特許第6593703号(P6593703)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6593703
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】石炭灰の埋立方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 1/00 20060101AFI20191010BHJP
【FI】
   B09B1/00 AZAB
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-42846(P2016-42846)
(22)【出願日】2016年3月4日
(65)【公開番号】特開2017-154127(P2017-154127A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2019年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩
(72)【発明者】
【氏名】山村 幸政
(72)【発明者】
【氏名】植野 義之
【審査官】 柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−091284(JP,A)
【文献】 特開2003−245623(JP,A)
【文献】 特開2003−336243(JP,A)
【文献】 特開昭59−220511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、石炭火力発電所から発生する石炭灰の混合物からなるスラリーを、移送管を介して石炭灰処分場に移送して埋め立てる場合の埋立方法であって、
前記石炭灰処分場は、既設堤防が設置され、かつこの既設堤防で囲まれた領域に前記スラリーが乾燥した乾燥石炭灰層が形成され、
前記領域の一部に第1の区画を設置する第1の区画設置工程と、
この第1の区画に対応して前記移送管の吐出口を設置する吐出口設置工程と、
前記第1の区画の内部に形成された前記乾燥石炭灰層を掘削する掘削工程と、
掘削された前記乾燥石炭灰層を、前記第1の区画の内部において、前記吐出口とその両側辺を囲むように積み上げて仮堤防を形成する仮堤防形成工程と、
前記仮堤防の内部へ前記スラリーを注入する注入工程と、
前記スラリーに含有される前記石炭灰を沈降させて、前記水を分離させる水分離工程と、を備えることを特徴とする石炭灰の埋立方法。
【請求項2】
前記注入工程の後に、前記第1の区画に隣接する第2の区画を設置する第2の区画設置工程を備え、
前記吐出口設置工程は、前記第1の区画に対応する代わりに、前記第2の区画に対応して前記吐出口を設置することを特徴とする請求項1記載の石炭灰の埋立方法。
【請求項3】
前記掘削工程は、前記第1の区画の内部に、前記吐出口を介した前記スラリーの吐出方向に沿って平面視長尺状の凹部が形成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の石炭灰の埋立方法。
【請求項4】
前記仮堤防は、前記吐出口が貫通する第1の壁面と、この第1の壁面の両端にそれぞれ設置される第1及び第2の側壁面と、からなる平面視コ字状に形成され、
前記第1の壁面、又は前記第1の側壁面、又は前記第2の側壁面のうちの少なくともいずれかの上縁に、分離した前記水を排水するための排水口が設けられることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の石炭灰の埋立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭火力発電所から発生する石炭灰の埋立方法に係り、特に、石炭灰処分場に仮堤防を形成し、その内部に石炭灰を移送して埋め立てる石炭灰の埋立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、石炭火力発電所から大量に発生する石炭灰は、一部がセメント原料としてリサイクルされる他、残りは石炭灰処分場で土地造成材として利用される。
このうち、後者では、水と、石炭灰の混合物からなるスラリーを形成し、このスラリーをジェットパルジョンポンプ(JPP)を用いて石炭灰処分場へ移送し埋め立てることによる。
しかしながら、埋立が進捗するに従い、堆積した石炭灰のレベルが上昇し、JPPから吐出されたスラリーが石炭灰処分場内に設置された石炭灰処分場内道路を兼ねた既設堤防を越流し、既設堤防や周囲の構造物を破損するといった課題がある。
そこで、このような課題を解決する目的で、近年、焼却灰の埋め立て方法に関する技術が開発されており、それに関して既にいくつかの発明が開示されている。
【0003】
まず、特許文献1には、「ごみの廃棄方法」という名称で、粉塵などの飛散を防止できるごみの廃棄方法に関する発明が開示されている。
以下、特許文献1に開示された発明について説明する。特許文献1に開示されたごみの廃棄方法に関する発明は、漏水防止シートが敷かれた埋立地と、この埋立地に併設された調整池からなる最終処分場を構築し、埋立地に、焼却灰や汚泥等のごみを廃棄するに際して、ごみを固化剤や水と混合してセルフレベリング性を有する流動物を得るための安定化処理を行なう混練プラントを前記埋立地に併設し、ごみを廃棄する前に、混練プラントにおいてごみを安定化処理して流動物とし、この流動物を混練プラントから埋立地に搬送して排出させ、埋立地内で流動物を固化させて不透水性の固化物とし、このようにごみを流動物としたのち埋立地に搬送し排出させて不透水性の固化物を作る工程を繰り返すことで凹部内にごみを堆積させ、最後に覆土するようにしたことを特徴とする。
このような特徴を有するごみの廃棄方法においては、漏水防止シート上への覆土を要せず、漏水防止シートを破損することなく簡単にごみの敷設作業を行なえる。また、埋立地内に排出された流動物は、不透水性を有する固化物になるので、中間覆土を省略しても雨により有害物質は染み出ることはなく、異臭が漂ったり、粉塵が飛散する等の不具合も生じない。
【0004】
次に、特許文献2には、「石炭灰の水流式埋立方法」という名称で、石炭灰の沈降堆積物の密度を高める埋立方法に関する発明が開示されている。
特許文献2に開示された発明は、石炭灰に対して界面活性剤を0.5〜3重量%添加してなる石炭灰スラリーを、水面上に放流して水中に投棄し、水底に堆積させることを特徴とする。
このような特徴を有する石炭灰の水流式埋立方法においては、スラリーに界面活性剤を共存させると灰粒子が凝集系から分散系に変化し、単位体積中に存在する石炭灰粒子量が増し、堆積物の密度が高くなる。そのため、一定敷地内の石炭灰埋設量を増すことができる。
【0005】
さらに、特許文献3には、「浚渫埋立泥の膨潤防止方法」という名称で、原子炉格納容器内の溶融物の状態を検出する原子炉の放射線計測装置に関する発明が開示されている。 特許文献3に開示された発明は、埋立地内の余水吐を有する1区画を、下部が粗粒濾過体で構成された同流築堤より一部仕切って迂回路を形成すると共にこの区画内を吸着濾過体により更に仕切って排水ポケット区画を形成し、粗粒濾材を封入した透水マット管の一端を導流築堤下部の粗粒濾過体に連接させて埋立地内の元の地盤上に配置して成る埋立地内へ、浚渫泥の配送過程において凝集剤を添加した泥水を投入することにより、埋立地内余水の堆積土粒子間の通過を容易にし、透水マット管と粗粒濾過体を経て排水ポケットに導くようにし、排水ポケット内に設けた排水ポンプを駆動して排水ポケット内の水位を低く保ち、埋立地内水位と排水ポケット内の水位差による堆積土粒子に作用する浸透圧力と堆積土粒子との自重により、堆積粒子層を急速沈下させることを特徴とする。 このような特徴を有する浚渫埋立泥の膨潤防止方法においては、埋立工事過程において、泥の堆積変化を抑制し、埋立地護岸の嵩上げや再築堤の不要な施工ができるようにするとともに、埋立工事終了後に行う地盤改良工事についても初期の工程省略ができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−19615号公報
【特許文献2】特公平4−75074号公報
【特許文献3】特公昭63−54092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された発明においては、排出された流動物は固化して不透水性を有する固化物となるので、排出後の体積が減容されない。また、型枠として、コンクリートブロック等が必要とされる場合には、新たなコストが必要となる。
【0008】
次に、特許文献2に開示された発明においては、石炭灰スラリーを水中に投棄するため、水面が一旦埋め立てられれば、この方法を使用することができない。したがって、例えば陸上で複数の層を形成するように石炭灰を埋め立てる方法に比して、一定敷地内における石炭灰埋設量が高いとは言えない可能性がある。
【0009】
さらに、特許文献3に開示された発明においては、透水マット及び粗粒濾過体を敷設するとともに、導流築堤や排水ポケットを形成する必要があることから、比較的大掛かりな工事となる可能性がある。さらに、堆積泥の透水性を増大させるための凝集剤を必要とするとともに、排水ポケットに流入する浸透水等を汲み上げるための排水ポンプも必要になるため、ランニングコストが嵩むおそれがある。
【0010】
本発明は、このような従来の事情に対処してなされたものであり、大掛かりな工事が不要でありながら、石炭灰を大量に埋め立てることができるとともに自然排水が可能であり、しかも低コストでの運用が可能な石炭灰の埋立方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、第1の発明は、水と、石炭火力発電所から発生する石炭灰の混合物からなるスラリーを、移送管を介して石炭灰処分場に移送して埋め立てる場合の埋立方法であって、石炭灰処分場は、既設堤防が設置され、かつこの既設堤防で囲まれた領域にスラリーが乾燥した乾燥石炭灰層が形成され、領域の一部に第1の区画を設置する第1の区画設置工程と、この第1の区画に対応して移送管の吐出口を設置する吐出口設置工程と、第1の区画の内部に形成された乾燥石炭灰層を掘削する掘削工程と、掘削された乾燥石炭灰層を、第1の区画の内部において、吐出口とその両側辺を囲むように積み上げて仮堤防を形成する仮堤防形成工程と、仮堤防の内部へスラリーを注入する注入工程と、スラリーに含有される石炭灰を沈降させて、水を分離させる水分離工程と、を備えることを特徴とする。
【0012】
このような構成の発明において、乾燥石炭灰層とは、過去において石炭灰処分場の既設堤防で囲まれた領域に埋設された、水と、石炭灰の混合物からなるスラリーが脱水されて乾燥し、層を形成したものをいう。
上記構成の発明においては、第1の区画設置工程において、大まかな仮堤防の設置位置が決定される。次に、仮堤防の内部にスラリーを注入するための移送管の吐出口が設置される。続いて、掘削工程において、乾燥石炭灰層を掘削して新たにスラリーを埋め立てるための空間が形成される。そして、仮堤防形成工程において、掘削された乾燥石炭灰を仮堤防の材料として利用する。最後に、水分離工程において、仮堤防の内部に注入されたスラリーは、時間の経過に伴い、石炭灰が沈降し、この沈降した石炭灰の上層に水が分離する。すなわち、注入されたスラリーは、減容されて石炭灰の層を形成する。この石炭灰の層から水が除去されたものが乾燥石炭灰層である。
【0013】
次に、第2の発明は、第1の発明において、注入工程の後に、第1の区画に隣接する第2の区画を設置する第2の区画設置工程を備え、吐出口設置工程は、第1の区画に対応する代わりに、第2の区画に対応して吐出口を設置することを特徴とする。
このような構成の発明においては、第2の区画設置工程において、注入されたスラリーによって仮堤防の内部が満たされた場合に、第2の区画が第1の区画に隣接して設置される。次に、第1の区画に設置していた吐出口を、第2の区画に移設する。この後、掘削工程と、仮堤防形成工程と、注入工程と、が行われる。なお、「隣接」とは、第1の区画の側方に第2の区画が設けられる場合と、第1の区画の上方に第2の区画が積層される場合の両方を含む概念である。
【0014】
さらに、第3の発明は、第1又は第2の発明において、掘削工程は、第1の区画の内部に、吐出口を介したスラリーの吐出方向に沿って平面視長尺状の凹部が形成されることを特徴とする。
このような構成の発明においては、第1又は第2の発明の作用に加えて、仮堤防は、凹部を囲むように平面視コ字状に形成されるため、吐出口を介して吐出されたスラリーは、まず凹部に貯留され、次第に仮堤防の内部を埋め立てるように増加する。
【0015】
そして、第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、仮堤防は、吐出口が貫通する第1の壁面と、この第1の壁面の両端にそれぞれ設置される第1及び第2の側壁面と、からなる平面視コ字状に形成され、第1の壁面、又は第1の側壁面、又は第2の側壁面のうちの少なくともいずれかの上縁に、分離した水を排水するための排水口が設けられることを特徴とする。
このような構成の発明において、石炭灰と分離された水は、石炭灰の上層に貯留するため、仮堤防の内部がスラリーで埋め立てられると、排水口から自然に排水される。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明によれば、第1の区画設置工程から水分離工程までの6工程によって、大掛かりな工事が不要でありながら、石炭灰を容易に埋め立てることができる。
このうち、掘削工程と、仮堤防形成工程によれば、石炭灰処分場に形成された乾燥石炭灰層を利用して、経済的に仮堤防を形成することができる。
また、第1の発明によれば、既設堤防の嵩上げや修理費用が不要であるとともに、時間の経過に伴い、石炭灰が沈降し、その上層に水が分離することから、従来技術のような凝集剤が不要である。そのため、ランニングコストも抑制可能である。
【0017】
第2の発明によれば、第1の発明の効果に加えて、第1の区画に隣接して第2の区画を設け、仮堤防を順次形成してその内部にスラリーを注入することができる。したがって、既設の堤防当たりに、大量の石炭灰を埋め立てることができる。
【0018】
第3の発明によれば、第1又は第2の発明の効果に加えて、吐出口を介したスラリーの吐出方向に沿って平面視長尺状の凹部が形成されることから、スラリーを注入する最中に、スラリーが仮堤防を越えて流出され難い。加えて、吐出口と対向する部分からスラリーが仮堤防を越えて流出することを防止できるので、スラリーが既設堤防を越流し、周囲の構造物を破損するといった不利益を確実に防止可能である。
【0019】
第4の発明によれば、第2の発明の効果に加えて、仮堤防の上縁に設けられる排水口から分離された水が自然に排水されるため、従来技術のように、排水ポンプや排水ポケットといった排水設備が不要である。したがって、導入コストとランニングコストを低廉に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例に係る石炭灰の埋立方法の工程図である。
図2】実施例に係る石炭灰の埋立方法が行われる石炭灰処分場の平面図である。
図3】実施例に係る石炭灰の埋立方法が行われる石炭灰処分場の平面図である。
図4】実施例に係る石炭灰の埋立方法を構成する掘削工程において形成される仮堤防の拡大図である。
図5図4におけるA−A線矢視断面図である。
図6図5におけるB線矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0021】
本発明の実施の形態に係る実施例の石炭灰の埋立方法について、図1乃至図6を用いて詳細に説明する。図1は、実施例に係る石炭灰の埋立方法の工程図である。図2は、実施例に係る石炭灰の埋立方法が行われる石炭灰処分場の平面図である。
図1及び図2に示すように、本実施例に係る石炭灰の埋立方法1は、水と、石炭火力発電所(図示せず)から発生する石炭灰の混合物からなるスラリー53を、移送管2を介して石炭灰処分場50に移送して埋め立てる場合の埋立方法である。このスラリー53は、重量比がおよそ99:1の水と石炭灰から構成される。
石炭灰処分場50は、既設堤防51が設置され、かつこの既設堤防51で囲まれた領域52にスラリー53が乾燥した乾燥石炭灰層54が形成されている。
石炭灰の埋立方法1は、領域52の一部に第1の区画Pを設置するステップS1の第1の区画設置工程と、この第1の区画Pに対応して移送管2の吐出口2aを設置するステップS2の吐出口設置工程と、第1の区画Pの内部に形成された乾燥石炭灰層54を掘削するステップS3の掘削工程と、掘削された乾燥石炭灰層54を、第1の区画Pの内部において、吐出口2aとその両側辺を囲むように積み上げて仮堤防Qを形成するステップS4の仮堤防形成工程と、仮堤防Qの内部へスラリー53を注入するステップS5の注入工程と、スラリー53に含有される石炭灰を沈降させて、水を分離させるステップS6の水分離工程と、を備える。
このうち、ステップS3の掘削工程では、第1の区画Pの内部に、吐出口2aを介したスラリー53の吐出方向Xに沿って平面視長尺状の凹部R図4参照)が形成される。
なお、吐出口2aは、JPP(図示せず)から移送されるスラリー53の吐出口である。
【0022】
次に、各工程の作用についてより詳細に説明する。
まず、ステップS1の第1の区画設置工程では、領域52に、細長い長方形をした第1の区画Pの位置が決定される。第1の区画Pをこのような細長い長方形とした理由は、吐出口2aを介して吐出されるスラリー53は、細長い長方形状に分布するためである。
ステップS2の吐出口設置工程では、第1の区画Pを構成する短辺の一方に、移送管2の吐出口2aが設置される。後述するように、吐出口2aは、仮堤防Qを貫通して設置される。
ステップS3の掘削工程では、第1の区画Pの内部における乾燥石炭灰層54を重機で掘削することで、凹部Rが形成される。そして、凹部Rが形成されることに伴い、掘削された乾燥石炭灰層54が第1の区画Pの短辺の一方及び長辺の付近に積み上げられることとなる。
【0023】
ステップS4の仮堤防形成工程では、積み上げられた乾燥石炭灰層54を仮堤防Qの壁面材料として利用する。そして、第1の区画Pの短辺の一方付近に形成された仮堤防Qに、吐出口2aを貫通させて設置する。
ステップS5の注入工程では、スラリー53をまず凹部Rに向かって吐出する。この吐出は、仮堤防Qの内部が満たされるまで継続されるが、仮堤防Qの内部が満たされるとスラリー53の吐出が停止される。
ステップS6の水分離工程において、仮堤防Qの内部に注入されたスラリー53は、時間の経過に伴い、石炭灰が沈降し、この沈降した石炭灰の上層に水が浮き上がって分離する。
【0024】
次に、実施例に係る石炭灰の埋立方法について、図1及び図3を用いながら、より詳細に説明する。図3は、実施例に係る石炭灰の埋立方法が行われる石炭灰処分場の平面図である。なお、図1及び図2で示した構成要素については、図3においても同一の符号を付して、その説明を省略する。
図1及び図3に示すように、石炭灰の埋立方法1は、ステップS5の注入工程の後に、第1の区画Pの側方に隣接する第2の区画Pを設置するステップS7の第2の区画設置工程を備える。より詳細には、ステップS5の注入工程によって、仮堤防Qの内部がスラリー53で満たされた場合に、ステップS7の第2の区画設置工程が行われる。なお、第1の区画Pでは、ステップS7の第2の区画設置工程の実施に関わらず、ステップS6の水分離工程が行われる。
このとき、ステップS2の吐出口設置工程は、第1の区画Pに対応する代わりに、第2の区画Pに対応して吐出口2aを設置する。より正確には、第1の区画Pに設置していた吐出口2aを、第2の区画Pに移設する。この後、第2の区画Pにおいて、ステップS3の掘削工程と、ステップS4の仮堤防形成工程と、ステップS5の注入工程と、ステップS6の水分離工程が行われる。このうち、ステップS3の掘削工程では、凹部Rと同形状の凹部(図示せず)が形成され、ステップS4の仮堤防形成工程では、第2の区画Pの内部に、仮堤防Qと同形状の仮堤防Qが形成される。
【0025】
さらに、ステップS5の注入工程によって、仮堤防Qの内部がスラリー53で満たされた場合には、ステップS7の第2の区画設置工程からステップS6の水分離工程と同様の工程が繰り返される。すなわち、第2の区画Pの側方に隣接する第3の区画Pを設置し、第2の区画Pに設置していた吐出口2aを、第3の区画Pに移設する。その後、第3の区画Pにおいて、凹部Rと同形状の凹部(図示せず)が形成されるとともに、仮堤防Qと同形状の仮堤防Qが形成され、スラリー53の注入が行われる。同様に、第2の区画Pでは、ステップS7の第2の区画設置工程の実施に関わらず、ステップS6の水分離工程が行われる。
【0026】
そして、仮堤防Qの内部がスラリー53で満たされた場合には、第3の区画Pの側方又は第1の区画Pの上方に隣接して新たな区画を設置し、この新たな区画において、ステップS2の吐出口設置工程以降の工程が繰り返される。
【0027】
続いて、仮堤防Qについて、図4を用いて、より詳細に説明する。図4は、実施例に係る石炭灰の埋立方法を構成する掘削工程において形成される仮堤防の拡大図である。なお、図1乃至図3で示した構成要素については、図4においても同一の符号を付して、その説明を省略する。
図4に示すように、仮堤防Qは、吐出口2aが貫通する第1の壁面3と、この第1の壁面3の両端にそれぞれ設置される第1の側壁面4及び第2の側壁面5と、からなる平面視コ字状に形成される。したがって、第1の壁面3と対向する部分に壁面は形成されずに、開口端6が形成されている。このような開口端6が形成される理由は、後述する凹部Rを掘削した後の重機を速やかに退避させるためである。
また、仮堤防Qは、第1の側壁面4の上縁4aに、分離した水を排水するための排水口7が設けられる。この排水口7は、円筒を半割にしたような形状である。
【0028】
さらに、仮堤防Qでは、第1の壁面3と、第1の側壁面4と、この4と同形状をなす第2の側壁面5で囲まれる乾燥石炭灰層54に、スラリー53の吐出方向Xに沿って平面視長尺状の凹部Rが形成される。なお、具体的な仮堤防Qの大きさは、例えば、第1の壁面3の最大長さが約20(m)、第1の側壁面4の最大長さ及び最大高さがそれぞれ約200(m)及び1(m)である。凹部Rの乾燥石炭灰層54の表層からの深さは、約0.5〜0.6(m)である。
【0029】
次に、仮堤防Qについて、図5及び図6を用いて、さらに説明する。図5は、図4におけるA−A線矢視断面図である。図6は、図5におけるB線矢視図である。なお、図1乃至図4で示した構成要素については、図5及び図6においても同一の符号を付して、その説明を省略する。また、図6では、既設堤防51の図示を省略する。
図5に示すように、移送管2が第1の壁面3に隣接する既設堤防51によって支持されるとともに、吐出口2aが第1の壁面3を貫通し、仮堤防Qの内部へスラリー53を吐出可能に構成される。
また、第1の側壁面4は、第1の壁面3から開口端6にかけて、その上縁4aが緩やかに傾斜している。第2の側壁面5においても、これと同様である。
そして、凹部Rは、吐出口2aのほぼ直下から開口端6を超えるあたりまで、すなわち、第1の側壁面4の最大長さと同等な長さに亘って、均等な深さに形成されている。
さらに、図6に示すように、凹部Rは、第1の側壁面4と第2の側壁面5の中間部分に形成されて、吐出口2aから吐出されるスラリー53を確実に受け止める構成となっている。また、第1の側壁面4及び第2の側壁面5の縦断面は、いずれも台形状をなしており、強度の高い構造となっている。
【0030】
以上説明したように、石炭灰の埋立方法1によれば、ステップS1の第1の区画設置工程からステップS6の水分離までの6工程によって、大掛かりな工事が不要でありながら、石炭灰を容易に埋め立てることができる。また、これらの工程にステップS7の第2の区画設置工程を追加することによって、石炭灰の埋立を継続可能である。したがって、石炭灰を長期に亘って、大量に埋め立てることが可能になるものと期待できる。
また、仮堤防Q〜Qによって、スラリー53の流出を防止できるため、既設堤防51を嵩上げする工事が不要となるとともに、既設堤防51やその周囲の構造物の損傷を防止可能である。したがって、既設堤防51の改造費用や周囲の構造物の修理費用が不要である。さらに、JPPや重機を用いることでスラリー53を埋め立て可能であるので、特殊な機器が不要である。この点も、ランニングコストを低廉に抑制し得る要因である。
【0031】
さらに、石炭灰の埋立方法1のうち、ステップS3の掘削工程と、ステップS4の仮堤防形成工程によれば、掘削された乾燥石炭灰を利用して、経済的に仮堤防Q〜Qを形成することができる。すなわち、従来技術のように、コンクリートブロックのような型枠が不要であることから、新たに発生するコストを抑制できる。また、凹部Rが形成されることで、吐出口2aから吐出されるスラリー53が開口端6から流出することを確実に防止できる。
【0032】
また、ステップS6の水分離工程によれば、時間の経過に伴い、仮堤防Q〜Qの内部に注入された石炭灰が沈降し、その上層に水が浮き上がって分離することから、従来技術のような凝集剤が不要である。加えて、第1の側壁面4の上縁4aに排水口7が設けられるため、石炭灰の上層に浮き上がった水を自然に排水することができる。すなわち、従来技術のような排水ポンプが不要であることで、ランニングコストに加え、導入コストをも抑制可能である。
また、沈降した石炭灰が固形化して形成された乾燥石炭灰層54は、水が分離されているため、乾燥石炭灰層54の上方に新たに仮堤防を形成しても、乾燥石炭灰層54が崩壊しないよう十分な強度を有している。また、一旦固形化したスラリー53は、大雨によって再度スラリー化することはないことから、仮堤防とこの内部に注入されるスラリー53は、その形状が長期間に亘って安定的に維持される。
【0033】
なお、本発明の石炭灰の埋立方法1の構造は実施例に示すものに限定されない。例えば、領域52に設置される区画は、一か所以上であれば特にその設置数は限定されない。また、仮堤防Qの形状は、第1の区画Pの形状やJPPの吐出能力によって適宜調整される。さらに、第1の区画Pの上方に第2の区画Pが積層されても良い。この他、排水口7は、第1の壁面3、又は第2の側壁面5に設けられても良く、例えば、第1の側壁面4と第2の側壁面5に設けられても良い。
また、実施例においては、第1の区画P、第2の区画P…と表現されているが、それぞれの区画同士の関係を一般化して、第nの区画P、第(n+1)の区画P(n+1)…、(ただし、nは1以上の自然数である)と表現することができる。そして、既設堤防51内において、第nの区画P並びに仮堤防Q等の設置ができなくなるまで、図1に示す工程を繰り返すことができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、水と、石炭火力発電所から発生する石炭灰の混合物からなるスラリーを、石炭灰処分場に移送して埋め立てる場合の埋立方法として利用可能である。
【符号の説明】
【0035】
1…石炭灰の埋立方法 2…移送管 2a…吐出口 3…第1の壁面 4…第1の側壁面 4a…上縁 5…第2の側壁面 6…開口端 7…排水口 50…石炭灰処分場 51…既設堤防 52…領域 53…スラリー 54…乾燥石炭灰層 P…第1の区画 P…第2の区画 P…第3の区画 Q〜Q…仮堤防 R…凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6