとよい(図示せず)。
【0066】
以上、本発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、次のとおり、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0067】
例えば、前記実施形態1で説明した6軸モーションセンサと、前記実施形態2で説明したマーカとを含む器具を用いた歩行評価システムとすることもできる。これによれば、それぞれから算出される指標を相互補完的に用いることができ、歩行状態をより正確に評価することができる。