【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 掲載年月日 : 平成26年 8月14日 掲載アドレス:http://www.abstractsonline.com/Plan/ViewAbstract.aspx?mID=3527&sKey=3a6126e7−7aff−4395−901d−bb5c85efc049&cKey=19e4ad74−e0b4−432f−9063−046f623f94f5&mKey=54c85d94−6d69−4b09−afaa−502c0e680ca7
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、文部科学省「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明(中核拠点)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
MILLS, Kerry R.,CORTICOMOTOR THRESHOLD TO MAGNETIC STIMULATION:NORMAL VALUES AND REPEATABILITY,MUSCLE NERVE,1997年,Vol.20,570-576
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記閾値マップが生成されると、前記複数の刺激子の各刺激子に対応付けられる強度の更新の履歴を消去し、当該各刺激子に対応付けられて前記推定された閾値を当該各刺激子に対応付けられる強度の初期値として、前記繰り返しならびに前記生成を、再度行う
ことを特徴とする請求項2に記載の閾値推定装置。
前記閾値マップが生成された後に、前記生体に刺激を与えないまま、前記複数の刺激子の各刺激子を介して、前記生体における当該各刺激子が配置された位置の電位を観測することにより、観測マップを生成してから、前記繰り返しならびに前記生成が、再度行われる
ことを特徴とする請求項3に記載の閾値推定装置。
前記選択部は、前記複数の刺激子のうち、当該刺激子に対応付けられる閾値の推定がされていない刺激子が複数あれば、異なる刺激子であって、当該刺激子が前回選択されてから既に少なくとも前記第2待機時間が経過している刺激子を選択する
ことを特徴とする請求項1に記載の閾値推定装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態を説明する。なお、本実施形態は、説明のためのものであり、本発明の範囲を制限するものではない。したがって、当業者であれば、本実施形態の各要素もしくは全要素を、これと均等なものに置換した実施形態を採用することが可能である。また、各実施例にて説明する要素は、用途に応じて適宜省略することも可能である。このように、本発明の原理にしたがって構成された実施形態は、いずれも本発明の範囲に含まれる。
【実施例1】
【0017】
(閾値推定装置が実現されるハードウェア)
本実施形態に係る閾値推定装置は、典型的には、プログラムをコンピュータが実行することによって実現される。当該コンピュータは、刺激子等の各種の出力装置や、筋電位センサ等の入力装置に接続され、これらの機器と情報を送受する。
【0018】
コンピュータにて実行されるプログラムは、当該コンピュータが通信可能に接続されたサーバにより配布、販売することができるほか、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)やフラッシュメモリ、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)などの非一時的(non-transitory)な情報記録媒体に記録した上で、当該情報記録媒体を配布、販売等することも可能である。
【0019】
プログラムは、コンピュータが有するハードディスク、ソリッドステートドライブ、フラッシュメモリ、EEPROM等などの非一時的な情報記録媒体にインストールされる。すると、当該コンピュータにより、本実施形態における情報処理装置が実現されることになる。一般的には、コンピュータのCPU(Central Processing Unit)は、コンピュータのOS(Operating System)による管理の下、情報記録媒体からRAM(Random Access Memory)へプログラムを読み出してから、当該プログラムに含まれるコードを解釈、実行する。ただし、CPUがアクセス可能なメモリ空間内に情報記録媒体をマッピングできるようなアーキテクチャでは、RAMへの明示的なプログラムのロードは不要なこともある。なお、プログラムの実行の過程で必要とされる各種情報は、RAM内に一時的(temporary)に記録しておくことができる。
【0020】
なお、汎用のコンピュータにより本実施形態の情報処理装置を実現するのではなく、専用の電子回路を用いて本実施形態の情報処理装置を構成することも可能である。この態様では、プログラムを電子回路の配線図やタイミングチャート等を生成するための素材として利用することもできる。このような態様では、プログラムに定められる仕様を満たすような電子回路がFPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)により構成され、当該電子回路は、当該プログラムに定められた機能を果たす専用機器として機能して、本実施形態の情報処理装置を実現する。
【0021】
以下では、理解を容易にするため、閾値推定装置は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現される態様を想定して説明する。
【0022】
(閾値推定装置の構成)
図1は、本発明の実施例に係る閾値推定装置の概要構成を示す説明図である。本図に示すように、閾値推定装置101は、設定部102、選択部103、刺激部104、検出部105、更新部106、推定部107、記憶部111を備える。また、閾値推定装置101は、省略可能な要素として、生成部108を備えることができる。
【0023】
ここで、閾値推定装置101は、生体を刺激するための複数の刺激子に接続されている。以下では、刺激子として、網目状に配置された侵襲的な複数の電極を利用することを想定して説明するが、非侵襲的な網状刺激電極を刺激子として利用したり、磁気刺激を与えるためのコイルを刺激子として利用することも可能である。
【0024】
さて、閾値推定装置101は、いずれの電極を介して生体にどのような強度の刺激を与えるか、の制御を行う。
【0025】
設定部102は、複数の電極の各電極に対応付けられる強度の初期値を設定する。典型的には、コンピュータのCPUが設定部102として機能する。
【0026】
各電極に対応付けられて設定された強度の初期値は、記憶部111に記憶される。また、後述するように、各電極に設定される強度は、処理が進むにつれて更新され、その更新履歴も記憶部111に記憶される。典型的には、記憶部111は、コンピュータのRAMにより実現される。更新履歴は、配列やキューなどの形態で保存される。
【0027】
なお、後述するように、閾値推定装置101は、複数の電極の各電極に対応付けられる閾値を推定することを目的とする。したがって、各電極について、閾値の推定が完了したか否かの情報、ならびに、推定が完了することにより得られた閾値についても、記憶部111に保存される。
【0028】
さて、選択部103は、複数の電極のうち、当該電極に対応付けられる閾値の推定がされていない電極を選択する。典型的には、コンピュータのCPUが選択部103として機能する。閾値の推定がされていない電極が一つだけに残った場合には、同じ電極が続けて選択されることになるが、それ以外の場合には、同じ電極や近傍の部位を刺激する電極が頻繁に連続して選択されることが生じないように、電極をランダムに選択することが望ましい。
【0029】
一方、刺激部104は、選択された電極を介して、選択された電極に対応付けられる強度の刺激を、生体に与える。典型的には、コンピュータのCPUが、外部入出力インターフェースを介して電極を制御することにより、刺激部104として機能する。
【0030】
さらに、検出部105は、与えられた刺激に誘発された反応が生体に生じたか否かを検出する。典型的には、コンピュータのCPUが、外部入出力インターフェースを介して筋電位センサ等を制御することにより、検出部105として機能する。
【0031】
そして、更新部106は、反応が生じていれば、選択された電極に対応付けられる強度を減少させ、反応が生じていなければ、選択された電極に対応付けられる強度を増加させる。典型的には、コンピュータのCPUが、更新部106として機能する。
【0032】
強度の増加および減少の幅は、固定値とするのが最も単純である。たとえば、電極を介して与えられる最大強度の5パーセントを、増減の幅とすることができる。
【0033】
また、増減の幅が、次第に小さくなるようにしてもよい。たとえば、ある電極を介して初めて刺激を与えた後は、最大強度の10パーセントを増減幅とし、当該電極を介した2回目の刺激の後は、8パーセントの増減幅、当該電極を介した3回目の刺激の後は、7パーセントの増減幅、当該電極を介した4回目の刺激の後は、6パーセントの増減幅、当該電極を介した5回目以降の各刺激の後は、一律に5パーセントの増減幅とする、等である。
【0034】
更新された強度は、電極ごとに、記憶部111の履歴に追加される。すなわち、記憶部111に記憶されたある電極に対する強度の更新履歴において、最初の要素は、その電極を介した刺激の強度の初期値であり、最後の要素は、その電極を介した次の刺激で使用される強度である。
【0035】
推定部107は、複数の電極の各電極に対応付けられて更新された強度が所定の収束条件を満たせば、当該収束条件を満たす電極に対応付けられて更新された強度の収束値を、当該収束条件を満たす電極に対応付けられる閾値と推定する。
【0036】
たとえば、ある電極に対する強度の更新履歴に含まれる直近(末尾)5つの強度の最大値と最小値の差が、更新による増減幅の最小値以内(たとえば、電極を介して与えられる最大強度の5パーセント以内)であれば、当該電極に対する収束条件が満たされたものと判断することができる。更新履歴のうち、何回分を収束条件の判定に用いるか、および、最大値と最小値の差を、どのような値と対比するか、は、用途に応じて適宜変更が可能である。
【0037】
また、収束値としては、当該更新履歴の末尾の値、当該更新履歴の末尾の直前の値、当該更新履歴の末尾の所定個数分の平均値や中央値、当該更新履歴の末尾の所定個数分の最大値と最小値の中間値等を採用することができる。
【0038】
そして、閾値推定装置101は、複数の電極の各電極に対応付けられる閾値がすべて推定されるまで、選択部103による選択、刺激部104による刺激、検出部105による検出、更新部106による更新、推定部107による推定を繰り返す。この繰り返しは、典型的には、コンピュータのCPUにより制御される。
【0039】
上記のように、選択部103は、できるだけ同じ電極が続けて選択されないように、電極の選択を行う。そこで、選択部103により続けて選択された電極が、
(a)同じ電極であれば、当該同じ電極を介して先の刺激が与えられてから第1待機時間経過後に、当該同じ電極を介して後の刺激が与えられ、
(b)異なる電極であれば、当該続けて選択された電極のうち先に選択された電極を介して先の刺激が与えられてから第2待機時間経過後に、当該続けて選択された電極のうち後に選択された電極を介して後の刺激が与えられる。
ここで、第2待機時間は、第1待機時間より短い。
【0040】
一般に、生体に刺激を与えてその反応を観察する場合に、同じ刺激を短時間に連続して与えると、反応が次第に現れなくなる、という症状が生じる。そこで、前回と同じ電極を介して刺激を与える際には、前回の刺激が忘却されるように、十分に長い第1待機時間だけ時間を置く必要がある。
【0041】
一方、前回と異なる電極を介して刺激を与える際には、上記のような症状は出現しにくいと考えられる。そこで、前回の刺激から今回の刺激までは、第1待機時間より短い第2待機時間とすることができる。
【0042】
このように、本実施例では、刺激を与える電極を適切に選択し、刺激を与える時間間隔をできるだけ短し、強度の更新幅および収束条件を適切に設定することで、従来よりも、格段に短い時間で、各電極に対応付けられる閾値を推定することができる。
【0043】
さて、すべての電極に対応付けられる閾値が推定がされると、複数の電極の各電極の位置と、各電極に対応付けられて推定された閾値と、から、閾値の分布を表す閾値マップを生成する。
【0044】
たとえば、電極として、生体の脳の皮質硬膜の上、中、もしくは下に配置される皮質脳波電極を採用し、検出部105は、反応として、誘発筋活動を検出する態様では、生成部108により得られる閾値マップは、脳機能の局在性を表現する脳機能マップに相当する。
【0045】
従来技術では、32個の電極を用いて1つの脳機能マップを得るのに、約30分の時間を要していた。一方、本実施形態では、後述するように、1つの脳機能マップを得るのに要する時間は、約4分である。したがって、本実施形態では、従来よりも、格段に短い時間で、各電極に対応付けられる閾値を推定することができる。
【0046】
(機能マップ作成の具体例)
以下、本実施形態に係る閾値推定装置101にて実行される処理について、皮質運動野の脳機能マップを生成する具体例をまじえながら説明する。
図2は、機能マップを作成する具体例を示す説明図である。
【0047】
本具体例では、生体201として、哺乳類の実験用に広く用いられるげっ歯類であるラットならびに小型霊長類であるコモンマーモセットを採用した。
【0048】
生体201には、アレイ状に配置されたNチャンネルの皮質脳波電極202により刺激が与えられる。すなわち、電極の数はN個である。以下、各チャンネルの電極を、ED[0], ED[1], …, ED[N-1]のように表記する。
【0049】
皮質脳波電極202は、生体201の皮質硬膜上、皮質硬膜内、もしくは、皮質硬膜下に置かれる。
【0050】
本例では、電極ED[0], ED[1], …, ED[N-1]のうち、いずれか1つを選択して皮質刺激を行う。そこで、電極を選択するために、マルチプレクサ203(たとえば、Analog Devices社のADG406を4つ使用)を利用する。
【0051】
マルチプレクサ203の選択パターンは、閾値推定装置101からの指示の下、アースとの接地間絶縁がなされたデジタル入出力モジュール204(たとえば、National Instruments社のNI9403)により制御され、TTLレベルのデジタル信号により切り換えられ、ED[0], ED[1], …, ED[N-1]のうち、いずれか1つが選択される。
【0052】
閾値推定装置101から刺激電流の強度を示す指示が出力されると、アナログ入出力モジュール205(たとえば、National Instruments社のNI PCIe-6321)は、アナログ信号による刺激波形を出力し、この波形に基づいて、アイソレータ206(たとえば、日本光電社のSS-203J)が刺激電流を生成する。本具体例では、10連の双極性パルスの振幅が、閾値推定装置101により指示される。なお、当該双極性パルスの各パルスは、1ms間隔で与えられるので、電気刺激の時間長は10msとなる。
【0053】
生成された刺激電流は、マルチプレクサ203に入力端子に印加され、選択された電極から出力される。これにより、生体201に刺激が与えられる。
【0054】
生体201においては、刺激の強度が閾値より高ければ誘発筋活動が生じ、低ければ生じない。筋電位センサ207により取得された誘発筋活動は、生体信号増幅器208(g.tec社のg.USBamp)が1Hzないし1000Hzの周波数帯をバンドパスし、サンプリング周波数2400Hzでアナログ/デジタル変換して、閾値推定装置101に伝達される。
【0055】
誘発筋活動は、刺激が与えられた後、10-20ms程度で生じ、10ms程度の継続する。誘発筋運動が生じたか否かは、刺激が終わった後所定振幅以上の筋電位変化が生じたか否か、により弁別する。したがって、ある電極を介して刺激を与え始めた時点から、当該刺激に反応する誘発筋活動が生じたか否かの判定が終わる時点までの時間長は、40ms程度とすれば十分である。
【0056】
さて、従来より、同じ電極を介して同じ箇所に刺激を与える場合には、1s乃至2s以上の時間を置くことが望ましい、とされている。また、従来技術では、同じ電極を介して同じ箇所に刺激を与える刺激を所定回数(たとえば、7回乃至10回)行った際に、所定割合(たとえば、半数)の回数以上誘発筋運動が生じる刺激強度のうち、最低の強度を、閾値としている。
図4は、従来例により閾値が推定される様子を示す説明図である。
【0057】
本図に示す例では、順に、
(a) 強度0.50mAの刺激を6回では、MEPが6回生じ、
(b) 強度0.45mAの刺激を7回では、MEPが6回生じ、
(c) 強度0.40mAの刺激を7回では、MEPが1回生じ、
(d) 強度0.45mAの刺激を8回では、MEPが6回生じている。
したがって、閾値は、0.45mAと推定されることになる。
【0058】
しかしながら、この手法では、刺激を28回行って初めて、閾値の推定が完了する。このため、ある箇所の閾値のみを求めようとする場合には、28s乃至28×2s=56s≒1min程度の時間を要することになる。従来は、この手法を単純に応用して、ある箇所に電極を設置して閾値を求めてから別の箇所に移る、という繰り返しにより、機能マップを作成していたので、たとえば2s間隔で刺激をして32箇所の閾値を求めようとすると、30分程度の時間が必要となっていた。
【0059】
本実施形態では、以下に説明するように、ある箇所における閾値が求められるまでに必要な刺激回数を激減させるとともに、複数箇所における刺激の順序を工夫することで、多数の箇所における閾値をすべて求めるのに必要な時間を激減させることができる。
【0060】
なお、以下では、同じ箇所に刺激を与える際の望ましい最低間隔(上記例の「1s乃至2s程度」に相当する。)を、第1待機時間と呼ぶ。また、ある箇所に刺激を与えてから生体の反応が生じたか否かの判定が完了するまでの時間長(上記例の「30ms程度」に相当する。)を、第2待機時間と呼ぶ。一般に、第2待機時間は、第1待機時間より短い。
【0061】
(閾値推定装置における処理)
図3は、閾値推定装置にて実行される処理の流れを示すフローチャートである。以下、本図を参照して説明する。なお、本図に示すデータ構造および制御の流れは、適宜追加、変更、入れ換え、省略等が可能である。
【0062】
さて、本処理が開始されると、CPUは、RAM内に、各電極ED[0], ED[1], …, ED[N-1]にそれぞれ対応付けられる閾値のキューQ[0], Q[1], …, Q[N-1]と、求められた閾値が格納されるべき結果変数T[0], T[1], …, T[N-1]と、閾値の推定が完了していない数が格納される未完変数Lと、最後に刺激を与えた電極の番号変数Mと、を確保し、各キューは空に初期化し、結果変数T[0], T[1], …, T[N-1]は負の値に初期化し、未完変数LはNに、番号変数Mは-1に、それぞれ初期化する(ステップS301)。ここで、結果変数T[i]が負の値であれば、電極ED[i]に対する閾値の推定が完了していないことを意味し、結果変数T[i]が非負の値であれば、当該値が、電極ED[i]に対して推定された閾値を意味する。
【0063】
次に、CPUは、閾値のキューQ[0], Q[1], …, Q[N-1]のそれぞれの唯一の要素として、適当な初期値を格納する(ステップS302)。この初期値は、適当な定数(たとえば、与えることが可能な最大刺激強度の半分、あるいは、3分の1等)を採用しても良いし、予備実験によって、適当な値を選択することとしても良い。
【0064】
この後、CPUは、未完変数L未満の非負整数の乱数rを発生させる(ステップS303)。以下の説明では、乱数rは、一様乱数としているが、後述するように、本実施形態では、種々の乱数を利用することができる。
【0065】
そして、CPUは、一時変数cをゼロに初期化して(ステップS304)、一時変数iを、0からN-1まで、順に増加させ、以下の処理を繰り返す(ステップS305)。すなわち、T[i]が負であれば(ステップS306;Yes)、CPUは、cの値を1増やし(ステップS307)、cの値がrに等しければ(ステップS308;Yes)、CPUは、繰り返しを抜けて、ステップS310に進む。一方、T[i]が非負(ステップS306;No)、もしくは、cの値がrに等しくなければ(ステップS308;No)、CPUは、繰り返しを続ける(ステップS309)。
【0066】
繰り返しを抜けたら、CPUは、一時変数iが番号変数Mに等しいか調べ(ステップS310)、等しければ(ステップS310;Yes)、少なくとも、第1待機時間から第2待機時間を減算した時間だけ、待機して(ステップS311)、ステップS312に進む。一方、等しくなければ(ステップS310;No)、そのまま、ステップS312に進む。この処理により、同じ電極に対して続けて刺激を与えることとなった場合には、第2待機時間長の猶予が置かれることになる。
【0067】
そして、キューQ[i]の最後の値を取得し(ステップS312)、取得された値の強度の刺激を、電極ED[i]を介して生体201に与え(ステップS313)、番号変数Mにiを格納する(ステップS314)。そして、刺激を与えてから第1待機時間内に生体201が反応したか否かを調べる(ステップS315)。
【0068】
生体201が反応すれば(ステップS315;Yes)、CPUは、ステップS310にて取得された値に変化量を減算した値を、キューQ[i]に追加し(ステップS316)、反応しなければ(ステップS315;No)、CPUは、ステップS310にて取得された値に変化量を加算した値を、キューQ[i]に追加する(ステップS317)。
【0069】
ここで、加算もしくは減算される変化量は、上記のように、固定幅とすることもできるし、次第に減少していくようにすることも可能である。本例では、固定幅(最大刺激強度の5パーセント)とする態様により、説明する。
【0070】
この後、CPUは、キューQ[i]が収束条件を満たしているか否かを調べる(ステップS318)。収束条件を満たしているか否かは、上記のような種々の態様を採用することができるが、本例では、キューQ[i]の末尾所定個数(たとえば、5個)分の要素の最大値と最小値の差が、変化量以内であれば、電極ED[i]に対する収束条件が満たされたものと判断する。
【0071】
収束条件を満たしていなければ(ステップS318;No)、CPUは、制御をステップS303に戻す。一方、収束条件を満たしていれば(ステップS318;Yes)、キューQ[i]から、収束値を求め(ステップS319)、求められた収束値を結果変数T[i]に格納し(ステップS320)、未完変数Lを1減らす(ステップS321)。
【0072】
ここで、キューQ[i]から収束値を求める手法としては、上記のように、
(a) キューQ[i]の末尾の値(これから与えようとしている刺激強度)、
(b) キューQ[i]の末尾の直前の値(刺激を最後に与えたときの刺激強度)、
(c) キューの末尾の所定個数(たとえば、5個)分の要素の平均値、
(d) キューの末尾の所定個数(たとえば、5個)分の要素の中央値、
(e) キューの末尾の所定個数(たとえば、5個)分の要素の最大値と最小値の中間値
等を採用することができる。
【0073】
なお、上記制御では、ED[i]用の次の刺激強度をキューQ[i]に追加する更新を行ってから、収束条件が満たされるか否かを判定しているが、この順序は適宜入れ換えても良い。
【0074】
図5は、本実施例により閾値が推定される様子を示す説明図である。本図では、刺激強度の初期値0.50mAに対して反応があり、0.45mAに減らしても反応があり、さらに0.40mAに減らすと反応がなく、0.45mAに戻すと反応があり、再度0.40mAに減らすと反応がなく、0.45mAに戻すと反応が生じている。このため、わずか6回の刺激で収束条件が満たされる。そして、0.45mAと0.40mAの中間値0.425mAを、収束値としている。
【0075】
そして、未完変数Lが0であれば(ステップS322;Yes)、CPUは結果変数T[0], T[1], …, T[N-1]に得られた閾値に基づいて閾値マップを生成して(ステップS323)、本処理を終了する。一方、0でなければ(ステップS322;No)、CPUは、処理をステップS303に戻す。
【0076】
ここで、閾値マップとは、電極E[0], E[1], …, E[N-1]の位置と、結果変数T[0], T[1], …, T[N-1]に得られた閾値と、を対応付けて図示する分布図である。
【0077】
図6は、従来手法と本実施形態をラットに適用して得られた濃度による閾値マップである。
図7は、従来手法と本実施形態をラットに適用して得られた等高線による閾値マップである。
図8は、従来手法と本実施形態をマーモセットに適用して得られた濃度による閾値マップである。
図9は、従来手法と本実施形態をマーモセットに適用して得られた等高線による閾値マップである。以下、これらの図を参照して説明する。
【0078】
これらは、従来例と本実施形態を比較するための実験結果を示すものであり、従来例の実験においては、刺激を与える間隔を1s(1Hz)としている。一方、本実施形態の実験においては、第1待機時間を1s(1Hz)、第2待機時間を0.25s(4Hz)としている。なお、後述するように、第1待機時間ならびに第2待機時間は、さらに短く設定することが可能である。
【0079】
また、まず、従来例により閾値マップを作成し、ついで、本実施形態により閾値マップを作成し、その後、従来例により閾値マップを作成して、その変遷を示すものである。
【0080】
本図からもわかる通り、従来例により得られる閾値マップと本実施形態により得られる閾値マップは、強い相関を示している。ラットにおける実験では、運動皮質前肢領域では、相関度は、0.87±0.13であり、運動皮質後肢領域では、相関度は、0.80±0.13であった。マーモセットにおける実験では、相関度は、0.66程度であった。
【0081】
また、1箇所について閾値が推定されるまでに必要な刺激回数は、ラットの従来例においては48±15回、本実施形態では12±13回と、激減している。さらに、運動皮質刺激の可塑的変化を防止するため、従来例では、刺激を与える間隔を1s未満とすることはできなかったが、本実施例では、第1待機時間を0.25sとすることができる。このため、閾値マップ全体を作成するための時間は、約16分の1に減少させることが可能であることがわかる。
【0082】
続いて、閾値マップを生成するために刺激を行うことで、電極のインピーダンスにどのような影響を与えるか、を検証した。
図10は、複数回閾値マップを生成したときのインピーダンス変化を表すグラフである。本図のグラフの横軸は、閾値マップの生成頻度、縦軸は、電極のインピーダンスの値である。
【0083】
本グラフでは、2種類の濃さの線が示されている。黒線(下側の線)は、閾値マップを生成する前の32個の電極インピーダンスの平均値を表すグラフである。灰色線(上側の線)は、本実施例により、100回閾値マップを生成した後の32個の電極インピーダンスの平均値を表すグラフである。
【0084】
一般に、刺激付与行為は電極素材の電気分解を引き起こすため、複数回の刺激付与行為は電極インピーダンスを大きく増大させ、電極の計測性能を損うことが知られている。これは、刺激付与行為、すなわち出力地図の決定と、活動記録行為、すなわち入力地図の決定の両立は、極めて困難であることを意味する。
【0085】
一方、本実施例は、閾値マップの生成に要する刺激回数が限定的であるため、閾値マップを多数生成したとしても、電極のインピーダンスは低いままであり、電極の劣化が少ないことがわかる。後述する出力マップおよび入力マップの決定では、刺激を与えるため、および、電位を測定するために電極を利用するが、本実施例によれば、この両立が可能であることがわかる。
【0086】
さらに、数値実験により、本手法の有用性について確かめた。強度mの刺激に対してMEPが生じる確率p(m,MT,σ)が、真の閾値(MT)を平均値とし、分散をσ
2とする正規分布にしたがうものと仮定して、生体をシミュレートする。すなわち、
p(m,MT,σ) = ∫
-∞m exp(-〔(x - MT)
2/(2σ
2)〕) dx / 〔σ(2π)
1/2〕
とし、0から1の間の一様乱数rを発生させる。p(m,MT,σ)がr以上であれば、強度mの刺激に対してMEPが生じたものとし、p(m,MT,σ)がr未満であれば、強度mの刺激に対してMEPは生じないものとする。
【0087】
上記の数値実験モデルに対してMT=60, σ=4.2により生体をシミュレートし、1箇所に刺激を続けて与えて反応を見る数値実験を行って、従来例ならびに本実施例を適用し、真の値MTを推定した。
【0088】
すると、従来例では、刺激回数44.9±7.7回で推定値が得られ、そのときの得られた推定値の誤差率は、6.7±3.4パーセントとなった。
【0089】
一方、上記態様では、刺激回数11.6±6.4回で推定値が得られ、得られた推定値の誤差率は、5.6±3.2パーセントとなった。
【0090】
この結果からも、信頼度0.999以上で、本手法によれば、刺激回数が約4分の1に抑制され、誤差も小さい推定が可能であることがわかる。
【0091】
また、上記実験では、本手法では、従来例に比べて、与える刺激の頻度を約4倍にすることもできる。これらの実験からは、本手法では、閾値の推定に要する時間が、従来例の約16分の1で済むことがわかった。
【0092】
なお、上記の実験結果における諸元は、さらに最適化が可能と考えられ、生体201の特性に合わせて、第1待機時間や第2待機時間を調整して短縮することも可能である。たとえば、第2待機時間を50ms-100ms(10Hz-20Hz)程度とすれば、閾値マップ生成をさらに高速化することが可能である。
【0093】
一般に、生体の反応の測定の際には、刺激がそのままセンサにより検知されたものか、それとも、生体が刺激に反応したものか、が区別できるように、刺激の時間長T
Aと、ある刺激が終わってから次の刺激を始めるまでの時間間隔T
Bを定める必要がある。したがって、第2待機時間は、最短で、T
A+T
Bとなる。
【0094】
このように、本実施例によれば、従来よりも格段に高速に、閾値マップを作成することができる。
【0095】
なお、上記実験例では、刺激を与える部位として、生体201の運動皮質を採用し、反応として、MEPを採用した。しかしながら、反応の有無が検知できれば、どのような部位に対しても適用が可能である。
【0096】
たとえば、人間の言語野に刺激を与え、人間が発した音声を反応とする態様が考えられる。この場合には、音声をマイクから取得した後スペクトル分析する等、既存の音声処理における計測技術と解析技術を適用することができる。
【0097】
このほか、人間の感覚野に刺激を与えることで、人間が感じた感覚を人間に報告させることにより、適用することも可能である。
【0098】
たとえば、人間の視覚野に刺激を与えると、当該刺激に応じた映像が人間に見えるようになる。そこで、その映像を言語で人間に説明してもらい、報告結果を体系化することで、視覚野の機能マップを作成することができる。
【0099】
被験者には、視界内で光の見える空間座標(位置)を指し示してもらったり、映像の形や色を言語的に報告してもらったり等、対象とする視覚関連皮質の機能に応じて、感覚を言語的に報告してもらう。
【0100】
この手法を応用することで、視覚のほか、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、平衡感覚など、五感を含む各種の感覚に対する刺激により、人間が受けた印象を反応として扱うことができる。
【0101】
なお、高次の脳機能を司る連合皮質に対して刺激を行った場合の反応を物理的に計測することは困難と考えられている。しかしながら、精神物理学的、心理学的手法により、主観を疑似的に定量化する手法が認知科学の分野で研究されている。本実施形態は、そのような分野における基礎研究のために有用な分析手法を提供するものである。
【0102】
また、電極としては、皮質表面電極のみならず、脳深部に刺入する多点電極を採用することも可能である。後者の場合には、電極の位置および深さを考慮して閾値マップを作成することで、3次元的な脳機能マップを作成することができる。
【0103】
本実施例の閾値推定装置101は、たとえば、脳外科用治療機器にプラグインとして追加することも可能である。たとえば、腫瘍の除去手術においては、本実施例を適用することで、腫瘍が生じている領域を短時間で同定することができ、安全性を向上させることができる。
【実施例2】
【0104】
上記実施例では、一様乱数を発生させることにより、次に刺激を与える電極を選択していたが、発生させる乱数は必ずしも一様でなくとも良い。
【0105】
たとえば、前回刺激を与えてから未だに第2待機時間が経過していない電極は、選択の候補からすべて外すことも可能である。このためには、刺激を与えた時刻、与えた強度、刺激による反応の有無を組み合わせた情報を格納する配列、キュー、スタックなどを用意して、その内容を吟味すれば良い。
【0106】
閾値の推定が完了していない電極の数が残り少なくなるまでは、前回刺激を与えてから未だに第2待機時間が経過していない電極を選択の候補からすべて外しても、十分な数の候補が存在する。
【0107】
閾値の推定が完了していない電極の数が残り少なくなってしまい、前回刺激を与えてから未だに第2待機時間が経過していない電極を選択の候補からすべて外すと、候補が一つも残らない場合には、閾値の推定が完了していない電極の数からいずれかをランダムに選択すれば良い。
【0108】
このほか、各電極を使用する回数ができるだけ揃うように、乱数をまとめて発生させても良い。すなわち、未だ閾値が推定されていない電極の数だけ、乱数をまとめて発生させて、これを1サイクルとし、このサイクルの中では、各乱数を順に使用する。
【0109】
そして、乱数が使い終わり、最初のサイクルが終わったら、未だ閾値が推定されていない電極の数だけ、乱数をまとめて発生させて、これを次のサイクルとする。このように、サイクル単位で、乱数発生を繰り返すのである。
【0110】
サイクル単位で処理を行う場合には、閾値の推定が完了していない電極の数等を変数で管理するのではなく、閾値の推定が完了していない電極の番号をそのまま管理する手法も好適である。すなわち、当初は、未完電極番号の配列やキュー、リストに、当初は0からN-1までの整数を入れておき、ライブラリ関数を利用して、当該配列等の要素をランダムに入れ換えて、この配列等に格納された要素に順に電極を使用することを1サイクルとする。
【0111】
サイクルが終わった後は、閾値が推定できた電極の番号を当該配列等から削除して、再度当該配列等の要素をランダムに入れ換えて、処理を繰り返す。当該配列等が空になったら、全電極について、閾値が推定されたことになる。
【0112】
この手法では、同じ電極が続けて利用される可能性を低くすることができる。
【0113】
また、電極を候補から外すための待機時間として、第2待機時間以外の時間長を採用することとしても良い。たとえば、第1待機時間と第2待機時間の間の第3待機時間を、電極を候補から外すための待機時間に採用することができる。
【実施例3】
【0114】
上記実施例では、ある時点における閾値マップを短時間で生成することとしていたが、これを繰り返し行うことで、脳機能マップが動的に変化していく様子を観測することができる。
【0115】
図11は、閾値マップの時間変化を求める処理の流れを示すフローチャートである。以下、本図を参照して説明する。なお、上記処理と同様の部分については、適宜説明を省略する。
【0116】
すなわち、本処理においては、閾値マップが作成された後(ステップS322)、CPUは、キューQ[0], Q[1], …, Q[N-1]を消去し(ステップS401)、前回推定された閾値T[0], T[1], …, T[N-1]を、それぞれ、キューQ[0], Q[1], …, Q[N-1]の唯一の要素として格納し(ステップS402)、結果変数T[0], T[1], …, T[N-1]を負の値に設定し(ステップS403)、番号変数Mを-1に設定し(ステップS404)、未完変数LをNに設定してから(ステップS405)、制御をステップS303に戻す。
【0117】
本態様によれば、機能マップが順次生成され、これを時間順に並べることで、分単位で生じる脳機能マップの動的な変化を解明することができる。これは、発明者らの研究により初めて可能となったものである。
【実施例4】
【0118】
上記実施例では、電極は刺激を与えるために利用されていたが、電極自体を計測部材として利用することもできる。
【0119】
たとえば、閾値マップ同士の作成の合間(上記実施例におけるステップS322とステップS401の間)は、電極を介した刺激は与えられていない。そこで、この段階で、各電極の電位を測定する。電極位置と観測された電位を対応付けた観測マップを生成する。
【0120】
各電極は、電極から刺激を与えるか、電極を電位測定のための端子とするか、を切り換えるスイッチング回路が接続される。閾値推定装置101は、測定時に電極に接続される生体信号増幅器により電位を増幅し、アナログ/デジタル変換を行うことで、入力マップにおける各位置の電位の値を得ることができる。
【0121】
このようにして、閾値マップと観測マップが、繰り返し得られる。これは、脳機能の出力マップと入力マップの時間変化を表すものである。
【0122】
この時間変化を確認しつつ、閾値マップを生成するための刺激以外に、新たな刺激を介入して与えれば、リハビリテーション等において、感覚特性の変化を誘導することが可能になると考えられる。ここで、新たな刺激としては、閾値マップを生成するための電極を介した新たな刺激(閾値マップを生成するためではない刺激)を採用しても良いし、他の機器等を介して生体の他の部位に与える刺激や生体の表面を押したり撫でたりする刺激、生体の関節を外部から曲げ伸ばしする刺激、画像の提示等による視覚的な刺激等を採用しても良い。
【0123】
たとえば、閾値推定装置101に接続された電極によらずに体部位をマッサージにより刺激して、閾値推定装置101に接続された電極により各箇所の電位を測定すれば、体性感覚野の活動を表す観測マップ(入力マップ)を得ることができる。
【0124】
このほか、画像を提示することで視覚的な刺激を与え、閾値推定装置101に接続された電極により各箇所の電位を測定すれば、視覚野の活動を表す観測マップ(入力マップ)を得ることができる。
【0125】
一方、上記実施例に基いて閾値推定装置101に接続された電極を介した刺激を行えば、閾値マップ(出力マップ)が得られる。
【0126】
したがって、試験者は、被験者における入力マップと出力マップの時間変化を対比することで、被験者の脳活動を確認することができる。すると、脳機能マップの時間変化を見ながら、与えるべき刺激を調整する、という評価即応型介入治療が可能となる。すなわち、刺激によって積極的に脳活動に介入することで、例えば運動、認知、言語、感覚機能のリハビリテーションの効果を促進し、機能回復を誘導することが可能になる。
【実施例5】
【0127】
上記実施形態では、複数の電極を利用することを想定していたが、上述の通り、本願の原理は、1つの電極で1つの位置を刺激して、当該刺激が反応を誘発するための閾値を求める際にも利用が可能である。
【0128】
この場合には、対象となる電極は1つであるので、選択部103による選択や、生成部108による閾値マップの生成は、適宜省略することができる。
【0129】
本態様では、同じ電極に対して刺激を与えるときの時間間隔は、従来例と同程度とする必要があるが、従来例に比べて、閾値が得られるまでの刺激回数を、格段に減らすことができる。たとえば、上記の実験例では、刺激回数は約4分の1となっている。
【実施例6】
【0130】
上記のように、本発明の原理に基づいた閾値推定装置101は、短時間、高頻度で、脳のある一点を刺激したときに生体に反応が生じる刺激強度の閾値を推定したり、脳のある領域の機能マップ(閾値マップ)を作成することができる。一方、従来より、推定された閾値を利用してリハビリテーションを行う手法が提案されている。
【0131】
非特許文献1に開示されるrTMS (Repetitive Transcranial Magnetic Stimulation)では、患者の障害を起こしている部位(たとえば手首)に対応する皮質の領域の一点について、運動閾値(Motor threshold)を推定する。ここで、運動閾値とは、運動関連脳領域を刺激した際に、50%の確率で反応が起きる刺激強度を意味し、閾値推定装置101により推定される閾値にほぼ等しい。運動閾値が低いということは、患者の脳が興奮状態にあることを意味する。
【0132】
たとえば、脳卒中患者の場合には、脳の異常な興奮状態を抑制した後に、マッサージなどの自然刺激を与えると効果が高い、といわれている。
【0133】
そこで、rTMSでは、運動閾値を推定した一点に対して、リハビリテーション用刺激を与える。たとえば、興奮状態を抑えるためには、運動閾値より弱い刺激(たとえば、運動閾値の90%乃至95%程度)を与える。一方、興奮状態を促通するためには、運動閾値より強い刺激(たとえば、運動閾値の100%乃至105%程度)を与える。
【0134】
ここで与える刺激は、リハビリテーション療法の一単位としての役割を持つリハビリテーション用の刺激であり、閾値を推定するために与える刺激ではない。
【0135】
その後に、当該一点について、再度、運動閾値を推定する。すると、与えた刺激の効果や患者の容態や症状に依存して、運動閾値が、以前に推定した値よりも高くなったり低くなったりする。
【0136】
上記のように、運動閾値が以前よりも高くなった、ということは、患者の脳の興奮状態が抑制されたことを意味し、運動閾値が以前よりも低くなった場合には、興奮状態が促通されたことになる。
【0137】
たとえば、脳卒中の患者では、脳が異常な興奮状態となっていることが多い。そこで、リハビリテーション用刺激を与えたことによって、脳の興奮状態が抑制されたのであれば、再度、同様に、得られた運動閾値よりも若干弱い強度のリハビリテーション用刺激を与えれば良い。
【0138】
一般に、リハビリテーション用刺激を与えたことによって、脳の興奮状態が促通されたのであれば、リハビリテーション用刺激の与え方(待機時間、刺激強度、刺激時間、刺激回数等)を変更、調整する必要があることになる。そこで、これらの諸元を変更してから、再度リハビリテーション用刺激を与えるか、あるいは、本手法によるリハビリテーションを一旦終了させる。
【0139】
また、リハビリテーション用刺激を与えたことによって、脳の興奮状態が抑制されたのであれば、リハビリテーション用刺激の与え方を従前と同じように繰り返しても良いし、抑制の度合をさらに高めるように、与え方(待機時間、刺激強度、刺激時間、刺激回数等)を調整しても良い。
【0140】
このように、リハビリテーション用の刺激を与えることと、その効果を確認することが一つの単位となって、繰り返し行われることで、脳の興奮状態を制御することができるのである。
【0141】
なお、リハビリテーション用の刺激としては、電極を介した刺激を行うほか、たとえば手首を曲げ伸ばしするなどの物理的刺激、いわゆる自然刺激を行うことも可能である。この場合には、リハビリテーション用刺激の強度(曲げ伸ばしの際にかける力の大きさや1回の曲げ伸ばしに要する時間、曲げ伸ばしの回数等)は、推定された運動閾値から直接求められるものではないが、上記と同様に、患者の反応を見ながら調整が可能である。
【0142】
さて、rTMSでは、上記の繰り返しを行うが、上記実施例に係る閾値推定装置101を利用すると、閾値の推定に要する時間が短時間であるから、一定時間内にリハビリテーション用刺激を与える回数や、リハビリテーション用刺激を変更、調整する回数を増やすことができる。したがって、リハビリテーションにより得られる単位時間あたりの効果が、従来よりも高くなり、患者の機能の回復をより一層促すことができるようになる。
【0143】
また、rTMSでは、一点のみにリハビリテーション用刺激を与えるが、上記実施例に係る閾値推定装置101では、短時間で脳の機能マップを生成することができる。
【0144】
したがって、閾値推定装置101を利用することにより、リハビリテーション用刺激を多点で与えることが可能となる。
【0145】
すなわち、閾値推定装置101により患者が障害を起こしている部位に対応する皮質運動野の機能マップを作成し、当該皮質運動野の多点に対してリハビリテーション用刺激を与えた後に、再度機能マップを作成する。そして、施術者(患者自身を含む。)が、リハビリテーション用刺激の前後の機能マップを比較することで、次に与えるべきリハビリテーション用刺激を調整する。
【0146】
この際には、機能マップを作成するための刺激を与えるための刺激子(電極やコイル)を、そのまま、リハビリテーション用刺激を与えるために利用することができる。
【0147】
非特許文献2に開示されるPAS (Paired Associative Stimulation)では、たとえば、手首に障害を持つ患者に対して、手首の末梢神経を刺激した後、数十ms後に当該末梢神経に関連する脳領域の一点を磁気刺激することで、末梢神経と脳領域の一点との結合性を強めることで、リハビリテーションを行っている。
【0148】
手首の末梢神経の刺激としては、rTMSと同様に、電極、コイル等を介した神経に直接作用する刺激を採用しても良いし、患部を曲げ伸ばす、撫でる、圧迫する、温めたり冷やしたりする等の物理的な刺激、いわゆる自然刺激を採用することもできる。
【0149】
一方、上記実施例に係る閾値推定装置101では、手首の末梢神経の刺激に対して脳がどのように反応したか、を示す入力マップ(観測マップ)と、手首が反応を起こすために脳領域の各点に与えるべき刺激の強度を示す出力マップ(閾値マップ)と、を短時間で得ることができる。
【0150】
このため、入力マップと出力マップを対比するとともに、その時間的な変化を追跡することで、上記のrTMSの場合と同様に、
(a)リハビリテーションを要する生体部位(患部)へ与えるべき刺激の種類、強度、時間長、回数、頻度
(b)患部と連携する生体の脳領域の多点へ与えるべき刺激の強度、時間長、回数、頻度
(c)一旦、患部ならびに当該患部と連携する脳領域の両者に刺激を与えた後に、次の刺激を与えるまでに待機すべき時間長
を、調整することで、リハビリテーションの効果を高めることができる。
【0151】
なお、リハビリテーション用刺激の調整を施術者が行う場合には、閾値推定装置101は、リハビリテーション療法の一単位であるリハビリテーション用刺激の前後で、患者の閾値、閾値マップ、観測マップ等が、どのように変化したか、を対比して提示することが望ましい。
【0152】
当該対比によって、施術者は、患者に施した一単位のリハビリテーション療法の効果を確認することができ、その後に施すリハビリテーション療法の各単位の調整を行うことができるようになる。
【実施例7】
【0153】
上記実施例では、刺激の対象となる生体が刺激を与える間おとなしくしていることを想定していた。たとえば、麻酔下のげっし類や霊長類などのほか、意識的におとなしくしていることが可能なヒトなどの場合には、上記実施例によっても、高い精度で閾値の推定が可能である。
【0154】
しかしながら、覚醒下の動物を対象とする場合には、動物が随意的に筋活動を発生させることがあり、このために、閾値の推定の精度が下がったり、収束に時間がかかることがある。
【0155】
本実施例においては、各電極を介して過去に与えた刺激の強度と、その刺激によって反応が生じたか否かの履歴と、を保持し、これらを参照して強度を更新することによって、悪い条件下であっても、推定精度を高め、収束時間を抑制することに好適である。
【0156】
まず、閾値推定装置101は、各刺激子を介して直近に与えた第1観察回数分(たとえば4回)の刺激に対して反応が生じたか否かを調べる。
【0157】
いずれにおいても反応が生じていなければ、閾値推定装置101は、当該各刺激子に対応付けられる強度を増分定数分だけ増加させる。すなわち、刺激子iに対するキューQ[i]の末尾の第1観察回数分の強度の刺激の対しても反応がなければ、閾値推定装置101は、キューQ[i]の最後の要素に所定増分値(たとえば10)を加算した値を、刺激子iに対する次の刺激の強度として、キューQ[i]に追加する。
【0158】
いずれかにおいて反応が生じていれば、閾値推定装置101は、刺激子iに対する直近の第2観察回数分(たとえば12回)の刺激のそれぞれに対して、反応が生じたか否かを調べる。ここで、刺激強度ms
1, ms
2, …, ms
jに対しては反応が生じたが、刺激強度mf
1, mf
2, …, mf
kに対しては反応が生じなかったものとする。(j+k)は第2観察回数に等しい。
【0159】
ここで、上記のように、強度mの刺激に対してMEPが生じる確率p(m,MT, σ)を考える。確率p(m,MT, σ)は、真の閾値MTを平均値とし、σ
2を分散をとする正規分布にしたがうものと仮定する。
【0160】
すると、引数パラメータμに対する以下の評価関数Lを考えることができる。
L(μ, σ) = Σ
t=1jln(p(ms
t, μ, σ)) + Σ
t=1kln(1-p(mf
t, μ, σ))
【0161】
そして、閾値推定装置101は、σ=0.07μという拘束条件の下で、L(μ, σ)を最大化させる引数パラメータμを計算する。ここで計算される引数パラメータμは、真の閾値の推定値に相当するものである。なお、拘束条件σ=0.07μにおける数値0.07は、非特許文献3に開示されるBest PEST法に沿って定めたものであり、適宜変更が可能である。
【0162】
そこで、求められた引数パラメータμが、当該刺激子を介して最後に与えた刺激強度よりも、所定増分値以上大きければ、キューQ[i]の最後の要素に所定増分値(たとえば10)を加算した値を、刺激子iに対する次の刺激の強度として、キューQ[i]に追加する。
【0163】
そうでなければ、求められた引数パラメータμを、刺激子iに対する次の刺激の強度として、キューQ[i]に追加する。
【0164】
上記実施例では、刺激の増加量や減少量を刺激を与えた回数に応じて次第に小さくしていくこととしていたが、本実施例では、最近の刺激強度と反応の有無に応じて閾値を推定し、推定値に基づいて次の刺激強度を定める。このため、随意的な筋活動が生じるノイズ環境下においても、より正確な閾値推定が可能となる。
【0165】
なお、本実施例においては、以下のように、収束条件を工夫することで、刺激回数を抑制することができる。なお、本手法は、上記実施例にも適用が可能である。
【0166】
すなわち、刺激子iについての収束条件が満たされるには、以下の(a)-(c)のすべてを満たす必要があるものとする。
【0167】
(a)まず、刺激子iを介して直近に与えた2回分の刺激の強度が等しいことを要する。
【0168】
(b)次に、直近に与えた第1収束回数分(たとえば、5回)の刺激に対して、反応が所定の割合以上(たとえば、4割)で生じていることを要する。
【0169】
(c)さらに、刺激子iを介して最後に与えた刺激の強度に応じて定められる収束閾回数以上の刺激を、刺激子iを介して既に与えていることを要する。
【0170】
ここで、収束閾回数とは、最後に与えた刺激の強度によって閾値を推定する際に、適切な推定ができるようにするために必要と考えられる刺激の回数をいう。したがって、収束閾回数は、最後に与えた刺激の強度に応じて定められることになる。
【0171】
収束閾回数は、以下のように定めることができる。すなわち、真の閾値を仮定した上で、当該閾値を刺激に対する反応の有無から推定する試行を考えたときに、当該閾値が適切な誤差の範囲内で推定結果として得られるようにするためには、刺激回数を最低でも何回とすべきか、を表す最低刺激回数に基づいて、収束閾回数を定める。
【0172】
そして、最後に与えた刺激の強度に対する収束閾回数をもとに、適切な推定に必要な回数の刺激が行われたか否かを判定するのである。最も単純には、最低刺激回数をそのまま収束閾回数とすることができるが、当該最低刺激回数よりも多い回数を収束閾回数として採用しても良い。一般には、最後に与えた刺激強度(仮定された真の閾値)が大きいほど、これに応じた収束閾回数も大きくなる。たとえば、最後の刺激強度が45であれば18回、60であれば22回、80であれば28回等のように定めることがきる。
【0173】
このように、第2観察回数や収束閾回数は、シミュレーション実験に基づいて定めることができる。
図12Aは、刺激強度45に対する収束閾回数を定めるため、当該強度を真の閾値と想定して所望の誤差で当該閾値が推定結果として得られるための最低刺激回数をシミュレーションした結果を表すグラフである。
図12Bは、刺激強度60に対する収束閾回数を定めるため、当該強度を真の閾値と想定して所望の誤差で当該閾値が推定結果として得られるための最低刺激回数をシミュレーションした結果を表すグラフである。
図12Cは、刺激強度80に対する収束閾回数を定めるため、当該強度を真の閾値と想定して所望の誤差で当該閾値が推定結果として得られるための最低刺激回数をシミュレーションした結果を表すグラフである。以下、これらの図を参照して、第2観察回数や収束閾回数を定める手法について具体的に説明する。
【0174】
シミュレーション実験では、閾値となるべき刺激強度(MTtrue)として、45、60、80を想定し、σとして平均的な状況である7.4を想定して、ある刺激強度mにおいて反応が生じる確率p(m,MTtrue, σ)を求め、モンテカルロ法(試行10000回)により上記のアルゴリズムにもとづき閾値を推定して、推定された閾値とMTtrueとを対比し、刺激回数(横軸)エラーの95パーセンタイルの値(縦軸)を算出した。これらの図では、その対応関係を図示している。
【0175】
各試行においては、0乃至1の一様乱数rを発生させ、rがmin(0.95, p(m,MTtrue, σ))以上ならば反応あり、そうでなければ反応なし、とした。
【0176】
これらによれば、MTtrueが45から80の範囲において、エラーの95パーセンタイルがエラー上限である6.5以下に最も早く収束するのは、閾値推定を直前12回の刺激結果に基づいて行ったものであることがわかる。そこで、第2観察回数が12に設定される。
【0177】
また、MTtrueが45のときにエラーの95パーセンタイルがエラー上限である6.5以下に収束するには、刺激回数は18回が必要であり、60であれば22回が必要であり、80であれば28回が必要である。これらが、真の閾値に応じたその推定のための最低刺激回数に相当するので、これらを、最後の刺激強度に応じた収束閾回数として採用する。また、この3つ以外の刺激強度に対する収束閾回数については、これら3つから得られる数値を補間することによって定めることができる。また、MTtrueを適宜変更してシミュレーションを行うことで、各刺激強度に対する最低刺激回数を求め、当該刺激強度に応じた収束閾回数を定めることとしても良い。
【0178】
上記のように、収束閾回数として最低刺激回数そのものを採用することがでできるが、たとえば数回の余裕回数を加算することで、推定精度を高めることも可能である。また、上記の最低刺激回数は、各MTtrueにつき、σ=7.4に対してエラーの95パーセンタイルを求め、これをエラー上限6.5と対比して得られたものである。そこで、用途に応じてこれらの数値を変更してシミュレーションを行い、当該用途に応じた最低刺激回数を求めて、求められた最低刺激回数や当該最低刺激回数に余裕回数を加算したものを収束閾回数としても良い。第2観察回数についても同様である。たとえば、Best PEST法における拘束条件に合わせてσ=0.07×MTtrue としてシミュレーションを行う等が考えられる。
【0179】
なお、これらの諸条件は、観察対象となる生体によって差が生じる。したがって、生体に応じて適宜変更をすることが可能である。また、第1観察回数や第1収束回数およびこれに対する割合は、用途などに応じて適宜定めることができる。
【0180】
図13は、本実施形態を覚醒下のマーモセットに適用して得られた濃度による閾値マップである。以下、本図を参照して説明する。
【0181】
本実験では、64本の刺激電極をマーモセットの運動野上に慢性的に留置して、本実施例による電気刺激ならびに閾値推定の手法を適用し、覚醒下における運動皮質の機能マッピングを行った。
【0182】
本実験では、3体のマーモセットにおいて、立位と伏臥位における体部位局在地図を取得しているが、本図では、それらのうちの1体について図示している。
【0183】
図内には、4つの体部位局在地図が示されている。地図(A)(B)は立位、地図(C)(D)は伏臥位に対するものであり、地図(A)(C)は三角筋(肩の筋)、地図(B)(D)は総指伸筋(手指の筋)に対するものである。
【0184】
これらを比較すると、肩の筋を支配する一次運動野の興奮性は立位において有意に高く(地図(A)の矢印)、手指の筋を支配する一次運動野の興奮性は伏臥位において有意に高いことがわかる(地図(D)の矢印)。すなわち、このように、一次運動野の体部位局在地図は、生体の姿勢に応じて変化し、本実施例によれば、一次運動野の体部位局在地図の動的な性質を観察することができる。
【0185】
また、繰り返し機能マッピングを行うことで、刻々と変化する脳機能地図のパターンを、経時的に観察できることになる。
【0186】
この結果は、例えば脳卒中によって手指の支配領域を広範に損傷しても、姿勢を変えれば損傷を免れた手指支配領域が拡大する可能性を示唆している。したがって、本実施例により一次運動野の体部位局在地図の動的な性質を観察しながら、姿勢に応じた脳機能パターンを活かしてリハビリテーションを行うことで、その効果を高めることができると考えられる。
【0187】
(まとめ)
以上説明したように、本発明に係る閾値推定装置は、
複数の刺激子の各刺激子に対応付けられる強度の初期値を設定する設定部、
前記複数の刺激子のうち、当該刺激子に対応付けられる閾値の推定がされていない刺激子を選択する選択部、
前記選択された刺激子を介して、前記選択された刺激子に対応付けられる強度の刺激を、生体に与える刺激部、
前記与えられた刺激に誘発された反応が前記生体に生じたか否かを検出する検出部、
前記反応が生じていれば、前記選択された刺激子に対応付けられる強度を減少させ、前記反応が生じていなければ、前記選択された刺激子に対応付けられる強度を増加させる更新部、
前記複数の刺激子の各刺激子に対応付けられて更新された強度が所定の収束条件を満たせば、当該収束条件を満たす刺激子に対応付けられて更新された強度の収束値を、当該収束条件を満たす刺激子に対応付けられる閾値と推定する推定部
を備え、
前記複数の刺激子の各刺激子に対応付けられる閾値がすべて推定されるまで、前記選択部による選択、前記刺激部による刺激、前記検出部による検出、前記更新部による更新、前記推定部による推定の繰り返しが行われ、
前記選択部により続けて選択された刺激子が、
(a)同じ刺激子であれば、当該同じ刺激子を介して先の刺激が与えられてから第1待機時間経過後に、当該同じ刺激子を介して後の刺激が与えられ、
(b)異なる刺激子であれば、当該続けて選択された刺激子のうち先に選択された刺激子を介して先の刺激が与えられてから第2待機時間経過後に、当該続けて選択された刺激子のうち後に選択された刺激子を介して後の刺激が与えられ、
前記第2待機時間は、前記第1待機時間より短い
ように構成する。
【0188】
また、本願発明の閾値推定装置において、
前記複数の刺激子の各刺激子の位置と、当該各刺激子に対応付けられて前記推定された閾値と、から、当該閾値の分布を表す閾値マップを生成する生成部
をさらに備えるように構成することができる。
【0189】
また、本願発明の閾値推定装置において、
前記閾値マップが生成されると、前記複数の刺激子の各刺激子に対応付けられる強度の更新の履歴を消去し、当該各刺激子に対応付けられて前記推定された閾値を当該各刺激子に対応付けられる強度の初期値として、前記繰り返しならびに前記生成を、再度行う
ように構成することができる。
【0190】
また、本願発明の閾値推定装置において、
前記閾値マップが生成された後に、前記生体に刺激を与えないまま、前記複数の刺激子の各刺激子を介して、前記生体における当該各刺激子が配置された位置の電位を観測することにより、観測マップを生成してから、前記繰り返しならびに前記生成が、再度行われる
ように構成することができる。
【0191】
また、本願発明の閾値推定装置において、
前記複数の刺激子を介して、前記生体の脳に刺激が与えられ、
前記閾値マップは、脳機能マップである
ように構成することができる。
【0192】
また、本願発明の閾値推定装置において、
前記複数の刺激子は、前記生体の前記脳の皮質硬膜の上、中もしくは下に配置される皮質脳波電極である
ように構成することができる。
【0193】
また、本願発明の閾値推定装置において、
前記検出部は、前記反応として、誘発筋活動を検出する
ように構成することができる。
【0194】
また、本願発明の閾値推定装置において、
前記選択部は、前記複数の刺激子のうち、当該刺激子に対応付けられる閾値の推定がされていない刺激子が複数あれば、異なる刺激子であって、当該刺激子が前回選択されてから既に少なくとも前記第2待機時間が経過している刺激子を選択する
ように構成することができる。
【0195】
また、本願発明の閾値推定装置において、
前記選択部は、前記異なる刺激子を続けてランダムに選択する
ように構成することができる。
【0196】
また、本願発明の閾値推定装置において、
前記更新部による前記強度の更新に係る増加量ならび減少量は、所定の定数であり、
前記複数の刺激子の各刺激子に対応付けられて更新された強度の変化が、所定の回数続けて前記所定の定数幅内に収まれば、当該各刺激子に対する前記収束条件が満たされたものとする
ように構成することができる。
【0197】
また、本願発明の閾値推定装置において、
前記更新部による前記強度の増加幅ならびに減少幅は、前記複数の刺激子の各刺激子について更新を繰り返す毎に所定の定数に至るまで減少し、
前記複数の刺激子の各刺激子に対応付けられて更新された強度の変化が、所定の回数続けて前記所定の定数幅内に収まれば、当該各刺激子に対する前記収束条件が満たされたものとする
ように構成することができる。
【0198】
また、本願発明の閾値推定装置において、
前記収束条件を満たす刺激子に対応付けられた最新の強度を、当該収束条件を満たす刺激子に対する前記収束値とする
ように構成することができる。
【0199】
また、本願発明の閾値推定装置において、
前記収束条件を満たす刺激子に対して前記所定の回数続けて前記所定の定数幅内に収まった強度の平均値を、当該収束条件を満たす刺激子に対する前記収束値とする
ように構成することができる。
【0200】
また、本願発明の閾値推定装置において、
前記収束条件を満たす刺激子に対して前記所定の回数続けて前記所定の定数幅内に収まった強度の中央値を、当該収束条件を満たす刺激子に対する前記収束値とする
ように構成することができる。
【0201】
また、本願発明の閾値推定装置において、
前記更新部は、前記複数の刺激子の各刺激子について、
(a)当該各刺激子を介して直近に与えた第1観察回数分の刺激に対して前記反応がいずれも生じなければ、当該各刺激子に対応付けられる強度を、所定の増分定数だけ増加させ、
(b)当該各刺激子を介して直近に与えた第2観察回数分の刺激の強度と、当該第2観察回数分の刺激のそれぞれに対して前記反応が生じたか否かと、に基づいて、閾値に対する評価関数を最大化する引数パラメータを求め、前記求められた引数パラメータが、当該各刺激子を介して最後に与えた刺激の強度より、前記所定の増分定数以上大きければ、当該各刺激子に対応付けられる強度を、前記所定の増分定数だけ増加させ、
(c)上記(a)(b)のいずれでもなければ、当該各刺激子に対応付けられる強度を、前記求められた引数パラメータに更新する
ように構成することができる。
【0202】
また、本願発明の閾値推定装置において、
前記複数の各刺激子に対する前記収束条件は、
(a)当該各刺激子を介して直近に与えた2回数分の刺激の強度が等しく、かつ、
(b)当該各刺激子を介して直近に与えた第1収束回数分の刺激に対して、前記反応が所定の割合以上で生じ、かつ
(c)当該各刺激子を介して最後に与えた刺激の強度に応じて定められる収束閾回数以上の刺激を、当該各刺激子を介して与えていれば、
満たされる
ように構成することができる。
【0203】
本願発明の閾値推定方法は、
閾値推定装置が、複数の刺激子の各刺激子に対応付けられる強度の初期値を設定する設定ステップ、
前記閾値推定装置が、前記複数の刺激子のうち、当該刺激子に対応付けられる閾値の推定がされていない刺激子を選択する選択ステップ、
前記閾値推定装置が、前記選択された刺激子を介して、前記選択された刺激子に対応付けられる強度の刺激を、生体に与える刺激ステップ、
前記閾値推定装置が、前記与えられた刺激に誘発された反応が前記生体に生じたか否かを検出する検出ステップ、
前記反応が生じていれば、前記閾値推定装置が、前記選択された刺激子に対応付けられる強度を減少させ、前記閾値推定装置が、前記反応が生じていなければ、前記選択された刺激子に対応付けられる強度を増加させる更新ステップ、
前記複数の刺激子の各刺激子に対応付けられて更新された強度が所定の収束条件を満たせば、前記閾値推定装置が、当該収束条件を満たす刺激子に対応付けられて更新された強度の収束値を、当該収束条件を満たす刺激子に対応付けられる閾値と推定する推定ステップ、
を備え、
前記複数の刺激子の各刺激子に対応付けられる閾値がすべて推定されるまで、前記選択ステップ、前記刺激ステップ、前記検出ステップ、前記更新ステップ、前記推定ステップの繰り返しが行われ、
前記選択ステップにて続けて選択された刺激子が、
(a)同じ刺激子であれば、当該同じ刺激子を介して先の刺激が与えられてから第1待機時間経過後に、当該同じ刺激子を介して後の刺激が与えられ、
(b)異なる刺激子であれば、当該続けて選択された刺激子のうち先に選択された刺激子を介して先の刺激が与えられてから第2待機時間経過後に、当該続けて選択された刺激子のうち後に選択された刺激子を介して後の刺激が与えられ、
前記第2待機時間は、前記第1待機時間より短い
ように構成する。
【0204】
本願発明のプログラムは、コンピュータを、
複数の刺激子の各刺激子に対応付けられる強度の初期値を設定する設定部、
前記複数の刺激子のうち、当該刺激子に対応付けられる閾値の推定がされていない刺激子を選択する選択部、
前記選択された刺激子を介して、前記選択された刺激子に対応付けられる強度の刺激を、生体に与える刺激部、
前記与えられた刺激に誘発された反応が前記生体に生じたか否かを検出する検出部、
前記反応が生じていれば、前記選択された刺激子に対応付けられる強度を減少させ、前記反応が生じていなければ、前記選択された刺激子に対応付けられる強度を増加させる更新部、
前記複数の刺激子の各刺激子に対応付けられて更新された強度が所定の収束条件を満たせば、当該収束条件を満たす刺激子に対応付けられて更新された強度の収束値を、当該収束条件を満たす刺激子に対応付けられる閾値と推定する推定部
として機能させるプログラムであって、
前記複数の刺激子の各刺激子に対応付けられる閾値がすべて推定されるまで、前記選択部による選択、前記刺激部による刺激、前記検出部による検出、前記更新部による更新、前記推定部による推定の繰り返しが行われ、
前記選択部により続けて選択された刺激子が、
(a)同じ刺激子であれば、当該同じ刺激子を介して先の刺激が与えられてから第1待機時間経過後に、当該同じ刺激子を介して後の刺激が与えられ、
(b)異なる刺激子であれば、当該続けて選択された刺激子のうち先に選択された刺激子を介して先の刺激が与えられてから第2待機時間経過後に、当該続けて選択された刺激子のうち後に選択された刺激子を介して後の刺激が与えられ、
前記第2待機時間は、前記第1待機時間より短い
ように構成する。
【0205】
本願発明の他の観点に係る閾値推定装置は、
刺激子に対応付けられる強度の初期値を設定する設定部、
前記刺激子を介して、前記刺激子に対応付けられる強度の刺激を、生体に与える刺激部、
前記与えられた刺激に誘発された反応が前記生体に生じたか否かを検出する検出部、
前記反応が生じていれば、前記刺激子に対応付けられる強度を減少させ、前記反応が生じていなければ、前記刺激子に対応付けられる強度を増加させる更新部、
前記刺激子に対応付けられて更新された強度が所定の収束条件を満たせば、当該刺激子に対応付けられて更新された強度の収束値を、当該刺激子に対応付けられる閾値と推定する推定部
を備え、
前記刺激子の閾値が推定されるまで、前記選択部による選択、前記刺激部による刺激、前記検出部による検出、前記更新部による更新、前記推定部による推定の繰り返しが行われ、
前記刺激子を介して先の刺激が与えられてから第1待機時間経過後に、前記刺激子を介して後の刺激が与えられる
ように構成する。
【0206】
また、本願発明の閾値推定装置において、
前記生体にリハビリテーション療法の一単位を施す前に、前記閾値推定装置が、前記生体の閾値を推定して、当該推定された閾値を施術前閾値とし、
前記生体に前記リハビリテーション療法の前記一単位を施した後に、前記閾値推定装置が、前記生体の閾値を推定して、当該推定された閾値を施術後閾値とし、
前記閾値推定装置が、前記施術前閾値と、前記施術後閾値と、を、対比して提示する
ように構成することができる。
【0207】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。