(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6593782
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】電子機器の過電圧保護装置及びこれを利用した照明装置
(51)【国際特許分類】
H01H 85/30 20060101AFI20191010BHJP
F21K 9/238 20160101ALI20191010BHJP
F21V 23/00 20150101ALI20191010BHJP
H01H 85/165 20060101ALI20191010BHJP
H02H 7/20 20060101ALI20191010BHJP
H01H 85/46 20060101ALN20191010BHJP
【FI】
H01H85/30
F21K9/238
F21V23/00 120
H01H85/165
H02H7/20 Z
!H01H85/46
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-158957(P2018-158957)
(22)【出願日】2018年8月28日
【審査請求日】2019年5月10日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000192
【氏名又は名称】岩崎電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135965
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 要泰
(74)【代理人】
【識別番号】100100169
【弁理士】
【氏名又は名称】大塩 剛
(72)【発明者】
【氏名】松本 泰久
【審査官】
太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】
実開平02−107227(JP,U)
【文献】
特開平08−163731(JP,A)
【文献】
特開昭60−127631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 85/00−85/62
H01H 37/76
H01H 69/02
H02H 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
定格電源電圧100 Vの電子機器を誤って電源電圧200 Vに接続した場合に回路を遮断すると共に電圧の誤用を通知する過電圧保護装置であって、
前記電子機器に対して直列に接続された識別音発生器兼限流ヒューズと、該電子機器に対して並列に接続されたバリスタとを備え、
前記バリスタは、200 V±10 %の範囲内でバリスタ動作し、
前記識別音発生器兼限流ヒューズは、保護ケースに密封又は半密封状態に内包されたタイプのヒューズであって、電源電圧200 Vの印加後10 [sec]以内に8 [A]以上の溶断電流が流れて爆音を発生して破裂して、電圧の誤用を通知する、過電圧保護装置。
【請求項2】
電子機器の過電圧保護装置であって、
前記過電圧保護装置は、定格電源電圧100 Vの電子機器を誤って電源電圧200 Vに接続した場合に回路を遮断すると共に爆音を発生して電圧の誤用を通知する装置であり、
前記過電圧保護装置は、前記電子機器に対して並列に接続されたバリスタと、直列に接続された識別音発生器兼限流ヒューズとを備え、
前記バリスタは、200 V±10 %の範囲内でバリスタ動作するバリスタであり、
前記識別音発生器兼限流ヒューズは、既定の電流以上の電流が流れた時に溶断するヒューズ本体と、該ヒューズ本体を密閉または半密閉状態に内包する保護ケースとを有し、該識別音発生器兼限流ヒューズは、異常な瞬間的高電圧では溶断せず、且つ電源電圧200 Vを連続して印加したとき所定の期間内に溶断して回路を遮断すると共に41db以上の異常音を発生して電圧の誤用を通知する、過電圧保護装置。
【請求項3】
電子機器の過電圧保護装置であって、
前記過電圧保護装置は、定格電源電圧100 Vの電子機器を誤って電源電圧200 Vに接続した場合に回路を遮断すると共に爆音を発生して電圧の誤用を通知する装置であり、
前記過電圧保護装置は、前記電子機器に対して並列に接続されたバリスタと、直列に接続された識別音発生器兼限流ヒューズとを備え、
前記バリスタは、電源電圧200V環境で動作するバリスタであり、式(1)で決まる短絡電流Ivの特性を有し、
前記識別音発生器兼限流ヒューズは、ヒューズから構成され、該ヒューズは、式(3)
で決まる溶断電流Ihの特性を有して異常な瞬間的高電圧では溶断せず、且つ溶断までの時間tから式(1)で決まる溶断電流Ihの特性を有して、電源電圧を誤用して200 Vを連続して印加したとき所定の期間内に溶断して回路を遮断すると共に異常音を発生して電圧の誤用を通知する、過電圧保護装置。
8.0≦Ih≦Iv≦46.294 [A]……(1)
但し、溶断までの時間tは、1≦t≦10 [sec]の範囲内
9.259×t-0.423≦溶断電流Ih≦46.294×t-0.423 [A]……(3)
但し、溶断までの時間tは、0≦t≦1 [sec]の範囲内
【請求項4】
LEDモジュール、点灯回路、及び過電圧保護装置を含む照明装置であって、
前記過電圧保護装置は、定格電源電圧100 Vである照明装置を誤って電源電圧200 Vに接続した場合に回路を遮断すると共に爆音を発生して電圧の誤用を通知する装置であり、
前記過電圧保護装置は、前記LEDモジュールに対して並列に接続されたバリスタと、直列に接続された識別音発生器兼限流ヒューズとを含み、
前記バリスタは、電源電圧180 V印加時に8 A以上の電流を通過させる特性を有するバリスタであり、
前記識別音発生器兼限流ヒューズは、既定電流以上の電流が流れた時に溶断するヒューズ本体と、該ヒューズ本体を密閉または半密閉状態に内包する保護ケースとを有し、異常な瞬間的高電圧では溶断せず、且つ電圧を誤用して200 Vを連続して印加したとき所定の期間内に溶断して回路を遮断すると共に41db以上の異常音を発生して電圧の誤用を通知する、照明装置。
【請求項5】
請求項4に記載の照明装置において、
前記照明装置の筐体のうち少なくとも前記識別音発生器兼限流ヒューズに対して露出している部分は、難燃性材料から形成されている、照明装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の照明装置において、
前記点灯回路及び過電圧保護装置は、一端が口金で塞がれた円筒状のネック部に内蔵され、
前記LEDモジュールは、平板状のLED実装基板に搭載されて、ほぼ円盤状の発光部に内蔵され、
前記発光部の一面は、前記ネック部の一端に内部空間が連通した状態で同心に接続され、他面は、お椀形状のグローブで覆われており、
前記識別音発生器兼限流ヒューズが爆音を発生すると、爆音は、前記ネック部の内部空間から前記発光部へ伝搬し、伝搬方向に垂直に位置するLED実装基板を振動させて前記グローブに到達して、LED光の放射方向と同じ方向に爆音を伝達する、照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器の過電圧保護装置及びこれを利用した照明装置に関する。更に具体的には、電子機器の識別音発生機能付き過電圧保護装置及びこれを利用した照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各国の商用電源電圧は、いろいろと異なっているので、電気製品を使用する場合には注意する必要がある。単相交流と三相交流間では接続端子数が異なるため取り違えるおそれは少ない。しかし、同じ単相間では電気製品を電源に取り付ける際に注意が必要である。例えば、主要国の単相交流の電源電圧は、(国名−電圧V−周波数Hz)の順に示すと、(日本国−100/200−50/60)、(米国−115/230−60)、(英国,仏国,独国−230−50)、(中国−230−50)と、同じ国内で2種類の電圧が供給されている国もある。
【0003】
日本国内においても、単相100Vと200Vとが供給されている。電気製品の中でも半導体が使用された電子機器は、使用電圧を間違えると直ちに半導体の損傷に繋がる。例えば、LEDランプにおいて、使用電圧として100V又は200Vが指定されている場合、電圧を間違えると、電圧不足の場合には不点灯又は所定の照度が得られなかったり、逆に、過電圧の場合には加熱・発火等に繋がる場合がある。特に、定格電圧100 VのLEDランプを誤って200 V電源に接続した場合には過電圧点灯となり、発煙・発火等の重大事故に繋がるおそれがある。このため、電子機器を使用する際、万一電圧を取り違えた場合であっても安全性が確保された設計になっていることが望ましい。
【0004】
なお、以下に先行技術文献を示すが、本願発明との比較は次の通りである。
特許文献1は、発明が解決しようとする課題の欄に「…前述したような従来の限流ヒューズは定格遮断容量以上の短絡電流が流れた場合、アーク熱により外キャップに孔が明き、最悪の場合は遮断不能となる遮断失敗や爆発に至る可能性があった。…この発明の目的は、アーク熱の影響が外キャップの損傷にまで及ばないような構成とすることにより、遮断失敗や爆発を防止することにある。」と記載され、ヒューズの爆発防止を目的としている。本願発明は、爆発音を積極的に利用しているので、両発明は、目的(課題)が相違する。
【0005】
非特許文献1に関しては、本明細書の最後の部分で対比説明する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特願平2-1561333「限流ヒューズ」(公開日:1992/2/18)富士電機株式会社)(特許第2697257号)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】“ZNR”(登録商標)サージアブソーバ(J タイプ) - Panasonic Industrial Devices (2015/02/04), (4)電流ヒューズについて」(次のURLから引用可能:https://industrial.panasonic.com/cdbs/www-data/pdf/AWA0000/AWA0000CJ2.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来より、LEDランプが過電圧点灯された場合、ヒューズにより回路を遮断させたり、又は保護回路によりランプを消灯させる等の安全機構が設けられている。このような安全機構が作動した場合、LEDランプの利用者は、「不点灯の原因は、LEDランプの不具合又は故障」と判断してしまう。即ち、LEDランプに原因があると誤解して、利用者自らが使用電圧を誤ったと正しく認識できない場合が多い。
【0009】
そこで、本発明は、電子機器に対して誤って定格電圧より高い電圧電源に接続した場合、回路を遮断すると共に識別音を発生して利用者に使用電圧電源の誤りを通知する、電子機器の過電圧保護装置及びこれを利用した照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る電子機器の過電圧保護装置は、その発明の一面では、定格電源電圧100 Vの電子機器を誤って電源電圧200 Vに接続した場合に回路を遮断すると共に電圧の誤用を通知する過電圧保護装置であって、前記電子機器に対して直列に接続された識別音発生器兼限流ヒューズと、該電子機器に対して並列に接続されたバリスタとを備え、前記バリスタは、200 V±10 %の範囲内でバリスタ動作し、前記識別音発生器兼限流ヒューズは、保護ケースに密封又は半密封状態に内包されたタイプのヒューズであって、電源電圧200 Vの印加後10 [sec]以内に8 [A]以上の溶断電流が流れて爆音を発生して破裂して、電圧の誤用を通知する。
【0011】
本発明に係る電子機器の過電圧保護装置は、その発明の一面では、前記過電圧保護装置は、定格電源電圧100 Vの電子機器を誤って電源電圧200 Vに接続した場合に回路を遮断すると共に爆音を発生して電圧の誤用を通知する装置であり、前記過電圧保護装置は、前記電子機器に対して並列に接続されたバリスタと、直列に接続された識別音発生器兼限流ヒューズとを備え、前記バリスタは、200 V±10 %の範囲内でバリスタ動作するバリスタであり、前記識別音発生器兼限流ヒューズは、既定の電流以上の電流が流れた時に溶断するヒューズ本体と、該ヒューズ本体を密閉または半密閉状態に内包する保護ケースとを有し、該識別音発生器兼限流ヒューズは、異常な瞬間的高電圧では溶断せず、且つ電源電圧200 Vを連続して印加したとき所定の期間内に溶断して回路を遮断すると共に41db以上の異常音を発生して電圧の誤用を通知する。
【0012】
本発明に係る電子機器の過電圧保護装置は、その発明の一面では、前記過電圧保護装置は、定格電源電圧100 Vの電子機器を誤って電源電圧200 Vに接続した場合に回路を遮断すると共に爆音を発生して電圧の誤用を通知する装置であり、前記過電圧保護装置は、前記電子機器に対して並列に接続されたバリスタと、直列に接続された識別音発生器兼限流ヒューズとを備え、前記バリスタは、電源電圧200V環境で動作するバリスタであり、式(1)で決まる短絡電流Ivの特性を有し、前記識別音発生器兼限流ヒューズは、ヒューズから構成され、該ヒューズは、式(3)で決まる溶断電流Ihの特性を有して異常な瞬間的高電圧では溶断せず、且つ溶断までの時間tから式(1)で決まる溶断電流Ihの特性を有して、電源電圧を誤用して200 Vを連続して印加したとき所定の期間内に溶断して回路を遮断すると共に異常音を発生して電圧の誤用を通知する。
8.0≦Ih≦Iv≦46.294 [A]……(1)
但し、溶断までの時間tは、1≦t≦10 [sec]の範囲内
9.259×t
-0.423≦溶断電流Ih≦46.294×t
-0.423 [A]……(3)
但し、溶断までの時間tは、0≦t≦1 [sec]の範囲内
【0013】
本発明に係る照明装置は、その発明の一面では、LEDモジュール、点灯回路、及び過電圧保護装置を含む照明装置であって、前記過電圧保護装置は、定格電源電圧100 Vである照明装置を誤って電源電圧200 Vに接続した場合に回路を遮断すると共に爆音を発生して電圧の誤用を通知する装置であり、前記過電圧保護装置は、前記LEDモジュールに対して並列に接続されたバリスタと、直列に接続された識別音発生器兼限流ヒューズとを含み、前記バリスタは、電源電圧180 V印加時に8 A以上の電流を通過させる特性を有するバリスタであり、前記識別音発生器兼限流ヒューズは、既定電流以上の電流が流れた時に溶断するヒューズ本体と、該ヒューズ本体を密閉または半密閉状態に内包する保護ケースとを有し、異常な瞬間的高電圧では溶断せず、且つ電圧を誤用して200 Vを連続して印加したとき所定の期間内に溶断して回路を遮断すると共に41db以上の異常音を発生して電圧の誤用を通知する。
【0014】
更に、上記照明装置では、前記筐体のうち少なくとも前記識別音発生器兼限流ヒューズに対して露出している部分は、難燃性材料から形成されていてもよい。。
【0015】
更に、上記照明装置では、前記点灯回路及び過電圧保護装置は、一端が口金で塞がれた円筒状のネック部に内蔵され、前記LEDモジュールは、平板状のLED実装基板に搭載されて、ほぼ円盤状の照明部に内蔵され、前記照明部の一面は、前記ネック部の一端に内部空間が連通した状態で同心に接続され、他面は、お椀形状のグローブで覆われており、前記識別音発生器兼限流ヒューズが爆音を発生すると、爆音は、前記ネック部の内部空間から前記発光部へ伝搬し、伝搬方向に垂直に位置するLED実装基板を振動させて前記グローブに到達して、LED光の放射方向と同じ方向に爆音を伝達するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電子機器に対して誤って定格電圧より高い電圧電源に接続した場合、回路を遮断すると共に識別音を発生して利用者に使用電圧電源の誤りを通知する、電子機器の過電圧保護装置及びこれを利用した照明装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る電子機器の過電圧保護装置を説明する図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す過電圧保護装置に使用するため、サンプルのバリスタ1〜3の電圧−電流特性を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実験したヒューズ1〜3の電流−時間特性を示すグラフである。
【
図4】
図4は、
図3に示したヒューズ1〜3の電流−時間特性のうち、横軸の時間1〜10 [sec]の範囲を拡大したグラフである。
【
図5】
図5は、
図3に示したヒューズ1〜3の電流−時間特性のうち、横軸の時間0.01〜1 [sec]の範囲を拡大したグラフである。
【
図6】
図6は、保護対象の電子機器の例として、LEDランプを説明する図である。
【
図7】
図7は、非特許文献1のサージアブソーバーの使用上の注意事項を説明した資料の写しである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る電子機器の過電圧保護装置及びこれを利用した照明装置の実施形態に関し、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図中、同じ要素に対しては同じ参照符号を付して、重複する説明を省略する。
【0019】
[電子機器の過電圧保護装置]
図1は、本実施形態に係る電子機器の過電圧保護装置を説明する図である。保護対象の電子機器2は、過電圧保護装置4を介して、交流電源電圧L,N(ライン,ニュートラル)から給電されている。過電圧保護装置4は、識別音発生器兼限流ヒューズ8とバリスタ6とを有している。識別音発生器兼限流ヒューズ8は、電子機器2に対して直列に接続され、バリスタ6は、電子機器2に対して並列に接続されている。
ここでは、電子機器2として定格電圧100Vの電子機器を誤って電源電圧200Vに接続した場合に、ヒューズが断線して回路を遮断すると共に異常音(爆音)を発生して利用者に電圧の誤用を通知する例を説明する。
【0020】
(バリスタの選定)
バリスタ(varistor)は、2つの電極をもつ電子部品で、両端子間の電圧が低い場合には電気抵抗が高いが、ある程度以上に電圧が高くなると急激に電気抵抗が低くなる性質を持つ電圧依存性の非直線抵抗素子である。一般に、異常電圧の吸収・雷サージの吸収など、電子機器の保護素子として用いられる。
【0021】
図2は、
図1に示す過電圧保護装置に使用するため、サンプルのバリスタ1〜3の電圧−電流特性を示すグラフである。なお、グラフからは明らかでないが、バリスタの電圧−電流特性は、電圧・電流がゼロの原点で点対称の特性を有している。
【0022】
表1は、
図2のデータからこの過電圧保護装置に使用可能なバリスタを選定した結果を示す表である。ここで、バリスタ電圧は、バリスタに直流0.1 mAを流した時のバリスタ端子間の電圧を意味する。ブレークオーバー電圧は、これ以下では電流が流れず内部抵抗が非常に大きく、これを超えると導通し低い動作抵抗になり電流が流れる、バリスタに連続して印加できる電圧の上限値を意味する。
【0024】
本実施形態では、誤って電源電圧200Vに接続した場合の保護装置を想定しているので、バリスタの選定は、200 V環境、具体的にはバリスタ動作が200 V±10 %(即ち、180〜220 V)を網羅する基準で行った。その結果、バリスタ1及び2が選定された。
図2のバリスタ2の電圧−電流特性から、電圧180 Vが印加されると8 A以上の電流が流れる。従って、バリスタ1及び2は、電源電圧180V印加時に8A以上の電流を通過させる特性を有するといえる。
【0025】
(ヒューズの選定)
識別音発生器兼限流ヒューズ8は、その実体は限流ヒューズから形成されている。限流ヒューズは、一定以上の電流が流れると、ジュール熱により溶断して回路を開放させる保護素子である。限流ヒューズは、短絡電流の立ち上がり半サイクル内で回路を開放して短絡電流が最大値になる前に回路を遮断するので、電子機器の保護に適した特性となっている。
【0026】
バリスタの選定結果より、200 V環境で動作するバリスタ2を使用して、ヒューズの選定の実験を行った。
図3は、実験したヒューズ1〜3の電流−時間特性を示すグラフである。横軸はヒューズに流れる電流を示し、縦軸は溶断までの時間を示し、両対数グラフで表示されている。例えば、時間10 [sec]で溶断するのは、ヒューズ1では約1.8 A流れた場合であり、ヒューズ2では約2.8 A流れた場合であり、ヒューズ3では8.0 A流れた場合である。同様に、時間0.01 [sec]で溶断するのは、ヒューズ1では約9.0 A流れた場合であり、ヒューズ2では約43 A流れた場合であり、ヒューズ3では65 A流れた場合である。雷サージのような異常な高電圧は瞬間的に流れるので、時間0.01 [sec]で溶断するデータから、ヒューズ3,2,1の順で、瞬間的高電圧が印加され高電流が流れても溶断しにくいことが分かる。
【0027】
上記バリスタの選定では、誤って電源電圧200Vに接続した場合の保護装置に適するバリスタ1及び2が選定された。そこで、バリスタ2を使って、識別音発生器兼限流ヒューズを選定する実験を行った。選定の基準は、次の通りである。
基準1: (限流ヒューズ本来の機能)電子回路の安全確保のため、電源電圧200 Vが印加された直後(例えば、10 [sec]以内)に断線する。
基準2:(識別音発生機能)ヒューズ断線の際、電源電圧の誤用を通知するため
認識可能なレベルの異常音(識別音)を発生する。
基準3:雷サージのような異常な瞬間的高電圧が印加された時には断線しない。雷サージは、専ら、バリスタ6で短絡電流として吸収する。
【0028】
表2は、200 V連続印加試験及び雷サージ印加試験を行って、過電圧保護装置に使用可能なヒューズを選定した結果を示す表である。
【0030】
表2に示す200 V連続印加試験及び雷サージ印加試験に於いて、基準1〜3に合致するのはヒューズ3であった。ヒューズ3のみが、利用者が認識できるレベル(例えば、41 db以上)の異常音の発生を確認できた。なお、41 db以上の根拠は、WHOが定めた平均聴力レベルでは、障害なし〜軽度難聴の範囲は40 db以下とされていることによる。
【0031】
基準1に関し、電源電圧200 Vの印加後10 [sec]以内にヒューズ1〜3は断線している。
【0032】
基準2に関し、ヒューズ1,2は、静音で識別音には不適である。ヒューズ3のみが爆音(破裂音)を発し、識別音として適している。この条件は、第1に、ヒューズ自体が密封又は半密封状態で保護ケースに内包されていることである。破裂音は、保護ケースの破裂により発生している。第2に、ヒューズ3が爆音を発生して破裂したのは、比較的大きい電流が流れて急速に高熱化したためと思われる。
図3から、ヒューズ3の溶断電流Ihを求めることができる。ヒューズ3に関して溶断時間を10 [sec]とすると、溶断電流Ih=8.0 [A]となる。即ち、8.0≦溶断電流Ih [A]であれば、ヒューズ3は10 [sec]以内に爆音(破裂音)を発して溶断する。
【0033】
ここで、バリスタ6の特性として、溶断電流Ih以上の許容短絡電流Ivが必要である。
図3に、バリスタの時間−電流限界Iv
max特性(破線と◇)を示す。
図4は、
図3に示したヒューズ1〜3の電流−時間特性のうち、横軸の時間1〜10 [sec]の範囲を拡大したグラフである。ヒューズ3の溶断時間を10 [sec]とすると、バリスタ6の許容短絡電流Iv
maxは、Iv
max=46.294 [A]となる。
従って、溶断までの時間tが、1≦t≦10 [sec]の範囲内で式(1)が必要となる。
8.0≦Ih≦Iv≦46.294 [A]……(1)
但し、溶断までの時間tは、1≦t≦10 [sec]の範囲内
【0034】
基準3に関し、異常な瞬間的高電圧が印加された時には断線しない条件は、次の通りである。
図5は、
図3に示したヒューズ1〜3の電流−時間特性のうち、横軸の時間0.01〜1 [sec]の範囲を拡大したグラフである。異常な瞬間的高電圧は、通常、1 [sec]以下であり、このグラフの範囲内である。ここで、グラフで見て、ヒューズ3の特性より下側にあるヒューズであれば、異常な瞬間的高電圧が印加されても断線しない。
図5に示すヒューズ3の近似式を求めると式(2)となる。
Y=9.259×X
-0.423……(2)
【0035】
ここで、ヒューズに流れる溶断電流Ihが、バリスタの電流限界Iv
maxを超えると、バリスタが加熱し故障してしまう。従って、ヒューズの溶断電流Ihは、バリスタの電流限界Iv
max以下とする必要がある。
図5に、バリスタの時間−電流限界Iv
max特性(図中、◇)を示す。ヒューズの溶断電流Ih≦バリスタの電流限界Iv
maxとすることで、バリスタが故障し発煙に至る前に、ヒューズは断線する。
【0036】
即ち、瞬間的高電圧に対してヒューズが断線せず、且つバリスタが正常に機能する条件は、
図5のヒューズ3及びバリスタの電流限界Iv
maxの近似式から式(3)となる。
9.259×t
-0.423≦溶断電流Ih≦46.294×t
-0.423 [A]……(3)
ここで、溶断までの時間tは、0≦t≦1 [sec]の範囲内
【0037】
保護対象である電子機器に瞬間的高電圧が印加された場合、式(3)を満たす溶断電流Ih特性をもつヒューズを選定することにより、ヒューズは、異常な瞬間的高電圧では溶断せず、バリスタは正常に機能して、サージ保護装置として機能する。
【0038】
本発明者は、異常音(爆音)発生は、次のようなメカニズムであろうと推測している。限流ヒューズは、フィラメント状のヒューズ線がガラス又は樹脂のパッケージに密封又は半密封された構造となっている。ヒューズ線に過電流が流れるとヒューズ線の発熱によりパッケージの内圧が上昇し、ヒューズ線が溶断すると共にパッケージが爆音を発生しながら破損する。発生するジュール熱は、電流の二乗に比例するので、ヒューズ保護ケースを爆音を発生しながら破損するためには、急激な昇温・高熱化が必要となる。表2のヒューズ1,2の場合、昇温の程度が緩やかでヒューズ保護ケース破裂の際に静音しか発生しないが、ヒューズ3では、急激な昇温・高熱化により爆音を発生しながら破損する。
【0039】
なお、この爆音発生のメカニズムから、ヒューズが溶断してパッケージが破損し破損片が周囲に飛散すると周囲に危険を及ぼすおそれがある。従って、本実施形態に係る電子機器の過電圧保護装置は、万一、破損片が飛散しても電子機器の筐体内等に収まる構造にする必要がある。同様に、溶断ヒューズが飛散してもよいように、周辺部材は難燃性材料にする必要がある。即ち、パッケージの破損片と溶断ヒューズの飛散に関し十分な対策を講じて、保護装置の安全性を確保する必要がある。
【0040】
(過電圧保護装置を利用した照明装置)
過電圧保護装置を利用した照明装置としては、例えば、LEDランプが挙げられる。
図6(A)は、LEDランプの分解斜視図を示し、
図6(B)は、組み立てた状態のLEDランプが、天井等の給電ソケット(図示せず。)に取り付けられ、下方を照明する状態を示す。
【0041】
バリスタ及びヒューズの過電圧保護回路は、筒形状のネック部12内の平板状の基板14に搭載されている。ヒューズが爆音を発生すると、爆音は、筒形状の内部空間から空間的に連続した(LEDモジュールが収納された)発光部18へ伝搬し、伝搬方向に垂直に位置する平板状の基板14を振動し、お椀形状(外周が部分的に略球形状又は略楕円形状)のグローブ16に到達して、LED光の放射方向と同じ方向に爆音を伝達する。ここで、平板状の基板14は、スピーカのコーンの役割を果たして、破裂音を増幅している。
図6に示すLEDランプ10は、ヒューズの爆音を拡大し、利用者に効果的に伝達するに適した構造となっている。
【0042】
[本実施形態と非特許文献1との比較]
図7は、非特許文献1のサージアブソーバーの使用上の注意事項を説明した資料の写しである。表1 ZNR(登録商標)の適用例(一般的な適用例)において、結線例 DC/AC単相の欄に、電気回路図として描かれた場合、
図1に示す電子機器の過電圧保護装置と実質的に同じものが掲載されている。
【0043】
しかし、非特許文献1には、保護回路に過電圧が印加された時、電流ヒューズが異常音をたてて断線することは開示されていない。現実には、非特許文献1に記載の保護回路において、構成部品の選定によっては電流ヒューズが異常音をたてて断線することはありえよう。しかし、この異常音が保護対象の機器に対し定格電圧より高い電圧電源を誤用したことを示す識別音として利用することを開示又は示唆する記載はない。
【0044】
即ち、本実施形態を用いて説明される本願発明の特徴は、この異常音が、高い電源電圧の誤用に利用できることを発見し、この発見に基づき、主として、電流ヒューズの特性を定めて識別音発生器兼限流ヒューズとして採用し、新しい用途として電子機器の識別音発生機能付き過電圧保護装置を完成した点にある。
従って、本願発明は、単なる発見ではなく、自然法則を利用した技術的思想の創作であり、更に、非特許文献1に対して、新規性及び進歩性を有する発明である。
【0045】
[変形例等]
本実施形態として、電子機器として定格電圧100Vの電子機器2を、誤って電源電圧200Vに接続した場合を例にとって説明した。しかしこれに限定されない。例えば、次の変形例も本願発明に含まれる
(1) 定格電圧100Vの電子機器2を誤って電源電圧200Vに接続した場合に限定されない。世界の電源電圧を調べてみると、次の国で2種以上の電圧が供給されている。例えば、アメリカ(単相 115/230 V)、カナダ(単相 120/347 V)、台湾(単相 110/220 V)、スペイン(単相 127/220 V)、スウェーデン(単相230/400 V)等が挙げられる。これらの国では、本実施形態で説明したバリスタの選定及び限流ヒューズの選定に沿って、バリスタ及びヒューズを決定することにより、識別音発生機能付きの過電圧保護装置を実現することが出来る。
【0046】
(2) 保護対象の機器を電子機器として説明したが、これに限定されない。本実施形態は、一般の電気機器の過電圧保護装置して利用することができる。
【0047】
[結び]
以上、本発明に係る電子機器の過電圧保護装置及びこれを利用した照明装置の実施形態に関し説明したが、これらは例示であって、本発明の範囲を何等限定するものではない。本実施形態に対して当業者が容易に成し得る追加、削除、変更、改良等は、本発明の範囲内である。本発明の技術的範囲は、添付の特許請求の範囲の記載によって定められる。
【符号の説明】
【0048】
2:電子機器、 4:過電圧保護装置、 6:バリスタ、 8:識別音発生器兼限流ヒューズ、 10:LEDランプ、 12:ネック部、 14:基板、 16:グローブ、 18:発光部、
【要約】
【課題】本発明は、電子機器に対して誤って定格電圧より高い電圧電源に接続した場合、回路を遮断すると共に識別音を発生して利用者に使用電圧電源の誤りを通知する、電子機器の過電圧保護装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る過電圧保護装置は、定格電源電圧100 Vの電子機器を誤って電源電圧200 Vに接続した場合に回路を遮断すると共に電圧の誤用を通知する過電圧保護装置であって、前記電子機器に対して直列に接続された識別音発生器兼限流ヒューズと、該電子機器に対して並列に接続されたバリスタとを備え、前記バリスタは、200 V±10 %の範囲内でバリスタ動作し、前記識別音発生器兼限流ヒューズは、保護ケースに密封又は半密封状態に内包されたタイプのヒューズであって、電源電圧200 Vの印加後10 [sec]以内に8 [A]以上の溶断電流が流れて爆音を発生して破裂して、電圧の誤用を通知する。
【選択図】
図1