【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物1 ・刊行物名 :平成27年度塑性加工春季講演会講演論文集 ・巻号頁等 :205頁〜206頁 ・発行年月日:平成27年5月11日 ・発行者名 :一般社団法人 日本塑性加工学会
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アルミニウム材と水とを反応させて該アルミニウム材上にアルミニウム化合物を生成させる工程と、前記アルミニウム材が溶融する温度を加えて該アルミニウム材を流し出す工程とを有することを特徴とする多孔質材料の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る多孔質材料及びその製造方法について、以下に説明するが、本発明の範囲は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲を包含する。
【0020】
本発明に係る多孔質材料は、
図1に示すように、アルミニウム化合物の殻で囲まれた空孔を有し、隣接する殻同士が結びついて多孔質構造をなしている。こうした多孔質材料は、アルミニウム材と水とを反応させてそのアルミニウム材上にアルミニウム化合物を生成させる工程(アルミニウム化合物生成工程)と、そのアルミニウム材が溶融する温度を加えてそのアルミニウム材を流し出す工程(加熱工程)とを有する方法によって製造することができる。
【0021】
得られた多孔質材料は、アルミニウム化合物の殻が結びつき、その殻で囲まれた空孔を有した特徴的な多孔質構造になっており、軽量で、医療材料として利用できる。また、多孔質材料の製造では、焼結工程を必要とせず、発泡剤も不要であり、製造が容易である。
【0022】
以下、多孔質材料及びその製造方法について、その構成要素を詳しく説明する。最初に、多孔質材料の製造方法について説明し、その後、製造された多孔質材料の構造上の特徴について説明する。
【0023】
多孔質材料の製造方法は、アルミニウム材と水とを反応させてそのアルミニウム材上にアルミニウム化合物を生成させる工程(アルミニウム化合物生成工程)と、そのアルミニウム材が溶融する温度を加えてそのアルミニウム材を流し出す工程(加熱工程)とを有している。
【0024】
<アルミニウム化合物生成工程>
(アルミニウム材)
アルミニウム材としては、純アルミニウムであってもよいし、アルミニウム合金であってもよい。純アルミニウムは、純度99.00%以上のアルミニウムをいい、例えばA1100等を挙げることができる。アルミニウム合金としては、2000系アルミニウムから8000系アルミニウムを挙げることができ、例えばA5052といったAl−Mg系のアルミニウム合金を好ましく挙げることができる。純アルミニウムとアルミニウム合金のうち、純アルミニウムは純水との反応が良好なため好ましく適用できる。
【0025】
アルミニウム材の形状は、
図2に示すような粒子状であってもよいし、繊維状(図示しない)であってもよく、特に限定されない。粒子状のアルミニウム材の粒径は、加える圧縮応力の有無によっても異なり、特に限定されない。後述の実施例2では、平均粒径で20μm〜275μmの範囲で固化成形体を得ることができているが、平均粒径で20μm以上、150μm以下の範囲内であることが好ましい。この範囲の平均粒径のアルミニウム材を用いることにより、空隙の多い多孔質材料を得ることができる。粒子状のアルミニウム材は、各種の方法で製造されたものを用いることができ、一例としては、
図2に示すように、遠心噴霧法によって作製された粒子状のアルミニウム材を用いることができる。なお、平均粒径は、粒度分布の積算値が50%の値を読み取ることによって測定することができる。
【0026】
繊維状のアルミニウム材としては、アスペクト比(繊維長さ:繊維直径)に限定されることなく使用することが可能である。アスペクト比の異なる繊維状アルミニウム材を用いることにより、空隙を制御することができる。繊維長さとしては20μm以上、15mm以下の範囲内であることが好ましく、繊維直径としては20μm以上、150μm以下の範囲内であることが好ましい。こうした繊維状のアルミニウム材は、各種の方法で製造されたものを用いることができ、一例としては、コイル切削法によって作製された繊維状のアルミニウム材を用いることができる。なお、繊維長さと繊維直径は、電界放出型走査電子顕微鏡を用いて撮影した画像によって測定することができる。
【0027】
(水)
水としては、純水、イオン交換水、逆浸透膜水、水道水、食塩水、油を含む水等を用いることができ、水(H
2O)を含んでいれば特に限定されない。通常、純水を好ましく用いることができる。
【0028】
(アルミニウム化合物の生成反応)
反応は、アルミニウム材と水とを接触させて行う。この接触によって、アルミニウム材の表面にアルミニウム化合物を生成する。アルミニウム化合物としては、水酸化アルミニウムと酸化アルミニウムの一方又は両方を挙げることができる。なかでも、水酸化アルミニウムの水和物であるAl(OH)
3・nH
2Oが生成し易い。こうしたアルミニウム化合物は、従来のようにアルミニウム材を加熱したり焼結したりすることなく生成される。アルミニウム化合物が表面に生成したアルミニウム材は、アルミニウムの固化成形体となる。その固化成形体は、表面のアルミニウム化合物によって隣接する粒状又は繊維状のアルミニウム材同士が結びついて固化した形態として得られる。
【0029】
アルミニウム材と水との反応は、2Al+6H
2O→2Al(OH)
3+3H
2 …(1)で表される。この反応で生成する水酸化アルミニウムとしては、ベーマイト(水酸化アルミニウム・一水和物)や、バイヤライト(水酸化アルミニウム・三水和物)を挙げることができる。いずれが生成するかは、反応温度によって異なるが、通常、ベーマイトは、アルミニウム材の表面に最初に生成し、バイヤライトは、ベーマイトが生成した後に生成する。
図5に示す電子顕微鏡写真は、針状のベーマイトと、柱状のバイヤライトを示している。なお、アルミニウム材と水との反応では、水酸化アルミニウムのほか、酸化アルミニウムも生成することがあり、これら水酸化アルミニウムと酸化アルミニウムの一方(単体)又は両方(混合体)を、本願ではアルミニウム化合物と呼んでいる。
【0030】
具体的には、粒子状のアルミニウム材を水中に浸漬させると、(1)式の反応により生成されたアルミニウム化合物である水酸化アルミニウムが、粒子状のアルミニウム材の表面に析出し、アルミニウム材の表面を被覆する。このとき、アルミニウム材の表面を被覆したアルミニウム化合物が、周辺のアルミニウム材との間隙にも充填され、粒子状の各アルミニウム材を結びつける役割を果たす。こうして、粒子状のアルミニウム材は、表面に形成された被膜状のアルミニウム化合物を介して互いに結び付き、その結果として、アルミニウム材を固化成形させることが可能になる。なお、発生した水素は、アルミニウム化合物の被膜に空孔を生じさせたり、隣接するアルミニウム材を繋ぐアルミニウム化合物に隙間を生じさせたりするように作用する。
【0031】
被膜状のアルミニウム化合物の厚さは、上記反応の終了時点において、0.5μm以上、5μm以下程度の範囲内となる。アルミニウム化合物がどの程度の厚さになるかは、反応時の環境温度に依存する。具体的には、反応時の環境温度が低いほどアルミニウム化合物の厚さは厚くなる傾向がある。反応時の環境温度は特に限定はないが、35℃以上、70℃以下の範囲内であることが好ましく、この温度範囲で反応を行うことにより、アルミニウム材同士を結合して繋ぐことができる程度の厚さのアルミニウム化合物を生成することができる。なお、アルミニウム化合物の厚さと反応時間との関係は、反応時間の増加に伴いアルミニウム化合物の皮膜厚さは厚くなる関係にある。
【0032】
この反応は、アルミニウム材と水とを充填した容器を、温度制御可能な装置内に収容し、一定温度環境下で反応させることによって、効率的に固化成形体を得ることができる。ここでの「固化成形体」は、アルミニウム材の表面にアルミニウム化合物が被膜状に生成し、そのアルミニウム化合物が隣接するアルミニウム材同士を結合し一体化させている成形体のことである。このアルミニウム化合物生成工程においては、それらを充填した容器に機械的エネルギーを作用させ、メカノケミカル反応を利用して固化成形体を得ることが好ましい。このメカノケミカル反応により、アルミニウム材が密接した状態でその表面にアルミニウム化合物が生成するので、そのアルミニウム化合物によってより結合状態が高まり、強度の高い固化成形体を得ることができる。機械的エネルギーとしては、圧力を作用させるといった方法を好ましく挙げることができる。
【0033】
図3は、メカノケミカル反応装置10の一例を示す模式図である。メカノケミカル反応装置10は、反応成形部11と、その反応成形部11に圧力を加える圧力装置12とを少なくとも有している。反応成形部11には、アルミニウム材と水の混合原料が入る。圧力装置12は、その混合原料を加圧し、必要に応じて加熱することができ、例えばアンダーパンチ部材13Aとアッパーパンチ部材13Bとシリンダー14とで囲まれた原料充填空間(反応成形部11)を有している。
図3の例では、アッパーパンチ部材13Bが降下して反応成形部11に圧力を印加する。反応成形部11は、加熱装置15で加熱可能になっており、必要に応じて所定温度に制御することができる。なお、符号16は温度計であり、符号17は圧力計であり、符号18は開閉バルブであり、符号20は秤量シリンダーであり、符号21はトラップ水槽である。開閉バルブ18は、メカノケミカル反応で発生した発生ガス(水素)22を排出するためのバルブであり、排出された発生ガス22は、プラスチックチューブ19を通ってトラップされる。
【0034】
このメカノケミカル反応装置において、圧力装置12で印加できる圧力範囲は特に限定されないが、例えば、0〜100MPaの範囲内で一定又は段階的に加圧可能な構成にすることができる。加熱装置15で加熱可能な温度も特に限定されないが、例えば、35℃以上、70℃以下の範囲内で一定又は段階的に加熱可能な構成にすることができる。
【0035】
図4は、メカノケミカル反応装置での印加圧力を(A)、(B)、(C)の順に大きくなるように変化させたときの固化成形体の模式的な断面図である。
図4に示すように、圧力を増すにしたがって固化成形体の隙間が減って密度が増した形態になる。その結果、圧力を増すにしたがって、固化成形体の密度と強度を増すが、アルミニウム化合物の生成は減少する傾向が見られるので、これらを考慮してメカノケミカル反応装置での条件設定が行われる。
【0036】
アルミニウム化合物の生成工程において、アルミニウム材と水との配合割合は、アルミニウム化合物の生成量に影響し、水素の発生量に影響する。例えば、水の配合割合を増していくと、アルミニウム化合物の生成量が増すので、アルミニウム材を被覆するアルミニウム化合物の厚さが厚くなって隣接するアルミニウム材同士を結合しやすくなる。また、水素の発生も増すので、水素の発生による空隙が大きく且つ多くなる。そのため、アルミニウム化合物自体が多孔性になり、密度が低下し、強度も低下する。
【0037】
アルミニウム材と水との配合割合は、アルミニウム化合物の生成量に影響し、水の配合割合を多くすると、アルミニウム化合物の生成量が増すが、アルミニウム化合物の生成量が増すと、
図5に示すベーマイトとバイヤライトの生成量に影響する。すなわち、ベーマイトは、アルミニウム材の表面に最初に生じる針状の水酸化アルミニウムであり、バイヤライトは、その後に生成する柱状の水酸化アルミニウムであることから、アルミニウム化合物である水酸化アルミニウムの生成において、生成量が少ないうちはベーマイトリッチなアルミニウム化合物であるが、そのベーマイトはその後に増加傾向になることはなく、生成量が増すにしたがってバイヤライトの割合が相対的に増していくようになる。
【0038】
図6は、水の配合割合を25%、30%として生成したアルミニウム化合物のX線回折パターンであり、
図7は、水の配合割合を40%、50%として生成したアルミニウム化合物のX線回折パターンである。ここで示す配合割合は、上記式(1)のアルミニウムの反応が全て実行される水の量を100%として表している。しかし、実際は、アルミニウム化合物はアルミニウム材の表面に所定の厚さで生成するので、多くの水は余剰水として存在することになる。水の配合割合を増していくと水酸化アルミニウムからなるアルミニウム化合物の生成量が増すが、
図6及び
図7に示すように、それに伴ってバイヤライトのX線回折ピークが増してバイヤライトの生成が増していることがうかがえる。
【0039】
図8は、メカノケミカル反応により水酸化アルミニウムからなるアルミニウム化合物を生成した後で、加熱工程前の固化成形体の電子顕微鏡写真である。メカノケミカル反応により、アルミニウム材の表面にアルミニウム化合物が生成し、そのアルミニウム化合物が隣接するアルミニウム材同士を結びつけ、固化成形体が形成される。
【0040】
アルミニウム化合物生成工程において、多孔質材料の生成を阻害しない範囲又は多孔質材料の生成を促進させる範囲で、アルミニウム材と水との他に異種材料を加えてもよい。異種材料としては、生体適合材料等を挙げることができる。なかでも、ハイドロキシアパタイトは生体適合性の観点から好ましく加えることができる。
【0041】
こうしたアルミニウム化合物生成工程によれば、従来のプリカーサ法で必須とされる混練、成形、乾燥、焼成等の多くの工程が不要であり、さらに、バイヤー法やアンモニアミョウバン熱分解法によって作製される酸化アルミニウム原料も不要であるという利点がある。また、従来の手法では、焼結に1000℃以上の加熱が必要であり、多くのエネルギーが必要で、生産コストが高くなるとともに環境への負荷が大きいという難点があるが、本発明に係る多孔質材料の製造方法では数十℃の温度で反応させることができるので、前記した難点を有さない。
【0042】
<加熱工程>
加熱工程は、アルミニウム材が溶融する温度を加えてそのアルミニウム材を流し出す工程である。この工程では、
図9に示すように、アルミニウム材上に水酸化アルミニウム及び/又は酸化アルミニウムからなるアルミニウム化合物を形成するアルミニウム化合物生成工程で得た固化成形体(
図9(a)参照)を熱処理し、その固化成形体からアルミニウム材を流し出す工程(
図9(b)(c)参照)である。なお、
図9(b)は、加熱して流れ出したアルミニウムが成形体の表面に残っている場合を示しており、
図9(c)は、その成形体表面に残るアルミニウムを除去した場合を示している。成形体表面のアルミニウムは、
図9(b)に示すように残る場合と、残らない場合がある。
【0043】
この工程により、固化成形体からアルミニウム材が流れ出すことにより、アルミニウム材の表面に生成したアルミニウム化合物が殻状になって残り、その結果、多くの空孔を備えた多孔質材料を製造することができる。こうした多孔質材料の製造では、焼結工程を必要とせず、発泡剤も不要であり、製造が容易であり、軽量で、医療材料としても使用可能な多孔質材料を得ることができる。
【0044】
図10は、
図9(c)の成形体表面のX線回折パターンである。加熱工程の前と後では、ほとんどのアルミニウムが流れ出しているのがわかる。また、水酸化アルミニウムからなるアルミニウム化合物が加熱により、酸化アルミニウムに変質したこともわかる。
【0045】
加熱する温度としては、アルミニウム材が溶融して流れる温度であればよく、例えば融点が660℃の純アルミニウムであれば、700℃以上の温度であることが好ましい。純アルミニウムの場合、700℃未満ではアルミニウム材が十分に溶融できずに、流れ出ないことがある。なお、温度の上限は特に限定されないが、酸化アルミニウムの融点の観点から、2049℃以下であることが好ましい。純アルミニウム以外のアルミニウム材においても、アルミニウム材が溶融して被膜状のアルミニウム化合物(水酸化アルミニウム及び/又は酸化アルミニウム)が殻として残る温度であることが好ましい。そうした温度としては、通常、融点の50℃〜200℃だけ高い温度である場合が多い。また、加熱ではなく、酸処理やアルカリ処理によりアルミニウム材を溶融し流すことも可能である。
【0046】
アルミニウム材が流れ出した後は、
図1に示すように、水酸化アルミニウム等のアルミニウム化合物が殻の状態で残る。こうした形状は、アルミニウム材が流れ出して無くなった部分に空隙が存在しているので、多孔質材料として好ましく用いることができる。特に、殻で過囲まれた空隙形状であるので、例えば殻の内面に被吸着材を特異的に吸着させることが可能となる。
【0047】
空隙の形状は、固化成形体を構成するアルミニウム材の形状に依存する。例えば、アルミニウム材として、例えば粒子状のアルミニウム材を用いた場合には、
図1に示すように、球状の殻の内部が空いた形状になり、例えば繊維状のアルミニウム材を用いた場合には、筒状の殻の内部が空いた形状になる(図示しない)。
【0048】
なお、融点が異なる2種又はそれ以上のアルミニウム材を複合させ、そのうち1種又は複数種のアルミニウム材を溶融して流し出すことができる温度を加えてもよい。こうすることにより、固化成形体のうち、一部のアルミニウム材を溶融除去するので、空隙率等を任意に調整することが可能となる。例えば、660℃で溶融除去できる純アルミニウム材と、550℃で溶融除去できるA2014系アルミニウム材とを複合させてアルミニウム化合物生成工程を経てそれぞれのアルミニウム材の表面にアルミニウム化合物(水酸化アルミニウム及び/又は酸化アルミニウム等)を生成した後、650℃の雰囲気で加熱すれば、アルミニウム化合物を残し、純アルミニウムだけが溶融して流し出すことができる。その結果、全てが純アルミニウム材を用いた場合に比べ、空隙率を特定の範囲内にコントロールすることが可能になる。
【0049】
以上説明したように、本発明に係る多孔質材料の製造方法によれば、アルミニウム化合物の殻で構成された多くの空孔を備えた多孔質材料を製造することができるので、焼結工程を必要とせず、発泡剤も不要であり、製造が容易であり、軽量で、医療材料としても使用可能な多孔質材料を得ることができる。
【0050】
<多孔質材料>
前記した製造方法で得られた多孔質材料は、
図1に示すように、水酸化アルミニウム及び/又は酸化アルミニウムからなるアルミニウム化合物の殻で囲まれた空孔を有し、隣接する殻同士が結びついて多孔質構造をなしている。アルミニウム化合物は、上記した製造方法でアルミニウム材と水とを反応させて生成されるものであり、アルミニウム材の表面に形成される。その結果、アルミニウム化合物の殻同士が結びつき、その殻で囲まれた空孔を有した特徴的な多孔質構造になっている。
【0051】
得られた多孔質材料によれば、軽量で、医療材料としても使用可能である。こうした多孔質材料は、生体材料や液体(薬品や食材)のフィルターとして利用でき、特に、再生治療の足場として利用できる。
【実施例】
【0052】
実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
【0053】
[実施例1]
(アルミニウム材)
固化成形に用いる純アルミニウム材として、遠心噴霧法で作製された純度99.7%、粒径63μm〜75μmの純アルミニウム粉末(
図2参照)を使用した。使用したアルミニウム粉末は、不純物成分としてSi(0.019%)、Fe(0.056%)、Zn(0.002%)、その他(0.0016%)を含む。このアルミニウム材を用いて固化成形体を作製した。
【0054】
(実験装置)
図3は、用いたメカノケミカル反応装置の概略図である。このメカノケミカル反応装置は、SUS304製で、内径20mm、高さ50mmのシリンダー形状(円筒形状)を有する割型を用いた金型である。金型に上記アルミニウム粉末と純水との混合原料を入れ、充填した。その後、金型に圧縮応力を加えた。圧力計として、ひずみゲージ(KFG−2−120−C1−11、株式会社共和電業製)を用い、アクティブダミー法(4ゲージ法)にて貼り付け、ブリッジボックス(DB−120S3、株式会社共和電業製)を介し、ひずみ測定器(CDV−700A、株式会社共和電業製)を用いてひずみ及び成形時の圧縮応力を測定した。また、成形温度は、K型熱電対を用いて測定し、デジタル温度調節器(TR−K、アズワン株式会社製)を介してヒーターにフィードバックした。圧縮応力及び成形時の温度を測定する際には、データロガー(midi LOGGER GL220、グラフテック株式会社製)を使用した。さらに、アルミニウム粉末と純水とのメカノケミカル反応によって発生する水素の発生量を、
図3に示す構成により水上置換法を用いて秤量シリンダーに捕集し、ウェブカメラにより一時間ごとに撮影して測定した。
【0055】
(アルミニウム化合物の生成)
準備したアルミニウム粉末13gと純水1.56gとを混合し、
図3に示すメカノケミカル反応装置10の反応成形部11に充填し、パンチ部材13A,13Bにより圧縮応力σ
Fを負荷した。圧縮応力σ
Fを0、10、30、50、60、70、80、90、100MPaと変化させた。成形温度は、アルミニウム粉末と純水との化学反応によるアルミニウム多孔質材料の固化成形より、最も水酸化アルミニウムが多く生成した条件である313K(約40℃)とし、24時間保持した。
【0056】
(加熱によるアルミニウムの流出除去)
加熱によるアルミニウムの流出除去用の試料として、この実施例では、圧縮応力σ
F=10MPaで作製した成形体を採用した。この成形体を使用する理由は、水素の総発生量が全てのσ
F中で最も大きいことより、成形体中に含まれるベーマイト及びバイヤライトの水酸化アルミニウムが最多であると考えられたためである。成形体の加熱は、小型電気炉(FT−101FM、フルテック株式会社製)を用い、アルゴンガス雰囲気、保持温度を1073K(約800℃)、保持時間7時間の条件で行った。
【0057】
[結果]
(成形体の外観)
加熱を行った成形体の外観写真を
図9に示した。加熱前には成形体の表面にアルミニウムは出てきていないが、加熱後における成形体の各所からはアルミニウムが流出して出てきていることが確認できた。これは、1073K(約800℃)の加熱を行ったことにより、成形体内部のアルミニウムが溶融するとともに、アルミニウム化合物である水酸化アルミニウムが加熱脱水される際に発生する水蒸気により、各所より泡のようにアルミニウムが出ていると考えられる。これは、加熱による水酸化アルミニウムからγ−アルミナ(酸化アルミニウム)に変質の際、発生した水蒸気によって、溶融したアルミニウムが外部に押し出されたためであると考えられる。
【0058】
(X線回折結果)
成形体を加熱することにより、生成した水酸化アルミニウムが酸化アルミニウムに変質することを確認するため、
図9(c)に示す加熱後、表面のアルミニウムを除去した成形体を用いてX線回折を行った。X線回折の結果を
図10に示した。
図10(a)より、加熱前では成形体は、アルミニウム、バイヤライト及びベーマイトから成ることが確認できた。
図10(b)より、加熱後の成形体は、アルミニウム、γ−アルミナ及びδ−アルミナからなることが確認できた。加熱前の成形体に含まれていたベーマイトは、773K(約500℃)でγ−アルミナ、さらにγ−アルミナは1073K(約800℃)でδ−アルミナに変質するため、γ−アルミナ及びδ−アルミナが検出されたと考えられる。
【0059】
以上のように、アルミニウム粉末と純水とを混合し、圧縮応力を負荷した状態で、固化成形した成形体に対し、加熱を行った結果、以下のことが明らかになった。圧縮応力を負荷した状態で、アルミニウム粉末と純水とを反応させることにより固化成形した成形体を加熱することにより、含有していたアルミニウムは溶融し、成形体外部に流出した。加熱により、成形体が含有する水酸化アルミニウムは酸化アルミニウムに変質した。これらの結果から、多孔質材料に含まれる水酸化アルミニウムを、加熱することにより酸化アルミニウムに変質させ、酸化アルミニウムと一部流出しきれずに残るアルミニウムとの複合材料である多孔質材料を作製することができた。
【0060】
[実施例2]
次に、平均粒径の異なる数種類のアルミニウム粉末を使用し、水との化学反応を利用して、アルミニウム材上にアルミニウム化合物を生成させた固化成形体を形成した。この実施例2では、アルミニウム化合物の生成状態と結合状態について検討した。
【0061】
(アルミニウム材)
固化成形に用いるアルミニウム材として、遠心噴霧法で作製された純度99.7%、平均粒径(d
Al)が20μm、70μm、120μm、275μmの純アルミニウムの粉末(
図11参照)を使用した。使用したアルミニウム材は、実施例1と同様、不純物成分としてSi(0.019%)、Fe(0.056%)、Zn(0.002%)、その他(0.0016%)を含む。このアルミニウム材を用いて固化成形体を形成した。
図11は、平均粒径の異なる各種のアルミニウム材を電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM、型式:JSM−7000、日本電子株式会社製)で観察したSEM像である。
【0062】
(実験装置及び成形体の形成)
図12は、実施例2で用いた反応装置30を示す模式図である。この反応装置30は、外径20mm、内径10mm、高さ60mmの円筒形のポリアセタール製の筒型32である。この筒型32の反応成形部31に上記したアルミニウム粉末3gと純水0.72gとの混合原料を入れて充填した。温度計(熱電対)36と加熱装置35とコントローラー37でウォーターバス34を温度調整し、成形温度313K(約40℃)で32時間保持した。型の上部にゴム栓からなるアッパー成形部材33Bを装着し、そのアッパー成形部材33Bにチューブ38を取り付けて、発生する水素41を水上置換法によりメスシリンダー40に回収した。なお、このとき得られた固化成形体には、圧縮応力は加えなかった(σ
F=0MPa)。なお、符号33Aはアンダー成形部材(ステンレス部材)であり、符号39は水槽である。
【0063】
(成形体の外観)
図13は、アルミニウム材上にアルミニウム化合物を生成した後で、加熱工程前の固化成形体の外観写真である。
図13(a)〜(d)は、原料としたアルミニウム材の平均粒径を、それぞれ20μm、70μm、120μm、275μmとして得られたものの外観写真である。
図13(a)〜(c)に示すように、平均粒径20μm、70μm、120μmのアルミニウム材を用いて得られた成形体は固化成形できた。一方、
図13(d)に示すように、平均粒径275μmのアルミニウム材を用いて得られた成形体は、部分的に固化成形されない箇所が見られた。結果として、いずれの平均粒径のアルミニウム材を用いた場合であっても、程度の差はあるものの、加熱工程後に多孔質材料となり得る固化成形体を形成できることが推察された。
【0064】
(成形体の表面)
図14は、アルミニウム材上にアルミニウム化合物を生成した後で、加熱工程前の固化成形体表面の電子顕微鏡写真である。固化成形体の表面観察も、アルミニウム粉末と同様、上記したFE−SEMで行った。
図14(a)〜(d)は、原料としたアルミニウム材の平均粒径を、それぞれ20μm、70μm、120μm、275μmとして得られたものの電子顕微鏡写真である。
図14(a)〜(d)に示すように、固化成形体の粉末同士の結合状態を観察した結果、平均粒径の異なる固化成形体のいずれにおいても、隣り合う粉末同士が水酸化アルミニウムにより結合していることが確認できた。しかし、
図14(a)に示すように、平均粒径が20μmの固化成形体の表面には、海綿状のベーマイトが多く確認されたのに対し、
図14(b)〜(d)に示すように、平均粒径70μm、120μm、275μmの固化成形体の表面には、柱状のバイヤライトが確認され、結合状態が異なっていた。
【0065】
図15は、アルミニウム材上にアルミニウム化合物を生成した後で、加熱工程前の固化成形体断面の電子顕微鏡写真である。この断面観察は、試料の長手方向中央部について観察した結果である。アルミニウム粉末表面を覆うアルミニウム化合物がベーマイトであり、そのベーマイト上にさらに堆積して覆うアルミニウム化合物がバイヤライトであることが確認できた。ベーマイトの化学反応式は、2Al+4H
2O→2AlO(OH)+3H
2 で表され、バイヤライトの化学反応式は、2Al+6H
2O→2Al(OH)
3+3H
2 で表される。両式を対比すると、同量の純水を使用した場合、バイヤライトの生成時に発生する水素量よりも、ベーマイトの生成時に発生する水素量の方が多いことがわかる。
【0066】
図16は、成形時に発生した水素量の測定結果を示すグラフである。その水素量は、成形時間を32時間とした時の総発生量を測定した結果である。
図16に示すように、平均粒径20μmのアルミニウム粉末を用いたときの水素の発生量は362mLであり、平均粒径が70μmのときの水素の発生量は329mLであり、平均粒径が120μmのときの水素の発生量は296mLであり、平均粒径が275μmのときの水素の発生量は206mLであった。この結果より、水素の発生量は、平均粒径20μmのときに最大となり、平均粒径の増加に伴って減少していることがわかった。この理由は、
図14及び
図15の表面及び断面の電子顕微鏡写真からも、固化成形体の表面では平均粒径20μmのときにベーマイトを多く確認できたことから、平均粒径20μmのときの水素の総発生量が最大になったと考えられる。
【0067】
図17は、アルミニウム粉末の質量から求めたアルミニウム粉末の総表面積と、アルミニウム粉末の単位面積当たりの水素の発生量とを、平均粒径に対して示したグラフである。アルミニウム粉末の質量が同じであれば、平均粒径の小さいアルミニウム粉末ほど表面積は大きくなった。具体的には、
図17に示すように、平均粒径20μmのアルミニウム粉末を用いたときの表面積は3.3×10
17mLであり、平均粒径が70μmのときの表面積は9.5×10
16mLであり、平均粒径が120μmのときの表面積は5.6×10
16mLであり、平均粒径が275μmのときの表面積は2.46×10
16mLであった。また、単位面積当たりの水素の発生量も、
図17に示すように、平均粒径20μmの場合が最小で1.1×10
−15m
2であり、平均粒径70μmの場合が3.5×10
−15m
2であり、平均粒径120μmの場合が5.3×10
−15m
2であり、平均粒径275μmの場合が8.5×10
−15m
2であった。
【0068】
アルミニウム粉末と水との反応は、まず、アルミニウムイオンと水分子とが反応してベーマイトを生成し、その後さらに、アルミニウムイオンと水とが反応することでバイヤライトが生成するものである。しかし、上記したように、アルミニウム粉末の平均粒径が小さいほど表面積が大きくなるので、アルミニウム粉末の質量に対して純水の量が一定であるときは、純水の多くがベーマイトの生成で消費され、バイヤライトの生成に必要な純水が少なくなってしまう。その結果、バイヤライトが十分に生成されなかったと考えられる。一方、アルミニウム粉末同士の結合力を増すためには、ベーマイトよりも、後に生成するバイヤライトが必要であるため、結合力を高めて機械的強度を高めるためには、バイヤライトを多く生成させることが望ましく、そのために多くの水が必要になることがわかった。
【0069】
以上のように、この実施例2では、アルミニウム粉末の平均粒径を変化させて固化成形体を形成し、アルミニウム化合物の生成状態と結合状態の影響を検討した。その結果、平均粒径20μmから120μmのアルミニウム粉末を使用した成形体は、固化成形が可能であったが、平均粒径275μmのアルミニウム粉末を使用した成形体では、部分的な固化成形のみが可能であった。また、アルミニウム化合物である水酸化アルミニウムについては、平均粒径20μmのアルミニウム粉末を用いてなる固化成形体ではベーマイトが多く確認でき、平均粒径70μm〜275μmのアルミニウム粉末を用いてなる固化成形体ではバイヤライトが多く確認できた。これらの結果から、アルミニウム粉末の平均粒径を変化させても、多孔質材料を形成可能な固化成形体を作製できることがわかった。また、加える純水の量が一定の場合、アルミニウム粉末の平均粒径によって、粉末同士の結合状態が異なることがわかった。