(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6593806
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】避難用耐火シェルター
(51)【国際特許分類】
E04H 9/14 20060101AFI20191010BHJP
【FI】
E04H9/14 B
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-137692(P2017-137692)
(22)【出願日】2017年7月14日
(65)【公開番号】特開2019-19510(P2019-19510A)
(43)【公開日】2019年2月7日
【審査請求日】2019年4月16日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517357826
【氏名又は名称】株式会社シェルタージャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100103207
【弁理士】
【氏名又は名称】尾崎 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】矢野 昭彦
【審査官】
新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−141173(JP,A)
【文献】
実開昭54−145943(JP,U)
【文献】
特開2014−009466(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/14
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
避難空間となる内部空間が形成された避難用耐火シェルターであって、
貯水空間が形成された本体を備え、
前記本体は、側部と、底部と、天井部と、扉部と、を有し
前記本体に設けられた減圧弁と、
前記側部に形成された貯水空間に、上下方向に所定の間隔で設けられた複数の温度センサと、
前記本体に設けられた水タンクと、
前記水タンクと前記側部、底部、および天井部に形成された貯水空間を繋ぐ第1ポンプと、
をさらに備えることを特徴とする避難用耐火シェルター。
【請求項2】
避難空間となる内部空間が形成された避難用耐火シェルターであって、
貯水空間が形成された本体を備え、
前記本体は、側部と、底部と、天井部と、扉部と、を有し
前記本体に設けられた減圧弁を、
をさらに備え、
前記側部、底部、および天井部の構成断面は、前記貯水空間が形成された外壁と、前記外壁の前記内部空間側に設けられた断熱層と、で構成され、
前記断熱層は、前記外壁の前記内部空間側に設けられた内板と、前記内板と前記外壁との間に形成された空気層と、で構成され、
前記空気層は、水が充填可能であることを特徴とする避難用耐火シェルター。
【請求項3】
前記側部、底部、および天井部の構成断面は、前記貯水空間が形成された外壁と、前記外壁の前記内部空間側に設けられた断熱層と、で構成され、
前記断熱層は、軽量気泡コンクリート板と、前記軽量気泡コンクリート板の前記内部空間側に設けられた内板と、を含み、前記軽量気泡コンクリート板は前記外壁と前記内板で挟持されることを特徴とする請求項1に記載の避難用耐火シェルター。
【請求項4】
避難空間となる内部空間が形成された避難用耐火シェルターであって、
貯水空間が形成された本体を備え、
前記本体は、側部と、底部と、天井部と、扉部と、を有し
前記本体に設けられた減圧弁を、さらに備え、
前記扉部は、前記貯水空間が形成された外扉と、前記外扉の前記内部空間側に設けられた中扉と、出入り口と、を含み、前記外扉、前記中扉、および前記出入り口で形成される扉間空間は、水が充填可能であることを特徴とする避難用耐火シェルター。
【請求項5】
前記外扉に形成された貯水空間に、上下方向に所定の間隔で設けられた複数の温度センサと、
前記水タンクと前記外扉に形成された貯水空間を繋ぐ第2ポンプと、
をさらに備えることを特徴とする請求項4に記載の避難用耐火シェルター。
【請求項6】
前記水タンクと前記扉間空間を繋ぐ第3ポンプを、さらに備えることを特徴とする請求項4または5に記載の避難用耐火シェルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、災害時に内部空間が避難空間となる避難用耐火シェルターに関する。
【背景技術】
【0002】
東日本大震災では、地震により各地で建物の倒壊・火災が相次ぎ、さらに、過去最大級の津波・津波火災が発生したことによって、多くの尊い人命が失われた。津波火災の発生原因や延焼の理由は、船舶や車から漏れ出した燃料(重油、灯油、ガスなど)が津波によって流され漂流物に衝突して着火し浸水域に漂流したことで被害を拡大させたものと考えられる。これらの事実から、地震災害に利用する避難シェルターは、高い耐火性能を有することが求められる。
【0003】
火災時に避難する耐火シェルターとして、液体(水)を利用して避難空間内の温度上昇を抑制するものが提案されている。
【0004】
特許文献1では、通常時萎んだ状態を維持し、災害時は膨らんで密室を形成できる防火シェルターが開示されている。具体的には、流体の供給により膨萎するシェルター壁と、シェルター壁の開放部を封鎖して密室を形成する天板および底板と、密室内に酸素を供給するエアノズルと、密室に出入りするための開口部を備えているシェルターである。
【0005】
特許文献2では、火災時において一時的に避難するために建造物の防災目的で設置される断熱層を有する天井壁、側壁、床壁よりなる構造体を、長時間の火災に耐えられるように、安価なコストでその内部温度の上昇を抑制するための耐火構造等が開示されている。具体的には天井壁の上部に開放型の水槽を設け、火災発生等の周囲温度が上昇したとき水槽内の水を利用して構造体に流して構造体内部の温度上昇を未然に防止する防火シェルターである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−213964号公報
【特許文献2】特開2011−084883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1で開示されている防火シェルターは、建物内に設置することを前提としており、設置場所が限定され汎用性に乏しい。また、膨萎するシェルター壁によって避難空間が形成されるため、破片等の衝突によってシェルター壁が破断し、内部の液体が流出することによって避難空間が失われてしまう可能性がある。さらに、東日本大震災の時に発生したような長時間の火災に耐えることは困難である。
【0008】
特許文献2で開示されている防火シェルターは、建物内に設置することを前提としており、設置場所が限定され汎用性に乏しい。また、火災発生時等の周囲温度が上昇したとき天井壁の上部に設けられた開放型の水槽から構造体に水を供給する構造となっているため、何らかの原因、例えば、開放型の水槽内の水が地震によって外部飛散した場合、構造体に水が供給されない状態となり、防火シェルターとしての機能を果たすことが出来ない。
【0009】
本発明は、これらの問題点に着目してなされたものであり、屋外に簡単に設置可能であるとともに、長時間に及ぶ地震火災・津波火災に適用可能な避難用耐火シェルターを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、避難空間となる内部空間が形成された避難用耐火シェルターであって、貯水空間が形成された本体を備え、本体は、側部と、底部と、天井部と、扉部と、を有し、本体に設けられた減圧弁
と、側部に形成された貯水空間に、上下方向に所定の間隔で設けられた複数の温度センサと、本体に設けられた水タンクと、水タンクと側部、底部、および天井部に形成された貯水空間を繋ぐ第1ポンプを、さらに備えることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、本体は貯水空間が形成されているので、あらかじめ貯水空間内に熱容量の高い水を充填することによって、地震火災等による本体の温度上昇を抑制することが出来る。さらに、減圧弁を備えているので、火炎熱によって加熱された水は水蒸気となって減圧弁から外部空間に放出される。このときの潜熱効果によって、本体の温度は一定以上となることはない。これにより、地震火災および津波火災が発生したとき、本体の延焼を防ぐことが出来るとともに、内部空間の温度上昇を抑制することが出来る。
【0013】
この構成によれば、側部に上下方向に所定の間隔で設けられた複数の温度センサを備えているので、火災が発生したとき、温度センサの温度を計測することによって貯水空間内の水の充填状態を把握することが出来る。すなわち、火炎熱により水が沸騰して水蒸気が減圧弁から外部に放出され続けると、貯水空間内の水は減少する。水中に位置する温度センサの計測値は水の沸点以下となるが、水面上に位置する温度センサの計測値は水の沸点を超える温度となる。したがって、水の沸点を超える値を示す温度センサと、沸点以下の温度センサの間の位置まで貯水空間内の水が充填していることになる。
【0014】
また、本体に設けられた水タンクと、水タンクと側部、底部、および天井部に形成された貯水空間を繋ぐ第1ポンプを、さらに備えるので、貯水空間内の水が火炎熱によって蒸発し、減少したとき、水タンク内の水をポンプで貯水空間に補充することが出来る。これにより、貯水空間内の水は、長時間にわたり充填した状態とすることが出来る。その結果、長時間にわたり潜熱効果が働き、側部と、底部と、天井部の温度上昇を抑制することが出来る。
【0015】
請求項
2に係る発明は
、避難用耐火シェルター
であって、貯水空間が形成された本体を備え、本体は、側部と、底部と、天井部と、扉部と、を有し、本体に設けられた減圧弁をさらに備え、側部、底部、および天井部の構成断面は、貯水空間が形成された外壁と、外壁の前記内部空間側に設けられた断熱層で構成され
、断熱層は、外壁の内部空間側に設けられた内板と、内板と外壁との間に形成された空気層で構成され、空気層は、水が充填可能であることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、側部と、底部と、天井部は、貯水空間が形成された外壁と、外壁の内部空間側に設けられた断熱層で構成されているので、火炎熱によって本体の温度が上昇した場合でも、内部空間内の温度上昇を抑制することが出来る。
【0018】
この構成によれば、断熱層は、外壁の内部空間側に設けられた内板と、内板と外壁との間に形成された空気層であるので、避難空間内に安価に断熱効果の期待できる断熱層を設けることが出来る。
【0020】
この構成によれば、空気層は、水が充填可能であるので、空気層内に熱容量の大きい水を充填することによって、内部空間内の温度上昇をさらに抑制することが出来る。
【0021】
請求項
3に係る発明は、請求項
1に記載の避難用耐火シェルターにおいて、
側部、底部、および天井部の構成断面は、貯水空間が形成された外壁と、外壁の内部空間側に設けられた断熱層と、で構成され、断熱層は、軽量気泡コンクリート板と、軽量気泡コンクリート板の内部空間側に設けられた内板と、を含み、軽量気泡コンクリート板は外壁と内板で挟持されることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、断熱層は断熱効果が大きい軽量気泡コンクリート材を外壁と内板で挟持した、いわゆるサンドイッチ構造であるので、極めて強固な本体構造とすることが出来るとともに、避難空間となる内部空間の温度上昇を抑制することが出来る。また、仮に、破片等の衝突により外壁の一部が破損した場合でも、軽量気泡コンクリート材と内壁によって本体の強度が確保できるとともに、避難空間となる内部空間の温度上昇を抑制することが出来る。すなわち、多重防護機能を有する構造となっている。
【0023】
請求項
4に係る発明は
、避難用耐火シェルター
であって、貯水空間が形成された本体を備え、本体は、側部と、底部と、天井部と、扉部と、を有し、本体に設けられた減圧弁をさらに備え、扉部は、貯水空間が形成された外扉と、外扉の内部空間側に設けられた中扉と、出入り口と、を含み、外扉、中扉、および出入り口で形成される扉間空間は、水が充填可能であることを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、扉部は、貯水空間が形成された外扉と、外扉の内部空間側に設けられた中扉と、出入り口を含み、外扉、中扉、および出入り口によって扉間空間が形成されている。この扉間空間に充填されている空気の断熱効果によって、内部空間内の温度上昇を抑制することが出来る。
【0025】
また、扉間空間は、水が充填可能であるので、水を充填することによって内部空間内の温度上昇をさらに抑制することが出来る。
【0026】
請求項
5に係る発明は、請求項
4に記載の避難用耐火シェルターにおいて、外扉に形成された貯水空間に、上下方向に所定の間隔で設けられた複数の温度センサと、水タンクと外扉に形成された貯水空間を繋ぐ第2ポンプをさらに備えることを特徴とする。
【0027】
この構成によれば、外扉に形成された貯水空間に、上下方向に所定の間隔で設けられた複数の温度センサを備えているので、この温度を計測することによって火災が発生したときの貯水空間内の水の充填状態を把握することが出来る。すなわち、火炎熱により水が沸騰して水蒸気が減圧弁から外部に放出され続けると、貯水空間内の水は減少する。水中に位置する温度センサの計測値は水の沸点以下となるが、水面上に位置する温度センサの計測値は水の沸点を超える温度となる。したがって、水の沸点を超える値を示す温度センサと、沸点以下の温度センサの間の位置まで貯水空間内の水が充填していることになる。
【0028】
また、本体に設けられた水タンクと、水タンクと外扉に形成された貯水空間を繋ぐ第2ポンプを、さらに備えるので、貯水空間内の水が火炎熱によって蒸発し、減少したとき、水タンク内の水をポンプで貯水空間に補充することが出来る。これにより、貯水空間内の水は、長時間にわたり充填した状態となる。その結果、長時間にわたり潜熱効果が働き、外扉の温度上昇を抑制することが出来る。
【0029】
請求項
6に係る発明は、請求項
4または
5に記載の避難用耐火シェルターにおいて、水タンクと扉間空間を繋ぐ第3ポンプを、さらに備えることを特徴とする。
【0030】
この構成によれば、水タンクに貯留された水を扉間空間へ供給するために第3ポンプをさらに備えるので、簡単に扉間空間内に水を充填することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】実施例1による避難用耐火シェルターの扉部を省略した概略斜視図である。
【
図7】(a)は実施例2による避難用耐火シェルターの平面断面図であり、(b)は同側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0033】
〈実施例1〉
実施例1について、
図1〜6を参照しながら説明する。
【0034】
避難用耐火シェルター100(以下、シェルター100という。)は、災害時に避難可能な内部空間1aが形成されており、本体1、水タンク21、温度センサ30、第1〜3ポンプ41〜43、減圧弁9等を備えている。
【0035】
シェルター100は、地震等の災害時に避難可能な内部空間1aが形成されている。内部空間1aは、許容重量下で、水に浮かぶ内容積を有する。すなわち、シェルター100は、津波が襲来したとき水面に浮遊する。これにより、シェルター100を地盤に強固に固定するための基礎構造が不要となり、簡単に屋外に設置することが出来る。
【0036】
本体1は、天井部2、底部6、扉部50、並びに側部正面3a、側部側面3cおよび側部背面3bから成る側部3を有し、外面形状は略直方体である(
図1、3参照)。天井部2の地上高さは、側部背面3bが側部正面3aの高さに比べて高くなっている。すなわち、側部背面3bから側部正面3aに向かって下り傾斜がつけられている。扉部50は側部正面3aに備えられており、出入り口7が設けられている。また、傾斜を有する天井部2の頂上端部に排出部8が設けられている。
【0037】
天井部2、底部6、および側部3の断面は、外壁10と、外壁10の内部空間1a側に設けられた断熱層20より成っている。
【0038】
外壁10は、津波襲来時に押し寄せる浮遊物の衝突から内部空間を防護するためのものであり、さらに、内部に充填された第1充填水W1の潜熱効果により火炎熱による外壁10自体の温度上昇を抑制する機能を有する。外壁10は、外部空間側を覆う第1外壁板11と、その内側に設けられた第2外壁板12により成っている。
【0039】
排出部8は、第1充填水W1が火炎熱で加熱されて水蒸気が発生したとき、減圧弁9から、その水蒸気を外部空間に放出するためのもので、側面視がコ字形であり、両端部に減圧弁9が設けられている。また、コ字形の底面は天井部2の上方に突出して設けられており、内部は空気で満たされている。
【0040】
第1外壁板11の天井部2と、側部背面3bは排出部8を介して接続している。排出部8は、底面が天井部2の上方に突出して設けられており、また、側部側面3cは、減圧弁9を介して排出部8の両端と接続している。第2外壁板12は、第1外壁板11の内部空間1a側に設けられており、スペース材10aを介して第1外壁板11に固定されている。これにより、第1外壁板11と第2外壁板12の間隔は、一定の距離を保つことが出来る。外部空間側を覆う第1外壁板11、排出部8、減圧弁9と、その内側に設けられた第2外壁板12によって水が充填可能となる第1充填層A1(貯水空間)が形成される。第1外壁板11は、鋼板であることが好ましい。これにより、津波襲来時に押し寄せる漂流物の衝突に耐えうる強度を有することが出来る。さらに、補強板を固定してもよい。第2外壁板12は、鋼板であることが好ましい。これにより、第1充填層A1に第1充填水W1が充填されたとき、薄い板厚でその水圧に耐えうるとともに、所定の変形量を満足することが出来る。また、補強板を固定してもよい。これにより、更なる薄板化が可能となる。
【0041】
なお、実施例1では、外壁10は、第1外壁板と第2外壁板よりなっているが、角筒管を連結し、それぞれを連通状態として成してもよい。
【0042】
断熱層20は、火炎熱に起因する内部空間1aの温度上昇を抑制するためのものであり、内板14と、内板14と第2外壁板12で形成される空気層Aにより成っている。内板14は、第2外壁板12の内部空間側に設けられ、スペース材20aを介して第2外壁板12と相互に固定されている。これにより、内板14と、第2外壁板12の間隔は、一定の間隔を保つことが出来る。内板14と、第2外壁板12で形成される空気層Aは閉じた空間となっていることから、水を充填してもその水が漏れることはない。内板14は鋼板であることが好ましい。これにより、空気層Aに水を充填したとき、内板14は薄い板厚で所定の強度を有することが可能となる。また、補強板(図示略)を固定してもよい。これにより、更なる薄板化が可能となる。
【0043】
図6に示す通り、空気抜き管60が、排出部8近傍に設けられている。空気抜き管60は、火炎熱により加熱膨張した空気層A内の空気を外部空間に放出するためのものであり、一端は空気層Aに貫入しており、他端は第1充填水W1の水面上に位置する状態で排出部8内に配設されている。
【0044】
実施例1では、空気層Aは空気で満たされているが、空気に換えて水を充填してもよい。また、軽量気泡コンクリート板を外壁10と内板14で挟持する構成としてもよい。
【0045】
水タンク21は、第1充填層A1等に供給する水を貯留するためのタンクである。水タンク21は略直方体に形成されており、底面は、内部空間1a内の底部6を構成する内板14に沿って設けられ、底面の端部から垂直に延びた側面は、側部3を構成する内板14に沿って設けられている。また、水タンク21の上面の外表面上に床22が設けられている(
図2参照)。
【0046】
第1ポンプ41は、水タンク21に貯留されたタンク水WTを第1充填層A1に供給するためのポンプであり、ポンプ本体411と、ポンプ本体411から水タンク21の内部に延びる送水管412と、第1充填層A1の内部に延びる送水管413により成っている。第1ポンプ41は、手動式、またはバッテリ等の電源で動作する電動式であってもよい。
【0047】
図2、6に示す通り、5個の温度センサ30が、側部背面3bの上端から所定の間隔で下端に向かって、第1充填水内に水没した状態で取り付けられている。第1充填水W1が火炎熱によって水蒸気となり外部空間に放出されると、第1充填水W1の水位は低下し、上方に位置する温度センサ30から順番に水面上に現れる。水没している温度センサ30の計測値は水の沸点(100℃)となるが、水面上の温度センサ30の計測値は水の沸点(100℃)を超える温度となる。この、温度の変化を計測することにより、第1充填水W1の水位を推定することが出来る。なお、温度センサ30の計測値は、側部3の内板14に設けられたモニター70に表示される。これにより、内部空間1a内から第1充填水W1の水位を適宜に把握することが出来る。
【0048】
側部正面3aに、扉部50が設けられている。扉部50は、出入り口7と外部空間側に回動可能に固定された外扉51と、内部空間1a側に回動可能に固定された中扉55より成っている。外扉51は、内部空間1aを密閉状に閉塞することが出来るものであり、内部空間1a側の外周部に、水密パッキン52および耐火パッキン53が環状に設けられている。さらに、
図4に示すように、外扉51の外周部を外壁10の第1外壁板11に押圧可能とするロック装置51aが取り付けられている。外扉51を閉じ、ロック装置51aのレバーを回転することによって、外扉51は水密パッキン52、および耐火パッキン53を介して外壁10に押圧される状態になる。これにより、シェルター100を密閉状に閉塞することが出来る。
【0049】
外扉51には、外壁10と同様に、第2充填層A2(貯水空間)が形成され第2充填水W2が充填されている。また、外部空間側の上端部に、水蒸気を外部空間に排出するための減圧弁(図示略)が設けられ、さらに複数の温度センサ(図示略)が外扉51の上端から所定の間隔で設けられている。これらは、外壁10に設けられているものとほぼ同じ構成であるため説明は省略する。
【0050】
中扉55は、内部空間1aを密閉状に閉塞するとともに、外扉51と中扉55と出入り口7で形成される第3充填層A3を閉塞するものであり、外部空間側の外周部に、水密パッキン56が環状に設けられている。また、中扉55の外部空間側の外周部を第2外壁板12に押圧可能とするロック装置(図示略)が内部空間1a側取り付けられている。これらの構成により、内部空間1aを密閉状に閉塞するとともに、外扉51と中扉55と出入り口7で形成される第3充填層A3(扉間空間)を密閉状態に閉塞することが出来る。中扉55は鋼板であることが好ましい。
【0051】
第2ポンプ42は、水タンク21に充填されたタンク水WTを第2充填層A2に供給するためのポンプであり、ポンプ本体421と、ポンプ本体421から水タンク21の内部に延びる送水管422と、第2充填層A2の内部に延びる送水管423により成っている。第2ポンプ42は、手動式、またはバッテリ等の電源で動作する電動式であってもよい。
【0052】
第3ポンプ43は、水タンク21に充填されたタンク水WTを第3充填層A3に供給するためのポンプであり、ポンプ本体431と、ポンプ本体431から水タンク21の内部に延びる送水管432と、第3充填層A3の内部に延びる送水管433により成っている。第3ポンプ43は、手動式、またはバッテリ等の電源で動作する電動式であってもよい。
【0053】
なお、第1、2充填水W1、2はあらかじめ充填されているが、第3充填水W3は、外扉51および中扉55を閉じて第3充填層A3が形成された後、第3ポンプ43を動作し、水タンク21からのタンク水WTを供給することによって充填される。水を充填するときに内部の空気が圧縮されて第3充填層A3内の気圧が上昇する。これを抑制するために、中扉55の内部空間1a側の上端部に空気抜き弁(図示略)が設けられている。
【0054】
シェルター100の使用方法について説明する。シェルター100は、内部空間1a内に机、椅子等を床22に固定し、通常時において、事務所として使用する。また、災害の際に必要となる備品、例えば酸素ボンベ、非常食、飲料水、懐中電灯、非常用の寝具、薬、ラジオその他の緊急避難用品をひとまとめにして、散乱しないようにあらかじめ定められた場所に配備しておく。さらに、二酸化炭素の増え過ぎを防止するため、消石灰水溶液、またはゼオライトを備えておく。これにより、二酸化炭素が吸着され、内部空間1a内の二酸化炭素濃度を減らすことが出来る。事務所として使用するときは、外扉51は常時開放状態としておき、中扉55を開閉することにより内部空間1aへの出入りを行う。これにより、第2充填水W2が充填されて重くなった外扉51を開閉する必要がなくなり、多大な労力を要することなく出入りすることが出来る。すなわち、事務所としての利便性が向上する。
【0055】
地震等により、火災の発生が予想されるときは、直ちに内部空間1a内に避難し、外扉51、中扉55を閉じて内部空間1aを密閉状に閉塞するとともに、第3ポンプ43を動作して、第3充填層A3内にタンク水WTを供給する。
【0056】
火炎熱によって、第1充填水W1は水蒸気となり、減圧弁9を経由して外部空間に放出される。このときの潜熱効果によって、内部空間1a内の温度上昇は抑制される。また、断熱層20の断熱効果によりさらに抑制される。
【0057】
第1充填水W1の蒸発によって、第1充填層A1内の水位が低下すると、水面上に位置する温度センサ30の計測値は100℃をこえる。あらかじめ定めた位置の温度センサ30の計測値が100℃を超えたとき、第1ポンプ41を動作し、水タンク21内に貯留されているタンク水WTを、第1充填層A1内に供給する。最上部の温度センサ30の計測値が100℃以下となったとき、第1ポンプ41の動作を停止する。同様の操作を第2ポンプ42についても行う。これにより、避難した人々の人命を守ることが出来る。
【0058】
また、津波が押し寄せた場合は、シェルター100は、水面上に浮上する。家屋等はその波力により破壊され瓦礫となって漂流し、漂流物は津波とともにシェルター100を襲う。シェルター100の外壁10は鋼板等であり、この漂流物によって破壊されることはない。
【0059】
漂流物が引火しその火炎熱によってシェルター100が加熱されたとしても、上述した手順を実施することによって、内部空間1a内の温度上昇は抑制され、シェルター100に避難した人々の人命を守ることが出来る。
【0060】
〈実施例2〉
実施例2について、
図7(a)、(b)を参照しながら説明する。
【0061】
実施例2の構成は、実施例1と共通する部分が多いことから、この共通する部分についての説明は省略し、主に相違点について説明する。
【0062】
図7(a)(b)に示すように、シェルター200の本体201は、平面視が略楕円形上の有底、有天井構造となっている。側部203の四隅に第2水タンク221aが設けられている。内部空間201a内に実施例1のシェルター100と同様の第1水タンク221が設けられている。第1水タンク221と第2水タンク221aは連結管225によって繋がれ連通状態となっている。これにより、より多くの水を充填層に供給することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係るシェルターは、屋外に簡単に設置することが出来る。常時においては、事務所として利用可能であり、また地震、地震火災、津波、津波火災等の幅広い災害に対して避難可能なものであり、産業上の利用可能性は大である。
【符号の説明】
【0064】
100、200 :シェルター
1、201 :本体
1a、201a :内部空間
2 :天井部
3、203 :側部
6 :底部
7 :出入り口
8 :排出部
9 :減圧弁
10 :外壁
11 :第1外壁板
12 :第2外壁板
14 :内板
20 :断熱層
21 :水タンク
30 :温度センサ
41 :第1ポンプ
42 :第2ポンプ
43 :第3ポンプ
50、250 :扉部
51 :外扉
51a :ロック装置
55 :中扉
221a :第2水タンク
225 :連結管
A :空気層
A1 :第1充填層
A2 :第2充填層
A3 :第3充填層(扉間空間)
W1 :第1充填水
W2 :第2充填水
W3 :第3充填水
WT :タンク水