特許第6593867号(P6593867)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6593867
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】バイオマスの粉砕方法
(51)【国際特許分類】
   B02C 23/06 20060101AFI20191010BHJP
【FI】
   B02C23/06
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-143681(P2015-143681)
(22)【出願日】2015年7月21日
(65)【公開番号】特開2017-23921(P2017-23921A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年5月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000116622
【氏名又は名称】愛知県
(72)【発明者】
【氏名】原田 勝可
(72)【発明者】
【氏名】森川 豊
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅子
【審査官】 柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−035266(JP,A)
【文献】 特開2001−354774(JP,A)
【文献】 特開2015−020157(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0286884(US,A1)
【文献】 特開2006−263570(JP,A)
【文献】 特開2003−277215(JP,A)
【文献】 特開2002−161210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/00−5/00
B02C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒共存下でバイオマスを粉砕する方法であって、溶媒として比誘電率が30以上の環状カーボネート類から選択される少なくとも1種の有機溶媒、または前記有機溶媒に水を混合した液を使用し、前記バイオマスと前記溶媒とを混合させて作ったスラリーを粉砕することを特徴とするバイオマスの粉砕方法。
【請求項2】
前記比誘電率が30以上の環状カーボネート類から選択される少なくとも1種の有機溶媒と水との混合液における前記有機溶媒の割合が、50〜80質量%であることを特徴とする請求項1に記載のバイオマスの粉砕方法。
【請求項3】
前記比誘電率が30以上の有機溶剤がエチレンカーボネート、プロピレンカーボネートおよびブチレンカーボネートのいずれかである請求項1または請求項2に記載のバイオマスの粉砕方法。
【請求項4】
前記バイオマスを平均粒子径1μm以下に粉砕することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載のバイオマスの粉砕方法。
【請求項5】
前記バイオマスとして植物系バイオマスを用いることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載のバイオマスの粉砕方法。
【請求項6】
前記植物系バイオマスとして、木質系、草本系、セルロース系のいずれかのバイオマスを用いることを特徴とする請求項5に記載のバイオマスの粉砕方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス素材を粉砕する方法に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
脱石油化学社会の構築には、バイオマスを活用したエネルギーやマテリアルの生産は不可欠である。中でも、太陽エネルギーと二酸化炭素を光合成により有効活用できる植物系バイオマスは、大気中の二酸化炭素量増加を招くことのない、いわゆるカーボンニュートラルな資源として有効活用が強く望まれている。
【0003】
バイオマスは、工業用素材として用いるためには細かく粉砕する必要がある。粉砕によって細かくなると、比表面積が大きくなるため、分散性、他の素材との混合性、成分抽出率、かさ密度、単位体積当たりの物質吸収速度、反応性などの諸性質が向上して工業プロセスでの効率を高めることができる。
【0004】
粉砕はバイオマスをそのまま用いる乾式と、バイオマスを水などの溶媒と混合させたスラリーにして用いる湿式の方法がある。いずれの方法でも、衝撃力、剪断力、圧縮力など様々な力を固体原料に加えることで形状を小さくすることができる。
【0005】
一般に、乾式粉砕は比較的大きな粒子を容易に粉砕する場合に用いられ、湿式粉砕はより細かな粒子を作る際に用いられる。一方で、乾式粉砕は粉砕時の発熱による成分劣化の問題があり、湿式粉砕では溶媒による成分劣化や液の存在による後工程での問題が発生する恐れがある。
【0006】
例えば、木材中からセルロースを回収し活用するためには、ボールミル、カッターミル等の粉砕装置を用いてバイオマスの粉砕が行われているが、乾式粉砕では数10μmレベルまでしか粉砕できない。また、粉砕物の形状は比表面積が小さいブロック状のものとなる。そのため、バイオマスを水などの溶媒に分散させて、湿式粉砕により微細化するとともに、形状を板状もしくは繊維状にして比表面積を大きくすることが行われている。
【0007】
湿式粉砕方法でバイオマスを処理する場合、前処理として乳化する工程や加熱高圧処理する工程を各々別に設ける、いわゆるバッチ式の処理が用いられており、連続処理ができないためにエネルギー効率が悪く、装置が大型であるという欠点があった。さらに、原料となるバイオマスが加熱条件下に長時間おかれるため、バイオマス中の成分が加熱劣化する欠点があった。
【0008】
加熱高圧水下で粉砕する方法として、ボールミルの様なバッチ式粉砕装置内で加圧熱水を発生させる方法(特許文献1参照)が提案されているが、この場合、バッチ式粉砕装置の入り口と出口のバルブを閉めて行うため連続処理ができず、エネルギー効率が悪く、大きな粉砕装置を加熱するために熱エネルギーの損失が多大となる欠点および成分が加熱劣化する欠点は残ったままであった。
【0009】
これらの問題点を解決するバイオマスの粉砕方法として、バイオマスと液体とを混合したスラリーを高圧ポンプによりノズル内に圧送して超高速ジェット流に変換して、その高速ジェット流の運動エネルギーを微粒化エネルギーとして利用してスラリー中のバイオマスを粉砕するようにする方法が提案されている(特許文献2参照)。
しかしながら、この方法では、100℃以上の高温状態で処理する必要があること、さらに、主として液体に水を用いるため、粉砕されたバイオマスに水が接合や付着している。そのため、後工程で水の混入が望まれない場合、別工程で水の除去が必要となった。
【0010】
さらには、水の混入を防ぐために比誘電率の小さい有機溶媒を用いた場合、粉砕品の形状がブロック形状のままであり、比表面積が小さいままとなる問題が残された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−263570号公報
【特許文献2】特開2010−188288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、バイオマスの粉砕処理を、化学処理すること無く、かつエネルギー消費を少なくして高効率で行なうことができる湿式粉砕方法を提供することであり、さらに、有機溶媒を用いることにより後工程で水の除去操作などが不要もしくは軽減するバイオマスの粉砕方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明者らは、鋭意検討した結果、溶媒共存下でバイオマスを湿式粉砕する際に、極性の高い有機溶媒である比誘電率が30以上の有機溶媒中でバイオマスを粉砕することにより、加熱条件を必要とせずに粉砕処理が効率的に実施できること見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の第1発明は、
溶媒共存下でバイオマスを粉砕する方法であって、溶媒として比誘電率が30以上の有機溶媒または前記比誘電率が30以上の有機溶媒に水を混合した液を使用し、前記バイオマスと前記溶媒とを混合させて作ったスラリーを粉砕することを特徴とするバイオマスの粉砕方法である。
【0015】
また、本発明の第2発明は、
前記比誘電率が30以上の有機溶媒と水との混合液における比誘電率が30以上の有機溶媒の割合が50〜100質量%であることを特徴とする第1発明に記載のバイオマスの粉砕方法である。
【0016】
本発明の第3発明は、
前記比誘電率が30以上の有機溶媒がエチレンカーボネート、プロピレンカーボネートおよびブチレンカーボネートのいずれかである第1発明または第2発明に記載のバイオマスの粉砕方法である。
【0017】
本発明の第4発明は、
前記バイオマスを平均粒子径1μm以下に粉砕することを特徴とする第1発明〜第3発明のいずれかに記載のバイオマスの粉砕方法である。
【0018】
本発明の第5発明は、
前記バイオマスとして植物系バイオマスを用いることを特徴とする第1発明〜第4発明のいずれかに記載のバイオマスの粉砕方法である。
【0019】
本発明の第6発明は、
前記植物系バイオマスとして、木質系、草本系、セルロース系のいずれかのバイオマスを用いることを特徴とする第5発明に記載のバイオマスの粉砕方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明のバイオマスの粉砕方法によれば、比誘電率の小さい有機溶媒を用いた場合に比べてバイオマスの粉砕処理が、化学処理すること無く、かつエネルギー消費を少なくして高効率で行なうことができ、比表面積の大きいバイオマス粉砕品を得ることができる。さらに、後工程で水が不要な場合に、エネルギー消費量の抑えたバイオマスの粉砕を行なうことができる。
また、本発明のバイオマスの粉砕方法で粉砕したバイオマスは、例えば、健康食品や化粧品を製造する原料として用いても良く、あるいは、粉砕したバイオマスを糖化させて糖類を回収した後、発酵させてエタノールやブタノールなどの液体燃料を製造しても、乳酸やコハク酸などのプラスチック原料を製造しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例に用いたバイオマスの粉砕装置の概略図である。
図2】粉砕未処理のセルロースの電子顕微鏡写真である。
図3】実施例1でエチレンカーボネート/水(50質量%/50質量%)中において粉砕処理したセルロースの電子顕微鏡写真である。
図4】実施例2でエチレンカーボネート/水(80質量%/20質量%)中において粉砕処理したセルロースの電子顕微鏡写真である。
図5】実施例3でエチレンカーボネート中において粉砕処理したセルロースの電子顕微鏡写真である。
図6】比較例1で水中において粉砕処理したセルロースの電子顕微鏡写真である。
図7】比較例2でノルマルヘキサン中において粉砕処理したセルロースの電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に用いるバイオマスとしては、生体素材のいずれでも構わないが、特に木質系、草本系、セルロース系のいずれかの植物系バイオマスを用いることが望ましい。
【0023】
本発明の粉砕方法に用いる装置としては、ボールミル、ビーズミル、ハンマーミル、ロッドミル、ディスクミル、カッターミルおよびジェットミルなどいずれでも使用可能であるが、特に湿式のジェットミルを使用することが望ましい。
【0024】
前記比誘電率が30以上の有機溶媒の例としては、環状カーボネート類および鎖状カーボネート類が挙げられる。
環状カーボネート類としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の炭素数2〜4のアルキレン基を有するアルキレンカーボネート類が挙げられ、これらの中でも、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートおよびブチレンカーボネートが好ましく、エチレンカーボネートが特に好ましい。
【0025】
鎖状カーボネート類としては、ジアルキルカーボネートが好ましく、構成するアルキル基の炭素数は1〜5個であることが好ましく、特に好ましくは1〜4個である。具体例としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−n−プロピルカーボネート等の対称鎖状アルキルカーボネート類、エチルメチルカーボネート、メチル−n−プロピルカーボネート、エチル−n−プロピルカーボネート等の非対称鎖状アルキルカーボネート類等のジアルキルカーボネートが挙げられる。これらの中でも、ジ−n−プロピルカーボネート、ジブチルカーボネートが好ましい。
【0026】
バイオマスをスラリーにさせる液体として比誘電率が30以上の有機溶媒と水との混合液を使用することができる。混合液の比誘電率が30以上の有機溶媒と水との混合割合は、比誘電率が30以上の有機溶媒が20〜100質量%であることが好ましく、さらに好ましくは比誘電率が30以上の有機溶媒が50〜100質量%である。
【0027】
本発明のバイオマスの粉砕方法を用いれば、バイオマスを平均粒子径1μm以下に粉砕することが可能となる。
【0028】
本発明の粉砕方法を用いれば、板状もしくは繊維状の比表面積が大きい粒子に粉砕することが可能になる
【0029】
本発明により粉砕したバイオマスは、例えば、健康食品や化粧品を製造する原料として用いても良いし、あるいは、粉砕したバイオマスを糖化させて糖類を回収した後、発酵させてエタノールやブタノールなどの液体燃料を製造したり、乳酸やコハク酸などのプラスチック原料を製造したりしても良い。このようにすれば、木質系、草本系、セルロース系のバイオマスから糖類やエタノール等を効率良く製造することができる。
【0030】
本発明者らは、図1に示すバイオマス粉砕装置を使用してバイオマスの粉砕試験を行なったので、以下、その実施例および比較例について説明する。
【0031】
まず、図1に基づいて実施例で使用したバイオマス粉砕装置について説明する。バイオマス粉砕装置は、原料となるバイオマスと比誘電率が30以上の有機溶媒または比誘電率が30以上の有機溶媒に水を混合した液とを混合させて作ったスラリーが投入されるホッパ1を備えている。
このホッパ1内に投入されるスラリー中のバイオマスは、予め適宜の粉砕機を使用して、例えば、最大粒子径1mm以下、より好ましくは最大粒径500μm以下に粗粉砕される。
【0032】
ホッパ1に投入されるバイオマスと比誘電率が30以上の有機溶媒との混合スラリーは、プランジャーポンプ等の高圧ポンプ2に供給され、この高圧ポンプ2でスラリーを所定圧力に加圧してノズル3側に吐出する。
この高圧ポンプ2によりバイオマスのスラリーをノズル3内に圧送して高速ジェット流に変換して、その高速ジェット流の運動エネルギーを微粒化エネルギーとして利用してスラリー中のバイオマスを、例えば、平均粒子径1μm以下に粉砕する。
【0033】
<実施例1>
処理圧力150MPa、加熱温度は非加熱(摩擦で昇温するため80℃に上昇)の条件で連続処理の試験を5回繰り返し行なった。質量比でエチレンカーボネート/水(50質量%/50質量%):結晶性セルロース=98:2となるように混合して、セルロース混合液を調整して試料とした。図1に示すバイオマス粉砕装置のホッパ1に投入した試料の平均粒子径は、約40μmであり、連続処理の試験を5回繰り返し排出された試料の平均粒子径は約8μmであり、粉砕されて平均粒子径が小さくなった。また、粉砕前には認められなかった1μm以下に分布が認められた。
【0034】
また、粉砕前の試料混合液中のセルロースは溶媒に即時に沈殿したが、粉砕処理後のセルロースは溶媒への親和性が向上したことにより乳化され沈殿しにくくなった。
粉砕後のセルロースの電子顕微鏡写真による観察を行なったところ、図3に示すように、セルロースの形状は粉砕前のブロック状から一部繊維状を含む板状へと変化した。なお。図2は粉砕前のセルロースの電子顕微鏡写真を示す。
【0035】
<実施例2>
エチレンカーボネート/水(80質量%/20質量%)の混合液を用いた以外は実施例1と同じ条件で粉砕試験を行なった。
連続処理の試験を5回繰り返し排出された試料の平均粒子径は約8μmであった。図4に示すようにセルロースは粉砕前のブロック状から一部繊維状を含む板状へと変化した。
【0036】
<実施例3>
エチレンカーボネートだけを用いた以外は実施例1と同じ条件で行なった。
連続処理の試験を5回繰り返し排出された試料の平均粒子径は8〜10μmであった。図5に示すように粉砕によりセルロースの形状は粉砕前のブロック状から一部繊維状を含む板状へと変化した。
【0037】
<比較例1>
水だけを用いた以外は実施例1と同じ条件で行なった。
連続処理の試験を5回繰り返し排出された試料の平均粒子径は4〜8μmであった。図6に示すように粉砕したセルロースの形状は粉砕前のブロック状から一部繊維状を含む板状になっている。
【0038】
<比較例2>
ノルマルヘキサンだけを用いた以外は実施例1と同じ条件で行った。
連続処理の試験を5回繰り返し排出された試料の平均粒子径は10〜20μmであった。また、1μm以下に分布が認められなかった。なお、図7に示すようにセルロースの形状が、粉砕前のブロック形状のままであった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によりバイオマスを比誘電率30以上の極性の高い有機溶媒中で連続処理するシステムを提供できる。さらに、バイオマス中に含まれる成分を従来技術よりエネルギーの消費が少なく抽出することができる。抽出する成分は、加熱による劣化が少なく、殺菌や機械的な不純物の混入ない高品質なものとして提供できる。さらに、植物系バイオマス中に含まれる糖類を省エネルギーで製造することが可能となり、糖類を用いたバイオ燃料やバイオマテリアルを少ないエネルギー消費で提供できる。
【符号の説明】
【0040】
1:ホッパ、2:高圧ポンプ、3:ノズル、4:回収部、5:圧力計、6:流量計、7:温度計
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7