(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6593818
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】防災扉
(51)【国際特許分類】
E04H 9/14 20060101AFI20191010BHJP
E06B 5/01 20060101ALI20191010BHJP
E06B 5/18 20060101ALI20191010BHJP
E06B 5/16 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
E04H9/14 A
E04H9/14 Z
E04H9/14 K
E06B5/01
E06B5/18
E06B5/16
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-114894(P2018-114894)
(22)【出願日】2018年6月15日
【審査請求日】2019年4月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517357826
【氏名又は名称】株式会社シェルタージャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100103207
【弁理士】
【氏名又は名称】尾崎 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】矢野 昭彦
【審査官】
佐藤 美紗子
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭60−005973(JP,A)
【文献】
特開平11−352285(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/14
G21F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下シェルターに配設される防災扉であって、
開口部が設けられた枠体と、
前記枠体に、上方に向かって回動するように支持された前記開口部を開閉する外扉と
、
前記外扉の下方に設けられて、前記枠体に、上方に向かって回動するように支持された前記開口部を開閉する内扉と、
前記枠体と、前記外扉と、前記内扉とが協働して設ける貯水空間に、水を供給する給水装置と、
前記貯水空間に供給された水を排出するための排水装置と、
前記外扉と、前記内扉は、どちらか一方の扉が回動したとき、他方の扉を同方向に回動させるための回動同期装置と、を備えることを特徴とする防災扉。
【請求項2】
前記回動同期装置は、前記内扉をロックしたとき、前記地下シェルターの内側から前記外扉をロックできることを特徴とする請求項1に記載の防災扉。
【請求項3】
前記開口部を開閉するための滑車装置を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の防災扉。
【請求項4】
前記滑車装置は、扉ワイヤーと、支柱に軸支される扉シーブと、扉ウインチとを有し、前記扉ワイヤーは前記外扉に接続されて、前記扉シーブを経由して、前記扉ウインチに接続されることを特徴とする請求項3に記載の防災扉。
【請求項5】
前記滑車装置は、前記支柱に固定されるスライド板と、外扉に軸支されるとともに、前記スライド板にスライド自在に固定される回動棒と、を有し、前記扉ワイヤーは、前記回動棒を介して、前記外扉に接続されることを特徴とする請求項4に記載の防災扉。
【請求項6】
前記滑車装置は、カウンターウエイトを有し、前記扉ワイヤーは、前記シーブを経由し、カウンターウエイトを介して前記扉ウインチに接続されることを特徴とする請求項4または5に記載の防災扉。
【請求項7】
前記外扉の上方にリフト装置が設けられることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の防災扉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外扉と内扉が上方に回動する2層構造のシェルター用防災扉に関する。
【背景技術】
【0002】
関東大震災や阪神・淡路大震災では、地震に起因する火災、いわゆる地震火災が同時多発的に発生し甚大な被害をもたらした。地震火災は、本震直後から出火し、その件数は建物倒壊数に比例して増大するとされる。また、消防力の分散、建築倒壊や道路損壊による交通障害の発生、消火栓や水道管の破損による水利不足、交通渋滞などの要因が複合して消火活動が阻害されることから、延焼範囲は拡大し、鎮火するまでの時間は長引くことになる。東日本大震災では、過去最大級の津波・津波火災が発生したことによって、多くの尊い人命が失われた。
【0003】
今後発生が予想される大都市直下地震では、すでに都市の近代化が進み十分な対策が取られていることから、関東大震災や阪神・淡路大震災のように甚大な被害をもたらさないとも考えられる。しかし、大都市においても、現時点で木造住宅密集地は多数存在し、しかも関東大震災当時と比べ過密な状態となっている。
【0004】
木造密集地域で発生する地震火災は延焼速度が早く、かつ同時多発的に巨大な火炎が迫る危険があるため、逃げ遅れないために早期に避難することが重要である。しかし、安全な場所に避難しようとしても、道路は避難する人々で前に進めない事態が想定される。仮に、前に進めたとしても倒壊した家屋によって道路が塞がれ、さらに橋梁の倒壊等によって避難路が確保できない事態も予想される。
【0005】
2013年の内閣府発表では、近々に発生が予測される「南海トラフ巨大地震」での死亡予想者数は、2003年の中央防災会議の想定と比べて13倍と大幅に増加している。このうち津波による死者は全体の7割を占めている。
【0006】
さらに、近年の緊迫した国際情勢に鑑みると、地震等の災害のみならず、放射能被爆被害に対応可能な性能を具備するシェルターが求められる。スイス、イスラエルでは核シェルターの普及率は100%であるが、日本ではわずか0.02%に過ぎない。日本においても有事に対応可能な核シェルターの普及が必要である。
【0007】
このような状況に鑑みると、長時間続く火災、津波、および放射線に対応可能なシェルターが求められる。しかしながら、これらの全てに対応可能なシェルターは開発されていないのが現状である。開発を阻害する要因として、これらの全てに対応可能な扉の開発がなされていないことが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015−020603号公報
【特許文献2】特開2013−015796号公報
【特許文献3】特開2013−160037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、長時間続く火災、津波、および放射線に対応可能なシェルターに用いる防災扉を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するための地下シェルターに配設される防災扉であって、開口部が設けられた枠体と、枠体に、上方に向かって回動するように支持された開口部を開閉する外扉と、外扉の下方に設けられて、枠体に、上方に向かって回動するように支持された開口部を開閉する内扉と、枠体と、外扉と、内扉が協働して設ける貯水空間に、水を供給する給水装置と、貯水空間に供給された水を排出するための排水装置と
、外扉と、内扉は、どちらか一方の扉が回動したとき、他方の扉を同方向に回動させるための回動同期装置を備えることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、火炎熱をシェルターの内部に伝え易い扉の部分を、外扉と内扉の二重構造としている。さらに外扉と、内扉等が協働して設ける貯水空間に水が充填可能となるので、高い断熱性能を具備する。また、貯水空間には中性子遮蔽性能を具備する水が充填されているので、放射線を遮蔽する扉として用いることもできる。また、水は扉内にあらかじめ充填されるのではなく、貯水空間に充填されるので、扉の軽量化を図ることができる。
さらにこの構成によれば、外扉と、内扉は、どちらか一方の扉が回動したとき、他方の扉を同方向に回動させるための回動同期装置を備えるので、外扉と内扉のそれぞれを個別に回動することなく、容易に外扉および内扉を回動することができる。
【0012】
好ましくは、外扉は、鋼とコンクリートの複合構造体である。
この構成によれば、外扉は、鋼とコンクリートの複合構造体であるので、外力に対して、高い耐荷重性能を具備する。
【0013】
好ましくは、外扉の厚さは、10cm〜30cmである。
【0014】
この構成によれば、鋼とコンクリートの複合構造体で構成される外扉の厚さは、10cm〜30cmであるので、所定の放射線遮蔽性能を具備する。
【0015】
好ましくは、内扉は鋼製である。
【0016】
この構成によれば、内扉は高い剛性と強度を具備する鋼製であるので、薄い鋼板で内扉を設けることができる。
【0017】
好ましくは、内扉は、鉛板を鋼板で挟持した複合構造体である。
【0018】
この構成によれば、内扉は高い放射線遮蔽性能を具備する鉛板を、高い剛性と強度を具備する鋼板で挟持しているので、高い放射線遮蔽性能を具備するとともに、高い強度を具備する。
【0021】
好ましくは、回動同期装置は、内扉をロックしたとき、地下シェルターの内側から外扉をロックできる。
【0022】
この構成によれば、地下シェルターの内側から容易に外扉をロックできる。
【0023】
好ましくは、開口部を開閉するための滑車装置を備える。
【0024】
この構成によれば、開口部を開閉するための滑車装置を備えるので、滑車装置を用いて外扉および内扉を開閉することができる。
【0025】
好ましくは、滑車装置は、扉ワイヤーと、支柱に軸支される扉シーブと、扉ウインチとを有し、扉ワイヤーは外扉に接続されて、扉シーブを経由して、扉ウインチに接続される。
【0026】
この構成によれば、定滑車を用いて扉ウインチで扉ワイヤーを巻き上げ、巻き戻しをすることで容易に外扉および内扉を開閉できる。
【0027】
好ましくは、滑車装置は、支柱に固定されるスライド板と、外扉に軸支されるとともに、スライド板にスライド自在に固定される回動棒を有し、扉ワイヤーは、回動棒を介して、外扉に接続される。
【0028】
この構成によれば、滑車装置は、支柱に固定されるスライド板と、外扉に軸支されるとともに、スライド板にスライド自在に固定される回動棒を有し、扉ワイヤーは、回動棒を介して、外扉に接続されるので、安定して外扉および内扉を開閉することができる。
【0029】
好ましくは、滑車装置は、カウンターウエイトを有し、扉ワイヤーは、シーブを経由し、カウンターウエイトを介して扉ウインチに接続される。
【0030】
この構成によれば、滑車装置は、カウンターウエイトを有し、扉ワイヤーは、シーブを経由し、カウンターウエイトを介して扉ウインチに接続されるので、低いトルクで扉ワイヤーの巻き上げ、巻き戻しができる。
【0031】
好ましくは、外扉の上方にリフト装置が設けられる。
【0032】
この構成によれば、障害者、老人、子供等の弱者が迅速にシェルターに避難することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】防災扉の概略正面断面図(滑車装置等一部は正面図)である。
【
図2】外扉、内扉および滑車装置の部分平面模式図である。
【
図4】扉シーブの支柱への取付け状態を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0035】
防災扉1は、火災の際に、火炎熱を断熱するとともに、津波の波力に耐え、さらに放射線遮蔽性能を具備するものである。防災扉1を地下シェルター100に用いることで、津波、津波火災、火災、放射能被害等のほとんどの災害に対して避難可能となる。
図1に示す通り、防災扉1は、枠体50と、外扉55と、内扉56と、滑車装置2と、リフト装置8を備える。また、貯水空間75に給水するための給水装置3と、貯留された水を排水するための排水装置4を備える。さらに、
図3のみに示す回動同期装置7を備える。
【0036】
図1に示す通り、地中140に埋設された地下シェルター100は、天井板110と側壁111と床114を有して、これらが協働して避難空間120が設けられている。天井板110、側壁111の避難空間120側には断熱材112が張り付けられている。天井板110には、天井開口部113が設けられている。ここで、地下シェルター100とは、避難空間120が、地中140に設けられているシェルターをいう。
【0037】
図1、2に示す通り、天井板110の上面に、枠体開口部59が設けられた枠体50が配設されている。枠体50は、枠本体52を有し、さらに枠本体52の下端部から枠体開口部59の方向に水平に延びる封止板52aを有している。枠体50は、正面断面視で階段状の形状であり、階段の上段に外扉55が、下段に内扉56が配設されている。
【0038】
図2、3に示す通り、平面視で矩形の外扉55は、鋼製の外枠55aと、コンクリート製の充填体55bを有する鋼とコンクリートの複合構造体であり、上方に回動できるように、2個の丁番57を介して枠本体52に支持されている。枠本体52の階段状の踏み面に該当する面55eに、外扉55との隙間を塞ぐためのパッキン55cが配設されている。
【0039】
図6に示す通り、外枠55aは底版550aと、底版550aの外縁から垂直に延びる側板550bで構成された構造体であり、底版550aと、側板550bが協働して上方に開口する開口凹部550cを設ける。充填体55bは、この上方に開口する開口凹部550cにコンクリートを隙間なく充填することで構築される。鋼とコンクリートの複合体とすることで、津波の波力や、津波による漂流物の衝突に耐えることができる。外扉55の厚さは10cm〜30cmとすることが好ましい。これにより、目標とする放射線遮蔽性能を具備する。また、外扉55として、鋼製の箱の中にコンクリートを充填した構造体としてもよい。本実施形態の外扉55に比べ、高強度化を図ることができる。
【0040】
平面視で矩形の内扉56は、
図3に示す通り、鉛製のコア板56bの両面を鋼製の挟持板56aで挟持した複合構造体であり、上方に回動できるように、2つの丁番58を介して枠本体52に支持されている。高い放射線遮蔽性能を具備する鉛製のコア板56bの両面を高強度・高剛性の鋼製の挟持板56aで挟持することで、内扉56は、高い放射線遮蔽性能を具備するとともに、所定の強度を有する。また、内扉56は鋼板のみで構成してもよい。外扉55の構成および厚さ、並びに内扉56の構成等については、目標とする放射線遮蔽性能、作用する外力等の諸条件を考慮して適宜・適切に定める。
【0041】
図7に示す通り、封止板52aは中央部に矩形の空間520が設けられた矩形の板状の構造体であり、環状先端部52bが枠本体52の下端部から枠体開口部59の方向に水平に延びた状態で枠本体52に設けられている。環状先端部52bに、内扉56との隙間を塞ぐためのパッキン56cが配設されている。
【0042】
図3に示す通り、回動縁55d側の端部の下側に2組のカムロック71が配設されている。カムロック軸体71aの一方の端部に突起部71bが設けられ、他方の端部には、垂直に延びるレバー71dが設けられている。カムロック軸体71aは、回動端部(回動縁55d側の端部)の下側に固定された2個の支持部材71cに回転自在に、かつスライド自在に支持されている。レバー71dを、回動縁55dの方向にスライドさせ、回転することで突起部71bは封止板52aを押圧する。これにより、内扉56は、ロックされる。また、レバー71dを回転して押圧状態を解き、丁番58側にスライドさせることで、内扉56を回動することができる。
【0043】
回動同期装置7は、ナット筒73と、緊張ボルト74と、緊張ワイヤー72を有している。
図3に示す通り、ナット筒73は、緊張ボルト74を螺着した状態で、内扉56の両面に突設して設けられている。緊張ボルト74は、緊張ワイヤー72を介して外扉55に接続している。緊張ワイヤー72は、内扉56と、外扉55のそれぞれが、枠体開口部59を閉鎖する状態では若干緩んだ状態となっている。内扉56と、緊張ワイヤー72の取り付け位置間の距離は、内扉56と、外扉55のそれぞれを回動したとき、拡大する。これによる張力を生じさせないためである。緊張ボルト74を回転することで、若干緩んだ状態の緊張ワイヤー72は緊張した状態で緊張ボルト74と外扉55に接続される。これにより、外扉55を避難空間120側からロックできる。
【0044】
図1に示す通り、給水装置3は、タンク31と、給水管32と、給水バルブ33を有している。タンク31は、貯水空間75に供給する水を貯留するためのものであり、地面150の上面に設けられている。タンク31の貯水容量は、貯水空間75が満水状態となる水量より大きく設定するのが好ましい。これにより、充分な水が貯水空間75に供給できる。タンク31に貯留する水として、雨水を用いても良い。これにより、資源の有効活用を図ることができる。
【0045】
給水管32はタンク31に貯留されている水を貯水空間75に送水するためのものであり、一方の端部はタンク31に、他方の端部は給水バルブ33を経由して貯水空間75に接続されている。給水バルブ33は給水管32を開閉するためのものであり、避難空間120内に配設されている。
【0046】
排水装置4は、排水管45と排水バルブ46を有している。排水管45は貯水空間75に貯留されている水を排出するためのものであり、一方の端部は封止板52aを貫通して貯水空間75に接続し、他方の端部は排水バルブ46を経由して側溝(図示略)に接続されている。排水バルブ46は排水管45を開閉するためのものであり、避難空間120内に配設されている。
【0047】
外扉55に、4個の減圧弁70が取り付けられている。減圧弁70は、貯水空間75に給水したとき、内部の空気を排出し、さらに、貯水空間75内の水が火炎熱等で加熱されたとき、水蒸気を貯水空間75の外に排出する。これにより、内部の圧力の上昇を抑制する。
【0048】
図1、2に示す通り、滑車装置2は、扉ウインチ26を作動することにより、外扉55および内扉56を回動するものである。
【0049】
支柱20は、対向する一対の支柱板20a、20aと、支柱板20aの上端部を補強するための補強板28a、28bを有している。対向する一対の支柱板20a、20aは、平面視で丁番57の取付け面52dに垂直な状態で、枠体50に固定されている。
図4に示す通り軸支部材24aが、扉シーブ24を軸支する状態で、一対の支柱板20a、20aに固定されている。
【0050】
一対の支柱板20a、20aの枠体開口部59側にスライド板23が取り付けられている。
図5に示す通り、スライド板23の中央部に、上下方向に延びるスリット23aが設けられている。スリット23aは、回動棒21を上下方向にスライドさせるためのものである。スリット23aの上下方向の長さは、外扉55を所定の位置まで回動させる長さに設定されている。
【0051】
回動棒21の一方の端部は、外扉55に設けられる軸支部材22に軸支され、他方の端部はスリット23aに挿通されている。また、回動棒21がスリット23aから抜け落ちるのを防止するためのストッパー26aが回動棒21の他方の端部の先端部に取り付けられている。ストッパー26aには凹部26bが設けられており、この凹部26bに扉ワイヤー25の一方の端部が接続されている。これにより、扉ワイヤー25の回動棒21からの抜け出しを防止できる。
【0052】
扉ワイヤー25は、扉シーブ24を経由することで方向を転換し、下方に向かって延びカウンターウエイトWを介して扉ウインチ26に接続する。扉ウインチ26は、一対の支柱板20a、20a間に取り付けられた支持板27に固定されている。カウンターウエイトWは、扉ウインチ26の負荷を低減するためのものであり、外扉55の重量よりも軽いことが好ましい。これにより、扉ウインチ26を動作しない状態(カウンターウエイトWと扉ウインチ26間の扉ワイヤー25が若干たるんでいる状態。)で、外扉55は、枠体開口部59を閉鎖した状態を保つ。
【0053】
外扉55が枠体開口部59を閉鎖した状態で、扉ウインチ26を動作すると、回動棒21の他方の端部はスライド板23に設けられたスリット23aに沿って上昇する。これに伴い、外扉55は上方に回動する。外扉55が上方に回動すると、若干たるんだ状態となっている緊張ワイヤー72は、緊張する。これにより、内扉56は追従して上方に回動する。内扉56が追従して上方に回動するに伴い、緊張ワイヤー72の接続点の距離(緊張ワイヤー72の外扉55および緊張ボルト74の接続地点間の距離)は長くなり、外扉55の上方への回動が拘束される事態が想定される。緊張ワイヤー72を、接続点の最大距離長さ以上に設定することで、外扉55の上方への回動が拘束されることは回避できる。
【0054】
一対のロールバー65、65が、枠体開口部59の外側に設けられている。それぞれのロールバー65は棒状の曲線部材であり、一方の端部は枠本体52に固定されて、他方の端部は支持材66に支持されている。支持材66は、ロールバー65を支持し、枠本体52に固定される単柱である。
【0055】
ロールバー65は、回動縁55dの回動軌跡から上方、および側方に一定の距離を置いて設けられている。これにより、外扉55を回動する際、ロールバー65が開閉の妨げとなることはない。また、ロールバー65の上端部にはLED照明65aが配設されて、夜間に周辺を照らしている。これにより、夜間に地下シェルター100に避難しなければならない場合でも、出入口の位置が明確に視認できるので、安全に、かつ迅速に地下シェルター100に避難することができる。
【0056】
リフト装置8は、天井部88と、天井部88を支持し枠本体52に固定される脚部89と、天井部88に固定されるリフト滑車85と、支持板29を介して一対の支柱板20a、20aに固定されるリフト滑車86および滑車ウインチ47と、フック81と、フック81に接続し、リフト滑車85、86を経由して滑車ウインチ47に接続するリフトワイヤー82を有している。リフト装置8は、人が乗車した車椅子を懸垂することができる強度を具備することが好ましい。滑車ウインチ47を作動してリフトワイヤー82を巻き上げ、巻き戻すことにより、障害者の方々を、車椅子で避難空間120の内外へ移動することができる。
【0057】
ロールバー65および天井部88に泡ヘッド61が取り付けられている。泡ヘッド61は泡消火設備(図示略)で製造された泡消火水を、周辺の空気を吸い込んで泡状にして大気中に放出するためのものである。泡ヘッド61から放出された泡消火水は火炎源を泡で覆うことによる窒息効果と、泡を構成している水による冷却効果によって火災を早期に沈静化する。泡ヘッド61から下方に向けて泡消火水を放出することで、防災扉1の周辺の火炎源は泡に覆われる。これにより、火災を早期に鎮静化できる。
【0058】
避難空間120に避難する手順について説明する。
災害の発生が予測されるとき、遠隔操作で、扉ウインチ26を作動し、外扉55を上方に回動する。外扉55の上方への回動に伴い、緊張ワイヤー72は緊張し内扉56が外扉55に追従して上方に回動する。これにより枠体開口部59は開口され、避難空間120へ往来が可能となる。
【0059】
枠体開口部59から、避難空間120へ移動する。障害者の方々は、滑車ウインチ47を遠隔操作で作動して、車椅子で避難空間120へ移動することもできる。避難空間120への移動が完了した後、遠隔操作で扉ウインチ26を巻き戻し、枠体開口部59を外扉55および内扉56で閉鎖する。
【0060】
カムロック71を回転して内扉56をロックする。その後、緊張ボルト74を回転して、若干緩んだ状態となっている緊張ワイヤー72を緊張する。緊張ワイヤー72に導入される張力によって、外扉55はロックされる。内扉56および外扉55と枠体50間の隙間はパッキン56c、55cによって封止され貯水空間75は水密状態となる。避難空間120に配設された給水バルブ33を開放して水密状態となった貯水空間75に給水する。給水過程で減圧弁70から圧縮された空気が外部に放出され貯水空間内の圧力上昇を抑制する。比熱の大きい水を充填することで、避難空間120の温度上昇を抑制できる。また、火炎源で貯水空間75に供給された水が加熱され気化する場合は、減圧弁70から水蒸気が放出される。このときの潜熱効果により、外扉55および内扉56の温度上昇は抑制される。
【0061】
避難空間120からの遠隔操作、またはセンサーで検知することで泡ヘッド61から泡消火水を放出する。放出される泡消火水の泡で、火炎源を覆うことにより火災を早期に鎮静化させる。
【0062】
災害の影響がないと認められる段階で、避難空間120に配設された排水バルブ46を開放して、貯水空間75に貯留された水を外部に排出する。その後、カムロック71を回転してロックを解くとともに、緊張ボルト74を回転して緊張ワイヤー72の緊張を解き、緊張ワイヤー72を緩める。
【0063】
避難空間120からの遠隔操作で、扉ウインチ26を巻き上げ、外扉55および内扉56を上方に回動する。開放された枠体開口部59から外部に移動する。障害者の方々は、滑車ウインチ47を遠隔操作で作動して、車椅子で避難空間120の外に移動する。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係る防災扉を、地下シェルターに用いることで放射線、地震、および火災に対応できるシェルターとすることができる。狭隘な土地に容易に設置できるので、特に、住宅密集地において、産業上の利用可能性は大である。
【符号の説明】
【0065】
1 :防災扉
2 :滑車装置
3 :給水装置
4 :排水装置
7 :回動同期装置
8 :リフト装置
20 :支柱
21 :回動棒
23 :スライド板
23a :スリット
24 :扉シーブ
25 :扉ワイヤー
26 :扉ウインチ
31 :タンク
32 :給水管
33 :給水バルブ
45 :排水管
46 :排水バルブ
47 :滑車ウインチ
50 :枠体
55 :外扉
56 :内扉
59 :枠体開口部
72 :緊張ワイヤー
73 :ナット筒
74 :緊張ボルト
75 :貯水空間
100 :地下シェルター
120 :避難空間
W :カウンターウエイト
【要約】 (修正有)
【課題】長時間続く火災、津波、および放射線に対応可能なシェルターに用いる防災扉を提供すること。
【解決手段】防災扉1は、火災の際に、火炎熱を断熱するとともに、津波の波力に耐え、さらに放射線遮蔽性能を具備するものであり、防災扉1を地下シェルター100に用いることで、津波、津波火災、火災、放射能被害等のほとんどの災害に対して避難可能となり、防災扉1は、枠体50と、上方に回動可能に支持された外扉55と内扉56を備えていて、外扉55は厚さ10cm〜30cmの鋼とコンクリートの複合構造体であり、内扉は鉛板を鋼板で挟持した構造体であり、また、枠体50と、外扉55と、内扉56が協働して設ける貯水空間75に水を供給する給水装置3、供給された水を外部に排出する排水装置4を備え、さらに、外扉55を回動する滑車装置2を備え、内扉56は回動同期装置により外扉55と同期して回動する。
【選択図】
図1