【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物1・刊行物名 :ロボティクス・メカトロニクス講演会2015 講演概要集 ・巻号頁等 :2A2−A07(1)〜(3) ・発行年月日:2015年(平成27年)5月16日 ・発行者名 :一般社団法人 日本機械学会
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項5〜7のいずれか1項に記載された伸縮シートが衣服として構成されているアシスト装置であって、前記伸縮シートが支援の対象になる動作を起こすための筋肉に対応する位置に少なくとも用いられていることを特徴とするアシスト装置。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本発明の技術的範囲は、以下の記載や図面にのみ限定されるものではない。
【0033】
[基本構成]
本発明に係る伸縮ファイバー1(1A,1B)は、
図1又は
図5に示すように、電場応答性ゲル状ポリマー層13,23を有する第1の導電性ファイバー11,21と、電場応答性ゲル状ポリマー層13,23に電場を与える第2の導電性ファイバー14,24とにより構成されている。これらの伸縮ファイバー1(1A,1B)は、第1の導電性ファイバー11,21が第2の導電性ファイバー14,24に巻かれることによって構成されている。
図1に示す伸縮ファイバー1Aでは、第1の導電性ファイバー11と第2の導電性ファイバー14とが第1の導電性ファイバー11及び第2の導電性ファイバー14の長手方向において部分的に接触している形態である。
図5に示す伸縮ファイバー1Bでは、第2の導電性ファイバー24が第1の導電性ファイバー21の外周に巻かれることによって、第1の導電性ファイバー21及び第2の導電性ファイバー24の長手方向の全体で接触している形態である。
【0034】
なお、本願において、「ファイバー」とは、紐状の素材を示す意味で用いており、線(線材)やワイヤーと言い換えてもよい。したがって、伸縮ファイバーや導電性ファイバーは、伸縮線(伸縮ワイヤー)や導電性線材(導電性ワイヤー)と言い換えてもよい。
【0035】
本発明に係る伸縮シート30(30A,30B)は、
図7又は
図8に示すように、前記した伸縮ファイバー1(1A,1B)が織り込まれることによって形成された織物(
図7参照)、又は伸縮ファイバー1(1A,1B)が編み込まれることによって形成された編物(
図8参照)である。
【0036】
本発明に係るアシスト装置50,70は、例えば、
図9及び
図12に示すように、前記した伸縮シート30(30A,30B)が、支援の対象になる動作を起こすための筋肉に対応する位置に少なくとも用いられた衣服として構成されている。
【0037】
上記の構成を有する伸縮ファイバー1(1A,1B)、この繊維により構成された伸縮シート30(30A,30B)及びこの伸縮シート30(30A,30B)を用いたアシスト装置50,70によれば、人にフィットした感覚与えることができ、多様な人の動作を支援することができるという特有の効果を奏する。以下、これら本発明の具体的な構成について、適宜に図面を参照しつつ説明する。
【0038】
[伸縮ファイバー]
伸縮ファイバー1は、2つのタイプを包含する。第1タイプの伸縮ファイバー1Aは、第1の導電性ファイバー11が第2の導電性ファイバー14に巻かれると共に、第2の導電性ファイバー14が第1の導電性ファイバー11に巻かれ、螺旋状をなしている。なお、第1タイプの伸縮ファイバー1Aを、以下では、「撚り線構造」の伸縮ファイバー1Aということがある。第2タイプの伸縮ファイバー1Bは、第2の導電性ファイバー24が中心に位置し、第1の導電性ファイバー21が第2の導電性ファイバー24の外周に螺旋状に巻かれた構造をなしている。なお、第2タイプの伸縮ファイバー1Bを、以下では、「カバードヤーン構造」の伸縮ファイバー1Bということがある。
【0039】
〈第1タイプの伸縮ファイバー〉
第1タイプの伸縮ファイバー1Aは、撚り線構造をなしている。この伸縮ファイバー1Aは、第1の導電性ファイバー11と第2の導電性ファイバー14とが互いに相手方に巻かれて、螺旋状の構造をなしている。第1の導電性ファイバー11と第2の導電性ファイバー14とは、第1の導電性ファイバー11及び第2の導電性ファイバー14の長手方向に間隔を空けた複数の位置で接触している。以下、第1の導電性ファイバー11と第2の導電性ファイバー14とが接触している複数の部分を「接触部15」という。接触部15と接触部15との間では、第1の導電性ファイバー11と第2の導電性ファイバー14との間に隙間が存在する。
【0040】
第1の導電性ファイバー11は、
図2に示すように、導電性を有する材料を備えた導電線12と、この導電線12の周囲を覆う電場応答性ゲル状ポリマー層13とによって構成されている。導電線12は導電性を有していればよく、導電線12自体が伸縮することは必須ではない。また、第2の導電性ファイバー14は、導電性を有していればよく、第2の導電性ファイバー14自体が伸縮することは必須ではない。
【0041】
以下、伸縮ファイバー1が伸縮するメカニズムについて、
図3及び
図4を参照して説明する。
図3及び
図4では、伸縮ファイバー1として、
図1に示す第1タイプの伸縮ファイバー1Aを使用し、第1の導電性ファイバー11を陰極線とし、第2の導電性ファイバー14を陽極線とした場合を例に示している。なお、
図3及び
図4は、第1の導電性ファイバー11と第2の導電性ファイバー14とが接触する接触部15を模式的に示している。また、
図3は伸縮ファイバー1Aの縦断面を表し、
図4は伸縮ファイバー1Aの横断面を表しているが、理解を容易にするために、ハッチングの記載は省略している。
【0042】
伸縮ファイバー1Aに電圧が印加されていない場合、
図3(A)及び
図4(A)に示すように、電場応答性ゲル状ポリマー層13は、ポリマーが均一に分散し、ゲル状態をなしている。この電場応答性ゲル状ポリマー層13は、伸縮ファイバー1Aに電圧が印加されず、電場応答性ゲル状ポリマー層13に電場が形成されていない。
【0043】
伸縮ファイバー1Aに電圧が印加されると、電場が電場応答性ゲル状ポリマー層13に与えられる。電場が与えられると、
図3(B)及び
図4(B)に示すように、陰極線12から電場応答性ゲル状ポリマー層13に電子が注入され、注入された電子は陽極として用いられている第2の導電性ファイバー14近傍の電場応答性ゲルポリマー層13に移動し、且つ蓄積する。
【0044】
その結果、陽極である第2の導電性ファイバー近傍の電場応答性ゲル状ポリマー層13と第2の導電性ファイバー14との間に静電気的付着力が発生し、
図3(C)及び
図4(C)に示すように、電場応答性ゲル状ポリマー層13自体が第2の導電性ファイバー14の周囲に引き寄せられる。電場応答性ゲル状ポリマー層13自体が第2の導電性ファイバー14の周囲に引き寄せられる作用は、第1の導電性ファイバー11を長手方向に引っ張る引張力を与える。
【0045】
一方、伸縮ファイバー1Aに対する電圧の印加を停止した場合、電場応答性ゲル状ポリマー層13に与えられていた電場は消滅する。電場が消滅すると、電場応答性ゲル状ポリマー層13内への電子の移動及び蓄積が解消され、電場応答性ゲル状ポリマー層13と第2の導電性ファイバー14との間の静電気的付着力はなくなる。その結果、第2の導電性ファイバー14の周囲に引き寄せられていた電場応答性ゲル状ポリマー層13は、第2の導電性ファイバー14の周囲から離れる方向に移動し、第1の導電性ファイバー11の導電線12の周囲を覆う形態に復元する(
図3(A)及び
図4(A)を参照)。また、第1の導電性ファイバー11に生じていた引張力が消滅する。
【0046】
電場応答性ゲル状ポリマー層13が、上記のように作用した場合、伸縮ファイバー1Aは、以下に説明するように、長手方向に伸縮する。
【0047】
第1タイプの伸縮ファイバー1Aの作用について、
図1を再び参照して説明する。
図1(A)は、伸縮ファイバー1Aに電圧が印加されず、電場応答性ゲル状ポリマー層13に電場が与えられていないときの形態を示している。この
図1(A)に示した伸縮ファイバー1Aは、各接触部15同士の間で、第1の導電性ファイバー11と第2の導電性ファイバー14との間に広い隙間が存在する。
【0048】
この伸縮ファイバー1Aに電圧を印加したとき、各接触部15で、電場応答性ゲル状ポリマー層13に電場が与えられる。電場が与えられると、第1の導電性ファイバー11の電場応答性ゲル状ポリマー層13は、各接触部15で、第2の導電性ファイバー14に引き寄せられる。そのため、引張力が第1の導電性ファイバー11の長手方向に発生する。また、第2の導電性ファイバー14は、接触部15で第1の導電性ファイバー11に接続されているので、第1の導電性ファイバー11の引張力が接触部15で第2の導電性ファイバーに伝達され、第2導電性ファイバー14にも引張力が作用する。
【0049】
引張力が第1の導電性ファイバー11と第2の導電性ファイバー14とに作用した場合、第1の導電性ファイバー11と第2の導電性ファイバー14と間に存在する隙間が小さくなる。その結果、伸縮ファイバー1Aは、
図1(B)に示すように、長手方向に伸びる。
【0050】
一方、電圧の印加を停止し、電場応答性ゲル状ポリマー層13に与えられていた電場を消滅させると、接触部15で第2の導電性ファイバー14に引き寄せられていた第1の導電性ファイバー11の電場応答性ゲル状ポリマー層13は、第2の導電性ファイバー14から離れる方向に移動する。そのため、第1の導電性ファイバー11に発生していが引張力は消滅する。引張力が消滅することによって、伸縮ファイバー1Aは、接触部15同士の間に存在する隙間が広げられる。その結果、伸縮ファイバー1Aは、
図1(A)に示すように、長手方向に縮む。
【0051】
以上のように、第1タイプの伸縮ファイバー1Aは、その長手方向に伸縮するアクチュエータとして機能する。
【0052】
〈第2タイプの伸縮ファイバー〉
第2タイプの伸縮ファイバー1Bは、
図5に示すように、カバードヤーン構造をなしている。この伸縮ファイバー1Bは、中心に位置する第2の導電性ファイバー24と、この第2の導電性ファイバー24の外周に巻かれた第1の導電性ファイバー21とにより構成されている。第1の導電性ファイバー21は、第2の導電性ファイバー24の長手方向に螺旋状をなして第2の導電性ファイバー24の外周に巻かれている。隣り合う第1の導電性ファイバー21同士は、相互に接触している。
【0053】
第1の導電性ファイバー21及び第2導電性ファイバー24の各々の構造自体は、第1の導電性ファイバー11及び第2の導電性ファイバー14の構造とそれぞれ同様である。ただし、伸縮ファイバー1Bは、
図5に示すように、第1の導電性ファイバー21及び第2の導電性ファイバー24が伸縮する構造をなしている。そのため、第1の導電性ファイバー21の導電線22及び、第2の導電性ファイバー24は、伸縮性を有している。
【0054】
伸縮ファイバー1Bは、第1の伸縮ファイバー1Aと同様に、長手方向に伸縮し、伸縮ファイバー1B自体でアクチュエータとして機能する。伸縮ファイバー1Bについても、電場応答性ゲル状ポリマー層13のメカニズムは、
図3を参照して説明したメカニズムと同様である。電場応答性ゲル状ポリマー層23の作用及び伸縮ファイバー1Bが長手方向に伸縮する作用について、
図5及び
図6を参照して、以下に説明する。
【0055】
図5(A)は、伸縮ファイバー1Bに電圧が印加されず、電場応答性ゲル状ポリマー層23に電場が与えられていないときの形態を示している。電場応答性ゲル状ポリマー層23に電場が与えられていないとき、
図6(A)に示すように、電場応答性ゲル状ポリマー層23は、ポリマーが均一に分散し、ゲル状態をなしている。
【0056】
この伸縮ファイバー1Bに電圧を印加し、電場応答性ゲル状ポリマー層23に電場を与えたとき、電場が電場応答性ゲル状ポリマー層23に与えられる。電場が与えられると、陰極線22から電場応答性ゲル状ポリマー層23に電子が注入され、注入された電子は陽極として用いられている第2の導電性ファイバー24近傍の電場応答性ゲルポリマー層23に移動し、且つ蓄積する。その結果、陽極である第2の導電性ファイバー近傍の電場応答性ゲル状ポリマー層23と第2の導電性ファイバー24との間に静電気的付着力が発生し、
図6(B)に示すように、電場応答性ゲル状ポリマー層12自体が第2の導電性ファイバー24に引き寄せられる。その際、第1の導電性ファイバー21の電場応答性ゲル状ポリマー層23が、全体として扁平又は略扁平に変形する。
【0057】
そのため、引張力が第1の導電性ファイバー21の長手方向に発生する。この引張力は、第1の導電性ファイバー21を長手方向に伸ばす。第2の導電性ファイバー24は、第1の導電性ファイバー21に巻かれているので、第1の導電性ファイバー21が伸びることに伴って、長手方向に伸びる。その結果、伸縮ファイバー1Bは、
図5(B)に示すように、長手方向に伸びる。
【0058】
一方、伸縮ファイバー1Bに電圧を印加することを停止し、電場応答性ゲル状ポリマー層23に与えられていた電場が消滅したとき、第2の導電性ファイバー24に引き寄せられていた第1の導電性ファイバー21の電場応答性ゲル状ポリマー層23は、第2の導電性ファイバー24から離れる方向に移動しながら元の状態に戻る。そのため、第1の導電性ファイバー21に発生していが引張力は消滅する。引張力が消滅することによって、長手方向に伸ばされていた第1の導電性ファイバー21は、もとの形態に復帰する。第2の導電性ファイバー24は、第1の導電性ファイバー21が元の形態に戻ることに伴って、元の形態に復帰する。その結果、伸縮ファイバー1Bは、
図3(A)に示すように、長手方向に縮む。
【0059】
以上のように、伸縮ファイバー1Bは、伸縮ファイバー1B自体がアクチュエータとして機能する。なお、伸縮ファイバー1Bが伸縮したときに、第1の導電性ファイバー21がたるみ、第2の導電性ファイバー24との間に隙間が生じることがないように、伸縮ファイバーBを構成することが必要である。そのためには、第1の導電性ファイバー21は、長手方向に小さな張力を与えて第2の導電性ファイバーの外周に巻き付けるとよい。また、伸縮ファイバー1Bが伸縮したときに、第1の導電性ファイバー21が第2の導電性ファイバー24の長手方向の端部からはみ出すことがないように、伸縮ファイバー1Bを構成することも必要である。そのためには、伸縮ファイバー1Bの長手方向の両端において、第1導電性ファイバー21の長手方向の両端が、この第1導電性ファイバー21に巻かれた第2導電性ファイバー24の端部よりも外側に延びた形態に伸縮ファイバー1Bを構成するとよい。
【0060】
なお、これまでに説明した第1の導電性ファイバー11,21は、導電線12,22と導電線12,22の周囲を覆う電場応答性ゲル状ポリマー層13,23とで構成されている。そのため、第1の導電性ファイバー11,21の構造が簡素であり、第1の導電性ファイバー11,21を容易に製造することが可能である。なお、第1の導電性ファイバー11,21の具体的な製造方法は、後に詳細に説明する。
【0061】
[伸縮ファイバーにより構成された伸縮シート]
伸縮シート30は、前記した本発明に係る第1タイプの伸縮ファイバー1Aや、第2タイプの伸縮ファイバー1Bを用いて構成されている。この伸縮シート30は、織物の伸縮シート30Aと編物の伸縮シート30Bとを包含する。なお、織物は、平行をなす複数の縦ファイバーと平行をなす複数の横ファイバーとが、共に直線状をなしており、縦ファイバーと横ファイバーとが相互に直交して形成された伸縮シートである。ただし、平行をなす複数の縦ファイバーの間に隙間があるもの、及び平行をなす複数の横ファイバーの間に隙間があるものもここでは、織物として扱う。一方、編物は、伸縮ファイバーで複数のループを連ねて形成し、ループ同士を絡めて編み込まれた伸縮シートをいう。編物である伸縮シートに使用される繊維は、1本でもよく、複数本でもよい。
【0062】
〈織物である伸縮シート〉
織物である伸縮シート30Aは、
図7に示すように、平行をなす複数の縦ファイバー2と平行をなす複数の横ファイバー3とにより構成されている。なお、縦ファイバー2及び横ファイバー3は、前記した本発明に係る伸縮ファイバー1(1A,1B)である。横ファイバー3と縦ファイバー2とは直交している。織物である伸縮シート30Aでは、横ファイバー3が縦ファイバー2の上に配置される部位と、横ファイバー3が縦ファイバー2の下側に配置される部位とが、縦方向及び横方向に交互に現れる。なお、伸縮ファイバー1を用いた伸縮シート30Aの織り方は特に限定がなく、
図7に示した平織り構造のほかに、例えば、綾織り、しゅす織り等も選択できる。
【0063】
伸縮シート30Aの周囲は、電極31,32,33,34が配置されている。
図7の上側に位置する電極31と右側に位置する電極32は陽極(正極)である。
図7の下側に位置する電極33と左側に位置する電極34は陰極(負極)である。
図7において、縦ファイバー2の上端は陽極31に接続され、縦ファイバー2の下端は陰極33に接続されている。一方、横ファイバー3の右端は陽極32に接続され、横ファイバー3の左端は陰極34に接続されている。この電極31,32,33,34は、図示しない電源に接続されており、縦ファイバー2及び横ファイバー3に同時に電圧を印加することもできるし、別々に電圧を印加することもできる。
【0064】
伸縮シート30Aは、上下の電極31,33から縦ファイバー2に対して電圧が印加されたとき、上下方向に伸びる。一方、縦ファイバー2に対して電圧31,33からの電圧の印加を停止したとき、上下方向に縮む。また、伸縮シート30Aは、左右の電極32,34から横ファイバー3に対して電圧が印加されたとき、左右方向に伸びる。一方、横ファイバー3に対して電圧の印加を停止したとき、左右方向に縮む。上下に伸縮する長さと左右に伸縮する長さとは、印加する電圧で自由に調整することができる。そのため、伸縮シート30Aは、上下に伸縮する長さと左右に伸縮する長さとが同じになるように調整したり、上下に伸縮する長さを左右に伸縮する長さよりも長くなるように又は短くなるように調整したりすることができる。
【0065】
また、伸縮シート30Aは、場所によって異なる種類の縦ファイバー2や横ファイバー3を用いて構成することもできる。例えば、伸縮シート30の中央の領域に位置する縦ファイバー2は、伸縮性が相対的に低い伸縮ファイバー1を用い、その両側の領域に位置する縦ファイバー2は、伸縮性が相対的に高い伸縮ファイバー1を用いて伸縮シート30を構成することができる。伸縮性が相対的に高い伸縮ファイバー1と伸縮性が相対的に低い伸縮シートとで構成された伸縮シート30Aは、伸縮シートAの伸縮ファイバー1に印加したり停止したりする電圧の値が同じであっても、伸縮シート30Aには、相対的に大きく伸縮する領域と相対的に小さく伸縮する領域とを形成させることができる。
【0066】
〈編物である伸縮シート〉
編物である伸縮シート30Bは、
図8に示すように、前記した本発明に係る伸縮ファイバー1で複数のループを連ねて形成し、ループ同士を絡めて編み込まれている。伸縮シート30Bは、1本の伸縮ファイバー1を編み込んで形成したり、複数本の伸縮ファイバー1を編み込んで形成したりすることができる。なお、
図8は、よこメリヤス平編によって編まれた伸縮シート30Bを1つの例として示している。ただし、編物である伸縮シート30Bの編み方は、特に限定されない。編物である伸縮シート30Bは、横編みで伸縮ファイバー1を編み込んでもよいし、縦編みで伸縮ファイバー1を編み込んでもよい。横編みとしては、例えば、天竺編み、リブ編み(フライス編み又はゴム編みともいう。)及びパール編み(リンクス編み又はガーター編みともいう。)を挙げることができる。縦編みとしては、例えば、トリコット編み及びアトラス編みを挙げることができる。編み方は、伸縮シート30Bの用途に応じて、上記の編み方の中から適宜に選択することができる。
【0067】
編物である伸縮シート30Bでは、伸縮ファイバー1のループ同士を相互に絡めた部分に空間が形成される。空間が形成された部分では、伸縮ファイバーが自在に変形するためループの部分が弾性的に変形する。編物である伸縮シート30Bは、ループ同士を相互に絡めた部分が複数連ねて形成されている。そのため、編物である伸縮シート30Bは、弾性的に変形する部分が伸縮シート30Bの全体に存在するため、高い伸縮性を備えている。
【0068】
複数の伸縮ファイバー1を編み込んで伸縮シート30Bを形成した場合、伸縮ファイバー1のすべてに同じ大きさの電圧を印加したり、伸縮ファイバー1ごとに異なる大きさの電圧を印加したりすることができる。伸縮ファイバー1のすべてに同じ大きさの電圧を印加したり電圧の印加を停止したりした場合、伸縮シート30Bは、縦方向及び横方向に均等に伸縮する。これに対し、伸縮ファイバー1ごとに異なる大きさの電圧を印加したり、電圧の印加を停止したりした場合、伸縮シート30Bが伸縮する長さは、不均一になる。この現象を利用して、一枚の伸縮シート30Bの異なる領域で、相対的に大きく伸縮する領域と相対的に小さく伸縮する領域を設定することができる。
【0069】
また、伸縮シート30Bは、種類の異なる伸縮ファイバー1を用いて構成することもできる。例えば、伸縮性が相対的に高い伸縮ファイバー1で編み込んだ部分と、伸縮性が相対的に低い伸縮ファイバーで編み込んだ部分とを設けて伸縮シート30Bを構成することができる。また、伸縮シート30は、異なる編み方の部分が形成されるようにして構成することもできる。例えば、伸縮性が相対的に高い編み方で編み込んだ部分と、伸縮性が相対的に低い編み方で編み込んだ部分とを設けて伸縮シート30Bを構成することができる。
【0070】
[伸縮シートを用いたアシスト装置]
伸縮シート30を用いたアシスト装置は、第1タイプのアシスト装置50と第2タイプのアシスト装置70とを包含する。第1タイプのアシスト装置50は、例えば、歩行訓練等のように、相対的に大きな力を必要とする人の動作を支援するために用いる装置である。第2タイプのアシスト装置70は、例えば、溶け合い動作のように、人の筋肉に相対的に小さな力をゆっくりと与えることとゆっくりと取り除くこととを繰り返し行う動作をアシストする装置である。
【0071】
〈第1タイプのアシスト装置〉
第1タイプのアシスト装置50は、
図9及び
図10に示すように、人の腕、脚及び胴を覆うボディスーツタイプの装置である。このアシスト装置50は、伸縮し易い一般的な繊維と、後述する各サポート部を構成している伸縮ファイバー1とで構成されている。伸縮ファイバー1で構成された伸縮シート30は、
図9及び
図10に示すように、胸部サポート部51、背中サポート部52、ウエストサポート部53、手首サポート部54、アームサポート部55、脚サポート部56及び足サポート部57に用いられている。また、アシスト装置50は、アシスト装置50の動作を制御するためのコントロールボックス60を備えている。なお、
図9及び
図10は、アシスト装置50の一例を示すものでる。伸縮ファイバー1を用いる場所、伸縮ファイバー1を用いる形態は、
図9及び
図10に示した位置及び形態に限定されない。
【0072】
胸部サポート部51は、
図9に示すように、右肩から左の横腹にかけて延びる部分51aと左肩から右の横腹にかけて延びる部分51bとで構成されている。右肩から左の横腹にかけて延びる部分51aと左肩から右の横腹にかけて延びる部分51bとは、胸部の中央で交差している。この胸部サポート部51は、例えば、この胸部サポート部51を構成している伸縮ファイバー1に電圧を印加し、点線で示した矢印の方向に胸部サポート部51を伸縮させたり、実線で示した矢印の方向に胸部サポート部51を伸縮させたりすることによって、胸の筋肉の動きをサポートする。なお、胸部サポート部51の幅(
図9の実線で示した矢印が延びる方向の寸法)は、一定になるように形成したり、広い部分と狭い部分が設けられるように形成したりすることができる。
【0073】
背中サポート部52は、
図10に示すように、右肩から左の横腹にかけて延びる部分52aと、左肩から右の横腹にかけて延びる部分52bとによって構成されている。この背中サポート部52は、例えば、点線で示した矢印の方向に背中サポート部52を伸縮させたり、実線で示した矢印の方向に背中サポート部52を伸縮させたりすることによって、背筋の動きをサポートし、姿勢を強制する場合等に利用する。なお、背中サポート部52の幅(
図10の実線で示した矢印が延びる方向の寸法)は、一定になるように形成したり、広い部分と狭い部分が設けられるように形成したりすることができる。
【0074】
ウエストサポート部53は、腹部と腰部とを囲んでいる。ウエストサポート部53は、ウエストサポート部53が延びる方向(
図9及び
図10の点線の矢印で示した方向)に伸縮させたり、幅方向(
図9及び
図10の実線で示した矢印が延びる方向)に伸縮させたりすることによって、腹筋の動きをサポートしたり、骨盤の位置を安定させたりする。
【0075】
手首サポート部54は、手首の周りを囲んでいる。この手首サポート部54は、
図9及び
図10の実線で示した矢印が延びる方向及び点線で示した矢印が延びる方向に伸縮させることにより、腕に作用する。この手首サポート部54は、胸部サポート部51、背中サポート部52及び後述する腕サポート部55と協働することができるように構成されている。手首サポート部54は、例えば、胸部サポート部51、背中サポート部52及び腕サポート部55と協働し、重い荷物を持ち上げる動作を支援する。
【0076】
腕サポート部55は、上腕の位置に設けられている。腕サポート部55は、上腕の内側に位置する部分55aと外側に位置する部分55bとにより構成されている。腕サポート部55は、
図9及び
図10において、点線で示した矢印が延びる方向と実線で示した矢印が延びる方向とに伸縮することによって上腕に作用する。この腕サポート部55は、胸部サポート部51、背中サポート部52及び手首サポート部54と協働し、重い荷物を持ち上げる動作を支援する。
【0077】
脚サポート部56は、両足の太股の位置に設けられている。脚サポート部56の前部は、例えば
図9に示すように、ウエストサポート部53の横腹の位置から膝の上側の位置にかけて斜めに延びる部分56aと太股の内側から外側にかけて斜めに延びる部分56bとが交差して構成されている。また、脚サポート部56の後部は、例えば
図10に示すように、腰部から太股の内側にかけて延びる部分56cと、太股の外側から内側にかけてななめに延びる部分56dとが交差して構成されている。脚サポート部56は、この脚サポート部56を構成している各部56a,56b,56c,56dが延びる方向(
図9及び
図10に点線で示した矢印が延びる方)と幅方向(
図9及び
図10に実線で示した矢印が延びる方)とに伸縮させることにより脚部の動作をサポートする。
【0078】
足サポート部57は、足の裏に設けられている。足サポート部57は、例えば、歩行時に発生する衝撃を和らげている。
【0079】
コントロールボックス60は、電源とアシスト装置50の動作を制御するためのコントローラとを内部に備えている。コントローラは、動作情報が記憶された記憶部と、各サポート部の動作を制御する制御部とを有している。記憶部は、例えば、しゃがんだ状態から立ち上がる動作、しゃがみ込む動作、歩行動作、物を持ち上げる動作等の動作に関する情報が記憶されている。各情報は、上記の各動作を行ったときに、各サポート部を構成する伸縮シート30の伸縮の程度とそのときの電圧との関係等を予め測定して得られた情報である。
【0080】
コントロールボックス60と各サポート部51,52,53,54,55,56,57とを接続するリート線及びリード線と各サポート部51,52,53,54,55,56,57とのコネクト部分とはアシスト装置50の伸縮に追従することができる、柔軟性及び弾性を有する材料で構成されている。
【0081】
このアシスト装置50を利用する人は、支援する内容に応じ、作動させるサポート部51,52,53,54,55,56,57の選択と、選択したサポート部51,52,53,54,55,56,57の動きの内容の選択を行うことができる。
図11は、アシスト装置50を用いて歩行支援を行う場合を示している。歩行支援は、アシスト装置50の脚サポート部56を主に動作させて行われる。
【0082】
アシスト装置50を用いて、
図11に示すように歩行支援を行う場合、記憶部に記憶された情報の中から歩行を行うためのプログラム等の情報が選択される。コントローラは、選択された情報に基づいて、太股を持ち上げたり下ろしたりする動作を右足と左足の交互に行うようにアシスト装置50の脚サポート部56を制御する。その際、太股の上げ下ろしを円滑に行うために、コントローラは、脚サポート部56の伸縮の程度が脚サポート部56内の異なる領域で差が生じるように、脚サポート部56に電圧を印加する。例えば、コントローラは、脚サポート部56の前部のうち上側の部分が大きく縮み、且つ下側が小さく伸びるように脚サポート部56に電圧を印加するように制御する。
【0083】
なお、第1タイプのアシスト装置50は、各サポート部51,52,53,54,55,56,57をセンサとして機能させることもできる。すなわち、各サポート部51,52,53,54,55,56,57を構成する伸縮シート30において、印加した電圧とその電圧に応じた伸縮の状態とが対応する。この電圧と伸縮の状態とを予め記憶部に記憶し、コントローラは、印加した電圧と記録部の情報とに基づいてサポート部の状態を判断する。判断されたサポート部51,52,53,54,55,56,57の状態は、例えば、コントローラにフィードバックされ、動作の支援を行う際に利用される。
【0084】
ただし、サポート部51,52,53,54,55,56,57は、例えば、歪みゲージ等をサポート分部に組み込み、ロードセルから送られる信号でサポート部51,52,53,54,55,56,57の状態を判断するように構成することもできる。
【0085】
以上、第1タイプのアシスト装置50において、各サポート部51,52,53,54,55,56,57は、伸縮シート30によって構成されているので、各サポート部51,52,53,54,55,56,57自体がアクチュエータとして機能する。そのため、モータ等の駆動源を別途に設ける必要がない。また、アシスト装置50を装着する際に、ベルトを用いたり、面ファスナを用いたりする必要がない。そのため、アシスト装置50を着用した人にフィットした感覚を与えることができる。また、アシスト装置50が伸縮シート30を用いて構成されているので、伸縮シート30が伸縮する方向及び伸縮する長さを自在に設定することによって、支援しようとする人の動作に適した動きを行わせることができる。
【0086】
〈第2タイプのアシスト装置〉
第2タイプのアシスト装置70は、
図12に示すように、Tシャツの形態をなした装置である。第2タイプのアシスト装置70は、人の胸部に対応する部分にサポート部71を備えている。このサポート部71は、伸縮シート30が伸縮することによって人の胸部をマッサージする。第2タイプのアシスト装置70は、例えば、動悸や息切れの症状が現れたときに、胸部にゆっくりと負荷がかかるように、サポート部をゆっくりと伸張させたり伸縮させたりし、胸部をマッサージすることによって、人の精神を落ち着かせる場合等の溶け合い動作を行う場合に用いられる。
【0087】
[伸縮ファイバーの具体的な構成]
次に、伸縮ファイバー1の具体的な構成について、詳細に説明する。
【0088】
〈第1タイプの伸縮ファイバーの具体的な構成〉
第1タイプの伸縮ファイバー1Aは、上述したように、電場応答性ゲル状ポリマー層13を有する第1の導電性ファイバー11と、電場応答性ゲル状ポリマー層13に電場を付与する第2の導電性ファイバー14とによって構成されている。なお、この伸縮ファイバー1Aの長手方向に直交する断面形状は特に限定されず、丸線でも平角線でも帯状線でもよい。
【0089】
(第1の導電性ファイバー)
第1の導電性ファイバー11は、導電線12とこの導電線12の周囲を覆う電場応答性ゲル状ポリマー層13とによって構成されている。
【0090】
(導電線)
導電線12は、導電性を有する材料で構成されている。この導電線12は、それ自体が伸縮性を有していてもよいが、その伸縮性は必須ではない。こうした導電線12としては、伸縮性を有する導電線のほか、(1)導電性を有する材料で、それ自体は伸縮しないワイヤー、(2)非導電性の基材に導電性を有するフィラーを混ぜ合わせた線状の部材、(3)非導電性の基材の表面に導電性を有するフィラーをコーティングした部材、(4)導電性を有し、一定の長さを有する線状の部材が、径方向及び長手方向に集合し、それ自体が伸縮する繊維として構成された部材等を挙げることができる。導電線12の長手方向に直交する断面形状は特に限定されず、丸線でも平角線でも帯状線でもよい。なお、本願で「フィラー」は、添加物を示す意味で用いている。
【0091】
以下では、一例として、(2)非導電性の基材に導電性を有するフィラーを混ぜ合わせた線状の部材で導電線12を構成する場合について詳細に説明する。
【0092】
導電線12は、伸縮性を有する基材と導電線12に導電性を与えるフィラーとで構成されている。基材としては、例えば、合成ゴム系、ポリウレタン系、エポキシ系及びシリコーン系の材料を挙げることができる。一方、フィラーとしては、カーボン系のフィラー及び金属系のフィラーを挙げることができる。
【0093】
カーボン系のフィラーとしては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウイスカー、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンマイクロコイル等の微粒子等を挙げることができる。また、金属系のフィラーとしては、例えば、金、白金、パラジウム、ルテニウム、銀、鉄、コバルト、ニッケル、銅、チタン等を挙げることができる。その中でも、導電性の高い銀、銅等を金属系のフィラーとして用いることが好ましい。その場合、金属系のフィラーとしては、銀、銅等の微粒子、又は表面に銀等をめっきした微粒子を使用することができる。
【0094】
なお、導電線12は、以上に説明した線を用いることには限定されない。導電線12としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン等の金属材料、インジウム錫オキサイド、カーボン材料等の導電性無機材料、導電性有機材料等、公知の電極材料を選択して用いることができる。
【0095】
(電場応答性ゲル状ポリマー層)
電場応答性ゲル状ポリマー層13は、高分子材料からなるゲル状の層である。電場応答性ゲル状ポリマー層13は、ポリ塩化ビニル(PVC)と可塑剤であるアジピン酸ジブチル(DBA)とを、溶媒であるテトラヒドロフラン(THF)内で混合して精製されたものである。電場応答性ゲル状ポリマー層13は、ポリ塩化ビニルとアジピン酸ジブチルとの重量比を調整することによって、その剛性を調整することができる。この電場応答性ゲル状ポリマー層13において、ポリ塩化ビニル:アジピン酸ジブチル(重量比)は、1:2〜1:8の範囲内にすることが好ましい。
【0096】
電場応答性ゲル状ポリマー層13の基材としては、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ナイロン6、ポリビニルアルコール、ポリカーボネイト、ポリエチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリル、シリコーン等の誘電性を有する高分子材料を用いることができる。可塑剤としては、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジオクチル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、コハク酸ジエチルなど有機酸エステル系化合物等から単数または複数選択できる。
【0097】
第1の導線性ファイバー11は、湿式紡糸法及び溶融紡糸法のどちらの方法で製造してもよい。なお、湿式紡糸法は、原料を溶剤に溶かし、凝固浴と呼ばれる溶液中で減量を口金から押し出して化学反応させた後、溶剤を除去して製造する方法である。溶融紡糸法は、原料を熱で溶かし、減量を口金から押し出して繊維状にした後、冷やして固めて製造する方法である。溶融紡糸法で第2の導線性部材14を製造する場合、溶融温度、張力、ノズル径及び乾燥条件等を調整することによって所望の第1の導線性部材14を得る。
【0098】
なお、溶融紡糸法で第1の導電性ファイバー11を製造する場合、導電線12及び電場応答性ゲル状ポリマー層13が熱可塑性でありかつ、両者のガラス移転温度が相互に近い材料で製造される。また、溶融紡糸法で第1の導線性ファイバー11を製造する場合、溶融温度、張力、ノズル径及び乾燥条件等を調整することによって所望の第1の導線性ファイバー11を得る。
【0099】
ただし、第1の導線性ファイバー11を製造する方法は、乾式紡糸法を排除するものではない。乾式紡糸法は、原料を熱で気化する溶剤に溶かし、熱雰囲気中で減量を口金から押し出して溶剤を蒸発させて製造する方法である。
【0100】
なお、第1の導電性ファイバー11は、上記の製造方法で製造することには限定されない。例えば、第1の工程で、湿式紡糸法、溶融紡糸法又は乾式紡糸法によって、導電線12を製造し、第2の工程で、電場応答性ゲル状ポリマー層13を形成することによって製造することもできる。その場合、電場応答性ゲル状ポリマー層13は、例えば、
図13に示す方法、又は
図14に示す方法で形成することができる。
【0101】
図13に示す方法は、粘度が相対的に低いポリマーを用いて電場応答性ゲル状ポリマー層13を形成する方法である。なお、
図13は、電場応答性ゲル状ポリマー層13を形成する方法に用いる装置を簡略化して示している。この方法に用いる装置は、一定の距離を空けて配置され、導電線12が掛け渡されている2つのローラ102,103と、ポリマーが収容された槽101と、2つのローラ102,103の間に設けられた乾燥槽104とを備えている。2つのローラ102,103のうち、一方のローラ102は、槽101の内部に配置されている。また、この装置は、完成した第1の導電性ファイバー11を巻き取るための図示しないドラムを備えている。
【0102】
2つのローラ102,103は、両者の間で導電線12を複数回往復させている。ポリマーが収容された層101は、導電線12をローラで案内して槽101の内部に収容されたポリマーの内部に送り込み、導電線12の表面にポリマーの層を形成している。乾燥槽104は、導電線12の表面に付着したポリマーを乾燥させている。
【0103】
この電場応答性ゲル状ポリマー層13を形成する方法は、2つのローラ102,103で導電線12を往復させている間に導電線12を槽101に収容されたポリマーに浸けて、薄い膜を導電線12の表面に形成することと、乾燥槽104で導電線12の表面に形成された薄い膜を乾燥することとを、繰り返し行う。そして、この電場応答性ゲル状ポリマー層13を形成する方法は、ポリマーへの漬け込みと乾燥とを繰り返し行うことにより、導電線12の表面に複数の薄い膜を形成し、電場応答性ゲル状ポリマー層13を所望の厚さに形成する。
【0104】
図14に示す方法は、粘度が相対的に高いポリマーを用いて電場応答性ゲル状ポリマー層13を形成する方法である。なお、
図14は、電場応答性ゲル状ポリマー層13を形成する方法に用いる装置を簡略化して示している。この方法に用いる装置は、例えば、ポリマーが収容された槽111と、この槽111の内部で導電線12を案内するローラ112と、乾燥槽113とを備えている。また、この装置は、完成した第1の導電性ファイバー11を巻き取るためのドラム114を備えている。
【0105】
槽111の内部には、電場応答性ゲル状ポリマー層13として後に構成される、相対的に粘度が高いポリマーが収容されている。ローラ112は、ポリマーが収容された槽111に送り込まれた導電線12をポリマーの内部に案内し、導電線112をポリマーの内部に浸漬させている。また、ローラ112は、表面にポリマーが付着した導電線12を乾燥槽113に向けて案内している。乾燥槽113は、導電線12の表面に付着したポリマーを乾燥させることによって、電場応答性ゲル状ポリマー層13を形成している。
【0106】
この電場応答性ゲル状ポリマー層13を形成する方法は、導電線12を1回だけ槽111に収容されたポリマーの内部に浸漬することによって、所望の厚さの電場応答性ゲル状ポリマー層13を形成する。
【0107】
なお、第1の導線性ファイバー11を構成する電場応答性ゲル状ポリマー層13の表面は、吸着性を有している。そのため、伸縮ファイバー1Aを容易に撚り線構造に形成することができるように、電場応答性ゲル状ポリマー層13の表面にシリコーン系の物質又はフッ素系潤滑物質を被覆させるとよい。
【0108】
第1の導電性ファイバー11が丸線の場合の直径は、0.01mm以上、2mm以下である。また、導電線12が丸線の場合の直径は、0.005mm以上、1.95mm以下であり、電場応答性ゲル状ポリマー層13の層の厚さは、0.005mm以上、1.95mm以下である。
【0109】
(第2の導電性ファイバー)
第2の導電性ファイバー14は、導電性を有する材料で構成されている。第2の導電性ファイバー14は、それ自体が伸縮性を有してもよいが、伸縮性を備えていることは必須ではない。第2の導電性ファイバー14としては、第1の導電性ファイバー11と同様に、伸縮性を有する導電線のほか、(1)導電性を有する材料で、それ自体は伸縮しないワイヤー、(2)非導電性の基材に導電性を有するフィラーを混ぜ合わせた線状の部材、(3)非導電性の基材の表面に導電性を有するフィラーをコーティングした部材、(4)導電性を有し、一定の長さを有する線状の部材が、径方向及び長手方向に集合し、それ自体が伸縮する繊維として構成された部材等を挙げることができる。第2の導電性ファイバー14の長手方向に直交する断面形状は特に限定されず、丸線でも平角線でも帯状線でもよい。なお、ここでの「フィラー」も添加物を示す意味で用いている。
【0110】
具体的な材料は、第1の導電性ファイバー11の導電線12と同様である。また、製造方法も第1の導電性ファイバー11の導電線12の製造方法と同様である。この第2の導電性ファイバーが丸線の場合の直径は、0.005mm以上、2mm以下である。
【0111】
〈第2タイプの伸縮ファイバーの具体的な構成〉
第2タイプの伸縮ファイバー1Bは、上述したように、電場応答性ゲル状ポリマー層23を有する第1の導電性ファイバー21と、電場応答性ゲル状ポリマー層23に電場を付与する第2の導電性ファイバー24とによって構成されている。なお、この伸縮ファイバー1Bの長手方向に直交する断面形状も特に限定されず、丸線でも平角線でも帯状線でもよい。
【0112】
(第1の導電性ファイバー)
第1の導電性ファイバー21は、導電線22と、この導電線22の周囲を覆う高分子材料からなる電場応答性ゲル状ポリマー層23とで構成されている。導電線22は、伸縮性及び導電性の両方を備えている。導電線22としては、伸縮性を有する導電線のほか、(1)伸縮性を有する非導電性の基材に導電性を有するフィラーを混ぜ合わせた線状の部材、(2)導電性を有し、一定の長さを有する線状の部材が、径方向及び長手方向に集合し、それ自体が伸縮する繊維として構成された部材等を挙げることができる。
【0113】
導電線22が伸縮性を有する非導電性の基材に導電性を有するフィラーを混ぜ合わせた線状の部材である場合、導電線22の材料及び導電線22の製造方法は、第1タイプの伸縮ファイバー1Aの導電線12の材料及び製造方法と同様である。また、電場応答性ゲル状ポリマー層23の材料及び層の形成方法は、第1タイプの伸縮ファイバー1Aの電場応答性ゲル状ポリマー層13の材料及び層の形成方法と同様である。また、この陰極線22の製造方法も、第1タイプの伸縮ファイバー1Aを構成する第2の導線性部材11の製造方法と同様である。なお、第2タイプの伸縮ファイバー1Bでは、電場応答性ゲル状ポリマー層23において、ポリ塩化ビニル:アジピン酸ジブチル(重量比)は、1:2〜1:8の範囲内にすることが好ましい。ここでの「フィラー」も添加物を示す意味で用いている。
【0114】
なお、第2タイプの伸縮ファイバー1Bについても、第1の導線性ファイバー21を構成する電場応答性ゲル状ポリマー層2の表面は、吸着性を有している。伸縮ファイバー1Bを容易にカバードヤーン構造にすることができるように、電場応答性ゲル状ポリマー層23の表面にシリコーン系の物質又はフッ素系潤滑物質を被覆させるとよい。
【0115】
第1の導電性ファイバー21が丸線の場合の直径は、0.01mm以上、2mm以下である。また、導電線22が丸線の場合の直径は、0.005mm以上、1.95mm以下であり、電場応答性ゲル状ポリマー層23の層の厚さは、0.005mm以上、1.95mm以下である。
【0116】
(第2の導電性ファイバー)
第2の導電性ファイバー24は、伸縮性及び導電性の両方の性質を有する材料で構成されている。第2の導電性ファイバー24としては、第1の導電性ファイバー21と同様に、伸縮性を有する導電線のほか、(1)伸縮性を有する非導電性の基材に導電性を有するフィラーを混ぜ合わせた線状の部材、(2)導電性を有し、一定の長さを有する線状の部材が、径方向及び長手方向に集合し、それ自体が伸縮する繊維として構成された部材等を挙げることができる。なお、第2の導電性ファイバー24の具体的な材料は、第1の導電性ファイバー21の導電線22と同様である。また、製造方法も第1の導電性ファイバー21の導電線22の製造方法と同様である。こうした第2の導電性ファイバー24が丸線の場合の直径は、0.005mm以上、2mm以下である。
【0117】
[伸縮シートの作製例とその伸縮結果]
以下に、伸縮運動する伸縮シートの他の態様について、
図15〜
図18を参照しつつ説明する。この態様の伸縮シート40は、
図15に示すように、電場応答性ゲル状ポリマー層43を有する第1の導電性ファイバー41と、その第1の導電性ファイバー41に電場を付与する第2の導電性ファイバー44とで織り込まれた織物として構成されている。なお、この第1の導電性ファイバー41は、上記した符号11,21で示した第1の導電性ファイバーと同様、導電性を有する材料を備えた導電線42と、また、この導電線42の周囲を覆う電場応答性ゲル状ポリマー層43とによって構成されている。導電線42及び電場応答性ゲル状ポリマー層43は、上記した符号11,22で示した導電線及び上記した符号13,23で示した電場応答性ゲル状ポリマー層と同様の材料や機能であるので、ここでの説明は省略する。
【0118】
(伸縮シートの構成)
図15に示す伸縮シート40は、第1の導電性ファイバー41と第2の導電性ファイバー44とで織り込まれた織物である。第1の導電性ファイバー41は、平行をなす横ファイバーとして複数設けられており、その一端には陰極(カソード)が配置されている。一方、第2の導電性ファイバー44は、平行をなす縦ファイバーとして複数設けられており、その一端には陽極(アノード)が配置されている。第1の導電性ファイバー41と第2の導電性ファイバー44とは、直交又は略直交となるように交差して織り込まれており、第1の導電性ファイバー41が第2の導電性ファイバー44の上に配置される部位と、第1の導電性ファイバー41が第2の導電性ファイバー44の下側に配置される部位とが、縦方向及び横方向に交互に現れている。
【0119】
前記した陰極と陽極は、図示しない電源に接続されており、それら陰極と陽極に同時に電圧を印加することもできるし、別々に電圧を印加することもできる。後述の実験結果で明らかなように、陰極と陽極に電圧が印加されたとき、第1の導電性ファイバー41の長手方向が縮み、その電圧の印加を停止したとき、第1の導電性ファイバー41の長手方向の縮みは元に戻る。この動作は、伸縮シート40に電圧を印加することにより、陰極である第1の導電性ファイバー41を構成する電場応答性ゲル状ポリマー層43が陽極である第2の導電性ファイバー44に吸着しながらまとわりつくことにもとづくものであり、第1の導電性ファイバー41の長手方向が収縮する。また、電圧印加を解除することにより、第1の導電性ファイバー41を構成する電場応答性ゲル状ポリマー層自身の弾性により、元の状態に戻る。
【0120】
(動作実験に用いた試験試料の作製)
図15に示す伸縮シート40を構成する第1の導電性ファイバー41と第2の導電性ファイバー44との動作確認の実験を行った。
図16は、実験に用いた矩形断面の第1の導電性ファイバー41を示している。第1の導電性ファイバー41の作製は、1)ポリ塩化ビニル:アジピン酸ジブチル:THFが重量比で1:4:10の溶液を作製し、これをガラス板上にキャストし、乾燥することで、厚さ約0.15mmの電場応答性ゲル状ポリマー層43を得た。2)次に、ポリ塩化ビニル:アジピン酸ジブチル:アセチレンカーボンブラック:THFが重量比で1:4:1.5:40の溶液を作製し、前述と同様の方法で厚さ0.012mmの導電性ゲル薄膜を得た。この導電性ゲル薄膜をマルチメータで抵抗値を測定したところ、約50kΩ(端子間距離:1cm)であった。3)次に、導電性ゲル薄膜を幅1mmに細長く切断して導電性ゲル薄膜線材42とし、前記1)で作製した電場応答性ゲル状ポリマー層43上に配置した。さらにその上に、前記1)と同様の方法により電場応答性ゲル状ポリマー層43を積層して挟み、導電性ゲル薄膜線材42を中央となるように幅4mmに切断して、
図16に示すな矩形断面の第1の導電性ファイバー41を得た。この第1の導電性ファイバー41の総厚さは約0.3mmであり、マルチメータで確認したところ導電性が損なわれないことを確認した。なお、第2の導電性ファイバー44として、この実験では、直径が0.45mm、0.90mm、1.5mmのアルミニウム線をそれぞれ使用した。
【0121】
(動作実験結果)
図17は、
図16に示す第1の導電性ファイバー41の動作実験の平面写真(A)と正面写真(B)であり、
図18は、その動作実験における電圧印加前(A)と電圧印加後(B)の折れ曲がりの様子を示す正面写真である。
図17及び
図18に示すように、伸縮シート40に電圧を印加すると、
図18に示すように、第1の導電性ファイバー41を構成する電場応答性ゲル状ポリマー層43が第2の導電性ファイバー44に吸着してまとわりつく。これにより、第1の導電性ファイバー41に曲がりが発生し、伸縮シート40が収縮した。
【0122】
曲がりの程度は、第1の導電性ファイバー41と第2の導電性ファイバー44との接触部45における電圧印加の前後の折れ曲がり角度で評価した。電圧印加前の角度をαとし、電圧印加後の角度をβとしたとき、その角度の差を変動角θとした。なお、この変動角は、デジタルマイクロスコープ(キーエンス製:VHX−2000)の測角機能を用いて計測した。条件としては、印加電圧と、印加電圧の周波数とを変更するとともに、第2の導電性ファイバー44の直径も変化させた。
【0123】
最初に、100V〜500Vまで100V毎に直流電圧を印加し、15秒後の変動角θ(電圧印加前後の角度差)について測定した。この測定は、直径0.45mm、0.90mm、1.5mmの3種のアルミニウム線(第2の導電性ファイバー44)で行った。その結果を表1に示す。変動角θは、各直径のアルミニウム線において、印加電圧の増大に伴って大きくなった。また、変動角θは、アルミニウム線の直径が大きくなるに伴って大きくなった。具体的には、300Vの印加電圧において、直径0.45mmで変動角θは10.3°であり、直径0.9mmでは変動角θは25.6°であり、直径1.5mmで変動角θは50.1°であった。
【0125】
次に、印加する直流パルス電圧の周波数を0.3Hz及び1Hzとしたときの変動角θを、100V〜500Vまで100V毎に評価した。その結果を表2に示す。変動角θは、印加した直流パルス電圧の増大に伴い、各直径のアルミニウム棒で大きくなった。また、アルミニウム線の直径が大きいほど、変動角θは大きくなった。しかし、印加した直流パルス電圧の周波数が大きくなるにしたがって、変動角θは小さくなった。具体的には、直径0.45mmのアルミニウム線を用いた場合、300Vの直流パルス電圧を0.3Hzで印加したときの変動角θは7.5°であり、1Hzで印加したときの変動角θは6.1°であった。また、直径0.90mmのアルミニウム線を用いた場合、300Vの直流パルス電圧を0.3Hzで印加したときの変動角θは14.4°であり、1Hzで印加したときの変動角θは11.8°であった。また、直径1.50mmのアルミニウム線を用いた場合、300Vの直流パルス電圧を0.3Hzで印加したときの変動角θは32.8°であり、1Hzで印加したときの変動角θは16.8°であった。
【0127】
以上、
図15に示す態様の伸縮シート40を構成する第1の導電性ファイバー41と第2の導電性ファイバー44の交差点(接触部45)において、陰極である第1の導電性ファイバー41の変動角は、印加する電圧及び第2の導電性ファイバー44(アルミニウム線)の直径の増大に伴って大きくなることがわかった。これは、大きな電圧を印加した場合や、直径が大きい場合は、第1の導電性ファイバー41を構成する電場応答性ゲル状ポリマー層43が第2の導電性ファイバー44に吸着しながらまとわりつく動作が起こりやすいことにもとづくものであると考えられる。また、印加する直流パルス電圧の周波数が増大するに従って変動角θは小さくなった。これは、現時点では、周波数が大きくなると、第1の導電性ファイバー41を構成する電場応答性ゲル状ポリマー層43の復元が戻りきらないためであろうと考えられる。
【0128】
この結果より、第1の導電性ファイバー41と、その第1の導電性ファイバー41に電場を付与する第2の導電性ファイバー44とで織物が構成された伸縮シート40は、第2の導電性ファイバー44に電圧を印加したり電圧の印加を停止したりすることによって、第1の導電性ファイバー41を折れ曲がり動作させ、伸縮シート40を一方向に伸縮させることができ、この伸縮シート40を一方向に伸縮するアクチュエータとして機能させることができることを確認した。