【文献】
Du,D.,Covalent coupling of organophosphorus hydrolase loaded quantum dots to carbon nanotube/Au nanocompos,Biosensors and Bioelectronics,2010年,25,1370-1375
【文献】
Guifen Jie,Electrochemiluminescence immunosensor based on nanocomposite film of CdS quantum dots-carbon nanotub,Electrochemistry Communications,2010年,12,22-26
【文献】
Lee,J.,A plasmon-assisted fluoro-immunoassay using gold nanoparticle-decorated carbon nanotubes for monitor,Biosensors andBioelectronics,2014年 9月16日,64,311-317
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1のプローブ及び第2のプローブは、抗原、抗体、レクチン、糖、レセプター、リガンド、アプタマー又は核酸である、請求項7〜10のいずれか一項に記載のキット。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
より多様な方法で試料中の標的分子を検出又は定量できれば、検出感度の向上、検出精度の向上、従来不可能であった測定が可能となる等の利点が得られる可能性がある。そこで、本発明は、試料中の標的物質を検出又は定量する新たな方法及びキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、試料中の標的物質を検出する方法であって、試料及び標的物質を含まない陰性対照のそれぞれに、第1のプローブ及び第2のプローブを添加してインキュベーションするインキュベーション工程であって、第1のプローブは、カーボンナノチューブに固定された金属ナノ粒子に結合され、第2のプローブは、量子ドットに結合されている、工程と、インキュベーション工程後の試料及び陰性対照中の量子ドットの蛍光強度を測定する蛍光測定工程と、試料中の量子ドットの蛍光強度が、陰性対照中の量子ドットの蛍光強度と比較して強い場合に、試料中に標的物質が存在すると判定する判定工程と、を含み、第1のプローブ及び第2のプローブは、上記標的物質と結合するが互いに結合せず、第1のプローブ及び第2のプローブが上記標的物質と結合することにより、上記金属ナノ粒子及び前記量子ドットが近接し、それにより上記量子ドットの蛍光強度が増強する方法を提供する。
【0007】
本発明により、試料中の標的物質を検出する新たな方法を提供することができる。この方法は、金属ナノ粒子及び量子ドットが近接すると、量子ドットの蛍光強度が増強するという現象を利用するものである。試料中の標的物質と、第1のプローブを固定化した金属ナノ粒子及び第2のプローブを固定化した量子ドットとが結合することにより、金属ナノ粒子及び量子ドットが互いに近接し、量子ドットの蛍光強度が増強する。この蛍光強度の増強に基づいて試料中の標的物質を検出することができる。また、本発明の方法によれば、従来のELISA法では必要な工程である洗浄工程を行うことなく、試料中の標的物質を検出することができる。このため、簡便に標的物質を検出することができる。また、洗浄工程による標的物質の検出感度の低下を防止することができる。
【0008】
本発明はまた、試料中の標的物質を定量する方法であって、試料及び既知濃度の標的物質を含む複数の標準試料のそれぞれに、第1のプローブ及び第2のプローブを添加してインキュベーションするインキュベーション工程であって、第1のプローブは、カーボンナノチューブに固定された金属ナノ粒子に結合され、第2のプローブは、量子ドットに結合されている、工程と、インキュベーション工程後の試料及び複数の標準試料中の量子ドットの蛍光強度を測定する蛍光測定工程と、試料中の量子ドットの蛍光強度を、複数の標準試料中の量子ドットの蛍光強度と比較して、試料中の標的物質を定量する定量工程と、を含み、第1のプローブ及び第2のプローブは、上記標的物質と結合するが互いに結合せず、第1のプローブ及び第2のプローブが上記標的物質と結合することにより、上記金属ナノ粒子及び前記量子ドットが近接し、それにより上記量子ドットの蛍光強度が増強する方法を提供する。
【0009】
本発明により、試料中の標的物質を定量する新たな方法を提供することができる。また、本発明の方法によれば、洗浄工程を必要とせずに、試料中の標的物質を定量することができるため、簡便に標的物質を定量することができる。
【0010】
本発明はまた、試料中の標的物質の検出又は定量用キットであって、第1のプローブ及び第2のプローブを含み、第1のプローブは、カーボンナノチューブに固定された金属ナノ粒子に結合され、第2のプローブは、量子ドットに結合され、第1のプローブ及び第2のプローブは、標的物質と結合するが互いに結合せず、第1のプローブ及び第2のプローブが標的物質と結合することにより、金属ナノ粒子及び量子ドットが近接し、それにより量子ドットの蛍光強度が増強する、キットを提供する。
【0011】
本発明のキットによれば、新たな原理に基づいて、標的物質を簡便に検出することができる。
【0012】
上記金属ナノ粒子は、金平糖状金属ナノ粒子であることが好ましい。
【0013】
金平糖状金属ナノ粒子を用いることにより、標的物質の検出感度を高めることができ、より正確に標的物質を定量することができる。
【0014】
上記金属ナノ粒子は、金ナノ粒子であることが好ましい。金ナノ粒子は、量子ドットの蛍光強度を効率よく増強することができる。
【0015】
上記量子ドットは、可視光領域の蛍光を発するものであってもよい。これにより、量子ドットの蛍光強度の増強を、肉眼で確認することができ、標的物質を容易に検出又は定量することができる。
【0016】
第1のプローブ及び第2のプローブは、抗原、抗体、レクチン、糖、レセプター、リガンド、アプタマー又は核酸であることが好ましい。
【0017】
第1のプローブ及び第2のプローブがこのようなものであれば、抗原、抗体、レクチン、糖、レセプター、リガンド、アプタマー又は核酸に結合可能な標的物質を検出又は定量することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、洗浄工程を必要としない、試料中の標的物質を検出又は定量する新たな方法及びキットを提供することができる。
【0019】
また、本発明の方法及びキットによれば、カーボンナノチューブに、第1のプローブを固定化した金属ナノ粒子が固定化されており、さらに該金属ナノ粒子は標的物質を介して第2のプローブを固定化した量子ドットと結合することにより、カーボンナノチューブを中心に3次元的に配置された複合体を形成する。該複合体を形成することにより、金属ナノ粒子及び量子ドットが互いにより近接することができ、量子ドットの蛍光強度がさらに増強される。また、カーボンナノチューブの表面において、複数の金属ナノ粒子及び量子ドットが互いに近接することにより、量子ドットの蛍光強度がさらに増強される。すなわち、標的物質の有無の差によって生じる蛍光強度の差がより顕著となり、従来の検出方法よりもさらに簡便かつ高感度で標的物質を検出することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(原理)
量子ドットは数十nm以下の半導体結晶であり、励起光を照射すると蛍光を発する。本発明の検出方法及び定量方法は、金属ナノ粒子及び量子ドットが近接すると、量子ドットの蛍光強度が増強するという現象を利用するものである。
【0022】
本実施形態に係る試料中の標的物質を検出する方法は、試料及び標的物質を含まない陰性対照のそれぞれに、第1のプローブ及び量子ドットに固定化した第2のプローブを添加してインキュベーションするインキュベーション工程と、インキュベーション工程後の試料及び陰性対照中の量子ドットの蛍光強度を測定する蛍光測定工程と、試料中の量子ドットの蛍光強度が、陰性対照中の量子ドットの蛍光強度と比較して強い場合に、試料中に標的物質が存在すると判定する判定工程とを含む。
【0023】
(第1のプローブ固定化カーボンナノチューブの作製方法)
図1は、カーボンナノチューブに金属ナノ粒子を固定化させ、さらに該金属ナノ粒子に第1のプローブを固定化させる方法の一実施形態を示す模式図である。試料中の標的物質を検出する方法の一実施形態を説明する模式図である。本実施形態では、カーボンナノチューブ10を金属イオン20で処理して、金属イオン処理カーボンナノチューブ100を得た後に、還元剤による処理を行うことで、カーボンナノチューブ10の表面に金属ナノ粒子30を形成し、金属ナノ粒子30を固定化したカーボンナノチューブ200を得る。さらに、金属ナノ粒子30の表面に第1のプローブ40を固定化し、第1のプローブ固定化カーボンナノチューブ300を得る。また、同様の操作によって、量子ドット60の表面に第2のプローブ61を固定化する。
【0024】
(試料中の標的物質を検出する方法)
図2は、試料中の標的物質を検出する方法の一実施形態を説明する模式図である。上記方法によって得られた第1のプローブ固定化カーボンナノチューブ300及び第2のプローブ61を固定化した量子ドット60を、標的物質50を含む試料に添加することにより、第1のプローブ40、標的物質50及び第2のプローブ61の順に結合した複合体400を形成させる。上記複合体400を形成させることにより、第1のプローブ40に結合した金属ナノ粒子30と、第2のプローブ61に結合した量子ドット60が互いに近接し、量子ドット60の蛍光強度が増強される。一方、試料に代えて、標的物質50を含まない陰性対照を用いた場合の量子ドット60の蛍光強度と比較することにより、試料中の標的物質50の存在をより簡便に検出することができる。
【0025】
(標的物質及びプローブ)
本実施形態の方法では、標的物質として、抗原−抗体、レクチン−糖、レセプター−リガンド、アプタマー−アプタマーの標的物質、核酸−核酸等の、互いに特異的に結合する物質の組の一方を用い、他方をプローブとして用いることができる。より具体的には、タンパク質、ペプチド、DNA、RNA、化学物質、ホルモン、ウイルス、糖等を標的物質又はプローブに用いることができる。
【0026】
ここで、第1のプローブ及び第2のプローブは、標的物質と結合するが互いに結合しないものを選択する。第1のプローブと第2のプローブが直接結合してしまうと、標的物質の存在の有無に関係なく金属ナノ粒子と量子ドットが近接してしまい、誤検出や誤判定の原因となる。例えば、標的物質がある抗原に特異的に結合する抗体である場合、第1のプローブ及び第2のプローブとしては、例えば、標的物質(抗体)が結合する抗原、及び、標的物質(抗体)に結合する2次抗体を組み合わせて使用することができる。これらは、いずれが第1のプローブであっても第2のプローブであってもよい。また、例えば、標的物質が抗原である場合、第1のプローブ及び第2のプローブとしては、標的物質(抗原)上のそれぞれ異なるエピトープに結合する2種類の抗体を使用してもよい。また、例えば、標的物質が抗原であり、抗原が近接して複数存在する場合、第1のプローブ及び第2のプローブとしては、標的物質(抗原)上の同一のエピトープに結合する抗体を使用してもよい。ここで、抗原が近接して複数存在する場合とは、例えば、抗原が多量体を形成している場合や、標的物質がウイルス、微生物、細胞等の表面に複数存在する抗原である場合が挙げられる。つまり、標的物質、第1のプローブ及び第2のプローブが結合することにより、金属ナノ粒子と量子ドットが近接することができる限り、第1のプローブ及び第2のプローブの組み合わせに制限はない。
【0027】
検出対象となる標的物質は、液体中に存在していてもよく、固体、粉末、流動体、気体等の試料中に存在していてもよい。本実施形態に係る、試料中の標的物質を検出する方法は、液体中で実施することが好ましい。このため、試料が液体以外である場合には、適切なバッファー等に試料を溶解又は懸濁し、液体にすることが好ましい。
【0028】
(カーボンナノチューブ)
本発明の第1のプローブは、カーボンナノチューブに固定化された金属ナノ粒子の表面に固定化される。本発明に用いるカーボンナノチューブには、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ、多層(Multi−walled)カーボンナノチューブ等を用いることができる。カーボンナノチューブに金属ナノ粒子を固定化することにより、カーボンナノチューブを構成するベンゼン環に存在するπ電子の効果により、蛍光がより増強される。
【0029】
(金属ナノ粒子)
金属ナノ粒子としては、ナノオーダーの粒径を有する金、銀等のプラズモン現象を有する金属の粒子が挙げられる。なかでも、量子ドットの蛍光を増強させる効果が大きいことから、金属ナノ粒子は、金の粒子であることが好ましい。プラズモン現象とは、金属中の自由電子が集団的に振動して擬似的な粒子として振る舞う現象を意味する。
【0030】
金属ナノ粒子の調製方法は特に制限されない。例えば、金ナノ粒子は、塩化金酸(HAuCl
4)をクエン酸とタンニン酸で還元して調製することができ、塩化金酸(HAuCl
4)を没食子酸(Gallic acid)とイソフラボンで還元して調製することもできる。また、銀ナノ粒子は、硝酸銀水溶液をクエン酸等で還元することにより調製することができる。
【0031】
(金平糖状金属ナノ粒子)
金平糖状金属ナノ粒子とは、表面に金平糖状の凹凸を有する金属ナノ粒子であり、海胆状(urchin−like)金属ナノ粒子ともいう。表面に凹凸を有するか否かは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することにより確認することができる。通常の金属ナノ粒子(表面が滑らかな金属ナノ粒子)がほぼ球状であるのに対し、金平糖状金属ナノ粒子は、金平糖又は海胆のような形状である。金平糖状金属ナノ粒子は、例えば、10mLの10mM HEPES緩衝液(pH7.4)に250μLの20mM塩化金酸溶液を添加した後、溶液の色が黄色から濁った青に変わるまで室温で30分間静置することにより調製することができる。
【0032】
(量子ドット)
量子ドットとは、直径が2〜10nm程度の量子井戸構造を有するナノ結晶である。量子ドットには、コア構造のみのものと、コア/シェル構造のものが知られている。前者の例としては、CdS、CdSe、CdTe、CdSeTe等のCd系量子ドット;PbS、PbSe等のPb系量子ドット;ZnSe、ZnTe等のZn系量子ドット等が知られている。後者の例としてはCdSe/ZnS、CdSe/CdS/ZnS、CdSe/ZnSe/ZnS、GaAs/AlGaAs等の量子ドットが知られている。本実施形態においては、これらのいずれの量子ドットも使用することができる。
【0033】
量子ドットの蛍光波長は、量子ドットの粒径に依存する。例えば、CdSe量子ドットでは、粒径を3〜5nmに変化させることによって青緑から赤まで(波長500〜650nm)の蛍光を発生させることができる。一般に、量子ドットの粒径は、合成反応の反応時間、合成に用いる有機金属化合物の熱分解反応の温度等により制御することができる。
【0034】
また、量子ドットの蛍光波長は、量子ドットの材料の半導体の種類にも依存する。ZnSe、CdS、CdSe、CdSeTe、PbS、PbSe等の半導体により、可視から近赤外(波長400〜2000nm)の蛍光を発する量子ドットを合成することができる。
【0035】
量子ドットの合成法には、主にトップダウン法とボトムアップ法の2種類が存在する。トップダウン法においては、半導体基板に電子ビームリソグラフィーや分子線エピタキシー法等を用いて量子ドットを合成する。ボトムアップ法においては、液相で化学合成する。また、液相での化学合成には、主に水溶液中で合成するものと有機溶媒中で合成する方法の2種類が存在する。
【0036】
水溶液中での合成では、例えば、チオール系化合物を保護剤として、カドミウム塩の水溶液にテルル化水素ナトリウム等を反応させることによってCdTe量子ドットを合成することができる。
【0037】
有機溶媒中での合成では、例えば、配位性有機化合物であるトリオクチルフォスフィン(TOP)やトリオクチルフォスフィンオキシド(TOPO)を溶媒として、ジメチルカドミウム及びS、Se、TeのTOP錯体あるいは有機金属化合物を約300℃で熱分解し、量子ドットを合成することができる。
【0038】
本実施形態においては、これらのいずれの方法で合成された量子ドットも使用することができる。
【0039】
(金属ナノ粒子及び量子ドットへのプローブの固定方法)
金属ナノ粒子及び量子ドットへのプローブの固定方法は特に限定されないが、例えば、金属ナノ粒子又は量子ドットの表面にアミノ基、カルボキシ基、チオール基等の官能基を導入し、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、スクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(SMCC)等の化学架橋剤を用いてプローブを固定することができる。金属ナノ粒子又は量子ドットの表面に官能基を導入する方法としては、例えば、金属ナノ粒子又は量子ドットを、8−メルカプトオクタン酸、システアミン等の両親媒性のチオール化合物と反応させる方法等が挙げられる。金属ナノ粒子又は量子ドットの表面に官能基を導入する際、8−メルカプトオクタン酸を用いるとカルボキシ基を導入することができ、システアミンを用いるとアミノ基を導入することができる。本発明に使用するプローブの種類に基づいて、カルボキシ基、アミノ基、チオール基等の官能基を適宜選択することができる。
【0040】
(インキュベーション工程)
インキュベーション工程では、試料及び標的物質を含まない陰性対照のそれぞれに、第1のプローブ固定化カーボンナノチューブ300及び第2のプローブ61を固定化した量子ドット60を添加してインキュベーションする。この工程により、試料中に標的物質が存在する場合には、標的物質、第1のプローブ及び第2のプローブが結合し、金属ナノ粒子及び量子ドットが近接する。金属ナノ粒子及び量子ドットの量は適宜設定すればよい。インキュベーション温度は、標的物質やプローブに応じて適宜選択できる。インキュベーション時間は、標的物質、第1のプローブ及び第2のプローブの結合が平衡に達するのに要する時間に設定すればよく、例えば1時間である。
【0041】
(蛍光測定工程)
蛍光測定工程では、インキュベーション工程後の試料及び陰性対照中の量子ドットの蛍光強度を測定する。測定には、分光蛍光光度計等の一般的な蛍光測定機器を用いることができる。より具体的には、インキュベーション工程後の試料及び陰性対照に対して、量子ドットの励起光を照射し、発生する蛍光強度を測定すればよい。
【0042】
例えば、量子ドットとして可視光領域の蛍光を発するものを使用した場合、励起光照射装置があれば、蛍光測定機器を使わなくても、肉眼で観察することにより、蛍光を検出することも可能である。これにより、標的物質の検出が必要な現場において、標的物質の存在をその場で検出することが容易になる。
【0043】
(判定工程)
判定工程では、蛍光測定工程において測定された蛍光強度に基づいて、試料中に標的物質が存在するか否かを判定する。具体的には、試料中の量子ドットの蛍光強度が、陰性対照中の量子ドットの蛍光強度と比較して強い場合に、試料中に標的物質が存在すると判定する。また、上記したように、量子ドットとして可視光領域の蛍光を発するものを使用した場合には、蛍光測定機器を使わなくても肉眼で観察することにより、蛍光を検出することも可能である。そして、肉眼で蛍光強度の増強に基づいて、標的物質の存在又は不存在を判定することができる。
【0044】
(試料中の標的物質を定量する方法)
試料中の標的物質を定量する方法は、基本的には試料中の標的物質50を検出する方法と同様であり、試料と共に既知濃度の標的物質50を含む複数の標準試料を用いる点が異なる。具体的には、試料及び既知濃度の標的物質50を含む複数の標準試料のそれぞれに第1のプローブ固定化カーボンナノチューブ300及び第2のプローブ61を固定化した量子ドット60を添加して、上記と同様のインキュベーション工程及び蛍光測定工程を行う。続いて、次に説明する定量工程を行う。
【0045】
(定量工程)
定量工程では、試料中の量子ドットの蛍光強度を、複数の標準試料中の量子ドットの蛍光強度と比較することにより、試料中の標的物質の存在量を求める。例えば、複数の標準試料中の量子ドットの蛍光強度をもとに検量線を作成し、試料中の量子ドットの蛍光強度をこの検量線に当てはめることにより、試料中の標的物質の濃度を求めることができる。
【0046】
(キット)
一実施形態において、試料中の標的物質の検出又は定量用キットは、第1のプローブ固定化カーボンナノチューブ300、及び、第2のプローブ61を固定化した量子ドット60を含む。上記第1のプローブ固定化カーボンナノチューブ300、及び、上記第2のプローブ61を固定化した量子ドット60は、溶液又は懸濁液の状態で供給されてもよいし、乾燥状態で供給され、使用時にバッファーに溶解又は懸濁させるものであってもよい。上記第1のプローブ固定化カーボンナノチューブ300及び上記第2のプローブ61を固定化した量子ドット60を用いて、上記のインキュベーション工程、蛍光検出工程、判定工程及び定量工程を実施することにより、試料中の標的物質を検出又は定量することができる。
【0047】
別の実施形態に係る、試料中の標的物質の検出又は定量用キットにおいて、上記第1のプローブ固定化カーボンナノチューブ300、及び、第2のプローブ61を固定化した量子ドット60は、例えば、ろ紙などの媒体中に染みこませた状態で供給されてもよい。媒体は、使用に適した形状及びサイズに適宜調整されてよく、例えば短冊状であってよい。キットの使用時には、試料及び標的物質を含まない陰性対照を、第1のプローブ固定化カーボンナノチューブ300及び第2のプローブ61を固定化した量子ドット60が存在する媒体に滴下する。これにより、試料中に標的物質50が存在する場合には、媒体中で標的物質、第1のプローブ及び第2のプローブが結合し、金属ナノ粒子及び量子ドットが近接する。蛍光検出工程において、媒体に励起光を照射することにより、量子ドットから蛍光が発生する。本実施形態のキットは、特に、標的物質の迅速な検出が必要な現場での簡易検出に適している。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を用いて、本発明について説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0049】
実施例では、本発明の方法の一例として、金ナノ粒子で表面処理したカーボンナノチューブ(AuCNT)とCdTe蛍光量子ドット(CdTe)を用いて、標的物質であるインフルエンザウイルスを検出する方法について説明する。
【0050】
(AuCNTの作製)
HAuCl
4・3H
2O(0.01mmol、Sigma−Aldrich社製)と酸処理した多層カーボンナノチューブ(2mg、Sigma−Aldrich社製)を蒸留水(30mL)に入れ、30分間超音波処理によって分散し、CNT溶液を得た。得られたCNT溶液(600μL)を、没食子酸(0.01M、Sigma−Aldrich社製)とイソフラボン(10mg、韓国産豆から直接抽出したもの)の混合液(10mL)に入れて1時間激しく撹拌した。撹拌後、13,000rpmで10分間遠心分離を行い、上澄みを除去し、粉末状態のAuCNTを得た。
【0051】
(実施例1)
1.抗HA抗体固定化AuCNTの作製
得られたAuCNT(1mg)を蒸留水(10mL)に入れ、5分間超音波処理によって分散し、AuCNT溶液を得た。金ナノ粒子の表面にアミノ基を導入するため、システアミン(0.01M、1mL)をAuCNT溶液に添加し、30分間撹拌してから13,000rpmで10分間遠心分離を行い、上澄みを除去し、アミン処理したAuCNTを得た。一方、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC;100μL、10mM、Sigma−Aldrich社製)とN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS;100μL、10mM、Sigma−Aldrich社製)に、抗ヘマグルチニン(HA)抗体(1μL、Ab66189、Abcam社製)を入れ、30分間反応し、抗体溶液を得た。得られた抗体溶液にアミン処理したAuCNT(1mg/mL、30μL)を混合し、3時間反応を行った。
【0052】
2.抗HA抗体固定化CdTeの作製
抗HA抗体固定化AuCNTの作製と同様の操作によって、CdTeの表面に抗HA抗体(Ab66189、Abcam社製)を固定化させた。
【0053】
3.抗原−抗体反応によるインフルエンザウイルスの検出
抗HA抗体固定化AuCNT及び抗HA抗体固定化CdTeを混合した後、96ウエルプレートに加え、インフルエンザウイルス(A/Beijing/262/95、H1N1型、Sino Biological Inc社製)を添加後、1時間反応を行った。励起波長380nm、発光波長518nmで蛍光強度を測定した。
【0054】
(実施例2)
1.抗NA抗体固定化AuCNTの作製
得られたAuCNT(1mg)を蒸留水(10mL)に入れ、5分間超音波処理によって分散し、AuCNT溶液を得た。金ナノ粒子の表面にアミノ基を導入するため、システアミン(0.01M、1mL)をAuCNT溶液に添加し、30分間撹拌してから13,000rpmで10分間遠心分離を行い、上澄みを除去し、アミン処理したAuCNTを得た。一方、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC;100μL、10mM、Sigma−Aldrich社製)とN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS;100μL、10mM、Sigma−Aldrich社製)に、抗ノイラミニダーゼ(NA)抗体(1μL、A/New Caledonia/20/1999、H1N1型、Cosmo bio社製)を入れ、30分間反応し、抗体溶液を得た。得られた抗体溶液にアミン処理したAuCNT(1mg/mL、30μL)を混合し、3時間反応を行った。
【0055】
2.抗HA抗体固定化CdTeの作製
抗NA抗体固定化AuCNTの作製と同様の操作によって、CdTeの表面に抗HA抗体(Ab66189、Abcam社製)を固定化させた。
【0056】
3.抗原−抗体反応によるインフルエンザウイルスの検出
抗NA抗体固定化AuCNT及び抗HA抗体固定化CdTeを混合した後、96ウエルプレートに加え、インフルエンザウイルス(A/New Caledonia/20/99IvR116、H1N1型、Sino Biological Inc社製)を添加後、1時間反応を行った。励起波長380nm、発光波長518nmで蛍光強度を測定した。
【0057】
(紫外可視光スペクトル解析)
紫外可視光分光光度計(infinite F500、TECAN社製)を用いて、AuCNTの吸光度を測定した結果を
図3に示す。なお、
図3において、横軸は波長(nm)を示し、縦軸は吸光度を示す。
図3に示すように、実施例1で得られたAuCNTは、約550nmの波長において金ナノ粒子表面プラズモン共鳴による吸光ピークが観測された。また、カーボンナノチューブ(CNT)を用いて同様に吸光度を測定すると、約550nmの波長における吸光ピークは観測されなかった。
【0058】
(粉末X線回折パターン)
粉末X線回折装置(RINT ULTIMA、Rigaku社製)を用いて、AuCNTのX線回折パターンを測定した結果を
図4に示す。なお、
図4において、横軸は2θを示し、縦軸は強度を示す。
図4に示すように、カーボンナノチューブ(CNT)では、(002)面のみのパターンが観測されたが、実施例1で得られたAuCNTでは、金ナノ粒子による多様な回折パターンが観測された。特に、炭素は金に比べて結晶性が低いので、回折パターンの強度が弱いことが確認できた。
【0059】
(透過型電子顕微鏡による観察)
透過型電子顕微鏡(JEM−2100F、JEOL社製)を用いて、カーボンナノチューブ(CNT)及びAuCNTを観察した結果を
図5A、
図5B及び
図5Cに示す。カーボンナノチューブの場合は、
図5Aに示すように、直径180〜200nm、長さ数マイクロメートルの透明なチューブ構造を示す像が得られた。一方、AuCNTの場合は、
図5B及び
図5Cに示すように、透明なチューブに直径10〜100nmの黒色の粒子が固定されている像が得られた。さらに高い拡大倍率の像によれば、
図5Bに示された黒色の粒子は、複数の金ナノ粒子の凝集体であり、個々の金ナノ粒子の粒子径は10〜20nmであった。
図5Cに示すAuCNTでは、
図5Bに示すAuCNTと比較して、より小さな金ナノ粒子がカーボンナノチューブに数多く固定化されていた。
【0060】
(赤外吸収スペクトル解析)
実施例1で得られたアミン処理したAuCNTについて、赤外吸収スペクトルを測定した結果を
図6に示す。なお、
図6において、横軸は吸収率(%)を示し、縦軸は波数(cm
−1)を示す。
図6に示すように、波数1450〜1580cm
−1付近において、カーボンナノチューブを構成するベンゼン環(C
6H
6)の炭素−炭素二重結合の伸縮振動エネルギーを示す赤外吸収ピークが観測された。また、波数3400〜3500cm
−1付近において、NH振動エネルギーを示す赤外吸収ピークが観測された。なお、実施例1では、金ナノ粒子を固定化したカーボンナノチューブとシステアミンとの反応により、システアミンのチオール基が金ナノ粒子表面に結合し、カーボンナノチューブに金ナノ粒子を介してアミノ基が導入される。
【0061】
(ELISA解析)
実施例1で得られた抗HA抗体固定化AuCNTと抗HA抗体を固定化していないAuCNTとを用いて、それぞれELISA解析を行った。結果を
図7Aに示す。抗HA抗体固定化AuCNT(HA Ab/AuCNT)の吸光度は、抗HA抗体を固定化していないAuCNTの吸光度と比較して約4倍であり、抗HA抗体の抗原特異性が確認できた。また、抗原を添加しない場合、吸光度は検出できなかった。また、実施例2で得られた抗NA抗体固定化AuCNTを用いて、同様にELISA解析を行った。結果を
図7Bに示す。抗NA抗体固定化AuCNTの場合(NA Ab/AuCNT)も、抗NA抗体の抗原特異性が確認できた。
【0062】
また、実施例1で得られた抗HA抗体固定化AuCNT及び抗HA抗体固定化CdTeに、標的物質としてインフルエンザウイルス(A/Beijing/262/95、H1N1型、Sino Biological Inc社製)を添加して振盪させた後に、共焦点レーザー顕微鏡(LSM700、Carl Zeiss マイクロスコピー GmbH社製)及び微分干渉顕微鏡(DIC)を用いて抗HA抗体固定化AuCNTを観察した。共焦点レーザー顕微鏡で得られた像を
図8Aに、微分干渉顕微鏡で得られた像を
図8Bに示し、これらの像を重ねたものを
図8Cに示す。
図8Cに示すように、AuCNTに固定化された抗HA抗体とインフルエンザウイルスの抗原−抗体反応、及び、CdTeに固定化された抗HA抗体とインフルエンザウイルスの抗原−抗体反応が進行することにより、CdTeがAuCNTの表面に集積し、CdTeが蛍光を呈していた。
【0063】
次に、上記方法にしたがい、インフルエンザウイルス(A/Beijing/262/95、H1N1型、Sino Biological Inc社製)の最終濃度(ウイルス濃度)を10
−3ng/mL(1pg/mL)〜10
3ng/mL(1μg/mL)の範囲で変化させ、実施例1で得られた複合体のCdTeの蛍光強度(PL強度)を測定した。横軸にウイルス濃度、縦軸に蛍光強度をプロットすると、
図9に示すように、インフルエンザウイルスの濃度が1ng/mL〜1μg/mLの範囲では、ウイルス濃度の増加に伴いCdTeの蛍光強度が上昇した。なお、このときの蛍光の検出限界(下限値)は1ng/mLであった。
【0064】
さらに、実施例2で得られた抗NA抗体固定化AuCNT及び抗HA抗体固定化CdTEと、標的物質としてインフルエンザウイルス(A/New Caledonia/20/99IvR116、H1N1型、Sino Biological Inc社製)とを用いて、同様に、ウイルス濃度を10
−4ng/mL(0.1pg/mL)〜10ng/mLの範囲で変化させ、実施例2で得られた複合体のCdTeの蛍光強度(PL強度)を測定した。横軸にウイルス濃度、縦軸に蛍光強度をプロットすると、
図10に示すように、相関係数0.98以上の検量線が得られた。実施例2は、AuCNTに固定化した抗体とCdTeに固定化した抗体とが異なるため、さらに高感度でウイルスを検出できた。なお、このときの蛍光の検出限界(下限値)は0.1pg/mLであった。
【0065】
したがって、本発明の検出方法によれば、標的物質の検出を簡便かつ非常に高感度に行うことができる。また、標的物質の濃度依存的に量子ドットの蛍光強度が上昇し、標的物質の濃度が0.1pg/mLであっても、標的物質を検出することが可能である。さらに、従来の金属膜で行う検出方法と比較して、本発明の検出方法は、カーボンナノチューブを中心とした複合体を形成することによって、標的物質の有無による蛍光強度の差が大きくなり、標的物質の有無を判定することが極めて容易である。