(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は本発明に係るロータリジョイントの第1の実施の形態を示す断面図であり、
図2は
図1の要部を拡大して示す詳細断面図である。また、
図3は本発明に係るロータリジョイントの第2の実施の形態を示す断面図であり、
図4は
図3と異なる位置で断面した当該ロータリジョイントの断面図であり、
図5は
図3の要部を拡大して示す詳細断面図である。なお、以下の説明において、上下とは
図1〜
図5における上下をいうものとする。
【0014】
第1の実施の形態のロータリジョイント(以下「第1ロータリジョイント」という)は、
図1に示す如く、ケース体101とこれに相対回転自在に連結した回転軸体102との間に、1個のメカニカルシール103でシールされた流路空間104を形成すると共に当該メカニカルシール103により当該流路空間104と区画された空間であってオイルシール105でシールされた流路外空間106を形成し、前記両体101,102間に、ケース体101に形成されたケース体側流体通路107と回転軸体102に形成された軸体側流体通路108とを前記流路空間104を介して連通接続してなる1個の一連の流路R1を形成してなるものであり、半導体分野等で使用される回転機器(例えば、CMP装置等)における回転機器の相対回転部材間で流体F1を流路R1により流動させるものである。
【0015】
ケース体101は、
図1に示す如く、中心線が上下方向に延びる有底円筒構造をなすもので、円筒状の周壁101aとこれに取り付けられて周壁101aの上端開口部を閉塞する円板状の端部壁101bとからなり、回転機器の固定側部材(例えば、CMP装置の装置本体)に取り付けられる。
【0016】
回転軸体102は、
図1に示す如く、上下方向に延びる円柱形状をなすものであり、その下端側部分とケース体101の周壁101aの下端部との間に介装した一対のベアリング109a,109bにより、ケース体101に同心をなして回転自在に連結されている。回転軸体102は、当該回転機器の回転側部材(例えば、例えば、CMP装置のトップリング又はターンテーブル)に取り付けられる。
【0017】
メカニカルシール103は、両体101,102の一方(この例では回転軸体102)に固定された固定密封環131と他方(この例ではケース体101)に当該固定密封環131に対向して両体101,102の回転軸線方向(以下、単に「軸線方向」という)に移動可能に保持された可動密封環132と、可動密封環132を固定密封環101へと押圧接触させるべく附勢するスプリング133と具備して、両密封環131,132の上下対向端面である密封端面131a,132aの相対回転摺接作用により当該相対回転摺接部分の内周側領域(両密封環131,132の内周側領域)である流路空間104とその外周側領域である流路外空間106とを遮蔽シールするように構成された端面接触形メカニカルシールであって、当該両密封端面131a,132aの一方を径方向面幅の微小な尖端形状に構成したナイフエッジシールである。
【0018】
すなわち、固定密封環131は、
図1及び
図2に示す如く、円環状の本体部131bとその下端部に一体形成された円筒状の固定部131cとからなり、固定部131cを、本体部131bの基端面(下端面)を両体101,102の回転軸線(以下、単に「軸線」という)と同心状をなして回転軸体102の先端面(上端面)に衝合させた状態で、回転軸体102の先端部分(上端部分)に嵌合固定されている。本体部131bの先端面(上端面)は、その全面を軸線に直交する平滑な環状平面である密封端面131aに構成されている。固定部131cと回転軸体102との嵌合部分は、キー131dによって相対回転不能とされると共に回転軸体102の外周部に係合させたOリング131eによりシール(二次シール)されている。
【0019】
可動密封環132は、
図1及び
図2に示す如く、円筒状の本体部132bとその先端近傍部(下端近傍部)から外径方向に一体に張り出す円環状の鍔部132cとからなり、本体部132bの基端部分(上端部分)をケース体101の端部壁101bに形成した保持孔101cにOリング132dを介して嵌合させることにより、ケース体101に固定密封環131と同心状且つ上下対向状をなして軸線方向移動可能(上下方向移動可能)に保持されている。可動密封環132は、
図2に示す如く、本体部132bの下端側部分の内周面を下方向に漸次拡径する截頭円錐面として、鍔部132cから下方に突出する本体部132bの先端(下端)を尖端形状となしたものであり、この本体部132bの先端面(下端面)を軸線に直交する平滑平面であって径方向面幅(シール面幅)の微小な密封端面131aに構成している。すなわち、可動密封環132の密封端面132aは、固定密封環131の密封端面131aの径方向略中央部にこれと同心をなして接触するものであり、その径方向面幅は0.1〜0.8mm(より好ましくは0.4〜0.7mm)に設定されている。Oリング132dはケース体101の保持孔101cの内周面に形成したOリング溝101dに係合保持されていて、可動密封環132の本体部132bの外周面であって一定径のOリング接触面132eに軸線方向相対移動可能に圧接(弾性的に接触)している。すなわち、可動密封環103は、ケース体101との間をOリング132dによりシール(二次シール)された状態で、ケース体101に軸線方向相対移動可能に保持されている。なお、可動密封環132は、
図2に示す如く、鍔部132cの外周部に形成した係合凹部132fにケース体101の端部壁101bの下端部に植設したドライブピン132gを係合させることにより、軸線方向移動(上下方向移動)を所定範囲で許容された状態でケース体101に対する相対回転を阻止されている。
【0020】
スプリング133は、
図1及び
図2に示す如く、可動密封環132の鍔部132cとケース体1の端部壁101bとの間に装填されていて、可動密封環132を、両密封端面131a,132aが相互に押圧接触せしめられるべく、固定密封環131へと押圧附勢するものである。
【0021】
オイルシール105は、
図1及び
図2に示す如く、ケース体101と固定密封環131との対向周面間に配設されて、ゴム等の弾性材製の環状シール部材105aの外周部をケース体101に固定すると共にその内周部(リップシール部)を固定密封環131に弾性的に接触させることにより、ナイフエッジシール3の両密封環131,132の相対回転摺接部分の外周側領域である流路外空間106をシールするものである。環状シール部材105aは、周知のもので、
図2に示す如く、金属材(SUS304等)製の補強金具105bが埋設されてケース体101の周壁101aの内周部に内嵌固定された本体部と、回転密封環131の外周面にガータスプリング105cで緊縛、圧接されてシール機能を発揮するリップシール部とからなる。
【0022】
ケース体101の周壁101aには、
図1に示す如く、オイルシール105で閉塞シールされた流路外空間106に冷却液C1を給排する冷却液供給通路106a及び冷却液排出通路106bが形成されていて、流路外空間106に冷却液C1が循環供給されるようになっており、冷却液C1は可動密封環132に常時接触する。冷却液C1としては常温水等の液体が使用されている。なお、ケース体101の周壁101aには、オイルシール105とベアリング109aとの間において両体101,102の対向周面間に開口するドレン113aが形成されている。
【0023】
ケース体側流体通路107は、
図1に示す如く、ケース体1の端部壁101bを保持孔101cへと貫通して可動密封環132の内周部である流路空間4に連通するものであり、前記回転機器の静止側部材に形成された流体通路に接続される。軸体側流体通路108は、
図1に示す如く、回転軸体102の中心部を貫通して固定密封環131の内周部である流路空間104に連通するものであり、前記回転機器の回転側部材に形成された流体通路に接続される。したがって、両体101,102間において、
図1に示す如く、両流体通路107,108を流路空間104を介して連通接続してなる一連の流路R1により流体F1を流動させることができる。この例では、流体F1が冷却液C1と略同一温度のスラリ流体(例えば、研摩液のように固形粒子等のスラリ成分を含有する液体)であり、これを
図1の実線矢印方向に流動させると共に破線矢印方向に真空吸引させるようになっている。
【0024】
ところで、上記メカニカルシール3のバランス比κは、可動密封環132の密封端面132aの内外径と可動密封環132の本体部132bの外径(Oリング接触面132eの径)とで決定されるが、流路R1内が負圧となる場合(流体F1を真空吸引させる場合)にも密封端面131a,132aの接触圧が適正に維持されるように、一般に0≦κ≦0.6となるように設定されている。この例では、κ=0.5に設定してある。
【0025】
而して、密封端面132aを径方向面幅の微小な尖端形状に構成された可動密封環132においては、本発明に従って、前記Oリング接触面132e、密封端面132a及び密封端面132aからOリング接触面132eに至る可動密封環132の表面部分であって前記流路外空間106内の流体である冷却液C1と接触する接液面132hに、当該密封環132の構成材に比して熱伝導係数及び硬度が大きく且つ摩擦係数が小さな材料からなるコーティング層10a,10b,10cが一連に形成されている。なお、密封端面132aからOリング接触面132eに至る可動密封環132の表面部分である接液面132hは、
図2に示す如く、密封端面132aの外周縁に連なる本体部132bの先端部(鍔部132cから突出する本体部132bの下端部)の外周面と、その基端縁(上端縁)に連なる鍔部132cの先端面(下端面)と、その外周縁に連なる鍔部132cの外周面(係合凹部132fが形成された部分においては当該係合凹部132fの内周面を含む)と、その基端縁(上端縁)に連なってOリング接触面132eの先端縁(下端縁)に至る鍔部132cの基端面(上端面)とからなる。
【0026】
すなわち、密封端面132aに密封端面コーティング層10aを形成し、接液面132hに密封端面コーティング層10aに連なる接液面コーティング層10bを形成すると共に、Oリング接触面132eに接液面コーティング層10bに連なるOリング接触面コーティング層10cを形成してある。なお、以下の説明において、密封環とこれに被覆形成されたコーティング層とを区別する必要があるときは、前者を密封環母材という。
【0027】
コーティング層10a,10b,10cの構成材としては、可動密封環132の構成材(密封環母材の構成材)がセラミックス、超硬合金等の如何なる密封環構成材であっても、これより熱伝導係数及び硬度が大きく且つ摩擦係数が小さなダイヤモンドが使用されている。なお、ダイヤモンドコーティング層10a,10b,10cの形成は、熱フィラメント化学蒸着法、マイクロ波プラズマ化学蒸着法、高周波プラズマ法、直流放電プラズマ法、アーク放電プラズマジェット法、燃焼炎法等のコーティング方法によって行われる。
【0028】
また、第2の実施の形態のロータリジョイント(以下「第2ロータリジョイント」という)は、
図3及び
図4に示す如く、筒状のケース体1とこれに同心をなして相対回転自在に連結した回転軸体2とを具備し、両体1,2の対向周面間に、4個以上のメカニカルシール3…を両体1,2の回転軸線方向(以下、単に「軸線方向」という)つまり上下方向に縦列させて配置して、隣接するメカニカルシール3,3でシールされた複数個の流路空間4…を形成すると共に、当該流路空間4とメカニカルシール3で区画された空間であって一対のオイルシール5,5でシールされた流路外空間6を形成し、両体1,2間に、ケース体1に形成されたケース体側流体通路7と回転軸体2に形成された軸体側流体通路8とを流路空間4を介して連通してなる一連の複数個の流路R2…(
図4参照)を形成したものであり、CMP装置等の回転機器の相対回転部材間で2種以上の流体F2…を各流路R2により各別に流動させるものである。
【0029】
ケース体1は、
図3及び
図4に示す如く、中心線が上下方向に延びる円形内周部を有するもので、上下方向に複数個の環状部分に分割された筒状構造をなす。ケース本体1は、回転機器の固定側部材(例えば、CMP装置の装置本体)に取り付けられる。
【0030】
回転軸体2は、
図3及び
図4に示す如く、軸線が上下方向に延びる円柱状の軸本体21と、これに上下方向に所定間隔を隔てて縦列状に挿通された複数個のスリーブ22…と、軸本体21の上端部に嵌合固定された有底筒状のベアリング受体23とで構成されており、ベアリング受体23とケース体1の上端部との間及び軸本体21の下端部に形成された大径のベアリング受部21aとケース体1の下端部との間に夫々装填した上下一対のベアリング9a,9bによりケース体1の内周部に同心状をなして相対回転自在に支持されている。回転軸体2は、軸本体21の下端部において回転機器の回転側部材(例えば、CMP装置のトップリング又はターンテーブル)に取り付けられる。
【0031】
各メカニカルシール3は、
図3に示す如く、回転軸体2に固定した固定密封環31と、これに対向してケース体1に軸線方向に移動可能に保持された可動密封環32と、これを固定密封環31に押圧接触させるスプリング33とを具備して、両密封環31,32の対向端面である密封端面31a,32aの相対回転摺接作用によりその相対回転摺接部分の内周側領域である流路空間4とその外周側領域である流路外空間6とをシールするように構成された端面接触形のメカニカルシールであって、可動密封環32の密封端面32aを径方向面幅の微小な尖端形状に構成したナイフエッジシールである。
【0032】
この例では、
図3及び
図4に示す如く、4個のメカニカルシール3を全密封環31…,32…が回転軸線方向に縦列し且つその密封環群31…,32…の両端部(上下端部)に固定密封環31,31が位置する状態で配置されている。すなわち、両固定密封環31,31間に可動密封環32,32が位置するダブルシール配置の一対のメカニカルシール3,3からなる2組のメカニカルシールユニットを軸線方向に縦列配置してある。
【0033】
各固定密封環31は、両体1,2の回転軸線(以下、単に「軸線」という)と同心をなす断面方形の円環状体であり、
図3及び
図4に示す如く、可動密封環32が接触する端面を全面的に軸線に直交する平滑な円環状平面である密封端面31aに構成してある。この例では、1個のメカニカルシール3の固定密封環31とこれに隣接するメカニカルシール3の固定密封環31とを、
図3〜
図5に示す如く、両端面を密封端面31a,31aとする1個の固定密封環31で兼用している。すなわち、上下方向に縦列する固定密封環群31…のうち両端部(上下端部)に位置する固定密封環31,31を除いて、固定密封環31の両端面を密封端面31a,31aに構成してある。
【0034】
各固定密封環31は、
図3及び
図4に示す如く、隣接する固定密封環31との相互間隔をスリーブ22によって規制された状態で回転軸体2の軸本体21に嵌合固定されている。すなわち、各固定密封環31は、
図3に示す如く、ベアリング受体23をボルト24により軸本体21に締め付けることにより、スリーブ22を介してベアリング受部21aとベアリング受体23との間に挟圧固定されており、軸線方向に等間隔を隔てた縦列状態で回転軸体2に固定されている。なお、各スリーブ22の両端内周部と軸本体21との間には、
図3及び
図4に示す如く、軸本体21と固定密封環31との嵌合部分をシールするOリング25が装填されている。
【0035】
各可動密封環32は、
図5に示す如く、軸線と同心をなし且つ先端部32bの内径を基端部32cの内径より小さくした断面略L字状の円環状体であって、先端部32bの先端側内周面を基端方向に漸次縮径する截頭円錐面とすると共に先端部32bの外周面を基端方向に漸次拡径する截頭円錐面とすることにより先端を尖端形状としたものである。各可動密封環32は、その先端部32bの端面(先端面)を径方向面幅が微小で軸線に直交する平滑な円環状平面である密封端面32aに構成したものであり、密封端面32aが固定密封環31の密封端面31aの内外周部分が径方向に食み出す状態で当該密封端面31aに同心状に接触している。可動密封環32の密封端面32aの径方向面幅は、第1ロータリジョイントにおける可動密封環132の密封端面132aと同様に、0.1〜0.8mm(より好ましくは0.4〜0.7mm)に設定されている。各可動密封環32は、
図5に示す如く、その基端部32cをケース体1の内周部に突出する環状壁11にOリング32dを介して軸線方向に移動可能に内嵌保持されている。すなわち、環状壁11の内周部には、
図5に示す如く、外径を可動密封環32の先端部32bの内径より大きく且つその基端部32cの内径より小さくしたOリング係止部11aと外径を可動密封環32の先端部32bの内径より小さくしたOリング保持部11bとからなる円筒状部分が一体的に突出形成されており、Oリング32dは環状壁11のOリング係止部11aと可動密封環32の先端部32bとの対向端面間において軸線方向移動が規制された状態で可動密封環32の基端部32cと環状壁11のOリング保持部11bとの対向周面間に装填されている。したがって、可動密封環32は、その基端部32cの内周面であって一定径のOリング接触面32eに軸線方向相対移動可能に圧接(弾性的に接触)するOリング32dによりケース体1(環状壁11)との間をシール(二次シール)された状態で、ケース体1に軸線方向相対移動自在に保持されている。なお、可動密封環32は、
図3に示す如く、その外周部に形成した係合凹部に環状壁11から軸線方向に突出するドライブピン32fを係合させることにより、軸線方向への相対移動を所定範囲で許容された状態でケース体1に相対回転不能に保持されている。
【0036】
スプリング33は、
図1に示す如く、各メカニカルシールユニットにおいて、環状壁11を軸線方向に貫通する連通孔11cに装填されていて、環状壁11の両側に位置する両可動密封環32,32を各固定密封環31へと押圧附勢する共通部材とされている。
【0037】
両体1,2には、
図4に示す如く、各流路空間4に連通する流体通路7,8が形成されており、この例では、両体1,2間に両流体通路7,8と流路空間4とにより両体1,2間で流体F2を各別に流動させる2個の流路R2,R2が形成されている。ケース体1の各ケース側流体通路7は、
図4に示す如く、ケース体1を径方向に貫通して形成されており、その一端部が環状壁11の内周面において流路空間4に開口すると共にその他端部が回転機器の固定側部材に形成された流体通路に接続される。回転軸体2に形成された各軸体側流体通路8は、
図4に示す如く、軸本体21とスリーブ22との対向周面間に形成された環状のヘッダ空間8aと、スリーブ22を径方向に貫通してヘッダ空間8aと流路空間4とを連通する複数個(1個のみ図示)の連通孔8bと、軸本体21をその下端部から軸線方向に貫通してヘッダ空間8aに開口する流体通路本体8cとで構成されており、流体通路本体8cの下端部は回転機器の回転側部材に形成された流体通路に接続される。なお、各密封環31,32の構成材は流路R2を流動する流体F2の性状等のロータリジョイント使用条件に応じて選択され、一般に炭化ケイ素等のセラミックスや超硬合金等の硬質材で構成される。
【0038】
両オイルシール5,5は、
図3及び
図4に示す如く、両ベアリング9a,9b間においてメカニカルシール群3…の両端部に配置されており、軸線方向に並列する密封環群31…,32…の両端部(上下端部)に位置する固定密封環31,31とケース体1の内周部に固定されて固定密封環31,31の外周面に圧接するゴム等の弾性材製の環状シール部材51,51とからなる。各環状シール部材51は、前記環状シール部材105aと同様構造をなす周知のものであり、
図5に示す如く、金属材(SUS304等)製の補強金具51aが埋設されてケース体1の内周部に内嵌固定された本体部と、固定密封環31の外周面にガータスプリング51bで緊縛、圧接されてシール機能を発揮するリップシール部とからなる。
【0039】
両体1,2の対向周面間には、各メカニカルシール3における両密封端面31a,32aの相対回転摺接部分の外周側領域と当該外周側領域間を仕切る環状壁11に形成された連通孔11cとで構成される空間であって両オイルシール5,5でシールされた流路外空間6が形成されており、この例では、当該流路外空間6に常温水等の冷却液C2が循環供給され、冷却液C2が可動密封環32に常時接触するようになっている。すなわち、ケース体1には、
図3に示す如く、流路外空間6の上下端部に開口して冷却液C2を給排する冷却液供給通路6a及び冷却液排出通路6bが形成されていて、冷却液C2を流路外空間6に循環供給するようになっている。なお、ケース体1には、
図3に示す如く、各オイルシール5とベアリング9a,9bとの間において両体1,2の対向周面間に開口するドレン13a,13bが形成されている。
【0040】
ところで、この例では、各流路R2を流動する流体F2が冷却液C1と略同一のスラリ流体(例えば、研摩液のように固形粒子等のスラリ成分を含有する液体)であり、これを
図4の実線矢印方向に流動させると共に破線矢印方向に真空吸引させるようになっている。このため、各メカニカルシール3は流路空間4内(流路R2内)が正負圧力変動した場合にも対応できる構造とされている。すなわち、各メカニカルシール3のバランス比κを、これは可動密封環32の密封端面32aの内外径と可動密封環32の基端部32cの内径(Oリング接触面32eの径)とで決定されるが、流路R2内が負圧となる場合(流体F2を真空吸引させる場合)にも密封端面31a,32aの接触圧が適正に維持されるように、一般に0≦κ≦0.6となるように設定されている。この例では、κ=0.5に設定してある。
【0041】
而して、密封端面32aを径方向面幅の微小な尖端形状に構成された各可動密封環32においては、本発明に従って、前記Oリング接触面32e、密封端面32a及び密封端面32aからOリング接触面32eに至る可動密封環32の表面部分であって前記流路外空間6内の流体である冷却液C2と接触する接液面32gに、当該密封環32の構成材に比して熱伝導係数及び硬度が大きく且つ摩擦係数が小さな材料からなるコーティング層10d,10e,10fが一連に形成されている。なお、密封端面32aからOリング接触面32eに至る可動密封環32の表面部分である接液面32gは、
図5に示す如く、密封端面32aの外周縁に連なる先端部32b及び基端部32cの外周面と、その基端縁に連なってOリング接触面32eの基端縁に至る基端部32cの端面(基端面)とからなる。
【0042】
すなわち、密封端面32aに密封端面コーティング層10dを形成し、接液面32gに密封端面コーティング層10dに連なる接液面コーティング層10eを形成すると共に、Oリング接触面32eに接液面コーティング層10eに連なるOリング接触面コーティング層10fを形成してある。なお、以下の説明において、密封環とこれに被覆形成されたコーティング層とを区別する必要があるときは、前者を密封環母材という。
【0043】
コーティング層10d,10e,10fの構成材としては、可動密封環32の構成材(密封環母材の構成材)がセラミックス、超硬合金等の如何なる密封環構成材であっても、これより熱伝導係数及び硬度が大きく且つ摩擦係数が小さなダイヤモンドが使用されている。なお、ダイヤモンドコーティング層10d,10e,10fの形成は、熱フィラメント化学蒸着法、マイクロ波プラズマ化学蒸着法、高周波プラズマ法、直流放電プラズマ法、アーク放電プラズマジェット法、燃焼炎法等のコーティング方法によって行われる。
【0044】
以上のように構成された第1及び第2ロータリジョイントにあっては、各可動密封環32,132の密封端面32a,132aにその構成材(密封環母材の構成材)より硬度が大きく且つ摩擦係数が小さい材料からなる密封端面コーティング層10a,10dを形成してあることから、従来ロータリジョイントのように固定密封環の密封端面と可動密封環の密封端面とが直接に相対回転する場合つまり密封環母材同士が直接に相対回転摺接する場合に比して、各密封端面32a,132aと相手密封端面(固定密封環31,131の密封端面)31a,131aとの相対回転摺接部分で発生する摩耗量や発熱量が少なくなる。特に、各密封端面コーティング層10a,10dが上記した如くダイヤモンドで構成される場合には、ダイヤモンドが自然界に存在する固体物質で最も硬質のものであり、摩擦係数が炭化ケイ素等のあらゆる密封環構成材に比して極めて低い(一般に、ダイヤモンドの摩擦係数は0.03(μ)であり、あらゆる密封環構成材に比して遥かに低摩擦係数のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)よりも更に10%以上低い)ものであることから、各可動密封環32,132における密封端面コーティング層10a,10dで被覆された密封端面32a,132aと相手密封環(固定密封環)31,131の密封端面31a,131aとの相対回転摺接によって生じる摩耗や発熱は極めて少ない。
【0045】
また、各可動密封環32,132の密封端面32a,132aは尖端形状とされているため、相手密封環31,131の密封端面31a,131aとの相対回転摺接により発生する熱が集中して局部的に高熱となり、密封端面32a,132aにメカニカルシール機能に悪影響を及ぼすような熱歪が生じる虞れがあるが、第1及び第2ロータリジョイントにあっては、このような密封端面32a,132aにおける熱歪の発生が可及的に防止される。
【0046】
すなわち、各可動密封環32,132の接液面32g,132hに密封端面コーティング層10a,10dに連なる接液面コーティング層10b,10eを形成すると共に各可動密封環32,132のOリング接触面32e,132eに接液面コーティング層10b,10eに連なるOリング接触面コーティング層10c,10fを形成してあり、これらの密封端面コーティング層10a,10d、接液面コーティング層10b,10e及びOリング接触面コーティング層10c,10fが一連のものであって可動密封環32,132の構成材に比して熱伝導係数の大きな材料で構成されたものであるから、可動密封環32,132の密封端面32a,132aで発生した熱は密封端面コーティング層10a,10dから接液面コーティング層10b,10eへと伝熱され、さらに接液面コーティング層10b,10eからOリング接触面コーティング層10c,10fへと伝熱される。したがって、密封端面コーティング層10a,10cの熱は当該密封端面コーティング層10a,10cを含むコーティング層全体に分散されて、密封端面コーティング層10a,10cの温度が大幅に低下する。しかも、接液面コーティング層10b,10e及びOリング接触面コーティング層10c,10fの一部(Oリング接触面32e,132eにおけるOリング32d,132dの接触箇所から接液面32g,132hに至るOリング接触面32e,132e部分に形成されたOリング接触面コーティング層10c,10f部分)において、これらに常時接触し且つ循環流動する冷却液C1,C2との熱交換により上記接液面コーティング層10b,10e及びOリング接触面コーティング層10c,10fの一部からの放熱、冷却が効果的に行われる。その結果、可動密封環32,132の密封端面32a,132aが径方向面幅の微小な尖端形状をなすために相手密封環(固定密封環)31,131の密封端面31a,131aとの接触面圧が高い場合にも、両密封端面の相対回転摺接による摩耗量及び発熱量が激減すると共に、ナイフエッジシールのシール機能(メカニカルシール機能)に悪影響を及ぼすような熱歪の発生はこれが可及的に防止される。しかも、低摩擦係数のOリング接触面コーティング層10c,10fにより可動密封環32,132とOリング32d,132dとの相対運動が円滑に行われて、可動密封環32,132の追従性が向上し、上記したこととも相俟ってメカニカルシール機能が良好に発揮される。このような効果は、コーティング層10a,10b,10c及び10d,10e,10fを上記の如くダイヤモンドで構成しておくことにより、ダイヤモンドが全ての固体物質で最も熱伝導率が高く、セラミックスや超硬合金等の密封環構成材に比して熱伝導率が極めて高いものである(例えば、炭化ケイ素の熱伝導率が70〜120W/mKであるのに対し、ダイヤモンドの熱伝導率は1000〜2000W/mKである)から、極めて顕著に発揮される。
【0047】
したがって、第1及び第2ロータリジョイントによれば、各メカニカルシール3,103における固定密封環31,131と可動密封環32,132との相対回転摺接が適正に行われて、各流路空間4,104が長期に亘って良好にシールされることになり、信頼性及び耐久性に優れたロータリジョイント機能を発揮することができる。
【0048】
なお、本発明の構成は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の基本原理を逸脱しない範囲で適宜に改良、変更することができる。
【0049】
例えば、各メカニカルシール3,103において、固定密封環31,131の密封端面31a,131aに、
図6又は
図11に示す如く、当該密封環31,131の密封環母材の構成材に比して熱伝導係数及び硬度が大きく且つ摩擦係数が小さな材料(ダイヤモンドが最適する)からなるコーティング層10g,10hを形成しておくことができる。このようにすれば、各可動密封環32,132で発生する熱が、相手密封環31,131のコーティング層10g,10hへと伝熱、分散されることになり、可動密封環32,132の密封端面32a,132aと相手密封環31,131の密封端面31a,131aとの相対回転摺接による熱歪の発生をより効果的に防止することができ、当該相対回転摺接による摩耗量も激減させることができる。さらに、この場合においては、
図7又は
図12に示す如く、各固定密封環31,131の密封端面31a,131aに前記コーティング層10g,10hを形成すると共に、当該固定密封環31,131における冷却液C1,C2と接触する表面部分(外周面)に、当該コーティング層10g,10hに連なる同材質のコーティング層10i,10jを形成しておくことが好ましい。このようにすれば、上記放熱、冷却効果が更に効果的に発揮される。
【0050】
また、流路空間4,104(流路R1,R2)を流動する流体F1,F2が可動密封環32,132と常時接触して冷却液として機能しうる液体である場合において流路外空間6,106内の流体が窒素ガス等の気体であるときやオイルシール5,105を有さず流路外空間6,106が大気に開放されているときには、当該流体F1,F2による冷却作用が流路外空間6,106内の流体(気体)による冷却作用より期待できることから、
図8又は
図13に示す如く、各可動密封環32,132における密封端面32a,132a、Oリング接触面32e,132e及び密封端面32a,132aからOリング接触面32e,132eに至る可動密封環32,132の表面部分であって当該流体F1,F2と接触する接液面32h,132iに、当該密封環32,132の密封環母材の構成材に比して熱伝導係数及び硬度が大きく且つ摩擦係数が小さな材料(ダイヤモンドが最適する)からなるコーティング層10a,10c,10k又は10d,10f,10mを一連に形成しておくことが好ましい。すなわち、第1ロータリジョイントにあっては、
図8に示す如く、接液面132iが密封端面132aの内周縁に連なる可動密封環132の本体部132bの内周面とその基端縁(上端縁)からOリング接触面132eの基端縁(上端縁)に至る可動密封環132の本体部132bの基端面(上端面)とからなり、この接液面132iに密封端面132aに形成した密封端面コーティング層10aとOリング接触面132eに形成したOリング接触面コーティング層10cとを連結する接液面コーティング層10kを形成しておくのである。また、第2ロータリジョイントにあっては、
図13に示す如く、接液面32hが密封端面32aの内周縁からOリング接触面32eの先端縁に至る可動密封環32の先端部32bの内周面であり、この接液面32hに密封端面32aに形成した密封端面コーティング層10dとOリング接触面32eに形成したOリング接触面コーティング層10fとを連結する接液面コーティング層10mを形成しておくのである。このようにすれば、密封端面32a,132aのコーティング層10a,10dで発生する熱が、流体F1,F2と接触するコーティング層10c,10k又は10f,10mへと伝熱、分散されて、流体F1,F2による冷却が行われ、密封端面32a,132aに熱歪が生じることはない。さらに、この場合においては、
図9又は
図14に示す如く、各固定密封環31,131の密封端面31a,131aに当該密封環31,131の密封環母材の構成材に比して熱伝導係数及び硬度が大きく且つ摩擦係数が小さな材料(ダイヤモンドが最適する)からなるコーティング層10g,10hを形成しておくことが好ましい。
【0051】
ところで、CMP装置等の半導体分野で使用される回転機器にあっては、超純水若しくは純水又は金属イオンの溶出を嫌う流体が使用され、これらの流体をロータリジョイントによりコンタミネーションを生じることなく流動させる必要があるため、ロータリジョイントの流路を流動する流体と接触するメカニカルシール構成部材をパーティクルや金属イオンが発生し難い炭化ケイ素やプラスチックで構成しておくことが提案されている。例えば、特開2003−200344公報に開示される如く、各密封環を炭化ケイ素で構成すると共に密封環以外のロータリジョイント構成部材であって流路を流動する流体と接触する部材をエンジニアリング・プラスチック等のプラスチックで構成しておくのである。しかし、このようなロータリジョイントでは、密封環を金属イオンを溶出する虞れのある超硬合金等で構成しておくことができず、密封環の構成材選択範囲が大幅に制限されることになる。また、密封環が炭化ケイ素で構成されている場合にあって、ロータリジョイントの流路を流動する流体が超純水や純水であるときには、これとの接触により当該密封環にエロージョン・コロージョンが発生する虞れがある。このような場合にあって流路R1,R2を流動する流体F1,F2が可動密封環32,132に常時接触して冷却液として機能しうる液体であるときには、
図10又は
図14に示す如く、当該流体F1,F2と接触する各密封環31,32又は131,132の表面部分に密封端面31a,32a又は131a,132aを含めて電気絶縁性を有し且つ化学的、物理的に安定なダイヤモンドによるコーティング層10a,10c,10k,10g,10n又は10d,10f,10h,10mを一連に形成しておくことが好ましい。このようにしておけば、可動密封環32,132の密封端面32a,132aにおける摩耗、熱歪の発生を上記の場合と同様に可及的に防止できることは勿論、各密封環31,32又は131,132を金属イオンが溶出する虞れのある超硬合金等や超純水、純水との接触によりエロージョン・コロージョンを発生する虞れのある炭化ケイ素等で構成することができ、各密封環31,32又は131,132の構成材選択範囲が制限されることがない。なお、この場合、各密封環31,32又は131,132以外のロータリジョイント部材であって流路R1,R2を構成する部材における流体F1,F2と接触する面又は部分はプラスチック(例えば、フッ素樹脂やポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)等のエンジニアリング・プラスチック)でコーティング又は構成しておく。このように構成しておけば、各流路R1,R2を流動する流体F1,F2が超純水若しくは純水である場合又は金属イオンの溶出を嫌う流体である場合にも、上記した問題は生じない。
【0052】
また、本発明は、上記した如く両体1,2又は101,102の回転軸線が上下方向に延びる竪型のロータリジョイントに限定されず、当該回転軸線が水平方向に延びる横型のロータリジョイントにも好適に適用することができる。また、本発明は、第1ロータリジョイントのように1個の流路R1を有するもの及び第2ロータリジョイントのように2個の流路R2,R2を有するものに限定されず、3個以上の流路を有する多流路形ロータリジョイントにも好適に適用することができる。さらに、本発明は、特開2002−005365公報に開示される如く、ケース本体と回転軸体との間に複数個のメカニカルシールが同心をなして当該両体の回転軸線に直交する方向(径方向)に並列配置して、隣接するメカニカルシールで流路空間をシールするように構成されたロータリジョイントにも適用することができる。また、本発明は、固定密封環をケース体に設けると共に可動密封環を回転軸体に設けたメカニカルシールを使用するロータリジョイントにも、適用することができる。なお、
図6〜
図10に示す各ロータリジョイントは、上記した点を除いて
図1及び
図2に示す第1ロータリジョイントと同一構造をなすものであるから、同一の構成部材については
図1及び
図2に使用した符号と同一符号を付することによってその詳細な説明は省略する。また、
図11〜
図14に示す各ロータリジョイントは、上記した点を除いて
図3〜
図5に示す第2ロータリジョイントと同一構造をなすものであるから、同一の構成部材については
図3〜
図5に使用した符号と同一符号を付することによってその詳細な説明は省略する。