(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6593816
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】地下シェルターおよび地下シェルター築造方法
(51)【国際特許分類】
E04H 9/14 20060101AFI20191010BHJP
【FI】
E04H9/14 B
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-89648(P2018-89648)
(22)【出願日】2018年5月8日
【審査請求日】2019年4月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517357826
【氏名又は名称】株式会社シェルタージャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100103207
【弁理士】
【氏名又は名称】尾崎 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】矢野 昭彦
【審査官】
新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】
特許第5255148(JP,B1)
【文献】
国際公開第2017/061108(WO,A1)
【文献】
特開2000−034848(JP,A)
【文献】
実開昭48−008023(JP,U)
【文献】
実開昭60−015557(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射能遮蔽性能を具備する天井と、
前記天井の直下に設けられて、断熱空間を設ける第1本体と、
前記断熱空間を充填する断熱部材と、
前記第1本体の直下に設けられて、避難空間を設ける第2本体と、
第1冷却手段及び第2冷却手段と、を備え、
前記第1冷却手段は、冷房装置と、前記冷房装置で冷却された空気を前記第2本体に送風するための送風装置とを有し、前記第2冷却手段は、前記第2本体に配設された冷水管と、前記冷水管に冷水を供給する貯水槽とを有し、
前記第1冷却手段は、第1温度以上で作動し、前記第2冷却手段は、第2温度以上で作動し、前記第1温度は前記第2温度よりも低いことを特徴とすることを特徴とする地下シェルター。
【請求項2】
前記第2本体は平面視で前記第1本体の内部に位置することを特徴とする請求項1に記載の地下シェルター。
【請求項3】
前記第1本体の外縁と前記第2本体の外縁は、平面視で同一に位置することを特徴とする請求項1に記載の地下シェルター。
【請求項4】
前記第2本体は、地中に向かって延びる複数の突起体を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の地下シェルター。
【請求項5】
前記突起体は、周方向に所定の間隔で配設されていることを特徴とする請求項4に記載の地下シェルター。
【請求項6】
前記避難空間に配設された酸素ボンベと、前記天井に設けられた排気弁と、を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の地下シェルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上層に断熱空間が形成され、下層に避難空間が形成された2層式の地下シェルターおよび地下シェルターの築造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
関東大震災や阪神・淡路大震災では、地震に起因する火災、いわゆる地震火災が同時多発的に発生し甚大な被害をもたらした。地震火災は、本震直後から出火し、その件数は建物倒壊数に比例して増大するとされる。また、消防力の分散、建築倒壊や道路損壊による交通障害の発生、消火栓や水道管の破損による水利不足、交通渋滞などの要因が複合して消火活動が阻害されることから、延焼範囲は拡大し、鎮火するまでの時間は長引くことになる。東日本大震災では、過去最大級の津波・津波火災が発生したことによって、多くの尊い人命が失われた。
【0003】
今後発生が予想される大都市直下地震では、すでに都市の近代化が進み十分な対策が取られていることから、関東大震災や阪神・淡路大震災のように甚大な被害をもたらさないとも考えられる。しかし、大都市においても、現時点で木造密集地は多数存在し、しかも関東大震災当時と比べ過密な状態となっている。
【0004】
木造密集地域で発生する地震火災は延焼速度が早く、かつ同時多発的に巨大な火炎が迫る危険があるため、逃げ遅れないために早期に避難することが重要である。しかし、安全な場所に避難しようとしても、道路は避難する人々で前に進めない事態が想定される。仮に、前に進めたとしても倒壊した家屋によって道路が塞がれ、さらに橋梁の倒壊等によって避難路が確保できない事態も予想される。
【0005】
さらに、近年の緊迫した国際情勢に鑑みると、地震等の災害のみならず、放射能被爆被害に対応可能な性能を具備するシェルターが求められる。スイス、イスラエルでは核シェルターの普及率は100%であが、日本ではわずか0.02%に過ぎない。日本においても有事に対応可能な核シェルターの普及が必要である。
【0006】
このような状況に鑑みると、地震・津波等の災害のみならず、放射能被爆被害に対応可能な性能を具備するシェルターの設置は急務であると考えられる。
【0007】
特許文献1では、耐震性、防水性に加え、有事の際に使用される破壊兵器や自然災害の強大な破壊エネルギー、また放射線・電磁波などの特殊な性質と効果を持つ要素に対し、確実に内部を防護できるより安全性の高い地下シェルターが開示されている。具体的には、地中に設けた高強度鉄筋コンクリートからなるシェルター外殻床スラブ上に、金属板からなるボックス状のシェルター内殻を設置し、シェルター外殻床スラブ側を除く残りのシェルター内殻の外表面の周囲を高強度鉄筋コンクリートからなるシェルター外殻で覆った地下シェルターである。
【0008】
特許文献2では、建物の内部に組み込まれ、側壁および上壁をコンクリートで形成し、外部環境の異常な変化から内部空間の居住性を防護するシェルターが開示されている。
【0009】
しかし、特許文献1で開示されるシェルターは、地表面の比較的浅い位置に天井部が位置し特別な断熱処理は施されていない。そのため延焼時間が長期に渡る地震火災等では内部の温度が想定以上に上昇すると考えられる。また、天井は内殻と外殻を有する2重構造であり、外殻の底面は地盤面から5〜6mの深さに位置する構造物であることから、施工も複雑である。そのため、短工期化、コストダウンを図ることが難しいと考えられる。
【0010】
特許文献2で開示されるシェルターは、建物の内部に組み込まれて、特段の断熱処理は施されてないことから、地震火災の火炎熱で内部の温度が想定以上に上昇すると考えられる。建物を建設するときに同時に設置するのが一般的であり、既存の建物建造後に設置することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−297898号公報
【特許文献2】特開2009−221673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、地震・津波・火災災害、および放射能被爆被害に対して、避難可能なシェルターを短期間に、かつ安価に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記課題を解決するための地下シェルターであって、放射能遮蔽性能を具備する天井と、天井の直下に設けられて、断熱空間を設ける第1本体と、断熱空間を充填する断熱部材と、第1本体の直下に設けられて、避難空間を設ける第2本体と、第1冷却手段
及び第2冷却手段と、を備え、第1冷却手段は、冷房装置と、冷房装置で冷却された空気を前記第2本体に送風するための送風装置とを有し、第2冷却手段は、第2本体に配設された冷水管と、冷水管に冷水を供給する貯水槽とを有し、第1冷却手段は、第1温度以上で作動し、第2冷却手段は、第2温度以上で作動し、第1温度は前記第2温度よりも低いことを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、第2本体の直上に位置する断熱空間に、地中の土壌よりも優れた断熱性能を具備する断熱部材が充填されているので、火災の際、避難空間内の温度上昇を抑制することができる。
【0015】
なお、ここでいう地下シェルターは、第2本体が地下に埋設されているシェルターをいう。すなわち、第1本体の一部が地表から突設しているシェルターを含む。
【0016】
また、この構成によれば、第1本体の直上は、放射線遮蔽性能を具備する天井を有し、さらに、災害時に避難するための避難空間は第1本体のさらに下方に位置する地中に形成されている。すなわち、避難空間の上方から照射される放射線は天井によって遮蔽され、斜めから照射される放射線は土壌により遮蔽される。従って、本発明に係る地下シェルターは、核シェルターとして使用することができる。
さらにこの構成によれば、避難空間を冷却するための第1冷却手段
及び第2冷却手段を備えるので、火災の際、温度が上昇した避難空間内の温度を下げることができる。その結果、長期間にわたる火災でも、避難空間に避難可能となる。
さらにこの構成によれば、第1冷却手段、第2冷却手段を適宜、適切に作動させることができるので、エネルギーを効率的に使用することができる。
【0017】
好ましくは、第2本体は平面視で第1本体の内部に位置する。
【0018】
この構成によれば、高い断熱性能を具備する断熱部材は、平面視で第2本体よりも広い範囲で避難空間の上方を覆っているので、避難空間内の温度上昇をさらに抑制することができる。
【0019】
好ましくは、第1本体の外縁と第2本体の外縁は、平面視で同一に位置する。
【0020】
この構成によれば、第1本体と第2本体を同一の断面形状および同一の材質の部材とすることができるので、施工の簡略化およびコストダウンを図ることができる。
【0021】
好ましくは、第2本体は、地中に向かって延びる複数の突起体を有する。
【0022】
この構成によれば、第2本体は、地中に向かって延びる複数の突起体を有するので、第2本体の表面積が増加する。これにより放熱効果が増大し、避難空間の温度上昇を抑制することができる。
【0023】
好ましくは、突起体は、周方向に所定の間隔で配設されている。
【0028】
好ましくは、避難空間に配設された酸素ボンベと、天井に設けられた排気弁と、を備える。
【0029】
この構成によれば、地下シェルターは、避難空間に配設された酸素ボンベを備えるので、長期間に渡り避難空間に避難可能となる。また、排気弁から外部空間に排出される空気は天井近傍に存する火炎熱によって加熱された空気であり、酸素ボンベから避難空間に供給される酸素は天井近傍に存する空気に比べ低温であるため、避難空間内の温度上昇を抑制することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、長期間の火災に対して避難可能であるとともに放射能遮蔽性能を具備する地下シェルター、すなわち核シェルターを、低コスト、短工期で提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本実施形態の地下シェルターの正面断面図である。
【
図3】冷水管の避難空間内の配管状態を説明する展開図である。
【
図8】本実施形態の変形例を説明する正面断面図である。
【
図9】(a)〜(d)はシェルター本体の築造工程を説明する正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0036】
図1に示す通り、本発明実施形態の地下シェルター1(以下、シェルター1という)は、第1本体2と第2本体3で構成されるシェルター本体1aと、断熱空間26を充填する断熱部材4と、天井5と、第1,2冷却手段7、8を備えている。また、シェルター本体1aの内部には、昇降するためのタラップ91が設けられている。
【0037】
図1〜2に示す通り、第1本体2は、円筒形であり、周面は第1壁体21、上端部は天井板51、下端部は第1底板23が設けられて、その円筒形の内部は、断熱空間26が形成されている。
【0038】
第1壁体21は、断熱空間26に接する第1内壁21aと、第1内壁21aと地中100との間に生じた隙間を充填する第1外壁21bで構成されている。第1内壁21aは、波型断面のライナープレートを組み立てて相互に接合したものであり、周方向の直径が上下方向に変化する波型断面である。第1内壁21aは、地中100からの土圧に耐えるためのものであり、所定の強度を具備する材料、例えば鋼製であることが好ましい。また、第1外壁21bは、第1内壁21aと地中100との間の隙間を充填して地中100の土砂の崩落を防止するとともに、第1内壁21aを保護し、耐久性を高めるためのものである。第1外壁21bは、流動性および耐久性能が高く、凝固後の経年変化が少ない材料、例えばモルタルであることが好ましい。
【0039】
第1底板23は、第2壁体31の上端部から第1壁体21に向かって水平に延びるドーナツ状のコンクリート製の板状構造物である。第1底板23は、土圧に起因する第1壁体21の変形を防止するとともに、第1本体2に作用する外力に対して構造上の安定を図るためのものである。
【0040】
第1仕切り板24は、第2壁体31に固定されて、第2壁体31の上端の開口を覆っている。第1仕切り板24は、断熱空間26と避難空間38を仕切るためのものである。また、第1仕切り板24の中央部に第1ハッチ25を設けている。これにより、断熱空間26と避難空間38の往来が可能となる。
【0041】
断熱空間26を充填する断熱部材4は、平面視で避難空間38の上面よりも広い範囲を覆う状態で、第2本体3の直上から、天井板51の直下までの領域に設けられており、中央部に縦穴90が形成されている。地中100の土砂に比べはるかに高い断熱性能を具備する断熱部材4で、避難空間38の上面を覆うことにより、避難空間38の内部温度の上昇を抑制することができる。また、縦穴90の上端部は天井板51に形成された開口部53に接続し、下端部は避難空間38に接続している。すなわち、縦穴90は、避難空間38に避難するための通路の一部になっている。断熱部材4の材質・厚さは、避難空間38の目標とする温度抑制効果を設定することにより、適宜定める。断熱部材4の材質としては、発泡プラスチック系であることが好ましい。より好ましくは、難燃性能を具備したものである。
【0042】
第2本体3は、第1本体2の直下に設けられた円筒形の構造物であり、第2壁体31と、第2底板32と、突起体34とを有していて、内部は避難空間38が形成されている。避難空間38は、災害の時に避難するための空間である。また、避難空間38の中央部に第2仕切り板35が設けられている。
【0043】
第2壁体31は、上下方向に延びる円筒形であって第2本体3の壁の役割を果たしている。上端は第1仕切り板24が設けられており、下端は、第2底板32が配設されている。第2底板32は、コンクリート製の円盤であり第2壁体31の下端を閉塞する状態で配設されている。これにより、第2壁体31の平面形状を保持するとともに、地中100からの地下水等の侵入、およびボイリング・ヒービングを防止することができる。第2壁体31は、地中100の土圧に耐え、かつ耐久性能を具備する材料、例えば鋼管であることが好ましい。
【0044】
周方向に所定の間隔で配設され外方に向かって水平に延びる突起体34が、第2壁体31に固定されている。突起体34を固定することで、第2壁体31の表面積が増加することから、放熱効果が増大し、避難空間38の温度上昇を抑制することができる。さらに、突起体34によって、地中100との間のせん断抵抗力が増大するので、地震力に起因して、シェルター本体1aと本体周辺の地中100がずれることが懸念される場合でも、そのずれを抑制することができる。なお、
図1に示す通り、周方向に所定の間隔で配設され外方に向かって水平に延びる一群の突起体34は、上下方向に複数群固定されているが、上下方向で隣接する突起体34同士は、直線状に配列されていなくてもよい。
【0045】
図4に示す通り、突起体34は、突起ボルト34aと、突起ナット34bを有している。第2壁体31に穴34cが穿孔されている。穴34cは封止材(図示略)で封止されている。その穴34cの位置に突起ナット34bが固定されている。突起ボルト34aの先端は先細り形状であり、地中100への貫入が容易な形状となっている。突起ボルト34aの先端を突起ナット34bに挿入して回転することで、突起ボルト34aは封止材を貫通し、さらに地中100に貫入する。これにより、突起体34を地中100に固定することができる。
【0046】
第2仕切り板35は、第2本体3の中央部に設けられて、避難空間38を上下方向に分割している。このように避難空間38を分割することで、避難空間38を有効にかつ効率よく使用することができる。例えば、分割された避難空間38の上側の空間を、避難するときに必要な非常用品等を収納する場所とし、下側の空間を、避難する場所とするなどの活用ができる。本実施形態では、分割された避難空間38の上側の空間に、非常用の食糧・医薬品が入った避難箱37を収納している。また、第2仕切り板35の中央部に第2ハッチ36を設けている。これにより、上下方向に仕切られた避難空間38のそれぞれを、往来することができる。
【0047】
本実施形態では、避難空間38は第2仕切り板35で上下方向に2分割されているが、複数の第2仕切り板35で、さらに分割しても良いことは勿論である。
【0048】
図1に示す通り、避難空間38に酸素ボンベ33が、天井板51に排気弁52が配設されている。酸素を吹き出したとき、避難空間38の内部の気圧が上昇する。温度の低い酸素が避難空間38に放出されることで、避難空間38は冷却されるとともに、気圧が上昇する。この気圧の上昇に伴って、天井板51の近傍に存する火炎熱で加熱された暖気が排気弁52を経由して外部空間120に放出される。このように、温度の低い気体(酸素)が避難空間38に供給され、温度の高い気体が外部空間120に放出されることで、避難空間38の内部の温度上昇が抑制される。さらに、シェルター本体1aの内部は、外部空間120の気圧よりも高くなるため、火災に起因して発生する有毒ガス等が内部に侵入することを防止することができる。避難空間38には、二酸化炭素を吸着できる消石灰水溶液、またはゼオライトを備えることが好ましい。これにより二酸化炭素の増えすぎを防止することができる。
【0049】
図1〜2に示す通り、天井5は、開口部53が形成されて、排気弁52が配設された天井板51と、開口部53を開閉するための引き戸式の扉6を有している。天井板51は鉄筋コンクリート製であることが好ましい。鉄筋コンクリートは高い放射能遮蔽性能を具備するからである。その厚さは、目標とする放射能遮蔽性能を具備する厚さ以上となるよう適宜定める。本実施形態では、厚さとして40cmが例示される。
【0050】
図5〜7に示す通り、扉6は天井板51の上方に配設されて、放射能遮蔽性能を具備する扉本体60、扉本体60に固定される車輪61、車輪61の走行方向を誘導する軌道62、および軌道62を上下方向に変位させるジャッキ63を有している。扉本体60の厚さは、目標とする放射能遮蔽性能を具備する厚さ以上となるよう適宜定める。本実施形態では、厚さとして40cmが例示される。
【0051】
車輪61は、扉本体60を軌道62に沿って移動させるためのものであり、片側に2個、合計で4個の車輪61が、扉本体60に固定されている。車輪61は、後述する軌道62の溝部62aに配設され、その設置高さは、ジャッキ63を上昇させたとき、扉本体60と天井板51との間に所定の隙間が存在し、下降させたとき扉本体60と天井板51が接触する状態となるように設定される。すなわち、ジャッキ63の構造高さ、およびジャッキ63のストローク等を勘案して適宜定める。なお、ジャッキ63は油圧で上昇および下降する手動、または電動の油圧ジャッキであることが好ましい。
【0052】
一対の軌道62、62は上述した車輪61を円滑に回動させるとともに所定の方向に確実に誘導するためのものである。軌道62、62は平行な状態で、天井板51の上方に敷設されている。軌道62は上方に開口された溝部62aを形成する断面視コ字形の形状であり、両端部、および中央部の3か所で合計3個のジャッキ63を介して天井板51に固定される。具体的には、軌道62の底面はジャッキ63の受け台63aに固定されており、また、ジャッキ63の底面は、天井板51に固定される。
【0053】
軌道62の長さは、開口部53を開閉することができる長さ、すなわち、開口部53の敷設方向の長さに扉本体60の走行方向の長さを加算した長さ以上に設定される。
【0054】
車輪61の移動方向に直角方向の間隔は、車輪61を軌道62に配設することができる間隔、すなわち一対の軌道62、62の間隔と同じとなるように設定されている。これにより、扉本体60は、軌道62に沿って移動可能となり、開口部53を開閉することができる。
【0055】
軌道62の両端部には、溝部62aを塞ぐ制止板64a、bが溝部62aの上方に突出した状態で設けられている。制止板64a、bは、車輪61の移動を制限するためのものであり、これにより扉本体60の軌道62からの移動方向への逸脱を防止することができる。制止板64aによって車輪61の移動が制限されたとき、扉本体60は開口部53を開放する状態となり、制止板64bによって車輪61の移動が制限されたとき、扉本体60は開口部53を閉鎖する状態となる。
【0056】
扉本体60を閉鎖した状態で、開口部53の外周に対向する扉本体60の底面にパッキン66が環状に設けられている。これにより、扉本体60と天井板51に存する隙間を封止できるので、シェルター1の気密性をより一層高めることができる。
【0057】
開口部53を封止する方法について説明する。扉本体60と天井板51との間に所定の隙間が存する状態、すなわち、6個のジャッキ63がすべて上昇している状態で、扉本体60を開口部53の方向に移動させる。制止板64bによって、扉本体60の移動が制限されたときたとき、開口部53の全面が扉本体60で覆われた状態となる。その後、軌道62、62を固定する合計6個のジャッキ63を同時に下方に降下させることにより、扉本体60と天井板51との間に存する所定の隙間を封止することができる。
【0058】
開口部53が封止された状態から、開放された状態とする方法について説明する。6個のジャッキ63を同時に上昇させ、扉本体60と天井板51との間に所定の隙間が存する状態とする。その後、扉本体60を制止板64aの方向に移動させる。制止板64aによって扉本体60の移動が制限されたとき、開口部53は開放された状態となる。その後、6個のジャッキ63を同時に下降させ、扉本体60と天井板51が接触し、扉本体60の全重量を天井板51が負担する状態とする。扉本体60と天井板51に作用する摩擦力により、扉本体60は安定して所定の位置に載置できる。
【0059】
避難空間38の内部を冷却する手段について説明する。本実施形態では第1冷却手段7と第2冷却手段8の二通りの冷却手段を備えている。
【0060】
第1冷却手段7について
図1を参照して説明する。地面110上に熱交換器(図示略)と送風装置(図示略)を有する冷房装置70が設置されている。熱交換器で冷却された冷気は送風装置で送風管71を経由して、避難空間38に送風される。これにより、避難空間38を所定の温度以下に冷却することができる。冷房装置70は、通常時においても、避難空間38内に配した温度センサー(図示略)で検知した温度が第1温度以上になったときに作動させることが好ましい。これにより、消費電力を抑制できるとともに、火災発生時の避難空間38内の温度を常に低く抑えることができる。
【0061】
第2冷却手段8について
図1および3を参照して説明する。
図3に示す通り、冷水管81が、第2壁体31の内面に上下方向に列状に張り巡らされている。
図1に示す通り、冷水管81の両端部は、地中100に設置した貯水タンク80に接続している。貯水タンク80には、冷水が貯留されている。冷水は、ポンプ(図示略)によって冷水管81に送水され、避難空間38内を通過し、貯水タンク80に還流する。この還流過程で避難空間38において熱交換がなされ、避難空間38は冷却される。冷水として雨水を用いてもよい。雨水は地中100に設けられた貯水タンクに貯留されることによって、外気温の影響を受けることなくほぼ一定の温度を保つからである。これにより、資源の有効活用を図ることができる。また、避難空間38内の温度を温度センサーで検知し、第2温度以上となったとき、冷水を還流させることが好ましい。
【0062】
第1冷却手段は、避難空間38内をより低い温度とすることが可能であることから、作動条件として、第1温度を常時における地中100の温度より低く設定することが好ましい。また、第2冷却手段8は、作動条件として、第2温度を避難空間内で長期間快適に過ごせる温度とすることが好ましい。
【0063】
本実施形態では、上述した二通りの冷却手段を用いることとしているが、いずれか一方の冷却手段のみを用いてもよい。
【0064】
本実施形態の変形例について、
図8を参照して説明する。変形例は本実施形態と基本的には共通するため、共通する部材については説明を省略し、相違点を主に説明する。また、相違する部材番号は200番台とする。
【0065】
第1壁体221は、第2壁体31の上端から上方に垂直に延びる円筒形の部材である。シェルター本体201aは第1壁体221と第2壁体31で構成されている。また、第1壁体221は、本実施形態の第1壁体21のように2層構造で構成されておらず、第2壁体31と同じ1層構造である。第1壁体221は、第2壁体31と同一の鋼管であることが好ましい。第2壁体31と同一の断面形状、同一材質とすることで、施工の効率化、およびコストダウンを図ることができる。なお、本実施形態では突起体34は、第2壁体31にのみ固定されていたが、変形例のように第2壁体31および第1壁体221の双方に固定してもよい。
【0066】
シェルター本体1aを築造する方法について、
図9を参照して説明する。なお、
図9(a)〜(d)はシェルター本体1aの築造方法を工程順に示したものである。すなわち、
図9(a)に示す工程は、(b)に示す工程の上工程となる。
【0067】
図9(a)に示す通り、ケーシング本体45を搖動しながら地中100に圧入し、内部を油圧グラブで掘削する。ボイリング・ヒーリングを防止するために掘削した内部に注水し、水中掘削により所定の深さまで掘削する。掘削土は、ダンプトラックに積み込み処分する。なお、掘削深さが深い場合は、分割した第1ケーシング45aを溶接で接続しながら圧入するとともに、掘削する。掘削が完了した後に、水中コンクリートを打設し、第2底板32を築造する。コンクリートが硬化した段階で、注水された内部の水を抜く。なお、撤去予定の第2ケーシング45bと第2壁体31となる第1ケーシング45aは、ボルト接合とする。これにより第2ケーシング45bを容易に撤去することができる。
【0068】
図9(b)に示す通り、突起体34を避難空間38側から地中100に向かって水平に貫入して、第2壁体31に固定する。突起体34の貫入および固定方法については、
図4を参照して前述していることから説明は省略する。
【0069】
図9(c)に示す通り、第2ケーシング45bの周辺の土砂を人力および/または機械で掘削するとともに波型断面のライナープレートを組み立てて相互に接合することで第1内壁21aを築造する。第1内壁21aと、掘削壁面との隙間にモルタルを充填して、第1外壁21bを築造する。これにより、地中100の土砂の崩壊を防止することができる。その後、掘削底面にコンクリートを打設し第1底板23を築造する。
【0070】
図9(d)に示す通り、第2ケーシング45bを撤去して、場外に搬出する。上述した工程により、シェルター本体1aが築造される。その後、天井板51、断熱部材4等を配設し、第1冷却手段7および第2冷却手段8を装備することでシェルター1は完成する。
【0071】
上述した通り、本築造方法は、土留め等の仮設構造物を使用してないので、工程の省略ができるとともに、駐車場のスペース等の限られた空きスペースで築造が可能となる。また、仮設構造物の内部の土砂の全部を撤去することを要しない。その結果、工期短縮およびコストダウンを図ることができる。
【0072】
本実施形態における地下シェルターの築造方法について説明したが、変形例の築造については、
図9(c)および(d)に示す工程を省略することができる。また、第1ケーシング45aと第2ケーシング45bは、ボルト接合でなく連続した一体の部材であってもよい。これにより、本実施形態に比べて、更なる工期短縮およびコストダウンが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
放射線、地震、火災、津波に対抗できる地下シェルターを容易に設置することができる。特に、住宅地域において、その産業上の利用価値は大である。
【符号の説明】
【0074】
1 :シェルター
1a :シェルター本体
2 :第1本体
3 :第2本体
4 :断熱部材
5 :天井
6 :扉
7 :第1冷却手段
8 :第2冷却手段
21 :第1壁体
221 :第1壁体
21a :第1内壁
21b :第1外壁
23 :第1底板
26 :断熱空間
31 :第2壁体
32 :第2底板
33 :酸素ボンベ
34 :突起体
38 :避難空間
45 :ケーシング本体
45a :第1ケーシング
45b :第2ケーシング
51 :天井板
52 :排気弁
53 :開口部
60 :扉本体
61 :車輪
62 :軌道
63 :ジャッキ
70 :冷房装置
71 :送風管
80 :貯水タンク
81 :冷水管
90 :縦穴
100 :地中
110 :地面
120 :外部空間
【要約】 (修正有)
【課題】地震・津波・火災災害、及び放射能被爆被害に避難可能なシェルターを容易にかつ安価に提供する。
【解決手段】地下シェルター1は、放射能遮蔽性能を具備する天井5と、天井5の直下に設けられた第1本体2と、第1本体2の直下に設けられた第2本体3を備え、内部には昇降するためのタラップ91が設けられている。天井5は、開口部53が形成された天井板51と開口部53を開閉するための扉を有している。第1本体2は断熱空間26が形成されて、断熱空間26は、断熱部材4が充填されている。第2本体3は、災害時に避難するための避難空間38が形成されて、第2本体3は、地中100に向かって水平に延びる複数の突起体34を有している。さらに、避難空間38を冷却するための、第1冷却手段7および第2冷却手段8を備えている。
【選択図】
図1