(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
たとえば、入力側と出力側が絶縁された絶縁型DC−DCコンバータでは、入力側に、直流電源の直流電圧をスイッチングして交流電圧に変換する第1変換回路が設けられ、出力側に、第1変換回路で変換された交流電圧を整流して直流電圧に変換する第2変換回路が設けられる。そして、第1変換回路と第2変換回路とは、トランスによって絶縁されている。
【0003】
このような絶縁型DC−DCコンバータには、昇圧チョッパ(ブーストコンバータ)とハーフブリッジ型のDC−DCコンバータとを複合化したブーストハーフブリッジ方式(以下「BHB方式」と表記)と呼ばれるものがある。特許文献1〜9および非特許文献1〜4には、このようなBHB方式の絶縁型DC−DCコンバータが記載されている。
【0004】
BHB方式の絶縁型DC−DCコンバータにおいては、入力側の第1変換回路に、主スイッチング素子と、補助スイッチング素子と、インダクタと、トランスの一次巻線と、2つのコンデンサとが設けられる。直流電源に対してインダクタと主スイッチング素子は直列に接続され、トランスの一次巻線と一方のコンデンサとの直列回路が、主スイッチング素子に対して並列に接続される。また、他方のコンデンサと補助スイッチング素子との直列回路が、トランスの一次巻線に対して並列に接続される。
【0005】
出力側の第2変換回路には、たとえば特許文献1の
図11に示されているような、2つの整流素子と、2つのコンデンサと、トランスの二次巻線とを備えた回路、あるいは、特許文献2の
図1に示されているような、2つの整流素子と、1つのコンデンサと、1つのインダクタと、中間タップを有するトランスの二次巻線とを備えた回路が設けられる。
【0006】
第1変換回路の主スイッチング素子と補助スイッチング素子は、所定のデューティで片方づつONする。主スイッチング素子がONの期間では補助スイッチング素子はOFFとなり、補助スイッチング素子がONの期間では主スイッチング素子はOFFとなる。主スイッチング素子がONすると、トランスの一次巻線に一方のコンデンサの電圧が印加されて、トランスの二次巻線に電力が伝達される。このときの一次巻線の電圧は、入力電圧に等しくなる。一方、補助スイッチング素子がONすると、トランスの一次巻線に他方のコンデンサの電圧が印加されて、トランスの二次巻線に電力が伝達される。このときの一次巻線の電圧は、入力電圧とデューティに依存する。
【0007】
ところで、電圧変換装置において、入力側(第1変換回路)のスイッチング素子が故障していると、スイッチング動作が正常に行われず、出力側(第2変換回路)から所望の電圧出力が得られない。そこで、スイッチング素子を駆動する前の初期状態において、スイッチング素子が故障しているか否かをチェックする初期診断が行われる。
【0008】
スイッチング素子の故障には、短絡故障(ON故障)とオープン故障(OFF故障)がある。短絡故障は、スイッチング素子へ印加する駆動電圧を停止しても、素子がOFFせずONしたままの状態(短絡状態)となる故障である。オープン故障は、スイッチング素子へ駆動電圧を印加しても、素子がONせずにOFFしたままの状態(遮断状態)となる故障である。
【0009】
スイッチング素子がON・OFF動作をしている状態下で、素子の故障を検出する方法としては、たとえば、スイッチング素子の両端電圧を測定し、当該電圧値と基準値との比較結果に基づいて、短絡故障やオープン故障を検出する方法が知られている。ところが、初期診断においては、スイッチング素子がON・OFF動作をしていない状態下で故障検出を行うため、動作中のスイッチング素子の故障を検出する手法をそのまま用いることはできない。
【0010】
もちろん、初期診断において、スイッチング素子を駆動してON・OFFさせることで、動作中の場合と同様の故障検出は可能である。しかし、そのようにすると、スイッチング素子に通電されるため、消費電力が増加する。また、初期診断のたびにスイッチング素子をON・OFFさせる結果、素子の寿命にも影響を与える。さらに、初期診断のプログラムが複雑となるという問題もある。
【0011】
こうしたことから、初期診断を行うにあたって、スイッチング素子を駆動しなくても故障を簡単に検出できる技術が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許公開第2014/268908号公報
【特許文献2】特開2002−315324号公報
【特許文献3】特開2003−92876号公報
【特許文献4】特開2003−92877号公報
【特許文献5】特開2003−92881号公報
【特許文献6】特開2007−189835号公報
【特許文献7】特開2007−236155号公報
【特許文献8】特開2007−236156号公報
【特許文献9】特開2008−79454号公報
【特許文献10】米国特許第8284576号公報
【特許文献11】米国特許公開第2012/153729号公報
【特許文献12】米国特許公開第2012/163035号公報
【特許文献13】米国特許公開第2013/3424号公報
【特許文献14】特開2013−179760号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Shuai Jiang, Dong Cao, Fang Z. Peng and Yuan Li “Grid-Connected Boost-Half-Bridge Photovoltaic Micro Inverter System Using Repetitive Current Control and Maximum Power Point Tracking”, 5-9 Feb. 2012, 2012 Twenty-Seventh Annual IEEE Applied Power Electronics Conference and Exposition (APEC), pp. 590−597
【非特許文献2】Dong Cao, Shuai Jiang, Fang Z. Peng and Yuan Li “Low Cost Transformer Isolated Boost Half-bridge Micro-inverter for Single-phase Grid-connected Photovoltaic System”, 5-9 Feb. 2012 , 2012 Twenty-Seventh Annual IEEE Applied Power Electronics Conference and Exposition (APEC), pp. 71−78
【非特許文献3】Hossein Tahmasebi, “Boost Integrated High Frequency Isolated Half-Bridge DC−DC Converter: Analysis, Design, Simulation and Experimental Results”, 2015 A project Report Submitted in Partial Fulfillment of the Requirements for the Degree of MASTER OF ENGINEERING, University of Victoria (https://dspace.library.uvic.ca/bitstream/handle/1828/6427/Tahmasebi_Hossein_MEng_2015.pdf)
【非特許文献4】York Jr, John Benson, ”An Isolated Micro-Converter for Next-Generation Photovoltaic Infrastructure” 2013-04-19 Dissertation submitted to the Faculty of the Virginia Polytechnic Institute and State University (https://vtechworks.lib.vt.edu/bitstream/handle/10919/19326/York_JB_D_2013.pdf)
【非特許文献5】Changwoo Yoon, and Sewan Choi,” Multi-Phase DC-DC converters using a Boost Half Bridge Cell for High Voltage and High Power Applications” IEEE Transactions on Power Electronics (Volume: 26, Issue: 2)
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に係る電圧変換装置の実施形態につき、図面を参照しながら説明する。各図において、同一の部分または対応する部分には、同一の符号を付してある。
【0029】
最初に、
図1を参照して、第1実施形態に係る電圧変換装置の構成を説明する。
図1において、電圧変換装置100は、前述のBHB(ブーストハーフブリッジ)方式の絶縁型DC−DCコンバータであって、第1変換回路11、第2変換回路12、電圧検出回路13、ゲートドライバ14、および制御部15を備えている。第1変換回路11と第2変換回路12は、トランスTrによって絶縁されている。この電圧変換装置100は、たとえば車両に搭載され、バッテリ電圧を昇圧して車載機器などの負荷に供給するDC−DCコンバータとして利用される。
【0030】
第1変換回路11は、直流電源Bの直流電圧をスイッチングし、かつ昇圧して交流電圧に変換する回路であり、補助スイッチング素子Q1と、主スイッチング素子Q2と、リレーRy1およびRy2と、入力インダクタLと、抵抗Rと、トランスTrの一次巻線W1と、コンデンサC1およびC2と、入力端子T1およびT2とを有している。
【0031】
スイッチング素子Q1、Q2は、それぞれFET(電界効果トランジスタ)からなる。補助スイッチング素子Q1は、ドレイン・ソース間に寄生ダイオードD1を有している。同様に、主スイッチング素子Q2は、ドレイン・ソース間に寄生ダイオードD2を有している。主スイッチング素子Q2のソースは、グランドGに接地されている。スイッチング素子Q1、Q2の各ゲートは、ゲートドライバ14に接続されている。
【0032】
補助スイッチング素子Q1のソースは、主スイッチング素子Q2のドレインに接続されており、この接続点と入力端子T1との間に、リレーRy1と入力インダクタLの直列回路が接続されている。入力端子T1は、直流電源Bの正極に接続されている。
【0033】
補助スイッチング素子Q1のドレインは、コンデンサC1の一端に接続されており、コンデンサC1の他端は、コンデンサC2の一端に接続されている。コンデンサC2の他端は、グランドGに接地されている。コンデンサC1、C2の接続点と、入力端子T2との間に、リレーRy2と抵抗Rの直列回路が接続されている。この直列回路は、コンデンサC2を充電するためのプリチャージ回路を構成している(プリチャージ回路については、たとえば特許文献14を参照)。入力端子T2は、直流電源Bの正極に接続されている。直流電源Bの負極は、グランドGに接地されている。
【0034】
コンデンサC1、C2の接続点と、スイッチング素子Q1、Q2の接続点との間には、トランスTrの一次巻線W1が接続されている。コンデンサC2の両端には、電圧検出回路13が接続されている。
【0035】
以上の結果、第1変換回路11においては、直流電源Bに対して、リレーRy1と入力インダクタLと主スイッチング素子Q2とが直列に接続され、直流電源Bに対して、リレーRy2と抵抗RとコンデンサC2とが直列に接続され、一次巻線W1とコンデンサC2との直列回路が、主スイッチング素子Q2に対して並列に接続され、コンデンサC1と補助スイッチング素子Q1との直列回路が、一次巻線W1に対して並列に接続されている。
【0036】
リレーRy1は本発明における「第1開閉器」の一例であり、リレーRy2は本発明における「第2開閉器」の一例である。コンデンサC1は本発明における「第1コンデンサ」に相当し、コンデンサC2は本発明における「第2コンデンサ」に相当する。
【0037】
第2変換回路12は、第1変換回路11により昇圧された交流電圧を整流して、直流電圧に変換する回路であり、トランスTrの二次巻線W2と、この二次巻線W2に発生した交流電圧を整流するダイオードD3、D4と、整流された電圧を平滑化するコンデンサC3、C4と、平滑化された電圧を充電するコンデンサCoと、出力端子T3、T4とを有している。ダイオードD3、D4は、本発明における「整流素子」の一例である。
【0038】
ダイオードD3のカソードは、コンデンサC3、Coのそれぞれの一端と共に、出力端子T3に接続されている。ダイオードD3のアノードは、ダイオードD4のカソードに接続されている。ダイオードD4のアノードは、コンデンサC3、Coのそれぞれの他端と共に、出力端子T4に接続されている。出力端子T4は、グランドGに接地されている。トランスTrの二次巻線W2は、ダイオードD3およびD4の接続点と、コンデンサC3およびC4の接続点との間に接続されている。出力端子T3、T4には、負荷Roが接続されている。
【0039】
電圧検出回路13は、コンデンサC2の両端に接続されており、当該コンデンサC2の両端電圧Vxを検出する。電圧検出回路13で検出された電圧値は、制御部15へ入力される。
【0040】
ゲートドライバ14は、制御部15からの制御信号により動作し、スイッチング素子Q1、Q2をON・OFFさせるためのゲート信号S1、S2を生成する。これらのゲート信号S1、S2は、たとえば
図4(b)に示すような、所定のデューティを持ったPWM(Pulse Width Modulation)信号であり、スイッチング素子Q1、Q2の各ゲートへ与えられる。
【0041】
制御部15は、CPUやメモリなどから構成されている。制御部15には、電圧検出回路13が検出した電圧(コンデンサC2の両端電圧Vx)に基づいて、主スイッチング素子Q2の初期状態での短絡故障の有無を判定する、故障判定部16が備わっている。制御部15は、スイッチング素子Q1、Q2のON・OFFを制御するための制御信号をゲートドライバ14に与え、リレーRy1、Ry2のON・OFFを制御するための制御信号を各リレーに与える。さらに、制御部15は、故障判定部16においてスイッチング素子Q2が短絡故障していると判定された場合に、故障信号を出力する。そのほか、制御部15は、外部から入力される信号(外部信号)に基づいて、所定の制御動作を行う。
【0042】
上述した電圧変換装置100の通常の動作は、概略以下のとおりである。電圧変換装置100は、リレーRy1がONとなり、スイッチング素子Q1、Q2の各ゲートに、ゲートドライバ14からゲート信号S1、S2が印加されることによって、動作を開始する。補助スイッチング素子Q1がOFFで、主スイッチング素子Q2がONのときは、直流電源Bにより入力インダクタLにエネルギーが蓄積される。また、コンデンサC2の電圧がトランスTrの一次巻線W1に印加されて、二次巻線W2へ伝達され、負荷Roに電力が供給される。このときのコンデンサC2の電圧は、直流電源Bの電圧とほぼ等しくなる。
【0043】
その後、主スイッチング素子Q2がOFFすると、昇圧動作が開始され、入力インダクタLに蓄積されたエネルギーが、寄生ダイオードD1を介してコンデンサC1、C2を充電する。そして、続く補助スイッチング素子Q1のONによって、コンデンサC1の電圧がトランスTrの一次巻線W1に印加されて、昇圧された電圧が二次巻線W2へ伝達され、負荷Roに電力が供給される。
【0044】
次に、スイッチング素子Q1、Q2が動作する前の初期状態において行われる初期診断について、
図2〜
図4を参照しながら説明する。なお、
図2〜
図4では、
図1の電圧検出回路13、ゲートドライバ14、および制御部15の図示を省略してある。
【0045】
初期状態では、リレーRy1、Ry2はいずれもOFFであり、スイッチング素子Q1、Q2にゲート信号S1、S2は印加されていない。また、コンデンサC1、C2の電圧は、いずれもゼロボルトである。この状態から初期診断を行う場合、制御部15は、リレーRy2をONさせるための制御信号を出力する。これにより、リレーRy2がONする。リレーRy1はOFFのままである。
【0046】
図2(a)は、初期状態において、主スイッチング素子Q2に短絡故障が発生していない場合(正常時)の電流経路を示している。この場合は、スイッチング素子Q1、Q2はいずれもOFF状態にある。そして、リレーRy2のONによって、直流電源BからリレーRy2および抵抗Rを介して、コンデンサC2に太線で示すように電流が流れ、この電流によってコンデンサC2が充電される。このため、コンデンサC2の両端電圧Vxは、
図2(b)に示すように、時間とともに上昇する。このときの電圧Vxの上昇速度は、抵抗Rの抵抗値とコンデンサC2の容量値とで決まる時定数に従う。
【0047】
リレーRy2がONしてコンデンサC2の充電が開始されてから、一定時間tが経過すると、コンデンサC2の両端電圧Vxは、直流電源Bの電圧Vbまたはその近傍の値まで上昇する。つまり、電圧Vxは電圧Vbとほぼ等しくなる(Vx≒Vb)。また、このときの電圧Vxは、あらかじめ設定された所定値(閾値)Vr以上となっている(Vr≦Vx)。
【0048】
このように、初期状態で主スイッチング素子Q2に短絡故障が発生していない場合は、リレーRy2をONすることによって、コンデンサC2が充電され、一定時間tが経過した時点でのコンデンサC2の両端電圧Vxは、
Vr≦Vx(≒Vb) ・・・ (1)
となる。
【0049】
故障判定部16は、電圧検出回路13の検出出力、すなわちコンデンサC2の両端電圧Vxの値を取り込んで、一定時間経過時のVxの値が上記(1)の関係を満たしておれば、主スイッチング素子Q2に短絡故障が発生していないと判定する。故障判定部16がこのように判定した場合、制御部15は、故障信号を出力することなく、以下に述べる通常動作を開始する。
【0050】
図4(a)は、通常動作時の回路状態を示している。通常動作の開始にあたって、制御部15は、リレーRy1をONに切り替えるとともに、リレーRy2をOFFに切り替える。その後、制御部15は、ゲートドライバ14を駆動する。これにより、ゲートドライバ14からスイッチング素子Q1、Q2の各ゲートにゲート信号S1、S2が与えられて、スイッチング素子Q1、Q2が駆動され、通常動作へ移行する。
【0051】
図4(b)は、ゲート信号S1、S2の一例を示している。Tはゲート信号の周期を表しており、Dはデューティを表している。スイッチング素子Q1、Q2は、それぞれのゲート信号S1、S2がH(Highレベル)の区間でONとなり、L(Lowレベル)の区間でOFFとなる。スイッチング素子Q1、Q2は交互にONし、一方がONのときに他方はOFFとなる。なお、実際には、スイッチング素子Q1、Q2の両方が過渡的にON状態となって回路が短絡するのを防ぐため、ゲート信号にデッドタイム区間が設けられるが、
図4(b)ではこれを省略してある。
【0052】
図3(a)は、初期状態において、主スイッチング素子Q2に短絡故障が発生している場合(異常時)の電流経路を示している。この場合は、補助スイッチング素子Q1はOFF状態にあり、主スイッチング素子Q2は、ソース・ドレイン間が短絡状態となっている。そのため、リレーRy2がONすると、太線で示すように、直流電源BからリレーRy2、抵抗R、トランスTrの一次巻線W1を通って、主スイッチング素子Q2に電流が流れる。しかし、コンデンサC2には電流が流れないため、コンデンサC2は充電されない。
【0053】
したがって、コンデンサC2の両端電圧Vxは、
図3(b)に示すように、ゼロボルトまたはその近傍の値を維持し(Vx≒0)、リレーRy2がONしてから一定時間tが経過しても、直流電源Bの電圧Vbまたはその近傍の値まで上昇しない。また、このときの電圧Vxは、前記の所定値(閾値)Vr未満となっている(Vx<Vr)。
【0054】
このように、初期状態で主スイッチング素子Q2に短絡故障が発生している場合は、リレーRy2をONしてもコンデンサC2が充電されず、一定時間tが経過した時点でのコンデンサC2の両端電圧Vxは、
Vx(≒0)<Vr<Vb ・・・ (2)
となる。
【0055】
故障判定部16は、電圧検出回路13の検出出力(電圧Vx)を取り込んで、一定時間経過時のVxの値が上記(2)の関係を満たしておれば、主スイッチング素子Q2に短絡故障が発生していると判定する。故障判定部16がこのように判定した場合、制御部15は、故障信号を出力するとともに、
図4の通常動作への移行を中止する。制御部15から出力された故障信号は、たとえば図示しないECU(電子制御ユニット)へ伝送される。ECUは、この故障信号に基づいて、警報を出力するなどの処理を行う。
【0056】
なお、初期診断において、コンデンサC2の両端電圧Vxに基づく故障検出は、主スイッチング素子Q2の短絡故障についてのみ可能であり、補助スイッチング素子Q1の短絡故障については、上述した方法で検出することはできない。しかしながら、初期診断時にリレーRy1をONして(リレーRy2はOFF)、コンデンサC1、C2の直列回路の両端電圧を測定することで、補助スイッチング素子Q1の初期状態の短絡故障を検出することができる。この方法は、本出願人が先に提案した特願2016−163313号で詳しく説明されている。
【0057】
また、初期状態においては、スイッチング素子Q1、Q2をONさせないので、スイッチング素子Q1、Q2の一方または両方にOFF故障が発生していたとしても、これを検出することはできない。スイッチング素子Q1、Q2のOFF故障の診断は、各スイッチング素子が動作を開始した後に、従来から採用されている方法に従って行われる。
【0058】
上述した第1実施形態によると、初期診断において、リレーRy2をONしてコンデンサC2に充電を行い、リレーRy2のONから一定時間が経過した時点のコンデンサC2の両端電圧Vxに基づいて、主スイッチング素子Q2の短絡故障を検出している。このため、初期診断時にスイッチング素子Q1、Q2に通電する必要がなく、消費電力の増加を抑制することができる。また、スイッチング素子Q1、Q2のON・OFFによる寿命への影響も抑制できる。さらに、コンデンサC2の両端電圧Vxを所定値Vrと比較するだけの単純な手順により短絡故障を検出できるため、初期診断のプログラムが簡単となる。
【0059】
また、上述した実施形態では、主スイッチング素子Q2が短絡故障している場合に、プリチャージ用の抵抗Rが、初期診断時に流れる電流を制限する電流制限用の抵抗として機能する。詳しくは、
図3(a)において、主スイッチング素子Q2が短絡状態であることから、もし抵抗Rが存在しなければ、太線の経路で大電流(短絡電流)が流れるが、抵抗Rが設けられていることで、この大電流を抑制することができる。
【0060】
図5は、第2実施形態に係る電圧変換装置200を示している。第1実施形態(
図1)の電圧変換装置100は、主スイッチング素子Q2と補助スイッチング素子Q1の組が1つだけ設けられた、単相型の電圧変換装置であった。これに対し、第2実施形態の電圧変換装置200は、主スイッチング素子Q2、Q4と補助スイッチング素子Q1、Q3の組が複数設けられた、多相(ここでは2相)型の電圧変換装置である。このような多相型の電圧変換装置は、たとえば特許文献10〜13、および非特許文献5に記載されている。
【0061】
図5において、第1変換回路21は、主スイッチング素子と補助スイッチング素子の複数の組(Q2とQ1、Q4とQ3)と、各組に対応して設けられた複数の入力インダクタL1、L2と、各組に対応して設けられた複数のトランスTr1、Tr2の各一次巻線W1、W3とを有している。
【0062】
また、第2変換回路22は、一対のダイオードの複数の組(D5とD6、D7とD8)と、各組に対応して設けられた複数のトランスTr1、Tr2の各二次巻線W2、W4とを有している。ダイオードD5〜D8は、本発明における「整流素子」の一例である。その他の構成については、
図1と同じである。なお、第2実施形態においても、
図1の電圧検出回路13、ゲートドライバ14、および制御部15に相当するブロックが設けられるが、
図5ではそれらの図示を省略してある(
図6〜
図10においても同様)。
【0063】
第2実施形態において、主スイッチング素子Q2、Q4の短絡故障を検出するための初期診断の手順は、第1実施形態の場合と基本的に同じである。
【0064】
図6は、初期状態において、主スイッチング素子Q2、Q4のいずれにも短絡故障が発生していない場合(正常時)の電流経路を示している。この場合は、リレーRy2のONによって、直流電源BからリレーRy2および抵抗Rを介して、コンデンサC2に太線で示すように電流が流れ、この電流によってコンデンサC2が充電される。このため、コンデンサC2の両端電圧Vxは、
図2(b)の場合と同様に時間とともに上昇し、リレーRy2のONから一定時間が経過すると、コンデンサC2の両端電圧Vxは、直流電源Bの電圧Vbとほぼ等しくなる。したがって、この場合も前記(1)の関係が成立するので、故障判定部16は、スイッチング素子Q2、Q4のいずれにも短絡故障が発生していないと判定する。その後は、リレーRy1がON、リレーRy2がOFFに切り替わり、スイッチング素子Q1〜Q4が駆動されて通常動作へ移行する。
【0065】
図7は、初期状態において、主スイッチング素子Q2に短絡故障が発生している場合(異常時)の電流経路を示している。この場合は、リレーRy2のONによって、太線で示すように、直流電源BからリレーRy2、抵抗R、トランスTr1の一次巻線W1を通って、主スイッチング素子Q2に電流が流れる。しかし、コンデンサC2には電流が流れないため、コンデンサC2は充電されない。このため、コンデンサC2の両端電圧Vxは、
図3(b)の場合と同様に、ほぼゼロボルトを維持する。
【0066】
図8は、初期状態において、主スイッチング素子Q4に短絡故障が発生している場合(異常時)の電流経路を示している。この場合は、リレーRy2のONによって、太線で示すように、直流電源BからリレーRy2、抵抗R、トランスTr2の一次巻線W3を通って、主スイッチング素子Q4に電流が流れる。しかし、コンデンサC2には電流が流れないため、コンデンサC2は充電されない。このため、コンデンサC2の両端電圧Vxは、
図3(b)の場合と同様に、ほぼゼロボルトを維持する。
【0067】
図7および
図8の場合は、リレーRy2がONしてから一定時間が経過しても、コンデンサC2の両端電圧Vxは、ゼロボルト(またはその近傍の値)のままであり、直流電源Bの電圧Vb(またはその近傍の値)まで上昇しない。また、図示は省略するが、主スイッチング素子Q2、Q4の双方に短絡故障が発生している場合も、同様に、コンデンサC2の両端電圧Vxが上昇しない。
【0068】
したがって、これらの場合には、前記(2)の関係が成立するので、故障判定部16は、主スイッチング素子Q2、Q4の少なくとも一方に初期状態で短絡故障が発生していると判定する。なお、一方の主スイッチング素子Q2が短絡故障している場合と、他方の主スイッチング素子Q4が短絡故障している場合と、双方の主スイッチング素子Q2、Q4が短絡故障している場合とで、コンデンサC2の両端電圧Vx(≒0)に差はないので、短絡故障している主スイッチング素子を特定することはできない。
【0069】
このように、故障判定部16が、主スイッチング素子Q2、Q4の少なくとも一方に短絡故障が発生していると判定した場合、制御部15は、故障信号を出力するとともに、通常動作への移行を中止する。制御部15から出力された故障信号は、たとえば図示しないECU(電子制御ユニット)へ伝送される。ECUは、この故障信号に基づいて、警報を出力するなどの処理を行う。
【0070】
以上述べた第2実施形態においても、第1実施形態の場合と同様の効果を得ることができる。
【0071】
図9は、第3実施形態に係る電圧変換装置100を示している。第3実施形態は、第1実施形態(
図1)の変形例であって、第2変換回路12’に出力インダクタLoが追加されている点が、第1実施形態と異なっている。
【0072】
図10は、第4実施形態に係る電圧変換装置200を示している。第4実施形態は、第2実施形態(
図5)の変形例であって、第2変換回路22’に出力インダクタLoが追加されている点が、第2実施形態と異なっている。
【0073】
これらの第3および第4実施形態においても、第1実施形態の場合と同様の効果を得ることができる。
【0074】
図11は、第5実施形態に係る電圧変換装置100を示している。第5実施形態では、第1変換回路11および第2変換回路12の構成は第1実施形態(
図1)と同じであり、電圧検出回路13が抵抗Rの両端に接続されている点が、第1実施形態と異なっている。すなわち、第1実施形態では、電圧検出回路13はコンデンサC2の両端電圧を検出するのに対し、第5実施形態では、電圧検出回路13は抵抗Rの両端電圧を検出する。
【0075】
図12(a)は、初期状態において、主スイッチング素子Q2に短絡故障が発生していない場合(正常時)の電流経路を示している。この電流経路は、
図2(a)の電流経路と同じである。リレーRy2のONによって、直流電源BからリレーRy2および抵抗Rを介してコンデンサC2に電流が流れ、コンデンサC2が充電される。このため、抵抗Rの両端電圧Vyは、
図12(b)に示すように、直流電源Bの電圧Vbまたはその近傍の値から、時間とともに減少する。
【0076】
リレーRy2がONしてコンデンサC2の充電が開始されてから、一定時間tが経過すると、抵抗Rの両端電圧Vyは、ゼロボルトまたはその近傍の値まで減少する。つまり、電圧Vyはほぼゼロとなる(Vy≒0)。また、このときの電圧Vyは、あらかじめ設定された所定値(閾値)Vr未満となっている(Vy<Vr)。
【0077】
このように、初期状態で主スイッチング素子Q2に短絡故障が発生していない場合は、リレーRy2をONすることによって、コンデンサC2が充電され、一定時間tが経過した時点での抵抗Rの両端電圧Vyは、
Vy(≒0)<Vr<Vb ・・・ (3)
となる。
【0078】
故障判定部16は、電圧検出回路13の検出出力、すなわち抵抗Rの両端電圧Vyの値を取り込んで、一定時間経過時のVyの値が上記(3)の関係を満たしておれば、主スイッチング素子Q2に短絡故障が発生していないと判定する。その後は、
図4で説明した通常動作に移行する。
【0079】
図13(a)は、初期状態において、主スイッチング素子Q2に短絡故障が発生している場合(異常時)の電流経路を示している。この電流経路は、
図3(a)の電流経路と同じである。リレーRy2がONすると、直流電源BからリレーRy2、抵抗R、トランスTrの一次巻線W1を通って、主スイッチング素子Q2に電流が流れる。しかし、コンデンサC2には電流が流れないため、コンデンサC2は充電されない。
【0080】
したがって、抵抗Rの両端電圧Vyは、
図13(b)に示すように、直流電源Bの電圧Vbまたはその近傍の値を維持し(Vy≒Vb)、リレーRy2がONしてから一定時間tが経過しても、ゼロボルトまたはその近傍の値まで減少しない。また、このときの電圧Vyは、前記の所定値(閾値)Vr以上となっている(Vr≦Vy)。
【0081】
このように、初期状態で主スイッチング素子Q2に短絡故障が発生している場合は、リレーRy2をONしてもコンデンサC2が充電されず、一定時間tが経過した時点での抵抗Rの両端電圧Vyは、
0<Vr<Vy(≒Vb) ・・・ (4)
となる。
【0082】
故障判定部16は、電圧検出回路13の検出出力(電圧Vy)を取り込んで、一定時間経過時のVyの値が上記(4)の関係を満たしておれば、主スイッチング素子Q2に短絡故障が発生していると判定する。故障判定部16がこのように判定した場合、制御部15は、故障信号を出力するとともに、通常動作への移行を中止する。制御部15から出力された故障信号は、たとえば図示しないECU(電子制御ユニット)へ伝送される。ECUは、この故障信号に基づいて、警報を出力するなどの処理を行う。
【0083】
以上述べた第5実施形態においても、第1実施形態の場合と同様の効果を得ることができる。
【0084】
なお、第5実施形態において、
図5のような多相型の構成を採用してもよい。また、第1〜第4実施形態と第5実施形態とを併用して、コンデンサC2の両端および抵抗Rの両端に、それぞれ電圧検出回路を設けてもよい。この場合、制御部15は、各電圧検出回路の出力を取り込んで、前記(2)および(4)の少なくとも一方の関係が成立する場合に、主スイッチング素子Q2が短絡故障していると判定する。
【0085】
本発明では、以上述べた実施形態以外にも、以下のような種々の実施形態を採用することができる。
【0086】
前記の各実施形態においては、電圧変換装置100、200がDC−DCコンバータであったが、本発明の電圧変換装置は、たとえば非特許文献1に記載されているような、DC−ACコンバータであってもよい。この場合は、第2変換回路で得られた直流電圧をスイッチングして交流電圧に変換する、第3変換回路が設けられる。
【0087】
前記の各実施形態においては、第2変換回路12、12’、22、22’の整流素子としてダイオードD3〜D8を用いたが、ダイオードの替わりにFETを用いてもよい。
【0088】
前記の各実施形態においては、スイッチング素子Q1〜Q4にFETを用いたが、FETの替わりにトランジスタやIGBTなどを用いてもよい。
【0089】
前記の各実施形態においては、第1変換回路11、21に設けられる第1開閉器および第2開閉器として、リレーRy1、Ry2を例に挙げたが、リレーの替わりにスイッチ、FET、トランジスタなどを用いてもよい。
【0090】
前記の各実施形態においては、スイッチング素子Q1〜Q4をPWM信号により駆動したが、PWM信号以外の信号によりスイッチング素子Q1〜Q4を駆動してもよい。
【0091】
前記の各実施形態においては、車両に搭載される電圧変換装置を例に挙げたが、本発明は、車両用以外の電圧変換装置にも適用することができる。