(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Al又はAl合金によって構成される羽根車本体の表面を表面処理することで、該表面から一定の深さまで配置され、第1の圧縮残留応力を有する表面部を形成する表面部形成工程と、
前記表面部形成工程後に、無電解めっき法により、前記羽根車本体の表面を覆うNi−P系無電解めっき皮膜を形成するめっき皮膜形成工程と、
を含み、
前記表面部形成工程では、ガラスビーズを投射材として用いて、前記投射材を0.1〜0.45MPaに噴射圧で投射させることで、前記羽根本体を構成する翼入口付け根部及び翼出口付け根部に前記表面部を形成することを特徴とする回転機械用羽根車の製造方法。
前記表面部形成工程では、前記表面処理として、ショットピーニング処理または超音波ピーニング処理を用いることを特徴とする請求項12記載の回転機械用羽根車の製造方法。
前記めっき皮膜形成工程では、前記Ni−P系無電解めっき皮膜が第2の圧縮残留応力を有するように、前記無電解めっき法を行うことを特徴とする請求項12または13記載の回転機械用羽根車の製造方法。
前記表面部形成工程では、前記第1の圧縮残留応力の絶対値が300MPa以上になるとともに、前記羽根車本体の表面を基準としたときの前記表面部の深さが0.2mm以上0.4mm未満となるように、前記表面処理を行うことを特徴とする請求項12ないし14のうち、いずれか1項記載の回転機械用羽根車の製造方法。
前記めっき皮膜形成工程では、厚さが15μm以上60μm以下、Pの濃度が5重量%以上10重量%以下で、かつ硬さが500HV以上700HV以下となるように、前記Ni−P系無電解めっき皮膜を形成することを特徴とする請求項12ないし15のうち、いずれか1項記載の回転機械用羽根車の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、過給機のコンプレッサ羽根車(回転機械用羽根車のうちの1つ)には、高速回転で発生する遠心力による応力と、Ni−P系無電解めっき皮膜とAl合金との熱伸び差による応力と、が発生する。
このため、Ni−P系無電解めっき皮膜には耐エロージョン性だけでなく、耐き裂性(疲労強度)及び耐剥離性(界面強度)も要求される。
【0006】
しかし、安価な汎用品であるNi−P系無電解めっき液を用いて、コンプレッサ羽根車の表面にNi−P系めっき皮膜を形成した場合、Ni−P系めっき皮膜にき裂が発生すると、該き裂が基材である羽根車本体に進展して、コンプレッサ羽根車の疲労強度が大幅に低下してしまう恐れがあった。
【0007】
特に、ターボチャージャーに使用されるコンプレッサ羽根車の場合、ターボチャージャー運転時のターボ回転数変動に伴う遠心応力と熱応力とが繰り返し付与されると、早い段階でNi−P系無電解めっき皮膜に割れが発生する恐れがあり、羽根(翼)疲労寿命が低下する可能性があった。
【0008】
本発明者らは、本発明に至る前の検討段階において、上記コンプレッサ羽根車の疲労強度を抑制する観点から、Ni−P系無電解めっき皮膜の膜質や構造等が所定条件を満たすようなNi−P系無電解めっき液を使用するという考えに至った。
しかしながら、このようなNi−P系無電解めっき液を用いて、上述した問題を解決する場合、頻繁に新しいNi−P系無電解めっき液に交換する必要があるとともに、めっき施工条件を厳格に管理する必要があった。
このため、コストが増加するとともに、生産性が低下してしまうという新たな問題が発生する恐れがあった。
【0009】
そこで、本発明は、回転機械用羽根車のコストの上昇を抑制し、かつ回転機械用羽根車の生産性の低下を抑制した上で、Ni−P系無電解めっき皮膜に発生するき裂が羽根車本体(基材)に進展することを抑制可能な回転機械用羽根車、コンプレッサ、過給機、及び回転機械用羽根車の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様に係る回転機械用羽根車は、表面から一定の深さまで配置された表面部を含み、かつAl又はAl合金によって構成される羽根車本体と、前記羽根車本体の表面を覆うNi−P系無電解めっき皮膜と、を有し、前記表面部は、第1の圧縮残留応力を有する。
【0011】
このような構成とされた回転機械用羽根車は、羽根車本体の表面部が第1の圧縮残留応力を有するため、Ni−P系無電解めっき皮膜にき裂が発生した際に、き裂が羽根車本体に進展することを抑制可能となる。
これにより、Ni−P系無電解めっき皮膜の膜質や構造等が所定条件を満たすようなNi−P系無電解めっき液(市販されていない独自のめっき液)を用いて、上述した問題を解決する場合、頻繁に新しいNi−P系無電解めっき液に交換する必要やめっき施工条件を厳格に管理する必要がなくなる。
つまり、安価な汎用のNi−P系無電解めっき液を使用することが可能となるので、回転機械用羽根車のコストの上昇を抑制し、かつ回転機械用羽根車の生産性の低下を抑制した上で、Ni−P系無電解めっき皮膜に発生するき裂が羽根車本体に進展することを抑制できる。
【0012】
また、本発明の第2の態様に係る回転機械用羽根車において、前記Ni−P系無電解めっき皮膜は、第2の圧縮残留応力をしてもよい。
【0013】
このような構成とすることで、Ni−P系無電界めっき皮膜にき裂が生ずることを抑制できると共に、仮にNi−P系無電解めっき皮膜にき裂が発生した際に、該き裂が広がることを抑制することが可能となる。これにより、Ni−P系無電解めっき皮膜に発生するき裂が羽根車本体に進展することを抑制できる。
【0014】
また、本発明の第3の態様に係る回転機械用羽根車において、前記第1の圧縮残留応力の絶対値は、300MPa以上であり、前記羽根車本体の表面を基準としたときの前記表面部の深さは、0.2mm以上0.4mm未満であってもよい。
【0015】
このように、第1の圧縮残留応力の絶対値を300MPa以上とすることで、回転機械用羽根車をターボチャージャーに適用した場合において、回転機械用羽根車の羽根(翼)疲労寿命を十分に得ることができる。
また、表面部の深さを0.2mm以上0.4mm未満とすることで、回転機械用羽根車をターボチャージャーに適用した場合において、羽根(翼)変形量を許容範囲内にすることができる。
【0016】
また、本発明の第4の態様に係る回転機械用羽根車において、前記羽根車本体は、翼入口付け根部及び翼出口付け根部を含み、前記翼入口付け根部及び前記翼出口付け根部は、前記表面部を有してもよい。
【0017】
このように、羽根車本体の翼入口付け根部及び翼出口付け根部が表面部を有することで、Ni−P系無電解めっき皮膜にき裂が発生しやすい翼入口付け根部及び翼出口付け根部の破損を抑制することができる。
【0018】
また、本発明の第5の態様に係る回転機械用羽根車において、前記Ni−P系無電解めっき皮膜に含まれるPの濃度は、5重量%以上10重量%以下であってもよい。
【0019】
このように、Ni−P系無電解めっき皮膜に含まれるPの濃度は、5重量%以上10重量%以下とすることで、高いビッカース硬さを得ることが可能になるとともに、高い耐き裂性を得ることが可能となる。
これにより、Ni−P系無電解めっき皮膜にき裂が発生することを抑制できる。
【0020】
また、本発明の第6の態様に係る回転機械用羽根車において、前記Ni−P系無電解めっき皮膜の硬さは、500HV以上700HV以下であってもよい。
【0021】
例えば、Ni−P系無電解めっき皮膜の硬さが500HV未満であると、耐エロージョン性を十分に得られない恐れがある。また、Ni−P系無電解めっき皮膜の硬さが500HVよりも大きいと、十分な耐き裂性を得られない恐れがある。
したがって、Ni−P系無電解めっき皮膜の硬さを500HV以上700HV以下とすることにより、十分な耐エロージョン性及び耐き裂性を得ることができる。
【0022】
また、本発明の第7の態様に係る回転機械用羽根車において、前記Ni−P系無電解めっき皮膜の厚さは、15μm以上60μm以下であってもよい。
【0023】
例えば、Ni−P系無電解めっき皮膜の厚さが15μm未満であると、十分な耐エロージョン性及び耐き裂性を得られない恐れがある。また、Ni−P系無電解めっき皮膜の厚さが60μmよりも大きいと、無電解めっき処理に要する時間が長くなり、コストが高くなる恐れがある。
したがって、Ni−P系無電解めっき皮膜の厚さは、15μm以上60μm以下とすることで、コストを抑制した上で、十分な耐エロージョン性及び耐き裂性を得ることができる。
【0024】
また、本発明の第8の態様に係る回転機械用羽根車において、前記羽根車本体は、過給機用の羽根車本体であってもよい。
【0025】
このように、羽根車本体を、羽根車を高速回転する過給機のコンプレッサ羽根車として用いることで、過給機の耐エロージョン性を向上できると共に、き裂の進展を抑制でき、過給機の長寿命化を図ることができる。
【0026】
また、本発明の第9の態様に係るコンプレッサにおいて、請求項1ないし8のうち、いずれか1項記載の回転機械用羽根車を含んでもよい。
【0027】
このような構成とすることで、コンプレッサが高い耐エロージョン性及びき裂抑制機能を有する回転機械用羽根車を含むことになるため、コンプレッサの長寿命化を図ることができる。
【0028】
また、本発明の第10の態様に係る過給機において、請求項9記載のコンプレッサと、前記コンプレッサを駆動させるタービンと、を含んでもよい。
【0029】
このような構成とすることで、過給機が高い耐エロージョン性及びき裂抑制機能を有する回転機械用羽根車を含むことになるため、過給機の長寿命化を図ることができる。
【0030】
また、本発明の第11の態様に係る過給機において、前記コンプレッサは、内燃機関の吸気路に設けられており、前記タービンは、前記内燃機関からの排気ガスによって駆動されるように構成されており、前記コンプレッサの上流側において、前記排気ガスの一部は、前記吸気路に循環されるように構成してもよい。
【0031】
このような構成とすることで、過給機が高い耐エロージョン性及びき裂抑制機能を有するコンプレッサを有することになるため、高速回転に長期間耐え得る長寿命な過給機を実現できる。
【0032】
また、本発明の第12の態様に係る回転機械用羽根車の製造方法において、Al又はAl合金によって構成される羽根車本体の表面を表面処理することで、該表面から一定の深さまで配置され、第1の圧縮残留応力を有する表面部を形成する表面部形成工程と、前記表面部形成工程後に、無電解めっき法により、前記羽根車本体の表面を覆うNi−P系無電解めっき皮膜を形成するめっき皮膜形成工程と、を含む。
【0033】
このように、第1の圧縮残留応力を有する表面部を形成後に、無電解めっき法により、羽根車本体の表面を覆うNi−P系無電解めっき皮膜を形成することで、羽根車本体の表面部が第1の圧縮残留応力を有するため、Ni−P系無電解めっき皮膜にき裂が発生した際に、き裂が羽根車本体に進展することを抑制可能となる。
これにより、Ni−P系無電解めっき皮膜の膜質や構造等が所定条件を満たすようなNi−P系無電解めっき液(市販されていない独自のめっき液)を用いて、上述した問題を解決する場合、頻繁に新しいNi−P系無電解めっき液に交換する必要やめっき施工条件を厳格に管理する必要がなくなる。
つまり、安価な汎用のNi−P系無電解めっき液を使用することが可能となるので、回転機械用羽根車のコストの上昇を抑制し、かつ回転機械用羽根車の生産性の低下を抑制した上で、Ni−P系無電解めっき皮膜に発生するき裂が羽根車本体に進展することを抑制できる。
【0034】
また、本発明の第13の態様に係る回転機械用羽根車の製造方法において、前記表面部形成工程では、前記表面処理として、ショットピーニング処理または超音波ピーニング処理を用いてもよい。
【0035】
このように、表面処理として、ショットピーニング処理または超音波ピーニング処理を用いることで、コストの低減、及び羽根車本体の変形を抑制することができる。
【0036】
また、本発明の第14の態様に係る回転機械用羽根車の製造方法において、前記めっき皮膜形成工程では、前記Ni−P系無電解めっき皮膜が第2の圧縮残留応力を有するように、前記無電解めっき法を行ってもよい。
【0037】
このように、Ni−P系無電解めっき皮膜が第2の圧縮残留応力を有するように無電解めっき法を行うことで、Ni−P系無電界めっき皮膜にき裂が生ずることを抑制できると共に、仮にNi−P系無電解めっき皮膜にき裂が発生した際に、該き裂が広がることを抑制することが可能となる。これにより、Ni−P系無電解めっき皮膜に発生するき裂が羽根車本体に進展することを抑制できる。
【0038】
また、本発明の第15の態様に係る回転機械用羽根車の製造方法において、前記表面部形成工程では、前記第1の圧縮残留応力の絶対値が300MPa以上になるとともに、前記羽根車本体の表面を基準としたときの前記表面部の深さが0.2mm以上0.4mm未満となるように、前記表面処理を行ってもよい。
【0039】
このように、第1の圧縮残留応力の絶対値を300MPa以上とすることで、回転機械用羽根車をターボチャージャーに適用した場合において、回転機械用羽根車の羽根(翼)疲労寿命を十分に得ることができる。
また、表面部の深さを0.2mm以上0.4mm未満とすることで、回転機械用羽根車をターボチャージャーに適用した場合において、羽根(翼)変形量を許容範囲内にすることができる。
【0040】
また、本発明の第16の態様に係る回転機械用羽根車の製造方法において、前記めっき皮膜形成工程では、厚さが15μm以上60μm以下、Pの濃度が5重量%以上10重量%以下で、かつ硬さが500HV以上700HV以下となるように、前記Ni−P系無電解めっき皮膜を形成してもよい。
【0041】
このように、Ni−P系無電解めっき皮膜の厚さを15μm以上60μm以下とすることで、コストを抑制した上で、十分な耐エロージョン性及び耐き裂性を得ることができる。
また、Ni−P系無電解めっき皮膜に含まれるPの濃度は、5重量%以上10重量%以下とすることで、高いビッカース硬さを得ることが可能になるとともに、高い耐き裂性を得ることが可能となる。
これにより、Ni−P系無電解めっき皮膜にき裂が発生することを抑制できる。
さらに、Ni−P系無電解めっき皮膜の硬さを500HV以上700HV以下とすることにより、十分な耐エロージョン性及び耐き裂性を得ることができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、回転機械用羽根車のコストの上昇を抑制し、かつ回転機械用羽根車の生産性の低下を抑制した上で、Ni−P系無電解めっき皮膜に発生するき裂が羽根車本体に進展することを抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載され又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意
味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一つの構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0045】
〔第1の実施形態〕
図1は、本発明の第1の実施形態に係る回転機械用羽根車を模式的に示す部分断面図である。
図1では、リブ11及び回転軸挿入部12のみを断面で図示する。また、
図1に示す矢印は、吸気の流れる方向を示している。
図2は、
図1に示す回転機械用羽根車をA−A線で切断した断面図である。
図2において、P1を付した矢印は第1の圧縮残留応力(以下、「第1の圧縮残留応力P1」という)、P2を付した矢印は第2の圧縮残留応力(以下、「第2の圧縮残留応力P2」という)をそれぞれ模式的に示している。
また、
図2において、Mは羽根車本体21の表面21aに設けられたNi−P系無電解めっき皮膜23の厚さ(以下、「厚さM」という)、Dは羽根車本体21の表面21aを基準としたときの表面部分27の深さ(以下、「深さD」という)をそれぞれ示している。
図2において、
図1と同一構成部分には、同一符号を付す。
【0046】
図1及び
図2を参照するに、第1の実施形態の回転機械用羽根車10は、円盤状のリブ11と、回転軸挿入部12と、貫通穴13と、複数の翼15(羽根)と、を有しており、さらに翼入口付け根部17及び翼出口付け根部18を有する。
回転軸挿入部12は、リブ11の中央からリブ11に対して直交する一方向に突出している。回転軸挿入部12は、リブ11から離間するにつれて、径が小さくなるように構成されている。回転軸挿入部12は、リブ11と一体に構成されている。
【0047】
貫通穴13は、リブ11及び回転軸挿入部12の中央を貫通するように設けられている。貫通穴13には、回転軸(図示せず)が挿入される。回転機械用羽根車10は、該回転軸を中心に回転する。
複数の翼15は、リブ11及び回転軸挿入部12の周囲に所定の間隔で配置されている。複数の翼15は、リブ11及び回転軸挿入部12と一体に構成されている。
【0048】
上記構成とされた回転機械用羽根車10は、羽根車本体21と、Ni−P系無電解めっき皮膜23と、を有する。
羽根車本体21は、Al又はAl合金によって構成されている。羽根車本体21は、Ni−P系無電解めっき皮膜23が形成される表面21aを有する。
羽根車本体21は、羽根車本体21の表面21aから一定の深さDまで配置された表面部27と、表面部27の内側に配置された中央部26と、を有する。
表面部27は、第1の圧縮残留応力P1を有する。一方、中央部26は、第1の圧縮残留応力P1を有していない。表面部27及び中央部26は、一体に構成されている。
【0049】
このように、羽根車本体21の表面部27が第1の圧縮残留応力P1を有することで、Ni−P系無電解めっき皮膜23にき裂24が発生した際に、き裂24が羽根車本体21に進展することを抑制可能となる。
これにより、Ni−P系無電解めっき皮膜23の膜質や構造等が所定条件を満たすようなNi−P系無電解めっき液(市販されていない独自のめっき液)を用いて、頻繁に新しいNi−P系無電解めっき液に交換する必要やめっき施工条件を厳格に管理する必要がなくなる。
つまり、安価な汎用のNi−P系無電解めっき液を使用することが可能となるので、回転機械用羽根車10のコストの上昇を抑制し、かつ回転機械用羽根車10の生産性の低下を抑制した上で、Ni−P系無電解めっき皮膜23に発生するき裂24が羽根車本体21に進展することを抑制できる。
【0050】
第1の圧縮残留応力P1の絶対値は、例えば、300MPa以上とすることが好ましい。
このように、第1の圧縮残留応力P1の絶対値を300MPa以上とすることにより、回転機械用羽根車10をターボチャージャーに適用した場合において、回転機械用羽根車10の翼(羽根)疲労寿命を十分に得ることができる。
【0051】
また、表面部27の深さDは、例えば、0.2mm以上0.4mm未満とすることが好ましい。
このように、表面部27の深さDを0.2mm以上0.4mm未満とすることで、回転機械用羽根車10をターボチャージャーに適用した場合において、翼(羽根)変形量を許容範囲内にすることができる。
【0052】
また、少なくとも羽根車本体21の翼入口付け根部17及び翼出口付け根部18が表面部27を有することが好ましい。
このように、羽根車本体21の翼入口付け根部17及び翼出口付け根部18が表面部27を有することで、Ni−P系無電解めっき皮膜23にき裂24が発生しやすい翼入口付け根部17及び翼出口付け根部18の破損を抑制することができる。
【0053】
Ni−P系無電解めっき皮膜23は、羽根車本体21の表面21aを覆うように設けられている。
Ni−P系無電解めっき皮膜23は、第2の圧縮残留応力P2を有してもよい。
【0054】
このように、Ni−P系無電解めっき皮膜23が第2の圧縮残留応力P2を有することで、Ni−P系無電解めっき皮膜23にき裂24が発生した際に、き裂24が深さ方向に広がることを抑制可能となる。
これにより、Ni−P系無電解めっき皮膜23に発生するき裂24が羽根車本体21に進展することを抑制できる。
【0055】
Ni−P系無電解めっき皮膜23に含まれるPの濃度は、例えば、5重量%以上10重量%以下にすることが好ましい。
このように、Ni−P系無電解めっき皮膜に含まれるPの濃度を5重量%以上10重量%以下とすることで、高いビッカース硬さを得ることが可能になるとともに、高い耐き裂性を得ることが可能となる。
これにより、Ni−P系無電解めっき皮膜23にき裂24が発生することを抑制できる。
【0056】
Ni−P系無電解めっき皮膜23の硬さは、例えば、500HV以上700HV以下の範囲内にするとよい。
Ni−P系無電解めっき皮膜23の硬さが500HV未満であると、耐エロージョン性を十分に得られない恐れがある。また、Ni−P系無電解めっき皮膜23の硬さが700HVよりも大きいと、十分な耐き裂性を得られない恐れがある。
したがって、Ni−P系無電解めっき皮膜23の硬さを500HV以上700HV以下とすることにより、十分な耐エロージョン性及び耐き裂性を得ることができる。
【0057】
Ni−P系無電解めっき皮膜23の厚さMは、例えば、15μm以上60μm以下の範囲内にすることが好ましい。
Ni−P系無電解めっき皮膜23の厚さMが15μm未満であると、十分な耐エロージョン性及び耐き裂性を得られない恐れがある。また、Ni−P系無電解めっき皮膜23の厚さMが60μmよりも大きいと、無電解めっき処理に要する時間が長くなり、コストが高くなる恐れがある。
したがって、Ni−P系無電解めっき皮膜23の厚さMは、15μm以上60μm以下とすることで、コストを抑制した上で、十分な耐エロージョン性及び耐き裂性を得ることができる。
【0058】
第1の実施形態の回転機械用羽根車10によれば、上述したように、回転機械用羽根車10コストの上昇を抑制し、かつ回転機械用羽根車10生産性の低下を抑制した上で、Ni−P系無電解めっき皮膜23に発生するき裂24が羽根車本体21に進展することを抑制できる。
【0059】
図3は、第1の実施形態の回転機械用羽根車の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図1〜
図3を参照して、第1の実施形態の回転機械用羽根車の製造方法について説明する。
第1の実施形態の回転機械用羽根車の製造方法は、Al又はAl合金によって構成される羽根車本体21の表面21aを表面処理することで、表面21aから一定の深さDまで配置され、第1の圧縮残留応力P1を有する表面部27を形成する表面部形成工程(
図3に示すS1)と、表面部形成工程後に、無電解めっき法により、羽根車本体21の表面21aを覆うNi−P系無電解めっき皮膜23を形成するめっき皮膜形成工程(
図3に示すS2)と、を含む。
【0060】
表面部形成工程では、表面処理として、例えば、ショットピーニング処理または超音波ピーニング処理を用いることが好ましい。
表面部27に第1の圧縮残留応力P1を付与する表面処理方法としては、各種ピーニング処理法やコールドワーク法(冷間加工法)等があるが、遠心圧縮機に適用されるような複雑な形状とされた羽根車本体21に対してコールドワーク法を施すこととは困難であるため、ピーニング処理法が好ましい。
【0061】
ピーニング処理法としては、例えば、ショットピーニング法、レーザピーニング法、ウォータジェットピーニング法、キャビテーションピーニング法、超音波ピーニング法等の手法がある。
レーザピーニング法は、対象物表面に黒体塗料を塗る必要があるため、コストが上昇してしまうため、あまり好ましくない。
【0062】
一方、キャビテーションピーニング法やウォータジェットピーニング法は、対象物表面に付与される衝撃圧が大きいため、複雑な形状とされた羽根車本体21が変形する恐れがあるため、あまり好ましくない。
【0063】
したがって、表面処理として、ショットピーニング処理または超音波ピーニング処理を用いることで、回転機械用羽根車10のコストの低減できるとともに、羽根車本体21の変形を抑制することができる。
【0064】
めっき皮膜形成工程では、例えば、Ni−P系無電解めっき皮膜23が第2の圧縮残留応力P2を有するように、無電解めっき法を行うとよい。
【0065】
このように、Ni−P系無電解めっき皮膜23が第2の圧縮残留応力P1を有するように無電解めっき法を行うことで、Ni−P系無電解めっき皮膜23にき裂24が発生した際に、き裂24が広がることを抑制することが可能となる。これにより、Ni−P系無電解めっき皮膜23に発生するき裂24が羽根車本体21に進展することを抑制できる。
【0066】
なお、安価な汎用品のNi−P系無電解めっき液には、第2の圧縮残留応力P2を有するように、Ni−P系無電解めっき皮膜23を形成可能なものがある。
【0067】
表面部形成工程では、例えば、第1の圧縮残留応力P1の絶対値が300MPa以上になるとともに、羽根車本体21の表面21aを基準としたときの表面部27の深さが0.2mm以上0.4mm未満となるように、表面処理を行ってもよい。
【0068】
このように、第1の圧縮残留応力P1の絶対値を300MPa以上とすることで、回転機械用羽根車10をターボチャージャーに適用した場合において、回転機械用羽根車10の羽根(翼)疲労寿命を十分に得ることができる。
また、表面部27の深さを0.2mm以上0.4mm未満とすることで、回転機械用羽根車10をターボチャージャーに適用した場合において、翼(羽根)変形量を許容範囲内にすることができる。
【0069】
また、めっき皮膜形成工程では、例えば、厚さが15μm以上60μm以下、Pの濃度が5重量%以上10重量%以下で、かつ硬さが500HV以上700HV以下となるように、Ni−P系無電解めっき皮膜23を形成してもよい。
【0070】
このように、Ni−P系無電解めっき皮膜23の厚さMを15μm以上60μm以下とすることで、コストを抑制した上で、十分な耐エロージョン性及び耐き裂性を得ることができる。
【0071】
また、Ni−P系無電解めっき皮膜23に含まれるPの濃度を5重量%以上10重量%以下とすることで、高いビッカース硬さを得ることが可能になるとともに、高い耐き裂性を得ることが可能となる。
これにより、Ni−P系無電解めっき皮膜23にき裂24が発生することを抑制できる。
【0072】
さらに、Ni−P系無電解めっき皮膜23の硬さを500HV以上700HV以下とすることにより、十分な耐エロージョン性及び耐き裂性を得ることができる。
【0073】
第1の実施形態の回転機械用羽根車の製造方法によれば、Ni−P系無電解めっき皮膜23の膜質や構造等が所定条件を満たすようなNi−P系無電解めっき液(市販されていない独自のめっき液)を用いて、頻繁に新しいNi−P系無電解めっき液に交換する必要やめっき施工条件を厳格に管理する必要がなくなる。
つまり、安価な汎用のNi−P系無電解めっき液を使用することが可能となるので、回転機械用羽根車10のコストの上昇を抑制し、かつ回転機械用羽根車10の生産性の低下を抑制した上で、Ni−P系無電解めっき皮膜23に発生するき裂24が羽根車本体21に進展することを抑制できる。
【0074】
〔第2の実施形態〕
図4は、本発明の第2の実施形態に係る過給機を説明するための系統図である。
図4では、説明の便宜上、過給機31の周囲に設けられた構成も図示する。
図4において、aは吸気(以下、「吸気a」という)、eは排気ガス(以下、「排気ガスe」という)をそれぞれ示している。また、
図4において、実線の矢印は、吸気aの移動方向を示しており、点線の矢印は、排気ガスeの移動方向を示している。さらに、
図4において、
図1に示す構造体と同一構成部分には、同一符号を付す。
【0075】
図4を参照するに、第2の実施形態に係る過給機31は、車両用内燃機関、例えば、EGRシステムを採用したディーゼルエンジン33に適用される。
過給機31は、排気ガスeによって回転する排気タービン34と、回転軸36と、回転軸36を介して排気タービン34と連動するコンプレッサ37と、を有する。排気ガスeの一部は、コンプレッサ37の上流側に位置する吸気路41に循環される。
【0076】
排気タービン34は、ディーゼルエンジン33と接続された排気路39と接続されている。回転軸36は、
図1に示す貫通穴13に挿入されることで、回転機械用羽根車10に固定されている。
コンプレッサ37は、
図1及び
図2で説明した回転機械用羽根車10を有する。コンプレッサ37は、吸気路41と接続されている。コンプレッサ37は、吸気aをディーゼルエンジン33に供給する。
【0077】
第2の実施形態のコンプレッサ37によれば、
図1及び
図2に示す高い耐エロージョン性及びき裂抑制機能を有する回転機械用羽根車10を含むことになるため、コンプレッサ37の長寿命化を図ることができる。
【0078】
高圧EGRシステム44は、排気タービン34の上流で排気路39から分岐し、コンプレッサ37の下流側の吸気路41に接続された高圧EGR路46を有する。
高圧EGRシステム44において、ディーゼルエンジン33から排出され
た排気eの一部は、高圧EGR路46を介して、ディーゼルエンジン33の入口側で吸気路41に戻される。
高圧EGR路46には、EGRクーラ48及びEGRバルブ49が設けられている。
【0079】
低圧EGRシステム51は、排気タービン34の下流側で排気路39から分岐し、コンプレッサ37の上流側の吸気路41に接続された低圧EGR路53を有する。
低圧EGRシステム51において、ディーゼルエンジン33から排出された排気ガスeの一部は、低圧EGR路53を介してコンプレッサ37の入口側の吸気路41に戻される。
低圧EGR路53には、EGRクーラ55及びEGRバルブ56が設けられている。
【0080】
エアクリーナ58は、コンプレッサ37の上流に位置する吸気路41が設けられている。インタクーラ59は、コンプレッサ37の下流側に位置する吸気路41に設けられている。
【0081】
排気バイパス路62は、排気タービン34をバイパスさせるためのラインであり、排気タービン34を跨ぐように、排気路39と接続されている。
ウェイストバルブ63は、排気バイパス路62に設けられている。ウェイストバルブ63は、ウェイストバルブ63の開度を調整するアクチュエータ63aを有する。
【0082】
DPFフィルタ65は、排気タービン34の下流側に位置する排気路39に設けられている。DPFフィルタ65は、排気ガスe中に含まれる粒子状物質を捕捉する。
酸化触媒67は、DPFフィルタ65の下流側に位置する排気路39に設けられている。酸化触媒67は、排気中のNO
xをNO
2に酸化し、NO
2の酸化作用でDPFフィルタ65に捕捉された粒子状物質を燃焼させる。
【0083】
第2の実施形態の過給機31によれば、コンプレッサ37と、コンプレッサ37を駆動させる排気タービン34と、を含むことで、過給機31が高い耐エロージョン性及びき裂抑制機能を有する回転機械用羽根車10を含むことになるため、過給機31の長寿命化を図ることができる。
【0084】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0085】
以下、実験例について説明するが、本発明は、下記実験例に限定されない。
【0086】
(実験例1)
実験例1では、
図1に示す羽根車本体21として、実機のAl合金製の未使用のコンプレッサホイールを4つ準備し、各コンプレッサホイールの表面に対して異なる条件でショットピーニング処理を行った。
ショットピーニング処理では、直径の平均が150μmのガラスビーズを投射材として用い、0.1〜0.45MPaの噴射圧で投射した。投射時間は、10秒とした。
【0087】
実験例1では、
図2に示す表面部27の深さが約0.2mmとなり、かつ表面部27の残留応力の絶対値が異なるように、上記ショットピーニング処理を行った。
上記ショットピーニング処理後に、X線残留応力測定装置を用いて、各コンプレッサホイールの表面部のうち、
図1に示す翼入口付け根部17及び翼出口付け根部18の深さ方向の残留応力を測定した。この結果を
図5に示す。
【0088】
以下、説明の便宜上、深さが0mmのときの残留応力が−100MPaの羽根車本体21を羽根車本体B1、深さが0mmのときの残留応力が−200MPaの羽根車本体21を羽根車本体B2、深さが0mmのときの残留応力が−300MPaの羽根車本体21を羽根車本体B3、深さが0mmのときの残留応力が−350MPaの羽根車本体21を羽根車本体B4という。
羽根車本体B1〜B4は、ショットピーニング処理後の羽根車本体である。
【0089】
図5は、実験例1の羽根車本体B1〜B4表面部における残留応力の分布を示す図(グラフ)である。なお、
図5では、羽根車本体21の表面21aを基準としたときの深さを示す。また、
図5に示す残留応力は、翼入口付け根部17の残留応力と、翼出口付け根部18の残留応力と、を平均化した残留応力である。残留応力が0よりも小さいということは、圧縮応力が残留していることを意味し、残留応力が0よりも大きい場合には、引張応力が残留していることを意味している。
【0090】
次に、市販の安価な汎用品である中高Pタイプの無電界Ni−Pめっき液を用いた無電解めっき法により、羽根車本体B1〜B4の表面に厚さ20μmのNi−P系無電解めっき皮膜を形成した。
無電解めっき時の条件としては、一般的なアルミニウム合金に対するめっき処理条件を用いた。
以下、説明の便宜上、Ni−P系無電解めっき皮膜が形成された羽根車本体B1を回転機械用羽根車C1、Ni−P系無電解めっき皮膜が形成された羽根車本体B2を回転機械用羽根車C2、Ni−P系無電解めっき皮膜が形成された羽根車本体B3を回転機械用羽根車C3、Ni−P系無電解めっき皮膜が形成された羽根車本体B4を回転機械用羽根車C4という。
【0091】
次いで、回転機械用羽根車C1〜C4を用いて、翼疲労寿命試験を行った。試験装置としては、ターボチャージャ運転試験設備を用いた。このとき、ターボチャージャの回転数を最大回転数から低回転数に急激に変化させることを繰り返し、羽根車が破損するまでの回数を計測した。この結果を
図6に示す。
【0092】
図6は、ターボチャージャーの必要な翼疲労寿命を100としたときの実験例1の回転機械用羽根車C1〜C4の翼疲労寿命を示す図(グラフ)である。
図6では、横軸に回転機械用羽根車の種類、縦軸にターボチャージャーの必要な翼疲労寿命を100としたときの回転機械用羽根車C1〜C4の翼疲労寿命をそれぞれ示す。
なお、
図6では、翼疲労寿命が100以上のものは全て100として図示している。
【0093】
図5及び
図6の結果から、表面部27の深さが0.2mmの場合において、ターボチャージャーの必要な翼疲労寿命を満たすためには、残留応力が−300MPa以上(言い換えれば、圧縮残留応力が300MPa以上)必要であることが分かった。
【0094】
(実験例2)
実験例2では、
図1に示す羽根車本体21として、実験例1で使用した実機のコンプレッサホイールと同様な未使用のコンプレッサホイールを3つ準備し、実験例1と同じ装置を用いたショットピーニング処理を行い、噴射圧のみを変更することで、
図2に示す表面部27の深さを異ならせ、かつ翼入口付け根部17及び翼出口付け根部18の表面部27の表面における平均の残留応力を−300MPaとした。
【0095】
以下、説明の便宜上、表面部27の深さが0.1mmの羽根車本体21を羽根車本体E1、表面部27の深さが0.2mmの羽根車本体21を羽根車本体E2、表面部27の深さが0.4mmの羽根車本体21を羽根車本体E3という。羽根車本体E1〜E3は、ショットピーニング処理後の羽根車本体である。
【0096】
次いで、実験例1で使用したX線残留応力測定装置を用いて、羽根車本体E1〜E3の翼入口付け根部17及び翼出口付け根部18の表面部27における深さ方向の残留応力を測定した。この結果を
図7に示す。
図7は、実験例2の羽根車本体E1〜E3の表面部における残留応力の分布を示す図(グラフ)である。なお、
図7では、羽根車本体21の表面21aを基準としたときの深さを示す。また、
図7に示す残留応力は、翼入口付け根部17の残留応力と、翼出口付け根部18の残留応力と、を平均化した残留応力である。
【0097】
次に、実験例1で使用しためっき液と同じNi−P系無電解めっき液、及び同じめっき条件を用いた無電解めっき法により、羽根車本体E1〜E3の表面に厚さ20μmのNi−P系無電解めっき皮膜を形成した。
以下、説明の便宜上、Ni−P系無電解めっき皮膜が形成された羽根車本体E1を回転機械用羽根車F1、Ni−P系無電解めっき皮膜が形成された羽根車本体E2を回転機械用羽根車F2、Ni−P系無電解めっき皮膜が形成された羽根車本体E3を回転機械用羽根車F3という。
【0098】
次いで、実験例1と同じ試験装置を用いて、回転機械用羽根車F1〜F3の翼疲労寿命試験を行った。この結果を
図8に示す。
【0099】
図8は、ターボチャージャーの必要な翼疲労寿命を100としたときの実験例2の回転機械用羽根車F1〜F3の翼疲労寿命を示す図(グラフ)である。
図8では、横軸に回転機械用羽根車の種類、縦軸にターボチャージャーの必要な翼疲労寿命を100としたときの回転機械用羽根車F1〜F3の翼疲労寿命をそれぞれ示す。
なお、
図8では、翼疲労寿命が100以上のものは全て100として図示している。
【0100】
図7及び
図8の結果から、ターボチャージャーの必要な翼疲労寿命を満たすためには、表面部27の深さが0.2mm以上必要であることが分かった。
【0101】
(実験例3)
実験例3では、
図1に示す羽根車本体21として、実験例1で使用した実機のコンプレッサホイールと同様な未使用のコンプレッサホイールを2つ準備し、ショットピーニング処理前の寸法を取得した。
次いで、実験例1と同じ装置を用いたショットピーニング処理を行い、噴射圧のみを変更することで、
図2に示す表面部27の深さを異ならせ、かつ翼入口付け根部17及び翼出口付け根部18の表面部27の表面における平均の残留応力を−300MPaとした。
【0102】
以下、説明の便宜上、表面部27の深さが0.2mmの羽根車本体21を羽根車本体G1、表面部27の深さが0.4mmの羽根車本体21を羽根車本体G2という。羽根車本体G1,G2は、ショットピーニング処理後の羽根車本体である。
【0103】
次いで、ショットピーニング処理前に寸法測定した場所と同じ場所に対応する羽根車本体G1,G2の寸法を取得し、ショットピーニング処理前後の羽根車本体の寸法変化量を求めた。寸法変化量は、ショットピーニング処理前後に非接触の三次元計測装置を用いて計測した。
この結果を
図10に示す。
【0104】
図10は、ショットピーニング処理前後の実験例3の羽根車本体G1,G2の翼の寸法変化量を示す図(グラフ)である。
図10では、横軸に羽根車本体の種類、縦軸にショットピーニング処理前後の羽根車本体G1,G2の翼の寸法変化量を示す。
なお、
図10では、寸法変化量が100以下の場合、羽根車本体の翼がターボチャージャーの設計許容値を満たすと判断し、寸法変化量が100以上の場合、羽根車本体の翼がターボチャージャーの設計許容量を満たしていないと判断する。
【0105】
図9及び
図10の結果から、羽根車本体の翼の寸法変化量がターボチャージャーの設計許容量を満たすためには、
図1に示す表面部27の深さを0.4mm未満にする必要があることが分かった。
なお、羽根車本体G2の翼は、ショットピーニング処理時の投射材の衝突圧力が高いため、翼の変形が確認された。
【0106】
(実験例4)
実験例4では、
図1に示す羽根車本体21として、実験例1で使用した実機のコンプレッサホイールと同様な未使用のコンプレッサホイールを5つ準備した。
5つのコンプレッサホイールに対して、実験例1と同じ装置を用いたショットピーニング処理を行なった。これにより、表面部27の深さ0.2mmで、かつ表面の残留応力が−200MPaとされた5つのコンプレッサホイールを作成した。
【0107】
以下、説明の便宜上、上記表面部27を有する5つのコンプレッサホイールを、コンプレッサホイールH1〜H5という。
実験例1で使用したものと同じX線残留応力測定装置を用いて、コンプレッサホイールH1の表面部27の残留応力を測定した結果を
図11に示す。
図11には、後述するコンプレッサホイールI2〜I5を構成するNi−P系無電解めっき皮膜の残留応力の測定結果も合わせて図示する。
図11は、コンプレッサホイールH1,I2〜I5の残留応力を示す図(グラフ)である。
【0108】
次いで、めっき液の種類を変えて、無電解めっき法により、4つのコンプレッサホイールH2〜H5の表面に、厚さ20μmのNi−P系無電解めっき皮膜を形成することで、めっき皮膜付きコンプレッサホイール(以下、コンプレッサホイールI2〜I5)という)を作製した。
コンプレッサホイールI2のNi−P系無電解めっき皮膜は、添加剤によりめっき皮膜内の皮膜応力を「‐100MPa」に調整した中高Pタイプの無電界めっき液を用いて形成した。コンプレッサホイールI3のNi−P系無電解めっき皮膜は、添加剤によりめっき皮膜内の皮膜応力を「‐200MPa」に調整した中高Pタイプの無電界めっき液を用いて形成した。コンプレッサホイールI4のNi−P系無電解めっき皮膜は、添加剤によりめっき皮膜内の皮膜応力を「+100MPa」に調整した中高Pタイプの無電界めっき液を用いて形成した。
コンプレッサホイールI5のNi−P系無電解めっき皮膜は、添加剤によりめっき皮膜内の皮膜応力を「+200MPa」に調整した中高Pタイプの無電界めっき液を用いて形成した。
【0109】
その後、上記X線残留応力測定装置を用いて、実験例1と同様な手法により、コンプレッサホイールI2〜I5を構成するNi−P系無電解めっき皮膜の残留応力の測定を行った。この結果を
図11に示す。
【0110】
次いで、回転数を変動させる試験装置を用いて、コンプレッサホイールH1,I2〜I5の回転数変動試験を行った。
回転数変動試験では、一定時間最大回転数を維持させるステップと、回転数を最小回転数とするステップと、を繰り返し行った。
【0111】
その後、実験例1と同様な手法により、ターボチャージャーの必要な寿命を100としたときの翼疲労寿命を求めた。この結果を
図12に示す。
図12は、ターボチャージャーの必要な寿命を100としたときの翼疲労寿命としたときのコンプレッサホイールH1,I2〜I5の翼疲労寿命を示す図(グラフ)である。
【0112】
図11を参照するに、コンプレッサホイールI2,I3を構成するNi−P系無電解めっき皮膜は、圧縮残留応力を有していることが分かった。また、コンプレッサホイールI4,I5を構成するNi−P系無電解めっき皮膜は、引張残留応力を有していることが分かった。
そして、
図11及び
図12から、コンプレッサホイールをターボチャージャーに適用する場合、コンプレッサホイールに形成するNi−P系無電解めっき皮膜は、引張残留応力ではなく、圧縮残留応力を有する必要があることが確認できた。