特許第6593710号(P6593710)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6593710
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】単一細胞由来核酸の解析方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20191010BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20191010BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20191010BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20191010BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   C12M1/34 B
   C12M1/00 A
   C12Q1/686 ZZNA
   C12N15/11 Z
   G01N33/50 P
【請求項の数】13
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-515907(P2016-515907)
(86)(22)【出願日】2015年4月7日
(86)【国際出願番号】JP2015060841
(87)【国際公開番号】WO2015166768
(87)【国際公開日】20151105
【審査請求日】2018年4月3日
(31)【優先権主張番号】特願2014-95011(P2014-95011)
(32)【優先日】2014年5月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】513130157
【氏名又は名称】IDACセラノスティクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 真一
(72)【発明者】
【氏名】金子 周一
(72)【発明者】
【氏名】松島 綱治
【審査官】 田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/048341(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/087466(WO,A1)
【文献】 特開2010−110262(JP,A)
【文献】 特表2014−506788(JP,A)
【文献】 特表2002−503954(JP,A)
【文献】 特開2011−036256(JP,A)
【文献】 特表2005−518819(JP,A)
【文献】 特表2001−509027(JP,A)
【文献】 Bio Techniques,2010年,Vol.48, No.5,p.409-412
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
C12N 15/00−15/90
C12Q 1/00−3/00
G01N 33/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一細胞由来の核酸の構成を解析する方法に用いるための、複数個の反応ウェルを有するマイクロプレートであって、
1個の反応ウェル内に1個のビーズが配置されており、
1個のビーズ上に複数分子の一本鎖オリゴヌクレオチドが結合してなり、
一本鎖オリゴヌクレオチドにおいて、核酸捕捉配列が3’末端に露出しており、核酸捕捉配列の5’側にバーコード配列が含まれており、
バーコード配列は各ビーズ毎に互いに異なる塩基配列であり、
ビーズの直径に対する反応ウェルの直径の比率が1.2〜1.75であり、
ビーズの直径に対する反応ウェルの深さの比率が1.5〜2.5であり、
マイクロプレートの反応ウェルの80%以上に、1個のビーズが配置されてなる、
マイクロプレート。
【請求項2】
ビーズが20〜40μmの大きさである、請求項1に記載のマイクロプレート。
【請求項3】
以下の工程を含む、請求項1またはに記載のマイクロプレートを作製する方法:
a)複数個の反応ウェルを有する、弾性のある高分子樹脂で製造されたマイクロプレートを準備する工程;
b)マイクロプレート上の反応ウェルの個数の1.1〜1.3倍の個数のビーズをマイクロプレート上に添加する工程であって、ビーズの直径に対する反応ウェルの直径の比率が1.2〜1.75であり、ビーズの直径に対する反応ウェルの深さの比率が1.5〜2.5であり;
c)半透膜によりマイクロプレートを覆い、押圧部材によりマイクロプレートの表面をしごくことにより、マイクロプレート上の80%以上の反応ウェルに対して、1個の反応ウェル内に1個のビーズを配置する工程。
【請求項4】
弾性のある高分子樹脂が、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルメタアクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、又はポリエチレンテレフタレートである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
請求項1またはに記載のマイクロプレート、および核酸抽出試薬を含む、単一細胞由来の核酸の構成を解析する方法に用いるための試薬キット。
【請求項6】
請求項1またはに記載の複数個の反応ウェルを有するマイクロプレートを用いて、単一細胞由来の核酸の構成を解析する方法であって、マイクロプレートにおいて、1個の反応ウェル内に1個のビーズが配置され、1個のビーズ上に複数分子の一本鎖オリゴヌクレオチドが結合してなり、一本鎖オリゴヌクレオチドにおいて、核酸捕捉配列が3’末端に露出しており、核酸捕捉配列の5’側にバーコード配列が含まれており、バーコード配列は各ビーズ毎に互いに異なる塩基配列であり、かつ、以下の工程を含む、解析方法:
1)マイクロプレートに細胞を播種して反応ウェル1個に細胞1個を配置させ、マイクロプレートの反応ウェル内において細胞から核酸を抽出し、当該細胞由来の核酸をビーズ上の一本鎖オリゴヌクレオチドに捕捉させる工程;
2)ビーズ上の一本鎖オリゴヌクレオチドに捕捉された核酸を鋳型として、核酸増幅反応を行い増幅断片を得る工程;
3)得られた増幅断片においてバーコード配列を確認し、同一のバーコード配列を有する断片を同一細胞由来の断片として同定する工程。
【請求項7】
請求項1またはに記載の複数個の反応ウェルを有するマイクロプレートを用いて、単一細胞由来の核酸の構成を解析する方法であって、マイクロプレートにおいて、1個の反応ウェル内に1個のビーズが配置され、1個のビーズ上に複数分子の一本鎖オリゴヌクレオチドが結合してなり、一本鎖オリゴヌクレオチドにおいて、核酸捕捉配列が3’末端に露出しており、核酸捕捉配列の5’側にバーコード配列が含まれており、バーコード配列は各ビーズ毎に互いに異なる塩基配列であり、かつ、以下の工程を含む解析方法:
1)各ビーズ上の一本鎖オリゴヌクレオチドに、1細胞由来の核酸が捕捉されてなる、複数のビーズを準備する工程;
2)ビーズ上の一本鎖オリゴヌクレオチドに捕捉された核酸を鋳型として、核酸増幅反応を行い増幅断片を得る工程;
3)得られた増幅断片においてバーコード配列を確認し、同一のバーコード配列を有する断片を同一細胞由来の断片として同定する工程。
【請求項8】
請求項6の工程1)の捕捉工程が以下の工程を含む、または、請求項7の工程1)における一本鎖オリゴヌクレオチドに核酸が捕捉されてなるビーズが以下の工程により調製されたものである、請求項6または7に記載の解析方法:
1−1)マイクロプレートに細胞を播種して反応ウェル1個に細胞1個を配置させた後、半透膜によりマイクロプレートを覆う工程:
1−2)半透膜の上から核酸抽出試薬を添加して、反応ウェル内において細胞を溶解させて細胞から核酸を抽出する工程:
1−3)細胞から抽出された核酸をビーズ上の一本鎖オリゴヌクレオチドに捕捉させる工程。
【請求項9】
請求項8の工程1−3)の後、マイクロプレートの反応ウェル内に配置された、核酸を捕捉したビーズを1個の容器に回収することにより、複数の細胞由来の核酸が1個の容器に回収される、請求項8に記載の解析方法。
【請求項10】
細胞由来の核酸がmRNAであり、ビーズ上のオリゴヌクレオチドに含まれる核酸捕捉配列がオリゴdT配列であり、請求項6または請求項7の工程2)において、核酸増幅反応の前に逆転写反応を行う、請求項6〜9のいずれか1に記載の解析方法。
【請求項11】
1個のビーズ上に複数分子の一本鎖オリゴヌクレオチドが結合してなり、一本鎖オリゴヌクレオチドにおいて、核酸捕捉配列が3’末端に露出しており、核酸捕捉配列の5’側にバーコード配列が含まれており、バーコード配列は各ビーズ毎に互いに異なる塩基配列であるビーズを作製する方法であって、以下の工程を含む作製方法:
i)バーコード配列、核酸捕捉配列および制限酵素認識配列を含むバーコードリンカーを鋳型として、1つのビーズを含む水滴中で核酸増幅反応を行うことにより、増幅産物である二本鎖オリゴヌクレオチドをビーズに結合させる工程であって、制限酵素認識配列が核酸捕捉配列の3’側に隣接して含まれた配列番号31に示される塩基配列を含むバーコードリンカーを鋳型とし、配列番号32に示されるプライマーと配列番号33に示されるプライマーを含むプライマーセットを用いて、PCRサイクルを40〜60回繰り返す工程であり;
ii)工程i)の核酸増幅反応の後に、ビーズに結合した二本鎖オリゴヌクレオチドを制限酵素処理することにより、二本鎖オリゴヌクレオチドの3’末端に核酸捕捉配列を露出させる工程;
iii)ビーズに結合した二本鎖オリゴヌクレオチドを一本鎖オリゴヌクレオチドに変性させる工程。
【請求項12】
請求項11に記載のビーズの作製方法により作製された、ビーズ。
【請求項13】
以下の1)〜3)の工程を含む、請求項12に記載のビーズを用いて単一細胞由来の核酸の構成を解析する方法:
1)ビーズ1個と、細胞1個とを単一区画内で接触させた状態で細胞から核酸を抽出し、当該細胞由来の核酸をビーズ上の一本鎖オリゴヌクレオチドに結合させる工程;
2)ビーズ上の一本鎖オリゴヌクレオチドに結合した核酸を鋳型として、核酸増幅反応を行い増幅断片を得る工程;
3)得られた増幅断片においてバーコード配列を確認し、同一のバーコード配列を有する断片を同一細胞由来の断片として同定する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1種類のバーコード配列を有するオリゴヌクレオチドが結合した、単一細胞由来の核酸の構成を解析するためのビーズを作製する方法、当該作製方法により作製されたビーズ、反応ウェル内にビーズが配置されたマイクロプレート、および当該ビーズまたはマイクロプレートを用いた単一細胞由来の核酸の構成を解析する方法に関する。
なお、本出願は、参照によりここに援用されるところの、日本国特許出願の特願2014-095011からの優先権を請求する。
【背景技術】
【0002】
細胞は生物の機能上、構造上の最小単位である。ところが、これまで生物の機能・構造等については、あくまで細胞集団についての解明が試みられているものの、個々の細胞がどのような物質を生産しているのか等はほとんど解明されていない。現在の生物学的知見は、個々の細胞の知見の積み重ねではなく、集団の細胞の知見の積み重ねである。最近の研究では明らかに類似した細胞タイプ(例えば癌組織)においても、細胞ごとに遺伝子発現が多様であることが明らかになっており、細胞ごとの遺伝子発現等の特徴を解明することが望まれている。
【0003】
ヒトの免疫系にはT細胞が含まれ、その中にはTh2細胞が含まれる。Th2細胞はIL-4、IL-5、IL-6などのサイトカインを産生することが知られている。しかし、個々の細胞がこれらすべてのサイトカインを常に一定の割合で生産しているか、状況によって生産する割合が変わるのか、サイトカインの一部を生産する細胞が集まることにより全体として全てのサイトカインを生産しているように見えるのか、また、サイトカインの生産状況と同時にどのようなレセプター・転写因子が生産されているのか等は解明されていない。細胞は微小環境によって大きく影響を受け、少数の転写や翻訳に関与する分子によって応答が変わり、ある程度確率論的な応答を示すことから、個々の細胞の発現応答は異なると考えられる。
【0004】
真核生物の細胞1個由来のRNA、もしくは細胞1個由来と同程度の微量のRNA、具体的には10 pg程度の全RNAを材料として二本鎖cDNAを調製し、当該cDNAを遺伝子発現解析に利用する方法がいくつか知られている(非特許文献1、非特許文献2)。また、1個の細胞由来の転写産物は、最小で一分子(1コピー)しか存在しないことも想定され、一分子の核酸をシーケンシングできる装置も開発されている。しかしながら実際のところ、本装置を利用するためには数百個の細胞が必要であり、また正確性が低く、発現しているmRNAのうち20%前後しか検出できないという問題点がある。
【0005】
そこで1個の細胞由来の転写産物を検出するために、まずは転写産物を増幅して量を増やす必要がある。1個の細胞由来の転写産物を増幅する手段としては、1個の細胞を可溶化してmRNAを分離し、オリゴdTまたはランダムプライマーを用いてcDNAを合成し、PCRまたはin vitro転写(IVT)によってcDNAを増幅する手段がある。PCRを用いた場合、増幅量は多いが、非特異的な副産物が多いという問題点がある。mRNA由来のcDNAは多様な長さであり、PCRにより多様な長さの断片を、定量性を損なわずに増幅することは極めて難しい。また、PCRの反応サイクル数を増やすことにより増幅される断片の量は多くなる。しかしながら、増幅前に存在量が極端に多い転写産物のcDNA(例えば、1細胞あたり数万コピー存在するもの)と極端に少ない転写産物のcDNA(例えば、1細胞あたり1コピー存在するもの)がある場合に、PCRの反応サイクル数を増やしてしまうと、存在量の多いcDNAの増幅効率が下がり、その結果最終的な増幅産物の中で増幅産物の存在比率が細胞内での転写産物の比率を反映しなくなる可能性がある。また、IVTは非特異的な副産物は少ないという利点があるが、1 kb以上の長さのcRNAを取得しにくい、時間や手間がかかる、増幅量があまり大きくない、という問題点がある。またこれらの方法では、1つ1つの細胞をそれぞれ処理しなくてはならず、時間も手間もかかってしまうため、測定出来る細胞数も限られる。
【0006】
1個の細胞由来の転写産物を検出する方法として、バーコード配列を含むオリゴヌクレオチドが結合したビーズを用いる方法が提案されている(特許文献1)。特許文献1では、ビーズに結合した具体的なオリゴヌクレオチドとして、SEQ ID NO: 9が示されているが、SEQ ID NO: 9のオリゴヌクレオチドは3'末端にオリゴdTが露出した配列ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】US2013/0274117A1号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Development and applications of single-cell transcriptome analysis. Tang F, Lao K, Surani MA. Nat Methods. 2011 Apr;8(4 Suppl):S6-11.
【非特許文献2】Review, Single cell genomics: advances and future perspectives. Macaulay IC, Voet T. PLoS Genet. 2014 ,10(1):e1004126
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、単一細胞の核酸を効率よく回収することのできる手段および当該回収した核酸を解析する手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討した結果、ビーズに結合した二本鎖オリゴヌクレオチドを制限酵素処理することにより3'末端に核酸捕捉配列を配置可能であることを見出し、ビーズ上のオリゴヌクレオチドを増幅するための鋳型となるバーコードリンカーにおいて、核酸捕捉配列の3'側に制限酵素認識配列を配置させることに着目し、本発明を達成した。
【0011】
また本発明者らは、一本鎖オリゴヌクレオチドが結合したビーズを用いた単一細胞由来の核酸の解析方法について鋭意検討した結果、1個の反応ウェル内に1個のビーズを配置させたマイクロプレートに細胞を播くことを含む複数の技術を複合的に組み合わせることにより、簡便かつ包括的に、単一細胞由来の核酸の解析を行うことが可能であることを見出し、本発明を達成した。
【0012】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.単一細胞由来の核酸の構成を解析する方法に用いるための、複数個の反応ウェルを有するマイクロプレートであって、
1個の反応ウェル内に1個のビーズが配置されており、
1個のビーズ上に複数分子の一本鎖オリゴヌクレオチドが結合してなり、
一本鎖オリゴヌクレオチドにおいて、核酸捕捉配列が3'末端に露出しており、核酸捕捉配列の5'側にバーコード配列が含まれており、
バーコード配列は各ビーズ毎に互いに異なる塩基配列である、マイクロプレート。
2.マイクロプレートの反応ウェルの80%以上に、1個のビーズが配置されてなる、前項1に記載のマイクロプレート。
3.ビーズが20〜40μmの大きさである、前項1または2に記載のマイクロプレート。
4.以下の工程を含む、前項1〜3のいずれか1に記載のマイクロプレートを作製する方法:
a)複数個の反応ウェルを有するマイクロプレートを準備する工程;
b)ビーズの直径に対する反応ウェルの直径の比率が1.2〜1.75であるビーズを、マイクロプレート上に添加する工程;
c)半透膜によりマイクロプレートを覆い、押圧部材によりマイクロプレートの表面をしごくことにより、1個の反応ウェル内に1個のビーズを配置する工程。
5.前項1〜3のいずれか1に記載のマイクロプレート、および核酸抽出試薬を含む、単一細胞由来の核酸の構成を解析する方法に用いるための試薬キット。
6.前項1〜3のいずれか1に記載の複数個の反応ウェルを有するマイクロプレートを用いて、単一細胞由来の核酸の構成を解析する方法であって、マイクロプレートにおいて、1個の反応ウェル内に1個のビーズが配置され、1個のビーズ上に複数分子の一本鎖オリゴヌクレオチドが結合してなり、一本鎖オリゴヌクレオチドにおいて、核酸捕捉配列が3'末端に露出しており、核酸捕捉配列の5'側にバーコード配列が含まれており、バーコード配列は各ビーズ毎に互いに異なる塩基配列であり、かつ、以下の工程を含む、解析方法:
1)マイクロプレートに細胞を播種して反応ウェル1個に細胞1個を配置させ、マイクロプレートの反応ウェル内において細胞から核酸を抽出し、当該細胞由来の核酸をビーズ上の一本鎖オリゴヌクレオチドに捕捉させる工程;
2)ビーズ上の一本鎖オリゴヌクレオチドに捕捉された核酸を鋳型として、核酸増幅反応を行い増幅断片を得る工程;
3)得られた増幅断片においてバーコード配列を確認し、同一のバーコード配列を有する断片を同一細胞由来の断片として同定する工程。
7.前項1〜3のいずれか1に記載の複数個の反応ウェルを有するマイクロプレートを用いて、単一細胞由来の核酸の構成を解析する方法であって、マイクロプレートにおいて、1個の反応ウェル内に1個のビーズが配置され、1個のビーズ上に複数分子の一本鎖オリゴヌクレオチドが結合してなり、一本鎖オリゴヌクレオチドにおいて、核酸捕捉配列が3'末端に露出しており、核酸捕捉配列の5'側にバーコード配列が含まれており、バーコード配列は各ビーズ毎に互いに異なる塩基配列であり、かつ、以下の工程を含む解析方法:
1)各ビーズ上の一本鎖オリゴヌクレオチドに、1細胞由来の核酸が捕捉されてなる、複数のビーズを準備する工程;
2)ビーズ上の一本鎖オリゴヌクレオチドに捕捉された核酸を鋳型として、核酸増幅反応を行い増幅断片を得る工程;
3)得られた増幅断片においてバーコード配列を確認し、同一のバーコード配列を有する断片を同一細胞由来の断片として同定する工程。
8.前項6の工程1)の捕捉工程が以下の工程を含む、または、前項7の工程1)における一本鎖オリゴヌクレオチドに核酸が捕捉されてなるビーズが以下の工程により調製されたものである、前項6または7に記載の解析方法:
1−1)マイクロプレートに細胞を播種して反応ウェル1個に細胞1個を配置させた後、半透膜によりマイクロプレートを覆う工程:
1−2)半透膜の上から核酸抽出試薬を添加して、反応ウェル内において細胞を溶解させて細胞から核酸を抽出する工程:
1−3)細胞から抽出された核酸をビーズ上の一本鎖オリゴヌクレオチドに捕捉させる工程。
9.前項8の工程1−3)の後、マイクロプレートの反応ウェル内に配置された、核酸を捕捉したビーズを1個の容器に回収することにより、複数の細胞由来の核酸が1個の容器に回収される、前項8に記載の解析方法。
10.細胞由来の核酸がmRNAであり、ビーズ上のオリゴヌクレオチドに含まれる核酸捕捉配列がオリゴdT配列であり、前項6または前項7の工程2)において、核酸増幅反応の前に逆転写反応を行う、前項6〜9のいずれか1に記載の解析方法。
11.1個のビーズ上に複数分子の一本鎖オリゴヌクレオチドが結合してなり、一本鎖オリゴヌクレオチドにおいて、核酸捕捉配列が3'末端に露出しており、核酸捕捉配列の5'側にバーコード配列が含まれており、バーコード配列は各ビーズ毎に互いに異なる塩基配列であるビーズを作製する方法であって、以下の工程を含む作製方法:
i)バーコード配列、核酸捕捉配列および制限酵素認識配列を含むバーコードリンカーを鋳型として、1つのビーズを含む水滴中で核酸増幅反応を行うことにより、増幅産物である二本鎖オリゴヌクレオチドをビーズに結合させる工程であって、バーコードリンカーにおいて、制限酵素認識配列が核酸捕捉配列の3'側に隣接して含まれており;
ii)工程i)の核酸増幅反応の後に、ビーズに結合した二本鎖オリゴヌクレオチドを制限酵素処理することにより、二本鎖オリゴヌクレオチドの3'末端に核酸捕捉配列を露出させる工程;
iii)ビーズに結合した二本鎖オリゴヌクレオチドを一本鎖オリゴヌクレオチドに変性させる工程。
12.前項11に記載のビーズの作製方法により作製された、ビーズ。
13.以下の1)〜3)の工程を含む、前項12に記載のビーズを用いて単一細胞由来の核酸の構成を解析する方法:
1)ビーズ1個と、細胞1個とを単一区画内で接触させた状態で細胞から核酸を抽出し、当該細胞由来の核酸をビーズ上の一本鎖オリゴヌクレオチドに結合させる工程;
2)ビーズ上の一本鎖オリゴヌクレオチドに結合した核酸を鋳型として、核酸増幅反応を行い増幅断片を得る工程;
3)得られた増幅断片においてバーコード配列を確認し、同一のバーコード配列を有する断片を同一細胞由来の断片として同定する工程。
【発明の効果】
【0013】
本発明のビーズの製造方法(作製方法)によれば、核酸捕捉配列が3'末端に露出したオリゴヌクレオチドが結合したビーズを容易に製造することができる。本発明の製造方法により得られるビーズは、1種類のバーコード配列を含むオリゴヌクレオチドの結合したビーズであり、単一細胞由来の微量の核酸を回収して、遺伝子解析に利用することが可能である。核酸捕捉配列がオリゴヌクレオチドの3'末端に露出していることにより、効率よく核酸を捕捉することができる。また本発明のビーズの製造方法によれば、1つのビーズを含む水滴中で1種類のバーコード配列を核酸増幅するため、各々単一のバーコード配列を持つビーズを多数、簡便に作製することが可能となる。
【0014】
また本発明の解析方法によれば、簡易的かつ包括的に単一細胞由来の核酸を解析することができる。本発明の解析方法によれば、単一細胞の核酸の種類や量といった構成を正確に解析することができる。例えば、単一細胞中の遺伝子の量比を維持しながら核酸を回収して解析することができる。核酸がmRNAである場合は、本発明により細胞1個の全RNA中に占める種々の遺伝子発現の割合を明らかにすることができる。また少数の遺伝子、もしくは予め指定しておいた遺伝子だけではなく、発現している遺伝子の全貌を網羅的に把握することが可能となる。したがって本発明は、数百個から数万個の個々の細胞のトランスクリプトーム解析に利用することが可能である。バーコード配列を含むオリゴヌクレオチドが結合したビーズを用いる場合、バーコード配列を各細胞由来の核酸に付加させれば、その後は1つ1つの細胞をそれぞれ処理する必要はなく、高速かつ容易に、さらには低コストで多数の細胞の転写産物について解析を行うことが可能となる。
また本発明のマイクロプレートによれば、単一細胞からの核酸の捕捉と、核酸増幅反応などの解析を別個の場所で行うことができることから、解析可能となる対象が大幅に広がるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】本発明のビーズの製造方法を説明する図である。(実施例1)
図1B】本発明のビーズを用いた単一細胞由来核酸の解析方法を説明する図である。(実施例2)
図2】本発明のビーズの製造方法により得られたビーズ上のオリゴヌクレオチドについて、塩基配列を確認した結果を示す図である。(実施例1)
図3】本発明のビーズの製造方法により得られたビーズを用いることにより、単一細胞由来核酸にバーコード配列を付加できることを確認した結果を示す図である。(実施例2)
図4】本発明のマイクロプレートを用いて、単一細胞由来核酸にバーコード配列を付加できることを確認した結果を示す図である。(実施例4)
図5】肝細胞がん細胞株の遺伝子発現について、本発明のマイクロプレートを用いて解析して得られた遺伝子数とtotal read数を示す図である。(実施例5)
図6】肝細胞がん細胞株について本発明のマイクロプレートを用いて解析し、バーコード配列により識別した各細胞において発現が確認された遺伝子名とread数とを示す図である(実施例5)
図7】肝細胞がん細胞株について、本発明のマイクロプレートを用いて解析して得られた遺伝子の種類と1細胞のread数の相関を示す図である。(実施例5)
図8】肝細胞がん細胞株において、本発明のマイクロプレートを用いて解析して得られた細胞当たりの遺伝子頻度について、2つの細胞間の相関を示す図である。(実施例5)
図9】本発明の反応ウェル内にビーズを配置させたマイクロプレートの写真図である。(実施例3)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、バーコード配列を有する一本鎖オリゴヌクレオチドが結合した、単一細胞由来の核酸の構成を解析するためのビーズを作製する方法に関するものである。当該オリゴヌクレオチドは、単一細胞由来の核酸と結合し得る核酸捕捉配列を有している。ビーズ上の各一本鎖オリゴヌクレオチドは、核酸捕捉配列により単一細胞由来の核酸と結合することによりビーズ上に核酸を結合させる。核酸の結合したビーズを回収することにより、核酸を回収することができる。
【0017】
本発明のビーズは、以下の工程を含む方法により作製することができる。
i)1種類のバーコード配列と核酸捕捉配列と制限酵素認識配列を含むバーコードリンカーを鋳型として、1つのビーズを含む水滴中で核酸増幅反応を行うことにより、当該バーコード配列を含む二本鎖オリゴヌクレオチドをビーズに結合させる工程であって、バーコードリンカーにおいて、制限酵素認識配列が核酸捕捉配列の3'側に隣接して含まれており;
ii)工程i)の核酸増幅反応の後に、ビーズに結合した二本鎖オリゴヌクレオチドを制限酵素処理することにより、二本鎖オリゴヌクレオチドの3'末端に核酸捕捉配列を露出させる工程;
iii)ビーズに結合した二本鎖オリゴヌクレオチドを一本鎖オリゴヌクレオチドに変性させる工程。
【0018】
本発明において「バーコード配列」とは、A(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)からなるランダムな塩基配列であり、細胞毎に異なるバーコード配列で標識することにより、各細胞由来の核酸を識別可能とするものである。バーコード配列による標識は、1つの細胞由来の核酸に1種類のバーコード配列が付加されることにより行われる。バーコード配列の長さは、好ましくは10〜25塩基長の配列であり、例えばバーコード配列が12塩基長である場合は、バーコード配列をNNNNNNNNNNNN(配列番号1)と表すことができる。この場合、412種類の多様性のあるバーコード配列を一度に核酸増幅することができ、412種類のビーズを作製することができる。
【0019】
本発明において「核酸捕捉配列」とは、細胞由来の核酸に結合し得る(ハイブリダイズし得る)ものである。細胞由来の核酸は、ゲノムDNAであってもよいし、mRNAであってもよい。核酸がmRNAである場合は、核酸捕捉配列はTにより構成されるオリゴdTであることが好ましい。オリゴdTはmRNAのポリAテールとアニーリングし得る(ハイブリダイズし得る)長さであればよい。本発明により作製されるビーズは細胞由来のゲノムDNAの解析のために用いることが可能である。例えば抗体をコードするDNAを解析する場合は、抗体の定常領域等の比較的変化の少ない領域をコードする塩基配列から核酸捕捉配列を選択することができ、かかる核酸捕捉配列により細胞のDNAを回収することにより各細胞が生産する抗体の種類や、HLA型等を解析することができる(DeKosky BJ1 et al., Nat Biotechnol. 2013 Feb;31(2):166-9. doi: 10.1038/nbt.2492. Epub 2013 Jan 20.)。
【0020】
本発明において「制限酵素認識配列」とは、制限酵素により認識されて切断され得る配列であり、用いる制限酵素の種類に応じて選択されるものである。
【0021】
工程1)のバーコードリンカーには、バーコード配列と、核酸捕捉配列と、制限酵素認識配列が含まれる、あるいはこれらの相補配列が含まれる。バーコードリンカーにおいては、バーコード配列の3'側に隣接して核酸捕捉配列が含まれており、核酸捕捉配列の3'側に隣接して制限酵素認識配列が含まれることが好ましい。バーコードリンカーがバーコード配列等の相補配列を含む場合は、バーコード配列の5'側に隣接して核酸捕捉配列が含まれており、核酸捕捉配列の5'側に隣接して制限酵素認識配列が含まれる。バーコードリンカーは、バーコード配列と核酸捕捉配列を含むオリゴヌクレオチドをビーズ上に結合させるために用いられるオリゴヌクレオチドである。具体的には、バーコードリンカーを鋳型として1つのビーズを含む水滴中で核酸増幅反応を行う。かかる核酸増幅反応は、一般的にエマルジョンPCRと称される。油中水滴中にて反応させる方法により行うことができ、例えばGS Junior Titanium emPCR Kit(Lib-L)等のキットを用いて行うことができる。バーコードリンカーには、核酸増幅反応においてプライマーがアニーリングするためのプライマー相補配列が含まれることが好ましい。プライマー相補配列は、核酸捕捉配列、制限酵素認識配列を含む塩基配列を挟むように位置する。
【0022】
バーコードリンカーの配列は、いかなるものであってもよいが、例えば以下の配列が例示される。
5'-CCATCTCATCCCTGCGTGTCTCCGACTCAGGCAGTGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAANNNNNNNNNNNNCTGAGACTGCCAAGGCACACAGGGGATAGG -3' (配列番号2 )
上記塩基配列において、5'末端から数えて1〜25番目の塩基配列はプライマー相補配列であり、57〜68番目の塩基配列であるNNNNNNNNNNNN(配列番号1)はバーコード配列であり、37〜56番目のポリdA配列(オリゴdT配列の相補配列)は核酸捕捉配列であり、31〜36番目の塩基配列は制限酵素認識配列であり、72〜98番目の塩基配列はプライマー相補配列である。
【0023】
またバーコードリンカーの配列として、以下の配列を用いてもよい。
5'-CCATCTCATCCCTGCGTGTCTCCGACTCAGGCAGTGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAANNNNNNNNNNNNACATAGGCCGTCTTCAGCCGCTGAGACTGCCAAGGCACACAGGGGATAGG-3' (配列番号31):
上記塩基配列において、5'末端から数えて1〜25番目の塩基配列はプライマー相補配列であり、31〜36番目の塩基配列は制限酵素認識配列であり、37〜61番目のポリdA配列は核酸捕捉配列であり、62〜73番目の塩基配列であるNNNNNNNNNNNN(配列番号1)はバーコード配列であり、97〜123番目の塩基配列はプライマー相補配列である。なお75〜93番目の塩基配列は任意の塩基配列であり、ビーズを用いて細胞由来の核酸を解析する際に、細胞由来の核酸を捕捉した後、核酸を増幅するためのプライマー相補配列として使用することができる。
【0024】
工程i)の核酸増幅反応がPCRである場合、PCRでは二本鎖DNAを熱変性により一本鎖DNAにする段階、一本鎖DNAにプライマーを結合させる段階、DNAポリメラーゼでDNAを伸長させる段階の3つの段階を1つのPCRサイクルとして繰り返すことにより、目的の核酸が増幅される。工程i)のPCRでは、40回〜60回、PCRサイクルを繰り返すことが好ましい。これによりバーコード配列を含むオリゴヌクレオチドが数百万分子、好ましくは106〜8×106分子、ビーズに結合させることが可能となる。工程i)においてエマルジョンPCRを行う場合は、1つのビーズを含む水滴中でPCRが行われるため、1つのビーズ上に結合したオリゴヌクレオチドに含まれるバーコード配列は同一のものとなる。1つのビーズと1種類のバーコードリンカー(好ましくは1分子のバーコードリンカー)を、1つの水滴中で反応させるために、ビーズの個数とバーコードリンカーの分子数の比率を適宜調節することができる。ビーズに対するバーコードリンカーの分子数が多すぎる場合は、異なるバーコードリンカーが重複して1つのビーズに結合する可能性があり、少なすぎる場合はオリゴヌクレオチドが結合したビーズの作製効率が低くなるため好ましくない。例えば配列番号2に示す塩基配列からなる場合は、ビーズ10×106個に対して、バーコードリンカーを10×105〜10×106分子で混合することが好ましい。エマルジョンPCRでは、通常ミキサーを用いてエマルジョンの作製を行うが、水滴中のビーズの個数とバーコードリンカーの分子数の比率をより適切に調節するために、流体工学を利用したデバイスを用いることが好ましい。例えば、ビーズの直径の1.5〜5.0倍の幅の流路を複数有しており、これら複数の流路が出口で統合されるようなデバイスを用いることにより、ビーズ1個と1種類のバーコードリンカーとを含むDroplet(水滴)を作製することができる。
【0025】
上記工程i)のPCRに用いるプライマーとして、5'末端にビオチン(biotin)を付加したフォワードプライマーを用いることが好ましい。PCRによる増幅が行われた後は、増幅産物の5'末端にビオチンが結合しているため、アビジン(avidin)の結合した担体(例えば磁性ビーズ等の磁性体)を用いることにより、増幅産物の結合したビーズを簡便に精製することができる。
【0026】
工程ii)においては、上記の核酸増幅反応によりビーズに結合した二本鎖オリゴヌクレオチドを制限酵素処理する。制限酵素認識配列は、バーコードリンカーにおいて核酸捕捉配列の3'側に隣接して位置する。工程2)において制限酵素処理をすることにより、ビーズ上の二本鎖オリゴヌクレオチドの3'末端(ビーズに結合していない外側の末端)に、核酸捕捉配列を露出させることが可能となる。制限酵素の種類は、制限酵素認識配列を認識しうるものであればいかなるものであってもよいが、例えばBtsI等の制限酵素が例示される。
【0027】
工程iii)においては、ビーズに結合した二本鎖オリゴヌクレオチドを一本鎖オリゴヌクレオチドに変性する。オリゴヌクレオチドの変性は自体公知の手法を用いることができ、例えばアルカリ処理または95℃による熱処理(heat shock)等があげられる。これにより、ビーズ上には一本鎖オリゴヌクレオチドが結合したビーズが作製される。
【0028】
従来の方法としては、核酸捕捉配列が3'末端に露出したバーコードリンカーを鋳型として用いて、制限酵素処理を行わずに、核酸捕捉配列が3'末端に露出したオリゴヌクレオチドをビーズ上に結合させることが考えられる。この場合、工程i)における核酸増幅反応ためのプライマーを、核酸捕捉配列にアニーリングし得るように設計することとなる。しかしながら、例えば核酸捕捉配列がオリゴdTである場合は、プライマーのアニーリング温度が低くなってしまうため、核酸増幅反応が適切に行われないこととなってしまう。そこで、核酸捕捉配列の3'末端にプライマー相補配列を配置する必要がある。ビーズ上のオリゴヌクレオチドにおいて、プライマー相補配列が3'末端に結合したままで、核酸捕捉配列が3'末端に露出していないと、核酸捕捉配列が良好に核酸を捕捉できない。よって、核酸捕捉配列はビーズ上のオリゴヌクレオチドにおいて3'末端に露出している必要がある。本発明においては、所定の位置に制限酵素認識配列を配置して、制限酵素処理を行うことが必須である。
【0029】
本発明において、ビーズは単一細胞由来の核酸を回収し得る程度のオリゴヌクレオチドを結合可能な大きさであれば、いかなる大きさであってもよいが、好ましくは20〜40μmのものである。またビーズには、短いオリゴヌクレオチドが予め付加されているものであってもよい。当該予め付加されているオリゴヌクレオチドに、バーコードリンカーを鋳型とした増幅産物が結合することにより、ビーズにバーコード配列を含むオリゴヌクレオチドを結合させることが可能となる。本発明のビーズとしては、Roche emPCR kitに含まれる454 sequencing用ビーズを用いることができる。
【0030】
本発明においてビーズは、比重が水溶液、緩衝液または核酸抽出試薬を含む溶液よりも重いもので、1より大きい比重を持つものが好ましい。本発明のビーズは、水溶液、緩衝液または核酸抽出試薬を含む溶液中で、数分間静置することにより沈殿するもの、または遠心分離をすることにより沈殿するものが好ましい。またPCR後のビーズの回収に、アビジンの結合した磁性体を用いる場合は、磁性体への反応性を有しない素材のビーズを用いることが好ましい。
本発明において用いられるビーズは、ポリスチレン、ポリプロピレン等の樹脂製のビーズ等の有機ポリマー製ビーズ、セレン化カドミウム(CdSe)、硫化亜鉛(ZnS)、硫化カドミウム(CdS)、セレン化亜鉛(ZnSe)、酸化亜鉛(ZnO)等の半導体材料でできた量子ドット(半導体ナノ粒子)等の半導体製ビーズ、金等の金属製ビーズ、シリカ製ビーズなどの重合体ビーズ等を例示することができる。また本発明におけるビーズとして、、セルロース、セルロース誘導体、アクリル樹脂、ガラス、シリカゲル、ポリスチレン、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ビニルおよびアクリルアミドの共重合体、ジビニルベンゼン架橋ポリスチレン等(Merrifield Biochemistry 1964,3,1385-1390参照)、ポリアクリルアミド、ラテックスゲル、ポリスチレン、デキストラン、ゴム、シリコン、プラスチック、ニトロセルロース、セルロース、天然海綿、シリカゲル、ガラス、金属プラスチック、セルロース、架橋デキストラン(例えばSephadexTM)およびアガロースゲル(SepharoseTM)等の材質のビーズが例示される。好ましくは、アガロースゲル(SepharoseTM)のビーズである。
【0031】
本発明によれば、水滴中で1つのビーズと1分子のバーコードリンカーを用いて核酸増幅反応を行うことにより、バーコード配列の種類に応じて、バーコード配列の塩基数がn個とすると4n種類のビーズを一度の核酸増幅反応により作製することができる。1種類のバーコード配列を含むオリゴヌクレオチドの複数分子が、各々のビーズに結合している。すなわち、本発明のビーズ上のオリゴヌクレオチドに含まれるバーコード配列は、各ビーズ毎に互いに異なる塩基配列である。
【0032】
本発明は、上記作製方法により得られた、単一細胞由来の核酸の構成を解析するためのビーズにも及ぶ。本発明の単一細胞由来の核酸の構成を解析するためのビーズは、2種類以上(好ましくは10〜106種類、より好ましくは103〜105種類)のビーズを含むキットであってもよい。エマルジョンPCRによりビーズにオリゴヌクレオチドを付加することにより、各ビーズが他のビーズと重複しない特有のバーコード配列を有するように調製することができる。本発明の方法によれば、エマルジョンPCRに用いた全ビーズにおいて、他のビーズと重複するバーコード配列を有するものを、約5%以下に抑えることができる。また、バーコード配列が重複するビーズが約5%であれば、本発明のマイクロプレートを用いた解析方法においては細胞を播く量を調節することから、異なる細胞に同じバーコード配列が付加される可能性は低い。
【0033】
さらに本発明は、複数個の反応ウェルを有するマイクロプレートであって、1個の反応ウェル内に、上記の製造方法により得られたビーズが1個配置され、バーコード配列は、各ビーズ毎に互いに異なる塩基配列であるマイクロプレートにも及ぶ。マイクロプレートは、固相基板上に複数個の反応ウェルを備えたものである。マイクロプレートの形状は特に限定する必要はないが、平面図が長方形のものが例示される。本発明のマイクロプレートは、以下の工程を含むマイクロプレートを作製する方法により作製することができる。
a)複数個の反応ウェルを有するマイクロプレートを準備する工程;
b)マイクロプレート上に、ビーズを含む溶液を添加する工程であって、ビーズの直径に対する反応ウェルの直径の比率が約1.2〜1.75である工程。また、この時のビーズの直径に対する反応ウェルの深さの比率は約1.5〜2.5であることが好ましい。具体的には、反応ウェルの直径は24〜70μmが好ましく、ビーズの直径が20μmである場合は、反応ウェルの直径は24〜35μmである。また反応ウェルの深さは30〜100μmが好ましく、ビーズの直径が20μmである場合は、反応ウェルの深さは30〜50μm(好ましくは30〜40μm)である。
c)半透膜によりマイクロプレートを覆い、押圧部材によりマイクロプレートの表面をしごくことにより、1個の反応ウェル内に1個のビーズを配置する工程。
【0034】
マイクロプレートの形状は特に限定する必要はないが、平面図が長方形のものが例示される。反応ウェルの形状は、一般的な円柱状のほか、断面がU字状のもの、V字状のもの、半球状のものが挙げられる。また、反応ウェルの大きさは、ビーズが1個と細胞が1個入る程度の大きさであり、反応ウェルの形状が円柱状の場合、その直径は25μm程度であり、深さは40μm程度、容積は20pl程度である。容積が小さいほど、非特異的に反応ウェルの表面に吸着する核酸が減少することから、核酸の回収率を上昇させることができる。
【0035】
マイクロプレートの材質は、反応ウェルの内外で実質的に物質交換できないものである必要がある。かかるマイクロプレートの材質として、成形が容易で低コストであり、ビーズの回収を容易にするために弾性のある高分子樹脂が好ましい。例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)(アクリル樹脂)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などが例示されるが、特にポリジメチルシロキサン(以下「PDMS」と略す。)が好ましい。またマイクロプレート上の反応ウェルの個数はスライドの大きさによって適宜設定可能であるが、100000個以上であることが好ましい。
【0036】
工程a)において、複数個の反応ウェルを有するマイクロプレートはいかなる手法によって作製してもよいし、市販のものを使用してもよい。例えば、マイクロプレートの母型を準備しておき、この母型に例えば熱硬化性樹脂を注いだのち、熱硬化性樹脂を減圧下でヒータ等によって加熱・硬化して成形することによって製造できる。あるいは、熱硬化性樹脂の代わりに、光硬化性樹脂を用いてもよい。光硬化性樹脂は紫外線等の光を照射して成形することによって硬化するものである。あるいはマイクロプレートは、抜き勾配を有する母型と離型剤を使用して、熱可塑性樹脂を減圧下で射出成形することによっても製造できる。また反応ウェルは、ナノインプリントや、切削加工等の方法により固相基板上に成形されてもよい。
【0037】
反応ウェルの内面は、親水化処理されることが好ましい。親水化処理は、例えば親水性樹脂の塗布、光触媒作用を利用した表面処理、アルカリケイ酸塩等の無機系コート処理、エッチング処理、プラズマクラスター処理等の方法を用いることができる。本発明のマイクロプレートにおいては、プラズマに曝露するプラズマクラスター処理による親水化処理方法が好適である。
【0038】
工程b)においては、工程a)にて準備したマイクロプレート上に、ビーズを添加する工程であって、反応ウェル内にビーズを配置させる工程である。ビーズは溶液に懸濁した状態で、マイクロプレート上に添加すればよい。反応ウェル内に1個のビーズを配置させるために、ビーズの直径に対する反応ウェルの直径の比率が約1.2〜1.75であることが好ましい。またビーズの直径に対する反応ウェルの深さの比率が約1.5〜2.5であることが好ましい。反応ウェルの直径または深さとビーズの直径の比率が上記範囲内であれば、マイクロプレート上に添加するビーズの量を、反応ウェルの個数に対して過剰に添加した場合であっても、1個の反応ウェル内に1個のビーズを配置させることができる。ビーズの直径に対する反応ウェルの直径の比率が約1.75以下であれば、反応ウェル内に既に1個ビーズが配置している場合、2個目のビーズは1個目のビーズの上に乗ることとなり、押圧部材を用いた下記c)の工程により2個目のビーズを除去することができる。またビーズの直径に対する反応ウェルの直径の比率が約1.2以上であれば、反応ウェル内にビーズ1個と細胞1個を収容することができる。またビーズの直径に対する反応ウェルの深さの比率が約1.5以上であれば、ビーズ1個に細胞1個の核酸を捕捉させるときのコンタミネーションを防ぐことができ好適である。ビーズの直径に対する反応ウェルの深さの比率が約2.5以下であれば、マイクロプレートに弾性があることから、押圧部材を用いた下記工程c)により2個目のビーズを除去することができる。反応ウェルの直径または深さとビーズの直径の比率が上記範囲内にない場合は、1個の反応ウェル内に1個のビーズを配置させるために、反応ウェルの個数に対して少量のビーズを添加する必要があり、ビーズが配置されない反応ウェルが生じてしまうため、核酸を捕捉可能な細胞数が減少し、効率的な解析が行えないこととなる。マイクロプレート上に添加するビーズは、Poisson分布に従って少なくとも反応ウェルの全てにビーズが入る密度で添加する必要がある。例えば、マイクロプレート上の反応ウェルの個数の約1.1〜1.3倍の個数のビーズを添加することが好ましい。
【0039】
工程c)においては、半透膜により工程b)にてビーズを添加したマイクロプレート全体を覆い、押圧部材によりマイクロプレートの表面をしごく(squeeze)ことにより、1個の反応ウェル内に1個のビーズを配置させる。「しごく」とは、上から圧力をかけながら押圧部材をマイクロプレートの表面に沿って半透膜上を移動させることである。反応ウェルの直径または深さとビーズの直径の比率を調整しているため、半透膜の上から押圧部材を移動(摺動)させることにより、ビーズが入っていない反応ウェル内にはビーズが入ることとなり、既にビーズの入っている反応ウェル内にはそれ以上ビーズが入ることはなく、過剰なビーズが除去されることとなる。押圧部材は、適切な圧力を付加させることができ、半透膜の上からしごく(圧力をかけて擦る)ことが可能なものであればよい。押圧部材は、ある程度長さのある棒状のものであればよく、押圧部材の断面図は、円、三角、四角等いかなるものであってもよい。押圧部材として具体的には、面が回転するようなローラーや、定規などの棒状または板状の部材を例示することができる。工程c)により、実質的に全部の反応ウェル内に1個ずつビーズが配置されたマイクロプレートを作製することができる。なお、半透膜としては、自体公知の透析膜等を用いればよい。「実質的に全部の反応ウェル内」とは、マイクロプレートの反応ウェルに対して、少なくとも80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の反応ウェル内に、ビーズが配置されることとなる。
【0040】
また本発明は、上記ビーズもしくは反応ウェル内にビーズが配置したマイクロプレートを用いて、単一細胞由来の核酸の構成を解析する方法にも及ぶ。本発明の核酸は、DNAであっても、RNAであってもよい。本発明においては製造されたビーズにより、真核生物の細胞1個から得られる全RNA、またはそれと同程度の量の全RNAを回収することができる。細胞の種類によって異なるが、細胞1個の全RNAは10 pg程度であり、mRNAは3×105〜5×105分子含まれると考えられている。本発明により作製されたビーズには、オリゴヌクレオチドが106〜8×106分子結合していることから、細胞1個のmRNA全量を回収することができると考えられる。ビーズに結合したオリゴヌクレオチドの分子数が106分子よりも少ないと、細胞1個のmRNA全量が回収できず、8×106分子よりも多い場合は、捕捉した核酸の増幅反応を阻害する可能性がある。
【0041】
単一細胞由来の核酸の構成を解析する方法は、以下の1)〜3)の工程を含む。
1)本発明の作製方法により得られたビーズ1個と、細胞1個とを接触させた状態で細胞から核酸を抽出し、当該細胞由来の核酸をビーズ上のオリゴヌクレオチドに結合させる工程;
2)ビーズ上のオリゴヌクレオチドに結合した核酸を鋳型として、核酸増幅反応を行う工程;
3)得られた増幅断片においてバーコード配列を確認し、同一のバーコード配列を有する断片を同一細胞由来の断片として、単一細胞由来の核酸の構成を解析する工程。
【0042】
工程1)においてはビーズ1個と細胞1個とを接触させる。ここで「接触」とは、ビーズと細胞が物理的に直接接触していることを意味しているのではなく、ビーズ1個と細胞1個が単一の単位として、他の細胞や他のビーズと接触しない閉ざされた領域内で存在していることを意味し、単一の単位において細胞から抽出された核酸がビーズ上のオリゴヌクレオチドに結合することができる状態を意味する。例えばビーズ1個と細胞1個は、単一の容器内や、エマルジョンの単一の水相内、マイクロプレート(マイクロタイタープレート)の反応ウェル等の単一の区画内、マイクロ流路の単一の液滴内などにおいて、単一の単位として存在することができる。本明細書において、マイクプレートとマイクロタイタープレートは同義に用いられる。細胞1個を取得する手段は、いかなる手段を用いてもよいが、例えば生体から得られた組織を酵素処理により分離する、セルソーターを用いて採取する、微小流体を用いて取得するなどの手段が挙げられる。好ましくはマイクロプレートの反応ウェル上で、ビーズ1個と細胞1個とを接触させ、ビーズ上のオリゴヌクレオチドに細胞由来の核酸を捕捉させることが好ましい。
【0043】
核酸を細胞から抽出する手段としては、公知の手段を用いればよいが、例えば1個の細胞を含む区画(チューブ、マイクロプレートのウェル等)に、核酸抽出試薬(例えば、lithium dodecyl sulfate、Nonidet P-40などの界面活性剤)を添加することにより、細胞から核酸を分離させることができる。細胞から分離した核酸が、ビーズと接触することにより、ビーズ上のオリゴヌクレオチドの核酸捕捉配列に、核酸が結合する。核酸が結合したビーズを回収することにより、目的の核酸を回収することができる。ビーズ回収した後、不要な細胞成分等を洗浄すればよい。
【0044】
本発明の解析方法においては、1個の反応ウェル内に1個のビーズを配置したマイクロプレートを用いることが好ましい。この場合、1個の反応ウェル内に1個のビーズが予め配置されたマイクロプレートに細胞を播き、1個の細胞を1個の反応ウェル内に配置させることにより、ビーズ1個と細胞1個が接触する。1個のビーズと1個の細胞を接触させるためには、Poisson分布に従って細胞をマイクロプレートに添加する必要がある。1個の反応ウェル内に極力2細胞が入らないようにするために、例えば、マイクロプレート上の反応ウェルの個数に対して、10分の1以下の個数の細胞を添加する。この場合、確率的に約95%の細胞が1個/1反応ウェルに入ることができる。また好ましくは、マイクロプレート上の反応ウェルの個数に対して30分の1以下の個数の細胞を添加する。この場合、確率的に約98%の細胞が1個/1反応ウェルに入ることができる。予め反応ウェル内にビーズを配置しないマイクロプレート上に、細胞を播種し、その後ビーズを播く場合は、細胞およびビーズの両方を少量で播く必要があるため、実際に核酸捕捉可能な細胞数が少なくなってしまう。本発明のマイクロプレートにおいては、80〜98%の反応ウェルにビーズが1個配置されていることから、1細胞を1個の反応ウェルに配置させることにより、漏れなく多数の細胞から核酸捕捉することができる。
【0045】
マイクロプレートに細胞を添加した後、半透膜によりマイクロプレートを覆うことが好ましい。これにより、反応ウェルの内部は、他の反応ウェルと接触することがなく、ビーズ1個と細胞1個を単一の単位として、他の細胞や他のビーズと接触しない閉ざされた領域内に存在させることを可能とする。半透膜の上から、細胞を可溶化して核酸を抽出し得るような核酸抽出試薬を添加すればよい。核酸抽出試薬は半透膜を通過して、反応ウェル内に到達し、細胞を溶解して核酸を抽出する。細胞由来の核酸は、同一反応ウェル内に存在するビーズ上のオリゴヌクレオチドに捕捉されることとなる。核酸が結合したビーズを1個の容器に回収することにより、目的の核酸を回収することができる。ビーズを回収した後、不要な細胞成分等を洗浄すればよい。なお核酸抽出試薬は、界面活性剤を含むものが好ましい。
【0046】
工程1)により核酸を捕捉したビーズを反応ウェル内に有するマイクロプレートを調製することができる。ビーズを配置したマイクロプレートは運搬可能な大きさであることが好ましい。マイクロプレートは細胞から核酸を捕捉した後に運搬され、別の場所で核酸増幅反応およびバーコード配列等の解析が行われても良い。核酸がmRNAである場合は、逆転写反応のみを行った後で、マイクロプレートまたはマイクロプレートから回収したビーズを運搬することも可能である。
【0047】
その後工程2)において、ビーズ上のオリゴヌクレオチドに結合した核酸について核酸増幅反応を行う。目的の核酸がmRNAである場合は、核酸増幅反応の前に逆転写反応を行うことができる。逆転写反応および核酸増幅反応は、まずマイクロプレートの反応ウェル等の単一の領域内に分断されて存在していた複数のビーズを集めて、一度に行うことができる。マイクロプレートから回収した数百個から数万個のビーズについて同時に行うことができる。マイクロプレートからビーズを回収するには、マイクロプレートの反応ウェルが下側となるように逆さまにし、マイクロプレートの下側に設置した容器にビーズを落下させて回収すればよい。マイクロプレートが弾性のある素材であるため、マイクロプレートを複数回振動させたり、湾曲させることにより、ビーズを容易に反応ウェルから落下させることができる。なお複数のビーズを集めてではなく、ビーズの各々についてエマルジョンPCRを用いて逆転写反応および核酸増幅反応を行ってもよい。用いられるプライマーは、いかなるものであってもよいが、任意の核酸を増幅し得るプライマーが好ましい。得られる増幅産物は、単一細胞由来の核酸にバーコード配列が付加したものである。複数のビーズ(バーコード配列はビーズ毎に異なる)を回収して、核酸増幅反応を行うことにより、複数の細胞の各々に異なるバーコード配列を付加することができる。
【0048】
工程3)では、得られた増幅断片においてバーコード配列を確認し、同一のバーコード配列を有する断片は同一細胞由来の断片として同定し、単一細胞由来の核酸の構成を解析する。各増幅断片に含まれるバーコード配列を確認することにより、当該増幅断片の由来する細胞を特定して、細胞ごとに分類することが可能となる。得られた増幅産物について、シーケンサーを用いて解析を行う場合は、用いるシーケンサーに適したリンカー等を付加するように核酸増幅反応を行えばよい。本発明によれば、バーコード配列は、目的の核酸の3'末端に付加することとなる。バーコード配列を確認するためにシーケンサー、特に次世代シーケンサーを用いて解析することが好ましい。次世代DNAシーケンサーとは、例えばRoche社のGS FLX、Life Technologies社のSOLiD、Illumina社のGAIIxやHiSeqなどのシリーズ、Pacific Biosciences社のPacBio RS II system、 Life Technologies社のIon PGMなどの装置が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
本発明では、バーコードを確認するため、および出来るだけ多数の細胞由来の発現情報を得るために、細胞由来の遺伝子の3'末端の配列のみを確認することが好ましい。次世代シーケンサーを用いた遺伝子発現解析には、mRNA-seqと称される解析と、タグ(遺伝子の一部分)解析がある。mRNA-seqは、分離したmRNAを断片化し、逆転写・二本鎖化してアダプター配列を付ける方法が主流であり、または断片化したmRNAにアダプター配列をもつオリゴRNAを結合させてから逆転写・二本鎖化するstrand-specific RNA-seqが知られている。また、Sanger法のシーケンサーを用いて行うSAGEと呼ばれる網羅的遺伝子定量方法が開発されている(US6,746,845 (B2) )。かかる定量方法は、遺伝子タグをコンカテマーにするものであるが、本発明の解析方法として使用するのに適している(Asmann YW, Klee EW, Thompson EA, Perez EA, Middha S, Oberg AL, Therneau TM, Smith DI, Poland GA, Wieben ED, Kocher JP. BMC Genomics. 2009 Nov 16;10:531.;Morrissy AS, Morin RD, Delaney A, Zeng T, McDonald H, Jones S, Zhao Y, Hirst M, Marra MA. Genome Res. 2009 Oct;19(10):1825-35. Epub 2009 Jun 18.)。本発明者らにより開発された5'SAGEという転写開始点からの網羅的遺伝子定量方法を用いることもできる(Hashimoto, S., Suzuki, Y., Kasai, Y., Morohoshi, k., Yamada, T., Sese, J., Morishita, S., Sugano, S., and Matsushima, K. Nature Biotechnol., 22, 1146-1149 (2004)、特許第3845416号、Hashimoto, S., Qu, W., Ahsan, B., Ogoshi, K., Sasaki, A., Nakatani, Y., Lee, Y., Ogawa, M., Ametani, A., Suzuki, Y., Sugano, S., Lee, C.C., Nutter, R.C., Morishita, S., and Matsushima, K. PLoS One, 4, e4108 (2009) )。
【0050】
バーコード配列を確認することにより各細胞由来の核酸を区別することが可能となり、各細胞由来の核酸の構成を解析し、比較することができる。具体的には、シーケンサーにより確認した塩基配列から、アダプター配列を切り離した配列を、遺伝子断片の配列とし、コンピュータを用いてバーコード配列により単一細胞由来の遺伝子断片の配列を分離し、遺伝子断片の配列についてデータベースから遺伝子名を確認し、遺伝子の発現量を決定することができる。単一細胞由来の核酸の構成について、遺伝子名と各遺伝子の発現量を示すリストを作製することができる。
【0051】
本発明は、本発明のマイクロプレートおよび細胞を溶解するための核酸抽出試薬を含む、上記解析方法に用いるための試薬キットにも及ぶ。かかる試薬キットは、半透膜や緩衝液、逆転写反応に必要な試薬、その他の必要な試薬、使用説明書等を備えていてもよい。
【実施例】
【0052】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)単一細胞由来の核酸の構成を解析するためのビーズの作製
以下の方法により、単一細胞由来の核酸の構成を解析するためのビーズの作製を行った(図1A)。
バーコードリンカーを用いてエマルジョンPCRを行った。バーコードリンカーの配列は以下の配列番号2に示すものであり、ポリdA配列(オリゴdT配列の相補配列)とPCR増幅の為のプライマー相補配列を含む。バーコードリンカーは、Integrated DNA Technologies社にて合成した。
バーコードリンカー(配列番号2):
5'- CCATCTCATCCCTGCGTGTCTCCGACTCAGGCAGTGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAANNNNNNNNNNNNCTGAGACTGCCAAGGCACACAGGGGATAGG -3'
N = A or T or C or G
精製法:PAGE Purification

エマルジョンPCRはRoche emPCR kitを使用して行った。Roche emPCR kitに含まれる454 sequencing用ビーズは、特定の配列からなるオリゴヌクレオチドを数百万分子ビーズ上に担持しており、ビーズの大きさは20μmである。
PCRは5'-CCTATCCCCTGTGTGCCTTGGCAGTCT(配列番号3)と5'-CCATCTCATCCCTGCGTGTCTCCGA(配列番号4)のプライマーを用いて、94℃で4分間インキュベートし、その後94℃で30秒間、58℃で4.5分間、68℃で30秒間を1サイクルとして、50サイクル行い、10℃で維持した。454 sequencing用ビーズ上のオリゴヌクレオチドにPCRの増幅産物を結合させたものを作製した。
【0054】
その後、Roche emPCR kitに従ってエマルジョンPCRが行われたビーズを精製した。まず、アルカリ処理によりビーズ上のオリゴヌクレオチドを1本鎖に変性させて、Roche emPCR kitに含まれるエンリッチメントプライマー(バーコードリンカーの3'末端を認識して結合するプライマーであって、ビーズ上にバーコードリンカーの増幅配列が存在しない場合は、結合しない)をビーズ上の1本鎖オリゴヌクレオチドに結合させて、Streptavidin Magnet Beadsを用いて精製した。その後、精製したビーズに、10×NEB buffer 2を20μl、exo-klenow(New England Biolabs)を10μl、dNTP mix (2.5mM)を20μl、H2Oを150μlを添加して、37℃で1時間、70℃で10分間反応させて、エンリッチメントprimer(エンリッチメントprimerはエマルジョンPCRが行われたビーズを精製するために、一部だけ結合しており、2本鎖になっている)を制限酵素部位まで伸長させて2本鎖を合成した。1本鎖のままでは、BtsIによる切断が行われないためである。
【0055】
ビーズ上の2本鎖DNAの3'末端にオリゴdT配列が配置されるように、ビーズ上に増幅した2本鎖DNAに対して制限酵素BtsIを用いて処理を行った(55℃、3時間)。
【0056】
制限酵素で処理した後、0.125N NaOHアルカリ処理し、さらに95℃によるheat shock処理を行うことにより、ビーズ上の2本鎖DNAを1本鎖DNAに変性させ、さらにビーズをLowTE(10mM TrisHCl pH8.0, 0.1mM EDTA)で遠心にて洗滌した。ビーズの表面上には、数百万分子の1本鎖DNAからなるオリゴヌクレオチドが接合していると考えられる。
【0057】
図2はバーコードリンカーを用いてエマルジョンPCRを行い、ランダムに17個のビーズ上のオリゴ配列の3730キャピラリーシークエンサー(Applied Biosystems)で行ったシークエンスの結果である。17個それぞれのバーコード配列が異なっていることがわかる。
【0058】
(実施例2)本発明のビーズを用いた末梢血単核球の遺伝子発現の解析
実施例1で作製したビーズを用いて、以下の方法により、末梢血単核球の遺伝子発現の解析を行った(図1B)。
直径35〜40μm×深さ50μmの1.7×105〜2.3×105ウエルのpolydimethylsiloxane製のマイクロプレート(以下「PDMSスライド」とも称する)を、プラズマクラスター処理(O2 100cc 75W 10sec)し、表面を親水性に加工した。プラズマクラスター処理したPDMSスライドを1% BSAで30分間処理して蒸留水で洗浄し、その後PBSで洗浄した。
【0059】
実施例1にて作製したビーズを、PDMSスライドにPDMSのウエル数に対して4分の1以下の個数のビーズを載せた。同様に細胞もPDMSのウエル数に対して4分の1以下の個数に調整して、スライド上に載せた。これはビーズや細胞が2個以上ウエルへ入らないようにするためである。
10〜15分放置後、PBSでスライドを洗浄し、透析膜(12,000〜14,000 MWCO 再生セルロース透析チューブ、25-mm flat width、Fisher Scientific)でスライドを覆った。
出来るだけ透析膜とスライドの間に液が残らないように、透析膜とスライドの間に残った液をピペットマンで横から吸引した。
300μlのLysis buffer(500 mM LiCl in 100 mM TRIS buffer (pH 7.5) with 1% lithium dodecyl sulfate, 10 mM EDTA and 5 mM DTT)を透析膜の上から、添加した。
20分間、室温で放置後、4℃にて10分間放置した。
その後透析膜を剥がして、PDMSスライドを逆さにして、2mlの冷Lysis bufferが入ったシャーレに浸し、細胞をLysis buffer中に落下させた。
10,000rpmで10秒遠心してビーズを回収し、続いてbuffer A(100 mM Tris, pH 7.5, 500 mM LiCl, 1 mM EDTA, 4℃)に懸濁し、さらに10,000rpmで10秒間遠心を行うことによりビーズを回収した。続いて、回収したビーズをbuffer B(20 mM Tris, pH 7.5, 50 mM KCl, 3 mM MgCl)に懸濁して10,000rpmで遠心を行った。
【0060】
ペレットであるビーズを用いて、ビーズに結合したmRNAについて逆転写反応を行い、1st strand cDNAを合成した。
逆転写反応は、5×First strand buffer、DTT、dNTP mix、SMARTer IIA Oligonucleotide (12uM)、RNase inhibitor、Smartscribe reverse transcriptase(100 unit)を用いて、42℃ 1時間、70℃ 10分間インキュベートすることにより行った。
【0061】
次に、PCRにて2nd strandを合成した。PCRは、10 μl Sample、50 μl 5×buffer、4 μl Bio-F primer (12 μM)(5'- Bio-TEG-CCTATCCCCTGTGTGCCTTGGCAGTCT-3(配列番号5))、4 μl 5'PCR primer IIA(12 μM)、34 μl H2O、2 μl DNA polymerase Ver.2 Might Ampを用いて、98℃ 2分間、98℃ 10秒間、60℃で15秒間、68℃で4分間のサイクルを20回で、行った。
【0062】
次に、PCR産物について、シークエンスを確認する。
PCR後、AMpure 100 μlにてPCR産物を精製した。さらに、PCR産物を定法に従って、アガロース電気泳動を行い、500bp以上の増幅産物を精製した。Sonicationして、DNAサイズを次世代シークエンサーに適合した300-500bpに切断した。さらにEnd-ItTM DNA End-Repair Kit(AR BROWN)を用いて増幅産物を平滑末端にした。さらに増幅産物をMinElute PCR Purification Kit(Qiagen)により精製、濃縮し、elute DNAとした。
次に、次世代シーケンサーのオリゴ結合配列をもつアダプターを結合させるために、アダプターPCRを行ない、次世代シーケンシング用のライブラリーを作製した。具体的には34 μl elute DNA、5 μl Buffer×10、5 μl ATP、5 μl dNTP、5 μl Enzymeを混合して溶液を調製し40分間室温におき、以下のHiseq用Solexa 3 adaptor-1とSolexa 3 adaptor-2の2本鎖リンカーをT4 DNA ligaseにより平滑にしたDNAに付加した。
Solexa 3 adaptor-1: 5'-GTGACTGGAGTTCAGACGTGTGCTCTTCCGATCT (配列番号6)
Solexa 3 adaptor-2: 5'-/5Phos/AGATCGGAAGAGCACACGTCTGAACTCCAGTCAC/3AmMC7/-3'(配列番号7)
その後、2 μl 10×EXTaq buffer、1.6 μl dNTP (2.5mM)、2 μl 454 Solexa primer (10 μM) 5-AATGATACGGCGACCACCGAGATCTACACTCTTTCCCTACACGACGCTCTTCCGATCTCCTATCCCCTGTGTGCCTTGGCAGTCT-3(配列番号8)、2 μl Index 1 primer (10 μM) 5-CAAGCAGAAGACGGCATACGAGATCGTGATGTGACTGGAGTTC(配列番号9)、9.2 μl H2O、0.5 μl EX Taq HS (5μ/μl)を混合して、バーコードと遺伝子の3'端を含む領域のPCRを行った。PCRは、95℃で3分間インキュベートしたあと、95℃で20秒間、57℃で30秒間、72℃で30秒間のサイクルを20回繰り返して行った。その後に増幅産物を氷上に静置した。PCR増幅産物についてゲル電気泳動を行い、バンドを切り出してcDNAを回収した。
回収したcDNAをMinElute PCR Purification Kit(Qiagen)で精製、濃縮した。HiSeq2500(イルミナ株式会社)にて、シークエンスを解析した。
【0063】
図3に、PBMCから本発明のビーズを用いて回収したmRNAのシークエンス結果の一例を示す。Homo sapiens nucleophosminの3'末端にバーコード配列が付加されていることが確認された。
【0064】
(実施例3)単一細胞由来の核酸の構成を解析するためのビーズおよびマイクロプレートの作製
実施例1を改変した方法により、単一細胞由来の核酸の構成を解析するためのビーズの作製を行った。
まず、バーコードリンカーを用いてエマルジョンPCR行った。バーコードリンカーの配列は以下の配列番号31に示すものを用いた。バーコードリンカーにはエマルジョンPCRのプライマー相補配列に加えて、非特異的な増幅をさける目的で任意の塩基配列をバーコード配列の上流に挿入されている(バーコード配列の3'側の下線部)。かかる任意の塩基配列を用いて、捕捉したmRNAの逆転写の後の2ndストランド合成を行うことができる。なお、ポリdA配列の5'側の下線部は、制限酵素サイトである。バーコードリンカーは、Integrated DNA Technologies社にて合成した。
バーコードリンカー(配列番号31):
5'-CCATCTCATCCCTGCGTGTCTCCGACTCAGGCAGTGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAANNNNNNNNNNNNACATAGGCCGTCTTCAGCCGCTGAGACTGCCAAGGCACACAGGGGATAGG-3'
N = A or T or C or G
精製法:PAGE Purification

エマルジョンPCRは、実施例1を改変した方法により、Roche emPCR kitを使用して行った。Roche emPCR kitに含まれる454 sequencing用ビーズは、特定の配列からなるオリゴヌクレオチドを数百万分子ビーズ上に担持しており、ビーズの大きさは20μmである。
PCRは、5'側にbiotinを付加したプライマー 5'-/5Biosg//iSp18/CGTATCGCCTCCCTCGCGCCAT-3'(配列番号32)と5'-CCTATCCCCTGTGTGCCTTGGCAGTCT-3'(配列番号33)を用いて行った。
その後、PCRによる増幅がされたビーズのみを選別して回収した。PCRによる増幅が行われたものは、増幅産物の5'末端にbiotinが結合しているため、avidin結合磁気ビーズにより精製を行った。本実施例では、実施例1のようにアルカリ処理の後、エンリッチメントプライマーを用いずに、ビーズの精製を行うことができた。
【0065】
次に、ビーズ上の2本鎖DNAの3'末端にオリゴdT配列が配置されるように、ビーズ上に増幅した2本鎖DNAに対して制限酵素BtsIを用いて処理を行った(55℃、3時間)。
制限酵素で処理した後、0.125N NaOHアルカリ処理し、さらに95℃によるheat shock処理を行うことにより、ビーズ上の2本鎖DNAを1本鎖DNAに変性させ、さらにビーズをLowTE(10mM TrisHCl pH8.0, 0.1mM EDTA)で遠心にて洗滌した。ビーズの表面上には、数百万分子の1本鎖DNAからなるオリゴヌクレオチドが接合していると考えられる。
【0066】
次に、ビーズをマイクロプレートの反応ウェル内に配置させた。直径25μm×深さ40μmの2.0×105ウエルのマイクロプレート(PDMSスライド)を、プラズマクラスター処理し、1% BSAで30分間処理して蒸留水で洗浄し、その後PBSで洗浄した。
【0067】
PDMSスライドに、20万個の約1.1〜1.3倍の個数で、作製したビーズ(直径20μm)を載せた。透析膜(12,000〜14,000 MWCO 再生セルロース透析チューブ、25-mm flat width、Fisher Scientific)でスライドを覆い、上からローラーもしくは定規でしごくことにより、ビーズが2つ入ったウエルからビーズを押し出し、1ウエルに1ビーズが配置されるようにした。しごいた後のスライドを図9に示す。
【0068】
(実施例4)本発明のビーズを用いた末梢血単核球細胞の遺伝子発現の解析
実施例3で作製した、反応ウェル内にビーズが配置したマイクロプレート(PDMSスライド)を用いて、実施例2を改変した方法により、末梢血単核球細胞の遺伝子発現の解析を行った。
【0069】
実施例3で作製したPDMSスライドのウエル数に対して、細胞を20分の1以下の個数に調整して、スライド上に載せた。10〜15分放置後、PBSでスライドを洗浄し、透析膜でスライドを覆い、300μlのLysis buffer(500 mM LiCl in 100 mM TRIS buffer (pH 7.5) with 1% lithium dodecyl sulfate, 10 mM EDTA and 5 mM DTT)を透析膜の上から、添加した。
20分間、室温で放置後、4℃にて10分間放置した。
その後透析膜を剥がして、PDMSスライドを逆さにして、2mlの冷Lysis bufferが入ったシャーレに浸し、細胞をLysis buffer中に落下させ、遠心してビーズを回収した。
【0070】
ペレットであるビーズを用いて、ビーズに結合したmRNAについて逆転写反応を行い、1st strand cDNAを合成した。
次に、PCRにて2nd strandを合成した。PCRは、10 μl Sample、50 μl 5×buffer、4 μl フォワードプライマー(12 μM)(5'-/5BioTEG /GCGGCTGAAGACGGCCTATGT -3(配列番号34))、4 μl 5'PCR primer IIA(12 μM)、34 μl H2O、2 μl DNA polymerase Ver.2 Might Ampを用いて、98℃ 2分間、98℃ 10秒間、60℃で15秒間、68℃で4分間のサイクルを20回で、行った。
【0071】
次に、PCR産物について、シークエンスを確認した。PCR産物を精製し、定法に従って次世代シーケンシング用のライブラリーを作製し、HiSeq2500(イルミナ株式会社)にて、シークエンスを解析した。
【0072】
図4に、末梢血単核球細胞から本発明のビーズを用いて回収したmRNAのシークエンス結果の一例を示す。図4左欄のCOX4I1遺伝子とTRAPPC5遺伝子は同じバーコード配列が付加されていたことから、同じ細胞由来であることがわかった。また、右欄のCOX4TI遺伝子、MIF遺伝子、RPS18遺伝子は、各々異なるバーコード配列が付加されていたことから、複数の異なる細胞に同一遺伝子が発現していたことがわかった。
【0073】
(実施例5)本発明のビーズを用いた肝細胞がん細胞株の遺伝子発現の解析
実施例4と同様にして、肝細胞がん細胞株(Hepatocellular carcinoma cancer stem like cell(HBV+))について、遺伝子発現の解析を行った。用いた肝細胞がん細胞株は、B型肝炎陽性肝細胞がん患者から入手したものである。
【0074】
Paired-end sequencingで配列を解析した結果、遺伝子にヒットし、バーコードを認識出来たread数は、919,239,370であった。各細胞を識別するバーコード配列と、遺伝子数、total read数の結果の一部を図5に示す。
各細胞に発現する遺伝子を、バーコードにより区別して記載したものを、図6に示す。バーコード配列により識別された各細胞において、発現が確認された具体的な遺伝子名と、read数を示す。なお、read数は相対的な発現量を示す。細胞毎に、各遺伝子の発現量が異なることがわかり、本発明の方法により細胞毎の遺伝子発現解析が行われていることが確認できた。
配列のread数と、観測された遺伝子数の相関を図7に示す。細胞当りのread数はシークエンス配列により違いはあるが、1細胞当りのread数が多い時は約11000遺伝子の同定が可能となる。
図8は、2つの細胞間の相関を示す。細胞当りの遺伝子頻度をランダムに2細胞選んで比較した。相関(R2)は最も良い細胞間で0.96と良好であった。また、Thy1陽性、陰性をそれぞれ50細胞ずつ合わせたデータについて、相関を得たところ、R2が0.993と非常に良い相関であった。これらのことから、細胞当りの遺伝子発現頻度の誤差は非常に低いことが明らかとなった。また他の1細胞遺伝子解析法(Smart-seq)(Ramskold D et al.:Nat Biotechnol(2012))と比較しても、本発明の解析方法は非常に相関が優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明を用いれば、単一細胞を数百個から数万個同時に解析することが可能となることから、細胞集団の階層性を明らかにし、真の細胞状態を把握することが可能となり、将来的に臨床研究に役立つものと期待される。細胞は微小環境によって大きく影響を受け、少数の転写や翻訳に関与する分子によって応答が変わり、またある程度確率論的な応答も示すので、個々の細胞の発現応答は異なると考えられる。
例えば本発明による方法で個々の幹細胞と分化した細胞のトランスクリプトームを明らかに出来れば、分化の過程を経時的に観察することができ、組織や臓器の効率的な形成、製造する組織や臓器の品質管理に有用である。また、本発明による発現解析によって、癌の亜集団の性質やその経時的変化を解析したり、初期癌、循環している癌、転移した場所での癌などを解析することにより、癌の進行度合いを観察することができる。さらに癌の維持に重要な癌周囲の微小環境(血管内皮、上皮、線維芽細胞等)も併せて観察できる。本発明によって軸索と樹状突起の遺伝子発現を分けて解明して、ニューロンの機能を解析すれば、神経疾患の原因解明や、治療薬開発に役立つものと考えられる。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]