(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
(1)本発明の一態様に係る被覆電線は、導体の外側に絶縁被覆層を備える被覆電線であって、
前記導体は、
Feを0.05質量%以上2.0質量%以下、
Tiを0.02質量%以上1.0質量%以下、
Mgを0質量%以上0.6質量%以下含有し、
残部がCu及び不純物からなる銅合金から構成され、
加工硬化指数が0.1以上であり、
線径が0.5mm以下である銅合金線を複数撚り合せた撚線である。
上記の撚線は、複数の銅合金線を単に撚り合せたものの他、撚り合せ後に圧縮成形された、いわゆる圧縮撚線を含む。後述する(9)の銅合金撚線についても同様である。
【0016】
上記の被覆電線は、以下の理由によって、端子との固着性に優れる上に、端子が取り付けられた状態でも耐衝撃性に優れる。
【0017】
・固着性
上記の被覆電線は、導体を構成する各素線である銅合金線の加工硬化指数が大きいため、圧縮加工などの塑性加工を施した場合に加工硬化し易い。このような銅合金線の撚線から構成される導体に圧着端子を圧着した場合、端子取付箇所は、圧縮加工という断面減少を伴う塑性加工が施されて、加工硬化する。この加工硬化によって、端子を強固に固着することができるからである。
【0018】
・耐衝撃性
上記の被覆電線は、上述のように加工硬化し易い銅合金線を導体に備えるため、加工硬化による強度の向上効果を得易い。例えば、上述の端子付き電線における端子取付箇所の断面積が本線箇所よりも小さいものの、加工硬化による強度向上効果を十分に望める。特に、素線とする上記銅合金線は、線径が0.5mm以下という細線であり、上記端子取付箇所の断面積が更に小さいものの、上述の加工硬化による強度の向上によって、十分な強度を有することができる。このような銅合金線の撚線を導体に備えるため、上述の端子付き電線が衝撃を受けた場合に、後述のように高強度である本線箇所で破断し難いことは勿論、端子取付箇所近傍でも破断し難いからである。
【0019】
上記の被覆電線は、上述のように端子との固着性、端子装着状態での耐衝撃性に優れる上に、特定の組成の銅合金から構成される銅合金線を導体に備えるため、強度が高く、伸びといった靭性にも優れる上に、導電率も高い。つまり、上記の被覆電線は、高強度、高靭性、高導電率をバランスよく備える。また、上記の被覆電線は、上記銅合金線の撚線を導体としており、同一断面積の単線を導体とする場合に比較して、導体(撚線)全体として屈曲性や捻回性といった機械的特性により優れる傾向にある。そのため、上記の被覆電線を備える端子付き電線は、配策時やハウジングへの接続時などで導体が引っ張られたり、曲げや捻じりが加えられたり、使用時に繰り返しの曲げや捻じりなどが加えられる場合でも、上記端子取付箇所近傍で破断し難い。好ましくは、端子取付箇所は、本線箇所の強度と同等程度の強度を有することができる。このような上記の被覆電線は、自動車用ワイヤーハーネスなどの各種のワイヤーハーネスなどに備える端子付き電線などに好適に利用できる。また、この端子付き電線やワイヤーハーネスは、端子との接続状態を良好に維持し易く、信頼性を高められる。
【0020】
ここで、強度に着目すると、従来、電線の導体に利用される軟銅は、強度に劣るものの加工硬化し易く、加工硬化による強度の向上が望める。但し、加工硬化箇所の強度は、元々の強度が低いため、十分な強度を有するとはいえない。一方、合金化すれば、一般に、強度を向上できるものの加工硬化し難く、加工硬化による強度向上効果を十分に望めない。これに対し、従来、着目されていなかった加工硬化指数を指標とし、加工硬化指数が特定の範囲を満たすように、導体を構成する銅合金線について添加元素の種類の選択や含有量、製造条件などを調整することで、端子との固着性、及び端子装着状態の耐衝撃性に優れる上記の被覆電線とすることができる。
【0021】
(2)上記の被覆電線の一例として、前記銅合金は、Mgを0.15質量%超含有する形態が挙げられる。
【0022】
上記形態は、Mgを比較的多く含むため、導体を構成する銅合金線の加工硬化指数が大きくなり易く、加工硬化による強度向上効果を得易い。従って、上記形態は、端子との固着性、端子装着状態での耐衝撃性により優れる。
【0023】
(3)上記の被覆電線の一例として、前記銅合金線の引張強さが350MPa以上、破断伸びが5%以上、導電率が55%IACS以上である形態が挙げられる。
【0024】
上記形態は、端子との固着性、端子装着状態での耐衝撃性に優れる上に、引張強さ、破断伸び、及び導電率が高い銅合金線を導体に備えるため、高強度、高靭性、高導電率をバランスよく備える。従って、上記形態は、上述の端子付き電線などに好適に利用できる。
【0025】
(4)上記の被覆電線の一例として、端子固着力が45N以上である形態が挙げられる。端子固着力、後述する(5)端子装着状態での耐衝撃エネルギー、(6)耐衝撃エネルギーの測定方法は後述する。
【0026】
上記形態は、端子を強固に固着することができ、端子との固着性により優れる。従って、上記形態は、上述の端子付き電線などに好適に利用できる。
【0027】
(5)上記の被覆電線の一例として、端子が取り付けられた状態での耐衝撃エネルギーが2J/m以上である形態が挙げられる。
【0028】
上記形態は、圧着端子などの端子が圧着された端子装着状態での耐衝撃エネルギーが高く、端子装着状態で衝撃を受けた場合でも端子取付箇所でより破断し難く、耐衝撃性により優れる。従って、上記形態は、上述の端子付き電線などに好適に利用できる。
【0029】
(6)上記の被覆電線の一例として、耐衝撃エネルギーが5J/m以上である形態が挙げられる。
【0030】
上記形態は、耐衝撃エネルギーが高く、衝撃を受けた場合でも破断し難い。従って、上記形態は、上述の端子付き電線などに利用されて、衝撃を受けた場合に破断し難い。
【0031】
(7)本発明の一態様に係る端子付き電線は、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の被覆電線と、前記被覆電線の端部に取り付けられた端子とを備える。
【0032】
上記の端子付き電線は、上記の被覆電線を備えるため、端子との固着性、端子装着状態での耐衝撃性に優れる上に、高強度、高靭性、高導電率である。従って、上記の端子付き電線は、自動車用ワイヤーハーネスなどの各種のワイヤーハーネスなどに好適に利用できる。
【0033】
(8)本発明の一態様に係る銅合金線は、導体に利用される銅合金線であって、
Feを0.05質量%以上2.0質量%以下、
Tiを0.02質量%以上1.0質量%以下、
Mgを0質量%以上0.6質量%以下含有し、
残部がCu及び不純物からなる銅合金から構成され、
加工硬化指数が0.1以上であり、
線径が0.5mm以下である。
【0034】
上記の銅合金線は、加工硬化指数が大きいため、上述のように端子が取り付けられる用途の電線の導体に用いた場合、端子固着性に優れる上に、端子装着状態での耐衝撃性に優れる電線を構築することができる。また、上記の銅合金線は、上述のように特定の組成の銅合金から構成されて高強度、高靭性、高導電率である。従って、上記の銅合金線は、単線又は撚線の状態で、電線などの導体に好適に利用できる。例えば、上記の銅合金線を撚り合わせた撚線を導体とすることで、上記(1)の被覆電線を構築できる。
【0035】
(9)本発明の一態様に係る銅合金撚線は、上記(8)に記載の銅合金線が複数撚り合わされてなる。
【0036】
上記の銅合金撚線は、上記の銅合金線の組成及び特性を実質的に維持しており、端子との固着性、端子装着状態での耐衝撃性に優れる上に、高強度、高靭性、高導電率である。また、上記の銅合金撚線は、上述のように同一断面積の単線と比較して機械的特性により優れる傾向にある。従って、上記の銅合金撚線は、電線などの導体に好適に利用できる。例えば、上記の銅合金撚線を導体とすることで、上記(1)の被覆電線を構築できる。
【0037】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、適宜、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図中、同一符号は同一名称物を示す。元素の含有量は、断りが無い限り質量%とする。
【0038】
[銅合金線]
(組成)
実施形態の銅合金線1は、被覆電線3などの電線の導体に利用されるものであり、特定の添加元素を特定の範囲で含む銅合金から構成されることを特徴の一つとする。上記銅合金は、Feを0.05%以上2.0%以下、Tiを0.02%以上1.0%以下、Mgを0%以上0.6%以下含有し、残部がCu及び不純物からなるFe−Ti−Cu合金、又はFe−Ti−Mg−Cu合金である。上記不純物とは不可避なものをいう。
まず、各添加元素を詳細に説明する。
【0039】
・Fe
Feは、主として、母相であるCuに析出して存在し、引張強さといった強度の向上に寄与する。
Feを0.05%以上含有すると、強度に優れる銅合金線1とすることができる。製造条件にもよるが、Feの含有量が多いほど、銅合金線1の強度が高くなり易い。高強度化などを望む場合には、Feの含有量を0.4%以上、更に0.6%以上、0.8%以上とすることができる。
Feを2.0%以下の範囲で含有すると、FeとTiとを含む析出物の粗大化を抑制し易く、伸線加工時や屈曲時などで粗大な析出物を起点とする断線を低減できる。製造条件にもよるが、Feの含有量が少ないほど、上述の粗大化などを抑制し易い。析出物の粗大化の抑制(断線の低減)などを望む場合には、Feの含有量を1.8%以下、更に1.6%以下、1.4%以下とすることができる。
【0040】
・Ti
Tiは、主として、Feと共に析出物として存在し、引張強さといった強度の向上に寄与すると共に、FeがCuに固溶することによる導電率の低下を抑制することに寄与する。
Tiを0.02%以上含有すると、上述のFeとTiとを含む析出物を良好に生成でき、析出強化によって強度に優れる上に、FeやTiの析出によって高い導電率を有する銅合金線1とすることができる。製造条件にもよるが、Tiの含有量が多いほど、銅合金線1の強度が高くなり易い。高強度化などを望む場合には、Tiの含有量を0.05%以上、更に0.1%以上、0.2%以上とすることができる。
Tiを1.0%以下の範囲で含有すると、上述のようにFeとTiとを含む析出物の粗大化を抑制できる。製造条件にもよるが、Tiの含有量が少ないほど、上記粗大化を抑制し易い。析出物の粗大化の抑制(断線の低減)などを望む場合には、Tiの含有量を0.9%以下、更に0.7%以下とすることができる。
【0041】
・Mg
実施形態の銅合金線1を構成する銅合金は、Mgの含有量が0%であり、Mgを含まない形態とすることができる。この形態でも、Fe量及びTi量と製造条件とを調整すれば、加工硬化指数が特定の範囲を満たす(後述の試験例1参照)。また、この形態は、Mg含有に起因する加工性の低下が生じず、伸線加工などの塑性加工を行い易く、製造性に優れる。
【0042】
一方、本発明者らが検討した結果、Fe及びTiを特定の範囲で含む場合に、Mgを含むと、製造条件にもよるが、加工硬化指数を大きくし易いとの知見を得た。そこで、実施形態の銅合金線1を構成する銅合金は、Mgを含む(0%超)形態とすることができる。製造条件にもよるが、Mgの含有量が多いほど、加工硬化指数を大きくし易く、加工硬化による強度向上効果を得易く、端子との固着性の向上、端子装着状態での耐衝撃性の向上を期待できる。また、Mgは、主として、母相であるCuに固溶して存在し、引張強さといった強度が向上する場合がある。加工硬化指数の増大などを望む場合には、Mgの含有量を0.02%以上、更に0.1%以上、0.14%超とすることができる。特に、Mgを0.15%超含有すると、製造条件にもよるが加工硬化指数がより大きくなり易く、加工硬化による強度向上効果を十分に得易い。更に、Mgを0.2%以上含有することができる。
【0043】
Mgを含有する場合にMgの含有量が0.6%以下であれば、MgがCuに過剰に固溶することによる導電率の低下を抑制して、導電率が高い銅合金線1とすることができる。また、Mgの過剰固溶に起因する加工性の低下を抑制して、伸線加工などの塑性加工が行い易く、製造性に優れる。高導電性、加工性の向上などを望む場合には、Mgの含有量を0.55%以下、更に0.5%以下、0.45%以下、0.4%以下とすることができる。
【0044】
(組織)
実施形態の銅合金線1を構成する銅合金の組織として、FeとTiとを含む析出物や晶出物が分散する組織が挙げられる。上記析出物や晶出物はFe
2Tiといった化合物が挙げられる。上記の組織を有する場合、析出強化による高強度化、Fe及びTiの析出による高導電率などを期待できる。
【0045】
更に、上記銅合金の組織として、微細結晶組織が挙げられる。微細結晶組織を有する場合、上述の析出物が均一的に分散して存在し易く、更なる高強度化が期待できる。また、破断の起点となり得る粗大結晶粒が少ないため破断し難く、伸びといった靭性の向上も期待できる。更に、微細結晶組織を有する場合、実施形態の銅合金線1を被覆電線3などの電線の導体に用いて、この導体に圧着端子などの端子を取り付けた場合に、端子を強固に固着できて、端子固着力を高め易い。
【0046】
定量的には、平均結晶粒径が10μm以下であると、上述の効果を得易く、7μm以下、更に5μm以下とすることができる。結晶粒径は、例えば、組成(添加元素の種類、含有量、以下同様)に応じて製造条件(加工度や熱処理温度など、以下同様)を調整することで、所定の大きさにすることができる。
【0047】
平均結晶粒径は、以下のように測定する。クロスセクションポリッシャ(CP)加工を施した横断面をとって、この横断面を走査型電子顕微鏡で観察する。観察像から、所定の面積S
0の観測範囲をとり、観測範囲内に存在する全ての結晶数Nを調べる。面積S
0を結晶数Nで除した面積(S
0/N)を各結晶粒の面積Sgとし、結晶粒の面積Sgと等価面積の円の直径を結晶粒の直径Rとする。この結晶粒の直径Rを平均結晶粒径とする。観察範囲は、結晶数nが50以上である範囲、又は横断面の全体とすることができる。このように観察範囲を十分に広くすることで、面積S
0に存在し得る結晶以外のもの(析出物など)に起因する誤差を十分に小さくできる。
【0048】
(線径)
実施形態の銅合金線1は、その線径が0.5mm以下であることを特徴の一つとする。線径0.5mm以下の細線であるため、軽量化が望まれる電線の導体、例えば自動車に配線される電線用の導体などに好適に利用できる。上記線径は0.35mm以下、更に0.25mm以下とすることができる。上記線径は、例えば、伸線加工時の加工度(断面減少率)を調整することで、所定の大きさにすることができる。銅合金線1の線径とは、銅合金線1が丸線の場合には直径とし、横断面形状が円形以外の場合には横断面における等価面積の円の直径とする。
【0049】
(断面形状)
実施形態の銅合金線1の横断面形状は、適宜選択できる。銅合金線1の代表例として、横断面円形状の丸線が挙げられる。横断面形状は、伸線加工に用いるダイスの形状や、銅合金線1を圧縮撚線とする場合には成形金型の形状などによって変化する。例えば、銅合金線1を、横断面形状が楕円形状、矩形や六角形といった多角形状などの異形線とすることができる。
【0050】
(加工硬化指数)
実施形態の銅合金線1は、定性的には塑性加工が施された場合に加工硬化し易いこと、定量的には加工硬化指数が0.1以上であることを特徴の一つとする。
加工硬化指数とは、引張試験の試験力を単軸方向に適用したときの塑性ひずみ域における真応力σと真ひずみεとの式σ=C×ε
nにおいて、真ひずみεの指数nとして定義される。上記式において、Cは強度定数である。
上記の指数nは、市販の引張試験機を用いて引張試験を行い、S−S曲線を作成することで求められる(JIS G 2253(2011)も参照)。
【0051】
加工硬化指数が大きいほど、加工硬化し易く、加工部分では、加工硬化による強度向上効果を十分に得られて好ましい。例えば、銅合金線1を被覆電線3などの電線の導体に用いて、この導体に圧着端子などの端子を圧着などして取り付けた場合、この端子取付箇所は、圧縮加工などの塑性加工が施された加工部分となる。この加工部分は、圧縮加工などの断面減少を伴う塑性加工が施されているものの、上記塑性加工前よりも硬くなっており、強度が高められている。従って、この加工部分、即ち上記導体における端子取付箇所及びその近傍が強度の弱点となることを低減できる。加工硬化指数が0.11以上、0.12以上、更に0.15以上であると、加工硬化による強度向上効果がより得られ易く好ましい。組成や製造条件によっては、本線箇所と同等程度の強度を維持することが期待できる。加工硬化指数は、後述のように組成や製造条件で変わるため、上限は特に定めない。
【0052】
加工硬化指数は、同じ組成であっても製造条件が異なれば変化する(後述の試験例1参照)。従って、加工硬化指数を指標として、加工硬化指数が0.1以上を満たすように、組成に応じて製造条件を調整するとよい。
【0053】
(特性)
・引張強さ、破断伸び、導電率
実施形態の銅合金線1は、上述の特定の組成の銅合金で構成され、加工硬化指数が特定の範囲を満たすように製造されることで、高強度、高靭性、高導電率をバランスよく備えることができる。定量的には、銅合金線1は、引張強さが350MPa以上、破断伸びが5%以上、及び導電率が55%IACS以上の少なくとも一つ、好ましくは三つ全てを満たすことが挙げられる。
より高強度を望む場合には、引張強さを360MPa以上、370MPa以上、380MPa以上、更に400MPa以上とすることができる。
より高靭性を望む場合には、破断伸びを6%以上、7%以上、8%以上、9.5%以上、更に10%以上とすることができる。
より高導電率を望む場合には、導電率を60%IACS以上、65%IACS以上、更に70%IACS以上とすることができる。
【0054】
引張強さ、破断伸び、導電率も、組成や製造条件を調整することで所定の大きさにすることができる。例えば、添加元素を多くしたり、伸線加工度を高めたり(線径を細くしたり)すると、引張強さが高く、導電率が低くなる傾向にある。例えば、伸線後に熱処理を行う場合に熱処理温度を高めると、破断伸びが高く、引張強さ及び導電率が低くなる傾向にある。
【0055】
[銅合金撚線]
実施形態の銅合金線1は、撚線の素線として利用できる。実施形態の銅合金撚線10は、実施形態の銅合金線1を素線とするものであり、銅合金撚線10が複数撚り合わされてなる。銅合金撚線10は、素線である銅合金線1の組成や組織、特性を実質的に維持したまま、断面積が素線1本の場合よりも大きくなり易く、衝撃時に受けられる力を増大できて、耐衝撃性により優れる。また、銅合金撚線10は、加工硬化する素線数が多くなるため、銅合金撚線10を被覆電線3などの電線の導体に用いて、この導体に圧着端子などの端子をより強固に固着できる。その他、銅合金撚線10は、屈曲性にも優れて、曲げなどを行い易く、上記電線を配策などする際に断線し難くできる。
図1では、7本撚りの銅合金撚線10を例示するが、撚り合せ本数は適宜変更できる。
【0056】
銅合金撚線10は、撚り合せ後に圧縮成形された圧縮撚線(図示せず)とすることができる。圧縮撚線は、撚り合せ状態の安定性に優れるため、この圧縮撚線を被覆電線3などの電線の導体とする場合、導体の外周に絶縁被覆層2などを形成し易い。また、圧縮撚線は、単に撚り合せた場合よりも機械的特性により優れる傾向にある上に小径にできる。
【0057】
銅合金撚線10の線径、断面積、撚りピッチなどは、撚り合せ本数などに応じて適宜選択できる。銅合金撚線10の断面積が例えば0.03mm
2以上であれば、銅合金撚線10を被覆電線3などの電線の導体に用いた場合に、この導体に圧着端子などの端子を強固に固着できる上に、加工硬化による強度向上効果を良好に得られる。上記断面積が例えば0.5mm
2以下であれば、軽量な銅合金撚線10とすることができる。撚りピッチが例えば10mm以上であれば、素線(銅合金線1)が0.5mm以下の細線であっても撚り合せ易く、銅合金撚線10の製造性に優れる。上記撚りピッチが例えば20mm以下であれば、曲げなどを行った場合にも撚りがほぐれず、屈曲性に優れる。
【0058】
[被覆電線]
実施形態の銅合金線1や銅合金撚線10は、そのままでも導体に利用できるが、外周に絶縁被覆層を備えると、絶縁性に優れる。実施形態の被覆電線3は、導体の外側に絶縁被覆層2を備えるものであり、導体が銅合金撚線10である。別の実施形態の被覆電線として、導体が銅合金線1(単線)であるものとすることができる。
図1では、導体に銅合金撚線10を備える場合を例示する。
絶縁被覆層2を構成する絶縁材料は、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)やノンハロゲン樹脂、難燃性に優れる材料などが挙げられる。公知の絶縁材料が利用できる。
絶縁被覆層2の厚さは、所定の絶縁強度に応じて適宜選択でき、特に限定されない。
【0059】
・端子固着力
実施形態の被覆電線3は、上述のように加工硬化による強度向上効果が大きい銅合金線1を素線とする銅合金撚線10を導体に備えるため、圧着端子などの端子を圧着などして取り付けた状態において、端子を強固に固着できる。定量的には、端子固着力が45N以上を満たすことが挙げられる。端子固着力が大きいほど、端子を強固に固着でき、被覆電線3(導体)と端子との接続状態を維持し易く好ましい。端子固着力は50N以上、55N以上、更に60N以上が好ましく、上限は特に定めない。
【0060】
・端子装着状態での耐衝撃エネルギー
実施形態の被覆電線3は、上述のように加工硬化による強度向上効果が大きい銅合金線1を素線とする銅合金撚線10を導体に備えるため、圧着端子などの端子が取り付けられた状態で衝撃を受けた場合に、圧着などの塑性加工を受けた端子取付箇所近傍で破断し難い。定量的には、端子が取り付けられた状態での耐衝撃エネルギー(端子装着状態での耐衝撃エネルギー)が2J/m以上を満たすことが挙げられる。端子装着状態での耐衝撃エネルギーが大きいほど、衝撃を受けた場合に端子取付箇所近傍で破断し難く好ましい。端子装着状態での耐衝撃エネルギーは3J/m以上、更に4J/m以上が好ましく、上限は特に定めない。
【0061】
・耐衝撃エネルギー
実施形態の被覆電線3は、上述のように端子取付箇所だけでなく、衝撃などを受けた場合に導体(銅合金撚線10)そのものが破断し難く、耐衝撃性に優れる。定量的には、耐衝撃エネルギー(以下、本線の耐衝撃エネルギーと呼ぶことがある)が5J/m以上を満たすことが挙げられる。本線の耐衝撃エネルギーが大きいほど、衝撃を受けた場合に破断し難く好ましい。本線の耐衝撃エネルギーは、6J/m以上、更に7J/m以上が好ましく、上限は特に定めない。
【0062】
実施形態の被覆電線3における端子固着力及び端子装着状態での耐衝撃エネルギーは、上述のように銅合金線1の加工硬化指数が特定の範囲を満たすように、導体の素線とする銅合金線1の組成や製造条件を調整することで、所定の大きさにすることができる。本線の耐衝撃エネルギーは、例えば、引張強さ及び破断伸びの双方が大きくなるように、銅合金線1の組成や製造条件を調整することで、所定の大きさにすることができる。
【0063】
単線の銅合金線1を導体に備える被覆電線においても、端子固着力、端子装着状態での耐衝撃エネルギー、本線の耐衝撃エネルギーの少なくとも一つが上述の範囲を満たすことが好ましい。絶縁被覆層2を備えていない上述の銅合金線1や銅合金撚線10においても、端子固着力、端子装着状態での耐衝撃エネルギー、本線の耐衝撃エネルギーの少なくとも一つが上述の範囲を満たすことが好ましい。
【0064】
[端子付き電線]
実施形態の被覆電線3は、端部に圧着端子などの端子が取り付けられてなる端子付き電線に利用できる。実施形態の端子付き電線4は、実施形態の被覆電線3と、被覆電線3の端部に取り付けられた端子5とを備える。
図2では、端子5として、一端に雌型又は雄型の嵌合部52を備え、他端に絶縁被覆層2を把持するインシュレーションバレル部54を備え、中間部に導体(
図2では銅合金撚線10)を把持するワイヤバレル部50を備える圧着端子を例示する。圧着端子は、被覆電線3の端部において絶縁被覆層2が除去されて露出された導体の端部に圧着されて、導体と電気的及び機械的に接続される。別の実施形態の端子付き電線として、上述の銅合金線1(単線)を導体とする被覆電線を備えるものとすることができる。
【0065】
端子5は、圧着端子などの圧着型の他、溶融した導体が接続される溶融型などが挙げられる。実施形態の端子付き電線4は、導体として銅合金撚線10を備え、加工硬化による強度向上効果を得易い銅合金線1を含むため、端子5を圧着端子とすると、端子装着状態での耐衝撃性に優れるという効果を得易く好ましい。
【0066】
端子付き電線4は、
図2に示すように被覆電線3ごとに一つの端子5が取り付けられた形態の他、複数の被覆電線3に対して一つの端子5を備える形態が挙げられる。即ち、端子付き電線4は、被覆電線3を一つ、及び端子5を一つ備える形態の他、複数の被覆電線3と一つの端子5とを備える形態、複数の被覆電線3と複数の端子5とを備える形態が挙げられる。複数の電線を備える場合には、結束具などによって複数の電線を束ねると、端子付き電線4を取り扱い易い。端子付き電線4は、導体を構成する銅合金線1や銅合金撚線10が端子の取付性などのハーネス加工性に優れるため、自動車用ワイヤーハーネスなどの各種のワイヤーハーネスの構成部品に利用できる。
【0067】
[銅合金線、銅合金撚線、被覆電線、端子付き電線の特性]
実施形態の銅合金撚線10の各素線、被覆電線3の導体を構成する各素線、端子付き電線4の導体を構成する各素線は、いずれも銅合金線1の組成、組織、特性を維持する、又は同等程度の特性を有する。例えば、上記の各素線は、引張強さが350MPa以上、破断伸びが5%以上、導電率が55%IACS以上を満たす形態とすることができる。
【0068】
被覆電線3及び端子付き電線4の導電率は、導体を露出させて測定するとよい。端子付き電線4の端子固着力、端子装着状態での耐衝撃エネルギーに用いる端子として、端子付き電線4自体に備える圧着端子などの端子を利用することができる。
【0069】
[効果]
実施形態の被覆電線3は、特定の組成の銅合金で構成されると共に、加工硬化指数が特定の範囲を満たす実施形態の銅合金線1、又は銅合金線1を撚り合わせた実施形態の銅合金撚線10を導体に備える。そのため、圧着端子などの端子が圧着などされて取り付けられた場合に、端子を強固に固着でき、端子との固着性に優れる。かつ、圧着などの塑性加工を受けた端子取付箇所は、加工硬化によって強度が向上することで、端子が取り付けられた状態で衝撃を受けても、端子取付箇所近傍で断線し難く、耐衝撃性に優れる。実施形態の端子付き電線4は、実施形態の被覆電線3を備えるため、端子との固着性に優れる上に、端子装着状態での耐衝撃性にも優れる。実施形態の銅合金線1及び銅合金撚線10は、被覆電線3などの電線の導体に用いることで、端子との固着性に優れ、端子装着状態での耐衝撃性に優れる電線を構築することができる。端子との固着性、端子装着状態での耐衝撃性の効果を試験例1で具体的に説明する。
【0070】
[製造方法]
実施形態の銅合金線1、銅合金撚線10、被覆電線3、端子付き電線4は、例えば、以下の工程を備える製造方法によって製造することができる。以下、各工程の概要を列挙する。
【0071】
(銅合金線)
<連続鋳造工程>上述の特定の組成の銅合金の溶湯を連続鋳造して鋳造材を製造する。
<伸線工程>上記鋳造材、又は上記鋳造材に加工を施した加工材に、伸線加工を施して伸線材を製造する。
<熱処理工程>上記伸線材に熱処理を施し、熱処理材を製造する。この熱処理は、熱処理後の線材の加工硬化指数が0.1以上となる条件で行う。
【0072】
(銅合金撚線)
銅合金撚線10を製造する場合には、上述の<連続鋳造工程>、<伸線工程>、<熱処理工程>に加えて、以下の撚線工程を備える。
圧縮撚線とする場合には、以下の圧縮工程を更に備える。
<撚線工程>複数の上記伸線材、又は複数の上記熱処理材を撚り合わせて、撚線を製造する。
<圧縮工程>上記撚線を所定の形状に圧縮成形して、圧縮撚線を製造する。
上記伸線材の撚線、この撚線を圧縮成形した圧縮撚線に対して、上記の<熱処理工程>を行う。
上記熱処理材の撚線、この撚線を圧縮成形した圧縮撚線に対して、更に上記の<熱処理工程>を行うことができる。又は、既に上記の<熱処理工程>を行っているため、撚線工程、圧縮工程の後に上記の<熱処理工程>を省略できる。
その他、上記伸線材に軟化熱処理を施した軟材を撚り合せた軟材撚線、又はこの軟材撚線を圧縮成形した軟材圧縮撚線に<熱処理工程>を行うこともできる。
【0073】
(被覆電線)
被覆電線3や単線の銅合金線1を備える被覆電線を製造する場合には、上述の銅合金線の製造方法によって製造された銅合金線(実施形態の銅合金線1)、又は上述の銅合金撚線の製造方法によって製造された銅合金撚線(実施形態の銅合金撚線10)の外周に絶縁被覆層を形成する被覆工程を備える。絶縁被覆層の形成方法には、押出被覆や粉体塗装など、公知の手法を利用できる。
【0074】
(端子付き電線)
上述の被覆電線の製造方法によって製造された被覆電線(実施形態の被覆電線3など)の端部において絶縁被覆層を除去して露出した導体に端子を取り付ける圧着工程を備える。
【0075】
以下、連続鋳造工程、伸線工程、熱処理工程を詳細に説明する。
<連続鋳造工程>
この工程では、上述したFe,Ti,適宜Mgを特定の範囲で含む特定の組成の銅合金の溶湯を連続鋳造して鋳造材を作製する。
【0076】
ここで、実施形態の銅合金線1は、代表的には、Fe及びTiを析出物として存在させ、Mgを含む場合にはMgを固溶体として存在させる。そのため、銅合金線1の製造過程では過飽和固溶体を形成する過程を備えることが好ましい。溶体化処理を行う溶体化工程を別途設けることで、任意の時期に過飽和固溶体を形成できる。一方、連続鋳造を行う場合に冷却速度を十分に大きくして過飽和固溶体の鋳造材を作製すれば、別途、溶体化工程を設けることなく、最終的に機械的特性及び電気的特性に優れ、かつ加工硬化による強度向上効果を適切に得られ、被覆電線3などの導体に適した銅合金線1を製造できる、との知見を得た。そこで、銅合金線1の製造方法として、連続鋳造を行うこと、特に冷却過程で冷却速度を十分に大きくして急冷することを提案する。
【0077】
連続鋳造法は、ベルトアンドホイール法、双ベルト法、アップキャスト法など各種の方法が利用できる。特に、アップキャスト法は、酸素などの不純物を低減できて、Cuや添加元素の酸化を防止し易く好ましい。冷却過程の冷却速度は、5℃/sec超、更に10℃/sec超、15℃/sec以上が好ましい。
【0078】
鋳造材には、各種の塑性加工、切削加工などの加工を施すことができる。塑性加工は、コンフォーム押出、圧延(熱間、温間、冷間)などが挙げられる。切削加工は、皮剥ぎなどが挙げられる。これらの加工を施すことで、鋳造材の表面欠陥を低減でき、伸線加工時に断線などを低減して、生産性を向上できる。特に、アップキャスト材には、これらの加工を施すことが好ましい。
【0079】
上記加工材に以下の条件の熱処理を施すことができる。この熱処理によって、例えば、加工に伴う歪みを除去できる。熱処理条件によっては、後述の人工時効も行える。
上記加工材の断面積は、最終線径の銅合金線1に比較して大きい(太い)。そのため、この熱処理は、加熱対象全体の加熱状態を管理し易いバッチ処理を利用し易いと考えられる。熱処理条件は、例えば以下が挙げられる。
(熱処理温度)400℃以上650℃以下、好ましくは450℃以上600℃以下
(保持時間)1時間以上40時間以下、好ましくは3時間以上20時間以下
【0080】
<伸線工程>
この工程では、上記鋳造材や上記加工材などに、少なくとも1パス、代表的には複数パスの伸線加工(冷間)を施して、所定の最終線径の伸線材を作製する。複数パスを行う場合、パスごとの加工度は、組成や最終線径などに応じて適宜調整するとよい。また、複数パスを行う場合、パス間に中間熱処理を行うことができる。中間熱処理によって、上述のように歪みを除去したり、人工時効を行ったりすることができる。中間熱処理の条件は、上記の加工材に施す熱処理条件を参照できる。
【0081】
<熱処理工程>
この工程の熱処理は、代表的には添加元素が固溶状態である銅合金からFe及びTiを含む析出物を析出させる人工時効、最終線径までの伸線加工によって加工硬化された伸線材の伸びを改善する軟化をそれぞれ目的の一つとする。更に、銅合金線1の製造では、加工硬化指数が特定の範囲を満たすようにすることも目的の一つとする。この熱処理によって、端子を強固に固着でき、端子装着状態での耐衝撃性に優れる上に、高強度、高靭性、高導電率であり、被覆電線3などの導体に適した銅合金線1や銅合金撚線10が得られる。以下、伸線工程以降に行う熱処理であって、人工時効、軟化、加工硬化指数の調整を目的とした熱処理を最終熱処理と呼ぶことがある。
【0082】
上記の目的を達成する最終熱処理の条件は、バッチ処理であれば、例えば、以下が挙げられる。
(熱処理温度)400℃以上650℃以下、好ましくは450℃以上600℃以下
(保持時間)1時間以上40時間以下、好ましくは3時間以上20時間以下
上記の範囲から、組成(添加元素の種類、含有量)、加工状態などに応じて選択するとよい。具体例として、後述の試験例1を参照するとよい。
【0083】
同じ組成の場合に上記の範囲で熱処理温度が高いと、端子装着状態での耐衝撃エネルギー、耐衝撃エネルギー、破断伸びが向上する傾向にある。上記熱処理温度が低いと、結晶粒の成長を抑制できると共に、引張強さが向上する傾向にある。上述の析出物を十分に析出させると、導電率が向上する傾向にある。
その他、鋳造材に上述のコンフォーム押出を施す場合、最終熱処理の温度範囲は、200℃以上600℃以下が好ましい。
【0084】
上記の最終熱処理を連続処理とすることができる。連続処理は、加熱対象を加熱炉内に連続的に供給できて量産に適する。上述の目的を達成するように、連続処理の条件(線速、炉式の場合には炉内温度、通電式の場合には電流値など)を調整するとよい。
【0085】
最終熱処理以前に、上述の人工時効を兼ねる熱処理を行う場合、最終熱処理の条件は、上述の条件から、軟化と加工硬化指数の調整とを目的として調整すると、結晶粒の成長を抑制して微細な結晶組織とし易く、高い強度と高い伸びとを有し易い。この最終熱処理はバッチ処理の他、連続軟化処理を利用することができる。上記目的を達するように連続軟化処理の条件を調整するとよい。
【0086】
[試験例1]
種々の組成の銅合金線、及び得られた銅合金線を導体に用いた被覆電線を種々の製造条件で作製して、特性を調べた。
【0087】
銅合金線は、以下に示す4つの製造パターン(A)〜(D)によって製造した。被覆電線は、製造パターン(A)〜(D)で製造した線材を用いて以下のように製造した。いずれの製造パターンにおいても、以下の鋳造材を用意した。
【0088】
(鋳造材)
電気銅(純度99.99%以上)と、表1に示す各添加元素を含有する母合金又は各添加元素の金属単体とを原料として用意した。用意した原料を高純度カーボン製の坩堝(不純物量が20質量ppm以下)を用いて、大気溶解して銅合金の溶湯を作製した。銅合金の組成(残部Cu及び不純物)を表1に示す。「−(ハイフン)」は添加していないこと(0質量%)を意味する。
上記の銅合金の溶湯と、高純度カーボン製鋳型(不純物量が20質量ppm以下)とを用いて、アップキャスト法によって、以下の線径の断面円形状の鋳造材を作製した。冷却速度は、10℃/sec超とした。なお、高純度のカーボン製坩堝や鋳型を利用することで、不純物を低減し易い。
【0089】
(銅合金線の製造パターン)
(A)連続鋳造(線径φ9.5mm)⇒伸線加工(線径φ0.16mm)⇒熱処理(表1の温度(℃)、保持時間8時間)
(B)連続鋳造(線径φ12.5mm)⇒コンフォーム押出(線径φ9.5mm)⇒伸線加工(線径φ0.16mm)⇒熱処理(表1の温度(℃)、保持時間8時間)
(C)連続鋳造(線径φ12.5mm)⇒冷間圧延(線径φ9.5mm)⇒熱処理(x)⇒皮剥ぎ(線径φ8mm)⇒伸線加工(線径φ0.16mm)⇒熱処理(表1の温度(℃)、保持時間8時間)
(D)連続鋳造(線径φ9.5mm)⇒伸線加工(φ2.6mm)⇒熱処理(x)⇒伸線加工(φ0.16mm)⇒熱処理(連続軟化)
熱処理(x)は、熱処理温度を400℃以上600℃以下から選択した温度とし、保持時間を4時間以上16時間以下から選択した時間とした。
熱処理(連続軟化)は、通電式の連続炉を用いて、加工硬化指数が0.1以上となるように電流値などを調整した。
【0090】
(被覆電線の製造工程)
上述の製造パターン(A)〜(D)に示す工程と同様にして、線径φ0.16mmの伸線材を作製し、7本撚り合せた後、圧縮成形して横断面積0.13mm
2(0.13sq)の圧縮撚線を作製した。用いた伸線材は、上述の各パターン(A)〜(D)に示す最終の熱処理を施しておらず、作製した圧縮撚線に熱処理(表1の温度(℃)、保持時間8時間、又は連続軟化)を施した。得られた熱処理材の外周にポリ塩化ビニル(PVC)を厚さ0.2mmに押出して絶縁被覆層を形成し、被覆電線を作製した。
【0091】
(特性の測定)
製造パターン(A)〜(D)によって製造した銅合金線について、導電率(%IACS)、引張強さ(MPa)、破断伸び(%)、加工硬化指数を調べた。結果を表1に示す。
【0092】
導電率(%IACS)は、ブリッジ法によって測定した。引張強さ(MPa)、破断伸び(%)、加工硬化指数は、JIS Z 2241(金属材料引張試験方法、1998)に準拠して、汎用の引張試験機を用いて測定した。
【0093】
作製した被覆電線について、端子固着力(N)、端子装着状態での耐衝撃エネルギー(J/m、端子装着状態での耐衝撃E)、耐衝撃エネルギー(J/m、耐衝撃E)を調べた。結果を表2に示す。
【0094】
端子固着力(N)は、以下のように測定する。被覆電線の一端部において絶縁被覆層を剥いで導体である圧縮撚線を露出させ、この圧縮撚線の一端部に端子を取り付ける。ここでは、端子として市販の圧着端子を用いて、上記圧縮撚線に圧着する。また、ここでは、
図3に示すように、導体(圧縮撚線)における端子取付箇所12の横断面積が、端子取付箇所以外の本線箇所の横断面積に対して、表2に示す値(導体残存圧縮率、70%又は80%)となるように、クリンプハイトC/Hを調整した。
汎用の引張試験機を用いて、端子を100mm/minで引っ張ったときに端子が抜けない最大荷重(N)を測定した。この最大荷重を端子固着力とする。
【0095】
耐衝撃エネルギー(J/m又は(N/m)/m)は、以下のように測定する。被覆電線の先端に錘を取り付け、この錘を1m上方に持ち上げた後、自由落下させる。被覆電線が断線しない最大の錘の重量(kg)を測定し、この重量に重力加速度(9.8m/s
2)と落下距離との積値を落下距離で除した値((錘重量×9.8×1)/1)を耐衝撃エネルギーとする。
【0096】
端子装着状態の耐衝撃エネルギー(J/m又は(N/m)/m)は、以下のように測定する。上述の端子固着力の測定と同様に、被覆電線の一端部に端子5(ここでは圧着端子)を取り付けた試料S(ここでは長さ1m)を用意し、
図4に示すように端子5を治具Jによって固定する。試料Sの他端部に錘Wを取り付け、この錘Wを端子5の固定位置まで持ち上げた後、自由落下させる。上述の耐衝撃エネルギーと同様に、被覆電線が破断しない最大の錘Wの重量を測定し、((錘重量×9.8×1)/1)を端子装着状態の耐衝撃エネルギーとする。
【0099】
表2に示すように試料No.1−1〜No.1−14はいずれも、試料No.1−101,No.1−102と比較して、端子との固着性に優れると共に、端子装着状態での耐衝撃性に優れることが分かる。定量的には、試料No.1−1〜No.1−14はいずれも、端子固着力が45N以上であり、50N以上の試料が多く、55N以上、60N以上の試料もある。また、試料No.1−1〜No.1−14はいずれも、端子装着状態での耐衝撃エネルギーが2J/m以上であり、3J/m以上の試料が多く、3.5J/m以上、更に4J/m以上の試料もある。このような結果が得られた理由の一つとして、Fe,Ti,適宜Mgを上述の特定の範囲で含む特定の組成の銅合金から構成され、かつ加工硬化指数が大きい銅合金線を導体に備えることで、端子取付箇所が圧縮加工といった塑性加工を受けて、加工硬化による強度向上効果が得られたため、と考えられる。このことは、例えば、加工硬化指数が異なる試料No.1−2,No.1−102を比較することから裏付けられる。試料No.1−2は、表1に示すように試料No.1−102と比較して、引張強さが2割ほど小さい。しかし、表2に示すように導体残存圧縮率(圧縮加工状態)が同じであるにもかかわらず、試料No.1−2は、端子固着力が試料No.1−102と同等程度であり、かつ端子装着状態での耐衝撃エネルギーが大幅に大きい。試料No.1−2は、引張強さが小さい分を加工硬化によって補ったと考えられる。
【0100】
また、加工硬化指数は、組成と製造条件とを調整することで変化することが分かる。例えば、同じ組成の群である試料No.1−1,No.1−13,No.1−101の群、試料No.1−2,No.1−3の群、試料No.1−8,No.1−9の群を比較すると、最終の熱処理の温度を高めにした試料No.1−3(550℃)、No.1−13(500℃),No.1−9(450℃)の加工硬化指数が大きい。同じ組成のペアである試料No.1−6,No.1−102同士を比較すると、製造条件を異ならせることで、加工硬化指数を大きくできる。また、この試験では、同じ組成のペアである試料No.1−11,No.1−12同士を比較すると、熱処理を連続処理とした場合でも、加工硬化指数を大きくできること、試料No.1−5,No.1−6,No.1−12の群を比較すると、組成や製造条件を異ならせても、同程度の加工硬化指数に調整できることが分かる。
【0101】
試料No.1−1,No.1−2を比較すると、引張強さが同程度であるものの、Mgを含む試料No.1−2の方が加工硬化指数が大きい。また、試料No.1−2は、導体残存圧縮率が70%であり、試料No.1−1よりも大きな圧縮加工がなされたにもかかわらず、試料No.1−1と同程度の端子固着力を有する上に、試料No.1−1よりも端子装着状態での耐衝撃エネルギーが大きい。この理由は、試料No.1−2は加工硬化指数が大きく、圧縮加工による加工硬化が適切になされたため、と考えられる。また、このことから、Mgを含むと加工硬化指数を高め易いといえる。その他、Mgを含むと(例えば、試料No.1−6,No.1−7とを比較参照)、更にはMgの含有量が多いほど(例えば、試料No.1−4,No.1−5とを比較参照)、破断伸びを大きくし易いといえる。また、この試験からは、最終の熱処理の温度が高いほど、端子装着状態の耐衝撃エネルギーが大きくなる傾向にあるといえる。
【0102】
更に、表1に示すように、特定の組成の銅合金から構成される銅合金線を備える試料No.1−1〜No.1−14はいずれも、本線の耐衝撃エネルギーも大きく、線材(ここでは圧縮撚線)自体が耐衝撃性に優れることが分かる。定量的には、試料No.1−1〜No.1−14における本線の耐衝撃エネルギーはいずれも、5J/m以上、更に7J/m以上であり、8J/m以上、更に9J/m以上の試料もある。
【0103】
加えて、表1に示すように、特定の組成の銅合金から構成される試料No.1−1〜No.1−14の銅合金線は、高強度、高靭性、高導電率をバランスよく備えることが分かる。定量的には、試料No.1−1〜No.1−14の銅合金線はいずれも、引張強さが350MPa以上、破断伸びが5%以上、導電率が55%IACS以上である。引張強さに着目すると、ここでは上記の銅合金線はいずれも370MPa以上であり、400MPa以上の試料が多く、420MPa以上、更に450MPa以上の試料もある。破断伸びに着目すると、ここでは上記の銅合金線はいずれも8%以上であり、9%以上、更に9.5%以上の試料が多く、10%以上の試料もある。導電率に着目すると、ここでは上記の銅合金線はいずれも65%IACS以上であり、68%IACS以上の試料が多く、70%IACS以上の試料もある。このような高強度、高靭性、高導電率をバランスよく備える銅合金線の撚線を導体とする試料No.1−1〜No.1−14の被覆電線も、上述の高い引張強さ、高い破断伸び、高い導電率を実質的に維持して、高強度、高靭性、高導電率をバランスよく備える。従って、特定の組成とし、加工硬化指数が0.1以上となるように製造条件を調整することで、高強度、高靭性、高導電率をバランスよく備える銅合金線、銅合金撚線、これらを導体とする被覆電線や端子付き電線が得られることが示された。
【0104】
その他、この試験では、引張強さと、端子固着力との相関をみると、引張強さが大きいほど、端子固着力も大きくなる傾向にあると考えられる。破断伸びと、端子装着状態での耐衝撃エネルギーとの相関をみると、破断伸びが大きいほど、端子装着状態での耐衝撃エネルギーも大きくなる傾向にあると考えられる。
【0105】
本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
例えば、試験例1の銅合金の組成、銅合金線の線径、撚り合せ本数、熱処理条件などを適宜変更できる。